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フェミニズム科学論二つの源流 1.「客観性」の解体と変容
• 論理実証主義、反証主義(ポパー)時代の合理性
• ハンソン、クーンにおける「合理性」 – ハンソン…理論は観察に先立つ(哲学的考察) – クーン…共役不可能性(科学史的考察)
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 2
フェミニズム科学論二つの源流 1.「客観性」の解体と変容
• R.ローティ『哲学と自然の鏡』 – 「対応としての客観性」
• 客観的認識=真理=実在との一致 – 「意見の一致としての客観性」
• 多くの主観の集合=間主観性
• 《主体間の合意としての科学理論》 – 女性が科学する主体として加わることで観察が変化する余地
• 自然というテクストの解釈学
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 3
フェミニズム科学論二つの源流 2.フェミニズム(第Ⅰ期)
• 1792『女性の権利の擁護』メアリ・ウィルストンクラフト – リベラルフェミニズム(権利・機会の平等を求める)
• 1830,シャルル・フーリエがféminismeという言葉をつくる
• 1892,パリ女性会議(議長:マルグリット・デュラン)がパリ第五区区役所で開かれて以来féminismeという言葉が普及
• 第一期フェミニズムは女性が参政権、財産権を手に入れる20c初頭までの運動を言う
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 4
フェミニズム科学論二つの源流 2.フェミニズム(第Ⅱ期)
• 1963『女らしさの神話』ベティ・フリーダン – 女らしさの神話に縛られた米国中産階級の主婦らに人間としての自己実現を説く
– 全米女性会議NOWを結成、リベラルフェミニズムの中心となり運動は世界的に広がる
• 70~ラディカルフェミニズムの台頭 – ケイト・ミレット『性の政治学』 – シュミラス・ファイアストーン『性の弁証法』 – 男女の性的関係の政治性、家父長制批判 – 第一回全英女性会議:避妊と中絶の権利の議論
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 5
フェミニズム科学論二つの源流 2.フェミニズム(第Ⅱ期)
• 第一期フェミニズム運動は知識人中心 • 70s第二期フェミニズム運動は大衆に拡大 • 医学での男性中心性、家父長的性格が問われ、やがて科学知識全般へ拡大
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 6
女性学のなかでの科学論
• 1975『サインズ――文化と社会における女性』(米) – 78特集「女性・科学・社会」
• 男女の役割分業や性差が主要テーマ • アドリエンヌ・ツィールマンによる、古人類学における「男性=狩猟者」仮説への疑義
• ダナ・ハラウェイの動物社会学・霊長類学 – 後に『類人猿の視点』1989に結実
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 7
女性学のなかでの科学論
• 78『季刊国際女性学』(英)創刊 – 81,特集「女性・技術・革新」
• 編者ジョアン・ロスチャイルド • 「科学と技術が伝統的に男性領域と見なされてきたことがフェミニスト分析において批判的次元を与え、それが寄稿者の基礎的前提をなしている」
• 83『女性vsテクノロジー』J.ロスチャイルド
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 8
80sジェンダー概念の導入
• 生物学的性差(セックス)と社会文化的構築物としての性差(ジェンダー)
• 男女の生得的違いとして納得させられてきたことの多くがジェンダーだったのではないか
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 9
カルチュラルスタディーズとの接近
• カルチュラルスタディーズ – コミュニケーション論やメディア論への密着 – 大衆文化のもつ暗黙の政治性について分析 – 1964,バーミンガム大に現代文化研究センター(CCCS)という制度的基盤をGet
– 英米で発展、世界的潮流として人文系の一分野となっている
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 10
科学のカルチュラルスタディーズ 1.CSと科学技術論の遠さ
• 英国カルチュラルスタディーズ:潜在的な祖先であるはずのフランクフルト学派からは切り離されていた
• 70s~80sはアルチュセールから影響があったが科学主義的傾向そのものは問題にされなかった。
• CCCSは文学部に置かれていたため理学部的問題関心からは遠かった。CSは日常生活と積極的にかかわろうとするもので、科学のようにすでに権威の確立した知識群には疎遠…
⇒CSと科学技術論の間には多くの隔たり
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 11
科学のカルチュラルスタディーズ 2.接近と展開
• 80s,CSにおいてアルチュセールからフーコーの「権力と知」へ問題構制の関心が移る – (権力的言説の最たるものである科学的言説の背後にも暗黙の政治性が潜む可能性)
• 70s以降のエコロジー・反核運動がCSの政治的目標設定に影響
• 科学技術の日常生活への影響の顕在化 • CCCS,1986に科学技術問題を専門に扱うサブグループを立ち上げ、90sにはCSSの独自の主張が顕著化
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 12
「忘却の淵から女性たちを掬いあげよ!」
• 『科学史から消された女性たち』 – ロンダ・シービンガー,1989 – この本が出された当時、科学史における過去の女性研究者の発掘が盛んになっていた
– 発掘された科学者たち • マーガレット・キャヴェンディッシュ • エミリ・デュ・シャトレ • マリア・シビラ・メリアン • マリア・ウィンゲルマン
• 2000『女性科学者伝記事典』2000名収録
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 14
なぜ女性科学者は少数か?
