平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム...

23
平成 292017)年度 心理・人間学主専攻プログラム 心理学分野 卒業論文概要 赤川 享平 注意の瞬きにおける感情語の遡及効果 有本 隆輔 「ケータイのィスプレイを見る行為」の許容と自己独立性との関連 工藤 志歩 危機察知時の情報処理能力向上について 國井 美穂 心理的距離印象形成に及す効果について 黒田 遼河 能力の獲得可能性と妬み感情の関係性についての検討 後藤 友香 絵を水平反転することにより生る知覚的歪みに関する検討 小山 佳代 説得圧力と送り手の要因リアクタンス喚起に及す影響 齋藤 若菜 自己脅威集団の認知に及す影響について 酒井 悠人 注意課題における視線と指さしの相互作用 清野 諒平 記憶再生における嘘の発話と自己選択の効果 長澤 実佳 放射状光学的流動の焦点への眼球運動タンに歩行習慣及す影響 仲村 章平 一人称視点の射撃ーム(FPS)を用いたトレーニングの受動性・能動 性視覚的認知課題の成績に及す影響 松郷 大樹 試合の重要性と競技歴卓球における戦績の個人内変動に及す影響 水野 沙緒理 Font tuning と言語に対する接触経験との関連 渡辺 愛理 対人葛藤における加害者への信頼と関係性被害者の寛容性に及す 影響 梶川 野栄 音楽の聴取による時間感覚の変化作業に与える影響 鎌谷 美希 ウマの対ヒト個体識別における接触頻度の影響について 小林 直人 視覚的短期記憶の容量と時間特性の検討 先田 貴裕 不協和音におけるプライミング和音判断に及す影響 洲崎 蒼 乳児の心的回転に与える body constraints の影響 髙橋 美汐 風評被害による忌避感情の抑制方法についての検討 眞木 はるか 説得における圧力の大小と対象の違いリアクタンスおよ承諾に及 す影響

Upload: others

Post on 27-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

平成 29(2017)年度

心理・人間学主専攻プログラム 心理学分野

卒業論文概要

赤川 享平 注意の瞬きにおける感情語の遡及効果

有本 隆輔 「ケータイのティスプレイを見る行為」の許容と自己独立性との関連

工藤 志歩 危機察知時の情報処理能力向上について

國井 美穂 心理的距離か印象形成に及ほす効果について

黒田 遼河 能力の獲得可能性と妬み感情の関係性についての検討

後藤 友香 絵を水平反転することにより生しる知覚的歪みに関する検討

小山 佳代 説得圧力と送り手の要因かリアクタンス喚起に及ほす影響

齋藤 若菜 自己脅威か集団の認知に及ほす影響について

酒井 悠人 注意課題における視線と指さしの相互作用

清野 諒平 記憶再生における嘘の発話と自己選択の効果

長澤 実佳 放射状光学的流動の焦点への眼球運動ハタンに歩行習慣か及ほす影響

仲村 章平 一人称視点の射撃ケーム(FPS)を用いたトレーニングの受動性・能動

性か視覚的認知課題の成績に及ほす影響

松郷 大樹 試合の重要性と競技歴か卓球における戦績の個人内変動に及ほす影響

水野 沙緒理 Font tuning と言語に対する接触経験との関連

渡辺 愛理 対人葛藤における加害者への信頼と関係性か被害者の寛容性に及ほす

影響

梶川 野栄 音楽の聴取による時間感覚の変化か作業に与える影響

鎌谷 美希 ウマの対ヒト個体識別における接触頻度の影響について

小林 直人 視覚的短期記憶の容量と時間特性の検討

先田 貴裕 不協和音におけるプライミングか和音判断に及ほす影響

洲崎 蒼 乳児の心的回転に与える body constraints の影響

髙橋 美汐 風評被害による忌避感情の抑制方法についての検討

眞木 はるか 説得における圧力の大小と対象の違いかリアクタンスおよひ承諾に及

ほす影響

Page 2: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

注意の瞬きにおける感情語の遡及効果 赤川 享平(あかがわ きょうへい)

key words:emotional attentional blink, retroactive, RSVP

【問題】

刺 激 が 高 速 逐 次 視 覚 呈 示 ( rapid serial visual

presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット

が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の同定が困難

になる.これが「注意の瞬き」(Attentional Blink:AB)で

ある.しかし感情を喚起する刺激を使った場合にも,注意の

瞬きが得られ,これはEmotional Attentional Blink(EAB)

として,通常のABと異なる結果を示す.ABは, 1つ目のター

ゲット(T1)の無視を求めればT1を無視しT2を報告できる

のに対し,EABでは,高い感情価の刺激がターゲットの前に

位置した時には(forward EAB:fEAB),無視を求められて

も,無視できずにターゲットの同定が妨害される.

Anderson(2005)は,感情を喚起させる英単語を用いた

RSVPを行い,高い感情価を持つ英単語が呈示された場合に,

ニュートラルな英単語と比較して処理が優先されることを

確認した. Ní Choisdealbha, Piech, Fuller, & Zald. (2017)

は,性的(ポジティブ)画像と残虐(ネガティブ)画像を用

いてEABを研究した.感情刺激をT2に位置付けた実験

(retroactive EAB:rEAB)では,感情刺激は後のターゲッ

トを妨害するだけではなく,遡って前のターゲットにも影響

した.さらに,感情刺激が後に呈示された場合には,ABが起

きなかった.しかし,Most & Jungé(2008)は逆に,後のネガ

ティブ刺激がターゲット同定を促進すると報告している.

そこで本実験は, EABが一般的な現象であるのか,感情

刺激はターゲット同定を促進するか妨害するか,AB抑制効

果は見られるかを,文字(漢字)刺激を用いて検討した.

【方法】

参加者:視力が正常な(裸眼,矯正問わず)新潟大学学部生

20名(男性11名,女性9名).うち1名は成績が極端に低かっ

たため除外した.

実験計画:シングルタスク:3(感情価:ニュートラル/ネガ

ティブ/ポジティブ)×2(ラグ:ラグ1/ラグ7)の2要因被験

者内計画.デュアルタスクも同じ実験計画を用いた.

刺激:漢字2文字からなる熟語を五島,太田 (2001)からそ

れぞれ15熟語ずつ抽出した.妨害刺激とターゲット刺激は黒

文字で,感情刺激のみ白文字で呈示した.背景は事前に5名に

協力してもらい,黒文字,白文字共に見やすい灰色に設定し

た.大きさは視角で縦3度,横6.5度であった.

手続き: シングルタスク:練習試行 10 回,本試行 90 回を

実施した.はじめに同定するターゲット熟語をモニタで教

示した.参加者は教示を確認した後,刺激試行(RSVP)に

移った.1 試行は,注視点 1000ms,妨害刺激(3~5 つ),

感情刺激,妨害刺激(ラグの数),ターゲット刺激,妨害刺

激(3 つ)の順で呈示した.終了後,参加者は,ターゲット

刺激を同定できたかをキー押し(Yes/No)で回答した.各

刺激は 80ms 呈示し,刺激間間隔(ISI:Inter Stimulus

Interval)を 20ms とった.

デュアルタスク:刺激はシングルタスクから感情刺激とタ

ーゲット刺激の位置を換えたものであった.ターゲットと

感情刺激の同定を求め,終了後に参加者はキー押しに加

え,感情刺激として呈示された熟語を用紙に記入した.

【結果】

シングルタスクでは,ラグのみ有意で,感情価の違いは

後のターゲットに影響せず,一般的なABが現れた.一方,

デュアルタスクでは,感情刺激のみ正解した試行をカウン

トした結果,感情価の効果が有意となり[F(2,36)=6.719,

p<.005].ネガティブ刺激時に妨害するrEABを確認できた

(図1).また,ターゲット同定かつ感情刺激正答試行を抽

出したところ,ラグの効果が有意となり[F(1,18)=45.887,

p<.001],ABの抑制効果は見られなかった(図2).

【考察】

シングルタスクでは,どの感情価の刺激も一律に妨害効

果を示し,感情価の効果が確認できなかった.これに対し

てデュアルタスクでは,妨害効果のあるrEABがネガティブ

刺激で一般的に起こると推測できる結果となった.一貫し

た結果が出なかったため刺激の呈示方法の調整が必要と考

えられるが,先行研究も踏まえれば感情価の効果は存在す

ると推測される.加えてNí Choisdealbha et al.(2017) は

ABの抑制効果を報告したが,本実験ではそのような効果は

得られなかった.そのため,ABの抑制は感情価の効果では

なく,Choisdealbha et al.(2017) が用いた人物写真の効

果であると考えられる.しかし,ラグ1ネガティブ時の結果

から,感情価がもっと高ければ.ABの生起抑制が起こるこ

とも考えられる.画像刺激の方が高い感情価を持つとすれ

ば,先行研究でのみABが生起しなかった理由となり得る.

本実験ではネガティブ刺激でrEABの妨害効果を確認でき

た.そのため人は,感情刺激を見た時(ネガティブならよ

り),以後の刺激だけでなく,それ以前に受けた刺激よりも

先に感情刺激を処理すると推測される.今後,刺激ごとに

生起間隔や必要な強度を,また促進効果を検討すること

で,感情刺激の特異な働きが明らかになると考える.

【引用文献】

Anderson, A. K. (2005). Affective influences on the

attentional dynamics supporting awareness. Journal of Experimental Psychology: General. 134(2), 258-281.

五島史子,太田 信夫(2001).漢字二字熟語における感情

価の調査.筑波大学心理学研究,23,45-52.

Most, S.B. & Jungé, J.A. (2008). Don’t look back:

Retroactive, dynamic costs and benefits of emotional

capture. Visual Cognition. 16 (2/3), 262–278.

Ní Choisdealbha, Á., Piech,R.M., Fuller, J.K., & Zald,

D.H. (2017). Reaching back: the relative strength of the

retroactive emotional attentional blink. Scientific Reports, 7: 43645. doi: 10.1038/srep43645.

(Kyohei AKAGAWA)

Page 3: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

「ケータイのディスプレイを見る行為」の許容と

自己独立性との関連 有本 隆輔(ありもと りゅうすけ)

key words:非言語的行動(nonverbal behavior), ケータイ(mobile phone / cell phone), 自己独立性(self-independency)

【問題】

近年のスマートフォンの普及とともに,ケータイのディス

プレイを見る行為も同時に人々に普及していることは疑い

のない事実であろう.「腕を組む」「頭を掻く」などに比類す

るほど普遍的な非言語的行動となっているはずだ.しかしこ

の行為に関する学術的探究がわずかであるとして,中村は

2007年から継続的に調査を行っている.

中村(2013, 2014)では,参加者に相手との親密度により

分類された3つの状況を想定してもらい,対面する相手が急

にケータイのディスプレイをに始めた際の印象を回答して

もらった.この調査をアメリカ合衆国,台湾,日本の3か国

で行った.結果,アメリカ合衆国では親しい相手ほどその行

為を許容せず,日本では親しい相手ほど許容できるという結

果となった.中村は Markus & Kitayama (1991) の理論を引

用し,欧米文化圏の個人の自己独立性の高さ,東アジア文化

圏の個人の自己独立性の低さが関係していると主張した.

しかし当調査のみで,ケータイを見る行為への許容と自己

独立性に関連があると言い切ることはできない.よって本研

究の主な目的は,ケータイを見る行為の許容度と自己独立性

の関連を,参加者の自己独立性を質問紙により測定すること

で検証することであった.さらに,状況設定に「初対面の人

物と共にいる」という状況を追加した.加えて,中村(2013,

2014)の結果がケータイに固有のものか検討するため,統制

条件として「スケジュール帳を見る行為」を設定した.

【方法】

実験参加者 新潟大学学部学生94名(男性40名,女性54名.

平均年齢20.2歳.)

実験計画 道具 (ケータイ / スケジュール帳 : 参加者間)

と親密度 (家族 / 一人の友人 / 複数の友人 / 初対面 :

参加者内) の2要因計画.

刺激 教示文は中村(2013, 2014)と同様のものを使用した.

初対面の状況のみ,実験者が作成した.参加者は各状況にお

ける行為の許容度を7件法で回答した.自己独立性を測定す

る質問紙は,高田ら(1995)により作成された相互独立的―

相互協調的自己観尺度を用いた.これは全20項目7件法の質

問紙で,参加者の自己独立性を測定する質問紙であった.

手続き 参加者には,まず行為の許容に関する質問紙に回答

してもらい,その後に相互独立的—相互協調的自己観尺度に

回答してもらった.いずれの質問紙も,紙面により呈示・回

答するものであった.

【結果】

結果の整理 分散分析と相関分析の二つの方法を用いて分

析を行った.

分散分析結果 道具2 (ケータイ / スケジュール帳), 独立性

2(高 / 低),性別2 (男 / 女),親密度4 (家族 / 一人の友人 /

複数の友人 / 初対面) の4要因分散分析を行った.要因独立

性についてだが,参加者全体の独立性評点の中央値を算出し,

それより高い参加者を独立性高群,低い参加者を独立性低群

とした.分析の結果,道具 [F(1, 86)=7.276, p=.0084],親密

度 [F(3, 258)=9.762, p=.0000]にのみ有意な主効果がみられ

た.すべての交互作用は有意ではなかった.要因親密度の多

重比較の結果,初対面が関わる組み合わせにのみ有意差がみ

られた.ケータイ条件はスケジュール帳条件にくらべ有意に

許容度が下がり,初対面条件は他の状況にくらべ有意に許容

度が下がるという結果となった.

相関分析結果 参加者個人内の初対面条件に対する許容度

評点から家族に対する評点をマイナスし,これを参加者個人

の許容度評点差とした.この許容度評点差と独立性評点の相

関を,ケータイ条件とスケジュール帳条件それぞれで分析し

た.結果,ケータイ条件では弱い正の相関がみられ [r=.290,

p<.05],スケジュール帳条件ではほとんど相関がなかった

[r=.094, n.s.] (図1,2).

【考察】

自己独立性と許容度との関連 本研究では,その存在は示唆

されるが明確なものは示されない,という結果となった.中

村(2013, 2014)の結果とは異なる.その要因については様々

なものが考えられるが,先行研究の結果が自己独立性による

ものではないことも大いに考えられる.

親密度と許容度評点 本研究では初対面条件でのみ有意に

許容度が下がる結果となった.一般的には友人より家族の方

が親密度が高いと考えられているが,大学生などの若者にお

いてはそれが当てはまらないという可能性が考えられる.

ケータイとスケジュール帳 分散分析の結果より,対人場面

においてケータイはスケジュール帳より見ることを許容さ

れにくいという結果となった.社会的場面においてケータイ

のみが持つ影響について,今後も検討の余地がある.

図1.ケータイ条件(N=47.).

図2.スケジュール帳条件(N=47.).

【引用文献】 Markus, H. R. & Kitayama, S. (1991). Culture and the self: Implications

for cognition, emotion, and motivation. Psychological review, 98(2), 224-253.

中村隆志 (2013). 「ケータイのディスプレイを見る行為」に対する非許容・

保留・許容. 情報文化学会誌, 7(2), 5-22.

Nakamura, T., Acar, A. & Ng, M. (2014). Cross-cultural comparison of

‘the action of looking at a mobile phone display’: Interdependent

self and non-verbal communication. Journal of the Japan Information-Culture Society, 14(1), 31-38.

高田利武 (1992). 独立的・相互依存的自己と自尊感情および社会的比較. 日

本グループ・ダイナミックス学会第40回大会発表論文集, 109-110.

