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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018 APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック (改訂版) 日本語仮訳 貿易投資委員会 201811注意 日本語仮訳は参考であり正式なガイドブックではありません。正式なガイドブックは 英語版をご利用ください。

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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018

APEC

インフラ開発・投資の質に関するガイドブック

(改訂版)

日本語仮訳

貿易投資委員会

2018年11月

注意 日本語仮訳は参考であり正式なガイドブックではありません。正式なガイドブックは

英語版をご利用ください。

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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018

APEC プロジェクト: CTI 06 2017S

2018年発行

作成者: 経済産業省 〒100-8901, 東京都千代田区霞が関 1-3-1 (プロジェクト管理者)

For Asia-Pacific Economic Cooperation Secretariat(APEC事務局) 35HengMuiKengTerrace Singapore 119616 Tel: (65) 68919 600 Fax: (65) 68919 690 Email: [email protected] Website: www.apec.org

© 2018APEC Secretariat APEC# CTI 06 2017S

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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018

目次

本ガイドブックについて ................................................................................................................. 1

第1章: インフラの質について ........................................................................................................ 3

1.1 インフラ事業の特徴 ............................................................................................................... 3

1.2 インフラの質を確保する要素 ............................................................................................... 4

第2章: インフラ開発の進め方 ........................................................................................................ 7

2.1 インフラ事業の準備・調達・実施方式 ............................................................................... 7

2.2 インフラの質の確保に向けた各段階の検討項目 ............................................................. 11

第3章: 政府機関に期待される取組 .............................................................................................. 17

3.1 ガバナンスと事業実施体制 ................................................................................................. 17

3.2 民間資金の活用に向けた準備と国際開発金融機関(MDB)の参加 ................................... 18

3.3 PPP事業に民間事業者を呼び込むための追加的検討 ....................................................... 18

3.4 人材育成 ................................................................................................................................. 19

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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018

用語の説明

財務健全性(Financial Soundness): 法人(PPP事業における特別目的会社(SPC)も含む)

が、その財務上の義務を完全かつ期日通りに履行

する能力

財政健全性(Fiscal Soundness): 政府やその他の公共機関が、短期・長期的な財務

・経済上の義務を履行する能力

政府機関(Government): 対象エコノミーの中央政府

実施機関(Implementing Agency): 個々のインフラ事業を担当する、省庁や地方政府

などの政府組織

LCC: ライフサイクルコスト、設計・建設・運営・維持

管理費用等を含む事業期間を通して必要となる費

用の総額

地方政府(Local Government): 州・県・市町村など、エコノミーにおいて中央政

府よりも下のレベルで自治権を有する政府

PPP: パブリック・プライベート・パートナーシップ、

または民間部門が有する様々な能力を活用したイ

ンフラ事業の形態

PPP事業会社

(PPP Project Company): 実施機関との契約に基づきPPP事業を実施する民

間事業者

公共機関(Public Agency): 省庁・実施機関・地方政府、その他公共組織を含

む対象エコノミーの公共組織

バリュー・フォー・マネー

(Value For Money:VFM) : 事業全体のコストと、利用者の要求を満たすモノ

・サービスの品質(または目的適合性)の最適なバ

ランス

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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018

