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保育政策が出生率に与える影響
EM132015 深井太洋
1
研究テーマ
• 保育所の整備が出生率に与える効果を分析する
• 修士論文では、出生率に与える効果を分析その後、女性の就業率、出産と就業の意思決定という段階で分析を発展させていく
2
研究の背景
• 日本の出生数は第2次ベビーブーム(1971年~1974年)以降低下を続けている
• 合計特殊出生率(Total Fertility Rate,以下TFR)も同様に低下を続け,2005年には過去最低となるTFR1.26を記録.
※合計特殊出生率:
「その年次の15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計
したもので、1人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生
の間に産むとしたときの子ども数に相当する.」(厚生労働省)
3
研究の背景
0
1
2
3
4
5
0
50
100
150
200
250
300
1947 1957 1967 1977 1987 1997 2007
合計特殊出生率(%)
出生数
万人 日本の出生数と合計特殊出生率の推移
出生数
合計特殊出生率
<データ出所>厚生労働省「人口動態調査」より筆者作成
4
研究の背景
• 2006年以降、日本のTFRは緩やかではあるが回復傾向にある.
• 特に、30~34歳の女性について、出生率が回復している。また、出生率と就業率の関係が負から正へと変化している.
→山重(2013)においても同様の指摘
• 出生率の高い先進国(アメリカや北欧)では,出生率と就業率に正の関係(Feyrer,2008)
5
研究の背景
1.2
1.25
1.3
1.35
1.4
1.45
1.5
1.55
1.61990年
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
合計特殊出生率(%)
2000年前後の合計特殊出生率の推移
データ出所:厚生労働省 「人口動態調査」 より筆者作成
6
研究の背景
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
8.30%
8.40%
8.50%
8.60%
8.70%
8.80%
8.90%
9.00%
9.10%
9.20%
9.30%
9.40%
56.00% 58.00% 60.00% 62.00% 64.00% 66.00% 68.00% 70.00%
出生率(%)
労働力率(労働力人口/推計人口) (%)
30~34歳女性 労働力率と出生率
データ出所:厚生労働省 「人口動態調査」、総務省「労働力調査」
国立社会保障・人口問題研究所 「人口統計資料集」より筆者作成
7
研究の背景
• 出生率は回復しているのか?
TFRの回復の要因
1. 晩婚化、晩産化の終息
2. 出生力の回復
• 出生力が回復しているとすれば,少子化に対する政策は効果を持っているのか?
• 少子化対策は1995年にはじまり,5年1期の計画で実行.特に保育所の整備を重点的に実施。
1995年~1999年 「エンゼルプラン」
2000年~2004年 「新エンゼルプラン」
2005年~2009年 「子ども・子育て応援プラン」
8
先行研究
• 保育所と出生率に関する数多くの研究
吉田・水落(2005)や樋口・松浦・佐藤(2007)において、認可
保育所の定員率と出産に正の関係
• 問題点
多くの先行研究では、保育所定員率などの整備状況を外生
変数として扱っている
→内生性によるバイアスの問題
9
先行研究
• 最近の研究では、内生性を考慮したパネルによる分析も行われている。
• 戸田(2007)では,1985年~2004年までの都道府県データを用いて、保育所定員率が合計特殊出生率に与える効果を分析→効果はないという結論
• 戸田(2007)の問題点
被説明変数を合計特殊出生率にしている点
説明変数の選択に疑問
• 淺野・山形(2010)では、2003年~2007年の都道府県データを使用してパネル分析→REの場合,保育所への需要が第2子への出生率に負の効果を持つと結論
• 淺野・山形(2010)の問題点
• 戸田(2007)と同様,被説明変数を合計特殊出生率としている点
• 期間が1年ごとであり,結果としてREを採用してしまっているのではないか
10
データ(主要変数)
• 地域別のデータが必要であるため、修士論文では政府の公表データを用いて分析を行う.
