(1)タンカー(tanker)の種類 日本は世界原油消費量の...

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(1)タンカ (Tanker)の 種類 タンカ とは液体を運ぶ船舶 のことで、船給が大型のタンク (液槽 )と な ってい こ とか らタンカ と呼ばれ る。通常は石油類 を輸送す る油槽船 を指すが、積荷 類 に よ り下記 の よ うな専用 タ ンカ が運航 されている。 原油タンカ (Crude Oil:原 油) 日本 は世界原 油消費量 の約 6 % ( 年間約 1 5 億 バ レル )を消費、日本向け原油の 約 9割は ルシャ湾 (Persian Gul卜 P G ) から。他 は極東、 メキシ 等。 プロ ダク トタンカ (Product:重 油、軽油、ナフサ等 の石油製品) 原油タンカ と殆 ど同 じ構造だが、重油類は固ま りやす くタンク内には蒸気に よるヒ ティング装置 を装備。 ケ ミカル タンカ (Chemical:白 物油 メタノ 化学製品) タンク内は積荷による腐食防止のため ティ ング して あ る。 タ ンク ライ ン 数 が多 く、 マニフォ ル ド (Manifold:陸 上 との 連結部)も複雑。 NGタンカ (Liquefaction Natural Gas:液 化天然ガス=メ タン ) 天然ガスは常圧では 162℃ で液化 し、液化体積は常温時のガス容積 の約 600分 の 1。低温常圧で運送、航海中のボイルオフガス は燃 料 と して利 用 され る。 日本

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(1)タ ンカー (Tanker)の種類

タンカーとは液体を運ぶ船舶のことで、船給が大型のタンク (液槽)と なっている

ことからタンカーと呼ばれる。通常は石油類を輸送する油槽船を指すが、積荷の種

類により下記のような専用タンカーが運航されている。

・原油タンカー (Crude Oil:原油)

日本は世界原油消費量の約 6%(年 間約 15億 バ レル)を 消費、日本向け原油の

約 9割 はペルシャ湾 (Persian Gul卜PG)か ら。他は極東、メキシヨ等。

・プロダク トタンカー (Product:重 油、軽油、ナフサ等の石油製品)

原油タンカー と殆 ど同 じ構造だが、重油類は固ま りやす くタンク内には蒸気に

よるヒーティング装置を装備。

ケミカルタンカー (Chemical:白 物油 ・メタノール等の化学製品)

タンク内は積荷による腐食防止のためコーティングしてある。タンク ・ライン

の数が多く、マニフォール ド (Manifold:陸上との連結部)も 複雑。

NGタ ンカー (Liquefaction Natural Gas:液化天然ガス=メ タン)

天然ガスは常圧では‐162℃で液化 し、液化体積は常温時のガス容積の約 600分

の 1。低温常圧で運送、航海中のボイルオフガスは燃料 として利用 される。日本

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は東南アジア、豪州、PGか ら世界輸入量の約 40%を 輸入。

高圧に耐え熱侵入を最小にする独立球形タンクのモス型は、空間利用率が悪 く

前方の視界も阻害される。メンブレン (薄いステンレス鋼)型 はその短所を補

うため開発され、メンブレンで断熱 し船体で LNG重 量を支えている。

LPGタ ンカー (LiquefactiOn PetrOleum Gas:液化石油ガス=プ ロパン・ブタン)

大型外航船は大容量タンク向きの冷却式 (C3=‐42℃、C4=‐2℃)、小型内航船は

取扱が容易な加圧式 (C3=12kgクcm2、C4=3kgycm2)が 主流。液化体積は常温

時ガス容積の約 250分 の 1。日本は世界の海上輸送量の 3割 を輸入。

(2)タ ンカーの大きさによる分類

ULCC(Ultra Large Crude‐ Oil Carrier i 30‐40万 トン超)

喫水が 21m以 上 とな り、PGか ら日本へはロンボク海峡か らフィリピン諸島東

岸経由。マラッカ海峡経由に比べ、1000海 里以上 (約3日 )航 程が長 くなる。

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ペルシャ湾内で海上貯蔵用として用いられている 1980年建造 56万 トン原油タ

