7章 存立基盤の崩壊(2000 2004 - ne101 7章 存立基盤の崩壊(2000~2004) 1....

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101 7章 存立基盤の崩壊(200020041. 機械技術研究所の消滅 協会の崩壊へ道を開いたきっかけは小渕内閣の下に開かれた第 145 国会(平成 11 19991 19 日召集)に始まる。この国会は法改正を含む 700 本もの、まれに見る多さの法律 を成立させたばかりでなく、その法律の中にはその後の日本の進路にも様々な影響を与え たものが多く含まれていた。なかでも中央省庁改革法とその関連法は協会にとっては重要 な法案であったが、それとともに「ものづくり基盤技術振興基本法」もこの国会で成立し た協会と関連のある法律であった。 なかでも中央省庁改革法とそれに伴う独立行政法人通則法は協会の運営に多大な影響を 与えた成立法であった。前者の中央省庁改革法は行政改革の名のもとに中央省庁を1府 12 省庁制に改革を行う法律で、これに関連して通商産業省を改変するための経済産業省設置 法も同時に制定され、その実施時期を平成 13(2001)年 1 月 6 日とされた。この設置法には 従来、通商産業省の外局として、設置が法制化されていた工業技術院は外されていた。こ れに対処する法律として定められたのが独立行政法人通則法である。 この法律は国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に ゆだねた場合には必ずしも実施されそうにないもの、又はひとつの主体が独占して行わせ ることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的とする機関を設けるた めの法律である。そして国立研究所はこれに該当するものとして、工業技術院およびその 傘下の研究所などは独立行政法人とすることが定められた。これによって平成 132001年4月に工業技術院(過渡的に経済産業省産業技術総合研究所)傘下にあった研究所は独 立行政法人産業技術総合研究所に統合されたが、その対象となった研究所は以下の 15 の機 関であった。 産業技術融合領域研究所、計量研究所、機械技術研究所、物質工学工業技術研究所、生 命工学工業技術研究所、地質調査所、電子技術総合研究所、資源環境技術総合研究所、大 阪工業技術研究所、名古屋工業技術研究所、九州工業技術研究所、中国工業技術研究所、 四国工業技術研究所、東北工業技術研究所、北海道工業技術研究所、 このような中央省庁再編の動きは当時の世論の方向として、行政の簡素化と予算の効率 的運用を求める声があり、これに沿った動きではあったが、研究所を統合化する考え方は すでに昭和 37(1962)年頃からあったらしい 120 。しかし機械技術研究所の当時の活動を考 えると、再編は一つの時代の要請にあったものと考えることもできる。つまり機械工学の 守備範囲が 1980 年ころを境にして急激に広がってきたことの結果でもあった。 この背景として、電子工学や情報工学の発達が機械工学の中にも急速に浸透してきたた めに、それらが融合化して一つの技術を作り上げ、新しい体系を作りだしてきたことがあ げられる。その最も良い例がロボットであり、ロボット元年といわれた 1980 年代後半には 機械技術研究所はわが国のロボット開発のメッカであった。このような技術の融合化の傾 120 機械技術研究所50年史、p542

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Page 1: 7章 存立基盤の崩壊(2000 2004 - ne101 7章 存立基盤の崩壊(2000~2004) 1. 機械技術研究所の消滅 協会の崩壊へ道を開いたきっかけは小渕内閣の下に開かれた第145国会(平成11(1999)

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7章 存立基盤の崩壊(2000~2004)

1. 機械技術研究所の消滅

協会の崩壊へ道を開いたきっかけは小渕内閣の下に開かれた第 145国会(平成 11(1999)

年 1 月 19 日召集)に始まる。この国会は法改正を含む 700 本もの、まれに見る多さの法律

を成立させたばかりでなく、その法律の中にはその後の日本の進路にも様々な影響を与え

たものが多く含まれていた。なかでも中央省庁改革法とその関連法は協会にとっては重要

な法案であったが、それとともに「ものづくり基盤技術振興基本法」もこの国会で成立し

た協会と関連のある法律であった。

なかでも中央省庁改革法とそれに伴う独立行政法人通則法は協会の運営に多大な影響を

与えた成立法であった。前者の中央省庁改革法は行政改革の名のもとに中央省庁を1府 12

省庁制に改革を行う法律で、これに関連して通商産業省を改変するための経済産業省設置

法も同時に制定され、その実施時期を平成 13(2001)年 1 月 6 日とされた。この設置法には

従来、通商産業省の外局として、設置が法制化されていた工業技術院は外されていた。こ

れに対処する法律として定められたのが独立行政法人通則法である。

この法律は国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に

ゆだねた場合には必ずしも実施されそうにないもの、又はひとつの主体が独占して行わせ

ることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的とする機関を設けるた

めの法律である。そして国立研究所はこれに該当するものとして、工業技術院およびその

傘下の研究所などは独立行政法人とすることが定められた。これによって平成 13(2001)

