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2020年1月22日

第4日「メタンハイドレート開発」

東京大学 大学院新領域創成科学研究科

海洋技術環境学専攻

海洋利用システム学講座 海底資源開発工学分野

今野 義浩

海洋開発利用システム実現学寄付講座「海洋開発工学基礎講座」令和元年度「サブシー工学」編

1

基礎講座の進め方

回 時間1時限目 10:00-11:30昼食 11:30-12:30

2時限目 12:30-14:00休憩 14:00-14:15

3時限目 14:15-15:45

2

• 10月23日 第1日「海底資源概論」1回目:海底資源の種類

・エネルギー資源

・海底鉱物資源

2回目:海底資源の成因

・石油システム

・メタンハイドレートの成因

・海底鉱物資源の成因

3回目:海底資源開発の現状

・海底石油天然ガス開発の現状

・メタンハイドレートの開発計画

・マンガンノジュール(団塊)の開発計画

・海底熱水鉱床の開発計画

• 11月20日 第2日「海底資源探査」4回目:海底資源の探査手法

・探査の流れ

・物理探査、試掘、検層、コアリング

5回目:掘削工学基礎

・ロータリー掘削

・泥水、坑井内の圧力制御

・ケーシング

6回目:探査に基づく資源量の推定

・可採資源量、埋蔵量

・回収率

・ミニ演習

• 12月18日 第3日「海底資源生産」7回目:海底資源の生産手法

・石油天然ガスの生産手法

・メタンハイドレートの生産手法

・海底鉱物資源の生産手法8回目:海底資源の生産システム

・サブシー生産システム

・設置作業用船舶9回目:貯留層工学基礎

・ダルシー則

・孔隙率、浸透率、濡れ性・貯留層特性の評価手法

・増進回収法

・ミニ演習

• 1月22日 第4日「メタンハイドレート開発」10回目:メタンハイドレート概論

・研究開発の歴史

・ガスハイドレートの構造

11回目:メタンハイドレートの探査と生産・メタンハイドレートの探査・生産手法

・メタンハイドレートの賦存域、資源量

12回目:メタンハイドレート開発の現状と課題・研究開発の進展と課題

・総合討論

3

「サブシー工学」編 各回講義のテーマと主な内容

本日の内容

第10回目:メタンハイドレート概論・研究開発の歴史

・ガスハイドレートの構造

第11回目:メタンハイドレートの探査と生産・メタンハイドレートの探査・生産手法

・メタンハイドレートの賦存域、資源量

第12回目:メタンハイドレート開発の現状と課題・研究開発の進展と課題

・総合討論

4

2020年1月22日第10回(10:00-11:30)

メタンハイドレート概論

・研究開発の歴史

・ガスハイドレートの構造

5

研究の歴史 11810

(文化7年)Davy, 塩素ハイドレート発見

1888(明治21年)

Villard, メタンハイドレート報告

6

1934(S9) Hammerschmidt,ハイドレート発生が、ガス輸送パイプラインの閉塞原因であることを発見1965(S40) Makogon, シベリア永久凍土環境下の地層中でハイドレートが形成されることを実証

http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

ガスハイドレートの構造

Ⅰ型、Ⅱ型、H型

メタンハイドレート:Ⅰ型• 単位格子あたり、小ケージ:2、大ケージ:6の計8個のメタン分子を内包

• 単位格子は46個の水分子から構成

CH4:H2O=8:46

CH4・5.75H2O

7

Sloan, Nature 426, 353–363, 2003

パイプラインの閉塞

8

ガスハイドレートの熱力学的研究の発端• 平衡条件の実験的測定、予測モデルの構築

• インヒビターと呼ばれる阻害剤の開発• 熱力学的な阻害 (Thermodynamic Inhibitors)

そもそも生成させない

• 速度論的な阻害 (Kinetic Hydrate Inhibitors)

生成速度を遅くする

• 集積の阻害 (Anti-Agglomerants)

生成しても閉塞しないようにする

海洋開発において極めて重要な課題

http://hydrates.mines.edu/CHR/FlowAssurance.html

E.P. Brown and C.A. Koh, Phys. Chem. Chem. Phys., 2016, 18, 594

研究の歴史 2

9http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

1970(S45)Markl他, 大西洋の Blake-Bahama Outer Ridgeの地震探査断面図に、海底面に並行で地層と斜交する反射波を発見し、“Reflector-Y”と仮称(別の反射波を、Reflector-Xと命名したので、便宜的に “Y”が与えられたに過ぎず、“Y”に特別な意味はない)

