海岸 bc指針 -040621版 -印刷原稿版 -...

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    <参考資料>

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    参考1.CVMの手順とポイント

    1-1 CVM(Contingent Valuation Method:仮想市場法)の概要

    CVMとは、環境整備の便益を、個人や世帯が対価として支払ってもよいと考える金額(支

    払意思額(Willingness to Pay:WTP))をもって評価する手法である。

    1)CVMとは

    CVMとは、財の内容を説明した上で、その価値を増大させるために費用を支払う必要

    がある場合に個人や世帯が支払ってもよいと考える金額(支払意志額(Willingness to

    Pay:WTP))、あるいはその財が悪化してしまった場合に悪化しなかった場合の便益を補償

    してもらうのに必要な補償金額(受取補償額(Willingness to Accept:WTA))を直接的に

    質問する方法である。米国のNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration:

    国家海洋大気管理局(米国商務省の一部局))ガイドラインではWTAよりもWTPを用いるこ

    とを推奨している。以下ではWTPを中心に記述を行うこととする。

    2)CVMのポイント

    CVMでは、経済単位を世帯とみなし、世帯をベースとした便益評価を行う場合が多い

    ことから、そのポイントとなるのは、適切な集計世帯数の設定とWTPの把握である。

    このため、具体的な便益計測においては、効果の及ぶ地域(「受益地域」という)内から

    平均WTPの集計対象とする地域(「集計範囲」という)を設定し、アンケート調査等で計測

    した集計侵食地域内の一世帯当たりWTPと、集計侵食地域内の世帯数(「集計世帯数」とい

    う)を把握し、両者の積を求め、それに効果の及ぶ期間(「評価期間」という)を乗じて便

    益を算定する。

    参図1-1 CVMによる便益算定の基本的考え方

    ※主な内容は「河川に係る環境整備の経済評価の手引き(試案)」からの引用である。

    評価期間 集計世帯数 計測したWTP 便益 = × ×

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    1-2 CVMの特徴と制約

    1)CVMの特徴

    CVMは、消費者のWTPを直接的に質問する方法であり、市場データを必要としないた

    めに、計測対象を比較的自由に選ぶことができるというメリットを持つ。またTCMは、

    基本的には利用価値を計測・評価する方法であるが、CVMは利用価値と非利用価値を併

    せて計測・評価することができ、便益の総合的な把握に適している。

    一方、CVMに対して指摘されている主な制約として、バイアスの発生がある。バイア

    スの発生とは、何らかの理由によって個人の判断が偏向し、評価対象の真の価値からずれ

    る現象を言う。バイアスの発生とその回避はCVMで非常に大きな課題である。

    2)CVMのバイアス

    CVMの問題点としてバイアスの発生があり、調査に当たっては極力これを除去するよ

    うに努めることが必要である。

    現実の市場に置いて個人は、ある財の価格が、その財から得られる便益に対する WTPを

    下回るか上回るかによって、その財を購入するしかないかを選択する。CVMは、これと

    同じ過程を、アンケート、インタビューなどによって仮想的に行い、その回答に基づいて

    CV(Compensation Variation:補償変分)、EV(Equivalent Variation:等価変分)を推定

    する手法である。こうして得られるCV、EVが真の値と異なってしまうものになってしまう

    ことをバイアスの発生と呼ぶ。

    CVMではその各段階でバイアスが生じる可能性が指摘されており、バイアスを小さく

    することがCVMの評価結果の信頼性を高める上で重要である。

    NOAAガイドライン(1992)によれば、CVMでは対象とする財の価値を過大評価する傾

    向があり、代替する財の価格に比べ極端に大きな評価額が得られる場合があるとしている。

    このような傾向は、なんらかのバイアスが生じたためと考えられ、このバイアスを小さ

    くするための研究が進められる一方で、Diamond and Hausman(1994)のようにこのような

    バイアスをCVMの根本的な欠陥と指摘する学者もいる。

    CVMのバイアスについては、Mitchell and Carson(1989)等が詳しく述べているが、

    それによると主なバイアスの原因には以下の3点がある。

    ①提示された状況の伝達の不正確さによって生じるバイアス

    ②設問と回答の意図の相違によって生じるバイアス

    ③提示方法による誤った誘導によって生じるバイアス

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    ①提示された状況の伝達の不正確さ

    CVMによって回答を得たい仮想的な状況が、回答者に適切に伝達されない場合、バイ

    アスが生じる原因となる。

    提示された状況の伝達の不正確さに起因するバイアスの代表的な例に「部分-全体バイ

    アス」がある。たとえば「海岸に植樹するためにいくら支払うか」という設問があった場

    合、植樹の範囲、密度、木の種類等について様々な解釈が可能となるため、回答者がそれ

    ぞれ勝手なイメージに基づいて金額を回答することになりかねない。評価対象財について

    単体の財として聞かれた場合と、より包括的な財の一部として聞かれた場合で、評価額が

    変化したり、あるいは逆に評価対象財の数量が変化しても評価額が変わらないという現象

    を示すいわゆる包含効果もこれに含まれる。

    部分-全体バイアスは、かなりの部分がアンケートにおける事業説明資料の記述に起因

    するものであり、バイアスを回避するために、郵送調査の場合にはアンケート票の精査を、

    面接調査の場合には調査員の教育等を十分に行う必要がある。

    ②設問と回答の意図の相違

    提示された状況が正確に伝達されても、調査者の意図と回答者の意図との相違によりバ

    イアスが生じる場合がある。この種のバイアスの代表的な例に「戦略的バイアス」「追従バ

    イアス」がある。

    戦略的バイアスとは、回答者が意図的に便益を過大または過小に評価するものである。

