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View from the Top NTT技術ジャーナル 2015.1 6 ◆副社長に就任されて半年.技術開発を取り巻く現状と 今後の方向性についてお聞かせください. 副社長と研究企画部門長との立場で方向性の差はあり ませんが,経営面からの視点が以前よりも増えたと感じ ています.もちろん,これまでと同様,NTTグループ の発展のために研究開発を重視する姿勢は変わりません が,一方でNTTグループ全体の研究開発のさらなる効 率化と強化を考えていかねばなりません. 現状ではグループ各社がそれぞれの方針で研究開発に 取り組んでいるため,お互いに重複した仕事が散見され ます.それを回避するため,各社の技術開発担当責任者 を招集し,ビッグデータ,SDN/NFV(Software Defined Networking/NetworkFunctionsVirtualization)など,現在 ホットなトピックごとに共通で開発すべきことなどを話 し合い,無駄を排し最適化を議論しています. こうした取り組みは,ともすれば持株会社の研究所の ためにやっていると思われがちですが,そうではなくグ 研究開発の競争力強化と効率化の両立を図る 個を強化し,グループ 全体の強化を図る ――新たなステージを めざして2.0 金融,教育,医療,行政.いまや私たちの暮 らしに不可欠な存在となったICT.安心 ・ 安全 な社会生活を実現するため,革新的な技術を生 み出す専門家集団にはどのような視点や行動様 式が求められるのか.リーディング ・ カンパ ニー,NTTの姿勢について篠原弘道NTT代表 取締役副社長に伺いました. トップインタビュー 篠原 弘道 NTT代表取締役副社長 研究企画部門長 ◆PROFILE:1978年日本電信電話公社入社.1998年NTTア クセス網研究所担当部長,2003年NTT情報流通基盤総合研 究所アクセスサービスシステム研究所長,2007年NTT情報 流通基盤総合研究所長を経て,2009年NTT取締役研究企画 部門長,2012年NTT常務取締役研究企画部門長,2014年 6 月より現職.

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NTT技術ジャーナル 2015.16

研究開発の競争力強化と効率化の両立を図る

◆副社長に就任されて半年.技術開発を取り巻く現状と今後の方向性についてお聞かせください.副社長と研究企画部門長との立場で方向性の差はありませんが,経営面からの視点が以前よりも増えたと感じています.もちろん,これまでと同様,NTTグループの発展のために研究開発を重視する姿勢は変わりませんが,一方でNTTグループ全体の研究開発のさらなる効

率化と強化を考えていかねばなりません.現状ではグループ各社がそれぞれの方針で研究開発に取り組んでいるため,お互いに重複した仕事が散見されます.それを回避するため,各社の技術開発担当責任者を招集し,ビッグデータ,SDN/NFV(Software�Defined�Networking/Network�Functions�Virtualization)など,現在ホットなトピックごとに共通で開発すべきことなどを話し合い,無駄を排し最適化を議論しています.こうした取り組みは,ともすれば持株会社の研究所のためにやっていると思われがちですが,そうではなくグ

研究開発の競争力強化と効率化の両立を図る

個を強化し,グループ全体の強化を図る――新たなステージをめざして2.0

金融,教育,医療,行政.いまや私たちの暮

らしに不可欠な存在となったICT.安心 ・安全

な社会生活を実現するため,革新的な技術を生

み出す専門家集団にはどのような視点や行動様

式が求められるのか.リーディング ・カンパ

ニー,NTTの姿勢について篠原弘道NTT代表

取締役副社長に伺いました.

トップインタビュー篠原 弘道 NTT代表取締役副社長 研究企画部門長

◆PROFILE:1978年日本電信電話公社入社.1998年NTTアクセス網研究所担当部長,2003年NTT情報流通基盤総合研究所アクセスサービスシステム研究所長,2007年NTT情報流通基盤総合研究所長を経て,2009年NTT取締役研究企画部門長,2012年NTT常務取締役研究企画部門長,2014年 6月より現職.

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7NTT技術ジャーナル 2015.1

ループトータルの競争力強化のために必要なことなのです.常にグループ全体の利益を考えての発言であることを,今まで以上に明確に伝えていくことが,研究開発の効率化と強化を推進する私の任務の 1つだと考えています.

