成人初感染の...
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成人初感染の
サイトメガロウイルス感染症の一例
はじめに
サイトメガロウイルス(CMV)はAIDS患者や移植患者など易感染性宿主における日和見感染症が問題となる以外は、通常は不顕性感染に終わることがほとんどである。しかし近年社会経済的環境の整備が進んだために成人のCMV抗体保有率の低下が多数報告され、そのため明らかな基礎疾患を有さない健康成人のCMV感染症が最近増加しつつある。
【症例】
30歳男性
身長 170cm
体重 111.9kg
BMI 38.7
職業 医師
家族構成
妻、子1人(5ヶ月)
患者背景
5:00 起床
6:00 出勤
7:00 朝食
おにぎり2個とカレーライス
8:00~13:00 病棟回診
13:00 昼食
医局のパン3個とお弁当
13:15~20:00 昼診&夕診
20:00 夕食 病院食
20:30~22:00 病棟回診
22:00 夜食 カップラーメン2個
+当直平均12回/月(夜食付き)
【主訴】40℃の発熱、頭痛
【現病歴】
入院12日前
インフルエンザ患者と濃厚な接触があった。
入院10日前
40度の発熱と全身倦怠感があった。アセトアミノフェンにて37℃台まで解熱得られるために勤務続行していた。
入院7日前
発熱継続していたために、検査もせずインフルエンザと自己診断しタミフル内服を開始。その後も解熱傾向は認めなかった。この頃から頭痛出現。痛みの程度はmaxで10/10で、1日の中で痛みの程度は変動するが、痛みが寛解することはなかった。
入院4日前
依然解熱傾向なし。全身倦怠感。頭痛継続。
咳・鼻水なし。嘔吐・下痢なし。
研修医2年目の診察をうけ、腹部エコー、頭部CTを実施するも高度の脂肪肝を指摘されるのみで、 明らかな熱源は見つからず。
翌日に腰椎穿刺を実施し、初期髄液圧22cmであったが、髄液が無色透明で、白血球もほとんど認められなかったために帰宅になった。
その後も、解熱しないためにウイルス感染症疑いで
精査・加療目的にて入院された。
【既往歴】
#1.11歳 虫垂炎術後
#2.28歳 両側扁桃摘出術
【アレルギー歴】
29歳 蕁麻疹(漢方薬)
【家族歴】
父:DM、HTN、HL、PCI後
母:なし
父方祖母:DM
父方祖父:ギランバレー
兄弟 2人 本人2人目 兄は元気
【ROS】 全身 全身倦怠感あり 体重減少あり 5kg(10日間) 神経系 頭痛あり、意識障害なし、構音障害なし 呼吸器 咳なし、呼吸困難なし 循環器 動悸なし、胸痛なし 消化器 吐き気あり、下痢なし 内分泌 多毛なし、多量発汗なし 泌尿器 頻尿なし、排尿時痛なし 四肢 末梢冷汗なし、ばち指なし
身体所見
General:not sick but fat
HEENT:貧血(-)充血(-)黄疸(-)
咽頭発赤(-)扁桃腫大(-)白苔(-)
頸部リンパ節:腫脹(-)甲状腺 腫大(-)
Chest:肺)呼吸音 清、肺雑音(-)
心)PMI 鎖骨中線上にあり
S1→、S2↑、S3-、S4- 整
no murmur
Abd:腸蠕動音亢進・低下(-)
distended due to simple obesity, no tenderness
Ext :下腿浮腫なし、ばち指なし
【検査所見】
血液検査: CPK 99 GOT 59 GPT 83 LDH 450
γ-GPT 109 TP 7.7 T-Bil 1.0
BUN 10.6 CREA 1.00 Na 131 K 4.4 UA 6.6
s-Glu 121 TG 218 LDL-cho 110 HDL-cho 38
CRP 4.66
WBC 8700 RBC 544 Hb 15.7 Ht 45.8
PLT 15.5 血沈 12
迅速血清マイコプラズマ 陰性
クオンティフェロン 陰性
抗核抗体 陰性