    たとえば回答者が、自分の回答する金額がいずれ決定される住民負担額に反映されると予

    想すれば、意図的に低い金額を回答する可能性が高い。

    追従バイアスとは、調査員を喜ばせようとして回答者が高い金額を答えるものであり、

    面接方式の調査で起こりやすいと言われている。追従バイアスを回避する方法として、回

    答者自らに金額を記入させ、それを調査員は見ないようにするという、いわゆる「ブライ

    ンド方式」を取ることが推奨されている。

    慈善バイアスとは、回答者が評価対象の価値ではなく、別の要素を意識して回答するた

    めに起こるものである。たとえば「海岸の環境を守るためにいくら寄付するか」という質

    問に対して、海岸の環境そのものの価値ではなく、寄付行為を行うことで倫理的満足が得

    られることを判断基準として高い金額を回答することなどがこれに当たる。また、「いくら

    の税を負担するか」という質問に対して、租税回避を念頭に低い回答をする場合も、方向

    性は逆だが一種の慈善バイアスと見なされる。

    慈善バイアスは、回答者の心情に起因するものであり完全に除去することは困難である

    が、アンケート票には望ましい回答態度を明記し、また面接調査の場合には調査員が回答

    者に対して質問の意図を十分に伝達するように努めることである程度は回避しうると考え

    られる。

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    ③提示方法による誤った誘導

    CVM で回答はアンケートやインタビューによって得るが、設問の設定や回答方法によ

    って回答額がある方向に誘導される場合がある。代表的な例に「範囲バイアス」がある。

    範囲バイアスとは、たとえば支払カード方式で提示された金額の中から、回答者が両端

    の値を避けて中央に近い値を選択する傾向があることを指す。具体的には、同じ評価財で

    あっても100~1,000円を提示すれば数百円の回答が多くなり、1,000~10,000 円を提示す

    れば数千円という回答者が多くなる傾向がこれに当たる。

    このバイアスはアンケートの設計技術上、完全に回避することは困難である。このため事

    前調査において十分な検討を行い、また他の調査事例を参考にできる限り適切な金額設定を

    行うことが必要である。

    1-3 CVMの実施手順

    1-3-1 CVMの構成

    1)CVMの構成

    CVMによる本格的な調査を実施する場合には大きく分けて「事前調査」「本調査」の2

    段階の調査を行うことが望ましい。

    CVMはアンケート調査票の設計が非常に重要であり、本格的な調査を実施する場合は、

    事前調査を行って調査票の記述内容に検討を加え、必要な修正を行った上で本調査を実施

    することが望ましい。ただし、近い過去に類似の調査が行われており、その結果から効果

    の及ぶ範囲や金額の提示範囲等についておよその傾向がわかる場合等については、アンケ

    ート形式の事前調査を省略することもできる。その際、分析担当者内による協議等で事前

    調査を行うことも考えられる。

    参図1-2 CVMの実施手順

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    2)事前調査の目的

    事前調査を行う目的は、①わかりやすさの向上と誤解の解消、②WTP 提示額の設定、③

    調査範囲の確認、の3点である。本調査を行う際には、事前調査の結果を参考として調査

    票に必要な修正等を行う。

    事前調査では、本調査のアンケート票、特に環境改善に関する説明資料や WTPの質問を

    わかりやすく誤解のないものとすることが重要である。このためサンプル数は少なくても

    よいが、なるべく様々な人に意見を聞くことが必要である。

    また、事前調査では、本調査で提示する金額を設定する参考として、オープンエンド方

    式(自由回答形式)や支払カード方式でWTPを問うほか、回答者の属性等の分析に基づき、

    本調査を実施する地理的範囲を検討する。

    1-3-2 サンプル抽出

    1)範囲設定

    CVMを適用して便益計測を行う際には、平均 WTP に集計世帯数と評価期間を乗じて便

    益を求めるが、集計範囲の設定が便益額を大きく左右する。

    調査の実施に当たっては、CVM事前調査や既存の調査事例等をもとに、適切な集計範

    囲を想定しておき、この範囲を含む市町村等を単位として調査範囲を設定するのが有効で

    ある。なお、より詳細な設定ができる場合には町丁目単位または字単位で設定してもよい。

    2)サンプル抽出

    サンプル抽出は、調査範囲の住民基本台帳から無作為に抽出することを基本とし、統計

    的に十分な有効回答票数を確保することを目標にサンプル抽出を行う。

    地方公共団体の都合など何らかの制約によって住民基本台帳を利用することが困難な場

    合、代替案として電話帳や住宅地図からの抽出も考えられるが、その場合には母集団の有

    する特性とサンプル特性との間にズレが生じる可能性が高くなる点に留意しなければなら

    ない。なお、電話帳を用いた場合、データが古いという問題もある。

    1-3-3 アンケートの設計

    1)アンケートの基本的構成

    アンケート調査票は、アンケートの回収率を上げ、有効回答を多く得るため、回答者の

    負担とならないように注意する必要がある。評価対象となる事業の内容を、わかりやすく

    説明するとともに、全体的に文字は大きく見やすくし、平易な用語を用いて質問・記入方

    法もわかりやすく示すことが重要である。

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    参図1-3 アンケート調査票の構成例

    2)調査に関する説明等

    アンケート調査票の1枚目には、調査の主旨、調査機関、アンケート協力のお願い、記

    入方法、問い合わせ先等を明記しておく。

    この際、アンケート調査票に記入された回答を集計処理するのみであり、回答された個

    人名が公表されることはない点を記す場合が多い。

    また、訪問配布を行う場合には、調査員を対象に、事前に研修などを通じて調査の主旨

    や質問内容の説明方法・回収方法などについて徹底しておくことが必要となる。

    3)対象海岸との関わり

    対象とする海岸及び事業箇所について、回答者の認知度等を問うとともに、評価対象事

    業についての関心を喚起する。

    また、これらはアンケート調査の導入部分としての役割も有する。

    4)支払意思額(WTP)

