生徒指導 - nits 独立行政法人教職員支援機構 · 文部省生徒指導資料(...

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生徒指導

関西外国語大学 教授

新井 肇

1 生徒指導の意義と目的

生徒指導の位置づけ

生徒指導は学校の教育目標を達成するうえで重要な機能を果たすものであり,「学習指導」と並んで学校教育において重要な意義を持つ。

生徒指導は,「児童生徒の人格の形成」を図るうえで大きな役割を担っている。

(文部科学省 『生徒指導提要』 2010年)

『学習指導』=学習の指導教える →

← 学ぶ

『生徒指導 』=○○の指導?育てる?→

← ○○?

*『生活指導』

『生徒指導 』=Guidance & Counseling(指導と相談)

(アメリカの)スクール・カウンセリング

生徒指導という言葉

「スクールカウンセリングは、個性の尊重と潜在能力の実現をめざす教育活動であり、幼稚園から高校までの教育課程の中で、総合的・開発的プログラムを作り、子ども一人ひとりの知的能力、個人的・社会的能力、職業選択能力を開発し、責任ある創造的市民を育てようとする営みである。」

(アメリカ スクールカウンセラー協会 「役割声明」 1990)

アメリカのスクールカウンセリング

包括的児童生徒指導援助

(最広義の生徒指導)

教育相談

特別活動地域連携

学級経営HR経営

道徳教育市民性教育

キャリア教育

生徒指導

guidance & counseling

多面的・包括的なアプローチの必要性

教育相談

特別活動地域連携

学級経営HR経営

道徳教育市民性教育

キャリア教育

生徒指導

教科

生徒指導= 「一人一人の児童生徒の人格を尊重し,個性の伸張を図りながら,社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動」 (『生徒指導提要』 2010)

自己実現をめざす個人+社会づくりの担い手<個性化> <社会化>

生徒指導の目的

生徒指導= 「一人一人の児童生徒の人格を尊重し,個性の伸張を図りながら,社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動」 (『生徒指導提要』 2010)

自己実現をめざす個人+社会づくりの担い手<個性化> <社会化>

教育相談・キャリア教育 生徒指導

「各学校においては,生徒指導が,一人一人の生徒の健全な成長を促し,生徒自ら現在および将来における自己実現を図っていくための自己指導能力の育成を目指すという生徒指導の積極的な意義を踏まえ,学校の教育活動全体を通じ,その一層の充実を図っていくことが重要である」

(中学校学習指導要領解説 総則編,2008年)

生徒指導の究極の目標: 「自己指導能力の育成」(生徒指導提要,2010年)

生徒指導の目標

自己指導能力

「その時、その場で、どのような行動が適切か、自分で考えて、決めて、実行する能力」

「行動の適切性を決める基準は、他の人の主体性の尊重と自己実現にある」

授業を成立させる生徒指導

(例)私語への注意他律

繰り返しの注意静かにしているときにほめる納得のいく説明生徒自身に授業ルールを考えさせる授業の構え魅力のある授業、分かる授業 等々

自律

自己指導能力の育成を図る働きかけ

① 「自己存在感を与えること」

② 「共感的人間関係を育成すること」

③ 「自己決定の場を与え,自己の可能性の開発を援助すること」

(坂本昇一 『生徒指導の機能と方法』文教書院 1990)

「自己存在感を与える」:子どもは現にここに存在していることでかけがえのない存在であることを認め、子どもが「自分が大切にされている」と思えるような関わりを進める。

「共感的人間関係の育成」:相互に人間として尊重し合う態度で、自分を語り、共感的に理解し合う人間関係を育てる。教師も時に一人の人間として自己開示することが求められる。

「自己決定の場を与える」:子どもに自分で考え選択する機会をできるだけ多く用意し、自らの決断と責任のある行動がとれるように働きかけることで、自己の可能性に自ら気づき、その伸長を目指して努力するような態度形成を図る。

2 児童生徒にどうかかわるか

生徒指導実践の特質(状況依存的)・個別性・即時性・不確実性

生徒指導の体系的理論化の難しさ

生徒指導の理論化の必要性

教師の個人芸と呼ぶべき力量に頼る傾向自らの経験則や勘による指導

全教職員の協働による組織的な生徒指導体制の必要性

指導の共通理解を図るために生徒指導の理論化の必要性

生徒指導上の課題の多様化・重層化・深刻化による困難性の増大

• アセスメント(児童・生徒理解に基づく見立て)• プランニング(具体的な対応プランの策定)• インターベンション(危機介入:児童生徒・保護者と

つながる,かかわる,支える)生徒指導実践 = コミュニケーションを通じた気づき

に基づく行動変容の促進をめざす• モニタリング(評価と合理的な限界設定)

校内体制に基づく組織的対応と教育委員会・関係機関等との連携 継続的な指導・援助の展開

生徒指導における理解と対応のプロセス

目標設定なしに試行錯誤しない(アセスメントの重要性)

