平成28年度安全保障貿易管理対策事業一官-行情安保-16-調査-調査報告書-001...

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一官-行情安保-16-調査-調査報告書-001 1 平成 29 3 30 経済産業省貿易経済協力局安全保障貿易審査課 御中 平成28年度安全保障貿易管理対策事業 (安全保障貿易管理関連の情報活用手法に関する調査) 調査報告書 日本電気株式会社

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Page 1: 平成28年度安全保障貿易管理対策事業一官-行情安保-16-調査-調査報告書-001 第 1 版 平成29 年3 月30 日 経済産業省貿易経済協力局安全保障貿易審査課

一官-行情安保-16-調査-調査報告書-001

第 1 版 平成 29 年 3 月 30 日

経済産業省貿易経済協力局安全保障貿易審査課 御中

平成28年度安全保障貿易管理対策事業

(安全保障貿易管理関連の情報活用手法に関する調査)

調査報告書

日本電気株式会社

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[目次]

ページ

第1章 はじめに ..................................................................... 1 本文書の目的 ................................................................... 1 1.1

本文書の位置づけ ............................................................... 1 1.2

本文体系の構成 ................................................................. 1 1.3

第2章 本調査事業の概要 ............................................................. 2 本調査事業の事業目的 ........................................................... 2 2.1

本調査事業の事業内容 ........................................................... 2 2.2

第3章 情報活用手法に関する調査結果 ................................................. 4 実証実験等を踏まえた情報共有等の手法等の調査及び見直し検討 ..................... 4 3.1

必要な情報が担当者を介さずに任意のタイミングで取得できる仕組み ............ 4 3.1.1

セキュリティの観点から情報へのアクセス権を制御できる仕組み ................ 5 3.1.2

情報の格納場所を記憶せずとも、必要な情報を取得できる仕組み ................ 5 3.1.3

関連する情報を紐づけて検索できる仕組み .................................... 6 3.1.4

今後の情報の利活用に向けて、データの様式や表現を統一する .................. 6 3.1.5

情報の管理責任の所在を明確化し、情報の管理を徹底 .......................... 7 3.1.6

キーワードによって、情報格納エリアに登録された情報を横断的に検索できる仕組み3.1.7

................................................................................... 7 各課室から既存のデータベースの情報を検索できる仕組み ...................... 8 3.1.8

各課室等への提供各課室情報の作成を自動化する仕組み ........................ 9 3.1.9

各課室等の担当者が情報の集計機能を利用する際は、集計結果は参照できるが、集3.1.10

計元のデータは参照できないといったアクセス制御 ..................................... 9 プロトタイプシステム等の検討・改修・実証 ...................................... 10 3.2

プロトタイプシステム等の検討 ............................................. 10 3.2.1

プロトタイプシステム等の改修 ............................................. 14 3.2.2

プロトタイプシステム等の改修・実証 ....................................... 15 3.2.3

施策の活用に関する提言 ........................................................ 15 3.3

関係する政策担当課室のニーズ ............................................. 15 3.3.1

システム上利用可能な機能の活用によるソリューションの検討 ................. 16 3.3.2

まとめ ........................................................................ 17 3.4

第4章 国内の輸出企業についての調査結果 ............................................ 19 世界の経済動向 ................................................................ 19 4.1

日本の輸出貿易動向 ............................................................ 21 4.2

主要産業の輸出動向 ............................................................ 22 4.3

工作機械産業の動向 ....................................................... 22 4.3.1

エレクトロニクス産業の動向 ............................................... 23 4.3.2

輸出企業の行動態様 ............................................................ 25 4.4

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第5章 海外における貿易管理の動向についての調査結果 ................................ 32 国際情勢と安全保障貿易管理の変遷 .............................................. 32 5.1

東西冷戦の対共産主義圏の封じ込め ......................................... 32 5.1.1

地域紛争の勃発とテロリズムの頻発による、非国家主体を含む全方位対応 ....... 32 5.1.2

リスト規制 ............................................................... 32 5.1.3

キャッチオール規制の導入 ................................................. 33 5.1.4

安全保障貿易管理に係る新たな動向 .............................................. 33 5.2

人権の視点からの安全保障 ................................................. 33 5.2.1

安全保障貿易管理の多元化 ................................................. 35 5.2.2

これからの世界の安全保障貿易管理 .............................................. 36 5.3

欧米の現在の安全保障貿易管理体系の概況 ........................................ 37 5.4

EUの安全保障貿易管理体系 ................................................. 37 5.4.1

米国の安全保障貿易管理体系 ............................................... 39 5.4.2

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第1章 はじめに

本文書の目的 1.1

本文書は、「平成28年度安全保障貿易管理対策事業安全保障貿易管理関連の情報活用手法に

関する調査(以下、本調査事業という)」における調査結果についてまとめたものである。

本文書の位置づけ 1.2

本文書は、「一官-行情安保-16-調査-プロジェクト計画書-001」の中で定義された方針に基づ

き、本調査事業の実施結果を報告するものである。以下に本文書を含めた文書体系を示す。

図 1.2-1文書体系

図 1.2-1文書体系に記載の成果物内容は次の通りである。

・調査報告書(本編):本書

・調査報告書(別冊): 本書の別冊

・設計書:プロトタイプシステムのシステム設定情報

・操作マニュアル:プロトタイプシステムの利用者向け操作マニュアル

プロトタイプシステムの管理機能の操作マニュアル

・運用保守マニュアル:プロトタイプシステムの起動・停止手順を記載したマニュアル

本文体系の構成 1.3

本文書の構成は以下のとおり。

第 1章:はじめに

第 2章:本調査事業の概要

第 3章:情報活用手法に関する調査結果

第 4章:国内の輸出企業についての調査結果

第 5章:海外における貿易管理の動向についての調査結果

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第2章 本調査事業の概要

本調査事業の事業目的 2.1

防衛装備移転三原則等に基づく運用の開始に伴い、今後、輸出管理が量的にも質的にも難化す

ることが想定されている。この変化に対応した安全保障貿易管理を行うために、日本から海外へ

の貨物の輸出や海外から日本への投資の状況等及び諸外国における輸出管理の動向を的確に把

握する必要がある。そのために、武器等の輸出許可審査や日本への投資の際に求められる情報の

統合的な管理及び運用手法を検証すると同時に、安全保障貿易管理関連情報の背後にある産業界

の状況及び諸外国の貿易管理の動向把握を行う。

本調査事業では、安全保障貿易管理関係部署(安全保障貿易管理政策課、国際投資管理室、情

報調査室、安全保障貿易国際室、安全保障貿易管理課、安全保障貿易検査官室、安全保障貿易審

査課(以下、各課室)の情報連携、及び業務の更なる高度化を図るべく、標準化されてきた業務

の流れに沿った多様な情報等の収集・整理・流通手法の調査・研究・実証を行うことを目的とし

た。

本調査事業の事業内容 2.2

本調査事業では、軍事転用可能な貨物や技術の輸出許可審査時等に必要・有用な情報を効率的

に検索・分析すべく、また、輸出許可審査のみならず、様々な安全保障貿易施策を通して得られ

る情報を、安全保障貿易施策の更なる強化推進に活用すべく、各課室における紙、メール、電子

媒体での情報やデータベース(以下、DB)情報の共有や検索・分析を安全かつ効率的に行うた

めのシステムを構築・検証しつつ、そうした有用な情報を、安全保障貿易施策の強化、並びに産

業政策への活用をも可能とする手法を調査・検討を実施した。

本調査事業で実施した調査・検討の手順は以下のとおりとした。

図 2-1 調査・検討手順

平成27年度の実証実験を踏まえ検討した情報共有・情報検索の手法及びそれを踏まえて試作

したプロトタイプの有効性/耐久性を評価するため、実業務で試行を行った。本試行で洗い出さ

れた解決すべき課題について、改善すべき点を調査・検討し、さらに手法及びプロトタイプシス

テムの調査及び見直し検討を行い、各課室が保有する既存のデータベースとの連携・統合のあり

方を検討した上で、プロトタイプシステムの実用化を図った。

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次に、上記の調査検討結果を踏まえ、平成27年度に試行したプロトタイプシステムを参考に

