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Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)
1. はじめに
海底ケーブルが世界で初めて商用化されたのは,
1851 年に英仏間のドーバー海峡に敷設されたもので
あるが,敷設した翌日には不通になったと言われ,と
ても商用と呼べるほどのものではなかった.当時のケ
ーブルは,GP(ガタパーチャというゴム)絶縁海底電
線と呼ばれるもので,銅線をGP で絶縁しただけで何
ら保護被覆ないものであったため,不通となった原因
は,沿岸の漁師が珍しい海草と勘違いして切り取った
とか,電線内に金があると思い込んで切り取ったから
ともいわれている. 日本の海底ケーブルの歴史は,1871 年,デンマーク
の大北電信株式会社が長崎・上海間に敷設した国際海
底ケーブル,更に翌年の 1872 年,明治政府が関門海
峡に敷設した国内海底ケーブルに始まるが,いずれも
欧米技術者主導で行われたもので,本格的な国内技術
の導入は,1906 年のケーブル敷設船「小笠原丸(1,404㌧)」の建造や,1935 年の国産海底ケーブルの製造を
待つことになる.
本稿では,光海底ケーブルシステムの概要に触れ,
ケーブル敷設船による敷設技術について紹介する.
2. 光海底ケーブルシステム
2.1 光海底ケーブル 現在,世界の光海底ケーブルは,総延長が 100 万
km を超えるといわれており,国際通信の 99%以上が
光海底ケーブルを通じて提供されている.光海底ケー
ブルは,光ファイバを通信媒体とする点で陸上の光ケ
ーブルと基本的な概念は変わらないが,太平洋横断の
ような長距離(10,000km),深海(8,000m)での敷設
を前提としていることや 25 年以上の長期安定性を確
保するという点で陸上のシステム以上に高度な信頼性
が求められる.また建設工事においては,漁業をはじ
めとした社会活動や波浪などの厳しい自然環境を考慮
した設計,施工に配慮する必要がある. 光ファイバを用いた海底ケーブルは,大きく有中継
用と無中継用に分かれる.有中継用の光海底ケーブル
は,中継器に実装できるシステム数に制限があるため,
同一ケーブル内に収容される光ファイバは最大で 16心となっている.深海では水圧が 78MPa にも及ぶた
め,光ファイバを防護する部材として 3分割鉄個片が
縦添えされ,周囲にハガネ線を撚ることで敷設や引き
上げ時の張力に耐える構造となっている.光ファイバ
と 3分割鉄個片の間,およびハガネ線間には水走り防
止材を充填し,ケーブル切断時の海水の浸入を防止し
ている.ハガネ線の周囲を囲む銅パイプは,中継器に
電気を供給する給電路の役割をもつとともに,撚り合
わせたハガネ線を保持し内部を密閉することにより,
光ファイバに有害な水素ガスの侵入を阻止する機能を
有している.銅パイプは,周囲をポリエチレン被覆に
より絶縁することで電気的に保護され,LW(Light Weight)ケーブルとなる.
(提供:㈱ OCC)
図 1 有中継用光海底ケーブルの構造(LW)
一方,無中継用の光海底ケーブルは,比較的近距離
にある離島の通信網整備を目的としたもので,できる
だけ多くの光ファイバを同一ケーブル内に収容できる
よう,4 心テープ心線をスロッドロッドに収容する構
光海底ケーブル敷設技術の紹介*
小森 強**
*原稿受付 平成 30年 7月 31日. **NTTワールドエンジニアリングマリン株式会社
光海底ケーブル敷設技術の紹介*
小 森 強**
Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 102 ―
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和文表題
Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)
造となっており,国内では最大で 100 心のケーブルが
導入されている.ただし,収容スペースが比較的大き
くなるため耐水圧の観点から適用は水深 3,000m まで
となっている. 光海底ケーブルは,陸に近い浅瀬ほど錨や漁労など
により損傷を受けやすいため,ポリエチレン被覆の周
囲を鉄線で一重(SA: Single Armored)または二重
(DA: Double Armored)に保護した外装タイプのケ
ーブル構造としている.ケーブル種別によって適用最
大水深は異なるが,一例をあげると,外部からの影響
を最も受けやすい陸揚げ部から水深200mまでの浅海
域に DA,浅海域ほどではないが漁業活動等により損
傷を受ける可能性のある水深 1,500~2,000m までの
海域に SA,それよりも深い深海域に LW の光海底ケ
ーブルを採用するなどとしている.
