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電気現場 2019・8 電気現場 2019・842 43

懐かしき尾瀬と両座への登山歴尾瀬に初めて行ったのは大学一年のサークル活動

の時だった。その時は夜行バスで至仏山,燧ヶ岳が東西に見える尾瀬ヶ原を散策し水芭蕉と瑞々しい清流と新緑が印象的だった。国立公園のなかの広い沼地に木道が整備されて運動靴で歩き,疲れたら休む。そんな快晴で清々しい夏だった。全国から集まった,ややひ弱に見えた新入学生も,一緒に汗をかきつつ「遥かな尾瀬」を口づさみつつ開放的な雰囲気で歩き,仲良くなった。四方の山荘で休憩できたのも安心だった。筆者と同じく尾瀬ヶ原,尾瀬沼を散策して尾瀬のリピーターになったり登山に目覚め燧ヶ岳や至仏山のトレッキングに興味を持たれる若者も多いのではないだろうか。東京電力に入社してからは,東電グループが尾瀬

を守り尾瀬の木道や登山道やO&M(運営保守)をしていることを知り誇りに思った。長い厳冬期の積雪期を経て山開きをするまで一年中だから,苦労も並大抵ではないだろう。今は尾瀬林業が合併して東京パワーテクノロジー(TPT)が山小屋を経営して木道等を整備し生態系を守る実務をしている。今年2月のNHK9時のニュースでスキーを履いて

何メートルも積もった雪をラッセルし小屋泊まりするTPT社員の勇姿を見た。東京電力グループをあげて尾瀬の自然ビオトープを厳冬期も守っていることに感心した。こうして筆者も尾瀬ケ原には行く機会はあったが,

山登りは311事故(東日本大震災と福島第一原子力事故)の2011年に初めて出かけた。真夏の法事で墓参りに出かけ,急に思いついて仏と名のつく山を目指した。至仏山である。当時は山岳地への放射線の影響がマスコミにも取り上げられており,私もポケット放射線量計をバッグに入れつつ尾瀬ケ原や山岳地帯のデータを記録しつつ,山頂に立った。前日は木造りの二段ベッドの至仏山荘に泊まった。山ノ鼻からの順コースである。その時は急に思い立ったので,普通の運動靴で歩いた。二回目は百名山を目指すなかで福島除染の仲間と

TPTの尾瀬林業事業所(戸倉)を訪問し所長と会談しTPT経営の山小屋(尾瀬沼山荘)に泊まり翌日,燧ヶ岳を登頂した。これらは夏山だったが,2019年の5月GWには

至仏山へと残雪登山(鳩待峠からの逆コース)を決行した。アイゼン,ストックとスパッツを履いて出かけた。2日前に天気予報をみて登山を決めたため東電の山小屋は満員であった。そこで戸倉の民宿が一室空いていたため泊まり,ゆったり出かけた。前日は雷雨だったが当日は快晴だった。これまで登頂した百名山の越後三山等の雪山山頂をパノラマ遠景できたのはラッキーであった。今回は,至近の両座登頂のヤマレコを紹介したい。

なお,両座の関係する尾瀬国立公園については,東京電力やTPTの専門家の皆様に貴重な資料も解説いただき,貴重な写真も見せていただき助かった。持ち歩いている尾瀬ノートの解説書も勉強になっている。

尾瀬の魅力と多面的ルート尾瀬ケ原の周囲に至仏山,燧ヶ岳を始め標高ニ千

㍍の山々を擁する尾瀬国立公園。福島,群馬,新潟,栃木の4県にまたがる広大なビオトープである。5月中旬までは厳冬期のころからの数㍍の積雪は

なかなか溶けない。しかしそのあとは6月上旬までのミズバショウや7月のニッコウキスゲなど百花繚乱の高山植物が次々と咲き誇り新緑・深緑の季節が急に到来する。秋はナナカマドなどの紅葉も見事である。その変化の激しさも尾瀬の魅力ではないか。「静かな尾瀬,遠い空」ののどかさに加えて,火山噴火によって隆起した山岳地帯の大自然のダイナミックさもあるのである。尾瀬に行く主要ルートは3つある。首都圏からは,