必要な改修等を行った。今年度は、主に業務ニーズの高い情報の登録と検索機能の検討を行うと

ともに既存のデータベースにおいて、情報が集約されていないデータが依然として存在するため、

既存のデータベースへの情報の一元化も併せて検討した。その際、業務プロセスに応じたルール

化・システム化により業務が高度化されると考えられる範囲(業務プロセス及びデータ)を特定

しシステム化を検討した。

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第3章 情報活用手法に関する調査結果

実証実験等を踏まえた情報共有等の手法等の調査及び見直し検討 3.1

平成27年度の成果及び課題を踏まえ、以下の項目(①~⑩)についての見直しの検討及び既

存データベースとの連携・統合のあり方をあわせ、プロトタイプシステムの実用化を図るための

検討を実施した。

① 必要な情報が担当者を介さずに任意のタイミングで取得できる仕組み。

② セキュリティの観点から情報へのアクセス権を制御できる仕組み。

③ 情報の格納場所を記憶せずとも、必要な情報を取得できる仕組み。

④ 関連する情報を紐づけて検索できる仕組み。

⑤ 今後の情報の利活用に向けて、データの様式や表現を統一する。

⑥ 情報の管理責任の所在を明確化し、情報の管理を徹底する。

⑦ キーワードによって、課室内と他課室の情報を横断的に検索できる仕組み。

⑧ 安全保障貿易審査課、情報調査室以外の課室から既存のデータベースの情報を検索できる仕

組み。

⑨ 各課室等への提供情報の作成(元となる情報の収集、情報の検索、情報の集計、グラフデー

タの作成)を自動化する。

⑩ 各課室等の担当者が情報の集計機能を利用する際は、集計結果は参照できるが、集計元のデ

ータは参照できないといったアクセス制御

以下に各項目の検討内容について説明する。

必要な情報が担当者を介さずに任意のタイミングで取得できる仕組み 3.1.1

各課室の業務情報を一元管理するため、本事業では各課室の情報を登録・格納するための領域

(情報格納エリア)を設け、ここに各課室の情報を登録する仕組みを検討した。

このため本事業では、個々の情報の形態をヒアリングし、各情報ごとに情報格納エリアへの登

録方式について検討した。

情報の一元管理の仕組みを以下に示す。

図 3.1-1情報の一元管理の仕組み

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セキュリティの観点から情報へのアクセス権を制御できる仕組み 3.1.2

セキュリティの観点から、上記の情報格納エリアに登録された情報に対し、システムの利用者

が所属する課室単位で、利用可能な機能や情報へのアクセス制御の仕組みを検討した。具体的に

は、システム上で管理されているユーザ管理情報(ユーザ ID、所属課室)を用いて、メニュー

による利用可能機能の起動制御や、商用の検索用ソフトウェアのアクセス権管理機能と連携し、

検索可能な情報に制限を行う仕組みを検討した。

図 3.1-2情報へのアクセス権設定の仕組み

情報の格納場所を記憶せずとも、必要な情報を取得できる仕組み 3.1.3

本事業では各課室が登録した情報を検索するため、既存システムの機能強化及び商用の検索用

ソフトウェアとの連携により、検索機能の強化を図った。既存システムの機能強化においては、

プロトタイプシステムで新たに登録される特定情報を対象に業務画面から必要な検索を行うよ

う検討した。また、情報格納エリアに登録された情報に対し、共通のキーワードで横断的な検索

を行うため、既存システムと商用の検索用ソフトウェアの連携を検討した。いずれの検索におい

ても、利用者は、情報格納エリアのどこに格納された情報かを意識することはない仕組みを検討

した。

図 3.1-3格納場所を意識せず情報を取得する仕組み

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関連する情報を紐づけて検索できる仕組み 3.1.4

各課室が保有する情報を関連して検索できる仕組みとして、各課室の情報を情報格納エリアに

登録する際に共通的な項目は統一コードで登録することにより、関連する情報を紐づける仕組み

を検討した。また、文書型の情報は書誌情報を紐づけて登録することで、関連した情報を検索す

る仕組みを検討した。

図 3.1-4共通コードによる関連付け

今後の情報の利活用に向けて、データの様式や表現を統一する 3.1.5

本年度事業での検索情報格納エリアに情報を登録する仕組みの検討にあたり、類似の形式を持

つ情報については、データ項目を共通化しデータ様式や表現を統一することで、検索や集計とい

った今後更に情報を利活用していくための基盤を検討した。以下に例を示す。

図 3.1-5データ様式の統合例

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情報の管理責任の所在を明確化し、情報の管理を徹底 3.1.6

本年度の事業では、情報を登録する仕組みの検討において、各課室が管理する情報の登録や更

新、削除は情報を所管する課室のみ可能とするよう検討した。

また、登録の仕組みとして現行のような共有フォルダに対するファイルコピー等、ファイルを

直接操作する方式ではなく、アプリケーションシステムを使用して登録する方式を検討した。こ

れにより、各課室担当者において、情報を登録する操作が意識され、業務に不要な情報の登録を

防止することが期待される。

図 3.1-6各課室情報の登録機能

キーワードによって、情報格納エリアに登録された情報を横断的に検索できる仕組み 3.1.7

「3.1.3 情報の格納場所を記憶せずとも、必要な情報を取得できる仕組み」で述べたよう

に、現在、安全保障貿易審査課の一部の情報及び情報調査室の情報を除き、各情報については、

各課室で経済産業省基盤情報システム上に登録されており、各情報に対するアクセス権は情報を

所管する課室に限られている。また、経済産業省基盤情報システム上での検索方法としては、フ

ァイルの作成/更新日時やファイル名などの情報に限られており、各課室の情報内に含まれるキ

ーワードでの検索はできない。このため、自課室内と他課室の情報を横断的に検索する仕組みは

存在していない。

本事業では、各課室が情報登録機能を使って情報格納エリアに登録した情報を横断的に検索す

る仕組みを検討した。

具体的には平成27年度のプロトタイプシステムの仕組みを基に、既存システムの認証情報と

商用の検索ソフトウェアのアクセス制御機能を連携し、自課室及びアクセス権の与えられた他課

室の複数の検索対象情報を指定し、特定のキーワードや条件に合致した情報を検索することがで

きるよう検討した。

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図 3.1-7キーワード等による横断検索

各課室から既存のデータベースの情報を検索できる仕組み 3.1.8

本事業では、各課室職員が利用するシステムを既存システムに統合し、各課室の情報登録機能

や検索機能についても既存システムメニューから機能を利用できる仕組みとした。また、既存シ

ステムで一部課に提供されている検索機能を各課室でも共通的に利用可能とすることで、各課室

が既存のデータベースを検索できる仕組みを検討した。

図 3.1-8既存のデータベース情報の検索

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プロトタイプシステム等の検討・改修・実証 3.2

「3.1 実証実験等を踏まえた情報共有等の手法等の調査及び見直し検討」にて定義した調

査検討結果を踏まえ、具体的に実現すべき以下の項目(①~⑦)についてのシステム化を検討し

た。

① 集計検索機能

② 検索共通機能

③ 情報登録機能

④ システム管理機能

⑤ 登録された情報の比較・変更及び結果通知のための機能

⑥ 既存のデータベース関連機能

⑦ プロトタイプシステム稼動のためのソフトウェア類の導入及び設定

⑧ 検索対象情報格納エリアの設計・構築

上記の具体的に実現すべき項目について、平成27年度に試行したプロトタイプシステムを参

考に必要な改修等を行い、実証を踏まえて検討を行った。

以下に各項目のシステム化にあたっての検討・改修・実証内容について説明する。

プロトタイプシステム等の検討 3.2.1

平成27年度に試行したプロトタイプシステムを改修するにあたり、以下のように機能のシス

テム化を検討した。

3.2.1.1 業務及びデータの特定

システム化により業務が高度化されると考えられる範囲(業務及びデータ)を以下の手順で特

定した。

(1) 業務全体イメージ

各課室の業務について、情報の入手/登録/更新と、情報活用の2つの観点から、システム

化により高度化される対象となる業務全体のイメージを定義した。

(2) 対象業務

各課室に業務ヒアリングを行い、システム化の対象業務を特定した。

(3) 対象データ

各課室に業務ヒアリングを行い、システムに登録すべき対象データを特定した。

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④ 検索結果サマリ表示機能

項目(属性)検索の結果について、元のデータのサマリ(項目別にデータ)を表示す

る機能。

⑤ サムネイル表示機能

検索結果の文書ファイルのサムネイルを表示する機能。

(3) 情報登録機能

検索対象の情報を既存のデータベースやアプリケーション用共有フォルダに登録するた

めの機能について、「3.1.1 必要な情報が担当者を介さずに任意のタイミングで取得

できる仕組み」の検討結果を踏まえ、文書形式ファイルの登録、台帳形式情報の登録等、各

課室の情報の特性や業務フローに応じた登録パターンを 4つに分類し、各情報ごとの登録パ

ターンを特定し、情報登録機能を検討した。

(4) システム管理機能

プロトタイプシステムでのアクセス権管理を行うためのユーザ/グループ管理機能及び

アクセス権の管理機能を検討した。既存システムのユーザ管理機能はそのまま利用し、商

用ソフトウェアのアクセス権情報と対応付けを行うことで、アクセス権を管理する仕組み

を検討した。

図 3.2-2アクセス権管理概要

また、辞書管理機能、検索インデックス管理機能等は、商用の検索用ソフトウェアの標

準機能を利用して検討した。

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表 3.2-1 商用ソフトウェアの標準機能

(5) 既存データベース関連機能

既存のデータベースを連携させるために、プロトタイプシステムのプラットフォーム環

境の検討を実施した。

図 3.2-3プラットフォーム環境

項番 機能 内容

1 グループ管理本システムを利用する利用者グループ情報の登録、更新及び削除等の設定管理を行う。

2 アクセス権管理検索対象情報に対する各グループのアクセス可否を設定管理する。

3 検索対象管理 検索対象の登録、変更、削除等の管理を行う。4 辞書管理 検索を支援する辞書の登録、変更、削除等の管理を行う。

5 検索インデックス管理各検索対象に対する検索用インデックスの更新状況を管理する機能。また、手動又は自動で検索インデックスの作成指示を行う機能。

6 クローリング各検索対象を巡回して、各検索情報に含まれるキーワード等の検索用インデックスを作成する。

7 スケジュール設定 クローリングを行うスケジュールを設定管理する。

8 バックアップ/リストア検索対象のバックアップやリストアを行う。また、検索システムの設定情報等のバックアップ/リストアを行う。

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(6) プロトタイプシステム稼働のためのソフトウェア類の導入及び設定

