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平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対策の評価及びその促進等に 関する調査) 調査報告書 平成30年2月

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平成29年度製造基盤技術実態等調査事業

(製造業における安全対策の評価及びその促進等に

関する調査)

調査報告書

平成30年2月

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目次

1 はじめに .......................................................................................................................... 1

2 事業内容 .......................................................................................................................... 2

3 安全対策の経済効果に関する調査 .................................................................................. 3

3.1 検討概要 ................................................................................................................... 3

3.2 一般的な経済効果の評価方法 .................................................................................. 3

3.2.1 概要 ................................................................................................................... 3

3.2.2 経済効果の評価指標 ......................................................................................... 3

3.2.3 経済効果の評価の手順 ...................................................................................... 4

3.3 安全対策の費用・便益を算出するための項目の調査 ............................................. 5

3.3.1 概要 ................................................................................................................... 5

3.3.2 安全対策の費用・便益の項目 ........................................................................... 6

3.3.3 安全対策の定量的把握・予測の方法 .............................................................. 12

3.3.4 安全対策の貨幣価値への換算の方法 .............................................................. 16

3.3.5 まとめ ............................................................................................................. 17

3.4 事故等が発生した際の損失の算出事例の調査 ...................................................... 23

3.4.1 概要 ................................................................................................................. 23

3.4.2 仏ツールーズ化学肥料工場爆発事故 .............................................................. 23

3.4.3 英バンスフィールド油槽所爆発事故 .............................................................. 24

3.5 安全投資に関する経済効果の算定方法に関する考察 ........................................... 26

3.6 効果的な安全投資のあり方の検討 ......................................................................... 26

3.6.1 リスクアセスメントの徹底とリスクアセスメント結果に基づく安全投資 ... 26

3.6.2 オーナーシップの変更と安全対策の関連性 ................................................... 27

4 安全対策異業種意見交換会の開催運営 ......................................................................... 28

4.1 実施概要 ................................................................................................................. 28

4.2 準備 ........................................................................................................................ 29

4.2.1 傍聴者へのプログラム・アンケート調査票の作成 ........................................ 29

4.2.2 傍聴登録の受付・傍聴登録者の管理 .............................................................. 32

4.2.3 会場備品の製作・調達 .................................................................................... 33

4.3 トップ会談当日 ...................................................................................................... 33

4.3.1 会場設営.......................................................................................................... 33

4.3.2 受付での傍聴者対応、講演者・出席者等関係者の案内 ................................. 33

4.4 開催後の整理.......................................................................................................... 34

4.4.1 アンケートの回収・集計 ................................................................................ 34

4.4.2 基調講演者・パネリストの発表内容 .............................................................. 40

5 おわりに ........................................................................................................................ 75

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図目次

図 3.4.1 バンスフィールド油槽所概観(事故後) .................................................... 25

図 4.2.1 作成したプログラム ..................................................................................... 30

図 4.2.2 作成したアンケート調査票 .......................................................................... 31

図 4.2.3 トップ会談に関するホームページ ............................................................... 32

図 4.2.4 当日の檀上の様子 ........................................................................................ 33

図 4.4.1 アンケート集計結果(プログラムの満足度及び理解度) .......................... 34

図 4.4.2 業種別割合 ................................................................................................... 35

図 4.4.3 アンケート集計結果(業種:鉱業)(プログラムの満足度及び理解度) ... 36

図 4.4.4 アンケート集計結果(業種:鉄鋼)(プログラムの満足度及び理解度) ... 37

図 4.4.5 アンケート集計結果(業種:化学工業)(プログラムの満足度及び理解度)

............................................................................................................................... 38

図 4.4.6 アンケート集計結果(業種:パルプ・紙・紙加工品) (プログラムの満足度

及び理解度).......................................................................................................... 39

図 4.4.7 製造業安全対策に関するトップ会談「声明文」 ......................................... 74

表目次

表 3.3.1 調査対象文献 .................................................................................................. 5

表 3.3.2 被災者への補償 .............................................................................................. 7

表 3.3.3 高圧ガス保安法上の優遇措置 ...................................................................... 10

表 3.3.4 事故・災害の想定の方法 ............................................................................. 12

表 3.3.5 安全対策の便益の項目、定量的把握・予測の方法、貨幣価値への換算の方法

一覧 ........................................................................................................................ 18

表 3.3.6 安全対策の費用の項目、定量的把握・予測の方法、貨幣価値への換算の方法

一覧 ........................................................................................................................ 22

表 3.4.1 Azote 化学肥料工場の事故発生後 6 ヵ月間の被害状況 .............................. 23

表 3.4.2 Azote 化学肥料工場事故の被害額あるいは事故費用等............................... 24

表 3.4.3 バンスフィールド油槽所の被害額あるいは事故費用等 .............................. 25

表 4.1.1 トップ会談開催概要 ..................................................................................... 28

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1 はじめに

製造業における死亡事故は長期的には減少傾向にあるものの、近年、度数率・強度率は一進一

退となっている。そのため、更なる事故の減少を目指すためには、既存の取組の改善策や新たに

必要となる取組の検討が必要となっているところである。

このような背景の下、平成 29 年 3 月には製造業における安全対策の更なる強化を図るため、官

民が連携し、経営層の参画の下、業種の垣根を越え、現下の安全に関わる事業環境の変化に対す

る認識を分析、共有するとともに、既存の取組の改善策及び新たに必要となる取組を検討し、企

業における現場への普及を推進することを目的とした製造業安全対策官民協議会1(以下、「官民

協議会」という。)が立ち上がったところである。さらに、平成 29 年 6 月に官民協議会下のワー

キンググループの第 1 回目が開催され、個別に検討すべき項目についての整理がなされた。具体

的には

① 異業種の社長同士による座談会の実施

② 今秋に策定予定の労働安全衛生マネジメントシステムの JIS に対する、意見の反映

③ リスクアセスメントの標準手法の開発及び設備点検・補修・更新基準の共通化

④ 安全対策の経済・社会的効果の分析

⑤ 産業界における安全教育の体系的プログラムの策定

の 5 点が今後の検討項目となっている。

本事業では、上記検討項目のうち、①異業種の社長同士による座談会及び④安全対策の経済・

社会的効果の分析について、官民協議会及びその下のワーキンググループ等とも連携しつつ行う

ものとする。また、これらを行うことにより、経営者による安全対策への投資や安全に関わる人

への評価を適切に行うための動機付けを行うと共にそれらの方法についても提案を行うこととす

る。

1 製造業安全対策官民協議会:http://www.jisha.or.jp/seizogyo-kyogikai/index.html

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2 事業内容

(1) 安全対策の経済効果に関する調査

製造業において労働災害及び設備事故(以下、「事故等」という。)が発生した際には設備の停

止による生産の減少のみならずよって、経営層から見ると、事故等への適切な対策や投資を行う

ことは一時的な支出となるものの、長期的視点に立てば自社にとっての利益に資するものである

と考えられる。

本事業では経済効果の算出に関する文献・事例調査とそれらを踏まえた算定方法等について考

察を行った。具体的には、

i 事故等が発生した際の損失を算出するために必要な項目の洗い出しとして一般的な経済効

果の評価方法の整理

ii 安全対策の費用・便益を算出するための項目の調査

iii 過去の事故等が発生した際の損失の算出事例の調査

iv i~iii を踏まえた安全対策への投資(以下、「安全投資」という。)に関する経済効果の算定

方法に関する考察

v iv を踏まえた効果的な安全投資のあり方の検討

を行った。

(2) 安全対策異業種意見交換会の開催運営

企業における安全対策を十分に行うためには、経営トップが安全対策の重要性を認識した上で、

投資判断や安全に従事する従業員への適切な評価がなされる必要がある。

本事業にて平成 29 年 9 月 28 日に開催した日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会等の会長同士によ

る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

・ 傍聴者へのアンケート調査票の作成

・ 傍聴登録の受付・傍聴登録者の管理

・ 会場備品の製作・調達

・ 会場設営

・ 当日の受付での傍聴者対応、講演者・出席者等関係者の案内

・ アンケート調査票の配布及びアンケートの回収・集計

・ 座談会における議論の取りまとめ資料の作成

なお、会場の確保、座談会の講演者及び発言内容等の調整は経済産業省製造産業局金属課が行

った。

(3) 報告書の作成

(1)及び(2)を踏まえ、実施内容を取りまとめた調査報告書を作成した。

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3 安全対策の経済効果に関する調査

3.1 検討概要

製造業において事故等が発生した際には設備の停止による生産機会の喪失のみならず、事故原

因の調査費用など様々な損失が想定される。安全対策を行うことは一時的な支出となるものの、

長期的視点に立てば、安全対策を講じることによって事故等が発生した場合に発生する損失を回

避するという自社にとっての利益に資するもの、すなわち正の経済効果をもたらす投資であると

考えられる。

本調査では、一般的な経済効果の評価方法の整理、安全投資による経済効果の算出に関する文

献・事例調査とそれらを踏まえた安全投資に係る経済効果の算定方法に関する考察、効果的な安

全投資のあり方の検討を行った。

3.2 一般的な経済効果の評価方法

3.2.1 概要

調査の対象である安全対策の経済効果に関する基礎調査として、本節では、一般的な経済効果

の評価方法について示す。

3.2.2 経済効果の評価指標

一般的な経済効果(投資対効果、費用便益)の評価は、ある方策を実施した場合に自己あるい

は社会にもたらされる便益(B)と方策実施のための費用(C)を貨幣価値で評価し、便益と費用

の比いわゆる便益費用比(B/C)によって方策の実施を評価するものである。

評価の指標には、便益と費用の差である純便益(B − C)もあるが、政府(中央省庁や地方自治

体)が行っている経済効果の評価では便益費用比を用いることが多く2、中央労働災害防止協会(以

下、「中災防」という。)が過去に実施した調査3でも便益費用比を用いている。

多くの場合、ある方策の実施により便益や費用は数年間から数十年間にわたって発生する。発

生期間をn年間、現時点からt年後に発生する便益を𝐵𝑡、費用を𝐶𝑡と表す。長期的に発生する経済効

果を評価するには、将来の各時点(t年後)において発生する便益と費用を、現在時点で評価した

値いわゆる割引現在価値に変換した上で合計する。その変換には割引率(r)が使われる4。

ある方策を実施することで将来n年間にわたって発生する便益費用比は以下のように表される。

2 長峯:BASIC 公共政策学 第 11 巻 費用対効果 ミネルヴァ書房(2014) 3 中央労働災害防止協会:安全対策の費用対効果-企業の安全対策費の現状とその効果の分析-

