平 成 12 年 度 - maff.go.jp...trade preference act: atpa)と2002...

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-59- アンデス諸国の農産物の生産・貿易の現状と 非伝統的農産物輸出の拡大 日本貿易振興機構アジア経済研究所 ラテンアメリカ研究グループ 清水達也 研究員 はじめに ···························································· 61 1 アンデス地域の概況 ··············································· 61 1)政治経済概況 2)南米におけるアンデス地域の農業 3)アンデス地域の農業システム 4)アンデス各国の農業貿易の概況 2 各国の農業生産と貿易 ············································· 68 1)ボリビア 2)コロンビア 3)エクアドル 4)ペルー 参考文献 ································································· 90

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アンデス諸国の農産物の生産・貿易の現状と

非伝統的農産物輸出の拡大

日本貿易振興機構アジア経済研究所 ラテンアメリカ研究グループ

清水達也 研究員

はじめに ····························································61

1 アンデス地域の概況 ···············································61

1)政治経済概況

2)南米におけるアンデス地域の農業

3)アンデス地域の農業システム

4)アンデス各国の農業貿易の概況

2 各国の農業生産と貿易 ·············································68

1)ボリビア

2)コロンビア

3)エクアドル

4)ペルー

参考文献 ································································· 90

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はじめに

本章は南米・アンデス地域の 4 カ国(ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー1につ

いて、農業部門の生産と貿易について現状を整理する。まず、アンデス地域全体について、

近の政治経済の概況、南米地域全体の農業における位置づけ、アンデス地域に存在する

農業システム、各国の農業貿易を概観する。次に各国の農業生産と貿易動向について個別

の産品をとりあげて詳しくみる。伝統的に重要な輸出産品だけでなく近年輸出が拡大して

いるいわゆる非伝統的輸出農産物 2についても焦点をあてる。

1 アンデス共同体(Comunidad Andina)は 近まで 5 カ国で構成されていたが、2006 年 4 月にベネズ

エラ・チャベス大統領が脱退を表明し、同国はその後メルコスールに正式加盟した。本稿ではベネズ

エラを除く 4 カ国を分析の対象としている。 2 本章では基本的に各国の統計での分類に従うが、Barham et al. (1992:43)らが示している以下の定義

も考慮している。非伝統的農産物輸出(Non Traditional Agricultural Export)とは①輸出を目的と

して新たに導入された農産物、②これまで国内市場向けだったが新たに輸出を始めた農産物、③以前

から輸出されていたが新たな輸出市場を開拓した農産物を指す。なお、本章では輸出を指す場合には

「非伝統的農産物輸出」、農産品を指す場合には「非伝統的輸出農産物」を用いる。

1 アンデス地域の概況

1)政治経済概況

まず、アンデス 4 カ国の 近の政治経済について、農業生産と関係のある点について触

れたい。2006 年には各国で大統領選挙が行われ、その結果、米国に対する姿勢の異なる 2

つのグループに分かれた。一方は、親米で対米自由貿易協定を締結したコロンビアとペル

ー、もう一方は、反米で対米自由貿易交渉は行わないとするボリビアとエクアドルである。

麻薬撲滅で米国に協力するアンデス 4 カ国は 1991 年以降、アンデス特恵関税(Andean

Trade Preference Act: ATPA)と 2002 年にそれを引き継いだアンデス貿易促進麻薬撲滅法

(Andean Trade Promotion and Drug Eradication Act: ATPDEA)によって、約 6,300 品目につい

て米国へ関税なしで輸出できる。この結果、各国から農産品や繊維製品を中心に対米輸出

が拡大した。中でもエクアドル、コロンビア、ペルーは輸出総額に占める米国への輸出の

割合が大きい(2005 年の対米輸出のシェアはそれぞれ 49.7%、40.0%、30.4%)。ATPDEA は

当初 2006 年 12 月末で失効する予定であったが、12 月上旬に米議会で 6 カ月延長する法案

が可決した(通商弘報 No. 43533、2006 年 12 月 14 日)3。

コロンビアとペルーについては既に米国と自由貿易協定を締結したものの、まだ米国議

会によって批准されていないため協定が発効していない。現在、両国政府は米国議会に対

して協定の批准を強く働きかけているが、米国議会では、自由貿易協定を推進していた共

和党に代わり、それには慎重な民主党が 2007 年 1 月から上下両院で過半数を占めているた

めに、批准までには時間がかかると見られている。

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エクアドルについてはコロンビア、ペルーとともに一度は対米自由貿易協定の交渉を始

めたものの、現在は交渉を中断している。さらに、2006 年 11 月の選挙で大統領に選ばれた

左派のコレア氏は、米国とは自由貿易協定の交渉をしないことを明言している。エクアド

ルの対米輸出の 7 割以上を占める原油や主要輸出農産物の一つであるバナナなどは

ATPDEAの適用外であるため、この失効によって即座に大きな影響が出るわけではないが、

同国が輸出の拡大を目指すその他の農産品については、今後影響が出てくるとみられる。

3 同法案にはペルーとコロンビアについてはさらに 6 カ月延長できるとする条項も含まれている。

2)南米におけるアンデス地域の農業

次に、南米大陸におけるアンデス 4 カ国の農業の位置づけについてみる。表1に南米主

要 10 カ国の農業の概況と南米全体に対するアンデス 4 カ国の割合をまとめた。これによれ

ば、アンデス 4 カ国は総面積では全体の 22%を占めるものの、放牧地を除く農地はわずか

12%しか有していない。その中でも、樹園地を除いた単年度作物の耕作地である田畑の割合

は 10%と小さくなっている。これは、アンデス山脈という傾斜地を抱えるため、耕作に適

した平坦地が少ないからだと考えられる。

次に人口に注目すると、アンデス 4 カ国が総人口に占める割合は 26%であるが、農村人

口に占める割合は 38%と高いことが分かる。各国の農村人口の割合でみると、パラグアイ

の 43%に続き、アンデス 4 カ国が 38~24%の割合でこれに続く。国民 1 人あたりの農地面

積を見るとコロンビアは 0.09Ha と極端に小さい一方、ボリビアは 0.37Ha と南米全体の平均

より大きくなっている。

GDP に占める農業部門の割合は 7~16%であるが、輸出総額に占める農業輸出の割合はペ

ルーの 10%からエクアドルの 34%と大きく幅がある。

これらの数字を総合すると、アンデス 4 カ国は農村人口が多いものの、ブラジルやアル

ゼンチンなどに比べると農地には恵まれず、経済全体における農業の割合はそれほど高く

ない。輸出面で見ると 3 割前後を農業に依存しているボリビア、エクアドルと、比較的依

存度が低いペルー、コロンビアに分かれる。

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表1 南米主要国の農業の概況 (2003年)

総面積 (1000Ha)

農用地採草放牧地 農地

田畑 樹園地アルゼンチン 278,040 128,747 99,847 28,900 27,900 1,000

ボリビア 109,858 37,087 33,831 3,256 3,050 206ブラジル 851,488 263,600 197,000 66,600 59,000 7,600

チリ 75,663 15,242 12,935 2,307 1,982 325コロンビア 113,891 45,911 42,061 3,850 2,293 1,557エクアドル 28,356 8,075 5,090 2,985 1,620 1,365パラグアイ 40,675 24,836 21,700 3,136 3,040 96

ペルー 128,522 21,210 16,900 4,310 3,700 610ウルグアイ 17,622 14,955 13,543 1,412 1,370 42ベネズエラ 91,205 21,640 18,240 3,400 2,600 800南米全体 1,735,320 581,303 461,147 120,156 106,555 13,601

アンデス4国 380,627 112,283 97,882 14,401 10,663 3,73821.9% 19.3% 21.2% 12.0% 10.0% 27.5%

人口 (1000人) GDPにしめる農業輸出額農村人口 割合 農業部門 (2002年) 対輸出

の割合 (百万ドル) 総額(2004年)

アルゼンチン 38,428 3,792 10% 0.75 10% 11022 43%ボリビア 8,808 3,229 37% 0.37 16% 383 29%ブラジル 178,470 30,380 17% 0.37 10% 16725 28%

チリ 15,805 2,054 13% 0.15 4% 3475 20%コロンビア 44,222 10,412 24% 0.09 12% 2724 23%エクアドル 13,003 4,977 38% 0.23 7% 1724 34%パラグアイ 5,878 2,518 43% 0.53 27% 472 37%

ペルー 27,167 7,093 26% 0.16 10% 773 10%ウルグアイ 3,415 253 7% 0.41 11% 982 43%ベネズエラ 25,699 3,178 12% 0.13 5% 289 15%南米全体 360,895 67,886 19% 0.33 11% 38,569

アンデス4国 93,200 25,711 28% 0.15 5,60425.8% 37.9% 11% 14.5%

(注)   農業部門のGDPや輸出額の割合は、データの出所が異なるため本章の他の表と数値が違う場合がある。

(出所)  FAOSTAT (2006)、FAO(2004)、World Bank (2006)。

 国民1人あたり農地

(Ha)

