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1-3 インバータホイスト 1-3-1 インバータホイスト基礎知識 ●インバータ制御とは モータの回転速度は負荷トルクのほかに、モータ極数と印加する電源周波数で決定されます。 インバータ運転の場合は周波数 f を変化させる事によってモータを任意の速度で運転します。 モータ回転速度 N = ――――――――― × (1-S) 〔r/min〕 トルク・電流カーブ●インバータとは 商用電源(交流 50Hz または 60Hz)から、モータを可変速運転するために任意の周波数・電圧の交流電源をつ くるインバータは、下図のような構成になっています。商用電源を一旦直流に変えるコンバータ部と、直流を可 変電圧・可変周波数の交流に変えるインバータ部からなる主回路,及びこれらを制御する制御回路で構成され ています。 交流を直流に変換する順変換装置のことをコンバータ部、直流を交流に変換する逆変換装置のことをインバ ータ部といいますが、コンバータ部も含めた装置全体をインバータというのが一般的です。 【インバータ構成】 同期速度 N 0 Ts Is Tm T L モータ 電流 Im 負荷トルクとモータ発生 トルクのつりあい点 同期速度 N 0 回生領域 回転速度(r/min) トルク(N・m) 電流(A) モータ回転速度 N すべり S トルク 電流 120×周波数 f 〔Hz〕 極数 P コンバータ部 交流→直流 インバータ部 直流→交流 直流電圧 電圧・周波数指令 周波数設定器 三相商用電源 可変電圧 可変周波数 ホイスト モータ 三相誘導 電動機 - 17-

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Page 1: 1-3インバータホイストbikosya.xsrv.jp/mfk/ssl/dairiten/data/technical/Hoist...1-3インバータホイスト 1-3-1インバータホイスト基礎知識 インバータ制御とは

1-3 インバータホイスト

1-3-1 インバータホイスト基礎知識

●インバータ制御とは

モータの回転速度は負荷トルクのほかに、モータ極数と印加する電源周波数で決定されます。

インバータ運転の場合は周波数 f を変化させる事によってモータを任意の速度で運転します。

モータ回転速度 N = ――――――――― × (1-S) 〔r/min〕

【トルク・電流カーブ】

●インバータとは

商用電源(交流50Hzまたは60Hz)から、モータを可変速運転するために任意の周波数・電圧の交流電源をつ

くるインバータは、下図のような構成になっています。商用電源を一旦直流に変えるコンバータ部と、直流を可

変電圧・可変周波数の交流に変えるインバータ部からなる主回路,及びこれらを制御する制御回路で構成され

ています。

交流を直流に変換する順変換装置のことをコンバータ部、直流を交流に変換する逆変換装置のことをインバ

ータ部といいますが、コンバータ部も含めた装置全体をインバータというのが一般的です。

【インバータ構成】

同期速度 N0

始動トルクTs

始動電流Is

最大トルクTm

負荷トルクT

L

モータ電流

Im

負荷トルクとモータ発生トルクのつりあい点

同期速度 N0

回生領域

回転速度(r/min)

トルク

(N・m)

電流

(A)

モータ回転速度 N

すべり S

トルク電流

120×周波数 f 〔Hz〕

極数 P

コンバータ部交流→直流

インバータ部直流→交流

直流電圧

電圧・周波数指令周波数設定器

三相商用電源可変電圧可変周波数

ホイストモータ

三相誘導電動機

- 17-

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●インバータホイストの位置づけ

UR形インバータホイストは接触器駆動であるR形にインバータ駆動を追加して、2段速運転ができるようにし

たものです。R形と同様に小型軽量でU形、U2形より価格が安いのが特長です。U形はS形ホイストをベースに

完全にインバータ駆動とし、さらに回転センサを設けることで、フック動作リミットや落下検知などの機能を数多く

搭載したものですが、一部の特殊品を残して現在はU2形に切り替わっています。

U2形はU形をさらに進化させたもので、過荷重防止・軽負荷高速など、多くの機能を搭載しています。

US形はU2形に電源回生機能を追加しているのが特長です。

●三菱ホイストの使い分け

希望仕様 R形 S2形インバータ

UR形

インバータ

U2形

インバータ

US形

巻上下のショックを抑えたい × × △ ○ ○

横行荷振れを抑えたい × × ○ ○ ○

巻上低速が欲しい × × ○ ○ ○

横行低速が欲しい × × ○ ○ ○

無負荷高速が欲しい × × × ○ ○

過荷重を防止したい × ○ × ◎ ◎

高頻度で使いたい △ ◎ △ ○ ○

巻上・横行速度を変えたい × × ○ ◎ ◎

メンテ費用を抑えたい ○ ○ ○ ◎ ◎

電気代を抑えたい △ △ ○ × ◎

購入価格を抑えたい ◎ ◎ ○ × ×

価格 U形

走快停

U2形走快停Excellent

S2形

機能

UR形

R形

(インバータ駆動) (電源回生機能内蔵インバータ駆動)