(2000.3)、災害コストの実際-安全対策の費用対効果に関する調査研究委員会報告書-

(2004.3) 4 国内の各府省の評価マニュアル等では社会的割引率を「4%」と設定している例が多い。ま

た、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会が 2011 年に実施した発電コスト試算では「0%、

1%、3%、5%」が使われている。

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4

B/C =∑

𝐵𝑡(1 + 𝑟)𝑡−1

𝑛𝑡=1

∑𝐶𝑡

(1 + 𝑟)𝑡−1𝑛𝑡=1

また、同期間の純便益は以下のように表される。

B − C =∑𝐵𝑡 − 𝐶𝑡

(1 + 𝑟)𝑡−1

𝑛

𝑡=1

3.2.3 経済効果の評価の手順

一般的な経済効果の手順は以下のような手順で行われる。

(1) 方策の提示

現状におけるある問題・課題の解決や利益の伸張のための方策が提案される。

(2) 費用・便益の項目のリストアップと範囲の設定

次に、分析を進めるために、方策がどのような費用・便益を発生させるかを予想し、リストア

ップする。

同時に、費用・便益を算出する尺度や期間あるいは範囲を設定する。起こりうるすべての費用・

便益を考慮し把握することが望ましいが、現実問題として以下のような問題がある。

把握が困難

把握が可能であっても膨大な時間とマンパワーが必要

費用・便益の及ぶ範囲(ステークホルダー)の設定

いずれにしても、意味のある費用・便益の項目とその期間や範囲を設定することが重要と考え

られる。

(3) 費用・便益の定量的把握・予測

費用・便益の項目についてリストアップの上範囲を設定し、その内容を定量的に把握する。本

段階での情報の量と信頼性が、経済効果の評価の精度に最も影響を及ぼす。評価結果の信頼性向

上のためには、情報源となる調査や出典を明記することが重要となる。

一方、本段階で、情報の把握あるいは予測に不確実性を多く含むために、費用・便益の項目の

捨象について判断する必要が生じる場合がある。

(4) 費用・便益の貨幣価値への換算

方策がもたらす可能性がある費用・便益を把握あるいは予測し、分析のための準備が整ったと

ころで、貨幣価値への換算を行う。この算出段階では、貨幣価値への換算が容易でない項目や適

さない項目もあるため、多くの仮定を置くことになる場合が多い。

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また、換算・算出のための手法等について公開し、算出の再現性・トレーサビリティを確保す

ることが必要である。

(5) 費用・便益の割引現在価値の算出

長期的な便益を導出するためには、想定した期間に渡って把握・予測した費用・便益の貨幣換

算値を現在価値へと置き換える作業が最後に必要である。そのためには前述のとおり割引率(r)

を仮定しなければならない。

(1)~(5)の作業により、算出結果から方策の是非等を評価することが可能となる。また、(2)~(4)

の作業が方策ごとに異なる、方策固有の内容となる。

(6) 感度分析の実施

(1)~(5)の作業過程では、多くの仮定や予測を行うことが多く、最終的な評価結果である費用・

便益の割引現在価値は、それら仮定や予測に影響する。

このため、最終的な算出結果に重大な影響を与えると考えられる仮定、例えば割引率(r)や将

来の需要予測値等について、仮定した値を変化させた場合に最終的な算出結果がどう変化するか

を見る作業である「感度分析」が必要となる。

本段階では、算出結果がどれほど仮定や予測に影響を受けるかを、感度分析を通じて判断する

ことが必要になる。仮定の内容によって結果が変化する場合は、仮定と算出結果とをセットで方

策案として提示することも検討するべきである。

3.3 安全対策の費用・便益を算出するための項目の調査

3.3.1 概要

過去の調査・研究事例を対象に、安全対策の費用・便益を算出するための①項目、②定量的把

握・予測の方法、③貨幣価値への換算の方法について調査を行った。表 3.3.1 に調査対象文献を

示す。

表 3.3.1 調査対象文献

No 著者(発行年) 文献名 掲載誌等

1 中央労働災害防止協会

(2000)

安全対策の費用対効果-企業の安全対

策費の現状とその効果の分析-

2 中央労働災害防止協会

(2001)

安全対策のもたらす効果-安全対策と

災害防止、生産性向上等との関係-

3 中央労働災害防止協会

(2004)

災害コストの実際-安全対策の費用対

効果に関する調査研究委員会報告書-

4 中央労働災害防止協会

(2011)

労働安全衛生への取組が取引に及ぼす

影響についての調査研究報告書

5 宮川高志(2012) 産業安全の推進への課題と方策 IEICE Fundamentals

Review Vol.6 No.2

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6

No 著者(発行年) 文献名 掲載誌等

6 牧野良治(2014) 安全対策の費用便益分析に関する最新

の研究と課題

安全工学 Vol.32 No.3

7 牧野良治、小川哲彦

(2017)

安全対策に関する会計学的検討 安全工学 Vol.56 No.2

8 高尾義行(2017) 製造業の事故による損害額の算定方法

-損害保険の見地より-

製造業安全対策官民協議

会 第 2 回サブワーキング

チーム(田村チーム)資料

9 高木元也(2012) 安全は利益を生む-労働災害損失コス

トの算定法-

労働調査会

10 国土交通省(2009) 公共事業評価の費用便益分析に関する

技術指針(共通編)

11 製造業安全対策官民協

議会サブワーキンググ

ループ(田村チーム)

(2017)

安全対策の経済効果に関する企業向け

アンケート(案)

製造業安全対策官民協議

会 第 3 回サブワーキング

チーム(田村チーム)資

3.3.2 安全対策の費用・便益の項目

(1) 安全対策の便益

(a) 事故等が発生した際の損失の回避による便益

安全対策の便益、主に安全対策により事故等が発生した際の損失を回避することができた事故

費用である。項目について、表 3.3.1 の資料 1~3、5~9 及び 11 で検討されており、以下に取り

まとめた項目について示す。なお、保険でカバーできる項目については、支払われる保険金を事

故費用(損失の回避による便益)と考えることもできる。

① 建物や設備等の損失

建物、装置・設備、現場に保管していた原材料や完成品といった資産が爆発や火災等により滅

失する損害である。

建物、装置・設備については修理、更新に要する費用が該当し、それ以外では原材料や消火薬

剤等の再取得費用、消火活動に使用し損傷したものの再取得費用、完成品を販売することで得る

利益が該当する。また、事故後の清掃や罹災した残存物の取片付に必要な費用も含む。

② 救護・医療費

事故現場での応急処置や病院への搬送など医療として緊急に生じる費用。入院中の雑費、傷病

見舞金、事故対応によって消費した、あるいは事故によって損傷した備え付けの医療用器具の入

れ替え費用等も含む。

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③ 給与支払い

労働者災害補償保険からは給付されない休業 1~3 日目の休業補償であり、平均賃金の 60%を

労働者に支払う。

④ 被災者への補償(民事損害賠償)

医療費や休業中の休業補償とは別に発生する以下のような賠償責任。

表 3.3.2 被災者への補償

項目 概要

障害手当金 法定の障害補償費を含め、被災労働者に障害が残った場合に給付する金額の総

弔慰金 会社の規定、または事業主の決定による被災労働者の死亡に際し弔慰金として

遺族に支給した金額の総額

葬祭料 法定の葬祭料を含め、被災労働者が死亡した場合に行った葬祭にかかった金額

の総額

遺族補償費 法定の遺族補償費を含め、被災労働者が死亡した場合に給付された金額の総額

退職金割増額 会社の規定により業務上の死亡、または傷病に基づく退職に対し退職金を割増

する場合、その増加額

⑤ 訴訟費用

示談費用、弁護士費用、訴訟スタッフの費用。

⑥ 既存従業員への割増賃金

事故の影響で従業員数が一時的に減った場合に、新規従業員を雇用せず生産規模を維持する場

合に事業者が労働者に支払う。

⑦ 新規従業員補填に係る費用

事故の影響で従業員数が一時的に減った場合に、生産規模を維持するために新規従業員を雇用

する場合の費用であり、事務費用や新人教育に要する人件費等を含む。

⑧ 生産停滞

以下のような形態がある。

緊急時の設備停止、設備の使用停止命令が解除されない間の生産機会喪失により発生する

費用(生産ロス。生産計画との差額)

取引相手からの注文キャンセルによる失注額(受注機会の逸失)・値下げ要求・遅延罰金

代替生産の外注費、中間製品等の外部からの購入費用、自社他工場からの転送費用

建物、装置・設備等の再稼働に要する点検、試運転費用

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仮修理費用

仮設物の設置、撤去費用

事故による生産減少をリカバーするために追加的にかかる費用、復旧を急ぐための協力会

社等の割増料金

現場の均衡が崩れることによる生産性(時間当たりの製品の生産個数)の低下

再発防止に係る費用(安全委員会等の活動に要する講師謝金及びその他の経費、従業員の

災害再発防止活動参加の増加に伴う生産ロス)

