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1 2014年 9 月30日、三菱重工業株式会社(MHI)および宇 宙航空研究開発機構(JAXA)は、H-ⅡAロケット26号機に よる小惑星探査機「はやぶさ 2 」(Hayabusa2)の打上げ実 施についての発表を行いました。以下に発表された「平成 26年度 ロケット打上げ計画書 小惑星探査機「はやぶさ2」 (Hayabusa2)/小型副ペイロード/ H-ⅡAロケット26号機 (H-ⅡA・F26)」の一部を紹介します。 1.打上げ概要 H-ⅡAロケット26号機により、はやぶさ 2 を所定の軌道に 投入することを目的としています。また、打上げ能力の余裕 を活用して、小型副ペイロード(ピギーバックペイロード) 3基に対して、軌道投入の機会が提供されます。本打上げ は、MHIが提供している打上げ輸送サービスにより実施し、 JAXAは打上安全監理に係る業務を実施することになってい ます。 ・ロケット :H-ⅡAロケット26号機 ・ペイロード(主ペイロード) :小惑星探査機はやぶさ 2(Hayabusa 2 ) ・ペイロード(小型副衛星) :しんえん 2 ARTSAT 2 -DESPATCH PROCYON ・打上げ予定日(日本標準時) :2014年11月30日(日) ・打上げ予定時刻(日本標準時) :13時24分48秒 ・打上げ場所 :種子島宇宙センター大型ロケット第 1 射点 ・海面落下時間帯(打上げ後) :固体ロケットブースタ 約 5 分〜 9 分後 :衛星フェアリング   約10分〜26分後 :第 1 段         約14分〜31分後 2.H-ⅡAロケット26号機概要 H-ⅡAロケット26号機は、打上げ後まもなく機体のピッチ 面を方位角97度へ向けた後、所定の飛行計画に従って太平洋 上を飛行します。その後、固体ロケットブースタを打上げ約 1 分48秒後に、衛星フェアリングを約 4 分10秒後に分離、約 6 分36秒後には第 1 段主エンジンの燃焼を停止し、約 6 分44 秒後に第 1 段を分離します。引き続いて、約 6 分50秒後に第 2 段エンジンの第 1 回目の燃焼が開始され、約11分18秒後に 燃焼が停止されます。慣性飛行を続けた後、約 1 時間39分23 秒後に第 2 段エンジンの第 2 回目の燃焼が開始され、約 1 時 間43分24秒後に燃焼が停止されます。約 1 時間47分15秒後に 所定の地球脱出軌道に「はやぶさ 2 」が投入されます。 この後、ロケットは慣性飛行を続け、約 1 時間53分55秒か H-ⅡAロケット26号機の打上げ計画 H-ⅡAロケット26号機飛行経路 H-ⅡAロケット26号機諸元 全          段 名称 H-ⅡAロケット 26 号機 全長(m) 53 全備質量(t) 2 8 6(ペイロードの質量は含まず) 誘導方式 慣性誘導方式 各          段 第1段 固体ロケットブースタ 第2段 衛星フェアリング 全長(m) 37 15 11 12 外径(m) 4.0 2.5 4.0 4.0 質量(t) 114 1 5 1( 2 本分) 20 1.4 推進薬質量(t) 101 1 3 0( 2 本分) 17 推力(kN) 1,100 5,003 137 燃焼時間(s) 390 100 530 推進薬種類 液体水素/ 液体酸素 ポリブタジエン系 コンポジット 固体推進薬 液体水素/ 液体酸素 推進薬供給方式 ターボポンプ ターボポンプ 比推力(s) 440 283.6 448 姿勢制御方式 ジンバル 補助エンジン 可動ノズル ジンバル ガスジェット装置 主 要 搭 載 電 子 装 置 誘導制御系機器 テレメータ送信機 誘導制御系機器 レーダトランスポンダ テレメータ送信機 指令破壊装置 ※真空中 固体ロケットブースタは最大推力で規定 2014-9 589 MAINICHI ACADEMIC FORUM Inc., 1-1-1 Hitotsubashi, Chiyoda-ku, Tokyo 100-0003, Japan ©2014, Japanese Rocket Society A PUBLICATION OF JAPANESE ROCKET SOCIETY CONTENTS ○ H-ⅡA-26 …………………………………………… 1 ○ Running Feature Article ………………………… 2 ○ Arianespace en mouvement ……………………… 3 ○ 65 th International Astronautical Congress ……… 4 ○ Domestic News ……………………………………… 5 ◯ Overseas News ……………………………………… 6

