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14 Ⅳ.地域ブランド化に向けた事例紹介 平成26年度事業において、地域ブランド化を進める上で必要な知識をまとめた入門マニュアルを作 成し、その中で「戦略づくりのための4つのステップ」を整理した。今年度事業においては、Ⅲ章で抽 出した個別資源ごとにアドバイザーによる支援を行い、支援モデルの有効性を検証するとともに、「戦略 づくりのための4つのステップ」について具体的な事例の収集を行った。 戦略づくりのための4つのステップ

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Page 1: Ⅳ.地域ブランド化に向けた事例紹介 - Minister of …14 Ⅳ.地域ブランド化に向けた事例紹介 平成26年度事業において、地域ブランド化を進める上で必要な知識をまとめた入門マニュアルを作

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Ⅳ.地域ブランド化に向けた事例紹介

平成26年度事業において、地域ブランド化を進める上で必要な知識をまとめた入門マニュアルを作

成し、その中で「戦略づくりのための4つのステップ」を整理した。今年度事業においては、Ⅲ章で抽

出した個別資源ごとにアドバイザーによる支援を行い、支援モデルの有効性を検証するとともに、「戦略

づくりのための4つのステップ」について具体的な事例の収集を行った。

戦略づくりのための4つのステップ

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目的の共有と事業主体の明確化に関する事例

■課題(問題点)

・ブランド化推進における、事業主体が定まっていない。

・伯州綿の定義や栽培規程が明確でない。

・伯州綿の栽培による耕作放棄地の解消が目的となっている。

■成果

・歴史や文化から伯州綿の価値を見つめ直し、関係者が定義や栽培規程作成の必要性を再認識した。

・関係者で組織された「伯州綿連絡協議会」を事業主体として検討していくことを確認した。

戦略づくりのための4つのステップ

◆ステップ1 目的の明確化

境港市農業公社(境港市)が平成20年度から耕作放棄地の解消を目的に「伯州綿」の栽培に取り組

んでいた。しかし、ブランド化を推進していく上ではビジネスの視点も必要となってくることから目的

を見直し、今後はビジネス展開を見据えた「伯州綿」のブランド化を目指す。

◆ステップ2 現状の把握

当初は、地域団体商標の取得を目指すにあたり、権利主体となりうる団体がいなかった。そこで、境

港商工会議所を主体として今後のブランド化を推進する方針であったが、事業主体と権利主体が乖離す

ることから、今後のビジネス展開を前提に事業主体を見直すこととなった。行政主導でブランド化を推

進していることから、ビジネス化が難しく、事業主体を明確にできていない。

◆ステップ3 コンセプトメイキング

「伯州綿」とは、300年以上前の江戸時代前期に鳥取県西部・伯耆国(ほうきのくに)で栽培が始

まった綿で、最盛期には一大産地を形成し、北前船によって全国各地へ運ばれ、鳥取藩の財政を支える

ほどのブランド綿であった。伯州綿は繊維が太く弾力性に富み、保湿性にも優れている。ブランド品と

して高付加価値化するため、農薬・化学肥料不使用による栽培が行われている。これら地域の特性や風

土、歴史や文化などに基づく、「伯州綿」の定義づくりを検討する。

1.伯州綿 【「創出」段階】

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◆ステップ4 アクションプランの作成

境港市農業公社、境港商工会議所、伯州綿の栽培・加工・販売に関わる団体で組織された「伯州綿連

絡協議会」があるが、今後の権利取得を見据えてNPO法人化するなど組織改編を行う。また、「伯州綿」

のコンセプトに基づき、規程を定めてブランドの統一化を図る。

■本事業での支援内容

地域ブランド化推進の事例に精通し、合意形成の手法を熟知した地域コーディネーターを派遣し、以

下の支援を実施した。

・境港市農業公社、境港市の行政サイドでは、伯州綿をビジネスベースに押し上げることに限界があ

るため、責任体制を明確にした新たな事業体などを設ける必要性を助言した。

・鳥取藩の財政を支えたかつてのブランド綿を復活させるために、歴史に裏打ちされた新たな定義や

栽培規程の整備が必要であること、耕作放棄地の解消を主目的としていれば、地域ブランド化の最

終ゴールである地域経済の活性化に結びつかないことを助言した。

■今後の方向性

・「伯州綿連絡協議会」が製品化や販売を行っていく手法も考えられ、「伯州綿連絡協議会」をNPO

法人化することにより、地域団体商標の申請も可能となる。

◎知財総合支援窓口の活用

窓口事業を通じた専門家派遣を得て、地域団体商標取得に向け、主体の決定や目的の整理など課題解

決についての助言を受ける。関係機関(中小企業支援センター等)との連携を図る。

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地域の背景に基づくブランド戦略(観光振興)に関する事例

■課題(問題点)

