2015-2017 年度 nhk 技研 3か年計画を策定 · 2015-08-03 · 815 125 技研だより...

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15 8 1 25 あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1 技研だより 第125号 2015/8 3つの重点項目 2015-2017 年度 NHK 技研 3 か年計画を策定 この3か年、技研は直近の 「インターネット活用技術」と「8Kスーパーハイビジョン」、そして将来の 「立 体テレビ」 の3つの重点項目を軸にして、「高度番組制作技術」と「人にやさしい放送」 の2つの研究項 目で全体を支えながら、放送技術とサービスをより高品質で高機能なものへ成熟させていきます。 8Kスーパーハイビジョン」 8K本来の画素数に加えて、広色域や高ダイナミックレンジ、フレーム周波数120Hzの性能を備えたフル スペック8Kの実現に向けて、番組制作、符号化・多重・伝送、表示と音響再生など各種技術の研究開発を 進めます。 「立体テレビ」 インテグラル立体映像を高品質化する技術と立体映像の品質を評価する技術の開発、さらに将来のホロ グラフィーによる立体表示や立体映像の撮影に向けた新しいデバイスの研究開発を進めます。 「インターネット活用技術」 多様化する社会のニーズや視聴者の生活環境に対応した、より身近で信頼できる“公共メディア”の実現に 向けて、放送にインターネットを活用するための研究開発を進めます。 *1 http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/plan/ *2 NHK技研3か年計画は、技研ホームページで公開しています。http://www.nhk.or.jp/strl/ NHKは、メディア環境や国際環境などの変化に対応し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで 世界最高水準の放送・サービスを実現することをめざして、2015年度からの3か年を第一ステップとした、 新たな 「NHK経営計画 2015-2017年度」 *1 を公表しました。 技研でも、この経営計画を着実に実現するため、 2020年はもとより、今から20年後を想定した 「2015- 2017年度 NHK技研3か年計画」 *2 を取りまとめました。

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Page 1: 2015-2017 年度 NHK 技研 3か年計画を策定 · 2015-08-03 · 815 125 技研だより 第125号 2015/8 あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1 3つの重点項目

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あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1技研だより 第125号 2015/8

3 つの重 点 項目

2015-2017年度 NHK技研 3か年計画を策定

Topics

 この3か年、技研は直近の「インターネット活用技術」と「8Kスーパーハイビジョン」、そして将来の「立体テレビ」の3つの重点項目を軸にして、「高度番組制作技術」と「人にやさしい放送」の2つの研究項目で全体を支えながら、放送技術とサービスをより高品質で高機能なものへ成熟させていきます。「8Kスーパーハイビジョン」 8K本来の画素数に加えて、広色域や高ダイナミックレンジ、フレーム周波数120Hzの性能を備えたフルスペック8Kの実現に向けて、番組制作、符号化・多重・伝送、表示と音響再生など各種技術の研究開発を進めます。「立体テレビ」 インテグラル立体映像を高品質化する技術と立体映像の品質を評価する技術の開発、さらに将来のホログラフィーによる立体表示や立体映像の撮影に向けた新しいデバイスの研究開発を進めます。「インターネット活用技術」 多様化する社会のニーズや視聴者の生活環境に対応した、より身近で信頼できる“公共メディア”の実現に向けて、放送にインターネットを活用するための研究開発を進めます。*1 http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/plan/

*2 NHK技研3か年計画は、技研ホームページで公開しています。http://www.nhk.or.jp/strl/

 NHKは、メディア環境や国際環境などの変化に対応し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで世界最高水準の放送・サービスを実現することをめざして、2015年度からの3か年を第一ステップとした、新たな「NHK経営計画 2015-2017年度」*1を公表しました。 技研でも、この経営計画を着実に実現するため、2020年はもとより、今から20年後を想定した「2015-2017年度 NHK技研3か年計画」*2を取りまとめました。

Page 2: 2015-2017 年度 NHK 技研 3か年計画を策定 · 2015-08-03 · 815 125 技研だより 第125号 2015/8 あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1 3つの重点項目