    ①WTPを質問する際の支払形態

    WTPを問う表現には、「税金」「寄附金」「負担金」等があり、それぞれの表現には固有の

    得失があるため、支払形態の選択はケースにより慎重に行われなければならない。

    対象海岸との関わり 海岸

    海岸

    アンケート調査票の構成

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    参表1-1 支払形態と特徴

    支払

    携帯 設問例 特徴

    追加税

    この計画を実施すると、あなたの

    世帯の納税額が年間○円上昇する

    とします。あなたはこの計画に賛

    成ですか。

    ・なじみのある支払形態であり、直感的な理解を得やすい。

    ・税そのものに対する支払抵抗を誘発しやすい。

    ・強制力が強く、それに伴うバイアスが生じる可能性がある。

    税金

    捻出

    この事業を実施するために、あな

    たがすでに納めた税金の中から費

    用をまかなうという計画があると

    します。あなたは年間いくらまで

    なら支出してもよいと思います

    か。

    ・なじみのある支払形態であり、直感的な理解を得やすい。

    ・他の形態に比べて大きな値となりやすい。

    ・予算制約の想定が難しい。

    ・強制力が強く、それに伴うバイアスが生じる可能性がある。

    寄附金

    寄附金を集めて水質浄化を行う計

    画があるとします。あなたは、世

    帯当たりで年間いくら寄付しても

    よいと思いますか。

    ・なじみのある支払形態であり、直感的な理解を得やすい。

    ・寄付行為そのものに価値があるため、温情効果が入りうる。

    ・基金の設立を伴う場合があるが、基金そのものに対する理解

    が乏しいことがある。

    ・強制力が弱く、それに伴うバイアスが生じる可能性がある。

    負担金

    この事業を実施するために、あな

    たの世帯は年間いくらまでなら負

    担してもよいと思いますか。

    ・海岸環境に関する便益計測で多く用いられている。

    ・海岸整備事業の実施方法としては、なじみのない支払形態な

    ので、理解しやすい表現の工夫が必要である。

    ・税金、寄附金と比べて先入観が小さいと考えられる。

    利用料

    もしこの海浜公園の入園料金が○

    ○円ならば、あなたは入園します

    か。

    ・実際の購買行動に近いので金額を考えやすい。

    ・利用料金を徴収できるような整備内容でないと採用できない。

    ・非利用価値の向上に伴う便益を計測できない。

    ・利用回数を聞く必要がある。

    ・非利用者に対する便益を計測できない。

    代替財

    水質を浄化できる木炭が販売され

    ているとします。この浄化木炭が

    100kg○○円で売られているとし

    たら、あなたはこれを購入します

    か。

    ・実際の購買行動に近いので金額を考えやすい。

    ・適切な代替財がないと採用できない。

    ・代替財に依存したバイアスが生じうる。

  • -82-

    ②支払方法

    WTP を質問する際の支払方法には、「月払い」「年払い」「一括払い」などの種類がある。

    既存の調査事例では、事業の実施によって被験者が得られる継続的な支払意思額を、年間

    あるいは月間の所得制約のもとで質問する形式が多い。

    参表1-2 支払方法の種類と特徴

    支払方法 特 徴

    月払い

    ・回答者が WTP を想定する際に、月給や家賃・光熱費など、月額換算される家

    計の項目と比較しやすい。

    ・支払提示額が少額である場合、抵抗回答を発生させにくい。

    年払い

    ・回答者が WTP を想定する際に、年収や固定資産税など、年額換算される家計

    の項目と比較しやすい。

    ・月払いで得られた WTP を12倍にした値よりも、得られる WTP は小さな値と

    なりやすい。

    ・支払提示額が高額である場合、抵抗回答を発生させやすい。

    一括払い ・長期にわたって享受する効用の増加を踏まえてWTPを想定する必要がある。

    ・同様に長期の収入を予算制約としてWTPを想定する必要がある。

    ③説明資料

    CVMによって環境整備の評価をする場合には、アンケート票に評価対象となる環境整

    備によって環境の状態がどのように変化するかの説明資料を添付するが、特に郵送配布方

    式の場合には回答者が補足説明なしでも十分に理解できるよう、説明資料は「簡潔」「客観

    的」「わかりやすい」を目指すことが重要である。このときパース図やモンタージュ写真の

    ようなビジュアルな要素を用いることが有効と考えられる。

    ④支払意思額の質問方式

    支払意思額の把握は、付け値関数や効用関数の推計、および賛同率曲線を描くためのデ

    ータを収集することが主目的であるから、可能な限りバイアスを生じさせない質問方式を

    採らなくてはならない。CVMの質問形式として主なものには次表に示すとおり、オープ

    ンエンド方式(自由回答方式)のほかに、支払カード方式、非行選択方式などのクローズ

    ドエンド方式等がある。

    評価対象事業の特性と質問方式の特徴をふまえて、適切な方式を選択することが必要で

    ある。

  • -83-

    参表1-3 支払意思額の質問方式とその特徴

    設問方式 概要 特徴

    オープンエンド 自由回答記入欄に数値を記入する。

    ・数値として直接WTPを把握できる。 ・開始点バイアスと範囲バイアスが発生しない。 ・設問設計のための事前調査が不要である。 ・無回答が多くなる。 ・異常に大きい額や小さい額を排除できない。 ・切りのよい額に集中する。

    クローズエンド

    支払カード 数値の選択肢から選択する。

    ・回答しやすく無回答が少ない。 ・付け値関数推計を行うので、異常値回答の影響を

    受けにくい。 ・意味がわからないまま回答されてしまいやすい。 ・開始点バイアスと範囲バイアスが発生する。

    二項選択 計画を実施し、支払を要請する代替案に対する賛否を選択する。

    ・回答しやすく無回答が少ない。 ・付け値関数推計を行うので、異常値回答の影響を

    受けにくい。 ・開始点バイアスと範囲バイアスが発生しない。 ・面接方式により適している正確なWTP を把握でき

    ない。 ・日本人は賛否を選択する住民投票になじみがない。

    二段階二項選択 再度、金額を変えて質問する。 (二項選択方式の特徴に加えて) ・確保される回答サンプル数が2倍になる。

    一対比較* 支払額を段階的に変化させた二項選択の質問を3つ以上用意し、それぞれに対する賛否を選択する。

    ・回答しやすく無回答が少ない。 ・確保される回答サンプル数が多くなる。 ・付け値関数推計を行うので、異常値回答の影響を

    受けにくい。

    付け値ゲーム 市場のセリのようにして金額を決定する。

    ・回答者の行う選択が単純である。 ・正確なWTPを把握できる。 ・繰り返しにより回答者は十分に考えることができ

    る。 ・回答に時間を要する。 ・開始点バイアスが発生する。

    *:ここで、一対比較方式は他段階二項選択方式を指す。また、一対比較方式に「わからない」という選択肢を設ける場合もあるが、この「わからない」を「反対」として処理することもできる。