図3.2-3で示すプラットフォーム環境にて、プロトタイプシステムを稼働するために

必要なソフトウェア類の導入や設定を検討した。

(7) 検索対象情報格納エリアの設計・構築

図3.2-3で示すプラットフォーム環境にて、データベースや文書形式ファイルを検索

対象とするため、データベースと文書形式ファイルの物理的なサーバ配置等を利用者は意

識せずに、情報を検索できる構成を検討した。

また、検査対象情報格納エリアの設計においては、検索対象情報の開示範囲を考慮した

格納場所やアクセス権を設定した。

プロトタイプシステム等の改修 3.2.2

「3.2.1 プロトタイプシステム等の検討」にて検討した内容を踏まえ、プロトタイプシ

ステムの改修・実装を実施した。

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プロトタイプシステム等の改修・実証 3.2.3

本事業では、有用な情報を施策の強化並びに産業政策への活用をも可能とする手法を調査検討

するため、上記で検討した内容をもとにプロトタイプシステムの改修を実施した。またプロトタ

イプシステムを用いて実証を行い、具体的に実現すべき機能・運用方法等を検討した。

3.2.3.1 実証環境

実証環境は以下のとおりとした。

表 3.2-2実証環境

3.2.3.2 実証結果

実証実施後、各課室からヒアリングを実施した。

本事業で作成したプロトタイプシステムに対する、主な改善要望としては以下のようなものが

挙がった。

・画面操作のユーザインタフェースに関する改善要望

・検索条件や検索ロジックに関する改善要望

各改善要望についての対応可否を検討し、対応可能な要望については、プロトタイプシステム

の改修対応を実施した。

施策の活用に関する提言 3.3

関係する政策担当課室のニーズ 3.3.1

各課室へのヒアリング結果等から、本事業に対するニーズを整理した。

(1) 情報管理に関するもの

分散している情報の集約や情報間での表現の統一に関する要望。

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(2) 情報登録に関するもの

業務フローに即した情報登録の仕組みや画面での入力支援等操作性に関する要望。

(3) 情報検索に関するもの

検索結果の探しやすさ、検索キーワードの指定方法、検索対象等に関する要望。

(4) 情報提供に関するもの

省内の他の情報利用者への情報の提供形式に関する要望。

システム上利用可能な機能の活用によるソリューションの検討 3.3.2

上記のニーズを踏まえ、本事業で開発したシステムの機能を用いたソリューションについての

検討結果を以下に示す。

(1) 情報の登録・管理

既存システムで管理されていない情報を登録・管理可能としたことで、業務において必要な

情報の検索や入手が容易となり業務の高度化が期待できる。

(2) 情報の検索・分析

共通的な情報項目をもつ情報については、同じ表現形式を使って管理する等により、業務に

おける情報の検索や集計が容易となり業務の高度化が期待できる。

(3) 情報の提供

省内の他の利用者への情報を提供する仕組みを自動化することで、情報の提供側、情報の利

用側とも業務の高度化が期待できる。

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まとめ 3.4

本事業では、各課室が保有する情報の共有や検索・分析を安全かつ効率的に行うためのシステ

ムの構築・検証を通して、そうした有用な情報を、安全保障貿易施策の強化、並びに産業政策

への活用をも可能とする手法を調査・検討した。

具体的には、平成27年度安全保障貿易管理関連の情報共有手法に関する調査研究の成果を踏

まえ、以下の10項目の情報システムによる仕組みの検討を実施した。

① 必要な情報が担当者を介さずに任意のタイミングで取得できる仕組み。

② セキュリティの観点から情報へのアクセス権を制御できる仕組み。

③ 情報の格納場所を記憶せずとも、必要な情報を取得できる仕組み。

④ 関連する情報を紐づけて検索できる仕組み。

⑤ 今後の情報の利活用に向けて、データの様式や表現を統一する。

⑥ 情報の管理責任の所在を明確化し、情報の管理を徹底する。

⑦ キーワードによって、課室内と他課室の情報を横断的に検索できる仕組み。

⑧ 安全保障貿易審査課、情報調査室以外の課室から既存のデータベースの情報を検索でき

る仕組み。

⑨ 各課室等への提供情報の作成(元となる情報の収集、情報の検索、情報の集計、グラフ

データの作成)を自動化する仕組み。

⑩ 各課室等の担当者が情報の集計機能を利用する際は、集計結果は参照できるが、集計元

のデータは参照できないといったアクセス制御の仕組み。

図 3.4-1 情報システムによる情報活用手法

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上記の仕組み及び実証を通して、本事業では、以下のような効果が得られることを確認した。

・業務の流れで情報をシステムに登録することで、各課室が業務で得た情報が確実にシステム

で管理されるようになる。

・各課室が保有する種々の情報の中から、業務上必要な情報を素早く主体的に見つけることが

できるようになる。

・登録された情報の照会等をシステム的に行うことで、人手による作業ミス等をなくすことが

できる。

・登録された情報はシステム的に管理され、誤操作による情報の更新・削除を抑制することが

できる。またアクセス権のない担当者からの不正アクセスを防ぐことができる。

・情報提供を、人手を介さず行うことができるようになる。

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第4章 国内の輸出企業についての調査結果

世界の経済動向 4.1

国内の輸出企業の動向を考察するにあたり、輸出動向と関係性の深い世界経済動向について最

新状況の調査を行った。

IMF(国際通貨基金)が 2016 年 10月に発表した世界経済見通しによると、世界全体の経済成長

率は 2016年が 3.1%、2017年が若干改善されて 3.4%と予測されている。このうち、先進国・地域

の成長率は 2016 年が 1.6%、2017年が 1.8%と低成長が予測されている。その一方で振興市場及び

途上国・地域については成長が加速し、2016 年 4.2%、2017 年 4.6%の成長が見込まれている。特

にインドは 7.6%、中国は減速傾向にあるものの 6.2%、ASEANが 5.1%とアジア新興市場及び途上国・

地域の成長率が高いことが分かる。

表 4.1-1 IMF2016 年 10 月世界経済見通し (出典)IMF World Economic Outlook October 2016

また世界銀行が 2017 年 1 月に発表した世界経済見通し(GEP)によると、2017 年の先進国の経

済成長は、2016 年の 1.6%から 1.8%へと小幅情報が予測されている。新興国・途上国の全体的な

成長率は、昨年の 3.4%から 4.2%へと上昇すると見られている。

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日本の輸出貿易動向 4.2

ここでは日本の輸出貿易動向について、最新状況の調査を行った。

図 4.2-1 地域別輸出額の推移 (出典)財務省貿易統計

財務省貿易統計によると、輸出額総額は 2012年以降、前年比で増加傾向となっており、これは

先に見た日本の経済成長率に比べ海外の経済成長率の方が、伸び率が高いこととも関連があるも

のと考えられる。

輸出全体でもっとも額が大きい品目は自動車であり、2015 年では対前年比の伸び率ももっとも

高くなっている。また、地域別でみると、アジア圏を除く他の地域のほとんどは、自動車及び自

動車の部分品が輸出額の上位を占めているのに対し、アジア圏については、半導体等電子部品、

鉄鋼、プラスチック等、最終製品を製作するために必要な部分品や材料が中心となっている。な

お、アジア圏についても、自動車の需要は徐々に高まっており、2014年は前年比 12.3%、2015 年

は前年比 6.3%の輸出額増加となり、品目別順位でも、2013 年の第 7 位から 2015 年は第 4 位と上

昇している。これはアジア圏の経済が進展し、需要がより高級な品目に移行しているものと考え

られる。

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図 4.2-2 対アジア主要輸出品の推移(年ベース) (出典)財務省貿易統計より作成

