グローバリゼーションと開発 グロ バリゼ ションと¼ˆ注)...

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GSID 2009 公開講座 2009/10/6 『グローバリゼーションと開発』 初回講義 by 大坪滋教授 1 グロバリゼションと開発 2009年度GSID公開講座 『グローバリゼーションと開発』 名古屋大学大学院国際開発研究科 大坪滋 グロ バリゼ ションと開発 大坪滋 2009/10/6 公開講座『グローバリゼーションと開発』 2

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GSID 2009 公開講座 2009/10/6

『グローバリゼーションと開発』 初回講義by 大坪滋教授

1

グローバリゼーションと開発

2009年度GSID公開講座『グローバリゼーションと開発』

名古屋大学大学院国際開発研究科

大坪滋

グロ バリゼ ションと開発

大坪滋

2009/10/6公開講座『グローバリゼーションと開発』2

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2

本日のプレゼン項目

1. イントロダクション

2. 社会経済システムの歴史的変遷とIT革命 グロ バリゼ ションIT革命・グローバリゼーション

3. 『グローバリゼーションと開発』への学際的取組み

4. 経済活動のグローバリゼーションと経済成長、不平等、貧困削減

5. グローバル金融危機・経済危機と今後

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』3

1 イントロダクション

2009年度GSID公開講座『グローバリゼーションと開発』

1. イントロダクション

大坪滋

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グローバリゼーションの諸相: ガーナ

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』5

グローバリゼーションの諸相: ガーナ

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』6

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グローバリゼーションの諸相: ブータン

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』7

Gross National Happiness?

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Gross National Happiness?

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Gross National Happiness?

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Gross National Happiness?

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グローバリゼーションの諸相: 中国

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』12

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グローバリゼーションの諸相: 中国

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』13

中国の不平等 vs. インドの平等? (1)図 1-10 中国の業種別相対賃金

(産業別相対賃金: 農林水産業ベース) (業種別相対賃金: 靴機械加工ベース)

4

4.5

鉱業4.5

5

5.5

2

2.5

3

3.5

鉱業

製造業

電気・ガス・水道

建設

卸売・小売業, ホテ

ル・食堂

運輸,倉庫,通信

金融仲介

不動産他

公共行政, 防衛

教育 1 5

2

2.5

3

3.5

4

銀行計理士

化学技術者

電子工学技術者

電子部品組立工

鉱山下働き

電話交換手

紡績工

2009/10/614

(注) 左図では対農林水産業平均賃金と, 右図では靴の機械加工工の平均賃金をベースにそれらとの相

対比(倍率)をとっている.

(出所) ILO, LABORSTA Online Database (http://laborsta.ilo.org/)より筆者作成.

1

1.5

健康,社会事業

0.5

1

1.5

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8

中国の不平等 vs. インドの平等? (2)図 1-11 インドの業種別相対賃金 (対 農業収穫労働者賃金)

10

12

銀行計理士

4

6

8

保険業コンピュータ・プ

ログラマー

銀行窓口係

卸売・小売店員

電子電気製図

金属加工機械工

建設労働者

縫製機械操作

2009/10/615

(注) 農業収穫労働者の平均賃金をベースにそれらとの相対比(倍率)をとっている.

(出所) NBER, Occupational Wages around the World Database (ILO, LABORSTA を統計調整して国際間賃金

比較も可能にしたデータベース) (http://www.nber.org/oww/)より筆者作成.

0

2

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

縫製機械操作

中国の不平等 vs. インドの平等? (3)

図 1-12 経済統合・成長・不平等の推移: 中国とインドの比較

(中国) (インド)

900 

1000 

1100 

40

45

50

600 

700 

40

45

50

100 

200 

300 

400 

500 

600 

700 

800 

0

5

10

15

20

25

30

35

100 

200 

300 

400 

500 

0

5

10

15

20

25

30

35

2009/10/616

(注) 中国の全国 Gini 係数は、農村部と都市部の Gini 係数を生活費格差調整をしつつ合成している.