HTLV-1 陰性
HIV抗原抗体/EIA 陰性
サイトメガロウイルスIgG 陽性 EIA 13.2 (正常値 2.0未満)
サイトメガロウイルスIgM 陽性 抗体指数 7.16(正常値 0.8未満)
EBV抗VCA-IgG 80 EBV抗VCA-IgG 10未満
尿検査:異常所見なし
心電図:異常所見なし
心エコー:異常所見なし
腹部エコー:高度のfatty liverを認めるのみ
胸部Xp:異常所見なし
頭部CT:異常所見なし
胸腹部CT:脾腫あり
腹部CT:脾臓は7cmを超え、正中に届きどう 脾腫を認める
入院後経過
血液検査にてサイトメガロウイルス感染症と診断され、補液のみで経過をみた。
一日の内で40℃台と37℃台を行ったり来たりする弛張熱を繰り返し、入院13日目で完全に解熱を得、入院14日目に退院となった。なお、入院時よりナパは使用せず。
CMV感染症
現状
日本では妊婦の90-95%がサイトメガロウイルス抗体陽性者であり、母
子感染が80%を占め、その他は水平感染として経口感染や性行感染があ
るが、90%以上が成人になるまでにCMVの初感染を受け、しかもそのほ
とんどが不顕性感染に経過するとされている。しかし、最近の報告では、
急激に若年者でのCMV抗体陽性者率が低下し、欧米の水準に近づきつつあ
るとされ、今後は胎内感染の危険性が増大する危惧がある。一方、欧米で
は妊婦のキャリア率は30~40%と低く、思春期以降の性感染症の割合が
多くなる。また臓器移植患者やAIDS/HIV患者、免疫抑制剤の使用など、
易感染性宿主の場合のCMVの再活性化は重篤な病態を呈し、致死率も高い。
感染経路
①垂直感染
ⅰ)経胎盤感染、ⅱ)産道感染、ⅲ)母乳感染
②水平感染
ⅰ)経口感染
特にウイルス排出児からの水平感染症が最近注目されており、尿
や唾液にCMV排出を続けている乳幼児を取り扱う保母さんや、5~
10ヶ月になる乳幼児がいる家庭での感染が報告されている。特にCMV
初感染と思われる男性4名の内、全例に5~10ヶ月になる乳児がい
たとの報告もある。これは、母子感染を受けた乳児にCMVが増殖
し、抗体陰性の父親への感染源になったと思われる。
ⅱ)性行為感染
健康成人に発症したCMV初感染の臨床像 ・発熱は必発で3~4週間に及ぶ長期に持続
・頭痛
・後頚部の痛みやこわばり感
・黄疸を伴わない一過性の肝機能障害、異型リンパ球の増加、肝脾腫
・発症年齢のピークは30歳前後
・男性の場合は5-10ヶ月の乳児の有無もcheck!
・時には心筋炎、間質性肺炎、溶血性貧血、血小板減少などの合併症
や肝炎の重症化が見られることもある。
★咽頭痛などの上気道症状は少ない
★表在リンパ節腫脹、咽頭発赤、発疹などは少ない
EBVによる伝染性単核症などに見られる扁桃腺炎のような
特徴的な症状に乏しいために見逃されることも多い。
診断と治療
ヒト由来の線維芽細胞を用い、尿、咽頭、血液、各種病理細胞か
らのウイルス分離・同定を行う。間質性肺炎の際には、気管支洗
浄液(BAL)が用いられる。または迅速分離診断法として蛍光抗体
法で、CMV抗体IgGやCMV抗体IgMを測定する方法もある。当院で
はEIA法にて測定している。
CMV単核症の予後は良好であり、抗ウイルス薬は使用せずに
症療法のみで回復が見られる事がほとんどであるが、免疫不全患
者に再燃するCMV肺炎やCMV網膜炎などに対してはガンシクロビ
ル等の抗ウイルス薬を処方する。
まとめ
本症は不明熱の鑑別として念頭にないと不用意に
抗生物質が長期に投薬されていたり、診断が遅れ
ると長期に持続する発熱のために患者が医療機関
を“はしご”する可能性も高い。長期に持続する
発熱のため患者は不安感を持つが、早期の診断と
十分な説明にて対処すれば、外来治療も可能な疾
患である。プライマリを担う臨床医としては、認
識を持ち的確な診断を下すべき疾患と言える。