注文キャンセルによる失注額は、過去の年間受注額を、受注を行うことのできない期間で案分

して換算する方法がある。

⑨ 事故調査費用

事故原因や損害範囲の調査実施、報告書作成、行政対応、事故調査委員への謝金、弁護士を雇

用する場合の費用等の事故調査に要する費用であり、主に人件費から成る。

⑩ 罰金、課徴金、過料

業務上過失致死罪や業務上過失傷害罪が適用され罰金を科せられた場合に発生し、追徴金、過

料といった行政罰が科せられる場合もある。

⑪ 保険料率の上昇

通常、保険金の支払いを受けるとその後の保険料が上昇する。この保険料上昇分を事故費用と

含めることができる。

⑫ 組織トップの対応費用

記者会見等を含む組織トップによる様々な事故対応に必要な費用。

⑬ その他計測が困難なもの

事故により発生すると考えられるが、計測な困難なものとして以下が挙げられる。

離退職率増加

企業イメージの悪化(株価時価総額の下落、風評による売上減も含む)

従業員のモチベーションやモラルの低下

(b) 安全対策がもたらす正の便益

安全対策がもたらす正の便益として以下のようなものが挙げられる。これらは、定量的な把握

や貨幣価値への変換が必要な場合が多い。

① 生産性向上

安全対策の要素を持つ設備投資、安全対策に係る諸活動の推進等により、工程の短縮、原材料

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の歩留率の向上、機械設備の不良箇所の早期発見による修繕頻度の減少、設備稼働率の向上によ

り、結果として生産性が向上する。

② 品質向上

安全活動により製品不良率が改善することが、アンケート調査に基づく統計で示されている。

③ 製造現場環境向上

従業員のモチベーションやモラルの向上、職場の上下関係及び仲間同士の人間関係が向上する。

④ 企業イメージ向上

業界や地域社会における企業イメージや信用向上等、社会的評価が向上し、人材募集の容易化

も促進する。

⑤ 労働損失日数の減少

安全対策の活発化等の製造現場環境改善に伴い、遅刻・欠勤・離退職率の減少等による労働損

失日数が減少する。

⑥ 取引への影響

中災防が平成 23 年に、労働安全衛生への取組が取引に及ぼす影響についてアンケート調査を

実施している(表 3.3.1 の No.4)。調査結果として、安全対策が取引に間接的に影響を及ぼすこ

とが把握されている。

発注先に安全衛生の取組を求めることがある事業場は 69%である。業種別にみると、建設

業で 95%、製造業で約 64%、サービス業で 53%であり、業種によって差が見られる。

製品の受注において、受注側の約 35%が発注元から安全衛生の取組を求められている。特

に建設業において、労働安全衛生の取組が受注の必須条件とされているケースが多く見ら

れる(アンケート調査の自由記述に基づく)。

⑦ 行政機関からのインセンティブ

(i) 労働安全衛生マネジメントシステム

平成 17 年 11 月の労働安全衛生法の一部改正により、平成 18 年 4 月から事業場におけるリス

クアセスメントを柱とする労働安全衛生マネジメントシステム(以下、「OSHMS」という。)の実

施が努力義務化されている。OSHMS の導入により以下のようなポジティブ・インセンティブが

付与される。

リスクアセスメントと OSHMS を実施している事業場については、一定の要件を満たす場

合、労働基準監督署長の認定を受け、法令に基づく届出5の一部について免除する制度が導

5 労働安全衛生法 88 条で規定されている機械等の設置、移転等に関する計画の届出

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入されている。

中央労働災害防止協会は、JISHA 方式適格 OSHMS 認定の制度6を導入しており、OSHMS

の実施状況が基準に適合している事業場については、評価認定機関から認定を受けること

ができる。認定により、一部の損害保険会社が扱う労災上乗せ保険等の保険料が一定率で

割引される。

OSHMS 導入が入札参加等の条件となっている等のアンケート調査結果7がある。

また、建設業では、OSHMS を実施している事業場であって、建設業労働災害防止協会が行う

認定を受けた者は、一部の地方公共団体等が発注する建設工事の入札参加資格審査、入札評価時

に加点を受けることができる8。

(ii) 高圧ガス保安法上の認定事業制度

一定の要件を満たす事業場に対し、高圧ガス保安上の優遇措置が与えられる。特に、平成 29 年

4 月 1 日に、高圧ガス保安法上の新認定事業制度である「スーパー認定事業所」を施行し、AI・

ビッグデータ解析・IoT 技術等を導入し、保安力を向上させた企業に対し、ポジティブ・インセン

ティブを付与する制度を開始した。

「スーパー認定事業所」を含めた、高圧ガス保安法上の優遇措置を表 3.3.3 に示す。

表 3.3.3 高圧ガス保安法上の優遇措置

事業所種類 概要

事業所 高圧ガスを製造・使用する事業所は毎年都道府県による定期検査等を

受ける義務が課せられる。

認定事業所 一定の認定要件を満たす事業所には、自主点検や連続運転期間を 4 年

に延長などの措置を認める。

スーパー認定事業所 「認定事業所」の要件に加え、IoT・ビッグデータ等により常時監視等

を行う「スーパー認定事業所」には、設備変更手続・検査手法の柔軟化

に加え、連続運転期間を最長 8 年とし、その間でプラントの状態に応

じた検査の実施を認める。

また、「スーパー認定事業所」のプラント所有企業における定量的な経済効果が導かれている9。

連続運転期間の延長による効果

6 http://www.jisha.or.jp/oshms/certification/index.html (2017.11.9 閲覧)

7 製造業安全対策官⺠協議会 サブワーキンググループ向殿チーム検討状況 第 2 回製造業安全

対策官民協議会 資料(2017.10.16) 8 例えば、国土交通省入州地方整備局(港湾空港関係):工事の総合評価落札方式の評価項目と

配点の考え方【平成 23 年度 4 月版】(2011.4) 9 経済産業省:日本経済再生本部 未来投資会議 構造改革徹底推進会合「企業関連制度改革・産

業構造改革」会合(規制改革、行政手続の簡素化、IT 化)第 1 回資料(2016.12.12)

Page 15: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

11

1 事業所あたり約 4 億円/年の逸失利益の回復が可能(便益)

1 事業所あたり約 8 億円/年の検査費削減が可能(政策順守の費用削減)

プラント設備変更時の行政コストが 2/3 削減可能(行政手続の費用削減)

⑧ ESG 投資

売上高や利益といった財務の分析だけでなく環境(Environment)、社会(Social)、企業統治

(Governance)の 3 分野に対する企業の取組を踏まえて投資先を選択する、「ESG 投資」が広が

りを見せている。分野ごとに具体的な評価項目が分かれており、特に「社会(Social)」の評価項

目は地域社会貢献や女性活躍推進のほか、労働環境改善等が含まれている10。安全対策は、「社会

(Social)」の評価項目として捉えることができる。

ESG 投資は企業の社会的責任(CSR)に重点を置く社会的責任投資(SRI)の考えが源流にあ

り、平成 18 年に国連は「責任投資原則」を提唱し、機関投資家に ESG の視点を取り込んだ投資

を求めた。現在では、世界で1,700以上の機関投資家が署名しており、日本ではGPIF(Government

Pension Investment Fund(年金積立金管理運用独立法人))が平成 27 年に署名した。

ESG の投資資金は膨らみ続けており、世界の ESG 投資額の統計を集計している国際団体の

GSIA(Global Sustainable Investment Alliance(グローバル戦略投資アライアンス))の調査11

によると、投資残高は平成 28 年時点で 22 兆 8,900 億ドルであり、平成 26 年比で 25%増加して

いる。日本では GPIF が平成 29 年 6 月までに 1 兆円を投資しており、将来的には 3 兆円まで投

じる予定である12。

安全対策への取組に積極的な企業への投資活動の実態は不明であるが、今後の動向が注目され

る。

(2) 安全対策の費用

安全対策に必要な費用の算出は便益の算出に比べると比較的単純と考えられ、以下の費用を積

算することにより算出することができる。

(a) 初期費用

安全対策策定に要する費用で、安全標準書の作成、対策の実施に必要な教育・訓練、ガイドラ

イン変更、災害分析、リスクアセスメント等に要する費用であり、主に人件費から成る。

(b) 設置費用

装置・設備の購入や設置に要する費用、並びに設置作業中に近隣設備の稼働を停止する場合に

発生する生産ロス等も含む。

10 MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数の構成銘柄(2017.6)によると、ダイキン工

業、オムロン、積水化学工業、住友化学等が、ESG 格付けで最上位の「AAA」を獲得してい

る。 11 GSIA:Global Sustainable Investment Review 2016 12 日本経済新聞:ESG 投資 市場の 3 割に(2017.10.18)

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12

(c) 運転費用及び点検費用

装置・設備の運転及び点検に要する費用であり、点検については、人件費に加え点検中に設備

の稼働を停止することによる生産ロス等も含む。

(d) その他

その他、以下のような、安全対策施行後に恒常的・定期的に発生する費用が考えられる。

安全行事、未然防止活動の実施あるいは増加

技能向上訓練、資格取得奨励

マネジメントシステムの運用(安全管理計画、目標の策定等)

