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中学校社会科の歴史教科書からみる 「アクティブ・ラーニング」 アクティブ・ラーニング授業実践例 日本史かわら版 第 1 号 導 入 15分 ①左ページの導入文と3人の意見を読んで,挑戦状の㋐を考え,予想を書き入れる。 その際,3人の吹き出しの中のどの言葉や表現を根拠として考えたか,根拠となる部分にアンダーラ インを入れさせる。(ペアやグループで意見交換させる) 展 開 25分 ②ワークシートのように,3人の主張に対して「○○主義」「○○論」のようなタイトルをそれぞれつけさ せる。グループやクラス討議をするとよい。 ③右ページの情報を読み,それぞれの情報の中で,重要だと思うところに印をつけさせる。 ④情報は,それぞれ3人うちの誰の主張の根拠となるか考え,ワークシートに記入する。 (複数回答可) ⑤②~④の活動をもとにグループやクラスで意見交換・討議する。 ⑥挑戦状㋑への解答を各自ノートに書かせ,意見交換させる。 まとめ 10分 ⑦現代の自分が3人への手紙を書くとすると,誰に書くか。3人のうち一人を選んで,その人物への未 来からの手紙の原案を書かせる。そのさい,自分が挑戦状㋐の図の中のどこに位置するか明確にさせる。 「私は,アジアと平和を重視する立場です。この立場から考えて私はあなたに賛成です(反対です)。 なぜなら…」 など ⑧⑦の活動をもとにペアやグループあるいはクラスで発表させる。 現行学習指導要領における中学校社会科の基本 方針は,①基礎的・基本的な知識,概念や技能の 習得 ②言語活動の充実 ③社会参画,伝統と文 化,宗教に関する学習の充実 の3つにまとめら れる。これらの方針は,社会的事象に関する個々 の知識の伝達・暗記に終始する社会科授業を克服 し,知識基盤社会やグローバル社会の到来の中で, 生徒たちがこれからの社会を支え,発展させてい く上で必要となる知識・能力・態度を,授業を通 していかに育成するかという問題意識から打ち出 されてきたものである。 特に,②言語活動の充実は,生徒が社会的事象 について主体的に追究し,思考・判断して得た見 方・考え方を,言葉を介して説明したり論述した りして表現する学習活動を促している。歴史的分 • 歴史学習への興味・関心を高める。 • 資料を関連づけて,過去のできごとを評価する。 • 過去のできごとを当時の考え方と現代の考え方の二つの視点で考える力を身につける。 • 歴史的推理を通して獲得した,近代日本の国際関係に関する知識を整理する。 この展開の ねらい 関心 意欲 態度 :自分の予想したことに情報をつけ加えたり修正しようとする。 思考 判断 表現 :過去の視点と現在の視点の二つの視点から自分の考えを述べる。 技能 :資料を読み,二つの視点で情報を整理する。 知識 ・  理解 :19 世紀末の日本を取り巻く国際情勢を理解する。 評価規準の 具体例 めやす1時間 教科書の展開と留意点 野においては,「学習する内容(知識)」と結んで, ①歴史的事象に関する事実の正確な読み取りを基 盤に事象間の関係を説明する,②事象間の関係を 踏まえて歴史的事象の意味・意義や時代の特色を 解釈する,③歴史的な論争問題・場面に対応する 解決策を事実を根拠に選択・決定し,自分の意見 として表現する学習活動として捉えられる。中学 校歴史的分野の弊社の教科書においても,こうし た学習活動に取り組めるテーマや工夫を充実させ ており,これらは,現在高等学校で実践が試みら れているアクティブ・ラーニングにも大いに参考 になる取り組みであるため,今回,弊社中学校歴 史教科書(平成24年度用)より,その一端として 特設ページ「歴史に挑戦 日本の行方を問う本が 発刊される!」を紹介したい(実際はカラー掲載)。 16

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Page 1: 2 アクティブ・ラーニング授業実践例 中学校社会科の歴史教 …...特 集 2 中学校社会科の歴史教科書からみる 「アクティブ・ラーニング」

特 集

2中学校社会科の歴史教科書からみる

「アクティブ・ラーニング」

アクティブ・ラーニング授業実践例

日本史かわら版 第1号

導 入15分

①左ページの導入文と3人の意見を読んで,挑戦状の㋐を考え,予想を書き入れる。 その際,3人の吹き出しの中のどの言葉や表現を根拠として考えたか,根拠となる部分にアンダーラ インを入れさせる。(ペアやグループで意見交換させる)

