プレステ4はなぜ成功したのか?――ソニー・コンピュータエンタテインメント(sce)の事業戦略の分析 (why...

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http://www.***.net プレステ4はなぜ成功したのか? -ソニー・コンピュータエンタテインメント( SCEの事業戦略の分析 七邊信重 (マルチメディア振興センター)

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Economy & Finance


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Page 1: プレステ4はなぜ成功したのか?――ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の事業戦略の分析 (Why has PlayStation 4 Succeeded?: Analysis

http://www.***.net

プレステ4はなぜ成功したのか? -ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)

の事業戦略の分析

七邊信重

(マルチメディア振興センター)

Page 2: プレステ4はなぜ成功したのか?――ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の事業戦略の分析 (Why has PlayStation 4 Succeeded?: Analysis

自己紹介

専門

社会学、経営学、ゲーム研究

著作

『デジタルゲームの教科書』(共著)

『妖怪ウォッチが10倍楽しくなる本――妖怪ウォッチのゲーム・アニメ学』

『ビデオゲーム産業の世界動向――

ビジネスモデルのイノベーションと産業周辺の新潮流』

PDFが公開予定(マルチメディア振興センター)

本稿はその一部に基づいている。

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Page 3: プレステ4はなぜ成功したのか?――ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の事業戦略の分析 (Why has PlayStation 4 Succeeded?: Analysis

構成

問題設定と意義

ソニーとゲーム事業の現在

ソニー

ゲーム&ネットワークサービス分野

SCEの「PS4」普及戦略

前段階: 「PS3」の反省

第1段階: 「ハードコア層」向けの「ゲーム」提供

第2段階: 「カジュアル層」向けの「エンタテインメント」提供

結論と今後の課題

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問題設定と意義 問題設定

① PlayStation 4(PS4)の普及要因

② PS4普及を支えたSCEの事業戦略

意義: コンソールゲーム産業研究への貢献

ソニーのコンソールゲーム事業に関する文献

PS3=失敗 理由:物理的利害(実利)<理念的利害(美学)

「PS3の反省を踏まえ、SCEがどうコンソールゲーム事業を再構築したか?」に関する文献は、まだ少ない。

ゲーム産業におけるビジネスモデル(企業が利益を得る方法)のイノベーションに関する研究(国内)

コンソール/ネットワークゲームのビジネスモデルの比較

コンソールゲーム事業の再構築に関する研究は少ない。 4

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PlayStation 3に関する文献

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ゲーム産業のビジネスモデルに関する 先行研究

野島美保,2008,『人はなぜ形のないものを買うのか――仮想世界のビジネスモデル』NTT出版,P.15

「PCとインターネットというインフラでサービスとしてゲームを提供するオンラインゲームが、韓国と米国で誕生」

「ゲーム大国日本では、ゲームコンソール機とゲームソフトを販売する物販モデルが依然として根強い。しかし、サービス業化という世界的なトレンドには逆らえず、Wiiなどの最近のゲームコンソール機では、オンライン機能が標準搭載されオプションサービスへの課金がされるなど、テレビゲームのビジネスモデルにも変化が出てきている」

「ICTと結びついたコンソールゲームのビジネスモデルの変化」の実態は未着手

以降の研究もほぼ同様 6

Page 7: プレステ4はなぜ成功したのか?――ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の事業戦略の分析 (Why has PlayStation 4 Succeeded?: Analysis

ビジネスモデルのイノベーションに 注目した研究(国内)

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ソニーとゲーム事業の現在

ソニー(2014年度連結業績)

売上高: 8兆2,159億円(前年度比5.8%増)

増収要因: 為替、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野とデバイス分野の大幅な増収など

G&NS分野(SCEとSNEI(4月からSIE))

売上高: 1兆3,880億円

モバイル・コミュニケーション分野の1兆3,233億円を抜き、ソニーの最大事業に

増収要因: PS4の販売台数増加、ゲーム及びネットワークサービスの売上高増加

2015年度もソニーの最大事業(予測)。 8

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2013・2014年度における ソニーの分野別連結業績(単位:億円)

9

(4,000)

(2,000)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

金融ビジネス収入

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

モバイル・

コミュニ

ケーション

(MC)

ゲーム&

ネットワー

クサービス

(G&NS)

イメージン

グ・プロダ

クツ&ソ

リューショ

ン(IP&S)

ホームエン

タテインメ

ント&サウ

ンド(HE&S)

デバイス 映画 音楽 金融 その他 全社(共

通)及びセ

グメント間

取引消去

出典: ソニーの決算短信に基づいて作成。

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コンソール販売台数 (単位:万台。2016年2月現在)