Page 4: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

危機察知時の情報処理能力向上について

氏名 工藤 志歩 (くどう しほ)

Key words:危機察知、視覚、時間評価

【問題】

我々の認識世界では、客観的・物理的時間とは別に、個々人の主観

的・心理的時間の流れが存在する。心理的時間とは、何らかの出来事

の生起からどのくらいの速さで時間が経過するか、あるいはどれくら

いの時間が経過したのかという内的経験であり、この心理的時間の伸

縮の要因の一つとして考えられるのが、恐怖感情である。例えば、交

通事故に遭う直前やビルから落下するなど、命の危機を強く感じる

と、周囲の景色を細かく記憶していたり、スローモーションで見えた

りといった実体験がしばしば報告されている。この要因として充実時

程錯覚の影響が挙げられる。一般に、一定時間内のイベントの数が多

いほど時間を長く感じやすい。Eagleman,D.M.(2018)の 45mの高さの

ビルからの自由落下を用いた実験では、恐怖を感じているときには時

間が長く知覚された。恐怖時には一定時間内の情報の量が多くなり充

実時程錯覚が起こり、通常時よりも長く時間を知覚したと考えられ

る。Kobayashi・Ichikawa(2016)では、銃口を突き付けられるなどの

危険画像と、風景画のような安全画像を用い実験を行った。結果とし

て、危険を感じさせる画像の方が、安全な画像よりも提示時間が長い

と知覚されやすかった。本実験では Kobayashi・Ichikawa(2016)の追

試を行うとともに、更に命の危機を察知する状況を分類して分析を行

うことを目的とした。

【方法】

実験参加者:新潟大学学部生 26名(2名を分析から除外)

実験計画:①Kobayashi・Ichikawa(2016)の追試を目的とした実験計

画と、②危険な状況を分類し検討を行うことを目的とした実験計画の

2つをそれぞれ設定した。まず、①では、状況条件として危険画像 1

条件(計 20枚)×安全画像 1条件(計 10枚)を画像刺激として用い

た。また、画像提示時間条件として、400~1200ms(200ms間隔)の 7

条件が用いられた。以上の 2要因被験者内計画であった。次に、②で

は、状況条件として、危険度の高い主観的・客観的画像群 2条件(視

点条件)×意図的・非意図的画像群(生起条件)2条件を用いた。また、

画像の提示時間条件として 400~1200ms(200ms 間隔)の 7条件が用

いられた。画像は、条件ごとに 5枚ずつ使用した。以上の 3要因被験

者内計画であった。

刺激と手続き:スペースキー押下で実験が開始された。実験開始後、

まずパソコン画面上に注視点が 500ms提示された。その後、刺激画像

(危険・安全)が 400~1600msのいずれかの時間ランダムに提示さ

れ、300msのブランクの後、黒色背景画面に灰色画像が 1000ms提示さ

れた。実験参加者は、刺激画像の提示時間が灰色画像の提示時間より

も長かったと感じた場合には「jキー」を、短いと感じた場合には

「kキー」を押下するよう求められた。キー押下後、初めのスペース

キー押下画面に戻り、試行が繰り返された。30枚の画像×提示時間7

条件(400~1200ms)がランダムに提示され、計 210試行が連続で行

われた。

【結果】

実験参加者の内、2 名を除いた 24 名分のデータを集計した。状況条

件と画像の提示時間条件を独立変数、画像の提示時間が灰色の四角形

の提示時間よりも長く知覚された確率を従属変数として 2 要因分散分

析を行ったところ、画像の提示時間の主効果は有意であったが

(F(6,138)=209.074,p<.001)、状況条件の主効果と交互作用は有意で

なかった。画像の提示時間の主効果における多重比較の結果、1400ms-

1600ms で有意差は見られなかったが、それ以外のいずれの組み合わせ

においても、有意水準 p=.05で有意に差があった(図 1)。

次に、視点条件と生起条件、そして画像の提示時間条件を独立変

数、画像の提示時間が灰色の四角形の提示時間よりも長く知覚された

確率を従属変数とし、3要因分散分析を行ったところ、状況条件・生

起条件・画像の提示時間条件の主効果はいずれも有意であったが

(F(1,23)=7.054,p<.05;

F(1,23)=5.12,p<.05;F(6,138)=175.01,p<.001)、交互作用はいずれも

有意でなかった。画像の提示時間の主効果における多重比較の結果、

400ms-600ms間と 1400ms-1600ms間で有意差は見られなかったが、そ

れ以外のいずれの組み合わせにおいても有意水準 p=.05で有意差が見

られた(図 2)。

(図 1.)

(図 2)

【考察】

分散分析の結果と図 1から、本実験の結果は Kobayashi・

Ichikawa(2016)と矛盾した。また、図 2より危険な状況を主観的・客

観的視点や危険な状況にさらされる対象の相違によって時間評価に差

異は生まれないことが明らかになった。今後の展望として、時間評価

の伸縮が起こりうる画像の更なる解析が求められる。

【引用文献】

・Eagleman,D.M.(2008). Human time perception and its

illusions. Current Opinion in Neurobiology.18,131-136.

・Kobayashi・Ichikawa(2016). Emotions Evoked by Viewing

Pictures may Affect Temporal Aspects of Visual Processing.

・大黒静治(1961). 時間評価研究の概観. 心理学研究 32(1),44-54

Page 5: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

心理的距離が印象形成に及ぼす効果について

H14J059J 國井美穂 (くにいみほ)

key words:psychological distance, impression formation, warm-cold

【目的】

心理学者の Asch は、「warm-cold(温かい‐冷たい)」実

験という、印象形成に関する実験を 1946 年に行った。この

実験により、Asch は、「温かい」や「冷たい」という抽象語

は印象形成において影響を及ぼすと結論づけた。

しかし、近年の研究では、印象形成の際に、このように抽

象的に判断する傾向は状況に応じたものだという見解がな

されている。解釈レベル理論によると、心理的に遠い情報は

抽象的に処理される一方で、心理的に近い情報は具体的に処

理されるという。このことを確かめるための実験が 2011 年

に行われた(2011,McCarthy,R.J.&Skowronski,J.J.)。この実

験では、教示文で実験参加者とターゲットとの心理的距離が

近い場合と遠い場合に分け、Aschの実験と同じ特徴リストを

与えてターゲットを評価させた。結果は、心理的距離が遠い

場合の方が「温かい」ときと「冷たい」ときの評価点の差が

大きくなった。すなわち、仮説通り、心理的距離が遠いとき

は印象形成が抽象的に行われると結論づけられた。

そして、この先行研究を踏まえて、特殊実験(2017)では、

特徴リストを抽象的な単語ではなく具体的な文章に替え、そ

れ以外の条件はそのままにして、先行研究とは逆に心理的距

離が近いときに具体的な印象形成が行われると仮説を立て

て実験を行ったが、この実験では仮説通りの結果を導くこと

ができなかった。そこで、本研究では、特徴リストだけでは

なく評価項目にも具体的な文章を用いて実験を行った。

【方法】

新潟大学に在学中の学部学生 72 名を対象に質問紙形式で

行った。実験参加者は、男性 34名、女性 38名であり、平均

年齢は 20.92歳であった。

まず、ある人物についての教示文を 2パターン用意し、そ

こで実験参加者と評価対象との心理的距離が近いパターン

と遠いパターンに分ける。近い方のパターンは「新潟大学に

在学中のある生徒の特徴について」で、遠い方のパターンは

「とある 10 年前の新潟大学生の特徴について」であった。

先行研究では、この心理的距離が時間的な距離の場合と物理

的な距離の場合の両方で調査していたが、先行研究の結果よ

り、特殊実験と同様に本実験でも時間的な距離でのみ心理的

距離の遠近を分けた。

また、評価対象となる人物の特徴リストも 2パターン用意

した。Aschの実験で用いられた性格についての単語を具体的

な表現で文章化したものを箇条書きで表し、「温かい」条件の

文章を含むパターンと「冷たい」条件の文章を含むパターン

に分けた。この文章は特殊実験と同じものを用いたが、呈示

する特徴リストの順番による結果への影響をなくすために、

「温かい」条件の文章と「冷たい」条件の文章を入れる位置

を、質問紙ごとに入れ替えた。以上の 4パターン(①:温か

い‐遠い、②:冷たい‐遠い、③:温かい‐近い、④:冷た

い‐近い)の質問紙を用意し、1つのパターンにつき 18名に

回答してもらった。参加者には、ある人物に関する教示文を

読んで、4 つの評価項目それぞれについて、感じたイメージ

に近い数字に○をつけるという作業を行ってもらった。

人物評価の項目はどのパターンの質問紙でも同じであっ

た。特殊実験での評価項目は先行研究のものに倣い、「非社交

的な‐社交的な」、「寛大でない‐寛大な」、「好感の持てない

‐好感の持てる」、「気難しい‐感じの良い」の 4つを使用し

たが、本実験では、それぞれの評価項目を、人物の行動を示

す具体的な文章に直して使用した。例えば、「好感の持てる」

の項目は、「身だしなみが整っており、清潔感がある。」とい

うように直した。これらの評価項目の文章は、事前調査を行

った上で作成した。そして、参加者に教示文を読んで感じた

イメージが評価項目の文章に当てはまりそうかどうかを 5段

階の尺度(1~5)で評価してもらった。

【結果】

1 つの評価項目のデータを従属変数とし、中心特性(温か

い‐冷たい)と心理的距離(近い‐遠い)を独立変数とする

2×2 の被験者間 2 要因の分散分析を評価項目ごとに行った。

「 社 交 的 な 」 の 項 目 で は 、 中 心 特 性 に お い て

F(1,68)=5.98,p=<.05 、 心 理 的 距 離 に お い て

F(1,68)=13.45,p=<.05 であり、両方に有意差が認められたが、

他の評価項目では中心特性、心理的距離それぞれにおいて有

意差は認められなかった。また、評価項目ごとの平均値の差

を比べると、「寛大な」以外の評価項目において、心理的距離

が遠い場合に「温かい」条件と「冷たい」条件の評価点の差

が大きくなった。これは、心理的距離が遠い場合の方が、印

象形成が具体的に行われていたということを示しており、仮

説とは逆の結果が生じてしまった。

【考察】

今回の実験で仮説を証明できなかった原因は、具体的な文

章の内容が、回答者によって受け取られ方が異なってしまう

ということと、印象形成が具体的に行われる場合、回答者の

経験や環境によって様々な解釈がなされる可能性が高かっ

たことだと考える。また、今回の実験では、心理的距離が遠

い場合に印象形成が具体的に行われていたため、人物に関す

る具体的な文章を読んだときと抽象的な単語を読んだとき

の印象形成のメカニズムはあまり変わらないのではないか

と推測する。

【引用文献】

McCarthy,R.J.&Skowronski,J.J.

2011, You’re getting warmer: Level of construal

affects the impact of central traits on impression

formation

Journal of Experimental Social Psychology,47,1304-1307

2.17 2.17

4.06

1.832.11

1.83

4.06

2.44

3.5

2.39

4.5

2.442.442.06

3.94

2.11

1

2

3

4

5

6

社交的な 寛大な 好感の持てる 感じの良い

温かい‐近い 冷たい‐近い

温かい‐遠い 冷たい‐遠い

Page 6: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

能力の獲得可能性と妬み感情の関係性についての検討

黒田 遼河(くろだ りょうが)

Keyword: 妬み 獲得可能性 自己評価

【問題】

私たちは、他者が自分よりも何か優れているときに妬みを感

じるが、優れた他者に対して必ず妬みを感じるわけではない。

それは他者が優れていても自己評価が低下しない場合がある

からだと指摘されている(井上・村田、2014)。

井上・村田(2014)は、他者の優越がどのように獲得されたの

か、自分も獲得可能なのかどうかという点についての検討が今

までほとんどなされていないとし、他者の優越を自分も獲得可

能と感じれば妬み感情も生じにくいのではないかと考え、獲得

可能性が妬み感情に及ぼす影響について着目した。そして、仮

想的シナリオを用いた質問紙実験とサクラを用いた実験室実

験を行い、2 つの実験において獲得可能性が高いときには、低

いときよりも妬み感情が低くなることが示された。

しかしながら、獲得可能性が妬み感情に及ぼす影響について

の実証的な研究はほとんど行われてきておらず、一貫した結果

も得られてはいない。そこで、本研究では井上・村田(2014)の

実験計画を踏襲し、「獲得可能性が高くなるほど妬み感情は小

さくなり、獲得可能性が低くなるほど妬み感情は大きくなる」

という立場で、能力の獲得可能性が妬み感情へ及ぼす影響につ

いて再検討を行った。

【方法】

参加者:新潟大学学部学生 32名程度

実験計画:獲得可能性(高・低)の 1要因被験者間計画

手続き: 手続きは井上・村田(2014)を踏襲した。

実験状況は実験参加者とサクラ(実験協力者)の 2名か

ら構成された。

初めに、実験参加者とサクラには架空の情報選択に関わる能

力「ER指数」を測定する課題をしてもらった(図形課題や計算

課題)。このとき、「ER 指数は将来の年収などの社会的地位に

大きく関連する能力で、就職活動において重要視する企業も増

えてきている」と説明し、獲得可能性高条件の参加者には「ER

指数はトレーニングを行った人の 88%で高まった」、獲得可能

性低条件の参加者には「ER 指数はトレーニングを行った人の

2%しか高まらなかった」と追加で説明をした。

課題終了後、実際の結果に関わらず、実験参加者には E評価

~A評価のうち C評価であり、ごく普通の能力であることを伝

え、また一緒に課題をしたサクラが A評価であったことも伝え

た。その後、実験参加者とサクラには妬み感情(3 点~27 点)を

含む質問項目に答えてもらった。

さらに、忘れ物をしたと告げ、実験者は実験室から退室した。

その約 30 秒後にサクラが実験参加者の近くに筆箱を落とし、

それを実験参加者が拾うかどうかを行動指標とした。実験参加

者が筆箱を拾わなかった場合、5秒後にサクラが筆箱を拾った。

実験者は 3分後に実験室に戻り、実験参加者に実験終了を告げ、

疑念チェック、デブリーフィングを行ない、実験を終了した。

【結果】

獲得可能性の操作チェック項目について条件間の差を検討

したところ、獲得可能性低条件(M=8.44)より獲得可能性高条

件(M=13.00)の実験参加者の方が、自分の ER指数を伸ばすこ

とができると高く回答しており、獲得可能性の条件操作は成功

したと考えられた[t(30)=3.27, p<.01]。

次に、妬み指標の値について条件間で違いがあるかどうか検

討したところ、獲得可能性低条件の妬み得点(M=8.31)と獲得

可能性高条件の妬み得点(M=7.75)の間で有意な差は見られな

かった[t(30)=0.41,n.s.](図 1)。

さらに条件によってサクラの落とした筆箱を拾った人の割

合に差が出るかどうかを検討するために X2 検定を実施した。

その結果、獲得可能性低条件(16人中 5人)と獲得可能性高条件

(16 人 中 8 人 ) の 間 で 有 意 な 差 は 見 ら れ な かっ た

[X2(1,N=32)=1.17,n.s.](図 2)。

図 1 獲得可能性高条件と低条件における

妬み得点の平均値

図 2 獲得可能性高条件と低条件における

筆箱を拾った人数の割合

【考察】

実験の結果より、能力の獲得可能性が妬み感情に与える影響

は認められず、獲得可能性が高くなるほど妬み感情は小さくな

るという井上・村田(2014)の実験結果とは異なる結果となった。

この原因として、妬み感情を抱くことに対し実験参加者が良

くない印象を持っているため、自身の妬み感情を回答する際に

社会的望ましさが働き、妬み感情が抑制されてしまったことが

挙げられる。今後妬み感情の実験を行う際には、井上・村田

(2014)でも述べられていたが、さらに匿名性を高めるなど、実

験参加者自身を納得させ、社会的望ましさが働きにくい実験環

境で実験を行う必要があると考えられる。

また、行動指標についても、適切ではなかった可能性がある。

筆箱を拾うという援助行動と妬み感情に関係性があるのかを

検討したところ筆箱を拾った人と拾わなかった人で妬み感情

に有意差は見られなかった[t(30)=1.266, n.s.]。このことから、

妬み感情を測定する行動指標として、サクラの落とした筆箱や

ペンを実験参加者が拾うかどうかという行為は適切ではなか

った可能性が考えられる。

しかしながら、妬み感情を実験参加者に正直に答えてもらう

事は簡単ではなく、そのため妬み感情を測定する上で、質問紙

だけではなく、このような行動指標を取り扱うことは妬み感情

の実験において有用な方法であると考えられる。今後は、より

妬み感情を正確に測定でき、かつ安定性のある行動指標を検討

していく必要もあると考えられる。

【引用文献】

井上 裕珠・村田 光二(2014). 獲得可能性が妬み感情に及ぼす

影響 心理学研究. 85. 1~8.