1970(S45) DSDP(深海掘削計画) Leg-11 により、Reflector-Yを掘削、コア採取(正式報告書は1972年刊行)

1971(S46)Stoll他, 上記DSDPで把握された、高速度異常を有するメタンガス含有堆積層の実体を解明すべく、合成ハイドレートで速度測定をした結果、この速度異常は堆積層中の天然ガスハイドレートによると推定

1972(S47)Hollister他, Reflector-Yの上位の、メタンガス大量含有堆積層の区間速度を検討、Stoll等の実験結果を踏まえ、Reflector-Yはハイドレートとその下位にあるガス層との境界に相当すると結論

1973(S48)Scholl他, Bering海の震探断面図に、海底面に並行で地層と斜交する反射波を発見、これを初めてBottom Simulating Reflector (「海底擬似反射面」、略称BSR)と命名 (BSRという言葉の誕生)DSDP Leg-19 でこれを掘削し、メタンガスが検知されず、その深度は珪藻に富む堆積物と泥岩との境界に相当したことから、BSRは珪藻の分解に関係する続成作用境界と解釈、“ハイドレート派”に再考を促す

1977(S52)Tucholke他, 北大西洋の震探で認識された、海底面に並行する反射波はガスとハイドレートの境界を示すとし、これをbottom simulating reflecting horizonと記述

1978(S53)Hein他, Bering海のコアを研究、海底面に並行する反射波(BSR)は、オパール-Aが続成作用によりオパール-CTに転移した境界を示すと結論(オパールの相転移とBSRの関係に言及した初の論文)

1979(S54)Shipley他, 中米沖の海底面に並行する“異常な”反射波の、反射係数、極性などから、これがガスハイドレートの基底であることを説明し、この反射波を“bottom-simulating reflection (Hollister,1972)”と引用(この論文にその言葉は見当たらず、引用は誤り、Bering海のBSRについての論文の引用にも誤りがあり、このShipleyの論文は画期的な内容を含むが、引用する場合は要注意)

1979(S54) 中米海溝のDSDP Leg-66で、初めてメタンハイドレートのコアを回収(Hole 490,491,492)

海底疑似反射面

海底擬似反射面 (Bottom Simulating Reflector: BSR)

• 周辺の順序良く重なった地層層理面記録とは関係なく延びる音波反射面

• 海底の反射記録に並行

• 通常の地層反射面とは反射の性質が異なる(専門用語では位相が逆転している)

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム http://www.mh21japan.gr.jp/mh/03-2/

メタンハイドレート層の最下部を示す

10

研究の歴史 3

1980(S55)青木他により、南海トラフ周辺海域でBSR発見の報告。これ以降、他の日本周辺海域でも、BSR発見の報告続く

1982(S57) 山野他により、BSRを使った地殻熱流量推定手法の報告

1989(H1) 奥尻海嶺でメタンハイドレートコア確認(ODP Leg-127 Site796)

1990(H2) 四国沖南海トラフでメタンハイドレートコア確認(ODP Leg-131 Site808)

1990年代前半

(財)エネルギー総合工学研究所などで非在来型天然ガスの一つとして、メタンハイドレートの研究開始

1993(H5) 奥田により日本周辺海域のメタンハイドレート資源量試算

1994(H6)「メタンハイドレート–21世紀の巨大天然ガス資源」(著者:松本良・奥田義久・青木豊、日経サイエンス社)出版(絶版)

1995(H7) 米国大西洋のBlake Ridge でODP Leg.164による掘削実施。

11http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

海域におけるメタンハイドレートの存在形態

表層型• 海底面に露出

砂層孔隙充填型• 海底下数100mの

砂層の隙間を充填

その他• 泥層中の割目に

塊・膜状に存在

12

(メタンハイドレートフォーラム2015 「2. メタンハイドレート生産回収増進法の開発」)

自然界のメタンハイドレート

13

アラスカ永久凍土(USGS)

メキシコ湾 (USGS)

南海トラフ(MH21) 上越沖(明治大学)

