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徳島発祥の健康関連産業、
一兆円超企業・大cグループ
◉革新的な製品を作り続け、世界の大wへ
みなさんはオロナミンC、ボンカレー、ポカリスエット、カロリーメイト、S
OYJOY
といった商品をよく知っていると思います。こうした、時代を先取りし、しかもロングセ
ラーとなる商品をつくっている大dグループ発祥の地が、ここ徳島です。
1921年に大d武三郎さんが、グループのルーツ「大d製薬工業部」を鳴門に設立
し、塩田から出る苦に
がり汁
を使った炭酸マグネシウムなどの化学原料メーカーとしてスタート
しました。
その後、輸液(点滴注射薬)事業に参入し、ガラス容器に代わる軽くて安全な日本初の
プラスチック容器の開発や、医療現場での簡便性や無菌性に貢献した複数の薬剤が入る多
室型容器の開発など、常に日本の輸液の発展をけん引してきました。
新しい殺菌消毒剤として1953年に発売されたオロナイン軟膏も、半世紀以上にわ
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たり愛用されています。この開発には徳島大学が大きく関わっており、今で言う産学協同
の成果です。病気やケガの時にも大dグループの製品のお世話になっているのですね。
また、それ以上に私たちに身近なのは、最初に挙げた飲食関連の商品です。「元気ハツ
ラツ!」のCMで有名なオロナミンCドリンクは、炭酸栄養ドリンク市場を切り開きま
したし、「子連れ狼」のキャラクターを生かした「大五郎、3分間待つのだぞ」のCM
が昭和世代の印象に残るボンカレー(レトルトカレー)は、日清のチキンラーメン(イン
スタントラーメン)と並び、戦後の食品における二大発明と言われています。
そして、「飲む点滴」をコンセプトに開発されたポカリスエットは、缶に青色を取り入
れる斬新なデザインで清涼感を打ち出し、日本におけるスポーツドリンク普及の起爆剤に
なりました。
最近の話題としては、「ポカリスエット」をかたどったカプセルを民間のロケットに搭
載して月面に向かう、という「LU
NA
R D
RE
AM
CA
PSU
LE
PR
OJE
CT
」が進め
られています。これは、子どもたちの夢を刻んだプレートとポカリスエットの粉末が入っ
たカプセルを月に置いてくること、そして、将来子どもたちがそのカプセルを取りに行き、
月の水でその粉末を溶かしてのどをうるおしてほしい、という計画です。
このように大dグループは販売戦略、広報戦略が上手な会社としても知られています。
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バランス栄養食として新たな市場を築いたカロリーメイトは、朝食としても食べられる
気軽さで、ダイエット食や非常食としても活用されています。S
OYJOY
は、小麦粉を
使わず栄養豊富な大豆を粉にした生地に、色々な素材を加えて焼き上げた新しいタイプの
栄養食品です。健康志向の高まりの中、世界戦略商品として開発されました。
また大dグループは、医薬品でも相次いで新製品を開発してきました。ちょっとなじみ
が薄いですが、高血圧治療などに使われる「ミケラン」、気管支拡張剤「メプチン」、抗
血小板剤「プレタール」、胃炎・胃潰瘍治療剤「ムコスタ」、最近では抗精神病薬で世界
中で販売を伸ばした「エビリファイ」、心不全などによる症状を改善する利尿剤「サムス
カ」などです。今後もがんや認知症などの分野で、画期的な製品開発が期待されています。
大dグループは創業者の大d武三郎さんの後を受け、大d正ま
さ
士ひと
さん、大d明彦さん
が事業を拡大し、国内でグループ企業や生産・販売拠点を増やしていっただけでなく、
1973年には初の海外生産拠点をタイに設けて以来、積極的に海外進出を行ってきま
した。
大dグループは、グループを束ねる大dホールディングス(株)と、大d製薬(株)、
(株)大d製薬工場、大鵬薬品工業(株)、大d化学(株)、大d倉庫(株)、アース製薬(株)
などの子会社・関連会社、合わせて国内外の178社で構成され、医薬品から、食品、
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飲料、化学製品や美術陶板まで、さまざまな事業を展開しています。
大dホールディングス(株)の売上げは約1兆4500億円(2015年12月期)で、
海外の売上比率が5割を超えており、徳島発、日本を代表するグローバル企業となって
います。そして、徳島には(株)大d製薬工場をはじめ、広範囲な地域(徳島市、鳴門市、
松茂町、北島町、板野町、鷲敷町など)に大dグループ会社の本社や研究所、工場などが
あり、その従業員数は5000人を超え、徳島の経済をけん引しています。
(株)大d製薬工場は、大d製薬工業部の名前でスタートし、1935年に(株)大d製
薬工場に名前を変更した大dグループ発祥の企業で、本社は発祥の地、鳴門にあります。
企業名に「工場」とついていますが、グループの工場としての位置づけではなく、輸液事
