1. 2. 1994 1997 allport & postman (1947) ra×i r a i...

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法と経済学会 2013 年度(第 11 回)全国大会 1 リスクに対する態度と震災に関連した行動: 流言伝播を中心に 森 大輔 (熊本大学法学部) 1. はじめに 東日本大震災後、様々な社会問題が生じてたが、そのうちの 1 つに、流言・デマの広がりという問題があった。 過去にも地震などの災害の後、流言・デマは広まったが、特に東日本大震災では、ツイッターなどのインター ネットを介した手段によって、様々な内容の流言・デマが見られた。内容として「被災地で犯罪や暴動が起きて いる」「放射線対策にイソジンを飲むとよい」「関西以西でも大規模な節電が必要」などの例がある(詳しくは、荻 2011、松永 2011 参照)。こうした流言・デマの広がりにはどのような要因が関係しているのだろうか。本報告で は、これをアンケート調査のデータを用いて分析する。 2. 先行研究 流言の伝播に影響を与える要因として、過去に様々なものが検討されてきた(詳しくは川上 1994、川上 1997 等を参照)。ここではそのうちのいくつかを紹介する。まず、Allport & Postman (1947)による、以下の有名な公 式がある。 Ra×i R:うわさの流布量、a:あいまいさ、i:重要性) Chorus (1953)はこれを修正し、うわさの流布量には、上の 2 変数に加え、個人の批判能力も影響する、というこ とを指摘した。また、川上(1997)Rosnow(1988)の定式化として、次のような公式を挙げている。 Ra×a R:聞いたうわさを人に伝える可能性、a:あいまいさ、a:不安) このような「不安」と流言の関係を分析する方法として、Anthony (1973)などの研究では、個人の不安状態を MAS(不安尺度)で測定するという方法を用いている。また、Rosow et al. (1986)では、うわさの本当らしさの評価 が、うわさの流布に影響を与えることが示されている。 東日本大震災後の流言・デマに直接関係するものとしては、数多くの流言・デマの具体例を紹介したものとし て荻上(2011)や松永(2011)がある。また、江島他(2012)は、これらで紹介されている流言・デマのいくつかについ て、愛知県の大学生数十人を対象にして調査をしている。ここでは、流言・デマを実際に耳にしたことがあるか、 真実だと考えたことはあるか、拡散したか、といったことが訪ねられている。これによれば、過半数が一度は真実 だと考えた流言・デマがあり、拡散したものはほとんどおらず、情報ソースはテレビが多かった。Tanaka et al. (2012)は、大学生数十人を使った実験で、ツイッターのツイートの外観で流言・デマを見せて行うものだった。こ れによれば、流言伝播の要因のうち、不安と正確さは効果を持たず、重要性のみが効果を持った。 3. 仮説の設定 災害後の流言は、その流布をいかに制限するかという方向に議論が進みやすい。しかし、役に立つ 情報の積極的な共有という観点からも考える必要がある。すなわち、災害後の流言の中には、もしも それが真実だったとしたら、人々の役に立つ可能性があるものもある。そうした場合には、むしろ情 報を広めることは、よいことであろう。DiFonzo & Bordia (2007)の流言の定義「あいまいさ、危険、 潜在的な脅威のある状況で生じ流布する裏付けのない情報で、人々が状況を理解し、リスクを管理す るのを助ける機能を持つ」を見ても、こうしたことがわかる。 実際、災害後の流言の多くは、「人々の役に立つかもしれない」「重要な情報は皆に教えてあげな ければ」という善意のもとに広められるものである(荻上 2011, 松永 2011 参照)。東日本大震災後に 飛び交ったインターネット上の流言でも、「この情報をできるだけ多くの人に伝えてください。それ により救われる命もあるかもしれません」といった文章が末尾に付いているものが見受けられる。 ここには 1 つのジレンマがある。情報を伝えると、一方でそれが正しい場合には他人の役に立つが、 他方で正しくない場合には他人に害をなす。しかし、情報が正しいかどうかは完全にはわからない。 このような場合に、どの程度正しいと確信できれば、情報を伝達すべきなのか。こう見ると災害後の 流言の流布の問題は、リスクの問題として見ることができる。 さらにもう 1 つのジレンマがある。情報が正しいかどうかは、他の情報源に当たればある程度確認 できるかもしれない。誤った流言の流布を防ぐための対策としてこれが言われることは多い。しかし、 こうした真偽の確認にはコストがかかる。自分で苦労して真偽を確認してから情報を伝達するよりも、

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Page 1: 1. 2. 1994 1997 Allport & Postman (1947) Ra×i R a i …jlea.jp/2013zy_zr/ZR13-11.pdf等を参照)。ここではそのうちのいくつかを紹介する。まず、Allport & Postman

法と経済学会 2013 年度(第 11 回)全国大会

1

リスクに対する態度と震災に関連した行動: 流言伝播を中心に 森 大輔 (熊本大学法学部) 1. はじめに 東日本大震災後、様々な社会問題が生じてたが、そのうちの 1 つに、流言・デマの広がりという問題があった。