(提供:㈱ OCC)
図 2 外装ケーブルの外観(DA)
2.2 海底中継器 海底中継器は光ファイバ内で減衰した光信号を増幅
するもので,一般に 40~100km 間隔(海底システム
により異なる)で光海底ケーブルに接続されている.
海底ケーブルと同様,最大水深 8,000m の深海に設置
されるため,高い信頼性と耐水圧性が要求される.
(提供:NEC ㈱) 図 3 海底中継器
2.3 海中分岐装置 海底ケーブルシステムは,導入当初 point-to-point
で 2 局間をつなげていたが,3 局以上を効率的につな
ぐネットワークを構築するため,ケーブル内に複数実
装されている光ファイバを海中で分岐させる海中分岐
装置が導入されている.海中分岐装置は,深海におい
ても海底ケーブルを絡ませることなく確実に海底に設
置しなければならず,高度な敷設技術が要求される.
(提供:NEC ㈱)
図 4 海中分岐装置
2.4 伝送装置類 海底ケーブルが陸揚げされる陸揚げ局には,光信号
を伝送するための光端局装置や,海底中継器を作動さ
せるために必要な電力を供給する給電装置などが設置
されており,これらの装置と海中設備を総称して光海
底ケーブルシステムという.
(提供:NEC ㈱)
図 5 光端局装置(左)と給電装置(右)
3. ケーブル敷設船の特徴
3.1 ケーブル敷設船 国内に初めて導入された海底ケーブル敷設船は英国
製の「沖縄丸」(1896 年,2,278 ㌧),国産では「小笠
原丸」(1906 年,1,404 ㌧)であるが,当時は推進用
プロペラにケーブルやロープを絡ませないよう船首か
らのみ敷設する方式であり,近年に至るまで修理工事
や洋上接続などの停船作業を行う場合には船首作業方
式が採用されてきた.ケーブル敷設船の操船能力向上
に伴い定点保持・ルート保持能力が高まると,次第に
船首シーブは廃止され,新たに建造される敷設船はす
べての作業を船尾で行う方式が主流となってきた.
ケーブル敷設船は,海底ケーブルを敷設するために
必要なケーブルタンクやシーブ,ケーブルエンジンな
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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項
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どを装備しているのが特徴である.大型の船になると
数千kmの海底ケーブルを一度に搭載することが可能
となっている.
1999 年に就航した当社のケーブル敷設船
「SUBARU」(総トン数 9,557 ㌧)は典型的な船尾作
業方式となっており,海底ケーブル敷設工事のための
ケーブルタンクやケーブルエンジンはもとより,海底
ケーブルを敷設と同時に埋設する鋤式埋設機やウォー
タージェットによる後埋設機能をもった ROV(Remotely Operated Vehicle)などを装備している.
【SUBARU】 ・全長×幅×深さ:124m×21m×10m ・最大貨載喫水:7m
図 6 ケーブル敷設船「SUBARU」
また,2017 年に就航した当社のケーブル敷設船「き
ずな」(総トン数 8,598 ㌧)も SUBARU と同様に船
尾作業方式となっているが,海底ケーブル敷設作業に
加え,災害時における通信インフラの迅速な復旧を目
的とした災害対応機能も備えるなど,汎用性を高めて
多目的に作業を行えるものとなっている.
【きずな】
・全長×幅×深さ:109m×20m×12m ・最大貨載喫水:6m
図 7 ケーブル敷設船「きずな」
3.2 ケーブルタンク ケーブルタンクはケーブル敷設船の中央部に配置さ
れ,海底ケーブルを積み込んだ際に隙間ができないよ
う円筒形の形状となっている.これにより荒天時に船
が傾いても荷崩れすることなく安定的に海底ケーブル
を搭載することができ,安全かつ確実にケーブル敷設
を行うことができる.SUBARU の場合,大型のケー
ブルタンク 2 基(2,620 ㎥)と予備タンク(150 ㎥)
で合計 2,770㎥の容量を確保し,最大で約 4,000kmの
海底ケーブルを一度に搭載することが可能となってい
る.
