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6. ガス燃料船の実用化と NK の取り組み

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6. ガス燃料船の実用化と NK の取り組み

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ガス燃料船の実用化とNKの取組み

1. はじめに 近年,国際海運の分野では,環境負荷低減等を目的としてガス燃料船に関する検討が盛んに行われている。これまで液化ガス運搬船においては,二元燃料(重油及び天然ガス)に対応したボイラ又は機関を装備し,貨物タンクからのボイルオフガス(天然ガス)を燃料として使用しているが,ガス燃料船の検討は液化ガス運搬船以外でも天然ガスを燃料として積極的に利用しようとするものである。 天然ガスを燃料とする船舶は,内航フェリーを中心にノルウェーで相当数の就航実績があるが,外航大型船の実績はほとんどない。本報告では,特に大型ガス燃料船の実現に向けて,ガス燃料船開発の現状,ガス燃料タンクの種類と特徴,技術的課題,経済効果に関する調査結果を報告するとともに,本会の取組みの一つである「ガス燃料船ガイドライン」について紹介する。 2. ガス燃料船開発の現状 2.1 ガス燃料船開発の背景

IMOの海洋汚染防止条約(MARPOL 73/78)附属書 VI(ANNEX VI)「船舶からの大気汚染防止のための規則」は,船舶から排出される窒素酸化物(NOx)及び硫黄酸化物(SOx)を規制している。本附属書は 2005年 5月 19日に発効となったが,その後,NOx及び SOxともに段階的に規制が強化され,特に 2016年から実施される NOx3次規制に対応するためには,現在の機関の構造を大幅に変更せざるを得ない状況となった。SOx規制についても同様であり,特に排出指定海域(ECA;Emission Control Area)では規制が一段と強化されることになる(図 1,図 2)。 温室効果ガス(GHG;Greenhouse Gas)については,これまで規制は設けられていな

かったが,IMOの第 62回海洋環境保護委員会(MEPC62)において GHG削減対策に関

ECA

図 1 NOx規制 図 2 SOx規制

IMO Tier1 (2000)

IMO Tier2 (2011)

IMO Tier3 (2016):ECA - 80%

- 20%

0 500 1000 1500 20000 500 1000 1500 2000 2500Engine Speed (min-1)

NO

x (g

/ kW

h)

1816141210

86420

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するMARPOL Annex VI改正案採択の審議が行われ,400GT以上の国際航海に従事する船舶を対象に,エネルギー効率設計指標(EEDI;Energy Efficiency Design Index)の計算及び船舶エネルギー効率管理計画(SEEMP;Ship Energy Efficiency Management Plan)の保持が強制化された。新船を対象とする EEDI規制値は,船種毎にガイドラインで設定されたリファレンスライン(過去 10年の同種船舶の平均値)からの削減率で表され,2013年より 4段階(削減率 0%「平均値」→10%→15/20%→30%)で規制が強化される。 上記を背景に,NOx,SOx,GHGの削減を対象として現在 表 1の環境負荷低減策が検討されている。

表 1 環境負荷低減技術 削減対象 技術 削減率等

NOx

選択式接触還元(SCR)脱硝装置 80%以上 排ガス再循環(EGR) これらの組合せで 80%以上

削減可能 水利用技術(水エマルジョン燃料,給気加湿,水噴射)

天然ガス使用 80%~90%

SOx 排ガス洗浄装置(スクラバー) IMO ガイドライン適合品 低硫黄燃料の使用 硫黄分:0.1%以下 天然ガス使用 硫黄分:ほぼゼロ

GHG 船型改良,二重反転プロペラ(CRP)等 10%~20% 空気潤滑法,省エネ付加物,廃熱回収システム等 単独の技術で数%~10% 天然ガス使用 20%~25%

表 1からわかるように,天然ガスの使用は NOx,SOx及び GHGの排出を単独で大幅に削減できる技術である。天然ガスは,陸上で一般に使用されているため入手し易く,空気よりも軽いため比較的安全なガスであり,また,一般に重油よりも低価格であるため運航コストの削減も可能である。 このように,環境負荷低減に大幅に効果があることに加え,運航コストの削減も可能であることから,天然ガス燃料船の実現に向けて種々の検討が行われるようになった。 2.2 海外におけるガス燃料船の現状 表 2に欧州(主にノルウェー)で就航しているガス燃料船の船種と推進機関の種類を示す。

表 2 海外におけるガス燃料船の就航実績(~2011年) 船種 ガス焚き機関 隻数

Car/Passenger ferry ガス専焼機関(三菱又は Rolls Royce製) 16 Offshore supply vessel 二元燃料機関(Wärtsilä製) 6 Patrol vessel ガス専焼機関(三菱製) 3 Chemical tanker 二元燃料機関(Wärtsilä製) 1 RoRo ship ガス専焼機関(Rolls Royce製) 1

(LNG船を除く)

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欧州では,内航フェリー,Offshore supply vesselを中心にガス燃料船が普及しており,現在 約 30 隻が就航中である。推進機関としては,内航フェリーではガス専燃機関を,Offshore supply vesselでは二元燃料機関(重油及びガス)を採用することが多い。

LNG 燃料を船舶の推進に用いた船舶は,2000 年にノルウェーで建造されたカーフェリー(船名:“Glutra”,船長:94.8m,D/W:640 トン)が最初である(図 3)。本船は,ノルウェーの西部沿岸地域を運航するノルウェー標準型フェリーであり,乗客 300名のほか,トラック・トレーラ 8台,自家用車 42台(自家用車のみの場合は 96台)を運ぶことができる。 本船は電気推進船であり,出力 675kW の三菱製ガス焚き機関 4 台がそれぞれ独立した発電機室に配置されている。LNGは二重構造のステンレス製低温タンク(IMO Type C)に格納され,車両甲板の下に配置されている。タンク内のガスは,貯蔵温度であるマイナス163℃では液状であり,気化器を通ってガス機関燃焼システムへと供給される 1)。 図 4 は,2003 年にノルウェーで建造された Offshore supply vessel(船名:“Viking Energy”,D/W 6,000トン,船長 94.9m)である(LNG燃料船の第 2船目)。 本船は,Wärtsilä社製の二元燃料発電機関 4台を装備する電気推進船である。IMO Type

Cのガス燃料タンク 1基(容積:220m3)を有し,ガス燃焼により 10日間の通常航行を可能としている。2007 年の実績によれば,NOx 排出は IMO1次規制の 87.6%まで減少し,CO2の排出は 20%削減できたと報告されている 2)。

Photo by Harald M. Valderhaug.