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    2014年 9 月30日、三菱重工業株式会社(MHI)および宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H-ⅡAロケット26号機による小惑星探査機「はやぶさ 2 」(Hayabusa2)の打上げ実施についての発表を行いました。以下に発表された「平成26年度 ロケット打上げ計画書 小惑星探査機「はやぶさ2」

    (Hayabusa2)/小型副ペイロード/ H-ⅡAロケット26号機(H-ⅡA・F26)」の一部を紹介します。

    1.打上げ概要H-ⅡAロケット26号機により、はやぶさ 2 を所定の軌道に

    投入することを目的としています。また、打上げ能力の余裕を活用して、小型副ペイロード(ピギーバックペイロード)3 基に対して、軌道投入の機会が提供されます。本打上げは、MHIが提供している打上げ輸送サービスにより実施し、JAXAは打上安全監理に係る業務を実施することになっています。

    ・ロケット :H-ⅡAロケット26号機・ペイロード(主ペイロード) :小惑星探査機はやぶさ2(Hayabusa2)・ペイロード(小型副衛星) :しんえん2  ARTSAT2-DESPATCH  PROCYON・打上げ予定日(日本標準時) :2014年11月30日(日)・打上げ予定時刻(日本標準時) :13時24分48秒・打上げ場所 :種子島宇宙センター大型ロケット第1射点・海面落下時間帯(打上げ後) :固体ロケットブースタ 約 5 分〜 9 分後 :衛星フェアリング   約10分〜26分後 :第1段         約14分〜31分後

    2.H-ⅡAロケット26号機概要H-ⅡAロケット26号機は、打上げ後まもなく機体のピッチ

    面を方位角97度へ向けた後、所定の飛行計画に従って太平洋上を飛行します。その後、固体ロケットブースタを打上げ約1 分48秒後に、衛星フェアリングを約 4 分10秒後に分離、約6 分36秒後には第 1 段主エンジンの燃焼を停止し、約 6 分44

    秒後に第 1 段を分離します。引き続いて、約 6 分50秒後に第2 段エンジンの第 1 回目の燃焼が開始され、約11分18秒後に燃焼が停止されます。慣性飛行を続けた後、約 1 時間39分23秒後に第 2 段エンジンの第 2 回目の燃焼が開始され、約 1 時間43分24秒後に燃焼が停止されます。約 1 時間47分15秒後に所定の地球脱出軌道に「はやぶさ2」が投入されます。

    この後、ロケットは慣性飛行を続け、約 1 時間53分55秒か

    H-ⅡAロケット26号機の打上げ計画

    H-ⅡAロケット26号機飛行経路

    H-ⅡAロケット26号機諸元全          段

    名称 H-ⅡAロケット 26 号機全長(m) 53全備質量(t) 286(ペイロードの質量は含まず)誘導方式 慣性誘導方式

    各          段第 1段 固体ロケットブースタ 第 2段 衛星フェアリング

    全長(m) 37 15 11 12外径(m) 4.0 2.5 4 .0 4 .0質量(t) 114 151( 2 本分) 20 1.4推進薬質量(t) 101 130( 2 本分) 17 −推力(kN) 1,100※ 5,003※ 137※ −燃焼時間(s) 390 100 530 −

    推進薬種類 液体水素/ 液体酸素ポリブタジエン系コンポジット固体推進薬

    液体水素/ 液体酸素 −

    推進薬供給方式 ターボポンプ − ターボポンプ −比推力(s) 440※ 283.6※ 448※ −

    姿勢制御方式 ジンバル補助エンジン 可動ノズルジンバル

    ガスジェット装置 −

    主 要 搭 載電 子 装 置

    誘導制御系機器テレメータ送信機 −

    誘導制御系機器レーダトランスポンダテレメータ送信機指令破壊装置

     ※真空中 固体ロケットブースタは最大推力で規定

    2014-95 8 9

    MAINICHI ACADEMIC FORUM Inc., 1-1-1 Hitotsubashi, Chiyoda-ku, Tokyo 100-0003, Japan ©2014, Japanese Rocket Society

