Ⅰ 本事業の概要及び評価と展望- 9 - Ⅰ 本事業の概要及び評価と展望...

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- 9 - Ⅰ 本事業の概要及び評価と展望 特定非営利活動法人 日本肢体不自由教育研究会 理事長 西川 公司 1 本事業の概要 (1)本事業の目的 近年、障害児保育を実施している保育所や幼稚園は増加傾向にあり、こうした保育所や 幼稚園に入所・就園して保育や教育を受けている発達障害児をはじめとした障害児の数は 増加しつつあります。しかし、障害児の保育に携わっている保育者の多くが、「気になる子 ども」を含む発達障害児などの障害児への対応や、保護者や家族への支援の内容・方法が よく分からないために、こうした子どもの保育に苦慮しているのが現状です。 特に、平成 23 年 3 月 11 日に起こった東日本大震災によって被災した東北 3 県(岩手県、 宮城県、福島県)の保育所・幼稚園では、震災後、非日常の空間に置かれ、状況の変化に 順応できず、周囲の人々に言動を理解されにくいために、身体的・精神的にストレスを抱 えている発達障害児とその保護者や家族の精神的ケアが大きな課題となっています。 そこで、当財団では、独立行政法人福祉医療機構の助成を受け、保育者及び保護者の専 門的知識の向上を図るとともに、両者の良好なコミュニケーションを構築しながら、保育 者と保護者の心の負担の軽減を図ることなどを目的に、被災地 3 県の保育所・幼稚園の障 害児担当保育者及び発達障害児等を抱えている保護者を対象に、障害児保育に必要な知識・ 技術を身に付ける専門家による研修会を開催することとしました。また、身体的・精神的 ストレスを抱えている発達障害児及びその保護者と家族に対する心のケアを行ったり、障 害のない子どもたちや地域住民に発達障害児に対する理解や支援の必要性についての理解 啓発を図ったりするため、「絵本の読み聞かせ会」も併せて実施することとしました。 (2)事業の概要 被災地 3 県(岩手県、宮城県、福島県)の社会福祉法人等と連携・協働して、保育所・ 幼稚園の障害児担当保育者や、「気になる子ども」を含む発達障害児などの保護者とその家 族を対象に、以下の支援事業を行います。 ア 保育所・幼稚園の障害児担当保育者及び保護者に対する支援事業 <「子育て支援研修会」の実施> ①内容… 保育所・幼稚園の障害児保育担当者や、子育てに不安を感じている保護者 等を対象に、「気になる子ども」を含む発達障害児などの早期発見・早期支 援の必要性や、障害児保育の実践に必要な知識や技術を指導する。 ②開催回数・日数…各地域 3 回、各 1 日

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Page 1: Ⅰ 本事業の概要及び評価と展望- 9 - Ⅰ 本事業の概要及び評価と展望 特定非営利活動法人 日本肢体不自由教育研究会 理事長 西川 公司

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Ⅰ本事業の概要及び評価と展望

特定非営利活動法人日本肢体不自由教育研究会

理事長 西川 公司

1 本事業の概要

(1)本事業の目的

近年、障害児保育を実施している保育所や幼稚園は増加傾向にあり、こうした保育所や

幼稚園に入所・就園して保育や教育を受けている発達障害児をはじめとした障害児の数は

増加しつつあります。しかし、障害児の保育に携わっている保育者の多くが、「気になる子

ども」を含む発達障害児などの障害児への対応や、保護者や家族への支援の内容・方法が

よく分からないために、こうした子どもの保育に苦慮しているのが現状です。

特に、平成 23 年 3 月 11 日に起こった東日本大震災によって被災した東北 3 県(岩手県、

宮城県、福島県)の保育所・幼稚園では、震災後、非日常の空間に置かれ、状況の変化に

順応できず、周囲の人々に言動を理解されにくいために、身体的・精神的にストレスを抱

えている発達障害児とその保護者や家族の精神的ケアが大きな課題となっています。

そこで、当財団では、独立行政法人福祉医療機構の助成を受け、保育者及び保護者の専

門的知識の向上を図るとともに、両者の良好なコミュニケーションを構築しながら、保育

者と保護者の心の負担の軽減を図ることなどを目的に、被災地 3 県の保育所・幼稚園の障

害児担当保育者及び発達障害児等を抱えている保護者を対象に、障害児保育に必要な知識・

技術を身に付ける専門家による研修会を開催することとしました。また、身体的・精神的

ストレスを抱えている発達障害児及びその保護者と家族に対する心のケアを行ったり、障

害のない子どもたちや地域住民に発達障害児に対する理解や支援の必要性についての理解

啓発を図ったりするため、「絵本の読み聞かせ会」も併せて実施することとしました。

(2)事業の概要

被災地 3 県(岩手県、宮城県、福島県)の社会福祉法人等と連携・協働して、保育所・

幼稚園の障害児担当保育者や、「気になる子ども」を含む発達障害児などの保護者とその家

族を対象に、以下の支援事業を行います。

ア保育所・幼稚園の障害児担当保育者及び保護者に対する支援事業

<「子育て支援研修会」の実施>

①内容…保育所・幼稚園の障害児保育担当者や、子育てに不安を感じている保護者

等を対象に、「気になる子ども」を含む発達障害児などの早期発見・早期支

援の必要性や、障害児保育の実践に必要な知識や技術を指導する。

②開催回数・日数…各地域 3 回、各 1 日

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③参加対象…保育所・幼稚園等の障害児担当保育者、保護者等

