2(1802) · 2019. 10. 27. · 享和2(1802)年村内に疫病蔓延し...
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山梨県立博物館ホームページよりhttp://www.museum.pref.yamanashi.jp/
3nd_tenjiannai_16tokubetsu002.html
歌川芳艶(1822-66)作「開運麻疹疫病神除之伝」
食品衛生微生物のリスコミのあり方
消費者のリスクリテラシー向上をどう支援?
『微生物も一所懸命に生きている。もし貴方がO157だったら?』
一色 賢司(食品分析セ・学術顧問、
北大・名誉教授)
筑前国戸畑村祇園祭由来
享和2(1802)年村内に疫病蔓延し非常に苦しみたるを以って、有志相はかり、御祭神須賀大神に疫病退散、平癒大祈願を執行・・・大神の大み恵によって、ようや
く終息せり、もって翌年(1803年)7月にこれを祝い山笠を作り・・・
昼ー幟山笠
夜ー提灯山笠
1803年開始戸畑祇園祭 筑前国戸畑村(現:福岡県北九州市戸畑区) 黎明期の細菌学に関する年表
1870年 ルイ・パスツールとロベルト・コッホが病気の病原菌説を確立 (明治維新は1868年、151年前)
1881年 パスツールが、炭疽ワクチンを開発1882年 パスツールが、狂犬病ワクチンを開発
コッホが、結核菌を発見1885年 テオドール・エシェリヒが大腸菌を分離1890年 北里柴三郎とエミール・ベーリングが抗毒素を発見
破傷風とジフテリアのワクチンを開発
1897年 志賀潔が赤痢菌を発見
発行予定の紙幣案:肖像は北里柴三郎
生命の起源解明に期待
「はやぶさ2」2019年2月22日産経新聞
地球はどのようににして命を育む星になり、われわれ人類が生きているのか。
生命の起源の仮説は?①地球の海が揺りかごとなって発生した②宇宙から地球にやってきた
仮説②
はやぶさ2が採取した小惑星リュウグウの物質を詳しく調べることで、この根源的な謎を解くヒントが得られると期待されている。 図 生物のマクロ進化、3ドメイン説
共通の祖先
植物界
動物界
菌界
原生生物界
真正細菌ドメイン
古細菌ドメイン
真核生物ドメイン
原核生物界
原核生物界
約12~6億年前約35~28億年前
約40~38億年前誕生
(核膜なし)(核膜なし) (核膜あり) ヒト
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図 細胞共生説:原核細胞は核を膜で包み真核細胞へ、その後ミトコンドリアや葉緑体を得た
受け入れ先となった祖先細胞 現代の細胞
好気性細菌 シアノバクテリア ミトコンドリア 葉緑体
多くの世代交代を経て
(光合成)(酸素呼吸)
• 最も小さいウイルス38nm
• 核酸(+RNA)と蛋白
• 細胞寄生性自己増殖能を持たない
人の小腸上皮細胞で増殖
・食品中で増殖はしない・刻みノリ(乾燥)では2か月後に大きな食中毒・冷凍・冷蔵では、さらに長く感染力を保持
ノロウイルス
細菌の増殖と菌数(栄養素、水分、温度等の条件が整った場合)
経過時間
世代時間 0 1時間 2時間 3時間 4時間 5時間 6時間
10分間* 1 64 4000 25万 700万 10億 690億
20分間** 1 8 64 500 4000 3万 25万
**サルモネラSEなど
*腸炎ビブリオなど
細菌の分裂増殖の模式図
微生物の突然変異
□微生物は高等生物より、様々な原因で遺伝情報伝達に変動が起きやすい。
□異なる種の微生物間で遺伝情報が伝達されたり、ウイルスが細菌に付着して新たな遺伝子を持ち込んだりすることもある。
□ヒトに対する病原性を獲得したり、さらに増強される場合もある。
□抗生物質等に対する抵抗力を持つ耐性菌となる場合もある。
NHK大逆転!奇跡の人類史NHK出版(2018)
・食料供給仮説(家族のために)〇他の仮説・警戒するため・敵を威嚇・道具を運ぶ・エネルギー節約,他
なぜ二足歩行に? ご先祖は、飢餓にも、病気にも、怪我にも耐えてきた。・・・・自分が、食べられてしまう恐怖もあった。
100万年前(狩猟採集) 火食が始まっても生食は残った!コレラ,チフスなど細菌性疾患、出血熱、水痘、狂犬病などのウイルス病、マラリア、フィラリアなど
1万年前(農耕開始・原始的な村)腸管感染症、呼吸器系感染症、麻疹、天然痘、風疹など
5500年前(灌漑農耕開始・少数の10万都市成立)都市ではヒトからヒトに感染する各種疾病の流行ペストで人口の1/3は死亡
260年前(産業革命)感染症の流行。都市では麻疹,風疹,天然痘
現在(衛生・公衆衛生対策)諸行無常。変化は続く!