0

2

4

6

8

10

獲得可能性高条件 獲得可能性低条件

妬み得点

0%

50%

100%

獲得可能性高条件 獲得可能性低条件

拾わな

かった

拾った

Page 7: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

絵を水平反転することにより生じる知覚的歪みに関する検討

後藤 友香(ごとうゆか)

Key words:絵,歪み,反転

目的

自分で描いた絵を水平反転(以下,反転と呼ぶ)させると,元の絵と比

べて形が歪んで見える場合がある。しかし,なぜこのような現象が生じる

のかに関しては科学的な研究がほとんどなされておらず,未だ,不明な点

が多い。

京極・伊藤・須長(2010)はこのテーマを扱った数少ない研究の一つであ

る。彼らは,人物の顔のイラストを用意し,これらを反転したものと元画

像を参加者に経時的に提示し歪みの大きさを評定させた。この実験から反

転の有無により歪みの評定値が変化することが分かった。しかしながら,

必ずしも,反転後のイラストが歪んで見えることはなく,それらが先に提

示された場合には,後に提示された元画像が歪んで知覚される傾向も見ら

れた。そのため彼らは,反転して知覚される歪みは絵そのものに存在する

のではなく,観察者自身の内的な要因により生じるものであると結論付け

た。

しかし,彼らの実験には実験参加者の選定や使用した刺激,実験手続き

等にいくつか問題点が見られる。そこで,本研究では,京極・伊藤・須長

(2010)で見られる問題点を改善し,反転により生じる歪みの仕組みを明ら

かにするとともに,反転後に検出された歪みを修正することがより良い作

品制作に関連しているかを調べることを目的とする。

実験1

方法

参加者 新潟大学学部生31名が実験に参加し,分析対象となったのは内

20名であった。6名は自身が描いた図形が反転されて提示されたことに気

づき,3 名は既に反転により歪みが確認できることを知っていたため分析

から除外した。また,2 名の参加者は実験に使用していた機器の動作不良

によりデータが得られなかった。

実験計画 画像加工の要因(水平反転条件,未加工条件)を独立変数と

する 1 要因参加者内計画。従属変数は各画像の優劣を実験参加者に判断さ

せ算出した各条件における描画得点。

手続き 課題1と課題2を実施した。課題1では,参加者は人の顔のピ

クトグラムが描かれた紙を渡され,それを16回模写した。課題1の後に5

分間の休憩を設け,その間に実験者は課題 1 で作成された図をランダムに

8枚選び反転加工を施した。課題2では,課題1で描いた16枚の画像(加

工後の画像も含む)からランダムに選ばれた 2 枚の画像がノートパソコン

の画面上に呈示され,参加者はモデルの画像を思い出しながら,どちらが

より上手く描けているかをキー押しで判断した。

結果

描き写された16枚の画像(水平反転した画像も含む)と,それぞれ他の

全ての画像の対比較を実施し,各画像の勝ち数(上手く描けていると判断

された回数)を条件ごとに合計し算出したものを描画得点とした。

Figure1は,描画得点の平均値を示したものであり,水平反転条件で

60.65点,未加工条件で 59.35点であった。片側 t検定の結果,水平反転

条件と未加工条件の間で,描画得点に有意差は見られなかった(t(19)=

0.29,p>.05)。

実験2

方法

参加者 新潟大学学部生31名が実験に参加し,分析対象となったのは内

30名であった。1名の参加者は実験に使用していた機器の動作不良により

データが得られなかった。

実験計画 イラストの作成条件(反転有り条件,反転無し条件)を独立

変数とする 1 要因参加者内計画。従属変数は各条件下で作成されたイラス

トに対する選択回数。

手続き 実験参加者とは別に13名の刺激制作者を募り,自身の絵を反転

させ観察しながら描く条件(反転有り条件)と,反転させずに観察しなが

ら描く条件(反転無し条件)で人物のイラストを模写させた。実験参加者

はそれら 2枚のイラストのどちらがモデルの絵を再現できているか選択す

るよう指示された。なお,13名の刺激制作者の内2名は事前に反転により

歪みが確認できることを知っており,残り 1名は未完成で課題を終えたた

め,彼らの作成したイラストは刺激として使用しなかった。

結果

Figure2は,実験参加者が10回の選択中平均して何回各条件下で描かれ

たイラストを優れていると判断したか示したものであり,反転有り条件で

4.96 回,反転無し条件で 5.03 回選択された。片側t検定の結果,反転有

り条件と反転無し条件の間で選択回数に有意差は認められなかった(t

(14)=0.13,p>.05)。

考察

実験 1では,反転処理が自身の絵の評価に与える影響を調べることを目

的とした。加工を施した物も含め,作成した全ての図形の巧拙を総当たり

で判断させた結果,描画得点に差が見られなかった。これは,自身の絵が

反転されていることに気づかない場合,それらの絵が歪んで知覚されない

ことを示唆しており,歪みは心的な作用により生じるという点において京

極・伊藤・須長(2010)の見解を支持するものである。

実験 2では反転しながら描くことの有用性を調べることを目的とした。

実験の結果,反転有り条件と反転無し条件の下で描かれたイラストの平均

選択数を比較したが同様に差が見られなかった。したがって,反転するこ

とで歪みを確認し修正することは歪みの少ない正確な絵の作成に寄与して

いないと推測される。

今回の結果から,観察者が絵の制作者であっても,その絵がオリジナル

か,反転処理を施された物であるか気づかない場合,後者がより歪んで見

えることは無いと言える。そのため,注意などの認知的要因の関与が考え

られる。一方で,実験 2の結果から,反転後歪みを確認しながら作業した

場合でも,反転の有無による絵の正確性には差が生じなかったことから,

絵に対する順応のような生理的な要因にも関連していると推測される。

Figure1各条件の描画得点 Figure2各条件の平均選択回数

引用文献

京極 吾一・伊藤 博之・須長 正治(2010).書かれた顔の反転と歪み

信学技法,62,11-13.

(Yuka GOTO)

Page 8: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

説得圧力と送り手の要因がリアクタンス喚起に及ぼす影響

小山佳代(こやまかよ)

key words:心理的リアクタンス,態度変化,送り手の専門性

【問題】

説得に関する初期の研究は,唱導方向への態度変化に注目

していたが,近年では説得への抵抗を示す心理的リアクタン

ス「自由が脅かされた時にその回復を目指す動機づけ

(Brehm,1966)」)や,態度変化を示すブーメラン効果に焦点

を当てている。中でも,佐々木(1993)の研究は,大学生を対

象に送り手(信憑性高/低)と説得圧力(大/小)を操作し教

育場面における説得への抵抗を調べた。その結果,説得者の

信憑性の効果は確認されず,圧力大で心理的リアクタンスが

強く喚起され,態度変化が抑制されていた。そして,心理的リ

アクタンス喚起に伴い,諸反応(「説得文は適切である」等)

について,圧力の効果が確認された。また,リアクタンスから

態度変化へは,送り手の信憑性(信頼性と専門性)のうち,信

頼性の評価のみが関係していることが分かった。

本研究の目的は,佐々木(1993)の手続きを改良し,大学生

を対象に送り手の要因(信頼性と専門性)と説得圧力を操

作し,心理的リアクタンスの喚起に何が影響するか,そしてそ

の後の態度変化を起こすメカニズムを推察することであ

る。これまでの研究の知見に基づき,以下のような仮説が成

り立つ:①心理的リアクタンスは,説得圧力と送り手の特徴

によって生じる。②圧力ありは,圧力なしよりも,且つ③送り

手の信頼性・専門性が低い方が,そして④圧力あり・信頼性

低群において最もリアクタンスが喚起する。

【方法】

実験参加者 新潟大学学部学生 91 名(内 2 名を分析から除

外)

実験計画 説得圧力(あり/なし)2×送り手の特徴(信頼性

高/低・専門性高/低)4 の 2 要因参加者間計画,実験前調査と

本実験の before-after デザインで実施した。

独立変数の操作 説得圧力:説得文に高圧的な文(「皆さん

も私の意見に賛成するに違いない」)を挿入するか否かで操

作した。/ 送り手の特徴:豊田(2002)の大学生が持って

いる好きな教官像と嫌いな教官像より,信頼性(高/低)と専

門性(高/低)に分け,4 条件それぞれにつき教師像 5 項目を

呈示した。これらを冊子に印刷し,操作した。

手続き 実験前調査:「興味関心のある話題における一貫性

の調査」と伝え,初期態度の測定を目的に行った。「学校教育

における討論の必要性」と題した圧力なしの説得文を呈示

し,従属変数となる評価項目計 15 題に回答してもらった。

本実験:最短で 5 日間の間隔を明け,実施した。①ランダム

に割り当てられた送り手の特徴を読み,人物を想像してもら

った。②圧力ありか,なしの説得文を呈示し,参加者に読んで

もらった。③実験前調査の質問紙に下記の h),i)の質問を含

んだ項目に回答してもらった後,デブリーフィングを行ない

終了した。

従属変数 佐々木(1993)を用い,a)自由への脅威の知覚と

して,送り手に対する認知 3 項目。b)説得文に対する認知 2

項目(「強い言葉を含んでいる」等),c)態度変化得点。d)心

理的リアクタンス(「反発を感じる」等)4 項目。e)説得文

の内容に対する評価(「適切である」等)3 項目。f)送り手

に対する攻撃意図「強く抗議したい」。g)興味関心の程度。

計 15 項目/本実験のみ→h)送り手に対する評価(「信頼性」,

「専門性」)2 項目。i)送り手に対する好意度について 7 件

法(1.非常にそう思う―7.全くそう思わない)で回答を求

めた。計 18 項目。

【結果】

従属変数 a)~g)は各項目の変化量(本実験-実験前調査)の

合計得点の平均を算出し,実験計画に基づき,分散分析を行っ

た。Figure1 は,(d)のリアクタンス 4 項目の変化量を示して

おり,マイナスの値であれば,リアクタンスが喚起していたこ

とを意味する。説得圧力と送り手の特徴それぞれに主効果

(F=4.23,df=1/81,p<.05;F=5.95,df=3/81,p<.005),そして両者

の交互作用(F=4.36,df=3/81,p<.01)が確認できた。しかし,態

度変化を示す(c)項目には,有意な差は見られなかった。

心理的リアクタンスのメカニズムを解明するため,リアク

タンス評価の変化量ゼロを統制条件として設け,t 検定で実

験条件と比較した。その結果,圧力有り・信頼性低と,圧力な

し・信頼性低,圧力なし・専門性低条件の 3 条件が有意にリ

アクタンスを喚起させた。各項目間の相関係数を求めたと

ころ,態度変化と正の相関,説得圧力や送り手の専門性,好意

度,攻撃意図の変化量とそれぞれ負の相関関係が成立した。

信頼性と好意度は,それぞれ攻撃意図の変化量と負の相関が

あった。

Figure1.心理的リアクタンス評価の変化量(*p<.05, **p<.01)

(エラーバーは標準誤差)

【考察】

Figure1 からも分かるように仮説①④を支持,②③を一部

支持する結果となった。リアクタンス評価において,相互作

用が検出されたため,自由への脅威は言い方のみならず,どの

ような人物に言われるかによっても影響を受けることが分

かった。しかしながら,圧力あり・信頼性低群は,専門性低群

と比較し,リアクタンスが強く喚起したが,有意な差は認めら

れなかった。リアクタンスのメカニズムに関して,リアクタ

ンスが喚起した群と相関関係にあった評価項目は,専門性で

あった。故に,送り手の専門性の評価がリアクタンス喚起に

影響し,送り手の信頼性と好意度の評価を生み,態度変化の手

前の攻撃意図につながるという一連のプロセスが考えられ

る。

【引用文献】

Brehm,J.W.(1966).A thory of psychological reactance.New York:Academic Press.

佐々木政司(1993).自由への脅威とコミュニケーターの信憑

性が説得への抵抗に及ぼす効果.名古屋大学教育心理学.第40巻,203~214.

豊田弘司(2002).大学生における「好かれる教授」と「嫌わ

れる教授」の特徴.教育実践総合センター研究紀要.第11

巻.19~22.

(Kayo KOYAMA)

-6

-1

4

あり なし

心理的リアクタンスの

変化量

送り手の特徴

信頼性高

信頼性低

専門性高

専門性低

*

Page 9: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

自己脅威が集団の認知に及ぼす影響について

齋藤 若菜(さいとうわかな)

key words:自己脅威、合意性認知、自己防衛

【問題】

集団の認知に関しては、他者が自分とどの程度同じ性質を

共有しているかという合意性認知の研究で詳しく検討され

ている。Krueger他のアンカリング仮説では、自己と内集団成

員は似た特徴を持っていると判断されやすいことを示して

おり(Clement&Krueger,2002;Robbins&Krueger,2005)、自己

の失敗フィードバックを受けると、内集団の課題遂行も低く

推定されることも明らかになっている。このように、自己脅

威が存在する場合の自己と内集団の合意性認知には、アンカ

リングによる認知的過程だけではなく、自己防衛という動機

的過程が関わっているということが推測される。

以上のような先行研究を踏まえ、渡辺・唐沢(2012)では自

己脅威を実験的に操作し、それとは無関連な性格次元におい

て合意性認知を測定し、自己脅威が集団の認知に与える影響

についてより直接的に検討した。その結果、自己との合意性

認知に関しては(1)内集団の方が外集団よりも高くなる、(2)

外集団は脅威の有無による差は見られない、(3)内集団に関し

ては統制条件よりも脅威条件の方が高くなるという仮説を

支持した。しかし、自己脅威が集団の評価差にも影響を与え

るという仮説は支持されず、感情価の効果については先行研

究と異なる結果が得られた。だが、渡辺・唐沢(2012)のよ

うに性格特性において、自己脅威が自己と内外集団との合意

性認知に与える効果を検討している研究は少ない。

そこで本研究では渡辺・唐沢(2012)を追試し、自己脅威と

集団認知の関係性について再度検討することを目的とした。

【方法】

実験参加者 新潟大学学部学生40名(内1名は分析から除外)

実験計画 脅威条件(脅威、統制)×ターゲット(内集団、

外集団)×感情価(ポジティブ、ネガティブ)で、脅威条件

を参加者間要因、ターゲットと感情価を参加者内要因とする

3要因混合計画

手続き

自己脅威の操作 図形課題を15問行ってもらった。課題終了

後、統制条件の参加者には平均と同程度の点数を、脅威条件

の参加者には平均より低い点数を参加者の成績としてフィ

ードバックした。課題終了後、操作チェックとして状態自尊

心(阿部・今野,2007)を測定した。

集団分類手続き コンピュータの画面上に呈示される2枚の

抽象画について、好きな方をキー押しで選択する課題を10試

行行ってもらった。参加者には絵は2名の作者により描かれ

たものであると教示した。課題の終了後、どちらの作者の絵

を好んでいたかを画面上にて呈示し、選択結果に関わらず参

加者をカンディンスキー集団とクレー集団に分類した。

性格評定課題 それぞれの集団に所属する人物をイメージ

してもらい、性格特性語20語(ポジティブ語10語、ネガティ

ブ語10語)について、自己、内集団成員、外集団成員にどの

程度当てはまるのかを7件法で回答してもらった。

【結果】

合意性認知 ターゲットや感情価の条件ごとに、自己評定を

独立変数、集団評定を従属変数とした回帰分析を各参加者内

で実施し、その結果得られた標準化回帰係数を以下で述べる

分析で使用した。各条件ごとの標準化回帰係数の平均値を示

した図1、2より、標準化回帰係数は内集団ターゲットの方が

外集団ターゲットよりも高く、ネガティブ語の方がポジティ

ブ語よりも高くなっていることがわかる。自己脅威を参加者

間要因、ターゲットと感情価を参加者内要因とする3要因の

分散分析を実施したところ、ターゲットの主効果に関して、

自己評定の標準化回帰係数は、内集団の平均値(M=0.10;SD= 0.41)が外集団の平均値(M=-0.12;SD=0.29)よりも有意に高

かった(F(1,37)=7.20,p<.05)。また感情価の主効果について、

自己評定の標準化回帰係数は、ネガティブ語の平均値(M= 0.10;SD=0.46)がポジティブ語の平均値(M=-0.04;SD=0.39)よりも有意に高かった(F(1,37)=9.61,p<.01)。自己脅威につ

いては有意な主効果、交互作用は見られなかった(Fs≦0.75,

n.s.)。

評価バイアス 自己脅威を参加者間要因、感情価を参加者内

要因とする 2要因の分散分析を実施したところ、自己脅威と

感情価の各主効果、自己脅威×感情価の交互作用はいずれも

有意ではなかった(Fs≦2.77,n.s.)。

【考察】

自己と内集団の合意性は、自己と外集団の合意性よりも高

く認知されていることが明らかになった。また、自己と内外

集団の間の合意性は、ネガティブな評価次元の方が、ポジテ

ィブな評価次元よりも高いことが示された。これらは渡辺・

唐沢(2012)の結果と一致する。だが脅威条件間で差は見ら

れず、自己脅威の有無は合意性認知に影響を及ぼさないとい

う結果が得られた。評価バイアスに関しては、自己脅威の有

無は関係しないということが示唆された。全体として本研究

では、自己脅威が集団の認知に影響を及ぼすという仮説は支

持されなかった。

自己と内集団との合意性認知に自己脅威の有無による差

がみられなかったことに関しては、脅威操作の課題により、

統制条件でも脅威を感じてしまったことが考えられる。また、

評価バイアスに条件間の差が見られなかったのは、社会的望

ましさが反映されてしまったことに加え、実験手続きの性質

上外集団に対する競争意識が薄かったことが影響した可能

性がある。

【引用文献】

阿部美帆・今野裕之(2007). 状態自尊心尺度の開発 パー

ソナリティ研究,16, 36-46.

Clement, R. W. & Krueger, J. (2002). Social category-

zation moderates social Projection. Journal of Experimental Social Psychology, 39, 279-299.

Robbins, J. M. Krueger, J. I. (2005). Social projection

to ingroups and outgroups: A review and meta-analysis.