年4月に工業技術院(過渡的に経済産業省産業技術総合研究所)傘下にあった研究所は独

立行政法人産業技術総合研究所に統合されたが、その対象となった研究所は以下の 15 の機

関であった。

産業技術融合領域研究所、計量研究所、機械技術研究所、物質工学工業技術研究所、生

命工学工業技術研究所、地質調査所、電子技術総合研究所、資源環境技術総合研究所、大

阪工業技術研究所、名古屋工業技術研究所、九州工業技術研究所、中国工業技術研究所、

四国工業技術研究所、東北工業技術研究所、北海道工業技術研究所、

このような中央省庁再編の動きは当時の世論の方向として、行政の簡素化と予算の効率

的運用を求める声があり、これに沿った動きではあったが、研究所を統合化する考え方は

すでに昭和 37(1962)年頃からあったらしい120。しかし機械技術研究所の当時の活動を考

えると、再編は一つの時代の要請にあったものと考えることもできる。つまり機械工学の

守備範囲が 1980 年ころを境にして急激に広がってきたことの結果でもあった。

この背景として、電子工学や情報工学の発達が機械工学の中にも急速に浸透してきたた

めに、それらが融合化して一つの技術を作り上げ、新しい体系を作りだしてきたことがあ

げられる。その最も良い例がロボットであり、ロボット元年といわれた 1980 年代後半には

機械技術研究所はわが国のロボット開発のメッカであった。このような技術の融合化の傾

120 機械技術研究所50年史、p542

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向は機械工学ばかりでなくいろいろな分野に波及してきた。例えば医療は生存という人間

の根元的な欲求を満足させるための基本的な技術であるが、ここでも融合化の波は機械工

学や電子工学を巻き込み様々な技術が開発されるようになる。そのような例として人工心

臓とか腹腔内手術用器具などを揚げることができるが、機械技術研究所でも人工心臓の研

究が行われるようになっていた。

その結果 1990 年代の末期における機械技術研究所の研究対象は広い範囲に分散し、従来

の機械工学からはみ出した研究があちこちに散在し、焦点の定まらない課題を追求してい

たともいえる状態であった。このことは平成 10(1998)年 3 月に総務庁が行った機械技術

研究所の研究、組織、運営など活動全般にわたるマネージメントレビューに於いて、外部

(民間、学会)の評価委員による評価報告書には研究テーマにはぬるま湯的なものが散見

され、その選定体制及びプロセスには外部評価の仕組みが必要であると指摘121されたことか

らも窺い知ることができる。

このような状態は工業技術院傘下の研究所のなかでも大なり小なり起こっていて、再編

時点では、旧来にない新しい研究所として産業技術融合領域研究所が設立されていたこと

が端的な例として揚げることができる。したがって機械技術研究所を始めとする工業技術

院傘下の研究所を一纏めにして、産業技術総合研究所に再編成したのは上述のような行政

上の要求ばかりでなく、技術の流れから言っても、必然のなりゆきであったかもしれない。

かくして本協会と密接な関係にあった機械技術研究所は、産業技術総合研究所(産総研)

の次の 4個の研究部門および 3研究センターなどに配置されることになった。

①エネルギ利用研究部門、②知能システム研究部門、③人間福祉医工学研究部門、④機

械システム研究部門、⑤マイクロ・ナノ機能発現研究センター、⑥ものづくり先端技術研

究センター。

さらに管理業務の主体は産総研本体に移ることになったので、これを契機としてそれま

で日本工作機械工業会に間借りしていた事務所も移転することになり、平成 11(1999)か

ら平成 13(2001)年まで一時的に機振協会館B301 号室に移転したあと、平成 13(2001)

年 4月につくば市東新井24番13 丸木ハイツ102号に新しい事務所を開設した。

一方、平成 8 年の閣議決定によって公益法人にたいする指導監督の方針のもとに、公益

法人の設立許可及び指導監督基準が定められ、これに基づき通産省の指導のもと協会の定

款も大幅に見直された。この新しい定款は平成 11(1999)年 8月の総会で承認された122。

また事務所のつくば市への移転とともに平成 13(2001)年度に協会のホームページ(ULR

http://www7.ocn.ne.jp/~kigikyo)を開設したが、これは業務内容の透明化・適正化を図

る目的のために、事業報告、事業計画、財務諸表、定款、名簿類などを開示することを経

済産業省から要望されたことによる。ここでのインターネット環境は電話回線を用いた

ISDN(Integrated Services Digital Network)方式であった。そして平成 13(2001)年度

121 機械技術協会ニュース、No.25(1998)、p3 122 機械技術協会ニュース、No.27(1999)、p18-19

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総会(2001.3.9)では 2001 年度の事業計画の中に初めてネットワークによる業務が取りあ