ンカー 「ノックネヴィス」459mが 世界最大の船舶。 日本では 1976年、当時の

東京タンカーが建造した 「日精丸」48万 トン379mが 最大。

・VLCC(Very Large Crude‐ Oil Carrier:20・30万 トン)

喫水 21m未 満であれば、PGか ら日本へはマラッカ海峡経由。この海峡は、水

域は広いが満載 VLCCが 通行できる場所は限定される。中東から日本へは毎日

1~2隻 のVLCCが マラッカ海峡を通過して原油を運んでいる。

スエズマックス (Suez Max:ス エズ運河最大船型=約 15万 トン)

スエズ運河は幅 160‐200m、 深さ 19.5m(最 大喫水 18m)、 長さ約 90海 里、ア

ジアからヨーロッパヘ向かう場合、アフリカ最南端喜望峰経由に比べ約 4000海

里程航程を短縮できる。二度の拡張工事で 15万 トンクラスまで通行可能となつ

たが、VLCCは まだ満載では通航できない。

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アフラマックス (AFRA Max:8‐ 12万 トン)

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込む前に当該クリーンバラス トタンクのバラス トは排出される。このタイプの

タンカーは既に廃止されている。PBT=Permanent BaⅡast Tank:バラス ト専

用タンク.

APT W「 F S N o 5 N 0 4 N o 3 N o 2 N 0 1

O SBT(Segregated Banast Tank)タ ンカー

カーゴタンクから分離されたバラス ト専用タンクを有するタンカー。CBTタ ン

カーのカーゴ兼用バラス トタンクから排出される油濁水をなくすため義務付け

られたもの。ただしバラス トラインはカーゴタンク内を通つているため、バラ

ス トラインを経由して貨油が船外排出される可能性は否定できない。

APT WBT F S No5 No4 No3 No2 Nol FPT

シングルハルタンカー (Single Hull Tanker)

船体外板が一重船殻構造タンカー。貨物である原油と船外の海水はわずか十数

mmの 外板一枚で隔てられているだけであり、衝突 。座礁 ・外板亀裂等により

常に大量漏油事故が発生する可能性がある。万が一の場合少 しでも漏油を少な

くするため、SBTで は PL(Protective Location)配置としている。 (上図)

ダブルハルタンカー (Double Hull Tanker)

1989年 アラスカ沖でのエクソンバルディス座礁事故による原油流出環境汚染を

契機 として、1996年 以降に建造される新造油槽船については船体全部を二重船

殻構造とすることになった。二重船殻部分は全てバラス トタンク (SBT)。最近

では燃料タンク部分も二重船殻化とするタンカーも現れている。

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AFRA(Average Freight Rate Assessment)とはロン ドンタンカーブローカー

作成の運賃指数.6つ の船型別に運賃が表示してあり、4‐8万 トン型タンカーの

需要が最も多かったため 8万 トン型をアフラマックスタンカーと言 うようにな

つた。現在では 8‐12万 トンクラスを広くアフラマックスタンカーと呼ぶ。

パナマックス (PANAMAX:パ ナマ運河最大船型=5‐8万 トン)

パナマ運河は最小幅 192m最 小水深約 13m全 長約 45海 里、通航できる最大船

型は長さ294m幅 32.2m喫 水 12m以 下に制限されている。2007年 拡張工事 (現

水門ロック近くに大型水門増設)開 始、2014年完了後は、長さ366m幅 49m喫

水 15mま での船舶が航行可能となる。

運河には水門が 3ヶ 所あり、水門ロック内へ水を澁排水することにより水面高

さの違 う水域へ船舶を移動させる。

(3)原 油タンカーの構造上の分類

一般に大型原油タンカーは復元性及びその経済的な効率の見地から、大まかに言つ

て深さ 1:幅 2:長 さ 12の比率で建造されることが多く、全て船尾船橋、船尾機関。

・CBT(Clean Ballast Tank)タンカー

クリーンバラス ト (港内で排水できるほど十分に洗浄 したカーゴタンクに積み

込んだ海水バラス ト)用 カーゴタンクを有するタンカー。積地でカーゴを積み

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(4)原 油タンカー運航概要 (日本~PG航 路)