Personality and Social Psychology Review, 9, 32-47. 渡辺匠・唐沢かおり(2012). 自己脅威が内集団との合意性認

知に及ぼす効果 社会心理学研究, 27, 83-92.

(Wakana SAITO)

Page 10: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

注意課題における視線と指さしの相互作用 酒井悠人(さかいゆうと)

key words:gaze, indexical pointing, attention

[問題]

Posner (1980)に代表される空間的注意の課題として,先

行手がかり法の実験がある.この実験によりヒトの注意の効

果が定量的に示された.

Driver, Davis,Ricciardelli,Kidd Maxwell,& Baron-Cohen

(1999) とAriga & Watanabe (2009)は先行手がかり刺激にヒ

トの視線・指さしを使いそれぞれ先行手がかり効果が生じる

ことを確認した.このことはヒトの視線と指さしがヒトの注

意を誘導する力をもつ事を示した.

Langton & Bruce (2000)は注意課題ではないが,指さしと

頭の向きが同時並列的な処理を受ける可能性を示した.この

実験の課題はディスプレイに提示された人物の頭の向き・指

さしの向きの一方を回答するものであった.頭・指さしの両

ブロックで,頭の向きと指さしの向きが不一致の場合,一致

の場合よりも反応時間が増大した.ただし,指さしの方向に

ついて回答する条件の方が効果量は小さく,反応時間の増大

は小さかった.

本研究ではLangton & Bruce (2000)で示された2つの結果

に注目したい.両ブロックで頭と指さしの方向が不一致であ

ったとき反応時間が増大した.また,頭の向きについて答え

るブロックで指さしが反応時間を増大させた量と指さしの

向きについて答えるブロックで頭の向きが反応時間を増大

させた量が異なっていた.これは2つの刺激の間で情報価が

異なったために反応時間の増大量が2つの刺激間で異なっ

たのではないかと考えられる.

日常場面でヒトが他者の注意を誘導するために行うジェ

スチャーは,視線や指さしなど複数の要素を含む場合が多い

だろう.しかしLangton & Bruce (2000)では一方の認識を一

方が阻害したようである.また2つの要因の情報価は同じで

はないかもしれない.

本実験では複数の要因の先行手がかり刺激として同時に

提示し注意課題を行うことで注意を誘導するジェスチャー

が複数重なった場合の有効性を検証することを目的とした.

[方法]

実験参加者 新潟大学学部学生 19名(男 9名,女 10名;年

齢 20~23歳)

実験計画 視線3(一致・中立・不一致) × 指さし2(一致・

不一致) の2要因被験者内計画.ターゲット出現位置と視

線・指さしのさす方向の一致・不一致を独立変数とし,視線

のみニュートラル条件を設けた.中立条件では視線は正面を

向いていた.ターゲットはアルファベットのTまたはLだった.

手続き Driver et al (1999) にならい文字弁別課題を行っ

た.被験者を薄暗い部屋で椅子に座らせ,あご台を使用して

視距離を 60cm に固定した.まず画面中央に注視点を 670ms

提示した後,先行手がかり刺激を 300ms提示した.続いてタ

ーゲット文字が提示され,被験者はターゲットが Tならばキ

ーボードの Hのキーを,Lならばスペースキーを押下して回

答した.手がかり刺激はターゲット出現後も継続して提示さ

れ,被験者が応答すると同時に画像は消えた.1000ms置いて,

次の試行を自動的に開始した.

全 192 試行で,半分が終わった時点で 2分の休憩をはさん

だ.本試行前に 20 回程度の練習試行を設け,被験者に操作

が慣れたかどうかを尋ね,問題がなければ本試行を開始し,

要望があれば数回程度練習試行を追加した.

[結果]

反応時間の分析を行った.各被験者から得られた平均値を

視線 3条件 × 指差し 2条件の計 6条件に分け 1条件ごとに

集計し,平均したものを 3×2の 2要因の分散分析にかけた.

その結果,視線と指差しのどちらについても主効果は認めら

れなかった(図 1).

[視線,F(2,36) = 0.38, p = .688; 指差し,F(1,18) =

1.28, p = .272] また同じように交互作用についても認

められなかった.[F(2, 36) =1.33 , p = .278 ]

用意した視線手がかり刺激が実験に適切であったかを確

認するため視線手がかり刺激のみを先行手がかり刺激とし

て提示し,同様の手続きで追加の実験を行った.視線手がか

り(一致・不一致・中立) の 1要因の分散分析を行った.結

果として,視線の手がかり刺激のみを提示した際の視線の主

効果も認められなかった.[F(2,16) = 0.501, p = .615]

図 1. 各条件の反応時間の平均.単位はミリ秒.

エラーバーは標準誤差を示す.

[考察]

今回の実験では視線・指差しのどちらについても主効果は

認められず,交互作用も生じなかった.このことは,視線と

指差しを同時に提示したとき互いに互いの先行手がかり効

果を打ち消しあった可能性を示唆した.しかし同時に用意し

た刺激が適切でなかったために手がかり効果を生じさせな

かったという可能性もあった.そこで Driver et al. (1999)

の追試を行い,本実験の視線の刺激が適切であったか検証し

た.結果,視線の主効果は出なかったので,本実験で用意し

た刺激は先行手がかり刺激に用いるには適切でなく,実験的

手続きの不適切な実験だったと考える.

[引用文献]

Ariga, A & Watanabe, K (2009). What is special about the

index finger? : The index finger advantage in

manipulating reflexive attentional shift. Japanese Psychological Research Volume 51, Issue 4, 258-265

Driver, J, Davis, G, Ricciardelli, P, Kidd,P, Maxwell,

E & Baron-Cohen, S (1999). Gaze Perception Triggers

Reflexive Visuospatial Orienting. Visual Cognition, 6(5),509-540

Langton, S. R. H. & Bruce, V (2000). You Must See the

Point: Automatic Processing of Cues to the Direction

of Social Attention . Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance 26, No 2, 747-757

Posner, M. I. (1980). Orienting of Attention.Quarterly Journal of Experimental Psychology 32, 3-25

0.5

0.52

0.54

0.56

0.58

0.6

視線不一致 視線中立 視線一致

反応時間

(ms)

指さし不一致

指さし一致

Page 11: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

記憶再生における嘘の発話と自己選択の効果

清野 諒平(せいの りょうへい)

key words:confabulation, misinformation effect, self-choice effect

【問題】

「嘘」という一語で表現されるものには,欺きやお世辞など,

多様な場面で用いられるものが含まれている.それら全ての「嘘」

に共通しているのは,「事実と異なる発話」であるということだ.

この「事実と異なる発話」を行うことは,記憶の再生に影響を及

ぼすことが知られている.

「事実と異なる発話」を参加者に求める実験において,しばし

ば用いられる発話のタイプは2つに大別される.参加者自身に一

から作り出すことを求めるものと,与えられた刺激を基に,それ

とは異なることを述べてもらうものだ.前者については,特殊実

験(清野,2017)において検討を行った.今回の実験では後者の発

話を用いて,「嘘」が正しい記憶を抑制する効果を検討した.

これに加えて本実験では,記憶の促進が期待される手続きと

して,発話する項目を参加者自身が自由に選択できる条件を設

けた.この操作が導くと推測される自己選択効果と,「嘘」の発

話を行うことによる効果とが,記憶に対しそれぞれどのような

影響を及ぼすのか比較を行った.

また,「嘘」の発話が記憶に誤りを導くための操作として,同

じ内容の発話を繰り返し行うという手続きが,先行研究により

採用されている(Pezdek & Sperry,2007).特殊実験(清野,2017)

では,反復による記憶の精緻化が見られたが,本実験で用いるよ

うな,記憶の精緻化が生じにくいと予想される「嘘」の発話では,

反復がどのような効果を持つのか検討した.

よって本実験では,画像イメージを元にした「嘘」の発話は記

憶に誤りを導くという仮説のもと,記憶の促進,もしくは抑制の

誘因となり得ることが示唆される発話項目の「選択」と「反復」

の2点を手続きに加え,発話が記憶に及ぼす影響を検討した.

【方法】

実験参加者 新潟大学学部生 25名

実験計画 発話の内容 2水準(嘘/真実),発話の項目 2水準(強

制/選択),発話の回数 2水準(1回/3回)の3要因被験者内計画

材料 参加者に「嘘」や「真実」を述べてもらう材料として,6

枚のイラストを用いた.イラストには,1 枚につき,人間,動物,建

物など計 6項目のモチーフが描かれていた.

また,発話項目の指示と選択を行う際には,イラストに描かれ

ているモチーフを文字に書き起こしたリストを用いた. リスト

はホワイトボード上に固定され,嘘を述べるものには青のマグ

ネットを,真実を述べるものには白のマグネットを貼り付けた.

再生テストでは,前日に見たイラストの内容を自由記述で答

える回答用紙を用いた.

手続き 実験は2日に分けて行われた.まず1日目には,後でテス

トを行うことを教示した上で,6枚のイラストを参加者に呈示し

た.イラストの呈示が終了したら,リストを用いて,発話項目の

指示と選択を行った.まず,3枚のイラストについて実験者から

の指示の下,リストにマグネットを貼ってもらった.1枚のイラ

ストにつき,「嘘」を述べることを示すものと「真実」を述べる

ことを示すもの2枚ずつ,計4枚のマグネットを貼った.次に,残

りの3枚のイラストについて,参加者により自由に発話項目を選

択してもらい,1枚のイラストにつき青と白のマグネットを2枚

ずつ貼ってもらった.

項目の選択が終了したら,発話へ移行した.イラストに描かれ

ているモチーフについて,「~について教えてください」という

問いかけをし,それに対し参加者には,行動,色,数などの特徴に

ついて,「嘘」や「真実」の発話をしてもらった.1枚のイラスト

につき,「嘘」と「真実」を述べる項目はそれぞれ2つずつ選ば

れているが,そのうち一方は3回発話することを求めた.すなわ

ち1枚のイラストにつき8回,計48回の発話を行った.

1日目の実験を行った翌日に,再生テストを行った.再生テス

トでは,イラストに描かれているモチーフについて,前日に画面

で見たものを思い出し,自由記述で回答してもらった.

回答が終了したら,再認テストを行った.このテストでは,1枚

のイラストにつき3つのモチーフが前日のイラストとすり替え

られたものを用い,異なると思うものを口頭で回答してもらっ

た.

【結果】

再生テストでの正答率を用いた分散分析の結果,2次の交互作

用が有意であった[F(1,24)=4.913,p<.05]. 単純・単純主効果の検定を行った結果,選択条件においては

「嘘」を述べた項目の方が,「真実」を述べた項目より正答率が

有意に低かった[F(1,96)=11.464,p<.005].また「嘘」を述べた

場合には,強制条件よりも選択条件で,正答率が有意に低かった

[t(24)=2.873,p<.01].

図.再生テストの正答率 ※エラーバーは標準誤差

【考察】

本実験の結果,選択条件下において「嘘」の発話が正しい記憶

を抑制する効果が得られた.一方,選択条件下で生起が予想され

た自己選択効果は見られなかった.以上のような結果から,選択

条件のように,発話をする際,より鮮明な記憶を材料にすること

が可能である場合には,比較的低次の認知的負荷で「嘘」の発話

をすることが出来たために,記憶の精緻化が行われにくく,誤り

が導かれたのではないかと考えられる.

【引用文献】

Pezdek, K., Sperry, K., & Owens, S. M. (2007). Interviewing

witnesses: The effect of forced confabulation on event

memory. Law and Human Behavior, 31, 463–478.

清野諒平(2017).性質の異なる嘘が後の記憶へ及ぼす影響.新潟

大学人文学部心理・人間学プログラム.特殊実験報告書(未刊

行)

(Ryohei Seino)

Page 12: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

放射状光学的流動の焦点への

眼球運動パタンに歩行習慣が及ぼす影響 長澤 実佳(ながさわ みか)

key words:放射状光学的流動、運動習慣、健康寿命

導入

Erickson et al (2011)は,有酸素運動により記憶機能の向上

に影響を与えることを発見し,Hakim et al (1998)は,より長い

距離を歩いているヒトの死亡率がそうでない人に比べ有意に

低いことを発見した。このように、身体運動と身体について研

究は数多く行われている。

本研究では成人と乳児の知覚の研究を行った Shirai &

Imura (2016)で用いられた放射状光学的流動を用いて認知症

とも関連の深い知覚と運動習慣の関係について研究する。認知

機能にも関連する知覚機能に目を向け,これが運動習慣に影響

するのであれば,運動が認知症を防ぐことにも役立つ可能性が

見出せると考えた。放射状光学的流動とは,運動時に網膜上に

現れる視覚刺激で,前方移動時には拡大方向,後方移動時には縮

小方向の放射状流動が現れる。その中心を焦点と呼び進行方向

の認識・コントロールに用いられるとされている(Shirai &

Imura,2016)。結果は,成人が拡大方向で潜時が短く注視時間

が長かった。

実験 1

実験参加者 「iPhone」所持の 20~23 歳の新潟大学学部学生

37 名(女性 27 名)。その他 13 名(女性 9 名)は日常的な車両の

運転,眼球振盪,視線記録不可により除外。

実験計画 参加者群(高歩数群/低歩数群)×放射状光学的流

動方向(拡大/縮小)×放射状光学的流動速度(高速/低速)

の 3 要因混合計画。

装置 刺激呈示用に ,21 インチの CRT モニタ (Nanao,

FlexScan T966, resolution = 1024×768pixels, refresh rate =

60Hz),アイトラッカー(Tobii technology, Tobii X120)は視線記

録のために,刺激呈示や注視行動,データ分析はパーソナルコ

ンピュータ (Dell, Precision T1700, CPU: Xeon E3-1240 v3

3.40 GHz, RAM: 16 GB, video card: Nvidia Quadro K600 1

GB)内の Tobii Studio software (Tobii Technology)を用いた。

LCD コンピュータモニタは,実験者が参加者を観察するため

に用いた。「iPhone」は,「ヘルスケア」の歩数データ収集のた

めに使用。

刺激 視覚刺激は AVI フォーマット(画素=1024 × 768 pixels,

フレームレート= 60 frames/s, 持続時間=10 s)呈示さ

れ,500 個の白いドット(輝度値=86.4 cd/m^2, サイズ=0.3

deg^2)で構成され,背景が黒の画面(輝度値= 8.8 cd/ m^2, サ

イズ = 35.3 deg × 26.4 deg )に 2 方向(拡大/縮小),2 速度

(高速/低速)の 4 条件で呈示された。

手続き 参加者は,車両運転の有無,運動習慣などに関する質問

紙に回答した後,椅子にモニタから約 65 ㎝の視距離を保って

座り,キャリブレーションの後,放射状光学的流動の動画を呈示

した。

結 果

1 日の平均歩数により高歩数群/低歩数群とした。放射状光

学的流動の焦点を中心とする直径 9.2deg の円領域を AOI(=

area of interest)として,従属変数はそれを見る時間の潜時と注

視時間の 2 つであった。潜時は流動方向の主効果のみ有意で

(F(1, 35)=14.585, p < 0.001),注視時間は流動方向と流動速度

の主効果がそれぞれ有意であった (F(1, 35)= 5.466, p<0.05;

F(1, 35)= 11.015, p<0.005)。

実験 2

実験参加者 20~23歳の新潟大学陸上部員 15名(女性 7名)と

統制群(実験 1 の参加者)。その他 5 名(女性1名)は日常的な

車両の運転,視線記録不可により除外。

実験計画 参加者群(運動群/統制群)×放射状光学的流動方

向(拡大/縮小)×放射状光学的流動速度(高速/低速)の 3

要因混合計画。

装置と刺激と手続き 実験 1 と同様。

結 果

潜時は流動方向の主効果のみ有意で (F(1, 51)= 13.680,

p<0.0005),注視時間は流動方向と流動速度の主効果のみ有意

で あ っ た (F(1, 51)= 5.343, p<0.05; F(1, 51)= 16.386,

p<0.0002)。

総合考察

実験 1・2 ともに、潜時と注視時間の両方で流動方向と速度

の主効果が有意であった。この結果は, Shirai & Imura (2016)

における成人の結果と一致する。運動習慣の有無に関わらず,

注視時間における流動速度で,高速条件への注視が長かったこ

とは,より速い刺激の動きを敏感にとらえることで,日常生活に

おいての危険を回避する要因となると考えられる。一方、運動

習慣を研究するにあたっては心拍数や運動時間,強度などのパ

ラメタを追加した測定をすることが必要かもしれない。

引用文献

Erickson, K. I., Voss, M. W., Prakash, R. S., Basak, C., Szabo,

A., Chaddock, L., ... & Wojcicki, T. R. (2011). Exercise

training increases size of hippocampus and improves

memory. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(7), 3017-3022.