図 8 ケーブルタンクに積み込まれた光海底ケーブル
3.3 シーブ 海底ケーブルは,船内のケーブルタンクから船尾の
「シーブ」と呼ばれる滑車を通って海底に敷設される.
シーブの形状は平型とV型とあり,張力が印加されて
いる状態で摩擦によるケーブル損傷を回避するためい
ずれも回転する構造となっている.ほとんどの海底ケ
ーブルは最小曲げ半径(張力下)が 1.5mとなってい
ることから,船内の海底ケーブルが通過する曲り部は
シーブを含めて半径 1.5m以上となるように設計され
ている.SUBARU は船尾に半径 1.6mの平型シーブ 1基とV型シーブ 2基の計 3 基を備えており,海底ケー
ブルの多様な作業に対応できる構造となっている.
図 9 平型シーブを通過中の海中機器
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和文表題
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3.4 DPS 海底ケーブルを決められた位置に正確に敷設するた
めには,まず船を計画ルートに沿って正確に航行させ
なければならない.近年のコンピュータ制御技術の進
歩により,海上作業などの特殊用途に多数導入されて
いるのがDPS(Dynamic Positioning System)と呼
ばれる自動船位保持装置であり,近年のケーブル敷設
船には標準的に導入されている.DPS の導入によって,
かつては経験と熟練に頼っていた敷設中の操船精度が
飛躍的に向上し,船舶の安全航行にも大きく貢献する
ことになった.
図 10 DPS操作盤
3.5 スラスタ 潮流,風,波などの外力に対して高度な船位保持を
可能としているのは,DPS によって制御される推進シ
ステムである.SUBARU は船尾にアジマススラスタ
(定格出力 2,700kw) 2 基と船首にトンネルスラスタ
(同 1,600kw)1 基および格納式のアジマススラスタ
(同 1,192kw)1 基を装備しており,いずれも発電機
(同 2,800kw)4 基による電力を動力源とし,負荷変
動への対応が容易な電気推進システムとなっている.
図 11 アジマススラスタ(SUBARU 船尾)
4. ケーブル敷設用機器
4.1 ケーブルエンジン 海底ケーブルを海底面に沿って正確に敷設するには,
海底地形に応じてケーブルを精緻に繰り出さなければ
ならない.また,ケーブル修理の際などは,海底から
ケーブルを損傷しないように船上に巻き上げ回収しな
ければならない.海底ケーブルをこれらの用途に合わ
せて適切に扱うために,敷設船にはリニアケーブルエ
ンジン(LCE: Linear Cable Engine)やドラムケー
ブルエンジン(DCE: Drum Cable Engine)が装備
されている.
4.1.1 リニアケーブルエンジン(LCE) リニアケーブルエンジンは,直線状に並んだ上下の
タイヤに海底ケーブルを挟み込み,タイヤを回転させ
てケーブルを繰り出すものである.水深が深くなる程
海底ケーブルは自重で船外に繰り出されてしまうため,
タイヤで挟み込むことで繰り出し速度を制御する仕組
みとなっている.SUBARU のLCE には 21 対のタイ
ヤが装備され,変化する敷設スピードに対応可能とな
っている.
図 12 リニア式ケーブルエンジン(LCE)
4.1.2 ドラムケーブルエンジン(DCE)
ドラムケーブルエンジンは,金属ドラムに海底ケー
ブルを巻き付け,ドラムを回転させることでケーブル
の巻き上げや繰り出しを行うものである.SUBARUは最大 40 トンの張力に対応できる 2基のDCE(直径
4m)を装備し,主にケーブル巻き上げを必要とする
修理工事や撤去工事などで DCE を用いている.また
LCE を用いたケーブル敷設においても,洋上でケーブ
ル接続を行う場合など2本のケーブルを同時に扱う場
合には DCE の使用が必須となり,様々な場面で使用
する機会が多い.
