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3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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Page 1: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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推奨

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❶特段の支障がないかぎり患者本人に病名告知をし,患者の同意を得て家族・主介護者も同席することが望ましい(グレード C1).

❷患者の気持ちに配慮しながら,十分な時間をとって病気の全体像を説明する.根本治療がないとはいえ,QOL を改善する様々な医療・ケアがあることを伝え,生きる希望を持てるように説明する(グレード C1).

❸病気の説明は今後も繰り返し行われること,具体的な医療的・社会的ケアについても責任を持って説明・実行・紹介することを約束する(グレード C1).

■ 背景・目的ALSの告知は,患者にとって非常にショックを受ける内容のため,告げるほうにも躊躇があ

る.どのように,どこまで話したほうがよいのか迷うことも多い.

■ 解説・エビデンスALSの告知は患者に対して過酷な内容となるため,医療者も躊躇しがちであるが,患者調査

からは病気についてできるだけ早い段階で十分に知りたいという結果がうかがえる.2002 年に ALS患者会が施行した ALS患者 236 名(男性 154 名,女性 82 名)に対する調査では,

169 名(72%)が病名をきちんと告げられたと感じていたのに対して,65 名(28%)はそう感じておらず,56%が告知病名・内容が理解できなかったと回答した.告知者に対して,64%の患者は誠意を感じていたが,35%は誠意ある態度とは認めていなかった.告知に対する希望では,「家族と一緒に」79%,「患者のみに」12%,告知のタイミングは「診断確定後直ちに」58%,「時間をかけて」30%,告知の方法は「隠さずストレートに」65%,「段階的にゆっくり」30%であった 1)(エビデンスレベルⅣb).同様に 2002 年の ALS患者 23 名を対象とした調査でも,約半数は不満足な告知のされ方であったにもかかわわらず,91%は告知を受けてよかったと回答した.希望としては「家族と一緒に」74%,「患者のみに」17%,「診断確定後直ちに」87%,「最初から人工呼吸器を含めすべてを伝えて欲しい」61%との回答だった 2)(エビデンスレベルⅣb).ただし,いずれの報告も,告知後ある程度進行した ALS患者を対象とした研究のため,まさに告知を受けようとしている患者が同様に思うかは明らかではない.そのため,患者自身がどこまで知っておきたいと思っているかを把握する努力が必要である 2)(エビデンスレベルⅣb), 3, 4)(エビデンスレベルⅥ).欧米でも告知の重要性が報告されており,Borasioらは告知には高度のスキルが必要であり,

もし適切に行われないと患者にダメージを与えるだけでなく,患者–医師関係が壊れてしまうと

どのように告知し,病状を説明するか

Clinical Question 3-1 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3告知,診療チームほか

報告している 5)(エビデンスレベルⅥ).悪い予後を伝えることは,緩和ケアの第一歩であり,患者のペースに合わせて家族も一緒のところで進めるとよい.最新の治療や研究についてはもとより,今後起こりうる症状も緩和ケアを十分行うことで対処できるということを説明することで前向きな気持ちを失わせないようにし,希望を与えることが重要である.そのためには十分な時間をかけることが必要である 5)(エビデンスレベルⅥ), 6)(エビデンスレベルⅣb).近年はインターネットなどで患者自身が調べて ALSの情報を得られる時代である.厳しい予後を活字からはじめて知ることは精神的ダメージが大きいため,ALSに詳しい専門医が責任と誠意を持って説明するようにしたい.症例ごとに異なる対応が求められる場合もあるが,参考までに告知の際に話しておいたほうがよいと思われる項目を表 1に示した.

告知の前には患者の精神状態を評価し,うつ状態や認知症がある場合にはどのように告知するか慎重な検討と配慮が必要である(CQ 3–4 参照).高齢者であっても本人が告知を望んでいる場合や,十分に受け入れられる精神状態と認知機能がある場合は配慮のうえ告知したほうがよい場合が多い.告知することで前向きに病状と取り組む動機づけができ,周囲も嘘を重ねることになると本人が孤独になってしまうからである.

表1 告知に際して話すべきこと チェックリスト*告知をする前に環境を整え,資料など準備状況を確認し,十分な時間を確保する.*患者が現状をどのように捉えており,病気をどの程度知りたいと思っているかをつかむ.*すべての情報を一度に伝える必要はない.必要に応じて数回に分けて詳しく説明していく.*重要な情報は最初に伝えるようにする.その際,患者にとって厳しい情報はよい情報とともに伝えること.患者の動揺が大きいからといって悪い情報を伝えたのみで終わることのないようにする.*患者や家族の反応をみながら,伝える内容,量,伝え方を調節する.*全体を通して病状や予後など個人差が大きい疾患であり,インターネットや本に書いてあることが必ずしも当てはまらないことを説明する.*治癒を望めない状態だからといって見捨てられるわけではなく,病状を改善する様々な方法があることを伝える.*どうしてこのような伝え方をしたかについても説明を加える1.診断に至った理由

2.ALSについての一般論(原因・遺伝性・頻度・発症要因は特定困難・病態の概略)(四肢麻痺,球麻痺,コミュニケーション障害,呼吸筋麻痺)

(リハビリテーション,補助療法,経管栄養,   呼吸補助機器など)

3.現在提供できる治療

1)

4.研究がどのように進んでいて,今後の見通しはどうか

5.社会制度利用について

6.今後の生活を支えるシステムについて

7.経済的支援について

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表2 SPIKESを踏まえたALSの推奨される告知Step 1:Setting up the interview 面談の設定

(少なくとも45~ 60分)中断されないように準備して,院内コールも預けるもしくはサイレントモードにする.時間が限られている場合はあらかじめ患者に伝える.

に持っておく.

Step 2:Assessing the patient’s perception 患者の認識を評価する,どの程度知っているかを確認する(「お身体の状態に

ついて,今までどのようなことを伝えられたことがありますか」「検査を行う理由についてどのようなお考えをお持ちですか」など).

どのように感じているのか(悲観的なのか,非現実的な期待を持っていないかなど)を探る.

Step 3:Obtaining the patient’s invitation 患者からの求めを確認する

(「どのように検査結果をおしらせしましょうか,悪い結果であったとしてもすべての情報を知らせてほしいですか」など).

Step 4:Giving knowledge and information to the patient 患者に知識と情報を提供する(「申し上げにくいのですが・・」「少し厳しい話になりますが・・」).

(「根治療法はありません」「死に至る病気です」),実施可能な治療までも否定するような表現(「治療法はありません」,「当院ではすることはありません」)はすべきでない.

ための治療はあること,実際の生活を少しでも楽に過ごすためのケアや補助があること,合併症は治療できること,最後まで責任をもってかかわっていく医療機関があることを,前向きな考えや,希望を持てるように説明する.

,個人差が大きいことや,予測には限界があることを認識させる.予後は変動が大きく,5年,10年もしくはそれ以上生存する人もいることに言及する.

(例リルゾール)や現在行われている研究や参加できる治験について知らせる.

患者の治療に対する意思決定は尊重されることを保証する.