広報等の対外活動

外部機関の審査・診断

3.3.3 安全対策の定量的把握・予測の方法

表 3.3.1 の文献を参考とした、定量的把握・予測の方法を以下に示す。以下の方法のいずれの

段階においても作業の再現性・トレーサビリティを確保するべく、記録・参照した資料・情報源

を明確にし、アクセスが可能な状態にすることが重要である。

(1) 発生した事故・災害の想定

費用便益分析の場合、具体的には、事故・災害の発生原因・場所から、被害に係る範囲(利害関

係者)・規模(事業場、作業員、周辺地域)・期間を設定する13。

設定内容は不確実さが含まれるため、個別の事例に関する評価あるいは全ての事故・災害を考

慮した期待値の評価等、評価の目的に応じて評価者が適切に選択する必要がある。

例えば、設定方法の考え方には表 3.3.4 に示す方法がある。

表 3.3.4 事故・災害の想定の方法

方法 文献等

複数の企業を対象に実施したアンケート

調査結果の平均値を使用

・中災防(2000、2004)(表 3.3.1 の No.1、3)

事故・災害の規模に応じた発生頻度を考慮 ・牧野(2014)(表 3.3.1 の No.6)

・国土交通省(2009)(表 3.3.1 の No.10)

事業場における個別の事例を想定 ・高木(2012)(表 3.3.1 の No.9)

事業場における最大規模を想定 ・宮川(2012)(表 3.3.1 の No.5)