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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項
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図 13 ドラム式ケーブルエンジン(DCE)
4.2 鋤式埋設機 鋤式埋設機は,敷設船から牽引ワイヤーで曳航しな
がらケーブル敷設と同時に海底面下にケーブルを埋設
していくものである.鋤の先端から繰り出されるケー
ブルは底質によって 1~2m の深さに埋設されるのが
一般的であるが,海域によっては 3m の埋設が要求さ
れる場合もある.通常は 0.6~1.0km/h のスピードで
敷設同時埋設を行うが,できるだけスピードを落とさ
ず,より深い埋設深度を確保するために,鋤状の埋設
ブレードの前部にウォータージェットシステムを付加
し,土砂を流動化させて埋設し易い環境をつくり,効
率化を図る工法も採用されている.近年では漁業活動
の大型化に伴い 1,000m を超える深海においても底引
き網漁が展開されているため,そのような海域におい
ては水深 2,000m まで海底ケーブルの埋設が要求され
る場合もある.このためSUBARU に搭載されている
鋤式埋設機は水深 2,000m まで対応可能となっている.
図 14 鋤式埋設機
4.3 ROV(Remotely Operated Vehicle) ROV は,ウォータージェットシステムやソナーな
どを備え,アンビリカルケーブルを通じて船上から送
られる電力や制御信号によって水中を自在に移動する
ことができ,海底ケーブルの交差点など鋤式埋設機が
使用できない箇所やケーブル修理の際に、海底面に置
かれた状態のケーブルを後埋設するものである.また,
埋設作業以外にマニピュレーターによる海底ケーブル
の切断やケーブルグリッパーの取り付けなどを行うこ
とができ,海底ケーブル修理作業の効率化に大きく貢
献している.SUBARU のROV は水深 3,000mまで対
応可能となっており,ケーブルの最大埋設深度は 3mとなっている.
図 15 ROV
5. ケーブル敷設技術
海底ケーブルシステムは,サービス開始から 25 年
間の長期運用を前提としていることから,設置される
海域の状況を海洋調査により正確に把握し,ルート設
計や製造に反映させることが重要となる. 敷設工事を開始する前に,設計や許認可取得などの
事前準備工程を確実に進め,これらの結果を反映して
ようやく海底ケーブルや海底中継器等の製造が開始さ
れる.海底中継器は,製造工場において所定の間隔で
海底ケーブルと接続され,数百kmから時には数千kmを一本ものとして敷設船に積み込むことになる. 海底ケーブル敷設の一般的な流れとして,有中継光
海底ケーブルシステムを例とし,ケーブル陸揚げ,鋤
式埋設機を使った敷設同時埋設,ケーブル敷設,ケー
ブル接続などについて述べる.
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和文表題
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図 16 海底ケーブル建設の流れ
5.1ルート設計および海洋調査 海底には通信ケーブル,電力ケーブルおよび送水管
などの長尺物のみならず,海洋観測装置や漁礁など,
数多くの人工構造物が設置されている.また,海底の
地形や地質は海域によって大きく異なるため,海底ケ
ーブルの敷設に際しては,あらゆる情報を入手し長期
にわたり安定した状態が維持できるよう最適なルート
を選定しなければならない.
海底ケーブルは,海底の起伏に沿って宙吊り(サス
ペンション)とならないよう敷設しなければならない
ため,水平距離に対して若干長めとなるよう設計され
ている.この長めに敷設するケーブル量をスラックと
いい,標準的な太平洋横断海底ケーブルシステムでは
平均 2%程度,つまり水平距離で 8,000km とすると,
160km がケーブルスラックとなる.このスラック量を
詳細に反映したものが,製造や敷設において指標とな
るルートポジションリスト(RPL:Route Position List)やケーブル直線図(SLD:Straight Line Diagram)と呼ばれるものであり,これらを完成させ
るための必要なデータが海洋調査結果により提供され
る.
RPL は,海底ケーブルや海底中継器が設置される場
所を詳細に示した一覧表で,緯度・経度のほか,水深・
水平距離・スラック・ケーブル長・ケーブル種別など
の敷設するケーブルに関するものに加え,敷設船が方
向を変える位置を示す変針点(AC:Alter Course)や
ケーブル交差点なども示され,敷設時の重要な指標と
なっている.
また,SLD は海底ケーブルと海底中継器のつながり
がわかるよう RPL を直線状に図面化したもので,製
造時に一連のシステムとして完成させるための指標と
なる.
図 17 海洋調査結果に基づくルート設計例
5.2 ケーブル製造と敷設船への積込み 海底ケーブルは,SLD をもとに敷設とは逆の順番で
製造され,SLD にしたがって海底中継器のつなぎこみ
が行われる.敷設中の洋上接続は工期が長期化するだ
けでなく,海気象の影響など様々なリスクを高めるこ
とにもつながるため極力工場内で接続し,洋上での接
続箇所を最小限に抑えるかたちで敷設船に積み込む.
