太陽発電衛星の経済性及び宇宙輸送費超低価格化に...

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社団法人 電子情報通信学会 信学技報 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, TECHNICAL REPORT OF IEICE INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS SPS2009-09 (2010-01) - 13 - 太陽発電衛星の経済性及び宇宙輸送費超低価格化について パトリック コリンズ 松岡 秀雄 麻布大学 環境科学課 229-8501 神奈川県相模原市淵野辺 1-17-71 太陽発電衛星研究会 E-mail: [email protected], [email protected] あらまし 太陽発電衛星が重要な電力源になるには、他の電力源と競争しなければならなくなる。これから技術 開発が順調に進んでも、太陽発電衛星の費用が十分に安くならなければ、大規模に普及することはない。この論文 では、太陽発電衛星の費用の問題と分析について様々な説明をする。その上、その費用の中で、軌道までの打上げ 費用が一番のポイントになるが、これが余りにも高価すぎて、99%カットする必要がある。これが無理と思われ てはいるが、ロケット輸送機の発展の半世紀の歪みを明らかにし、この超低価格化が可能であることも説明する。 キーワード 太陽発電衛星、宇宙輸送、再使用型ロケット、宇宙旅行 On the Economics of Solar Power Satellites and Very Low-Cost Space Transportation Patrick COLLINS Hideo MATSUOKA †Faculty of Life and Environmental Science, Azabu University 1-17-71 Fuchinobe, Sagamihara, Kanagawa, 229-8501 Japan ‡Solar Power Satellite Research Society E-mail: [email protected], [email protected] Abstract If solar power satellites are to become an important source of energy, they must be competitive with other sources of electric power. This requires not only successful technological development, but also competitive costs. The paper discusses some SPS cost problems and analyses. The most important cost is that of launching the SPS to Earth orbit, which needs to be reduced by about 99% below present-day costs. Although this objective may sound impossible, due to the long-distorted history of rocket development it is understood to be achievable - by developing fully reusable rocket vehicles for passenger-carrying, which could grow into a major new industry. Keyword Solar Power Satellite, Space Transportation, Reusable Rocket, Space Travel 1. 太陽発電衛星の費用について 宇宙基本法が 2008 年に成立し、宇宙基本計画 2009 年に宇宙開発戦略本部 ( 本 部 長:首 相 ) によ り決定された。ここで初めて、SPS の実現に向け た実験プロジェクトの実施が政府レベルで決定 されたことになる。もしプロジェクトが構想通り に進展すれば、1 GW の電力供給用衛星 (SPS Solar Power Satellite) 2030 年頃に市場に投入さ れることになるという。 そのためには、システムを構成するのに必要 な技術が全て、計画通りに機能する必要があるだ けではなく、SPS が供給する電力の価格が他の地 上の電力源のそれと競争し得るように十分に低 価格になる必要もある。 十分な低価格になるために、製造費用、宇宙輸 送費用、組み立て費用、運用費用、メンテナンス 費用などの全てが十分に低価格にならなければ、 SPS による電力は高価すぎて、他の地上の電力源 と競争し得ない。 過去数 10 年にわたり、関連する各技術のコス ト・ダウン化が図られて来た。しかし、その技術 の一つのコスト問題が今なお残っている。これま でに開発・進展して来た技術を使うにしても、 SPS の費用の中で、宇宙輸送費用は約 100 倍高すぎる。

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Page 1: 太陽発電衛星の経済性及び宇宙輸送費超低価格化に …wpt/paper/SPS2009-09.pdfE-mail: † collins@azabu-u.ac.jp, ‡ hideomat@gmail.com あらまし 太陽発電衛星が重要な電力源になるには、他の電力源と競争しなければならなくなる。これから技術

社団法人 電子情報通信学会 信学技報 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, TECHNICAL REPORT OF IEICE INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS SPS2009-09 (2010-01)

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太陽発電衛星の経済性及び宇宙輸送費超低価格化について

パトリック コリンズ† 松岡 秀雄‡

† 麻布大学 環境科学課 〒229-8501 神奈川県相模原市淵野辺 1-17-71 ‡ 太陽発電衛星研究会

E-mail: † [email protected], ‡ [email protected]

