―地域貢献を中心として―...のできるインフォーマルな人間関係が重要である(中村2005)(5)。母親がネットワークを...

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33 総合文化研究所年報 第26号(2018)pp.33−42 大学における保育者養成の現状と課題 ―地域貢献を中心として― 荘司 紀子 〈要旨〉 本論の目的は、大学(短期大学を含む)の保育者養成教育に求められる地域貢献の あり方を考察し、今後の課題を明らかにすることにある。「地域貢献」というものの 捉え方が「大学が一方的に地域に貢献する」という従来の考え方から、「地域は研究・ 教育の宝庫であり、大学は地域の中に潜在する教育力を学生の学びに活かし、学生の 力を地域の再生と発展に活かす」という考え方に変換されてきている。保育者養成教 育を行っている大学に求められる地域貢献としては、やはり保育・子育てに関する教 育研究成果を社会に還元することであると考える。 そのような保育者養成教育を行う大学の地域貢献の一つの姿として、「子育て支援」 を挙げ他大学における「子育て広場」を調査した際の資料や説明などから、分析を試 みた。その結果、地域に根ざし、地域に貢献する大学をめざすために、保育者養成教 育を行っている大学に求められる地域貢献は、保育・子育てに関する教育研究成果を 社会に還元することが明らかになった。その一つの具体的な策として、学生と教員と 地域の人々が共に学び合い、育ち合える場をつくることが必要なのではないかと考え る。 キーワード:地域貢献、子育て支援、子育て広場、学び合い はじめに 本プロジェクトは、大学教育における教員養成の実状を調査し、青山学院女子短期大学 における教員養成や保育者養成の課題を明らかにするために、2016年度から2年計画で始 めたプロジェクトである。 本論では、大学(短期大学を含む)の保育者養成教育に求められる地域貢献のあり方を 考察し、今後の課題を明らかにするために、Ⅰ.大学に求められる地域貢献とは、Ⅱ.保 育者養成教育に求められる地域貢献とは、Ⅲ.大学と地域社会の連携とは、と3つの観点 から考察する。特に、地域貢献については、他大学の現地調査から明らかになったことを もとに、今後の課題や地域貢献のあり方を探る。

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■ 総合文化研究所年報 第25号(2017)pp.PB −1 ■ 総合文化研究所年報 第26号(2018)pp.33−42

大学における保育者養成の現状と課題―地域貢献を中心として―

荘司 紀子

〈要旨〉 本論の目的は、大学(短期大学を含む)の保育者養成教育に求められる地域貢献のあり方を考察し、今後の課題を明らかにすることにある。「地域貢献」というものの捉え方が「大学が一方的に地域に貢献する」という従来の考え方から、「地域は研究・教育の宝庫であり、大学は地域の中に潜在する教育力を学生の学びに活かし、学生の力を地域の再生と発展に活かす」という考え方に変換されてきている。保育者養成教育を行っている大学に求められる地域貢献としては、やはり保育・子育てに関する教育研究成果を社会に還元することであると考える。 そのような保育者養成教育を行う大学の地域貢献の一つの姿として、「子育て支援」を挙げ他大学における「子育て広場」を調査した際の資料や説明などから、分析を試みた。その結果、地域に根ざし、地域に貢献する大学をめざすために、保育者養成教育を行っている大学に求められる地域貢献は、保育・子育てに関する教育研究成果を社会に還元することが明らかになった。その一つの具体的な策として、学生と教員と地域の人々が共に学び合い、育ち合える場をつくることが必要なのではないかと考える。

キーワード:地域貢献、子育て支援、子育て広場、学び合い

はじめに

本プロジェクトは、大学教育における教員養成の実状を調査し、青山学院女子短期大学における教員養成や保育者養成の課題を明らかにするために、2016年度から2年計画で始めたプロジェクトである。本論では、大学(短期大学を含む)の保育者養成教育に求められる地域貢献のあり方を

考察し、今後の課題を明らかにするために、Ⅰ.大学に求められる地域貢献とは、Ⅱ.保育者養成教育に求められる地域貢献とは、Ⅲ.大学と地域社会の連携とは、と3つの観点から考察する。特に、地域貢献については、他大学の現地調査から明らかになったことをもとに、今後の課題や地域貢献のあり方を探る。

