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住まいのマーチャンダイジング 生活様式の変 住まいのマーチャン マーチャンダイジングプランナー 井上 電通営業企画室副理事 ★本稿は去る4月10日、神戸市三宮勤労会館で行われた住宅セミナーにおける講潰を要約し これからの住宅はどのようなスタイルが期待さ れるのだろうか。私なりに“望まれる住まいづく り”を描いてみました。 「大きいことはいいことだ」とか「より多く持 つことが豊かである」という考え方が永い間、私 たちを支配してきた。それによって自分がどのよ うな生活をするか、あるいはどんな生きがいを持 って生きるかについて、ろくに考えもしないで、 ひたすらモノをそろえることに努力を続けてきま した。つまり日本中が「他人に遅れていないモ ノ」を持ちたがり、できることなら「他人より早 く持ちたがる」傾向を示してきた。個人も家庭も すべて“人並みへの参加”に情熱を燃やしたので す。 この結果、日本の社会はすっかり「似たもの同 士」になり、本人らしさを失ったものばかりにな ってしまいました。 さらに“人並みへの参加”意識の結果のさばっ てきたのが“現代の らんです。例えば電機製 ミキサーといったたぐいを考 食生活を夢みて買い入れてはみ 使ったのはほんのわずかな期間で、 く物置でほこりをかぶっている有様です。 同じように、利用されないまま放置されてい ノがわれわれの周辺にあまりにも多い。 こうしたところがら、後になって大きな反省が 芽生え始めた。それは①どこまでモノを持てば満 足といえるか②持ったモノがすべて役に立ったか 一という二つの反省でした。そして“人並みへ の参加”の結果、すっかり本人らしさを失ってし まったことに気がついた。このような反省は一九 七〇年代に入ってから急速に高まってきたので す。 そこで、個人も社会も、まず人生にどのような 生きがいがあるかを考え、次にその生きがいを満 たすためには、どのような生活の仕方があるかを 考え、最後にその生活を満たすには道具として の、どのようなモノがあるかを考えなくてはなら ないことが分かってきました。 私は、生きがいのパターンの発想を第一次発 想、そして生きがいから出てくる生活のパターン の発想を第二次発想、さらにその生活に必要なモ ノのパターンの発想を第三次発想と呼んでいま す。 このような生活様式(ライフスタイル)からの モノの発想の方法をライフスタイル・マーチャン 一17一 一一 _ 一一

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Page 1: り”を描いてみました。 って生きるかについて、ろ …...になるかということを考えてみたいと思います。か、これからの住まいにはどのような設備が必要