    A PUBLICATION OF JAPANESE ROCKET SOCIETY

    CONTENTS○ H-ⅡA-26 …………………………………………… 1○ Running Feature Article ………………………… 2○ Arianespace en mouvement ……………………… 3○ 65th International Astronautical Congress ……… 4○ Domestic News ……………………………………… 5◯ Overseas News ……………………………………… 6

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    今回から産業界代表のトップバッターとして、垣見恒男さんにご登場頂きます。垣見さんは1953年春、富士精密工業

    (後にプリンス自動車工業、日産自動車を経て現在の㈱IHIエアロスペース(以下、IA)に繋がる)に入社。同年暮れに糸川英夫博士に出会い、ロケット開発を二人三脚で進めたパイオニアで、ペンシルからベビー、カッパ、ラムダ、更にミューの基本構想などまさに草創期のロケットの設計を担われました。取材には垣見さんの後輩にあたり、ロケット協会の賛助会員理事であるIAの田村秦宏さんにご同席頂きました。

    糸川さんから「ロケットを作りたい」−なぜ女の子の首飾りを?有田:垣見さんは東大でのご専門は機械でしたね?垣見:はい、機械です。卒業設計は日本で最初のジェットエンジンでした。富士精密に入社後は学生気分の延長の「遊び半分」でしたが、2 馬力農業用ディーゼルエンジンの設計の手伝いをした時、設計計算書が無い事を不思議に思って作成したところ、他の馬力のエンジンでは取れなかった通産省の認証が取れました。遊んでいてもちゃんと成果はあげてたんです。林:なぜペンシルロケットをやることになったんですか?垣見:糸川先生が昭和28年の11月に富士精密に来たんです。ロケットをやりたいと。元々糸川先生は東大航空学科を卒業

    後中島飛行機に就職され、飛行機の機体設計を担当していたんですが、数年後に東大に戻られました。戦争が激しくなってきて、軍のエンジニアを早急に育成しないといけなくなったために、東大は千葉に第二工学部を作り教育を始めたが教官が足りない。そこで航空出身の糸川さんが呼び戻されて教官になったんです。

    終戦後、糸川さんは文部省の公用出張でアメリカに調査に行き、「日本は今更飛行機をやってもとても追いつけない。でもロケットならアメリカもやり始めた頃だから追いつける。日本はロケットをやるべきだ」と実感して帰ってきた。経団連でその話をしたけれど、相手にされない。しかし大学では物を作れないから、企業に協力してもらおうとしたが、どこの企業も相手にしなかった。

    連載特集記事

    ロケット口伝鈔(14)垣見恒男さん(第1回)

    ら約 2 時間 2 分15秒までに小型副ペイロード 3 基に対し分離信号が送出されます。

    3.はやぶさ 2 の概要「はやぶさ2」は、小惑星探査機「はやぶさ」で獲得した

    世界初の小惑星サンプルリターン技術の実証経験と技術を継承し、さらに小惑星に人工的なクレータを作るなど新たな技術確立への挑戦も加え、日本独自の宇宙探査技術を成熟発展させることを目指すミッションとなっています。

    また、「はやぶさ2」が探査する小惑星「1999JU3」は、「はやぶさ」のときの小惑星イトカワ(S型小惑星)とは異なる種類で、その表面物質には有機物や含水鉱物を多く含み、さらに太陽系が誕生したころの状態を保っていると考えられている小惑星(C型小惑星)です。1999JU3の探査は、鉱物組成、地形・内部構造、重力他の科学観測と物質サンプルリターンにより、太陽系や地球、生命の起源と進化過程を紐解く

    人類の新たな知的財産の獲得に迫るものとなっています。

    4.小型副ペイロードの概要小型副ペイロードは、打上げ能力の余裕を活用して打ち上

    げるペイロードであり、公募小型副ペイロードは、民間企業、大学等が製作する小型副ペイロードに対して容易かつ迅速な打上げ・運用機会を提供する仕組みを作り、我が国の宇宙開発利用の裾野を広げるとともに、小型副ペイロードを利用した教育・人材育成への貢献を目的としています。

    なお、小型副ペイロードは主ペイロードのミッションに対して影響を与えないことを前提とするものであり、主ペイロードの打上げに支障をきたす恐れがある場合には、JAXAの判断で搭載しないこともあるとのことです。

    しんえん 2 は、九州工業大学により提案された副ペイロードで、熱可塑性CFRPによる宇宙機の製作と宇宙利用実証および遠距離における地球−宇宙機間の相互通信がミッションとなっています。