図 3 ガス燃料船 “Glutra”

出典:“LNG Used to Power the Ferry “GLUTRA” in Norway. – The World First Ferry to Run on LNG – “, R. M. Stokholm, J. S. Roaldsøy

Cold boxLNG storage tank Power plant, engines with alternators

図 4 ガス燃料船 “Viking Energy”

出典:“Use of Natural Gas as Fuel for Ships”, Kjell M. Sandaker, ASME/USCG Workshop on Marine Technology–Panel 1

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2.2 日本国内における取組み 日本国内では,2010年頃から,船主や造船所を中心にガス燃料船の概念設計(コンセプ

トシップ)を積極的に公表するようになった。代表的なものを以下に紹介する。 (1) 環境負荷低減型フェリー“ISHIN-II”3)

LNGを主機と発電機関の燃料とする。航行中は LNG燃料による排ガスのクリーン化とCO2排出大幅削減を目指す。 試算によれば,二重反転プロペラ推進システム,PBCF,船底空気層潤滑,超低摩擦船底塗料等を併用することにより 50%の CO2排出削減が可能。停泊中においてはフェリー岸壁から供給される電力(陸上電力プラグイン)を最大限に利用し,また,蓄電池を利用することで,港内航行時や停泊中のゼロエミッションを実現する。 (2) 10,000TEU型コンテナ船 4) 独自技術の SPB(Self-supporting Prismatic Shape IMO Type B)タンクを採用し,容

積効率の良いタンク配置を可能としている。IMO3次規制が適用される ECA内では LNGを燃料とし,ECA外では従来どおりの C重油を燃料として航行する。LNG燃料による航続距離を約 2,000マイルに限定し,約 2,000m3の LNG 燃料タンクを配置することでコンテナ積載数の減少を最小限に抑えることができる。 (3) 2,000台積み自動車専用船 5)

LNG 燃料への転換と新技術の採用により約 40%の CO2排出削減を目指す。円筒型の蓄圧式(6 bar)LNG燃料タンクを 2基搭載し,推進用として出力 5,000kW/1台のガス専焼機関を 2 台装備する。航海中は軸発電機で発電した電力で船内電力を賄う。現状の LNGタンクでは最大航続距離が 3,000マイル(5,550キロ)と既存の同型船の 20,000マイルに比べ短いので,LNG燃料船の活用は沿岸部の域内輸送に限定される。 (4) Oshima ECO-Ship 2020 6)

62,000DWTのオープンハッチバルクキャリア(OHBC)であり,LNGを燃料とするガス焚き機関のほか,2機 2軸船型,空気潤滑法,廃熱回収,ハッチカバーへの複合材適用,大型電動デッキクレーン等の技術を採用することにより,従来船型に比べエネルギー消費量(貨物 1トンあたり)を 54%に,CO2排出量を 36%に低減させている。 (5) 内航 RORO船 7) LNG 燃料による 160台積内航 RORO船で試設計を行い,燃料消費量は 26%削減可能。環境負荷として,SOx排出はほぼゼロとなり,NOxは約 43%,CO2は約 35%削減できると推定されている。 (6) 9,000TEU型コンテナ船 8) ECA内だけでなく,太平洋往復横断も可能な航続距離を達成する容量の LNG燃料タンクを装備している。また,バックアップ燃料として重油も利用できるように二元燃料推進システム(電子制御式の低速機関)を採用。居住区域下部に LNG 燃料タンクと重油燃料タンクを配置することにより貨物スペースへの影響を最小限としている。LNG燃料タンク(約 7,000m3)は容積効率の良い独立型方形タンク(IMO Type B)で,新たに開発されたものである。

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採用が検討されているガス焚き機関の種類と特徴を表 3に示す。

表 3 採用が検討されているガス焚き機関

ガス焚き機関の種類 2ストローク 二元燃料機関

4ストローク 二元燃料機関

4ストローク ガス専焼機関

点火方式 パイロット燃料 パイロット燃料 点火プラグ 供給ガス圧力 300 bar 4~5 bar 4~5 bar NOx3次規制対応 SCR等が必要 対応可 対応可 SOx ECA対応 パイロット燃料:低硫黄燃料 対応可 メタンスリップ なし 有り 有り 採用実績 なし 有り 有り

その他 低負荷(約 20%以下)でガス燃焼不可

3. ガス燃料タンクの種類と特徴 規則で認められているガス燃料タンクの種類は 3 種類の独立型タンク(Type A~Type C)とメンブレンタンクであり,ガス燃料タンクには液化ガス運搬船における貨物タンクの要件(IGCコード)が適用される。ガス燃料タンクの種類と特徴を表 4に示す。

表 4 ガス燃料タンクの種類と特徴 種類 独立型 Type A 独立型 Type B 独立型 Type C メンブレン

形状

設計 蒸気圧

<0.07MPa (方形タンクの場合)

<0.07MPa (方形タンクの場合) 高圧化が可能 ≦0.025MPa

二次防壁の要否 完全二次防壁 部分二次防壁 二次防壁不要 完全二次防壁

LNG 実績 なし

有り (モス球形タンク) (SPBタンク)