住まいのマーチャンダイジング

生活様式の変化と

住まいのマーチャンダイジング

マーチャンダイジングプランナー

井上  優

   電通営業企画室副理事

★本稿は去る4月10日、神戸市三宮勤労会館で行われた住宅セミナーにおける講潰を要約したものです。

 これからの住宅はどのようなスタイルが期待さ

れるのだろうか。私なりに“望まれる住まいづく

り”を描いてみました。

 「大きいことはいいことだ」とか「より多く持

つことが豊かである」という考え方が永い間、私

たちを支配してきた。それによって自分がどのよ

うな生活をするか、あるいはどんな生きがいを持

って生きるかについて、ろくに考えもしないで、

ひたすらモノをそろえることに努力を続けてきま

した。つまり日本中が「他人に遅れていないモ

ノ」を持ちたがり、できることなら「他人より早

く持ちたがる」傾向を示してきた。個人も家庭も

すべて“人並みへの参加”に情熱を燃やしたので

す。 

この結果、日本の社会はすっかり「似たもの同

士」になり、本人らしさを失ったものばかりにな

ってしまいました。

 さらに“人並みへの参加”意識の結果のさばっ

てきたのが“現代の怪獣”と呼ばれるモノのはん

らんです。例えば電機製品のうち、ジューサー、

ミキサーといったたぐいを考えてほしい。素敵な

食生活を夢みて買い入れてはみたものの、実際に

使ったのはほんのわずかな期間で、あとはむなし

く物置でほこりをかぶっている有様です。これと

同じように、利用されないまま放置されているモ

ノがわれわれの周辺にあまりにも多い。

 こうしたところがら、後になって大きな反省が

芽生え始めた。それは①どこまでモノを持てば満

足といえるか②持ったモノがすべて役に立ったか

一という二つの反省でした。そして“人並みへ

の参加”の結果、すっかり本人らしさを失ってし

まったことに気がついた。このような反省は一九

七〇年代に入ってから急速に高まってきたので

す。 

そこで、個人も社会も、まず人生にどのような

生きがいがあるかを考え、次にその生きがいを満

たすためには、どのような生活の仕方があるかを

考え、最後にその生活を満たすには道具として

の、どのようなモノがあるかを考えなくてはなら

ないことが分かってきました。

 私は、生きがいのパターンの発想を第一次発

想、そして生きがいから出てくる生活のパターン

の発想を第二次発想、さらにその生活に必要なモ

ノのパターンの発想を第三次発想と呼んでいま

す。

 このような生活様式(ライフスタイル)からの

モノの発想の方法をライフスタイル・マーチャン

一17一

   一一  一 _一

  一一一 =一  一  一

Page 2: り”を描いてみました。 って生きるかについて、ろ …...になるかということを考えてみたいと思います。か、これからの住まいにはどのような設備が必要