主要産業の輸出動向 4.3

ここでは主要な産業として、工作機械、エレクトロニクスを例に、輸出の最新動向の調査を行

った。

工作機械産業の動向 4.3.1

工作機械は“マザーマシン,母なる機械”と呼ばれ、機械をつくるための機械である。例えば

自動車という機械は多くの部品から構成されるが、この部品を作り出すのも機械であり、工作機

械はこれに相当する。このように、工作機械は、機械を作り出すところで用いられることとなる。

工作機械の輸出先及び受注額をみると、2016年の輸出額第 1位の輸出先は米国、第 2位は中国

となり、全外需受注額のおおよそ半分を占め、第 3位以下を大きく引き離している。また、2014

年、2015年は中国が米国を上回っていたが、2016年は米国が中国を上回った。

現在世界における主要な機械は自動車であり、日本の工作機械産業においても、最終的な製品

用途をみると、受注額のおおよそ 6 割が、2~3 万もの部品数を有する自動車産業に依存してい

るとも言われている。日本の自動車メーカーの海外進出や、より精密な日本の工作機械に対する

海外自動車メーカーの需要から、米国向け輸出額が圧倒的に大きいものと考えらえる。

一方中国向けの工作機械は、携帯電話・スマートフォンなどの電子機器類を製作するためのも

のが主力と考えられる。2014 年中国からの受注額が急増したのは、2014 年に発売された新型ス

マートフォンの人気によるものであり、2015 年、2016 年はその効果が薄れ、また新製品につい

ても 2014年の製品ほど爆発的な人気には至らなかったことによるものとみられる。

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このように工作機械の輸出先は、工作機械を納入する相手産業の動向に依存する部分が大きい。

特に米国向けの自動車輸出は、各自動車メーカーともメキシコに工場を建設し、米国に輸出する

計画を持っている。メキシコ向けの工作機械の輸出はまだ多くはないが、2015年の受注額 15,553

百万円から 2016 年の受注額は 24,395百万円に増加しており、その傾向がみられる。しかしなが

ら、米国のトランプ新大統領の政策方針により、自動車製造工場は米国内に回帰することも考え

られ、今後も引き続き米国向けの輸出が伸びるものと考えられる。また、アジア圏向けの自動車

輸出額も徐々に伸びてきており、これにあわせて自動車の生産拠点の見直しも想定されることか

ら、工作機械の輸出先についてもアジア圏の割合が高まってくる可能性もある。

図 4.3-1 工作機械の外需別・地域別受注額の推移 (出典)一般社団法人 日本工作機械工業会 工作機械統計より作成

エレクトロニクス産業の動向 4.3.2

エレクトロニクス製品は大きく、完成品と製品を構成するための部品に分かれる。代表的な製

品として、「電算機類(含周辺機器)」「電算機類の部分品」「半導体等電子部品」について、

それぞれの輸出額上位 10位の直近 5年の変遷を以下のグラフに示す。

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図 4.3-2 電算機類(含周辺機器)の輸出先別輸出額の推移 (出典)財務省貿易統計より作成

電算機類(含周辺機器)の輸出先は、米国向けが圧倒的に多く、次いで、ドイツ、オランダと

いった先進国がトップ 3を占めている。輸出額や輸出先の順位に大きな変動は見られない。輸出

総額は、2012年から 2015 年にかけて増加傾向にあったが、2016 年は減少に転じている。

図 4.3-3 電算機類の部分品の輸出先別輸出額の推移 (出典)財務省貿易統計より作成

電算機類の部分品の輸出先は、米国向けがトップを占めるが、2013 年以降は中国が第 2位に浮

上している。輸出総額全体では、2013 年~2015 年はやや多くなっているが、2016 年は 2012 年

とほぼ同水準となっている。輸出先の順位に大きな変動は見られないが、2012 年に比べるとフ

ィリピンやタイの増加率が高くなっている。

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図 4.3-4 半導体等電子部品の輸出先別輸出額の推移 (出典)財務省貿易統計より作成

半導体等電子部品の輸出先は中国が圧倒的に多く、台湾、香港といった東アジア諸国がトップ

3を占めている。輸出総額全体では、2012 年から 2015年にかけて増加傾向にあったが、2016 年

は減少に転じている。

上記の各グラフから、エレクトロニクス産業の輸出の特徴として、完成品である「電算機類(含

周辺機器)」は、米国を筆頭に、ドイツ、オランダといった先進諸国向けの輸出がトップ 3であ

るのに対し、「電算機類の部分品」は、米国の第 1位は変わらないものの中国や新興国向けの比

率が高まることが分かる。さらに「半導体等電子部品」になると、中国、台湾や香港、韓国、マ

レーシア、シンガポール、タイ、フィリピンといった東アジアや東南アジア諸国が上位にきてい

ることが分かる。上記から、完成した製品は主に高額での販売が可能な先進諸国に対し出荷され

るが、製品を作る工場は東アジアや東南アジアといった日本からは地勢的に近く、コストが比較

的低い地域を活用していることが推測される。

上記のグラフからは、各製品の輸出額や輸出先は、多少の順位変動はあるもののここ数年の傾

向は大きく変わっておらず、当面は同様の傾向が続くものと考えられる。

輸出企業の行動態様 4.4

ここでは上記の調査結果を踏まえ、本事業で調査対象として工作機械産業とエレクトロニクス

産業を例に、輸出企業の行動態様について考察する。

まず工作機械産業については、上記の通り、販売する工作機械自体が最終製品ではなく、その

工作機械を使って製品を作ることを目的としていることから、輸出先についても、工作機械を使

用する相手産業・企業の動向に、その行動態様が左右されることが分かる。特に、日本の工作機

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械産業は自動車産業への依存度が高いことから、自動車産業の動向により輸出先が変わる可能性

がある。また、日本の工作機械は精密な製作・加工が得意である。このため 2014 年の新型スマー

トフォンのような新製品が登場する場合に、その製作や加工に用いられることが予想され、相手

先企業の立地やその生産拠点によっては新たな輸出先が誕生する可能性もある。

また、近年は中国や新興国の工作機械メーカーがシェアを伸ばしている。これらの企業は、ま

だ日本の工作機械ほど精密な製作・加工はできないものの、コスト的なメリットからさほどの精

密さが必要ないミドルレンジ・ローレンジにおいて浸透してきている。現在、日本の工作機械は

主に国内で生産され輸出されているが、日本の工作機械が得意とするハイレベルレンジの広がり

は限定的であることから、ミドルレンジやローレンジ向けの工作機械を提供する場合は、これま

でとは異なり、海外に生産拠点を設けるなどの対応を行うことが考えられる。また、これら企業

がハイレベルレンジにも進出してくることも想定し、自動車業界以外にも販路を求めていくこと

も考えられ、業界の構造が変容していく可能性もある。

一方のエレクトロニクス産業は、自ら最終製品あるいは部品を作成し販売する産業である。上

記の通り、基本的な方針としては、企業収益を最大化するための行動態様をとっていくことが想

定される。つまり、最終製品の販売先としてはより高額な価格で販売が可能な先進諸国が中心と

なるが、それを作るためのコストを最小化する取り組みが行われている。これは、エレクトロニ

クス産業は、グローバルレベルでの競争にさらされていることによると考えられる。現在は生産

工場として東アジアや東南アジアが中心とみられるが、これらの国々が経済発展し、コスト的な

メリットがなくなった場合は、新たな生産拠点を探す行動をとるものと考えられる。

上記のように、各業界とも取り巻く環境の変化等により、輸出先にも変化が生じる可能性があ

る。輸出先の選定としては基本的に、販売する製品等への需要の有無、コストメリットの有無、

現在の経済状況や今後の経済発展性、サプライチェーンの構築可否などが主な判断材料と考えら

れる。これについて、内閣府「平成 27年度企業行動に関するアンケート調査結果」や経済産業省

「通商白書 2014」からは次のような行動意識がうかがえる。

■内閣府「平成 27年度企業行動に関するアンケート調査結果」

内閣府が実施している企業行動に関するアンケートでは、海外に生産拠点を置く主な理由に

ついての調査項目がある。海外に生産拠点を置く主な理由としては、「現地・進出先近隣国の需

要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」が最も多く、調査対象企業の約 7 割が回答している。次

いで「労働力コストが低い」「現地の顧客ニーズに応じた対応が可能」が 4 割強を占めている。

また、「資材・原材料、製造工程全体、物流、土地・建物等のコストが低い」が 3 割強、「親会

社、取引先等の進出に伴って進出」が 2割強となっている。

工作機械産業やエレクトロニクス産業の動向についても、あてはまるものと考えられる。

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表 4.4-1 海外に生産拠点を置く主な理由 (出典)内閣府 平成 27年度企業行動に関するアンケート調査結果

■経済産業省「通商白書 2014」

企業行動を左右する要因の一つとして為替の動向が想定される。通商白書 2014 では為替動向と

生産拠点に関する企業行動についての調査結果が公表されている。調査結果によると、2008年半

ばからの円高方向への動きの中、国内の設備投資を抑制した企業、国内生産・輸出採算が合わな

くなったため海外生産シフトを進めた企業は、輸送用機器や電機機器産業などで多くなっている

ことが分かる。

図 4.4-1 2008 年半ばからの円高に対する経営戦略の影響 (出典)経済産業省 通商白書 2014

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一方で 2012 年 11 月以降円安方向に推移する中、国内の生産設備投資計画を変更していない企