あらまし 太陽発電衛星が重要な電力源になるには、他の電力源と競争しなければならなくなる。これから技術

開発が順調に進んでも、太陽発電衛星の費用が十分に安くならなければ、大規模に普及することはない。この論文

では、太陽発電衛星の費用の問題と分析について様々な説明をする。その上、その費用の中で、軌道までの打上げ

費用が一番のポイントになるが、これが余りにも高価すぎて、99%カットする必要がある。これが無理と思われ

てはいるが、ロケット輸送機の発展の半世紀の歪みを明らかにし、この超低価格化が可能であることも説明する。 キーワード 太陽発電衛星、宇宙輸送、再使用型ロケット、宇宙旅行

On the Economics of Solar Power Satellites and Very Low-Cost Space Transportation

Patrick COLLINS† Hideo MATSUOKA‡

†Faculty of Life and Environmental Science, Azabu University 1-17-71 Fuchinobe, Sagamihara, Kanagawa, 229-8501 Japan

‡Solar Power Satellite Research Society E-mail: †[email protected], ‡[email protected]

Abstract If solar power satellites are to become an important source of energy, they must be competitive with other sources of electric power. This requires not only successful technological development, but also competitive costs. The paper discusses some SPS cost problems and analyses. The most important cost is that of launching the SPS to Earth orbit, which needs to be reduced by about 99% below present-day costs. Although this objective may sound impossible, due to the long-distorted history of rocket development it is understood to be achievable - by developing fully reusable rocket vehicles for passenger-carrying, which could grow into a major new industry.

Keyword Solar Power Satellite, Space Transportation, Reusable Rocket, Space Travel 1. 太陽発電衛星の費用について

宇宙基本法が 2008 年に成立し、宇宙基本計画

が 2009 年に宇宙開発戦略本部 (本部長:首相 )によ

り決定された。ここで初めて、SPS の実現に向け

た実験プロジェクトの実施が政府レベルで決定

されたことになる。もしプロジェクトが構想通り

に進展すれば、1GW の電力供給用衛星 (SPS:Solar Power Satellite)が 2030 年頃に市場に投入さ

れることになるという。 そのためには、システムを構成するのに必要

な技術が全て、計画通りに機能する必要があるだ

けではなく、SPS が供給する電力の価格が他の地

上の電力源のそれと競争し得るように十分に低

価格になる必要もある。 十分な低価格になるために、製造費用、宇宙輸

送費用、組み立て費用、運用費用、メンテナンス

費用などの全てが十分に低価格にならなければ、

SPS による電力は高価すぎて、他の地上の電力源

と競争し得ない。 過去数 10 年にわたり、関連する各技術のコス

ト・ダウン化が図られて来た。しかし、その技術

の一つのコスト問題が今なお残っている。これま

でに開発・進展して来た技術を使うにしても、SPSの費用の中で、宇宙輸送費用は約 100 倍高すぎる。

Page 2: 太陽発電衛星の経済性及び宇宙輸送費超低価格化に …wpt/paper/SPS2009-09.pdfE-mail: † collins@azabu-u.ac.jp, ‡ hideomat@gmail.com あらまし 太陽発電衛星が重要な電力源になるには、他の電力源と競争しなければならなくなる。これから技術