有り (蓄圧式) 有り

ガス燃料船 実績 なし 検討中 有り なし

積付け 効率 良い 球形:悪い

方形:良い 円筒形: 比較的悪い 良い

その他の 特徴 コスト大 信頼性大 信頼性大 スロッシング

の問題有り

二次防壁はタンク内液の漏洩が想定される場合に要求される。タンク強度との関係は表

5のとおり。

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表 5 タンク強度と二次防壁の関係

燃料タンクの種類 二次防壁の取り扱い

独立型

Type A タンクにき裂が発生し,多量のタンク内液が漏洩したとしても,それが直接 船殻に触れないように断熱保留する完全二次防壁が要求される。

Type B 破壊機構に基づいた解析を行ってタンクの破壊が起こらないことが確認されれば,二次防壁はタンク内液の少量の漏洩に対処するだけの限定的なものとしてよい。

Type C 安全な強度設計により,タンクのき裂及び漏洩が起こらないことを想定しているため二次防壁は要求されない。

メンブレン

メンブレンタンクとは,断熱材を介して隣接する船体構造により支持された薄膜(メンブレン)により構成される非自己支持型のタンクである。完全二次防壁が要求され,タンク内液の漏洩はメンブレンで防止するが,その荷重は断熱材を介して船殻で受け持つ。

上記のタンク型式のうち,大型液化ガス運搬船の貨物タンクとして一般に採用されているものは独立型 Type B(球形モス方式,SPB 等)とメンブレンのタンクである。ガス燃料船の燃料タンクとして採用されているのは,ほとんどが独立型 Type C であり,独立型Type Bは現在 検討段階にある。独立型 Type Bの球形タンクは積付け効率が悪く,また,メンブレン方式はスロッシングの問題があることから,今後 ガス燃料船で採用される可能性が高いのは独立型 Type B(方形)と Type C(円筒形)の 2種類と考えられる。 次に,この 2種類のタンクについて,採用実績がある,あるいはコンセプトシップで検討されている燃料タンク配置を表 6に示す。

表 6 ガス燃料船の船種に応じた燃料タンクの種類と配置 船種 燃料タンクの種類 タンク配置

フェリー,RORO船,PCC等 Type C 機関室船首側(横置) 大型コンテナ船 Type B又は Type C デッキハウスの下 バルクキャリア Type C 機関室船首側又は機関室上部 VLCC Type C 機関室上部

大型外航船で,航続距離を約 20,000マイルとした場合,一般に 3,000m3~7,000m3のタンク容積が必要となる。規則上 ガス燃料タンクを機関室内に設置することは認められず,また,貨物スペースへの影響も最小限とする必要があるので,船舶の設計においては,このような大容量タンクの設置スペースをいかに確保するかが課題となっている。 フェリー,RORO船,PCC等では独立型 Type C(円筒形)のタンクを搭載することが

多いが,このような船種では機関室船首側に設置スペースを確保し易いので,当該スペースにタンクを横置に設置するのが一般的である。また,大型コンテナ船の場合は,デッキハウスの下に独立型 Type B(方形)又は Type C(円筒形)のタンクを設置する設計が検討されている。 スペースの確保が困難な船種はバルクキャリア,VLCC 等である。これらの船種では,貨物スペースをある程度犠牲にすることもやむを得ないと考えられるが,貨物スペースに

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影響を与えない方法として,居室をかさ上げし,機関室上部のデッキ上(居室の下)に設置スペースを確保する設計も検討されている。 4. ガス燃料船実用化の上で解決すべき課題

4.1 燃料の船内貯蔵 ガス燃料船を実現する上で最も問題となるのは,船内における燃料の貯蔵である。天然ガスを貯蔵する方法としてCNGとLNGとがあるが,CNGタンクは容積効率が悪いため,大型商船で採用される貯蔵方法は LNGに限定される。ただし,LNGタンクであっても,必要とされる燃料容積は重油の約 2倍となる。 ガス燃料船で採用される可能性があるのは,3章で示したように独立型の Type B(方形)と Type C(円筒形)の 2種類であるが,大容量の燃料貯蔵が要求される大型外航船においては,ある程度貨物スペースを犠牲にしてタンク設置スペースを確保せざるを得ず,従って,その分だけ貨物積載量が減ることになる。 できるだけ貨物スペースへの影響を少なくする方法として,居室の下にタンク設置スペースを確保する設計が検討されているが,この場合は安全性に関するさらなる検討が必要と考えられる。

4.2 燃料の補給 LNGの補給方法として次の 3つの方法が考えられる。 (1) 固定注入ラインによる補給 陸上の LNG 貯蔵タンクから固定ラインで燃料補給を行う方法であり,安全確実な方法ではあるが,日本国内ではインフラ整備が不十分であるのが実情である。 (2) タンクローリーによる補給 接岸した船舶にタンクローリーを横付けし,フレキシブルホースで補給する方法である。

柔軟に対応できるという利点があるが,安全性には検討の余地があり,国によってはこのような作業が法規的に認められない場合もある。 (3) タンカーバージによる補給 いわゆる STS(Ship To Ship)による燃料供給である。インフラ整備不足を補う方法として最近注目されているが,リスク評価等により安全性を確認する必要がある。図 5は,苫小牧で行われた貨物の STS移送(外航 LNG船→内航 LNG船)の例であり,これと同様に,燃料においてもタンカーバージから外航船への STS移送が普及すると考えられる。

出典:LNG World Shipping JournalJan./Feb.2012

図 5 貨物の STS移送の例

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上記のように,燃料の補給については,少なくとも日本においてはインフラが整備されているとは言えず,STSによる方法を含め今後の課題となっている。