10

3,720

1,990

1,270

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

PS4 Xbox One Wii U

出典: VGChartz

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SCEの「PS4」普及戦略 前段階: 「PS3」の反省

SCEの事業戦略: PS3(2006年11月発売)

「エンタテインメントのためのスーパーコンピュータ」と定義

CPU(CELL)、GPU、次世代DVD規格BD、HDD搭載

戦略の「失敗」 価格設定の失敗: ハードが高価格→ユーザーの反発→価格の再設定→コンソール1台毎に約240~300USDの赤字

製品訴求の失敗: – カジュアル層: Wiiに奪われる

– ハードコア層: PC、Xbox 360に比べゲーム制作が困難

SCEの事業戦略: PS4

「PS3はゲーム製作環境が独自の仕組みで開発者が苦労したほか、価格戦略が機能しなかった。また、任天堂の『Wii』にカジュアル層をとられた」

「PS4はこれらの点を改善した」(SCEのハウス社長) 11

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SCEの「PS4」普及戦略 第1段階: 「ハードコア層」向けの「ゲーム」提供

SCEの第1段階の戦略

ハードコア層に「高性能で安価なコンソール」と「高品質ハイエンドゲーム」販売。新しいゲーム体験を提供

ハイエンドのゲーミングPCより性能は低いが、Xbox

OneやWii Uより高性能で比較的安価(3万9,980円)

構造がPCやXbox Oneに近いため、制作会社がゲーム制作ノウハウを流用可能→高品質ハイエンドゲームや独創的インディーゲームを集めることが可能に

コンソールの原価割れ抑止(「実利」重視)

2014年度に増益達成。かつ市場シェアの半数の獲得による経験曲線効果(累積生産量に応じてコストが低下する効果(榊原 2002: 156-157))で、コンソールでもより多くの利益を得られるように。

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各コンソールの性能

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PS4 Xbox One Wii U

CPU 1.6GHz 8コア 1.6GHz 8コア 1.2GHz 3コア

GPU 1.84 TFLOPS 1.24 TFLOPS 0.35 TFLOPS

メモリ(RAM)

GDDR5

8GB(ゲーム用7GB)

DDR3

8GB(ゲーム用5GB)

DDR3

2GB(ゲーム用1GB)

メモリ

帯域幅 毎秒176GB 毎秒68.3GB 毎秒17GB

ストレージ 500GB 500GB 8GB/32GB

解像度 最大3840×2160 最大3840×2160 最大1920×1080

価格 3万9,980円(税別) 4万9,980円(税別)

※Kinectモデル

3万円(税別)

※プレミアムセット

発売日 2013年11月15日

日本:2014年2月22日

2013年11月22日

日本:2014年9月4日 2012年12月8日

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SCEの「PS4」普及戦略 第1段階: 「ハードコア層」向けの「ゲーム」提供

端末・周辺機器・ゲームに加え、ハードコア層に向けたネットワークサービスを提供

PlayStation®Store

デジタル流通プラットフォーム。ハイエンド/インディー/F2Pゲームなど、多彩なゲームを販売

PlayStation®Plus

有料加入型サービス。ゲームのフリープレイやオンラインマルチプレイ、セーブデータ管理などのサービスを提供。SCEに長期的で安定的な売上をもたらす。

「シェア」機能

ゲーム体験を共有できる機能。画像・動画のシェアや配信、動画編集が可能。

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SCEの「PS4」普及戦略 第1段階: 「ハードコア層」向けの「ゲーム」提供

以上の記述から、PS4がハードコア層の人気を集めた要因を二つ提示できる。

① スマート端末向けゲームでは物足りないが、ゲーミングPCは高いと考え、新しいコンソールを

望んでいたプレイヤーにとって、安価な割に高性能で、ハイエンドゲームも楽しめるPS4が、他コンソールより製品として魅力的だったこと。

② 多様なゲームを提供するデジタル流通プラットフォームやシェア機能のようなネットワークサースが、プレイヤーのニーズに合っていたこと。

ハードコアプレイヤーという消費者の欲求を満たす、効用が高い製品・サービスを、SCEが適切に市場に提供したので、PS4は普及した。 15

Page 16: プレステ4はなぜ成功したのか?――ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の事業戦略の分析 (Why has PlayStation 4 Succeeded?: Analysis

SCEの「PS4」普及戦略 第2段階: 「カジュアル層」向けの「エンタテインメント」提供

普及戦略の第2段階:カジュアル層への訴求

ソニーの平井社長の発言

「PlayStationのプラットフォームは毎回そうだが、

まずはゲーマーの方に評価していただくプラットフォームを作る必要があると考えている。そこは達成できた」

「これから大事になることは、……ライトなユー

ザーにアピールできるサービスを充実させると同時に、最初からサポートいただいているコアなお客様に提供していくバランスを上手に保つというところだと思っている」

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SCEの「PS4」普及戦略 第2段階: 「カジュアル層」向けの「エンタテインメント」提供