ダイジングと名付けています。

 ライフスタイル・マーチャンダイジングの基本

は「人はそれぞれに生きがいを持っている。そこ

には生活の違いがあり、持つモノにも違いがあ

る」ということになります。

 しかし、現実に今の日本はモノでいっぱい、そ

してすべて個性をなくしています。

 街を歩いてみてもこのことが分かる。どの都市

もアイデンティティー(本人らしさ)を失い、あ

るものはミニ東京化した姿だけです。街のアイデ

ンティティーを取り戻す運動の必要な時代がきて

いると、つくづく思います。

 そこで街づくりの秘訣を考えると、次の三つが

あげられます。

 ▼祈りの空間 そこに住む人がいかに生きるか

を考え、それに合わせて各種の施設をつくること

が必要。その実情に応じて劇揚、美術館、図書館

などを設ける。

 ▼エキサイトの空間 人間が生きていることを

感動する空間。男は闘い、女は買うエキサイト。

男は競技揚や野球場、女は市揚に向かう。

 ▼憩いの空間 心と体の空間として憩いが必

要。市民が憩える公園、散歩道などがこれに当た

る。 

次に、これからどのような生活が育ってくる

か、これからの住まいにはどのような設備が必要

になるかということを考えてみたいと思います。

私は今までずっとマンションを渡り歩いてきま

したが、定年に近くなり、これ以上ローンを払い

続けることも困りますので、三年前にマンション

を売り、ローンの残りを返済し、たまたま東京の

ど真ん中に土地を持っていたので、建物だけをこ

しらえました。

 設計は東京工大の若い先生に頼んだのですが、

私はどのような生きがいで生きていくかを決め、

生活を十種類に分類し、だからどのような空間と

どのような空間とをおいて下さいねと注文をつけ

ました。この三十年やってきた方法で私は住まい

の計画をたてたのですから、きっとパーフェクト

なものができるだろうと思っていました。ところ

が、住んでみましたらとっても具合の悪い部分が

次々と出てきます。そういうことでとても都合が

いいということと具合が悪いということが、現代

の社会における生活の変化とも似ているなという

実感でここ三年ほど暮らしています。

 では、これからどのような生活が多くなってく

るか、そのためにどのような設備が必要になる

か、代表的なものを四つ説明したいと思います。

 一つは祈るという生活です。これから住まいを

お作りになるときには祈りの空間というものをど

こかにお作りになるべきだと思います。書斎がと

れないときにはライティング・ビューローが置け

るコーナー、あるいは思索ができる一角、何かそ

ういうふうなものを一つのポイントとして、マー

チャンダイジングのポイントとして、場合によっ

てはセールスポイントとして、「祈りの空間」と

いうものをおくべきだと思います。「祈りの空間」

がないと、何がはやるかということばかり追いか

けて、いかに生きるかということを考えないよう

な家族が育ってきますよ恐ろしいことですよ、と

いうことで「祈りの空間」というものを作りたい

と思います。

 二番めに、作るという生活がこれから増えてく

ると思います。このことについて、いろいろな人

にインタビューをしました。六十七歳のお医者さ

んで、私は働くだけ働いた、開業医として夜中も

起こされてやった、あとはサラリーマン医者にな

って自分でやりたいことをやりたい、と陶芸を始

めた方がいます。二十六歳の青年は、嫁さんもら

うたらできなくなることがある、だから嫁さんも

らうまでの間にやっておきたいことがあるといっ

て木工を始めて椅子を作っていました。また、二

十二歳の新婚早々の若い奥さんは、結婚しても私

の世界だけは残したいと言って、亭主が出るとす

ぐ掃除洗濯をすませて、機を織っていると言って

いました。また、エレクトロニクスのもう一つ次

の何かをやっている研究所の人は、私は生産技術

のことはやってきたけれども、生活技術というも

のを知らなかった、だから生活技術の何かの部分

をやってみたいと言って、十坪ほどのところで野

菜を作っている人がいました。何かの本で「裏

作」なんていう言葉がありましたが、自分の仕事

でないものを作るという生活をしたいということ

です。

 人間のホビーには二つあります。一つは集める

ということ、一つは作るということです。ホビー

というのは、だいたい暇と金とのバランスででき

一18一

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住まいのマーチャンダイジング

てくるわけですが、二本の社会は金もありません

でしたけれども、もっと暇のほうが無かったわけ

です。江戸時代から明治、大正にかけましては年

に二回型の休菱社会だったわけで、盆と正月だっ

たわけです。そのときには見せ物屋と食べ物屋が

ありました。その次に週一回型の休養社会が戦後

定着しまして、そのときには遊園地と電車とが産

業として出てきました。西武電車と豊島園、阪急

電車と宝塚、京成電車と谷津遊園というような形

で出てきました。その中に見せ物と食べ物があり

ました。その次に年複数型休養社会、これは連

休、ゴールデンウィーク、ですから家に帰らなく

てもすむような遠くに行けるということで、リゾ

ートの旅館、ホテルとモータリゼーションが発達

しました。その次に発達していったのが、日一回

型の休養社会です。アフター・ファイブ、夕方五

時以降は、スナックだとかサバi、ボーリング、

室内ゲームといったところへ行く。着るものにつ

きましてはラウンジウェアといったものが発達し

てきましたし、食べるものにつきましてはワイン

とかチーズとかアイスクリームとかいうものが発

達してきました。

 そしてついに週二回型の休養社会になったわけ

です。金もいくぶん増えたけれども、暇の方がも

っともっと増えたわけです。そうしますとどうい

う生活が出てくるかといいますと、我々子供の頃

はコレクションするということで、始めは切手を

集めたり千代紙を集めたり、そのうちに刀を集め

たり錦鯉を集めたりする人も出てくるわけです。

コレクションしている入へのほめ言葉というのは

まあ忙しいのにようここまで集めましたねという

ことですけれども、週二日も休みがありました

ら、暇にまかせてまあようここまで集めてと言っ

てもほめ言葉にはならないわけです。それよりも

週二目も刀を集めたりこけしを集めたりしていま

すと、あっという間に集まってしまってどうにも

ならなくなってしまうわけです。金の方が足りな

くなる。

 だから金はほとんどかからなくて暇ばかりかか

るようなホビーはないだろうかということで、結

局手作り、手作りだったらまずどこへ行くか、カ

ルチャrセンターということで、現在カルチャー

センターブームが起きています。

 目本人にとって、今までのホビーというのはほ

とんど消費するということ、消費の仕方がいかに

きれいかということが割合かっこいいことだった

