技 術 論 文 tigmigハイブリッド溶接の開発と実用 …...development of a tigmig...
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技 術 論 文
モーターサイクルの車体フレームの接合には、継手設計の
自由度、および接合強度の観点からアーク溶接が広く用いら
れている。アルミ車体フレームの場合、一般的に適用される
アーク溶接工法は固定電極方式のTIG溶接と、消耗電極方式
のMIG溶接がある。TIG溶接の特長はその美麗な溶接ビード
外観や、入熱に対する溶着金属量の調整幅にあり、MIG溶接
の特長は高速性や合面精度に対する許容度にある。ヤマハ発
動機では量産フレームのロボット溶接に後者を採用している
(図1)。
図 1 フレームのロボットMIG 溶接の模様
しかし、比較的許容度の高いMIG溶接であっても、ロボット
施工においては要求品質を100%満たすには至っておらず、
現状ではハンドTIG溶接による補溶接(以下、手直し)を定常
工程とせざるを得ない。手直しの原因となる各種の溶接不良
現象には、部品精度・ロボットの軌跡精度・アークの安定性な
ど多様な要因が複合的に絡んでおり、日々様々な改善が進め
られているものの、アルミフレームの溶接において手直しを
必要としない手法は確立されていない。それは、前述の各種
バラツキ要因の他に、解決しなければならないMIG溶接の原
理的な課題があるためである。
本稿では、このMIG溶接の原理課題に対する設備側からの
アプローチとしてTIGMIGハイブリッド溶接工法を開発すると
ともに、それを実機生産に適用した際の手直し削減効果を評
価した結果について述べる。
2 アルミMIG溶接の原理的な課題アルミ材料は熱伝導率が高く、溶接加工点への入熱は急
速に周囲へと拡散していく。鉄と比較して融点の低いアルミの
溶接において、鉄溶接よりも高いアーク熱量が求められるの
はこのためである。アルミMIG溶接の特徴は、溶着金属ワイヤ
TIGMIG ハイブリッド溶接の開発と実用化Development of a TIGMIG hybrid welding process for aluminum chassis welding application
阿曽 秀明
当論文は、日本プラントメンテナンス協会(JIPM)の 2013 年度 TPM 優秀論文賞を受賞した内容に基づくものです。
要旨
モーターサイクルのアルミ車体フレーム溶接をロボット施工する際、種々の要因で「手直し」と呼ばれるハンド修正が行わ
れる。本研究ではこの手直しの削減を目指し、アルミ MIG 溶接に共通する原理課題である、溶接始点の溶け込み不足に着
目した。
TIG アークによる事前溶融池形成を行うTIGMIG 複合プロセスを検証し、複雑な形状の車体フレームに適用できるコンパク
トなハードウェアの開発と、安定生産のための施工条件作り込みを行うことで、オンロードモデルにおいて 68% の手直し工数
ロス削減が実現した。
Abstract
Arc welding is a widely used method in motorcycle chassis construction, from its joint strength and design/application
flexibility. Though, in a mass-production robot process of a complex shaped chassis welding, there has always been a
need for re-work by hand, due to multiple reasons, including lack of start-point penetration in MIG welding.
This project focused on this start-point penetration, and developed a TIG/MIG hybrid welding process that forms a
molten pool prior to MIG start, along with a compact tool suitable for motorcycle chassis application. The result was a
68% reduction in re-work time on an on-road type chassis.