(接触器駆動+インバータ駆動)

(接触器駆動)

(接触器駆動)

US形SuperExcellent

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1-3-2 走快停 Excellent、US Super Excellent シリーズ基礎

走快停Excellentシリーズは、従来の走快停シリーズに過荷重停止機能や調速機能などを新たに標準装備す

るとともに、従来からあった無負荷高速機能や位置検出機能などをさらに高機能化しました。

●位置検出機能(電子リミット)

回転センサ(エンコーダ)の信号をCPU基板に入力し、回転パルス(モータ 1回転で16パルス)をマイコンでカ

ウント累積し、フック位置をモータの回転量として把握し、常に記憶しています。

*機種により、A/B が逆相になる場合があります。

上限停止点・減速点・下限減速点・停止点の計 4点を設定できます。通常上限は機械式巻上リミットスイッチ

が動作する位置より下に設定し、常用上限として使用します。下限は巻胴にワイヤロープの地巻きを残した位置

に設定し、ワイヤロープが抜け落ちたり、逆巻きになるのを防止します。なお、上記 4点は各々有効・無効の設

定が可能です。

上限停止点または下限停止点のフック到達状態をCPU基板に設けたリレー接点で出力しています。これらは

電子リミットを無効にし、減速・停止しない場合でも出力しています。

0V

正転

モータ1回転

5V

0V

5V

A相

B相

逆転

上限停止点 LOC1

上限減速点 LOC2

下限減速点 LOC3

下限停止点 LOC4

高速

低速

低速

高速

OUT2

クローズ

オープン

リレー接点出力の状態

OUT1

クローズ

オープン

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〔注意〕

設定位置と停止位置には少し差があります。設定後、実際に動作させて停止位置を確認し、必要に応じて微

調整して下さい。

経年に伴うワイヤロープの延び、荷重によるワイヤロープの延びや巻胴への巻き締まり具合によって停止位置

が変わります。必要に応じて微調整してください。

●軽負荷高速機能

押ボタンを 2段目まで押し込むと、高速巻上下運転をします。この時、回転センサからの信号で巻上モータの

回転速度を検出し、巻上モータのすべりが零となるように周波数を増減させて補正します(調速制御)。このとき、

荷重の大小によって補正量が異なることを利用して荷重を推定します。荷重が軽いと判断すると、4極モータで

は定格の1.5倍、6極モータでは定格の2倍まで周波数を引き上げ、軽負荷高速運転に入ります。

工場出荷時は軽負荷高速機能を無効にしています。ただし、軽負荷判定値は定格の25%前後の荷重で軽

負荷高速に入る値をあらかじめ設定しています。

軽負荷判定値はCPU 基板の押ボタンで変更することができます。電源電圧や吊具など、設置先の状況に応

じて調整して下さい。

軽負荷判定信号をCPU 基板の端子台から出力することができます。また、この出力を利用して2台共吊り運

転で軽負荷高速の同期をとることができます。詳しくは運転状態出力の項を参照下さい。

〔注意〕

電子リミットの上限停止点を設定し、有効にしないと、巻上の軽負荷高速運転は入りません。これは、誤って機

械式上限リミットの2段目を作動させないためです。

電源電圧の変動、モータ温度の変化により巻上モータのすべり量が変化するため、同じ荷重でも軽負荷高速

運転に入る時と入らない時があります。

軽負

荷高

標準速

(定格

速)

低速

軽負荷検出時間(2秒以内)

開放 1段目 2段目 開放

重負荷時

軽負荷時

押ボタン押込み状態

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●過荷重停止機能

軽負荷高速機能と同様に、調速制御の補正量を利用して荷重を推定します。その結果、荷重が定格容量の1

25%以上であると判断すると、巻上運転を停止します。

工場出荷時は過荷重停止機能を無効にしています。ただし、過荷重判定値は定格の125%前後の荷重で停

止する値をあらかじめ設定しています。

過荷重は速度が安定してから判定するため、判定時間が2~5秒程度必要であり、加減速を繰り返す運転パ

ターンでは判定できません。低速または高速巻上運転を5秒程度継続する必要があります。

過荷重判定値は定格の70%まで調整することができます。例えば、2tホイスト2台で共吊りし、2.8tクレーン

として使用する場合、1.4tで過荷重停止するようにします。判定値を調整する際は、CPU基板の押ボタン操作

により、判定値を小さくします。

過荷重判定信号をCPU 基板の端子台から出力しています。この信号を利用して、過荷重時に警報ブザーを

鳴らす様なこともできます。運転状態出力の項を参照下さい。

〔注意〕

電源電圧の変動、モータ温度の変化により巻上モータのすべり量が変化するため、同じ荷重でも過荷重停止

する時と停止しない時があります。

検出時間(2~5秒)

