日本アグロエコロジー会議:アグリビジネスと闘う...
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日本アグロエコロジー会議
アグリビジネスと闘う ブラジルのアグロエコロジーと世界の食料システムの危機
印鑰 智哉
オルター・トレード・ジャパン政策室室長
ブラジルでのアグロエコロジーはどう生まれたか?
❖ 1970年代、有機農業の実践開始
❖ 1980年、サンパウロ州農業技術者協会、ブラジル最初の有機農業の教習課程を開設。講師は Ana Maria Primavesi氏(オーストリア人移民)と続木善夫氏(日本人移民)。
続木善夫さん(1929年生まれ) Ana Maria Primavesiさん(1920年生まれ)
「有機農業+社会変革=オルタナティブ農業」の誕生
❖ 有機農業を学ぶ農業技術者たちの中で、ブラジルのもう1つの課題、農地改革を有機農業と結びつけようとする人びとたちの運動が生まれた。
❖ 有機農業+社会変革=オルタナティブ農業運動が1980年代後半から拡がる。
❖ ブラジルはポルトガルの植民地時代以来、世界有数の土地の偏在した国。植民地時代以来の巨大地主と土地なし農業労働者の格差が大きく、1988年憲法でも農地改革の必要性が規定されている。
アグロエコロジーへ❖ ミゲル・アルティエリ氏(チリ出身、現在カリフォルニア大学バークレー校)の『アグロエコロジー:持続可能な農業の科学的基礎』がブラジルでも出版(1987年初版)
❖ 農民の伝統的知恵と科学者の知見の対話から生まれる新しい科学であり実践であり運動
❖ オルタナティブ農業運動からアグロエコロジー運動へ
ブラジルのアグロエコロジー
アグロエコロジー
有機農業伝統的農業
社会運動 科 学
オルタナティブ農業運動
アグロエコロジーとは?❖ 「アグロエコロジーとはエコロジーの原則を農業に適用するものである」Miguel Altieri University of Berkery, California, USA 1983
❖ 「もっと根源的な農業の転換が必要である。農業におけるエコロジカルな変革とは、農業を規定する社会的、政治的、文化的そして経済的領域での変革なくして起こすことはできない」 Miguel Altieri,
University of Berkery, California, USA
❖ 「アグロエコロジーとは科学的な原則であり、農業的実践であり、そして政治的、社会的運動である。アグロエコロジーはこの3つの次元をすべて含む概念となった」Wezel A, Bellon S, Doré T, Francis C, Vallod D,
David C 2009
「緑の革命」との闘い第1ラウンド❖ 農地改革で得た土地で、化学肥料+農薬+F1種子の「緑の革命」技術パッケージの導入を進めた農民も少なくなかった。
❖ しかし、「緑の革命」採用した農園は借金漬け、農薬被害などに直面し、農地放棄するケースも続出した。
❖ 一方、アグロエコロジーを選択した農園は成功。生産力高く、十分やっていけることが証明された。
❖ そうした結果の前に、MST(土地なし地方労働者運動)もアグロエコロジーこそ進むべき道と決断(2000年前後)
環境運動と農地改革運動の対立の克服
❖ 農地改革で土地を得た小農民が大規模地主と同じ農法=環境破壊。環境運動との対立も生まれた。1990年代前半、大きくなった環境運動への反発。
❖ アグロエコロジーの採用により、農地改革を求める運動と環境運動が連帯へ
「緑の革命」との闘い第2ラウンド 遺伝子組み換えの侵略
❖ 1996年、アルゼンチン議会でモンサントの遺伝子組み換え大豆承認(ほとんど議論なし)
❖ 1998年、ブラジルで承認、即市民組織による訴訟で禁止→密輸品として運び込まれ、栽培開始、既成事実化
❖ 2003年、遺伝子組み換え禁止を公約として選挙に勝利した労働者党ルラが大統領に。GM大豆部分承認
❖ 2005年、GM合法化
南米での遺伝子組み換えによる被害の実態
❖ ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビア一帯が「大豆連合共和国」と揶揄される(cf.