• 分析の期間
国勢調査に合わせ2000年、2010年の2年を対象とする
• 出生率に関して
「国勢調査」と「人口動態調査」を用いて出生率を計算。
• 保育所の統計に関して
「社会福祉施設等調査」を使用
※2010年にデータは、回収率が市場化テストにより下がっているため,観測誤差を考慮する必要がある
11
実証モデル
• 個人単位による以下の式を考える
• 個人単位の推定式を市町村別に集計し、平均をとることで市町村パネルデータとする
※市町村の合併については,2010年時点の市町村を基準として数値を足し合わせることで対応.
ijtjtijt uChildcareBirth γXijt10
timetprefecturejindividuali
Childcareotherwise
iifBirth
:,:,:
::0
1その他の変数保育所に関する変数
が出産X
jtjtjt uCildcareBirth γXjt10
12
分析の問題点
• 保育所の整備状況をどのような指標で測るか
保育所指標候補
① 保育所定員率(認可保育所定員/乳幼児数)
② 潜在定員率(認可保育所定員/20~40歳女性人口)宇南山,2011
それぞれの問題点
① 分母が乳幼児数であり、出産の結果の変数になっていること。
② 各市町村における女性の属性を等しく評価してしまっている。
⇒本研究では潜在定員率を使用
13
分析の問題点
• 保育所の整備状況に関する内生性の問題
保育所の定員等の整備状況は都道府県間で大きく異なる
→就業、出産意欲といった観察されない属性が、保育所の
整備状況と相関をもち,推定値にバイアスは生じる
• 内生性の問題への対応
パネルデータの特性を生かしてFEやFDで内生性を取り除く
14
分析の問題点
15
5.00%
5.50%
6.00%
6.50%
7.00%
7.50%
8.00%
8.50%
9.00%
9.50%
0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% 25.00% 30.00% 35.00% 40.00%
出生率(%)
潜在定員率(%)
2000年 25~29歳出生率と潜在定員率
-1.00%
-0.80%
-0.60%
-0.40%
-0.20%
0.00%
0.20%
0.40%
0.60%
0.80%
0.00% 1.00% 2.00% 3.00% 4.00% 5.00% 6.00% 7.00% 8.00% 9.00%
出生率の変化(%)
潜在定員率の変化(%)
25~29歳出生率の変化と潜在定員率の変化
2000年~2010年
分析の問題点
0.00%
10.00%
20.00%
30.00%
40.00%
50.00%
60.00%
北海
道青
森県
岩手
県宮
城県
秋田
県山
形県
福島
県茨
城県
栃木
県群
馬県
埼玉
県千
葉県
東京
都神
奈川
県新
潟県
富山
県石
川県
福井
県山
梨県
長野
県岐
阜県
静岡
県愛
知県
三重
県滋
賀県
京都
府大
阪府
兵庫
県奈
良県
和歌
山県
鳥取
県島
根県
岡山
県広
島県
山口
県徳
島県
香川
県愛
媛県
高知
県福
岡県
佐賀
県長
崎県
熊本
県大
分県
宮崎
県鹿
児島
県沖
縄県
保育所定員率
1995年における都道府県別保育所定員率(認可保育所定員/0~6歳児人口)
データ出所:総務省「国勢調査」、厚生労働省「社会福祉施設等調査」より筆者作成
16
17
Number of municipalities in sample
Mean Std. Dev. Min Max Mean Std. Dev. Min Max
Potential Capacity Ratio 0.111 0.068 0.016 1.364 0.130 0.071 0.017 1.429
Unemployment rate 0.048 0.013 0.005 0.157 0.064 0.015 0.007 0.227
Women aged 25-29
Birth rate 0.098 0.021 0.032 0.279 0.085 0.020 0.000 0.286
Labor force participation 0.651 0.041 0.396 1.000 0.671 0.048 0.421 1.000
Work mainly 0.562 0.044 0.302 1.000 0.585 0.044 0.205 1.000
Household mainly 0.071 0.012 0.000 0.236 0.061 0.014 0.000 0.432
Technical school/junior college 0.331 0.046 0.105 0.500 0.247 0.048 0.083 0.833
college 0.161 0.060 0.000 0.500 0.259 0.075 0.000 0.524
Women aged 30-34
Birth rate 0.091 0.011 0.000 0.231 0.093 0.012 0.000 0.500
Labor force participation 0.537 0.067 0.369 1.000 0.606 0.059 0.486 0.902
Work mainly 0.397 0.067 0.167 0.800 0.472 0.057 0.143 0.857
Household mainly 0.123 0.028 0.017 0.403 0.106 0.024 0.000 0.651
Technical school/junior college 0.304 0.053 0.064 0.556 0.300 0.047 0.120 0.833
college 0.135 0.061 0.000 0.400 0.215 0.068 0.000 0.471
Women aged 35-39
Birth rate 0.031 0.006 0.000 0.111 0.046 0.007 0.000 0.250
Labor force participation 0.577 0.089 0.387 0.923 0.604 0.075 0.357 1.000
Work mainly 0.370 0.092 0.188 0.812 0.426 0.076 0.000 1.000