(出所) 中国のGini係数はRavallion, Martin and Chen, Shaohua (2004), Table 10から, インドのGini

係数は Jha, Raghbendra (2004),Table 12.4 から収集. その他は World Bank, World Development

Indicators 2007 CD-ROM データより筆者作成.

Gini係数 農村部

Gini係数 都市部

Gini係数 全国

財・サービス貿易/GDP比 (%)

総民間資本フロー/GDP比 (%)

1人当たりの実質GDP(2000 US$) (右目盛り)

00

Gini係数 農村部

Gini係数 都市部

財・サービス貿易/GDP比 (%)

総民間資本フロー/GDP比 (%)

1人当たりの実質GDP(2000 US$) (右目盛り)

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グローバリゼーションの諸相: インドネシア

インドネシアセミナーでの議論紹介

ASEAN+3 経済統合による成長の加速化

貧困層へのインパクトは如何に

成長は加速しても貧困人口は減らないかも??

戦略的経済統合の必要性

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』17

2. 社会経済システムの歴史的変遷とグ バ ゼ

2009年度GSID公開講座『グローバリゼーションと開発』

IT革命・グローバリゼーション

大坪滋

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Revolutions and the Evolution of Economic Systems

Private ownership ofthe means of production

Primitive Market Economy

IT-driven Market Economy

Capitalism

Industrial Revolution

Larger-scale-organization oriented Smaller-scale-organization oriented

Socialist Revolution

IT Revolution

Globalization

MNCs

Production Networks (Nike model, VISIO model, etc.)

ICT Service Networks (IT, IE, SE, back office)

Global Outsourcing…Private Capital/Investment-Driven

State Coordination Social Networks (community scale)Economic Infrastructure

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』19

State ownership ofthe means of production

Socialism Utopian Socialism

Governance

Quality of State

Social Safety Net ProvisionSocial Network (national scale)Education-Human Resource DevelopmentProtecting the Environment

23

3. 『グローバリゼーションと開発』への

2009年度GSID公開講座『グローバリゼーションと開発』

『グローバリゼーションと開発』序章、結章

学際的取組み

大坪滋

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『グローバリゼーションと開発』 初回講義by 大坪滋教授

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グローバリゼーションの諸相: 3大潮流と4底流

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』21

「グローバリゼーションと開発」への学際的取組み

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』22

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グローバリゼーションと開発ガバナンス

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』23

11のメイン・メッセージ (そのI)

① グローバル・レベルで出現している経済成長や(所得や消費で計った)貧困の「ばらつき」や「格差」には, グロー

バルな制度構築・再構築とナショナルな経済運営を含めた広 ガバナ 制度構築を伴う対処が必要 あるた広いガバナンス, 制度構築を伴う対処が必要である.

(→ 大坪報告)

② 即ち, 顕在化する国家間格差, 国内格差, 民族間格差や「貧困」は, 「公正」な競争の結果として生じているものと言うよりは, むしろ「公正」な競争を妨げる制度, 政治構造, 文化・社会構造の存在の帰結である場合が多い.

③ そしてそれらの改善の多くは, 往々にして開発途上国の経済的影響力, 政策キャパシティの範疇外にあり, この事実こそが, グローバリゼーション下において,「開発」を「国際開発」として捉える今日的ニーズの根源にある.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』24

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『グローバリゼーションと開発』 初回講義by 大坪滋教授

13

11のメイン・メッセージ (そのII)

④ 開発途上国の国内開発政策展開やマクロ経済政策展開において, その政策柔軟性あるいはポリシー・スペース(policy space)は, WTO, IMFなどの国際貿易・金融機関

作りや貸付け政策 より 減少 縮小 るでのルール作りや貸付け政策により, 減少・縮小している. 各政策はまた, 多国籍企業を含めた投資家が, これに敏感に反応することからも制約を受けている. よって現在の先進国が比較的柔軟に展開してきた産業(補助)政策,輸出振興策, 戦略的金融セクター自由化等々の政策オプションが今日の開発途上国には無くなってきている. グロ バルな政策 制度調和と並行して 開発のための途ローバルな政策・制度調和と並行して, 開発のための途上国ポリシー・スペースの確保が必要である.