・バラス ト航海 (Ballast Vbyage)

日本で全ての原油を揚げたタンカーは、海水バラス トのみを積んで空荷でペル

シャ湾へ向かう。黒潮 (逆潮)の 影響を受けないよう南西諸島の東側を航行す

るのが一般的。シンガポール海峡は特別の理由がない限 りは昼間通過。マラッ

カ海峡を抜け、イン ド洋 ・アラビア海 ・ペルシャ湾へ至る。

検査 ・修理のため ドライ ドックに入る時、航海中にカーゴタンクの内部検査 ・

修理等を行 う時にはカーゴタンクの海水洗浄を行 う。油水混合洗浄水はスロッ

プタンク (S10p Tank)に集め、数日間静置して油水分離させ、下部の水分は船

外排出、残った上部の油分はそのまま S10p Tankに 残 し、そこに荷主の許可を

得て貨油を積み込む (Load On TOp)。

近年バラス ト水に含まれる外来種が問題視されてお り、日本で積み込んだバラ

ス ト水を大洋上で張 り替え、積地では純粋 (?)な 大洋上で張 り込んだバラス

ト水を排出する動きが加速、特に米国 。豪州等で厳 しいが、ペルシャ湾諸国に

も広がっている。

・燃料補給 (Bunkelriing)

日本~PG航 路のタンカーは通常往航 (積荷前)又 は復航 (積荷後)に 、ペルシ

ャ湾の入 り口に位置す るコールファッカン又はフジャイラ沖に錨泊 して燃料補

給を行 う。VLCC錨 地の水深は 90m以 上と深 く深海投錨法。

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・積地 (Loading Port&Terminal)

通常積地は一港のみに限らず、2‐3港 積みが多い。沖シーバース (Sea Berth)、

SBM(Single Buoy Mooring:ブイー点係留)、フジャイラ沖での STS(Ship To

Shゎ)力 代`表的なVLCCの タンカーバース係留方式。

VLCCの STSで は、錨泊している積出し側の母船 VLCCへ 受入れ側 VLCCが

接舷 (Alongside)することが多いが、ホンコン沖等で行われている LPG船 の

STSで は両船が航走しながら接舷することが多い。

殆 ど廃止されたが以前はペルシャ湾で主流だつた CBM(Conventional Buoy

Mooring:本 船両舷錨 V字 投錨と船尾側をブイ 5個 で係留)、西アフリカ沖、ブ

ラジル沖、ベ トナム南方沖等の外洋油田に多いステーションタンカー (Station

Tanker:母 船)の 船尾へ係留するタンデム (Tandem)式 係留方法等もある。

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外洋積出し基地をFPSO(Floating PrOduction StOrage and Omoading System)

と言い、最近では原油、LPGだ けでなく、LNG船 用の FPSO係 留やフローテ

ィングカーゴホース (Floating Cargo Hose)を利用しての荷役方法も技術開発

が進んでいる模様。

積荷 (Loading)

ドルフィン型桟橋ではチクサンアーム (Chiksan Arm)、SBM・ FPSOで はフロ

ーティングカーゴホース (Floalng Cargo Hose)、STSで はフレキシブルホー

ス (Flexible Hose)をマニホール ド (Manifold)に繋ぐ。

積込む油種は 4‐6種 類で数量も様々、デッドスペース (Dead Space:不積空間)

を最小限にし、適正な トリム ・十分な船体強度 ・スムースな場荷を確保する積

付け (Stowage)が一等航海士の最も重要な仕事の一つ。タンカーは他の船種 と

違つて積揚荷計画 ・荷役作業を本船の手で行 う。下は 4種 積付けの一例。

積荷中はカーゴを積んだ分タンク内気圧が高くなるため、原油タンカーでは余

分なガスをベン トポス ト(Vent Post)から船外ツト出する (Open Loading)。LNG

船では余分なガスは全て陸上へ返送、LPG船 は自身の再液化装置で再液化 しカ

ーゴタンクヘ戻す (Closed Loading)。タンク容量の 98%積 が基本。

APT WBT F S No5 No4 No3 No2 Nol FPT

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Oil tanker(Side vieu′ )