開放 1段目 2段目

過荷重時(減速停止)

押ボタン押込み状態 2段目

加減速を繰り返すと判定できない

定速時間が短く判定できない

低速

標準

速(低格

速)

1

2

1

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低速運転モータ回

転速度

時間

この面積が同じになるように制御する

実際のモータ回転速度

定常時も数Hz変動する

高速運転

スリップゼロと仮定したモータ回転速度

● 調速機能

調速機能とは、押ボタンスイッチが押

された時間に比例したモータの総回転

量を得るため、インバータの出力周波

数を増減させてモータの回転速度を調

整するものです。図 1 は調速しない場

合の巻上運転パターンです。図 1にお

いて、破線は理論上のモータ回転数で

あり、実際のモータ回転数は実線で示

したように、巻上では遅くなり、図で着

色した部分が理論上のフック移動量と

実際のフック移動量の差となります。

移動量の差は荷重や電源電圧、モータ温度などにより変化します。

調速機能がある場合、前記したフック移動量の差が 0になるようにインバータ出力周波数を変化させ、モータ

の回転速度を制御します。このときの様子を図2に示します。加速中の理論移動量と、モータからのフィードバッ

クパルスの差を0にするため、低速または高速の一定速度運転中に周波数を変化させ、モータの回転速度を制

御します。巻上運転の場合、モータのスリップ分、周波数を上げ、モータ回転速度を早くすることで補正し、理論

上の同期速度に近づけます。

結果的に、荷重の変化に関わらず、押ボタンを押した時間と設定した周波数(同期速度)に比例したフック移動

量を得ることができ、以下のような特長があります。

● 荷重が変化しても速度が変わりません。

● 共吊りに最適です。

・吊荷が傾きにくい。

・2 台に限らず、3台以上の共吊りも可能です。

・1 台のみの単独運転も可能です。

図1 調速制御しない運転パターン(巻上)

高速回転

低速回転

モータ回転速度

時間

理論上のモータ回転速度

実際のモータ回転速度

図2 調速制御した運転パターン(巻上)

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加速 減速

モータ回

転速

時間

誤差を補正できないまま停止

加減速中に誤差がでる 加速 減速

モータ回

転速

時間

低速運転中に誤差を補正

低速

連動運転時ON

連動運転時OFF

連動・単独切替

● 共吊りへの適用

共吊り使用時は、単独運転で吊荷各部を各ホイストで希望の姿勢となるよう吊った後、連動運転に切り替え、

各ホイスト同時に指令を入れます。吊荷の傾きを招かないよう、各ホイストに必ず同時に同じ運転信号を入れて

下さい。

図3 共吊り使用時の操作

加減速中は周波数制御による補正を行いません。従って、偏荷重の吊荷を共吊りする場合、低速または高速

での一定速度運転時間が無い運転パターン(図 4)で運転すると、フック位置に差が生じます。さらに、この運転

パターンを繰り返すと差が累積し、調速不能異常(Er15)となる場合があります。これらを防止するため、高速運転

から停止させる場合は停止前に低速運転を行い、フック位置の差を小さくしてから停止させてください。(図 5)

図4 フック位置の差が生じる運転パターン 図5 フック位置の差が小さくなる運転パターン

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図 5のような運転パターンでも、各ホイストが運転信号を認識する時間の差、ブレーキ動作時間の差などによ

り、フック位置に差が発生します。特に、インチング操作はフックずれの原因となりますので、できるだけ避けてく

ださい。その他、各ホイストの巻胴径の差、ワイヤロープの伸び、段巻や巻締りによる差は補正できません。

要因 フック位置ずれ

機械系の誤差

・巻胴径

・ワイヤロープ直径

揚程の 0.5%程度

ワイヤロープの伸び

・経年変化

・荷重差

揚程の 2%程度

揚程の 0.3%程度

制御系の誤差

・運転信号の認識時間

・プログラム実行時間

1 回の操作につき 1mm程度

(累積する)

運転パターン

・加減速中は調速補正を行わない

図 3の運転パターン 1回につき

50mm 程度

共吊りで自動運転を行う場合、一方のホイストに異常が発生した時に他方のホイストを停止させる、インタロッ

ク回路を必ず設けてください。走快停 Excellent シリーズは異常出力および運転中出力端子を設けていますの

で、ご利用頂けます。

共吊り時に異常が発生した場合、異常内容に応じて停止動作が異なったり、停止するまでのフック移動量が

異なったりするため、各ホイストのフック位置には、ずれが生じます。そのまま運転信号を投入すると、ずれた状

態を保ったまま調速運転するため、フック位置の修正を行ってください。

フック位置の修正は、一方のホイストを単独運転させて実施して下さい。電子式リミットスイッチの上限または下

限へフックを移動させることでも修正可能ですが、状況によっては不可能な場合があります。

● 揚程が長い、巻速が遅い等で修正に時間がかかる。

● 荷重・吊具の形状により、上限まで巻き上げることができない。

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接点容量:AC200V 0.5A

端子台(20P)