1 はじめに
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(以下、ワイヤ)の先端と母材の間でアークを発生させ、ワイ
ヤ先端と母材がともに溶融しながら進行する点にある。すな
わち、アーク熱量とワイヤ送給量はバランスしているため、加
工点に対してアーク入熱のみを加えたり、溶着金属のみを加
えたりすることはできない。
従って溶接部近傍の母材温度が低い時、すなわち溶接開
始点(以下、始点)においては、母材溶融がワイヤ供給に追い
つかないために、溶着金属が母材と融合しない(図2)。この状
態は母材の板厚によって始点から10~15mm程度の溶接長
に渡って継続し、溶接強度の低下を招くだけでなく、過度に凸
形状となった始点ビード端部への応力集中の原因となる。溶
接構造一般においては、このような品質不良部位を溶接後に
製品から切除する手法が用いられる。しかしモーターサイク
ルの車体フレームは多くの場合、閉断面の全周溶接構造であ
るため、加工後に切除する方法は採用できない。そのため、始
点ビードの凸形状をハンドTIGで炙ることにより、なだらかな
形状に修正する「手直しロス」が生じる。
図 2 従来MIG 溶接始点のビード外観と溶け込み
3 始点品質向上のためのハイブリッド溶接
3-1.既存ハイブリッドMIG溶接の種類と特徴
前章で述べたように、MIG溶接の原理課題は始点に充
分な母材溶融プールが形成されないことによる溶け込
み不良にある。つまり、溶着金属を供給せずに熱のみを
母材に与えることができる付加熱源を用いれば、始点か
ら母材に充分な溶融プールを形成することが可能である。
MIG溶接に付加熱源を与える考えは従来から存在し、目的
に応じてTIGアーク/プラズマアーク/レーザなどが使い分けら
れている(図3)。しかし多くの場合、そのトーチサイズの大きさ
により狭小部への進入が求められるフレーム溶接への適用は
困難である。
TIGMIGハイブリッド
プラズマMIGハイブリッド
レーザMIGハイブリッド
開発の狙い 薄板TIGの高速化 MIGの高溶着化 MIGの高溶着化(用途) (薄板SUS) (厚板、船舶など) (中厚板、自動車・船舶など)
始点溶け込みへの有効性 ○ △ △
(付加熱の集中性不足) (付加熱の集中性過多)
フレーム溶接への適用 × × ×
(トーチサイズ) (トーチサイズ) (トーチサイズ)
図 3 各種ハイブリッドMIG の特徴
3-2.始点溶け込み向けTIGMIGハイブリッドの原理
通常「TIGMIGハイブリッド」呼ばれる工法は、MIG溶接加
工点に付加熱量を加えることで速度と溶着量を向上させる
ことが目的であるが、ここでは前述の「初期溶融プール形成」
にTIGアークを用いる工法について述べる。まず、MIGアーク
のシールドガス雰囲気中にTIGのタングステン電極を挿入し、
MIGスタート直前にTIGアークにより溶融プールを形成する
初期実験を行った(図2)。その結果、以下2点が確認された。
・TIGアークを消弧した直後にMIGアークに点弧すると、凝
固した後のTIG溶融プール上にMIGビードが形成され、始
点ビードと母材は融合しない(図4a)。
・TIGアークを消弧する前にMIGアークを点弧することで、
定常溶接部と同等の溶け込みとビード高さを始点から得
られる(図4b)。
図 4a TIG 消弧後にMIG スタート
図 4b TIG 消弧前にMIG スタート
3-3.生産適用可能な複合トーチの開発
3-3-1.トーチヘッドのコンパクト化
初期実験では、ブラケットを介してMIGトーチとTIGトーチ
の両方をロボットに装着した(図5)。しかしこれでは、製品や
拘束治具の奥まった狭所への適用が困難である。そこで、TIG
とMIG両方の電極を持ちつつ可能な限りコンパクトな複合
トーチを新たに製作した(図6)。複合トーチの特徴としては、
TIGMIG ハイブリッド溶接の開発と実用化Development of a TIGMIG hybrid welding process for aluminum chassis welding application
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Development of a TIGMIG hybrid welding process for aluminum chassis welding application
TIG電極ホルダー(ⅰ)をMIGガスノズル(ⅱ)のサイドにマウ
ントして、TIGパワーケーブル(ⅲ)およびTIGガスホース(ⅳ)
をMIGトーチネックの外部に這わせている点があげられる。
TIGパワーケーブル端子はTIG電極ホルダーの上部に直接取
り付けられ、TIGガス経路はノズル先端付近でMIGガス経路と
合流する。この構造により、互いに絶縁された2つの電極への
給電構造と2つのシールドガス経路の簡素化を図った。さらに、
従来MIGトーチとの互換性を確保できるため、従来MIGロボッ