何を見立てるのか=「どんな思いをして生きているのか」

本人の情緒の状態生育歴家族関係(親子関係において何が動いているのか)友人や教師との関係において何が生じているのか学校や学級において,本人が何を体験しているのか進路希望(や将来の夢)はどうなっているのか

児童生徒の心情を理解した指導・援助

チーム援助シート

ジェノグラム・エコマップ

作成例

情報の可視化・共有化

<科学の知>・問題を起こしたり、危機に陥っている生徒や家庭に問題があるととらえて,その問題解決をめざす

・対象は観察対象であり,観察主体との関係性が切れている

<臨床の知>・相手との信頼関係を育み,いったんはそのまま受け入れることで,その生徒や家庭,あるいは教師自身の課題の乗り越えをめざす

・対象理解は観察主体に影響されるという認識・ゆえに,関係性をベースに事態を考え,相手を理解しようとする

関係を構築しつつ適切にかかわる

(参考:千原,2013 ,日本生徒指導学会関西地区研究会:元気の出るセミナー レジュメ)

3 生徒指導を支える人間観

「実存としての人間」・「一人ひとりがかけがえのない自分の存在を意識しながら、その存在の仕方を自分で選んでいくことができる」・「人間の現実存在には、個別性と主体性が含まれている」

(松浪信三郎『実存主義』,1970)

①人間は自由意志をもって、自分の存在の仕方を決定する→ 「自己指導の力」を育てる・・・「選択」の根拠=他者の主体性の尊重と自己実現

②人間は生成している存在である→子どもが自分の可能性を自分で発見し、発達させることが

できるように、多様な活動の場と機会を設ける

生徒指導を支える人間観

③人間は他者との関係性のなかにある存在である子どもの「授業中の私語」という行動を、自分自身(の授業のあり方)と関係づけて考える→子どもと共に努力する教師→共感的人間関係

④人間は独自の存在である人間は根源的に個別的で、独自的な存在である

⑤人間は社会の中で生きる存在である「自己を選ぶことは、世界を選ぶことである」 ( J.P.サルトル)→個(「私」)を尊重しつつ、社会(「公」)の軸を見失わない→シチズンシップの視点をもった生徒指導の展開

(参考:坂本昇一 『生徒指導の機能と方法』文教書院 1990)

(生徒指導)教科指導道徳指導特別活動指導給食指導清掃指導問題行動指導・・・・・・指導・・・・・・指導

特定される指導内容や指導領域をもたない、すべての内容や領域に作用

生徒指導は「機能」である

(機能としてはたらく)

生徒指導を支える人間観から導き出される機能

①子どもに自己決定の場を用意すること

②子どもに自己存在感を与えること

③子どもとの共感的関係(であい)を基盤にすること

文部省生徒指導資料(1988)『第20集 生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指導』

この三つの機能を教育課程のすべてに、また、学校の行うすべて教育活動に、具体的な方法として作用させる(=生徒指導の本質)

4 これからの生徒指導の方向性

1 すべての児童生徒が問題行動の要因を内包している可能性があるという認識をもつ

2 発達段階に応じた体系的生徒指導の展開幼保小中高の学校種間の情報連携や行動連携小学校における生徒指導の重要性

3 発達上の課題を抱えた児童生徒に対する周囲の理解と一人ひとりの特性に応じた指導

発達しょうがい理解に基づく、生徒指導と特別支援教育の協働

問題行動の多様化・重層化・不視化のなかで

4 問題対応型の生徒指導から開発的・予防的生徒指導へ「治す」生徒指導→「育てる」生徒指導

5 学びに生きる生徒指導(学習指導と生徒指導の一体化)

6 すべての教師が生徒指導を担う→組織対応の重要性校内連携によるチームサポート関係機関との連携によるネットワーク型のサポート→「チーム学校」

(参考:生徒指導提要,2010年)

育てる生徒指導への転換

生徒指導における階層的支援構造

第3次支援(課題解決的生徒指導)特定の児童生徒への治療・矯正的関与:チームの役割分担+外部資源も活用

第2次支援(予防的生徒指導)すべての児童生徒,およびリスクのある児童生徒への予防的関与:生徒指導主事を中心にチームを組み,役割分担する

第1次支援(開発的生徒指導)すべての児童生徒を対象とした成長支援:学級担任が中心となり,教育的支援策を展開

ガイダンスプログラム

危機介入

授業と生徒指導の一体化

授業を通じて、自己指導能力の育成を図る

授業を成立させる生徒指導+

授業に内在する生徒指導

Active Learning:生徒指導を授業に埋め込む

授業と生徒指導の一体化

(1)教科指導とは切り離された、授業を成立させるための生徒指導→授業中に行なわれた「問題行動」等に対する指導など

(2)教科指導に内在化した生徒指導→教科指導の中で生徒指導の機能を発揮させること

①教科指導の中で「自己存在感」を与える教師が、一人ひとりの個性的な学びを受け止め、認める

②教科指導の中で「共感的人間関係」を育む一人ひとりの個性的な学びがつながって、協同による問題解決へ

③教科指導の中で「自己決定する力」を育てる自分の考えを,根拠ととともに主張できる力を身につける

➯授業は教科を学ぶ場であるとともに、自己実現のための学びの場

授業を成立させる生徒指導

(例)私語への注意他律

繰り返しの注意静かにしているときにほめる納得のいく説明生徒自身に授業ルールを考えさせる授業の構え魅力のある授業、分かる授業 等々

自律

・ 教室での「教科の学び」「教育内容(対象)と向き合い、教室内外の他者と向き合っているだけでなく、絶えず自分自身とも向き合っている」

(佐藤学 『学びの共同体』 1996)