積込み前に海底中継器を含めたケーブル全体のシステ
ム試験,更に,積込み後に海底中継器の動作確認試験
を行い,この時点で海底ケーブル等の保管管理責任が
製造会社から敷設工事会社に移ることになる.
積込み作業は昼夜連続して行い,更に効率化のため
に 2本のケーブルを同時に積み込む場合もあるが,ケ
ーブルタンク内へ整然と巻き取っていく作業は自動化
が困難であり,世界中どこへいっても人力に頼らざる
を得ない領域となっている.したがって積込みは,作
業員が安全・確実にケーブルを扱える速度に制約され
てしまうため,ケーブル種別により異なるが一本あた
り通常 2~6km/h 程度となっている.敷設船が DPSの採用で自動化されている一方で,未だマンパワー頼
みの領域が残っているのは大変興味深い.
5.3 ケーブル敷設工事
5.3.1 敷設前掃海作業 鋤式埋設機によるケーブル敷設同時埋設は,文字通
り埋設機を海底面で曳航しながらケーブルを敷設して
いく工法である.海底に不要となった漁網やワイヤー
などがあると埋設機に絡んで工事の妨げとなるばかり
でなく,海底ケーブルや埋設機を損傷することにもな
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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項
Journal of the JIME Vol.00,No.00(20xx) -7- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (20xx)
るため,鋤式埋設機を使用する区間では,あらかじめ
海底の障害物を取り除く掃海作業を行う.
5.3.2 ケーブル陸揚げ 海底ケーブルの端末を敷設船から海岸に引き上げる
ことをケーブル陸揚げといい,敷設船は船の喫水や周
囲の状況を考慮して,できるだけ陸に近い沖合に定点
保持の状態で停船する.以前はアンカーにより船固め
を行っていたが,現在は DPS による定点保持が一般
的である.
海底ケーブルを陸揚げするには,まず陸揚げロープ
を小型の作業船で引き出し,海岸に設置された滑車を
介して牽引機や重機などで牽引する工法(直接牽引法)
を用いるのが一般的であるが,船固め位置が海岸に近
い場合は陸揚げロープを海岸で折り返し,敷設船内の
ウィンチ等で牽引する工法(折り返し牽引法)も可能
である.
図 18 海底ケーブルの陸揚げ工法
陸揚げロープや海底ケーブルは,一定間隔で取り付
けられたタイヤチューブにより海面付近を浮いた状態
で陸揚げされ,一定量の海底ケーブルが海岸に到達し
たのちにダイバーが汀付近からタイヤチューブを順次
切り離すことでケーブルを海底に着底させていく.
ケーブル陸揚げは,海気象に問題がなければ敷設船
と海岸の間が 1km を超えても安全に行うことができ
るが,陸揚げ距離が長い程,敷設開始までに長時間を
要することから海気象変化の見極めが重要となる.
陸揚げ距離が極端に長い場合は,敷設船が近づける
水深までの陸揚げ部分を小型船や台船などにより先行
敷設し,後日敷設船が海底ケーブルを引き上げ,船内
の海底ケーブルと接続してから沖合に敷設していく工
法をとる.実際に陸揚げ距離が 2km を超えた実例も
あるが,先行敷設とするか否かは周囲の環境や工事時
期などを総合的に勘案して設計段階で決定し,製造工
程に反映する.
図 19 ケーブル陸揚げの模様
5.3.3 ケーブル敷設同時埋設 鋤式埋設機を敷設船で曳航しケーブル敷設と同時に
埋設を行う工法は 1960 年代に開発され,その後多く
の改良を重ねて現在に至っている.開発当初に比べて
適用される水深・埋設深度ともに格段に深くなってい
ることに加え,掘削後にケーブル上に土壌を残すよう
な鋤の構造とすることで,掘削影響幅を最小限とする
とともに確実に埋設が行えるようになっている.