4.3 ガスエンジン不具合の可能性 ガスエンジンで起こりうる不具合あるいは問題点として次の(1)~(3)が考えられる。 (1) 配管からのガス漏れ ガス漏れについては,現在審議中の IMOの IGFコードや船級規則において,当然このガス漏れに対する対策を最優先に考えてはいるものの,高圧(約 300bar)の燃料供給システムを装備する船舶にあってはガス漏れを生じ易く,特に高圧配管の機器との接続部については注意が必要である。 (2) ノッキング ノッキングは,ガソリン機関や天然ガス機関でしばしば起こる異常燃焼である。液化ガス運搬船に装備された二元燃料機関の運転実績によれば,供給されるガスの発熱量の変化によりノッキングが生じた例が少なからず確認された。これは,ボイルオフガスとしてはじめは比重の軽いメタンが蒸発していたものが,蒸発が進むにつれて比重の重い成分も蒸発するようになり,発熱量が変化したためと考えられる。同様の現象がガス燃料船の機関でも起こる可能性がある。 (3) メタンスリップ メタンスリップとは,未燃のメタンがそのまま大気に排出されてしまう現象である。メタンは CO2と比較し,21 倍の温室効果があるので,ガス機関の使用で CO2排出量を低減させたとしても,その一部がメタンの排出によって相殺される。4 ストロークのガス専燃機関や二元燃料機関で起こりうるが,機関メーカーの報告によれば,メタンスリップが生じたとしても約 20%の GHG削減効果はあると言われている。

4.4 ガス燃料船の建造コスト 4.1で説明したように,大型外航船では燃料をLNGで貯蔵するのが一般的と考えられる。この場合,燃料タンクが高価であることに加え,保冷設備を船内に装備せざるを得ず,これが建造コストを押し上げることになる。また,二元燃料機関の場合は,重油関連設備も必要となる。 ノルウェー海洋工学研究所(MARINTEK)の試算によれば,200~450m3の LNG燃料

タンクを積載した内航フェリー,Offshore supply vessel,RORO船の場合,従来船と比較し,全体として 8~15%のコストアップになると言われている 9) 。ただし,大型外航船においてはそれ以上のコストアップが予想される。 一方,就航後の運行コストについては,石油燃料と天然ガス双方の価格推移によっては,

ディーゼル機関に比べて割安になる可能性もある。 5. ガス燃料船の経済性 5.1 舶用燃料油価格の推移 現在 原油価格は高止まりの状況が続いている。図6はEIA(米国エネルギー省エネルギー情報局)の長期予測である10)。

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この資料によれば,原油価格は発展途上国の経済発展や石油供給量に依存して大きく変化しうるものの,平均的には今後も価格は上昇し続け,1バレル当たりで2020年には125USドル,2035年には150USドル近い価格になるものと予想されている。 舶用重油にはIF180,IF380等の残渣油(Residual oil)と,MDO(A重油),MGO(ガスオイル)の留出油(Distillate oil)がある。一般に舶用の燃料油価格は残渣油と留出油がそれぞれ一つのグループとなって推移する(図7)。現在(2012年5月)の価格は,残渣油で720USドル,留出油で1,000USドル前後で推移しており,舶用燃料油価格は原油価格と連動するため,今後も価格がさらに上昇することが懸念される。 舶用燃料油価格の変動要因としては,原油価格のほかに,燃料油中の硫黄分規制がある。IMOのSOx規制においては,排ガス洗浄装置を装備する場合を除き,使用する燃料油中の硫黄分は2015年より指定海域で0.1%に制限され,また,2020年(又は2025年)からは一般海域においても0.5%に制限される。規制値をクリアするためにはいずれも留出油を使用しなければならず,0.1%の場合はMGOを,0.5%の場合はMDO又はMGOを使用することになる。このような状況では,規制が開始されるタイミングで必要とされる燃料油(低硫黄燃料油)の価格が上昇する可能性が考えらる。

出典:Ministry of Transport and Communications Finland, “Sulphur content in ships bunker fuel in 2015”(2009)

図 7 舶用燃料油価格の推移

Average annual world oil prices in three cases, 1980-2035 (real 2010 dollar per barrel)

図 6 原油価格の長期予測

出典:EIA Annual Energy Outlook 2012 Early Release Overview

Pric

e (U

SD

/t)

Fuel prices (Rotterdam)

SECA2 b

y EU

SECA2 b

y IM

O

MGO

MDO

IF380

LS380

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5.2 天然ガス価格の推移 天然ガスの価格については,日本と米国でかなりの価格差があるが,米国の天然ガス価格は今後 上昇傾向は示すものの緩やかに推移するものと予想されている(図8)。 天然ガス(LNG)価格は国によって相当異なる。特に米国の天然ガス価格(Henry Hub

価格*)は他国と違って最近は値下がりの傾向にあり,2011年以降は100万BTU(British Thermal Unit,英国熱量単位)当たり3ドル前後で推移している。それに対して英国や日本では3倍~6倍だけ高値となっており,米国における天然ガス価格の安さが際立っている(図9)11)。これは,米国ではシェールガスが増産体制にあり,かつ,天然ガスパイプランの発達により先物取引市場が形成され,その相場が原油価格と連動しない形でLNG価格に反映されるからと言われている。 注*)米国の主要なガス集積地であり,この地点における価格が米国での指標となっている。 シェールガスは,シェール層という硬い岩盤の地層に含まれる天然ガスであり,従来の

ガス田ではない場所から生産されることから非在来型天然ガスとも呼ばれている。EIAによれば,シェールガスは今後 増産を続け,2035年には天然ガス生産の約半分がシェールガスになるものと予測されてる10)。

出典:内閣府“世界経済の潮流 2011年 II”

図 8 米国での原油・天然ガス価格の推移

米国(Henry Hub) 英国(NBP) 日本(通関 LNG 価格)

図 9 天然ガス価格の推移

出典:東京電力Web site

18.0

15.0

12.0

9.0

6.0

3.0

0.0’04/01 ‘05/01 ’06/01 ’07/01 ‘08/01 ‘09/01 ‘10/01 ‘11/01

US

D/M

MB

tu

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上記より,舶用燃料油と天然ガスの価格の将来価格については,変動要因が多く,予測は困難であるが,次の見方が一般的である。

