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東大科学哲学ゼミ第8転換期の科学技術論② 福島・原子力・技術

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東大科学哲学ゼミ第8回 転換期の科学技術論②

福島・原子力・技術

リスクとその評価をめぐって 確率論と政治

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 2

リスクの定義

リスク

=有害事象の生起確率(頻度)

×有害事象の損害の大きさ

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 3

• Probabilistic Risk Analysis • 1967,チャレンジャー号事故

– 飛行士三人死亡

• 発がんリスクの定量的評価必要性 – 1958デラニー条項

• US Food, Drug, and Cosmetic Act

– 1970s定量的リスク評価 ⇒ 条項廃止(1996),10-6の生涯発癌リスク

– ゼロリスクから無視できるリスクへ

定量的リスク 分析

確率によるリスク分析登場の背景。

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 4

定量的リスク 分析の方法

確率による三段階の分析。 ここでは原発の例をとる。

レベル1

•技術システムに事故が起こる確率の分析

•イベントツリー分析による炉心損傷の生起確率評価

レベル2

•事故生起時、施設外に有害物質がどのように放出されるか

•有害物質を施設内に封じ込める深層防御の分析を含む

レベル3

•有害物質がどのように自然環境・人体に取り込まれ影響を与えるか

•即ち「損害の大きさ」の評価。経済的損失も含めることが可能

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 5

TC:原子炉の停止に失敗し、炉心損傷に至る事象 TQUV:高圧注水系に失敗後、原子炉減圧には成功するが、低圧注水系による注水に失敗し、炉心損傷に至る事象 TQUX:高圧注水系に失敗後、原子炉減圧に失敗し、低圧注水系による注水ができず、炉心損傷に至る事象 TW:原子炉への注水には成功するが、格納容器の除熱に失敗し、炉心損傷に至る事象 LOCA:配管破断後、高圧注水系、低圧注水系のいずれの注水にも失敗し、炉心損傷に至る事象 TB:電源の喪失により、必要な緩和系が起動できず、炉心損傷に至る事象

定量的リスク 分析の限界①

データが少ない事象の確率をどのように求めるのか。 イベントツリー分析の手法。

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 6

定量的リスク 分析の限界② フォールトツリー分析の手法。

•故障に限らず、システムを構

成する部分に関する事象がど

のような帰結をもたらすか

イベントツリー分析

•システムを構成する部分の故

障確率・ヒューマンエラー確

率をもとにシステム全体の重

大事象生起確率を推定

フォールトツリー分析

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 7

定量的リスク 分析の限界③

フォールトツリー・イベントツリーの限界は?

構成部分の故障確率ヒュー

マンエラー確率が正確にわ

かっていなければならない

相互作用が捉えられない システム外部要因が捉えら

れない

すべての要因を網羅したか

わからない

部分の故障確率の

不確実性

相互作用評価の

不確実性

影響範囲の

不確実性

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 8

定量的リスク 分析の限界④

レベル3の分析。損害の大きさを予測することにも不確実性。 データがない(少ない)領域でどうするかという共通問題。

•大気・土壌・地下水、食物連鎖での蓄積

•風速・大気安定度・食物連鎖各レベルの摂取、蓄積量

①放出された放射性物質や化学物質が人体にどの程度到達するか

•どのような毒性を持っているのか

•疫学的調査…曝露量推定の困難さ疾患との因果と交絡要因

•動物実験…種間外挿、低用量外挿

②放射性物質や化学物質が実際にどのような影響を与えるのか

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 9

定量的リスク 分析の限界⑤

では、定量的リスク分析とどう向き合うか。

• 完全に「客観的」? • 多くの仮定 • 算出数値の暫定性 • 「立証」をいうのは避けるべき

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 10

受け入れ可能なリスク

定量的リスク分析のもう一つの限界。 技術の社会的受容はリスク・便益計算のみに基づいていない。

• あらゆる技術システムは事故を起こす可能性を持っている。

• どのような化学物質も人体に害をなす可能性がある。(e.g.DHMO)

• 1960sのアメリカ、チャレンジャー号や公害問題

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 11

DHMO 某危険物質。 これは受け入れ可能か? リンク

水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である。 温室効果を引き起こす。 重篤なやけどの原因となりうる。 地形の侵食を引き起こす。 多くの材料の腐食を進行させ、さび付かせる。 電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。 末期がん患者の悪性腫瘍から検出される。 その危険性に反して、DHMOは頻繁に用いられている。 工業用の溶媒、冷却材として用いられる。 原子力発電所で用いられる。 発泡スチロールの製造に用いられる。 防火剤として用いられる。 各種の残酷な動物実験に用いられる。 防虫剤の散布に用いられる。洗浄した後も産物はDHMOによる汚染状態のままである。 各種のジャンクフードや、その他の食品に添加されている。

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 12

*…例えば、便益が2倍でリスクが8倍

• リスクの許容可能性は便益の三乗に比例する(*)

1.

• 自発的に選択されたリスクは受動的に押し付け

られたリスクよりも1,000倍受け入れやすい

2.

許容可能性の 便益計算

C.スターの研究。 自動車・飛行機・喫煙・電力などの受け入れ可能なリスクはどこにあるのか。

2012/12/4 東大科学哲学ゼミ 13

スロヴィックの 二因子

恐ろしい dread

未知 unknown

制御不可能

カタストロフィ

リスク削減が困難

観察不可能

新しいリスク

科学的に未解明

素人のリスク認知のバイアスはどのようになっているのか。 センセーション性に相関、死亡者数に相関認められず。

非合理的?

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専門家の 認知バイアス

現在の科学的知識

への過信

ヒューマンエラー

の影響見落とし

技術システム全体

の予測失敗

慢性・累積的影響

への対応遅延

専門家にもリスク認知のバイアスはある。 リスクの過小評価、専門外分野での<素人バイアス>に気づけない。

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専門家と素人の調停

素人のリスク評価

主観的?

専門家のリスク評価

客観的?

民主モデル

社会的結合・安定性の直観

技術モデル

定量的分析

専門家と素人は「異なった問題」を解いているのだろうか。 フィオリノの考え方で差異と調停可能性を整理する。

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