情報システム・ユーザビリティの評価改善手法

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UI/UXセミナー「ユーザ満足度を高める画面デザイン」 中央大学 文学部社会情報学専攻 准教授 飯尾 淳 情報システム・ ユーザビリティの 評価改善手法

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UI/UXセミナー「ユーザ満足度を高める画面デザイン」

中央大学文学部社会情報学専攻

准教授 飯尾 淳

情報システム・ユーザビリティの評価改善手法

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自己紹介● 飯尾 淳(いいお じゅん)

– 経歴:1994年から,株式会社三菱総合研究所に19年勤務.同社 主席研究員を経て,2013年から現職

● 2009年から東京農工大学客員准教授を兼務– 博士(工学)技術士(情報工学部門)– HCD-Net認定 人間中心設計専門家

● 専門分野– ソフトウェア工学,画像処理,オープンソースソフ

トウェア,ユーザインタフェース,情報教育,等

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本日の内容● そもそもUXとは● HCDの考え方● 情報システムの課題とリスク

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そもそもUXとは

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焼き牡蠣の楽しさ

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UX: User Experience● User Experience = ユーザ体験(直訳)

– カスタマー・エクスペリエンス,とも● 単なるUIの拡張ではない

● 基本的な考え方:– 製品やサービスを利用して感情の変化を起こす(満

足感を得るなど)ために,何をすべきか● 例:Macを購入して最初に電源を入れたときの,ドキド

キ,ワクワク感(次のスライドでビデオが流れます)

システムやサービスとの

出会い知覚・認知の流れと解釈 感情の変化

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ユーザビリティからUXへ

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UXを制するものビジネスを制する?● 東京ディズニーリゾート● ブランド商品● 高級ホテル

人生を彩る体験の数々

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UXと時間の流れ● 予期的UX anticipated UX

– 初めての利用よりも前の経験,想像● 一時的UX momentary UX

– インタラクションの最中に感じる感情の変化● エピソード的UX episodic UX

– ある特定の利用期間に関するエピソード的な評価● 累積的UX(長期的UX)cumulative UX

– システムやサービスを一定期間利用した後での評価

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UXのステージ

一時的UXエピソード的UX

累積的UX利用開始

予期的UX

あの製品は面白いと評判だよ

この機能がとっても使いやすい

これを使って〇〇を実現できた.嬉しい

〇〇社の製品は使いやすいし信頼できる

次回もこの製品を使おう…

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HCDの考え方

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人間中心設計● HCD:Human Centered Design

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なぜHCDで考えないといけないか● HCDが先行している例

– 一般消費者を対象としたサービス● eコマース(オンラインショッピング),ゲーム,ブログ,SNS,etc...

● なぜか– 売上に直結するから!– ユーザビリティの良し悪しとコンバージョン率には正の相関が…

● 「分かりやすい例」だけで満足してはいけない– 次のスライドでビデオを示します

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さて,ここで問題です

● このCMで宣伝している「エマージェンシーブレーキ」は,時速何キロメートルの範囲で動作するでしょう?

● 本システムの主たる目的は何でしょうか?● この機能が動作する条件は,どんなものでしょうか?

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ガイドライン

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TV広告表示に関するベースライン● 「自動で止まる〇〇

ブレーキ!」のような象徴的な表現はNG

● 1行あたり30文字● 2秒以上表示する● 必要に応じて音や特別な警告を示す※ ASV: Advanced Safety Vehicle

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実験● 2つのビデオを提示

– 1年生から4年生までの大学生– 被験者:72名

● ビデオ提示後,メッセージの内容を読み取れたか否かを確認するためのアンケートを実施

● アンケート:全10問– 1つのビデオあたり4個の質問(計8個)– 補助的な質問※を1個ずつ(計2個)

● ※:そもそも各技術を知っていたかどうか

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アンケートシート 1/2

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アンケートシート 2/2

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Q1

Q2

Q3

Q4

Q5

Q6

Q7

Q8

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

d

c

ba

結果

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HCDになっていない例をもうひとつ● 典型的な「システム

中心設計」● 個々の解は,システ

ム設計者の都合では最適解

● 「合成の誤謬」の一種

出典:飯尾, 清水, "人間中心設計:1. なぜ使いにくい情報システムが生まれるのか?," 情報処理, Vol.54, No. 1, pp. 4-9, 2013.

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合成の誤謬に気をつけよう

Microsoft Word(ツールバーてんこ盛り)出典:上条, "「使える、使いやすい、使いたい」 と思えるUIとは?," @IT, 2006.8.31.