業の割合は 82.6%にのぼるとともに、海外生産設備についても変更なしが 50.4%、拡充・増強が

14.2%で、縮小については僅かに 0.4%という回答になっており、円安となっても海外志向を継続

していることが分かる。

図 4.4-2 2012 年 11 月以降の国内生産設備への影響(左)及び海外生産設備への影響(右) (出典)経済産業省 通商白書 2014

その理由として、「海外需要の伸びが期待できる」、「為替変動に企業業績が左右される事の

ないように、現地生産・現地販売を進めている」、「人口減少によって国内市場の縮小が見込ま

れるため、為替変動に関わらず海外シフトを進めている」といった回答が上位に挙げられている。

図 4.4-3 円安方向に推移する中でも海外生産設備投資計画を拡充または変更しない理由 (出典)経済産業省 通商白書 2014

上記の調査結果からは、ここ数年の為替変動について企業行動の影響は特になく、むしろ国内

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よりも海外需要の伸びに応じて、現地生産・現地販売を進めていく方針であることが分かる。

この他、貿易・投資円滑化ビジネス協議会(事務局:日本機械輸出組合)が会員団体・企業に

対して実施した「海外各国・地域で直面している貿易・投資・現地生産上の問題点と改善要望に

ついて」のアンケート結果(2016年)からは、輸出企業は様々な問題への対応可否も踏まえ、企

業行動をとっていることがうかがえる。以下に主要な問題内容の要点を示す。

図 4.4-4各国・地域の貿易投資上の問題点(2016 年速報版) (出典)貿易・投資円滑化ビジネス協議会 各国・地域の貿易・投資障壁の改善に関する提言の提出について

(1) 輸入関税や輸出入規制等の制約問題

高輸入関税は、直接的な輸入規制措置だけでなく当該国国内の製品販売に影響を与えること、

また税関当局による恣意的な関税分類の誘発が懸念されている。

(2) 輸出入手続きに関する問題(手続きが煩雑、不透明など)

新興国を中心に、通関手続の煩雑さ、不透明さ、遅延、担当官の恣意性の問題が懸念されて

いる。この他、領事査証の取得要請、関税や関連税の還付手続きの煩雑さ、通関書類への製

品明細の現地語記載なども問題として考えられている。

(3) 外資参入制限に関する問題

途上国・新興国では小売業等サービス産業に対し、出資比率の上限設定や店舗数規制、特定

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業種参入規制等、地場の中小企業保護の外貨規制が多く残存している。これにより現地販売

や企業活動等の制約を受けることが問題として考えられている。

(4) 独自の工業規格、基準安全認証、環境基準の有無や突然の変更等の問題

新興国・先進国ともに、規格・基準、環境については、多くの問題があり、特に問題として

考えられているのは、国際的にみて厳しいあるいは独自の基準への対応の難しさが挙げられ

る。また、許可取得、審査手続、規格発行の煩雑さ、不透明さ、長期化なども問題として考

えられている。この他、ラベル等の表示義務への対応が挙げられている。

また環境基準については、規制内容に関する情報不足、法規則施行の猶予期間の不足、規制

対象品目の特定がされてない、国・地域による環境基準の相違などもある。

(5) 知的財産権保護や模倣品取締等の規制内容や運用に関する問題

知的財産保護については保護の水準、内容が不十分な国が多々あり、また保護強化の厳しい

国と不十分な国の程度の差が大きいという問題がある。また、途上国・新興国においての権

利出願手続に長期間を要するという問題も挙がっている。この他、先進国間においても権利

保護の内容や運用に相違がある。

(6) 複雑で突発的、また頻繁に改正される税制や恣意的な徴税等の問題

多くの新興国において、複雑で突発的、また頻繁に改正される税制や恣意的な徴税と還付遅

延の問題等が指摘されている。この他、国際的に合意された OECDガイドライン等のグローバ

ルスタンダードに沿わない独自の移転価格税制度や BEPS(税源浸食と移転関連)に関する義

務等を設けている国もある。

(7) 外貨管理や送金規制等の問題

多くの途上国・新興国では外貨管理の強化や送金規制、ロイヤリティーの制限がかかってお

り、利益回収上の問題を生じている。また、多くの途上国では外貨管理上実需原則をとって

いることから、先物為替予約ができず為替リスクを軽減できないという問題もある。

(8) 厳格なセキュリティプログラム(貨物検査等)や複数のセキュリティプログラムへの対応

テロからの安全確保と貿易円滑化を図るため、AEO 制度や KS/RA 制度が確立されているが、

複数のセキュリティプログラムへの適用が必要となることから負担感が生じている。

(9) 雇用に関する問題(ビザ発給の厳格化、現地雇用や労働法制に関する問題)

先進国・途上国を問わず、国内の雇用優先政策や国際テロ対策のためのビザ発給の厳格化や

異なる制度運用についての問題がある。また、現地の雇用や労働法制についても差異があり、

対策のための負担が大きい。国によっては、外国人とない黒人の従業員人数比や賃金比に関

する規定もある。

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(10) その他法律、規制、制度の透明性に関する問題(諸制度・慣行・非効率な行政手続、法制度

の未整備等)

途上国・新興国を中心に、経済政策や経済実態に対応しない関連法制度の改定や変更が頻繁

に行われている。その制定や実施も予定通りではなく、執行や運用が恣意的であったり差別

的であったりするケースが多く発生しており、予見可能性のないコスト負担が強いられてい

る。

(11) 人権保護、国家安全保障、国際テロ対策、多国籍活動規制等を目的とした各国独自制度の問

国によっては情報セキュリティ、個人情報保護、国家安全保障という目的での越境規制(例

としてデータの国内保管、通信制限等)に関する法律・法案が出たり、国際テロ対策として

の人や貨物の入国管理規制の強化が行われ、物流や人の移動の阻害要因となっている。

また自国産業の保護等のため、外国籍企業の活動の管理強化が行われているケースもある。

(12) WTO 協定締結国と未締結国の対応の相違

環境物品協定(EGA)、新サービス貿易協定(TiSA)等を始めとする WTOの協定締結国内で

は貿易・投資の自由化が期待されるが、未締結国については独自の調達制度が設けられてい

ることから、個別の対応にコストを要するという問題がある。

(13) 産業インフラや社会生活インフラの整備に関する問題

途上国・新興国では電力供給、港湾、道路、鉄道、物流システム等の産業インフラや通信、

通勤、水道、災害対策などの社会生活インフラの整備が遅れている。こうしたインフラが整

っていないことにより、企業活動に制約が生じる問題がある。

上記の問題は、途上国や新興国で多く見られる問題であることから、これらの国への進出につ

いては単にコストメリットだけではなく、各国の実態や自社の対応方法も踏まえて企業は行動を

行っているものと推察される。

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第5章 海外における貿易管理の動向についての調査結果

国際情勢と安全保障貿易管理の変遷 5.1

全保障貿易管理は国際社会及び国家の平和と安全の維持を目的とし、国際協調の下に行われる

ものである。従い、安全保障環境の変化に応じて、国際的な枠組みと規制対象及び規制の手法は

時代とともに変化してきている。

東西冷戦の対共産主義圏の封じ込め 5.1.1

第二次世界大戦後は、東西冷戦構造が全地球的規模の対立軸として位置づけられ、米国を頂点

とする自由主義諸国(西側)が、ソ連を頂点とする共産主義諸国(東側)に対する軍事技術上の

優位を保つための機能として輸出管理レジームが存在し、COCOM(対共産圏輸出統制委員会)が

その役割を果たした。

ソ連向け COCOM規制に違反する輸出を行ったとして、日米間の政治問題にまで発展した987

年の東芝機械事件が示す如く、冷戦構造化下の輸出管理は、共産圏を対象とした自由主義圏に属

する10数か国よる枠組みであった。

その後、1990 年に東西ドイツが統一、1991 年にはソ連が崩壊したことで、東西冷戦は終焉を

迎え、COCOM は 1993 年に解散するに至った。

地域紛争の勃発とテロリズムの頻発による、非国家主体を含む全方位対応 5.1.2

東西冷戦が幕を下ろし、それまでの超大国間による戦争や武力衝突が起こる軍事上の脅威が薄

れる中、国際社会の安全保障上の関心は、崩壊した旧ソ連からの軍事技術流出の懸念を含め、世

界各地域における紛争の勃発を防ぐことへと移っていった。

1994年には、地域の安定を損なうおそれのある通常兵器及び関連汎用品・技術の過度の移転と

蓄積の防止という新たな国際社会の課題に対応した輸出管理体制を設立する必要性が強く認識

され、旧 COCOM参加国を中心に協議が開始された。そして 1995年 12月、新たな輸出管理体制の

設立について関係国間で政治的な申合せが行われ、1996 年 7 月の設立総会をもって、正式にワ

ッセナー・アレンジメントがあらたな輸出管理レジームとして発足することとなった。

東西冷戦下の COCOMでは、自由主義圏による封じ込め策として、共産圏諸国をその対象地域と

していたのに対し、ワッセナー・アレンジメントでは、ロシア及び旧共産圏諸国をも加盟国に迎

え入れたかたちで、特定の対象国・地域に的を絞ることなく、全ての国家・地域及びテロリスト

等の非国家主体をも対象としている。

リスト規制 5.1.3

輸出管理の国際的な枠組みは通常兵器関連とそのデュアルユース品を対象とするワッセナ

ー・アレンジメント以外にも、核兵器関連の原子力供給国会合(NSG)、化学兵器と生物兵器関

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連 のオーストラリア・グループ(AG)、及びミサイル関連の(MTCR)がある。これらも含め い