・積荷航海 (Laden Voyage)

マラッカ海峡入 口まではバラス ト航海の逆の航路。 日本船社運航のタンカーは

事故防止のためシンガポール海峡は昼間、船底下余裕水深 (UKC:Under Keel

Clearance)3.5m以 上を確保 しての通峡 としている。タイ ミングが合わなけれ

ば、マラッカ海峡入 日付近で ドリフティング (Drtting:漂 泊)し て時間調整。

冬場は南シナ海北部の強い北東季節風を避けるため、フィリピン諸島西岸に寄

つたパラワン (Palawan)航 路を採 ることが多い。バシー海峡か らは黒潮を最

大限利用するため、東シナ海に入 り、大隅海峡 (又は奄美島の北方海域)を 抜

けて九州東方に出る航路が一般的。

。大阪湾内の揚地 (Discharging Port&Terminal)

堺泉北区にはVLCC用 コスモ石油原油桟橋 (南側)、東燃ゼネ石原油桟橋や、ア

フラサイズの新 日本石油原油桟橋がある。その他大型船用の LNG桟 橋、LPG

桟橋、ケミカル桟橋等が集中。堺泉北に入港するVLCCは 喫水 14.5mま でで必

ず 2nd Portとなる。水島向VLCCは 16.Om、坂出向ⅥLCCは 12.7m。

。揚荷 (Discharging)

陸上とタンカーはチクサンアーム (Chiksan Arm、 伊勢湾等は SBM有 )で 連結

され、原油はカーゴポンプ (Cargo Pump)で ターミナルの要求する順番に従つ

て揚荷される。荷役 ・タンク圧管理 ・バラス ト作業は CCR(Cargo Control

Room:荷 役制御室)で 一元管理。航海当直と同様の荷役当直が組まれる。

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・イナーティングCnerun∂

揚げた後のスペースには防爆のためイナー トガス (Inert Gas:不活性ガス)が

充填され、タンク内酸素濃度は常時 8%未 満に維持される。積荷航海でタンク圧

が負圧になった時もイナー トガスを補充。カーゴタンク上にはブリザーバルブ

(Breather Valve)、バキュームブレーカー (Vacuum Breaker)が設けられ正

圧 1400mmH20で ガス放出、負圧‐700mmH20で 外気吸引とし緊急時のタンク

損傷を防止 している。LPG tt LNG船 ではカーゴは完全独立で輸送 ・移送され、

タンク圧力管理はカーゴ自体を使って行われる。

。原油洗浄 (COW=Crude Oil Washing)

揚荷と閉口してカーゴタンクの COWが おこなわれる。原油自体でタンク内部を

洗浄 し、航海中タンク内部に付着 した重質有機物を洗い流 して再び原油中に拡

散させ揚荷する。タンクに残る原油が大幅に減少され積高も増大、入渠前の海

水洗浄時の汚水発生量を少なくしスラッジ (Sludge:油性残留物)量 も抑え、

防錆効果等の利点もある。COW用 の TCP(Tank cleaning Pump)有 り。

・浚え (Stripping)

原油タンカーでは、LNG船 や LPG船 (タンク冷却用にカーゴの一部を残す)

と違い全てのカーゴを揚げて しま う。タンク内のカーゴ吸込み口であるベルマ

ウス (Bell mOuth)は タンク後部にあるためVLCCで は 6m以 上の トリムを付

けて揚げ荷を行 う。ス トリッピングには SS装 置 (SelfStripping System)やエ

ダクター装置 (Eductor System)を使 う。

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・ガスフリー作業 (Gas Free Operation)