群馬県側沼田口,東北からは福島県側会津(檜枝岐)口,また日本海側からの新潟県側奥只見口である。尾瀬は湿原などの木道トレッキングで賑わってい

るが尾瀬ケ原からみた燧ヶ岳,至仏山に登山する健脚者も多い。百名山を目指す岳人は近隣の会津駒ケ岳,平ケ岳,武尊山などとセットで登山をする仲間たちもいる。友人は昨年8月に燧ケ岳に登攀したが会津高原尾瀬口駅,駅からバスで尾瀬御池,御池ロッジ宿泊というコースだった。尾瀬は山小屋に恵まれている。東京電力グループ

のTPTが経営している5つの山荘があるからだ。筆者は至仏山荘と尾瀬沼山荘に一泊して至仏山,燧ヶ岳に登頂した。歩き疲れたときに鳩待峠等の山荘にも立ち寄った。この5月連休には人気の山小屋が満員のため戸倉の民宿に泊まって,鳩待山荘で登山準備して残雪の至仏山にアイゼンを履いて登り,急坂を慎重に下った後,至仏山荘でゆっくり昼食をとった。ウォシュレット付きトイレと湯船がある登山はリラックスできて嬉しい。次は元湯山荘か東電小屋に泊まって三条の滝見を

しつつ燧ヶ岳に登りその後,久しぶりに桧枝岐や御池でゆっくりしたいものだ。

尾瀬至仏山,燧ヶ岳のヤマレコ⑴ 至仏山(標高2228m)2011年8月12~13日,2019年5月4~5日 の2回分。2011年:真夏の順コース。鳩待峠→至仏山荘→至仏山→小至仏山→鳩待峠。4時間31分2019年:残雪の逆コース。鳩待峠→小至仏山→至仏山→至仏山荘→鳩待峠。6時間20分(昼食,休憩含む)<登頂可能時期>5月GWの残雪期のみトレッキング可能(逆コースも可能)。7月~は順コースのみトレッキングできる(逆コースは滑落の危険あり)。距離10.7km,標高差635m。●2011年8月12~13日 快晴・8月12日松本から沼田駅で,登山専用バスで戸倉着。戸倉から鳩待峠に専用車両。鳩待峠から至仏山荘着。二階の木造りベッドタイプ。尾瀬ヶ原を散策した。・8月13日 9:12 至仏山荘発。 9:16 山の鼻。登山道入り口。11:22 木道。11:57 至仏山。12:40 小至仏山。13:47 �鳩待山荘着(休憩。山バッジ,尾瀬タオ

ル購入し珈琲で一服)。●2019年5月4~5日 快晴・5月4日沼田駅前の馴染みの喫茶で珈琲を味わい,登山専用バスで戸倉着。戸倉の民宿一仙泊(TPT尾瀬事業所隣接)。戸倉付近を散策。民宿で地元の鮎,舞茸,山菜な

山と電気の風景論 �尾瀬至仏山,燧ヶ岳の残雪ウオーク,真夏トレッキング~遥かな尾瀬ヶ原・沼と急峻な火山噴火隆起の対照美~

セリングビジョン㈱ 代表取締役 岡部 秀也

東北以北で最高峰の燧ヶ岳

尾瀬ヶ原と至仏山

尾瀬国立公園の地図

鳩待山荘が至仏山への起点

電気現場 2019・8 電気現場 2019・844 45

⑵ 燧ヶ岳(標高2356m)東北地方以北で最高峰(双耳峰)。距離13.1km,

標高差1166m。30日の登頂,上り:ナデッ窪直登コース,下り:

長英道コース。●2014年8月29~30日 曇り,小雨・8月29日【行路】12:30戸倉→12:45大清水(エコドライブ車)

…13:00一ノ瀬休憩所→13:35三平峠→13:53尾瀬沼山荘→尾瀬沼周回へ出発…14:10~14:25ビジターセンター…尾瀬沼周回し,16:05尾瀬沼山荘着,泊(地産の鮎の塩漬けが珍味!!)。仕事仲間と沼田駅からレンタカーで,戸倉のTPT