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本ガイドブックについて

APEC域内各地域では、経済成長や都市化の動きを背景に急激なインフラ開発・

投資の成長と連結性の拡大が見込まれている。インフラ投資予算の確保が困難な

エコノミーが、事業やサービスの調達に際して初期投資コストの最小化のみに着

目するケースが見受けられる。しかし、このようなやり方は、(a)不十分な維持管

理や運営のために長期の使用に耐えない、(b)サービスが安定的・継続的に提供さ

れない、(c)自然災害に対する強靭性やその被害からの復旧が十分に考慮されない、

(d)環境保護や公共の安全が十分に配慮されない等の好ましくない結果をもたらし

てきた。

このような状況に鑑み、2013年のAPEC首脳宣言では、「インフラの質」を確保

することの重要性が認識され、APEC加盟エコノミーに対し、(a)サービスの質や耐

久性を考慮した最適なライフサイクルコスト(LCC)の実現、(b)社会・環境への

マイナス影響の緩和、(c)安全性と適切な維持管理システムの確保等インフラサー

ビスの重要な要素について一層の配慮をするよう促した。また、APECエコノミー

に対し、政府職員がこのような要素を考慮してインフラ事業を計画・準備してい

くことができるよう、継続して彼らの能力開発に努めるよう奨励した。その後、

2013年のAPEC首脳宣言に基づき、2014年に「APECインフラ開発・投資の質に関す

るガイドブック」が初めて策定された。さらに、2014年に「2015-2025年 APEC連

結性ブループリント(the APEC Connectivity Blueprint for 2015-2025)」が策定

された。これは、現行、そして今後のイニシアチブによりAPEC地域の連携をさら

に深めていくための戦略的指針であり、また、APECが実施する多くの取り組みの

中で注力していくべきハイレベルの枠組みともなるものである。

それ以降、インフラの質の高さを確保することの重要性に関する認識は、APEC

域内に限らず、世界的にも広まっている。例えば、2015年の「国連の持続可能な

開発のための2030アジェンダ(SDGs 9.1)」では、人々にとって手の届く価格で

公平にアクセスできることに重点を置いて、経済発展と人間の福祉向上を支援す

るため、インフラの質、信頼性、持続可能性、強靭性について開発することを目

標に定めている。世界経済の急速な変化とインフラの重要性の高まりを踏まえ、

2017年のAPEC閣僚会議において本ガイドブック改訂に向けた取組を開始すること

が歓迎された。

本ガイドブックは、APEC連結性ブループリントの実現に向けた取り組みである。

こうした背景および認識を踏まえ、本ガイドブックは、インフラ開発・投資の質

に関する共通の認識に基づいて、APECの各エコノミーの政府職員やその他の関係

者がインフラ事業を実施していくためのモデルとなる方法や手順を記したもので

ある。アジア太平洋地域において、政策協調、施設の連結性、自由貿易、金融統

合、そして、人と人との結び付きを促進するために、本ガイドブックが活用され

ることが望ましい。

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APEC インフラ開発・投資の質に関するガイドブック(改訂) APEC Guidebook on Quality of Infrastructure Development and Investment 2018

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各エコノミーで政策や能力、経験が異なっているため、本ガイドブックは、経