Household mainly 0.197 0.043 0.044 0.477 0.161 0.035 0.000 0.635
Technical school/junior college 0.286 0.052 0.000 0.545 0.311 0.045 0.000 0.538
college 0.126 0.061 0.000 0.382 0.159 0.057 0.010 1.000
2000 2010
SAMPLE STATISTICS, 2000 and 2010
TABLEⅠ
1664 1664
18
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
Potential capacity ratio 0.047 0.035 -0.285 -0.058 0.016 0.015 0.021 -0.033 0.009 0.019 0.282 0.070
(0.004) (0.004) (0.014) (0.015) (0.003) (0.003) (0.010) (0.011) (0.002) (0.002) (0.015) (0.013)
-0.010 0.005 0.043 -0.014 0.037 -0.061
(0.007) (0.007) (0.006) (0.005) (0.004) (0.016)
-0.107 -0.055 0.026 0.065 0.051 0.247
(0.006) (0.008) (0.007) (0.006) (0.005) (0.017)
Unemployment rate -0.270 -0.241 -0.208 -0.145 0.113 0.243
(0.022) (0.030) (0.018) (0.021) (0.011) (0.037)
Hausman(chi2) 67.150 -69.090 -2079.830
N 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664
Estimated cluster robust standard errors are in parentheses
TABLE Ⅱ
Estimates of the Association between Childcare Availability and Birthrate
Education level
16≦educ
Birthrate of women aged 25-29
Education level
12≦educ≦14
Birthrate of women aged 30-34 Birthrate of women aged 35-39
RE FE RE FE RE FE
19
LFP Work Household LFP Work Household LFP Work Household
Potential capacity ratio 0.076 0.054 -0.016 0.216 0.173 0.000 0.279 0.347 -0.116
(0.040) (0.037) (0.011) (0.037) (0.035) (0.018) (0.044) (0.047) (0.025)
0.480 0.426 0.048 0.261 0.277 -0.017 0.141 0.151 0.002
(0.033) (0.029) (0.006) (0.027) (0.025) (0.018) (0.037) (0.040) (0.039)
0.686 0.645 -0.018 0.810 0.790 -0.102 0.515 0.822 -0.437
(0.032) (0.030) (0.006) (0.031) (0.027) (0.015) (0.065) (0.063) (0.045)
Unemployment rate -0.436 -0.301 -0.165 0.041 0.467 -0.439 0.316 1.157 -0.962
(0.111) (0.103) (0.022) (0.120) (0.107) (0.060) (0.102) (0.111) (0.088)
N 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664 1664
Estimated cluster robust standard errors are in parentheses
TABLE Ⅲ
Estimates of the Association between Childcare availability and Female Employment
Education level
12≦educ≦14
Education level
16≦educ
Women aged 25-29 Women aged 30-34 Women aged 35-39
FE FE FE
20
FE FE FE
Potential capacity ratio -0.155 -0.067 0.199
(0.052) (0.035) (0.046)
0.017 -0.003 -0.111
(0.015) (0.007) (0.037)
-0.031 0.078 0.261
(0.020) (0.014) (0.043)
Unemployment rate -0.171 -0.139 0.125
(0.060) (0.045) (0.079)
N 106 106 106
Estimated cluster robust standard errors are in parentheses
TABLE Ⅳ
Estimates of the Association between Childcare availability and Birthrate
Education level
12≦educ≦14
Education level
16≦educ
Birthrate of women
aged 25-29
Birthrate of women
aged 30-34
Birthrate of women
aged 35-39
分析
• 25~29歳では有意に負の係数
→働きながら子供を育てる環境が整うことにより,仕事
が落ち着くまで出産を先延ばしにする人が増えた?