カーゴタンクの検査 ・修理を行 う場合にはタンク内のガスを空気に置換する。

タンククリーニングヒーター (Tank Cleaning Heater)で50度 以上に加熱 した

海水でタンクを洗浄、防爆のためイナー トでガス濃度 1%Vol以 下まで置換、イ

ナーティングされたタンクを空気でガス濃度 0.05%Vol以下 (酸素濃度 18%Vol

以上)ま で置換する。さらに入渠前には引続きスラッジ揚げ作業が行われる。

(5)原 油タンカーの火災安全対策

。石油類 (炭化水素ガス)の 可燃性範囲

石油等の可燃性液体はそれ自体が燃焼するのではなく、その液体から蒸発 した

ガスが空気 (酸素)と 混合 して燃焼する。可燃物 (石油ガス)・酸素 (空気)。

熱源 (着火温度)を 燃焼の三要素と言 う。石油ガスの燃焼に必要な酸素濃度は

約 1lVol%以上、空気中 (酸素 21Vol%。窒素 79Vol%)で 燃焼 (爆発)す るのに

必要な石油ガス濃度は約 lVol%~約 12Vol%。下限を爆発下限界 (LEL:Lower

Explosion Limit)、上限を爆発上限界 (UEL:Upper ExplosiOn Limit)と言 う。

空気 ・炭化水素混合気体の可燃性範囲図

酸素濃度を約 1lVol%未満 (酸素欠乏状態)と するか、石油ガス濃度を爆発範囲

の外に維持すれば爆発 しない。爆発上限以上の濃度にするオーバー リッチ (Over

Rich)、爆発下限以下の濃度にするツーリーン (Too Lean)方式がある。積荷終

了後のカーゴタンク内はオーバーリッチ状態となつている。

イナー トガスシステム (IGS=Inert Gas System)

カーゴタンク内酸素濃度を常時石油ガスの燃焼範囲外に抑えて防爆を図るもの。

酸素濃度の低いボイラー燃焼排ガスを利用、冷却 ・不純物除去 したものをカー

ゴタンクに補充、酸素濃度 8%以 下 (通常 3‐4%Vol)を維持 している。LPG船 等

ではIGG(Inert Gas Generator)が装備、タンク周囲のIBS(Inter Barrier Space)

へのイナー ト補充用が主で、 ド ック前のタンクイナーティングにも利用。

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イナー トガスは酸素と結合 しない化学的に安定したガス (ヘリウム ・ネオン ・

アルゴン等)を 言 うが、一般的には常温常圧で酸素と化合 し難い窒素ガス ・炭

酸ガスを含める。ボイラー排気ガス成分は空素 77%Vol、炭酸ガス 14%Vol、水

蒸気 50/OVol、酸素 4%Vol程度で不活性化状態。

・エアーフォーム消火装置 (Air Foam System)

カーゴタンクの油火災に備えて甲板上をカバーする泡消火装置。海水駆動で泡

原液を吸い込み、甲板上に設けられた舷側までの有効射程をもつター レットノ

ズル (Tttret Nozzle:十数本設置)か ら放射される。消火栓連結用ホース有 り。

。炭酸ガス消火装置 (C02 System)

カーゴポンプルームや機関室等、閉鎖可能な区画の消火用に用いられ、炭酸ガ

スを放射 し窒息消火 させる。消火後に汚れが残 らない。以前はハロンガスも用

いられていたが、オゾン破壊の原因となるため廃止された。

Ⅷ 七

――

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舟螢 口υ nd「 ロョ

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静電気防止

二つの物質に電位差があると両者には電気が流れ、電位差が大きいと火花を生 じ

ることもある。タンカーでは静電気が発火原因とみられる火災、爆発事故が多く

発生している。船体と陸上との電位差解消のためバースに接岸 しアームを連結す

る前、ボンディングケーブル (BOnding Cable)が接続される。また居住区入口に

は人体に溜まった静電気を放電させる放電版が設置されている。

。その他

タンカーでは甲板上に滞留 している可能性のある可燃性ガス (タンクか ら漏れた

石油ガスと甲板上空気の混合ガスが最 も危険)に 引火 しないよ うノンスパークエ

具 (Non Spark T001)を使用 している。

(6)タ ンカー事故例

1989年 3月エクソンバルディス号がアラスカ沖で暗礁に乗り上げ座礁、約 4万 ト

ンの原油が流出した。当時自動操舵だったこと、船長のアルコール摂取が問題に

なった。水先人が下船した後に座礁。

1993年 1月ブレア号がカナダヘ向け航行中、機関故障で英国北部シェットランド

諸島で座礁、軽質原油約 84000トンが流出。

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1995年 7月 シープリンス号は台風 3号 から避難中、麗水港外で圧流され座礁、