2 技研だより 第125号 2015/8

EBU技術総会 2015で高ダイナミックレンジ映像をPR

Topics

 6月11日と12日の2日間、EBU(欧州放送連合)の技術総会がポーランド・クラクフで開催され、欧州の主要な放送事業者の技術幹部が一堂に会した場で、NHKは、BBC(英国放送協会)と共同提案している高ダイナミックレンジ(HDR)映像方式の講演・展示を行いました。 これまでのテレビ映像では、スポーツ競技場のひなたや日陰のような大きな明暗差を含むシーンの再現が困難でした。HDRは、こうした課題を解決し、ハイライト部分を再現・強調した映像表現を可能にする技術です。講演では、8Kスーパーハイビジョンの映像技術の特徴である画素数、広色域表色系、フレーム周波数に、さらにHDRを加えることによって、視聴者の映像体験の一層の向上を図ることを説明しました。提案方式によるHDR映像と従来の映像との比較展示では、映像の質感や光沢感の向上効果などについて技術的な意見・質問を数多くいただき、HDR映像方式の理解促進を図ることができました。 今後も8Kスーパーハイビジョンの試験放送開始に向けて、HDR映像方式の国際標準化やHDR対応機器の研究開発を進めます。

展示の様子講演の様子

海外派遣報告 カナダ・カルガリー大学

 2014年12月から1年間の予定で、カナダ・アルバータ州にあるカルガリー大学のレイハネー・サファヴィ・ナイニ教授の研究室に訪問研究員として滞在しています。世界的に著名な暗号理論研究者のもと、クラウド*・セキュリティーやネットワーク・セキュリティーなど、安全なインターネットサービスを実現する最先端のセキュリティー技術の研究に取り組んでいます。 ハイブリッドキャストをはじめとする放送通信連携サービスのさらなる高度化には、放送局以外の事業者による多様なサービスや個人の好みに応じたきめ細かなサービスを安全に利用できる仕組みが必要です。そこで、視聴履歴などの個人データを保護するために暗号化したままクラウド上で管理するとともに、事業者の属性に基づいて視聴者が信頼できる事業者のみ個人データを復号できる「属性ベース暗号」の研究を行っています。 現在、計算能力の低い受信機でも属性ベース暗号の複雑なアルゴリズムを処理できるように、クラウドサーバーと連携して暗号化・復号処理を効率的に行う方式を開発しています。将来、この研究成果を応用することで、放送番組に関連した個人向けサービスを安心して受信できる放送通信連携サービスを実現します。

* クラウド:ソフトウェアやデータをネットワーク経由で管理し、提供する技術・サービス。

ハイブリッド放送システム研究部 大竹 剛

Topics

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 技研では、将来の放送サービスに向けて、インテグラル(IP)立体テレビの研究開発を進めています。IP立体は、特殊なメガネをかけずに、見る位置に応じた自然な立体映像を楽しむことができる特徴があります。

IP立体の高画質化へ取り組み IP立体の表示装置として、技研では多数の微小な光学レンズ(要素レンズ)が並んだレンズアレーを用いた方式を開発しています。この方式では、表示面上に形成された要素画像の各画素からの光が要素レンズの中心に向かって出射されます。その結果、さまざまな方向に発した光線群が再現され、立体像が再生されます(図1(a))。 高い解像度で高画質な立体映像を表示するためには、視域と解像度が重要なパラメーターとしてあげられます。この高品質化には、要素レンズの取り込み角の拡大とレンズ間隔の微細化が必要になります。例えば、高密度のレンズアレーを用いて要素画像の取り込み角を大きくしてレンズアレーの性能を向上すれば、視域が増大するとともに解像度も向上し立体像の高品質化が図れます(図1(b))。