OUT4

OUT2

CM34

OUT1

OUT3

OUT1

OUT2

● 運転状態出力回路

運転状態を外部に出力するための端子OUT1~OUT4をCPU基板に設けています。

状態 OUT1 OUT2

異常停止時 オープン オープン

フックが上限にある時 オープン クローズ

フックが中間にある時 クローズ クローズ

フックが下限にある時 クローズ オープン

OUT3,OUT4は設定により外部出力の内容を変更することができます。2台のホイストで共吊りに使用する

場合、外部出力信号選択を”Y2”に設定し、OUT3出力と相手ホイストのIN4入力端子を相互に接続すること

で、軽負荷高速の同期運転が出来ます。

過荷重判定出力は過荷重停止の動作/非動作にかかわらず出力します。

過荷重判定出力は巻上停止し、再度押ボタンを操作するとリセットします。

軽負荷判定出力は軽負荷高速機能を有効にしないと出力しません。

2台共吊りで使用するときは動作/非動作設定を2台とも同じ設定にして下さい。

軽負荷判定出力は荷重を検出した場合や、押ボタン操作を高速⇒低速または高速⇒停止に切り替えるとリセ

ットします。

外部出力信号選択設定 OUT3-CM34 間 OUT4-CM34 間

Y1

(工場出荷時設定)

正常時:オープン

過荷重判定時:クローズ

停止中:オープン

運転中:クローズ

Y2

(*1)

軽負荷未判定時:オープン

軽負荷判定時:クローズ

停止中:オープン

運転中:クローズ

(*1)外部出力信号に軽負荷判定出力を選択すると、IN4 入力端子が軽負荷高速許可信号となります。

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2台のホイストで共吊りし、軽負荷高速の同期運転をする場合は、下図のように配線してください。

単独運転時に軽負荷高速機能を使いたい場合は、図のように”単 A”および”単 B”の接点で操作電源 R相と

軽負荷高速許可信号 IN4 を短絡してください。

CM34

Aホイスト

OUT3

CM34

Bホイスト

IN4

OUT3

操作電源R相へ

IN4

単A 単B

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●US形制御箱写真と部品配置

200V 級 20kW 制御箱

400V 級 45kW 制御箱

モータ出力

インバータ部

CPU 基板

電源基板

AC リアクトル

電源

コンバータ部

電源入切

接触器

モータ出力

インバータ部

電源

コンバータ部

AC リアクトル

CPU 基板

電源基板電源入切

接触器

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1-3-3 走快停 Excellent、US Super Excellent の特殊機能・仕様

