a lc/ms を用いたメタボリック・プロファイリング …application note no....

8
Application Note No. *1 九州大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 メタボリック・プロファイリンググループ *2 九州大学 大学院農学研究院 *3 九州大学 バイオアーキテクチャーセンター *4 ㈱島津製作所 分析計測事業部 グローバルアプリケーション開発センター 1 LAAN-C-XX033 LC/MS を用いたメタボリック・プロファイリング法の応用 — 農産物の生体調節機能の評価 — Application of LC/MS-based Metabolic Profiling Evaluation of Health-promoting Function of Agricultural Products ライフサイエンス 32 LifeScience 1. はじめに メタボリック・プロファイリング法は,生体内の代謝物を網 羅的に測定するメタボローム解析(メタボロミクス)技術の 一つで,複数のサンプル間の代謝物パターン(プロファイル) の類似性や相違性を見出すことができるため,医薬品分野に おいて,バイオマーカー探索や病因解析,薬効・毒性評価な どへの応用が進められています。また,近年では食品(農林 水産物)の品質管理・鑑定・予測やそれら要因解析の新たな 手法として,食品中の低分子量成分(代謝物)を標的とした プロファイリング解析が試みられています。 食品機能性(三次機能:生体調節機能)研究分野では,食品 のどのような成分・複合成分パターンが生体調節機能に関与 するかを高精度に捉える科学的評価法が模索されています。 メタボリック・プロファイリング法は,複数サンプルの多彩 な成分プロファイルを同時に把握できるため,機能性評価の 有用な解析ツールとなりえることが期待されますが,現在の ところ,食品機能性研究への応用はほとんどなされていませ ん。 そこで本稿では,比較的幅広い代謝物の測定で汎用されてい る液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いたメ タボリック・プロファイリング解析によって,農産物の様々 な品種の成分プロファイルを取得し,機能性を有する品種の 識別化や機能性予測モデルの構築,さらには機能性関与成分 や共存成分バランスの解明を試みた研究例をご紹介します 1) 藤村由紀 *1 三浦大典 *1 割石博之 *1-3 谷川哲雄 *4 立花宏文 *1-3

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Page 1: A LC/MS を用いたメタボリック・プロファイリング …Application Note No. メタボロミクス(メタボリック・プロファイリング)は,化 学的性質が異なる様々な分子種(糖,アミノ酸,有機酸,脂

ApplicationNote

No.

*1 九州大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 メタボリック・プロファイリンググループ *2 九州大学 大学院農学研究院*3 九州大学 バイオアーキテクチャーセンター*4 ㈱島津製作所 分析計測事業部 グローバルアプリケーション開発センター

1

LAAN-C-XX033

LC/MS を用いたメタボリック・プロファイリング法の応用— 農産物の生体調節機能の評価 —Application of LC/MS-based Metabolic Profiling Evaluation of Health-promoting Function of Agricultural Products

ライフサイエンス

32

LifeScience

1. はじめにメタボリック・プロファイリング法は,生体内の代謝物を網

羅的に測定するメタボローム解析(メタボロミクス)技術の

一つで,複数のサンプル間の代謝物パターン(プロファイル)

の類似性や相違性を見出すことができるため,医薬品分野に

おいて,バイオマーカー探索や病因解析,薬効・毒性評価な

どへの応用が進められています。また,近年では食品(農林

水産物)の品質管理・鑑定・予測やそれら要因解析の新たな

手法として,食品中の低分子量成分(代謝物)を標的とした

プロファイリング解析が試みられています。

食品機能性(三次機能:生体調節機能)研究分野では,食品

のどのような成分・複合成分パターンが生体調節機能に関与

するかを高精度に捉える科学的評価法が模索されています。

メタボリック・プロファイリング法は,複数サンプルの多彩

な成分プロファイルを同時に把握できるため,機能性評価の

有用な解析ツールとなりえることが期待されますが,現在の

ところ,食品機能性研究への応用はほとんどなされていませ

ん。

そこで本稿では,比較的幅広い代謝物の測定で汎用されてい

る液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いたメ

タボリック・プロファイリング解析によって,農産物の様々

な品種の成分プロファイルを取得し,機能性を有する品種の

識別化や機能性予測モデルの構築,さらには機能性関与成分

や共存成分バランスの解明を試みた研究例をご紹介します 1)。

藤村由紀 *1 三浦大典 *1 割石博之 *1-3 谷川哲雄 *4 立花宏文 *1-3

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ApplicationNote

No.