・近隣地域の類似商品と差別化ができていない。

・帆布を使った商品展開に限界がある。

■成果

・ブランド化の本来の目的を共有した。

・歴史に由来するコンセプトを決め、尾道帆布を核にした地域全体のブランド戦略の展開を図る。

戦略づくりのための4つのステップ

◆ステップ1 目的の明確化

「尾道帆布」を尾道の土産物として育て、尾道観光を主体とした集客交流の促進に寄与したい。

尾道観光の素材として“食”に関するものは多いが、鎌倉時代からの港町として栄えた尾道の風土や

歴史、文化に由来する特産品が少ないことから、「尾道帆布」を尾道の土産物として育て、尾道観光を主

体とした集客交流の促進を目指す。

◆ステップ2 現状の把握

港町として栄えた尾道の歴史に由来する土産物が少ないことから、NPO法人 工房尾道帆布は、尾道

帆布を使用したバックや小物類の販売している。また、工房内で帆布コースターづくり体験なども実施

している。

さらに、地域の小学校に綿花を育てもらう活動や、今治タオルと連携したしまなみコットンロード事

業を実施した。しかしながら、近隣地域の類似商品との差別化ができていないことや、今後の商品展開

について課題を抱えている。

◆ステップ3 コンセプトメイキング

女性スタッフのみで運営し、地域の人たちに育ててもらったNPO法人の設立当初のおいたちや経緯

を踏まえ、尾道水道の別名「鶴湾」(かくわん)と昔話にリンクさせ、例えば“織姫たちが紡ぐ鶴の恩返

し”などのストーリーの構築を検討していく。

◆ステップ4 アクションプランの作成

「鶴湾」に由来した海に関連する資源(団体・組織)を巻き込んだ、新規プロジェクトの立ち上げを

検討。ブランド化に関する基本的事項“変化してはいけない部分”=「定義・コンセプト」と“変化す

2.尾道帆布 【「創出」「活用」段階】

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る部分”=「時代に合わせた新商品の開発等」の考え方に基づき、尾道帆布の定義やコンセプトを守り

ながら、商品開発を検討していく。アクションプランに尾道帆布と他の資源のコラボレーションによる

地域全体の経済活性化を盛り込んでいく。

■本事業での支援内容

地域ブランド化推進の事例に精通し、合意形成の手法を熟知した地域コーディネーターを派遣し、課

題と目的の再確認、商品にまつわる背景、歴史・文化などの掘り起こしを行った。

・尾道水道の古くから別名「鶴湾」(かくわん)に由来したストーリーづくり、鎌倉時代からの港町で

ある歴史・文化を背景としたコンセプトづくりを検討した。

■今後の方向性

・他の尾道土産、商品などと連携した情報発信により、尾道帆布を核とする地域を巻き込んだブラン

ド戦略の展開の可能性がある。NPO法人の当初の設立の狙いである尾道帆布を土産物とした観光

交流を視野に入れ、ブランド戦略の中に観光振興を意識したアクションプランを盛り込んでいく。

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行政主導の地域ブランド化に関する事例

■課題(問題点)