3)アンデス地域の農業システム

続いてアンデス地域の農業の種類について詳しくみてみよう。アンデス地域は、その地

理的特徴から国内を「海岸地域」、「山間地域」、「熱帯低地地域」に分けることが多いが、

それぞれの地域の中でも場所によって農業生産の様子が異なっている。国連食料農業機関

の調査(2001)によれば、アンデス 4 カ国が位置する地域は、農業システムの視点からみ

て大きく 7 つに分けられる。各地域の範囲と主要な作物を図1にまとめた。

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図1 アンデス地域の農業システム

農業システム 主な作目

1 灌漑(irrigated) 野菜、果物、畜産

2 海岸部プランテーション

(coastal plantation and mixed)

輸出作物、果樹、塊茎

3 高地部集約的

(intensive highland mixed、北部アンデス)

野菜、コーヒー、家畜、穀物、塊茎

4 高高度(high altitude mixed、中部アンデス) 塊茎、穀物、リャマ、野菜

5 粗放的(extensive mixed、リャノス、セラード) 家畜、油糧種子、穀物、コーヒー

6 粗放的・乾燥

(extensive dryland mixed、グラン・チャコ)

家畜、綿花、自給的作物

7 森林(forest based) 自給的作物、家畜

(出所)FAO (2001)。

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海岸部は「灌漑」と「海岸部プランテーション」に分けられる。前者はペルー海岸部に

位置し、灌漑が整備された土地で主に米、綿花、果物、野菜が栽培されているほか、養鶏

などが営まれている。後者はコロンビアからエクアドルの海岸部に広がっており、一部分

しか灌漑が整備されていないほか、一部にマングローブの林などを含む。ここには小規模

土地所有者からなる混合農業と、輸出作物を栽培する大規模プランテーションが混在して

いる。

つぎに、アンデス山脈の山間地域は、コロンビアとエクアドルに広がる北部アンデスの

「高地部集約的」とペルーとボリビアにまたがる中部アンデスの「高高度」に分けられる。

前者ではさまざまな穀物、野菜が栽培されているほか、酪農などが営まれているのに対し

て、より標高の高い後者はジャガイモなどの塊茎類の栽培とリャマなどの放牧が中心であ

る。

アマゾンの熱帯低地は、コロンビアのベネズエラとの国境や、ボリビアのブラジルとの

国境に広がるリャノスやセラードと呼ばれる「粗放的」と、ボリビア東南部に広がるグラ

ン・チャコと呼ばれる「粗放的・乾燥」に分けられる。前者では近年大豆を中心とする油

糧作物の生産が拡大しているほか、牛の生産も広がりつつある。それに対して後者は土壌

が乾燥しているために農業生産の可能性が限られ、未開発の地域である。

後にアマゾンの熱帯低地に広がる「森林」では、先住民や入植者が低投入の農業や粗

放的な牧畜を営んでいる。

以上の農業システムの分類から、アンデス地域においては商業的農業が発達しているの

は「灌漑」、「海岸部プランテーション」、「粗放的(セラード、リャノス)」に限られ、それ

以外では自給や主に地元での消費のための農業生産が行われている様子が分かる。

4)アンデス各国の農業貿易の概況

ここでは国連の貿易データを用いて、1996 年から 2005 年までの過去 10 年間のアンデス

4 カ国の農水産物・食料品の貿易について分析し、この結果を輸出(図2)、輸入(図3)、

貿易収支(図4)にまとめた 4。これらから、国によって以下のような特徴があることがわ

かる。まず、ボリビアは輸出入のいずれにおいても域内他国に比較して小さい。それに対

してコロンビアは輸出入とも大きく、域内の農水産物・食料品貿易大国といえる。両者の

間に位置するのがエクアドルとペルーである。エクアドルは、輸出は比較的大きいものの

輸入は小さい。ペルーの場合、輸出はエクアドル並に拡大してきたが、輸入はエクアドル

を大きく上回っている。貿易収支を見るとペルーの 1998 年を除いて、アンデス 4 カ国はこ

こ 10 年間ほどは黒字である。コロンビアとエクアドルの黒字幅が大きく、次いでペルー、

ボリビアの順になっている。 4 United Nations Commodity and Trade Statistics Database (UN Comtrade)を用いて、HS1996 の分

類に基づいた動物・水産物(01-05)、穀物・野菜(06-14)、油脂(15)、加工食品・飼料(16-24)を

分析対象とした。

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次に、農水産物・食料品を動物・水産物、穀物・野菜、油脂、加工食品・飼料に分けた

各国の貿易収支を表2にまとめた。これによれば動物・水産物でボリビアが、油脂でコロ

ンビア、ペルーが純輸入国であることが分かるほか、アンデス 4 カ国の中で相対的に貿易

収支が大きな品目が分かる。すなわち、穀物・野菜ではコロンビアとエクアドル、油脂で

はボリビア、加工食品・飼料ではペルーの純輸出が域内では大きいことが分かる。

図2 アンデス4カ国の農水産物・食料品の輸出

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

5000

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

100万

ドル

ボリビア コロンビア エクアドル ペルー

(出所)UN Comtradeのデータを元に筆者作成。

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図3 アンデス4カ国の農水産物・食料品の輸入

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1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

100万

ドル

ボリビア コロンビア エクアドル ペルー

(出所)UN Comtradeのデータを元に筆者作成。

図4 アンデス4カ国の農水産物・食料品の貿易収支

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100万

ドル

ボリビア コロンビア エクアドル ペルー

(出所)UN Comtradeのデータを元に筆者作成。

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表2 農水産物・食料品の貿易収支(2005年)

ボリビア コロンビア エクアドル ペルー動物・水産物 ● ○○ ○○○ ○穀物・野菜 ○ ○○○ ○○○ ○油脂 ○○○ ● ○ ●加工食品・飼料 ○ ○ ○○ ○○○

(注)○純輸出国、●純輸入国。マルの数は相対的に額の大きさを表す。

(出所)UN Comtradeのデータを元に筆者作成。

2 各国の農業生産と貿易

それでは、ここからはそれぞれの国について、 近の農業生産と農産物貿易の動向につ

いてみてみよう。

1)ボリビア

(1) 農業生産 ボリビアの国土は自然環境の特徴から表 3 のように 4 つに分けられ、それぞれに特徴的

な農業生産が営まれている(国際協力機構 2004: 189)。これらは、アルティ・プラーノやバ

ージェで営まれている小規模農民による自給作物、国内向け食料作物を中心とした伝統的

な農業生産と、トロピコ・ウメドで営まれている大規模生産者または農業企業による輸出

向けの近代的な農業生産の 2 つに分けることができる。

表3 ボリビアの自然環境と農業の区分

区分 位置・特徴 主な作物・ 農業生産

アルティ・ プラーノ (高地平原)

西部のラパス、オルーロ、ポトシ県を中心とする標高3400 メートル以上のアンデス高地。小規模農民によって自給用作物を中心とした栽培が行われる。

ジャガイモ、キヌア、オオムギ、ソラマメ。リャマや羊の飼育も行われる。

バージェ (渓谷)

中部のコチャバンバ、チュキサカ、タリハ県を中心とする標高 1500~2500 メートルを中心としたアンデス山脈の渓谷部。アルティ・プラーノと同様、小規模農民による自給作物が中心であるが、近年は園芸作物や養鶏も拡大している。

麦、メイズ、大豆、ジャガイモ。

トロピコ・ ウメド (湿潤熱帯)

東部のバンド、ベニ、サンタクルス県を中心とした標高500 メートル以下のアマゾンの熱帯低地。近年、企業による輸出向け農業が盛んである。

大豆をはじめとする油糧作物、綿花、サトウキビ。

チャコ (半乾燥地)

南東部の、サンタクルス、チュキサカ、タリハ県の一部で、標高は 200~400 メートル、高温で乾燥した気候が特徴である。粗放的・伝統的な自給農業が主体である。

メイズ、落花生、キャッサバ。肉牛の飼育も行われる。

(出所)国際協力機構(2004)などに基づいて筆者作成。

この点は農業生産に関する統計にも見ることができる。表4に 1989 年から 2005 年の農

業部門の総生産を示した。ボリビアの統計では、農業部門は農業(アグロインダストリー

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向け作物を除く)、アグロインダストリー(向け作物)、コカ、牧畜、その他(林業、狩猟・