過去にも地震などの災害の後、流言・デマは広まったが、特に東日本大震災では、ツイッターなどのインター

ネットを介した手段によって、様々な内容の流言・デマが見られた。内容として「被災地で犯罪や暴動が起きて

いる」「放射線対策にイソジンを飲むとよい」「関西以西でも大規模な節電が必要」などの例がある(詳しくは、荻

上 2011、松永 2011 参照)。こうした流言・デマの広がりにはどのような要因が関係しているのだろうか。本報告で

は、これをアンケート調査のデータを用いて分析する。 2. 先行研究 流言の伝播に影響を与える要因として、過去に様々なものが検討されてきた(詳しくは川上 1994、川上 1997等を参照)。ここではそのうちのいくつかを紹介する。まず、Allport & Postman (1947)による、以下の有名な公

式がある。 R~a×i (R:うわさの流布量、a:あいまいさ、i:重要性) Chorus (1953)はこれを修正し、うわさの流布量には、上の 2 変数に加え、個人の批判能力も影響する、というこ

とを指摘した。また、川上(1997)は Rosnow(1988)の定式化として、次のような公式を挙げている。 R~a×a (R:聞いたうわさを人に伝える可能性、a:あいまいさ、a:不安) このような「不安」と流言の関係を分析する方法として、Anthony (1973)などの研究では、個人の不安状態を

MAS(不安尺度)で測定するという方法を用いている。また、Rosow et al. (1986)では、うわさの本当らしさの評価

が、うわさの流布に影響を与えることが示されている。 東日本大震災後の流言・デマに直接関係するものとしては、数多くの流言・デマの具体例を紹介したものとし

て荻上(2011)や松永(2011)がある。また、江島他(2012)は、これらで紹介されている流言・デマのいくつかについ

て、愛知県の大学生数十人を対象にして調査をしている。ここでは、流言・デマを実際に耳にしたことがあるか、

真実だと考えたことはあるか、拡散したか、といったことが訪ねられている。これによれば、過半数が一度は真実

だと考えた流言・デマがあり、拡散したものはほとんどおらず、情報ソースはテレビが多かった。Tanaka et al. (2012)は、大学生数十人を使った実験で、ツイッターのツイートの外観で流言・デマを見せて行うものだった。こ

れによれば、流言伝播の要因のうち、不安と正確さは効果を持たず、重要性のみが効果を持った。 3. 仮説の設定

災害後の流言は、その流布をいかに制限するかという方向に議論が進みやすい。しかし、役に立つ

情報の積極的な共有という観点からも考える必要がある。すなわち、災害後の流言の中には、もしも

それが真実だったとしたら、人々の役に立つ可能性があるものもある。そうした場合には、むしろ情

報を広めることは、よいことであろう。DiFonzo & Bordia (2007)の流言の定義「あいまいさ、危険、

潜在的な脅威のある状況で生じ流布する裏付けのない情報で、人々が状況を理解し、リスクを管理す

るのを助ける機能を持つ」を見ても、こうしたことがわかる。

実際、災害後の流言の多くは、「人々の役に立つかもしれない」「重要な情報は皆に教えてあげな

ければ」という善意のもとに広められるものである(荻上 2011, 松永 2011 参照)。東日本大震災後に

飛び交ったインターネット上の流言でも、「この情報をできるだけ多くの人に伝えてください。それ

により救われる命もあるかもしれません」といった文章が末尾に付いているものが見受けられる。

ここには 1 つのジレンマがある。情報を伝えると、一方でそれが正しい場合には他人の役に立つが、

他方で正しくない場合には他人に害をなす。しかし、情報が正しいかどうかは完全にはわからない。

このような場合に、どの程度正しいと確信できれば、情報を伝達すべきなのか。こう見ると災害後の

流言の流布の問題は、リスクの問題として見ることができる。

さらにもう 1つのジレンマがある。情報が正しいかどうかは、他の情報源に当たればある程度確認

できるかもしれない。誤った流言の流布を防ぐための対策としてこれが言われることは多い。しかし、

こうした真偽の確認にはコストがかかる。自分で苦労して真偽を確認してから情報を伝達するよりも、

Page 2: 1. 2. 1994 1997 Allport & Postman (1947) Ra×i R a i …jlea.jp/2013zy_zr/ZR13-11.pdf等を参照)。ここではそのうちのいくつかを紹介する。まず、Allport & Postman

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真偽の確認は他人に任せてしまいたいというインセンティブが働くかもしれない。これは社会的ジレ

ンマに似た構造になっている。

ここから、次のような仮説を設定する

第 1 に、災害後の情報伝達に対し、人々の「善意」が影響を与える。

第 2 に、災害後の情報伝達をリスクの問題と見る。したがって、リスクに対する一般的な選好など

と、災害後の情報伝達においてどれだけ誤情報を許容するかなどの間に相関がある、という仮説を設

定する。

第 3 に、災害後の情報の内容の正確さの確認行動を、社会的ジレンマの構造と見る。当事者の社会

的ジレンマ構造の認識は、コスト感、危機感、無力感といったもので規定される(海野・篠木 2006 参

照)。コスト感や無力感が高いほど、そして危機感が低いほど、当事者は状況を社会的ジレンマ構造

の枠組みで見ていることになる。そして、コスト感や無力感が高いほど、そして危機感が低いほど、

災害後の情報の内容の正確さの確認行動を行わなくなる、という仮説が立てられる。 4. データと方法 データとしては、(社)中央調査社に委託して、2013 年 2 月 8 日~2 月 12 日に実施した「情報と災害について