・具体的な目標や戦略が明確となっていない。

・ブランド化に向けた事業主体が決まっておらず、関係者の合意形成が十分に行われていない。

■成果

・関係者の合意形成の場としてプロジェクトチームを立ち上げた。

・ブランド化に向けての必須事項の状況整理を行った。

・権利化に向け、定義の明確化や管理規程策定に取り組む。

戦略づくりのための4つのステップ

◆ステップ1 目的の明確化

萩市を売り出していくための特産品ブランド化第1弾として夏みかんをブランド特産品へ育てる方針。

山口県萩農林事務所としては、地元のJAや商工会を中心にしたブランド化を進める母体・組織づくり

を行いたい意向で、最終的には地元のNPO法人も巻き込んで、全国を代表する山口県の特産品に育て

ることを目指す。

◆ステップ2 現状の把握

萩夏みかんは、明治維新後の士族救済策として栽培奨励されたのが始まりで、過去には全国一の産地

として地域産業の基幹をなしていた。現在は「土塀と夏みかん」の景観など、萩市の重要な観光資源と

なっている。「すっぱい発見 ハギナツ 萩の夏みかん」のブランドデザインをNPO法人が製作し、会

員が栽培している昔ながらの酸っぱい夏みかんを萩市内の宿泊施設等で販売を始め、観光客等から好評

を得ている。

しかし、「夏みかん」としての規程が曖昧で、夏柑(すっぱい品種)と甘夏柑(甘い品種)が混同して

市場に出ている点や、夏みかん(夏柑)の生産量が少ない点、実際の市場への出荷ルートや販売量の把

握ができていない。また、生産者や加工・販売業者と連携する場がなく、ブランド化に係る合意形成が

図れていないことが課題となっている。

◆ステップ3 コンセプトメイキング

商品の定義、名称が曖昧で統一されておらず、商品に関するストーリーやコンセプトが不明確である

ため、関係者間でブランド化に向けた合意形成を図るとともに萩夏みかんの本質を明らかにする。

3.萩夏みかん 【「創出」「権利化」段階】

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◆ステップ4 アクションプランの作成

関係者間の合意形成を図るため、新たな組織を立ち上げて、まずは名称の統一を図る。また、地域団

体商標取得に向けて、今後3ヵ年の大まかな活動方針を決定し、定義の明確化やロゴマークなどの商標

を活用した販売実績づくり等に取り組む。

■本事業での支援内容

地域ブランド化推進と合意形成に関する地域コーディネーター、ブランド化推進の実践家、知的財産

に関する専門的知見を有する弁理士を派遣し、以下の支援を実施した。

・弁理士が権利化の有効性と目的、地域団体商標と地理的表示の違いと活用の留意点に関する講義、

助言を行った。

・ブランド実践家が農産物のビジネス戦略や展開時のポイントに関する講義、助言を行った。

・支援を通して、生果の場合、生産量が少なく県外への出荷数がほとんどないことから、出願に当た

っては周知性の証拠材料の集積が困難であることが判明した。このため、目的、権利範囲(生果、

加工品等)の検討と合意形成の必要性、今後の活動方針の助言を行った。

■今後の方向性

・活動方針の概略に基づき、具体的なアクションプランを作成し、実践することで更なるブランド化

推進に期待がかかる。

◎知財総合支援窓口の活用

窓口担当者から品質管理の手法についての提案や助言を受け「品質管理規程」の整備に着手する。

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商標、地域団体商標の活用、地域ブランド推進の人材育成に関する事例

■課題(問題点)

・権利取得の目的や位置づけが明確になっていない。

・地域ブランド推進の活動を担当者一人が進めており、活動を継承する人材が不足している。

■成果

・地域団体商標の取得と活用を中心にブランド化戦略推進の手法と行動方針を関係者が共有した。

・管理規程の作成作業に若手人材を起用することで、地域ブランド化の活動のバトンを継承し、継続

的なブランド化推進に道筋をつけた。

戦略づくりのための4つのステップ

◆ステップ1 目的の明確化

「長州黒かしわ」は県内初の地鶏として誕生した。農水省の「食品地域ブランド化支援事業」におい

て、地域活性化を目的として商品の品質向上、生産体制の整備などブランド化に着手。抗生物質や合成

抗菌剤を使用しないハーブ入り飼料で飼育した「長州どり」の上位商品にあたるのが「長州黒かしわ」

であり、高級食材として市場に流通している。最終目標は全国のトップブランドに育てることである。

◆ステップ2 現状の把握

天然記念物である黒柏鶏を元に、地域の特色を出し、肉用鶏として経済性・食味の良さにこだわり、

誕生した山口県産のオリジナル地鶏にて、深川養鶏の最高級ブランドとなっている。

また、権利化の状況としては「長州黒かしわ」は商標(図形)、「長州どり」は商標(名称)で取得し

ており、「長州地どり」は商標出願手続き中である。しかし、権利取得の目的や位置付けが明確になって

おらず、整理する必要がある。また、ブランド化推進を担う人材が限られており、後継者育成や周囲を

巻き込んだ体制整備の課題も抱えている。

◆ステップ3 コンセプトメイキング

地鶏ブランドとしては全国では後発組にあたり、競合が多く存在するため、山口県産のオリジナル地

鳥であることなど、地域として伝いたいことを明確にして、ブランド化の基軸を明確にする。特に、深

川養鶏としてのブランド性を高めるため、トップブランドとして「長州黒かしわ」を確立し、「長州地ど

り」、「長州どり」のブランド力を引き上げる全体コンセプトを構成する。(注)

