平成25年度アーチル発達障害基礎講座 「発達障がい児者支援の今後につい...

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平成25年度アーチル発達障害基礎講座 「発達障がい児者支援の今後について」 ~新たな視点と支援の方向性~ 小児科医 公弥

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平成25年度アーチル発達障害基礎講座

「発達障がい児者支援の今後について」

~新たな視点と支援の方向性~

小児科医

今 公弥

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本日の流れ

• アーチル療育セミナー(平成25年2月11日:「発達障害児者支援の最前線~発達障害概

念の広がりと支援のあり方を考える~」)のふりかえり

• 障がいについての再考

• 新しい診断基準から考える

• 支援の基本姿勢について(対応と予防)

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自律スキルと社会スキル(本田先生)

1. 自律スキル

• 自己肯定感を持つ

• 自分の限界を知る

2. 社会スキル

• ルールを守る

• 他者に相談できる

どのような方略と工夫で身に着けさせるか

発達特性を知りわかりやすくする工夫とやりたくなる工夫を具体的に

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多数派を忘れない(岡田先生)

• 90%の生活を無視しては支援できない

• 小学校低学年児童への出前講座(障害の理解というよりは多様性教育)

• 共催セミナーの開催(他人の会合に参加させていただく→わかっていただく姿勢)

• 戦略的な講師派遣や協力(味方を増やすことで支援の輪が広がる)

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発達障がい特性を持つことはいろいろな障害のハイリスク

• 二次障害(本人の特性に対する周囲の無理解・無配慮)

• 反応性精神障害(変化に弱く、不安を持ちやすく、誤解しやすい。慢性的にストレスの多い環境におかれやすい)

大人の精神医学・臨床心理学の知識が必要

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次の10年に向けて(アーチルに必要なこと)

1. 成人相談の方向性の確立(手厚い支援を提供し続けることはできない→年金と同じ構造)

2. 強度行動障害への対応(充実と同時に予防的方策を)

3. 直接支援と間接支援の調整(できることとそうでないことを明確にし、連続性を持って次につなげる)

4. 生活障害の予防方略を明確に(障がいにのみ目を向けず、多様な感覚・スキルを持てる人育てを、母子保健・教育との連動:レベル0の支援)

5. 医療や他機関との連携→(レベルⅢの支援)もっと上手になろう

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障がいをどう考えるか

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障害概念の変化

ICIDH(国際障害分類)

疾病

機能・形態の障害

能力障害

社会的不利

ICF(国際生活機能分類)

心身機能・構造

活動

参加

環境因子

個人因子

健康状態

1980年 2001年8

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機能障害を改善すれば障害は克服できるのか?

発達的視点を持った支援が不可欠

状況は、周囲との関係の中で変化する

自身の行動が周囲に影響を与え、周囲の行動が自身へ影響を与えるという相互関係が大切

生活の障害を少なくする

言葉のかけ方一つで人の反応は異なる

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発達特性+生活の障害=発達障害

発達凸凹+適応障害=発達障害(杉山)

発達上のくせがなかなか理解されず、適切な援助や練習の工夫がうまくなされないことで、社会生活上の困難が、本人とその周囲におきている状態

単なる「早期発見」 というよりは、子育て支援を充実させ予防策の取られる中で「適正発見」するほうが望ましい(発見できなくても対応できるスキルの獲得)

ASWD(本田)を増やすことで成人相談件数の減少が期待される

AS(D)を増やすスキルを見つけ、ひろめよう(今)

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新しい診断基準から考える診断基準は変化する

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新しい診断基準(DSM‐5)‐神経発達障害‐

1. 知的機能障害(ID)

2. コミュニケーション障害(CD)

3. 自閉症スペクトラム障害(ASD)

4. 注意欠如/多動性障害(ADHD)

5. 特異的学習障害(SLD)

6. 運動障害(MD)

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自閉症スペクトラム障害

(ASD)注意欠如/多動性障害

(AD/HD)

特異的学習障害

(SLD)

知的機能障害(ID)

運動障害(MD)

神経発達障害

新しい診断基準から見る発達障害

DSM‐5より改変

コミュニケーション障害(CD)

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新診断基準(DSM‐5)によりかわったところ

• 精神遅滞(MR)から知的機能障害へ(ID:disorderからdisabilityへの意

識変化)

• 広汎性発達障害(PDD)から自閉症スペクトラム障害(ASD)へ

• ASDの特性を社会的コミュニケーション・相互関係とこだわり・パターン

的行動の二つの特徴でとらえた(三つ組から二つ組へ)

• 自閉症・アスペルガーなどの名前が消えた

• 社会的要求が高度になるまで特性がはっきりしないこともあることが

明記される

• 社会的コミュニケーション障害(SCD)という名前が登場

• 機能障害の程度が重視された

• ADHDの発症年齢7歳から12歳へ(大人のADHDをより意識した)

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支援の基本姿勢生活の障害への対応と予防

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• 特徴の把握を正確に → はっきりしたものほどわかりやすい

• あいまいなときは?→表面に出ている行動特徴への対応から

• 目標・手段が具体的であれば評価しやすい・協力しやすい

• のびしろと限界の見極めも大切

• 保護者・支援者自身の特徴の理解も必要

1. 特徴の理解(本人・周囲・保護者・支援者)

2. 具体的目標の設定

3. 具体的手段の共有

4. 達成より接近(計画はボトムアップ、評価はトップダウン)