●制御箱別置き

ホイストの設置環境が、高温、粉塵が多いなどの理由で制御箱(インバータ部)を本体から離して設置する

ことができます。このオプションをご希望の場合は以下の制限事項、注意事項を事前にお確かめ下さい。

【機械式上限リミットスイッチ】

動力線の往復による電圧降下の防止、配線コスト低減のため、機械式上限リミットスイッチの2段目はお付

けしません。

2段目の要求があった場合に限り、電源遮断用の電磁接触器を追加する方式で対応します。電磁接触器

が別置制御箱に納まらない場合は追加箱が必要になるなど、大幅なコストアップを招くだけでなく、納期の確

保も必要となります。

【上下限電子リミット】

ノイズの影響により、電子リミットの位置ズレが発生する場合があるため、上下限電子リミット機能は使用でき

ません。出荷時の位置設定も実施しません。ホイストの設置環境によっては電子リミット機能を有効にして使

用できる場合もありますが、保証外となります。

【過荷重防止機能】

内蔵過荷重防止機能は使用できません。モータ動力線の引き回しによる電圧ドロップにより、回転速度が

大きく変化するため誤動作したり、検出できなくなる可能性があります。

過荷重防止機能が必要な場合は LCM追加等での対応となりますので別途指定ください。

【本体制御箱】

別置き仕様でも、ホイスト本体に制御箱が付きます。本体制御箱の中身は上限リミットスイッチと端子台のみ

となります。ただし、電流形ブレーキ(5t以下)では、V相のみ動力線が往復することによる三相アンバランス

防止のため、巻上ブレーキ回路(スタック・抵抗器・ブレーキ用電磁接触器)も本体制御箱内に設置します。

【別置制御箱と本体、回生放電抵抗の距離】

電圧降下および回転センサ信号線へのノイズの影響を考慮し、別置き距離は最大50m(配線長)とします。

回生放電抵抗器は別置制御箱のすぐ横(配線長2m以内)に別置きとなります。

【ケーブル手配】

本体と別置制御箱を結ぶケーブルはお客様で手配してください。ただし、別置制御箱-回生放電抵抗間の

ケーブルは当社手配とします。

電源ケーブル(R、S、T)は基本的に別置制御箱への引き込みとなります。本体制御箱への引き込みは、電

力線が片道分増えることになりますのでご注意ください。

【押ボタンケーブル引き込み口】

別置制御箱、本体制御箱のどちらに押ボタンケーブルを引き込むか必ず確認ください。ご指定がない場合

は別置制御箱に引き込むものとします。

押ボタンをお付けしない場合でも、操作信号をどちら側から入力するのか確認ください。

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●調速同期

ホイストで共吊りする場合、吊荷の傾きを抑制するのに調速機能が便利です。ホイスト同士の信号のやりとり

が一切不要な上、何台でも共吊りできる特長があります。走快停Excellent シリーズはこの調速機能を標準装

備しています。

普段はホイスト単独で使用し、時々共吊りする場合などは、この調速機能だけで傾きの発生が抑制され、上

下限電子リミットとの併用で支障なく作業ができます。しかし、インチングや加減速を繰り返すような操作をす

ると、大きな傾きを発生することがあります。この傾き発生を防止するため、各ホイストの始動停止のタイミング

を合せ、ほとんど傾きを発生しないように制御するのが調速同期機能です。

【調速機能で吊荷が傾く原因】

調速機能は、1-3-2項で説明したように、荷重によるモータ回転速度(=巻速)の違いをなくすため、出力周

波数を変えて補正します。

例として、2台のホイストA、Bで共吊りし、Bホイスト側が重たい偏荷重を高速で巻き上げる場合を想定しま

す。各ホイストの運転周波数は、重たい荷重による巻速低下を補うため、BホイストがAより高くなります。この

状態で押ボタンから手を離すと、2台のホイストは同時に減速を開始します。(ア部)

減速時の周波数変化の傾き(df/dt)はインバータの回生能力で決まる固定値のため、荷重が軽く、運転周

波数が低かった A ホイストが先に最低周波数(約6Hz)まで下がります。最低周波数に到達すると、メカブレ

ーキを作動させ、A ホイストは完全に停止します。(イ部)

Aホイストが停止した時点で、運転周波数が高かったBホイストはまだ減速中です。この時、高速巻上の再

操作をすると、Bホイストは瞬時に加速を始めるのに対して、停止していたAホイストはブレーキ解放などの始

動処理後に加速を始めるため、この時に吊荷が大きく傾くことになります。(ウ部)