• 舶用燃料油のうち,低硫黄燃料油(MDO及びMGO)については,今後とも価格が上昇し続ける可能性が高い。

• 少なくとも米国においては天然ガス価格は比較的低価格で安定的に供給されるものと予想される。

5.3 ガス燃料船の経済効果 将来の NOx3次規制及び SOx規制に対応する新造船(北米に寄港する 4,500台積 PCC等)を対象とし,従来の重油焚き機関を搭載した船舶とガス燃料船の経済性を比較した。検討対象としたシステムは次の 5ケースである。 ① SCR/Low Sulphur: 重油焚き機関×1台,SCR脱硝装置,低硫黄燃料 ② SCR/Scrubber:重油焚き機関×1台,SCR脱硝装置,SOxスクラバー ③ SCR/Gas(GI):低速二元燃料機関(GI)×1台,SCR脱硝装置 ④ Gas(Mono):中速ガス専焼機関×2台 ⑤ Gas(DFDE):電気推進,中速二元燃料機関×4台 運航コストについては,燃料のみを考慮し,低硫黄燃料油は比較的急勾配で価格が上昇を続けると仮定した。天然ガスについては,米国とアジアで補給できるものとした。 総合評価としては,文献等で公表されている経済性評価の結果を参考として初期投資+運航コスト(約 10年分)とし,さらに燃料選択の自由度や機関の保守性を考慮して総合的に判断した。考察した結果を表 7に示す。

表 7 将来の NOx規制及び SOx規制に対応したシステムの比較

項 目 ① ② ③ ④ ⑤

SCR/ Low Sulphur

SCR/ Scrubber

SCR/ Gas(GI)

Gas(Mono) Gas(DFDE)

初期投資(相対評価) 低 やや高い 高 高 高 運航コスト(相対評価) 高 やや高い 低 低 低 燃料の冗長性 × × ○ × ○ 保守性 ○ ○ ○ ○ △ 総合評価(10 年運航) × △ ○ ○ △

表 7の総合評価の結果によれば,③~⑤のガス燃料船の経済効率は高く,逆に,①の SOx

対策を低硫黄燃料のみに頼る方法は経済効率が低いと言える。 経済性評価を支配する主たる要因は,ガス燃料船における燃料タンク等の初期投資と燃料価格である。特に,燃料については,必要とする天然ガスの半分程度を米国で補給できれば,追加の初期投資分を 10年程度で回収できるものと考えられる。

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6. 本会の取組み 本会の取組みの一つとして,2012年1月に発行し

た“ガス燃料船ガイドライン”について説明する。 本ガイドラインは,IMOで策定中のIGFコードに基づき,同コード発効前の天然ガス燃料船設計のための指針を示したものであり,現IGFコード案とNKの解釈で構成されている。燃料としては天然ガス燃料のみを対象としており,IGFコードの審議状況及び新技術の発展を考慮し,今後 定期的に見直しを行うこととしている。 本ガイドラインに示されている主要な要件を以下に示す。

6.1 燃料タンク一般 (1) 液化ガス(LNG)タンク

• 構造:液化ガス運搬船における貨物タンクの要件(IGCコード)に適合すること。 • 2次防壁の要否:表 4参照 • タンクの最大許容圧力:ガス臨界温度の 80%における蒸気圧力(メタンの場合

10.7bar)とする。 • 燃料圧力/温度制御:蒸発ガス(BOG)によるタンク圧力上昇を制御する手段を講じること。

(2) 圧縮ガス(CNG)タンク • 構造:高圧圧力容器規格を準用して個別に承認する。 • 火災時における適切なタンク減圧手段(可溶プラグ等)を設けること。 • 高圧ガス漏洩時の冷却効果に対してタンク設置区画を保護すること。 • タンク設置区画に固定消火装置を設けること。

(3) 燃料タンクの冗長性 • 燃料として天然ガスのみを使用する場合,燃料は原則として大きさがほぼ等しい 2個以上のタンクに格納すること。

• 各タンクは別区画に設置すること。 6.2 燃料タンクの配置

• 燃料タンクは,船舶の衝突,座礁等による船体損傷を考慮し,外板から少なくと図 10に示す距離だけ離して設置すること。

• 燃料温度が-10℃以下の場合は,二重底によりホールドスペースを海水から隔離すること。

• 燃料温度が-50℃以下の場合は,船側タンクを構成する縦通隔壁を設けること。

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6.3 燃料タンク関連要件 (1) 開放甲板下(密閉区域)に設置される燃料タンクのタンクコネクションスペース

• 漏洩ガスを保持でき,また,船体構造から熱的に隔離すること。 • A類機関区域から 900mm以上離し,機関区域側に A-60級の防熱を施すこと。 • ガス密であること。 • 隔壁の材料は,燃料タンクと同じ設計温度を有するものであること。 • 耐圧構造とするか,圧力逃がし装置を設けること。 • ビルジシステムを設けること。 • (実用的に可能な範囲で)独立した開放甲板からの直接の出入口を設けること。ガス安全場所との出入口にはエアロックスペースを設けること。

• 毎時 30回以上の換気容量をもつ排気ファン(50%x2)を設けること。 • 通風トランクに自動防火ダンパーを設けること。 • ガス検知器及び火災検知器を設けること。

(2) 開放甲板上に設置される燃料タンク • 外的要因による損傷から保護するためのタンクカバーを設けること。 • タンクの冷却及び防火を目的として水噴霧装置を設けること。 • 漏洩した液体を溜めることができるドリップトレイを設けること。 • ガス安全区域との境界は A-60 級の防火構造とすること。(火災の危険性がない区画の場合は A-0級)

6.4 ガス燃料管装置 ガス燃料管装置の材料及び強度については,液化ガス運搬船における貨物管(IGCコード)と同様の要件が適合される。燃料タンクから機関区域前の範囲では,ガス燃料管装置をガス安全場所に直接 設置することは認められず,ガス圧縮機室,バルブユニット室又はダクト内に設置することが要求される。 機関区域は,ガス漏洩時の安全性に応じて,「ガス安全機関区域」と「ESD 保護機関区域」に分けられる。両機関区域に適用される主要な要件は次のとおり。 (1) ガス安全機関区域

• 機関室内のガス燃料供給管を二重管又はダクトで囲うこと。 • ガス専焼機関が設置される場合,燃料供給の冗長性が必要となる。

燃料タンク

設置可能範囲

S.L.L

B/5 又は 11.5m の小さい方

B/15 又は 2m の小さい方 760mm.