採集、水産)の 5 つに分かれている。まず、それぞれの構成比を見ると、総生産全体にお

ける農業部門の割合は 1990 年から 2005 年の間に 3%弱減少しているが、農業部門の中では

その変化に大きな差がある。農業全体の総生産の中で、アグロインダストリーは 9.7%から

19.2%に増加している。それに対してコカが 8.2%から 4.0%へと大きく減少している。1989

年と 2005 年の総生産を比べると、農業全体は 60%増加している中、アグロインダストリー

は 250%増加、逆にコカは 80%縮小している。ただし、アグロインダストリーは年によって

成長率の差が大きく、40%以上成長した年もあれば 14%縮小した年もある。

それでは、主な食料作物の供給状況をみてみよう。表5に主要食料作物としてコムギ、

メイズ、コメの穀物、ジャガイモ、キャッサバ(ユカイモ)の塊茎作物を取り上げ、1993

年と 2003 年の供給についてみた。これによると、コムギは 7~8 割を輸入に頼っているに

もかかわらず、生産が減少し、輸入が増加している。メイズは総供給が拡大するものの生

産がそれに追いつかず、輸入が増加している。それ以外のコメ、ジャガイモ、キャッサバ

は総供給の拡大を生産増によって満たしている。

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表4 ボリビア: 農林水産業の総生産

国内総生産 (1990年価格、1000ボリビアーノス)農林水産業

農業アグロインダストリー

コカ 牧畜 その他

総生産 1989 14,758,943 2,266,548 1,062,123 212,044 193,341 668,831 130,2091990 15,443,136 2,371,077 1,112,167 231,168 195,108 674,410 158,2251991 16,256,453 2,604,863 1,246,235 333,675 183,420 685,306 156,2261992 16,524,115 2,494,544 1,192,613 287,092 170,990 698,228 145,6211993 17,229,578 2,597,906 1,213,352 348,356 164,793 717,435 153,9701994 18,033,729 2,771,248 1,270,183 430,661 162,106 750,968 157,3301995 18,877,396 2,810,149 1,245,384 482,079 161,551 760,846 160,2891996 19,700,704 2,998,549 1,316,239 575,049 160,769 781,386 165,1071997 20,676,718 3,135,126 1,359,214 619,301 168,212 818,345 170,0541998 21,716,623 2,996,265 1,272,890 579,018 133,930 835,031 175,3971999 21,809,329 3,071,385 1,357,810 558,068 74,088 896,488 184,9302000 22,356,265 3,178,127 1,412,402 589,666 43,355 936,633 196,0712001 22,732,700 3,288,118 1,451,871 627,637 39,569 965,025 204,0152002 23,285,983 3,305,278 1,470,864 593,687 39,241 991,240 210,2452003 23,934,229 3,574,604 1,582,812 732,861 36,115 1,005,185 217,6312004 24,791,763 3,585,279 1,563,104 733,895 37,324 1,027,035 223,9212005 25,935,070 3,786,743 1,698,954 741,548 38,236 1,072,924 235,081

100.0% 15.4% 7.2% 1.5% 1.3% 4.4% 1.0%100.0% 12.2% 5.5% 2.3% 0.5% 3.0% 0.8%

100.0% 46.9% 9.7% 8.2% 28.4% 6.7%100.0% 45.1% 19.2% 4.0% 24.8% 7.0%

成長率 1990 4.6 4.6 4.7 9.0 0.9 0.8 21.5(%) 1991 5.1 9.9 12.1 44.3 -6.0 1.6 -1.3

1992 1.6 -4.2 -4.3 -14.0 -6.8 1.9 -6.81993 4.4 4.1 1.7 21.3 -3.6 2.8 5.71994 4.7 6.7 4.7 23.6 -1.6 4.7 2.21995 4.4 1.4 -2.0 11.9 -0.3 1.3 1.91996 4.4 6.7 5.7 19.3 -0.5 2.7 3.01997 4.9 4.6 3.3 7.7 4.6 4.7 3.01998 4.5 -4.4 -6.4 -6.5 -20.4 2.0 3.11999 1.5 2.5 6.7 -3.6 -44.7 7.4 5.42000 2.4 3.5 4.0 5.7 -41.5 4.5 6.02001 1.6 3.5 2.8 6.4 -8.7 3.0 4.12002 1.9 0.4 1.2 -5.1 -1.1 2.5 3.02003 2.9 8.6 8.0 23.6 -7.8 2.1 3.92004 3.4 0.5 -1.7 -0.5 3.9 3.9 3.42005 3.7 5.1 9.0 1.2 1.9 2.2 4.1

2005/1989 75.7 67.1 60.0 249.7 -80.2 60.4 80.5(注) 2002~05年は暫定値。対国内・農業総生産は各年の名目価格の構成比。

    成長率はINE発表の数字で1990年価格を元に計算したものとは一部異なる。

(出所)ボリビア統計局 INE (www.ine.gov.bo)のデータより筆者作成。

対国内総生産(1990)対国内総生産(2005)対農業総生産(1990)対農業総生産(2005)

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表5 ボリビア: 主要食料作物の供給(トン)

作物 生産 輸入 輸出 総供給 自給率 生産 輸入 輸出 総供給 自給率コムギ 145,563 300,315 4,500 540,938 27% 88,674 509,200 5,221 445,432 20%メイズ 537,025 19,978 151,321 351,207 153% 707,738 29,212 5,420 549,563 129%コメ 148,470 986 63 149,393 99% 283,111 2,245 0 198,646 143%ジャガイモ 616,036 648 0 616,684 100% 786,765 1,508 27 788,247 100%キャッサバ 311,994 256 0 312,250 100% 392,268 5,796 0 398,064 99%

作物 生産 輸入 輸出 総供給 自給率(1)

コムギ 61% 170% 116% 82% -7%メイズ 132% 146% 4% 156% -24%コメ 191% 228% 0% 133% 43%ジャガイモ 128% 233% 128% 0%キャッサバ 126% 2264% 127% -1%(注1) 2003年から1993年の自給率を引いたもの。

(出所) FAOSTATのFood Balance Sheetのデータを元に筆者作成。

1993年 2003年

2003年/1993年

アグロインダストリーを除いた農業部門については、一般にその停滞が指摘されている

が、主要食料作物の供給という点からはコムギを除いては問題点がみえてこない。しかし、

統計によれば全国民の 67.3%、農村部に限れば 79.5%5(ボリビア統計局 INE: Instituto Nacional

de Estadística – Bolivia、2003 年)が貧困状態にあることから、アルティ・プラーノやバージ

ェで営まれている小規模農民による自給作物については、その生産の停滞は深刻な状態で

あることが予想される。2002 年に策定された貧困削減戦略(EBRP)は農業部門の課題とし

て生産インフラの拡大、土地登録の整備、生産チェーンの競争力強化、農牧業の研究・普

及への支援拡大を挙げていた(国際協力機構 2002: 202)。2006 年 1 月成立したモラレス政

権が農業・農村の開発にどのように取り組んでいくのかが注目される。

5 同年の極貧(extreme poverty)の割合は全国 39.7%、農村部 58.6%。

(2) 貿易動向 ボリビアの農産物輸出は、主にトロピコ・ウメドで営まれている大規模生産者または農

業企業による輸出向けの近代的な農業生産が支えている。ラパス市を政治の中心地とすれ

ば、農業だけでなく天然ガスなどの資源に恵まれたこの地域の中心地であるサンタクルス

市は経済の中心地といえる。

ボリビアの主要輸出農産物のうち、2 桁の輸出統計品目番号で分けた主要 4 分類について

輸出額を図5に示した。1990 年代後半から、調整飼料が急激に伸びているほか、大豆をは

じめとする油糧種子とその派生品が大きな割合を占めていることが分かる。また、2002 年

以降は果物・ナッツが拡大している。

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図5 ボリビア 主要輸出農産物

0

50

100

150

200

250

300

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

100万

ドル

調整飼料(23) 油脂(15) 果物・ナッツ(08) 油糧種子(12)

カッコ内の数字は輸出統計品目番号(HSコード)の最初の2桁。(出所) ボリビア統計局 INE(www.ine.gov.bo)のデータより筆者作成。

これを 6 桁の輸出統計品目番号で分け、具体的な輸出品目と主要輸出先をみたのが表6

である。2005 年の輸出額の多い品目から順に並べた。これによると、輸出額が多い 9 品目

のうち、5 品目が大豆とその派生品であることが分かる。 も多いのが主に飼料として用い

られる大豆油かすで、これに未精製の大豆油、大豆、大豆(粉)、精製した大豆油が続く。

この 5 品目の輸出総額 3 億 6,800 万ドルはボリビアの輸出総額の約 13.2%を占める。ここで

注目したいのは、どの大豆輸出に関しても主要輸出先がコロンビア、ペルー、ベネズエラ

のアンデス共同体諸国で占められていることである。

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表6 ボリビアの主要輸出農産品

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005大豆油かす 112 101 109 141 185 206 209 260 204大豆油(未精製) 33 48 39 56 58 61 96 103 96ブラジルナッツ 31 28 31 34 28 27 37 50 74大豆 62 47 40 46 2 6 25 23 33大豆(粉) 14 15 14 40 14 16 15 15 18大豆油(精製) 22 21 14 12 16 29 17 22 17ゴマ 0 0 0 0 1 2 3 10 17コーヒー 26 15 14 10 6 6 6 9 11ひまわり種・油 2 2 6 7 14 13 8 11 11

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005大豆油かす 436 490 555 624 846 1035 1062 1102 1040 ベネズエラ、コロンビア、ペルー大豆油(未精製) 58 78 71 129 153 148 193 185 190 コロンビア、ベネズエラブラジルナッツ 10 10 11 13 14 14 16 14 16 英国、米国大豆 225 192 180 216 9 29 115 90 146 コロンビア、アルゼンチン大豆(粉) 46 51 68 192 61 74 58 56 79 ペルー大豆油(精製) 25 24 18 19 28 40 23 28 23 ペルー、コロンビア、ベネズエラゴマ 0 0 0 0 2 4 4 11 22 日本コーヒー 7 6 7 6 4 5 4 5 5 ドイツ、米国ひまわり種・油 5 4 10 13 30 23 14 18 18 コロンビア