(患者会など)について伝え,患者が望めばセカンドオピニオンにも同意する.Step 5:Addressing the patient’s emotions with empathic responses 患者が抱く感情に共感を込めて対応する

応(患者の気持ちを推察し,必要に応じて言語化して確認する.非言語的コミュニケーションや沈黙も共感的な対応となりうる.医師としてももっとよい知らせができたらよかったのにと思っていることやそのような感情を抱くのは無理もないと理解していることを伝える,など)は患者をささえ,連帯意識を与えたりすることができる.

Step 6:Strategy and summary 方針とまとめる

いか確認する.

は 2~ 4週後とし,今後定期的なフォローアップをしていくこと,治らないからといって見捨てられるわけではないことを説明する.

に情報を伝える,希望を失わせる

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3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3告知,診療チームほか

告知においてはコミュニケーション方法の問題が多くの報告で指摘されている.コミュニケーションは双方向であり,患者の言葉(捉え方や理解など)に耳を傾け,寄り添うことが重要である.がんの領域では SPIKESという方法が推奨されており,ALSにも応用できると思われる.SPIKESを踏まえた ALSの告知について参考として表 2に示す 3〜5).

■ 文献1) 湯浅龍彦,水町真知子,若林佑子,ほか.筋萎縮性側索硬化症のインフォームド・コンセント—ALSとと

もに生きる人から見た現状と告知のあり方—.医療. 2002; 56: 338–343.2) 荻野美恵子,荻野 裕,川浪 文,ほか.ALSの告知のありかたについて—患者アンケート調査より—.

臨床神経学. 2003; 43: 1027.3) Baile WF, Buckman R, Lenzi R, et al. SPIKES: A Six-Steps Protocol for Delivering Bad News: Application

to the Patient with Cancer http://theoncologist.alphamedpress.org/cgi/reprint/5/4/3024) Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al; EFNS Task Force on Diagnosis and Management of Amy-

otrophic Lateral Sclerosis. EFNS guidelines on the clinical management of amyotrophic lateral sclerosis(MALS): revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol. 2012; 19: 360–375.

5) Borasio GD, Sloan R, Pongratz DE. Breaking the news in amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol Sci. 1998;160 (Suppl 1): S127–S133.

6) McCluskey L, Casarett D, Siderowf A. Breaking the news: a survey of ALS patients and caregivers. Amy-otroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2004; 5: 131–135.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease/diagnosis"[Mesh] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[Mesh]) AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR Internet[MH] OR inter-net[TIAB] OR book[TIAB] OR "Disclosure"[MH]) OR ("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[Tiab] AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR "Disclosure"[MH])) ANDHumans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 74 件

医中誌(検索 2012 年 3 月 1日)筋萎縮性側索硬化症/TH and (真実の開示/TH or 医師-患者関係/TH or インフォームドコンセント/TH or 紹介と相談/TH or 半構成的面接/TH or 語り/TH or 情報収集/TA) and (DT=2000: 2012 PT=会議録除く)検索結果 194 件

ほかに JMEDPlusも検索した.文献 2),3),5)はハンドサーチにより付け加えた.

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推奨

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❶ALS の可能性が否定できないあるいは可能性が高い場合には,診断は確定していないが,その疑いがある旨を伝える(グレード C1).

■ 背景・目的ALSの診断確定は難しく,確定できる段階ではすでに種々の機能低下をきたしていることも

多い.診断未確定の場合に病名告知をすべきかどうか,臨床現場では迷う場合もある.

■ 解説・エビデンス診断の確定は診断基準を満たすかどうかで行うが,診断基準はどのような目的で作成されたか

により感度や特異度が異なる.改訂 El Escorial基準は研究を目的とした厳しい診断基準のため 1)

(エビデンスレベルⅣa),病初期から診断基準を満たすのは一部の症例となってしまう.日本においては特定疾患申請可能かどうかを含め厚生労働省研究班で臨床に即して作成された診断基準を用いることが多い.しかし,病初期には本診断基準ですら満たさない症例も多く存在する(CQ 2–1,2–2 参照).診断が確定していないのに予後の悪い病気であるということを話すべきなのか迷うことも多い.本 CQに対する直接的なエビデンスはないが,多くの報告で患者はなるべく早く話をしてほ

しいと希望していることが明らかとなっている 2, 3, 5)(エビデンスレベルⅣb), 4, 6)(エビデンスレベルⅥ).また,進行性球麻痺タイプでは診断基準を満たすまでに時間を要することが多く,診断基準を満たす前に胃瘻などの医療処置を必要とする症例もある.患者自身の人生設計をするうえでも重要な情報となりうるので,診断確定前でも ALSの可能性が高いと判断されるのであれば,現在医療者がどのように捉えているかを説明することを推奨する.

ただし,告知の前には患者の精神状態を評価し,うつ状態や認知症がある場合にはどのように告知するか慎重な検討と配慮が必要である(CQ 3–4 参照).高齢者であっても本人が告知を望んでいる場合や,十分に受け入れられる精神状態と認知機能がある場合は疾病を受け入れ,家族との関係性を良好に保つために,配慮のうえ告知したほうがよい場合が多い.

■ 文献1) Ross MA, Miller RG, Berchert L, et al. Toward earlier diagnosis of ALS: revised criteria. Neurology. 1998;

50: 768–772.2) 湯浅龍彦,水町真知子,若林佑子,ほか.筋萎縮性側索硬化症のインフォームド・コンセント—ALSとと

診断が確定していない場合にどのように話すか

Clinical Question 3-2 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3告知,診療チームほか

もに生きる人から見た現状と告知のあり方—.医療. 2002; 56: 338–343.3) 荻野美恵子,荻野 裕,川浪 文,ほか.ALSの告知のありかたについて—患者アンケート調査より—.

臨床神経学 2003; 43: 1027.4) Borasio GD, Sloan R, Pongratz DE. Breaking the news in amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol Sci. 1998;

160 (Suppl 1): S127–S133.5) McCluskey L, Casarett D, Siderowf A. Breaking the news: a survey of ALS patients and caregivers. Amy-

otroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2004; 5: 131–135.6) Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al; EFNS Task Force on Diagnosis and Management of Amy-

otrophic Lateral Sclerosis. EFNS guidelines on the clinical management of amyotrophic lateral sclerosis(MALS): revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol. 2012; 19: 360–375.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease/diagnosis"[Mesh] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[Mesh]) AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR Internet[MH] OR inter-net[TIAB] OR book[TIAB] OR "Disclosure"[MH]) OR ("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[Tiab] AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR "Disclosure"[MH])) ANDHumans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 74 件

医中誌(検索 2012 年 3 月 1日)筋萎縮性側索硬化症/TH and (真実の開示/TH or 医師-患者関係/TH or インフォームドコンセント/TH or 紹介と相談/TH or 半構成的面接/TH or 語り/TH or 情報収集/TA) and (DT=2000: 2012 PT=会議録除く) 検索結果 194 件

ほかに JMEDPlusも検索した.文献 1),3),4)はハンドサーチにより付け加えた.

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推奨

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❶ALS の大多数は孤発性であるが,遺伝性も 5〜10%程度認める.家族歴の明らかな患者が,情報を求めるのであれば遺伝性の ALS についても説明する.また,両親が近親婚の場合に家族性 ALS の可能性があることについて一般論として説明する

(グレード C1).❷遺伝子検査については遺伝カウンセリングを活用するなど,倫理的配慮を十分に行っ

たうえで説明する(グレード C1).