    5)支払意思額の判断理由

    「設問と回答の意図の相違」で起きやすいバイアスは、追従バイアスと慈善バイアスで

    ある。慈善バイアスについては、賛同または不賛同の理由を確認することでこれを抽出す

    ることができる。

    事業の内容ではなく住民の負担で行うことを賛同理由としていれば、明らかに慈善バイ

    アスが生じていると考えられる。また不賛同の場合でも、たとえば「税金で行うべきだ」

    などの事業内容以外の面が判断理由となっていれば、設問と回答の意図の相違が生じてい

    るとしなければならない。

    6)フェイスシート

    回答者が対象地域住民全体の特性を反映していることを事後的にチェックするためのデ

    ータとして、性別、年齢、世帯人員、職業等の属性を把握しておくほか、アンケートの答

    えやすさ等について自由記入欄を設けて意見を聞くものとする。

  • -84-

    1-3-4 配布・回収

    配布回収方法には次表に示す方式があるが、それぞれ得失があるので調査の目的に応じて選

    択する。

    郵送を伴う場合には回答者の記入のための時間をとることが必要となる。一般的には、配布

    と回収の間に週末(土、日)を2回はさむことが適当と言われている。なお、締切日間近ある

    いは締切日を過ぎても到着しないものについては、電話または郵便等により督促を行うことも

    検討する。督促を行う際には、回答者の心情に十分配慮し、協力が得られるよう注意する。

    回収率は、地域やアンケート内容によりバラツキが生じるので、類似調査事例等を参考に設

    定して配布数を決定する。

    参表1-4 配布回収方式による得失

    配布回収方法 調査主旨、意図 標本

    郵送 ・伝達しづらい。 ・留置きするため、熟考する人に時間が与えられる。

    ・回収率は比較的低い。 ・広域調査に向いている。 ・代表制に課題。

    訪問配布、郵送回収

    ・比較的よく伝わる。 ・留置きするため、熟考する人に時間が与えられる。

    ・回収率は比較的低い。 ・狭い地域を対象とするなら経済的だが、訪問面接より割高。

    ・代表制に課題。

    郵送配布、訪問回収

    ・伝達しづらい。 ・留置きするため、塾考する人に時間が与えられる。

    ・回収率は比較的高い。 ・狭い地域を対象とするなら経済的だが、訪問面接より割高。

    訪問面接 ・比較的よく伝わる。 ・調査員により事業の印象が変わる。 ・追従バイアスの発生する可能性が高い。

    ・回収率は比較的高い。 ・狭い地域を対象とするなら経済的。

    電話 ・比較的よく伝わる。 ・追従バイアスの発生する可能性が高い。

    ・回収率は比較的高い。

    現地面接 ・よく伝わる。 ・追従バイアスの発生する可能性が高い。

    ・回収率は高い。 ・訪問者の対象地域における位置付けの検討が必要。

    集団調査、その他

    ・比較的よく伝わる(特にツアーの場合)。 ・追従バイアスの発生する可能性が高い。

    ・回収率は高い。 ・公募等は代表制に難。

    1-3-5 便益の計測

    1)異常値の排除

    得られた回答の中には、調査の主旨や回答方法を理解せず、あるいは誤認したものが混

    在している可能性があり、これを含めたまま解析を行っても結果は歪んだものとなるため、

    これらの異常値を排除することが必要である。排除方法としては、3.3.3 アンケー

    トの設計、5)の支払意志額の判断理由の回答に基づき判断するものである。

    異常値としては「判断基準が不適当」「抵抗回答」「無理解」「無関心」などがある。それ

    ぞれの特徴及び見分け方は下表に示すとおりである。

    なお、異常値が非常に多く、結果的に十分なサンプル数が得られなかった場合について

    は、再調査の可能性も含めて検討を行うことが必要である。

  • -85-

    参表1-5 異常データの種別と排除の方法

    種別 概要 排除方法

    判断基準が

    不適当

    ・事業の価値そのものを評価するのではなく

    その他の要因で賛同または反対している回

    答。

    ・負担金の支払いに「賛同する」理由とし

    て「どんな事業であっても住民の負担で

    行うことに意義がある」を挙げた回答を

    排除。

    ・負担金の支払いに「賛同しない」理由と

    して「税金で実施すべき」を挙げた回答

    を排除。

    無理解

    ・事業の内容や設問の意味を理解しないまま、

    なんとなく負担金の支払いに「賛同する」

    を選択している回答。

    ・「賛同する」「賛同しない」の理由として

    「わからない」を選択した回答を排除。

    抵抗回答

    ・この種の調査に対して反対意思を表明する

    手段として負担金の支払いに「賛同しない」

    を選択していると考えられる回答。

    ・負担金について「賛同しない」または「わ

    からない」を選択した回答のうち、自由

    記入欄に「このような調査に反対」と記

    したものを排除。

    無関心

    ・負担額についての質問に対する回答が「わ

    からない」であっても、その理由が事業へ

    の無関心にあると考えられる回答。

    ・負担金について賛同するか否かについて

    「わからない」を選択した回答のうち、

    その理由として「事業に関心がない」を

    挙げた回答を排除。

    論理的矛盾 ・たとえば一対比較方式において支払額が高

    ければYES、低ければNOと回答。

    ・回答間の論理性合性をチェックし矛盾する

    ものを排除。

    2)WTPの推計

    支払カード方式や二項選択方式の場合には、WTP が提示額よりも高いか低いかのデータ

    のみがえられるため、これらのデータをもとに付け値関数や効用関数を推計し、需要曲線

    を抽いて、WTPを推計する必要がある。

    この場合、関数形や変数の選択・決定には恣意性が入ってしまう可能性がある。一方、

    効用関数等の推計を行わなくても近似的に賛同率曲線を描く手法がとれる場合がある。

    ①賛同率曲線の作成

    賛同率曲線とは、X 軸に金額、Y 軸にその金額の支払いに同意する回答者の母集団に占

    める比率(これを「賛同率」とよんでいる)をとるものである。

    一対比較方式の質問を行った場合、有効回答者数を母集団として、各金額への賛同者数

    が母集団に占める比率を賛同率として曲線を描くことができる。

    なお、「わからない」回答を反対とみなして処理することにより、控えめな評価を得るよ

    うな処理方法もある。

  • -86-

    参図1-4 賛同率曲線のイメージ

    ②WTPの推定

    WTP は、全世帯の WTP 合計値を世帯数で除した平均値を採用する場合と、回答金額の順

    に並べて中央の回答者のWTPである中央値を採用する場合の二つのとり方がある。平均値

    は、WTP の期待値としての意味がある。中央値は、仮に住民投票を行った際にちょうど過

    半数をとる金額となるため政策的判断の基礎となりうるものである。一般的には、平均値

    は中央値よりも高くなる傾向がある。

    平均値は、下図に示すとおりY軸を百分率表示した賛同率曲線の下側の面積に相当する。

    これは集計侵食地域内の①世帯あたりのWTPを直接的に示すものである。

    なお、賛同率曲線とX軸の好転に関しては、直接的な観測データが得られない場合があ

    る。このときは一定の金額で積分計算を打ち切る(=『裾切り』)ことが必要となるが、過

    大評価とならないような推計を行うという観点からは、最大提示金額で裾切りする、ある

    いは回答者上位10%をカットする等の方法がある。

    参図1-5 WTP(平均値、中央値)のイメージ

  • -87-

    3)便益の推定

    得られた世帯または一人あたりの WTPに集計母数を乗じて年便益を求め、さらに評価期

    間の合計値としての便益総額を求める。

    年間の所得制約に対する年間の支払として WTP を質問した場合には、便益は下に示す基本

    式によって算定する。

    参図1-6 便益の推定式

    評価期間 集計母数 計測したWTP 便益 = × ×

  • -88-

    参考2.TCMの手順とポイント

    2-1 TCM(Travel Cost Method:旅行費用法)の概要

    TCMとは、環境の財の便益を享受するために個人が支払ってもよいと考える旅行費用で計

    測する手法である。このとき、旅行費用と訪問者数や「訪問率」の関係を表す「需要曲線」が

    非常に重要となる。

    TCMはレクリエーションサイト一般の評価に多く用いられる手法であり、海岸環境も社会

    生活の面からはレクリエーションサイトに大きく関わることから本指針では以下「レクリエー

    ションサイト」という表現を用いている。

    TCMには地域旅行費用法と個人旅行費用法があり、前者はモデルの安定性が優れており、

    後者は操作性が高い。

    (a)環境整備の評価

    参図2-1 消費者余剰に基づく便益の定義(非市場財の場合)