わけです。 「汚なく儲けてきれいに使う」という

儒教的な武士道的な哲学もあったわけです。

 ところがヨーロッパの人たちはどうかといいま

すと、例えばミラノのドームは五百年かかってで

きました。よく考えてみたら、それを設計した人

も、あるいはそれをこしらえさせたお施主さんも

「五百年後にできますよ」ということを言われて

よく我慢したなと思います。豊臣秀吉が加藤清正

を呼んでニカ月のうちに作れという話は日本にも

ありまずけれども、五百年かかってもいいから作

れというような話を聞くと、日本人だったらこれ

が我慢できたろうかと思います。だから作るとい

うことの感動というものを持たなかったのです

が、金と暇のバランスから作り始めてみたらこん

なおもしろいものはないよというブームがいま起

き始めているわけです。

 作るということ、これは必要なことで、これか

らの住まいには作るという揚をこしらえておくべ

きです。そういう作るという場がない住まいとい

うのは】九八五年くらいから住みづらい住まいだ

よということになってくると思います。だからス

タジオがあります、ワークショップがありますと

いう住まいは、これから一つの生活ポイントにな

ってくると思います。

 三番めの生活は、今フランスで「コンビープ」

という言葉がはやっていますが、コンビープとい

うのは「一緒に食べる仲間」ということなので

す。一緒に食べる仲間という形で何かを作る、だ

からみんなが集まるということです。

 ソサエティというのは何かといいますと、一つ

の階層です。コミュニティというのは何だと言っ

たら、利害関係が一致する人々の集まり、だから

コミュニティを作らない限りもう生きていけな

い。いちばん代表的なコミュニティは地域コミュ

ニティです。同じ地域に住んでいるということは

利害が非常に大きく一致します。だからまずコミ

ュニティがあるわけです。その他に職域コミュニ

ティというのがあります。同じ職場にいるという

ことは利害が一致することが多いのでコミュニテ

ィがあります。その他に育ち始めているのに、趣

味コミュニティ、学校コミュニティ、といろいろ

一19一

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なコミュニティがこれから育ってきます。どこか

のコミュニティに属していない限りこれから生き

にくくなる。生物学的に生態学的に。エコロジカ

ルな社会という考え方が育ってきているのだと思

います。

 そうしますと、必ずそこで何か一緒に食べよう

というような行動が起きてくるわけです。そうい

う「コンビープ」というものをやり始めたら、‘ま

た煩わしくなって、 「京のぶぶづけ」のような文

化に次にはなると思いますけれども、今はあまり

にも他人同士になりました。そこで一緒に暮らし

た方が良さそうだということがわかってきて、生

態学的にミツバチのように群をなそうとし始めて

きたときに育ってくるのがコンビープです。です

からコンビービヤリテというフランスの一つのレ

ジャー活動の言葉として今はやっています。そう

いうようなものに関連するものがとても多くなり

ますよということです。

 私の家には若いお弟子さんたちがしょっちゅう

集まって、何かというと音楽会を開きましょう、

何々しましようという。私は食べるものを作るこ

とが好きですから自分用のまな板が欲しい、自分

用の庖丁が欲しいなんて言って、暇をみてはやっ

ているわけです。ですから住まいをこしらえます

ときに、私は建築家に台所を広めにこのくらいと

ってほしいと言いましたら、その建築家のお弟子

さんはデータを持ってきまして、 「家族が二人で

子供がいない家庭の台所の広さはこれです」と言

って、 「こんなものは広すぎます」と言われたわ

けです。私がどのような生きがいで生きて、どの

ような生活パターンを組み合わせて生きようとし

ているのかということを説明しても、これはナシ

ョナルの何々のキッチンのシステムのデータによ

りますとこうだし、ヤマハのシステムキッチンの

データによってもこういうふうなことだから、こ

れではちょっと広すぎますと言って、ばさっと削

られてしまいました。私が何十箇所となく建築家

と突き当たったときに、建築家がいつもいうこと

は「データによりますとこうです」ということ

で、そして最後に、 「素人さんはあんまりそうい

うことをおっしゃらないほうがいいです」という

ことになりました。

 なにかそのへんに問題があるようです。人それ

ぞれに人それぞれの生きがいがあるんだから、人

それぞれに人それぞれの生活の仕方があって、人

それぞれに人それぞれの生活の仕方があるのだか

ら、人それぞれに人それぞれの住宅のこしらえ方

があるんだということを考えるべきです。そのへ

んのところが皆さん方のこれから解決なさらなく

てはいけない問題といえるのだろうと思います。

 コンビープということは、お客さんを営んで一

緒に食べる場所ということではないわけです。庭

でペンキ塗りをしたからそこでバーベキューでも

やりましょう、何かしたのだからお寿司でもとっ

てそこでビールでも飲みましょう、という最後に

は食べたり飲んだりするという形でおさまりがっ

くという生活形態、それをコンビープという言い

方をするわけです。そのコンビープという生活形

態というのはこれからとてもたくさん出てくると

思います。ですからコンビープをするような空間

というものがないと、今年建てたときにはよかっ

たけれども、昭和六十年になったときに住み勝手

が悪いなということになります。

 三番めは省エネルギーということだと思いま

す。これは皆さん方のほうが進んでいると思いま

す。 

我が家をこしらえるとき、私の好きなローデン

ブルグの街の家のように、鉄、石、煉瓦の三階の

建物にしました。そうしましたら省エネルギーと

してとても効果の悪い建物になったわけです。省

エネルギーということが一九八○年代から九〇年

に生きる人間の全ての義務ですよ、これはこうい

うふうにして下さいと言いましたら、建築家に脅

かされました。ローデンブルグをとるか、省エネ

ルギーをとるか、どっちかだと。アマチュアとい

うのは矛盾があるわけです。そこをプロに頼むの

です。プロとは、アマチュアが矛盾すると思った

ものを一つに解決してくれる人のことをプロとい

うわけです。二つ解決しますとコスト高になりす

ぎて、これを深追い、悪追いといいます。ローデ

ンブルグ風の家にして、そして省エネルギーにし

てくれと言ったら、矛盾する、どちらか一つに選

ぶべきだということで脅かされたわけですけれど

も、それを解決してみせるのがプロだと思いま

す。 

以上、ライフ・スタイルを研究する立場として

考えるのは、これからの住宅は、一つは祈りの空

一20一

Page 5: り”を描いてみました。 って生きるかについて、ろ …...になるかということを考えてみたいと思います。か、これからの住まいにはどのような設備が必要