    ARTSAT2-DESPATCHは、多摩美術大学により提案された副ペイロードで、ソーシャルネットワークを用いたテレメトリ共同受信(協調ダイバシティ通信実験)、宇宙生成詩の創作(各種センサデータから搭載プログラムが生成したテレメトリの送信)および深宇宙彫刻の実現(3Dプリンタ造形物の宇宙機搭載実証)がミッションとなっています。

    PROCYON(プロキオン)は、東京大学により提案された副ペイロードで、50 kg級超小型深宇宙探査機バス技術の実証および高効率X帯パワーアンプによる通信、超近接フライバイ撮像技術等の深宇宙探査技術の実証がミッションとなっています。はやぶさ2 小惑星探査イメージ

    (左から)有田さん、垣見さん、田村さん

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    林:あちこちの企業を回ったんでしょうか?垣見:打診したそうですよ。当時は食料事情も就職事情も悪い時で、そんな遊びみたいなことができるかと方々で断られて、最後の最後に富士精密に来たんです。富士精密には中島飛行機の残党がいっぱいいましたからね。東大工学部で同年だった中川良一さんは若くして取締役でしたが、その上の専務の新山春雄さんも東大工学部卒でした。この二人が話を聞いて、仕方ないから手伝ってやろうかと。ついては協力してくれる人を一人出してほしいと糸川さんが言ったそうです。しかし富士精密だって給料遅配でひいひい言っている時代ですよ。新山さん達が「糸川研究室にいるじゃないか」と言うと、「物を造る面では使い物にならない」と。まぁ、色々と動き回ると個人的な秘密もでき、研究室の連中にばれるとまずいしね(笑)。それで、僕が農業用ディーゼルエンジンの設計計算書で成果を上げた話を中川さんがすると、糸川さんが「使えそうだ」と。それで私がやることになったんです。有田:IAの富岡工場に糸川先生が示されたというペンシルロケットの仕様書が展示してありますが、それをご覧になったんですか?垣見:いや、仕様書のような物を与えられたことは一度もありません。糸川先生から渡されたのは、アメリカから持ち帰ったジョージ・サットンの小さな本のコピーだけ。秋葉(鐐二郎)君と僕にコピーをくれたけど、英語は苦手でね。枕にして寝ただけです(笑)。絵は見ましたよ。こういうのをロケットと言うのかと。最初に中川さんの部屋でロケットと聞いた時は「なんで私が女の子の首飾りをやるの?」と。ロケットのRとLを間違えてた(笑)。

    ○手始めはスクラップ集めから垣見:とにかくロケットの理論もわからなければ、どんな材料かも、システムもわからない。まず材料を調べてみようと立川の米軍の基地や、今では所沢の航空公園になっている当時の米軍のスクラップ置き場に行きました。林:飛行機の墓場ですね?垣見:所沢のスクラップ置き場には、米軍が朝鮮戦争で使った飛行機のスクラップがいっぱいあった。でもそこに出入りするには米軍に登録したスクラップ屋でないといけない。そこで富士精密に出入りの登録スクラップ屋に「一時的にスクラップ屋の小僧にしてくれ」と頼み込んで所沢に行きました。でも肝心のロケットの破片はなかった。

    次に調査したのが書類です。立川の米軍基地には、日本人作業者教育用のテクニカルオーダ(T・O)という教育資料があり、その中にロケットの技術書があれば何とかして手に入れたいと考え、T・Oをコピーすれば買ってやると米兵と話をつけました。でも、そこまでやっても必要な情報は何もありませんでした。結局は自分でやるしかないと思いました。

    田村:糸川先生は最初に、ロケットの基本的なことを調べなさいと言われたんですか?垣見:糸川先生はそんなことは言わず、「ロケットとは何か、を勉強して作ってくれ」と言ったんです。何で作るか、どういうものを作ればいいか、安全にやるにはどんな実験が必要か、考えてくれと丸投げした。丸投げしておきながら、東大の生産技術研究所の資料には、糸川研究室で設計したものを富士精密にオーダして作ったと書いてある。それはとんでもない間違いです。