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この問題のため、遠い将来でも SPS には競争力が

ないという批判がある。しかし、下記の3)に書

かれている通り、宇宙用輸送機の歴史に示される

ように、必要となるコスト・ダウンは無理ではな

いと結論され得る。 この話を具体化にするのに、1970 年代に米国で

提案された「SPS Reference System」を例として使

おう。その計画によると、出力の5GW の衛星は

重さが約5万トンになる。現在の宇宙輸送システ

ムを使えば、1キログラム当たり 200 万円を要す

るので、1GW の打ち上げ費用は 20 兆円で、すな

わち原子力発電所の 20 倍

ぐらいである。 さらに言

えば、この宇宙輸送費用な

ら、SPS の製造費用がゼロ

となってもビジネスには

ならない。 太陽発電衛星 (SPS)研究

会の平成 21 年度のシンポ

ジウムで述べられたので

あるが、内閣官房宇宙開発

戦略本部の宮本正氏は「宇

宙輸送費用が 100 分の1ま

で低価格にならなければ、

SPS の供給する電力は高価

すぎる」と正当にも認識し

ていた [1 ]。確かに、宇宙

輸送費用が1キログラム

当たり2万円になれば、1

GW の 打 ち 上 げ 費 用 は

2000 億円になるが、これは

原子力発電所の5分の1

ぐらいである。従って、も

し宇宙輸送費用が全費用

の半分ぐらいとすれば、

SPS は地上の他の電力源と

競争することができるよ

うになる。付言すれば、宇

宙輸送費用を超低価格化

することを SPS の研究会

のプライオリティにする

必要があろう。 近年、先進国での宇宙産

業に働いている人々の数

は急速に減少している。な

ぜなら、宇宙産業は国民が

購入したいサービスをほ

とんど供給することがな

く、専ら政府の赤字プロジェクトの担い手になっ

てしまっているからである。それと対照的に、も

し電力を普通に供給するようになれば、納税者に

負担を強いるよりも経済成長に貢献するように

なる。また宇宙活動の成長は、政府の予算より企

業の成長に依存することになるので、大規模に拡

大することができよう。 もしこれから SPS の競争力が充足されるよう

になったら、電力供給産業の主要な部分になるだ

ろう。そうしたら、そのビジネス・モデルは図1

のようになる。

図1a: 太陽発電衛星の建設のキャッシュ・フロー

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重要な可能性の一つは、民間投資者にとって多

数のいいビジネス・チャンスが生まれることであ

る。保険会社など機関投資家は多量の資金を長期

的かつ安定的に成長する産業に投資したがるが、

金融システムの不安定な現在、これは探しにくい。

しかし数 100GW の SPS システムを建設すれば、

何 10 兆円もの投資が必要になるので、民間金融

機関に望ましい分野になるであろう。

2. 電力市場の必要な

費用 将来の大規模な SPS シ

ステムの費用を現在詳し

く予測することはできな

い。しかし、それにもか

かわらず役立つコストの

目標を見積もることは出

きる。 他の大規模な電力源に

比べて、SPS には唯一の

融通のきく能力がある。

高度3万 6000 キロの静

止軌道から電波でエネル

ギーを送るので、地上面

にある一つの受電アンテ

ナから遠く離れている別

の受電アンテナに向け、

電波を送くる方向を素早

く変換することができる。

この能力の経済価値を理

解するために、それを次

の方法により正確に計算

することができる。 先ず SPS システムの地

上面にある施設としてレ

クテナと電力調整システ

ムが図 1 に示されている

ように、電力供給会社 (電力会社 )の資産になるこ

とを前提とする。そうす

ると、レクテナを使って、

SPS を運用する企業 (SPS会社 )から電波エネルギ

ーを購買することになる。

その二つの企業の間の経

済的な関係は次の方程式

で表せる。 最初から SPS の研究で

は、SPS とレクテナは固定なシステムとして調査され

た。しかし、各 SPS は複数のレクテナへ電波エネルギ

ーを送ることができる。また各レクテナは複数の SPSから電波エネルギーを受け取ることができる。従って、

地上のレクテナが電力会社の施設として考えれば、各

レクテナは電波エネルギーを「電波燃料」として SPS会社から購買すると言える。 レクテナを所有している電力会社が売る電力の値段 Pe は市場で決まる。それに基づいて、電波燃料の市価

図1b: 太陽発電衛星の運用のキャッシュ・フロー

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Pf を見積もることができる: Pe = CRcap + CRop + Pf レクテナの償却費 CRcap と運用費 CRop は SPS の