展 開25分

②ワークシートのように,3人の主張に対して「○○主義」「○○論」のようなタイトルをそれぞれつけさ せる。グループやクラス討議をするとよい。③右ページの情報❶~❹を読み,それぞれの情報の中で,重要だと思うところに印をつけさせる。④情報❶~❹は,それぞれ3人うちの誰の主張の根拠となるか考え,ワークシートに記入する。 (複数回答可)⑤②~④の活動をもとにグループやクラスで意見交換・討議する。⑥挑戦状㋑への解答を各自ノートに書かせ,意見交換させる。

まとめ10分

⑦現代の自分が3人への手紙を書くとすると,誰に書くか。3人のうち一人を選んで,その人物への未 来からの手紙の原案を書かせる。そのさい,自分が挑戦状㋐の図の中のどこに位置するか明確にさせる。 例�「私は,アジアと平和を重視する立場です。この立場から考えて私はあなたに賛成です(反対です)。なぜなら…」���など

⑧⑦の活動をもとにペアやグループあるいはクラスで発表させる。

 現行学習指導要領における中学校社会科の基本方針は,①基礎的・基本的な知識,概念や技能の習得 ②言語活動の充実 ③社会参画,伝統と文化,宗教に関する学習の充実 の3つにまとめられる。これらの方針は,社会的事象に関する個々の知識の伝達・暗記に終始する社会科授業を克服し,知識基盤社会やグローバル社会の到来の中で,生徒たちがこれからの社会を支え,発展させていく上で必要となる知識・能力・態度を,授業を通していかに育成するかという問題意識から打ち出されてきたものである。 特に,②言語活動の充実は,生徒が社会的事象について主体的に追究し,思考・判断して得た見方・考え方を,言葉を介して説明したり論述したりして表現する学習活動を促している。歴史的分

• 歴史学習への興味・関心を高める。• 資料を関連づけて,過去のできごとを評価する。• 過去のできごとを当時の考え方と現代の考え方の二つの視点で考える力を身につける。• 歴史的推理を通して獲得した,近代日本の国際関係に関する知識を整理する。

この展開のねらい

関心・意欲・態度:自分の予想したことに情報をつけ加えたり修正しようとする。思考・判断・表現:過去の視点と現在の視点の二つの視点から自分の考えを述べる。   技能   :資料を読み,二つの視点で情報を整理する。知識  ・  理解:19世紀末の日本を取り巻く国際情勢を理解する。

評価規準の具体例

めやす�1時間教科書の展開と留意点

野においては,「学習する内容(知識)」と結んで,①歴史的事象に関する事実の正確な読み取りを基盤に事象間の関係を説明する,②事象間の関係を踏まえて歴史的事象の意味・意義や時代の特色を解釈する,③歴史的な論争問題・場面に対応する解決策を事実を根拠に選択・決定し,自分の意見として表現する学習活動として捉えられる。中学校歴史的分野の弊社の教科書においても,こうした学習活動に取り組めるテーマや工夫を充実させており,これらは,現在高等学校で実践が試みられているアクティブ・ラーニングにも大いに参考になる取り組みであるため,今回,弊社中学校歴史教科書(平成24年度用)より,その一端として特設ページ「歴史に挑戦 日本の行方を問う本が発刊される!」を紹介したい(実際はカラー掲載)。

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日本史かわら版 第1号17

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日本史かわら版 第1号 18

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日本史かわら版 第1号19

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日本史かわら版 第1号

• 紳士君と豪傑君の位置が難しい。紳士君の場合,「軍隊はなくすべき」の発言から「平和」の方向へ。豪傑君の「さっさと出かけて行って,その一部でもわが国のものにするべきだ」の発言から力重視の方向へと考えると上記のようになる。

• 吹き出しの発言と,解答との関連を説明できるかどうかが,評価のポイントとなる。

• 関心・意欲・態度:限られた情報から,その情報と関係づけて予想を立てようとしている。

• タイトルや情報番号,重要ポイントはさまざまな解答に分かれる。

• 技能:資料を読み,そこから複数の情報を見つけ出して整理しようとしている。

• どの考えを選択するにせよ,当時の考えによって判断したか,現在の考えから判断したかを明記しておく必要がある。それが明確であり,根拠との関係が適切であるものを評価する。情報②〜④を用いて具体的に述べることができた場合は,より高い評価となる。