メタボロミクス(メタボリック・プロファイリング)は,化

学的性質が異なる様々な分子種(糖,アミノ酸,有機酸,脂

質など)の同時計測が可能な技術であるため,多彩な共存成

分の複雑な動きを特徴とする食品の性質を包括的に捉えるた

めには極めて有効な手段であり,理論的には,既存の食品機

能性評価法で汎用される単一成分評価法と比べて遥かに多く

の有用情報を得ることができます。すなわち,食品が有する

機能性とその多彩な成分プロファイル間の相関関係を計量化

学的アプローチにより導出することで,食品機能性研究で求

められる,1)機能性を有する食品素材の発掘,2)食品中

の機能性成分の同定(直接的な機能性因子や間接的な機能性

賦活因子など),3)機能性を享受できる食品の活用法の発見

(食べ合わせや機能性成分の組合せ)などを個別にまたは同時

に行うことを可能にします(図 1)。

2. 食品機能性研究におけるメタボロミクス技術の有用性と着眼点

代謝物の網羅的な分析には,種々のクロマトグラフィーによ

る分離(ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー)

と質量分析による検出とを組合せた分析法が有力なツールと

して用いられており,なかでも液体クロマトグラフィー質量

分析法(LC/MS)は,不揮発性化合物や低極性から高極性ま

での幅広い代謝物に適用できる特徴があります。LC/MS が分

析対象とするアミノ酸,有機酸,糖などの高極性代謝物やポ

リフェノール類などの二次代謝物は,食品(農林水産物)中

の機能性成分探索の極めて有用なターゲットとして注目され

ています。島津高速液体クロマトグラフ質量分析計 “LCMS-IT-

TOF” は,高速スキャンと高速極性切替による分析が可能で,

超高速 LC に適した MS であり,島津超高速 LC“Prominence

UFLC” とこれら MS との組合せは,大量の試料を扱うメタボ

ローム解析に適したシステムとなります。さらに,LCMS-IT-

TOF では MSn 分析を用いた精密質量測定により,高精度な組

成推定および部分構造情報の取得が可能となるため,プロファ

イリングやマーカー探索とともに,未知代謝物の化合物情報

を得るのに有効な装置です。

3. 食品を対象とした LC/MS によるメタボローム解析

図1 食品機能性研究の問題点とその解決法

機能性(生体調節機能)を有する食品素材を見つけること 食品中の機能性成分を見つけること 機能性を享受できる食品(成分)の活用法を見つけること

食品の機能性研究に必要なこと

メタボロミクス

現在の問題点:既存の機能性評価法の多くは単一成分評価系(食品は複合成分系なので単一系では対応しきれない)

複雑な挙動を捉えるためには複合成分評価技術が必要!

(糖・アミノ酸・有機酸等、物性の異なる多様な分子種を対象)食品中の複雑な成分の状態を捉え、今、何が起こっているかを 正確に捉えるためにはメタボリック・プロファイリング法が有効!

生体調節機能の発現

複合成分食品

食品成分の有効性や安全性の理解には共存成分パターン情報が必須

2

32

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トロンビン

トロンビン受容体

細胞膜

Ca 2+

MRLC

MRLC

MLCK

(不活性型)

MLCP

P

(活性型)

抑制活性 (%) 品種 品種機能性ランク 抑制活性 (%)

322104.8

14.3 423

青心大ぱん 75.8 9.6

625みなみかおり 67.6

7.1 524

ふうしゅん 74.4 8.4

726たまみどり 66.0

5.5 827

やまとみどり 65.5 1.0

9 30さやまみどり 62.3

-4.4928

べにほまれ 64.2 -4.1

60.8

221べにふうきはつもみじ

おくゆたかふくみどり

とよか印雑 131 こまかげ

りょうふう 14.4

機能性ランク

サンルージュ

緑茶の42品種の生体調節機能(血管内皮機能改善効果)

リン酸化抑制

細胞骨格の再編(内皮透過性上昇)MLCP : ミオシン軽鎖ホスファターゼMLCK : ミオシン軽鎖キナーゼ

pMRLC

MRLC

トロンビン - + + +

やぶきた

サンルージュ

未添加

かなやみどり 27.9

9 301301

あさぎり 60.8-13.9

2311さみどり 52.3

-24.5

6351やえほ 40.3

-34.8

3321くりたわせ 45.4

-31.3

5341べにひかり 42.0

-33.8

8371するがわせ 38.2

-42.3

4331しゅんめい 43.2

-32.6

0491大葉烏龍 32.6

-49.2

7361いずみ 39.4

-41.0

9381べにふじ 37.1

-46.8

1402青心烏龍 29.5

-85.4 2412

みねかおり 28.3 -112.6

うじひかりやぶきたほくめい

あさつゆ

さえみどり

みなみさやか

ごこう

あさひ

おおいわせ

さやまかおり

ゆたかみどり

おくみどりめいりょく (サンルージュによりMRLC*のリン酸化が抑制)