済・制度の成熟度が異なるそれぞれのエコノミーにより、法律や規制を遵守する

ことを前提に、実用的な拘束力のない参考資料として利用されることを意図して

いる。最後に、本ガイドブックが、APEC各エコノミーにおける政府職員の能力向

上とインフラの質の確保に寄与することを期待する。

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第1章: インフラの質について

1.1 インフラ事業の特徴

インフラは、運輸交通(道路、鉄道、空港、港湾)、電力、上下水道、廃棄物

処理等の分野において、企業の活動や人々の日常生活を支える上で、不可欠なも

のである。インフラ開発は、新たな雇用の創出や貧困削減を通じた包摂的な成長

を実現しながら、人々の基本的なニーズを満たす、持続可能な社会や経済発展を

促進するために必要不可欠である。インフラ事業の一般的な特徴として、以下の

点を挙げることができる。

a) 公共財

インフラは、社会全体の発展を目的とする公共財として提供される。公共財

は、定義上、非競合的、非排他的かつ開放的(サービスに対する開かれた普遍

的アクセスを提供する)であるという性質を持つ。インフラ開発は、伝統的に

政府の役割とされ、公的資金がその主な財源として用いられる。民間事業者が

インフラ事業の建設や運営の一部または全部を担う場合は、公正かつ透明な公

共調達プロセスを通じて民間事業者が選定される。

b) 外部性

インフラは、利用者に便益を供するだけでなく、より広範な経済に影響をも

たらし、こうした影響は外部効果または「外部性」と呼ばれている。インフラ

開発は、大型公共投資による地域経済の活性化に加え、中長期的には、地域の

生産性の向上や、新たな産業や雇用の創出など、様々な波及効果を生み出す。

c) 社会及び環境への広範囲な影響

インフラ開発には、大規模な投資が必要となるため、社会に広く影響を与える。

その影響には、社会経済の発展に貢献するプラスの効果と、地域社会や環境の

持続可能性を損なうマイナスの効果の両面がある。こうしたマイナスの影響を

未然に防ぐため、特に社会環境の安全性に関しては、国際的な基準や慣行に適

切に従うことが有用である。

d) 事業の長期性

インフラは、長期間に渡って使用される。電力プラントや道路・空港等の運

輸施設は、インフラの耐用年数が30年を超える場合もある。したがって、「経

済性」、「財政の健全性」、そして、物理的耐久性を考慮する必要がある。同

時に、インフラは、長期的な観点から災害に対して強靭で、気候変動に柔軟に

対応できる必要がある。

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e) 透明性と説明責任

インフラ開発には、主に公的な資金やリソースが用いられるため、公的機関

によるインフラ事業の特定、準備、調達及び実施(建設及び運営)については、

常に、「透明性」と説明責任の確保が必要である。さらに、大半のインフラ施

設は、移動させることができず、市場で売却することができないため、一度、

事業が開始されると、原則として、中止や延期は想定されない。

1.2 インフラの質を確保する要素

本ガイドブックでは、前節に示したインフラ事業の特徴を考慮し、インフラの

質を確保する基本要素として、次の5つの要素を挙げている。

【開発戦略との整合性/開放性/透明性/財政健全性】

【安定性/安全性/強靭性】 【経済性及び財務健全性 :ライフサイクルコストを含む費用対

効果と市場の活用】

【社会及び環境の持続可能性】 【質の高い地域の発展:雇用創出/能力構築および技術移転】

図 1 インフラの質を確保する5つの要素

● 開発戦略との整合性/開放性/透明性/財政健全性

インフラ事業は、前節に記載の通り、開放性、透明性、ライフサイクルコスト

を考慮した経済効率性、財政健全性を厳格に守りながら実施されなければならな

い。また、インフラ事業は、中央および地方レベルでの中長期的な開発戦略に沿

ったものである必要があり、事業の準備や優先順位付けなど事業の初期段階から、

利害関係者と対話を行い、それを加味していく必要がある。インフラ事業を実施

するエコノミーは、透明で差別がなく、予測可能な事業環境及び地域のインフラ

に対する外国直接投資への、十分な開放を維持することが必要不可欠である。特

に、次の事項については十分に注意を払う必要がある。

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(a) グローバル・サプライチェーンの拡張を促進するための効果的な連結性の強

化 (b) 情報・通信技術など効果的なテクノロジーの活用 (c) 民間投資の呼び込みと新しい産業の開発 (d) 長期的なマルチセクター需要予測に基づく中期開発計画の策定 (e) 債務持続可能性や財政見通しの評価 (f) 国際規範に則った公的調達手順の採用 (g) 運用上の開放性 (h) インフラ開発における透明性 (i) 生態系への配慮と環境に優しいインフラの更なる推進 (j) 気候変動および自然災害に対する強靭性 (k) エネルギー安全保障と持続可能性 (l) 生物多様性の保全 (m) 防災