げられ、「産総研における機械技術関連分野の研究開発を中心に、最近の情報を迅速に提供

します」と約束した。図 7-1 は平成 15(2003)年時のタイトルページを示す。

図 7-1 初期のホームページ表紙(2003 年版)

このころの協会の体制は平成 6(1994)年本田冨士雄会長から金井実徳氏(元機械技術研

究所第8代所長)に交代し、さらに曽田長一郎氏(元機械技術研究所第 10 代所長)が就任

していた。この平成 10(1998)年は協会が設立されて 50 周年であったが、特に記念行事な

どは行われていない。

2. イベントの消滅

機械技術研究所は産総研に統合される前より研究成果の社会への還元について問われ続

けていた。そのための組織として試験所の時代から機械技術相談所が設けられていたが、

平成 8(1996)年にこれが改組され、技術交流推進センターとなった。ここでは技術相談以

外に従来企画室が担当していた共同研究の窓口としての役割も持つことになった。さらに

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産総研への統合後をにらんで平成 10(1998)年には「産学官連携推進センター」になり、

研究所と企業との結びつけを積極的に行える組織とした。図 7-2 はその間における機械技

術研究所の共同研究、技術指導、相談件数の推移である。共同研究は制度面の整備と、技

術指導案件が共同研究に移行したこともあり、順調に伸びている。このことは研究所が従

来にも増して対外活動を強める方向に乗り出したことになり、国立研究所と民間企業との

交流を媒介するという協会活動の意義を弱めることになった。

図 7-2 機械技術研究所産学官連携センターの実績123

協会の行った講演会の内、平成 10(1998)12 月に開かれたクリーンエネルギ自動車の講

演会では 100 名以上の聴講者があり、そのための経費は十分賄うことができたが、講習会

の開催は会場費、講師謝金等支出を伴うため、参加費はそれに見合うだけの費用をいただ

く必要がある。ところが参加者は景気の影響ばかりでなく取り上げたテーマなどによって

増減するので、その収支バランスをとることが難しい。一方でこの頃から、社会還元を問

われ始めた学会や、各種団体がいろいろな講演会を開き始め、無料の講演会も多く開催さ

れていた。この様な中で講演会を企画するのは時代の要求にあった魅力的なものを選ぶ必

要があり、難しい課題でもあった。

図 7-3 はこの時期の講演会の収支を示したのものである。開催回数と収入額、支出額を

示している。1998 年以後、年を経るにしたがって収入が減少していることがわかる。2001

年からの激減は、機械技術研究所の消滅により、同所職員が委員として参加し、講演会企

画、実行の母体であった協会の企画運営委員会が有効に機能しなくなったからである。こ

のよう状況の中で 2002 年に開いた講演会は多くの聴講者を集めたが、産総研と共催で行っ

たために、聴講料が低く抑えられ、収入も少なかったが経費もほとんどかかっていない。

既にこの時期には講演会を開くだけの体力は協会にはなかった。

123 機械技術協会ニュース、No.27,p8

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る。

図 7-3 講演会開催の回数と収支

表 7-1 講演会

開催日 演題 講師 所属 会場

1998/3/16

23 名

スマート・ストラクチヤの実現に向けて

先進材料・構造システムの研究開発へー構造のヘルスモ

ニタリング・ケアに関連してー 平野一美 機械技術研究所

機械振興会館

スマートセンシングによる機械システムの静粛化 田中信雄 機械技術研究所

スマート構造による建築構造物のアクティブ制御 藤田隆史 東京大学

インテリジェント材料・流体システム 谷 順二 東北大学

振動モードフィルタリングのための光ファイバ活用法 仙波浩雅 愛媛工業技術センタ

新機能性材料による光アクチュエータ 森川 泰 機械技術研究所

分散型機械システムの将来ー自分で自分を組立、修理す

る機械システム

吉田英一(小

鍛冶繁) 機械技術研究所

1998.12.9

100 名

次代を担うクリーンエネルギ自動車(その開発とキーテクノロジ)

機械振興会館

開会挨拶 曽田長一郎 機械技術協会

地球環境とクリーンエネルギ自動車に関する官民の戦

渡辺昇治 通産省

次世代エンジンの展望と燃料動向 斉藤 孟 早稲田大学

高効率クリーンエンジン開発の現状と将来 岩井信夫 ㈶日本自動車研究所

電気自動車普及のバリアとその解決策 清水健一 機械技術研究所

電気自動車技術の現状と将来展望 丹下昭二 ㈶日本電動車両協会

ハイブリッド電気自動車の開発と要素技術 佐々木正一 トヨタ自動車(株)