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火食
生食
赤痢菌
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病原体のヒトへの感染経路
口から侵入
食品や手指など
接触感染病原体に汚染された
水、食品
空気感染
飛沫感染
咳やくしゃみの飛沫
空気中に浮遊飛沫核
水分が蒸発
動物
1~2m
昆虫汚物
人体に有利な免疫反応と不利な免疫反応
有利な免疫反応 不利な免疫反応
○病原体の排除・破壊○感染に対する防御・予防○ガンに対する免疫反応
×通常物質に対する反応(例)花粉,ハウスダスト等によるアレルギー反応
×有用物質・有用機能への攻撃(例)食物アレルギー,移植拒絶
×自己成分への攻撃(例)自己免疫疾患
ヒトの感受性要因
内部要因 外部要因体質 温熱寒冷体調 湿乾年齢 食物
性(妊娠) 大気・水代謝 薬剤その他 化粧品
放射線微生物ストレスその他
食中毒の発症に影響する食べる人と環境の要因
細菌性食中毒の型別
O157など
・病原体対策には消費者の自覚と自律が必要である。家庭内外の食育や学校教育は,食生活に役立っているのであろうか。
・カイワレ大根騒動では生食は嫌われ、リンゴも湯通しされたが、やがてユッケや浅漬けの食中毒が起きた。・消費者に、O157などになってサバイバルを考えて貰ってはいかがであろうか。・孫氏は2500年も前に、「彼も知らず、己も知らずでは」と言っている。 ウイルス
1/約1千万~1億細菌
1/約1百万ヒトの大きさを1とすると
・彼を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず。・彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。・彼も知らず、己も知らざれば、戦うごとに必ず殆うし。
病原体対策は、「孫子の教えも大事に」
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もし貴方がO157だったら、たどり着いた場所で一所(生)懸命に生きようとしませんか?
O157
絶対に滑らない靴がないように、大腸を持たない人間はいない。
子供の時から、O157等に注意する良い習慣をつける。
人間の大腸はO157には絶好の増殖の場
微量感染病原体への備え「彼を知り、己を知れば」
食と栄養の大百科、ニュートンプレス(2019)
微生物代謝産物、死骸等を栄養源とする増殖
藻類・植物
一次生産者
草食動物一次消費者
肉食動物
二次消費者
三次消費者
肉食動物捕食
捕食
捕食捕食
フードチェーン:生物間の捕食・被食のつながり(黒矢印は被食を示す)
捕食
捕食
捕食
人間は、微生物がいなくても生きて行けるの?
象、死後1日後 6日後 20日後231日後
大園の資料より
分類 種類 代表例
内因性有毒成分 ジャガイモ毒素、他
生理作用成分消化酵素阻害物質、他
外因性微生物 O157、ノロウイルス、他寄生虫 回虫、アニサキス、他汚染物 ダイオキシン、水銀、他
誘起性物理化学的 酸化油、ニトロソアミン他
食性病害(栄養不良を除く)とは?
①何でも食べ過ぎれば体に悪い。②毒か、否かは量で決まる。③ある人の食べ物は、他人の毒。④空腹は最高の調味料。
注意事項:
食性病害と関係するその他の被害は?
食性病害
食中毒苦 情
有症 無症
食物アレルギー
医師が衛生当局に報告して調査が始まる。
(寄生虫)
虫
嚥下障害
品質要素
検査をすれば大丈夫だろう?