■ 背景・目的近年 ALSの遺伝子異常が次々と発見され,ALSの病態理解に大きな進展をもたらしている.

ALS医療の進展にとって重要な情報となる一方で,遺伝性疾患と認定されることは血縁者にもかかわる問題となる.そのような心理的負担に十分に配慮する必要がある.

■ 解説・エビデンス遺伝性(家族性)ALSについて既報告をまとめたシステマティックレビューでは,前向き人口

ベースの患者登録データをまとめると,家族歴のある ALSは 5.1%であると結論している 1)(エビデンスレベルⅠ)(CQ 1–1,1–5 参照).また,孤発性のなかにもまれながら遺伝子異常を認める場合がある.ALSの原因について説明するなかで,一般論として一部は遺伝性であることに触れるが,家族歴や近親婚がない場合は遺伝性である可能性は低いことを説明する.難治性疾患の遺伝情報については,遺伝情報を知ることは,直接的に治療に結びつく場合を

除いてはネガティブな面が多い.家族歴が濃厚な場合は患者自身が家族性・遺伝性であることを自覚している場合が多いが,このような場合でも,遺伝性と認めることの抵抗感,社会的な偏見などに配慮して告知が行われるべきである.さらに,遺伝子診断をするかどうかということに関しても,遺伝カウンセリングの情報を伝えて十分な配慮がなされるべきである.わが国では地域により遺伝カウンセリング体制が必ずしも十分でないため,遺伝性神経疾患ガイドラインなどを参照するとよい 2, 3)(エビデンスレベルⅥ).

■ 文献1) Byrne S, Walsh C, Lynch C, et al. Rate of familial amyotrophic lateral sclerosis: a systematic review and

meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 623–627.2) 日本人類遺伝学会.遺伝性疾患の遺伝子診断に関するガイドライン http://jshg.jp/pdf/10academies.pdf

遺伝についてどのように説明するか

Clinical Question 3-3 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3告知,診療チームほか

3) 日本神経学会(監修),「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会(編).神経疾患の遺伝子診断ガイドライン 2009,医学書院,東京,2009

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease"[MH] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis"[TIAB]) AND "Genetic Counseling"[MH]AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 30 件

医中誌(検索 2012 年 3 月 1日)(運動ニューロン疾患/TH or "Amyotrophic Lateral Sclerosis"/AL or 筋萎縮性側索硬化症/AL) and (遺伝相談/TH or 出生前診断/TH or 発症前診断/AL ) and (DT=2000: 2012 PT=会議録除く CK=ヒト)検索結果 17 件

ほかに JMEDPlusも検索した.文献はハンドサーチで検索した.

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推奨

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❶認知機能障害があっても,主介護者・キーパーソンとともに告知することが望ましい.重度のうつ病を合併している場合には精神科の見解を参考に主介護者・キーパーソンと相談のうえ,告知につき検討する(グレード C1).

❷患者自身の意思決定能力が低下している場合,治療選択において,本人の現時点での意向に配慮したうえで,本人の考え方をよく理解している家族などと本人にとっての最善の選択を考える(グレード C1).

■ 背景・目的近年,高齢発症 ALSが増加しているが,認知症を合併する例もあり,どの程度告知をしたほ

うがよいのかは迷うことも多い.認知機能障害があっても患者本人がある程度の治療選択に関する意思表示を示した場合,どこまでメリットおよびデメリットを理解したうえでの意思決定であるのか,判断が困難な場合もある.特に生命予後に直結するような意思決定において,単純に本人の言葉に従うのがよいのか悩ましいことがある.

■ 解説・エビデンス認知機能障害も重度でなければ,患者は状況を理解できることが多い.病初期からまったく

理解できないほど認知機能障害が進行している例はまれである(CQ 1–9 参照).その後の医療処置の選択や,日常生活上の注意点など患者本人が気をつけなければいけないことも多々あり,疾患に対する患者のある程度の理解が必要である.また,家族とともに本人にも説明することで本人に隠しているという家族の精神的負担を軽減することにもなる.

しかし,一度説明しても十分理解できていない場合や誤解してしている可能性もあるため,告知後も,どの程度理解できているか確認し,再度の説明が必要となる.

また,うつ病を合併している場合は,生命にかかわる重大な情報を伝えることでうつ状態がさらに悪化する可能性があるため,精神科主治医とよく相談のうえ,家族の了承を得ながら告知を進める.病名を伝えなくとも患者は進行する状態を目の当たりにすることになるため,現状に対する説明をしないことが,かえって不安に陥れることにもなる.生命予後まで説明しない場合でも,現状の説明は医療処置の選択においても必要である.

治療選択において十分な情報が与えられ,それを理解し,結果を推察する能力がある場合には本人の意思を尊重する(CQ 3–8 参照).認知機能が低下している場合には本人の希望に沿うべきか否かは慎重な検討を要する.

本人に判断能力がない場合には,本人にとって最善となるように治療法を選択をする.主介

認知症やうつがあるALSの告知や治療方針の選択の援助はどのように行うか

Clinical Question 3-4 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3告知,診療チームほか

護者のみに判断を委ねるのは多大な精神的負担となるため,本人の考え方をよく理解している家族らと治療選択についての現状をよく知っている複数の医療スタッフなど関係する様々な職種も含めたチームでの検討が好ましい 1).家族は本人のことをよくわかっているという面と介護や経済的問題など利害関係もあることに留意し,また,医療スタッフは一般論として物事を捉えがちである面を自覚して検討すべきである.

■ 文献1) 厚生労働省.終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン 

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/dl/s0521-11a.pdf

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)(("Motor Neuron Disease/diagnosis"[MH] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[MH]) AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR internet[MH] OR inter-net[TIAB] OR book[TIAB] OR "Disclosure"[MH])) OR ("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[TIAB] AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR "Disclosure"[MH])) AND("Dementia"[MH] OR Cognition Disorders[MH] OR "Aged"[MH]) AND (Humans[MH] AND (English[LA] ORJapanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP])検索結果 20 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献はハンドサーチで検索した.

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推奨

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❶ALS の告知においては,疾患の全体像がわかるように説明する.症例によっては段階的告知を行う(グレード C1).

❷個人差の大きい疾患のため平均的な予後が当てはまらないことも説明する.昨今は本やインターネットなどで情報入手しやすくなっている点も考慮する(グレード C1).

■ 背景・目的ALSの予後を知らせることは患者や家族にとってショックが大きい.どこまで伝えるかは臨

床家としても迷うことが多い.

■ 解説・エビデンス患者の意向について後ろ向き調査を行った報告によると,患者はなるべく診断がつき次第す

べてを教えてほしいと希望している場合が多い(CQ 3–1 参照).また,昨今は病名を聞けばインターネットなどで容易に疾患についての情報を得ることがで

きる.医師からの説明が不十分な場合,患者は新たな事実をインターネットを通じて知ることになる.重大で悪い予後についてコンピュータ上の文字で知ることと,医師から十分に配慮されながら説明を受けるのでは患者の受けるショックは大きく異なり 1)(エビデンスレベルⅣb),患者–医師関係に与える影響も大きい 2)(エビデンスレベルⅥ).また,ALSの臨床経過はばらつきが大きいため,平均的な予後を伝えるのみではなく,個々

の症例に即した予後を予測して説明することが望ましい.進行期には,より具体的に予後を推定し,患者が求めるならばおおよその残された時間を告

げる.正確な推定は困難であるので週単位,月単位などの表現を用いる.球麻痺や呼吸筋麻痺がある場合には窒息や呼吸抑制などによる急変がありうることに触れ,急変時の対応についても十分に話し合って方針を決めておく必要がある.