のアンケート調査」(調査計画者:森大輔 熊本大学准教授、太田勝造 東京大学教授、飯田高 成蹊大学准教

授)のデータを用いた。この調査は、中央調査社のモニターの中から抽出された 3600 人に対してインターネット

を介して行われたアンケート調査である(なお、本調査は特別推進研究「経済危機と社会インフラの複雑系分

析」(平成 23 年~27 年)の支援を受けた)。 モニターの抽出は、次のように行なっている。まず、2013 年度の推定母集団数から、性・年代別の割当数を決

定する。そして、性・年代ごとの想定回収率から逆算して、モニターに依頼する。対象となるモニターは、性・年

代・地域別に無作為抽出をしている。総モニター数は 57 万人(年齢は 20 歳~69 歳)である。依頼数 16635 で

あり、そこから 3600 人のデータを得た(回収率は 21.6%)。 このインターネット調査では、最初の Q1 から Q4 までの大問 4 問は、サーベイ実験を行なっている。東日本大

震災と同規模程度の地震から数日後、という状況設定で、東日本大震災の後、しばしば見られた流言やその他

の情報(必ずしも誤った情報とは限らない)を提示して、そうした情報を他の人に伝達するにはどの程度その情

報が確からしいことが必要か、そうした情報を実際に他の人に伝達すると思うか、といったことを質問している(ア

ペンディクスの Q1 参照)。 Q1 から Q4 までの各問は要因実験になっており、例えば Q1、Q2、Q4 は要因 A、要因 B、要因 C の 3 要因で

ある。要因 A はシナリオの内容での区別で 3 水準、要因 B は情報を目にした場所での区別で 3 水準、要因 Cは情報を広める手段での区別で 2 水準である。 実験は Q1 から Q4 までの大問 4 問あるが、ここでは紙幅の関係もあり、Q1 の実験とその結果のみを説明する

ことにする。Q1 の場合は、要因 A のシナリオの内容は「被災地で強盗・性犯罪などの犯罪が増加している

という情報」を目にしたというのがベースとなる水準である。これと、「被災地で外国人による強

盗・性犯罪などの犯罪が増加しているという情報」と外国人という部分を加えた水準、および「被災

地で外国人による強盗・性犯罪などの犯罪が増加しているといううわさが流れているが、それは根拠

がないものであるという情報」と情報の否定を行った水準の比較が行われた。これは、実際に東日本

大震災で前 2水準のような流言が広まった(荻上 2011; 松永 2011)ことや、昔の関東大震災時にこれ

に類するようなデマが問題になったという有名な例をもとにしている。要因 Bでは、情報を目にした

場所として、ツイッター、ブログ・HP、テレビ・新聞という 3水準を設定している。要因 Cでは、情

報を広める手段として、家族や友人に直接話す(電話や Eメールも含む)、インターネットで不特定

多数に広める、という 2水準を設定している。東日本大震災ではツイッターをはじめとした新しい情

報媒体が、情報を得る上でも情報を伝達する上でも活躍したとされるが、それらと流言・うわさの関

係については、まだそれほど十分に検討されているわけではないという指摘もある(Tanaka, Y., Y.

Sakamoto & T. Matsuka 2012)。これらの要因は、この点を検討するためのものである。

以上の 3要因の場合、3×3×2の実験となり、18 バージョンの質問紙が必要になるが、これではい

ささかバージョン数が多すぎて、管理等が難しくなり、標本サイズや費用などの点でも問題が発生し

やすくなる。そこで、実験計画法の手法を用いて、バージョンの数を減らすことを考える。

具体的には、直交配列表を用いる(直交配列表による実験計画の詳細については、例えば森田浩

2010 参照)。直交配列表には複数の種類があるが、今の場合はそのうち L9 直交配列表を用いることに

する。要因 Cは 2水準であるので、ダミーの水準を 1つ挿入して 3水準にする(擬水準法)。ここで

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は、直接話す、インターネット、インターネットの 3水準とする。ダミーの水準に選ばれたものは、2

倍実験をすることになるので、最もたくさん実験をしたいものを選ぶのがよい。ここではインター

ネットによる情報の流布の方に力点を置きたいので、インターネットの方をダミーの水準にすること

にした。

このようにすると、L9 直交配列表によれば、表 1のような 9通りの組み合わせを実験すればよいこ

とになる1。これをもとに 3600 人を 9バージョンに無作為割当することで、サーベイ実験を行った。 表 1 実験のバージョン分けと Q1-3 の記述統計 質問紙バージョ