(注)カゲつきは大豆とその派生品。

(出所)UNComtradeのデータをもとに筆者作成。

輸出額(100万ドル)

輸出量(1000トン)主要輸出先(2005年)

ボリビア東部で生産された農産物は、陸路でアンデス山脈を越えてペルーやチリに運ば

れるほか、ブラジル国境までは鉄道で、さらに船に移し替えられてラプラタ川を下り大西

洋まで運ばれる。そのため、ボリビア産の農産物は高い輸送費というハンディを背負って

いる。しかし、アンデス共同体諸国へは関税なしで輸出できるため、共同体内に限っては、

ボリビア産大豆はブラジルやアルゼンチンなど世界的な輸出国の大豆に比べても競争力を

持っている。例えばペルーの場合、大豆油かすや大豆油(未精製)は 4%、大豆(粉)や大

豆油(精製)は 12%の関税がかかるが、ボリビア産の場合にはこれが免除される。

2006 年にベネズエラはアンデス共同体を脱退してメルコスールに加盟しており、今後ベ

ネズエラ市場ではパラグアイやアルゼンチンからの輸入が増加すると考えられる。さらに、

2007 年以降にペルーやコロンビアの対米自由貿易協定が発効すれば、ボリビア産大豆は両

国の市場で米国産大豆と競合することになる。そうなれば主要市場を他国に奪われ、ボリ

ビアの大豆生産・輸出は大きな影響を受けることが予想される。

大豆以外の主要輸出農産品としては、ブラジル・ナッツ、ゴマ、コーヒー、ひまわりの

種・油が挙げられる。この中でも、近年輸出の始まったゴマについては、総額の約 66%(2005

年)が日本向けである。また、輸出統計では上位にあらわれていないものの、 近はキヌ

アと呼ばれるアカザ科の植物の実の輸出を手がけている企業が増えている。アンデス原産

のこの植物は、主にペルーとボリビアで栽培されており、タンパク質が多く含まれること

で知られている。

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2)コロンビア

(1) 農業生産 コロンビアはコーヒーの輸出国として知られており、現在もコーヒーをはじめとする農

産物貿易は他のアンデス諸国と比べると規模が大きい。しかし、近年は、農業部門の停滞

が問題となっている。エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU: Economic Intelligence

Unit)のレポートによれば、貿易自由化が進み、政府が補助金を削減しはじめた 1990 年代初

めから農業部門は大きな打撃をうけた。その結果、10 年間で農産物の栽培面積が 2 割減少

し、農産物輸入が 3 倍に拡大した(EIU Country Profile)。ただし、1990 年代末から通貨

が切り下がり、状況は改善している。

表7にコロンビアの農林水産業の総生産と成長率の推移を 1990 年から示した。国内総生

産に対する農林水産部門の割合は、1990 年には 17%と他のアンデス諸国より大きな割合を

占めていたが、2004 年には 11%にまで低下している。この構成比の減少は域内他国と比べ

ても大きく、コロンビアの農林水産部門が経済全体の中で停滞している様子が理解できる。

中でもコーヒー部門は 1990 年から 2004 年の間に、構成比が 2.7%から 1.4%に減少し、実質

成長率もマイナス 1.2%と深刻な状況となっている。

主要食料作物については、1 人一日あたり消費量は砂糖を除いて、プランテイン・バナナ

(料理用バナナ)が 151 グラムと も多く、それにコメ(125 グラム)、ジャガイモ(123

グラム)、メイズ(95 グラム)、キャッサバ(94 グラム)、コムギ(64 グラム)が続いてい

る(FAOSTAT Food Balance Sheet。これらの作物について表8に 1993 年と 2003 年の生

産、輸出入、総供給、自給率を示した。これによれば、作物によって生産や輸入の傾向が

大きく異なることがわかる。キャッサバ、ジャガイモ、プランテイン・バナナについては、

総供給(消費)はほとんどかわらず、基本的には自給している。総供給が 5 割増えている

コメは、生産増で自給を保っている。これに対して、メイズの生産量は変わらないが、総

供給の増加を輸入増でまかなっている。もともと自給率が低いコムギについては国内生産

が半減しており、以前にも増して輸入に頼り、2003 年の自給率はわずか 4%となっている。

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表7 コロンビア: 農林水産業の総生産

国内総生産 (1994年価格、100万ペソ)農林水産業

コーヒー 他農業 牧畜業 林業 水産業総生産 1990 56,873,930 9,167,170 1,501,920 3,908,934 3,313,101 111,905 331,310

1991 58,222,935 9,484,508 1,549,616 4,027,958 3,428,436 115,426 363,0721992 60,757,528 9,603,897 1,527,849 4,178,577 3,418,049 119,164 360,2581993 64,226,882 9,768,056 1,438,820 4,291,895 3,590,791 125,193 321,3571994 67,532,862 10,016,162 1,360,399 4,459,582 3,790,983 135,286 269,9121995 71,046,217 10,390,067 1,461,226 4,543,690 3,976,119 141,853 267,1791996 72,506,824 10,261,722 1,331,219 4,684,379 3,879,673 131,982 234,4691997 74,994,021 10,328,433 1,302,605 4,729,122 3,925,559 131,446 239,7011998 75,421,325 10,332,439 1,396,487 4,613,093 3,958,870 130,412 233,5771999 72,250,601 10,327,521 1,221,881 4,826,965 3,889,555 122,923 266,1972000 74,363,831 10,725,066 1,319,368 4,984,772 4,017,647 128,226 275,0532001 75,458,108 10,686,174 1,306,055 4,963,572 4,008,435 125,194 282,9182002 76,917,222 10,699,378 1,391,583 4,813,967 4,065,349 125,829 302,6502003 79,884,490 10,991,869 1,444,886 4,870,388 4,193,734 126,610 356,2512004 83,772,433 11,212,811 1,483,856 4,919,475 4,320,977 128,510 359,993

対国内総生産(1990年) 100.0% 17.1% 2.7% 7.5% 6.1% 0.2% 0.6%対国内総生産(2004年) 100.0% 11.1% 1.4% 5.0% 4.2% 0.1% 0.4%対農業総生産(1990年)(1) 100.0% 15.9% 43.7% 35.6% 1.4% 3.4%対農業総生産(2004年)(1) 100.0% 12.4% 45.2% 37.8% 1.0% 3.6%

成長率 1991 2.4 3.5 3.2 3.0 3.5 3.1 9.6(%) 1992 4.4 1.3 -1.4 3.7 -0.3 3.2 -0.8

1993 5.7 1.7 -5.8 2.7 5.1 5.1 -10.81994 5.1 2.5 -5.5 3.9 5.6 8.1 -16.01995 5.2 3.7 7.4 1.9 4.9 4.9 -1.01996 2.1 -1.2 -8.9 3.1 -2.4 -7.0 -12.21997 3.4 0.7 -2.1 1.0 1.2 -0.4 2.21998 0.6 0.0 7.2 -2.5 0.8 -0.8 -2.61999 -4.2 0.0 -12.5 4.6 -1.8 -5.7 14.02000 2.9 3.8 8.0 3.3 3.3 4.3 3.32001 1.5 -0.4 -1.0 -0.4 -0.2 -2.4 2.92002 1.9 0.1 6.5 -3.0 1.4 0.5 7.02003 3.9 2.7 3.8 1.2 3.2 0.6 17.72004 4.9 2.0 2.7 1.0 3.0 1.5 1.1

1990/2004 47.3 22.3 -1.2 25.9 30.4 14.8 8.7

(注1) 名目価格の構成比。

(出所) コロンビア統計局 DANE (www.dane.gov.co/)のデータより筆者作成。

表8 コロンビア: 主要食料作物の供給(トン)

生産 輸入 輸出 総供給 自給率 生産 輸入 輸出 総供給 自給率

コメ 1,060,571 69,015 3,645 1,125,941 94% 1,696,288 49,500 419 1,745,370 97%メイズ 1,129,752 577,874 6,127 1,701,498 66% 1,208,595 2,035,399 37,020 3,206,974 38%コムギ 96,303 864,651 6,426 954,529 10% 41,841 1,173,037 81,977 1,194,234 4%キャッサバ 1,900,190 6,396 397 1,906,189 100% 1,840,717 14,283 4,733 1,865,892 99%ジャガイモ 2,860,328 3,608 54,184 2,809,752 102% 2,872,284 21,825 16,406 2,877,703 100%プランテイン・バナ 2,668,600 0 0 2,668,600 100% 2,911,451 69,876 127,848 2,853,479 102%

生産 輸入 輸出 総供給 自給率(1)