(→ 川島報告)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』25

11のメイン・メッセージ (そのIII)

⑤ 開発途上国における開発政策の中核には, 経済面では, 経済インフラ整備, 人材育成を含めた

(国内企業の活動も外資系企業の活動も容易化(国内企業の活動も外資系企業の活動も容易化する)投資環境整備が長期の(産業)開発ビジョンの確立・共有と共にあるべきである. 社会面では, 成長産業と斜陽産業の発生という構造転換, 地域格差の拡大に備えるセーフティー・ネット構築にリソースを注ぐべきである.

(→ 大坪報告)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』26

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11のメイン・メッセージ (そのIV)

⑥ 国内の開発ガバナンス向上については, グローバル・スタンダードとの調和を注視しつつも, 開発段階にそって順に改善をはかっていけばよい. 1国のガバナンス構造は, そ 国 文化 社会的基盤 基づき 消費者を含む市民その国の文化・社会的基盤に基づき, 消費者を含む市民社会の成熟と共に変貌を遂げていくべきものである.

ガバナンスには決められたルールをどう運用して行くか(play of the game)という側面と, ルール自体を変えていかねばならない(rules of the game)側面があり, 特に後

者は百年 千年の計に関わる文化 社会基盤の変革と連者は百年・千年の計に関わる文化・社会基盤の変革と連動していることを, 国際開発コミュニティーは正しく認識せねばならない.

(→ 木村報告)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』27

11のメイン・メッセージ (そのV)⑦ 同様に, グローバルに推し進められる市場化や自由化の

諸政策については, 各途上国において, 適切な政策翻訳導入が求められる. グローバルな基準による開発政策に

も各国特有の政治・経済・文化基盤に配慮した政策ローも各国特有の政治・経済・文化基盤に配慮した政策ローカリゼーションが望まれる. ここにもまた, ポリシー・スペースが必要である.

⑧ (国際)開発に関わる政策対話・協議は, 最早, 政府対政府あるいは政府対国内民間企業セクターという伝統的な構図だけでは語れない. グローバリゼーションの中核的推進者は多国籍企業であるので 政府対多国籍企業と推進者は多国籍企業であるので, 政府対多国籍企業という重要な対話チャンネルがある. これが途上国政府と多国籍企業の場合には, 多国籍企業の経済規模の大きさから「開発主権」が脅かされることが多々あることを開発コミュニティーは認識せねばならない. (→ 大坪報告)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』28

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『グローバリゼーションと開発』 初回講義by 大坪滋教授

15

11のメイン・メッセージ (そのVI)

⑨ 多国籍企業はまた途上国国民に多くの雇用を提供し, 途上国農民を高付加価値型農業へ繋ぐ橋渡し役も担っているが, 途上国国民は多国籍企業に比べて余りに脆弱

あるため 「 な労働条件確保等は企業 経営方であるため,「公正」な労働条件確保等は企業の経営方針に左右される. 多国籍企業の途上国での生産活動に於ける環境基準遵守もしかりである. ここで重要になっ

てきているのが(特に先進国の)消費者の「消費者主権」の行使である. CSRを徹底させるのも, グローバル・コンパクトへの参加を促すのも, 多国籍企業の製品・サービスの顧客である消費者の自覚と行動である 先進国消スの顧客である消費者の自覚と行動である. 先進国消費者の日常生活の中に, 途上国の「開発」との重要なつながりが埋め込まれていることを, 先進国住民はもっと自覚すべきである. (→ 藤川報告、伊東報告)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』29

11のメイン・メッセージ (そのVII)

⑩ モノのグローバリゼーションへの対応に比べて, 対応 遅れ るカネ グ バ ゼ シ対応の遅れているカネのグローバリゼーションへの適切な管理をめざした国際金融システムの(再)構築, さらに対応が遅れている先進国人口

老齢化と労働市場開放へ向けたヒトのグローバリゼーションを適切に管理する(2国間のみなら

ず)もっとグローバルなルールづくりに取組まなず)もっとグローバルなルールづくりに取組まなければならない.