つなげる生徒指導

・ 「社会的リテラシー」(生徒指導提要,2010)(社会で生きる力、社会的自立、生活実践力)

授業のなかに、知識や思考力を育て学力を高めるだけではなく、個性を伸ばし社会性を育むといった生徒指導の機能を取り入れる。

授業に内在する生徒指導

協働的な生徒指導体制の構築

組織的な生徒指導体制の例

校長

生徒指導担当者

教頭

生徒指導主事教務主任

学年主任

SC・SSW

教育相談主任

教育委員会

校区学校

地域

関係機関

養護教諭

教育相談担当者

特別支援教育コーディネーター

組織的対応の具体化①早期に問題や危機をひろいあげるシステムをつくる②問題状況を正確に把握する③対応の方針と目標設定を行う

・観察によって得られた情報の蓄積と整理(担任・教科担当・養護教諭・相談員・SC・校医 等)

・生活アンケートなどの活用④学校内の援助資源、地域の社会資源を活用する⑤チームで継続的に指導・援助する⑥錯綜する情報をまとめるキーパーソンを明確にする

(中・高=生徒指導主事、小=生徒指導主事、教頭等)⑦問題を学校全体のこととしてとらえる(共通理解)

協働的生徒指導体制の構築

情報冗長性情報を互いに持ち合う

協働性的生徒指導体制の構築

共通理解→共有→協働

個々の教師の特性(個性)を活かした取り組みを創造的に行う

「悩み」「願い」を職員間で共有取り組みを協働化

相補性互いを補いあう

全校の中での自己の役割

子どもを学校としてどう育てるか

積極的・機能的な生徒指導の展開

「同僚性」の再構築

「同僚性」をベースにした「協働性」形成

「同僚性」「協働性」を相互に高める視点

教師 教師

教師

教職員が職場でお互いに気楽に相談し・相談される、助ける・助けられる励まし・励まされることのできる人間的な関係をつくりだすこと。

「協働性」(collaboration)異なる専門分野の人間が共通の目的のために対話し、新たなものを生成するような形で協力して働くこと。

(参考:高橋典久・新井肇「同僚性をベースにした協働的生徒指導体制をどう構築するか」 『月刊生徒指導2008年8月号』学事出版)

「同僚性」(collegiality)

1 ネットワークを機能させるためには,日ごろから顔の見える関係をつくっておく

2 連携は生きものであり,使いながら,点検・工夫し,強化していく3 連携の基軸に,常に子ども置く(「その子にとって最もよいことは

何か」)4 連携がうまくいくには,つなぎ役となる人の存在が大きい5 関係者の連携能力(「ネットワークマインド」)を磨く

・自己の役割の固有性と限界性を知る・相互に相手についての基礎的知識をもつ・相手の立場を理解しながら,共に取り組もうという姿勢をもつ・関係者によるケーススタディを進める(具体的事例から学ぶ)

(参考:安藤博『子ども危機にどう向き合うか』 信山社,2004年)

関係機関との連携を進めるために

5 これからの生徒指導のめざすもの

包括的児童生徒指導援助

(最広義の生徒指導)

教育相談

特別活動地域連携

学級経営HR経営

道徳教育市民性教育

キャリア教育

生徒指導

guidance & counseling

行動

未来志向

内面

現在志向

広義の生徒指導の類型

生徒指導

教育相談

(キャリア教育)

進路指導

進路相談

行動

未来志向

内面

現在志向

生徒指導

教育相談

キャリア教育シチズンシップ

(市民性教育)

広義の生徒指導の類型

行動

未来志向

内面

現在志向生徒指導教育相談

キャリア教育シチズンシップ

(市民性)教育

未来志向の生徒指導の類型

行動

未来志向

内面

現在志向

社会的な広がりをもつ

自己指導の力

これからの生徒指導がめざすものGuidance と Counselingを相補的に機能させる

これからの生徒指導に求められる力

児童生徒の個別的理解と社会状況への理解(アセスメント力)

面接や介入における臨機応変で柔軟な対応(カウンセリング力)

同僚・関係機関との連携(コーディネート力)

学校目標・生徒指導目標の具体化と取組の組織化

(マネジメント力)

めざす力

つなぐ力

わかる力

いかす力

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