研究の歴史 41995(H7)秋

–2000(H12)秋

石油公団(TRC)を中心に民間10社で特別研究「メタンハイドレート開発技術研究」開始

1996(H8) 佐藤他から「日本周辺のメタンハイドレート資源量が年間天然ガス消費量より2桁程度大きい説」公表

1996(H8) メタンハイドレート探査を目的とした基礎物理探査「南海トラフ」・「オホーツク」実施

1997(H 9)–

1999(H11)

NEDOで「ガスハイドレート資源化技術先導研究開発」実施

1998(H10)日本・カナダ・米国の共同で、 Mackenzie Deltaにおいて、 メタンハイドレート層掘削(メタンハイドレート回収、掘削等技術の確認)

1998(H10)10月

日本において、1998年Mackenzie Delta掘削に関する国際シンポジウム開催

1999(H11)–

2000(H12)

基礎試錐「南海トラフ」掘削 コア取得・検層データからメタンハイドレートを東海沖でも確認 。掘削後の検討実施

14http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

研究の歴史 5

15

2000(H12)6月

経済産業省にメタンハイドレート開発検討委員会(委員長 田中彰一東京大学名誉教授)設置

2001(H13) 基礎物理探査「東海沖~熊野灘」(二次元)実施

2001(H13)7月

メタンハイドレート開発検討委員会、報告書「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」発表

2001(H13)7月13日

経済産業省から「メタンハイドレート開発計画」発表

2001(H13)12月20日

「メタンハイドレート資源開発」ワークショップ開催(於:石油公団TRC) 全体計画・「資源量評価」・「生産手法開発」・「環境影響評価」各グループ計画紹介

2001(H13)12月–

2002(H14)4月

日本・カナダ・ドイツ・米国・インドの共同でカナダのMackenzie Deltaにおいて、第1回メタンハイドレート陸上産出試験(温水循環法)実施。世界で初めてメタンハイドレート層からメタンガスの生産に成功

2002(H14)3月20日

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(通称:MH21)が石油公団、(独)産業技術総合研究所、(財)エンジニアリング振興協会の3者で発足(プロジェクトリーダー 田中彰一東京大学名誉教授)

http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

第1回陸上産出試験

カナダ永久凍土地帯で実施(2002)• カナダ、日本、ドイツ、アメリカ、インドの国際共同プロジェクト

• 加熱法(坑井内温水循環)を適用

ガス累計生産量:468 m3 (5 日間)

検層テストから貯留層の浸透性を確認、減圧法の有効性を示唆

16

研究の歴史 62002(H14) 基礎物理探査「東海沖~熊野灘」(三次元)実施

2003(H15) 基礎試錐「佐渡沖南西」事前調査で海底面からメタンハイドレート回収

2003(H15)12月

日本において、01/02年Mackenzie Delta第一回陸上産出試験に関する国際シンポジウム開催

2004(H16) 基礎試錐「東海沖~熊野灘」実施。東海沖、第二渥美海丘、熊野灘の三海域でコア取得・検層データにより、メタンハイドレートを確認

2005(H17)4月

京都議定書目標達成計画が閣議決定され、計画にメタンハイドレートにかかる技術開発の推進が記載される。

2007(H19)3月

経済産業省から東部南海トラフでのメタンハイドレート原始資源量公表

2007(H19)4月

日本・カナダの共同で、カナダのMackenzie Deltaにおいて、第2回メタンハイドレート陸上産出試験第1冬実施 (減圧法)。世界で初めて減圧法によりメタンハイドレート層からメタンガスの生産に成功。

2007(H19)7月

海洋基本法施行

2008(H20)3月

海洋基本計画閣議決定。メタンハイドレートに関して今後10年を目処に商業化を実現することを目標とすると記載

2008(H20)3月10日–3月16日

日本・カナダの共同で、カナダのMackenzie Deltaにおいて、第2回メタンハイドレート陸上産出試験第2冬実施(減圧法)。世界で初めて減圧法によりメタンガスの連続生産に成功(6日間)

2008(H20)6月7日

経済産業省は米国エネルギー省とメタンハイドレートの研究協力に関する協力意図表明文書( Statement of Intent )を締結

2009(H21)3月24日

海洋基本計画に基づく、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が総合海洋政策本部会合(本部長=内閣総理大臣)にて策定