*:ミオシン調節軽鎖

ヒト臍帯静脈内皮細胞におけるトロンビン誘導性MRLCリン酸化に及ぼす影響

ストレスなど血管

内皮細胞平滑筋細胞

血管の損傷・病変

血管内皮障害 トロンビン

トロンビン受容体

トロンビン刺激亢進

循環器系疾患の発症

・ 動脈硬化症・ 高血圧症

・ 心筋梗塞・ ・ ・ など

内皮機能障害

炎症細胞の浸潤

内皮透過性上昇

4. LC/MS を用いた緑茶品種のメタボリック・プロファイリング解析

世界中で広く愛飲されている茶(Camellia Sinensis L.)には

多彩な生体調節機能が報告されており,日本で流通・消費さ

れている緑茶の約 80% は “ やぶきた ” と呼ばれる単一品種が

占めています。しかしながら,“ やぶきた ” 以外にも様々な特

性を有する緑茶品種が存在しており,これらの特性(今回は,

成分プロファイル情報と生体調節機能との相関関係)を把握

するため,生体調節機能(血管内皮機能改善効果:MRLC リ

ン酸化抑制活性 , 図 2)の異なる代表的な緑茶品種(42 種類)

から分析試料を調製し,Prominence UFLC/LCMS-IT-TOF を用

いて測定しました。得られた測定データを多変量統計解析(主

成分分析 / 判別分析 / 回帰分析)に供し,品種間の成分プロ

ファイル(共存成分バランス)の違いを明らかにするとともに,

機能性予測モデルの構築やその機能性関与成分の同定に成功

しました。

4. 1 概要

図 2 生体調節機能(血管内皮機能改善効果)

超高速液体クロマトグラフ “Prominence UFLC”高速液体クロマトグラフ - イオントラップ - 飛行時間型質量分析計 “LCMS-IT-TOF”<特長>

 高速高分離によるハイスループット分析

 高いスキャン感度

 高精度 MSn 分析による未知代謝物の化合物情報を取得

3LC/MS を用いたメタボリック・プロファイリング法の応用 — 農産物の生体調節機能の評価 —

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ApplicationNote

No.

装置 Prominence UFLC, LCMS-IT-TOF[LC 条件]

カラム Luna 5u C18(2) 100A (250 mm L. × 1.0 mm I.D., 5 µm)移動相 A 0.05% ギ酸水溶液移動相 B 0.05% ギ酸 / 99.95% メタノールグラジエントプログラム B 濃度 5% (0-2 min) – B 60% (7.5 min) – B100% (17-23 min)

– B 5% (24 min) – STOP (30 min)流量 0.1 mL/minカラム温度 40℃

[MS 条件]イオン化モード ESI (+)測定範囲 m/z 70 - 700CDL 温度 200℃HB 温度 200℃

表 1 LC/MS 分析条件

4. 2 実験

(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所内

で栽培された 42 品種の緑茶葉微粉末(一番茶 , 荒茶)200

mg を 10 mL の 100℃熱水で 10 分間抽出後,遠心濾過した

上澄みを原液サンプルとしました。各種緑茶葉熱水抽出物

を水で 10 倍希釈後,0.22 µm PTFE フィルターにてろ過し,

Prominence UFLC/LCMS-IT-TOF に供しました(分析条件は

表 1 を参照ください)。

4. 2. 1 試料および測定

データ処理には,ピーク抽出ソフトウェア Profiling Solution

Ver.1.1 (LCMS-8040,LCMS-8030,LCMS-2020,GCMS-

QP2010 シリーズなどにも対応)を用いて,MS 分析の結果

から得られたピークを自動検出し,各ピーク面積値を用いて

ピークリストを作成しました。本ソフトウェアは,フィルタ

リング機能やノーマライズなどの各種演算機能によって多変

量解析のデータ前処理を行うことができます。また,デー

タ間で保持時間調整を行いピークのズレの補正が可能です。

さらに,興味対象のピークについて,各データファイルの

クロマトグラムやマススペクトルを一覧表示することがで

きます。取得したピークリストは,統計計算ソフトウェア

SIMCA-P+ Ver.12(Umetrics 社)に供し,多変量解析を行い

ました。

4. 2. 2 データ解析

Profiling Solution によるピークリストの作成

統計計算ソフトウェアによる多変量解析

4

32

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図 3 LCMS による緑茶品種の主成分分析(PCA)