4.長州黒かしわ 【「権利化」「活用」段階】

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◆ステップ4 アクションプランの作成

商標管理規程、品質管理規程に基づく商品へのこだわりを消費者に分かり易く伝える。「長州黒かしわ」、

「長州地どり」、「長州どり」のブランド化推進に向けた各基本戦略と全体の方針を作成する。「長州黒か

しわ」の地域団体商標取得を活用したブランド戦略の展開方法として、商標と地域団体商標の両方を取

得し、主に卸・販売での管理・PR戦略を展開する手法(ダブルスタンダード)による商標展開戦略の

構築を図る。短・中・長期的な視点に立った権利化(商標、地域団体商標登録)、活用を見据えたアクシ

ョンプランを作成する。また、継続的なブランド化推進に向けた体制についての意思統一を図るため、

会議の場に若手人材を参加させ、管理規程の作成を担当させることを通じて、後継者育成に取り組む。

■本事業での支援内容

地域ブランド化推進の事例に精通し、合意形成の手法を熟知した地域コーディネーター、ブランド化

推進の実践家、知的財産に関する専門的知見を有する弁理士を派遣し、以下の支援を実施した。

・現状の権利取得状況での効果と問題点の整理を行い、特に販売側での権利の活用戦略を検討した。

・支援の会議等に若手人材を参加させ、管理規程の作成などの作業を通して、継続的なブランド化推

進に向けた体制についての意思統一と活動への参加の機会を設けた。

■今後の方向性

・「長州黒かしわ」は地域団体商標を取得し、現在取得済みの図形商標と合わせて卸し先の表示コン

トロールに活用し、ダブルスタンダードで権利化を活用していく方針である。

・ブランド化推進の後継者育成も視野に入れ、生産者と販売者向けの管理規程を作成し、継続的な品

質の維持、向上を図る。

◎知財総合支援窓口の活用

窓口担当者より、商標権の「管理運用規程」のひな型の提供や、作成における助言を受け「品質管理

規程(案)」の作成に着手する。

長州黒かしわ

長州地どり

長州どり

天然記念物「黒柏鶏」を由来とする、希少な最高級ブランド地鶏

最も多く飼育されている銘柄鶏

こだわりの飼料と方法で育てた地鶏

(注)【トップブランドのイメージ向上によるブランド全体の引き上げ】

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ストーリー、コンセプトづくりに関する事例

■課題(問題点)