以下に 4 つの方法の概要を示す。

13 過去に発生した単一事故あるいは一定期間内の全事故の評価を事故に行う場合は、事故調査

報告書等の記録に基づき設定する。

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13

①複数の企業を対象に実施したアンケート調査結果の平均値を用いる方法

複数の企業に対し、実際に発生した事故・災害について被害に係る範囲(利害関係者)・規模

(事業場、作業員、周辺地域)・期間をアンケート調査し、その結果の平均を取ることにより、

事故・災害を評価するものである。

中災防(2000、2004)(表 3.3.1 の No.1、3)では、1,368 事業場を対象としてアンケート調

査を実施しており有効回答として 139 事業場(製造業 127 事業場、非製造業 12 事業場)を対

象に集計・分析を行っている。事業場の業種には、化学工業、一般機械器具、金属製品、電気機

械器具、輸送用機械器具などが含まれており、これら業種を区別せず平均化し分析を行ってい

る。なお、分析結果によると、「安全対策に要する費用」と「安全対策によって得られる災害回

避や生産性向上などの効果」の比である企業における安全に係る費用対効果比は、1:2.7 と試算

している。ここで、「安全対策に要する費用」と「安全対策によって得られる災害回避や生産性

向上などの効果」の値について、アンケート調査の回答結果を平均化した値が用いられている。

②事故・災害の規模に応じた発生頻度を考慮する方法

事故・災害の発生は不確実であり、確率を伴う事象(以下、「確率事象」という。)である。こ

のような確率事象を扱う場合、事故・災害が起きた場合に発生する損害だけでなく、事故・災

害が起きる頻度を考慮する「リスク」の考え方がある。リスクの考え方を用いることにより、

リスク R を、想定する事故・災害の発生確率 P と事故・災害の影響(ハザード)H を掛け合わ

せたものと定義し、安全対策の効果の評価に用いるものである。

発生頻度を考慮することにより、事故・災害の損害の想定を適切に評価することができる。

例えば、牧野(2014)(表 3.3.1 の No.6)では、「想定する事故・災害が実際に発生した場合

の損害」と当該の「事故・災害の発生確率」を乗じた値をリスク R とし、安全対策実施前後の

R の差分を取ることにより安全対策の効果として評価することができるとしている。

国土交通省(2009)(表 3.3.1 の No.10)では、以下のような防災事業の経済効果の評価とし

て、防災事業の便益のうち「期待被害額」は「人的損失額と物的損失額の和」に「事故・災害の

発生確率」を乗じた値とするとしている。

③事業場における個別の事故・災害の規模を想定する方法

高木(2012)(表 3.3.1 の No.9)では、建設工事現場を対象とした労働災害の損失額を算定

するための「労働災害損失算定ソフト」を開発・提示している。具体的な算定対象範囲は、「建

設工事現場で発生した労働災害に起因する直接的・間接的な企業の支出増・負担増」としてい

る。同ソフトは、事故・災害の規模を個別に想定するようになっており、具体的には、被災者

の所属会社の請負階層、被災者の職種、被災の状況(死亡/骨折/その他の障害の別)等を想

定し、具体的な内容・数値を入力することにより、入力内容・数値に応じた労働災害に起因す

る直接的・間接的な企業の支出増・負担増を算定できるようになっている。

④事業場における最大規模を想定する方法

宮川(2012)(表 3.3.1 の No.5)では、安全対策の費用と、導入しないことによる最大の災

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14

害費用から、対投資効果の有効性を実証できるとしている。

(2) 費用・便益の項目の選択

想定した事故・災害から、費用・便益の項目を選択する。

(3) 項目ごとのデータの収集

選択した費用・便益の項目に対してのデータを収集する。この時点で、市場で貨幣により取引

が行われている項目は、可能な限り貨幣価値のデータを収集する。

(a) 費用に関するデータ収集

一般的に費用の算出は、社内記録や経理システム等の社内で利用可能なデータを用いることが

できる。

しかし、各企業が個別に管理・分析している安全対策に係る情報しか利用できない場合は、個

別企業あたりでは事故発生頻度が必ずしも高くないため、分析に十分なデータを蓄積するのに長

時間を要すると考えられ、安全対策の効果を分析することは簡単ではない。

このことを踏まえ、牧野・小川(2017)(表 3.3.1 の No.7)では、安全対策の費用や実際に事

故が発生した際の損害の事故評価額といった情報を企業横断的に集約する「企業横断的データベ

ース」と、それらのデータを分析することができれば安全管理に関する有効な知見を得られる可

能性を示し、そのために解決が必要な課題を示している。

牧野・小川(2017)(表 3.3.1 の No.7)では、企業横断的データベースがもたらすと考えられ

るメリットとして、以下の 3 点を指摘している。

①安全対策の効果の検証

安全対策に要する費用や、事故が発生した場合の予想損害額、あるいは実際に事故が発生し

た後の損害の事後評価額といった情報(以下、「安全対策に係る情報」という。)は、一般的に

各企業が個別に管理・分析している。前述のとおり、各社個別の安全対策に係る情報以外利用

できない場合は、安全対策の効果を分析することは簡単ではないとしている。

企業横断的に安全対策に係る情報を集約することができるならば、産業レベルでは、サンプ

ル数が増加し、結果として統計的にデータ分析することが可能になるとしている。

②経営者や作業者への動機付けの手段

安全対策に係る情報が明らかにされ、安全対策と効果の関係性を明らかにすることができれ

ば、安全対策実施のモチベーションアップを図る一手段となるとしている。

③企業を社会的に評価する手段

自社の安全活動について積極的に社会に発信することは、企業外部の地域住民、投資家、就

職を考えている学生等(以下、「企業外部の様々なステークホルダー」という。)から正当な社

会的評価を得るための手段となり得る。その際、各ステークホルダーにとっては各社の安全対

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15

策の取り組み内容やそれに要した費用等を客観的に比較できることが重要と指摘している。

牧野・小川(2017)(表 3.3.1 の No.7)では、「企業横断的データベース」に係る課題として、

各企業から集約する安全対策に係る情報が比較可能なものでなければ有用な情報を得ることがで

きないことをあげている。すなわち、安全対策に係る情報に含まれる各値の標準的な計算方法が

確立され、各企業がその標準の方法に従って計算することによって企業間でデータの質がそろう

という前提がなければ①~③のメリットは得られない。

さらに牧野・小川(2017)(表 3.3.1 の No.7)では、データは主として企業活動に関する貨幣

評価額によって示されることから会計学の知見を利用することが有益としている。

会計は、経済主体の経済活動を一定の方法で記録し、その記録が集約された情報を伝達するプ

ロセスであり、さまざまな経済主体の中で企業に焦点を当てたものが企業会計である。企業会計

では、財務会計及び管理会計がある。

①財務会計

財務会計は企業外部の様々なステークホルダーの意思決定に役立つ会計情報を提供する企業

会計の一分野であり、会計情報を伝達する手段には財務諸表がある。財務諸表には、企業のあ

る一時点の財政状態(資産、負債、純資産)を示す貸借対照表、企業の一定期間の経営成績(収

益、費用)を示す損益計算書がある。

②管理会計

管理会計は、経営者、従業員等の企業内部のステークホルダーの意思決定に役立つ会計情報

を提供する一分野であり、貨幣的のみならず物量的に役立つ会計情報であるかが価値判断基準

となる。

牧野・小川(2017)(表 3.3.1 の No.7)では、他の分野で既に取り組まれている会計的な管理

手法として、環境会計(企業が環境保全のために投じた費用と効果を数値化して評価)、健康会計

(企業が従業員の健康増進のために投じた費用と効果を数値化して評価)及び防災会計(企業が

防災対策のために投じた費用と効果を数値化して評価)について概説している。安全対策に係る

情報のうち安全対策の費用は、企業が実際に支出するものであるため、その金額を合計すること

により比較的容易に算出できる。その際、安全対策の費用の評価のハードルとして「複合コスト」

(ある目的のために要した費用が、想定した目的を含む複数の効果をもたらすような費用)の問

題を指摘しており、環境会計では一定の基準にしたがって按分して算出していることを紹介して

いる。また、安全対策に要する費用や、事故が発生した場合の事故費用の情報は損益計算書に含

まれるが、一般的に安全対策や事故費用が勘定科目として個別に記載されることはなく、各種の

様々な勘定科目に分散されており、「安全対策に支出した費用を把握するためには、そのための科

目を作成し管理する必要がある」としている。

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16

(b) 便益に関するデータ収集

便益については、一般的に以下のような方法が考えられ、便益の項目に応じて最適な方法を選

択することが重要である。

・ 社内データから、原材料費、完成品 1 個あたりの利益、各種罰金といった単価を把握し事

故・災害の規模に応じて総額を計算する方法。

・ 保険で填補可能な項目の保険金額を把握する方法。

・ 過去に発生した事故調査報告書や複数の企業を対象に実施したアンケート調査結果といっ

た外部の情報を参照する方法。

・ 必要に応じて新規にデータを仮定し作成する方法。この場合は仮定の内容や根拠について

明確にしておく必要がある。

項目によっては、(1)(a)⑬や(b) の一部項目のように数量の単純集計ができず、定量的な把握が

困難なものがある。そのような項目は「デルファイ法」を用いることにより、定量化を行うこと

ができる。

デルファイ法は、アンケート等によりある質問項目に関して専門家(安全対策の場合は事業場

の安全管理者等)に回答をしてもらい、次回には前回の回答事業場の集計結果を示して、それを

参考とした上で再度回答を依頼するものである。これを繰り返すことにより、専門家の意見が収

斂していくことが期待される。例えば、中災防(2000、2004)(表 3.3.1 の No.1、3)では、安全

対策がもたらす正の便益の定量化にデルファイ法を用いている。

また、「企業イメージ」の悪化あるいは向上については、牧野(2014、2017)(表 3.3.1 の No.6、

7)が示すような、事故・災害発生後あるいは安全対策導入後の株式価値の変動の統計情報をそれ

ぞれ用いる方法もある。この株式価値変動の統計情報は、ESG 投資の拡大の影響の評価にも用い

ることが考えられる。

3.3.4 安全対策の貨幣価値への換算の方法

費用・便益の項目のうち、貨幣で直接定量化できる、あるいは単価に定量化した数量を乗算す

ることにより定量化ができる項目は、直接貨幣価値への換算を行う。

市場で貨幣により取引が行われない項目に対する貨幣価値への換算の方法は、仮想市場評価法

(CVM:Contingent Valuation Method)の一つである WTP(Willingness To Pay)法14がある。

WTP は、実際に支払いを行う人(安全対策の場合は経営者や安全管理者等)に、当該項目に対し

て「いくらの価値を付けるか」をアンケート等により質問し判断することにより便益を計測する

手法である。中災防(2000、2004)(表 3.3.1 の No.1、3)では、WTP 法にデルファイ法を組み

合わせることにより、定量結果を収斂させ、回帰分析を行っている。

一方、WTP を含む CVM は便益の貨幣価値への換算が他にない場合の最後の手段であり、アン

ケートという分析手法を伴うため、調査の実施に時間と費用を要する、他の手段による検証が困

14 ほかには、当該項目を失うことに対して「どれだけ補償を得れば受け入れるか」を質問する

WTA(Willingness To Accept)法がある。

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17

難、回答者によるバイアスの存在、といった短所も存在する15。

3.3.5 まとめ

3.3.2~3.3.4 に示した、安全対策の費用・便益の項目ごとの定量的把握・予測の方法、貨幣価値

への換算の方法について整理した。便益と費用について整理結果を表 3.3.5 及び表 3.3.6 にそれ

ぞれ示す。

15 長峯:BASIC 公共政策学 第 11 巻 費用対効果 ミネルヴァ書房(2014)

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表 3.3.5 安全対策の便益の項目、定量的把握・予測の方法、貨幣価値への換算の方法一覧

大項目 小項目 概要 定量的把握・予測の方法 貨幣価値への換算の方法

損失の回避

による便益

①建物や設備等の損失 建物、装置・設備、現場に保管してい

た原材料や完成品といった資産が爆

発や火災等により滅失する損害

・社内データの活用

➢建物・設備の修理、更新に要する費用、損失あるいは損傷品の再取得費用

➢完成品 1 個当たり利益

➢清掃や残存物の取片付の費用

・事故・災害の規模の設定

➢建物・設備の損失数、原材料や消火薬剤等の使用量、損傷品の個数

➢損傷した完成品の個数

・機械保険、火災保険、企業財産包括保険で支払われる保険金

・各費用の積算

②救護・医療費 事故現場での応急処置や病院への搬

送など医療として緊急に生じる費用

・過去の事故調査報告書等の活用

➢事故現場での応急処置や病院への搬送に要する費用

➢入院中の雑費

➢傷病見舞金

➢備え付け医療用器具の 1 個あたり入れ替え費用

・事故・災害の規模の設定

➢事故・災害の被災者数

➢使用・損傷した備え付け医療用器具の個数

・労働者災害補償保険で支払われる保険金

・各費用の積算

③給与支払い 労働者災害補償保険からは給付され

ない休業 1~3 日目の休業補償

・社内データの活用

➢従業員の平均賃金(60%)

・事故・災害の規模の設定

➢事故・災害の被災者数

・各費用の積算

④被災者への補償(民事損害賠償) 医療費や休業中の休業補償とは別に

発生する賠償責任

・法規定、社内データ、過去の事故調査報告書等の活用

➢障害手当金

➢弔慰金

➢葬祭料

➢遺族補償費

➢退職金割増額

・事故・災害の規模の設定

➢障害が残った被災者の数、障害等級

➢遺族の数

・各費用の積算

⑤訴訟費用 示談費用、弁護士費用、訴訟スタッフ

の費用

・過去の事故調査報告書等の活用

➢示談費用

➢弁護士費用

➢訴訟スタッフ

・事故・災害の規模の設定

➢訴訟件数、係争期間

・各費用の積算

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大項目 小項目 概要 定量的把握・予測の方法 貨幣価値への換算の方法

損失の回避

による便益

(続き)

⑥既存従業員への割増賃金 新規従業員を雇用せず生産規模を維

持する場合に支払う賃金

・社内データの活用

➢従業員の残業代の時間単価

・事故・災害の規模の設定

➢割増賃金を支払う対象の従業員数

➢賃金割増を行う期間

・各費用の積算

⑦新規従業員補填に係る費用 生産規模を維持するために新規従業

員を雇用する場合の費用

・社内データの活用

➢従業員の新規雇用に要する費用

➢事務費や新人教育に要する人件費

・事故・災害の規模の設定

➢新規雇用する従業員数

➢新規雇用を行う期間

・各費用の積算

⑧生産停滞 生産ロス等 ・社内データの活用

➢生産性(生産個数/時間)

➢生産物 1 個あたり利益

➢注文キャンセル罰金

➢生産遅延罰金

➢1 件あたり外注価格、1 件あたり外部からの購入価格、1 件あたり自社他工場からの転送価格

・事故・災害の規模の設定

➢生産ストップ期間

➢生産減少期間

➢注文キャンセルによる失注額(受注機会の逸失)

➢生産遅延日数、生産遅延件数

➢外注件数、外部からの購入件数、自社他工場からの転送件数 等

・各費用の積算

・注文キャンセルによる失

注額は、過去の年間受注

額を、受注を行うことの

できない期間で案分し

て換算する方法がある

⑨事故調査費用 事故調査に要する費用 ・過去の事故調査報告書等の活用

➢事故原因や損害範囲の調査費用

➢報告書作成費用

➢行政対応費用

➢事故調査委員への謝金

➢弁護士を雇用する場合の費用

・各費用の積算

⑩罰金、課徴金、過料 行政罰により支払う罰金 ・法規定、過去の事故調査報告書等の活用

➢業務上過失致死罪や業務上過失傷害罪が適用された場合に支払う罰金、追徴金、過料

・各費用の積算

⑪保険料率の上昇 保険金を支払った後の保険料上昇分 ・社内データ(保険金の契約内容)の活用

➢保険料上昇分

・費用便益分析の評価期間

・各費用の積算

⑫組織トップの対応費用 記者会見等を含む組織トップによる

様々な事故対応に必要な費用

・過去の事故調査報告書等の活用

➢記者会見等の対応に要する事務費 等

・各費用の積算

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大項目 小項目 概要 定量的把握・予測の方法 貨幣価値への換算の方法

損失の回避

による便益

(続き)

⑬その他計測が困難なもの 事故により発生する離退職率増加、企

業イメージの悪化、従業員のモチベー

ションやモラルの低下 等

・過去の事故調査報告書等の活用

・事故・災害後の企業価値低下の評価(株式価値の変動の統計情報等)

・デルファイ法

・仮定による作成

・費用便益分析の評価期間

・WTP 法

・株式価値下落による損益

正の便益 ①生産性向上 工程の短縮、原材料の歩留率の向上、

機械設備の不良箇所の早期発見によ

る修繕頻度の減少、設備稼働率の向上

・安全対策実施前後の社内データの活用

➢工期の短縮

➢原材料の歩留率

➢機械設備の修繕頻度

➢設備稼働率

➢生産性(生産個数/時間)

➢生産物 1 個あたり利益

・デルファイ法

・費用便益分析の評価期間

・各便益の積算

・WTP 法

②品質向上 製品不良率の改善 ・安全対策実施前後の社内データの活用

➢製品不良率

➢生産性(生産個数/時間)

➢生産物 1 個あたり利益

・デルファイ法

・費用便益分析の評価期間

・各便益の積算

・WTP 法

③製造現場環境向上 従業員のモチベーションやモラルの

向上

・デルファイ法

・仮定による作成

・費用便益分析の評価期間

・WTP 法

④企業イメージ向上 業界や地域社会における企業イメー

ジや信用向上等

・デルファイ法

・仮定による作成

・費用便益分析の評価期間

・WTP 法

⑤労働損失日数の減少 遅刻・欠勤・離退職率の減少等による

労働損失日数の減少

・安全対策実施前後の社内データの活用

➢遅刻の人日数

➢欠勤の人日数

➢離退職率

➢生産性(生産個数/時間)