図 10 燃料タンクの配置

B: 船舶の最大のモールデッド幅(m)

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• 二重管(又はダクト)内の換気は,バルブユニット室内の排気ファンで行われる。排気ファンの容量・台数,ガス検知等に関する要件の概略は図 11のとおり。

(2) ESD保護機関区域 • 機関室内のガス燃料供給管は,単管(二重管,ダクトなし)で構成される。ガスが

漏洩した場合は,ガス供給及び非防爆型の電気機器(着火源)を遮断すること。 • ガス機関は,共通の隔壁を持たない複数の機関区域に配置すること。ただし,共通

隔壁が爆発に耐えられる場合は隣接設置可。 • 低圧(10bar以下)のガス燃料供給管のみ適用可。 • 直接 火炎を扱う機器(ボイラ,廃油焼却炉,IGG等)は設置不可。 • 機関室内に設置される排気ファンの容量・台数,ガス検知等に関する要件の概略は

図 12のとおり。

N2

空気取り入れ口

ガス供給

空気

ガス安全機関区域

二重管又はダクト ①ガス燃料より高い圧力の不活性ガス充填:又は ②排気ファン(30 回/時)で換気

排気ファン 30 回/時間,50%X2 台

G

ガス検知器 30%LEL 警報

ベント

主ガス燃料弁

ガス漏洩(40%LEL),換気機能喪失で遮断

(ガス弁ユニット室)

N2

ガス供給

Gベント G

ESD 保護機関区域

N2

G

主ガス燃料弁

ガス漏洩(40%LEL),換気機能喪失,火災検知で遮断

G

排気ファン 30 回/時間, 50%X2 台

ガス検知器 20%LEL 警報, 独立システム 2 式以上

ESD 保護機関区域内の非防爆電気機器

ガス漏洩(40%LEL),換気機能喪失,火災検知で遮断

図 11 ガス安全機関区域に関する主要な要件

図 12 ESD保護機関区域に関する主要な要件

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7. おわりに ガス燃料船の実用化に向けて,天然ガス利用の優位性や課題について考察し,ガス燃料船は環境負荷を大幅に低減できるという利点はあるが,燃料の船内貯蔵と補給が大きな課題であることを示した。ガス燃料船は初期投資が従来船と比較して割高となることは事実であるが,安価な天然ガスを補給できれば環境負荷低減のみならず運航コストも大幅に削減できる可能性があり,ガス燃料船の実用化に大きな期待が寄せられている。 本会は,ガス燃料船の実用化に貢献すべく,ガス燃料船ガイドラインを発行した。今後も引続き,関連規則の開発や技術的課題解決への貢献等を行っていく所存である。 参考文献

1) “LNG Used to Power the Ferry “GLUTRA” in Norway. – The World First Ferry to Run on LNG –”, R. M. Stokholm, J. S. Roaldsøy

2) “Use of Natural Gas as Fuel for Ships”, Kjell M. Sandaker, ASME/USCG Workshop on Marine Technology–Panel 1, 3 June 2008

3) 商船三井,2009年 12月 2日付プレスリリース,“次世代船シリーズを構想 第二弾フェリー「ISHIN-II」”

4) 株式会社 IHI,2011年 8月 31日付プレスリリース,“環境負荷を大幅に低減する舶用LNG燃料システムの開発 IHI SPBタンクを用いた大型 LNG燃料コンテナ船の開発完了”

5) 川崎汽船株式会社Web site,“LNG燃料船開発計画” 6) 社団法人日本造船工業会,Japan Shipbuilding Digest No.23(2011年 6月 21日発行),

トピックス,大島造船所 7) “愛媛ものづくり企業「すご技」データベース”Web site>今治造船株式会社 8) 川崎重工業,2012年 1月 18日付プレスリリース,“大型 LNG燃料コンテナ船を開発” 9) Dag Stenersen (MARINTEK),”Gas Fuelled Ships”, GTS Technical Seminar Series,

2011-09-28, Norway 10) EIA,Annual Energy Overlook 2012 Early Release Overview 11) 東京電力Web site>TEPCOニュース>当社関連報道について>2012年 3月 13日付

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1

ガス燃料船の実用化とNKの取組み

2012 ClassNK 春季技術セミナー

2

1. ガス燃料船開発の現状

2. ガス燃料タンクの種類と特徴

3. 実用化の上で解決すべき課題

4. ガス燃料船の経済性

5. 本会の取組み

6. まとめ

目 次

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3

ガス燃料船開発の現状

【背景】

SOx規制

ECA

NOx規制及びSOx規制の強化(IMO)

GHG排出規制(IMO,2013年より)

重油価格の高騰 → 運航コスト大

NOx規制

4

ガス燃料船開発の現状

対象 技術 削減率等

NOx選択式接触還元(SCR)脱硝装置 80%以上

排ガス再循環(EGR) 組合せで80%以上削減可能水利用技術(水エマルジョン燃料等)

SOx排ガス洗浄装置(スクラバー) IMOガイドライン適合品

低硫黄燃料の使用 硫黄分:0.1%以下

GHG船型改良,二重反転プロペラ(CRP)等 10%~20%空気潤滑法,省エネ付加物等 単独で 数%~10%

上記の技術の組合せで環境規制(NOx,SOx,GHG)をクリアするしかない

【重油焚き機関での対応】

(ECA → NOx:80%削減,SOx:燃料中硫黄分:0.1%)

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5

ガス燃料船開発の現状

【ガス焚き機関(天然ガス)の優位性】

NOx 重油と比較し,80%~90%削減可能

SOx ほぼゼロ

GHG 20%~25%

価格 重油と比較し,一般に天然ガスは低価格

重油焚きディーゼル船と比較し,環境規制に対応し易く,運航コストの低減も可能

6

ガス燃料船開発の現状

【海外におけるガス燃料船開発の現状】

欧州(主にノルウェー)では,内航フェリーやOffshore supply vessel を中心に,現在約30隻が就航

Photo by Harald M. Valderhaug.