費用より見積もり易いので Pf を計算することができ

る。複数のレクテナでこの計算をすれば、SPS プロジ

ェクトの経営者の具体的なコスト目標になる。 Pf = Pe ― CRcap ― CRop 簡単な例として、もし Pe = 1 万円 /MWh、CRcap = 4000円 /MWh、CRop = 1000 円 /MWh とすれば、Pf = 5000円 /MWh となるので、SPS の出力当りの値段 = 5000円/MWh となる。 しかし、この方程式の SPS の出

力当りの値段に入っている電波エネルギーの単位は複

数の場所で計ることができる: レクテナの出力 地上に届く電波エネルギー SPS が送る電波エネルギー SPS の発電する電力のエネルギー 正確に計算するために、効率の指数 (η )を使わなけ

れば行けない [2 ]。 Pe = CRcap + CRop + Pf / η

η = レクテナの出力 / SPS の発電 例: もし Pe = 1 万円、CRcap = 4000 円、CRop = 1000 円 → Pf / η = 5000 円 もし η = 0.5、 レクテナの出力当り = 5000 円 SPS の発電当り = 2500 円 上記の η を複数の別の効率に分けられる [2 ]:

η r = (レクテナの出力 ) / (レクテナの受

ける電波パワー) ηb = (レクテナの受ける電波パワー) / (地

上に着く電波パワー) ηa = (地上に着く電波パワー) / (衛星の送

電アンテナの出力) ηm = (衛星の送電アンテナの出力) / (太

陽発電衛星の発電) η = η r * ηb * ηa * ηm 従って、次のように書ける: Pf = (Pe ― CRcap ― CRop) *η r *η b *

ηa *ηm この方程式の中の各効率が上がるに従って、SPS

会社が得られる収入(Pf * 量)は増える。これに加

えて、電力の市価 Pe は時によって、又は信用度によっ

て違うので、この分ける方法は役に立つ。 レクテナの費用は SPS より低価格なので、その利用

率は SPS より低くても、電力会社には高価すぎないと

考えられる。しかし、複数のレクテナへ電波エネルギ

ーを送る SPS 及び複数の SPS から電波エネルギーを受

けるレクテナの経済関係はわかり難くなる。 この場

合、各(レクテナ + SPS)のペアの費用を分析すれば、

その経済的に可能な関係は、図2に示されている。あ

る SPS の利用率が高ければ、使えるレクテナの利用率

が比較的に低くても、電力の費用が高価すぎることは

ない。また、あるレクテナの利用率が比較的に高けれ

ば、SPS の利用率が比較的に低くても良くなる。 上記のアイディアに基づいて、SPS 会社と電力会社

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

系列1

Infeasible operating zone

Feasible operating zone

Satellite load factor

Rectenna load factor (x10)

図2: 衛星とレクテナの可能な利用率 [3 ]