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Ⅰ.大学に求められる地域貢献とは

1.求められる大学の社会貢献について

2007年度に「学校教育法」が改正され、「大学は教育研究を行い、成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与(第83条第2項)」し、教育研究の成果の普及および活用の推進に資するため、その教育研究活動の状況を公表(第113条)」することが求められるようになった。また2009年度に出された文部科学省中央教育審議会大学分科会の「中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告―大学教育の構造転換に向けて―」において、大学を取り巻く環境が大きく変化する中、「将来像答申」では次の7つの機能別分化の項目が挙げられている。①世界的研究・教育拠点②高度専門職業人養成③幅広い職業人養成④総合的教養教育⑤特定の専門分野(芸術、体育等)の教育・研究⑥地域の生涯学習機会の拠点⑦社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等)

ここで言う「社会貢献」とは、広義には教育研究の成果を社会に還元していく様々な活動が含まれるとされている。また、文部科学省は、2013年度、国内の大学を対象として「大学COC事業」(1)を開始

した。この事業の正式名は「大学の地(知)の拠点整備事業」で、「大学の地域社会との連携強化による地域の課題解決」や「地域振興策を視野に入れた取り組みをバックアップする政策」の一環として行われた。この事業に参加する大学は、「地域のための大学」として位置づけられ、「大学が地域の要請にどう応えているか」「地域の中でどのような役割を果たしているか」といった地域貢献の取り組みが評価される。すなわち大学は、「地域の抱える課題を自らの課題として引き受け、当事者として主体的に取り組まなければならない存在」となっているのである。文部科学省では、「急激な少子高齢化の進行、地域コミュニティの衰退、グローバル化によるボーダレス化、新興国の台頭による国際競争激化など社会の急激な変化や、東日本大震災という国難に直面した日本が、持続的に発展し活力のある地域社会を目指した改革の中核的な存在として大学イノベーションを求めざるを得なくなった」とこの事業の背景を説明している。つまり、社会の大きな変化が、これまで大学に求められていたこととは少し違う方向に舵をきったということである。これまでの大学はどちらかというと大学の内での研究・教育が主で(もちろん、そのことを極めることが社会に対して知を還元していたのだが)知は大学の内で育てられ外に発信され、地域とは間接的につながっていくといったものだった。しかし、これから求められる大学は、

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知は大学の内でも外でも育てられ発信され、地域とは直接的につながっていくということである。「地域貢献」というものの捉え方が「大学が一方的に地域に貢献する」という従来の考え方から、「地域は研究・教育の宝庫であり、大学は地域の中に潜在する教育力を学生の学びに活かし、学生の力を地域の再生と発展に活かすという考え方に変換されてきている。つまり、地域と大学が学生の教育のために手を携え、学び合う関係になるということである。」(2)

現在、このような新しい考え方の地域貢献を実践している大学は理系分野、文系分野を問わず数多くある。他大学の実践事例については、後の節で述べることにする。

Ⅱ.保育者養成教育に求められる地域貢献とは

保育者養成教育を行っている大学に求められる地域貢献としては、やはり保育・子育てに関する教育研究成果を社会に還元することであると考える。何故なら、保育者養成教育の中心にあるのは、子どもの発達心理、歴史や文化や芸術、教育・保育・福祉などの専門分野に留まらず、人間社会における様々な問題を探究する知の宝庫だからである。また、子どもたちの将来を担う学生たちが理論と実践を学ぶ場所としても重要な役割を果たしている。そのような保育者養成教育を行う大学の地域貢献の一つの姿として、「子育て支援」が挙げられる。本章では、モデルとなる子育て広場におけるネットワークづくりの仮説を基に、他大学

による子育て広場を対象に分析を行い、子育て広場の機能とその果たす役割について現状と課題を考察し、大学が地域社会に根ざした子育て支援における地域貢献の可能性を探る。

1.子育て支援における地域貢献

子育てを取り巻く社会的・文化的環境の著しい変化により、日本では子育てを行うことがより難しい状況となってきている。特に、都市部においては、地縁・血縁のサポートシステムが弱体化し、その結果、世代間の子育ての伝承が断たれてしまい、身近でちょっとした手助けや相談にのってくれる人もおらず、仕事のために帰宅時間が遅い父親の育児参加の困難もあって、子育てを一人で担っている母親たちが増えている。子育ての孤立化により、母親たちの育児不安が高じていることが懸念される(垣内、櫻谷2001)(3)。こうした状況のなかで、行政によって「新エンゼルプラン」「少子化対策プラスワン」「次世代育成支援対策推進法」「少子化社会対策基本法」「子ども・子育て応援プラン(新新エンゼルプラン)」などが次々と策定され、その中で、子育て中の親子が集まって相談・情報交換・交流ができる「つどいの広場」の設置の重要性が指摘され(4)、各地域で様々な「つどいの広場」の取り組みが行われるようになっている。「つどいの広場」はそれぞれの地域で、「子