(→ 浅川報告、世界金融危機)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』30

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GSID 2009 公開講座 2009/10/6

『グローバリゼーションと開発』 初回講義by 大坪滋教授

16

11のメイン・メッセージ (そのVIII)

⑪ 経済活動のみならず, 紛争・戦争を含めた政治

社会事象 「多国籍性 注視する必要がある・社会事象の「多国籍性」に注視する必要がある. 「平和構築」,「人間の安全保障」もまた, グローバルな事象の適切な管理と, ナショナル・レベル

での努力が相俟ってはじめて実現するものであることを認識する必要がある.

(→ 中西報告)(→ 中西報告)

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』31

4. 経済活動のグローバリゼーションと貧

2009年GSID公開講座『グローバリゼーションと開発』

『グローバリゼーションと開発』第1章

経済成長、不平等、貧困削減

大坪滋

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GSID 2009 公開講座 2009/10/6

『グローバリゼーションと開発』 初回講義by 大坪滋教授

17

1.課題設定経済開放度(Openness)と経済成長・所得増大の間には概して

正の相関関係があると言われるが本当だろうか.

経済活動のグローバリゼーションは開発途上諸国にも遍く経済成長をもたらすのか. それは貧困削減に役立つのか.

グローバリゼーションは世界の諸国間, および国内でどのような格差を生んでいるのであろうか.

モノ(国際貿易), カネ(国際金融), ヒト(国際労働移動)のグローバリゼーションはどのような経路を通じて途上国経済開発, 貧困削減に影響を及ぼすのか削減に影響を及ぼすのか.

グローバリゼーションと成長・貧困・格差に纏わる史実を確認し, その上で, グローバリゼーション下の開発マネジメントや貧困・格差のガバナンスはどうあるべきかを議論する.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』33

2. 経済成長-不平等-貧困削減の三角形とグローバリゼーション

グローバリゼーション

国際貿易

国際金融・投資

国際労働移動

トレード・オフ?

開発ガバナンス制度

貧困削減 の「成長 効果 'P P ' 貧困削減 の「分配 効果

経済成長平均所得増加

不平等・格差所得分配

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』34

貧困削減への「成長」効果 'Pro-Poor' 貧困削減への「分配」効果

貧困削減

絶対貧困の減少

グローバリゼーション

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18

世界の所得不平等の長期的推移

図1-1 世界の所得不平等の長期的推移, 1820-1992 (タイル指数)

0.7

0.8

0.9

図1-2 世界の所得不平等の長期的推移, 1970-1998 (タイル指数)

0.7

0.8

0.9

(出所) i d i ( ) bl より筆者作成

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

1820

1850

1870

1890

1910

1929

1950

1960

1970

1980

1992

世界の不平等

国家間の不平等

国家内部の不平等

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』35

(出所)Bourguigon and Morrison (2002), Table 2 より筆者作成.

(出所)Sala-i-Martin (2002), Table 2 より筆者作成.

0

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

世界の不平等 国家間の不平等

国家内部の不平等

3. 所得水準の相対的収束 (σ収束)

表1-7 1人当たり実質GDP水準と変動係数の推移 (2000年米ドル値で計算)1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

変動係数

   低所得諸国 (54) 0.51 0.54 0.56 0.55 0.51 0.49 0.55 0.49 0.49

  低中所得諸国 (58) 0.55 0.62 0.56 0.51 0.47 0.45 0.53 0.47 0.43

   高中所得諸国 (40) 0.63 0.58 0.51 0.50 0.45 0.35 0.41 0.36 0.30

開発途上国全体 (152) 1 13 1 14 1 06 1 01 0 99 0 96 1 04 1 05 1 04

世界は, 高所得諸国間および高中所得途上諸国間の強い所得収束傾向と, 低中所得途上諸国間と低所得途上諸国間の弱い所得収束傾向を内包しつつ, 1980年代を境に途上国諸国全体として, そして世界全体と

  開発途上国全体 (152) 1.13 1.14 1.06 1.01 0.99 0.96 1.04 1.05 1.04

 先進国 (高所得)(56) 0.78 0.60 0.57 0.52 0.45 0.43 0.42 0.43 0.40

高所得 OECD (24) 0.45 0.42 0.38 0.38 0.38 0.38 0.37 0.37 0.37

  高所得 OECD外 (32) 1.30 0.97 0.85 0.73 0.49 0.38 0.34 0.33 0.38

世界 (208) 1.61 1.46 1.40 1.40 1.40 1.47 1.50 1.50 1.58

(出所) World Bank, World Development Indicators 2007 CD-ROMより筆者作成.