    ※主な内容は「河川に係る環境整備の経済評価の手引き(試案)」からの引用である。

    (b)既存レクリエーションサイトの評価

  • -89-

    2-2 TCMの特徴と制約

    消費者余剰の概念を用いるTCMは、直感的に分かりやすい便益計測の手法であるが、いく

    つかの制約が指摘されている。主なものとしては以下が挙げられる。

    【複数目的旅行者の取り扱い】

    複数目的旅行者において、当該レクリエーションサイトへの旅行が主目的である場合は、

    ホームベース・トリップ(目的地が1ヵ所であるようなトリップ)、従目的である場合はノ

    ン・ホームベース・トリップ(目的地が複数あるトリップ)として扱うのが望ましい。す

    なわち、旅行費用の算定において、ホームベース・トリップの場合は居住地との往復費用、

    ノン・ホームベース・トリップの場合は前後の場所との移動費用を計測することになる。

    なお、着地点調査ではレクリエーションサイトに来る前と後の場所を追加的に質問すれば

    よいが発地点調査でこのようなトリップ調査を行った場合には、仮定の質問となるため回

    答の信頼性は着地点調査に比較して相対的に低くなることに留意することが必要である。

    【長期滞在者の取扱い】

    複数目的旅行者と同様の取扱いであるが、滞在地が確定しているので、発地点調査でも

    分析可能である。

    【代替施設の取扱い】

    研究レベルでは、代替施設を考慮したモデルの構築が試みられているが、実務レベルへ

    の適用は今後の検討課題である。

    【子どもの取扱い】

    自分の意思でレクリエーションサイトにこられない子ども(およそ小学生以下)の取扱

    いについて、研究レベルでは同伴保護者の価値に含めて計測する方法が検討されているが、

    実務レベルへの適用は今後の検討課題とする。

    また、自分の意思で訪れることのできる子ども(およそ中学生以上)については、大人

    と同様に一人の個人として扱う。これに伴って子どもの期間価値の設定に問題が生じるが、

    当面、大人の時間価値に一定比率を乗じて与えることとする。

    【移動中に発生する旅行費用以外の費用等】

    これについても諸説あるが、一般的には交通費以外の出費は便益の算定から除外する。

    なぜならば、移動中に発生する旅行費用以外の費用は主に飲食等であるが、これらは対象

    とするレクリエーションサイトへのトリップを行わない場合でも発生する費用であるため

    である。

  • -90-

    2-3 TCMの実施手順

    2-3-1 既存統計等を利用する場合の手順

    1)TCMの構成

    TCMの調査実施手順を下図に示す。

    まず評価対象とするレクリエーションサイトがもたらす便益の及ぶ範囲を想定し、これ

    を評価対象となったレクリエーションサイトへの旅行費用がほぼ同じ地域をまとめるな

    どしていくつかのゾーンに区分する。次に、既存資料等を参考に各ゾーンから評価対象と

    なったレクリエーションサイトへの訪問率を求める。それと同時に、各ゾーンからそのレ

    クリエーションサイトへの旅行について把握しておく。旅行費用と訪問率が分かれば、需

    要曲線を描き便益を算定することが可能となる。

    参図2-2 TCMの実施手順

    2)データの収集

    TCMによって便益を評価するためには、対象となるレクリエーションサイトの利用状

    況すなわち発地別の利用者数を把握する必要がある。対象とするレクリエーションサイト

    に関して既在の利用状況調査があれば、これを用いることが望ましい。そのようなデータ

    が存在しない場合には、既存の統計を用いるか、新たにアンケート調査を実施することが

    必要となる。

    利用可能な既存統計としては、まず各都道府県で実施している観光動向調査が挙げられ

    るが、これは都道府県によって調査形式が異なり、また観光地別に発地別利用者数を把握

    している例は少ない。

  • -91-

    3)調査範囲の設定とゾーニング

    調査範囲は、基本的には評価対象とした環境財の便益が及ぶ範囲とすることはCVMの

    場合と変わらない。

    TCMでは、旅行費用と訪問率との関係を把握することが最も重要であるため、旅行費

    用がほぼ同じであるような隣接した市町村や地区等をまとめ、複数のゾーンに区分するこ

    ととなる。またここでは既存の訪問者データによるゾーニングと整合をとることが必要で

    ある。

    各ゾーンから評価対象のレクリエーションサイトへのアクセス条件については、一般的

    には各ゾーンの中心地からの行程を設定し、距離、所要時間、高速料金等の諸費用を整理

    しておく。

    参表2-1 ゾーンからの距離と時間のまとめ(片道)

    4)各ゾーンからの訪問率の推定

    既存資料等に基づき、評価対象のレクリエーションサイトへの入込数を把握する。これ