ウェンガー,ジャイアントナイフ,210,000円(税込)

出典:http://wenger.co.jp/products/knives/ shosai.html?no=31

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人間中心設計とは● システムを利用する人間の立場を中心に設計

– ISO9241-210(旧ISO13407)で標準化

人間中心設計の必要性の特定

要求事項に対する設計の評価

システムが特定のユーザ及び組織の要求事項を満足

利用の状況の把握と明示

設計による解決策の作成

ユーザと組織の要求事項の明示

必要に応じて適宜繰り返す

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情報システムの課題とリスク

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リスク事例とベネフィット事例

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共通する問題点や改善点のポイントリスク事例

オペレータのちょっとした誤操作により甚大な損害が発生する 数字の桁数,パラメータを入力する場所の誤りなど特定のパターンがある誤操作を警告する画面はしばしば無視される

ユーザによる勝手な業務の局所最適化,その原因はシステムの使い難さによる無視される警告画面は意味が無い安全確認と手順の最適化はトレードオフ関係にある.その中でどのように最適化するか?

ベネフィット事例 ユーザの立場で使いやすいシステムが設計されている ユーザの都合が優先されている

その結果としてビジネス全体が効率化する

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リスク事例: 航空機の飛行管制システム

Rozo“R”を入力

マイアミからコロンビアへ向かった飛行機(AA695, B757)は管制官から知らされた”Rozo”経由の最短ルートをとることに決めた.

パイロットが管制コンピュータに”R”のみを入力したところ通常よく使用している”Romeo”が選択されてしまった.

その結果,その飛行機はコースを外れアンデス山脈に迷い込んだ.目前に山が迫り,高度を上げようとしたが機首を上げきれず墜落してしまった.

Rozo

Romeo

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リスク事例: 航空機の飛行管制システム(続き)

(地図提供:FreeMap.jp)

A

B DC

B

C

D

Rozo VOR

Romeo VOR

Caliairport

VOR = VHF Omnidirectional Range

Miamiairport

作成:三菱総合研究所

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本来は…

リスク事例: 医療系システムの誤操作(投薬システム)

サクシゾンという副腎皮質ホルモンの代わりに,誤ってサクシンという筋弛緩剤が投薬されてしまい,その結果,患者が死亡した.

入力を簡単にするためマウスクリックで簡単に選択できるようにした一方で,誤操作に対する対策が全く配慮されていなかった.

現在では,薬品名の指定には3文字以上入力させることが勧められている.類似名称の薬を使用しないようにするという対策をとった病院もある.

ちょっとした誤操作

投薬システム

筋弛緩剤

副腎皮質ホルモン

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不幸のトライアングルを避けるには

出典:三菱総合研究所

情報システム部門

(発注者)

システムインテグレーター

一般社員(ユーザ)

システムの発注

システムの提供

システムに対する不満

使い難い業務システム

ユーザビリティ向上に関するノウハウ不足

コスト削減第一主義 ユーザビリティを考慮

した構築意識の欠如

発注に直接参加不可能 使い難いシステムに「迎合」 使いやすいシステム利用体験の不足

メトリクスが無く評価不能

ROIの計算不可能 実ユーザでなく、薄い当事者意識

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システム開発と人間中心設計

出典:飯尾, 清水, "人間中心設計:1. なぜ使いにくい情報システムが生まれるのか?," 情報処理, Vol.54, No. 1, pp. 4-9, 2013.

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では,どうすればよいか

出典:仙頭, 清, 清水, 大橋, 飯尾, "顧客起点の調査業務・コンサルティング業務に役立つユーザビリティテスト手法の検討," 三菱総合研究所所報, No. 56, pp. 134-144, (2013.1)(引用のうえ追記)

世の中には数多くのユーザビリティテスト手法が存在する!

ISO9241-210の各段階で適用

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「使いやすさ」配慮の意識レベルレベル0 レベル1 レベル2 レベル3

使いやすさに対して無視・無関心

最低限のことしかやらない

可能な限りは対応するが,積極的ではない

使いやすさの配慮を差異化要素として,売り物・武器にできる

1. AWAKE (気付く)

2. KNOW (知る) 3. UNDERSTAND (理解する)

4. INFER (推察する)

5. CREATE (創造する)

製品/システムの使い勝手を向上させる(製品/システム改善)

作業の流れを考慮に入れ,それを構成する個々の作業をしやすくし,効率を上げる(タスク改善)

製品/システムを含む仕事環境を改善する(ワークフローの改善)

現行業務に関わる種々の制約を離れ関連する行為・活動についての課題を発見し,解決策を提案する(新ワークフローの提案)

INFER水準以下のアクティビティと技術的なブレークスルーの相乗効果により,新しい使い勝手経験を提案する(新ライフスタイルの提案)

HCD-PCM※のVisioning Processにおける意識レベル

まさにUXに他ならない!

出典:三菱総合研究所(引用のうえ改変)

まずは意識レベルを整理しよう

※ HCD-PCM:Human-centered Design Processes Maturity Model

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まとめ● UXの基本的な考え方を紹介しました

– UXとはたんなる「高度なUI」ではありません● UXをデザインするにはまずHCDから

– ユーザー(受け手)の立場で考えましょう● あらゆるシステムで考えるべき

– 消費者向けシステムでは顕著– それ以外のシステムでも疎かにしてはいけません

● ツールや手法を活用しましょう– 意識レベルの整理から始めてみては,いかが?