中国東北部における都市大気汚染の現状と 健康へ …›³2...
TRANSCRIPT
図2 3都市の地域別・季節別のPM濃度�
図3 屋外・室内・個人曝露PM濃度の比較�
図 5 3 都市の大気体積当たりPAHとNPAH濃度の季節変動�
図4 3都市で捕集した粒子中の大気体積当たり PAH,NPAH濃度�
図7 都市別の呼吸器症状有症率�
図6 1秒量 (FEV1.0) と大気汚染濃度との関連(PM2.1濃度10μg/m3増加当たりのFEV1.0変化量)�
図1 対象都市の位置関係�
*地域暖房とは、石炭を燃やして大きなボイラーで作った熱湯や蒸気を団地などのブロックごとに供給して暖房するシステムです。従って、各家には石油や電気のストーブなどはありません。(写真の矢印がボイラーの煙突)�
表 対象都市、地域の特徴�
中国東北部における都市大気汚染の現状と�健康への影響�
〔 田村 憲治 〕�
環境健康研究領域�
1. はじめに�� 中国の大都市では、急速な近代化とともに大気汚染が深刻化しています。大気中浮遊粒子(PM)濃度は現在の日本の大都市に比べて高いことが報告されていますが、粒子の性質(大きさや成分など)は日本とは大分違うようです。特に健康への影響が大きい微小粒子濃度の現状はほとんど明らかになっていません。そこで、平成12年度から16年度にかけて「中国における都市大気汚染による健康影響と予防対策に関する国際共同研究」を実施してきました。こ�の研究では、地域暖房のための石炭燃焼に自動車や工場からの大気汚染が加わっている、中国東北地方の遼寧省3都市(瀋陽市、撫順市、鉄嶺市)を対象としました。季節や粒径別の大気中微小粒子濃度や有害成分含有量、都市住民の個人曝露濃度調査や児童への健康影響など多面的な調査研究を実施しましたので、その研究成果の中から主なものを紹介します。�
2. 調査対象都市�� 対象とした3都市はいずれも石炭暖房により冬季の大気汚染が深刻ですが、その中でも大気汚染濃度が異なると想定した3地域を表に示します。瀋陽市の緯度は日本ではちょうど小樽や函館と同じです。撫順市は瀋陽市の約40km東側に隣接し、鉄嶺市は瀋陽市の約70km東北の都市です。いずれの都市も冬季(1月)の月平均気温が -10℃という寒さの厳しい地方で、11月初めから3月末までは地域暖房が不可欠です。�
3. 調査結果��(1)3都市の大気汚染濃度(大気中微小粒子濃度と粒径分布)について����������� 対象3都市内の3地域で季節ごとに測定した平均濃度を図2に示します。暖房期には粒子濃度が高くなっている状況が分かります。また、瀋陽市と撫順市の4月の測定中にちょうど黄砂があったために特に粒子濃度が高くなっていました。�(2)対象都市住民の大気汚染個人曝露濃度について� 図3は、各都市3地域において、一般の住民10人ずつに協力をいただき、10μm以下の粒子(PM10)と2.5μm以下の粒子(PM2.5)の濃度について、住宅内外と住民の個人曝露濃度を暖房期、非暖房期7日間ずつ測定した結果です。地域によって測定期間が異なるため、地域間の屋外濃度の比較は出来ませんので、3地域を平均した濃度を示しました。� 暖房期には窓を閉め切っているにもかかわらず室内濃度も上昇し、個人曝露濃度が高くなっていることが分かりました。また、撫順市においては非暖房期にも工場からの煤煙で高濃度汚染があることも分かりました。�
(3)浮遊粒子中の有害成分の特徴について捕集した浮遊粒子に含まれる代表的な多環芳香族炭化水素(PAH)、ニトロPAH(NPAH)濃度を分析して、季節変動や粒径別の濃度の特徴などを調べました。� 4季節に捕集した粒�
子から、PAHについては9種類、NPAHについては10種類を分析し、その合計を捕集粒子重量当りの濃度で比較したものが図4です。PAH、NPAHともに撫順市が最も高く、瀋陽市と鉄嶺市と同程度で撫順市より低くなっていました。� 図5に、それぞれ3都市9地点の大気体積当りPAH及び二次生成化合物である2-NPと2-NFを除いたNPAHの夏季と冬季の濃度を示しました。3都市とも、冬高夏低の季節変動が見られた。また、粒径別の検討では、60%~80%のPAH, NPAHが2.1μm以下の粒子に含まれていました。�
�����������(4)都市大気汚染の学童の呼吸器系に対する影響について������������ 児童の肺機能の変化を調べるために、スパイロメーターを用いて3都市の3小学校で約100人ずつを対象として、季節ごとに4回の測定を繰り返しました。その結果、閉塞性換気障害の指標である1秒量(FEV1.0、最大に吸気した状態から一気に吐き出すときに最初の1秒間に出される量)を身長と年齢で補正して比較すると、図6のように大気汚染の激しい冬季に低下していることが分かりました。ただし、いずれの地域においても観察された影響は小さく、これらの影響が短期的なものであるのか、長期に及ぶものであるのかは分かりません。� また、児童の呼吸器系の症状などに関する質問票調査の結果、都市内の地域間の差はありませんでしたが、図7に示すように、持続性せきやたん、ぜん鳴症状、ぜん息様症状の有症率は撫順、瀋陽、鉄嶺の順に高く、大気汚染レベルと同じ順番になっていました。これらの率は、日本に比べればまだ低いですが、大気汚染との関連性が疑われ、これからも注視していくことが必要です。�
4. 今後の課題�� 冬季の大気汚染の「主役」である暖房用の石炭燃焼は、ボイラーの集中による効率化、煙突の高度化などで改善の方向にありますが、児童の肺機能への影響については長期的に観察することが必要です。また、今回対象とした3都市でも自動車排ガスによる大気汚染が主役になる日が近いでしょう。沿道の大
気汚染対策が次の大きな課題です。� この報告は多くの研究者や調査地のスタッフ、住民の参加と協力で実施した成果です。詳細は特別研究報告書(SR-64-2005)をご覧下さい。�
中国東北部における都市大気汚染の現状と�健康への影響