油 ・燃料油が約 5千 トン流出。

。1996年 2月 シーエンプレス号が英国内テキサコターミナルヘ航行中座礁、荒天 と

潮流により離礁 ・座礁を繰 り返し、原油 5万 トン以上が流出。

1997年 1月ナホ トカ号が大時化の日本海を北上中隠岐島沖で船体が破断、積荷の

重油約 6000ト ンが流出。ロシア籍船だったが回収費用は日本側が負担 ?。

1997年 7月 ダイアモン ドグレース (Diamond Grace)が水先人乗船中東京湾中ノ

瀬で浅瀬に座礁、原油約 1500ト ンが流出。ブリッジ内における船長 ・航海士と水

先人の情報共有の在 り方が問題になりBRM(B五 dge Re30urCe Management)概

念の契機 となつた。

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・1999年 12月エリカ号がフランス北西部を航行中、荒天で船体が真っ二つになり、

重油約 3万 トンが流出。主因は腐食 (25歳)に よる強度不足。

・2002年 11月プレステージ号がスペイン北西部で暴風雨に会い遭難、一週間後に

船体が真っ二つ、積荷の燃料油 1万 トン以上が流出。

。2007年 12月韓国西岸沖で Hebei Spi五t号がバージ船と接触、原油約 1万 トン以

上が流出。韓国最大の漏油事故。

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(7)知 っておきたいその他のタンカー用語

アレージ (Unage):油 面から甲板上基点までの高さ。油量算出はアレージ計測で行 う。

サウンディング (SOunding):タ ンク底から液面までの高さ計測。浅い時にこの計測を行 う。

ディッピング (Dipping):深 さを表すが、液が極少量のとき、液の有無を判断する時に使用。

カーゴポンプ :遠心力を利用 した渦巻ポンプ。気体吸い込みで能力は著しく低下。

ス トリッパーポンプ :ス トリッピングの最終段階で用いる往復動ポンプ。ガスを吸つても使用可能。

トッピングオフ (Topping 00:最 終段階積込み。積み込み速度を極スローにして積み切る。

オーバーフロー (over Flow):積込み過多で甲板上に液体が溢れ出ること。タンカーは 98%積 が基本。

コンタミ (Contamination):違 う油種が同じタンクで混ぎること。違 う油種は分けて積まれる。

オイルフェンス (Oil Fence):水面上の漏油拡散防止の浮フェンス。 日本では必ず使用する。

バ レル (Barrel):樽のことで油量を表す標準単位。lBbl=159Litter。

API度 :Ame五 can Petroleum lnstitute米国石油協会が定めた比重単位。水は 10度 で大きいほど軽い。

ロング トン (Long Ton): ヤー ド・ポン ド法による重さで、lL/T=2240ponds=1.01605M/T。

ショー トトン (ShOrt Ton):ヤー ド・ポン ド法による重さで、lS/T=2000ponds=0.90718M/T。

タイムチャーター (Time Charter):定期備船契約。lヶ月 lL/T当 りの期間立て備船料で支払われる。

オフハイヤー (OE Hire):定期備船契約における船主都合の傭船停止期間。当然備船料は支払われない。

ボャージチャーター (Voyage Charter):航海備船契約。運送契約の一種、積高 lL/T当 りの運賃支払い。

デッドフレイ ト(Dead Freight):不積運賃。不積みによって生じる契約数量との運賃差額。一種の違約金。

デマレージ (Demurrage):航 海傭船契約で荷役に際し協定停泊期間を超えた場合に傭船者の払 う補償金。

WS(World scale):タ ンカー基準運賃指数。基準船型 19500DWT。 14ktsの運賃をWS100と している。

EDP:Early Departure Procedure、積荷終了後の書類作成を省略し、出港後船長指示で代理店が行 う。

コンデンセイ ト (Condensate):地下で気相、地上で液相となる原油。API約 60度 程度の特軽質油。

石油備蓄 :石油需給量の変動に備え備蓄することで、国家備蓄 (94日分)、民間備蓄 (83日分)が ある。

メジャー (Mttor):か つての 7社 が、エクソンモービル、シェプロン、シェル、BPの 4社 に統合。