ン 要因 A 要因 B 要因 C Q1-3 の平均 Q1-3 の標準偏

N

1 ベース ツイッター 直接話す 4.11 1.633 400

2 ベース ブログ・HP インターネット 4.78 1.621 400

3 ベース テレビ・新聞 インターネット 4.61 1.684 400

4 外国人 ツイッター インターネット 4.83 1.692 400

5 外国人 ブログ・HP インターネット 4.74 1.663 400

6 外国人 テレビ・新聞 直接話す 3.69 1.591 400

7 否定 ツイッター インターネット 4.89 1.622 400

8 否定 ブログ・HP 直接話す 4.58 1.625 400

9 否定 テレビ・新聞 インターネット 4.90 1.560 400

5. 分析 5-1. 情報の伝播 まず、情報の伝播について分析する。Q1-3 において、情報を実際に伝えるかどうかを質問している(アペン

ディクス参照)。表 1 において、質問紙のバージョンごとの Q1-3 の回答の平均と標準偏差を記してある。 この Q1-3 の分析方法として、1 番目に実験の要因 A、B、C の効果のみを見るために三元配置分散分析を行

う。2 番目に、他に質問紙で質問をした心理的な変数や人口統計学的な変数などの効果も合わせて見るために

重回帰分析を行う。3 番目に、2 番目の分析で効果が見られなかった変数に付いても媒介効果が存在する可能

性を探るなど、より複雑な因果構造を見るために共分散構造分析を行う。 三元配置分散分析を行ったところ、要因 A、要因 B、要因 C のいずれも有意水準 5%で統計的に有意となっ

た2(表 2)。すなわち、単純な分散分析からは、シナリオ内容、情報源、情報伝達方法のいずれも、情報の伝播

行動に影響を与えることがわかる。 表 2 分散分析表(従属変数:Q1-3 情報の伝播)

F p

要因 A(シナリオ内容) 16.881 .000

要因 B(情報源) 10.734 .000

要因 C(伝達手段) 134.017 .000

1 L9 直交配列表で 3 要因 3 水準の実験を行う場合、各要因の主効果のみを検討することができ、交互作用を検

討することはできないことに注意する。直交配列表を用いる場合、一般に、実験の各要因の交互作用すべてを検

討することはできなくなるのである。ここでは、各要因間の交互作用よりも主効果に関心を持っているので、この点

はさしあたっては大きな問題にはならないと考えておく。 2 Levene 検定を行うと p=0.064>0.05 となるので、等分散性を仮定した分散分析を行うことは問題ない。

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重回帰分析でより詳しく分析しよう。この場合、要因 A はベースとなるシナリオを参照カテゴリとしたダミー変数

2 個、要因 B はテレビ・新聞を参照カテゴリとしたダミー変数 2 個、要因 C はダミー変数 1 個として扱う。その他

の説明変数として、以下のようなものを含める(各質問項目の詳細はアペンディクス参照)。Q1-2 は情報の主観

的な重要性に関する変数であると考える。Q1-1 では、情報を伝える際には情報がどの程度正確だと確信できる

ことが必要かを聞いている。Q6-7 は人の「善意」を表す変数だと考えられる。Q7-13 は不安になりやすさを表す

変数だと考えられる。また、Q8-4-1 はブログ・HP の信頼度、Q8-4-2 はツイッターに対する信頼度をそれぞれ聞

いている。 人口統計学的な変数としては、性別、年代(20 代~60 代)、最終学歴(大卒以上かどうかのダミー変数)、被災

経験(東日本大震災時に岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉県に住んでいたかどうか)、収入の自然対数を含

める。 表 3 重回帰分析の結果(従属変数:Q1-3 情報の伝播)