予後を知ることは,最後まで自分らしく生きることの助けになる.前向きな気持ちで予後を知っておきたいという希望に対して真摯に対応すべきであるが,告げられることで生きる意欲をなくしたり,うつ状態になる場合もあり,患者や家族の性格傾向や理解力などをよく見極めて話すようにする.

告知において生命予後はどのように伝えるか

Clinical Question 3-5 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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3告知,診療チームほか

■ 文献1) 植竹日奈,伊藤道哉,北村弥生,ほか.ALS・告知・選択「人工呼吸器をつけますか?」,MCメディカ出

版,大阪,2004.2) Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al; EFNS Task Force on Diagnosis and Management of Amy-

otrophic Lateral Sclerosis. EFNS guidelines on the clinical management of amyotrophic lateral sclerosis(MALS): revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol. 2012; 19: 360–375.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)(("Motor Neuron Disease/diagnosis"[MH] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[MH]) AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR internet[MH] OR inter-net[TIAB] OR book[TIAB] OR "Disclosure"[MH])) OR ("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[TIAB] AND (announce*[TIAB] OR (breaking[TIAB] AND news[TIAB]) OR "Interpersonal Relations"[MH] OR "Disclosure"[MH])) AND("Terminal Care"[MH] OR Terminally Ill[MH] OR "Prognosis"[MH]) AND (Humans[MH] AND (English[LA]OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP])検索結果 15 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献はハンドサーチで検索した.

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推奨

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❶医療処置が適切な時期に行われるためには,事前の告知が必要である.しかし,患者にとっては機能低下を指摘されることになりかねないので慎重に行う(グレードC1).

■ 背景・目的ALSは進行性疾患のため,進行に即した説明が必要であり,状態によって医療処置の選択が

迫られる.進行に沿った告知をどのタイミングでするのかは迷うところである.

■ 解説・エビデンス医療処置を適切な時期に受けるためには,その必要性について患者本人の理解が必須である.

事態が差し迫ってからでは,処置の種類によっては合併症をきたしたり,機能低下がより進行してしまうことがある.各医療処置の医学的な意味を十分に理解したうえで,その処置が患者の人生にとってどのような意味や価値があるかを,患者自身が考えるよう手助けをする.医療者からみた意味や価値を押しつけずに自己決定をサポートすることが肝要である.嚥下障害に伴う体重減少は筋萎縮の進行や筋力低下をもたらすため,体重減少をきたす前に

経鼻経管や胃瘻などの介入をすることが推奨されている 1〜3).しかし,まだ経口摂取可能な場合が多いため,患者の心理状況に配慮して,「栄養をつけて少しでも筋力を落とさないため」というようなポジティブな面を強調しながら説明する.また,経管栄養を導入すると経口摂取できないと誤解されることも多いため,当面は併用可能であることも説明する.

また,呼吸不全の進行に伴い無気肺をきたすリスクが増大するため,呼吸補助や排痰補助は早めの導入が推奨される.NPPVは QOLおよび生命予後を改善すると報告されている 4〜6)(エビデンスレベルⅡ)ため,この点について説明することで理解が得られることもある.

球麻痺による誤嚥のリスクがある場合,または呼吸筋麻痺により十分な排痰ができない場合など,窒息による急変がありうる.急変のときにどのような医療処置を望むのか事前に意思確認が必要となる.

特に気管内挿管や気管切開,気管切開下人工呼吸器など侵襲的な医療処置については差し控えることはできても,開始後の中止は困難なことが多いため,選択によるメリットとデメリット,選択しない場合の対処方法について十分な説明が必要である.情報提供が十分でなければ自己決定には至らない(CQ 3–8 参照).

医療処置をしないという選択をした場合,その後の対応について患者・家族と話し合う必要がある.患者の理解の程度を確認したり,説明内容を補完したりする意味でも,多専門職種に

進行に即した医療処置についての告知はどのようにするか

Clinical Question 3-6 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

Page 15: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

59

3告知,診療チームほか

よる関与が理解を助ける(CQ 3–7 参照).

■ 文献1) Marin B, Desport JC, Kajeu P, et al. Alteration of nutritional status at diagnosis is a prognostic factor for

survival of amyotrophic lateral sclerosis patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 628–634.2) Desport JC, Preux PM, Truong CT, et al. Nutritional assessment and survival in ALS patients. Amyotroph

Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2000; 1: 91–96.3) Heffernan C, Jenkinson C, Holmes T, et al. Nutritional management in MND/ALS patients: an evidence

based review. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2004; 5: 72–83.4) Mustfa N, Walsh E, Bryant V, et al. The effect of noninvasive ventilation on ALS patients and their care-

givers. Neurology. 2006; 66: 1211–1217.5) Bourke SC, Tomlinson M, Williams TL, et al. Effects of non-invasive ventilation on survival and quality of

life in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2006; 5:140–147.

6) Lo Cocco D, Marchese S, Pesco MC, et al. The amyotrophic lateral sclerosis functional rating scale predictssurvival time in amyotrophic lateral sclerosis patients on invasive mechanical ventilation. Chest. 2007; 132:64–69.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)"Motor Neuron Disease"[MH] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis"[TIAB] AND ((((clinical[TIAB] OR medical[TIAB]) AND (therapy[SH] OR therapy[TIAB] OR treatment[TIAB] OR Therapeutics[MH] OR therapeutics[TIAB])) OR care[TIAB]) AND decision[TIAB] OR ("provide"[TIAB] and "management"[TIAB] AND "plan"[TIAB])) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 48 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献はハンドサーチで検索した.

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回答

60

�ALS 診療においては多職種連携診療チームで対応することで,患者の QOL は改善する.

■ 背景・目的ALSの多職種連携診療チームの意義と実践することの有用性を理解する.

■ 解説・エビデンスALSは進行の過程で単に医学的な問題のみならず,生活機能障害,社会的問題など様々な困

難が生じる.それぞれに対応するためには多くの職種がかかわり,それぞれの分野のエキスパートが問題解決にあたることが望ましい.具体的には主治医,看護師のほか,図 1にあげた各職種が院内,院外を問わずにかかわることとなる.