2台のホイストに均等加重をかけた場合でも、インチング操作や加減速運転を繰り返した場合は、各ホイスト

のバラツキによって同様な現象が発生します。

運転周波数

傾きを防止するためには、次のような操作が必要となりますが、調速同期機能にすれば、ホイスト側で制御

をするため、特に操作方法に注意する必要がなくなります。

・押ボタンから一度手を離したら、減速途中に再度押ボタンを押さない。

・2 台のホイストが両方停止したのを確認してから、次の操作をする。

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【調速同期機能の動作】

調速同期機能では、図のような配線で同期信号をやりとりし、始動停止のタイミングを合わせることによって、

前述したような運転操作によるズレを最小限にします。ただし、インチングにより数ミリずつフック位置がズレた

り、加減速の繰り返しにより大きくズレることがあります。2台の位置合わせ(原点リセット)のためにCPU基板

内蔵の電子リミットを必ずご使用下さい。減速点は停止点より 150mm 程度手前に設定して下さい。

上下限で停止する場合は相手機が停止しても設定した上下限停止点まで動きます。

調速同期機能がない場合、調速カウンタは停止するたびにリセット(ゼロクリア)しますが、調速同期機能付

きの場合は揚程途中で停止させてもリセットしません。これは、残パルス分を次の運転時に補正することで、

傾きを少なくするためです。逆に、調速カウンタをクリアしないと次の動作で不要な補正がかかることになるた

め、以下の場合には調速カウンタをリセット(ゼロクリア)します。

・上下限電子リミットが動作して停止した時

・機械式上限レバーが動作して停止した時

・電源投入時

フックのズレを修正するには、単独運転で位置合わせをする方法もあります。ただし、この場合は調速カウ

ンタをリセットしませんので、電源再投入と組み合わせて調速カウンタをリセットしてください。

動作シーケンスは下図のように、減速途中で押ボタンを押しても一旦停止してから再運転となります。

ただし、単独運転時(IN4 入力有りの時)は標準仕様と同じ運転パターンとなります。

CM34

Aホイスト

OUT4

CM34

Bホイスト

IN3

OUT4

操作電源R相へ

IN3

単A 単B

IN4IN4

IN4:単独運転選択IN3:調速同期入力OUT4:調速同期出力

IN2:軽負荷同期入力OUT3:軽負荷同期出力

OUT3

IN2

OUT3

IN2軽負荷高速機能を使用する場合は波線で示す配線が必要です。発注時に指定がない限り軽負荷高速機能は付いていません。

運転周

波数

操作信号

高速

低速

低速

高速

停止

実線:標準仕様破線:調速同期仕様

調速同期仕様は一旦停止して(2台同時に)再始動する。

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【調速同期仕様の注意点】

購入仕様書に調速同期とだけ書かれていたり、調速同期以外は標準と書かれている場合がありますので、

その場合の仕様がどのようになるのか、また他の機能との関係がどうなるのかを以下にまとめました。

入出力端子名称軽負荷高速機能なしの場合

(調速同期機能だけ明示された場合)軽負荷高速機能付きの場合

2段押入力 4点独立入力 2段押入力のみUP 上 低上 上DN 下 低下 下HI 高速 (予備) 高速IN1 (予備) 高上 (予備)IN2 (予備) 高下 軽負荷同期IN3 調速同期 調速同期IN4 単独運転 単独運転

OUT1 上下限電子リミットおよび異常出力

上下限電子リミットおよび異常出力OUT2

OUT3 過荷重 軽負荷同期OUT4 調速同期 調速同期

仕様書に調速同期とだけ明記した場合(調速同期以外は標準という表現も含む)の注意点

・軽負荷高速機能はつきません。

・LCMはつきません。

・過荷重警報ブザーはつきません。

・2段押込と4点独立入力操作いずれも可能です。

・内蔵の過荷重防止機能は使用可能です。

・押ボタンスイッチはお付けしません。

仕様書に調速同期+軽負荷高速機能と明記してある場合の注意点

・4点独立入力操作は使用できません。

・軽負荷高速信号のやりとりのため、2台のホイスト間に信号線の追加が必要です。

調速同期仕様にLCMや過荷重警報ブザーなどを付け加える場合は事前に問い合わせ下さい。機能が限

定されたり、組合せ不可能な場合があります。

出荷済みのホイストは機能割り付けが異なるものがあります。

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●多段速仕様

押ボタン3点の速度選択信号により、巻上/巻下それぞれ8通りの速度が選択できます。速度選択信号は

CPU基板に実装された端子台のIN1~IN3に入力します。

速度選択信号の組み合わせは以下のようになります。過荷重検出は最低速(0速)と最高速(7速)で巻上運

転した時のみ検出します。また、軽負荷高速の判定は最高速(7速)で運転した時のみとなります。

入力信号 周波数 過荷重 軽負荷

UP DN IN1 IN2 IN3 初期設定値 検出 高速

0速

○ ×

× × × 7 ○ ×

1速 ○ × × 10 × ×

2速 × ○ × 15 × ×

3速 ○ ○ × 20 × ×

4速 × × ○ 30 × ×

5速 ○ × ○ 40 × ×

6速 × ○ ○ 50 × ×

7速 ○ ○ ○ 56 ○ ○

0速

× ○

× × × 7 × ×

1速 ○ × × 10 × ×

2速 × ○ × 15 × ×

3速 ○ ○ × 20 × ×

4速 × × ○ 30 × ×

5速 ○ × ○ 40 × ×

6速 × ○ ○ 50 × ×

7速 ○ ○ ○ 56 × ○

*周波数の初期設定値は上表と異なる場合があります。

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1-3-4 URシリーズ

走快停 Excellent シリーズはショックレスで使いやすい反面、S形やR形などの商用電源直入れ駆動ホイストよ

り操作追従性が鈍く、巻き下げ時にエネルギーの電源回生ができません。

そこで、巻下高速運転時のみ商用電源直入れにし、他はインバータ駆動するのがURシリーズです。

●特長

小形軽量

・従来形微速付ホイストよりも低速用モータが無い分小形軽量です。

・従来形微速付ホイストよりも減速機が 2 種類無い分小形軽量です。

・R 形ホイストを母体としているためバランスウェイトが無い分小形軽量です。

・巻下高速運転時商用電源直入れ運転のため回生抵抗が無く小形軽量です。

操作性向上

・巻下高速から機械式ブレーキで急停止します。

・巻上高速からも急減速停止しますので停止距離が短いです。

・巻上下の低速速度を 3速から選択できます。

省エネルギ

・高速巻下運転を商用運転することにより電源回生し電気代節約できます。

メンテナンス性向上

・ワンモータでシンプル構造です。

・基板も 1枚で交換が容易です。(接触器感覚で保守作業ができます。)