Hakim, A. A., Petrovitch, H., Burchfiel, C. M., Ross, G. W.,

Rodriguez, B. L., White, L. R., ... & Abbott, R. D. (1998).

Effects of walking on mortality among nonsmoking

retired men. New England Journal of Medicine, 338(2),

94-99.

Shirai, N., & Imura, T. (2016). Infant-specific gaze patterns

in response to radial optic flow. Scientific reports, 6.:34734

(Mika NAGASAWA)

Page 13: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

一人称視点の射撃ゲーム(FPS)を用いたトレーニングの

受動性・能動性が視覚的認知課題の成績に及ぼす影響 仲村 章平(なかむら しょうへい)

key words:FPS・有効視野・ゲームトレーニング

【問題】

近年、一人称主観射撃ゲーム(First Person Shooter:FPS)を用いた訓練を

によって,空間認知能力や有効視野,記憶のパフォーマンスが向上すると報告

されている.

Seya & Shinoda(2016)は,有効視野を測るUseful of View(以下,UFOV)課題,

注視点が図形に変化したときに反応する反応速度課題,色と場所の正しい場所

を記憶して回答するVisual Working Memory(以下,VWM)課題をおこない,その後

訓練としてFPSをプレイさせた.プレイ後,再度課題を行なったところ,各課題

の正答率,反応速度が向上した.加えてFPS訓練なし群と比較したところ,訓練

あり群の成績が有意に高くなり,有効視野の拡大もみられた.また,Hutchinson,

Barrett, Nitka & Raynes(2016)はサイモン課題を用いて実験し,訓練後にサイ

モン効果が低減したことを報告した.これは,FPSをプレイする際に視野内での

情報を柔軟に処理することが求められ,空間的認知能力の高まったためと考え

られる.しかしFPSを用いた先行研究は,FPSの能動的な訓練による効果の検討

が主流であり,ゲーム操作などの身体運動を伴わず,FPSを観察するなどの受動

的な訓練の影響を考慮していない.

そこで本研究では,FPS訓練をゲームの能動的な操作を伴って行う群,そのプ

レイを受動的に横で見ている群,訓練なし群に分けて実験を行い,FPSをプレイ

することによる課題成績への影響と,FPSを用いた訓練を受動的に行なうか,能

動的に行なうかが課題成績に影響を及ぼすかを検討した.

【方法】

実験参加者 新潟大学人文学部 学部学生30名(男性24名,女性6名).

装置と刺激 実験刺激はSeya & Shinoda(2016)とHutchinson et al.(2016)と

同様のものを用いた.刺激の生成,反応の記録,刺激の提示にはiMac(Mid 2011)

を用い,反応の獲得にはキーボードを用いた.FPS訓練にはPlaystation3(Sony

Computer Entertainment Inc.,Japan), FPSは「Call of Duty:Modern Warfare3」(ActiVision Inc., U.S.A.)を用いた.

手順 実験参加者は身体操作あり群,身体操作なし群,訓練なし群に分けて

UFOV課題,反応速度課題,VWM課題,サイモン課題を行なった.身体操作あり群及

び身体操作なし群は1日1時間×5日間のFPS訓練を行った後6日目に,訓練なし

群は初回にテストした日から5日空けて,訓練前と同様の課題を行なった.

【結果】

Figure1では,それぞれAがUFOV課題,BはVWM課題、Cが反応速度課題、Dのグラ

フがサイモン課題の成績の結果を示す.Figure2はサイモン課題における不一

致条件の反応速度から一致条件の反応速度を引いた数値を表す.UFOV課題,VWM

課題において正答率を,RT課題とサイモン課題において反応速度を従属変数と

して分析に用いた.

UFOV課題では訓練の形態3条件(身体操作あり/身体操作なし/訓練あり)×

時間2条件(訓練前後)×周辺刺激3条件(4deg/12deg/20deg)の3要因分散分析

を行ない, 訓練前後の主効果および周辺刺激の角度が有意であった[時間

F(1,27) = 20.262, p < .001; 周辺刺激の提示角度F(2,54) = 22.187, p < .001]. 周

辺刺激の提示角度においてライアン法による多重比較を行ったところ,周辺刺

激の提示角度のそれぞれの間で有意差(p <.05)が見られた.

VWM課題では訓練の形態3条件×時間2条件×提示されるターゲットの

数4条件(2/4/6/8個)の3要因分散分析を行なった.その結果ターゲットの数の

主効果のみ有意であった[F(3,81) = 155.63, p < .001].ターゲットの数において

ライアン法による多重比較を行った結果,全ての条件間に有意差(p <.001)が

見られた.

反応速度課題では訓練の形態3条件×時間2条件の2要因分散分析を行な

った結果,時間の主効果のみ有意であった[ F(1,27)= 5.44, p < .005].

サイモン課題においては, 訓練の形態3条件×時間2条件×ターゲットの一

致性2条件(一致/不一致)の3要因分散分析を行なった.時間の主効果,ターゲット

の一致性の主効果,さらにターゲットの一致性と訓練の形態の交互作用がそれ

ぞれ有意であった[時間 F(1,27) = 7.783, p < .01 ; ターゲットの一致性 F(1,27)

= 14.439, p < .001 ; 交互作用 F(2,27) = 4.295, p < .05].交互作用について単純

主効果検定をしたところ,身体操作なし群のみ,一致条件の反応速度が不一致条

件より有意に速かった[F(1,27) = 20.841, p < .001].

Figure,1 各課題の成績.

Figure,2 サイモン課題の不一致条件の反応速度から一致条件の反応速度を

引いた数値.

【考察】

本実験ではFPS訓練による効果は見られず,難しい課題ほど正答率が低下し,

訓練期間前後で成績が向上した.先行実験と異なり,FPS訓練の時間が短かった

ため,訓練の効果が学習や慣れといった要因よりも相対的に小さくなったと考

えられる.

視覚的認知能力へのFPS訓練による効果は,訓練のスケジュールや訓練時の環

境などの要因が大きく影響するとされる(Boot et al., 2008).また,参加者の

ゲームへのモチベーションや上達度合いなどが効果の大小に関係すると考え

られる.

今後の研究では中長期的なFPS訓練の検討が望まれる.その際に心身的に大

きな負担を与えるFPSを,広範な年齢層で訓練できるものに改良ないし用いる

ゲームジャンルを変えていく必要がある.そこでFPSのどういった特性が,どう

いった認知的能力に影響するのかを検討し,同じ特性を持つゲームで同様の効

果が見られないかなどを重ねて検討していくことが望まれる.

【引用文献】

Boot,W,R., Kramer,A,F., Simons,D,J., Fabiani,M., & Gratton,G.(2008). The

effects of video game playing on attention, memory, and executive

control. Acta Psaychologica ,129,387-398.

Hutchinson,C,V., Barrett,D,J., Nitka,A., & Raynes,K.(2016).Action video

game training reduces the Simon Effect.Psychonmic Bulletin & Review,23,587-592.

Seya,Y., & Shinoda,H.(2016). Experience and training of a first person

shooter(FPS) game can enhance useful field of view, working memory,

and reaction time. International Journal of Affective Engineerring,15,213-222.

(Shohei NAKAMURA)

Page 14: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

試合の重要性と競技歴が卓球における戦績の個人内変動に及ぼ

す影響

氏名 松郷大樹(まつごうたいき)

key words:重要度、得点率、競技歴

【問題】

人の行動は時間の経過や環境の違い,心理状態などの様々

な要因によって変化する.

その変動は,スポーツの戦績においてより顕著に現れる.

Minbashian & Luppino (2014)は,試合に臨む選手の集中力

や努力は試合の性質によって変動すると仮定し,テニスのグ

ランドスラムの戦績データを使って,各試合の重要性がトー

ナメント内の戦績の変動要因であることを示した.

松郷(2016)は,Minbashian&Luppino(2014)の研究を参考に

して,次の3つの仮説を大学の卓球選手を対象とした個人内

変動に着目して検証した.

仮説1.選手にとって重要な試合であるほど,戦績が上がる

であろう.

仮説2.目標達成の難易度が高くなるほど(相手が強いほ

ど),戦績は下がるであろう.

仮説3.選手が勝ちたい,と思うほど戦績が向上するだろう.

結果はどの仮説も支持するまでには至らなかった.

松郷(2016)では「対象者の学年」を説明変数の一つとして

いたが,本研究では「競技歴」に着目して分析を行う.卓球

は幼いころに競技を始めた選手が多いため,学年ではなく競

技歴を説明変数とした方が適切であると考えられる.

また,松郷(2016)で研究参加者から「戦術と勝ちたい気持

ちがうまくかみ合った時に勝つことができた」という意見が

あり,本研究では「勝ちたい」などの気持ちの要因のほかに,

ゲームプランという戦術的な要因を追加する.

そこで本研究の次の仮説を検証することとした.

仮説1. 選手が勝ちたいと思う試合であるほど,戦績が上

がるであろう.

仮説2.ゲームプランが明確な試合ほど,戦績が向上するだ

ろう.

仮説3.競技歴が長いほど,戦績が向上するだろう.

【方法】

研究参加者 新潟大学学友会卓球部員30名

(内,3名は質問紙への記入漏れやデータ数の不足により分

析対象から除外),学年の内訳は1年生6人,2年生10人,3年

生7人,4年生4人,計125試合のデータを分析に用いた.

実施期間 平成29年8月~平成29年12月.

対象予定の大会は,平成29年度夏季北信越学生卓球選手権大

会(平成29年8月4日~6日)と平成29年度秋季北信越学生卓球

選手権大会(平成29年11月17日~19日)であった.分析対象に

する試合は,5ゲームズマッチ3ゲーム先取のシングルスの試

合であった.

手続き 本研究では,戦績変動を分析する対象として,卓球

の 試 合 デ ー タ を 用 い る . 戦 績 を 測 る デ ー タ は

Minbashian&Luppino (2014)を参考にし,試合中の研究参加

者の得点率(percentage of points won:以後PPW)を使用す

る.

また,試合前に研究参加者には次の試合に関する質問紙への

回答を求める.質問項目は,「Q1あなたは次の試合でどの度

勝ちたいですか」(1勝ちたくない~7非常に勝ちたい),「Q2

次の対戦相手に勝つことができる見込みを0~100%で表して

ください」,「Q3あなたにとって次の試合はどの程度重要です

か」(1まったく重要でない~7非常に重要である),「Q4現在

の体調はどの程度良いですか」(1非常に悪い~7非常に良い),

「Q5次の試合に対してどの程度緊張していますか」(1全く緊

張していない~7非常に緊張している),「Q6次の試合のゲー

ムプラン(どのようなサービスを出すかなど)がどの程度明

確ですか」(1全く明確ではない~7明確である),「Q7次の対

戦相手への苦手意識はどの程度ありますか」(1全くない~7

非常にある)の7つである.質問紙の記入欄は,性別,学年,

競技歴,質問項目1~7への回答である.質問紙のほかに,試

合の点数の記録用紙を配布し,ゲーム間に点数を記入しても

らう.

分析 説明変数である競技歴,勝ちたい気持ち,勝てる見込

み,重要度,体調,緊張度,ゲームプラン,苦手意識が参加

者の得点率(PPW)にどのような影響を与えているのかを,

説明変数をセンタリングした後,階層線形モデルを用いて分

析する.

【結果】

表1を見ると, 「勝ちたい気持ち」が有意で(b=2.24,

t(91)=2.03,p<.05),勝ちたい気持ちが強いほどPPWが高く

なることが分かった.また,「勝てる見込み」も有意となった

(b=-0.37,t(91)=8.08,p<.05).ランダム効果を見ると,個

人間の標準偏差は小さく,対象選手の平均戦績にほとんど差

はなかった.むしろ個人内(残差)の戦績のばらつきが大き

かった.

表1 階層線形モデルでの分析結果

ランダム効果:

切片 残差

標準偏差: 0.001 8.26

固定効果:

b SE DF t p (Intercept ) 58.42 3.43 91 17.02 0.00

競技歴 -0.15 0.26 24 -0.58 0.57

勝ちたい 2.24 1.11 91 2.03 0.04*

見込み 0.37 0.05 91 8.08 0.00*

重要度 -0.80 0.78 91 -1.02 0.31

体調 -0.05 0.81 91 -0.07 0.95

緊張度 -0.39 0.78 91 -0.50 0.62

プラン 0.16 0.63 91 0.25 0.80

苦手意識 -0.60 0.64 91 -0.93 0.35

*p<.05 【考察】

勝ちたい気持ちが高いほど,戦績が向上するだろうという

仮説1は支持された.他2つの仮説が支持されなかった原因と

しては,初対戦の相手ではゲームプランを立てづらいことや,

参加者の競技歴だけに着目していた(相手の競技歴を考慮し

ていなかった)ことが考えられる.

【引用文献】 Minbashian.A.&Luppino.D.(2014) Short-Term and Long-Term

Within-Person Variability in Performance: An Integrative Model

Journal of Applied Psychology. 99,898-914.

松郷大樹(2016)「試合の重要性と目標達成の難易度が卓球

における戦績の個人内変動に及ぼす影響」

新潟大学心理学特殊実験報告書

Page 15: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

Font tuning と言語に対する接触経験との関連 水野 沙緒理(みずの さおり)

key words:文字認識,font tuning,言語

【問題】

我々の日常生活は文字にあふれている。それらは様々な書体

で表されるが,書体の違いは文字認識に影響しないのかという

疑問について,多くの研究が行われてきた。Sanocki(1987,1988)

は,数種類の書体が混ざっている文字列よりも,1種類の書体の

みで表されている文字列において,より効果的な文字認識(課題

の正答率が高くなる,反応時間が短くなるなど)が生じることを

示した。この現象は「font tuning」と呼ばれる(Gauthier et

al.,2006)。

Gauthier et al.(2006)は,font tuningは言語に対する熟達

性の影響を受けるという仮説を,文字探索課題を中心とした実

験によって検証した。その結果,書体の条件(単一か混合か)を

変えた際に見られる反応時間や正答率の差は,その言語の熟達

者にのみ見られる現象であることがわかった。このことから,特

定の言語の熟達者と,そうでない人々の間には,文字探索課題を

行なう際の判断材料に違いがあることが示唆された。

また,水野(2017)は,font tuningと熟達性との関連を再検

討することを目的として,Gauthier et al.(2006)を追試した。

日本人学生を実験参加者として,刺激にはひらがな,アルファベ

ット,キリル文字を用いた。その結果,反応時間はおおむね想定

された熟達度の高い順に短くなったが,正答率は熟達性が中程

度と見積もられたアルファベットで一番高くなった。また,書体

混合の条件で熟達度が低いと考えられたキリル文字でも課題成

績の低下が見られ,Gauthier et al.(2006)の結果とは一致し

なかった。この結果からは,言語の熟達度に関わらず課題の成績

が書体の影響を受けるとも考えられる。しかし,水野(2017)の

問題点として,文字探索課題が複雑すぎたこと,参加者が刺激画

像の間隔や,用いた書体による視覚的な印象の違いの影響を受

けた可能性がある。また,そもそも「文字」を実験に用い,得ら

れた結果を「言語」に結び付けて考えて良いのかという点も検討

の余地がある。

そこで本研究では,Wong et al.(2005)による課題を参考に,

font tuningと言語の関連を再検討した。Gauthier et al.(2006)

が主張するように「熟達性の低い言語は書体の違いによる影響

を受けない」のならば,典型的な日本人学生にとって最も接触経

験の多いひらがなでは,書体混合条件において課題成績の低下

が見られ,もっとも接触経験の少ないキリル文字では,書体混合

条件においても課題成績の変化はほとんど見られないと予測で

きる。またfont tuningが「文字」でなく「言語」に関連した現

象であるならば,特定の概念を示さない非単語を刺激として用

いた実験1より,言語を形成する単語を刺激として用いた実験2

で,さらに強く書体の違いの影響を受けると予測される。

【実験1】

方法

実験参加者 新潟大学学生27名(女性 19名,平均年齢19.93歳)。

刺激と装置 装置はパーソナルコンピュータ(Panasonic Let’s

note CF-LX3)を用いた。刺激はひらがな,アルファベット,キ

リル文字3~5文字の非単語の文字列とし,文字の書体は,「HGPゴ

シックM」,「HGPゴシックE」,「HGP明朝B」を用いた。

手続き 実験が開始されると注視点(+)が500ms現れ,次に文字

列が750ms,その後空白の画面が500ms現れた。ここまでを1試行

とし,3セッション(文字数3文字,4文字,5文字,それぞれ20試

行ずつ)で1ブロックとした。これを書体単一条件と書体混合条

件にわけてそれぞれ1ブロックずつ行った。実験計画は言語(ひ

らがな,アルファベット,キリル文字:参加者間)×書体(単一,

混合:参加者内)×文字数(3文字,4文字,5文字:参加者内)