● 安定性/安全性/強靭性

誰もが安全、安定的かつ継続的に、手の届く価格で確実にインフラへのアクセ

スできるようにするため、事業の特定、準備、設計、建設、運営のそれぞれの段

階において適切な措置を講じる必要がある。そのためには、政府や民間企業が、

信頼できる組織と人的リソース及び十分な事業資金を確保する必要がある。また、

自然災害、テロ、サイバー攻撃などの不測の事態に関するリスクを慎重に評価し、

当該リスクを除去・移転するための対策を講じるとともに、質の高い建設資材を

用いることも重要である。また、当該リスクが現実に発生した場合に備え、社会

に及ぼすマイナスの影響を最小限に抑え、迅速にサービスを再開するために、適

切な仕組みや方策を設計し、導入する必要がある。こうした措置を計画的に講じ

ることで社会や経済の強靭性を大きく向上させることができる。

● 経済性及び財務健全性:ライフサイクルコストを含む費用対効果と市場の活用

インフラ事業の特定と準備段階においては、投資のVFM(Value For Money)を達

成するために、当該事業の費用対効果の検証を行うことが重要である。費用につ

いては、単に初期投資額のみならず、事業のライフサイクルコストを試算するこ

とが不可欠である。当該インフラ施設やサービスを利用する地域の人々にとって

手の届く価格であることを考慮することも重要である。効果については、前節に

記載した外部効果を考慮し、定量的及び定性的効果の両面から検討を行う必要があ

る。また、公共投資のVFMを最大化するためには、国際開発金融機関(MDB)等の開

発パートナーとの協力や、PPPを含む民間資金の活用を検討することは重要である。

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また、民間資金を活用するためには、透明性の確保や汚職の防止に努めるととも