住まいのマーチャンダイジング

間、一つは作るという空間、もう一つはコンビー

プするという空間、もう一つは省エネルギーとい

う条件が解決されていなくてはいけないだろうと

いうことです。

 皆さん方が、このような欲求を満たしたいと思

う生活をする住まいをA型といい、このような欲

求を満たしたい人の住まいはB型といい、だから

この家ではこのような生活ができますよというも

のをこしらえる。だからこのような部屋があり、

このような設備がありますよという形のマーチャ

ンダイジングで、A型、B型、C型、D型くらい

の形のマーチャンダイジングのコンセプトをこし

らえて、一軒一軒違った形のものがあったらいい

のだろうと思います。こういつた形の開発の研究

がこれから進んでこない限り、すべてのことがで

きるんだけれども、その反面、すべてのことが中

途半端になるという形の住まいになっていくのだ

ろうと思います。

 最後に、サブカルチャーということで申し上げ

ます。サブカルチャーというのは、メインカルチ

ャーについてサブカルチャーですから、建築学、

医学、文学、経営学、経済学といったものがトラ

ディショナルなカルチャーだとしましたら、ジャ

ズです、何とかです、という形のものがサブカル

チャーだと思います。そういった生活構造がとて

も多くなります。どのような生活構造のサブカル

チャーに今憧れているか、年齢別に言いますと、

十代の人は一番がスポーツで、スケボーがはやれ

ばスケボー、スキーがはやればスキー、二番めが

ファッションで白いソックスがはやれば白いソッ

クス、三番めが音楽です。 「ポールが捕まったん

だってね」「どこの犬」なんて言ったら仲間に入

れてもらえなくなるわけです。そういった十代の

子供たちがいるときには、そのサブカルチャーが

展開されるファミリーの生活構造があるだろうと

思います。

 二十代の人たちは一番めは芸術、芸事、習い事

です。二番めは料理、アンデルセンに行きました

か、行きました、コルサに行きましたか、行きま

した。三番めが旅行です。京都に行きましたか、

行きました、津和野に行きましたか、行きまし

た、鎌倉に行きましたか、今度の休みに行きます

というようなことです。

 三十代になりますとどういうサブカルチャーに

憧れているかといいますと、ビジネス、これは経

営です。二番めはなぜか語学です。ガールフレン

ドとホテルのロビーで外人さんに道を開かれた僕

はおたおたしていたけれども、彼女はスラスラと

答えた、今年こそは英会話をやるんだといってお

正月にNHKのテキストを買ったのだけれども、

まだ一度も開けていないという三十代もいるはず

です。三番めはホームメイキングです、家を作っ

ていくこと。

 四十代になりますと一番めが政治経済、二番め

が表現です。結婚式に招ばれてもスピーチをしな

くてはいけないような機会も多くなってくること

ですし、会社でも朝の挨拶をさせられたりするこ

とがある、うまい具合にしゃべれたらいいのにな

ということです。昔は字を書けばよかったので四

十の手習いといったわけですが、今でもそうで

す。三番めは健康です。だから身体を鍛えるとい

うサブカルチャーの世代層だと思います。

 五十代になりますと、一番めが芸術、芸事、習

い事です。あわよくば老後対策になりはしない

か。二番めが料理、三番めが自然です。盆栽をや

ったり、バードウオッチングをしたり、アラスカ

に行ってシャケを釣ったりというふうなサブカル

チャーがファミリーの中で行なわれます。

 そういったものが行なわれるのですけれども、

その中に選択があるわけです。

 あなたはどのような家に住みたいかというと、

この中のどの生活行動をとりたいからですね、そ

れはこのような生きがいで生きたいからですねと

いう形、そういったことのライフ・スタイルとい

うものの研究によって、住まいのマーチャンダイ

ジングというものが行なわれなくてはいけないの

だろうと思います。

 もう一度申しますと、住む者の立場としてやっ

ていただきたいことというのは、人それぞれに人

それぞれの生きがいがあるのだから、人それぞれ

の生活の仕方があって、人それぞれに人それぞれ

の生活の仕方があるのだから、人それぞれの住ま

いの設備が欲しいのだと、使う側の人たちがそう

思い始めているのだから、これはデータによると

便利ですよというような押しつけをなさらない、

家のマーチャンダイジングというのをやっていた

だけたらと思います。

一21一