ト設備を大きく改造することなくハイブリッドトーチを使用す
ることが可能となっている。
図 5 初期実験に用いた試作トーチ
図 6 小型化を図った複合トーチ
3-3-2.TIG電極メンテナンス工数への対応
母材とワイヤ先端の間でアークを発生させるMIG溶接の
銅製給電チップ(以下、チップ)自体には、アーク熱による消耗
は起きず、主にワイヤとの摺動によりチップ内径が過大にな
ることで交換が必要となる。すなわち、チップ寿命は比較的長
く、生産ラインのロス工数としての影響度は低い。その一方
で、TIG電極それ自体がアークの発生点であるため、高融点の
タングステン製であるにも関わらず溶融・蒸散によって消耗し、
生産中に定期交換が必要となる。これはTIGMIGハイブリッド
においても同様で、TIG電極を備えたために従来MIGにはな
かったロス工数を生むことになる。そこで、電極寿命および交
換工数の2つの観点でこの電極交換ロスを抑制した。
電極寿命に対しては、アルミ溶接に通常用いられる交流
TIGと比較して電極消耗の少ない直流TIGを用いることで寿
命アップを図った。通常、電極が常時マイナス電位となる直流
TIGでアルミを溶接することはできない。これは、アルミ溶接に
は電極がプラス電位のアークが持つ酸化膜クリーニング作用
が必要なためである。しかし、TIGアークで始点に溶融プール
を形成しその上にMIGアークを放つ本工法においては、プー
ル上の酸化膜はMIGアークのクリーニング作用で除去され、
母材と溶着金属の融合に影響を与えないことが分かった(図7)。
図 7 交流 TIG( 左 ) と直流 TIG( 右 ) の場合の溶け込み比較
交換工数に対しては、TIG電極およびトーチネック外部を
這うTIGパワーケーブルの固定機構に工夫を施すことで対応
した。TIG電極の交換には、電極の着脱の他に電極先端位置
の突き出し量調整作業も必要となる。そこで、電極の固定と給
電を兼ねるコレットボデーを着脱式とすることで突き出し調
整作業を外段取り化するとともに、コレットボデーのトーチへ
の固定にはバヨネット機構を用いた。さらに、TIGパワーケー
ブルの端子をC型の開放形状とし、バヨネット機構のバネ反
力を一部利用して摩擦固定する方式をとることで、片手での
容易なTIG電極・パワーケーブル着脱を実現しつつ、トーチ
サイズを抑制することができた(図8)。その結果、TIG電極交
換工数は、内段取り・ネジ式固定の3.4分/回に対して1.0分/
回まで削減された。元々の従来MIGにおいても、溶接長にし
て1000mm程度の使用でノズルに付着したスパッタの清掃
(0.5分/回)が必要になるため、ノズル清掃と同時に電極交
換を行えば、停止ロス増を最小限に抑えることができる。
TIGMIG ハイブリッド溶接の開発と実用化
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図 8 バヨネットを応用した片手での TIG 電極着脱機構
3-4.安定生産のための施工条件開発
3-4-1.溶接始点ビード品質の安定化
ハイブリッドトーチ開発の初期段階においては、始点ビー
ド品質が安定しないことが多かった。乱れのパターンには2
つあり、ビード表面が酸化物に覆われる外観不良と、ビード形
状の乱れであった。
前者の根本原因は、TIG電極をマウントした異形MIGノズ
ル形状にあり、MIGガス経路にTIGガス経路が合流する際に
シールドガスが乱流化されることが、シュリーレン撮影の結果
明確になった。異形ノズルからシールドガスを安定供給する
ために、ノズル形状の作り込みとTIGMIG各シールドガス経路
の流量バランスを調整した。(図9a,b,c)。
図 9a シールドガス経路仕様の変遷
図 9b シュリーレン撮影でのガス流観察の例
図 9c シールド性対策結果
後者はTIGMIGアークの相互干渉に起因するものであっ
た。3-2で述べたように、始点からの充分な融合を得るには
TIGMIGの両アークが同時にONしている期間が必要である。
この時、逆極性のTIGMIGアークはそれぞれ反発し合う。この
相互作用時にMIG溶滴が溶融プールの外に弾き出されてい
ることが直接の原因であると予想された。相互作用は2電極の
挟み角を広げることで緩和できるが、挟み角拡大はトーチサ
イズとのトレードオフとなる。従ってまずは、MIGアークを点弧
する直前にTIGアーク電流を数十アンペアまで降下させること
でアーク相互作用の影響の低減を図ったものの、効果として
は不充分であった。
続いて、始点ビード形状に大きく影響するMIG初期溶滴の
移行形態に着目した。通常MIGのアーク点弧は、母材にタッチ
させたワイヤ端と母材の間の微小スパークをきっかけにアー
クを誘引する。これに対し、TIGアーク中のMIGスタート時に
は、TIGアークによる空間電位の変動によりワイヤ端が空中
にあるにも関わらず母材短絡したとMIG電源が判断する。ま
た、TIGアークがMIG点弧の着火材のように作用し、空中にあ
るMIGワイヤ端からアークが発生することなどが、高速度撮影