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食品産業の特徴
食品産業 機械装置産業
原材料の均一性
・品質、サイズ等のバラつき大きい
・JIS規格等で一定以上
工程での変質
・常に鮮度等低下・腐敗、変敗、汚染
・少ない~皆無
工程での不良率
・大きい/バラつく・ヒトが大きく関与
・低い~ほほ一定・製造装置で制御
製品の均一性
・低い~ゼロ・抜き取り試験の有効性は低い
・ほぼ均一・サンプル試験/全品検査
(高鳥の表を改変)
原材料は生物。食べる人も生物。O157などの病原体も生物。
・消費者もフードチェーン全体の理解が必要。
・不安があれば、現場を見て,説明を受けるべきである。
・微量でも発症させる病原体や食物アレルギーへの対策には、国民全員の協力が必要。
・食物アレルギーや有症苦情、嚥下事故等は食中毒統計には含まれない。
・食性病害対策としてフードチェーン全体の協力態勢を維持すべきである。
・高齢化等で感受性の高い国民の割合が増えている。
では,どうするの?
リスク評価 リスク管理
リスクコミュニケーション(リスクに関する情報・意見の交換)
(科学ベース) (政策ベース)①リスク分析
②一次生産から消費までのフードチェーン対策
安全な食品の安定調達には、①リスク分析と②フードチェーンアプローチの両立が必要です ポテトは悪魔の食べ物?
リスクコニュミケーション(Codex):
リスク分析の全過程において、リスク管理機関、リスク評価機関、消費者、生産者、事業者、流通、小売等の関係者がそれぞれの立場から相互に情報や意見を交換すること
・リスコミの定義として、Codexの定義を,頑なに
用いることが原因の一つと思われる。この定義が,他人事として,国民の興味・関心を下げている?・この定義は,Codexの組織維持のためのものと捉えるべきではないか?
・親が子供らと食べ物の話しをすることは,リスコミではないのか?
・小売業や外食産業が利益優先で理性を失うと、フードチェーンに無理や無駄が生じ易い。食品ロス問題もその1例ではないだろうか?・ガンジー「道徳なき商業」への指摘に?
食品安全におけるフードチェーンアプローチ
原材料 原材料 食料品 食品
嘘をつかずに、正直に生きる
(HACCP? )+ HACCP + (HACCP?) + (HACCP?)
農場
漁場
工場
流通
消費
食性病害の未然防止
問題点
? ? ?
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食品安全は農場から→消費地
一次生産者
集荷業者 前処理業者
中食製造業者
外食産業
消費者
前処理業者
単品製造業者
中食製造業者
スーパー・コンビニ
農場・漁場 食品産業 消費
(国内・国外)
全 員 参 加
産地
→食卓への“愛”をこめたバトンタッチ
分業と食品安全→ ・名もない庶民の生活実感が大切であり、食育との関係も見直されるべきである。
・心配だったら聞きに行く、見に行くことを奨励すべきである。
・「百聞は一見にしかず」と言われるように,信頼して欲しければ、積極的に現場を見せて話をするべきである。
・透明性と説明責任が,フードチェーンの健全さを維持する。
・食品ロスの解消も,百聞より一見から始めてはいかがであろうか。
安全に食べるための5つの鍵
国立保健医療科学院
WHO
世界保健機関
5℃
5 Keys USA
怖い食性病害細菌のランキングは?表 国際食品微生物規格委員会 による懸念微生物カテゴリー
懸念程度 例
深刻 一般集団:E. coli O157, C. botulinum 感受性集団*:Salmonella, Cronobacter spp.,
L. monocytogenes
重大 Salmonella
普通 S. aureus, B. cereus, C. perfringens,V. parahaemolyticus
間接的(指標菌)
生菌数,酵母・カビ、Enterobacteriaceae、大腸菌、大腸菌群 日本の悪習
*感受性集団 :ハイリスクグループとも呼ばれる。乳幼児,妊産婦,高齢者,免疫不全などの疾病罹患者,
腸管出血性大腸菌感染症累積報告状況<都道府県別>2018年分報告総数3,844件
報告数(都道府県数)
食中毒統計による報告件数24件,患者数142名
⁼
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1. 目的
2. 範囲、使用および定義
3. 一次生産
4. 施設:設計・設備の要件
5. 食品の取扱い管理
6. 施設:保守と衛生管理
7. ヒトの衛生管理
8. 食品の搬送
9. 製品の情報および消費者の意識
10. 食品取扱者の教育・訓練
図 Codex食品衛生の一般原則*
付属書:HACCPシステムとその適用のためのガイドライン
8要件
農場・漁場
調理・消費
流通・保存
加工
国際的に通用する食品の微生物対策の基礎は? 病原体の①効果的な殺菌工程(kill step)がある食品と②ない食品のリスク管理
①加熱食品 下処理 調整 加熱CCP
冷却包装
下処理 調整 冷却包装
原材料等受入
製品出荷
仕上げ②非加熱食品、生鮮、刺身、サラダ等
全工程で一般衛生管理
一般衛生管理+HACCP
金属探知機やX線検査器は、病原体を制御できない
加熱後の二次汚染に注意!