業を柱とし臨床栄養製品を中心とした、医薬品、医療機器、機能性食品などの研究・開
発・生産・販売を行っています。同社の輸液は国内業界トップシェアを占め、アジアを中
心とした海外にも積極的に展開しており、インドネシア、エジプトなどでも高いシェアを
誇っています。
また輸液以外にも脱水状態の時に飲む経口補水飲料や流動食など、さまざまなニーズに
対応した製品を開発する一方で、これらの輸液で培った独自技術を生かした受託事業も推
進しています。
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徳島市川内町にある大d製薬徳島工場の石
碑には、「O
tsuk
a-peo
ple creatin
g new
products for better health worldw
ide
」と
いう言葉が刻まれています。
世界の人々の健康に貢献する、革新的な製品を
創造することが大dグループの目標なのです。そ
して、こうした企業理念を実現するために求めら
れるのが、「やわらかかたい」取り組みです。こ
れは、物事は柔軟に考えて、いったん方針が決
まったらガッチリやれよということだそうです。
ロングセラーとなる独創的な商品を生み続けるた
めの秘訣と言ってもいいでしょう。
◉大wの企業文化の核は「徳島回帰」
大dグループは、グローバルな企業になればなるほど「徳島回帰」、つまりそのルーツ、
故郷、地域を大事にすることが大切だ、と考えています。もちろん事業活動を通じて地域
楠木と企業理念の刻まれた石碑 ©大塚製薬(株)
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の雇用や税収に大きく貢献しているわけですが、それにとどまらず文化、スポーツなどを
通じて、幅広く地域の活性化に関わっています。こうした考え方を象徴するのが、大d国
際美術館です。
大d国際美術館は、瀬戸内海国立公園の一部・鳴門公園内に位置し、大dグループの
創立75周年事業として1998年に開設されました。延床面積2万9412㎡におよぶ
常設展示スペースを
有し、世界で類を見
ない陶板名画を展示
する、私立では国内
最大の美術館であり、
鳴門公園の景観を損
なわないよう建物の
ほとんどは山の中に
造られています。
入り口から長いエ
スカレーターを昇る
システィーナ・ホール ©大v国際美術館
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と、ミケランジェロの「天地創造」「最後の審判」などが描かれたバチカン宮殿内シス
ティーナ礼拝堂の天井画・壁画が原寸大で再現されているのに、まずびっくりします。
そして、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」やフェルメールの「真珠の耳飾り
の少女」、ピカソの「ゲルニカ」など、西洋名画のオンパレード。宗教画から現代絵画
まで1000点以上のオリジナル作品の原寸大の陶板名画を所蔵しており、世界25か国、
190以上の美術館などの作品が一堂に展示されています。レオナルド・ダ・ヴィンチ
の「最後の晩ば
ん
餐さん
」の修復前と修復後を左右に並べて見学できるのも、大d国際美術館なら
ではの楽しみです。
でも、鑑賞ルートは4㎞にもなり、2〜3時間ではとても回りきれません。
近年は、システィーナ・ホールでの新作歌舞伎の公演や、コンサート、アートミステ
リーツアーなど多彩な企画が催され、新たな文化の発信拠点として注目されています。世
界に類がない美術館として、年間20万人以上もの入館者があります。
陶板名画は約2000年以上にわたって現色のまま存続するとされており、今後も国
内外からの集客が期待される、貴重な観光資源となっています。東京や大阪のような集客
の見込める場所ではなく、グループ発祥の地・鳴門に置いたところに大dグループの徳島
への思いが感じられます。
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この陶板を作っているのは、滋賀県にあるグループ会社大dオーミ陶業(株)で、鳴門
海峡の白砂を使ってタイルの製造を始めたのがこの陶板事業のきっかけです。
大d国際美術館の魅力は、①世界の名画を集めるという奇想天外な発想力、②名画を陶
板画で再現した高い技術力、③スケールの大きさにあると言えましょう。
また、大dグループは、サッカーJリーグの徳島ヴォルティスを支援しています。ヴォ
ルティスの前身は、大d製薬のサッカー部だったのですね。今はJ2ですが、2014
年はJ1昇格を果たして戦っていました。また、J1に復帰して欲しいですね。
そのほかにも、「公園工場」と呼ばれるぐらいきれいな徳島ワジキ工場での野外ステー
ジを使った音楽イベント「エキサイティングサマー・イン・ワジキ」の開催など、さまざ
まな地域貢献を行っています。
国内外の企業と提携した場合、必ず徳島に招待し、徳島から生まれた大dの企業文化を
相手に理解してもらっているそうですが、こうした取り組みを知ると、徳島県民としても、
地域への誇りが一段と沸いてきます。