多職種連携診療チームの意義は何か

Clinical Question 3-7 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

作業療法士

臨床心理士

訪問リハ

難病医療専門員

MSW

緩和ケア医

リエゾン精神科医

PEG施行医

呼吸器内科医

耳鼻科医

リハ科医

病院看護師

保健師

訪問看護師

歯科衛生士

神経内科医

歯科医

訪問医

患者家族

理学療法士

栄養士

訪問マッサージ

ボランティア

訪問入浴

ケアマネージャー

言語聴覚士訪問介護

病状悪化時入院

保健所

難病相談支援センター

レスパイト入院

図 1 各職種のかかわりMSW:医療ソーシャルワーカー

Page 17: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

61

3告知,診療チームほか

多職種連携診療チームは単に多様の職種が個別にかかわるのみでなく,多数の医療関係者が連携をとり,情報を共有し,共通の方針で患者のケアにあたることで患者や家族の QOLの向上を図ることができる 1, 2)(エビデンスレベルⅢ).多職種連携診療チームがかかわること(multidisciplinary care)で,生命予後が延長し 3〜5)(エ

ビデンスレベルⅢ),合併症が減り 3),QOLが向上する 1, 2).ただし生命予後の延長については球麻痺例など否定的な報告もあり 4),多職種連携診療チームに受診している患者層が比較的若く,長期間の症状を有しているという偏りがあることも指摘されている 3, 4).いずれにしても多くの専門職種がかかわるほうが早期に問題に気づき,適切な時期に医療介入できるなど,ALS患者ケアにとってよいことは明らかである 6, 7).これらの職種がすべて関与することができない医療機関では,機能を相互に補完し合うよう

にする.また,このような医療チームは積極的に早期から形成するようにし,告知のサポートなど病初期からかかわる.

■ 文献1) Van den Berg JP, Kalmijn S, Lindeman E, et al. Multidisciplinary ALS care improves quality of life in

patients with ALS. Neurology. 2005; 65: 1264–1267.2) Corr B, Frost E, Traynor BJ, et al. Service provision for patients with ALS/MND: a cost-effective multidis-

ciplinary approach. J Neurol Sci. 2008; 160 (Suppl 1): S141–S145.3) Chiò A, Bottacchi E, Buffa C, et al. Positive effects of tertiary centers for amyotrophic lateral sclerosis on

outcome and use of hospital facilities. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2006; 77: 948–950.4) Sorenson EJ, Mandrekar J, Crum B, et al. Effect of referral bias on assessing survival in ALS. Neurology.

2007; 68: 600–602.5) Zoccolella S, Beghi E, Palagano G, et al. ALS multidisciplinary clinic and survival: results from a popula-

tion-based study in Southern Italy. J Neurol. 2007; 254: 1107–1112.6) Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, et al. Practice parameter update: the care of the patient with amy-

otrophic lateral sclerosis: multidisciplinary care, symptom management, and cognitive/behavioral impair-ment (anevidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Acade-my of Neurology. Neurology. 2009; 73: 1227–1233.

7) Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al; EFNS Task Force on Diagnosis and Management of Amy-otrophic Lateral Sclerosis. EFNS guidelines on the clinical management of amyotrophic lateral sclerosis(MALS): revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol. 2012; 19: 360–375.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)(("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[MH] AND ("Patient Care Team"[MH] OR "Patient Care Planning"[MH] OR"Community Networks"[MH] OR multidisciplinary[TIAB] OR "care team"[TIAB])) OR "ALS clinic"[TIAB] OR"ALS center"[TIAB]) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 117 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献 2),3)はハンドサーチにより付け加えた.

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推奨

62

❶治療方針の決定においては他者の不利益をきたさない限り患者本人の意思(自己決定)を最も優先する(グレード C1).

■ 背景・目的重要な治療方針については本人の希望に沿った選択がなされるべきであるが,そのプロセス

について理解する.

■ 解説・エビデンス患者本人の意思を尊重するためには,患者本人に自己決定能力(判断能力)があるかどうかを

判断する必要がある.情報を理解し,自分自身の人生設計にとってそれぞれの治療選択肢の持つ意味を考察し,治療選択後の状態を推察できる能力および,それを表明できる能力が必要である.さらに,その判断には恒常性がなければならない.以上の要素が十分に遂行可能である場合に自己決定能力(判断能力)があると判断できる 1)(エビデンスレベルⅥ).

患者の導き出した選択が自己決定であるとする前提として,自己決定に際しては,治療選択肢に関する適切な情報が提供され,十分な説明がなされなければならない.医療者は単に医学的意義だけでなく,患者の人生に対する思い,家族背景,置かれている環

境など,患者の性格や考え方,社会的側面をも理解するように努め,患者の判断が患者の人生設計(advanced care planning:ACP)にとって合致するものであるか,患者の人生にとっての価値として合理的な選択であるかという視点で評価・アドバイスする 1, 2)(エビデンスレベルⅥ).

上記原則に基づいて患者の自己決定支援を行うが,実際の臨床の場面では明確に判断できないことも多い.軽度の認知症がある場合(CQ 3–4 参照)や患者本人が決断できない場合,生命予後に直結する気管内挿管や気管切開人工呼吸器に関する方針など,決断に猶予がない医療処置を迫られる状況のときは,その時点での方針決定を模索することになる.このような場合は,主介護者のみに判断を委ねるのではなく,本人の考え方をよく理解している家族らと治療選択についての現状をよく知っている複数の医療スタッフなど関係する様々な職種も含めたチームでの検討が好ましい.何が本人にとって最善の選択となりうるのかをよく検討し,治療選択をする.患者本人の意向と家族の意向が異なる場合があるが,基本的には患者本人の意向が優先される.

具体的な検討手順については平成 19 年 5月に厚生労働省から示されている「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」3)(エビデンスレベルⅥ)および厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の自立支援体制の確立に関する研究」班がまとめた「筋

治療方針の選択において患者本人の意思をどのように尊重するか

Clinical Question 3-8 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

Page 19: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

63

3告知,診療チームほか

萎縮性側索硬化症患者の意向の尊重とケア(事前指示)に関する検討中間報告」2)が参考となる.

■ 文献1) バーナード・ロウ.医療の倫理ジレンマ 解決への手引き—患者の心を理解するために—,北野喜良,中

澤英之,小宮良輔(監訳),西村書店,東京,2003.2) 筋萎縮性側索硬化症患者の意向の尊重とケア(事前指示)に関する検討中間報告 厚生労働科学研究費補助

金難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の自立支援体制の確立に関する研究」班 2011 年 3 月3) 厚生労働省.終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン 

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/dl/s0521-11a.pdf

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease/therapy"[MH] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[MH] OR "Motor Neuron Dis-ease/nursing"[MH]) AND ("Advance Directives"[MH] OR "Advance Directive Adherence"[MH] OR "DecisionMaking"[MH] OR "Patient Rights"[MH] OR "Patient Participation"[MH] OR "Euthanasia"[MH] OR "AdvanceCare Planning"[MH] OR "Patient Satisfaction"[MH]) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA])AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 97 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献はハンドサーチで検索した.

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推奨

64

❶患者に判断能力がある場合には,現在の判断が優先される.判断能力がない場合は事前指示に基づき,患者にとっての最善の判断を家族および医療・ケアチームで検討する(グレード C1).

■ 背景・目的近年,患者自身が事前に医療処置に関する意思表明をしておく事前指示が認識されるように

なってきている.医療者は事前指示の取り扱いについて理解したうえで本人の意思を尊重することが求められる.