説明変数 標準化係数 t 有意確率

要因 A シナリオ内容

外国人 -.019 -1.157 .247

否定 -.001 -.058 .954

要因 B 情報源

ツイッター -.003 -.173 .863

ブログ・HP .031 1.878 .060

要因 C 伝達方法 .212** 14.973 .000

Q1-1 情報の正確さの確信度 -.100** -6.831 .000

Q1-2 情報の主観的重要性 .643** 42.634 .000

Q6-7 善意 .063** 4.350 .000

Q7-13 不安 .013 .911 .363

Q8-4-1 ブログ・HP の信頼度 -.007 -.408 .683

Q8-4-2 ツイッターの信頼度 .085** 5.281 .000

性別 .007 .465 .642

年代 .023 1.549 .121

学歴 .003 .204 .839

被災経験 -.020 -1.393 .164

収入の自然対数 .005 .316 .752

N=2595、調整済み R2=.485 ** p<0.01

重回帰分析の結果は、表 3 のようになった3。要因 C の情報伝達方法、Q1-1 の情報の正確さの確信度や、

Q1-2 の情報の主観的重要性といったものが統計的に有意となる。また、人々の善意やツイッターへの信頼度も

統計的に有意となっている。一方、要因 A や要因 B は統計的に有意にならず、不安の感じやすさについても

有意にならなかった。 これらの変数は、当初の予想と異なり、情報の伝播に何の影響も持たないのだろうか。この点を確かめるため

に、共分散構造分析を行った。その結果が図 1 である。すべてのパスは有意水準 5%で統計的に有意になって

おり、AGFI=0.989>0.9、RMSEA=0.025<0.05 となっておりモデルとして問題ない4。これを見ると、要因 A や要因

3 N=2595 となっているのは、収入の質問で「答えたくない」を選んだ者が相当数いたからである(なお念のため、収

入を説明変数から除いてみたが、要因 B のブログ・HP が 5%で有意になった以外は結果はそれほど変わらな

かった)。また、Q1-1 の質問で、「99. なお、確率がいくらであっても広めるべきではないと考える場合は、ここを

チェックしてください」を選んだ者も欠損値として扱っている。これを選んだ者はいかなる条件でも情報を伝播しな

い者なので、今の分析の目的には合わないからである。 4 重回帰分析と同様、実験の要因をダミー変数として用いているが、正確にはこれが可能なのは、要因の変化によ

り、パスの構造自体が大きく変化しない場合のみである。パスの構造自体が変化すると考える場合には、多母集

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B は情報の主観的重要性に影響を与え、情報の伝播に間接的に影響を持っている。また、不安の感じやすさ

についても同様に、情報の主観的な重要性に影響を与え、情報の伝播に間接的に影響を持っていることがわ

かる。

図 1 情報の伝播についてのパス図 5-2. 情報の正確さの確信度 5-1 で見たように、情報の伝播に対して影響を与える変数として、情報の正確さの確信度というものがあった。

次にこの変数を従属変数と見る。5-1 と同様、要因 A、B、C、人口統計学的な変数、Q1-2 情報の主観的重要性

などを使用する。また、情報の正確さの確信度がリスクに対する態度を反映したものである可能性を検討するた

めに、これに関する変数を加える。心理学においては、リスクに対する態度の様々な側面を別々の質問で捉え

る傾向があり、ここでも自分に関するリスクか他人に関するリスクという点5()や、金銭に関するリスクか生命に関

するリスクかという点で区別する6。Q5-1 が他人の金銭リスク、Q5-3 が他人の生命リスク、Q7-2 自分の生命リスク、

Q7-6 自分の金銭リスクをそれぞれ表す質問である。また、Q6-5 災害時の誤情報をどの程度許容するかというこ

とや、Q6-12 流言・デマがどれほど大きな問題だと思うか(危機感)ということ、Q7-8 証拠をどの程度重視するか

団の同時分析と呼ばれる手法を使用する必要がある。しかし、3 要因があるため複雑になること、またここでは要

因ごとのパス構造の変化よりも、共通するパスの大まかな構造の方に関心があるので、この手法は採用していな

い。 5 Wallach & Kogan 1959 の「選択ジレンマアンケート」(CDQ)を参考に質問を作成した、広田他 2006 も参照 6 楠見 1994 のや広田他 2006 を参考にした

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ということも、説明変数として加える。 結果は表 4 のようになった7。要因 A、B は統計的に有意にならず、C のみが有意になった。また、Q1-2 情報

の主観的重要性が有意になり、さらに人口統計学的変数のうち年代と学歴が有意になったのが注目される。年

代や学歴が上がると、 情報の正しさの確信度として設定する水準も上がる8。また、リスクに関する変数として、

Q5-1 他人の金銭リスク、Q5-3 他人の生命リスク、Q7-6 自分の金銭リスクが有意となった。Q7-2 自分の生命リス

クが有意とならなかったのは、この中で情報の伝達と最も関係が浅そうであることを考えれば頷けることである。さ

らに、Q6-5 誤情報許容度や Q6-12 危機感、Q7-8 証拠重視といったものも統計的に有意となった。 表 4 重回帰分析の結果(従属変数:Q1-1: 情報の正しさの確信度)