4. 3 結果

図 3 に LC/MS で検出された 42 品種の代謝物のピークリスト

を用いて,主成分分析(PCA)を行った結果(スコアプロット)

を示しました。各品種の代謝物プロファイルの相対的な関係

を見ますと,品種により異なる分布(プロファイル)を示し,

特に,日本の代表的緑茶品種で血管内皮機能改善効果がない

“ やぶきた ” や中程度の効果を示す “ べにふうき ” を含む大き

な集団と最も高い効果を示す品種である “ サンルージュ ” に

わかれました。この結果は,両グループ間で明らかに代謝物

プロファイル(共存成分バランス)が異なっていることを示

唆しています。

4. 3. 1 主成分分析による緑茶品種の代謝物プロファイルの概要

主成分分析の結果から,各品種の生体調節機能と代謝物プ

ロファイルとの間に何らかの関係性があることがわかった

ため,効果の異なる代表的な 3 品種(やぶきた,べにふう

き,サンルージュ)を用いて,サンプル間の違いを見出す

こ と が で き る 判 別 分 析(OPLS-DA) を 行 い ま し た( 図 4)。

その結果,“ やぶきたとサンルージュ ” および “ べにふうきとサ

ンルージュ ” のそれぞれの比較において有意に判別可能なモデ

ルが作成でき(図 4a, c),両品種間の違い(機能性の違い)に

寄与する代謝物ピークを抽出することができました(図 4b, d)。

4. 3. 2 機能性の異なる2品種の判別分析による機能性関与成分の抽出

5000

10000

15000

%)

4

3

5

212

37

42

14

1624

22

33

- 10000

- 5000PC2 (10.4%

0

19

25

17

20

13

715

3

18

119

3234

21

6

36

27

14

30

40

38

28

10

35

33

2641

39

- 15000

PC1 (20.2%)- 25000- 20000- 15000- 10000 - 5000 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000

8

29

C ( 0 %)

サンルージュ

べにふうき 23

31やぶきた

1

数字:各品種の機能性ランク

5LC/MS を用いたメタボリック・プロファイリング法の応用 — 農産物の生体調節機能の評価 —

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ApplicationNote

No.

主成分分析や判別分析の結果から,品種間の違いにポリフェ

ノールが関与する可能性が考えられたため,機能性の高い

“ サンルージュ ” をポリフェノール除去剤である PVPP(ポ

リビニルポリピロリドン)で処理したところ,その機能性が

消失しました。そこで,その除去された成分(図 5a, b),す

なわち,“ サンルージュ ” の機能性関与成分を見出すため,

PVPP 処理した “ サンルージュ ” と未処理のサンプル間で判

別分析を行った結果,機能性に関与する代謝物ピークを抽出

することができました(図 5c, d)。

4. 3. 3 機能性に寄与するポリフェノール関連成分の抽出

図 5 判別分析による機能性に寄与するポリフェノール関連成分の抽出

図 4 機能性の異なる品種の判別分析(OPLS-DA)

5000

10000

15000

1] 0.20.40.60.81.0

-15000

-10000

-5000

0

-60000 -40000 -20000 0 20000 40000 60000

to[1

t[1]

-1.0-0.8-0.6-0.4-0.2-0.0

-0.20 -0.10 0.00 0.10 0.20

p(corr)[1]

w[1]

-30000

-20000

-10000

0

10000

20000

-50000 -30000 -10000 0 10000 30000 50000

to[1]

-1.0-0.8-0.6-0.4-0.2-0.00.20.40.60.81.0

-0.20 -0.10 -0.00 0.10 0.20 0.30

p(corr)[1]

t[1] w[1]

スコアプロットで品種間の分離に寄与する成分

スコアプロットで品種間の分離に寄与する成分

サンルージュ>やぶきた

サンルージュ>べにふうき

べにふうき>サンルージュ

やぶきた>サンルージュサンルージュ やぶきた

べにふうき サンルージュ

機能性ランク: サンルージュ > べにふうき > やぶきた

a)スコアプロット b)ローディングプロット(S-plot)

c)スコアプロット d) ローディングプロット(S-plot)