ケーブル敷設同時埋設中は,海底ケーブル,埋設機
を曳航するトウワイヤ,埋設機を制御するアンビリカ
ルケーブルの3本が敷設船から同時に海中に出ること
になり,それぞれを水深や海底の起伏に合わせて繰り
出さなければならないため,操作には非常に熟練した
技能が要求される.海底ケーブルには過大に張力がか
からないようにする一方で,緩めすぎると埋設機で踏
みつける可能性があるため,ケーブル敷設速度制御に
は細心の注意が必要となる.また,水深やケーブル種
別・中継器の有無によって変わる水中重量にも配慮し
て速度制御を行わなければならない.
要求される埋設深度や海底土壌の種類にもよるが,
敷設同時埋設の速度は通常0.6~1.0km/h程度である.
確実に埋設するためには,より深く鋤を海底下に入れ
た状態で曳航することが理想であるが,そうすること
で埋設機への負荷が大きくなり損傷するリスクも高ま
るため,あらかじめ最大の牽引張力を決めておき,こ
れを超える場合は鋤の貫入深度を浅くするなどの対応
をとる.
図 20 敷設同時埋設のイメージ
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和文表題
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5.3.4 ケーブル敷設 海底ケーブルは,RPL をもとに所定のルートに必要
なスラックを含めて敷設しなければならない.ケーブ
ル敷設は,敷設同時埋設の操作と異なり,敷設船から
投下されるのは海底ケーブル1本のみであることから
ケーブル制御は比較的行い易いが,敷設同時埋設の際
に考慮する必要のなかったケーブルスラックには細心
の注意を払い,確実に海底面に沿わせて敷設すること
が重要となる.
ケーブル敷設は,敷設船からケーブルが垂直方向に
保持されている状態から開始し,徐々に船速を上げる
と同時にケーブル繰り出し速度を上げ,ケーブルをカ
テナリー(懸垂線)状態にしていく.
敷設中は水面とケーブルとの角度(入水角)を監視
しながらスラックを適切に制御することで,ケーブル
のサスペンション(宙吊り)やキンクの発生を回避す
る.敷設速度はケーブル種別や水深等によって異なる
が,一般に 4~7km/h 程度である.
5.3.5 ケーブル後埋設 ROV によるケーブル後埋設は,ケーブル接続部,
鋤式埋設機で埋設できないケーブル交差箇所,あるい
は何らかの理由で鋤式埋設機を回収したことにより,
ケーブルが埋設できていない箇所で行う.2 本のジェ
ットノズルの間にケーブルを挟みこみ,堆積層を液状
化させてケーブルを埋設していく.
ROV にはケーブルトラッキングセンサーが装備さ
れているため自動でケーブルを追尾することができ,
また磁気センサーによりケーブルの埋設深度を確認す
ることも可能である.埋設速度は海底土壌の性質や埋
設深度によるが,一般に 0.6~1.0km/h程度である.
図 21 ケーブル後埋設のイメージ
5.3.6 ケーブル接続 光ファイバの接続には,陸上の光ケーブルと同様に
融着接続機を用いる.光海底ケーブルは,接続部にお
ける耐張力性などの機械的特性が劣化しないようハガ
ネ線を確実に固定する点や,給電路を含むケーブル接
続部全体を絶縁体であるポリエチレンで射出成型(モ
ールド)する点で,陸上の接続とは大きく異なる. 接続作業は,1か所あたり一般に 20 時間程度の時間
が必要となるが,洋上の敷設船においては,更に接続
後の試験完了まで海底ケーブルを保持した状態でとど
まらなければならないため,DPS による定点保持能力
は敷設船にとって必須となっている.
図 22 海中投下される光海底ケーブルの接続部
6. あとがき
スマホをはじめとした携帯端末の普及で,世の中は
すべて無線でつながっていると誤解している方が意外
と多いが,それらを支えているのは陸上と海底でつな
がる光ファイバネットワークである.本稿では光海底
ケーブルの敷設技術や敷設船などの機能について概要
を紹介した.重要な社会インフラとして欠くことので
きない情報通信分野において,今後光海底ケーブルが
果たしていく役割はますます大きくなっていく.
参考文献
1)光海底ケーブル執筆委員会,光海底ケーブル,
(2010)
著者紹介
小森 強 ・ 1959 生 ・ 所属.NTT ワールドエンジ
ニアリングマリン株式会社 ・ 最終学歴.埼玉大学工学部
電気工学科
Journal of the JIME Vol. 53, No. 6(2018) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 第 6 号(2018)― 109 ―
光海底ケーブル敷設技術の紹介 870