尾瀬林業事業所長に挨拶訪問をしつつ,尾瀬の歴史と登山の天候,留意点などをご教示いただいた。その後は,大清水まで行き,レンタカーを駐車し,

そこから一ノ瀬まで登山専用エコドライブ車で行った。そしてTPT尾瀬沼山荘や,ビジターセンターに立ち寄りつつ,尾瀬沼を周回した。風呂(環境保護のため石鹸は無し)に入り温まり,

仲間と明日の登山の無事を祈って前夜祭。個室で過ごしやすい。明日に備え,19:45就寝。・8月30日栄養ある美味しい朝食をいただき,登山道具をそろえ,いざ出発。ガスが出て午後は雨天模様のため,先を急ぐ。往路ナデッ窪コース,帰路長英新道コース(ナデッ窪は,雪崩ッ窪が訛ってできた。文字通り,雪崩の窪地で息が切れる直登で結構しんどかった)。【行程】5:30山荘発→5:50~6:00ビジターセンター→6:30浅湖湿原登山口→ナデッ窪(3回ほど休憩と展望写真)→9:15~9:30俎嵓(まないたぐら2290m)→9:50~10:00柴安嵓(しばやすぐら燧ヶ岳山頂2236m)→長英新道→浅湖湿原→尾瀬沼ビジターセンター→12:20~13:00尾瀬沼山荘→三平峠→14:00~14:30一ノ瀬休憩所(専用バン車)…14:55大清水。早朝に弁当をもって山荘を出発し,尾瀬沼沿いを巡り,沼尻から湿原登山口を入り,樹林帯を越えるとゴロゴロ岩やダケカンバ等の笹薮や大木の根の急

どで明日のスタミナつける。書道「仏心」に見入る。民宿の鉱泉風呂も湯加減がいい。登山者と会談。日光白根山,至仏山を連チャンで登った夫婦,今日も明日も至仏山を滑る年配者もいた。当日は,多摩や埼玉で雹や豪雨で尾瀬も黒雲で雷雨があったとか。明日は15時までなら天気持ちそうで安心。・5月5日民宿で十分な朝食をとる。ピーナツバター,赤味

噌,カタクチイワシでカルシウムも摂取。 6:30 戸倉尾瀬出発バス停。 7:10 �鳩待山荘着(山奥は5mくらい積雪あり,

アイゼンを履く)。 7:25 登山開始。

原見岩,オヤマ沢田代でパノラマ写真。燧ヶ岳,会津駒ヶ岳,武尊山,谷川岳などが眩しいほどクリアに見えた。

9:26 子至仏岳をトラバース。 9:40~10:00 至仏岳頂上。写真撮る。尾瀬ケ原,尾瀬沼,燧ヶ岳,会津駒ヶ

岳,越後三山,平ヶ岳,日光白根山,皇海山,巻機山等をパノラマ動画撮影できた。10:25 高天ヶ原。アイゼン外す夏道。10:45 �急坂の雪原。アイゼン装着(ヒップそり

会場とも言われる)。11:45~12:15 至仏山荘(山の鼻)。名物豚

汁,花豆ソフト,ビール。13:45 �鳩待峠着。登山終了。鳩待小屋で15分

休憩。14:35 �戸倉尾瀬出発バス停。戸倉の温泉でリ

ラックス。15:12 戸倉発バス。16:40 沼田着。

GWの快晴日は大勢の岳人が

山頂より尾瀬ヶ原,燧ヶ岳を目印に雪山歩行

雪のなかでのテント泊のツワモノも

TPTの至仏山荘で

尾瀬沼一周ウオーク

燧ヶ岳頂上の柴安嵓

尾瀬沼の避難小屋に水利権表示板

宿泊し,帰路も寄った尾瀬沼山荘で。真ん中が山荘支配人

電気現場 2019・846

登に入った。登りにくく汗をかきつつの短期決戦の登りで,尾瀬沼の景色も素晴らしく3回ほど休憩し写真を撮り給水した。双耳峰の俎嵓でガスの中,一呼吸おいて,きつく狭い急登道を最高峰の柴安嵓に立った。景色は,雲とガスがかかっていたが,ガスが時々切れた合間の尾瀬ヶ原や至仏山方面の景色は圧巻であった。帰路は,長英新道の泥と段差のある木道を歩むが,