ギアチェンジ! 個が強くならないと全体は強くならない

◆確かに,研究開発を推進しながら効率化を図るというのは,ある意味で矛盾や葛藤を生むように思います.研究者はどのようなスタンスで臨むべきでしょうか.私はどちらも重要で,どちらも優先すべきことだと思っています.例えばNTTグループのように新技術や新サービスの開発 ・実用化でビジネスを展開する企業にとって,研究開発は不可欠であることは言うまでもありません.他方で企業の経営という面から考えれば,研究開発を効率化することも不可欠です.そして,この ₂つは矛盾することではなく両立することは可能なのです.NTTグループで持株会社だけで₂5₀₀人もの研究者を抱えていますが,その数字の分だけ研究分野も幅広く多様です.「効率性と革新性」はどの研究分野にも共通に求められますが,その具体的な中身はテーマやその開発フェーズによっても違います.例えば,最近重視しているオープンイノベーションについても,研究者の皆さんには,まずNTTグループ全体の中で研究分野ごとにあるべき姿は何かという意識を持って取り組んでほしいと思っています.そして,オープンイノベーション,コラボレーションにおいて,お互いの役割分担を考える際に留意していただきたいことがあります.それは自分たちができないことを相手に期待するのではなく,自分と相手の強みを知ってそれを足し算することなのです.この判断は研究開発に対する目的意識をきちんと持っているかどうかにかかわってきます.少しでも多く自分の技術をアピールするのか,それとも世の中に役立つものを送り出したいと考えるのかの違いです.後者であれば,自分の技術に固執するのではなく,おのずと最適な技術を選ぶという

判断が働くはずです.また,皆さんには仕事の段階に応じて,ギアチェンジを図っていただきたいのです.研究段階では,論文などを通して個人が認められるという成果を,そして実用化においては,社会貢献や普及に重点をおいていただきたい.こうした考え方を踏まえると,オープンイノベーションを個人のペースで物事を運ぶことはなくなり,マーケットへの提案のタイミングを逸することも少なくなるでしょう.グループ内での協力体制にも変化が生まれるはずです.◆なるほど.個人のスタンスや市場等,あらゆる角度から検証してギアチェンジを図る.方向性を明確にすることができそうですね.まずは,自身の手掛けているプロジェクトのポジションニングを再確認してください.基礎研究は絶対に手を抜いてはいけません.一方で実用化も重要です.基礎研究から実用化までのグラデーションを考えたときに,研究の進捗段階やマーケットの動向を勘案し,当該プロジェクトは一体どのあたりに位置しているのかを考えてみてください.自分が 1つ ₂つ上の立場になったつもりで視点を変えてみることも一考です.研究開発は違った価値を持った「個」の集合体です.全員が同じ行動様式を取ったら価値の向上が望めません.各自がどのような行動様式をとるべきかに気付くことが大切だと考えます.上から命令されて何かをするのではなく,自分が果たすべき役割は何かを研究者が自らに問い,見出したことを「仕事」として軌道に乗せることが重要だと私は考えています.

ギアチェンジ! 個が強くならないと全体は強くならない

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私は別に,やり方を押し付けるつもりはありません.研究者の皆さんには,専門家の立場から大きな課題,つまり登るべき山の頂点へはどのような手法で臨むべきなのかを自分で考えていただきたいのです.大切なのは私たちの登るべき山は何なのかをきちんと共有することです.そのためには,上司や同僚から発せられた言葉にとらわれることなく,その真意をつかむ力を日々鍛えていただきたい.個が強くならないと全体は強くなりません.

新たなステージをめざして2.0

◆さて,今年₂₀₁₅年の登るべき山とは.昨年の中間決算発表において「新たなステージをめざして₂.₀」を発表しましたが,今年はこれまで以上に利益を重視した経営にシフトします.その中には,私たちの技術革新によるコスト効率化も含みます.そして,企業経営にとってコスト効率化は,利益の拡大と共に非常に重要なことです.ところが,社員の皆さんとお話をしていると自分たちの仕事が「コスト効率化」に貢献していると聞いても士気が上がらないと言うのです.「拡大」と「効率化」の文言の解釈からくる心情なのでしょう.繰り返しますが,コスト効率化は価値のあることです.今年の取り組みを,次の主な ₃つのプロジェクトからお話しします.