■ 解説・エビデンス医療技術の進歩によって救命率は向上したが,機能予後が悪い状況での救命の場面も増加し,

近年では事前に医療処置について意思表明をする患者も増えてきている.日本尊厳死協会のリビングウイル,エンディングノート,私の希望書など様々なツールが入手可能であり,実際に診療場面で提示されることも増えてきている.実際に事前指示を適応する場面においては,患者に判断能力,意思表示力がある場合には,

現在の意思が最優先される.以下は,患者の判断力,意思表示力が曖昧な場合についての対応である.事前指示が有効であると判断されるためには,十分な情報の提供と理解のもとに,何物にも

強制されない自由意思として作成されたものか,患者がいつどのような考えで意思表示したのかなど,作成プロセスを患者の家族を含む医療チームが検証する必要がある.

事前指示を作成するときには,実際には起こっていない場面を想像して判断することになるので,作成時点と現実に起こっていることが乖離することもある.事前指示の適用にあたっては,単に指示された結論のみを重視するのではなく,事前指示が作成されたプロセスや患者の人生設計における意味を理解するようにつとめ,事前指示に込められた患者の真意を解釈するプロセスが重要である 1, 2)(エビデンスレベルⅥ).現実に治療方針を決定しなければならないときには,患者のことをよく理解している家族などを含む関係者でチームとして,患者が現時点においても「事前指示」の内容を本当に望んでいるかを「本人であればどう考えるだろうか」という視点で推定し(解釈プロセス),医学的妥当性と適切性をもとに患者にとっての最善の方針を慎重に検討する.

具体的な検討手順については平成 19 年 5月に厚生労働省から示されている「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」3)(エビデンスレベルⅥ)および厚生労働科学研究費補助金

事前指示がある場合どのように対応するか

Clinical Question 3-9 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

Page 21: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

65

3告知,診療チームほか

難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の自立支援体制の確立に関する研究」班がまとめた「筋萎縮性側索硬化症患者の意向の尊重とケア(事前指示)に関する検討中間報告」2)が参考となる.

■ 文献1) バーナード・ロウ.医療の倫理ジレンマ 解決への手引き—患者の心を理解するために—,北野喜良,中

澤英之,小宮良輔(監訳),西村書店,東京,2003.2) 筋萎縮性側索硬化症患者の意向の尊重とケア(事前指示)に関する検討中間報告 厚生労働科学研究費補助

金難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の自立支援体制の確立に関する研究」班 2011 年 3 月3) 厚生労働省.終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン 

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/dl/s0521-11a.pdf

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease/therapy"[MH] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[MH] OR "Motor Neuron Dis-ease/nursing"[MH]) AND ("Advance Directives"[MH] OR "Advance Directive Adherence"[MH] OR "DecisionMaking"[MH] OR "Patient Rights"[MH] OR "Patient Participation"[MH] OR "Euthanasia"[MH] OR "AdvanceCare Planning"[MH] OR "Patient Satisfaction"[MH]) AND (Physician-Patient Relations[MH] OR "Attitude ofHealth Personnel"[MH] OR "Family"[MH] OR "Decision Making"[MH] OR ("decision"[TIAB] and "making"[TIAB])) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 47 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献はハンドサーチで検索した.

Page 22: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

推奨

66

❶終末期を迎えるにあたり,患者本人が安心できるように,終末期の対処法について緩和のための様々な方法があるということを説明する(グレード C1).

■ 背景・目的終末期に対して精神的にも不安が強くなるため,十分な説明が必要である.

■ 解説・エビデンスALSの場合,どの時点を「終末期」というかは難しい.救命は人工呼吸器装着により可能と

なるため,呼吸不全がすなわち終末期とは限らない.また,人工呼吸器を用いることにより呼吸筋麻痺による呼吸不全は免れたとしても,別の原因から終末期を迎えることもありうる.そのため,ここでは便宜上,近い将来の死を覚悟しなければならない時期を終末期と捉える.死を意識するときには不安や恐怖を生じることが多い.どのようなことが起こるのか,また,

それに対してどのような対処方法があるのかがわからなければ,不安はさらに強いものとなる.がん終末期でも多くの報告がなされているように,ALSにおいても具体的にどのようにケアできるか(CQ 3–11 参照)を説明することは安心につながる 1)(エビデンスレベルⅥ).特に ALS終末期においては呼吸不全が生じることが多く,患者の 50%は呼吸苦を生じると報告されている 2)

(エビデンスレベルⅣb)が,このような呼吸苦はがんにおける呼吸苦と同様に,通常少量のモルヒネなどの強オピオイドにて緩和できることを説明する(CQ 3–12 参照).また,様々な医療処置は延命治療の側面と緩和ケアの側面があることも十分に説明すべきで

ある.この際,人の価値観は様々であり,医療者個人の終末期医療に対する考え方を押しつけないように十分に注意をして対処する 3)(エビデンスレベルⅣb).

■ 文献1) Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al; EFNS Task Force on Diagnosis and Management of Amy-

otrophic Lateral Sclerosis. EFNS guidelines on the clinical management of amyotrophic lateral sclerosis(MALS): revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol. 2012; 19: 360–375.

2) O’Brien T, Kelly M, Sunders C. Motor neuron disease: a hospice perspective. BMJ. 1992; 304: 471–473.3) 植竹日奈,伊藤道哉,北村弥生,ほか.ALS・告知・選択「人工呼吸器をつけますか?」,MCメディカ出

版,大阪,2004.

終末期ケアについてどのように説明するか

Clinical Question 3-10 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

Page 23: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

67

3告知,診療チームほか

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease/diagnosis"[MH] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[MH] or "Motor Neuron Dis-ease/therapy"[MH]) AND ("Terminally Ill"[MH] OR "Palliative Care"[MH] OR "Terminal Care"[MH] OR "Atti-tude to Death"[MH]) ("Motor Neuron Disease/diagnosis"[MH] OR "Motor Neuron Disease/psychology"[MH]or "Motor Neuron Disease/therapy"[MH]) AND ("Terminally Ill"[MH] OR "Palliative Care"[MH] OR "TerminalCare"[MH] OR "Attitude to Death"[MH]) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND"2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 176 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献 2),3)はハンドサーチにより付け加えた.

Page 24: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

推奨

68

❶ALS はあまり苦痛なく終末期を迎える場合と苦痛症状を生じる場合がある(グレードなし).

❷ALS 終末期の苦痛症状には,嚥下障害による誤嚥,呼吸障害による呼吸苦,拘縮による関節痛,体動ができないことによる身の置き所のなさ,終末期に対する精神的苦痛,自身の存在や病気を抱えながら生きていることそのものに対するスピリチュアルペインなどがある(グレードなし).

❸終末期に苦痛症状をきたさないようにあらかじめ予防策を講じ,症状出現時もそれぞれに軽減する対症療法を十分に行う(グレード C1).

■ 背景・目的ALSの終末期の迎え方も個人差がある.死を直前に苦痛症状を生じることもあるので,予防

と対症療法に精通し,対応することが望まれる.