説明変数 標準化係数 t 有意確率

要因 A シナリオ内容

外国人 .039 1.814 .070

否定 .025 1.174 .241

要因 B 情報源

ツイッター -.010 -.492 .623

ブログ・HP -.030 -1.405 .160

要因 C 伝達方法 -.044* -2.386 .017

Q1-2 情報の主観的重要性 .193** 9.945 .000

Q5-1 他人の金銭リスク -.040* -2.061 .035

Q5-3 他人の生命リスク .193** 10.222 .000

Q7-2 自分の生命リスク -.037 -1.885 .060

Q7-6 自分の金銭リスク -.046* -2.247 .025

Q6-5 誤情報許容度 -.046* -2.239 .025

Q6-12 危機感 -.072** -3.363 .001

Q7-8 証拠重視 .059** 3.041 .002

Q8-4-1 ブログ・HP の信頼度 .046* 2.175 .030

Q8-4-2 ツイッターの信頼度 .011 .537 .591

性別 -.026 -1.329 .184

年代 -.054** -2.867 .004

学歴 -.054** -2.746 .006

被災経験 .012 .651 .515

収入の自然対数 .001 .042 .967

N=2542、調整済み R2=.129 *p<0.05, ** p<0.01

続いて、共分散構造分析で変数間の構造を確認してみる。図 2 のようになり、AGFI=0.968>0.9、

RMSEA=0.039<0.05 なので、モデルとして問題はない。これを見るとわかるように、Q7-6 自分の金銭リスクが

Q5-1 他人の金銭リスクや Q5-3 他人の生命リスクに影響を与えている。この 2 つは他人にアドバイスをするという

質問であるが(アペンディクス参照)、それがある種賭けに近い部分を持つと考えれば、Q7-6 がそれに影響を与

えるということが理解できる。また、Q6-5 誤情報許容度については、Q6-12 危機感から影響を受けている。流言・

デマの問題が深刻だと思うほど、誤情報を許さなくなるということである。

7 N=2542 となっているが、これは表 3 と同様の収入と Q1-1 の欠損値に加え、Q5-3 でも「99. なお,手術成功の確

率がいくらであっても手術を受けるべきではないと考える場合は,ここをチェックしてください」という回答を除いたた

めである。 8 Q1-1 は数字が少ないほど、情報の正しさの確信度が上がっていることに注意する。アペンディクス参照。

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法と経済学会 2013 年度(第 11 回)全国大会

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図 2 情報の正しさの確信度に関するパス図 5-3. 情報の確認行動 まず重回帰分析で分析する。5-1 と同様、要因 A、B、C、人口統計学的な変数などを使用している。また、

Q1-1 情報の正確さの確信度、Q1-2 情報の主観的重要性も同様に使用する。また、囚人のジレンマ構造を表す

ものとして、Q1-5 で情報の確認行動がどれだけ手間だと思うか(コスト感)、Q6-8 で情報の確認行動にどれだけ

の意味があると思うか(無力感)、Q6-12 で流言・デマがどれほど大きな問題だと思うか(危機感)を、説明変数と

して使用している(アペンディクス参照)。さらに批判的思考9に関する変数として、Q7-8 証拠重視に加えて、Q7-14 客観的思考を加える。 分析の結果は表 5 のようになった。Q1-1 情報の正確さの確信度、Q1-2 情報の主観的重要性などが統計的に

有意になった。要因 B ではツイッターのみが有意になっており、情報源がツイッターである場合には、他の情報

源により確認がなされる可能性が高いことが示唆されている。批判的思考に関する変数も統計的に有意になっ

9 批判的思考能力を測定する質問に関しては、上市秀雄・楠見孝(2006)を参考にした。

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ている。囚人のジレンマ構造に関する変数では、無力感が統計的に有意でない点が注目される。流言・デマの

社会問題の解決に役立つと思うかということと、情報の確認行動を行うかということは必ずしも関係していないよう

である。また、Q6-7 善意がここでも統計的に有意になっている。囚人のジレンマ構造でなおも情報確認行動を

行う 1 つの原動力として、こうした意識が働いている可能性が示唆される。 次に共分散構造分析を行うと、図 3 のようになった。AGFI=0.974>0.9、RMSEA=0.037<0.05 であり、モデルと

して問題はない。この図を見るとわかるように、無力感は、コスト感を増すといった形で間接的には情報確認行

動に影響を与えているが、直接的な影響はない。 表 5 重回帰分析の結果(従属変数:Q1-4: 情報の確認行動)

説明変数 標準化係数 t 有意確率

要因 A シナリオ内容

外国人 -.039* -2.014 .044

否定 -.017 -.836 .403

要因 B 情報源

ツイッター -.063** -3.233 .001

ブログ・HP -.003 -.175 .861

要因 C 伝達方法 -.020 -1.170 .242

Q1-1 情報の正確さの確信度 .192** 10.686 .000

Q1-2 情報の主観的重要性 .284** 15.536 .000

Q1-5 コスト感 -.131** -7.590 .000

Q6-7 善意 .078** 4.334 .000

Q6-8 無力感 .023 1.317 .188

Q6-12 危機感 -.138** -7.802 .000

Q7-8 証拠重視 .167** 6.433 .000

Q7-14 客観的思考 .083** 4.564 .000

Q8-4-1 ブログ・HP の信頼度 .001 .035 .972

Q8-4-2 ツイッターの信頼度 .024 1.218 .223

性別 .035 1.957 .050

年代 -.017 -.987 .324

学歴 .005 .303 .762

被災経験 -.025 -1.439 .150

収入の自然対数 .010 .574 .566

N=2595、調整済み R2=.252 *p<0.50, ** p<0.01

図 3 情報の確認行動についてのパス図

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6. 結び 以上の分析から、次のようなことが示唆される。流言・デマをはじめとした情報の伝播には、情報の主観的重要

性といった要因の他に、情報の正しさの確信度や、人々の善意といったものが影響を与えている。流言・うわさ

が基本的に「善意」による部分があるということはこれまで逸話的に指摘されてきたが、データ分析がなされたこと

はほとんどなかった。この点が示唆される結果が得られたのは重要であると思われる。ツイッターといった新しい

手段も登場している情報源や情報伝達手段については、情報の主観的重要性に影響を与えるといった形で、

情報の伝播行動に間接的な影響をもたらしている。情報の正しさの確信度については、リスクに対する態度が

影響を及ぼしている。また、流言・デマを軽減する 1 つの手段としては、情報の確認行動があるが、これについ

ては、情報の確認行動へのコスト感、流言・デマの問題への危機感といったものが影響を与えている。また、批

判的思考力を持っているということも、こうした行動を促す 1 つの要因となっている。 このような分析にはいくつかの限界がある。まず、実際の状況との違いである。実際に震災等が発生した後の