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400

500

600

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

万円

講習会収入 講習会支出

3回 3回 3回 4回 2回 4回 1回 1回

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燃料電池自動車の研究開発 平野伸一 マツダ㈱

閉会挨拶 阿倍稔 機械技術協会

1998/6/12

53 名

人間協調・共存ロボットを目指して

機械振興会館

「人間協調・共存型ロボットシステム」産業科学技術研

究開発

横井 仁 機械技術研究所

人間協調・共存と視覚的コミュニケ―ション 大場光太郎 機械技術研究所

人間協調・共存とネットワークコミュニケーション 小森谷 清 機械技術研究所

早稲田人間共存ロボットーヒューマノイドー 橋本周司 早稲田大学

人間共存型ビーチバレーロボットの開発 辰野恭市 東芝

ソニーペット型ロボットの開発 藤田雅博 ソニー㈱

福祉における人間協調ロボット技術 橋野 賢 機械技術研究所

人間協調・共存型ロボットの機構と制御 谷江和雄 機械技術研究所

1998/10/23

マグネシュウム合金を使う! -超軽量化と環境調和への挑戦-

機械振興会館

開会挨拶 曽田長一郎 機械技術協会

マグネシュウム合金の特性と内外の生産・利用動向 渡辺 亮 ㈶日本マグネシュウム協会

国内外におけるマグネシュウム関連研究開発プロジェ

クト

佐野利男 機械技術協会

マグネシュウム新合金の研究開発動向 小島 陽 長岡技術科学大学

マグネシュウム合金のチクソ成形法と製品例 山口 敏 ㈱日本製鋼所

マグネシュウム合金のリサイクル 永井修次 東京都立工業高等専

門学校

粉末成型によるマグナシュウム合金の特性改善 松崎邦男 機械技術協会

マグネシュウム合金展伸材の加工 清水 亮 大阪富士工業㈱

マグネシュウム合金の表面処理技術 山口恵太郎 三菱アルミニュウム㈱

閉会挨拶 阿倍 稔 機械技術協会

1999/7/7

磁気記録装置の超高密度化に挑戦(来たれ!入門者から専門家まで!)

機械振興会館

開会挨拶 曽田長一郎 機械技術協会

磁気ヘッド・薄膜媒体の技術的現状と将来 押木満雅 ㈱富士通

メカサーボの技術的現状と将来 鈴木 博 ㈱東芝

コンタクト方式超高密度HDI技術開発 柳沢広雄 日本電気㈱

コンタクト方式と摩擦電磁現象 中山景次 機械技術研究所

超高密度磁気記録の今後の技術的課題 -垂直磁気記録

を含めて

法橋滋郎 早稲田大学

閉会挨拶 阿倍 稔 機械技術協会

1999/11/29 薄膜アクチュエータの開発動向と製造技術の新展開 振興

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マイクロマシンにおける微小アクチュエータの開発動

藤田博之 東京大学

圧電薄膜アクチュエータを用いた光マイクロマシン

-2 次元マイクロスキャナとその応用-

後藤博史 オムロン㈱

磁歪・圧電ハイブリッド型スマートアクチュエータ -

次世代高密度ハードディスクの実現を目指して-

井上光輝 豊橋科学技術大学

超高速・高精細インクジェットプリンタの開発動向 倉島憲彦 セイコ-エプソン㈱

強誘電体材料の薄膜化技術の現状と課題 鶴見敬章 東京工業大学

窯業的プロセスによる圧電膜の作成 -スクリーン印

刷、ゾルゲル法を中心にして

秋山善一 ㈱リコー

RFスパッタ法によるC軸配向PZT薄膜の作成 神野伊策 松下電器産業㈱

ガスデポジション法による圧電薄膜の形成と微細パタ

ーニング技術

明度 純 機械技術研究所

2000/7/10

福祉機器を育てる -福祉機器産業の現状と将来展望-

機械振興会館

使える福祉機器を作るために 市川 冽 東京都福祉機器総合

センタ

福祉機器の目的は自立生活 伊東弘泰 ㈱日本アビリティーズ

ユーザの個別要求に適切に対応するには 松永建純 ㈱松永製作所

ライフサポートテクノロジにおける福祉機器 土肥健純 東京大学

福祉用具ビジネスの将来展望と課題 栗本 聡 通産省

移動におけるユニバーサルデザインの概念 蓮見 孝 筑波大学

福祉機器研究開発のためのネットワーク 甲田寿男 機械技術研究所

2000/9/20

人の心に豊かさをもたらす新しい機械の概念を探る

人の心を豊かにする機械の研究開発 柴田崇徳 機械技術研究所

五感への自由由来の刺激が快適性に及ぼす影響 宮崎良文 森林総合研究所

人の心の豊かさをもたらす動物 横山章光 大阪市立病院

人と機械の情緒的コミュニケーション 菅野重樹 早稲田大学

Afective interaction : AIBO と人のインターラクショ

藤田雅博 ソニー㈱

2000/12/7

ITの基礎と其の新しい展開 -ITが機械製造にもたらす潮流-

城東地域中小企業振興セ

ITと生産システム 本多庸悟 東京農工大学

インターネットの現状と今後の方向 寺田松昭 東京農工大学

マルチメディアとネットワークを活用したリモート製

造支援

柿崎隆夫 NTTサーバソリュ

ション研究所

人工感覚デバイスとネットワークセンシング 安藤 繁 東京大学

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高密度ストレージの最近の展開 佐藤勝昭 東京農工大学

ネットワーク化による建築設備システムの指針動向 斉藤 浩 清水建設㈱

製造業における 3D設計の取り組み事例と現状設計(ト

ップダウンとデータ管理)