イ身体的・精神的にストレスを抱えている発達障害児を含む子ども及びその保護者と家

族に対する支援事業

<「子育て支援ふれあいイベント」の実施>

①内容…東日本大震災により身体的・精神的ストレスを抱えた子どもたち及びその保

護者と家族に対する心のケアを行うとともに、発達障害児に対する理解や

支援の必要性を啓発するため、「子育て支援ふれあいイベント」を開催する。

イベントの内容は、おとぎ話を大型スクリーンで楽しんでいただく「お楽

しみおとぎ話の世界」と、おとぎ話の映像に合わせて声優がその場で子ど

もたちに語りかける「読み聞かせの会」を実施する。また、会場に流れる

音を子どもたちが当てる「音当てゲーム」についても、読み聞かせの会の

中で同時に実施する。

②開催回数・日数…各地域 1 回、各 1 日

③参加対象…保育所・幼稚園等の園児及びその家族

ウ事業成果の普及…全国及び事業実施地域における事業成果の普及

①全国…当財団のホームページに本事業の成果報告を掲載

②地域…事業実施地域における事業内容をまとめた事業報告及び障害児担当保育者向

けの気になる子どもへの支援ガイドなどを内容とした事業成果報告書を作

成(A4 判 176 ページ)し、指定地域 3 県の保育所・幼稚園及び事業実施

地域内の関係機関に配布(2,500 部)する。

なお、本事業の実施に当たっては、指定地域における事業実施内容についての分析・評

価等を行う中央評価委員(医療・福祉・教育・心理等の専門家 5 名)を委嘱し、年 2 回中

央評価委員会を開催するとともに、中央評価委員 3 名が「子育て支援研修会」の講師を兼

ねて現地を視察し、指定地域の事業内容等について指導・助言を行うこととします。

2 本事業の評価と展望

本事業では、東日本大震災によって被災した岩手県、宮城県、福島県の 3 県における保

育所・幼稚園の障害児担当保育者や、これらの保育所・幼稚園に入所・在園している幼児

(「気になる子ども」を含む発達障害児等)とその保護者や家族を対象に、「子育て支援研修

会」と「子育て支援ふれあいイベント」を実施しました。

ア「子育て支援研修会」の評価

「子育て支援研修会」は、指定地域にある岩手県花巻市〔花巻市交流会館〕、宮城県仙台

市〔泉チェリー保育園〕(1 回目)、宮城県仙台市〔のびすく泉中央〕(2 回目・3 回目)及

び福島県伊達市〔梁川保育園〕を会場に、各地域で年 3回実施しました。

講師には、本事業の中央評価委員である當島茂登氏(鎌倉女子大学児童学部教授、講演

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テーマ「気になる子どもへの感覚運動あそびによる支援法~ムーブメント教育・療法を中

心に~」)、橋本正巳氏(くらしき作陽大学子ども教育学部教授、講演テーマ「気になる子

どもの理解と支援~マルチアレンジングサポートのすすめ~」)、国沢真弓氏(一般社団法

人発達障がいファミリーサポートMarble 代表理事、講演テーマ「気になる子どもと家族を

支えるために~発達障がいのある子どもの親からのメッセージ~」)の 3名を派遣しました。

いずれの会場にも、障害児担当保育者や子育てに不安を感じている保護者が参加し、熱心

に講師の話に耳を傾けるとともに、講演の中で行われた実技研修にも積極的に参加してい

る姿が見受けられました。

発達障害児を含む障害のある子どもについては、早期発見と早期対応が大切であると言われ

ていますが、診断が確定した段階から指導や支援を行うというのではなく、「気になる子ども」

として気付いた時点から、保育の内容・方法を工夫して対応していくことが重要です。また、「気

になる子ども」と信頼できる保育者との一対一の対応から、周囲の障害のない子どもたちや保

育者全体の理解による組織的な対応へと充実を図っていくことも大切です。

今回各地域で実施した研修会では、発達障害児を含む気になる子どもの理解と対応につ

いて、講義だけなく具体的な対応方法の分かりやすい実技研修も行われたことから、参加

者には大変好評でした。(※子育て支援研修会参加者アンケートの回答を参照)

可能であれば、今後もさらに内容を充実して継続実施していくことが望まれます。

イ 「子育て支援ふれあいイベント」の評価

「子育て支援ふれあいイベント」は、指定地域にある岩手県花巻市〔花巻市文化会館〕、

宮城県仙台市〔泉文化創造センター(イズミティ 21)〕及び福島県伊達市〔伊達市ふるさ

と会館〕を会場に、各地域で年 1回実施しました。

内容は、第一部として、かこさとし先生の 2作品(「なまこ山のニャンコたち」と「きゅ

うりばあちゃんのコンサート」)の DVD を上映する「かこさとし子ども劇場」を、また、

第二部として、声優の小林優子さんによる絵本 3作品の「読み聞かせの会」を実施しました。

いずれの会場にも、今回ご協力いただいた岩手県花巻市の第二若葉保育園、宮城県仙台

市の泉チェリー保育園、福島県伊達市の梁川保育園の園児と保育者、保護者とその家族だ

けでなく、周囲に設置されている保育所や幼稚園の園児と保育者、保護者とその家族も大

勢参加し、約 2 時間の短い時間ではありましたが、盛会裏に終了することができました。

(子育て支援ふれあいベント参加者アンケートの回答を参照)

被災地での復興が始まっているとはいえ、子どもたちとその家族が受けた心の傷を癒し

ていくためには、長期間にわたる支援が必要不可欠です。今回の「子育て支援ふれあいイ

ベント」に参加した子どもたちとその保護者と家族が、時には真剣に、時には笑いながら

映像や話を視聴している姿を見て、保育所や幼稚園の子どもとその保護者や家族だけでな

く、各地域に在住している子どもとその保護者や家族にも広く呼びかけ、広く今回のよう

なイベントを継続的に実施していくことの重要性を、改めて感じさせられました。

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