バナナ共和国)。
❖ 先住民族、小農民の土地からの追い出し
❖ 農薬による健康被害、環境被害の告発
農薬使用の激増
❖ 2008年にブラジルは農薬使用世界一に
ブラジルでの農薬使用実態地図
↓横断幕:農薬が自然、民衆、我々の未来を殺す
深刻化する健康被害(米国)
糖尿病患者数とグリホサートと遺伝子組み換えの割合
甲状腺ガンの出現割合とグリホサートと遺伝子組み換え
急増する健康被害(米国)2
自閉症の子ども(6歳~21歳)の数とグリホサートの使用量
認知症による死亡数とグリホサートの使用量
4つのグラフはいずれも http://www.examiner.com/gmo-in-seattle/nancy-swanson
遺伝子組み換えで引き起こされる可能性のある疾病
❖ 腸、消化器官関連、セリアック病・アレルギー、自己免疫疾患❖ 慢性腎疾患、肝臓、糖尿病、肥満❖ 心臓病、白血病、血液関連の疾患❖ 喘息、呼吸器官疾患
❖ 内分泌障害、不妊、出生異常、流産
❖ 自閉症、アルツハイマー症、 パーキンソン症
❖ 不眠症、抑鬱、双極性障害 (躁鬱)
❖ 細胞突然変異、ガンドキュメンタリー映画Genetic Roulette から
危険度が増す遺伝子組み換え その1
❖ モンサントの除草剤ラウンドアップ(グリホサート)が効かないスーパー雑草が増えてきた
❖ 米国環境庁は残留許容量を大幅引き上げ(2013/
2014)
危険度増す その2 枯れ葉剤、ジカンバ混合
❖ モンサントのグリホサートに加えて、より危険なベトナム戦争で使われた枯れ葉剤(2,4-D)やジカンバを混ぜて使う→ガンや神経症などへの懸念が高まる
❖ 米国では50万人以上が反対して、2年間以上承認が止まる。昨年9月(枯れ葉剤耐性GM)、今年1月(ジカンバ耐性GM)が米国で承認、米国市民団体が訴訟中。しかし、日本は2012年12月(枯れ葉剤耐性GM)、2013年10月(ジカンバ耐性GM)、マスコミ報道もないまま承認。
❖ 米国でいったん耕作が始まれば南米、フィリピン、ベトナム、南アフリカに拡がる危険性が高い。中国が現在歯止めに。
「モンサント法案」
❖ 農民が種子を保存することを犯罪とする通称「モンサント法案」が米国、インドを皮切りに、メキシコ、チリ、コロンビア、アルゼンチン、グアテマラ、ベネズエラ、ケニアなどのアフリカで登場。EUやアジアにも影響を及ぼす。種子企業から毎年買わなければならない。
❖ 農民の権利よりも多国籍企業の知的所有権を優先する自由貿易協定により強制される。
自由貿易協定で独占❖ 世界の種子市場の7割が6つの遺伝子組み換え企業が握っている。急速に種子企業を買収
❖ 自由貿易協定や政府開発援助を道具に世界の農業生産への影響力を増大
❖ 化学肥料や農薬なしには使えない農業へ
❖ TPPでは種子だけでなく家畜も対象に。
❖ →「種子の自由」を求める運動
食料主権を!
❖ 食料主権とは、健康な、そして文化的にふさわしい食料への権利であり、その食料はエコロジー的に健全で維持可能な方法で作られたものである必要がある。そして食料主権とは自分たちの食料と農業のシステムを決定する権利である。Via Campesina
❖ 体を生かす食を生産するか、毒となる食を生産するか、薬となる食を選ぶか、毒となる食を選ぶか。
アグロエコロジーが社会のオルタナティブな軸に
農 民 環境運動 科学者
アグロエコロジー運動
反貧困運動 消費者運動
医 療
先住民族運動
住民運動
”健康な食をすべての人へ”このままではハチも農民もいなくなる。世界の土壌は60年で終わる。
世界の食と農の危機を乗り越える人びとの連合
女性運動労働運動
種子を守る❖ 地域の気候、文化にあった種子を守る。
❖ 種子の交換は先住民族の時代から行われてきた。
❖ 2003年にブラジルではクリオーロ種子条項が作られ、農民の権利として確認されている。
❖ 政府の支援でシードバンクも建設
←2013年ブラジルでの第3回国際アグロエコロジー会議
ブラジル奥地の荒廃した放牧地を緑豊かな農場に変えた小農民家族
ブラジルのアグロエコロジーを支えるもの
❖ 食料調達計画(PAA 2003年開始)
❖ 全国学校給食プログラム(PNAE 2009年開始)
❖ ファーマーズマーケット(Feira Agroecologica)
❖ アグロエコロジーと有機生産政策(2012年制定、2013
年開始)、栄養政策
ブラジルのアグロエコロジーの動き❖ 2001年 アグロエコロジー全国会議(ブラジル)開始
❖ 2002年 ブラジルでアグロエコロジー連盟(ANA)が発足
❖ 2003年 ブラジルで種子法、クリオーロ種子条項で農民の種子の権利の認知
❖ 2003年 食料調達計画(PAA)…地域の食料保障。小規模家族農業奨励と調達
❖ 2009年 全国学校給食プログラム(PNAE)…地域の小農民からの購入義務化
❖ 2012年8月 ブラジル大統領令でアグロエコロジーと有機農業生産政策確立…アグロエコロジーがブラジル政府の政策に
❖ 2013年10月 ブラジル「アグロエコロジーと有機農業生産政策」の実行がスタート…予算計画を市民組織の参加で作る。
❖ 2014年 栄養ガイドラインを公表、世界的に注目集める
世界各地の動き1❖ 2010年12月 国連総会で食料への権利特別報告者のOlivier De
Schutterがアグロエコロジーへの転換を求 める報告を行う。
❖ 2013年1月 イギリスでアグロエコロジー同盟結成、政府がアグロエコロジー推進政策を取るよ うに活動
❖ 2013年5月 フランス、農業省、アグロエコロジー推進プロジェクトを開始
❖ 2013年10月 国連食糧農業機関(FAO)、家族農業推進のためVia
Campesina と連携を発表
世界各地の動き2 ❖ 2014年 国際家族農業年
❖ 2014年2月 インド、アグロフォレストリー政策策定(農民の権利にたった世界でも類のない政策)
❖ 2014年9月 フランス、農業未来法制定、若い有機農家支援政策
❖ 2014年9月ローマで国連食糧農業機関(FAO)がアグロエコロジー国際シンポジウムを開催、世界の科学者が支援表明、日本政府も代表送り支援を約束
❖ 2014年11月 アフリカ、マダガスカルで国際シンポジウムAgroecology for Africa
❖ 2015年 国際土壌年
日本政府もアグロエコロジーに賛同
ジェンダーの問題
そして若者たち…
アグロエコロジーは未来を作る