    ○材料で決まったペンシルロケット垣見:ペンシルロケットは形が最初にあった訳でなくて、材料から決まっていったんです。僕が通っていた荻窪の富士精密は元々、中島飛行機のエンジンの試作工場だったんです。材料倉庫に行って調べてみたら、直径 4 センチぐらいのジュラルミンの棒がたくさんあった。頭文字をとって「チの201」と書いてある。削ればなにか出来るだろうと思って糸川さんに「ありました」と持っていったら「君は馬鹿だ。そんなもの溶けてしまう。冗談じゃない」と激怒された。僕は熱伝達計算で、点火後何秒でどのくらいの温度になるかを計算していました。「直径18ミリのペンシル・チャンバー内部で、ダブルベース推進薬は全面燃焼ですから、1 秒に25ミリぐらいの燃焼速度として計算すると、燃えるというより瞬間的にパン!でおしまいです。材料がへたる時間はありません」といくら説明しても先生は新入社員の説明を信用してくれない。そこで上司で機械屋の中川さんに説明すると、すぐに「ああ、そうだね」と理解して糸川さんに「あいつの計算は間違っていない」と言ってくれた。それでやっとジュラルミンでペンシルを作ることをOKしてくれたんです。

    糸川さんのことを、後輩の方々はみんな万能の方のように神格化してますが、糸川さんは機械屋と違って航空機屋さんだから、非常に強いところと弱いところがあるんですよ。ぼくはその弱いところを補ってきたわけです。 (続く)

    高松 聖司(アリアンスペース)

    日本では宇宙業界においてさえアリアン・ロケットについての誤解が意外に多いと感じるが、その一つに「信頼性を欲

    張らずそこそこに抑えてコストを下げたことが、商業打上げにおける成功の要因だった」というものがある。これを聞くと、世の中に(米国製ロケットが独占していた)商業打上げ市場がもともと存在していて、そこに欧州が低コストのアリアンで参入し成功した、という印象を受ける。実際、筆者自身も宇宙関係のフォーラムで企画されたパネル・ディスカッションで、日本の宇宙関係者が「例えば、欧州の場合はアリ

    Arianespace en mouvement その2

    垣見さん

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    アンで打上げ市場に殴り込みをかけ、アメリカに一泡吹かせようとしたわけだが……」というやや過激な発言を聞いて驚いたことがある。

    しかし、アリアンはそうした商業打上げでの成功を目標に開発された訳ではない。それどころか、アリアン計画が始まった頃、欧州はこのロケットを開発しても実際に使われることは少ないだろうとさえ考えていたのである。それが現在では、欧州の宇宙への独自アクセスは商業打上げ抜きでは考えられないまでになっている。どうしてこのような変化が起ったのか、それを理解するには欧州のロケット開発の歴史を振り返る必要がある。

    1965年11月26日、フランスはディアマンAロケットで42kgの衛星アステリクスの軌道投入に成功、世界で三番目の衛星打上げ国となった。米ソに遅れること約 8 年、日本がラムダ4Sロケット 5 号機で「おおすみ」の打上げに成功する約 4 年前である。ちなみに衛星名のアステリクス(Astérix)はフランスで人気のコミックの主人公の名前である。1959年に生まれたこのコミックは発行部数が 3 億 5 千万部をこえるといわれるヒット作で、ラテン語やギリシャ語を含む多くの言語に翻訳され、欧州や中南米では世代をこえて多くの読者に読まれて知らない人はいない有名な作品である。日本ではほとんど認知されていないが、台詞にちりばめられる言葉遊びの知的センスが大きな魅力であるため、それを日本語に翻訳することが難しいからかもしれない。

    さてフランスが世界三番目の打上げ国になったあと、欧州はヨーロッパ・ロケットの開発へと大きく舵を切ることになる。欧州打上げ機開発機構 ELDO(European Launcher Development Organization)の設立である。ELDOの設立に意欲的だったのは、しかし意外なことにフランスではなくイギリスであった。当時イギリスは中距離弾道ミサイル・ブルーストリークの開発中断という状況に悩まされていたが、ブルーストリークは衛星打上げロケットとしても検討が進んでいたため、イギリスは西ヨーロッパ諸国に対して国際共同でロケットを開発することを提案したのである。この呼びかけにフランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダが応え(と簡単に書いたが、そこは欧州のこと、実際は紆余曲折、丁々発止の駆け引きの末の大混乱ともいえる交渉の結果、少なくとも日本人の感覚からすると、やっとなんとかまとまったという感じである)欧州共同開発のヨーロッパ・ロケットの開発がスタートした。