状況と、それを単に想像して質問紙の質問に答えるのとでは、人々の心理状態は大きく異なっている。これによ

り、実際の行動と質問紙への回答にずれが生じうることが予想される。また、本来心理学などの分野では、心理

尺度の測定の際には、似た内容の質問を多数行って、信頼性と妥当性をチェックする。共分散構造分析を行う

ときも、こうした多数の質問をもとに潜在変数を使用するのが通常である。しかし、この調査では、様々な内容に

ついて質問を行う必要上、質問数を増やしすぎないために、似た内容の質問を多数行うということは断念せざる

を得なかった。今後どうテーマの調査を行う際には、今回得られた知見を基に、質問する内容を絞って、信頼性

と妥当性のチェックが行えるように計画することが必要だと思われる。さらに、インターネット調査というデータ収

集方法にも限界がある。これは予め登録されたモニターを対象としているため、データの代表性といった点には

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問題がある10。 流言・デマといったものは、災害後などにたびたび問題になるにもかかわらず、調査・研究手法の限界等もあり、

必ずしも研究の数は十分ではない。しかし、東日本大震災という未曾有の災害後にもやはりこうした問題は生じ

ており、今後も様々な側面からこのテーマに関する研究が行われることが望まれるところである。 アペンディクス アンケート調査の質問文(一部のみ抜粋) Q1 東日本大震災と同規模の地震が起こった数日後を思い浮かべてください。津波による被害が大き

かった点、原子力発電所の事故が起こった点なども、東日本大震災とよく似ていました。そして、あ

なたの住んでいる場所は、揺れは感じたものの、それほど被害を受けなかったものとします。

あなたは、次のような内容の情報を、ブログ・ホームページで目にしたとします。

「被災地で、強盗・性犯罪などの犯罪が増加しているという情報」

Q1-1 この情報を、インターネット(ブログ・ホームページ・掲示板・ツイッター・SNS 等)を通じて

広める際には、どの程度、情報が正しいと確信できることが必要だと思いますか。次の中から 1つだ

け、だいたいの感覚で、お選びください。

1. 10 割 2. 9 割 3. 8 割 4. 7 割 5. 6 割 6. 5 割 7. 4 割 8. 3 割 9. 2 割 10. 1 割 11. 0 割

99. なお、確率がいくらであっても広めるべきではないと考える場合は、ここをチェックしてくださ

い Q1-2 この情報は、インターネット(ブログ・ホームページ・掲示板・ツイッター・SNS 等)を通じて

広めた方がよい情報だと思いますか。

1. 強く思う 2. 思う 3. 少し思う 4. どちらともいえない 5. あまり思わない 6. 思わない 7. まっ

たく思わない Q1-3 あなたはこの情報を、インターネット(ブログ・ホームページ・掲示板・ツイッター・SNS 等)

を通じて、実際に他の人に伝えると思いますか。

1. 強く思う 2. 思う 3. 少し思う 4. どちらともいえない 5. あまり思わない 6. 思わない 7. まっ

たく思わない Q1-4 あなたはこの情報を目にした後、他の情報源で内容の真偽を確認すると思いますか。

1. 強く思う 2. 思う 3. 少し思う 4. どちらともいえない 5. あまり思わない 6. 思わない 7. まっ

たく思わない Q1-5 この情報について、他の情報源で内容の真偽の確認をすることは、どの程度手間だと思いますか。

1. 非常に手間 2. 手間 3. やや手間 4. 普通 5. それほど手間でない 6. 手間でない 7. まったく手

間でない Q5 次の各問にお答えください. Q5-1 A さんは現在,仕事に対する給料の支払方法の改定が,会社から提示されています.提示されている

支払方法は下記の 2つで,A さんはどちらを選択するか迷っています.あなたが Aさんに助言するとした

ら,どちらを勧めますか.

10 ただし、本件調査では要因実験の手法を用いているので、データ内の因果構造を分析するといった点では、通

常の例えば学生を被験者とした実験とそれほど遜色のない結果が得られ、標本サイズも大きくできるといった利点

もある。また、本調査のテーマが、特にインターネット等を用いた情報の伝播であることを考えれば、通常の留置

調査などよりも、インターネットユーザーであることが保証されるインターネット調査の方が都合がよい面もあると思

われる。

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甲: 現在の月収が 50%の確率で 2倍になり,50%の確率で 3割減になる支払方法

乙: 現在の月収の 5%増しに確定している支払方法 1. 甲を強く勧める 2. 甲を勧める 3. どちらかといえば甲を勧める 4. どちらでも変わらないと言う

5. どちらかといえば乙を勧める 6. 乙を勧める 7. 乙を強く勧める Q5-3 C さんは 45 歳の会計係で,最近主治医から深刻な心臓病が進行していることを聞かされまし

た.C さんは生活習慣の多くを変えざるを得なくなりました.仕事の負担を減らし,日常の食事を徹底的

に変え,休暇の娯楽をあきらめました.