コメ 160% 72% 11% 155% 3%メイズ 107% 352% 604% 188% -29%コムギ 43% 136% 1276% 125% -7%キャッサバ 97% 223% 1192% 98% -1%ジャガイモ 100% 605% 30% 102% -2%プランテイン・バナ 109% 107% 2%

(注1) 2003年から1993年の自給率を引いたもの。

(出所) FAOSTATのFood Balance Sheetのデータを元に筆者作成。

1993 2003

2003年/1993年

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(2) 貿易動向 現在、コロンビアの主な農産物輸出としてコーヒー、バナナ、切り花の 3 つを挙げるこ

とができる。統計ではこのうち、コーヒーを伝統的輸出農産品、それ以外のバナナ、切り

花などを非伝統的輸出農産品としている。

1970 年から現在までの農産物輸出の変遷を表9に示した。コーヒーは 1980 年まで同国の

輸出総額の 6 割以上を占めていたが 1986 年の 30 億ドル弱をピークに減少し、現在では 14

億 7,100 万ドル、輸出総額の 6.9%にとどまっている。1980 年代からバナナ、切り花の輸出

が拡大し始め、現在はそれぞれ 5 億ドル、9 億ドルを輸出している。切り花はオランダに次

いで世界第 2 位、バナナはエクアドル、コスタリカ、フィリピンに次いで世界第 4 位の輸

出国(ともに 2005 年)となっている。

表9 コロンビアの農産物輸出の変遷

コーヒー バナナ 切り花 コーヒー バナナ 切り花

1970 467 0 0 63.4% 0.0% 0.0%1980 2361 94 97 60.3% 2.4% 2.5%1990 1415 318 229 21.1% 4.7% 3.4%2000 1069 481 581 8.1% 3.7% 4.4%2005 1471 508 906 6.9% 2.4% 4.3%

(出所) コロンビア中央銀行Banco de la República de Colombia (www.banrep.     gov.co)のデータより筆者作成。

輸出額 (FOB、100万ドル) 対輸出総額

図6 コロンビア:主要輸出農産物

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

100万

ドル

0

500

1000

1500

2000

2500

100万

ドル

(コーヒー

切り花 バナナ 砂糖 パーム油 甲殻類(主にエビ) コーヒー(右軸)

(注)輸出額はそれぞれの品目のHSコード5桁の額。(出所)UNComtradeのデータを元に筆者作成。

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1991 年以降の主な農水産物輸出額を図6に示した。前述のコーヒー、バナナ、切り花の

3 大輸出農産品のほか、砂糖、甲殻類(主にエビ、ロブスター)、パーム油の輸出額も大き

い。このうち砂糖と甲殻類については 1990 年代半ばから輸出額がそれほど変わっていない

が、パーム油は近年輸出量が増大しており、コロンビア政府は熱帯果物(いわゆるエキゾ

チック・フルーツ)と合わせて、今後有望な輸出産品として位置づけている。

① コーヒー

1990 年代末から 2000 年代初めにかけての国際価格の下落は、世界のコーヒー生産国に危

機をもたらした。図7にコロンビアの輸出量、輸出額、コロンビア・コーヒーの価格を示

した。輸出量は 1992 年にピークに達し、1990 年代半ば以降約 1,000 万袋(60kg)で推移し

ているが、価格は 1997 年にポンド当たり 200 セントを記録して以降は急速に下落し、2002

年には 64 セントまで下がった。それに連動して輸出額も減少し、1997 年の 22 億 6,500 万

ドルから、2001 年には 7 億 6,900 万ドルと約 3 分の 1 まで縮小した。生産をみると(図8)

栽培面積は減少傾向にあるが、1997 年前後の高価格時に木の植え替えなどの投資が進み、

収量は増加している。近年はブラジルに続く世界第 2 位のコーヒー輸出国の座をベトナム

に明け渡しているが、コロンビア・コーヒー連盟(Federación Nacional de Cafeteros de

Colombia)はブランド向上に取り組んでおり、量の拡大よりも質の向上を目指している。

図7 コロンビアのコーヒー輸出

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

輸出

量(60kg

袋、

100万

袋)

0

50

100

150

200

250輸

出額

(1000万

ドル

)価

格(ポ

ンド

あた

りセ

ント

輸出量 輸出額 価格

(出所) 輸出量:Federación Nacional de Cafetera de Colombia(www.cafedecolombia.com/);輸出額:UNComtradeのデータを元に筆者作成。

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図8 コロンビアのコーヒー生産

0

200

400

600

800

1000

1200

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

1000

MT、

1000

HA

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

MT

/HA

生産量 栽培面積 収量(右軸)

(出所)FAOSTATのデータを元に筆者作成。

② 切り花

コーヒー輸出が国際市況に左右され、バナナ輸出が 1990 年代に入って伸び悩んでいるの

に対して、切り花輸出は順調に拡大している。1995 年には輸出額でバナナを追い越し、2005

年には 9 億 600 万ドルとバナナを約 8 割も上回っている。統計によれば(表10)、輸出さ

れている切り花の種類は輸出金額の多い順にバラ、カーネーション、ミニ・カーネーショ

ン、スプレー菊の順になっているが、 近はいくつかの花を組み合わせ、花束として輸出

するケースが増えている。

コロンビアの切り花輸出がこのように拡大した要因として、主要生産地であるボゴタ周

辺の自然・経済条件が挙げられる。年間を通して穏やかな気候で温室内を暖房で温める必

要がなく、良質で安価な労働力が豊富に存在していることがコロンビア産切り花の価格競

争力を高めている。また、主要市場国である米国ではクリスマス・シーズンが 大の需要

期であるが、米国は冬のため生産が少なく、1 年を通して生産ができるコロンビアやエクア

ドルにとって有利となる。そのほか、切り花は従来、米国内では花屋で販売され、誕生日

や記念日など特別な機会に購入するもとのとされていたが、安価なコロンビア産切り花は

新たにスーパーマーケットでの販売ルートを開拓し、需要を拡大したと言われている

(Mendez 1991: 37)。

日本市場へは、主にバラやカーネーションを輸出している。日本の生鮮切り花輸入にお

けるコロンビアのシェア(2005 年数量ベース)はバラについては 3.6%と第 1 位の韓国

(57.1%)やインド(21.4%)と比べると小さいが、近年増加している。カーネーションの

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シェアは 58.1%と第 1 位であるが、近年 2 位の中国(35.4%)が急速に輸出を拡大している

(通商弘報 No.42694、2006 年 10 月 27 日)。

表10 コロンビアの切り花輸出

構成比

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2005バラ 176,438 181,365 187,789 194,353 209,730 280,985 31.5%花束 0 0 0 0 121,474 223,942 25.1%カーネーション 124,320 124,757 126,257 112,317 107,152 134,941 15.1%ミニ・カーネーション 56,994 58,193 58,065 58,291 56,738 73,085 8.2%スプレー菊 0 0 0 0 38,233 53,638 6.0%アルストロメリア 0 0 0 0 24,756 45,586 5.1%菊 9,639 9,824 11,924 11,275 11,595 13,106 1.5%アスター 0 0 0 0 10,233 11,818 1.3%ガーベラ 0 0 0 0 5,411 10,498 1.2%カスミソウ 0 0 1,548 1,876 3,352 5,485 0.6%その他 213,979 230,203 261,638 287,227 98,115 39,906 4.5%合計 581,368 604,341 647,221 665,339 686,788 892,990 100.0%

(注)   切り花とはHSコード060310の産品を指す。なお、品目の分類が2004年に変更されている。

(出所) Global Trade Atlasのデータより筆者作成。

種類輸出額(1000ドル)

3)エクアドル

(1) 農業生産 エクアドルでは 1960 年代末までバナナ、カカオ、コーヒーの 3 大輸出農産物が輸出総額

の 9 割以上を占める農業輸出国であったが(Acosta 2002: 359)、1970 年代から石油輸出が

拡大し、現在は輸出総額の 6 割強が石油関連製品となっている。

表11に 1993 年から 2005 年までのエクアドルの農林水産業の総生産とその成長率を示

した。中央銀行は、農林業部門を 3 大輸出農産物であるバナナ、コーヒー、カカオ、主に

国内向けの食料作物である穀物、近年輸出が拡大している花卉(切り花)、その他の農業、

牧畜、林業の 6 つに、水産業はエビとその他に分類している。まず、国内総生産に占める

農林水産業の割合は 1993 年の 7.0%から 2005 年の 8.8%へと、この期間では拡大している。

1960 年代までは約 25%であったことを考えると中長期的には減少傾向であるが、最近は農

林水産物の輸出産品の多様化が進み、その重要性が増していることが考えられる。農林水

産業総生産の各部門の構成比を見てみると、穀物の割合が 14.4%から 10.3%に縮小している

のに対して、花卉が 3.4%から 16.5%と急速に拡大しているのが目につく。

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表11 エクアドル: 農林水産業の総生産

国内総生産(2000年ドル価格、1000ドル)農業 水産

バナナ、コーヒー、

カカオ穀物 花卉

その他農業

牧畜 林業 エビ その他

総生産 1993 14,270,247 1,003,339 299,227 144,693 34,437 167,407 245,431 112,144 214,177 92,594 121,5831994 14,941,494 1,080,229 329,846 152,879 51,373 177,351 252,666 116,114 224,265 96,828 127,4371995 15,202,731 1,108,771 356,936 144,445 64,862 177,235 244,576 120,717 243,543 110,681 132,8621996 15,567,905 1,200,568 388,259 157,155 78,309 193,784 259,125 123,936 254,991 111,821 143,1701997 16,198,551 1,309,328 421,452 172,874 127,799 184,233 267,648 135,322 292,153 145,354 146,7991998 16,541,248 1,243,657 331,370 133,151 155,440 192,498 284,935 146,263 310,059 157,175 152,8841999 15,499,239 1,405,424 442,054 129,695 181,085 208,448 288,208 155,934 289,341 126,141 163,2002000 15,933,666 1,465,783 442,940 136,530 220,998 211,089 278,807 175,419 226,862 67,405 159,4572001 16,784,095 1,523,636 418,863 166,472 249,961 224,788 289,901 173,651 230,632 74,310 156,3222002 17,496,669 1,619,503 471,577 150,152 291,015 231,380 298,266 177,113 229,262 76,066 153,196