    を各ゾーンの人口で除し、ゾーン別の利用頻度を求める。このとき、期間は1年をとるこ

    とが多い。

    このとき利用頻度は、ゾーン別年間の単位人口(たとえば千人)当たり訪問客数となる。

    人口は基本的に国勢調査データを用いる。

    参表2-2 ゾーン別訪問客の推定

    5)各ゾーンからの旅行費用の算定

    各ゾーンからレクリエーションサイトへの旅行費用は所要費用と、時間価値に所要時間

    を乗じて求めた時間費用との和(これを「一般化費用」と呼ぶことがある)として定義す

    る。通常は滞在費を含まない。

  • -92-

    6)需要曲線の推定

    環境整備がもたらす消費者余剰の増加分を求めるため、需要曲線を推定する。需要曲線

    とは、旅行費用による需要の変化を表すものであり、具体的には旅行費用と利用頻度との

    関係を表す「一次需要曲線」をまず求め、これをもとにして評価対象のレクリエーション

    サイトについて仮想的な利用料を設定した場合の利用料と利用者数との関係を示す「二次

    需要曲線」を求める。

    一次需要曲線は、5)で求めたゾーン別の旅行費用と4)で把握したゾーン別利用頻度

    との間の関係を表すものである。関数形は自由に選んでよいが、既存事例では下記のよう

    な対数関数曲線あるいはべき関数曲線が採用されている例がみられる。

    なお、関数形を当てはめるに当たっては、前述の定数k(労働とレクリエーション活動

    の時間価値の比率を表す定数)を複数ケース設定し、それぞれについてもっとも相関が高

    い関数形を求めておくことが望ましい。

    【対数関数曲線の例】

    【べき関数曲線の例】

    参図2-3 一次需要曲線のイメージ

  • -93-

    二次需要曲線は、消費者余剰を求めるために作成するものである。海岸環境を享受する

    に当たっては、一般的には利用料等を支払う必要はないが、仮に利用料を徴収するとした

    場合、設定した利用料とその金額を支払う利用者数との積が消費者余剰を表すと考えられ

    る。

    この考え方に基づき、上で求めた一次需要関数を用いて旅行費用の項に複数の仮想の利

    用料を代入し、各利用料に対応する利用者数を求める。具体的には、設定した利用料の金

    額別に、ゾーン毎利用者数を推計し、その合計値として総利用料の金額別に、ゾーン毎利

    用者数を推計し、その合計値として総利用者数が求められる。

    ここで重要となるのは仮想の利用料の設定方法である。特に、最高額の設定には注意を

    要する。例えば、あまりに高額の利用料を設定することは、評価対象のレクリエーション

    サイト以外の旅行目的を持っている可能性があるなど、調査の主旨と整合しなくなる場合

    がある。このため需要関数を描くに当たっては利用者数の上位数%を裾切りするなどの方

    法を採ることがある。具体的には既存事例等を参考に検討をすることが必要である。

    最高額以外の金額は、需要曲線を描きやすいように、適当な幅を持って設定する。

    参表2-3 需要量の設定方法(例)

    参図2-4 二次需要曲線のイメージ

  • -94-

    7)消費者余剰の算定

    消費者余剰は二次需要曲線の積分値として求められる。関数形が単純な場合には面積積

    分を行うことも考えられるが、簡易的な方法としてはグラフを直線近似して設定した仮想

    的な料金の区分毎の消費者余剰を把握し、その合計値として総額を求めることもよく行わ

    れる。

    事業が有りの場合と無しの場合とで、それぞれ消費者余剰を求め、その差を事業の便益

    とする。年便益が求められたら、社会的割引率を乗じて評価期間の累積値を求め、総便益

    額を算定する。

    参表2-4 簡易的な消費者余剰の計算方法

    2-3-2 アンケート調査を実施する場合の手順

    利用できる既存の統計(観光動向調査、水辺の国勢調査、その他の調査報告書等)を用い

    ることが困難な場合、アンケート調査を行ってデータを収集する方法もある。

    1)アンケート調査方法の種類

    発地点調査は、居住地において消費者の行動を調査する方法であり、一方、着地点調査

    は評価対象とするレクリエーションサイトにおいて調査する方法である。

    発地点調査とは効果が及ぶと考えられる範囲に居住する市民に対して郵送あるいは訪問

    面接等を行い、評価対象のレクリエーションサイトへの訪問意思を尋ねるものである。将

    来的に実施するプロジェクト等についても評価が可能等メリットがある一方で、調査範囲

    を設定しなければならず、また一般的に着地点調査と比較するなどしてデータ収集の効率

    は良くない。

    着地点調査は評価対象とするレクリエーションサイトにおいて来訪者に面接調査を行う

    ものである。データ収集の効率は発地点調査よりよく、来訪者の居住範囲も容易に把握す

    ることができるが、現存する環境しか評価することができず、また調査日(季節、曜日等)