内包 , 年代を境 途 国諸国 体 , そ 世界 体して所得収束傾向から所得拡散傾向に転じていることになる. なにがし

かの条件を共有する各所得グループの構成国間では所得収束が起きると同時に, 条件等が異なると思われる所得グループの間の隔たりは拡がっていると考えられる.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』36

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19

4.所得水準の絶対的収束(βコンバージャンス)

(絶対β コンバージャンス) (条件付き βコンバージャンス:経済体制の開放的な諸国)

国際貿易統合と経済成長(全諸国)

(初期貿易統合度と経済成長) (貿易統合深化と経済成長)

.04

.06

.08

.10

apita

GD

P,

1980

-200

5

.04

.06

.08

.10

l pe

r ca

pita

GD

P

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-.04

-.02

.00

.02

2.4 2.8 3.2 3.6 4.0 4.4 4.8 5.2 5.6

log ( average Trade/GDP ratio in 1980-84)

Gro

wth

rat

e of

rea

l per

c

-.04

-.02

.00

.02

-.03 -.02 -.01 .00 .01 .02 .03 .04 .05 .06

Growth rate of Trade/GDP ratio, 1980-2005

Gro

wth

ra

te o

f re

al

(図 1-5,1-8,1-9:1980-2005:筆者作成)

何が所得収束・キャッチアップをもたらすのか?経済成長と所得分布の不平等との間に画一的な関係は存在せ

ず, それは各国特有の政策, 制度, 文化等社会基盤に依存する。

発展の過程において, 各国内に生じる地域所得(あるいは地域間格差)の収束もまた自動的なものではない(第1章第4節の 中国と間格差)の収束もまた自動的なものではない(第1章第4節の 中国と

インドの比較分析参照).

ソロー・スワン新古典派経済成長モデルは, 技術や貯蓄率や人口成長率等の異なった諸国間では所得収束が発生せず, 定常所

得水準を規定する諸条件・要因の共有が収束に必要となることを示唆している(条件付きβコンバージャンス).

技術移転は, 重要要件である技術水準共有を, 時空を超えて可能にする. 構造変化(政策, 制度, 文化等社会基盤の変化や産業構造変化を含む)や構造改革もまた, 条件付きβコンバージャンスへの要件獲得の視点から取り組まれるべきものである.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』38

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20

5. グローバリゼーションと国内不平等・格差

(1) Dollar and Kraay (2004)

図 1-10 国際貿易統合と不平等

貿易の対pppGDP比の変化(および関税率の変化, 資本

規制度の変化)とジニ係数の変化の間になんら有意な相関が見られないことを示し(図1-10), 経済成長のみならず, 貿易統合そ も も( 均的貿易統合そのものも(平均的には)分配中立(distribution neutral)とした.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』39(出所) Dollar, David and Kraay, Aart (2004), Figure 5. 作者の了解を得て再掲.

5. グローバリゼーションと国内不平等・格差

(2) Milanovic (2005)

世界のGDPの95%, 人口の90%をカバーする世界所得分布(1988,1993,1998)データを用いて, 世界人口の10分位平均所得を貿易/GDP比, 海外投資/GDP比等に回帰させた結果, 貿易統合は

特に貧困国の中間から最下層所帯に対して負の効果を及ぼすこと(より高所得国の高所得帯には効果を及ぼすこと(より高所得国の高所得帯には正の効果)を及ぼすことを示した.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』40

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国際貿易の代表的な理論モデルの示唆 1

国内の輸入財価格を引き上げる効果を持つ輸入制限措置はどれも, その輸入競争財の生産により

集約的に使用される生産要素の報酬を間違いな集約的に使用される生産要素の報酬を間違いなく引き上げる(ストルパー・サミュエルソン定理)