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の間の契約によって、両方が利潤を得る可能性がある。

ただし、様々な必要な因子がある。それらを含めて、

電波の波長とその正確さ、電波エネルギーのビームの

直系と方向性とその正確さ、送電の信用度、非常状態

の対策、安全基準、送電のスタートとストップの詳細

等など。1994 年から、著者らは文部省 (当時 )から科学

研究費を受けて、赤道の国々を調査して、各国にレク

テナのために使える平野の候補地を検討した。直径約

1キロのレクテナ及び配電システムのドラフト計画を

作成したところ、それに電波エネルギーを供給する低

軌道で機能する実験的な SPS が非常に望ましいことわ

かって来た[4]。上記の電波エネルギーの様子につい

ての国際基準の設定は、このような低軌道のシステム

から始まる可能性があることが明らかになった。

3. 宇宙輸送超低価格化の可能性 上記の1)で述べたように、SPS の費用の中で一番

重要なのは宇宙輸送費用である。そして現在のキログ

ラム当たりの費用が 100 分の1までカットするのは無

理だろうと思い易い。しかしこの考え方は間違ってい

る。なぜなら技術の開発と展開の歴史を研究すれば、

ロケットという乗り物の発展の歴史は大いに歪んでい

ることがわかる。この歪みのポイントは下記の通りで

ある。

3・1 半世紀遅れているロケット乗り物の発展 65 年前、日本の企業は完全再使用型、有人ロケット

飛行機の「秋水」を製造した。もし、戦後、このプロ

ジェクトが止めさせられなかったら、それ以前に

Me163 を製造していたドイツの企業と共同で、高度

100 キロの弾道飛行を 1950 年までには実現できたであ

ろう。 ところで、2009 年 12 月 7 日にこのような弾道飛行

用ロケット飛行機の「スペースシップツー」がロール・

アウトした。もしテスト・フライトが順調に進めば、

2012 年に乗客のための弾道飛行サービスが始まる予

定だ。すなわち「秋水」プロジェクトに比べて 60 年以

上も遅れている。 従って、宇宙輸送費超低価格化の可能性より、もっ

と奇妙なのは今までの低価格化なしの 50 年間そのも

のである。全ての技術の分野で、知識の進歩のため費

用はだんだん低下する。しかし宇宙輸送だけには、こ

の現象が半世紀の間生じなかった。

3.2 必要条件 これから宇宙輸送費用を十分に低価格化するため

に、二つの必要条件がある。一つは、宇宙輸送システ

ムが他の乗り物と同じように、完全再使用型化しなけ

れば、いつまでも高価格は続く。 このアイディアのために、宇宙当局でも再使用型宇

宙輸送システムを研究した。しかしこの研究の目的は

衛星の輸送なので、結論は再使用型システムの費用は

それほど低価格にはならない。しかし、なぜ低価格に

ならないかというと、低価格の宇宙輸送が無理という

より、衛星のように毎年何回しか打ち上げなければ費

用は高価格となる。航空産業でも、旅客機が月に一回

しか飛ばなければ、費用はやたらと高価格であろう。

それと対照的に、もし毎日何回か打ち上げれば、確か

にもっと安くなることが可能となる。この事実を理解

するために、アメリカ人のエンジニアはこの可能性を

深く研究して、根拠となる資料を十分に集めた[5]。 従って、二つ目の必要条件は再使用型輸送機は大量

運用に使われるはずである。別な研究として、幾つか

の国で行なった市場調査によると、宇宙旅行サービス

は一般の国民には非常に人気になる。航空産業の 100年の成長を見れば、同じように大量運用になれば、宇

宙輸送費用を非常に低価格化する機会になることが出

来る。

3.3 最初は弾道飛行で 運よく、アンケートによると、弾道飛行サービスで

も大人気になれる。これに基づいての可能なシナリオ

の例として、毎年 100 万人の顧客が一人当たり 50 万円

を払うことになると思われている。この場合、毎年の

売上高は 5000 億円。この規模のビジネスは商業用衛星

の打ち上げより数倍多いので、この規模まで成長させ

るために輸送機の設計会社と運用会社は努力するだろ

う。近年、低価格の航空会社は運用費用を大いに抑え

るために努力してきたが、顧客には大人気になってき

た。 今購入すれば、スペースシップツーに乗る切符の値

段は 20 万ドルだが、数年後までに2万ドルまで低価格

になるとその担当者は述べている。また他の会社によ

ると、乗客の人数が年に 100 万人になったら、一人当

たり 5000 ドルまで落ちる。 物理学で、運動エネルギーは速度の2乗と比例する

ので、弾道飛行の秒速1キロの運動エネルギーは低軌

道の秒速8キロの 64 分の1だけ。従って、再突入の時

の空気摩擦のために熱になるエネルギーは軌道からの

再突入に比べて、数%だけなので、機体の危険性は低

い。このシステムの経験が十分に蓄積されたら、ビジ

ネス・ジェットのように低価格になるはずである。米

航空局の FAA はすでに数 1000 ページのレポートや規