2000年建造:“Glutra”内航フェリー(DW 640トン)

2003年建造:“Viking Energy”Offshore supply vessel

(DW 6,000トン)

内航船又は小型船が中心

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7

ガス燃料船開発の現状

【日本国内における取組み】

概念設計(コンセプトシップ)の公表

内航フェリー 10,000TEU型コンテナ船 2,000台積みPCC

62,000DWT バルクキャリア 内航RORO船 9,000TEU型コンテナ船

大型外航船の設計が多い

8

ガス燃料船開発の現状

【検討されているガス焚き機関】

2ストローク二元燃料機関

4ストローク二元燃料機関

4ストロークガス専焼機関

点火方式 パイロット燃料 パイロット燃料 点火プラグ

供給ガス圧力 300 bar 4~5 bar 4~5 barNOx3次規制 SCR等が必要 対応可 対応可

SOx ECA対応 パイロット燃料:低硫黄燃料 対応可

メタンスリップ なし 有り 有り

採用実績 なし 有り 有り

その他低負荷(約20%以下)でガス燃焼不可

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9

1. ガス燃料船開発の現状

2. ガス燃料タンクの種類と特徴

3. 実用化の上で解決すべき課題

4. ガス燃料船の経済性

5. 本会の取組み

6. まとめ

目 次

10

ガス燃料タンクの種類と特徴

種 類独立型Type A

独立型Type B

独立型Type C

メンブレン

形 状

設計蒸気圧 <0.07MPa <0.07MPa 高圧化が可能 ≦0.025MPa

ガス燃料船実 績

なし 検討中 有り なし

特 徴

•完全二次防壁•積付け効率良•コスト大

•部分二次防壁•積付け効率:

(球形)悪い(方形)良い

•信頼性大

•二次防壁不要•積付け効率:

(円筒形)比較的悪い

•信頼性大

•完全二次防壁•積付け効率良•スロッシングの問題あり

【ガス燃料タンクの種類(IMOの分類)と特徴】

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11

ガス燃料タンクの種類と特徴

【燃料タンクの配置】

船種 タンクの種類 タンク配置

フェリー,RORO船,PCC Type C(円筒形) 機関室船首側(横置)

大型コンテナ船Type B(方形)

Type C(円筒形)デッキハウスの下

バルクキャリア Type C(円筒形)機関室船首側 又は機関室上部

VLCC Type C(円筒形) 機関室上部

(採用実績,コンセプトシップより)燃料タンク

12

1. ガス燃料船開発の現状

2. ガス燃料タンクの種類と特徴

3. 実用化の上で解決すべき課題

4. ガス燃料船の経済性

5. 本会の取組み

6. まとめ

目 次

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13

一般商船においては,圧縮ガス(CNG)タンクは容積効率が悪いため,液化ガス(LNG)タンクに限定される

LNGタンクを採用するにしても,LNGの燃料容積が重油の約2倍必要となる → 貨物積載量が減少

コンテナ船,タンカー,バルク等の船種では,燃料タンクの設置スペースを確保することが困難

居室の下に燃料タンクスペースを確保する設計では,安全性に関するさらなる検討が必要

【ガス燃料の船内貯蔵】

実用化の上で解決すべき課題

14

【LNGの補給方法】

現状ではSTSによる方法が有望

NK:ガイドライン作成予定 出典:LNG World Shipping Journal

日本国内ではインフラ整備が不十分

安全性に検討の余地あり。国によっては法規的に認められない場合もある

リスク評価等により安全性を検討する必要あり

(貨物のSTSの例)

固定注入ライン

タンクローリー

タンカーバージ:STS(Ship to Ship)

実用化の上で解決すべき課題

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15

配管からのガス漏洩(特に高圧ガスの場合)

【ガス機関で起こりうる不具合又は問題点】

ノッキング(異常燃焼)

メタンスリップ(未燃メタンの大気排出)

ガス焚き機関 ガス供給

フランジ部でガス漏洩の可能性大

技術改善により解決可能

AirGas

実用化の上で解決すべき課題

16

(MARINTEKの調査による)

ノルウェーで就航している内航フェリー等→ 従来船と比較し,全体として8%~15%のコストアップ

大型外航船では,さらなるコストアップが予想される

Ship Type 内航フェリー Platform supply vessel

RoRo船

LNG 容積 (m3) 250 200 450付加コスト ~10% ~ 8-12% ~ 9-15%

就航後の運航コストによっては,ディーゼル船よりも割安となる可能性あり

【ガス燃料船の建造コスト】

実用化の上で解決すべき課題

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17

1. ガス燃料船開発の現状

2. ガス燃料タンクの種類と特徴

3. 実用化の上で解決すべき課題

4. ガス燃料船の経済性

5. 本会の取組み

6. まとめ

目 次

18

ガス燃料船の経済性

【舶用燃料油価格の推移】

原油価格の長期予測 出典:EIA

250

200

150

100

50

01980 1990 2000 2010 2020 2035

USD

/ Ba

rrel

High Oil Price

Low Oil Price

USD

/ M

T

1600140012001000800600400200

0

2010 2015 2020 2025 2030 2035

燃料油価格の長期予測

MGO MDO HFO

燃料油価格は原油価格と連動し,特に低硫黄燃料油は急勾配で上昇し続けるものと予想される

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19米国での原油・天然ガス価格の推移

出典:内閣府「世界経済に潮流2011 II」

2000 04 08 12 16 20 24 28 32 年

【天然ガス価格の推移】

400

300

200

100

0

2000 年=100

原油価格

(米国)天然ガス価格

米国では,天然ガスは比較的低価格で安定的に供給

日本や欧州では原油価格に連動

ガス燃料船の経済性

20

【経済性に関するケーススタディ】

推進システム:

① SCR/ Low Sulphur: 重油焚き機関 x1台,SCR,低硫黄燃料

② SCR/ Scrubber: 重油焚き機関 x1台,SCR,スクラバー

③ SCR/ Gas(GI): 低速二元燃料機関(GI)x1台,SCR④ Gas(Mono): 中速ガス専焼機関 x2台

⑤ Gas (DFDE): 電気推進,二元燃料発電機関 x 4台

北米に寄港する4,500台積PCC 等

運航コストの仮定:

燃料価格のみ考慮

低硫黄燃料油の価格:上昇傾向

天然ガス:米国とアジアで補給

ガス燃料船の経済性

船舶:

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21

【推進システム】

ガス燃料船の経済性

G

G

G

GR/G

推進モータ

DFD

DFD

DFD

DFD

⑤ Gas(DFDE)

R/G

R/G Gas Engine

Gas Engine

③ SCR/ Gas(GI)

DFD

④ Gas(Mono)

低速二元燃料機関

中速ガス専焼機関中速二元燃料機関

22

ガス燃料船の経済性

【ケーススタディの結果】

項 目① ② ③ ④ ⑤

SCR /Low Sulphur

SCR /Scrubber

SCR /Gas(GI) Gas(Mono) Gas(DFDE)

初期投資(相対評価)

低 やや高い 高 高 高

運航コスト(相対評価)

高 やや高い 低 低 低

燃料の冗長性 × × ○ × ○

保守性 ○ ○ ○ ○ △

総合評価 × △ ○ ○ △

総合評価 = 初期投資+10年間の運航コスト+α

ガス燃料船に優位性あり

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23

1. ガス燃料船開発の現状

2. ガス燃料タンクの種類と特徴

3. 実用化の上で解決すべき課題

4. ガス燃料船の経済性

5. 本会の取組み

6. まとめ

目 次

24

本会の取組み

IGFコード発効前のガス燃料船設計のための指針

天然ガス燃料のみ適用

IGFコード審議状況、新技術の発展を考慮し定期的に見直し

NK Home Page(https://www.classnk.or.jp)に掲載

(ホーム> 業務サービス > 船級間連 > 規則・要領 > ガイドライン )

共同研究等で技術的課題解決へ貢献

「ガス燃料船ガイドライン」を発行(2012年1月)

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25

本会の取組み:ガス燃料船ガイドライン

1章 序文

2章 一般

3章 機能要件

4章 一般要件

5章 燃料管装置

6章 燃料の使用

7章 燃料の貯蔵

8章 燃料の供給

9章 燃料の補給

10章 船体構造

11章 火災安全

12章 防爆

13章 通気装置

14章 電気設備

15章 制御、監視及び安全装置

16章 代替設計

17章 製作、組立及び検査

目次

26

【液化ガス(LNG)タンク】

大許容圧力: ガス臨界温度の80%における蒸気圧力(メタン:10.7bar)

貨物圧力/温度制御: 蒸発ガス(BOG)によるタンク圧力上昇を制御

構造: 液化ガス船の貨物タンクの要件(IGCコード)に適合

再液化装置

ガス機関 入熱

液温上昇

蓄圧

①燃料として消費 ②ガス焼却炉で焼却 ③BOG再液化 ④冷却 ⑤蓄圧

ガス焼却炉

本会の取組み:ガス燃料船ガイドライン

Page 30: 6. ガス燃料船の実用化と NK の取り組み storage tank Cold box Power plant, engines with alternators 図4 ガス燃料船 “Viking Energy” 出典:“Use of Natural

27

L

ガス燃料タンク

PTガスエンジン

A類機関区域

A-60級防火構造

F 火災検知器

ガス検知器 主タンク弁

B.W.

G

【開放甲板下(密閉区域)の燃料タンク設置】

タンクコネクションスペース→ 漏洩ガスの保持,船体構造から熱的隔離

ホールドスペース

開放甲板からの直接の出入口

900mm以上

本会の取組み:ガス燃料船ガイドライン

28

【機関区域へのガス燃料供給】

本会の取組み:ガス燃料船ガイドライン

ガス安全機関区域

ESD保護機関区域

機関室内のガス燃料供給管を二重管又はダクトで囲う

機関室内のガス燃料供給管は単管で構成(二重管,ダクト無し)→ ガスが漏洩した場合,ガス供給及び電気機器(着火源)を遮断

二元燃料機関

FO

Gasガス専焼機関

ガス専焼機関

ガス専焼機関

ガス専焼機関

ガス安全機関区域 ESD保護機関区域

Page 31: 6. ガス燃料船の実用化と NK の取り組み storage tank Cold box Power plant, engines with alternators 図4 ガス燃料船 “Viking Energy” 出典:“Use of Natural

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1. ガス燃料船開発の現状

2. ガス燃料タンクの種類と特徴

3. 実用化の上で解決すべき課題

4. ガス燃料船の経済性

5. 本会の取組み

6. まとめ

目 次

30

まとめ

IGFコード発効前の天然ガス燃料船の設計に参考となるよう「ガス燃料船ガイドライン」を発行

1. ガス燃料船開発の現状

3. 本会の取組み

2. 技術的課題と経済性

現在 日本国内では大型のガス燃料船を開発中

燃料タンクは実質的に独立型Type BとType Cに限定される

燃料の船内貯蔵と補給が大きな課題

低硫黄燃料油の価格が上昇し続け,比較的安価な天然ガスを補給できる場合はガス燃料船が有利