■ネットワークの競争力(収益力)強化ネットワークの競争力強化は,技術開発でしか成し得ないことです.ここ数年をみても,多段接続で構成されていたネットワークをレイヤ統合トランスポート装置でシンプル化を図ったり(1₀₀G-PTS),固定電話網とインターネットをパケット網上で統合することで,低コストの伝送を実現したPTMリンクシステムなどは,コスト効率化を実現して経営に大きく貢献しています.今年も自信を持って臨んでください.ネットワークの収益力強化の観点でいえば,経済性だけではなく,いかにネットワークを使って増収に結び付けていくかの研究開発を推進していきます.ただし,NTTグループがメインプレイヤーになるのではなく,黒子になってパートナーと新しい価値を見出していきたいと思っています.大切なのは研究開発によって,コラボレーションの成果が, 1+ 1が ₂ ではなく ₃とか ₄にする力であり,そこが研究開発に期待されていることです.パートナーの視点を持ち,パートナーの価値を高めるために私たちの研究成果をどう使うべきかを常に念頭において行動していきます.■セキュリティ分野の強化セキュリティ分野の強化も図ります.ご存じのとおりサイバー攻撃は年々激増し,急激に進化しています.電力,交通,流通をはじめすべての産業分野がネットワークでつながっている現代社会において,私たちがICT事業者としてのセキュリティ能力を高めることだけではなく,社会全体がセキュリティシステムの整備 ・強化を図る必要があると思っています.まずは,グループ内のセキュリティ人材育成に取り組みます.₂₀₂₀年までに 5カ年計画で,開発,コンサルテーションなど国内約 1万人を育成します.加えて,新年度には日本のセキュリティ人材の育成にも取り組みます.「サイバー攻撃対策講座」を,早稲田大学などを皮切りに日々変化するセキュリティの実状について,現場で活躍するNTTの技術者による講座をスタートさせます.今後は他の企業にもご賛同いただき多くの大学で展開したいですね.さらに,gacco(NTTドコモとNTTナレッジ ・スクウェアが共同で推進しているプロジェクト)では「情報セキュリティ『超』入門」講座の開講にも尽力します.

新たなステージをめざして2.0

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NTT技術ジャーナル 2015.1 9

■世界最先端技術による社会貢献5 年後に控えたビッグイベントに向けての取り組みも

前進します.セキュリティ分野の強化は不可欠です.大きなイベントなどで自己顕示欲を示したいハッカーがさまざまな攻撃を仕掛けてくるでしょう.オペレーションと技術開発との密接な連携を図り万全な対応で臨みます.また,このイベントでは,観客の集中や移動に伴って,地域や時間帯により未経験のトラフィック特性を起こすことが予想されます.これにはWi-Fiも含め柔軟に,いかに経済的に対応し,信頼性を高めることができるかが勝負です.すでに予兆に焦点を当てた検証は始めています.さらに最先端技術においては,外国人観光客だけではなく,地方でイベントを観戦している方たちに向けて,今まで見たことのないような臨場感のある情報提供や快適なネットワーク環境の提供を目指します.社会に感動,驚きを感じていただく技術,サービスを提供することが次代を担う子どもたちを育てることにつながりますし,日本の底力を世界に示す良い機会になると思います.◆新年にあたり,社員の皆さんに一言お願いします.若い世代の社員の皆さん,物事の正否は多面的な見方ができるし時代によっても変わっていきます.まず,自

分なりのロジックを持って周りの人に声に出して言ってみてください.反対意見を言われても意気消沈することなく,自分の考えをブラッシュアップする良い機会だととらえましょう.恐れるべきは成長する機会を失うことです.そして,中堅以上の世代の皆さん,若いときと違うのは,もう経験する時間が短くなってきているという現実です.手遅れになる前に積極的に声に出してみませんか.大切なのは自律と他律です.周囲の意見を聴いて自分の考えを修正していけるような環境づくりに努めていきたいですね.� (インタビュー:外川智恵/撮影:村岡栄治)

インタビューを終えてトップインタビューでは,トップのプライベートな側面も垣間見られるお話を伺っています.篠原副社長には「もう話すことなんてないよ」とにこやかに笑われましたが,さにあらず.今回は篠原副社長に力の抜き方を教えていただきました.篠原副社長のお仕事のスタイルは「火事場の馬鹿力」なんだそうです.「なるべく早くできることをやるのではなく,ギリギリまで考えて最後のところで蓄積してきたものを放出する.一気に大きなエネルギーを必要とするのでその分疲れるんです(笑)」.怠け者の自分への言い訳だとおっしゃいましたが,潮を読む力の成せる技.こうした仕事上の緊張の連続は,散歩や音楽鑑賞などで緩めていらっしゃるそうです.「最近は外川さんのラジオ番組(シンフォニア ・ TOKYO�FM)を聴きながら,毎朝散歩していますよ(笑)」と篠原副社長.元気のないときはブラームスの交響曲第 1番を聴いてご自身を鼓舞されるとか.いつお目にかかっても,疲れを感じさせず,穏やかでにこやかなお姿の裏側に深い思慮,思惑を感じたひと時でした.