低価格

・機能の絞込みを実施し、使い方も簡単です。

・部品点数を削減し、信頼性も向上しました。

●他の可変速ホイストとの比較

項目 URシリーズ 従来形微速付 走快停シリーズ

制御方式巻上 インバータ+商用 商用 インバータ

横行 インバータ 2 モータ or 極変 インバータ

速度設定

巻上高速:固定

低速:3 速選択

高速:固定

低速:固定任意速度

横行高速:4 速選択

低速:2 速選択

高速:固定

低速:固定任意速度

操作応答性 緩起動急停止 急起動急停止 緩起動緩停止

ランニングコスト 中 高 低

電力消費 小 小 中

部品点数 少 多 中

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●操作イメージ

URシリーズは、高速巻下運転のみ商用運転です。

高速(4速より選択)

横行

巻上 巻下

低速(2速より選択)(2速より選択)

低速

低速(3速より選択)

(3速より選択)低速

(3速より選択)低速 (3速より選択)

低速

高速

高速(商用運転)

●運転パターン

URシリーズは巻下高速運転から低速運転に切り替る時に機械式ブレーキで停止させます

URシリーズ(巻上)

解放 解放1 段目

URシリーズ(巻下)

走快停シリーズ

従来形微速

1 段目 2段目押ボタン操作状態

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●制御箱内機器配置

●設定変更要領

低速速度は巻上インバータ基板上のスライドスイッチで以下のように設定変更できます。

必ず電源を切ってから設定変更してください。

【1t、2t 用制御箱】

【2.8t 用制御箱】(横行インバータ付の場合)

左 右

容量

1t

2t 2.8t

0.8

0.72

スライドスイッチ設定と巻上低速速度(m/min)

1.33

1.2

2.0

1.8

スライドスイッチ

左図は左右共下側に設定した出荷時状態を示しています。

右 左 右 左 右

下 下 上 上 下

尚、左右共上側に設定した場合は、左右共下側に設定したのと同様に、最低速となります。

巻上インバータ部

マイコン インバータ用接触器

巻下接触器 横行接触器高速巻下運転用接触器

インバータ運転用接触器

横行用インバータ

インバータ運転用接触器高速巻下運転用接触器

巻上用インバータ

巻上用インバータ 高速巻下運転用接触器

マイコン

横行接触器

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●サービス部品一覧

URシリーズのサービス部品は、下記の部品以外(ブレーキ板やワイヤロープ等)R形と同じです。

品名 UR-1 UR-2 UR-2.8

巻上基板03G527

P649639G01

03G528

P649639G02

03G529

P649713G01

切替接触器 S-2XT10JH S-T20 (2 個) S-T21(2 個)

横行インバータ03G552

P280377G03

横行接触器R 形 1t

サービス部品

と同じ

R 形 2t

サービス部品

と同じ

R 形 2.8t

サービス部品

と同じ

巻上ブレーキ板

ワイヤロープ組立

横行ブレーキ板

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1-3-5 ノイズと高調波、漏れ電流

インバータが電源や周辺機器に与える影響のうち、周辺機器の誤動作など、原因が特定できないものは高

調波あるいはノイズとして混同されている場合が多く見受けられます。例えば電波障害やノイズは電力回路にお

ける高調波とは発生源や影響などが明らかに異なっており、対策方法も大きく変わってきます。

ノイズ 高調波 漏れ電流

周波数帯 高周波(数 10kHz~全 MHz) ~数 kHz ~全 MHz

発生源 インバータ部 コンバータ部 インバータ部

発生原因 トランジスタのスイッチング コンバータの転流 トランジスタのスイッチング

発生量 スイッチング周波数と電圧

変化率で決まる

線路インピーダンスと電源

容量で決まる

スイッチング周波数と電圧

変化率、静電容量で決まる

伝播経路 電路、空間、誘導 電路 絶縁体

被害例 ラジオの雑音

機器の誤動作

自家用発電機の発熱

進相コンデンサの発熱

漏電遮断機の不要動作

サーマルリレーの不要動作

主な対策 動力線と信号線を分離

ノイズフィルタ設置

リアクトル設置 インバータ対応品に交換

検出感度変更

●ノイズ

外部よりホイストへの侵入ノイズ

・電源ラインより

通常、対策の必要はありません。しかし、同一電源でノイズを激しく発生する機器(汎用インバータ、サーボ

モータ等)を使用している場合、まずその発生を抑えるよう、発生源の機器側にノイズフィルタを設置してく

ださい。それでもご心配な場合は、ホイスト側の電源部にもノイズフィルタを設置してください。

・空中伝播

ラジコン操作の電波による誤動作は心配いりません。

ホイストより外部に出すノイズ

・電源ラインへ

同一電源へ計測器などノイズに敏感な機器を使用する場合、ホイスト電源部にノイズフィルタを設置して下

さい。その他の場合は、対策の必要は通常ありません。

・空中伝播

ラジオを聞きながら、ホイスト作業をすると雑音が入ります。ホイスト電源受電端子部にラジオノイズフィルタ

を設置してください。

●高調波(高調波抑制ガイドラインへの対応)