による観察から分かった。つまり、MIGの初期溶滴の落下開始
位置が高いために、母材へと落下するまでの間にTIGアーク
からの反発を受ける時間が長くなり、大きく軌道を反らす要因
となっていた(図10a)。これを対策するためには、スタート時
にMIGワイヤ端が必ず母材から1~2mmの低い位置にあるよ
うに制御する必要がある。ワイヤ端調整には一般的にワイヤ
カッターが用いられるが、アークスタート毎にワイヤカッター
まで移動していてはロボットの空走時間を増やすことになる。
そこで、TIGアーク点弧の前にMIGワイヤを空送りして母材短
絡させ、そこから一定時間リトラクトさせることで、母材とワイ
ヤ端の距離を短く一定に保つ動作を行うようにした。このよう
にスタートシーケンスに工夫を施すことで、安定した初期溶滴
移行と良好なビード形状を得ることができた(図10b)。
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図 10a TIG アークにより弾かれる初期溶滴とその時のビード外観図
図 10b 対策後の初期溶滴落下とその時のビード外観
3-4-2.TIG点弧性向上への取組み
TIGMIGハイブリッドによる連続生産にあたって直面した問
題のひとつに、TIG点弧不良によるチョコ停があった。ここでは
チョコ停のない安定稼動を目指して行った施策について述べ
る。
本工法でのTIG電極は、常にMIG加工点からのスパッタに
さらされており、使用に伴い表面にタングステンとアルミが合
金化した層が形成され(図11)、点弧性を悪化させる。これは
TIG電極の格納機構などを設ければ回避できるが、それによ
りトーチサイズが肥大化してはフレーム溶接に適用できない。
そのため、前述のようにノズル清掃と同期した電極交換を行う
運用方法を当初より検討していたものの、ノズル清掃タイミン
グより先に点弧不良が発生する頻度が高く、ラインの安定稼
動を妨げる原因となった。
図 11 TIG 電極へのスパッタ付着による合金層の形成
TIGアークは母材・電極間の空間絶縁破壊を行うことで点
弧されるのが一般的である。絶縁破壊の方法には、高周波を
用いる方法と直流高電圧を用いる方法の2つがある。TIGMIG
各電極の近接配置を避けられない本工法では、MIG電源やロ
ボットへの高周波ノイズ流入防止が困難であることから、直流
高電圧スタート方式のTIG電源を採用した。そこで点弧性向
上策としては、電圧をそのままに絶縁破壊性能を高める方法
と、4.5kVに達する直流高電圧出力を加工点まで分流損失な
く伝達する方法の2通りを検討した。
電極間の火花電圧の指標として参照したパッシェンの法則
によると、平行な平板電極間で火花放電の生じる電圧は、ガ
ス種およびガス圧と電極間隔の積の関数であることが示され
ている(図12)。対象が平板ではなく尖った電極であることか
ら火花電圧の絶対値は異なってくるものの、大気圧下・電極
~母材間距離(以下スタンドオフ)2~5mmの間では、標準的
なシールドガスであるArよりもHe雰囲気の方が火花電圧を
下げることが期待できる。TIGMIGハイブリッドはシールドガス
を2系統持っているため、例えばTIGアーク点弧時のみTIGノ
ズルからHeを供給することも可能である。しかし、後述のよう
に直流高電圧の分流損失に関する調査を行ったところ、Heガ
スによる火花電圧の降下は対策として不適当であることが分
かった。
図 12 パッシェンの法則が示す火花電圧の特性
暗所での観察と高電圧プローブでの測定の結果、トーチ構
造内でのスパーク(図13a)をきっかけにTIG電極に印加され
る電圧が低下していることが観測された(図13b)。
図 13a 高電圧印加時に絶縁層を飛び越えるスパーク
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図 13b スパーク発生時の TIG 電極への印加電圧
スパークによる分流損失を抑制するには、絶縁を強化する
方法と、分流経路を遮断する方法が考えられる。絶縁を強化
していくと、次々と違う箇所からのスパークが起き、最終的に
はAr雰囲気中にてTIG電極からMIGワイヤへとスパークする
ようになる(図13c)。つまり、He雰囲気を用いて火花電圧を下
げても、スパークによるMIG溶接回路への分流を促進するだ
けで、TIG点弧性の向上には繋がらない。
図 13c TIG 電極からMIG ワイヤへのスパーク
次に、多岐に渡る分流経路のうち最も影響の大きいMIG溶
接回路を、TIG点弧時にのみ大容量リレーで遮断する機構を
組み込んだ(図14a)。また、TIGスタート成功時は必ず電圧印
加から0.3秒以内に点弧していることと、リトライ回数が多い
ほど点弧成功率は上がることから、TIG点弧の際の高電圧印
加を0.3秒周期で高速リトライするスタートシーケンスとした
(図14b)。
図 14a MIG 回路遮断機構
図 14b 高速リトライシーケンス
これらの対策の結果、TIG点弧性は著しく向上し、それはス