の3要因混合計画とし,参加者が文字列を見てからキー押しする

までの反応時間を計測し,正答率も算出した。

結果と考察

正答率について 3要因分散分析の結果,文字数の主効果に有意

な傾向が認められ(F(2,48)= 2.894,p<.10),アルファベットで

最も差が小さくなり,ひらがなとキリル文字ではそれぞれ同程

度の差が生じることが示された。このことから,接触経験の少な

いキリル文字でも他の言語と同様に,書体の影響を受けている

可能性が考えられ,font tuningの存在は支持されなかった。

反応時間について 3要因分散分析の結果,文字数の主効果が有

意であり(F(2,48)=21.267,p<.001),書体の主効果に有意な傾

向が見られた(F(1,24)=3.804, p<.10)。それぞれの言語におい

て,書体単一条件より,書体混合条件で反応時間が長くなること

が示されたことから,font tuningの存在が支持された。加えて,

文字数が増えるほど反応時間が長くなった。

【実験2】

方法

実験参加者 新潟大学学生20名(女性 8名,平均年齢20.1歳)。

刺激と装置 装置は実験1と同様とした。刺激は日本語,英語3~

5文字の単語の文字列とし,文字の書体も実験1と同様とした。

手続き 実験1と同様とした。実験計画は言語(日本語,英語:参

加者間)×書体(単一,混合:参加者内)×文字数(3文字,4文

字,5文字:参加者内)の3要因混合計画とし,参加者が文字列を

見てからキー押しするまでの反応時間を計測し,正答率も算出

した。

結果と考察

正答率について 3要因分散分析の結果,文字数の主効果,言語と

文字数の交互作用,書体と文字

数の交互作用が有意となった

( F(2,32)=14.220, p<.001,F(2,32)=5.937 , p<.01 ,

F(2,32)=3.592,p<.05)。5文字

の 条 件 に お い て の み font

tuningの傾向が見られたこと

から,font tuningの生起には

一定以上(おおむね5文字以上)

の文字数が必要であると考え

られる。

反応時間について 3要因分散

分析の結果,文字数の主効果の

み有意となった(F(2,32)=7.951,p<.005)。日本語,英語ともに

書体混合条件で反応時間が長く,言語間の差は無かった。

【総合考察】

font tuningが生じるならば,接触経験の多い言語に対しては,

書体混合条件で課題成績の低下が見られ,接触経験の少ない言

語に対しては,書体条件の違いにかかわらず,課題成績にはほと

んど影響しないと考えられる。しかし,アルファベット(英語)

書体単一条件において見られた実験1と実験2の反応時間の差や,

単語刺激が参加者の反応を促進する効果が,ひらがな(日本語)

で見られなかったことは,接触経験の比較的少ない言語に対し

てfont tuningが起こり,接触経験の多い言語に対しては,書体

はあまり影響しないという可能性を示唆していると言えよう。

【引用文献】

Gauthier et al. (2006). Perception, 35, 541-559. 水野沙緒理(2017).文字認識におけるfont tuningと外国語に対す

る接触経験との関連.新潟大学人文学部心理学特殊実験報告書,

1-23.

Sanocki, T.(1987).J. Exp. Psychol.: Hum. Percept. Perform., 13, 267-278.

Sanocki, T.(1988). J. Exp. Psychol.: Hum. Percept. Perform., 14, 472-480.

Wong, A. C et al.(2005). Cogn. Affect. Behav. Neurosci., 5(3), 306-318. [Saori MIZUNO]

実験 2(正答率)

エラーバーは標準誤差

Page 16: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

対人葛藤における加害者への信頼と関係性が

被害者の寛容性に及ぼす影響 氏名 渡辺愛理(わたなべあいり)

key words:関係性、自己コントロール、寛容性

【問題】

他者との関わりにおいて葛藤は付き物である。この葛藤

の際、どれだけ相手を許せるかということが人間関係にお

いて重要となってくる。では、”許せるかどうか”ということ

を人はどのように判断しているのだろうか。これに関し

て、高田・大渕(2009)は「親密度が高い相手に対しての方

が、そうではない相手に対してよりも寛容的になる」と報

告している。しかし、この実験では親密度群の間でデータ

数に大きな差があった。そこで、本実験では、「家族」「友

人」「知人」と明確に関係性を分け、参加者にはすべての関

係性に関する質問項目に回答を行ってもらった。

また、”許せるかどうか”を判断するにあたって、私達が親

密度以外に気に掛けることとして、”同じことを繰り返さな

い人物かどうか”ということが挙げられる。この”再犯性”

は、『紛争・公正・暴力の心理学』(大渕[監]、2016:53

頁)の「寛容実現における3つのリスク」の中でも触れら

れている。本実験では、この”再犯性”を、人は”普段の行動

における信頼性”から判断していると考えた。例えば、普段

から思慮深い人物の方が、そうでない人物よりも”再犯性”が

低いと思うだろう。この”信頼性”について、Righetti &

Finkenauer (2011)が「普段の行動における自己コントロー

ルの低い人物よりも、自己コントロールの高い人物の方が

信頼度が高い」ことを報告している。

以上のことから、本実験では高田・大渕(2009)の実験を

基盤に、”信頼性”という要因を加え、加害者との関係性及び

加害者の普段の行動における自己コントロールの程度が被

害者の寛容性に与える影響について検討した。また、本実

験において、「知人」は「名前や人柄については間接的ある

いは数回の会話の中で知っているが実際にはほとんど関わ

りのない人物」と定義した。

【方法】

実験参加者:新潟大学学部生 130 名

実験計画:3(加害者との関係性:家族・友人・知人)×2(加

害者の普段の自己コントロールの程度:高・低)の 2 要因

被験者内計画

手続き:実験はすべて質問紙で行った。まず、参加者に家族、

友人、知人(:提示する順番はランダム)にされた「嫌だ

ったこと」をそれぞれ1つずつ想起するよう求めた。次に、

「嫌だったこと」に対する寛容性(2 項目:内的寛容性「相

手を心の底から許すことができたか」、寛容行動「感情レベ

ルでの許しの程度とは関係なく、許すということを行動で

示したか」)と、加害者が普段どのような人物であるか(11

項目:セルフコントロール尺度短縮版[尾崎ら、2016]より

10 項目、信頼度に関する質問 1 項目)について7段階で評

価してもらった。

【結果】

130 名の参加者のうち、記入漏れ等の理由により 26 名の

回答を除いたため、最終的には 104 名の回答を分析に用いた。

1.関係性と寛容性の関連(被験者内一要因分散分析)

内的寛容性と寛容行動の両方において、関係性の効果が有

意であった。多重比較の結果については下の図に示した。

2.関係性・自己コントロールと寛容性の関連(T 検定)

家族及び友人条件では、普段の行動における自己コントロ

ールの低い人物よりも、自己コントロールの高い人物に対し

ての方が内的寛容性及び寛容行動が高く評価された。一方、

知人条件においては、内的寛容性と寛容行動の両方で有意な

差は認められなかった。

4.自己コントロールと寛容性の関連(媒介分析)

信頼度を媒介変数

として分析を行った

ところ、内的寛容性

はすべての関係性に

おいて左図と同じよ

うな結果となった。

一方、寛容行動では、

友人条件においては

媒介効果が示された

が、家族・知人条件

では信頼度から寛容行動へのパスが有意ではなかった。

【考察】

本実験から、遠い関係性にある人物よりも近しい関係性に

ある人物に対しての方が寛容性が高くなることが示された。

加えて、家族または友人関係にある人物の中でも、普段の行

動において自己コントロールの高い人物の方が、そうでない

人物に対してよりも寛容性が高くなることが示された。また、

有意を示していた自己コントロールから内的寛容性へのパ

スが、信頼度を媒介変数として加えると有意ではなくなった

ことから、加害者に対する信頼度の程度が被害者の内的寛容

性に影響を与えていることが考えられる。

本実験の問題点としては、親密度や被害の程度に関する質

問項目が無かったことが挙げられる。今後はこれらの問題点

を踏まえ更なる検討が望まれる。

【参考文献】

Righetti,F. & Finkenauer,C.(2011). If You Are Able to

Control Yourself, I Will Trust You: The Role of Perceived

Self-Control in Interpersonal Trust. Journal of Personality and Social Psychology, 100, 874-886.

高田奈緒美・大渕憲一(2009).対人葛藤における寛容性の研

究:寛容動機と人間関係、社会心理学研究 第24巻第3号、

208-218

信頼度

self control 内的寛容性.13 (n.s.)

友人

信頼度

self control 寛容行動.10 (n.s.)

友人

.26

.08

.26

.12

Page 17: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

音楽の聴取による時間感覚の変化が作業に与える影響

梶川 野栄 (かじかわ のえ)

key words : BGM, 時間感覚、 客観的作業量

【問題】

BGM を流しながら仕事や勉強をすることが特に若者で

よく見られる。関連研究によると、歌詞がある音楽を聞き

ながらでも計算課題の作業量に変化がない(志水・菅、2004)

が、文章課題では誤答率が増加する傾向がある(門間・本

多、2009)という。このように、聞く音楽の種類によって

は作業が妨害されてしまう。しかし、現実には作業が妨害

される歌詞のある音楽を聞きながら勉強をするという人が

多いのはなぜだろうか。

音楽を聴取すると、時間感覚が変化する。Oakes(2003)

では待ち時間に聴取する音楽のテンポが遅いとき時間を長

く感じ、速とき時間を短く感じた。このような主観的時間

感覚の変化が、音楽を聞きながらだと集中できるという思

い込みに繋がっているのではないか。

そこで本実験では、音楽の速さを変化させることで時間

感覚を操作し、主観的作業量と客観的作業量に差が生じる

のか検討した。

【方法】

実験計画 音楽(無音・遅い音楽・速い音楽)を独立変数

とする1要因被験者間計画

材料 実際の勉強環境に合わせるため、音楽は日本語の歌

詞があるものを、課題は言語課題を使用した。音楽は 2 曲

用意し、それぞれテンポを100bpm(遅い)および150 bpm

(速い)に変化させた。テンポを変えることによる楽曲の

長さの変化は、遅い曲は女声曲と男声曲の組み合わせを 2

回、速い曲は 3 回、繰り返し流すことで時間を調整した。

遅い曲・速い曲それぞれ合計849秒であった。課題は門間・

本多(2003)と同じ、新聞記事から動詞を抜き出してマー

カーを引く課題を使用した。主観的な作業量を調べるため

の質問、集中度を測るための質問(集中度)、使用した楽曲

についての質問を 2 つ、主観的な時間感覚を測るための質

問(主観的経過時間)、使用した楽曲性質を調べるための質

問を3つの、合計8つの質問に回答する質問紙を作成した。

手順 教示と無音状態での 3 分間の練習の後、イヤホンで

音楽を聴取しながら課題を行った。被験者にはアラーム音

が鳴るまでやり続けるよう教示した。終了後、質問紙に回

答した。

【結果】

練習と本番において、正誤関係なくマーカーが引かれて

いた語をすべてカウントした数を練習作業数と本番作業数

とした。練習作業数と本番作業数、質問紙の各項目につい

て、音楽条件によって差があるかを検討するため、1要因の

被験者間分散分析を行った。

主観的経過時間及び集中度において有意な差がみられた。

主観的経過時間では、無音と遅い音楽の間(p = .004)およ

び無音と速い音楽の間(p = .018)で有意差があり、無音条

件で経過時間を短く感じていた。集中度では、無音と遅い

音楽の間(p = .009)と無音と速い音楽の間(p = .004)で

有意差があり、無音条件で集中度が高かった。本番作業数

では、有意傾向がみられた(p=.0951)。

【考察】

今回の実験では、音楽がある条件において経過時間は実

際の時間とほぼ同じように推定され、長く推定されると予

測した無音条件で時間を短く推定された。この結果は、先

行研究とは逆であるため、音楽の選定に問題があったので

はないかと考えられる。今回使用したのは 2 曲のみであっ

たため、ジャンルの違うより多くの曲を使用することが必

要である。また、今回使用した楽曲は好き嫌いの平均値が4

~5の間に収まったため、好きとも嫌いともいえない刺激だ

った。普段勉強時に聞く音楽は、そのようなニュートラル

な曲か好きに偏った曲だと思われるため、好きに偏った曲

を使用した場合は違った結果が得られることも考えられる。

また、差がみられると予測していた客観的作業量と主観

的作業量両方で条件間に差が見られなかった。原因として、

言語処理をそれほど使用しない課題であったため、天井効

果が出たこと、また今回算出しなかった誤答率において差

が出ていたことが考えられる。

今後はこれらの課題を踏まえつつ、今回検討した時間感

覚以外の、音楽の聴取によって変化する要因の影響につい

てもさらなる検討が望まれる。

【引用文献】

Oakes, S. (2003). Musical tempo and waiting perceptions.

Psychology & Marketing, 20(8), 685–705.

門間政亮, 本多薫. (2009). 音楽に含まれる言語情報が文章

課題に与える影響に関する検討. 人間工学, 45(3), 170–

172.

志水佳和, 菅千索. (2004). 計算課題の遂行に及ぼす BGM

の影響について (2): BGM 音楽の歌詞の理解を中心とし

て. 和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要, 14,

103–112.

Page 18: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

ウマの対ヒト個体識別における接触頻度の影響について

氏名 鎌谷 美希(かまたに みき)

key words:Equus caballus, cross-modal, individual recognition

【問題】

個体識別とは、ある個体を別の個体とは異なると識別する

ことではなく、ある個体に関する声や顔などといった様々な

情報をもとに当該人物への概念を形成し、その人だと同定す

ることが個体識別である。この能力は社会的行動をとるにあ

たっても重要な能力である(藤田, 1998)。

ウマ(Equus caballus)は群れで生活し、紀元前3500年ごろ

に家畜化された、非常に社会性の高い動物である。現在、ウ

マの社会的認知の研究として、個体識別能力が検討されてい

る。Proops、McComb & Reby(2009)では、ウマが同じ集団内に

おけるウマを、視覚と聴覚のクロスモーダルな処理で個体識

別することが可能であると報告された。また、Proops &

McComb(2012)では既知のヒト個体において識別ができてい

ると報告されている。この実験では、ヒト個体をスピーカー

の両側に立たせ、スピーカーから流れる音声と一致する人物

を注視するかどうかという選好注視法を用いて行われた。

Adachi & Fujita(2007)のリスザルを用いたクロスモーダ

ルな処理の個体識別の実験では、リスザルが異種であるヒト

の個体識別をするには「豊かな接触」が求められるというこ

とが示された。

本研究では、Proops & McComb(2012)のヒト個体に、被験

体との接触頻度という要因を加えて検討した。なお、本実験

における接触とは、ウマと顔を合わせることと、餌をつける

ことのみを含め、騎乗やブラッシングなど被験体との身体的

接触については考慮していない。

【方法】

被験体 新潟大学馬術部で繁用されているウマ7頭(メスの

ポニー1頭、サラブレドのセン馬3頭と牡馬3頭)

ヒト刺激 ヒト刺激と接触頻度が異なる(多・少・無)人物の

三名。性別は3人とも女であった。

音刺激 ヒト刺激がそれぞれの被験体を呼ぶ音声を録音し

た。音刺激は1秒の間隔をあけて2回流し、1人目の音声を2回

流した後15秒の間隔をあけて2人目の音声を2回流した。

実験計画 音声とヒト刺激の一致性(一致・不一致)とヒト刺

激の接触頻度(高・低・無)の2要因の被験者内計画で、従属変

数はヒト刺激への注視時間であった。

手続き ヒト刺激はスピーカーから6m離れた両側に位置し、

被験体はスピーカーの正面7mの場所に待機させた。被験体を

保定している実験協力者には被験体と目を合わせないよう

にし、曳手は首の動きを制御しないように教示した。各被験

体はヒト刺激の組み合わせが異なる3試行を行い、試行間間

隔は4日以上空けた。実験は全てビデオカメラに記録し、音声

刺激はiPhone7からBluetoothでスピーカーへ送り、75㏈(±5

㏈)で出力した。

分析 試行の様子はビデオカメラで記録した後、0.03sのフ

レームごとに分け、ウマがどこを向いているかの反応を評定

した。評定基準は、ウマの鼻さきがセンターライン(ビデオカ

メラの正面)よりも右か左かを判別し、鼻さきがセンターラ

イン上にある場合は、どちらも見ていないと評定した。また、

ウマの鼻さきが後方を向いていた場合と、明らかに地面を向

いていた場合も、どちらも見ていないと評定した。

【結果】

ビデオの1試行を、2人目の音声が始まるまでと始まった

後の2つに分け、反応のあったフレームを反応した方向(右・

左)に分けて割合を出した。そして、逆正弦変換を行い、一致

性と接触頻度について2要因の分散分析を行った。結果は、一

致性[F(1,6)=0.571,ns]、接触頻度[F(2,12)=0.273,ns]、交互

作用[F(2,12)=0.340,ns]となり、どちらの要因も有意差はみ

られなかった。加えて、音刺激と一致するヒト刺激を見てい

たときの、ヒト刺激の立ち位置についてもt検定を行い、有意

ではないという結果が得られた[t(6)=0.831,ns]

【考察】

本実験では、Proops & McComb(2012)の実験に、ウマが個

体識別できるようになる要因として接触頻度を加えて検討

した。接触頻度の高いヒト刺激と一致する音声が流れたとき

は、有意にそのヒト刺激のほうを注視するが、接触頻度の少

ないヒト刺激と未知のヒト刺激では、一致する音声が流れて

もあまり注視しないという仮説を立てた。しかし、仮説のよ

うな結果は得られなかった。また先行研究では、音声と一致

している人物が、ウマから見て右側に立っているときに成績

が有意に高いという、クロスモーダルな認識能力による著し

い半球優位性が示されたが、これに関しても有意差はみられ

なかった。このことより、接触頻度が高いヒト刺激について

も、個体識別ができているとは言えない結果となった。

今後、ウマだけでなくそのほか動物が異種についての概

念を形成できる「豊かな接触」を定量的に明らかにし、そ

れらについて検討を重ねることが望まれる。

【引用文献】

Adachi,I., & Fujita,K.(2007).Cross-modal

representation of human caretakers in squirrel

monkeys,Behavioural Processes,74,27-32 藤田 和生(1998).比較心理学への招待-「こころ」の進化

学-,ナカニシヤ出版

Proops,L., & McComb,K.(2012).Cross-modal individual

recognition in domestic horses(Equus caballus) extends to familiar humans,PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY B,279,1741,3131-3138

Proops,L., McComb,K., & Reby,D.(2009).Cross-modal

individual recognition in domestic horses(Equus

caballus),PNAS,106,3,947-951

(Miki KAMATANI)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

多 少 無

注視のフレーム割合

ヒト刺激の接触頻度

一致 不一致

Page 19: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

視覚的短期記憶の容量と時間特性の検討 小林 直人(こばやし なおと)

key words:visual short-term memory, change detection task, retro-cue effect

【問題】

変化検出課題は,はじめに刺激画面(第1刺激)を呈示した

あと,ブランク画面をはさんで類似した刺激画面(第2刺激)

を呈示し,刺激の変化の有無などを報告させる課題である.