光偏向型素子の研究開発 このように、IP立体表示の視域・解像度などの立体の品質として重要な特性は、レンズアレーの性能により制限されるとも言えます。この問題を解決するには、レンズアレーを用いない新しい表示方式の開発が鍵となります。そこで技研では、新しい技術として画素からの光の進行方向と形状を高速に制御できる「光偏向素子」の開発を進めています(図2)。この素子を実現できれば、レンズアレーの制約無しに広視域で高解像度のIP立体像の表示が可能になると考えられます。現在、外部電圧で屈折率が高速に変化する電気光学材料を用いた光偏向素子のシミュレーションによる設計・基本動作解析と、基本デバイスの試作を行っています。 今後は、高画質のIP立体テレビの実現を目指して、さらに研究開発を進めて行きます。

レンズ不要なインテグラル立体テレビの実現に向けた光偏向型表示素子

立体映像研究部  田中 克

技研だより 第125号 2015/8

観察者

狭視域角

レンズアレー再生像

(低解像度)

要素画像(反転像)

表示面

図 1(a):レンズアレーを用いた IP立体ディスプレー

図 2: 光偏向型素子による光線制御

高密度レンズアレー

観察者要素画像(反転像)

表示面

広視域角

再生像(高解像度)

(b):高密度レンズアレーを用いた IP立体ディスプレー

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技研だより 2015.8 第 125号NHK放送技術研究所〒157-8510 東京都世田谷区砧 1-10-11 Tel: 03-3465-1111(NHK代表) Fax: 03-5494-3125 ホームページ: http://www.nhk.or.jp/strl/

技研だより 第125号 2015/8

 ハイブリッドキャストのさらなる進化に向けて、技研では、インターネット経由で受信したコンテンツを放送番組の時刻に同期して提示する技術の研究を進めています。今回は、テレビの放送映像とタブレット端末などのセカンドスクリーン上のネット映像の同期技術について紹介します。映像同期技術の概要 同期技術を用いたサービス例には、スポーツ中継などで放送とは別アングルのカメラ映像を提供し、視聴者が切り替えて楽しむことができるマルチビューがあります。ネット経由で放送と関連したマルチビューを提供する場合、配信経路の違いによる再生映像の時間的なずれ(遅延)が生じることが課題でした。 そこで、放送番組の映像データに含まれる放送局の基準時刻情報(基準クロック)を利用して、放送とネット映像を高精度に同期させる技術を開発しました(図)。ネット映像配信サーバーが放送局から受信した基準クロックをもとにネット映像に時刻情報(タイムスタンプ)を付加し、放送番組とネット映像の時刻情報をそろえて配信します。受信側では、放送とネット映像のクロック値を比較することで時間差がわかるので、早く届いている方をその差分だけ待たせること(バッファリング)で同期します。ハイブリッドキャスト技術仕様に対応する検証システムの開発 ハイブリッドキャスト技術仕様を定めた(一社)IPTVフォーラム*の標準規格「放送通信連携システム仕様2.0版」には放送とネットコンテンツの同期に関するシステムモデルがあり、基準クロックをHTML5で取得する機能(放送通信同期API)も規定されています。今回初めて、この機能を実装した受信機を試作し、放送とネット映像の同期を検証するシステムを開発しました。タブレットにはバッファリング機能を組み込んだ同期プレイヤーを実装し、ハイブリッドキャストの端末連携の仕組みを用いてテレビからタブレット端末に放送の基準クロックを伝える仕組みとしました。以上の検証システムにより、放送とネット映像の高精度な同期が実現できることを確認しました。このシステムは技研公開2015で展示し、一般の方にもサービスイメージを伝えることができました。 今後も通信技術を活用して、より高度なサービスを実現するため、研究を進めていきます。

*IPTVフォーラム:NHKや民放、テレビメーカー、通信事業者などが参加する、インターネットを利用したテレビサービスに関する国内の標準化団体

第4回 テレビとセカンドスクリーンの高精度な映像同期技術ハイブリッド放送システム研究部 大西 正芳

連載 ハイブリッドキャストの進化を支える技術(全 4 回)NHKは新しい放送通信連携サービス“NHK Hybridcast”を2013年9月に開始しました。技研では、さらに便利で多様なサービスの実現に必要な技術の研究開発を進めています。この連載では、ハイブリッドキャストの進化を支える要素技術について紹介します。

図:テレビとセカンドスクリーンの高精度な映像同期技術の概要