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育てサロン」と呼ばれたり、「子育てサークル」や「子育て広場」と名づけられたりしている。ここでは、「子育てを中心としたつどいの広場」としての機能を発揮しているという意味で、「子育て広場」という呼び名を使うことにする。多かれ少なかれ子育ての悩みを抱いている母親にとっては、気軽に悩みを吐き出すこと

のできるインフォーマルな人間関係が重要である(中村2005)(5)。母親がネットワークを通じての少しの支えを得ることができれば、子どもを楽しく育てることができ、子どもも健康的に育つことができると思われる。特に、ここでは、子育てを一人で担い、子育ての孤立化の状況に陥りやすいと思われる在宅で子育てをしている母親への支援の場としての大学における地域の子育て広場の存在に着目する。

2.子育て広場におけるネットワークづくりの仮説

筆者は、子育て広場に関する研究論文(6)の中で、子育て広場におけるネットワークづくりの仮説として、先駆的な3つの子育て広場の特徴をあげ、共通しているものを抽出し、分類した9つの要素に基づいて参加者と支援者の側に分けて一覧にした。(同上 P36)

表1 子育て広場におけるネットワークづくりの仮説○参加者の側から

a仲間づくり 参加者がいろいろな年代の人や多くの人と自由で気軽に交流する中で顔見知りが得られる

b居場所づくり 参加者がそれぞれに時間、空間の自由が保障され、ほっとできる場が得られる

c地域づくり 参加者が日常暮らしている地域でのつながりが得られる

dプログラム 参加者が主体的に取り組める遊びや学びの活動が得られる

e情報 参加者が必要なときに利用したり交換したりできる情報が得られる

f相談 参加者が自然なかかわりの中での気軽な相談と個別的な悩みに応じる相談が得られる

○支援者の側から

g成員性 参加者の主体性、自発性を重んじ成員としての参加を促す

h�エンパワーメント

参加者の潜在的な育つ力を信じ、促進し強める

i予防連携 参加者の問題を未然に予防したり、専門家や専門機関と連携をはかったりする

この中で「地域づくり」に着目すると、「参加者が日常暮らしている地域でのつながりが得られる」ことを要素として、以下のように考察している。(同上 P138)

c.地域づくり「Dのおうち」では、商店街と連携して地域の活性化をはかるという地域づくりを目

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標に大きく掲げている。「ふらっとB」では、顔見知りになった近隣者が地域に新たな子育てネットワークをつくり、地域全体で安心して子育てできる社会を構築するとしている。この地域づくりという視点をもつか否かで、子育て広場の内容が変わってくると思われる。つまり、地域づくりは、子育て広場の中の人だけがつながればいいのではなく、子育て広場で培われた参加者同士のつながりが広場の外の地域に広がり、子育て広場自体が外とつながるということである。そのつながりが地域社会の力になり、子育てを通して、地域社会をみんなで支え合う環境にしていこうとする意識を明確にもっていることが重要なのである。このような地域社会の力は、子育てをしている家庭だけにとどまらず、障がい者、高齢者などすべての人々がお互いに助け合い、支え合うことのできる社会の実現につながると考えられる。地域社会において人間関係を構築することが困難になった状況にあって、子育て広場は、地域づくりの新たな共同体としての核となりうる存在として注目される。

これは、子育て広場の視点から地域社会とのつながりを考察したものであるが、大学が子育て広場にかかわることで得られる地域社会とのつながりでもあると考える。そこで、この仮説に従い、他大学における子育て広場を調査した際の資料や説明などから、分析を試みることにする。

3.大学における子育て広場の実践事例

2016年度と2017年度の総研プロジェクトで行った現地調査の中から、①西南学院大学『せいなん*早良区西南子どもプラザ』と②北陸学園大学『ほくりくがくいんだいがく「赤ちゃん・サロン」』の2つの実践事例を取り上げる。

①西南学院大学『せいなん*早良区西南子どもプラザ』 所在地:福岡県福岡市早良区西新3-12-14 視察訪問時期:2016年9月13日(火) 視察訪問者:浅見均 岸井慶子 荘司紀子 施設の概要:    〈当施設パンフレットより引用〉     【対象】     0才から就学前の乳幼児とその保護者。     妊婦や付き添い者。※母子手帳をご提示ください。     区外・市外の方もご利用いただけます。     予約の必要はありません。     【利用料】     無料