「天才ならば、いかなる逆境にあろうとも世にでないはずがない」 「女性の天才が少ないのはそこまでの才能をもつ女性がいない」
↕ 「人並み外れた才能も育てられなければ凡庸になる」 「女性の天才が少ないのは個人の天分の有無でなく教育の機会など社会的問題である」 ノックリンによる、芸術家の天才神話の否定 ⇒科学の場合も、大学教育・研究継続の場・学会への所属など
が問題となる 2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 15
妻であり母であること ―ノーベル賞受賞女性の場合―
• 1983,ババラ・マクリントック、81歳独身で受賞 – それ以前はノーベル賞受賞女性6人は例外なく結婚し子供を
産んでいる • 80sの受賞女性はみな独身
– マクリントック(81),レヴィ=モンタルチーニ(77),エリオン(71) • 1939,核分裂理論で重要な発見をしたリーゼ・マイトナーは
受賞できず、共同研究者オットー・フランクリンのみ受賞 • ロザリンド・フランクリンとワトスン、クリック • 「彼女は料理し、掃除し、ノーベル賞をとった」
– 1977,ロザリン・ヤーロウ,放射性同位体元素標識免疫定量法受賞時の新聞見出し
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 16
女性の匿名性と「見えざる助手」
• 女性たちの科学的成果は夫、父、兄弟、上司のものとされてしまう(特に19c)
• 女性の人生が父親や夫の人生を通してしかありえなかった
• 見えざる助手invisible assitants(シービンガー) – E.g.ターナーの長女マリアは父のために植物画、
エッチングを製作。植物の知識に精通し夫フッカーの助手として活躍。
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 18
科学者カップルの研究
• キュリー夫妻のような夫婦そろって成功した例だけでなく、「内助の功」として吸収されてしまっていた事例を析出
• 職業として科学者が確立されていない19c前半まで,よい家柄の妻をもつことは、助手とし
て役立つだけでなく、経済的支援・出世栄達のための人脈などにも役立った
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 19
女性のネットワークと 高等教育機関設立
• 19c以降、女性科学者の交流が活発に • 英、メアリー・サマヴィル • 米、天文学者マリア・ミッチェル
– 77歳のメアリーに欧州旅行で出会う – フェミニストからも崇敬を集める – 女性の科学教育と女性の連帯の必要性
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 20
実際、人類学風の疑似科学や優生学に対する
反・人種差別主義の立場からの批判や、心理学・
医学と生物学の一部に対するフェミニストの立場か
らの批判のような、科学への社会・政治的な批判に
は、長く実りの多い歴史がある。
「ソーシャル・テクスト事件からわかること、わからないこと」
より
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 23
1.社会構成主義?
たしかに、フェミニズム科学論が社会構成主義の一つの支流であることはその起源からも否定できない。 しかし、彼女たちが言おうとしたことは、「科学知識の形成には自然はほとんど、あるいは全く影響しない」ではなく... 「科学知識の形成には女性はほとんど、あるいは
全く影響しない」
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 24
1.社会構成主義?
•フェミニズムがもともともつ政治的な姿勢を引き継ぐ
•重要な問い「科学言説の中に何らかの意味でジェンダーバイアスは潜むのか?」
• -だとしたら、客観性は担保されるのか?
•批判から実際的介入へ ex.ハーディングと霊長類学
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 25
2.自然=女性という伝統 ノーベル賞のメダルの裏は...