ずれの国際的な枠組みにおいても、品目リストにより規制対象を定め、そのリストを定期的に

見直すことで、大量破壊兵器、通常兵器の拡散を防いできた。

キャッチオール規制の導入 5.1.4

ところが、湾岸戦争後に、国連決議に基づく国際原子力機関(IAEA)のイラクに対する特別査

察によって、国際的な枠組みで規制されるレベル以下の貨物・技術が、イラクの大量破壊兵器等

の開発プロジェクトに利用されていた事実が判明することとなった。

このような事態を契機とし、大量破壊兵器等の拡散防止を強化するため、国際的な枠組みのリ

スト規制対象貨物・技術でなくとも、輸出或いは提供されるエンドユース及びエンドユーザによ

っては輸出を規制する、キャッチオール規制があらたな制度として導入されることとなった。

1991年には米国で、1995年には EUで導入され、日本でも 1996 年に始まり 2002 年から本格導入

された。

2000年代に入ると、2001年米国の 9.11や炭疽菌事件等をきっかけに、国際社会は、非国家主

体であるテロリストを新たな脅威として認識することとなった。そして 2004 年に採択された国

際連合安全保障理事会決議第 1540 号では、国際テロリストなどの非国家に大量破壊兵器を拡散

させないよう、既存の国際的な輸出管理レジーム非参加国を含めたすべての国連加盟各国が適切

に法整備を行い、実施することを求めた。

このようにして、今に続く、リスト規制とキャッチオール規制による、国家主体(懸念国)に

加えた非国家主体(テロリスト)への機微な製品と技術の拡散を防ぐ不拡散型輸出管理が、現代

国際社会における安全保障上の重要な共通基盤のひとつとなった。

安全保障貿易管理に係る新たな動向 5.2

人権の視点からの安全保障 5.2.1

国際社会がリベラルなグローバリゼーションの道を歩む中、2011 年から着手されている EU

の輸出管理制度改革の過程を通して、輸出管理の世界に人権擁護の要素が取り込まれよう とし

ていることは、注目すべき点である。

2016 年 9 月に欧州委員会は規制改訂案を提示し、その中に、サイバー監視技術(cyber-

surveillance technology)関連品目に対する規定が新たに盛り込まれた。その目的とするとこ

ろは、EU から輸出されたそれら品目が第三国において人権侵害に用いられることを防ぐこと、

及びサーバー監視技術がもたらす EU及びEU市民への安全保障上のリスクに対処することである。

そのために、サイバー監視技術関連品を新たな規制リスト品目として、従来のデュアルユース品

目リストとは別枠で設け、また、本関連品目については、リスト規制のみならずキャッチオール

規制(targeted catch-all clause)が導入されている

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ここに規則改定案(Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL

setting up a Union regime for the control of exports, transfer, brokering, technical

assistance and transit of dual-use items (recast))に示されたサイバー監視技術に関する

英文版原文を抜粋する。

Chapter Ⅰ Article 2, 21

'cyber-surveillance technology' shall mean items specially designed to enable the

http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2016/september/tradoc_154976.pdf

規則改訂案は欧州委員会による公表後、EU 理事会及び欧州議会による審議と並行して EU 加盟

国各当局との協議へと移行していく。欧州関係者の中でも、この過程と手続きは今後 1年から 2

年続くものと見られており、改正規則が施行されるのは早くても 2017 年、状況によっては 2018

年に入ることも十分に考えられる。

なお EU 自体は、ワッセナー・アレンジメント等の国際的な輸出管理レジームのメンバーでは

ないため、レジームの議論の場に持ち込むことなく、EU加盟国間で合意形成されば EU独自に規

制を加えることは可能である。

しかしながら、EU 独自規制となれば、EU 域内単一市場における競争環境上は公平・平等が成

り立つ一方で、国際市場における競争上は EU が不利な立場に置かれることとなる。これについ

ては、EU 加盟国や産業界からは、レベル・プレイング・フィールド(競争上の公平性)の観点

からの問題や管理リソースの増大に関する懸念が表されている。欧州委員会としても、独自規制

により生じる EU 域外との規制差異を最小化するため、国際輸出管理レジームへのアプローチを

検討していると考えられるため、今後、様々は国際間の安全保障問題に係わる議論の場に、EU

Chapter Ⅰ Article 2, 21

'cyber-surveillance technology' shall mean items specially designed to enable the covert

intrusion into information and telecommunication systems with a view to monitoring, extracting,

collecting and analysing data and/or incapacitating or damaging the targeted system. This includes

items related to the following

technology and equipment:

(a) mobile telecommunication interception equipment;

(b) intrusion software;

(c) monitoring centers;

(d) lawful interception systems and data retention systems;

(e) digital forensics;

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から国際社会に対して提議されてくる可能性がある。

安全保障貿易管理の多元化 5.2.2

安全保障貿易管理では 4つの国際レジームによる規制が中心となっているが、各々のレジーム

ともに数十か国による合意に基づくものである。その枠を超えた更に大きな国際協調の仕組みと

しては、国際連合安全保障理事会(UNSC)が存在する。UNSC によって、大量破壊兵器の拡散防

止が決議されたり、武器禁輸や金融規制等の制裁措置が発動される。

しかしながら、国連にせよ輸出管理レジームにせよ、その加盟国の協調行動、管理の実行管理

能力に依り、輸出管理の実効性や制裁効果が左右されることとなる限界は否めない。

5.2.2.1 EUによる制裁

EU は国連メンバーではないものの、国連合意に基づく制裁措置を EU制裁として加盟国に適用して

いる。加えて、EUは欧州連合条約に掲げられた共通外交・安全保障政策(CFSP=Common Foreign and

Security Policy)の目標を達成するために、自主的に、第三国政府やテロリスト集団に制裁を発動

している。これらの措置は、国際法や人権を侵害する行為もしくは政策、および法の支配や民主主

義の原則を尊重しない政策に変化をもたらすことを目的とした、外交的または経済的手段であり、

制裁措置の対象としては、政府に関係する個人や、企業、機関、団体などの組織、およびテロ集団

やテロリストである。

EU が実施する制裁の多くは、武器禁輸、資産凍結、渡航制限の 3 種類であるが、武器禁輸や渡航

禁止など一部の制裁は、EU理事会の決定に基づき、加盟国が直接実施する一方で、資産凍結や輸出

禁止などの経済制裁は、加盟国ではなく EUの権限となるため、EU理事会の決定を経て EU官報に掲

載された後に発効し、各加盟国において適用されることになる。

また、連合体としての EUが制裁措置に対する共同歩調を取るために、欧州対外行動庁(European

External Action Service:EEAS)が、EU 外務・安全保障政策上級代表を補佐する組織として機能

している。EEAS には機能別組織である Security Policy and Conflict Prevention (SECPOL)が配

され、その配下の Sanction Policy Division が制裁関連事項を主に担当している。この部署は EU

が域外諸国やテロリストグループへ科す全ての制裁に関して、その開始から終了までの全ての活動

に関わっている。主たる責務は、EEAS の各地域別組織、および EU 理事会の Sanction Division と

協力して EU 理事会に制裁方針の提案を行うことにあり、これら制裁方針は上述の通り、EU 理事会

による審議、決定へとつながるものである。

なお、EU が制裁対象とする国・個人・企業体も含めた統合制裁リスト(Consolidated list of

sanctions)は EEASの WEBサイト(https://eeas.europa.eu/topics/sanctions-policy_en)に公表さ

れている。

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5.2.2.2 米国による制裁

上述の EUと同様に、米国もまた、国や個人、企業体を対象に、自国の外交政策・安全保障上の目

的、即ちその経済や政治、軍事の面での行動を変更させるために、単独で制裁措置を講じている。

米国では国家の外交及び安全保障に関わる国務省・財務省・商務省がそれぞれに指定する禁止・

懸念対象のリストを発行している。注目すべきは、財務省外国資産管理室(OFAC)による規制であ

る。これは、米国が指定した国・地域や特定の個人・団体などについて、取引禁止や資産凍結などの

措置を講じるもので、規制は、米国人・米国金融機関を含む米国法人のほか、米国内に所在する外

国人・外国法人に適用され、制裁対象が関与する米ドル建取引等が規制の適用を受ける。

しかしながら、米国外企業や米国人でない者であっても、米ドル建てによる取引を行う場合は、

規制遵守義務のある米国銀行を経由した資金決済とならざるを得ない。このように、米ドル建て送

金が、米国銀行の米国でのコルレス口座を通じて決済する仕組みであることに着目し、輸出を含む

商取引行為に制限をかけることで、制裁効果を米国に留まらず米国外にも及ぼす仕組みとなってい

る。世界の外国為替市場における通貨別取引の多くが米ドルであることから、米ドル決済を基軸に

据えた規制措置の展開する手法は、米国の単独制裁が効果を発揮する有効な仕組みである。

この OFAC規制に基づく制裁対象は SDN(Specially Designated Nationals and Blocked Persons)