➢生産物 1 個あたり利益

・デルファイ法

・費用便益分析の評価期間

・各便益の積算

・WTP 法

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21

大項目 小項目 概要 定量的把握・予測の方法 貨幣価値への換算の方法

正の便益

(続き)

⑥取引への影響 製品の受注の条件等、取引への間接的

な影響

・安全対策実施前後の社内データの活用

➢受注額

・デルファイ法

・費用便益分析の評価期間

・各便益の積算

・WTP 法

⑦行政機関からのインセンティブ 労災保険料の割引、行政手続きの簡略

化、連続運転期間の延長

・法規定

➢労災保険料の割引

➢行政対応費用

・安全対策実施前後の社内データの活用(連続運転期間の延長の効果)

➢設備稼働率

➢生産性(生産個数/時間)

➢生産物 1 個あたり利益

・費用便益分析の評価期間

・各便益の積算

⑧ESG投資 投資格付の向上による株価の上昇等 ・投資格付の高い企業の株式価値の変動の統計情報等

・費用便益分析の評価期間

・株式価値上昇による便益

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表 3.3.6 安全対策の費用の項目、定量的把握・予測の方法、貨幣価値への換算の方法一覧

項目 概要 定量的把握・予測の方法 貨幣価値への換算の方法

①初期費用 安全対策策定に要する費用 ・社内データの活用(以下の活動による人件費、諸経費)

➢安全標準書の作成

➢対策の実施に必要な教育・訓練

➢ガイドライン変更

➢災害分析

➢リスクアセスメント

・各費用の積算

②設置費用 装置・設備の購入や設置に要する費用 ・社内データの活用

➢装置・設備の購入費用

➢装置・設備の設置作業中に発生する生産ロス

・各費用の積算

③運転費用及び点検費用 装置・設備の運転及び点検に要する費用 ・社内データの活用

➢装置・設備の運転費用

➢装置・設備の点検のための人件費、点検中の生産ロス

・費用便益分析の評価期間

・各費用の積算

④その他 安全対策施行後に恒常的・定期的に発生する費用 ・社内データの活用(以下の活動による生産ロス、人件費、諸経費)

➢安全行事、未然防止活動の回数、参加人数

➢技能向上訓練、資格取得奨励

➢マネジメントシステムの運用(安全管理計画、目標の策定等)

➢広報等の対外活動

➢外部機関の審査・診断

・費用便益分析の評価期間

・各費用の積算

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23

3.4 事故等が発生した際の損失の算出事例の調査

3.4.1 概要

過去に発生した事故の事故報告書における損失を算出した事例について調査を行った。

3.4.2 仏ツールーズ化学肥料工場爆発事故

(1) 事故の概要

事故発生当時に情報を収集の上報告を行った文献16,17に基づき、事故の概要を以下に示す。

(a) 発生確認日時・場所・経過

平成 13 年 9 月 21 日 10 時 15 分ごろ、仏 Total 傘下、Grande Paroisse 社の Azote 化学

肥料製造工場(フランス南部のオートガロンヌ県トゥールーズ市)において、数十キロのジ

クロロイソシアヌル酸ナトリウムが偶発的に硝酸アンモニウム 500kg と硝酸アンモニウム

の貯蔵庫内で混合され爆発が発生した。爆発により、直径 60mのクレータができ、工場建

屋が損壊し、周辺 5km 内の建物の窓ガラスを破壊した。

(b) 被害状況

事故後の直接的な被害は以下のとおりである。

・死者 30 人(作業員 22 人、工場外の一般住民 8 人)

・負傷者 2,242 人

・爆発地点から 300m 内の建物全壊

・爆発地点から 900m 内の非鉄筋の建物 500 棟以上が居住不可能、85 棟の教育施設が被害

また、仏政府は事故発生後 6 ヵ月間に発生した人的及び物的被害状況について報告して

いる18。およそ 1,000 の事業所及び 20,000 人の従業員が被害を訴えている。

表 3.4.1 Azote 化学肥料工場の事故発生後 6 ヵ月間の被害状況

著しい被害 限定的な被害

事業所数 従業員数 事業所数 従業員数

産業 58 5,408 54 6,358

サービス 33 511 285 4,368

小売 81 767 461 2,775

合計 172 6,686 800 13,501

16 Dobson, A., Gach, T., Sullivan, S.:AZF Ammonium Nitrate Explosion 17 和田有司:フランス化学肥料工場の爆発事故 安全工学 Vol.41 No.4(2002) 18 Explosion in the AZF fertilizer plant September 21st, 2001 Toulouse France French

Ministry of Sustainable Development - DGPR / SRT / BARPI Aria N°21329

(2013.7)

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24

(2) 被害総額

フランス政府は事故被害者の補償を行ったほか、保険会社による保険金の支払いも行わ

れている。表 3.4.2 に被害額あるいは事故費用等の一覧を示す。

表 3.4.2 Azote 化学肥料工場事故の被害額あるいは事故費用等

項目 費用 内容

政府の拠出金

18,19

1,040 万ユーロ ・事故被害を受けた企業を対象とした補助金。

2,400 万ユーロ ・事故被害を受けた家屋や社会インフラの修復費用。

免税額 18,19 170 万ユーロ ・事故被害を受けた企業を対象とした免税額。

環境被害額 19 2 億 5,000 万ユーロ ・事故被害現場の清掃・回復費用。

・Grande Paroisse 社はそのうち 1 億ユーロを負担。

罰金 19 225,000 ユーロ ・裁判により、Grande Paroisse 社に対し支払いが科

せられた罰金。

保険金 16,19 15 億ユーロ ・保険会社による支払額。

被害総額 19 20 億ユーロ ・仏 Total が負担した事故費用の推定額。

3.4.3 英バンスフィールド油槽所爆発事故

(1) 事故の概要

事故調査報告書20及び事故発生当時に情報を収集の上報告を行った文献21に基づき、事故

の概要を以下に示す。

(a) 発生確認日時・場所・経過

平成 17 年 12 月 11 日 6 時 1 分ごろ、英 Hertfordshire Oil Storage Limited 社、United

Kingdom Oil Pipelines Limited and West London Pipeline and Storage Limited 社及び

British Petroleum Oil UK Limited 社によって運営される大型石油貯蔵タンク集合地域で

あるバンスフィールド油槽所(英国南部のヘメル・ヘムステッド)において、タンクへの無

鉛ガソリンの受入中にレベル計が機能喪失していたにもかかわらず充てんを継続した結果、

燃料が溢れ生成された燃料蒸気に着火した結果、爆発が発生した。786,000L の泡消化剤お

よび 6,800万Lの水が消火活動に使用され、火災発生から 4日後の 12月 15日に鎮火した。

19 Fogleman,V.(Stevens & Bolton LLP):Case Studies of Major Industrial Accidents

Causing Pollution in the European Union(2012.11.19) 20 The Buncefield Incident 11 December 2005 The final report of the Major Incident

Investigation Board(2008) 21 藤本康弘:英国バンスフィールド油槽所で発生した爆発火災について-バンスフィール

ド事故調査委員会調査報告書(第 1 報) より抜粋- 労働安全衛生研究 Vol.1 No.1 pp.53—

58 (2008)

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25

図 3.4.1 バンスフィールド油槽所概観(事故後)20

(b) 被害状況

事故後の直接的な被害は以下のとおりである。

・死者 なし

・負傷者 43 人

・爆発地点から 8km 内の建物に損壊が発生

・20 の事業所(400 人の従業員)に著しい被害、60 の事業所(3,500 人の従業員)に限

定的な被害が発生

(2) 被害総額

事故報告書 20 では、被害額あるいは事故費用等を表 3.4.3 のように算定している。これ

らの費用のほとんどは保険会社によって支払われている。

このほか、負傷者に関するコストも算出しているが、表 3.4.3 の事故費用と比べると少額

(それぞれ約 1 万 1,570 ユーロ)としている。

表 3.4.3 バンスフィールド油槽所の被害額あるいは事故費用等 20

項目 費用 内容

賠償金 7 億 8,000 万ユーロ ・事業者へ請求された賠償額(転勤者への補償

や他の企業の損失の補てんを含む)。

航空会社の損失 3 億 600 万ユーロ ・事故による航空会社の営業機会の喪失。

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項目 費用 内容

政府対応費用 1,900 万ユーロ ・政府当局による対応費用。

緊急対応費用 900 万ユーロ ・消防及び警察等の緊急対応費用。

環境被害額 250 万ユーロ ・代替飲料水の調達費。

合計 11 億 1,650 万ユーロ -

また、事故報告書 20では、以下のような算定困難な費用の項目を挙げている。

・ 高速道路の閉鎖による物流の停滞。

・ 出荷前の在庫製品の喪失。

・ サービス業及び製造業に係る工業認証サービスの一時的な営業機会喪失。

・ 外注による給与支払いサービスの一時的な中断。

・ ロンドンの交通渋滞税の一時的な喪失。

・ その他公共サービスの一時的な喪失。

3.5 安全投資に関する経済効果の算定方法に関する考察

仏ツールーズの事故、英バンスフィールドの事故は 3.3 に示した項目に基づき事故費用

を算定し、さらに以下のような行政や緊急対応のコストを算定し、また他産業の営業機会

喪失も算定している点が特徴として挙げられる。

・ 政府当局による対応費用(事故被害を受けた企業を対象とした補助金・免税額、家

屋や社会インフラの修復費用を含む)