に、民間企業に対して透明で予測可能な法規制の枠組みを構築するなど、民間企

業にとって健全な投資環境を整備することが必要である。さらに、政府機関は、

事業の長期的キャッシュフローをチェックし、実施機関の財政状況を管理して、

当該事業の財務持続可能性を検証することも必要である。

● 社会及び環境の持続可能性

インフラ事業に適用される社会・環境基準については、客観的かつ定量的な指

標を用いて適切な水準に設定する必要がある。当該基準については、将来世代の

ための持続可能性を維持するため、事業の存続期間を通じて継続的に見直しを行

う必要がある。また、国際開発金融機関(MDBs)の基準等の国際的慣行に準拠し、

かつ現地の法律や状況にも適合した、信頼性を有するセーフガード措置や基準を

適用することにより、社会及び環境へのマイナスの影響を回避または低減するこ

とが期待される。また、地球温暖化や気候変動の進展に柔軟に対応できる低炭素社

会を実現するために、環境に優しいインフラの推進も重要である。既に存在してい

る施設に関しては、気候変動に伴う悪影響を防ぐため、予防的な改修や補強を行

うことが効果的である。さらに、社会の持続可能性や安定の要となる、男女平等

や社会的弱者に対する公平性を含む包摂性についても適切に考慮する必要がある。

● 質の高い地域の発展:雇用創出/能力構築及び技術移転

一般的にインフラ事業は規模が大きく、周辺地域やエコノミーの発展に大きな

影響を与える。質の高い発展とインフラ事業を通じた包摂性及び持続可能な成長

を実現するという観点から、インフラ事業は、十分なオーナーシップと責任を有

する地域のリソースより運営されるとともに、地域の状況に合わせて調整される

ことが望ましい。こうした点を踏まえれば、インフラ事業は、地域のコミュニテ

ィから、歓迎及び容認されるとともに、広く利用されることが必要となる。そし

て、地域の雇用を促進するとともに、新たな雇用を創出する環境や仕組みを確立

することも重要である。事業の初期段階において、地域コミュニティの能力やス

キルが不十分な場合には、政府が、中長期的な観点から、能力構築や技術及びノ

ウハウを移転するメカニズムを確立することも検討すべきである。

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第 2章: インフラ開発の進め方

2.1 インフラ事業の準備・調達・実施方式

(1) 従来型調達方式とPPP

従来、多くのエコノミーでは、公共セクターがインフラ開発と公共サービスの

提供において主要な役割を果たしてきた。しかし、過去20-30年間、民間セクタ

ーが政府に代わって、インフラ開発とサービス提供の一部または全部を担うよう

になってきている。それに伴い、インフラ事業の調達方式も多様化してきている。

インフラ事業の担当機関は、利用可能な方式の中から適切なものを選定すること

が期待されている。

従来型の調達では、インフラ事業の設計、建設、運営、維持管理は、実施する

機関により別々に発注される。これに加え、設計、調達及び建設(EPC)の一括発注

も従来型の調達方式の一つである。こうした事業は、一般的に、公的な資金源か

ら資金が調達されている。一方、PPPは、設計から維持管理までの業務の一部また

は全部を単独の民間事業者、あるいは複数の民間企業から構成されるコンソーシ

アム(PPP事業会社など)に委託する。また、実施機関とPPP事業会社が締結する

PPP契約に基づき、事業に関連する様々な責任がPPP事業会社に移転される。PPPを

採用する主な目的は、民間企業の持つ能力や創意工夫などの強みを生かして、投

じる公的資金のVFMの向上を図ることである。

現在、PPPは、多くのAPECエコノミーにおいて広く採用されており、今後、各地

域で実施される事業において有効に活用されることが大いに期待されている。し

かし、PPPは単独で採用することはできず、政府は、投資環境全般の改善、関連す

る法律、規制及び制度上の仕組みの整備、新しい調達方式や契約マネジメントに

関する職員の能力開発の実施など様々な取組により、「PPPを効果的に活用可能な

環境」の創設や維持に努める責任がある。

(2) PPPの特徴

PPPを一言で表す明確な定義はなく、その形式は多様である。典型的なPPPの特

徴は、官と民の間の適切なリスク分担、一括発注、長期契約、性能発注(アウト

プット仕様)、業績連動インセンティブといった点である。それぞれの特徴のポ

イントを以下に示す。

● 適切な官と民のリスク分担

「リスクはそれを最も適切に管理できるものが負担する」との一般的な認識に

基づいて、民間セクターが公共セクターよりも適切に管理できるリスクについて

は、民間セクターに移転される。具体的なリスク分担は、政府の実施機関とPPP事

業会社が締結するPPP契約書において定められる。

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● 一括発注

設計、建設、運営、維持管理、及び資金調達などの事業に関連する業務の一部

または全部が、単独の民間事業主体、またはPPP事業会社などのコンソーシアムに

まとめて委託される。特に、設計、建設及び運営の業務をまとめることにより、

民間セクターの様々な創意工夫が引き出され、それがVFMの向上に貢献することが

期待される。例えば、設計の最適化、建設効率の向上、柔軟性のある適切な維持

管理の実施、質の高いサービスが途切れずに提供されることなどである。

● 長期契約

従来方式と異なり、PPPでは、一般的に複数年契約が採用される。これにより、

政府の年間の予算上の制約が緩和され、質及び量の両面で安定した公共サービス

の提供が確保される。民間セクターは、政府の毎年の財政状態の如何に関わらず、

中長期的な維持管理及び修繕計画の立案及び実施が可能となり、安定的なサービ

スの提供とライフサイクルコストの最適化に寄与する。

● 性能発注(アウトプット仕様)

PPP契約では、施設や機器に関する仕様設定を最小限とした上で、実施機関が求

めるサービスのアウトプットを特定し、定量的な主要業績指標(KPI:Key

Performance Indicators)を定める。これにより、人々や企業が真に必要としてい

る適切なサービスを政府が確実に調達できるようにする。また、事業が表面的に

は良くても実態が不十分となることを避け、最適なライフサイクルコストの実現

にも寄与する。

● 業績連動インセンティブ

PPP事業会社の収益を、インフラサービスの提供のみならずサービスの質や量な

どの業績に適切に連動させることにより、民間事業者のモラルハザードを回避す

るとともに、必要なサービスを継続的に提供しようとするインセンティブを与え

る。さらに、サービスの質の向上に積極的に努めるよう民間事業者に促す機能に

もなる。業績評価の基準や手続きを含むインセンティブの仕組みは、PPP契約書で

定められる。

次の表は、従来の調達方式とPPP方式の主な違いについてまとめたものである。

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表 1 従来型調達方式とPPPの典型的な違い

項目 従来型調達方式 PPP

リスク分担 リスク分担は限定的(公共セクタ

ーがリスクを負担)