    により結果が左右される可能性がある。

  • -95-

    参表2-5 発地点調査と着地点調査の特徴

    発地点調査 着地点調査

    調査対象者 対象地域住民の一部 調査当日における評価対象のレクリ

    エーションサイトへの訪問者

    データ収集方法 郵送、訪問面接等によるアンケート調

    評価対象のレクリエーションサイト

    の場所における面接調査を実施

    備考 未整備の評価対象のレクリエーショ

    ンサイトに対する評価が可能

    2)調査の範囲の設定

    発地点調査の場合、既存レクリエーションサイトの利用状況を参考にして、利用者の居

    住する範囲を含む地域に設定するのが現実的である。

    3)サンプリング

    データ収集の基本的な方法は住民基本台帳からの無作為抽出である。

    ここで注意すべきは、CVMが世帯の支払意思額に関する調査であったのに対し、TC

    Mでは個人の旅行費用をベースとする手法であるという点である。すなわち、単身者が1

    人で旅行する場合と4人家族が全員で旅行する場合とでは、世帯の全体としての旅行費用

    が大きく異なることなどのため、TCMでは個人を単位とした調査方法をとることが多い。

    サンプル抽出のデータソースとしては、可能な限り住民基本台帳を利用することが望ま

    しいが、何らかの制約によってこれが困難な場合の代替案としては、母集団の有する特性

    とサンプルの特性の間にズレが生じること、データが古い可能性が高いこと等に留意しな

    ければならない。TCMにおいては、性別、年齢、職業等の個人属性に偏りがないよう留

    意する必要がある。

    4)アンケートの設計

    アンケート調査では、回答者の住所、利用頻度、交通費を把握することが必要である。

    経済的な質問事項は以下のようなものとなる。

    ○評価対象のレクリエーションサイトの認識度、利用経験

    ○評価対象のレクリエーションサイトの利用頻度、主な利用目的、平均滞在時間

    ○評価対象のレクリエーションサイトまでの主な交通手段(所要時間、所要費用)

    ○評価対象のレクリエーションサイトへの平均同伴人数

    ○回答者の属性(性別、年齢、住所、職業、年収)

  • -96-

    5)配布・回収

    アンケートの配布・回収の主な方法には面接と郵送がある。

    着地点調査(現地面接調査)には、その場で回収する方法と後日郵送回収する2つの方

    法がある。前者は必要なサンプル数を確保することが容易であり、郵送コストもかからな

    い。後者は、回答者がその場で回答することが難しい質問項目が含まれている場合などに

    は帰宅して確認した後に記入してもらえる利点があるが、環境整備に係るTCMではその

    ような質問は少なく、サンプル数確保の容易さやコストの面で、前者には及ばないと考え

    られる。

    発地点調査には郵送、訪問配布・郵送回収、郵送配布・訪問回収、訪問面接のいずれの

    方式も適用可能である。これらの得失についてはCVMでの内容を参照されたい。

    アンケートの回収率が著しく低水準にとどまった場合、一般的には調査結果に対して信

    頼性が得られない。

    郵送形式の場合、アンケート用紙の回収率を上げるために、「内容を分かりやすくする(短

    い文章、イラストの利用)」や「調査票の分量を少なくする」などの工夫が考えられる。

    回収率については地域やアンケートの内容によりバラツキ生じるので、類似調査事例等

    を参考に設定して配布数を決定する。

    6)調査の期間

    郵送を伴う場合、回答者の記入のための時間をとることが必要となる。一般的には、配

    布と回収の間に週末(土、日)を2回挟むことが適当といわれている。なお、締切日間近

    あるいは締切日を過ぎても到着しないものについては電話または郵送等により督促を行う

    ことも検討する。督促を行う場合には、回答者の心情に十分配慮し、協力が得られるよう

    に注意すべきである。

    なお、調査時期によっては結果が変動する場合があると考えられるため、調査時期につ

    いて報告書に記載することが重要である。

  • -97-

    参考3.確率波高の解析結果の例

    参図3-1 確率波高の解析結果(例)

    参考4.観測値がある場合の確率潮位偏差の解析結果の例

    参図4-1 観測値がある場合の確率潮位偏差の解析結果(例)

  • -98-

    参考5.高波高の経時変化観測の例

    参図5-1 高波高の経時変化観測(例)

  • -99-

    参考6.レベル湛水法の考え方

    ①H-Ⅴ曲線の作成法

    想定浸水地域における各メッシュの地盤高データを用い、その最低地盤高から△H20cm)のき

    ざみ幅で水位を上昇させたときの各水位Hに対する湛水量Vを求める。

    ②H-Ⅴ曲線から浸水位の算定

    総越波量または、総越流量がそのまま想定浸水地域に湛水するため、H-V曲線から逆に湛水

    量(総越波量文は総越流量)に対応する水位(H)を設定できる。これが浸水位{H≧G(最低)}

    となる。浸水深はこの水位Hから各メッシュの地盤高を差し引くことで求められる。

    参図6-1 H-V曲線と浸水位イメージ

  • -100-

    参考7.再現確率年毎の湛水(浸水)高さ平面図の例(10年確率の再現確率に対する浸水地域)

    参図7-1 再現確率年毎の湛水(浸水)高さ平面図(例)

  • -101-

    参考8.治水経済調査マニュアル(案)の被害率表

    参表8-1 治水経済調査マニュアル(案)の被害率表

    出典:治水経済調査マニュアル(案)(H12.5、建設省河川局)