両国で貿易財価格を均等化する(規制のない)自由貿易が行われたとき, 両国が同じ技術を共有し

同じ2財を生産し続けているならば(どちらか一方の財に生産特化してしまわない限りは)両国間での財に生産特化してしまわない限りは)両国間で労働報酬(賃金)と資本報酬(レント)はそれぞれ均等化する (要素価格均等化定理)

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国際貿易の代表的な理論モデルの示唆 2

開発途上国は労働が相対的に豊富で(資本に乏しい)先進国は資本が相対的に豊富で(労働に乏しい)と言う現状から考えると 貿易自由化で輸入しい)と言う現状から考えると, 貿易自由化で輸入障壁を下げると, 途上国では輸入競争財に集約

的に使用される資本の保有者(富裕層)の報酬が低下し労働者への所得再分配が起こるとともに(ストルパー・サミュエルソン定理), 労働報酬(貧困

層の)はより高い(しかし低下をはじめる)先進国層 ) り高 ( 低 を )先 国の賃金水準へ向けて上昇(要素価格均等化定理)するはずである. 同じケースを, 非熟練労働が豊富で(熟練労

働に乏しい)途上国と, 熟練労働が豊富で(非熟練労働に乏しい)先進国と言う構図で考察しても良いはず. 何故Milanovic(2005)か?

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』42

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途上国への資金フローの分配効果はどうか? 「国民経済の便益という観点から見ると, 資本流入を奨励する

論拠の本質は, 投資行動による実質所得の増加が投資家の所得増加よりも大きいことである. 外国資本による生産の付加価値が投資家が手にした金額よりも大きければ, 社会的収益は私,的収益を上回ることになる. 外国投資によって生産性が上昇し, かつ, この上昇分が投資家によって独り占めされない限り, 生産の増加は他の者と分け合うことになるから, 他の所得階層にも直接的な便益がもたらされるはずである. その便益は, (1)実質賃金の上昇という形で国内労働者に, (2)価格の低下を通じて消費者に, (3)税収増を通して政府に, 生じる. さらに, 多くの場合 最も重要なことは (4)外部経済の実現を通して間接的な利合, 最も重要なことは, (4)外部経済の実現を通して間接的な利益が生じることである.」G.Meier,『国際開発経済学入門』(1999) 第4章「開発の外部金融」

先進国投資家 資本の生産性上昇、途上国からのより高い投資収益先進国労働者 労働の生産性減少 投資家win-win 労働者lose ?

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』43

国際貿易・投資の効果が先進国・途上国で非対称であるのは何故か?

要素価格の国際間均等化理論には, 「技術を共有しているとすれば」と言う厳格な仮定が置かれている. 実際, 先進国と途上国間には大きな技術格差が存在する以上, 生産要素価格の完全な均等化は実現しない.

(非熟練)労働を集約的に使用する財を生産輸出が拡大しても, (非熟練)労働の供給が過多である(失業者のプールが大きい)ので雇用は拡大しても賃金の上昇には必ずしも繋がらない.

途上国への投資が労働者1人当たりの資本量を増加させ, 労働生産性上昇による(実質)賃金上昇をもたらすはずであっても 生生産性上昇による(実質)賃金上昇をもたらすはずであっても, 生産活動を支える産業インフラや制度を含めた投資環境, また人的資源の充実等の補完的要素の整わない中では, 生産性の上昇は限られる. または, 労働生産性がよしんば上昇したとしてもその恩恵が労働者に分配されず資本家に帰属している.

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』44

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要素価格均等化? 中国 vs. 日本・米国 技術移転

表 1-8 中国の職種別賃金と日米の同業種賃金との比較 (倍率)

織機工(対日)

縫製機械操作(対日)

縫製機械操作(対米)

銀行計理士(対米)

銀行窓口係(対米)

1990 24.7 25.2 29.6 74.8 42.61991 29.8 20.5 28.3 77.2 43.11992 21.2 31.3 39.3 1993 12.0 21.4 27.0 46.0 23.61994 33.4 48.9 1995 16.1 20.1 23.6 45.2 22.61996 10.1 15.3 35.9 1997 13.1 15.2 17.0 16.7 14.21998 11.5 14.0 19.0 16.7 13.11999 11.8 2000 8.2

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』45

(注) 中国の業種別賃金に対して, 日本および米国において同業種の平均賃金が何倍にあたるかの相対

比(倍率)を計算している. ドル換算され, 同じ手法で統計調整を施されたデータを使用した.