カジュアル層向け戦略① PS4の値下げ

2015年10月、3万4,800円に。「顧客層の拡大」

戦略② 多様なエンタテインメントの提供

「『ゲーム機』であるだけでなく『エンタテインメントのハブ』でもあるPS4を、ハードコアプレイヤー以外の人にもアピールしていく」(SCEハウス社長)

動画等のレンタル・販売、ストリーミングサービス(音楽、ゲーム、テレビ)

PlayStation®VR

2016年発売予定。SCEは、PSVRがカジュアル層へのPS4普及に大きな役割を果たすと考えている。

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SCEが提供している/提供予定の ネットワークサービスと周辺機器

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カテゴリ サービス名 開始日 課金方法 価格

ネットワーク

サービス

ゲーム

PS Store 2006年11月 セル、F2P、DLC 0円~

PS Plus 2010年6月 定額制 514円(月)

PS Now 2014年7月 レンタル

定額制

200円~(レ)

2,315円(月)

エンタテイン

メント

PS Video 2015年1月 レンタル

セル 0円~

PS Music 2015年3月 定額制 0円~

PS Vue 2015年3月 定額制 49.99ドル~

(月)

周辺機器

ゲーム

エンタテインメント

PS VR 2016年 (未発表) (未発表)

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SCEの「PS4」普及戦略 第2段階: 「カジュアル層」向けの「エンタテインメント」提供

SCEの今後の事業戦略

ゲームユーザーが中核の顧客と考える一方、幅広い顧客層の獲得も考えている。そのために多様なコンテンツの提供により、ゲーム以外の用途でもPS4を使ってもらい、プロダクト・ライフサイクルを伸ばす。

ユーザーの利用ネットワークサービス数を増やし、購買ユーザー一人当たりの売上(Average

Revenue Per Paying User)を増加させる

顧客のサービス利用で得られたビッグデータや、ゲーム事業で得たVR技術を、次世代コンテンツの創造に結びつける。

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(参考)性能とターゲット層で分類した 端末・周辺機器の位置と、SCE・任天堂の戦略

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端末の性能高い

ハイエンドPCオキュラス(VR)

PS4PS VR

(SCE)

端末の性能低い

スマート端末

Amiibo

Wii U、NX?(任天堂)

カジュアル層向け ハードコア層向け

ゲーム・エンタテインメント

IP等

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ゲーム&ネットワークサービス分野の 売上高の推移(単位:億円)

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10,439

13,880

2,0003,510

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

FY13 FY14

総売上高 ネットワーク売上高

出典: ソニーの決算短信に基づいて作成。

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結論と今後の課題

PS4のこれまでの普及要因を分析。

ハードコア層向けの魅力的な端末とサービス

SCEの事業戦略を分析。

ハードコア層→ハードコア層+カジュアル層

ゲーム等に加え、エンタテインメント、サービス提供で、長期的で安定した売上の獲得を目指す。

PS4の普及やネットワークサービスの売上増加は、SCEの戦略の現在までの成功を示している。

今後、ゲームとネットワークサービスの融合や、ソニー・グループの多様なコンテンツ(映画、音楽等)や端末とのシナジーを狙っていくと考えられる。

こうした戦略をさらに分析していくことが今後の課題

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文献

七邊信重,2016,「コンソールゲーム産業におけるICT活用――任天堂の『ハイブリッドモデル』とネットワークサービスの分析」『FMMC研究員レポート』January 2016(2),1-10.

――――・山根信二,2015,『ビデオゲーム産業の世界動向――ビジネスモデルのイノベーションと産業周辺の新潮流』マルチメディア振興センター.

西田宗千佳,2008,『美学vs.実利――「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史』講談社.

野島美保,2008,『人はなぜ形のないものを買うのか――仮想世界のビジネスモデル』NTT出版.

榊原清則,2002,『経営学入門(上)』日本経済新聞社.

Swedberg, Richard, 2003, Principles of Economic Sociology,

Princeton University Press.

多根清史,2007,『プレステ3はなぜ失敗したのか?』晋遊舎.

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ご静聴、ありがとうございました。

SCEと任天堂のコンソール事業戦略をはじめとするビデオゲーム産業の世界動向の分析にご関心がある方は、調査報告書『ビデオゲーム産業の世界動向』をご覧下さい。

七邊信重(Hichibe, Nobushige)

[email protected]

twitter: yakumo415