・ 消防及び警察等の行政による緊急対応費用

・ 飲料水等の供給に影響が出た場合に代替品の調達費等の環境被害額

・ 航空会社等の他産業の営業機会の喪失

3.6 効果的な安全投資のあり方の検討

3.6.1 リスクアセスメントの徹底とリスクアセスメント結果に基づく安全投資

多くの事故報告書において、事故等の発生後に原因分析を行っている。このことから、向

殿(2008)22、中村(2011)23、向殿(2017)24が指摘しているとおり、事故を未然に防止

する観点でのリスクアセスメントの実施の徹底と、それに基づく安全対策の実施が望まれ

る。

22 向殿政男:日本と欧米の安全・リスクの基本的な考え方について 標準化と品質管理

Vol.61 No.12 p.4-8(2008) 23 中村昌允:日本と欧米の安全管理について 安全工学 Vol.50 No.5(2011) 24 向殿政男:リスクアセスメント、マネジメントシステム等の重要性 製造業安全対策シ

ンポジウム 資料(2017.3.28)

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27

3.6.2 オーナーシップの変更と安全対策の関連性

仏ツールーズの事故、英バンスフィールドの事故いずれも、事故調査で経営層の安全責任

の希薄さや利益を優先した結果が指摘されている。

OECD Working Group on Chemical Accidents は、危険設備のオーナーシップ変更のガ

イダンス25を平成 29 年 10 月に発行している。

同ガイダンスの中で、オーナーシップの変更に係るステークホルダーは、危険設備に潜在

するハザードを知るべきであり、これらのハザードが公衆や周辺環境に影響を及ぼすよう

な事故を引き起こし得ることを理解するべきとしている。さらに、オーナーシップ変更の

前・最中・後において、安全管理は全てにおいて最優先であるべきとしている。

さらに同ガイダンスでは、オーナーシップ変更に係るリスク要因をいくつか指摘してお

り、売却の理由と買収の種類(例:施設の老朽化・コスト削減・投資不足・管理不足)によ

り、リスク要因が潜んでいるとしている。

25 OECD Working Group on Chemical Accidents:DRAFT GUIDANCE ON CHANGE

OF OWNERSHIP IN HAZARDOUS FACILITIES(2017.10)

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4 安全対策異業種意見交換会の開催運営

4.1 実施概要

本事業にて日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会等の会長同士による座談会(以下、「トップ

会談」という。)の開催運営等を行った。トップ会談は、鉄鋼・化学・製紙の 3 つの業界団

体のトップにより、製造現場の環境変化、経営理念と安全対策など、安全対策において経営

層に期待される役割と対応についての意見交換を公開の場で行い、製造業における安全対

策の更なる強化を図ることを目的として開催された。

トップ会談の開催概要は以下のとおりである。

表 4.1.1 トップ会談開催概要

項目 内容

イベント名 製造業安全対策に関するトップ会談

日時 平成 29 年 9 月 28 日(木)13 時 30 分~15 時 30 分

場所 経済産業省 本館 地下 2 階講堂

テーマ 安全対策において経営層に期待される役割と対応

プログラム

(敬称略)

(1) 開会挨拶

牧原秀樹(厚生労働副大臣)

(2) 基調講演

講演者:石村和彦(旭硝子(株) 代表取締役会長)

テーマ:安全なくして生産なし

(3) 企業経営者による会談

メンバー(順不同):

進藤孝生(日本鉄鋼連盟会長(新日鉄住金(株)代表取締役社長))

石飛修(日本化学工業協会会長(住友化学(株)代表取締役会長))

鈴木邦夫(日本製紙連合会副会長(三菱製紙(株)代表取締役社長))

石村和彦(旭硝子株式会社 代表取締役会長

八牧暢行(中央労働災害防止協会 理事長

向殿政男(明治大学名誉教授【司会】

テーマ:①製造現場における環境変化、②経営理念と安全対策

(4) 閉会挨拶

世耕弘成(経済産業大臣)

(5) 主催者挨拶

寺畑雅史(製造業安全対策官民協議会会長)

主催 製造業安全対策官民協議会

弊社は、トップ会談における事務局を務めた。以下に、準備・トップ会談当日・開催後の

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整理、の順で実施内容を示す。

4.2 準備

4.2.1 傍聴者へのプログラム・アンケート調査票の作成

トップ会談傍聴者に配布するプログラムを作成した。図 4.2.1 に作成したプログラムを

示す。

また、トップ会談傍聴者を対象に、来場者の傾向や今後のイベント開催における参考とす

るため、以下の事項を把握するためのアンケート調査票を作成した。

・ 傍聴者の業種

・ 傍聴者が従事する業務の安全との関連性

・ (企業の方のみ)所属と職位

・ プログラムについての意見

満足度

理解度

上記回答の理由、プログラムの感想、今後の協議会活動についての意見や提案

・ トップ会談開催情報の入手方法

図 4.2.2 に作成したアンケート調査票を示す。

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30

製造業安全対策官民協議会 主催

「製造業安全対策に関するトップ会談」

~製造業における安全対策の更なる強化に向けて~

日 時:平成 29年 9月 28日(木曜日)

13時 30分~15時 30分

場 所:経済産業省本館地下 2階講堂

< 議 事 次 第 >

1. 挨拶(経済産業省及び厚生労働省)

2. 基調講演

講演者:石村 和彦 旭硝子株式会社 代表取締役会長

テーマ:安全なくして生産なし

3. 経営者層による会談

セッション: (1) 製造現場における環境変化

(2) 経営理念と安全対策

4. メンバー(順不同)

進藤 孝生 一般社団法人日本鉄鋼連盟 会長

(新日鐵住金株式会社 代表取締役社長)

石飛 修 一般社団法人日本化学工業協会 会長

(住友化学株式会社 代表取締役会長)

鈴木 邦夫 日本製紙連合会 副会長

(三菱製紙株式会社 代表取締役社長)

石村 和彦 旭硝子株式会社 代表取締役会長

八牧 暢行 中央労働災害防止協会 理事長

向殿 政男 明治大学 名誉教授【司会】

図 4.2.1 作成したプログラム

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「製造業安全対策に関するトップ会談」アンケート

本日は、「製造業安全対策に関するトップ会談」にご参加頂き誠に有難うございました。誠に恐れ入りますが、

今後の「製造業安全対策官民協議会」活動の参考といたしますので、アンケートへのご協力をお願いいたしま

す。

Q1. ご所属の業種は何ですか?(団体職員の場合は、ご所属団体の業種をお選び下さい。)

□鉱業 □建設 □鉄鋼 □石油精製・石油製品 □化学工業

□セメント □ガラス □アルミニウム精錬・精製 □伸銅品製造業

□パルプ・紙・紙加工品 □自動車・自動車車体・自動車部品 □素形材製造業(鋳造、鍛造など)

□その他製造業( ) □報道・出版 □その他( )

Q2. ご自身の業務において、安全に関連する業務は、どの程度占めますか?

□100% □50~99% □1~49% □0%

Q3. 企業の方にお伺いします。ご所属とご職位は何ですか。(それぞれ該当する□に✔をお付け下さい)

(1) □本社勤務 □事業所(工場)勤務

(2) □安全部門 □その他( )

(3) □部門長、所長、工場長 □課長等管理職 □その他( )

プログラムについてのご意見をお聞かせください。

Q4. プログラムの満足度をお聞かせください。(該当する番号に○をお付け下さい)

大変満足 5-------4-------3-------2-------1 大変不満

Q5. プログラム内容について理解し、役に立ちましたか?(該当する番号に○をお付け下さい)

よく理解し、役に立った 5-------4-------3-------2-------1 全く理解できず、役に立たなかった

Q6. 上記 Q4 及び Q5 の回答の理由やプログラムの感想をお聞かせください。

Q7. プログラムの進め方や今後の協議会活動などついて、ご意見やご提案がございましたらお聞かせください。

その他

Q8. 今回のイベントをどのようにお知りになりましたか。

□協議会からの連絡 □所属される産業団体からの連絡

□インターネット上の告知 □メールマガジン □新聞報道

□その他( )

ご協力有難うございました。

図 4.2.2 作成したアンケート調査票

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4.2.2 傍聴登録の受付・傍聴登録者の管理

トップ会談開催の周知と傍聴登録の受付を目的として、平成 29 年 8 月 31 日にみずほ情

報総研のウェブページ上に、図 4.2.3 に示すようなトップ会談のホームページを開設した。

図 4.2.3 トップ会談に関するホームページ26

26 https://www.mizuho-ir.co.jp/seminar/info/2017/seizogyo-anzen0928.html

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同ホームページから、傍聴者の登録を行うことができるようになっており、登録を行うと

電子メールによりホームページ管理者に通知が行われる。通知に応じて登録内容を随時一

覧表に整理、傍聴者の管理を行った。

4.2.3 会場備品の製作・調達

当日会場に掲示する懸垂幕、登壇者の所属・氏名を記載した垂幕及びテーブルクロスをそ

れぞれ製作・調達した。図 4.2.4 に各備品を設置した当日の檀上の様子を示す。

図 4.2.4 当日の檀上の様子27

4.3 トップ会談当日

4.3.1 会場設営

トップ会談の当日に、会場設営を行った。具体的には、イスの配置、プログラム及びアン

ケート調査票の配布、筆記用具の設置を行った。

4.3.2 受付での傍聴者対応、講演者・出席者等関係者の案内

受付にて登録を行った傍聴者の受付を行った。受付は、以下のような手順で実施した。

・ 登録時に配信されるメールあるいは名刺の提示。

・ 傍聴者の整理表と照合し、登録を確認。

(2017.8.31 閲覧) 27 製造業安全対策に関するトップ会談の開催について 第 2 回製造業安全対策官民協議会

資料(2017.10)