制やアドバイスを作っている[6]。 世界初めて日本で行った市場調査は、その後に他の

国々でも行われている。それによると、弾道飛行サー

ビスは全ての国々の人達に大人気になる。年に 5000億円の市場になれば、大赤字の宇宙産業の商業化に無

くてはならない方向だろう。このように元気な新産業

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に基づいて、軌道まで飛べる旅客機の開発プロジェク

トは進むだろうと思われている。しかし、軌道への打

ち上げは弾道飛行よりかなり難しいので、再使用型ロ

ケットを使っても、使い捨てロケットの費用の 100 分

の1まで安くすることは本当に可能であろうか。

3.4 軌道へ 日本ロケット協会( JRS: Japanese Rocket Society)の

1993 年~2002 年の宇宙旅行研究企画によると、低軌道

までの旅行は一人数 100 万円まで低価格化できる。弾

道飛行サービスが元気な新産業になれば、それに基づ

いて、軌道まで飛べる旅客機の開発プロジェクトは当

然のことになると思われる。このことについて、米政

府の商務省のレポートによると、軌道へのシステムを

構築するために、弾道飛行サービスは最高の準備とな

るであろう[7]。SPS 産業及び宇宙旅行産業のお互い

の便益と実現についての説明は[8]に書かれている。 日本ロケット協会の宇宙旅行研究によると、低軌

道へ行ける「観光丸」の開発は大型飛行機と同じよう

に、約1兆円かかる。しかし、その金額を投資したら、

低軌道までの人気な旅行サービスが可能となる。現在

の数 10 年ぶりに深刻な「新産業不足不況」の中で、こ

ういう面白いビジネス・チャンスは極めて重要である。 しかし、その上、宇宙旅行のために開発された再使

用型宇宙輸送システムを利用すれば、どの宇宙活動で

も低価格になるので、宇宙で他のビジネス・チャンス

も生まれる。その中で、もちろん、SPS 産業は重要な

可能性を持っている[9]。

4. 宇宙輸送費超低価格化の重要性 世界で宇宙旅行用輸送機の開発を一番長い間推進

して来たエンジニアのアッシュフォード氏は最近詳し

い説明を書いた[10]。航空産業のように、コスト・ダ

ウンの鍵は大量生産より大量運用であると。そして航

空産業のような大量運用の需要は、航空産業のように

乗客から来るとも。スペースシップツーのサービスは

まだ始まっていないが、いずれ桁オーダー以下の低価

格になると、既に発表されている。 このやり方が軌道への輸送にも使われることにな

ったら、再使用型宇宙輸送システムを利用すれば、SPSの費用は十分に低価格になるであろう。これから、世

界経済の成長のためのニーズにエネルギーの供給が足

りなければ、国際摩擦の悪化は人類の将来に危険であ

ろう。最悪の場合の費用は、宇宙での太陽エネルギー

を地面に供給する費用より何倍高い。 しかし、その上、

複数の商業宇宙活動が可能になるので、現在の「新産

業不足不況」に低迷している日本経済及び世界経済の

回復に大いに貢献するではないかと思われる。近年、

複数の国々の政府がこの便益を認識して、弾道飛行型

宇宙旅行のスタートを手伝うようになっている:米国、

中近東、韓国。またヨーロッパの複数の国々でスペー

スポートの可能性を検討している。

4.1. 世界平和を守るように 21 世紀に、人類に対する最悪の脅威は次第に拡大し

ている「資源戦争」ではないか。地球にある資源が徐々

に利用されながら、人口が増えているので、どうやっ

て資源戦争を止められるのかという問題は非常に重要

である。資源の利用の効率をできるだけ高くしても、

これから 21 世紀中に需要はさらに増え続けるであろ

う。 簡単に考えれば、いつまでも増える需要に対して供

給が増えないと間に合わなくなる。従って、基本的な

解決は地球外資源を利用することしかないであろう。

この提案を聞くと、22 世紀の話ではないかと思う人が

多いかも知れない。しかし、弾道飛行型宇宙旅行サー

ビスが 1950 年にも可能だったが、許されなかった事実

を考えれば、やはり、もっと早い進歩は可能であろう。 これまで研究から開発までは進んでいないが、月面

や小惑星の資源を利用するプロジェクトの計画は少な

くない[11]。そして、確かに一回始まったら、無限に

拡大することが可能である。SPS プロジェクトのよう

に地球外資源の利用を妨害している問題は一つしかな

い:宇宙輸送費用を十分に低価格化することである。 宇宙旅行産業の成長により、資源戦争の根本的な解

決が自然に出て来るので、世界平和へ唯一の貢献とな

る。これから次第にもっと混むようになって来る地球

には、戦争を避けるのは最高の便益だと誰もが賛成す

るだろう。従って他の大事な経済的な便益が全くなく

ても、この理由だけでも、その実現に投資する方が優

れていると思われる。宇宙政策ではなくて、経済政策

と防衛政策にとって戦略的な価値があるプロジェクト

だと言える。

5. まとめ 始めて聞くと、SPS プロジェクトと宇宙旅行の間に深

い関係があるという話はあり得なさそうである。また