(出所) NBER, Occupational Wages around the World Database (ILO, LABORSTA を統計調整して国際間賃金

比較も可能にしたデータベース) (http://www.nber.org/oww/)より筆者作成.

5 グローバル金融危機と開発途上国

2009年公開講座『グローバリゼーションと開発』

「グローバリゼーションと開発途上国―世界金融危機の中で―」『世界経済評論』7月号

5. グロ バル金融危機と開発途上国

『世界経済評論』7月号

大坪滋

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Global Imbalances

Sum of the Absolute Values of CAB across Cos. /  World GDP

= 2‐3% (‐1997 AFC) =   2 3% ( 1997 AFC)

=   near 6% (2006‐2007)

47 公開講座 『グローバリゼーションと開発』 2009/10/6

図1 米国・日本・中国の貯蓄・投資バランス(経常収支)(単位:対GDP比 %) (単位:10億米ドル)(単位:対GDP比, %) (単位:10億米ドル)

‐8 

‐6 

‐4 

‐2 

10 

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

米国 日本 中国

‐1000 

‐800 

‐600 

‐400 

‐200 

200 

400 

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

米国 日本 中国

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』48

(出所)世界銀行, World Development Indicators 2008を基に筆者作成.

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25

図2 米国・OECDと開発途上地域の貯蓄・投資バランス(単位:10億米ドル)

200 

400 

‐800 

‐600 

‐400 

‐200 高所得OECD諸国

開発途上諸国

東アジア・太平洋地域

米国

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』49

(出所)世界銀行, World Development Indicators 2008を基に筆者作成.

‐1000 

図3 開発途上諸国へのリソース・フロー(単位:10億米ドル)

200 

250 

300 

50 

100 

150 

1970

1974

1978

1982

1986

1990

1994

1998

2002

2006

開発途上国全体

東アジア・太平洋地域

中国

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』50

(出所)世界銀行, Global Development Finance 2008を基に筆者作成.

(注)世銀が’Aggregate Net Transfers’とされる額. 長期債務となるリソース・フロー, 海外直接投資, ポートフォリオ投

資, 公的資金の総額から元金支払い分, 金利・配当支払い, 海外直接投資の利潤還付等を差し引いた純インフロー額を示している.

‐50 

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図4  従属年齢人口比率(Age Dependency Ratio)

(15才未満および65才以上の人口/生産年齢人口, %)

80

90

100

40

50

60

70

1960

1970

1980

1990

2000

2010

2020

2030

2040

2050

先進国(高所得国) 日本

開発途上国(低・中所得国) 東アジア・太平洋州途上国

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』51

(注)日本については特殊合成出生率が2035年まで低下と続けその後1に

なると仮定して試算. 実際にはそれ以前に何らかの政策効果が現れるであ

ろう.

(出所)国連人口部の人口統計・シナリオ予測に基づいた世界銀行予測グループの推計を筆者が調整・合成.

Global Imbalances図2と図3を合わせて考えると, 途上国地域への資金フロ

ーが急回復する中でも, 米国が多額の資金を途上国地域から吸い込んでいるため, 結果として途上国全体の資金イ

(流入)と ウ (流出) バ は 先述ンフロー(流入)とアウトフロー(流出)のバランスは, 先述したように2000年を境にアウトフロー超過に転じているという構図が浮かび上がる. 基軸通貨ドルを保有する米国は, こうした世界的な資金循環の仲介者として機能してきたのであるが, レバレッジの高い金融モデルに支えられた消費過剰(貯蓄減少)が行き過ぎたことにより, 結果として

本来途上地域で投資活用されるべき世界の貯蓄も食いつ本来途上地域で投資活用されるべき世界の貯蓄も食いつぶしている. 確かに借金に支えられた高消費は,途上国を含めて世界に需要を振りまき, 各国の輸出を支えてきたことも確かではある. 経常収支と資本収支は基本的にはコインの裏表であるから.