上迫 学 NEC㈱

2000/12/11

急激な普及が期待されるマイクロガスタービンの現状と将来

マイクロガスタービンの現状と課題 笠木伸英 東京大学

Capstone マイクロタービンについて 井上梅夫 ㈱タクマ

honewell マイクロガスタービン Parallon 75 につい

金子和義 東京貿易㈱

マイクロガスタービンの運転試験について 土屋利明 東京電力㈱

表 7-2 見学と懇談の会

開催日 演題 講師

2001.6.7

45 名

「ITSと自動運転」講演・見学会

ITSと自動運転 津川定之

見学 産総研つくば北事業所テストコ-ス(試乗会)

2002.10.16

18 名

微細成形技術

微小材料の引張強度特性評価

2002.11.20

6 名

摺動材料の開発とトライボロジー特性評価・分析

究極の潤滑システムの開発

2003.7.29

MRIに関する研究

マイクロフォーカスX線CTによる三次元非破壊検査 本間一弘

2004.7.13

18 名

MEMS 関連講演会および実験棟見学会

マイクロリアクターおよびエネルギー応用 李 成浩

高周波通信MEMS 曹 俊ケツ

光MEMS(ピエゾ光スキャナ応用) 小林 健

ガラスナノ成形 高橋正春

見学 実験室見学

2004.11.8

10 名

DME 関連講演会および実験車見学会

産総研エネルギ関連部門の紹介 後藤 新一

世界における DME 自動車の研究開発状況 後藤 新一

総重量 8 トン DME 自動車の研究開発と今後の展望 小熊 光晴

見学 DME 福祉バスおよび DME トラックの試乗会

2006.3.20 ナノ電子セラミックスプロジェクト

ナノ電子セラミックス 明渡 純

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3 協会の財政状況

平成 10(1998)年までは委託研究を受けていたので会費だけでは運営の難しかった財政

も何とか維持できたが、それ以後委託費がなくなると、それまで事務的経費は委託費と共

用していた部分があったのでその運営はかなり難しくなった。会員の減少は歯止めがかか

らず(1999 年時点で 27 社、19 人)、将来的に協会そのものの運営を危惧した曽田会長は平

成 12(2000)年 5 月に工業技術院技術振興課に相談した。このときは解散も視野に入れた

協議であったが、機械技術研究所の産総研への統合後の姿が見えないその段階では解散は

しないでほしいという要望があった。当時は講演会の収益がかろうじて協会の会費の不足

額を支えている状態であったが、その後も曽田会長の懸念通り協会の財政状況は改善しな

いまま時間が経過した。

その前後の協会の資産内容の変化を図 7-4 に示す。平成 11(1999)年度には事務所移転

費用などで資産の減少があったが、平成 13(2001)年度の正味財産は赤字になっているこ

とがわかる。これは負債の返済が遅れたために発生した結果であったが、資産状況は多少

の改善はあったものの綱渡り状況であったことは変わっていない。この時、機械技術研究

所は産総研への移行の途上にあり、組織としての協会への働きかけはなかったが、平成 13

(2001)年産業技術研究所への統合後、研究業務の一部を協会に請け負わせてもらえるよ

うになった。これにより協会財政はとりあえず安定する見込みができたので、曽田会長は

平成 17(2005)年にその後の協会の運営を大山尚武氏(機械技術研究所 14 代最後の所長)

に託し会長を退任した。

図 7-4 資産内容の変化

しかしこの請負業務も長くは続くことなく大山会長が引き継いだ年度の平成 17(2005)