    ヨーロッパ・ロケットは第一段をイギリス、第二段をフラ

    ンス、第三段をドイツが担当した。イタリアはフェアリングと搭載する衛星を、オランダはテレメトリや慣性誘導システムを開発し、ベルギーは誘導局を建設した。全段を組合せて一気に試験飛行を行う現在の開発手法と異なり、ヨーロッパ・ロケットは、まず各段の実証を行ってから、全段組合せ飛行試験に段階的に推移する開発方式が取られた。ところがブルーストリークの第一段単独や、上段にダミーを載せた打上げは成功するのに、第一段と第二段を組み合わせて打上げた二回の飛行試験はいずれも失敗。三段をすべて結合(最終号機は第四段としてPAS[ペリジ・アポジ・システム]も追加)して行った四回の打上げもすべて失敗するという惨憺たる結果であった。

    この結果は、欧州を意気消沈させるのに十分であった。ヨーロッパ・ロケットの最終号機(F10)が打上げられた1975年末といえば、アメリカはスペースシャトル開発の真最中で、再使用可能なこの革新的な輸送系は、160時間のターンアラウンドで打上げコスト1200万ドルを実現するかもしれない、と言われていたからである。いまさら遅れをとった打上げ機に力を注ぐより、打上げは米ソに依頼し、欧州は限られたリソースを衛星開発に集中すべきだという意見がでてきたのは当然のことかもしれない。しかしここで欧州宇宙輸送の基本理念を揺るがす大事件が起る。次回は、アリアン開発のみならず、現在に続く欧州宇宙輸送系の基本政策をも決定づけた、のちにシンフォニー事件と呼ばれることになるこの出来事についてみていきたい。

    東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻      博士後期課程 1年 小澤 晃平

    2014年 9 月29日〜10月 4 日にかけて、カナダオンタリオ州トロントのMetro Toronto Convention Centreにて、世界最大の宇宙開発関連の国際会議である65th International Astronautical Congress 2014が開催されました。

    トロントはオンタリオ湖岸の北西に位置し、カナダ最大の

    観光名所の一つであるナイアガラの滝は車や電車で約 2 時間の場所にあります。カナダは多民族国家であり、トロントにおけるその出身構成はイタリア、ギリシャ、中国、韓国といった国々です。各々のコミュニティが出身国の文化を継承しつつ互いに尊重し合い、現在のカナダ社会を形成しています。そのため例えばイタリア人街をやや南に下ると一気に中華街に変わるなど、通りを一つ移れば街の雰囲気がガラリと変化するのが印象的でした。

    65th IACは“We need space.”というテーマの下、重鎮カナダ人宇宙飛行士 2 人の漫談を交えた司会進行により、宇宙開発関連機関・企業トップのコメント、歌手、ジャグラーによるショーなどを交えたセレモニーを経て、開会が宣言さ

    65th International Astronautical Congress参 加 報 告

    アステリクス

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    JAXAは 8 月31日、12月にも打ち上げが予定されている小惑星探査機「はやぶさ2」の機体を、JAXAの相模原キャンパスで報道陣に公開しました。JAXAの國中教授は「宇宙の現場は甘いものではない。へこたれないように気を引き締めて、新たな航海を目指したい」と話し、打ち上げへの意欲を見せました。はやぶさ2は 9 月下旬にも、種子島宇宙センターへ輸送されます。はやぶさ2は重さ約600kgで、本体の大きさは縦約1.25m、横約 1 m、奥行き約1.6m。はやぶさ2は地球に接近する軌道を持つ小惑星「1999JU3」に向け出発。今回の総飛行距離は約52億kmになる見通し。18年の夏ごろには到着し、調査を終えた後、20年にも地球に帰還する予定。

    (9/1 神奈川新聞)

    10月 7 日に打ち上げが予定されている次期気象衛星ひまわり 8 号について、気象庁などは 3 日、鹿児島県にあるJAXAの種子島宇宙センターで報道陣に公開しました。今後、姿勢制御に使う燃料などを積んでH2Aロケットに搭載されます。ひまわり 8 号は、太陽光パネルやアンテナなどを展開した後の全長が約 8 mで、燃料を除いた状態の重さが約1.3 t。(9/4フジサンケイビジネスアイ)

    ロケット打ち上げに立ち会えなくても、種子島には宇宙を体感できるスポットがあります。南種子町のJAXA種子島宇宙センターは、総面積970万平方メートルで日本最大のロケット基地。真っ青な海に面し、芝生が多いことから「世界一美しいロケット基地」とも呼ばれています。敷地内の宇宙科