官民で適切に分担

発注単位 分割発注 一括発注

契約期間 単年契約または複数年契約 複数年契約

発注仕様 インプット仕様 アウトプット仕様

インセンティブ 非業績連動型 または 業績連動型 業績連動型

PPPの基本的な考え方は、上記の特徴を採用することにより、創意工夫を引き出

し、VFMを高めるインセンティブを民間セクターに与えることである。

なお、上記のPPPの特徴は、従来型調達方式においても採用することができると

一般的に考えられている。また、DBO(設計-建設-運営)方式のように、公共セクタ

ーが資金調達を行うが、それ以外の業務は全て民間事業者に委託するという、PPP

と従来の調達方式を組み合わせたケースもある。したがって、上記の全ての特徴

については、事業や調達方式に関わらずに適切に検討することが望ましい。公共

機関においてもインフラ調達において試行錯誤しながらイノベーションを生み出

す努力が求められる。 (3) PPPの分類

PPPには複数の分類があるが、実際によく用いられるのは次の2つである。まず、

第一に委託する業務の組み合わせ方の違いによる分類、次に支払い方式に基づく分

類1である。

(a) 業務の組み合わせ方に基づく分類

PPPは、グリーンフィールド事業と呼ばれる新規投資を対象とするが、既存施設

の改修や管理などの業務を民間企業に移管するブラウンフィールド事業にも利用

することができる。PPP契約の最も大きな特徴は、事業の中の複数のフェーズや業

務をまとめる点にある。しかし、民間企業が担当する業務は、対象となる施設や

サービスの種類によって異なる。典型的な業務としては、設計、建設、修繕、資

金調達、維持管理及び運営などがあり、業務の組み合わせ方によって、PPPを分類

することができる。これらの主な方式は、DBFO(設計‐建設‐資金調達‐運営)、

BOT(建設-運営-移管)、ROT(改修‐運営‐移管)、O&M(業績連動型の運営維持

管理)などがある。

1 他にも、PPPはコンセッション方式、オフテイク方式、アベイラビリティ・ペイメント方式など契約

の種類に基づいて分類することもできる。

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● DBFO方式(設計‐建設‐資金調達‐運営)

これは、設計(Design)、建設(Build)、資金調達(Finance)、運営(Operate)を含

む全ての業務を、民間企業に任せる契約で、DBFOと呼ばれ、維持管理業務も運営

の一部に含まれる。これはグリーンフィールド事業に活用することができる。類

似したモデルにDBO方式(設計‐建設‐運営)があるが、こちらは資金調達を民間

事業者ではなく公共側が行う事業形態である。

● BOT方式(建設-運営-移管)

この事業形態は、新規施設を対象としたPPPで、事業の施設に対する法的所有権

を取得し、その施設の管理を行うものである。BOT方式の事業では、一般的に、民

間事業者が事業施設を所有し、契約終了時に公共側にその施設を移管する。運営

期間中に事業施設の所有権が公共部門に属している場合には、BTO方式(建設‐移

管‐運営)と呼ばれる。

● ROT方式(改修‐運営‐移転)

ブラウンフィールド事業では、建設の代わりに改修が行われ、民間事業者が既

存施設の改修、性能強化、または拡張を担う。事業資産の所有権の帰属状況によ

り、RTO方式(改修‐移転‐運営)と呼ばれることもある。

● O&M(業績連動型の運営維持管理)