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4.4 開催後の整理

4.4.1 アンケートの回収・集計

トップ会談終了後にアンケート回収箱を設置し、アンケートの回収を行い、181 名分の回

収を行った。

アンケートの内容はすべて、表計算ソフトウェアで可読できる形式で電子化を行い、一覧

の形で集計した。図 4.4.1 にプログラム満足度及びプログラム理解度に関する集計結果を

示す。全体の 70%以上がプログラムに満足し(4 または 5)、内容について理解し、役に立

った(4 または 5)と回答している。

大変満足 5…4…3…2…1 大変不満

よく理解し、役に立った 5…4…3…2…1 全く理解できず、役に立たなかった

図 4.4.1 アンケート集計結果(プログラムの満足度及び理解度)

24%

47%

25%

3%

1%プログラム満足度

5 4 3 2 1

24%

51%

21%

3%

1%プログラム理解度

5 4 3 2 1

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一方、プログラムに不満(1 または 2)と回答した方の意見として、「登壇者相互の意見交

換が少ない」「従来の内容・考え方、他の機会(団体内活動、各種機関誌など)で目にする

中身を超えていない」といったものがあった。

プログラム内容を理解できず、役に立たなかった(1 または 2)と回答した方の意見とし

て「具体的な安全対策事例の紹介(が必要)」といったものがあった。

アンケート回答者の業種別割合を図 4.4.2 に示す。その他の業種以外では、鉱業、鉄鋼、

化学工業、パルプ・紙・紙加工品の割合が多くなっている。

図 4.4.2 業種別割合

5%

2%

12%

2%

21%

1%

1%

3%4%

19%0%

1%

29%

業種

鉱業建設鉄鋼石油精製・石油製品化学工業セメントガラスアルミニウム精錬・精製伸銅品製造業パルプ・紙・紙加工品自動車・自動車車体・自動車部品素形材製造業(鋳造、鍛造など)その他

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鉱業、鉄鋼、化学工業、パルプ・紙・紙加工品のプログラム満足度及びプログラム理解度

に関する集計結果を図 4.4.3~図 4.4.6 にそれぞれ示す。

鉱業、鉄鋼は、75%以上がプログラムに満足し(4 または 5)、内容について理解し、役に

立った(4 または 5)と回答している。化学工業は、76%が内容について理解し、役に立っ

た(4 または 5)と回答する一方、プログラムに満足した(4 または 5)と回答する方は 66%

となっている。パルプ・紙・紙加工品は、59%がプログラムに満足し(4 または 5)、内容に

ついて理解し、65%が内容について理解し、役に立った(4 または 5)と回答している。

大変満足 5…4…3…2…1 大変不満

よく理解し、役に立った 5…4…3…2…1 全く理解できず、役に立たなかった

図 4.4.3 アンケート集計結果(業種:鉱業)(プログラムの満足度及び理解度)

22%

67%

11%

0%0%プログラム満足度(鉱業)

5 4 3 2 1

22%

78%

0% 0%0%プログラム理解度(鉱業)

5 4 3 2 1

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大変満足 5…4…3…2…1 大変不満

よく理解し、役に立った 5…4…3…2…1 全く理解できず、役に立たなかった

図 4.4.4 アンケート集計結果(業種:鉄鋼)(プログラムの満足度及び理解度)

32%

45%

18%

5%

0%

プログラム満足度(鉄鋼)

5 4 3 2 1

32%

50%

14%

4%

0%

プログラム理解度(鉄鋼)

5 4 3 2 1

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大変満足 5…4…3…2…1 大変不満

よく理解し、役に立った 5…4…3…2…1 全く理解できず、役に立たなかった

図 4.4.5 アンケート集計結果(業種:化学工業)(プログラムの満足度及び理解度)

24%

42%

29%

5%

0%

プログラム満足度(化学工業)

5 4 3 2 1

29%

47%

21%

3%

0%

プログラム理解度(化学工業)

5 4 3 2 1

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大変満足 5…4…3…2…1 大変不満

よく理解し、役に立った 5…4…3…2…1 全く理解できず、役に立たなかった

図 4.4.6 アンケート集計結果(業種:パルプ・紙・紙加工品)

(プログラムの満足度及び理解度)

12%

47%

38%

3%

0%

プログラム満足度(パルプ・紙・紙加工品)

5 4 3 2 1

18%

47%

26%

9%

0%

プログラム理解度(パルプ・紙・紙加工品)

5 4 3 2 1

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4.4.2 基調講演者・パネリストの発表内容

プログラムにおける基調講演者・パネリストの発表内容として、使用された発表資料を示

す。また、基調講演者・パネリストの発言要旨を別添に示す。

(1) 基調講演

次ページ以降に、石村和彦 旭硝子株式会社 代表取締役会長による基調講演における

発表資料28を示す。

28 製造業安全対策に関するトップ会談 資料(2017.9.28)

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54

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(2) 企業経営者による会談

(a) セッション1:製造現場における環境変化

次ページ以降に、進藤 孝生 一般社団法人日本鉄鋼連盟 会長(新日鐵住金株式会社 代

表取締役社長)による、「製造現場における環境変化」についての発表資料 28を示す。

Page 60: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 61: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 62: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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次ページ以降に、石飛 修 一般社団法人日本化学工業協会 会長(住友化学株式会社 代

表取締役会長)による、「製造現場における環境変化」についての発表資料 28を示す。

Page 63: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 64: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 65: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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次ページ以降に、鈴木 邦夫 日本製紙連合会 副会長(三菱製紙株式会社 代表取締役社

長)による、「製造現場における環境変化」についての発表資料 28を示す。

Page 66: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 67: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 68: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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(b) セッション2:経営理念と安全対策

次ページ以降に、進藤 孝生 一般社団法人日本鉄鋼連盟 会長(新日鐵住金株式会社 代

表取締役社長)による、「経営理念と安全対策」についての発表資料 28を示す。

Page 69: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 70: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 71: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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次ページ以降に、石飛 修 一般社団法人日本化学工業協会 会長(住友化学株式会社 代

表取締役会長)による、「経営理念と安全対策」についての発表資料 28を示す。

Page 72: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 73: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 74: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 75: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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次ページ以降に、鈴木 邦夫 日本製紙連合会 副会長(三菱製紙株式会社 代表取締役社

長)による、「経営理念と安全対策」についての発表資料 28を示す。

Page 76: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 77: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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Page 78: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

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(3) 声明文

今回の会談の討議内容を踏まえ、司会の向殿 明治大学名誉教授が取りまとめとして「声

明文」を読み上げた。声明文を図 4.4.7 に示す。

製造業安全対策に関するトップ会談

声明文

平成29年9月28日

私たちは、「一人ひとりカケガエノナイひと」という人間尊重の基本理念の下、会員企

業が以下の4つの経営理念に従って安全対策を強化できるよう、取組を行います。

一、経営層がリーダーシップを発揮しつつ、安全担当や製造担当と接触し、かつ、常に

現場の声を反映できるような体制の強化

二、設備の老朽化等の厳しい現状がある一方、技術革新を生かした新たな取組も進んで

いることを踏まえた、安全への投資の促進

三、ベテラン職員の減少、業務アウトソーシングの増加などの環境変化を踏まえた、階

層別、協力会社を含めた人材育成や安全教育の拡充

四、重点的に取り組むべき課題を抽出し、その原因・対策などを検討し、検討結果を業

界内外に共有

また、これらの取組を効果的に進めるため、引き続き製造業安全対策官民協議会に積極

的に参画し、その成果の内外への普及に努めます。

図 4.4.7 製造業安全対策に関するトップ会談「声明文」27

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5 おわりに

本事業では、一般的な経済効果の評価方法の整理、安全対策の費用・便益を算出するため

の項目の調査、過去に事故等が発生した際の損失の算出事例の調査を行い、これらを踏まえ

た安全対策の経済効果の算定・評価方法等について考察及び効果的な安全投資のあり方に

ついて検討を行った。

また、平成 29 年 9 月 28 日に開催された「製造業安全対策に関するトップ会談」(トップ

会談)の開催運営等を行った。

過去の安全対策の費用・便益の項目と算定方法は提案されているものの、費用・便益を算

定する上で必要であるデータの入手困難性など以下の課題が確認された。

・ 一般的に安全対策の費用・便益の算定のためのデータは、各企業が個別に管理してお

り、また、安全対策や事故費用が勘定科目として個別に損益計算書に記載されない。

安全対策の費用・便益の算定に関する分析を行うためには十分に蓄積されたデータ

が必要であるが、そのようなデータは入手が困難であるのが現状である。このため、

データの入手の困難性の解消に向けた検討を行う必要がある。

・ 安全対策の費用・便益の算定における項目や事故・災害の想定の範囲について、さま

ざまな考え方があり、算定においては項目の選定や事故・災害の想定の範囲について

その考え方を明確にした上で、検討を行う必要がある。

・ 世界で「ESG 投資」が広がりを見せている中、安全対策への取組に積極的な企業へ

の投資活動の実態は確認できなかったが、安全対策は「社会(Social)」の観点で捉え

られるものであり、継続的に動向を注視する必要がある。

Page 80: 平成29年度製造基盤技術実態等調査事業 (製造業における安全対 … · る座談会の開催運営等を行った。具体的には以下を実施した。

(様式2)

頁 図表番号23 表3.4.1 Azote化学肥料工場の事故発生後6ヵ月間の被害状況

24 表3.4.2 Azote化学肥料工場事故の被害額あるいは事故費用等

25 表3.4.3

25 図3.4.1

二次利用未承諾リスト

委託事業名:平成29年度製造基盤技術実態等調査 事業(製造業における安全対策の評価及びその促進 等に関する調査)

報告書の題名:平成29年度製造基盤技術実態等調査 事業(製造業における安全対策の評価及びその促進 等に関する調査)調査報告書

受注事業者名:みずほ情報総研株式会社

バンスフィールド油槽所の被害額あるいは事故費用等

バンスフィールド油槽所概観(事故後)

タイトル