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     【内容他】『子どもプラザ』は乳幼児とその保護者がいつでも自由に訪問して、遊ぶことができる場所として “日本一子育てしやすいまち ”をめざして福岡市が各区に開設しています。福岡市と西南学院大学が協力して、2007年7月4日に誕生したのが『せいなん」』です。運営は、福岡市の委託を受けて、西南学院大学が行っています。子どもプラザ『せいなん』には、遊び場、授乳と食事の場所、中庭などがあり、子どもと保護者同士の交流の場として活用できます。また、保健師による育児相談、子育てに関する情報提供、子育てミニ講座など行っています。このほか、西南学院大学OB・OG教員や、早良区在住で本学主催の養成講座を受講した方から本学学生まで、幅広い年代の方々がボランティアとして活動しています。International�Day(外国人乳幼児親子への対応)なども開催しています。

スタッフの方の話によると、「福岡市では14か所子どもプラザがあり、年1回交流したり、勉強会が開催される。大学のもっている知見や専門性が地域に還元される場としても意味がある。ボランティアの学生はいろいろな学部の学生が登録し、親子とかかわったり、親と話したりして、次世代育成の場にもなっている。自分が親になった時の頼りになる場所があることを知る機会にもなっている。実習の受け入れも行い、乳児保育の授業にも活用されている。」とのことである。西南学院大学人間科学部の先生方や教務課の方の話によると、「子どもプラザは、地域貢献を示すのには作りやすい。また大学のイメージアップにもなる。教員養成の場としても重要で、習熟度や履修カルテなどを作成して教職実践演習の場にもなっている。」とのことである。

②北陸学園大学『ほくりくがくいんだいがく「赤ちゃん・サロン」』 所在地:石川県金沢市三小牛町イ11番地 視察訪問時期:2017年 視察訪問者:浅見均 植月美希 岸井慶子 清水康幸 荘司紀子 施設の概要:    〈2016年度 活動報告書 あいさつより引用〉     【対象・内容他】

0歳から3歳未満の子どもと保護者が気軽に集える子育て支援の場として、学生が運営しております。まずは、私たち人間が人として人と出会う場です。特に、「赤ちゃん」(幼子)という存在を通して私たちが原点に立ち戻り、心も体も触れ合い、人が人を愛おしく思える、各々の存在を大切に感じ合える、そのような雰囲気が醸し出されることを大事にしています。この不思議な空間の中で、学生が自分のことを見つめ直し、自分を知るきっかけとなったり、

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大学で学んできた意味を問い直してみたりできるような、心も体も恢復する時をも過ごしております。

北陸学院大学には地域教育開発センター(Regional� Education� Development� Center)通称 REDeC(レディック)がある。大学が行っている学問分野(幼児・児童教育、英語及び英語教育、心理学・社会学・食生活その他の学問分野)に関する研究の成果をもって地域社会に貢献することを目的とする組織である。REDeC の活動として、幼児・児童教育支援事業があり、その一つとして金沢市教育プラザ・子育て支援がある。「赤ちゃん・サロン」は北陸学院大学幼児児童教育学科の学生が運営している子育て広場である。学生の感想やホームページの掲載記録によると、「赤ちゃんサロンは保育・教育者を目指す学生にとって、実践的な学びの場である。」「本学の学生スタッフは、毎回の振り返りを通して、関わった人のことだけでなく、自分自身を知る経験を得ているようだ。」「男子学生とパパとの会話も盛り上がり、保育者としての自信も身についていくようだ。」とのことである。2つの大学の実践事例から分かることは、どちらの大学も地域貢献の場として、子育て

支援の一環としての子育て広場が存在していることである。保育者養成教育を行っている大学として、地域で子育てをしている保護者やその子どもたちに広場を開放し、大学の教員や職員はもとより、保育・教育の学びをしている学生たちがスタッフとしてかかわることによって、そこに集う参加者みんながつながり、お互いが学び合える場となっていることが分かる。「学生を真ん中において、地域とともに学生を教育する。学生は地域を愛するようになり、地域は人を育てる地域になり、学び合う地域になる。」(7)ということである。筆者は「子育て広場は、地域づくりの新しい共同体としての核になりうる存在」と提言したのであるが、現代においては、地域に根ざし、地域に貢献する大学の一つの姿として、大学における子育て広場の存在は大きく、そこで培われたネットワークやゆるやかなつながりは地域づくりの土台になると思われる。そこで育てられた学生たちの力は、やがては持続可能な社会貢献へとつながっていくものと思われる。