    学技術館では、ロケットや人工衛星の模型、打ち上げ時の映像などが公開され、ロケットが飛ぶ仕組みや宇宙開発の歴史を学べます。JAXAの食堂も一般開放され、定食やカレーライスなどが手ごろな値段で食べられる日本一宇宙に近い食堂です。1日3回、同館発着で施設案内ツアー(無料・月曜休み)も行われます。打ち上げを指揮する「総合司令棟」や、1990年代に打ち上げられずに保管されたままのH2ロケット 7 号機の機体を見学できます。中種子町にはロケットや衛星を追尾するJAXAの増田宇宙通信所があります。巨大なアンテナが目印。こちらも展示室を備え、模型を見たり来場記念のポストカードを作ったりできます。宿泊などの問い合わせは種子島観光協会=0997(23)0111。施設案内のツアーの問い合わせは宇宙科学技術館=0997(26)9244。(9/5 西日本新聞)

    九州工業大学は、開発中の超小型人工衛星「鳳龍四号」について、JAXAの人工衛星「アストロH」との相乗りによる打ち上げが決まったと発表しました。打ち上げは2015年度の予定で、高電圧で発電する太陽電池を使い、放電のメカニズムを調べる計画。(9/6 日本経済新聞)

    IHIエアロスペース(IA・木内重基社長)は、IA富岡事業所の入り口にイプシロンロケットのモニュメントを設置しました。実物の2.5分の 1 の大きさで、全長約10mの繊維強化プラスチック(FRP)製。IAはJAXAに協力し、2013年に試験機の打ち上げに成功したイプシロンの機体システムの開発、製造を担当、6 日に富岡事業所で開催した地域住民などとの交流でモニュメントの除幕式を実施しました。(9/9 日刊工業新聞)

    国内ニュース

    れました。IACはさながら宇宙開発業界のお祭り、といった印象で、

    10の基調講演、183のセッションに加え、190のポスターセッションがありました。私は自身の専門であるロケット推進のセッションを中心に聴講し、また発表を行いました。液体ロケット推進ではLOX-メタン系に関するトピックが多く、日本のLE-8等の先進性は日本国内と言うよりむしろヨーロッパ等で評価され、共同研究開発に活かされているといった印象でした。また、パデュー大学では学生プロジェクトとしてLOX-メタンエンジンを開発しており、その発表がありました。推進剤の混合が上手く行われていないものの、技術が成熟しきっていない同推進剤系のエンジンを学生のみで独自開発する同校のレベルの高さが窺い知れました。

    ロイヤルメルボルン工科大学からは3Dプリンタで形成した再生冷却ノズルの発表がありました。四角錐で補強された、内部に流体を通すことのできるサンドイッチ材料等の非常に緻密な構造を形成できるため、内部応力や歩留まりの問題があるものの、高いプリンティング技術に注目が集まっていました。

    自身の専門のハイブリッド推進分野では、スタンフォード大とJPLの共同研究として、ハイブリッドロケットエンジンを利用し火星のエアロキャプチャを超小型衛星で行うプロジェクトに関する発表がありました。私自身も宇宙機のキックモータとしてハイブリッド推進には大きな可能性を感じていたため、今後動向を注視していきたいプロジェクトです。

    展示ブース一番の目玉はSpace Xのドラゴン宇宙船コック

    ピットコンセプトモデルでした。来場者は実際にシートに座る事も出来ました。その他にもJAXAを始めとした世界の宇宙機関・企業が展示を行っていました。ブース面積の点では中国企業の大きさが特に目を引きました。

    次回の66th IACは2015年にイスラエルの首都、エルサレムで開催される予定です。

    Space X ブースのドラゴン宇宙船コックピットのコンセプトモデルに座る嶋田徹教授(左)と筆者(右)

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    JAXAは、国産の小型ロケット「イプシロン」2 号機に搭載する小型科学衛星の打ち上げを衛星に搭載する機器の放射線対策などの開発が遅れているため、当初予定の2015年度から16年度に変更したと、国の宇宙政策委員会の専門部会で報告しました。打ち上げは昨年 9 月の初号機から 2 年以上も空くことに。JAXAはイプシロン 3 号機に載せる衛星の候補を選定中。「小型探査機による高精度月面着陸技術実証」と「深宇宙探査技術実証ミッション」の 2 つのテーマを候補としており、今年度中に選ぶ予定。(9/9 日本経済新聞)