年を最後に途絶えてしまった。その後は図 7-5 に示すように収入は会費だけに頼らざるを得

-100

0

100

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300

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1994

1995

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2006

2007

2008

2009

2010

2011

万円

年度

資産合計 正味財産

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110

なくなるが、協会の体質はもともと固定費を会費で賄うことができない構造であったため

に、以後は必然的に資産を食いつぶす経営になっていった。

図 7-5 収入の内訳の経緯

4. 機械技術研究所の産総研へ統合前後における協会の活動

協会の定款の中にある研究活動についての定めは、設立当時の定款では「研究の相談」

という表現になっていて、研究そのものを行うことを業務とはしていなかった。しかし、

その後定款は研究活動そのものも行えるように改められている124。平成 1(1989)年に行

われた表面モディフィケーションの共同研究もこの定款に従った事業であったが、講演会

が経費面で運営がやりにくくなってきた平成 11(1999)年には次の二つの研究活動への展

開を図った125。

・ クラスタダイヤモンドの潤滑機能に関する委員会

・ コンピュータ援用による生産工学研究会

a ) クラスタダイヤモンドの潤滑機能に関する委員会

NEDO の「クラスタダイヤモンドを利用した固体潤滑複合材料の開発」の一端として「特

殊環境下における摩擦・摩耗の調査」を表 7-3 の委員会を組織して受託した。委員長は工藤

理事(前半)と曽田会長(後半)が務めた。この活動は平成 11(1999)年と、平成 12(2000)

年の両年にわたって行われたが、千葉工業大学の「特殊環境下における摩擦特性」と山梨

124 機械技術協会ニュース、No.25 (1998)、p11 125 機械技術協会ニュース、No.27 (1999)、p 20

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

万円

年度

会費等収入 請負収入

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111

大学の「特殊環境下における表面特性」に関する両大学から提出された研究報告をこの委

員会で審議する形態をとった。この時期、大学には NEDO 予算が届きにくい背景があった

ための便法と考えられる。受託額総計は 3、990、000 円であった。

表 7-3 クラスターダイヤモンドの潤滑機能に関する委員会

委員長 工藤英明 機械技術協会 理事 委員 榊 宏一 大平洋金属(株

委員 曽田長一郎 機械技術協会 会長 委員 中山 昇 機械技術研究所

委員 四方英雄 日立粉末冶金(株) 委員 白井靖幸 千葉工業大学

委員 欧 陽勤 山梨大学 委員 黛 政男 (株)東京ダイヤモンド工具製作所

委員 児山 豊 SII 事務局 三井武良男 機械技術協会

委員 花田幸太郎 機械技術研究所

b)コンピュータ援用による生産工学研究会(CAPE 研究会)

生産技術や生産工学のコンピュータとの係わりに付いての、新しい知見を含む研究、開

発を行うために設けられた研究会で、本多庸悟東京農工大学教授を主査とし、平成 11(1999)

年から平成 17(2005)年まで活動した。表 7-1 にある「IT の基礎とその新しい展開」講演

会はこの活動の中の一環であるが、ここで提起された課題をより深く議論するために開か

れたのが表 7-4 の研究会である。この研究会は本多教授の手持ち資金を原資として運営され

参加費を無料とした。

表 7-4 CAPE 研究会 開催日 於 KKRホテル東京

開催日 演 題 講師 所属

2002.6.26 設計製造支援アプリケーションのためのプラットフォームの

研究開発について

小島俊雄 産総研・ものづくり先端技

術研究センター 松木則夫

2003.1.30 ネットワークを活用した製造支援コラボレーション 柿崎隆夫 NTT

2003.2.18 経営戦略と技術開発 山下英雄 セコム IS 研究所

2003.7.30 ネットワークプロトコルの現状と最先端高速ネットワーク

FlexRay 伊深和浩 日本モトローラ

2004.9.17

7 名

協調学習型 CAD 演習から,産学連携型授業へ~スタンフォード

大学のアプローチと比較しつつ~ 伊藤照明 徳島大学

2005.10.21 工作機械を語る:工作機械における機械と情報制御など 佐藤 眞 牧野フライス製作所

c)産総研との仲介機能の試み

平成 13(2001)年 4 月に機械技術研究所が産総研に移行した時、工業技術院傘下の研究

所の研究組織は 22 研究部門、23 研究センター、7研究ラボ、2研究体に分割された。その

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うちの研究部門は表 7-5126のような構成になっていた。旧機械技術研究所の組織は多くは機

