明治2年の皇居の花見 - 国立歴史民俗博物館...明治2年の皇居の花見...

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明治2年の皇居の花見 ―江戸から東京へ― くらしの植物苑 2019727244回観察会 横山百合子(国立歴史民俗博物館)

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Page 1: 明治2年の皇居の花見 - 国立歴史民俗博物館...明治2年の皇居の花見 ―江戸から東京へ― くらしの植物苑 2019年7月27日 第244回観察会 横山百合子(国立歴史民俗博物館)

明治2年の皇居の花見

―江戸から東京へ―

くらしの植物苑

2019年7月27日 第244回観察会

横山百合子(国立歴史民俗博物館)

Page 2: 明治2年の皇居の花見 - 国立歴史民俗博物館...明治2年の皇居の花見 ―江戸から東京へ― くらしの植物苑 2019年7月27日 第244回観察会 横山百合子(国立歴史民俗博物館)

目次

1. 戊辰戦争前の江戸・・・慶応3年秋1. 御札降りと「ええじゃないか」

2. 「降御影街賑」・・・踊らぬ江戸

2. 江戸からみた戊辰戦争のゆくえ…慶応4年春1. 「当世三筋の楽しみ」・・・東征軍と旧幕府軍

2. 「子供遊端午の気生」・・・江戸庶民は江戸開城をどう見たか

3. 東京府の成立と2度の東幸・・・明治元~2年春1. 東京府知事の江戸学事始め

2. 「御酒頂戴」・・・第1回東幸

3. 絵のない花見と第2回東幸

4. 「怨嗟の声路傍に喧々」・・・明治2年夏1. 明治元年~二年の政府・・・藩籍奉還はできるのか

2. 吉井友実「三峰日記」

5. 江戸東京の人びとにとっての明治維新

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豊饒御蔭参之図(三重県総合博物館HP)

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周延・周秀「降御影街賑」(国立歴史民俗博物館所蔵)ふるみえいちまたのにぎわい

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乍憚口上

一、弟田之助義、ながく足痛ニ罷在候所、れう

ぢとゞきかね、斯てハ御目見も相成りがたくと

当人ハ申上るに及ばず、数ならぬ私迄心つうい

たし、只此上ハ神仏の御力より外なしと親共よ

り御利益蒙り候象頭山をひたすらねんじ候ひし

に、ある夜、御札七枚、弟が宅の屁(庇)に降

せゐひし故、信心きもにめいじてもつたいなく

も彼御札ニて足をなでたるに、ふしぎやいたミ

もとかくばかり、是にてハひさ/\御なつかし

き御ひゐきの御尊顔拝さるゝ事よとて、当人ハ

勿論一同のよろこび大かたならず、それかれの

おんれいかた/\来ル辰の初春きやうげん碁太

平記白石噺にけいせい宮城野の役、相勤させ候

間当代すえとも御ひゐき御引立のほと、ひとへ

に奉希上候、以上

国周筆

彫工定

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「降御影街賑」(国立歴史民俗博物館所蔵)ふるみえいちまたのにぎわい

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薩摩藩の御用盗と江戸町人

奥三郎兵衛「慶応丁卯霜月望日記簿」

(霜月

十六

昨夜、

播磨屋(

中井)

強盗

いたし、

千両

奪い取ら

れ、

海(

酒井)

左衛門

成さ

よし

七日

三田

兵衛・吉田

へ、

五日

夜分

強盗

三十

参り、

さが

しい

よし、

自身番

家主

人、

即死

いたし

よし

聞え

申し候。

金子

奪い取ら

哉、

明也

九日

中井

騒動、

十両

也、

紛失

よし、

金座

役人

物語

*十二月二二日

江戸城二ノ丸炎上

二三日夜

庄内藩邸攻撃

二四日

庄内・

薩摩の戦闘

*大阪市立大学所蔵奥家文書

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奥三郎兵衛

「慶応丁卯霜月望日記簿」

(慶応三年十二月)

廿

五日

始末

分明

ども

風説。

人体

者、

三田

丁目

酒井

屯所

発砲

いたし

処、

酒井

三人

これ

あり、

より

直様

人数(

軍勢)

繰出

相成り

処、

浪人、

七曲り

の⊕

屋敷

よし。

成さ

処、

たまりか

ね、

発砲

いたし

いたし

付、

人数⊕

屋敷

乱入、

或は

縛り、

かけ

に及

び、

より

屋敷

かけ、

高輪

屋敷

同断。

此火

、田

よし

今迄、⊕

強盗

風説

これ

あり

付、

今日

至り

発覚

いたし

やに

見え

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「当世三筋の楽しみ」(国立歴史民俗博物館蔵)

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「子供遊端午の気生」(国立歴史民俗博物館蔵)

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「子供遊端午の気生」(国立歴史民俗博物館蔵)

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新政府の東京統治

★慶応四年三月三条実美の岩倉宛書翰

「関東の形勢相察し候処、実に威令相

立ち申さず」(国立国会図書館蔵「岩倉具視関係

文書」二五九)