リストとして公表され、米国の時の外交及び安全保障の状況変化により随時更新されている。この

SDNリストを巡っては、実際的な取引の成立を妨げることに繋がり得る要素のひとつとして、所謂、

50%ルールがある。これは、SDN リスト掲載者ではなくとも、SDN リスト掲載者によって 50%以上所

有或いは実質的に支配されている者は、実質的に SDNリスト掲載者とみなされるというものである。

このルールの存在により、輸出者としては、取引予定の企業・者が SDN リストに掲載されている

か否かの確認のみでは事足りず、公開情報に加えて調査会社を通じた情報入手などによるデユー・

デリジェンスが必要となってくるケースもある。デュー・デリジェンスを実施しても、そのコスト

に見合った十分な精度の結果が得られない場合も想定され、結果的には取引を差し控えることも実

務上では十分にあり得る。

なお、既述の EU の制裁リストにも OFAC 同様の資産凍結対象者が掲載されているが、OFAC のよう

な 50%ルールはないことからみても、OFAC による規制は米国の独自性を際立たせている。一方で、

制裁対象の個人・企業体が所有構造を何重にも煩雑にすることで持分を分かりにくくしている場合

を想定するならば、50%ルールを適用することによって抜け道を狭めようとする米国は、これもまた

他に類を見ない執行姿勢である。

これからの世界の安全保障貿易管理 5.3

民生用途と軍事用途の二つの要素で定義する「デュアル・ユース」で形作られてきた安全保障

貿易管理の概念は、EUが世界に先行して具体的な検討を進める、人間の安全保障の側面を加味し

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た、言わば「トリプル・ユース」という新たな概念を生みつつある。人間の安全保障として、人

権擁護を考慮する場合、その範囲を特定することは一定の困難が伴うことが予想され、EUメンバ

ー間、更には国際間の議論へ波及するものと見られる。

また、国家からテロリスト等の非国家主体にも安全保障上の懸念対象が広がる中、モノ・技術

が渡らないように物理的或いは空間的な移動・移転を阻止する手段として、安全保養貿易管理の

仕組みが作り上げられているが、制裁措置、とりわけ金融面での規制は、制裁対象者の資産を凍

結、更には取引するための決済手段に制限をかけることで、モノ・技術の調達を阻止する機能を

発揮する手段として重要性が増すとともに、複雑な仕組みとなってきている。

今後も安全保障貿易管理は、一面的な政策では機能しえず、多様な施策との相補関係や相乗効

果において国際的な協調行動を堅持しつつ検討すべきものであることは改めて留意されるべきで

あろう。

欧米の現在の安全保障貿易管理体系の概況 5.4

本章では従来の安全保障貿易管理と今後のその行方を記してきたが、最後に、世界の安全保障

を牽引する米国とEUの管理体系の現状を整理し、本調査報告書を締め括るものである。

EUの安全保障貿易管理体系 5.4.1

5.4.1.1 概要

EU各国のデュアルユース品目の輸出管理制度を統一するEU輸出管理規則が1995年に導入され、

これまでに二度の全面改正を経て、現在は 2009 年改訂の EU規則が(Council Regulation (EC) No

428/2009)有効である。4つの国際レジーム(WA, NSG, AG, MTCR)を踏まえた規制リストを導入

し、また、大量破壊兵器・通常兵器キャッチオール規制、仲介・通過・積替え規制を実施してい

る。尚、軍事品目に関しては、2008年のEU理事会共通見解(Council Common Position 2008/944/CFSP)

に基づき、EUに輸出規制の権限は委譲されず、各国が国内法で規定することとなっている。

5.4.1.2 所管官庁

欧州委員会(EC)が EU の行政機関であるが、具体的な許可手続き等は、EU 各国が詳細法令を

制定し、運用している。

http://ec.europa.eu/trade/import-and-export-rules/export-from-eu/dual-use-controls/

また、規則改正権限は EU 理事会と欧州議会にあるが、規制品目リスト(Annex I)の改正を含

む一部の権限は条件付きで欧州委員会(EC)に委譲されている。尚、輸出禁止等の制裁は、欧州

対外行動庁(European External Action Service:EEAS)が担当している。

5.4.1.3 規制概況

規制品目としては、次の3つに分類される。① Dual-Use 品目(EU輸出管理規則の Annex Iで

規定し、4つの国際レジームの内容を網羅している。EU域外への輸出には許可を要する。)② 域

内移転規制品目(上記① Annex I の内、機微な品目を Annex IV として規定し、EU 域内移転であ

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っても許可の対象としている。)③ 軍需品目(EU としては規制せず、各国規制としている。但

し、ワッセナーアレンジメントの軍事品目リストを反映した共通軍需品目は定め、各国がこれを

ベースに国内法で規制している。)

キャッチオール規制については、①通常兵器キャッチオール規制(武器禁輸国向け)② 大量破

壊兵器キャッチオール規制が定められ、INFORM 要件と KNOW 要件により許可取得或いは通知が必

要とされている。尚、大量破壊兵器キャッチオール規制に関しては、suspect 要件による規制を

各国の判断で規制可能とする裁量が各国に与えられている。

また、Annex I に掲げる規制品目の仲介貿易においては、大量破壊兵器用途に使用される旨の

INFORM を受けた場合には許可を、また KNOW 要件により当局への通知が必要とされている。尚、

仲介貿易にあたる AnnexⅠの規制外品目に対する許可要件や、更には通過規制も定められている

が、これはら加盟各国の国内法で任意に規制できるオプションとなっている。

5.4.1.4 懸念顧客情報

EU輸出管理規則では、懸念顧客情報は規定されていないが、各国は、輸出権限被剥奪者、機微

な最終需要者、懸念ある調達行為者、迂回ルート等に関する情報を政府間で共有しているが、非

公表である。尚、イラン制裁等では、個人、法人の規制リストが含まれる場合があり、EEASの WEB

サイトに公表されている。

(https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-homepage/8442/consolidated-list-sanc

tions_en.pdf )

5.4.1.5 制裁関連

EU による制裁は、EU 輸出管理規則とは別に、EU の外交政策の一環として位置付けられ、EU の

共通外交安全保障政策(CFSP)に基づいた制裁として実施されている。尚、最近の大きな動きと

しては、2016年 1月に「Implementation Day(履行の日)」が宣言され、イランの核開発に関す

る制裁が解除・停止されている。日本企業の関心が特に高いイランとロシアへの制裁の現状は次

の通りである。

①イラン制裁

イランと国連安全保障理事会常任理事国及びドイツ(P5+1)は、2015 年 7月 7日にイランの核

開発に関する制裁を解除・停止する包括的共同作業計画(JCPOA)を協定し、2016年 1月 16日に

は、イランが核開発を制限する取り組みを行ったこと IAEA によりが確認されたことを受けて、

JCPOA が施行する「Implementation Day(履行の日)」の到来を宣言した。これにより、イラン

の核開発に関する制裁を解除・停止する Council Decisionが同日公布されている。

②ロシア制裁

対ロシア制裁は数回の延長があり、最新更新は 2016年 12月に行われており、その制裁を 2017

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年 7月末日まで有効としている。ロシアによるクリミア・セバストポリ併合が継続しているため、

クリミア・セバストポリに対する制裁の延長が 2016年 6月に行われ、2017年 6月 23日まで有効

とした。尚、欧州の宇宙航空産業が円滑に機能できるように、ロシア向け制裁を 2015 年 10 月に

一部改正し、EU軍事品目にあたる特定品目の取引を可能となっている。

米国の安全保障貿易管理体系 5.4.2

5.4.2.1 概要

デュアルユース品目の輸出に関する米国輸出管理法(Export Administration Act:EAA)は COCOM

発足に合わせて 1949 年に制定され、その後の改正で 1979 年に現在の形になったが、1994年から

失効中(2000~2001年の一時的復活を除く)である。失効後は、国際緊急経済権限法(International

Emergency Economic Powers Act:IEEPA)を根拠法として、EAA の規則である米国輸出管理規則

(EAR)が運用されている。

デュアルユース品目及び機微度の低い一部の軍事品目は EAR の規制品目リスト(Commerce

Control List:CCL)で規制するが、軍事関連品は武器輸出管理法(Arms Export Control Act:

AECA)や国際武器取引規則(International Traffic in Arms Regulations:ITAR)に基づく United

States Munitions List(UMSL)で規制される。他にも、核関連専用の資機材の規制や特定の国や

個人に対して禁輸措置・金融制裁などの規制を行っている。

5.4.2.2 所管官庁

上記 5.4.1.1 概況に記述の通り、米国では多くの法規による規制が存在し、それらを複数の官

庁が所管規制している。規制対象とその所管官庁は以下の通りである。

①デュアルユース品目及び機微度の低い軍事品目の輸出及び再輸出

- 商務省 産業安全保障局(Bureau of Industry and Security:BIS)

②武器関連資機材の輸出及び再輸出

- 国務省 防衛取引管理局(Directorate of Defense Trade Controls:DDTC)

③核関連資機材・原材料の輸出

- 原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission:NRC)

④核関連技術の輸出

- エネルギー省(Department of Energy:DOE)

⑤特定禁輸国・特定禁輸者への輸出

- 財務省 海外資産管理局(Office of Foreign Assets Control:OFAC)

尚、ある品目やサービスが EARか ITARかどちらで規制されるかを判定するプロセスとして、品目

管轄判定(Commodity Jurisdiction:CJ)があり、これは輸出者の要請に基づき DDTCが関係省庁

との調整機能を担っている。更に、輸出執行各機関の情報共有や調整機能を果たす組織としては、

2012年に国土安全保障省に輸出執行調整センター(Export Enforcement Coordination Center:

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E2C2)が設置されている。

5.4.2.3 規制概況

デュアルユース品目及び機微度の低い軍事品目は、EAR の Part774 Supplement No.1 に CCL が

あり、各規制品目番号の規制理由と Part738 Supplement No.1 のカントリーチャート(Country

Chart)の組み合わせで輸出許可の要否が判断できる。また、武器関連資機材は ITAR の Part121に

規制品目が USML としてリスト化されている。

尚、EAR では許可例外(License Exception:Part740)と組み合わせて、以下のカントリー・

グループ(Country Group)の分類により、規制対象国・地域を指定(Part740 Supplement No.1)

している。

A国群 国際レジーム参加・協力国(地域を含む)

A:1 旧ココム(協力国を含む)

A:2 MTCR(ミサイル技術管理レジーム)

A:3 AG(オーストラリア・グループ)

A:4 NSG(原子力供給国グループ)

A:5 STA36カ国(許可例外 STAを適用可能)

A:6 STA 8カ国(許可例外 STAを制限的に適用可能)

B国群 自由圏(NATO加盟国を含む)

C国群 (現在は該当国なし)

D国群 懸念国・地域(懸念の理由により、以下に分かれる)

D:1 国家安全保障:(旧)共産圏など(イラク、リビアを含む。NATO加盟国を除く)

D:2 核

D:3 化学・生物

D:4 ミサイル

D:5 米国武器禁輸国

E国群 テロ支援国、米国独自の禁輸国

E:1 テロ支援国(イラン、北朝鮮、スーダン、シリア)

E:2 米国独自の禁輸国(キューバ)

(https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/regulation-docs/452-supplement-no-1-to-pa

rt-740-country-groups/file )

米国では、EPCI 規制(Enhanced Proliferation Control Initiative)と呼ばれるキャッチオ

ール規制は 1991 年から開始されており、大量破壊兵器の開発・設計・製造等に利用されることを

知っていた或いは知り得た場合やインフォームを受けた場合には許可が必要となる。

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5.4.2.4 懸念顧客情報

米国は複数の管理当局により懸念顧客情報が公表されており、主なリストは次の通りである。

①商務省管轄

・Denied Persons List:

違反により輸出特権無効となっている者

・Unverified List:

不正転売及び大量破壊兵器拡散のリスクの観点で注意を要する者

・Entity List:

米国の安全保障・外交政策上の利益に反する、又は大量破壊兵器の開等に関与した者

②財務省管轄

・Specially Designated Nationals and Blocked Persons:

国連制裁、米国禁輸・テロ支援国の政府関係機関、関連企業等

③国務省管轄

・Nonproliferation Sanctions:

国務省が管轄している各種制裁法に基づく大量破壊兵器の拡散制裁者

・Debarred Parties:

Arms Export Control Act(AECA)違反者及び同法令の遵守が信頼できない者

5.4.2.5 制裁関連

米国は複数の管理当局により制裁・規制対象国が指定されている。商務省は EAR Part746

Embargoes and Other Special Controls に禁輸国・特定国規制を定め、キューバ、イラク、北朝

鮮、ウクライナのクリミア地域、イラン、シリアを対象としている。

国務省では、ITAR Part 126.1 に武器禁輸国を定めているが、これは商務省の EAR Part 740

Supplement No. 1 の Country Group D:5の国と同一である。対象国はベラルーシ、キューバ、エ

リトリア、イラン、北朝鮮、シリア、ベネズエラ、ミャンマー、中国、スーダン他がある。

財務省では 2017年 2月時点で以下の 28の制裁プログラムを実施している

Active Sanctions Programs Program Last Updated: 1 Balkans-Related Sanctions 02/03/2017 2 Belarus Sanctions 10/18/2016 3 Burundi Sanctions 06/02/2016 4 Central African Republic Sanctions 08/23/2016 5 Counter Narcotics Trafficking Sanctions 02/23/2017 6 Counter Terrorism Sanctions 02/23/2017 7 Cuba Sanctions 01/06/2017 8 Cyber-related Sanctions 02/08/2017 9 Democratic Republic of the Congo-Related Sanctions 12/12/2016

10 Iran Sanctions 02/03/2017 11 Iraq-Related Sanctions 04/04/2016

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12 Lebanon-Related Sanctions 07/30/2010 13 Libya Sanctions 05/13/2016 14 Magnitsky Sanctions 01/09/2017 15 Non-Proliferation Sanctions 02/23/2017 16 North Korea Sanctions 01/11/2017 17 Rough Diamond Trade Controls 05/21/2008 18 Somalia Sanctions 07/05/2012 19 Sudan and Darfur Sanctions 01/13/2017 20 South Sudan-related Sanctions 04/04/2016 21 Syria Sanctions 01/12/2017 22 Transnational Criminal Organizations 02/16/2017 23 Ukraine-/Russia-Related Sanctions 12/20/2016 24 Venezuela-Related Sanctions 07/10/2015 25 Yemen-Related Sanctions 04/14/2015 26 Zimbabwe Sanctions 01/12/2017

(https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/Programs/Pages/Programs.aspx )

尚、EUと同じく、最近の大きな動きは、2016年 1月に「Implementation Day(履行の日)」が宣

言され、イランの核開発に関する制裁が解除・停止されている。日本企業の関心が特に高いイラ

ンとロシアへの制裁の現状は次の通りである。

①イラン制裁

2016 年 1 月にイランの核削減措置の完了が IAEA により確認されたことを受け、国連、EU と並

び、米国も JCPOA で合意された範囲でイランに対する経済制裁を解除し、あわせて米国財務省か

らもイランビジネスを再開する企業向けに「ガイダンス」が発行されたが、その後、新政権への

移行を控える 2016年 12月には、イラン制裁を復活した場合(スナップ・バック)の取り扱いに関

する FAQ(M4&M5)が米国財務省により追加された。主な概要は次の通りである。

https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/Programs/Documents/jcpoa_faqs.pdf

1)米国政府はそのような取引を終了するために 180日間の猶予期間を与える。

2)スナップ・バック前にイランの相手方に提供された製品やサービスの対価が、スナップ・バ

ック時に未払いであった場合、米国政府は非米国人かつ非イラン人がその契約に従った支払

いを受領することを認める。

3)スナップ・バック前にイランの相手方に提供されたローンなどの返済も同様に認める。

また、米国議会では、2016 年末に期限を迎えるイラン制裁法(Iran Sanction Act:ISA) を 10

年間延長する法案が可決、成立している。

②ロシア制裁

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ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の一方的併合を受けて、2014年 5月米国財務省 OFAC

によりウクライナ関連制裁規則(URSR:Ukraine Related Sanctions Regulations)が施行され、

同年 7 月及び 9 月にはロシアの金融機関やエネルギー関連企業などが、取引や輸出の禁止、資金

調達の禁止や資産凍結などの制裁を受けている。2015 年 1月には、大統領令 13685号に基づく EAR

改正によりクリミア地域への輸出・再輸出の規制が強化されている。加えて同年 8 月には

“Yuzhno-Kirinskoye Field, in the Sea of Okhotsk”という海域自体が Entity List に掲載さ

れた。2016 年も引き続き、米国務省・商務省が共に制裁対象者を追加し、規制を強化している。