これまで,ブランク画面の呈示時間を操作したり,呈示する

刺激の数を操作したりすることによって,視覚的短期記憶の

性質が研究されてきた.

変化検出課題において,第1刺激消失後のブランク画面で

手がかり刺激を呈示し,保持すべき刺激を1つに限定すると

変化検出の成績が向上する現象が報告されており,retro

cue 効 果 と よ ば れ て い る . Landman, Spekreijse,&

Lamme(2003)では,第1刺激消失から1200ms後に手がかり刺激

が呈示された場合でも変化検出の成績が有意に向上した.ま

た,Sligte, Vandenbroucke, Scholte,& Lamme(2010)によれ

ば,ブランク画面に手がかり刺激を呈示することにより,変

化検出課題の成績だけでなく,後続の再認課題の成績も有意

に向上することが示された.

本研究では,(1)Sligte et al.(2010)に一部変更を加えて

追試し,retro cue効果を確認すること,(2)手がかり刺激と

第2刺激のSOAを操作し,retro cue効果の時間特性について

検討することを目的とする.

【実験1】

実験参加者 新潟大学学部生20名.

実験計画 変化検出課題における手がかりの呈示条件を独

立変数とする1要因参加者内計画.手がかりあり条件は,第1

刺激消失から50ms後に手がかりが呈示される条件(early

retro cue条件),第1刺激消失から1000ms後に手がかりが呈

示される条件(late retro cue条件),第1刺激消失から1000ms

後に手がかりと 第 2刺激が 同時に呈示 される条件

(simultaneous cue条件)の3水準であった.early retro cue

条件とlate retro cue条件におけるブランク画面の呈示時間

は2000msであった.手がかりなし条件は,ブランク画面の呈

示時間が1000msの場合と2000msの場合の2水準であった.

刺激 Sligte et al.(2010)で用いられた視覚刺激50項目.

手続き 注視図形が1000ms呈示された後,視覚刺激8項目で

構成される第1刺激が250ms呈示された.第1刺激消失後にブ

ランク画面が呈示され,続けて第2刺激が呈示された.実験参

加者は第1刺激と第2刺激の間で(手がかりが与えられた)1つ

の視覚刺激が変化したかどうかをキー押しで反応した.第2

刺激は最長2000ms呈示された.視覚刺激が変化する確率は

50%であった.視覚刺激が変化した試行では,変化検出課題に

続けて再認課題が実施された.再認課題は,第1刺激でのみ呈

示され,第2刺激では呈示されなかった視覚刺激を4つの選択

肢の中から選ぶ課題であった.

注視図形呈示から参加者が反応するまでを1試行とし,160

試行実施された.

従属変数 視覚刺激の変化を正しく検出した割合 (hit

rate)と,変化しなかった試行について正しく判断した割合

(correct rejection rate)をもとに,以下の式を用いてスコ

アリングした.

K=(hit rate-0.5+correct rejection rate-0.5)×8

結果 変化検出課題の成績について1要因の分散分析をおこ

なったところ,主効果が認められた[F(4,76)=16.44, p<.05].ライアン法による多重比較の結果,early retro cueはlate

retro cue条件, simultaneous cue条件,そして手がかり

なし条件との間にそれぞれ有意差が認められた(図1).

視覚刺激が変化した試行のうち,参加者が変化検出課題と

再認課題の双方に正答した割合を算出した.逆正弦変換し,

分散分析を実施したところ, 主効果が認められた

[F(4,76)=30.61, p<.01].ライアン法による多重比較の結果,

early retro cue条件はlate retro cue条件,simultaneous

cue条件,手がかりなし条件よりも正答率が有意に高く,また

late retro cue条件は,simultaneous cue条件,手がかりな

し条件よりも正答率が有意に高いことが示された.

【実験2】

実験参加者 新潟大学学部生16名.

実験計画 手がかりと第2刺激のSOAを独立変数とする1要因

参加者内計画.S0Aは0ms,200ms,400ms,600ms,800ms,1000ms

の6水準であった.第1刺激と手がかりのISIは常に1000msだ

った.

手続き 実験1と同一の手続きで192試行実施された.

結果 変化検出課題の成績について1要因の分散分析を実施

したところ,主効果が認められた[F(5,75)=2.89, p<.05].ライアン法による多重比較の結果,SOAが600msのとき,SOAが

0msの場合よりも成績が有意に向上することが示された.

実験1と同様に,視覚刺激が変化した試行のうち,参加者が

変化検出課題と再認課題の双方に正答した割合を算出した.

逆正弦変換し,分散分析を実施したところ,主効果が認めら

れた[F(5,75)=9.24,p<.01].ライアン法による多重比較の結

果,SOAが400ms,600ms,800ms,1000msのとき,SOAが0msの

場合と比較して正答率が有意に高いことが示された.

図 1 変化検出課題の成績(実験 1)

エラーバーは標準誤差を示す

【総合考察】

実験1では,early retro cueのみが変化検出課題の成績を

有意に向上させることが示された.変化検出課題と再認課題

を合わせた成績では,early retro cue条件とlate retro cue

条件は手がかりなし条件よりも正答率が有意に高いことが

示された.実験2では,手がかりと第2刺激のSOAが600msのと

きにretro cue効果が認められた.変化検出課題と再認課題

を合わせた成績では,SOAが400ms以上になると手がかりの利

得が認められた.この結果から,retro cueが変化検出と再認

に対して有効にはたらくには,手がかり呈示から第2刺激呈

示の間に400ms以上の間隔が必要であることが示唆される.

【引用文献】

Landman, R., Spekreijse, H., & Lamme, V. A. F. (2003).

Large capacity storage of integrated objects before

change blindness. Vision Research, 43, 149-164. Sligte, I. G., Vandenbroucke, A. R. E., Scholte, H. S.,

& Lamme, V. A. F. (2010). Detailed sensory memory,

sloppy working memory. Frontiers in Psychology, 1, 175.doi:10.3389/fpsyg.2010.00175

(Naoto KOBAYASHI)

Page 20: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

不協和音におけるプライミングが和音判断に及ぼす影響

先田 貴裕(さきたたかひろ)

key words:priming, chord, music psychology

【問題】

先行刺激の受容が後続刺激の処理に促進効果を及ぼすことをプライミングと

いう。音楽的な進行においても、プライミング効果が認められる。Bharucha &

Stoeckig(1986)は、プライム和音の提示によってターゲット和音の反応時間の

影響について実験した。双方がともに近親調である関連条件と遠隔調である非

関連条件を設定したところ、関連条件が非関連条件よりも反応時間が短くなる

ことが示された。また、荒生 & 三浦(2000)では、25,100,400ms の 3種の ISI

を設定したところ、すべでの条件で統制条件にくらべ非関連条件のとき反応時

間が有意に長くなり、また誤答率も有意に多くなったが、対して、関連条件は統

制条件に比べ、有意ではなかった。このことから、促進性の効果はなく、妨害性

の効果が高くなることが示された。また、以上の実験から25,100,400ms間で有

意な差はなく、刺激の音の種類に影響を与えるものではなかった。また、これら

の実験では、近親調、遠隔調をもとにした実験は多く行われている一方、西洋的

音楽理論における属七和音の種類における実験は、行われていない。本実験で

は、特に、音楽的な進行で非常に基本的なドミナントモーションに焦点を絞り、

その進行によって音程の正誤判断の誤答率、及び反応時間に変化が出るかどう

か検討した。

【方法】

実験参加者:新潟大学学生 28名(男性 14名、女性 14名)が実験に参加した。

実験計画:ターゲット和音の正誤×(Ⅴ7、Ⅱ♭7、Ⅴ7aug、統制)の 2 要因被験

者内計画

刺激:音楽における一般的なチューニングとして用いられている平均律を使用

し、音域は、midi における C4(261.6Hz)か C6(1046.5Hz)を使用した。刺激音

はすべてサイン波の純音だった。また、統制条件の刺激は、同じ周波数範囲から

複数を混合した複合音を使用した。音の持続時間は400msとした。

手続き:被験者にはまず、各調、正誤それぞれのチューニングをランダムで提示

し、和音のチューニングの正誤を判別できるかをテストし(12の調×2回)、正答

率が 80%以上の場合だけ、本試行に参加した。被験者には、刺激をプライム、

ターゲットの順で各調、正誤ともにランダムに組み込み提示した。試行数は正誤

2×各調 12×4=96 試行であった。被験者にはターゲット和音の正誤をより早

く判断するよう求めた。ターゲット和音の立ち上がりから反応までを反応時間

として計測した。ただし、反応時間が2秒以上の場合を誤答とみなした。

【結果】

それぞれの結果を右上図にまとめた。ターゲットのチューニング(正、誤),コ

ード(Ⅴ7,♭Ⅱ7,Ⅴaug7,統制条件)の2要因分散分析を反応時間について行った。

その結果、コードの主効果が有意であるとともに(F[3,81]=146.6,p<.001) ,正誤

の主効果が有意であった(F[1,27]=25.1,p<.001)。チューニングの正誤とコード

の交互作用が有意であった(F[3,81]=22.3,p<.001)。コードの単純主効果はター

ゲットが正のとき,(F[3,162]=124.7,p<.001) 誤のとき(F[1,108]=26.4,p<.001)有

意であった。この単純主効果についてTukey法による多重比較検定を行ったと

ころ、Ⅴ7と♭Ⅱ7以外すべてで有意だった(p<.05)。同様の分析を誤答率につい

て行った結果、コードの主効果(F[3,81]=72.3,p<.001)、正誤の主効果(F[1,27]=4

0.2,p<.001)、コードと正誤の交互作用(F[3,81]=16.2,p<.001)が有意であった。単

純主効果は正のチューニングで(F[3,162]=86.2,p<.001),誤のチューニングで(F

[3,162]=25.4,p<.001)で有意であった。コードの単純主効果は♭Ⅱ7条件(F[1,10

8]=25.4,p<.05),Ⅴaug7 (F[1,108]=82.0,p<.001),統制条件 (F[1,108]=8.9,p<.00

5)で有意だった。この単純主効果について多重比較をしたところ、すべてのコー

ド条件間で有意であった(p<.05)。

【考察】

実験より、正誤に関わらず、Ⅴaug7をプライミングとした場合、統制条件以

外の他条件と比べ、反応時間、誤答率ともに上昇し、妨害効果が高い

ことが示された。荒生 & 三浦(2000)は、和音プライミング効果において、和音

の提示間隔に関係なく、妨害性の効果が促進性の効果よりも優位であることを

報告している。本実験からⅤaug7は妨害性の効果が高いことがわかった。Ⅴau

g7 はドミナントに分類される。一般的に使用されないため、判断に時間がかか

ったと考えられる。本実験では、西洋音楽におけるコードに特に注目し、中でも、

ドミナントモーションと言われる、より一般的な使用法に着目した実験をした。

先行研究では、ISI条件を設けた実験とその理論考察が行われてきた。本実験は

ISI条件を設けずシンプルな実験を計画した。そのため、現実で使用されるコー

ドにおける、提示時間の差とその反応については、今後の課題の一つと言える。

また、活性化拡散モデルのようにある刺激がほかの刺激を促進する効果につい

て、音楽の領域でもこの活性化のモデルが適用かできるかどうかは、今後の課題

である。今回の実験では、コードの音楽的な使用頻度とその不協和について実験

を行ったが、不協和について、実際に実験を通したものは少ない。日常的に聴き

なれているコードがそのまま聴き手の快楽度、審美性と有意な関係性があるか

どうかについては、さらに実験を進める必要があるだろう。

【引用文献】

・Arao,H., & Gyoba,K.(1999)Disruptive effects in chord priming. Music

Perception,17,241−245.

・Arao & Miura(2000) Effect of inter-stimulus interval and component

tones of prime chords in chord priming. The Japanese Journal of Psycho

nomic Science 2000,Vol.19,No1,14-20

・Bharucha,J.J., & Stoeckig,K.(1986) Reaction time and musical expecta

ncy .Priming of chords. Journal of Experimetal Psychology:Human Percep

tion & Performance,12,403-410.

・Bharucha,J.J., & Stoeckig,K.(1987) Priming of chord:Spreading activa

tion or overlapping frequency spectra? Perception & Psychophysics,41,5

19-524

400

600

800

1000

正のチューニング

の反応時間

反応時間(m

s)

Ⅴ7 ♭Ⅱ7

Ⅴaug7 統制条件

400

600

800

1000

誤のチューニン

グの反応時間

反応時間(m

s)

Ⅴ7 ♭Ⅱ7

Ⅴaug7 統制条件

0

10

20

30

正のチューニング

の誤答率

誤答率(

%)

Ⅴ7 ♭Ⅱ7

Ⅴaug7 統制条件

0

10

20

30

誤のチューニング

における誤答率

誤答率(

%)

Ⅴ7 ♭Ⅱ7

Ⅴaug7 統制条件

Page 21: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

乳児の心的回転に与える body constraints の影響 氏名 洲崎 蒼(すざき あおい)

key words:心的回転, 身体的制約

【問題】

私たちは,逆さに呈示された文章であっても,頭の中で文字を

回転させて読むことができる.このように,文字や物体をイメー

ジの中で回転させる空間把握能力を心的回転という.心的回転

を初めて測定したのが Shepard & Metzler(1971) であっ

た.Shepard & Metzler(1971)の実験では、刺激として立体図形

の回転を用いた。一方で、心的回転には身体的制約 (body

constraints) が 影 響 を 与 え る と い う 報 告 が あ る .

Sekiyama(1982)は,様々な角度で呈示される5種類の形の手の

画像が,左右どちらの手であるか判断課題を行った.その結果,物

体を用いた判断課題とは異なり,手の画像が自分の手で見慣れ

た範囲の時に反応時間が短くなり、見慣れない範囲の時に反応

時間が長くなった。この結果から、心的回転に身体的制約が影

響を与えことが示された。

過去の発達心理学的研究によって,乳児であっても心的回転

の能力を持つことを示唆することが報告されている.Quinn &

Liben (2008)は,数字の「1」の回転を刺激に用いて生後3-4か月

児の心的回転が可能であることを示した. また、乳児において

も身体的制約の理解が可能であることを示す知見が報告され

ている. Geangu, Senna, Croci, & Turati (2015)では,手が正常

に曲がり,物をつかむアニメーションと,手が不可能な方向に曲

がり,物をつかむアニメーションを呈示し,選好注視法を用いて

注視時間の比較を行ったところ,6か月児において,不可能な方

向に手が曲がるアニメーションを有意に長く注視したため,6ヶ

月児が身体的制約を理解していることが示された.