2009(H21)3月31日

「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」フェーズ1終了

17http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

東部南海トラフにおけるメタンハイドレートの原始資源量

18

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムhttp://www.mh21japan.gr.jp/pdf/toubunankai_MH-2007.pdf

各パラメータの確度も統計的に考慮し算定

第2回陸上産出試験

第1回試験と同地域で実施(2007、2008)• カナダと日本の共同プロジェクト

• 減圧法を適用

2007年試験は坑井内に砂が出る現象(出砂)により中断

2008年試験は出砂を回避

ガス累計生産量:13,000 m3 (6 日間)

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研究の歴史 72009(H21)

4月1日「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」フェーズ2開始。(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所の2者で構成(プロジェクトリーダー 増田昌敬東京大学准教授)

2009(H21)7月31日

「日本周辺海域におけるメタンハイドレート起源BSR分布図」公表

2012(H24)2月15日–3月26日

「第1回メタンハイドレート海洋産出試験事前掘削作業」

2013(H25)1月28日–8月14日

「第1回メタンハイドレート海洋産出試験現場作業」

2013(H25)3月12日–18日

ガス生産実験(20000㎥/日、合計120000㎥のガス生産を達成)

2013(H25)4月26日

海洋基本計画(改定)の閣議決定砂層型は、平成30年度目途に商業化のための技術の整備を行うとともに、平成30年代後半に民間企業による商業プロジェクトの開始を目指す。表層型は3年程度で集中的に資源量を調査。

2013(H25)12月24日

海洋エネルギー・鉱物資源開発計画の改定

2014(H26)11月6日

NETL/DOEとJOGMEC/METIの間で長期陸上産出試験の実施のための日米協同作業に関する協力覚書に署名

2015(H27)12月–

2016(H28)3月

第2回メタンハイドレート海洋産出試験を含むフェーズ3実行計画をメタンハイドレート開発実施検討会にて協議

20http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

第1回海洋産出試験地の選定

東部南海トラフの濃集帯から選択

• 既存データの有無

• 濃集の程度

• 生産システムとの適合性

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(メタンハイドレートフォーラム 2016)

産出試験地

22

(メタンハイドレートフォーラム 2016)

第1回海洋産出試験

2013年 世界初の海洋産出試験• 東部南海トラフにおいて、水深約1000 m、海底下約300 mの砂層のメタンハイドレートを分解・生産

• 減圧法により、約6日間の連続生産を達成• ガス累計生産量:119,500 m3

• 出砂・天候等により試験中止

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減圧法の概念

http://www.mh21japan.gr.jp/

産業界の取り組み

2014年、石油・天然ガス開発企業ならびにエンジニアリング企業等の計11社により、「日本メタンハイドレート調査株式会社」設立

オペレータ業務を受注し、第2回海洋産出試験を実施

24

日本メタンハイドレート調査株式会社 (http://jmh.co.jp/)

研究の歴史 82016(H28)

4月1日フェーズ3開始

2016(H28)5月12日

–6月13日

「第2回メタンハイドレート海洋産出試験事前掘削作業」

2017(H29)4月7日–

7月7日

「第2回メタンハイドレート海洋産出試験現場作業」

2019(H31)3月

フェーズ3終了

25http://www.mh21japan.gr.jp/mh/08-2/#1

第2回海洋産出試験

2017年• 第1回試験地と同一の貯留層で実施

• 異なる出砂対策を施した2本の生産坑井を使用

• 減圧法による生産(2017年5~6月)• 1本目: 累計 40,850 m3 (12 日間)

出砂による中断

• 2本目:累計 222,587 m3 (24 日間)

予定期間による終了

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http://www.jogmec.go.jp/library/recommend_library_01_000048.html?recommend=1

山本晃司:「第2回海洋産出試験について」,メタンハイドレートフォーラム 2017,平成29年11月29日

まとめ

メタンハイドレートはパイプラインの閉塞要因としてその研究が始まり、結晶構造、平衡条件についての理解が進んだ(現在も進んでいる)

自然界では、地震探査の異常な反射面との関連が指摘され、コアが採集されたことでその存在が確認された

日本では、メタンハイドレートを資源としてとらえた国レベルの研究開発が1990年代半ばに世界に先駆けて始まり、探査・生産に関わる知見・技術が蓄積されてきた

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