物理学賞、化学賞は、"自然の女神"のベールを"科学
の女神"がそっと外して横顔を覗いているデザイン
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 26
2.自然=女性という伝統
• 自然探究の一つのメタファー • 「自然は女であり、科学とはその女を知ることで彼女を征服し、支配する試みである」云々
• Ex.イーズリーとマーチャントの仕事 • 『魔女狩り対新哲学』 • 『自然の死』
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 27
3.理性からの逸脱としての魔女
• 17C科学革命の裏で行われる魔女裁判... • -理性によって「魔女」は衰退したのではなくむしろ生み出され、火にかけられた。
• -男性科学者による女性の懐柔・征服、手に負えないもの=魔女。
• ベーコンによる実証的手法としての「実験」は自然を拷問にかけて秘密を白状させる、つまり魔女裁判における審問。
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 28
4.ケラー『ジェンダーと科学』
• ベーコンの両性具有性—神の仕事を理解す
るという受容的な態度は女性的である。(前述の議論への補足)
• 近代科学は「自然=女性」の”女性”から「母なる...」というようなセクシュアリティを取り去り、
自然を機械化し、また女性を家庭内の非性的な”美徳”として飼いならすことに成功した。
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 29
5.ジェンダーバイアスの確認
• 「ほ乳類」と家父長制の関係 • 1758『自然の体系』でリンネが提唱 • -乳房の有無は分類項目の一つにすぎない • -17~18Cに全盛を誇っていた乳母制の批判、母乳保育の奨励から、”ほ乳”類としての人間を強調。
• 『エーミール』の良妻賢母論(1763) • 母乳保育と「母性」の関係
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 30
6. ツィールマンの考古学批判 • 60~70年代にかけての人類学の問題 • -「どこからヒトでどこから霊長類?」 • ウォッシュバーン「男性=狩人理論」 • -男性が狩りをする、という社会行為がヒトの分化を促したという説。
• 批判としての「女性=採集者理論」 • -性による分業という発想にジェンダーバイアスを見る。女性が採集という生産的な行為で果たした役割に注目。
• -ナイフ・鏃だけが人間の道具か?
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 31
7.ハラウェイと人類学
• 霊長類の行動や、生態は「客観的」に観察されているだろうか?
• 猿の記述は、そこに人間社会の記述が仮託されているようでは無いか?
• -メスは受動的で友愛を求む。オスは合理的で集団内のヒエラルキーに敏感である。安全性と引き換えにメスはボス猿に身を任せる...etc
• 『霊長類の見方』('99)は霊長類学者から批判の的となるが、ハラウェイは共同会議で討論を重ねる→霊長類学はジェンダー的観点に敏感に。
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 32
• 議論パートのメモ
• 社会組織(物理学会)とかにかかっているジェンダー • 脳科学のジェンダー(話の聞けない男、地図の読めない女)
– 「とりあえず、何十年間か同じですってことにする?」 • 生物学的に明確な差異はある、がそれを利用する言説は? • ⇒それを利用・活用することをサスペンド • (自然主義的誤謬) • 「数学は男の子のほうを教育すべき」の“合理性” • 母性主義的考えのもとに女性教師を生産(米:WWII後)
• 教育とフェミニズム科学論 • 女子校、教師は男女半々くらい • 出戻り卒業生(浦和一女、戻ってくる)
• 脳のつくりが女性は数学に向かない? – Evidenceは数学に向いていないことを言うためにひっぱってきてる(仮説形成段階での
ジェンダー)
• 人種バイアス(教育機会、研究機会へのアクセス) – 黒人科学者
• 湯川秀樹―黄色人種バイアス?(日本人を元気づけようノーベル) • 企業への参画(科学に限らない雇用機会)
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 33
2012/12/17 東大科学哲学ゼミ 34
ADAプロジェクト…意外に女性が活躍している 科学者をふやそうキャンペーン
科学論を反映していない 物理学はハードだよー理屈っぽいんだよー(おんなのこにはむりだよー ⇒出来るはずなのに、むりと思ってしまう かえるかわいいなー(入り口がソフト 物理、数学の「イメージの固さ」 男性グループの理屈っぽいはなしとホモソーシャル 雇用と福利厚生 *<男性の保育士を増やそう>
女性社会が出来ていてうまくいかない
フェミニズム科学論の限界 「反射性」による首絞め 生得論批判するときに、対抗的evidenceを使えない(脳科学的知見etc…) ハラウェイ、終わったジャンルに対し科学史的研究をした。では、現在進行中の科学についてどう分析できるか External approach (科学の外部要因の分析をするやりかた)
科学の方法と同一性 女性の方法たる「差異」
現代フェミニズムから見ると本質主義?(想像力、情緒性といった女性に“固有”の特性を見出そうとする) いまのパラダイム<近代科学>を女性科学者が壊すこと 男性的科学者共同体の中で、男性と同化しようとする女性科学者 「違う数学」
複素数で感情を表現するロボ、差異をイメージできる(『アイの物語』やまもとひろ) 性差、民族差