HACCPの手
続きを踏んでいれば、CCPがないHACCP
農場 食卓
農家→農協・農業生産法人など↓ ↓卸売業者
↓仲卸業者
↓漬物業者(浅漬け製造)
浅漬け(白菜きりづけ)↓ ↓ ↓ ↓
給食受託業者 スーパー ホテル 飲食店↓
高齢者施設
消費者(発症者169名、死者8名)
食中毒の原因となった浅漬け商品の流通経路
全ての流通経路の商品
→
患者発生
2012年8月,O157食中毒発生
・大量生産では,多くの消費者に迷惑を及ぼす可能性があります。添加物の利用を含めた対策が必要です。・昔は、野菜を積極的に生食してはいません。・栽培には人糞等も用いられていました。・生食は、化学肥料が普及してからです。・冷蔵庫の普及も1970年以降です。・漬物は先祖が開発した保存食ですが、浅漬けは大型の食中毒を起こしています。・国民が、O157 のように微量感染を起こす病原体がいることを忘れないことが必要です。
浅漬けは生もの→当たる(中毒)ことがある
岩見沢における学校給食食中毒・2011年2月9日から発症・給食共同調理施設が調理・小・中学校9校の児童生徒及び教職員
1,375名が、下痢、腹痛、発熱等。・原因食品:ブロッコリーサラダ・病因物質:サルモネラ・エンテリティディス(SE)(有症者便、保存食、回転釜の一部から検出)
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札幌市の学校給食が原因となったヒスタミン食中毒の概要
輸 入 業 者
全 国卸売業者
札幌市内及び近郊
595ケース
52施設
納入業者
加工業者
1小学校279名発症
インドネシア
95ケース
20ケース(569kg)75ケース
24kg378kg
キハダマグロ690ケース(20トン)
(東京都)
(石狩市)
(札幌市)
(札幌市)
1小学校以外健康被害なし19.976Kg(99.8%)
南ア:史上最悪リステリア食中毒、死者193名
致死率28%Food Safety News、 Apr. 7、 2018
原因食品:Ready To Eat 食肉製品
(4月13日現在)
年 月、 最終報告:患者 、 名、死者 名
わが国では、ほとんど報道されなかった。
1.理念的内容
2.技術的内容
3.人間的内容
4.組織的内容
5.各分野の内容
6.安全関連分野防犯、保険、裁判等
次世代の生活に貢献
(向殿の図を改変)
安全哲学、安全思想、安全文化、安全の定義、安全目標、安全の構造、安全の責任 等
本質安全設計、フェールセーフ、信頼性、冗長性、機能安全、診断、保全等
ヒューマンエラー、誤使用、インターフェース、人間工学、安全意識、認知、訓棟・教育、技術者倫理等
標準化、法律、規制、認証・認定、事故調査、マネジメント、危機管理等
(向殿の図を改変)
機械安全、交通安全、情報安全、原子力安全、食品安全・食品衛生、製品安全、電気安全、医療安全、システム安全、労働安全、ロボット安全等
他分野から学ぶことも多く、食品衛生分野の知恵も、皆で共有して役立てる。
諸行無常
人間はこれからも微生物と共に生きる
・フードチェーンの分業化が進み、生物としての人間と生物としての微生物の関係が理解し難くなっている。
・BSE、 O157、 GMO、放射性物質対策などが必要となり、科学的根拠が尊重されるようになった。
・一方で、対岸の火事と捉える国民も多いままである。・会議室を出て、何をすべきかを考えるリスコミも必要。・特に、微量感染微生物対策は、国民全員で!・食物アレルギー対策も。
・諸行無常であり、食料調達の見通しは明るくはない
ご清聴いただき,ありがとうございました。
まとめ『微生物も一所懸命に生きているーもし貴方がO157だったら?』