6

32

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図 7 機能性予測モデル

判別分析で得られた機能性関与成分を更に絞り込むため,図

4 の結果で品種間の違いにより強く寄与する代謝物ピークの

うち,“ やぶきた ” よりも “ サンルージュ ” に多く,かつ,“ べ

にふうき ” よりも “ サンルージュ ” に多いピークを抽出した

ところ,そのピークの約 87.5% が図 5 に示した機能性に寄与

するポリフェノール関連ピークと一致していました(図 6)。

この結果は,従来のように機能性関与成分を絞り込むために,

成分の分画・精製やバイオアッセイを繰り返して行う必要は

なく,LC/MS で得られたサンプルの成分プロファイル情報を

多変量解析に供することで極めて容易にかつ効率的に機能性

関与成分を絞り込むことができる可能性を示唆しています。

4. 3. 4 異なる判別分析の組合せによる機能性関与成分の絞り込み

LC/MS によって得られた全品種の成分プロファイル情報を

用いて,緑茶品種の機能性をより客観的に表現するために,

用いる変数情報が多い場合に有用な多変量解析手法である

OPLS 回帰分析を行いました(図 7)。その結果,OPLS によっ

て機能性の予測値と実測値の関係のプロットが得られまし

た。予測残差(予測値と実測値のズレの程度)は 6.8 であり(機

能性の全変動値の 3.1% 程度),これは緑茶品種の機能性を客

観的に評価(予測)できる可能性があることを示しています。

4. 3. 5 回帰分析による機能性予測モデルの構築

図 6 機能性関与成分の絞り込み

判別分析の組合せでピックアップ

バイオアッセイからピックアップ

や ぶきたより多いピーク

べにふうきより多いピーク

サンルージュ > やぶきた X サンルージュ > べにふうき サンルージュ

PVPP未処理 > PVPP処理

14 32 5

X

4 28 37

X X の87.5%がバイオアッセイ由来ピークと重複

判別分析の組合せは関与成分の絞り込みに有効な可能性あり

予測残差 = 6.8 (予測値と実測値のズレの程度)

120100806040200-20-40-60-80-100-120

1925

1720 13

47

15

35

18

211128

9

21

6

27

1416 10

24 2226 23

1数字: 各品種の機能性ランク

-120 -100 - 80 - 60 - 40 - 20 0 20 40 60 80 100 120

25

3234

37

42

36

2730

40 38

2829

3533

41

3931

23

機能性の実測値

R 2 = 0.981(機能性の98%の変動を説明)Q2 = 0.891(機能性の全変動の89%を予測)

機能性の予測値

7LC/MS を用いたメタボリック・プロファイリング法の応用 — 農産物の生体調節機能の評価 —

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ApplicationNote

No.

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                                                           © Shimadzu Corporation, 2012

分析計測事業部 http://www.an.shimadzu.co.jp/

1) Fujimura Y, Kurihara K, Ida M, Kosaka R, Miura D, Wariishi H, Maeda-Yamamoto M, Nesumi A, Saito T, Kanda T, Yamada K,

Tachibana H. Metabolomics-driven nutraceutical evaluation of diverse green tea cultivars. PLoS One. 2011, 6(8), e23426.

本研究を行うにあたり,様々な緑茶品種を提供して頂きました(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所の山本万里

博士に感謝申し上げます。

[引用文献]

[謝辞]

機能性予測モデルの形成に寄与する成分,および主成分分析

(図 3)や判別分析(図 6)で機能性に寄与する成分のなかで,

単独では機能性を示さないものの , “ やぶきた ” に加えること

で新たに機能性を付与できる(“ やぶきた ” に少ない)成分

がいくつも存在することがわかりました。図 8 に示すように,

化合物の添加により相対値(MRLC リン酸化比率)が低くな

るほど機能性が高くなります。このようにプロファイリング

解析は,従来法では得ることのできない思いがけないユニー

クな知識発見にも威力を発揮します。

4. 3. 6 “ やぶきた ” と同定化合物の組合せによる機能性の顕在化(組合せ効果)

本稿では,食品機能性研究を志向したメタボリック・プロファ

イリング解析の応用例として,緑茶品種の生体調節機能の評

価についてご紹介しました。LC/MS を用いたプロファイリン

グ法が数十種類の緑茶品種の機能性評価(機能性品種の識別

化や機能性予測モデルの構築/機能性関与成分や共存成分バ

ランスの解明など)に極めて有効であることが明らかとなり

ました。このような知見は,機能性を付与した新たな品種開

発や既存品種の有用性発掘に大いに役立つことが期待されま

す。また,試料中の複数成分間の相関関係を捉える本法は,

食品機能性の理解に不可欠な成分間/食品間相互作用に関す

る基礎情報の取得を可能にし,機能性成分を活用した食品開

発や食品の食べ合わせなどに役立つ新たな科学的根拠の創出

に寄与することでしょう。

5. まとめ

図 8 機能性付与成分の同定

低い

%)

高い

相対

値(

32

初版発行:2012 年 10 月

3218-08202-20A-IK