2003 18,122,313 1,689,958 511,380 156,575 281,098 247,030 312,657 181,218 261,909 92,157 169,7522004 19,558,385 1,725,714 511,451 167,873 286,709 254,231 319,419 186,031 263,326 105,060 158,2662005 20,486,024 1,796,324 527,070 184,378 296,847 266,354 330,409 191,266 305,493 136,580 168,913

対国内総生産(1993) 7.0% 2.1% 1.0% 0.2% 1.2% 1.7% 0.8% 1.5% 0.6% 0.9%対国内総生産(2005) 8.8% 2.6% 0.9% 1.4% 1.3% 1.6% 0.9% 1.5% 0.7% 0.8%対農林水産業総生産(1993) 100.0% 29.8% 14.4% 3.4% 16.7% 24.5% 11.2% 21.3% 9.2% 12.1%対農林水産業総生産(2005) 100.0% 29.3% 10.3% 16.5% 14.8% 18.4% 10.6% 17.0% 7.6% 9.4%

成長率 1994 4.7 7.7 10.2 5.7 49.2 5.9 2.9 3.5 4.7 4.6 4.8(%) 1995 1.7 2.6 8.2 -5.5 26.3 -0.1 -3.2 4.0 8.6 14.3 4.3

1996 2.4 8.3 8.8 8.8 20.7 9.3 5.9 2.7 4.7 1.0 7.81997 4.1 9.1 8.5 10.0 63.2 -4.9 3.3 9.2 14.6 30.0 2.51998 2.1 -5.0 -21.4 -23.0 21.6 4.5 6.5 8.1 6.1 8.1 4.11999 -6.3 13.0 33.4 -2.6 16.5 8.3 1.1 6.6 -6.7 -19.7 6.72000 2.8 4.3 0.2 5.3 22.0 1.3 -3.3 12.5 -21.6 -46.6 -2.32001 5.3 3.9 -5.4 21.9 13.1 6.5 4.0 -1.0 1.7 10.2 -2.02002 4.2 6.3 12.6 -9.8 16.4 2.9 2.9 2.0 -0.6 2.4 -2.0

2003 3.6 4.4 8.4 4.3 -3.4 6.8 4.8 2.3 14.2 21.2 10.82004 7.9 2.1 0.0 7.2 2.0 2.9 2.2 2.7 0.5 14.0 -6.82005 4.7 4.1 3.1 9.8 3.5 4.8 3.4 2.8 16.0 30.0 6.7

2005/1993 43.6 79.0 76.1 27.4 762.0 59.1 34.6 70.6 42.6 47.5 38.9

(注) 2004、2005年は暫定値。

(出所)エクアドル中央銀行 Banco Central del Ecuador。

併せて、各部門の成長率を見てみよう。国内総生産の成長率は 1999 年にマイナス 6.3%を

記録しているが、これは 2000 年 1 月の通貨のドル化を控えて急速にインフレーションが進

行して、経済が混乱したためである 6。農業部門は 1998 年のエル・ニーニョ現象の発生に

よる天候不順により、3 大輸出作物や穀物で大きな被害がでた。エビは 1999 年と 2000 年で

大きく縮小しているが、これは白斑症(white spot disease)が大発生したためである。1993

年から 2005 年の間の成長率を見てみると、花卉が 762%と著しく成長しているほか、林業

が 71%、3 大輸出作物が 76%成長している以外は比較的低い成長率にとどまっている。

6 対ドル為替レートは 1995 年の 1 ドル 2,565 スクレから 1998 年には 5,439 スクレ、1999 年 11,803スクレ、2000 年 25,000 スクレへと上昇した(Acosta 2002: 356)。

次に、国内食料向け農産物の中でも穀物などの主要な作物を取り上げて、その動向を見

てみよう。主要作物の供給について 1993 年と 2003 年の状況を表12で比較した。取り上

げたのはコメ、コムギ、メイズ、オオムギ、ジャガイモの 5 作物である。これらについて

両年の生産、輸入、輸出、国内総供給の量について FAOSTAT の Food Balance Sheet からデ

ータを入手し、それぞれの年の自給率(生産量/総供給量)と両年の比較を行った。この

表から以下のことが分かる。

まず、作物によって自給率が大きく異なることである。コメ、メイズ、ジャガイモはほ

とんどを国内生産でまかなっているのに対して、コムギ、オオムギは総供給の大部分を輸

入に頼っている。次に、自給率が高い作物のうち、コメは自給を維持しているのに対して、

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メイズは総供給(需要)の増加が大きいために生産増加だけでは間に合わず、輸入も増加

している。ジャガイモの場合は、総供給(需要)が減少しているが生産が 20%も減少して

おり、そのために輸入が増えている。一方、自給率が低いコムギ、オオムギはともに総供

給(需要)が増えているにもかかわらず、生産が大きく減少しているために、輸入量がほ

ぼ倍増している。

表12 エクアドル: 主要食料作物の供給(トン)

作物 生産 輸入 輸出 総供給 自給率 生産 輸入 輸出 総供給 自給率コメ 826,920 1,159 1,925 826,154 100% 842,560 211 46,082 796,939 106%メイズ 528,292 8,367 1,000 530,659 100% 652,732 353,251 67,809 838,174 78%ジャガイモ 497,034 8 0 497,042 100% 396,639 13,487 111 410,015 97%コムギ 25,528 224,197 1,331 249,052 10% 12,589 437,760 4,160 446,795 3%オオムギ 44,309 25,427 46 69,690 64% 27,055 47,278 111 74,221 36%

作物 生産 輸入 輸出 総供給 自給率(1)

コメ 102% 18% 2394% 96% 6%メイズ 124% 4222% 6781% 158% -22%ジャガイモ 80% 168588% 82% -3%コムギ 49% 195% 313% 179% -7%オオムギ 61% 186% 241% 107% -27%

(注1) 2003年から1993年の自給率を引いたもの。

(出所) FAOSTAT の Food Balance Sheetのデータを元に筆者作成。

1993年 2003年

1993年と2003年の比較

(2) 貿易動向 表13に主要輸出農林水産品をまとめた。2005 年の輸出額の多い順に並べるとバナナ、

冷凍エビ、切り花の順となる。中央銀行は輸出農林水産品を伝統的産品と非伝統的産品に

分類している。伝統的産品にはバナナ、コーヒー(派生品)、エビ、カカオ(派生品)、ツ

ナなど水産品が含まれている。一方、主要な非伝統産品は切り花、ヤシ油、パームハート、

ブロッコリー、木材、合板、パイナップルである。それでは、主要な産品別にその貿易動

向をみてみよう。

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表13 エクアドルの主要輸出農林水産品

2001 2002 2003 2004 2005 2001 2002 2003 2004 2005865 970 1,101 1,024 1,085 3,722 4,350 4,765 4,702 4,853281 253 299 330 457 44 46 57 68 92237 289 307 353 397 74 84 80 85 122

バラ 168 216 242 258 288 51 62 62 60 94カスミソウ 0 19 28 36 42 0 6 7 8 10

138 195 226 213 289 66 81 102 94 11386 129 170 154 176 75 72 90 92 105

ココア豆 55 91 120 103 118 56 57 69 70 81ココアバター 11 10 18 25 35 6 4 6 8 9

29 31 35 44 59 8 8 9 11 142 15 34 39 53 4 32 59 66 121

28 22 28 33 40 17 13 18 19 2221 20 29 33 39 27 24 33 41 4517 19 22 33 36 15 18 13 20 1825 8 24 28 32 44 27 40 44 495 13 24 25 31 16 33 54 70 82

15 10 11 15 26 24 13 12 14 2122 5 20 21 20 62 18 61 66 53

(出所)Global Trade Atlasのデータを筆者加工。

砂糖

木材(厚さ6mm超)合板パイナップル(生鮮)コーヒー豆

コーヒー加工品ヤシ油パームハートカリフラワー・ブロッコリー

冷凍エビ切り花

ツナ缶詰ココア

品目輸出額(100万ドル) 輸出量(1000トン)