そこで,本実験では乳児の手の甲の画像を刺激として用いて

乳児の心的回転の測定と,それに与える身体的制約の影響を調

査した.

【方法】

実験参加者 生後 5〜12 か月の乳児 84 名(女児 36 名,男児 48

名)が参加した.他にも 6 名の乳児が参加したが,ぐずりにより十

分な注視時間が取得できなかったため分析対象から除外した.

また,空間把握能力や,身体的制約の理解は,月齢によって異なる

ため,本実験では 5~12 ヶ月の乳児は 3 群に分けた.分け方は,5

~6 ヶ月 (平均日齢=162.8,日齢幅=144~196 日齢 ,SD=

17.2)/7~9 ヵ月(平均日齢=238.0,日齢幅=204~285 日齢,SD

=24.9)/10~12 ヶ月(平均日齢=330.6,日齢幅=290~373 日

齢,SD=26.5)の 3 群であった.

刺激 刺激として乳児の左手の画像を用いた.右手の場合は,左

手を反転加工した画像を使用した.馴化試行は内向きと外向き

の二種類あった。左手の場合,内向きの馴化試行では,時計回り

に、外向きの馴化試行では反時計回りに 45 度,90 度,135 度の

順で呈示された。右手の画像の場合においても同様の角度で回

転した。それぞれの角度で 1.5s ずつ呈示され, 1 試行はそれぞ

れ45度の角度から2往復回転したため,馴化試行は1試行13.5s

であった.テスト試行として正立の右手左手を順に呈示した.テ

スト試行はそれぞれ 10s 呈示され,呈示順は参加者間でカウン

ターバランスをとった.

手続き 保護者が椅子の上に座り,乳児は保護者の上に座った

状態で実験がはじめられた.実験は馴化試行とテスト試行の二

つに分けられていた.まず,馴化試行では,右手か左手の内回りか

外回りに割り当てられた.馴化試行は全部で4試行呈示された.

各馴化試行の前には,ビープ音を伴う注視アニメーションを挟

み乳児の注意が画面に向いていることを確認した.

実験計画 テスト刺激の回転の向き(外向き/内向き)×月齢(5

~6/7~9/10~12ヶ月)×性別(男児/女児)の三要因混合計画.

【結果】

右手と左手それぞれのテスト試行における,馴化試行では呈示

されなかった方の手の画像(novel)の注視率を算出し,3 要因の

分散分析を行ったところ, 性別と回転[F(1,84)=0.774, n.s.],性

別と月齢[F(2,84)=0.404, n.s.],回転と月齢[F(2,84)=0.692, n.s.]

の交互作用は,有意ではなかった.性別[F(1,84)=0.856, n.s.],回

転[F(1,84)=0.048, n.s.],月齢[F(2,84)=0.086, n.s.]の各主効果の

要因でも有意ではなかった.

図 1.テスト試行における novel の注視率を表す。エラーバーは

標準誤差を示す。

【考察】

実験結果から,乳児の心的回転において身体的制約が影響し

ないことが示唆された.また,月齢や性別にかかわりなく,手の画

像を刺激として用いた場合,先行研究とは異なり,乳児の心的回

転を示唆するような結果が得られなかった.

以上のような先行研究との結果の違いについて,先行研究と

の方法や刺激の違いが理由としてあげられる .Quinn &

Liben(2008)の実験ではテスト試行で数字の「1」とそれを反転

させたものを対呈示させていた.しかし,本実験では馴化試行と

テスト試行で左右どちらかの手の画像を順に呈示した.そのた

め,心的回転が起こらなかった可能性がある.また,刺激の違いに

よる影響も考えられる.手の画像の刺激は,「1」の回転に比べ複

雑な刺激であったため乳児の心的回転を起こさなかった可能

性がある.Sekiyama(1982)でも,手の形が複雑であるほど反応

時間が長くなっているため,刺激の複雑性が乳児の心的回転に

おいても制約を与える可能性がある.

本実験の結果から,自分の身体のような見慣れた刺激であっ

て,乳児の心的回転へ影響を与えず,制約もかからないことが示

された.今後の展望として,実験の刺激の違い等,成人において心

的回転に与える影響が乳児においても同様に影響を与えるの

か,さらなる研究が望まれる.

【引用文献】

Shepard, S., & Metzler, D. (1988). Mental rotation: effects of

dimensionality of objects and type of task. Journal of

Experimental Psychology: Human Perception and

Performance, 14(1), 3.

Quinn, P. C., & Liben, L. S. (2008). A sex difference in mental

rotation in young infants. Psychological Science, 19(11),

1067-1070.

(Aoi SUZAKI)

0

20

40

60

80

100

5~6ヶ月 7~9ヵ月 10~12ヶ月注視率

(perc

en

tge)

月齢

男児

外向き

内向き

0

20

40

60

80

100

5~6ヶ月 7~9ヵ月 10~12ヶ月注視率

(perc

en

tge)

月齢

女児

外向き

内向き

Page 22: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

風評被害による忌避感情の抑制方法についての検討

髙橋美汐

Key words:風評被害, スティグマ, 二重過程理論

1. 問題

ある事件・事故・環境汚染・災害が大々的に報道されるこ

とによって, 本来「安全」とされる食品・商品・土地を人々

が危険視し, 消費や観光をやめることによって引き起こされ

る経済的被害を, 風評被害という(関谷, 2003)。こうした特

定対象への忌避反応は, スティグマによる感情的反応が原因

であるとされており, Schulze & Wansink (2012)は, 二重過

程理論における感情的意思決定モード(システム 1)がこのス

ティグマを形成し, 忌避反応へと導くと主張した。

工藤・中谷内(2014)では, 二重過程理論におけるシステム

1は, 購買意図を抑制または促進する2つの側面を持つこと,

また, 論理的意思決定モード(システム2)は, システム1を

統制し, 間接的に購買意図を促進する働きがあることが確認

された。この結果から, 地震災害に伴う放射能事故による忌

避反応は, スティグマと二重過程理論に基づいたモデルによ

って説明できることが示唆された。しかし, その他の事例に

ついては検討されていない。

そこで本研究では, ①食品への農薬混入事件による忌避反

応もスティグマと二重過程理論に基づいたモデルによって説

明できるのかどうかを検討するとともに, ②商品や検査の情

報を与え, 教育・啓発する方法と, 支援したいというポジテ

ィブ感情に訴える方法のどちらが忌避感情の抑制に有効であ

るかを検討する。また, ③風評被害のタイプによって抑制方

法の効果が異なるのかも併せて検討する。

2. 方法

実験参加者 新潟大学学部学生 48名(男性 16名, 女性 32

名)

実験計画 2(風評被害:地震災害に伴う放射能条件・農薬混

入条件)×3(忌避感情抑制方法:統制群・教育啓発群・ポジ

ティブ感情群)の 2要因混合計画(風評被害は被験者内, 忌避

感情抑制方法は被験者間)

材料 (1)刺激文:「地震災害に伴う放射能問題」は 2011年

に発生した東日本大震災を基に, 「農薬混入問題」は 2007

年から 2008年にかけて発生した中国製冷凍餃子中毒事件を

基に, 新潟日報や朝日新聞の記事から一部引用して作成し

た。(2)質問項目:工藤・中谷内(2014)を参考に, ネガティブ

感情・連想・不安・支援・知識による判断・合理的判断・購

買意図尺度の 28項目(各 4項目)を作成し, 谷(2008)の日本語

版バランス型社会的望ましさ尺度 24項目とともに使用し

た。

手続き 実験は質問紙を用いた。参加者に実験の概要につい

て説明を行った後, 質問紙に回答してもらった。すべての質

問に 7件法で回答してもらった後, 実験の意図についてデブ

リーフィングを行い, 実験を終了した。

3. 結果と考察

各尺度についてクロンバックのα係数を算出したところ,

十分な信頼性が確認された(αs>.72)。次に, 各条件の統制

群に対し, 共分散構造分析を行ったところ, 工藤・中谷内

(2014)の初期モデルと改良モデルに当てはめたいずれの場合

でも, パス係数はほとんど有意ではなかった。これはスティ

グマと二重過程理論に基づいたモデルでは説明できないこと

を示唆する。しかし, パス係数の正負の方向は先行研究のモ

デルと全て一致していた(図 1参照)ことから, システム1が

購買意図を抑制する側面(図 1中の放射線・原発不安から購

買意図へのパス係数が負の値)と促進する側面(図 1中の支援

から購買意図へのパス係数が正の値)の2つを持ち, システム

2がシステム1を統制し, 間接的に購買意図を促進する働き

(図 1中の知識による判断と合理的判断から放射線・原発不

安へのパス係数が負

の値, 支援へのパス

係数が正の値)がある

ことは否定できない

(仮説①)。

図 2は, 各条件・

群における購買意図

を示し, 縦軸の値が

大きいほど購買意図

が高い, つまり忌避

感情が小さいことを

示す。風評被害のタ

イプと忌避感情抑制

方法の要因の効果を

見るために, 購買意

図尺度を従属変数と

し, 2(風評被害)×

3(忌避感情抑制方法)

の分散分析を行った

ところ, 風評被害の

タイプの主効果

[F(1,45)=4.58, p<.05, η²=0.039]と忌避感情抑制方法の主効

果[F(2,45)=3.342, p<.05, η²=0.071]が有意であった。Tukey

の HSD法による多重比較を行ったところ, 農薬混入条件に

おいて, 統制群-ポジティブ感情群で有意差が見られ

(p<.05), 統制群と教育啓発群において, 放射能条件-農薬混

入条件間で有意傾向が見られた(p<.10)。このことから, 教育

啓発的方法とポジティブ感情に訴える方法では大きな差は見

られないが, いずれの方法も少なからず忌避感情の抑制には

有効的であり, そして風評被害のタイプによってその効果は

異なるものであると考えられる(仮説②③)。

4. 引用文献

工藤大介・中谷内一也(2014). 社会心理学研究, 第 30巻,

第 1号, 35-44

Schulze, W. & Wansink, B. (2012). Risk Analysis, 32,

678–694.

関谷直也(2003). 災害情報, 1, 78-89

谷伊織(2008). パーソナリティ研究, 第 17巻, 第1号, 18-28

(Mishio TAKAHASHI)

図 2. 各条件・群における購買意図 (エラーバーは標準誤差)

図 1. 放射能条件・統制群における 購買規定モデル(改良モデル)とパス係数

*p<.05, ****p<.001

Page 23: 平成 29 2017)年度 心理・人間学主専攻プログラム …...presentation:RSVP)される場合,500ms以内にターゲット が2つ呈示されると,2つ目のターゲット(T2)の定

説得における圧力の大小と対象の違いが

リアクタンスおよび承諾に及ぼす影響 眞木はるか(まきはるか)

key words:心理的リアクタンス,説得,態度変化

【問題】

行動の自由が脅かされると,その自由を回復しようとする

心理的リアクタンスが説得の場面でも生じる。今城(2012)に

よると,説得圧力が大きいほど説得意図が明白となるため,

自由への脅威が増大し説得への抵抗が生じるが,説得意図の

認知が小さければ,自由への脅威および抵抗も小さくなる。

今城(2012)は大学生に対し,説得対象を明示的に「高校生」

または「大学生」として説得意図を感じにくいまたは感じや

すい状況を設けた。その結果,説得圧力の増大は説得対象が

自分の場合は抵抗を,他者の場合は承諾を生じさせる傾向が

見られた。すなわち,説得対象が他者である「高校生」の場

合は,説得意図を感じにくくなり,結果として心理的リアク

タンスが喚起されず承諾が生じた。そこで本実験では,説得

対象に「社会人」を加え,また事前測定を行うことで,心理

的リアクタンスと他者に向けた説得の効果をさらに検討す

ることを目的とした。

【方法】

参加者 新潟大学学生 121 名(うち 3 名は分析から除外)。

計画 説得圧力(大・小)×説得対象(高校生・大学生・社会人)

の 2 要因参加者間計画。一部の従属測度においては説得前後

の参加者内 1 要因も加えた 3 要因混合計画を採用した。

手続き 参加者には①「読書に関する調査」(事前測定)及び

②「読書推進広告の評価に関する調査」(事後測定)として実

験を紹介し,①②の順に回答を求め,デブリーフィングを行

い,実験を終了した。広告は今城(2012)が作成した実験材料

に一部変更・修正を加えたものを用い,広告の送り手は「読

書推進協会」とした。参加者には広告と質問項目をまとめた

冊子を配布した。

実験操作 説得圧力の大小は本文の表現を一部変えること

で操作した。圧力大条件では「大学生の皆さん,もっと小説

を読みなさい!」といった表現を用い,圧力小条件ではそれ

を「大学生の皆さん,もっと小説を読みませんか?」に差し

替えた。説得対象の操作は,本文中の「大学生」「高校生」「社

会人」の部分を差し替えることで操作した。変更箇所は目立

つよう色付けした。

従属測度 質問項目は,事前測定では普段の読書への態度や

読書量についての質問 4 項目,事後測定では説得効果の有無

の指標として,広告を見た後の読書に対する態度や今後どの

程度読書をしたいかなどの質問 8 項目,リアクタンス喚起の

主観的反応の指標として読書の魅力度などの質問 3 項目,操

作チェックのための質問 3 項目であった。読書量については

平均的な数値の記入,他は全て 7 件法で評価を求めた。

【結果と考察】

操作チェック:図 1 は縦軸が圧力認知の質問 2 項目の評定値

を加算したものの平均値,横軸が説得圧力の大小を表してお

り,説得圧力が大きいと高圧的な説得であると参加者に認知

されたことを示している。説得圧力(大・小)×説得対象(高校

生・大学生・社会人)の 2 要因分散分析を行ったところ,圧

力認知に説得圧力の主効果が見られた [F(1,113)=68.00,

p<.001] ため説得圧力の操作は有効であったが,説得対象の

操作は有効でなかった。

リアクタンスと説得効果の検討:圧力操作は有効であったこ

とから説得圧力とリアクタンス効果の関係について検討を

行った。説得圧力(大・小)×説得対象(高校生・大学生・社会

人)の 2 要因分散分析を行ったところ,説得者への好意度と

説 得 へ の 評 価 の み で 説 得 圧 力 の 有 意 差 が 見 ら れ

[F(1,113)=26.33, p<.001, F(1,113)=15.89, p<.001],リアクタ

ンス喚起の直接的な指標である行動への態度,反論への態度,

態度対象への態度では有意差が見られなかった。その原因と

して,まず参加者の初期立場と説得の方向性が一致していた

ことが考えられる。自分がとる立場と同方向の説得を受けた

場合,たとえ高圧的な説得を受けてもリアクタンスが喚起さ

れない (Brehm & Brehm, 1981; 今城,1996; 上野,1990)。

さらに今城(2002)によると,リアクタンス喚起の前提条件に

は自由の期待と重要性がある。本研究では事前測定において,

参加者は総じて読書をすることに賛成の立場であった。した

がって,参加者は読書を勧める説得と同じ立場をとっており,

説得で脅かされる自由の重要性が低かったことから,リアク

タンスが喚起されなかったと考えられる。しかし図 2 から分

かるように,説得後に参加者の 1 か月間に読もうと思う読書

冊数が普段の参加者の読書量よりも増加した。これは 1 か月

間に本にかける金額,1 週間の読書時間についても同様であ

った。説得圧力×説得対象×説得前後の 3 要因混合分析を行

ったところ,説得前後の主効果に有意差が見られた(1 か月間

の読書冊数[F(1,113)=29.40, p<.001],1 か月間に本にかける

金 額 [F(1,113)=4.95, p<.05] , 1 週 間 の 読 書 時 間

[F(1,113)=47.92, p<.001])。したがって,初期立場と同様の

説得は説得後の行動意図を増加させることが本研究で示唆

された。対象認知とコミットメントの関係性や,対象認知に

よる説得効果の検討方法などについては更なる検討が必要

である。

図 1.圧力認知の評定値の平均

【引用文献】

Brehm, S. S., & Brehm, J. W. (1981). Psychological reactance: A theory of freedom and control. New York:

Academic Press. 今城周造(1996).初期立場と自由への脅威が心理的リアク

タンスに及ぼす交互作用効果 心理学研究,66,431-436.

今城周造(2002).リアクタンス特性と集団主義・独自性

説得効果の関係 心理学研究,73,366-372.

今城周造(2012).他者に向けられた圧力の大きいコミュニ

ケーションの説得効果―圧力がリアクタンスまたは承諾

をもたらすのはどんな場合か?― 昭和女子大学生活心

理研究所紀要,14,1-9.

上野徳美(1990).最近の説得への抵抗に関する研究 茨城

大学教養部紀要 22,9-28. (Haruka MAKI)

図 2.説得前後の 1 か月間の読書冊数の平均