械システム研究部門の中の 10 グループとして表 7-6 のようにまとめられた127が、加工関連

組織としては、このほかに「ものづくり先端技術研究センター」があった。

表 7-5 産総研設立時の研究組織

計測標準研究部門 つくば・関西 光技術研究部門 つくば・関西

地球科学情報研究部門 つくば 生物遺伝子資源研究部門 つくば・北海道

地質資源環境研究部門 つくば 分子細胞工学研究部門 つくば

海洋資源環境研究部門 つくば・中国・四国 人間福祉医工学研究部門 つくば

エネルギ利用研究部門 つくば・北海道 脳神経情報研究部門 つくば

電力エネルギ研究部門 つくば 物質プロセスス研究部門 つくば

環境管理研究部門 つくば・東北 セラミック研究部門 中部

環境調和技術研究部門 つくば 基礎素材研究部門 中部・九州・中国・東北

情報処理研究部門 つくば 機械システム研究部門 つくば

知能システム研究部門 つくば ナノテクノロジー研究部門 つくば

エレクトロニクス研究部門 つくば 計算科学研究部門 つくば

表 7-6 産総研の加工関連グループ

ファインファクトリ研究G 微小機械研究G 循環型機械材料研究G 複雑現象工学研究G

プロセスメカニズム研究G 循環型生産システム研究G トライボロジ研究 総括研究員

集積機械研究G 循環型材料加工研究G 先進材料・構造健全性研究G 凡例 G:グループ

当初機械技術研究所の主要部分がまとめられた機械システム研究部門は 3 年後の平成 16

(2004)年 4 月 1 日に先進製造プロセス研究部門へ改編され他の部門と表 7-7 のように統

合された。その結果、従来機械技術研究所が行っていた研究がどの部門で継続されている

のか、外部から見ると分からなくなった。こここにはもともと機械技術研究所の研究グル

ープであったものが含まれているが、グループ名を見ただけで元の研究チームを想像する

ことは内部事情を知らない限りかなり難しい。さらに研究者個人へのアクセス方法も一新

されたので産総研の組織そのものが一種のブラックボックスのような状況となった。 そ

こで旧機械技術研究所関係部門と新しい組織の間を取り持つ機関としての協会の存在意義

を考えるようになる。

表 7-7 平成 16(2004)年時点での先進製造プロセス研究部門の構成

ファインファクトリ研究 G マイクロ実装研究 G 集積加工研究 G

循環型生産システム研究 G レーザー微細加工研究 G 融合型機能エンハンス製造技術研究 G

126 AIST today, 2001.4.1 127 産総研平成 14 年度年鑑、108

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トライボロジー研究 G 損傷機構・構造健全性研究 G 複雑現象工学研究 G