• 思考・判断・表現:資料の中から情報を取り出し,判断しようとしている。

• 知識・理解:考察して得た結論を,この時代の歴史的な背景と関わらせて理解しようとしている。

 この「歴史に挑戦」は,中江兆民が1887(明治20)年に刊行した『三酔人経綸問答』をもとにしている。中江兆民が,ルソーの思想を日本に紹介し,自由民権運動の理論的指導者として「東洋のルソー」と呼ばれたことは情報①に述べられている。 兆民は,坂本龍馬と同じ土佐藩(高知県)出身である。当時でいう郷士の出身であるが,藩校文武館で学び,その才能をのばし,藩の留学生として長崎に行き,そこで龍馬とも出会っている。明治維新後,政府が欧米に派遣した岩倉使節団に加わりフランスへ渡った。 帰国後,塾を開いて,ルソーの社会契約論などを教えていたが,後藤象二郎の斡旋で,元老院調査掛などを務めた。『三酔人経綸問答』を執筆したのは,元老院を辞職し,自由党の旗揚げに加わるなど在野で自由民権運動に関わっていた時期である。本書が発行された1887年,兆民は,反政府運動家として同年公布の保安条例により東京を追われている。しかし,彼らの自由民権運動は,国会開設,議員選挙実現へと時代を動かした。1890(明治23)年の第1回衆議院議員総選挙で大阪4区から立候補し,第1位で当選した。その後立憲自由党結成に大きな働きをしたが,政府追従の帝国議会のあり方に不満をもち始め,議員を辞職する。その後は材木や鉄道事業など多くの産業に関わり起業した。 『三酔人経綸問答』は,政府と距離をおいていた時期の中江兆民ならではの世界分析が背景となって,紳士君・豪傑君・南海先生3人の対話形式で日本の未来を考えている。その後の歴史がどうなるか,3人の考えは,現在からみると,3人ともに現実的な方向性であった。その中から,当時の人々は,結果的に一つの選択をしていくのであるが,未来の私たちは,その後の歴史を知っているだけに,できることなら,兆民に手紙を出したいものである。

 • 中江兆民『三酔人経綸問答』(岩波文庫)• 木下順二・江藤文夫編『中江兆民の世界―『三酔

人経綸問答』を読む―』(筑摩書房)

1.挑戦状㋐の答え あ 南海先生 い 紳士君 う 豪傑君

2.⑶ 挑戦状㋑の答えの例 A…�文明開化のただなかにあるので,思い切っ

た先進改革ができる。(当時の立場) B…�日本は,朝鮮・中国とうまくいっていないので,

Bの立場でいくしかない。(当時の立場) C…�近隣諸国と仲良くするのは自国にとっても

有益だから。(現在の立場) D…�世界情勢の中で生き残るためには,欧米にあ

などられないように,産業を発展させ,経済的に成功するのがよい。(当時の立場)など

  ・�豪傑君へ…アジアとの関係は,侵略ではなく,貿易によって協力しながら,欧米に侵略されないように,国力を高めるべきです。

  ・�南海先生へ…アジアの国々と兄弟国になることに賛成します。しかし,権力の腐敗は植民地化につながると思うので,それをふまえれば,欧米には負けないでしょう。

3.3人への未来からの手紙(例)・�紳士君へ…軍隊を使うことはよいことでは

ない。でも当時,侵略に対して何の対策も取らないのは危険ではないでしょうか。

2.⑴ ⑵3人の主張の整理紳士君 共和主義

(日本共和政論) ① ヨーロッパ人には差別の考えや無礼な振る舞いがある。

豪傑君 帝国主義(欧米見習え論) ② 不平等条約改正を目指して,日本の欧米化が進んだ。

南海先生アジア主義(アジア助け合い論)④日本と朝鮮の改革派が手を結んだ。

ワークシートへの反応と評価

歴史的見解

参考資料

写真提供(p.17~18):国立国会図書館(ウェブサイトより)、ユニフォトプレス/イラスト(p.17〜18):バージョン 20