■ 解説・エビデンスALSの50%は突然死を迎えたとの報告があるが,原因として球麻痺による窒息が考えられる 1)

(エビデンスレベルⅣb).この場合の苦痛は短時間かもしれないが,突然に死が訪れることによる家族の悲しみや驚きは大きい.場合によっては異常死の扱いになることもあるため,危険性について事前に伝えておく.誤嚥の危険性がある場合は,経口摂取をどの程度継続するか,患者本人とよく相談する.経

口摂取をやめても,唾液の誤嚥はありうるため,薬物の使用や唾液の低圧持続吸引などにより唾液を減らす努力,誤嚥性肺炎予防のために口腔内の清潔を保つようにする.排痰を極力少なくするために,呼吸機能低下の初期から排痰補助装置,NPPVなどを用いるなど,できるだけ無気肺の予防と気道クリアランスを改善する.

終末期には 50%の症例で呼吸苦があると報告されているが,ホスピスケアを受けることで81%は苦痛除去を得られた 1).また,平安な死を迎えた要素としてはNPPVの使用,ホスピスケアなど(日本では ALSは保険対象外)と報告されている 2, 3)(エビデンスレベルⅣb).呼吸苦にはモルヒネが有効であり 4, 5)(エビデンスレベルⅥ),適切な時期に少量から開始するとよい(CQ

3–12 参照).拘縮対策としては,病初期から関節可動域が制限されないようにリハビリテーションを行い,

生じたときにはNSAIDsなどの投薬や関節内注射などを行う.精神的な問題には抗うつ薬やメジャートランキナイザーの投与などが有効な場合がある.

終末期にはどのような苦痛があり,どのように対処するか

Clinical Question 3-11 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

Page 25: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

69

3告知,診療チームほか

いずれの場合も苦痛症状の原因を見極めることが肝要であり,薬物投与のみでなく全人的ケアを行う.

■ 文献1) O’Brien T, Kelly M, Sunders C. Motor neuron disease: a hospice perspective. BMJ. 1992; 304: 471–473.2) Mandler RN, Anderson FA, Jr, Miller RG, et al; ALS C.A.R.E. Study Group. The ALS Patient Care Data-

base: insights into end-of-life care in ALS. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2001; 2:203–208.

3) Neudert C, Oliver D, Wasner M, et al. The course of the terminal phase in patients with amyotrophic later-al sclerosis. J Neurol. 2001; 248: 612–616.

4) 荻野美恵子.緩和ケアにおけるモルヒネの使用は.EBM神経疾患の治療,中外医学社,東京,2009: p336–340.

5) Sykes N. End of life care. Palliative Care in Amyotrophic Lateral Sclerosis: From Diagnosis to Bereave-ment, Oliver D, Borasio G, Walsh D eds, 2nd Ed, Oxford University Press, Oxford, 2006: p287–300.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)("Motor Neuron Disease"[MH] AND ("Analgesics, Opioid"[MH] OR opioids[TIAB] OR "Morphine"[MH] ORmorphine[TIAB] OR hospice[TIAB])) OR (( "Amyotrophic Lateral Sclerosis/mortality"[MH] OR "AmyotrophicLateral Sclerosis/psychology"[MH] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/therapy"[MH] ) AND ("TerminallyIll"[MH] OR "Palliative Care"[MH] OR "Terminal Care"[MH] OR "Attitude to Death"[MH])) AND Humans[MH]AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 141 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.文献 1),4),5)はハンドサーチにより付け加えた.

Page 26: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

推奨

70

❶ALS の苦痛(呼吸苦など)にはモルヒネが有効である.モルヒネの使用にあたっては呼吸抑制など副作用に十分に留意して使用する(グレード C1).

■ 背景・目的日本においては ALSにおける強オピオイド(モルヒネなど)の使用の歴史が浅く,使用経験が

少ない場合が多い.予想される副作用を踏まえて安全に使用するための知識の整理が必要である.

■ 解説・エビデンス欧米では 1980 年代には ALSの緩和ケアの記載があり,がんの緩和ケアとほぼ併行して行わ

れてきた.ALSでは患者の約 50%が呼吸苦を自覚し,強オピオイドの使用により 81%で緩和されると報告されている 1)(エビデンスレベルⅣb).また,進行期には 40〜73%が関節の拘縮や筋痙攣,不動に伴う圧迫により痛みを訴える.痛みについてはWHOのがんにおける痛みのコントロールに準じて治療することが推奨され,55%は強オピオイド以外の抗炎症薬や抗痙縮薬などでコントロールでき,80%は強オピオイドが有効であったと報告されている 1).緩和ケアにおける強オピオイドの使用は,米国神経学会(AAN)のガイドライン(1991 年)2)

(エビデンスレベルⅥ)と欧州の EFNS task forceによるガイドライン(2005 年)3)(エビデンスレベルⅥ)に記載されており,欧米諸国においてはスタンダードな治療として扱われている.日本も 2002 年日本神経学会 ALS治療ガイドラインにてオピオイドの使用を推奨しているが,保険適用がなかったことから,通常の治療としての位置づけにはなっていなかった 4)(エビデンスレベルⅥ).しかし,ALS専門家の間では使用する医師は多く 5)(エビデンスレベルⅥ), 6)(エビデンスレベルⅣb),さらに平成 23 年 9月保険上査定されない扱いとなったため,今後普及してくると思われる.

実際の使用方法は,おおむねがんで用いる半量が目安で,初回投与量は塩酸モルヒネ 2.5〜5mg(PaCO2 60mmHg以上では 1.25mg),安定期維持量は平均 30〜60mgである.長時間型オキシコドンは経管投与できず,フェンタニル貼付剤は呼吸抑制や意識障害をきたしやすいため,ALSに使用するオピオイドの種類としては塩酸モルヒネ(短時間作用),硫酸モルヒネ(長時間作用)が推奨される 5, 7)(エビデンスレベルⅥ).ALSにおけるオピオイド使用の副作用として呼吸抑制があるため,適切に使用する必要があ

る(表 1).また,ALSの約 50%は急変して亡くなると報告されており 1),ゆっくり呼吸障害が進行する場合はモルヒネを用いなくとも少量酸素投与などで,徐々に CO2 ナルコーシスになり,

強オピオイド(モルヒネなど)はどのように使用するか

Clinical Question 3-12 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

Page 27: 3.告知 ,診療 チーム ,事前指示 ,終末期 ケア · 「最初 から 人工呼吸器 を含めすべてを 伝えて 欲しい」61%との 回答 だった 2)(エビデンスレベル

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

71

3告知,診療チームほか

あまり苦しみを自覚しないまま最後を迎えることもある.ALS連続死亡 38 例においてモルヒネを必要とした ALS症例は約 40%であり,すべての患者に必要なわけではない 5).また,ALSにモルヒネの使用経験のある医師はオピオイド使用に賛成(81%)しており,使用経験のない医師の賛成の割合(35%)と大きな乖離があることから 5),一度使用するとその効果と安全性を実感できることを示している.

■ 文献1) O’Brien T, Kelly M, Sunders C. Motor neuron disease: a hospice perspective. BMJ. 1992; 304: 471–473.2) Miller RG, Rosenberg JA, Gelinas DF, et al. Practice parameter: the care of the patients with amyotrophic

lateral sclerosis (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the Ameri-can Academy of Neurology. Neurology. 1999; 52: 1311–1323.

3) Andersen PM, Borasio GD, Dengler R, et al. EFNS task force on management of amyotrophic lateral scle-rosis: guideline for diagnosing and clinical care of patients and relatives: an evidence-based review withgood practice points. Eur J Neurol. 2005; 12: 921–938.