バナナ

①バナナ

まず、バナナであるが、エクアドルは世界一のバナナ輸出国である。2004 年の FAOSTAT

のデータによれば、量では世界の 26.0%のシェアを占めている。これにコスタリカ(輸出量

のシェア 11.8%)、フィリピン(同 10.5%)、コロンビア(同 8.4%)、グアテマラ(同 6.1%)

が続いている。輸出量は 1980 年代半ば以降ほぼ一貫して増加してきたが、1998 年にはエル・

ニーニョ現象によって大きな被害を受けて大きく落ち込んだ。2003 年になって 1997 年の水

準を回復している。

現在の主な輸出先はロシア、イタリア、米国である。2005 年の輸出額でみると、それぞ

れ 24.0%、23.9%、23.0%を占めている。これまで米国が主要な輸出先であったが、市場開

拓の努力によりロシアをはじめとする東欧諸国の他、日本、中国などのアジア諸国、アル

ゼンチンなどの南米諸国にも広がっている。主要輸出先である欧州については、EU はこれ

まで、エクアドルをはじめとするラテンアメリカ諸国には一定の輸入枠を設けてその枠内

でのみ輸入を許可してきた。これに対してアジア、カリブ、太平洋に広がる旧植民地(ACP

諸国)からは無関税でバナナを輸入してきた。ラテンアメリカのバナナ生産国はこの差別

を不服として WTO に提訴した。1997 年に EU が敗訴し、これをうけて EU は 2006 年 1 月

から輸入枠を撤廃して全面関税化を導入した。しかし、関税水準はこれまで輸入枠に対し

て課せられていたトンあたり 75 ユーロから 176 ユーロに引き上げられ、エクアドル国内で

もこれまで EU に対して輸出枠を持っていた大手輸出企業にとっては不利な状況となった。

② 冷凍エビ

冷凍エビの輸出は近年急速に拡大してバナナに次ぐ主要輸出農林水産品の地位を占める

ようになり、1998 年にはタイ、米国、インドに次ぐ世界第 4 位のエビ生産国となった(EIU

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Country Profile)。しかし、前述したように 1999 年、2000 年に白紋症病が大発生し、輸出

量が 2 年で 3 分の 1 に減少するという大きな被害を受けた。その後、2000 年の経済危機の

影響で資金が調達できずに回復が遅れたが、2003 年以降徐々に回復しており、2005 年は輸

出量で前年比 35%増を記録した。エビ輸出国としてはタイ、インド、インドネシアについ

て世界第 4 位(6.9%)の地位を占めている。

③ 非伝統的輸出農産物

上記以外の輸出産品で 近拡大しているのが切り花である。1994 年以降 2002 年まで、花

卉部門の総生産は毎年 2 桁以上の成長を記録した。輸出産品でみると、切り花の中でも主

力はバラである。これと一緒に花束となるカスミソウの生産も増えている。2005 年の切り

花(HS 060310)の輸出額は、オランダ、コロンビアについて世界第 3 位である。

3 大輸出農産物が海岸地域で生産されているのに対して、切り花は山間地域が生産地であ

る。エクアドルでは食料作物の生産が中心である山間地域農業の停滞が問題となっている

が、そのなかで切り花は輸出に結びつき、雇用吸収力がある産業として有望視されている。

生産の中心は首都キト市周辺の標高が 2000 メートル前後の場所で、赤道直下で日照量が多

く、気温が安定しているために、年間を通じての生産が可能である。2002 年には近辺の火

山が爆発し、その影響で 2003 年には花卉部門の総生産と輸出量はわずかに減少したものの、

2005 年には輸出量で前年度比 44%増を記録している。隣国のコロンビアがバラの他、カー

ネーションやスプレー菊に多様化しているのに対し、エクアドルの切り花生産はバラに特

化しているのが特徴である。 近はバラ単品だけでなく、カスミソウと組み合わせ市場国

の大手スーパーマーケットの包装紙に包んでバラの花束として出荷するなど、より付加価

値の高い製品の輸出に取り組んでいる(清水(2002))。

そのほか、山間地域ではブロッコリーの生産と生鮮輸出も拡大している。主な市場は米

国と欧州であるが、その一部が日本にも輸入されている(2005 年の輸入は約 4,000 トン、

450 万ドル)。

4)ペルー

(1) 農業生産 ペルーでは 1980 年代末から 90 年代初めのハイパーインフレーションをはじめとする経

済危機のために農業生産が停滞した。しかし、90 年代に進められた経済自由化の進展とと

もに農業生産が拡大し、輸出も活発化してきている。表14にペルーの農業部門の総生産

を示した。92 年は経済危機の影響でマイナス成長となっているが、その後 2003 年までは一

貫して成長が続いている。国内総生産に占める農業部門の割合は 90 年代前半に縮小したが、

その後は主に非伝統的農産物輸出の拡大を理由として増加している。

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表14 ペルー: 農業部門の総生産

GDP 農業部門GDP

農業部門成長率

農業部門の割合

1991 83,759.69 6,671.59 8.0%1992 83,400.56 6,066.30 -9.1% 7.3%1993 87,374.59 6,614.00 9.0% 7.6%1994 98,577.44 7,487.15 13.2% 7.6%1995 107,038.85 8,201.51 9.5% 7.7%1996 109,708.50 8,630.21 5.2% 7.9%1997 117,213.97 9,099.40 5.4% 7.8%1998 116,413.02 9,145.39 0.5% 7.9%1999 117,446.27 10,069.22 10.1% 8.6%2000 120,880.97 10,729.23 6.6% 8.9%2001 121,103.96 10,796.28 0.6% 8.9%2002 127,086.38 11,436.11 5.9% 9.0%

2003* 132,119.23 11,674.11 2.1% 8.8% 2004** 138,474.05 11,551.38 -1.1% 8.3%

(注) 1994年価格、100万ヌエボ・ソル。*推計値、**速報値。

(出所)ペルー統計局 INEI (2005)。

表15 ペルー:主要作物の生産量

1970 1980 1990 2000コメ 586,721 441,233 966,101 1,892,102ジャガイモ 1,929,470 1,511,933 1,153,979 3,273,816メイズ 388,057 317,397 480,784 959,705コムギ 125,374 77,148 99,621 189,005マメ 53,259 47,689 46,055 69,790コーヒー 65,386 86,177 81,142 158,283綿花 247,804 264,554 238,971 153,786サトウキビ 7,530,949 5,598,087 5,946,822 7,132,043

1970-80 1980-90 1990-2000 1970-2000コメ -25% 119% 96% 222%ジャガイモ -22% -24% 184% 70%メイズ -18% 51% 100% 147%コムギ -38% 29% 90% 51%マメ -10% -3% 52% 31%コーヒー 32% -6% 95% 142%綿花 7% -10% -36% -38%サトウキビ -26% 6% 20% -5%

(出所) ペルー統計局 INEI (1992), ペルー・クアント研究所 Instituto Cuánto (2003)。

国内向け

輸出向け

生産量(トン)

増加率

国内向け

輸出向け

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主要作物の生産量についてみたのが表15である。主に国内市場で消費される作物と、