難加工材成形研究 G 製造プロセス数理解析研究 G 結晶機能制御研究 G

機能モジュール化研究 G 高性能部材化プロセス研究 G 高温部材化プロセス研究 G

センサインテグレーション研究 G 先進焼結技術研究 G 超音波プロセス研究 G

テーラードリキッド集積研究 G 生体機構プロセス研究 G 凡例 G:グループを示す

その手段として、産総研と共催の形をとって表 7-8 に示すような元機械技術研究所組織と

関連する部門による産総研の紹介講演会を開いた。当時の協会の財務内容でもこのような

講演会を開催できたのは産総研の施設を使ったため、その経費は低く抑えることができた

ことによる。

この講演会での内容を見れば、新しい組織での元機械技術研究所が分担していた部分の

研究目的は人間環境調和型の社会を目指すためのものとしている。ここには機械技術研究

所の設立の大きな目的であった生産加工技術は「ものづくり先端技術研究センター」およ

び「機械システム研究部門」の中で生き続けることになった。

仲介機関としての協会の機能をこのような状況の中でも実現する試みとして、産総研が

広報活動の一環として広報誌“AIST Today”を無料で配布し始めたのを機会に、これを会

員に配布した。

表 7-8 産総研の紹介のために企画された講演会

2002/3/6

87 名

産業技術総合研究所における機械技術の研究開発 -人間環境調和型機械技術を目指して-

産総研臨海副都心センター

開会の挨拶 曽田長一郎 機械技術協会

産業技術総合研究所の目指すものづくり技術 榎本祐嗣 理事

産業技術総合研究所における人間環境調和型製造技

術の位置づけと将来展望 鳥山素弘 企画本部

ものづくり先端技術研究センターとエンジニアリン

グデータベースの構築 小島俊雄

ものづくり先端技術研究

センター

機械システム研究部門のビジョンと研究開発内容 筒井康賢 機械システム研究部門

機械技術の研究開発と産総研への期待 北川正樹 石川島播磨重工業㈱

知能システム研究部門の目指す人間環境調和型社会 谷江和雄 知能システム研究簿門

マイクロ・ナノ機能広域発現研究センタの目指すナ

ノ・マニファクチュアリング 矢部 彰

マイクロ・ナノ機能広域発

現研究センター

エネルギ-利用領域の目指す人間環境調和型社会 長谷川裕夫 エネルギ利用研究部門

人間福祉医工学研究部門の目指すもの 山根隆志 人間福祉医工学研究部門

人間環境調和型機械技術分野における産学官連携の

強化 野崎武敏 産学官連携コージネータ

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閉会挨拶 矢田恒二 機械技術協会

5. 請負事業

a)実用化研究会

産総研への移行後、産総研の方針として研究成果の社会への還元の方針が強く打ち出さ

れ従来の産学官連携センターは産学官連携部門となり、外部との窓口となる産総研イノベ

ーションズ(TLO)を設けることにより技術移転業務の拡充が図られた。これを受けて、

旧機械技術研究所の中で出た研究成果の中でも特許出願や基礎的な研究は行われたものの、

実用化につながる装置化や製品化のためには、まだ克服すべき技術的課題が残されている

技術シーズを対象にして、実用化のための技術的筋道を研究するため、企業の技術者を交

えた実用化研究会を設ける事業が始まった。そこで協会はこの業務を産総研から請け負っ

ている(総額:3、914、350 円)。この研究会は平成 13(2001)年、平成 14(2002)年に於

いて次の 8 テーマについて行われたが、何れも協会が事務局を司り、野崎 武敏 産総研 産

学官連携部門研究コ-デイネ-タを委員長とし、産総研からは産学連携部門の技術スタッフ

や企画部門が加わり、これら課題に対して興味をもった数社の企業が参加して研究会を組

織した。研究会ではこれらの研究成果を実用化するための問題点、関連特許の調査を行い、

実用化の可能性のあるものについては補助金を申請したが、このうち「超磁歪材料を用い

た微小送り制御装置」が採択され製品化した。しかしここに参加した企業は協会に入会す

ることはなかった。

表 7-9 実用化研究会の課題

平成 13(2001)年度

課題 開発者 参加企業

超磁歪材料を用いた微小送り制御装置 近藤 孝之 ㈱モリテックス エトリーマ ㈱ナノ

超磁歪材料を用いた微小液滴噴射装置 近藤 孝之 ㈱モリテックス エトリーマ ㈱ナノ

㈱コガネイ 高島産業㈱

球面ステッピングモ-タ 矢野智明、高辻利之 ㈱安川電機 櫻井精技㈱

人間共存システムにおける小型アクチ

ュエ-タ・制御システム 柴田 崇徳 マイクロジェニックス㈱

ドリ-ムビジョ

ン㈱

平成 14(2002)年度

球面モータを用いた基盤外観検査装置 矢野智明 ㈱安川電機 櫻井精技㈱

球面モータを用いた高精度 3次元座標

測定器

矢野智明、高辻利之、

大沢尊光 ㈱安川電機 櫻井精技㈱

スムスースウオータ 川口靖夫、佐伯隆(山

口大学)

周南地域地場産業振興センタ 新菱冷熱工業㈱

東邦化学工業㈱ アクアス㈱

光アクチュエータ 森川 泰、一木正聡 ㈱ナノコントロール 高島産業㈱

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b)ものづくり先端技術研究センターからの請負

産総研の独立法人化への道を開いた第 145 回国会で、並行して法制化されたものづくり

基盤技術振興基本法はその第四条に「国は、ものづくり基盤技術の振興に関する総合的な

施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する」と定め。第 2 条第 1 項 の政令で定める

技術として(1) 設計に係る技術、(2) 圧縮成形、押出成形、空気の噴射による加工、射出成

形、鍛造、鋳造及びプレス加工に係る技術、(3) 圧延、伸線及び引抜きに係る技術、(4) 研

磨、裁断、切削及び表面処理に係る技術などの機械関連技術を指定している。産総研に設

けられたものづくり先端技術研究センターはこの政策にもとづくもので、中小企業庁の「も

のづくり・IT融合化推進技術の研究開発」の委託研究を行うために発足している。この

研究の目的は「機械部品製造におけるものづくり力強化を目的に、加工技能のデジタル化

技術として、信頼性の高い、高精度の広範囲な加工技術情報のインターネット上への集積

及び集積情報の活用に関する技術、また設計製造業務における製品情報の共有・交換・保

存を可能にする基礎となるプラットホーム技術の研究開発をする」128としている。

協会は平成 13(2001)年より 3 年間この関連技術として、各都道府県にある公設の試験

研究機関(公設試)の研究成果のデータベース化作業を請負った。この作業には曽田会長

を委員長とし機械技術研究所に在職していた加工関連を専門とする人材十数名からなる調

査委員会を組織して、平成 9(1997)年以降の公設試の活動内容を公設試概況、公設試年

報を資料として、退職者を含む公設試の関連研究職員と加工専門分野を氏名、専門分野に

分類し、それぞれの研究成果をデータベース化した。さらに産総研で開発中の加工技術デ

ータベースに関して、加工に関する情報利用評価事例作成、加工に関する用語のシソーラ

ス策定作業も行っている。この時に対象とした研究論文総数 1700 編、研究者総数 1300 名

であった。

この作業とは別に平成 16(2004)年には加工技術データベースの溶接関連、熱処理・材

料関連、加工関連に使われている用語 50 件の解説記事を図表込で 2,000 字/件程度にまと

める業務と、微細孔加工の加工限界を産総研がアンケート調査するための前段階として、

各企業を訪問して、現状を調べる仕事を請け負っている。これら産総研ものづくり先端技

術研究センターから 4 年間にわたって請け負った金額は総額 16、566、926 円であったが、

協会の財政にとっては大変な助け舟になった。それが途切れた後の協会の収入状況は図 7-5

にも示したように大きな衝撃を受けることになった。

128 産総研平成 14 年度年鑑、p108