5. 持続性・継続性

特徴の理解と対応への一助

生活の障害を少なくする支援に必要なこと

医療にできること

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具体的な支援のイメージ

問題点

解決目標

現状

具体的方法

1. 支援者の行動2. 保護者の行動3. 本人の行動

成果の判定

努力の評価

計画はボトムアップ

評価は限界を見ながらトップダウン

目的は意欲の継続

変更

内的リソース外的リソース

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具体例で考えてみよう

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事例1 70歳女

主訴:特に困っていない

状態:子どもの介護をしているが、人の話を聞くことができない。他人との話の内容ではなく、今自分が考えていることを話してしまう。

内容を噛み砕いて話しをすると、その時はわかるが、翌日は「聞いていないという」

台所仕事も一つのことだけを行い、段取りを付けられない(同時に幾つもの仕事はできない)。

自分の主張を曲げない

後片付けが苦手

冷蔵庫の物が腐っても捨てられない

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• 特徴の把握を正確に → はっきりしたものほどわかりやすい

• あいまいなときは?→表面に出ている行動特徴への対応から

• 目標・手段が具体的であれば評価しやすい・協力しやすい

• のびしろと限界の見極めも大切

• 保護者・支援者自身の特徴の理解も必要

1. 特徴の理解(本人・周囲・保護者・支援者)

2. 具体的目標の設定

3. 具体的手段の共有

4. 達成より接近(計画はボトムアップ、評価はトップダウン)

5. 持続性・継続性

特徴の理解と対応への一助

生活の障害を少なくする支援に必要なこと

医療にできること

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本人の特徴

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問題点:話を聞かない。覚えていない

解決目標:やり取りの出来る会話

現状

具体的方法

1. 支援者の行動:書面にしよう2. 本人の行動 :とりあえず書こう

成果の判定

努力の評価

書こうとしたら評価できる

内的リソース:噛み砕くとわかる外的リソース:探そう

当座の目標①書いて渡す②自分で書く

噛み砕いて話しをする

書いたものは、残るはず

計画

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普通のひとと違うの?

• 目の前にいるのは「ひと」ではなく、○○くんであり、△△さんである

• ○○くんには、彼なりの感じ方やわかりやすさがある

• △△さんには、彼女なりの得手・不得手がある

• 私たちの願いは、誰もが同じやり方で同じことができるようになることではなく、さまざまのやり方でよいから、生活がしやすくなる力を得ることではないだろうか?

違ってもいいかなと思える支援

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予防的かかわりの重要性

• 10%はまれなケースではない

• 発達特性+生活の障害=発達障がい

• 子どもの時の特徴はおとなになっても残る事が多い

• 生活の障害を予防するという発想

• 多様な発達特性を容認し、その人たちとコミュニケーションをとれるスキルを持つ人間の育成→妊婦からの子育て教育・学齢期からの多様性・子育て教育→結局は二次障害予防・マルトリートメント予防につながる→母子保健・教育との協働

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多数派

常識

少数派

(非)常識?

①少数派の特徴を知る

②分かりやすい伝え方を知る

③相手を尊重する練習を①多数派の特徴(常識)を知る

②相手にあわせる練習を

③本当の自分を出せるところを確保

少数派と多数派

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発達障害の治療について

発達障害の一つの側面として、医療的アプローチもわすれてはいけない

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ほとんどの発達障がいは

本質的な病態が解明されていないので、

根本的治療は困難であると考えてほしい

同時に基礎疾患がある発達障がいも忘れないてんかんを持つ知的障害が次第に自閉症としか言えない状態に進展することもある一方で治療できる病態もある

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望ましい支援のイメージ

他者からの支援

ほどほどの生活レベ

ル本人自身の行動

必要な支

援を要求で

きる力

薬物療法も支援の一つ28

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発達障がい薬物治療の困難点• 保険診療で認められている薬は自閉症に「ピモジド」・ADHDに「メチルフェニデート徐放剤・アトモキセチン」の3剤のみ

• リスペリドンとアリピプラゾールは米国で自閉症の行動異常に対して承認されている(日本では認められていない)

• 小児に対しては適応外使用の薬剤がほとんどであり、使用には細心の注意が必要である

• エビデンスに基づく治療が望まれるが、治験がいまだ少ない

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オキシトシン

トピックスとして

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オキシトシンについて公平に見ると• ASDの対人反応の改善に良い影響を与える可能性がある。一方こだわりや常同行動には影響が少ないようだ。

• 使用している間は効果があるが、中止により効果もなくなる。

• 長期使用の安全性は確立されていない。

• 現在、日本では金沢大学・東北大学・浜松医大・福井大学などで研究中(脳プロ)。

4・5年後成人・学齢のカナータイプへの治療応用は期待でき

るのでは?一方で、年少者への継続使用については慎重に考えるべき

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ただし、自閉症が治るわけではない

• 特に年少者の場合、「子どもを育てる」という土台こそが大切である。自閉症の特性のみに目を向けることなく、子どもの力を引き出す環境や関わりを探ることが必須。

• 特性を軽減させることで、本人と周囲が生活しやすくなる工夫がさらに進むというように考える。

発達障がいの治療の原則

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最後に確認、今後の支援の方向

1. 発達特性を生活の障害にしない支援技術の確立(当事者への現実的対応と予防策)

2. 多様性教育の充実による生活の障害の予防方略(周囲へ:障がいにのみ目を向けず、多様な感覚・スキルを持てる人育てを、母子保健・教育との連動)

3. 強度行動障害への対応策の確立(充実と同時に予防的方策の確立)

4. 成人期の問題から小児期へのフィードバックを意識