主治医は,C さんに手術の提案をしました.これは難しい手術で,予想される結果は,成功して病気が完

治するか,失敗して命を落としてしまうかという,2 つしかないものでした.手術にかかる費用は保険も

あるためまったく問題はなく,また病気が完治する可能性は魅力的でした.しかし,失敗する可能性もあ

るこ とから,C さんは手術を受けるか迷っています.

あなたが Cさんに助言するとします.手術が最低どのくらいの確率で成功する場合に,あなたは Cさ

んに手術することを勧めますか.下の選択肢からお選びください. 1. 10 割 2. 9 割 3. 8 割 4. 7 割 5. 6 割 6. 5 割 7. 4 割 8. 3 割 9. 2 割 10. 1 割 11. 0 割

99. なお,手術成功の確率がいくらであっても手術を受けるべきではないと考える場合は,ここを

チェックしてください Q6 以下の文章を読んで,あなたのお考えに最も近いところをお選びください.

Q6-5 災害直後の報道は,内容が誤っていても,多少は仕方がない

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q6-7 自分より悪い境遇の人に何かを与えるのは当然のことである

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q6-8 情報を他の人に伝える前に個々の人が情報の内容の正確さを確認しても,災害後のデマ・誤った

情報の広まりは防ぐことができない

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q6-11 コストがかかっても,人々はみんなで情報をできるだけ共有するべきである

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q6-12 災害後のデマ・誤った情報の広まりは,災害後に起こる他の問題と比べてそれほど大きな問題で

はない

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q7 以下の文章を読んで,あなたの普段の行動やお考えに最も近いところをお選びください.

Q7-2 私は,飛行機,観光バスに乗る場合,もし大事故にあったらということを考えてしまう

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q7-6 私は,ゲームではお金を賭けないと面白くないと思う

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1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q7-8 私は,結論を下す場合には,確たる証拠の有無にこだわる

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q7-13 私は,何かにつけてよく心配する方である

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q7-14 私は,自分が無意識のうちに偏った見方をしていないか振り返る

1. 強くそう思う 2. そう思う 3. ややそう思う 4. どちらとも言えない 5. あまりそう思わない

6. そう思わない 7. まったくそう思わない Q8-4 次にあげる各メディアの情報について,あなたはどれくらい信頼していますか.

Q8-4-1 ホームページ・ブログ

1 非常に信頼している 2 信頼している 3 やや信頼している 4 どちらともいえない 5 あまり信

頼していない 6 信頼していない 7 まったく信頼していない Q8-4-2 ツイッター

1 非常に信頼している 2 信頼している 3 やや信頼している 4 どちらともいえない 5 あまり信

頼していない 6 信頼していない 7 まったく信頼していない 参考文献 上市秀雄・楠見孝(2006)「環境ホルモンのリスク認知とリスク回避行動」Cognitive Studies 13, 32-46. 海野道郎・篠木幹子(2006)「社会調査における社会的ジレンマの測定について: 方法論的検討」日本行動計

量学会大会発表論文抄録集 34, 296-299 頁. 江島徹郎・齋藤ひとみ・梅田恭子・野崎浩成(2012)「震災時の情報行動 ―愛知県の情報系の大学生を対象に

した調査から―」愛知教育大学教育創造開発機構紀要 2, 83-88 頁. 荻上チキ(2011)『検証 東日本大震災の流言・デマ』光文社新書. 川上善郎(1994)「エイズとうわさ―うわさへの接触、うわさの伝達を促進する要因について―」情報研究 15, 11-

34 頁. 川上善郎(1997)『うわさが走る―情報伝播の社会心理』サイエンス社. 楠見孝(1994)「不確実事象の認知と決定における個人差」心理学評論 37, 337-356 頁. 広田すみれ・増田真也・坂上貴之編(2006)『心理学が描くリスクの世界:行動的意思決定入門[改訂版]』慶応義

塾大学出版会. 松永英明(2011)「震災後のデマ 100 件を分類整理してみた」松永英明『東日本大震災でわたしも考えた』62-73

頁. 森田浩(2010)『図解入門 よくわかる最新実験計画法の基本と仕組み―実験の効率化とデータ解析の全手法を

解説』秀和システム. Allport, G.W. & L. Postman (1947) The Psychology of Rumor, Henry Holt. (南博訳『デマの心理学』岩波書店、

1952 年). Anthony, S. (1973) “Anxiety and Rumor,” Journal of Social Psychology 89, 91-98. Chorus, A. (1953) ”The Basic Law of Rumor,” Journal of Abnormal and Social Psychology 48, 313-314. DiFonzo, N. & P. Bordia (2007) Rumor Psychology:Social and Organizational Approaches. American

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12-28. Rosnow, R.L.,J.H. Yost & J.L. Esposito (1986) “Belief in Rumor and Likelihood of Rumor Transmission,”

Language and Communication 6, 189-194. Tanaka, Y., Y. Sakamoto & T. Matsuka (2012) ”Transmission of Rumor and Criticism in Twitter after the Great

Japan Earthquake,” 2012 Annual Meeting of the Cognitive Science Society, 2387-2392. Wallach, M. & N. Kogan (1959) “Sex Differences and Judgment Processes,” Journal of Personality 27, 555-564