・知名度は高まっているものの、ストーリーやコンセプトが明確でなく、特徴を明示できていない。

・権利化に向けた関係者間の合意形成が図られていない。

■成果

・「里海」づくりという地域の取り組みを背景にした、商品コンセプトをつくりあげた。

・「殻付きかき」の地域団体商標取得に向けた関係者の合意形成が図られた。

戦略づくりのための4つのステップ

◆ステップ1 目的の明確化

養殖組合員が一体となって地域団体商標の登録を目指す。また、小ロットで流通量は少なく希少性が

高い殻付きかきのブランド化を目指し、日生への来訪者を増やすことで地域活性化を図る。

◆ステップ2 現状の把握

岡山県は全国2位(平成25年度)のかきの生産量を誇る。特に日生で養殖される真かきは、周囲の

島々から流れ出す豊富な養分と、かきの成長リズムに合った海水温の変化のおかげで、大粒でふっくら

とした特徴を持つ。備前市役所では県を代表する特産品として、カキオコなども含めてPRに注力して

おり、メディアを通じて知名度が高まっている。

しかしながら、かきのむき身は、「岡山かき」の名称で流通しており殻付きかきは地元での消費にとど

まっているのが現状で、日生産かきの知名度はいまだ高まっていない。

また、類似の商標「日生かき」、「日生のかき」、「若がき」を取得しているが、違いが明確になってい

ないため、整理・見直しが必要である。

◆ステップ3 コンセプトメイキング

日生では、アマモの再生等を通じて「里海」づくりに取り組んでおり、人の手を加えることにより海

を豊かにするというメカニズムは、「SATOUMI」として海外でも注目を集めている。知名度向上のため、

日生の特徴である“海と共生する文化”を背景に、「里海」をキーワードにしたコンセプトづくりを行う。

5.日生のかき 【「創出」「権利化」段階】

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◆ステップ4 アクションプランの作成

「岡山かき」のブランドで流通しているむき身とは別に小ロットの「殻付きかき」のブランド化を推

進する。備前市内の他のブランド資源とのコラボレーションの可能性を、今後検討していく。また、地

域団体商標取得に向けて、権利取得目的の明確化や名称の統一化に取り組む。

■本事業での支援内容

地域ブランド化推進の事例に精通し、合意形成の手法を熟知した地域コーディネーター、知的財産に

関する専門的知見を有する弁理士を派遣し、以下の支援を実施した。

・地域の文化や背景、環境保全に配慮した海域で育てた「かき」などの取り組み等に基づくブランド

戦略の考え方を検討した。

・コンセプトを基にした知的財産権の戦略的活用事例を紹介した。

・SWOT分析による「強み」や「弱み」等の把握を通して、環境保全に配慮した海域で生産したか

き、地域の人たちによって守られてきた「海と共生する文化」、「里山・里海」をキーワードに商品

コンセプトの助言を行った。

■今後の方向性

・希少価値のある「殻付きかき」を目的に日生に来訪してもらうことで、飲食店、宿泊施設、観光関

連施設などを含めた地域全体の経済活性化を進める。

◎知財総合支援窓口の活用

窓口担当者に商標制度に対する助言や商標取得に関して必要な書類や手続きに関しての助言を得て、

権利化をめざす。

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品質管理に向けた合意形成に関する事例

■課題(問題点)

・商品の定義や品質に関する規程整備がなされていない。

・共同出荷体制が整備されておらず、品質の安定供給ができていない。

■成果

・「トップブランド化戦略」による、関係者の合意形成や規程統一の仕組みづくりを学び共有した。

・地域の歴史背景および特性を活かしたコンセプトづくり、ブランド戦略策定に着手。

戦略づくりのための4つのステップ

◆ステップ1 目的の明確化

共同出荷体制を整備し、「宍道湖しじみ」の品質管理や規程統一を図り、他地域業者による偽装問題等

で低下したブランド力を回復させることで、しじみのトップブランド構築を目指す。

◆ステップ2 現状の把握

日本一の生産量を誇っているが、近年減少傾向である。また、消費量についても、ここ10年で半減

している。そのような状況下においても、宍道湖しじみは全国的な知名度は高い。地元ではPR推進チ

ームを組織し、「宍道湖しじみ」のロゴマーク作成や、地元旅館等での消費拡大、県内外のイベントへ出

展等を行っている。また、しじみ自体の自然食品としての評価が高く、肝機能効果や美肌効果が注目さ

れている。しかし、共同出荷体制が整備されていないことから、品質の安定供給に課題がある。

◆ステップ3 コンセプトメイキング

地域住民が守り続けてきたという宍道湖の歴史的背景や地域の文化などを踏まえ、コンセプトづくり

を行う。また、鉄分を多く含む宍道湖の地理的特性を活かし、健康食品としての効果をPRポイントと

して掲げる。

◆ステップ4 アクションプランの作成

地域団体商標取得を目指すにあたり、品質管理に向けて各関係者へ合意を得ることが必要である。そ

のためには、「トップブランドの構築」と「管理規程・ルールづくり」を同時に行い、協力者を少しずつ

増やしていく。地域を取り巻く環境や社会動向、消費者ニーズを把握し「宍道湖しじみ」の強みや弱み

を明確にする。ブランド戦略に基づき、商品のこだわりと商標を組み合わせてPRを行い、情報発信の

相乗効果を高める。

6.宍道湖のしじみ 【「創出」「権利化」段階】

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■本事業での支援内容

地域ブランド化推進の事例に精通し、合意形成の手法を熟知した地域コーディネーター、コンセプト

の可視化、ブランドコンセプトのイメージ化に長けたデザイナーを派遣し以下の支援を実施した。

・しじみのトップブランド構築に向け、「品質の安定性」、「ロットの確保」、「価格優位性」から脱却す

る必要性などブランド戦略の考え方の共有、SWOT分析によるコンセプトづくりの検討、ルール

に基づいた商品管理の周知徹底を助言した。

■今後の方向性

・統一した品質を担保し、しじみのトップブランドとして確立するため、共同販売体制を構築する。

・「宍道湖のしじみ」の持つ効能を活かし、「健康・美容」をPRポイントとして近隣の他の商品との

コラボレーションを検討する。

◎知財総合支援窓口の活用

窓口事業のブランド専門家派遣を活用して、ブランド戦略の策定を検討する。