大学付属放送局から公共放送組織へ Frieda Hennock・Ford Foundation・Carnegie Commissionが果たした役割志柿浩一郎 博士研究員 東北大学大学院情報科学研究科

はじめに

歴史 (1948 - 1967)

Frieda Hennock

Ford Foundation

Carnegie Commission

むすびに

はじめに

1910年代に始まる大学が運営していた放送(通信)局が起源

現在の組織の基盤 → 1920年代に商業放送ネットワークの影に隠れた大学放送局(教育放送局)を再生したもの

アメリカの公共放送組織

注＊　複雑な歴史を簡単にまとめています

目的①

大学放送局の再生、公共放送組織設立に向けた動きの礎となった外部組織の存在が、具体的にどう非営利教育放送局の形成に関わったか論じ、これまでの研究結果と今後の課題を報告すること。

目的②これまで蓄積されて来た歴史研究を踏まえつつも、アメリカで第二次世界大戦後に高まった公共放送組織設立に向けた動きの礎となった個人と組織に焦点を当てることで、アメリカの放送組織の特質への新たな分析視点を提示すること

研究方法

研究方法

歴史資料分析 (アメリカ現地の文書館、 インターネット、 日本国内の大学付属図書館 で資料収集・分析)

研究方法

アメリカ現地の調査 (関係者・識者への聞き取り)

研究方法

先行研究の評価 (一般公開されている公共放送組織関連のオフィシャルのデーターや歴史資料と、これまでの歴史研究における解釈や論述を比較して先行研究の分析・評価した)

研究方法

歴史資料分析

アメリカ現地の調査

先行研究の評価

これまでの研究

これまでの研究

アメリカの放送史および放送の研究は多く存在する。

日本でもアメリカの放送に関する研究が多くある。

アメリカでは、大学で使用される歴史の教科書がある。

これまでの研究

放送業界外部の組織を正面から取り上げた研究は少ない。

アメリカの商業的側面に注目しているものが多く、商業放送を軸においた検証が多い。

放送を巡る政治的な側面を取り上げることに主眼が置かれた。

「アメリカ」社会に対する画一的なイメージからの分析 (特に日本の研究)

「アメリカといったら商業放送」「商業VS非商業」など、単純化され、そこから多くの通念が形成されていることが意識されていない研究も少なくない。

これまでの研究

これまで蓄積されて来た歴史研究を踏まえつつも、アメリカで第二次世界大戦後に高まった公共放送組織設立に向けた動きの礎となった個人と組織に焦点を当てる。

そこで…

アメリカの放送の歴史概要

ラジオ通信の発展

ラジオ放送の誕生・展開

商業ラジオ放送網の発展

テレビの誕生

テレビ普及

1948 - 1967

ケ｜ブルテレビジョンの展開

パソコンの展開

インタ｜ネット 展開

多メディア時代の到来

ソ｜シャルメディア時 代 ?

??????

すばらしい未来

→ → → → → → → → →

1910～ 1920～ 1927～ 1940～ 1945～ 1970～ 1980～1990～ 2000～ 2010～

ココ

教育放送から公共放送組織へ (1948年～1967年)

Frieda Hennock

Ford Foundation

Carnegie Commission(1965 ～)

(1950 ～1975年代)

(1948年～1955年代)

1967年11月7日: Public Broadcasting Act

CPB (Corporation for Public Broadcasting) 設立

1969: PBS (Public Broadcasting Service) 結成

1970: NPR (National Public Radio)設立

(異質なものを受容する多様性重視．放送に多様性を求める)

(財政支援。それだけでなく、裏で直接教育組織の基盤形成に関わる)

(Public Television: Program for Action出版)

フリーダ・へノックの果たした役割

Frieda Hennockと教育放送

FCC初の女性コミッショナー (委員の一人に任命される)

男性中心であったアメリカの放送の状況を変えた

多様な視点を尊重する非営利放送局の重要性主張

大学が放送局を持つことを推進していった

異質なものを受容する多様性を放送業界に求めた

–Frieda Hennock

“Democracy thrives on education, totalitarianism on ignorance and darkness. Educational television will

be a strong weapon in America’s arsenal. Educational TV will be an investment in our country’s

future that will pay dividends for generations to come.”

–フリーダ・へノック

“民主主義社会は教育があることで栄える。全体主義は盲目さと無知による。教育放送はアメリカ社会の中で強力な武器となる。また、高い配当金が

得られる将来の世代への投資でもある”

Ford Foundation

1936年設立

New Yorkに本部拠点

発展途上国の公共放送の展開を支援

ビッグデーターなどのインターネット産業への支援

アメリカの公共放送組織設立の影の立役者とも言われている。

Ford Foundationの果たした役割

非営利ラジオ局およびテレビ放送局の運営に対して財政的な支援を行なった。

米国における教育放送関連組織や公共放送を啓蒙していた組織などへ財政および機材の調達などの支援を行なった。

多くの実験的番組、子供向け番組・試みに多額の資金を出資した。(Pacifica Radio, MPATI, 放送教育)