OCIMF:Oil cOmpanies ln∞mational Marine Forum石油会社国際海事評議会。

INTERTANKO:The lnttrna“ nal AssOciation oflndependent Tanker Owner国際タンカー1台主協会。

ISGOTT:Internadonal Safety Guide fOr Oil Tankers&Ъrmina18タンカー&タ ーミナル国際安全指針。

MARPOL:Internauonal Conventlon fOr the Prevention of Marine Pollution iom Ships海洋汚染防止条約。

FC I Internatbnal Fund for Compensation for On Pollution Damage国際油濁補償基金。

CLC:International Convention on Ci悧 Liab■ity for Oil Pollu伍on Damage

油濁汚染損害の民事責任に関する条約。船主の無過失責任、責任限度額、強制保険付保を定めている。

TOVALOP:Tanker owners Vbluntary Agreement cOncerning Liability for Oil Pollutlon

油濁責任に関するタンカー船主間自主協定。清掃費用、防除措置、第二者損害補償に対 し補填される。

COFR:Certiicate Of Finandal Responsibility、USCG発 行の賠償資力証明書。米国水域航行時必要。

OPA90:Oil P01lution Act of 199o、1990年米国油濁法。

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(8)水 先人のタンカーに対する留意点

防火安全対策

・水先ボー トが接近するときはガス臭がなく接近しても安全であることを確認。

・タンカー乗船時は発火源 となる物 (ライター ・マッチ類)は 持ち込まない。

・甲板上では火花を発 しないような靴で歩行。

・居住区入回の静電防止バーを利用し身体の静電気放電に努めること。

・トランシーバーは出来れば防爆型を用いること。

・船長から指定された場所以外では喫煙 しないこと。

・タンカー甲板上は常に可燃性ガスが発生していることを認識 しておく。

・特にアレージ計測のためのタンク圧調整でガス排出時は要注意。

操船上の一般的注意点

。他船の煙突の排気ガス (火の粉)に 注意し、漁船等に接近し過ぎない。

・火災が起き易いことを踏まえ、避航動作は他船種よりも早く大きく。

・大型タンカーは他船種に比べ回頭動作開始が遅く、回頭停止までの時間が長い。

・コンテナ船等に比べ相対的に主機出力が小さいので、停止距離がかなり長い。

・無理な追い越 しや割 り込みは止め、安全運航に徹すること。

・錨泊中の船舶、特にタンカーには悪戯に接近し過ぎない。

・常に喫水、水深、航走中の船体沈下、底触の危険に気を配ること。

・漏油事故は周囲に重大な被害をもたらすことを踏まえ、集中して操船。

。エンジン故障の可能性を考慮 しスピー ドは出し過ぎない。

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着桟時の一般的注意事項

。アプローチ中バースマスター (Berth Master)より係船索配置の指示あり。・係船索配置 。ライン取り順序及びタグ配置 。取る順序 。取る場所を船長へ説明。・ブレーキ用に大臆にタグを配置すれば緊急時対応が可能。

。タンカーは桟橋平行接岸を基本とすること。

・綱取 リボー トがスプリングラインを取り終るまでは岸壁沖約 50m位 で待機。

・接岸 。着岸速度はバース規則に従い、最終 5‐8cnゴsec以下を基本とする。

・バースによっては接岸速度計や岸壁 ・船側距離計あり、参考にすること。

・タンカーでは通常陸上 N旗 に本船のマニホール ド中央を合わせる。

・マニホール ド前後位置は 10cm単 位で調整を要求されることもある。

・接岸 したら、大臆のタグはレッコして船体中央を押させる。

・全ラインを取り終るまではタグは押えたままとしておく。

・タンカーは空船になれば足が上がり風の影響が強くなることに注意。

・タンカーは離桟時船尾 トリムが大きく、前方視界が遮られる。