Ⅲ.大学と地域社会の連携 ―地域に根ざし、地域に貢献する大学をめざすために―

Ⅱ章では、保育者養成教育に求められる地域貢献の役割を、子育て広場の実践事例から分析した。その結果、大学における子育て広場は、地域づくりに大きく貢献する可能性があることが分かった。子育て広場以外にも、保育者養成教育として求められる地域貢献は数々あると思われる。例えば、2017年第1回講演会で大澤力先生にお話いただいた東京家政大学子ども学部と看護学部の取り組みでは、大学の狭山キャンパス内に認定保育所「かせいの森のおうち」を開園し、地域の子育て支援に取り組んだり、学生たちの実習の学びの場になったりしている。また、「かせいの森つくし」では、特別支援学級・通級指導教

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室などに在籍する小・中学生対象の放課後等デイサービスが開設されたり、「かせいの森クリニック」では、小児アレルギー専門外来と発達障がい専門外来の診療が受けられたりする。大学がもっている特性や知を生かしてその地域のニーズに応じた地域貢献に尽力されていることが窺える。結論としては、地域に根ざし、地域に貢献する大学をめざすために、保育者養成教育を

行っている大学に求められる地域貢献は、保育・子育てに関する教育研究成果を社会に還元することである。そして、その一つの具体的な策として、学生と教員と地域の人々が共に学び合い、育ち合える場をつくることが必要なのではないかと考える。

おわりに

まことに残念なことに2017年度に短大の学生募集停止が決定し、本校は2021年度をもって閉校することになった。そして、保育者養成は大学新学部には引き継がれず、短大における保育者養成の使命はあと3年で終わろうとしている。しかし、本プロジェクトは当初の計画どおり進められ、他大学の実践事例を視察研修し

たり、外部より講師の先生を招いて短大における教員養成の意義や課題などについて講演いただいたりして、多くの示唆を得ることができた。これらの研究成果が今後の大学教育に活かされることを期待して結びとしたい。

〈注〉及び〈引用文献〉(1)�2015年度からは、東京への一極集中と若者の地方からの流出を背景に「地(知)の拠点

大学による地方創生事業(COC+)に名称変更され、事業の目的も地域のニーズと大学のシーズ(教育・研究・社会貢献)のマッチングによる地域課題の解決に移行した。

(2)渋谷努編著『大学と地域社会の連携 持続可能な協働への道すじ』石風社、2016(3)垣内国光・櫻谷真理子共著『子育て支援の現在』ミネルヴァ書房、2001(4)��次世代育成支援対策推進法案(2003年6月策定)のなかで、子育てをしているすべての家

庭のために、地域子育てセンターや子育て中の親子が集まる「つどいの広場」の設置の推進が盛り込まれた。

(5)�中村真弓著「地域の子育て支援活動と母親の生活意識」『日本保育学会第56回大会論文集』、2005

(6)�荘司紀子著『子育て広場におけるネットワークづくりの研究―求められる子育て支援について―』文京学院大学大学院修士論文、2005

(7)�NPO法人オンデマンド授業流通フォーラム大学イノベーション研究会著『地域に愛される大学のすすめ』三省堂、2011

〈参考文献一覧〉・平松紀代子著『保育者養成校における地域貢献としてのひろば事業に関する一研究』

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� 京都聖母女学院短期大学研究紀要第42集、2013・西南学院大学『せいなん*早良区西南子どもプラザ』パンフレット・北陸学園大学『ほくりくがくいんだいがく「赤ちゃん・サロン」』2016年度活動報告書・東京家政大学『新狭山キャンパス1年のあゆみ』冊子2015

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The present state of problems in the training of childhood educators at university― Focus on regional contributions ―

Noriko�SHOJI

The�purpose�of�this�research�is�to�understand�what�regional�contributions�should�be�in�the�training�of�childhood�educators.�There�has�been�a�change�in�the�understanding�of�how�“a�regional�contribution”�can�augment�a�traditional�one-way�university�contribution�so�that�the�community�becomes�a�reservoir�of�study�and�education.The� university� can� use� the� potential� of� the� community� for� student� learning� and� the�community�can�use�the�resources�of�the�university�for�rebirth�and�development.A�regional�contribution�that�supports�the�training�of�childhood�educators�at�university�can�return�the�fruits�of�research�on�care�and�childhood�education�to�society.This�study�focuses�on�a�variety�of�parenting�support�methods�that�is�called�“childcare�space”�field�survey,�which�acknowledges�that�it�is�necessary�to�create�community�space�at�university�for�students,�teachers�and�the�community�so�that�they�can�learn�and�grow�together.

Keywords :  regional contribution, parenting support, childcare space, learn together