輸出に向けられる伝統的輸出農産物に分けて示した。まず、国内向けについては、特にコ

メの生産が拡大していることが分かる。2000 年には 1970 年と比べて 3 倍以上のコメが生産

された。このほか、ジャガイモ、メイズ、コムギ、マメのいずれもが 1990 年代に生産が大

きく増加している。伝統的輸出農産物については、コーヒーが 1990 年代に拡大している以

外は、綿花は 90 年代に生産が縮小しており、また、サトウキビも 2000 年時点においては

1970 年代の水準を回復していない。綿花とサトウキビは、1980 年代後半に政府による農業

奨励政策により肥料や資金などの面で優遇されたが、1990 年代の自由化によってこれらの

奨励策が廃止された以降は、生産の拡大が進んでいない。

(2) 貿易動向 次に、農産物貿易の動向に注目する。図9に主要農産物の輸出額を示した。ここでは伝

統的輸出農産物のうち輸出が低迷している綿花と砂糖の合計、大きく変動しているが拡大

傾向にあるコーヒー、非伝統的輸出農産物として近年輸出が拡大しているアスパラガスと

マンゴの合計の輸出額を示した。この図から明らかなように、主要輸出農産物の交代がみ

られる。コーヒーの重要性はこれまでと変わらないものの、砂糖や綿はアスパラガスやマ

ンゴを中心とする果物、野菜に取って代わられた。

図9 主要農産物の輸出額

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

100万

ドル

綿・砂糖 コーヒー アスパラガス・マンゴ

(出所) ペルー統計局 INEI.、FAOSTAT、Global Trade Atlasをもとに筆者作成。

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①スペシャリティー・コーヒーの拡大

それではまず、国際市況の影響を受けて大きく変動しながらも、現在においても も重

要な輸出農産物であるコーヒーについてみてみよう。ペルーは南米ではブラジル、コロン

ビアに次ぐコーヒー輸出国であり、その輸出量は国際コーヒー機関(International Coffee

Organization)に加盟する国々の輸出全体の 2.7%(2005 年)を占める。ペルーの農産物輸出

の中では第 1 位の地位を占め、2005 年には 14 万 2,000 トン、3 億 600 万ドルを輸出した。

近ペルーのコーヒー輸出で注目されているのが「スペシャリティー・コーヒー」と呼

ばれる種類のコーヒーである。スペシャリティー・コーヒーとは一般のコーヒーに比べて

特別な香り、コク、酸味を持つもので、通常より高値で取引される。ペルー産のコーヒー

は一般に国際的水準と比べて質が劣るため、その価格はニューヨーク先物取引所の価格か

ら 5 セントを割り引くものとされてきた 7。しかし、 近はスペシャリティー・コーヒーの

輸出拡大により、ペルーのコーヒー輸出の単価が上がっている。ブラジル、コロンビア、

ペルーの輸出単価と世界全体のコーヒー輸出の単価を比べると(図10)、1990 年代末まで

ペルーの輸出単価はブラジルと同様、世界の単価を下回っていたが、2001 年以降はこれを

上回っている。英ファイナンシャル・タイムズ紙によれば、ペルーは世界 大のスペシャ

リティー・コーヒーの輸出国であり、欧州や米国の大手スーパーや食品企業に販売されて

いるという。生産者の多くは中小規模であり、協同組合を通じて出荷している。この協同

組合が有機栽培やフェアトレードなどの認証取得を奨励しており、通常より少し高い価格

で販売することができるという(“Coffee with a conscientious kick.” Financial Times, 2006 年 8 月 17 日)。ペルーのスペシャリティー・コーヒーの輸出に関するデータがないの

で詳細は明らかではないが、付加価値の高いコーヒーへの移行によって、今後も主要輸出

農産物の位置を占めるとみられる。

7 ペルー農業省。(www.portalagrario.gob.pe/cafe_especiales.shtml、2006 年 12 月閲覧)

図10 コーヒーの輸出単価

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

ドル

/キ

世界平均 ブラジル コロンビア ペルー

世界平均はGTAに登録されている国のみを含んだもの。(出所)Global Trade Atlasのデータを筆者加工。

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② 生鮮アスパラガスの拡大

コーヒーに次いで重要な輸出農産物がアスパラガスである。アスパラガス輸出には缶詰

と生鮮の 2 種類がある。まず 1980 年代末から缶詰の輸出が拡大し、次に 1990 年代末から

生鮮の輸出が拡大した(図11)。2000 年代前半には生鮮が輸出量、額ともに缶詰を追い抜

いた。ペルーのアスパラガス輸出は世界の輸出市場の中でも重要な位置を占め、缶詰は中

国に次いで第 2 位、生鮮はメキシコを追い抜いて世界 大の輸出国となっている。ここで

は、ペルーのアスパラ輸出国としての経緯を簡単に振り返り、アスパラガス輸出の主役が

缶詰から生鮮に交代した要因を説明する。

缶詰輸出を目的としたホワイト・アスパラガスがペルーに導入されたのは 1950 年代であ

る。主に北部の海岸地域で栽培が行われたが、それは年間を通して寒暖の差が小さい気候

と、砂を多く含む土壌が缶詰加工に用いられるホワイト・アスパラガスの生育に適してい

たからである。また、以前からこの地で発達した水産物の缶詰加工の基盤がアスパラガス

缶詰加工の発展に寄与した。

図11 ペルーのアスパラガス輸出

0

20

40

60

80

100

120

140

160

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

100万

ドル

0

10

20

30

40

50

60

70

80

1000ト

缶詰 輸出量 生鮮 輸出量 缶詰 輸出額 生鮮 輸出額

(出所) ペルー農業省 Ministerio de Agricultura (Peru), UN Comtrade

アスパラガス缶詰の輸出が拡大し始めたのは 1980 年代に入ってからである。それまで

大の輸出国であった台湾が工業化に伴って生産を縮小したことを契機に、中国やペルーが

輸出の拡大を始めた。ペルー北部の海岸地域には相次いでアスパラガスの缶詰工場が設立

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された。

また、1980 年代末に導入された点滴式灌漑 8 を用いることにより栽培面積が拡大した。

1990 年代にはいると、経済自由化の一貫として企業による大規模土地所有の規制が撤廃さ

れ、これまで中小規模の農家から原料を購入していた缶詰加工企業が自ら栽培に乗り出し

たことで、生産がさらに拡大した。しかし、缶詰アスパラガスの主要な輸出先である欧州

市場において安価な中国産缶詰との競争が激しくなり、もともと価格重視のドイツ市場は

もとより、フランスやスペイン市場においても中国産のシェアがペルー産のシェアを上回

るようになった。ペルーの缶詰輸出が 1990 年代半ば以降停滞しているのは、このような事

情によるものである。 8 点滴式灌漑とは、畝に沿って設置された小さな穴の空いたホースに、ポンプで水を送り込んで散水す

る灌漑方法である。用水路からの水を畝に沿って流す重力式灌漑にくらべて少量の水で栽培が可能に

なる、水に液肥を混ぜることで施肥ができる、雑草が育ちにくい、などの利点がある。

一方、主に生鮮として輸出されるグリーン・アスパラガスがペルーに導入されたのは 1980

年代後半である。その背景として、生鮮農産物の冷蔵・保存技術の発達とコールドチェー

ンなどの輸送インフラの整備が挙げられる。ペルー産生鮮アスパラガスの主要輸出先であ

る米国市場では、1980 年代末まで、生鮮のグリーン・アスパラガスは米国内の産地の収穫

期である 4~8 月か、メキシコから輸入する 1~3 月しか入手できなかった。ペルーは端境

期である 9~12 月に潜在的な需要をみつけ、輸出を拡大した。

供給側のペルーの農業企業による栽培-加工-輸出の統合も、生鮮輸出拡大に寄与した。

ホワイト・アスパラガスの缶詰輸出の場合は、缶詰加工企業が小中規模生産者から原料と

なるアスパラガスを購入し、これを缶詰加工して輸出していた。しかし、現在生鮮アスパ

ラガスを輸出している大手企業は、その原料の大部分を自社農場で栽培している。自社農

場で栽培するには土地の取得をはじめ大きな初期投資が必要になるが、それを上回るメリ

ットがある。例えば、収穫から加工場までの時間を短縮して生鮮さを保つ、農産物の安全

性を確保できる、顧客の需要に合わせて栽培計画を立てることができる、などである。そ

のなかでも、市場国で輸入農産物の安全性に対する関心が高まる中、安全性を確保し、そ

れを示すことができるのは重要な点である。外部の生産者から調達するのに比べ、自社農

場で栽培すれば栽培履歴の管理も容易に行える。農薬散布を抑え、許可されていない農薬

の使用禁止を徹底することができる。GAP(Good Agricultural Practice)などの認証を取得し

て安全な商品であるというお墨付きを消費者に示すことができ、商品としての付加価値を

高めることも可能である。これらの農業企業は生鮮アスパラガスにとどまらず、ブドウや

アボカドなどの生鮮果物の輸出にも取り組んでいる。

(3) 輸出振興 2006 年 7 月に成立したガルシア政権は、貧困の度合いの高い山間地域(シエラ)の経済

発展を促すために、この地域の産品を輸出に結びつけるプログラム Sierra Exportadora(輸出

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志向のシエラ)を発表した。輸出振興プログラムではあるが、狙いは輸出振興を通じて雇

用を創出し、貧困を削減することである。農業の他、観光業、手工芸品などの軽工業が対

象となっている。農業では、これまで主の地元市場や国内市場向けに作られてきた農産物

を輸出市場に結びつけたり、新たに輸出向け作物を導入することを目指している。政府は、

財源として外国の援助機関から 1 億ドルを確保したほか、民間企業に山間地域への農業の

投資を呼びかけている。プログラムが始まったばかりで政府が具体的にどのような振興を

行うのかは明らかではないが、現政権が も力を入れている政策の一つであり、今後の動

きが注目される。

ペルーの農産物輸出の振興において重要な役割を果たしているのが、ペルー輸出振興庁

(Prompex)である。同庁は農産物に限らず輸出産品全般の振興を目的としているが、中で

も 近輸出が拡大しているアスパラガスをはじめとする野菜・果物などの農産物輸出の振

興では大きな役割を果たした。例えば、同庁は生産者、輸出企業、農業省、国際機関など

と協力してアスパラガスの技術規格(分類の基準)やペルーの実情に合った GAP の規格を

策定し、関係者への普及を進めている。また、ATPDEA や対米自由貿易協定の交渉などに

参加して市場へのアクセス拡大に努めている。そのほか、生産者や輸出業者の組織化も重

要な役割である。これまでに、アスパラガスや野菜の生産者・輸出者の業界団体 IPEH

(Instituto Peruano de Espárragos e Hortalizas)や、リマの国際空港において生鮮農産物の保

冷・物流サービスを提供する社団法人 Frio Aereo などの団体の組織化を支援した。これらの

組織はペルーの生鮮農産物の輸出競争力の向上に重要な役割を果たしている。

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