急性白血病の化学療法 -...
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急性白血病の化学療法
神奈川県立がんセンター 血液内科 山本 渉
第5回 市民公開講座 「がんを知る」 神奈川県立がんセンター KANAGAWA CANCER CENTER
急性白血病の化学療法とは
・抗がん剤投与により白血病細胞を減らす 強力な治療であり,基本的に入院で行う. ・白血病のタイプによって,使用する抗がん剤の種類,組み合わせが異なる. ・投与方法は,薬の種類によって異なり, 点滴(経静脈投与),飲み薬(経口投与), 皮下注射,筋肉内注射などがある. ・抗がん剤以外にも副作用を抑える薬 を併用することが多い.
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なぜ化学療法を行うのか
・急性白血病は無治療のままでいると,数週〜数ヶ月以内で生命に危険が及ぶ可能性がある. ・白血病は,早期の大腸癌・肺癌といった多くの癌と違い,手術などの局所治療では治らない ため全身治療である化学療法が必要となる. ・他の癌に比較して,化学療法の効果が高く, 治癒に導くことができる可能性がある.
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化学療法の原則
・白血病細胞は1つでも残っていると再び増殖 するため,「体内の白血病細胞をゼロにする(total cell kill)」ということが目標. ・化学療法は繰り返し行うことが必要. ・白血病のタイプ別に標準療法がある. ・年齢,他の病気による臓器機能の低下, 発症時の合併症(肺炎などの感染症)など により,どのような治療を行うか個々の患者 さんごとに検討する.
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寛解導入療法・寛解後療法 ・寛解導入療法
強い薬物療法を行って,骨髄および血液中に白血病細胞がほとんど認められず,血液細胞(赤血球・白血球・血小板)が正常な値に戻る こと(これを寛解という)を目標とする. ・寛解後療法(地固め療法/強化維持療法) 寛解に到達後も体内に残っている白血病細胞を減少させ,限りなくゼロに近づけることに より,白血病の再発を防ぐ.
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Total cell killについて
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化学療法の流れ
急 性 白 血 病 発 病
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白血病のタイプによる違い
・急性骨髄性白血病(AML) ①急性前骨髄球性白血病以外のAML ②急性前骨髄球性白血病 ・急性リンパ性白血病(ALL) ③Ph染色体陰性ALL ④Ph染色体陽性ALL
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①急性前骨髄球性白血病以外のAML
・寛解導入療法は2剤併用,地固め療法は 単剤または2剤併用で行うことが多い. ・寛解導入療法と地固め療法を合わせて 4〜5コース行うことが多い. ・維持療法は通常行わない. ・造血幹細胞移植は化学療法のみでは再発率が高いと考えられるときに行う.
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②急性前骨髄球性白血病
・レチノイン酸(ビタミンAの一種)が有効である. ・通常の抗がん剤を加える場合もある. ・地固め療法に亜ヒ酸や分子標的薬である ゲムツズマブオゾガマイシンを併用する 臨床試験も行われている. ・レチノイン酸による維持療法を行う. ・通常は造血幹細胞移植は行わない.
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③Ph染色体陰性ALL
・数種類の抗がん剤の組み合わせに加えて, ステロイド剤の併用を行うことが多い. ・年齢によって治療法を変えることもある. ・造血幹細胞移植を行わない場合は維持療法を行う.
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④Ph染色体陽性ALL
・Ph染色体陰性ALLの治療法に分子標的薬で あるチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ, ニロチニブ,ダサチニブ)を併用する. ・造血幹細胞移植を積極的に検討する.
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分子標的薬
・がん細胞に,特有又は過剰に発現している 特定の分子を標的にして,その機能を抑える 薬剤のこと. ・一般的な抗がん剤と副作用が異なり,固有の副作用に注意する.
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副作用とその対処法 ・骨髄抑制 副作用の内容:化学療法開始から10日〜2週間ほどして,正常の白血球・赤血球・血小板が低下する.白血球(バイ菌と戦う 細胞)が減ると感染症に弱くなる,赤血球が下がると貧血(息切れ,動悸),血小板が下がると出血が止まりにくくなる. 対処法:白血球が下がることに対してはうがい・手洗いといった感染症の予防,無菌室の使用,抗菌薬投与などで対応 する.赤血球や血小板が下がることに対しては輸血で対応する.
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・消化器症状 副作用の内容:吐き気,嘔吐,胃腸の粘膜障害,口内炎,下痢,便秘など. 対処法:吐き気止め,胃薬,整腸剤,下剤などの投与,うがいや歯磨きといった口腔内のケアを行う. ・神経障害 副作用の内容:手足のしびれ,味覚障害. 対処法:薬の減量,ビタミン剤の投与を行う.
副作用とその対処法 ・結膜炎 副作用の内容:一部の抗がん剤が涙に混じるため結膜を刺激する. 対処法:ステロイド点眼薬. ・脱毛 副作用の内容:個人差があるが1〜3週後から脱毛が始まる. 対処法:ほとんどの場合治療を終了すると再び生え始めるの で一時的に帽子やウィッグなどで対応.
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・心機能障害 副作用の内容:一部の抗がん剤で蓄積性の心機能障害が起こる. 対処法:治療前の心機能を調べ,総投与量が規定量を超えないようにする. ・肝機能障害,腎機能障害 副作用の内容:抗がん剤の種類によって肝・腎機能障害が起こる. 対処法:投与量の調節を行う.
白血病の化学療法を乗り切るために
・治療期間が長いため,感染予防や基礎体力の維持に対して,患者さん御本人がどのくらい取り組めるかということも重要となってくる. ・再発に対する不安,社会復帰への不安なども強くなることもあり,精神的なサポートも必要となる. ・神奈川県立がんセンター血液内科の スタッフ一同,白血病患者さんのお力に なれるように努めていきます.
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