宇宙観光旅行産業の実現は環境の保全にも世界平和に

も大いに貢献するという話もおかしいと思われる。し

かし、宇宙活動の最大な費用となる宇宙輸送費用を大

幅に低下させるために、航空産業のように大量な活動

にするしかないので、やはり宇宙旅行の長らく遅れて

来ている実現の重要性は極めて高い。

2009 年になり、日本政府が初めて SPS を建設する計

画を支持するようになって来た。その中で、宇宙輸送

費用が現在の 100 分の1まで低価格化しなければなら

ないことも認識している。従って宇宙からのエネルギ

ー供給プロジェクトが上手く進めば、これから宇宙旅

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行産業も実現しなければならない。ところで、2009 年

には、政府は宇宙旅行の可能性を「留意する」と始め

て述べた。

国際貿易の過剰競争の中で生き残るために、新産業を

他の国より早く実現する政策は、長期的に考えれば、

日本人の歴史に合うではないかと思われる。なぜなら

大昔、アジアの大陸の極東から日本へ来た人達は長い

間「東へ、東へ」広がって行ったパイオニアだったと

言える。しかし、これから東へ行く長期的な運動の正

しい続きは「米国より軌道へ」という方向ではないだ

ろうか。

国の戦略として、雇用創出、内需拡大、太陽エネルギ

ー利用、継続的な経済成長そして世界平和へ貢献する

のは重要な目標である。この面から見れば、21 世紀の

最適な経済発展の方向として「To Space, Not War」は

優れたスローガンではないかと提案している次第であ

る。

文 献 1)宮本正、2009 年、内閣官房宇宙開発戦略本部の

観点、SPS シンポジウム。 2)長友信人、1996 年、Personal Communication. 3 ) LBST, 2004, Earth and Space-Based Power

Generation Systems: A Comparison Study” , ESA Contract No. 17682/03/NL/EC.

4)H Matsuoka, M Nagatomo & P Collins, 2002, "Field Research for Solar Power Satellite Energy Receiving Stations", Matsuoka Laboratory Working Papers 1 - 15, Tokyo University & Teikyo University.

5) J Penn, 2009, “Launch Cost Reduction Through High-Frequency Operations ” , IAA Space Power Symposium, Space Canada.

6) HYPERLINK "http://www.faa.gov" www.faa.gov 7)U.S. Department of Commerce, 2002, “Suborbital

Reusable Launch Vehicles and Applicable Markets”, DoC Office of Space Commercialisation.

8)松岡秀雄、2000 年、「経済成長に寄与する宇宙開発と SPS2000」、太陽発電衛星研究会ニュースレター第6号、1―6 pp。

9)M Nagatomo & P Collins, 1997, "A Common Cost Target of Space Transportation for Space Tourism and Space Energy Development", AAS paper no 97.460, AAS Vol 96, pp 617 - 630, also at HYPERLINK "http://www.spacefuture.com/archive/a common cost target of space transportation for space tourism and space energy development.shtml" www.spacefuture.com/archive/a_common_cost_target_of_space_transportation_for_space_tourism_and_space_energy_development.shtml

10)D Ashford, 2009, "An Aviation Approach to Space Transportation: a Strategy for Increasing Space Exploration Within Existing Budget Streams", Aeronautical Journal, Volume 113, Number 1146, pp 499-516. 11) J Lewis, 1997, “Mining the Sky: Untold Riches from the Asteroids, Comets, and Planets” , Basic Books.