• 30~34歳では有意に負の係数
→これまで仕事を辞めて2人目,3人目を出産していた人
が,「就業継続+子供1人」という組み合わせに変わっ
た?
• 35~39歳では有意に正の係数
→これまで出産を諦めていた人が子供を持つようになっ
た?
21
分析
• 世帯構成や産業構造などをコントロール出来ていないため,25~34歳について負の係数が出ているのではないか?
• 保育所の定員増ではなく,人口の減少によって潜在定員率が増えているのではないか?
22
分析
• 潜在定員率の変化を「定員の変化」と「人口の変化」の2つの要因に分解
• 右辺,左の括弧内を「定員要因」,右の括弧内を「人口要因」とする
23
2000
2000
2010
2000
2010
20002010
2000
2000
2010
2010
F
C
F
C
F
CC
F
C
F
C
歳女性人口~期の:期の保育所定員, 4420: tFtC tt
24
y = 0.0805x + 0.0214R² = 0.1499
0.00%
1.00%
2.00%
3.00%
4.00%
5.00%
6.00%
7.00%
8.00%
9.00%
0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% 25.00% 30.00% 35.00% 40.00%
潜在定員率の変化(%)
潜在定員率(%)
2000年時点の潜在定員率と潜在定員率の変化
25
y = 0.181x - 0.0057R² = 0.6787
-1.00%
0.00%
1.00%
2.00%
3.00%
4.00%
5.00%
6.00%
7.00%
8.00%
0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% 25.00% 30.00% 35.00% 40.00%
人口要因(%)
潜在定員率(%)
2000年時点における潜在定員率と人口要因
26
y = -0.1127x - 0.0197R² = 0.452
-7.00%
-6.00%
-5.00%
-4.00%
-3.00%
-2.00%
-1.00%
0.00%
0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% 25.00% 30.00% 35.00% 40.00%
出生率の変化(%)
潜在定員率(%)
25~29歳出生率の変化と2000年時点の潜在定員率
27
y = -0.0127x + 0.0034R² = 0.0216
-1.50%
-1.00%
-0.50%
0.00%
0.50%
1.00%
1.50%
0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% 25.00% 30.00% 35.00% 40.00%
出生率の変化(%)
潜在定員率(%)
30~34歳出生率の変化と2000年時点の潜在定員率
28
y = -0.0003x + 0.0138R² = 3E-05
0.00%
0.50%
1.00%
1.50%
2.00%
2.50%
0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% 25.00% 30.00% 35.00% 40.00%
出生率の変化(%)
潜在定員率(%)
35~39歳出生率の変化と2000年時点の潜在定員率
分析の課題
• 保育所が整備されていたような地方において,出生率が下がっている
• そのような地域では,人口が大きく減っているため潜在定員率は上がってしまう
⇒保育所の整備と出生率の間の負の関係
• 世帯構成や産業構造などをコントロールする必要性
29
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