    参考9.イギリスにおける海水と淡水の被害比較

    一海水と淡水の浸水被害の比較-

    (イギリスの海岸整備効果測定マニュアルの例)

    1)海水の浸水による被害について

    ・淡水と比較した、海水の浸水による付加的被害は、水中の塩分,砂,シルト(細粒の土粒子)、

    汚染物等によるものがある。

    ・これらの被害について、イギリスの海岸整備効果測定マニュアル(The Economics of

    Coastal Management)では、淡水による被害額に乗じる係数を用いて海水による浸水被害額

    評価を施設別,地上高別,浸水時間別に設定している。これらの係数は各鑑定士が過去の被

    害事例をもとに設定している。

    ・下表に地上高別施設別の海水による被害係数(淡水による被害額に乗じる係数)を示す。

    参表9-1

    浸水深等の規模資産種類等 50cm未満 50~99cm 100~199cm200~299cm 300cm以上

    Aグループ 0.032 0.092 0.119 0.266 0.580 0.834Bグループ 0.044 0.126 0.176 0.343 0.647 0.870Cグループ 0.050 0.144 0.205 0.382 0.681 0.888

    家庭用品 0.021 0.145 0.326 0.508 0.928 0.991償却資産 0.099 0.232 0.453 0.789 0.966 0.995在庫資産 0.056 0.128 0.267 0.586 0.897 0.982償却資産 0.000 0.156 0.237 0.297 0.651 0.698在庫資産 0.000 0.199 0.370 0.491 0.767 0.831

    農漁家

    家 屋

    床下浸水床上浸水

    事業所

  • -102-

    2)各施設別の、海水浸水被害の内容

    [家屋・事業所]

    ・外壁

    ブロック工は塩分により表面が腐食し、崩壊までの時間が早くなる。

    モルタルは、成分の砂や石灰が塩分により腐食が早まる。

    金属製の部分(窓枠、ドア等)は表面が腐食する。

    外部の塗装は塗りムラの部分に海水が入り、乾燥しても塩分が残るので塗装が水膨れを起こ

    す。

    ・内装

    塗りムラの部分に海水が入り、乾燥しても塩分が残るので塗装が水膨れを起こす。

    ・床と建設具類

    塩分が乾燥を妨げることによる木材の被害が大きい。

    ・漆喰工

    海水は淡水よりもよく浸透する。古いセメントの場合セメント砂と硫酸化カルシウムが反応

    し表面が軟化し流れ落ちる。

    ・庭、フェンス、小屋

    フェンスと小屋に関しては、海水による付加的なダメージはない。庭の植物は、短期間で浅

    い浸水でも塩水によってほとんどが死滅する。

    ・家庭用電化製品

    電気設備同様、塩水は鉄の酸化を早める。シルトや泥、砂があるときれいにして再び使用す

    ることが困難になる。

    ・オーディオ・ビデオ

    真水でも使えなくなってしまうので、塩水による付加的なダメージはない。

    ・家具

    塩や泥、砂、シルトの量に応じて真水よりも被害が増大する。スプリング等の金属は酸化す

    ることで更に被害が増大する。

    [公共土木施設]

    ・舗道と舗装路

    短期間では塩水による付加的なダメージはない。長時間深い浸水をしていた場合は、水圧に

    より徐々にコンクリート内部に塩水がしみるため鉄筋をさびさせる被害が生じる。

    [公益事業]

    ・鉛管・電気設備

    塩水や塩の残留分により酸化が早まるため被害が大きい。

  • -103-

    参考10.任意地震の再現期間の推定

    想定地震の再現期間は次式により求めるものとし、式中の各パラメータは次表に示す値を用い

    る。次表は、各地帯構造区分における既往地震マグニチュードの各確率分布関数の局地統計解析

    結果である。

    参表10-1 再現期間推定式中の各係数

    地震構造区分 分布関数 K A B 統計年

    Y データ数

    ND

    G Weibull 3.00 1.640 5.648 388 106

    H,I Weibull 2.00 1.221 5.803 394 27

    P Weibull 4.00 2.575 5.051 639 29

    F Weibull 6.00 4.462 2.464 355 28

    ※G,H,I,P:太平洋沿岸 F:日本海東縁部 (平成10年度 港湾海岸事業評価検討調査報告書)

    任意の地震規模の再現年Rは次式(1)により算出される。

    ・・・・・(1)

    A,B,K,Y,ND:前表に示される値

    M:地震マグニチュード

    各地体構造区分における想定地震規模の再現年は次表となる。

    参表 10-2 極値統計解析に基づく各地体構造区分の地震再現年

    R=1

    NDY

    exp[  ]AM-B k-R=

    1

    NDY

    NDY

    exp[  ]AM-B k- AM-B kAM-BAM-BAM-B k-

    日本海

    G 東縁部(G1,G2,G3) F

    6.5 4.1 6.5 12 15 20 24 4.5 226.6 4.4 6.8 12 16 22 25 4.8 246.7 4.6 7.3 13 17 25 26 5.1 266.8 5.0 8.0 14 19 28 27 5.5 296.9 5.5 8.8 15 21 33 29 6.0 337.0 6.1 9.9 17 24 38 31 6.7 387.1 7.0 11 19 28 45 33 7.5 457.2 8.1 13 21 35 54 36 8.6 537.3 9.5 16 24 46 66 39 10 647.4 11 19 28 63 81 44 12 797.5 14 23 34 93 101 50 15 1007.6 18 28 41 150 127 58 18 1307.7 23 36 50 266 163 68 23 1737.8 31 45 64 525 212 81 30 2367.9 43 59 82 1178 278 99 39 -8.0 61 78 108 3066 371 123 53 -8.1 89 104 146 - 502 157 75 -8.2 135 142 201 - - 206 108 -8.3 211 - 285 - - 278 160 -8.4 343 - 415 - - 385 244 -8.5 577 - 620 - - - 383 -

    マグニチュード

    再 現 年 (R)太平洋沿岸

    G1 G2 G3 H2,I P 全体