既存施設に対するO&M契約は、業績に連動した長期契約であり、民間セクターの

参画が大きい場合には、PPP方式の定義に含まれる場合がある。

(b) 支払い方式に基づく分類

PPPは、PPP事業会社の収益源となる支払いの方式に基づいて分類することも可

能で、大きく利用者負担型と政府負担型に分類できる。この2つの事業方式の違い

と特徴を正しく理解し、それぞれの事業の独自性と特徴を踏まえて、最善の選択

肢を選ぶことが重要である。

● 利用者負担型

利用者負担とは、受益者または最終消費者が直接費用を支払って、公共の製品

やサービスを購入するものである。PPP事業会社が原則として需要リスクを負う。

事業の財政的な継続性を確保するために、政府が助成金やViability Gap Funding

(VGF)と呼ばれる採算を補うための補填金を供与し、PPP事業会社の収益を補完す

るケースもある。

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● 政府負担型

政府負担とは、政府が直接費用を支払って公共の製品やサービスを購入する形

態で、アベイラビリティ・ペイメント(Availability Payment)、ユーセージ・ペ

イメント(Usage payment)、パフォーマンス・ペイメント(Performance Payment)と

呼ばれることも多い。この方式では、施設(学校等)が利用可能となっていること

や、製品やサービス(水供給等)が提供されることに対して、政府が支払いを行う

もので、原則として実施する公共機関が需要リスクを負う。実施機関がPPP事業会

社のパフォーマンスを注意深くモニタリングかつ評価し、パフォーマンスに応じ

て政府の支払額が変更される場合もある。

2.2 インフラの質の確保に向けた各段階の検討項目

(1) インフラ事業のライフサイクルの全体像

ここでは、インフラ事業のライフサイクルと、インフラの質を確保するために、

各段階(ステージ)において検討すべき事項を説明する。図2に典型的な事業のラ

イフサイクルと各段階で実施機関の検討項目を示す。

段階

第1ステージ (特定・準備)

第2ステージ

(調達)

第3ステージ

(建設)

第4ステージ

(運営・維持管理)

第5ステージ

(事業終了)

実施機関の主な検討項目

国際的に共通する慣行(開放性、透明性、経済性、財政健全性)と経済開発戦略

に整合したインフラ事業の特定 フィージビリティスタディ(VFM検証を含む)と、環境及び社会影響評価等の実施 事業方式や資金調達方法の検討

サービス要求水準の明確化(アウトプット、KPI、SORなど) 事前審査および入札 契約の交渉・締結

建設業務のモニタリング(従来方式の場合) 民間事業者/請負業者のパフォーマンスのモニタリング・業績連動による支払い(PPP

の場合) 事業者/請負業者の財務状況のモニタリング(PPPの場合)

運営・維持管理のモニタリングまたは実施 (従来方式の場合) 民間事業者のパフォーマンスのモニタリング(PPPの場合) 事業者/請負業者の財務状況のモニタリング(PPPの場合)

事業の継承または終了(施設所有権の移転、次の事業者の選定、事業の引き継ぎ、施設解体・撤去) 所有権移転前の資産評価実施 事後評価の実施

図2:インフラ事業の段階と実施機関が行う主な取組

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第1ステージでは、実施機関は、主に事業の立案とフィージビリティ・スタディ

を実施する。事業の必要性や効果を検証するとともに、事業範囲、技術要件、事

業方式、スケジュール、資金調達方法等を検討する。特に、(a)自らの開発戦略に

沿った形で国際的に共通する慣行(開放性、透明性、経済性、財政健全性、地域

開発)に適合する具体的なインフラ事業の特定、(b)フィージビリティ・スタディ

(VFM検証や財務の持続可能性評価を含む2)3社会及び環境影響評価等の実施、(c)資

金調達方法の検討を行うことが重要である。

第2ステージでは、事業の一部または全部を担う民間事業者の選定を行う。一般

的には、事前資格審査(P/Q)及び提案の評価を含む入札を実施して、最も優れた提案

者を優先交渉権者として選定し、交渉を行って契約を締結する。なお、採用する事業

方式により手続きが異なる可能性があるが、一貫して公平かつ透明な選定を行う

必要がある。

第3ステージおよび第4ステージでは、事業施設の設計、建設、運営、維持管理

が行われる。事業施設の設計、建設は民間セクターに委託されるのが一般的であ

るが、運営、維持管理については、公共機関が自身で実施する場合と民間に委託

する場合がある。後者の場合、公共機関は、契約のマネジメントや民間事業者の

業務遂行全般のモニタリングを実施し、一般的なPPPの場合では、そのパフォーマ

ンスに応じて支払いを行う。

第5ステージでは、事業が終了となり、事業施設の移管、後継事業者の選定、資

産評価、運営の引き継ぎを実施する。インフラサービスの安定供給に支障を来さ

ないように、これらの事業継承の手続きを適切に実施する必要がある。また、事

業の事後評価を行って教訓を検証することが望ましい。

(2) 各プロセスの具体的な検討事項

【第1ステージ:特定及び準備】

● 国際的に共通する慣行(開放性、透明性、経済性、財政健全性、地域開発)と

経済開発戦略に適合するインフラ事業の特定

個別のインフラ事業を形成する前提として、事業が、特に開放性、透明性、

経済性、財政健全性、地域開発に留意した国際的に共通した慣行に適合するこ

とが求められる。また、政府や公共機関が、セクター横断的な中長期の経済開発

2 財務の持続可能性評価は、事業のライフサイクル全般に渡って偶発債務が発生する可能性も含め、政

府や実施機関が必要な予算を確保する能力について確認するものである。 3 これらの項目は、個々のエコノミーにおける慣行に従って、別々に実施される場合もあり得る。

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戦略を策定することも必要である。また、各セクターやサブセクターにおける