高調波とは、基本波(電源周波数)の整数倍の周波数成分をもつものと定義され、1つの基本波と複数

の高調波を合成したものをひずみ波と呼んでいます。ひずみ波は高周波領域の高調波まで含んでいますが、

配電系統の電源高調波として扱うのは、通常 40~50 次です。ノイズや電磁障害などの高周波領域の問題

とは性質が大きく異なり、その違いを明確にする必要があります。

一般に、正弦波の商用電圧を印加したときに、ひずみ波電流が流れる装置は高調波の発生源ということ

ができ、インバータのコンバータ部(整流回路)がこれにあたります。

半導体応用技術が著しく進歩し、一般工場やビル、さらには一般家庭まで広範囲に普及しました。その

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結果これらの発生する高調波が、電力系統の各機器に影響を与える事例も年々増加しつつあり、1994 年

9 月に、経済産業省(旧通産省)資源エネルギー庁より次の2種類の高調波抑制対策ガイドラインが制定

されました。

• ≪家電・汎用品高調波抑制対策ガイドライン≫

• ≪高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン≫

以下、『特定需要家ガイドライン』とよびます。

その後 2004 年に≪家電・汎用品高調波抑制対策ガイドライン≫が廃止され、特定需要家において使用

されるインバータは全て『特定需要家ガイドライン』の対象となりました。

特定需要家ガイドラインでは、需要家の受電点から電源側への高調波電流の流出(受電点での高調波含

有率)を抑制することを要求しています。

高調波流出電流を小さくするためには、インバータなどから発生する電源高調波を需要家内でどのよう

に抑制・吸収するかがポイントになります。具体的には、リアクトルやACフィルタ、アクティブフィル

タなどの設置が必要な場合があります。一般的には、インバータ受電側にACリアクトルを設置します。

このとき、リアクトルの容量は駆動するモータ容量に合わせて選定します。

このガイドラインの対象は、その施設する高調波発生機器の「等価容量」の合計が、次のいずれかに該当する

特定需要家です。

① 高圧から受電する需要家

6.6kV 系統 ······················································50kVA 以上

② 特別高圧系統から受電する需要家

22kV 又は 33kV ·············································300kVA 以上

66kVA 以上の系統········································2000kVA 以上

高調波の計算および対策は需要家で実施いただくものです。インバータホイストの高調波流出電流を計算す

る場合、下記種別で実施ください。

回路分類 No.3(汎用インバータ)

回路種別三相ブリッジ(コンデンサ平滑)リアクトル無し

回路種別分類番号 31

(AC リアクトルを設置されますと分類番号 32 で計算できます。)

●漏れ電流(漏電遮断器の選定)

漏電による感電事故を防ぐため、ホイストの設置に際しては接地工事と漏電遮断器設置を確実に実施すること

が大切です。漏電遮断器は、高調波・サージ対応品から選定して下さい。高調波・サージ対応品でない場合は、

感動電流の値を 100mA 以上として下さい。

インバータとモータ間の配線やモータ巻線と大地間には浮遊容量が存在します。インバータは半導体素子のス

イッチングによって交流を作り出すため、これらの浮遊容量により漏れ電流(漏電)が発生することは原理的に避け

られません。インバータ駆動時の漏れ電流には高周波成分が多く含まれていますが、一般的な漏電遮断器は周

波数帯にかかわらず検出するため、動作してしまいます。

高周波成分(数kHz以上)の漏れ電流は、50/60Hzに比較して人体への影響が1/10以下と小さくなるため、高

周波帯の検出感度を鈍くした“高調波・サージ対応漏電遮断器”が、人体への感電事故防止と漏電遮断器の不

要動作防止として有効です。

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漏れ電流 I(実効値)は以下の式で求めることができます。

I=E/Z E:回路電圧(V)

=E/(1/2πFcC) Z:大地間インピーダンス(Ω)

=E2πFcC(A) Fc:キャリア周波数(Hz)

C:浮遊容量(F)

式より、漏れ電流の大きさはキャリア周波数と電源電圧に左右されることがわかります。走快停シリーズなどのホ

イスト専用インバータは漏れ電流をできるだけ小さくするため、キャリア周波数を低くしていますが、漏れ電流をなく

すことはできません。

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