★同閏四月一七日同

「概略の処観察致し候に、官軍の威令

更にこれなく、旗本の徒すこぶる軽侮

をくわえ、決して恭順の体にこれなく、

甚だ持って切歯憤懣堪えざることに

候」(同二六三)

★五月十五日の上野戦争

彰義隊の敗

北同五月「今日の当地の形勢、まず大体

に鎮定つかまつるべき見込みに候」

(国立国会図書館蔵「岩倉具視文書」二五四)

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慶応4年春 錦絵における天皇の描かれ方

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三代歌川広重「御酒頂戴」(歴博所蔵)

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明治元年~二年の政府

(1)東京府知事の江戸学事始め

★江戸庶民の暮らし

①畳や建具は持っているが、三度の食事の

うち二度が粥である「上」

②竈と湯釜、箪笥等は持っているが、サツ

マイモや粥を日に二度食べるのがやっとの

「中」

③畳、建具も竈もない「下」

★国立国会図書館所蔵大木喬任関係文書18

-

2

「喜悦書」

此の度、東京様お酒頂戴、冥加に余り、有

り難く御頂候。この上も無く有り難き御事

と、偏に目出度く、嬉し悦びの狂に

十六

の新造盛や

菊の花

また

徳川のあおゑ

を持ち下り駿河行き

あと賑ふ白菊の花

酒狂の上、御免願い上げ奉り候

★明治二年春

(「江藤新平関係文書

(二八一―

六)

旧冬来苦慮する処之者は、唯都下人情を鎮

静するを以て一筋の目的となせり。仍って

処置する処、努めて人情さわらざる事をの

みなせり。且つ、重仁の御主意をなんとな

く流宣せしを目的となせり

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絵のない花見

明治2年2

月23

日(西暦4

月4

日)

『東京市史稿』市街篇50

★来る廿三、廿四、廿五日の間、吹上御庭

御掃除につき、東京中の士民男女に限らず、

勝手に拝見いたすべき旨仰せ出され候間、

拝見致したきものは、朝五時より夕七時ま

でに罷り出べきこと

★2

月23

日付

東京府判事⇒

弁事宛伺

多人数の義、ことに府内一般拝見に罷り出

で候ゆえ、数万群衆いたし、当府役々出役

人数も引き足り申さず、数人の内には竹木

等折り取りそうろう者もこれ有るやの趣・・・

所詮制し方行き届く間敷き哉と存じ候間、

御城中取締り方にて、然るべく指揮これあ

るよう致度、此段御掛合いに及び置き候也

★明治2年3月24

夕八時頃、拝見人殊の外込み合い候につき、

半蔵門にて番士のもの相制し候折柄、倒れ

踏まれ候者どものうち、六、七人怪我なら

びに即死の者もこれあり・・・

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★行政官の指示

御庭拝見仰せ付けられ候処、図ら

ずも怪我人これある趣、不愍の至

り思し召され候。これにより、金

子下賜候間、速ニ頂戴いたすべき

こと

★東京府判事の弁事宛報告

怪我致し候者、昨二十六日親なら

び親類共呼出し、怪我人壱人につ

き金二十五両づつ下賜候処、何も

のより申触れ候や、壱人につき、

金六、七両よりほかお渡しこれな

しなどと悪説を流し、御官え対し、

御疑惑を掛け候段、愚俗の風聞と

は申しながら、甚だ心痛仕り候、

これにより、なおまた再応頂戴人

呼出し、別紙の通り印紙の請書差

し出させ候間、・・・

御休意希候

二百両

死人八人へくださる

三十三両

怪我人六人へ同断

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怨嗟の声路傍に喧々ー明治2年夏

★三条実美

京摂はすててもよい

★大久保利通

明治2年6月

即今内外の大難、皇国危急存亡の秋、

切迫すること間髪を入れず…

、天

下人心政府を信じず、怨嗟の声路傍

に喧々、真に武家の旧政を慕うにい

たる。(『大久保利通関係文書』

三)

★吉井友実

明治2年8

月「三峰

日記」

小御所へ出御。例の通り議事これあ

り。右畢りて、窮民御救助の儀、甚

だ切迫仕り候。恐れながら、供御を

減ぜられ、在官一同月給を減じ御救

恤有らせられたく、懇々御前におい

て建言に及び候事

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江戸東京の人びとにとっての明治維

新★近世の都市と社会の解体

明治3年閏10月東京府の人口(605.C6.06明治4年正月「雑留」所収「府下戸口高調」)

身分 人数 戸数

1 平民 592758 134267戸

2 当府附諸職人 116 25戸

3 同小者 19

4 社務人 1478

5 同召し使い 494

6 僧 5165

7 同召し使い 2743

8 尼 25

9 貫属士族 20530 3378戸

10 同家来 17822 6072戸

11 同同居 8

12 卒 26724 6072戸

13 同家来小者 769

14 同居 36

15 藩庁・藩知事邸 288

16 非役華族邸 50

17 えた 1143 260戸

18 非人 2891 450戸

合計 673059

明治3年閏10月東京府の人口

1 2 3 4 5 6 7 8 9

10 11 12 13 14 15 16 17 18

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ご静聴ありがとうございました