タンドオフ余裕度として表すことができる(図14c)。スタンドオ
フ7mmまでは1秒以内に点弧する確率が100%で、TIG電極
とMIGワイヤの間隔は8mmである。つまり、TIG電極消耗と製
品バラツキから想定されるスタンドオフ2~5mmの範囲では、
MIGワイヤへのスパークを起点にした分流損失によるTIG点
弧不良は発生しないことになる。
図 14c MIG 回路遮断機構による点弧性改善
4 実機生産への適用4-1.TIGMIGハイブリッド溶接による効果
ここでは、あるオンロードモデルのフレーム生 産に、
TIGMIGハイブリッド溶接を適用した結果について述べる。こ
のフレームは2点の大物鋳造部品で構成され、溶接始点は4
箇所である。効果測定の指標として、2回に分けておよそ700
台を生産する間の手直し長さ(ハンドTIGでビードを引いた長
さ)および工数(手直しオペレーターがTIGトーチを手に取っ
てから置くまでの時間:溶接ビードの目視検査を含む)を測定
した。
手直し長さの推移を図15aに、手直し工数の推移を図15b
に示す。TIGMIGが手直し量に対して明確なインパクトを与え
ていることが分かる。通常MIGに対し、TIGMIGハイブリッド1
回目の生産検証では平均手直し長さ▲67%、作り込みの進ん
だ2回目の生産検証では▲88%、となった(図15a)。
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図 15a 手直し長さの推移
図 15b 手直し工数の推移
また、平均手直し工数については、TIGMIG1回目では▲
39%、2回目では▲68%となり(図16a)、従来は生産数の80%
以上を占めた1.0~2.0分の手直し発生が1.9%にまで減少した
(図16b)。
図 16a TIGMIG 導入による平均手直し長さの変化
図 16b TIGMIG 導入による平均手直し工数の変化
今回検証を行った国内小規模ラインの場合、配員1名の時
には手直し工数削減がそのままサイクルタイム短縮に繋がり、
およそ14%の溶接コストダウン効果が得られることになる。
この取組みの本質的な課題である「手直しゼロ」の達成率
に関しては、従来MIGでは0%であった割合が、TIGMIGハイブ
リッド検証1回目では1.6%、2回目では30.7%に増加した(図17)。
図 17 手直しレスフレームの割合
4-2.TIGMIGハイブリッド溶接の課題と対策
従来MIGに対して増加するロスとして、TIG電極の交換工
数があることは先に述べた通りである。この他に、アークスター
ト時の各種シーケンスに伴うロボット工数増がある。この工数
増により、手直しを完全にゼロ化して定常工程から排除しな
い限り、導入効果がライン出来高に明確に現れない場合があ
る。具体的には、ライン配員1名での低負荷操業時には平均
手直し工数の削減値と同等のCT短縮効果が得られるのに対
し、配員2名での高負荷操業時にはロボットネックにより僅か
ながらCT増となる。すなわち、TIGMIGハイブリッドのメリット
は、前述したその他手直し要因の改善との相乗効果になって
表れる。
また、本稿ではオンロードモデル1機種に適用した結果につ
いて述べたが、実際の溶接ラインには多種多様な製品形状・
部品構成のフレームが流れる。MIGトーチの汎用性を可能な
限り損なわないコンパクトな複合トーチの開発を目指したが、
トーチ進入性の不足でTIGMIGハイブリッドを適用できない
モデルが複数存在している。TIGMIGハイブリッドの持続的な
運用のためには、製品形状および治具構造・ロボットシステム
等も視野に入れた、総合的な取組みが必要となる。
5 おわりにTIGMIGハイブリッド溶接の効果測定結果は、工法の有効
性を示すだけではなく、始点溶け込みというアルミMIG溶接
の原理課題を取り除いた際に残存する手直し要因とその影
響度を浮き彫りにしている。項目としては、ワーク精度などに
起因する狙いズレの手直しと、鋳造ガスによるブローの修正
などが挙げられる。これらを改善するには製品設計や前工程
からの技術的インプットが必要であり、それら単体の及ぼす
改善効果を定量化することも、本取組みの目指すところである。
溶接始点品質向上のためのTIGMIGハイブリッド溶接は、
工法・設備としては一定の完成度に達した。本格的な生産運
用のためには各種課題が山積しているが、溶接の技術理論
値向上は中長期的視点においては必須であり、効率的なモー
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ターサイクル車体製造を達成するための総合的な取組みの
ひとつの要素として、今後も周辺技術を含めた工法の開発を
続ける。その他、燃料タンクの溶接など、車体フレーム以外へ
の応用も視野に、基礎的な加工技術として根付くように取組
みを継続していきたい。
■著者
阿曽 秀明Hideaki Aso技術本部生産技術統括部生産技術部
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