Ford Foundationの果たした役割(続き)

教育放送を一般の人にも広く認知してもらえるように広報活動を主眼とした組織を立ち上げた。

広く一般に教育放送を視聴してもらえるように、放送番組の伝送および制作支援、各地域の非営利ローカル放送局への番組共有などを行なう組織の確立を目指して、National Educational Television (NET)を設立した。NET を通して、非営利の教育放送ネットワークの構築に力を入れた。

Ford Foundationの支援の結果

子供向け番組の基礎を形成した。

遠隔教育 (学校放送・放送教育)だけではなく、広い意味での教育放送の重要性に財団自身が気づくキッカケを作った。

アメリカの公共放送組織となる教育放送関連組織やネットワークを整えた。

多くの批判も存在した…

エリート主義 (Elitist)と言われていた。

多くの矛盾を抱えた支援

ローカル重視としながらもNew Yorkに本部拠点を置くNETという組織への支援 (実質立ち上げ)

支援だけではなく、積極的に教育放送網の形成に関わり、さらに直接組織立ち上げを行なったりもした。

財政基盤をどう確立するのか、最終的に具体策をだせなかった。

Carnegie Commissionのレポート1967年1月26日出版

アメリカの公共放送に関する法律のたたき台となった

アメリカの公共放送を位置づけた

注: CPBという財政の調整を行なう組織の設立を提案し、組織と連邦政府との関係を位置付け、多くの提案

も間接的に示した。 (具体的に示された項目もある。特に財政基盤)

–“Introductory note” by Carnegie Commission

“The system of noncommercial television in the United States has come to be known as educational television (…) The Commission has separated educational television programming into two parts:

(1) instructional television directed at students in the classroom or otherwise in the general context of formal education, and

(2) what we shall call Public Television, which is directed at the general community”

「米国における非営利テレビの仕組みは、教育テレビとして知られている (…) コミッションは、教育テレビのプログラムを二つに分類した。

(1) 教室にいる生徒や教育機関向けの“Instructional Television (講義放送)”と、

(2) コミュニティー 一般を対象とする “Pub l i c Television”と言うべきものである」

–“Introductory note” by カーネギー財団

“Public Television can offer people of talent and ideas a magnificent new opportunity to share what they have to share, and in so doing, to grow in their own powers. We believe that Public Television can aspire to a freedom and excellence which will persuade people that it is a medium through which they can best express themselves. If we sum up our proposal with all the brevity at our command, we would say that what we recommend is freedom (…)”

–Carnegie Commission, “Public Television:program for Action” pp. 98 – 99

–Carnegie Commission, “Public Television:program for Action” pp. 98 – 99

「Public Television は、才能やアイディアを持つ人々に、新たな表現の場を提供するものになる。そして、彼らが共有したいものを共有することで、彼ら自身の力でその才能を伸ばすことができる。Public Television は、自由と美徳 (フリーダムとエクセレンス)を志すものになると信じているし、そのことで、最大限に表現できるミディアムは Public Television だと多くの人に確信してもらえるだろう。もし、この報告書を、私たちの視点で一言にまとめるとすると、私たちが推奨するのは自由である」

レポートの意義と欠陥

教育放送局 (主に大学放送局)を公共放送として位置付けた。

多くの人が教育を主体とした放送の意義を新たに認識することになった。

アメリカの放送・通信の法律が改正され、公共放送組織設立につながった。

意義

欠陥

ラジオのことが含まれていなかった。

“Public”や”Education”の具体的な定義が示されていなかった。(後にPublic Televisionは “Name without Concept”と言われた。)

一部詳細に示した提案を、どう具体化し実行するのか、方法を述べなかった。

これら史実から明らかになったこと

アメリカの公共放送組織の基礎 => 「教育を主眼とした放送の実現」=>日本とは異なる「教育」への思想が組織のあり方に影響

HennockやFord Foundationなどが組織の土台を形成した = 外部組織の教育に対する理念がその後の組織に影響を与えてきた。

放送界の形成に関わっていた個人や組織の理念の重要性。

歴史的意味

その後のメディア組織のあり方に影響している (商業組織も含め)。

多様な知識をできるだけ多く共有していく活動を軸としたメディア組織のあり方が求められるようになった。

HennockやFord Foundationなどの財団の考えは、アメリカの公共放送組織含めたメディア産業の根幹にあるメディアに対する思想を捉える上で不可欠。

むすびに…

メディア(組織、技術、全て含めて) に何を求めていたのか?

メディアで何を実現させようとしたのか？

彼らの思想が今のメディア産業にどう反映され、何が実現されなかったか?

多様性を求めたHenock、 教育放送の発展に支援を続けたFord Foundation、 レポートを作成したCarnegie Commission、

アメリカのメディア産業の特質がより明確になる。

明確にすることで、

メディアにおける多様性の確保という課題

社会的多様性に関してメディアが果たす役割

情報発信やメディア教育のあり方

以上のことを検討する上で有用な知見が得られる。

フリーダ・へノック再評価異質なものを認めるメディアを目指して

ご清聴ありがとうございました