    政府の宇宙開発戦略本部(本部長・安倍晋三首相)は12日、宇宙の開発や利用に関する政策を定めた「宇宙基本計画」について、年末をめどに新たな計画を策定することを決めました。安倍政権の安全保障政策を反映させ、10年の長期計画にします。この日の会合で安倍首相は「我が国の安全保障上、宇宙の重要性は著しく増大している。一方で、自前で宇宙開発事業を行う産業基盤が揺らぎつつある」と指摘。厳しい財政状況を踏まえ、施策の優先順位を明らかにする意向を示しました。現在の計画は2013年 1 月に戦略本部が決定、13年度から 5 年間を対象とし、5 年後をめどに見直すとしました。

    (9/13 フジサンケイビジネスアイ)

    日本で初開催となる国際的な航空宇宙ビジネスの商談会「エアロマート名古屋」が24日、国内外の関連企業など約160社が参加し、名古屋市内で始まりました。航空宇宙産業は今後成長が見込まれ、取引も拡大、国内の中小企業に裾野が広がることも期待されます。(9/25 名古屋新聞)

    川崎重工業(神戸市中央区)は26日、H2Aロケットの先端部に取り付け、小惑星探査機「はやぶさ2」を格納するフェアリングを出荷したと発表しました。兵庫県播磨町で組み立て、船で種子島宇宙センターに送りました。「はやぶさ2」は水や有機物が存在するとされる小惑星から、物質を持ち帰るためにつくられた探査機で、JAXAが本年度中に打ち上げる予定。フェアリングは直径 4 m、長さ12mで先端がとがっており、航空機と同じアルミ合金製ではやぶさ 2 を打ち上げ時の熱や振動から守り、大気圏外で左右に割れロケットから探査機を分離します。(9/27 神戸新聞)

    9 月 4 日、中国は、長征 2 Dロケットによる、小型通信技術試験衛星「創新 1 号D」、及び清華大学と北京信威通信技術社の通信技術実証衛星「霊巧」の同時打上げ並びに軌道投入に成功しました。(9/4 Spaceflight101.com)

    9 月 7 日、米スペースX社は、ファルコン9 v1.1ロケットによる香港の衛星運用企業アジアサット社の静止通信衛星

    「アジアサット6/タイコム7」の打上げに成功しました。(9/7 AsiaSat)

    9 月 8 日、中国は、長征 4 Bロケットによる、地球観測衛星「遥感21号」と小型技術実証衛星「天拓 2 号」の同時打上げ及び軌道投入に成功しました。(9/8 NASA Spaceflight.com)

    9 月11日、仏アリアンスペース社は、アリアン 5 ロケットによる、マレーシアのミーサット・グローバル社及び豪NewSat社の静止通信衛星「Measat-3b/Jabiru-2」と、豪オプタス社の静止通信衛星「オプタス10」の同時打上げに成功しました。(9/11 Arianespace)

    9 月16日、米United Launch Alliance(ULA)社は、ケープカナベラル空軍ステーション41番射点からの、アトラス5/401ロケットによる米政府機密衛星「CLIO」の打上げに成功しました。(9/16 ULA)

    9 月21日、米スペースX社は、ケープカナベラル空軍ステーション40番射点からの、ファルコン9 v.1.1ロケットによるISS物資補給船「ドラゴン」の打上げに成功しました。(9/21 SpaceX)

    9 月22日(GMT)、NASAは、火星大気ミッション「MAVEN (Mars Atmosphere and Volatile Evolution)」の火星周回軌道への投入に成功しました。(9/21 NASA)

    9 月24日、インド宇宙研究機関(ISRO)は、火星探査ミッション「Mars Orbiter Mission」の火星周回軌道への投入に成功しました。(9/24 Spaceflight101)

    9 月27日、ロシアは、プロトンM/ブリーズMロケットによるデータ中継衛星「Luch」シリーズ 1 機の打上げと、所定軌道投入に成功しました。(9/27 Spaceflight Now)

    9 月28日、中国は、長征 2 Cロケットによる、宇宙科学・技術試験衛星「実践11号G」の所定軌道への投入に成功しました。(9/28 NASASpaceflight.com)

    海外ニュース

    No.589 ロケットニュース 平成26年 9月30日発行(定価 300円) 発 行  ©2014

    日本ロケット協会編集人  嶋 田   徹

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