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危機発生の理由

アジア金融危機後の開発途上地域の一時的な投資減退が, 貯蓄とのバランスから世界的な低金利を招き, 比較的魅力的であった米国や欧州の金を招き, 比較的魅力的であった米国や欧州の金

融セクターや国債・財務証券に資金が流れ込んだ. それが少しでも高リターンを求めて高レバレッジ

でかつリスクの高いサブ・プライムローン市場の拡大等の金融バブルを生んだのである. 今回のグローバル金融危機は, 世界の貯蓄・投資の不均衡(imbalances)の上に生まれた高リスク金融

商品の管理が適切でなかったために起きたのである.

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多極化する世界

世界の資金を引きつけてきた米国型金融モデルと, それに支えられて米国の超過需要(消費超過)

が世界に還流するという成長モデルが崩壊した今が世界に還流するという成長モデルが崩壊した今, 米国一極集中型の世界経済システム, 新古典派

経済学に裏打ちされた自由市場原理主義と民主主義の合体した「新自由主義」の拡散に根ざしたアメリカナイゼーションとしてのグローバリゼーションは, 間違いなく大きな転換点を迎えようとしている. 今後, 多極化していくグローバル社会は, 政府の役割を再認識し, 国際通貨・金融制度を含めて

多種多様な制度・システムの構築・再構築を迫られることになるだろう.

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必要な対策このグローバル金融危機・経済危機への対処には, ①米

国の金融モデルの正常化と金融セクター改革・健全化, このサブ・プライムローンの毒を含んだ金融商品の多量保有を 欧 銀 タ 健全 う金融改革有をしていた欧州の銀行セクターの健全化という金融改革, ②米国をはじめ先進国のみならず(このリスク性金融商

品には関係のない)多くの開発途上諸国の実物経済の立て直し(ケインジアン政策)とあわせて, ③世界的な不均衡

や開発途上地域からの資金逆流を是正する新たな世界的な資金循環およびそれを支える国際金融システムの(再)構築という3つの政策パッケ ジが必要とされる 2009再)構築という3つの政策パッケージが必要とされる. 2009年半ばにおいて①,②が(開発途上国の実物経済立て直しにはさらに時間がかかるが)動き始めているが, ③の議論は今後G8サミットで頭出しが行われ, G20の枠組みも巻き

込んで議論されていかねばならない.2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』55

今後の希望的観測

グローバルな不均衡を経常収支の絶対値(黒字でも赤字でも)の世界総和の対世界GDP比で見た場合, 1997年のアジア金融危機まで2-3%で推移していたものが2006-7年には6%近くまで拡大していた. 今後この比率は, 米国の経常収支赤字がGDP比6%強から3-3.5%程度まで押さえられことに伴い, 4%程度までは低下すると見られている. これは米国の住宅・金融バブル崩壊に伴う民間貯蓄率の増大, 高レバレッジ金融モデルがレバレッジ率の低い金融モデルに(ある金融モデルがレバレッジ率の低い金融モデルに(ある程度)収束していくことによる世界のクレジット市場のタイト化, 石油・資源・食料価格の沈静化等の要因によって引き起こされるはずである.

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システミック・リスク

多極化が進む新しい世界の金融体制・資金循環のなかで, 減少するとはいえなお多額の経常収支

赤字を出し続ける米国の国債をふくめた金融商品が魅力を失うことがあれば―大手金融機関やGM等製造業の救済財政コストが止めどなく拡大するなどして―ドル暴落と底なしの世界金融危機に突入するリスクはなお厳然として存在している.

米財政赤字は短期的には対GDP比で少なくとも10%を超す. 安定的な米国債保有者・購入者が必要とされる. 中国頼み?

2009/10/6公開講座 『グローバリゼーションと開発』57

グローバリゼーションと開発

2009年度GSID公開講座『グローバリゼーションと開発』

名古屋大学大学院国際開発研究科

大坪滋

グロ バリゼ ションと開発

大坪滋