途中で雨も降り,スパッツは泥だらけとなってしまった。その中で,紫のオヤマリンドウ,黄色いキリンソウの高山植物を見て癒された。尾瀬沼山荘では,名物花豆ソフトクリームを食べ,尾瀬グッズを求め,山荘支配人と記念撮影した。山荘からは,小雨のなか,木道は滑りやすかったが,一回だけ尻もちをついただけで,一ノ瀬に到着した。大清水からは,レンタカーで老神温泉,吹割の滝

などを見つつ,湯元華亭で日帰り入浴。沼田駅で登山仲間と地元の舞茸天ぷら,日本蕎麦,ビールで打ち上げを行った。

三県にまたがる尾瀬を守る東京電力,東京パワーテクノロジー陸地に占める森林の面積は世界全体で30%だが,

日本は67%と先進国では3本の指に入るという。とくに生態系を保護されている広大な尾瀬の湿原や森に入るにつれ私たちが入手した文明や,それに依拠した自分自身が,自然の原点に近づいていく気がする。尾瀬の湿原や森にいると太古の自然のリズムが聞こえそうな気になる。尾瀬を歩き,登り,残雪や渓流に触れ,森林やお

花畑を見ると,都心での仕事や生活の緊張感が一気に解ける思いにもなる。都会に生活して太古の森をみて歩くと原点に戻るような遠い記憶が呼び起こさ

れるのだろうか。多くの方々がスポーツシューズや登山靴を履い

て,軽いザックを背負って尾瀬を目指す。雪解けの頃に咲く水芭蕉の6月頃は特に入山者が多いと聞いた。ここは,空気が澄んで都心に近く,心が安らぐオアシスでもある。一方,険しい火山帯でもあり,35万年前から噴火を繰り返し,500年前にも爆裂した燧ヶ岳は,荒々しい噴火跡を残している。噴火が尾瀬を生み出したという。「尾瀬ヶ原は,数万年前,至仏山等の山々に囲まれた谷間だったが,燧ヶ岳の噴火で川がせき止められ湖となって,約一万年前にいくつもの川が流れて土砂が堆積し平野となった。その後の洪水や積雪で湿原となったと考えられる」(TPTの友人)。東京電力,TPTでは,この尾瀬の生態系を環境保

護している。その活動の成果として世界的なラムサール条約の

なかで,尾瀬は水鳥も生息する重要な湿地であり,本州最大の高層湿原として登録された。また尾瀬戸倉の山林は国際森林認証(FSC)を2010年に取得している。また至仏山,燧ヶ岳を含む尾瀬は群馬県,福島県,

新潟県にまたがる地域社会との関わりをもち,三県知事が集まる尾瀬サミットも毎年行われるように至っている。エネルギー資源の活用については,尾瀬ヶ原,尾

瀬沼に雪解け水が溜まり,群馬側では清流となって戸倉から片品川に導水され,利根川水系の水力発電所の水資源となり,福島・新潟方面では只見川から阿賀野川水系の水力発電所を形成している。もちろん,両座の裏側に流れる水流は,奈良俣ダム,藤原ダムや八木沢ダム等に注がれて水力発電や生活・農業用水にもなっている。たとえば,東京電

力では,戸倉発電所(出力8,800kW),栓ノ滝発電所(2,800kW),鎌田発電所(11,800kW)等に使われる。さらに下流では,幡谷発電所(9,000kW),岩室発 電 所(19,600kW), 上久屋発電所(19,000kW),伏田発電所(13,000kW)等となり利根川に入り込む。只見川では下流に平滑の滝と三条の滝の絶景スポットがある。会津方面に水流が下り,東北電力やJパワーが流れ込み式や揚水発電所として活用されている。

燧ヶ岳からの三条の滝 群馬沼田付近の水力発電所

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