表1 モルヒネ導入基準 ALS の進行期であり,呼吸筋障害のために呼吸苦を生じている状態,または,NSAIDs などの既存の治療では十分な緩和が得られない苦痛に対して用いる.それぞれの症状が感染症など二次的に生じている場合は原因となる疾患の治療を優先する.モルヒネの使用に関しては副作用について十分な説明を行い,本人および家族の同意を得て使用する.<導入方法の一例>モルヒネを開始する患者の大多数は経管栄養となっているため,粒子サイズに留意し経管からの投与可能な剤形を用いる.①短時間作用型モルヒネである塩酸モルヒネ散 2.5mg/ 回(PaCO2 60mmHg以上の場合は 1.25mg)で使用開始し,効果を実感するまで 2.5mg(PaCO2 60mmHg 以上の場合は1.25mg)ずつ増量する.②1回有効量(通常2.5~10mg)を確認し,効果がなくなったら頓用する(おおよそ3~4時間ごと投与)ことで1日必要量を確認する.③塩酸モルヒネ 1日必要量が 10mg以上になる場合は硫酸モルヒネ(長時間作用型モルヒネ;最も粒子の細かいモルペス ®の場合は経管栄養剤に溶かして1日 2回投与)を 1日量として投与.さらに苦しみを感じるときにはレスキューとして塩酸モルヒネ1回有効量を適宜使用する.④レスキューの必要量を平均し,硫酸モルヒネ総投与量を増量し,必要に応じて投与回数を8時間ごと3回とする.増量の目安は約2割程度とする.

⑤死の直前など,より効果を安定させたいときには持続注射(持続静注または持続皮下注射)に切り替えてもよい(1日経口 /経管投与量:1日注射量=2~3:1).

* 1:モルヒネを用いることで,慢性的な呼吸苦や痛みに対しての緩和は得られるが,多くの症例で球麻痺を伴っているため,ときどき起こる誤嚥や痰がらみによる呼吸苦を解消するまでには至らない.三環系抗うつ薬や抗コリン薬の使用,持続低圧吸引などにより唾液を少なくする努力をし,ネブライザーやMAC(mechanically assisted coughing)を用いて痰を出しやすくするなどの対処を適宜併用する.* 2:低酸素が苦痛の原因となっている場合はCO2 ナルコーシスに注意しながら低用量(0.5L/min)より酸素投与を併用する.*3:末期の落ち着きのなさに対してはクロルプロマジンなど抗精神病薬の時間ごとの非経口的投与を考慮する.*4:様々な対策を講じても苦しみを緩和できない場合は,ミダゾラムなどによる鎮静も考慮する.* 5:究極の呼吸苦の緩和は気管切開下の人工呼吸管理(TPPV)であるが,当初TPPVを拒否してモルヒネを用い始めたとしても,TPPV装着を希望するようになることもある.終末期のがんと異なり,TPPVを選択することで生きることができる疾患であるので,最後まで治療方針を再確認していく必要がある.

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4) 日本神経学会治療ガイドライン Ad Hoc委員会.ALS治療ガイドライン 2002.臨床神経学. 2002; 42: 678–719.

5) 荻野美恵子.緩和ケアにおけるモルヒネの使用は.EBM神経疾患の治療,中外医学社,東京,2009: p336–340.

6) 土井静樹,南 尚哉,藤木直人,ほか.筋萎縮性側索硬化症に対する緩和医療—当院での経験と国立病院機構 29 施設 77 名の神経内科医師へのアンケート調査結果から—.医療. 2006; 60: 644–647.

7) Sykes N. End of life care. Palliative Care in Amyotrophic Lateral Sclerosis: From Diagnosis to Bereave-ment, Oliver D, Borasio G, Walsh D eds, 2nd Ed, Oxford University Press, Oxford, 2006: p287–300.

■ 検索式・参考にした二次資料CQ 3–11 に同じ.文献 1〜3, 7)はハンドサーチにより付け加えた.

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回答

3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

73

3告知,診療チームほか

�がんの終末期では死の直前 2 週間前まで動けることが多いが,ALS の場合は身体機能障害が進行した末に終末期を迎えることが多い.

�がんの終末期では死を受け入れるしかないが,ALS の場合は人工呼吸器を装着することにより,延命を図ることができる.

■ 背景・目的終末期ケアについてはがんにおいて知見が多く積み重ねられ,その多くは ALSにも応用でき

るものである.しかし,疾患の特異性から異なる面もある.

■ 解説・エビデンス終末期ケアおよび緩和ケアについてはがんで多くの知見が得られている.その多くはすべて

の疾患の終末期に応用可能なものであるが,ALSの場合には身体機能障害が進行するため,がんの終末期以上に過酷な面もある 1)(エビデンスレベルⅣb), 2)(エビデンスレベルⅥ).終末期ケアは緩和ケアの一部でしかなく,ALSにおいては告知からすでに緩和ケアが始まっており,根治療法はないとしても適切な対症療法を行うことが重要で,ALSケアは緩和ケアそのものともいえる.次々に機能が奪われていく過程で身体状況の変化をいかに受け入れるか,ナラティブの書き換えが必要となる.しかし,延命という観点からはがんの終末期と異なり ALSでは TPPVを行うことによって生

きることができる.患者によっては TPPV下でも高い QOLを得る場合もある 2).日本は欧米先進国と比較して TPPVを行う患者の割合が高く,日本の社会的および文化的特異性に即した対応が求められる.

終末期になってから人工呼吸器装着を決意する患者もおり,最後までその可能性があることを念頭に置いて診療にあたることが好ましい.

また,終末期におけるオピオイドの使用もがんの疼痛における使用方法とは異なる.オピオイドの種類としては塩酸モルヒネ,硫酸モルヒネが有効であり,投与量はがんの痛みに対する投与量と比べると半分以下と少量で有効である.逆にがんと同様の使用量で開始すると意識障害や呼吸抑制をきたす場合があるため,注意が必要である 3)(エビデンスレベルⅥ).

がんの終末期とはどのように異なるか

Clinical Question 3-13 3.告知,診療チーム,事前指示,終末期ケア

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■ 文献1) Maessen M, Veldink JH, van den Berg LH, et al. Requests for euthanasia: origin of suffering in ALS, heart

failure, and cancer patients. J Neurol. 2010; 257; 1192–1198.2) Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, et al. Practice parameter update: The care of the patient with amy-

otrophic lateral sclerosis: multidisciplinary care, symptom management, and cognitive/behavioral impair-ment (anevidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Acade-my of Neurology. Neurology. 2009; 73: 1227–1233.

3) 荻野美恵子.緩和ケアにおけるモルヒネの使用は.EBM神経疾患の治療,中外医学社,東京,2009: p336–340.

■ 検索式・参考にした二次資料PubMed(検索 2012 年 2 月 16 日)"Motor Neuron Disease"[MH] AND "Neoplasms"[MH] AND (Terminally Ill[MH] OR "Palliative Care"[MH] OR"Terminal Care"[MH] OR Attitude to Death[MH]) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA])AND "2000"[DP]: "3000"[DP]検索結果 22 件

ほかに医中誌,JMEDPlusも検索した.