中長期戦略を定めるマスタープランを策定することで、インフラの有効性を高

めることができる。各インフラ事業は、こうした戦略やマスタープランに即し

て検討を行う必要がある。こうして特定された各事業については、優先度に応

じて、事業の準備や関連調査を実施する。

● FSの実施 (VFM検証と財務持続可能性評価を含む)、環境及び社会影響評価等

FSでは、技術面、経済性、財務性及び法律の観点から、事業の実現可能性の

検討を行う。FSの典型的な検討項目を次表に示す。

表 2 典型的な FS の検討項目

検討項目 内容 1. 政策や規制との整合性 政策、開発戦略、関係する法規制との整合性の確認

2. 実施場所および自然環境 事業の実施場所と周辺の自然環境の特定

3. 需要予測 インフラサービスに係る需要予測の実施

4. 基本的な技術要件 事業施設に必要な機能、規模、仕様の検討

5. 積算 事業のライフサイクルコストの積算(用地取得、建設、運

営、維持管理等)

6. ライフサイクルコストの観点

から見た経済性

ライフサイクルコストの観点から見た、事業がもたらす社会

及び経済的便益の分析

7. 収益性 コスト積算及び需要予測に基づいた事業の収益性の分析

8. 事業方式と資金調達 事業方式、VFM検証を含む資金調達手法、債務の持続可能性

の検討

9. 環境及び社会影響評価 事業が与える環境及び社会影響の評価と必要な対策の検討

10. スケジュール 詳細なスケジュール及びアクションプランの作成

最初に、事業の基本的情報として、実施場所、自然環境、既存施設、当該サ

ービスに対する将来需要などについて情報を収集し、分析を行う必要がある。

次に、事業の基本的な技術要件の検討を行う。この段階で、従来型調達方式や

PPP等の事業方式、VFM検証、環境影響評価、資金調達方法についても検討を行

う(詳細については次項を参照のこと)。なお、実施する公共機関が自らFSを実

施するだけの十分な人員を確保できない場合には、民間のコンサルタント等の

外部のリソースを活用することも検討する必要がある。

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● 事業方式・資金調達方法の検討

最初の段階で、事業方式や資金調達方法の検討を行うことが必要不可欠である。

それらの方式は、政府や納税者の観点からVFM検証に基づいて選択する必要があ

る。典型的な事業方式には、従来型調達方式と多様な形態を有するPPP方式があ

る。民間セクターに委託する業務範囲と資金調達方法については、慎重に検討

する必要がある。例えば、資金源には、政府の自主財源(税収、公債)、ODA

(多国間、二国間)、民間資金などがあり、それらを組み合わせて活用する場

合もある。また、事業の予算に関連し、政府の財政持続可能性についても検討

することが必要である。

【第2ステージ:調達】

● 仕様及びインセンティブの仕組み

事業の実施機関は、必要とされるサービス(アウトプット)や、量と質の両方に

関する要求水準等の仕様を定める必要がある。また、公共機関と民間事業者が

締結する契約書の中に、それらを適切に規定することが重要である。契約に含

まれる要求水準を明確に定義することにより、質の高い事業をスムーズに実施

するとともに、サービスの質を確保することができる。特に、業績連動型を採

用している場合は、民間事業者の適切なパフォーマンスを確保するために、要

求水準を満たさなかった場合には、民間事業者への支払額を減額する、甚だし

い欠陥があった場合には契約を解除するなどのペナルティを課すなど、適切な

評価プロセスとインセンティブを組み込む必要がある。

● 事前資格審査および入札

このプロセスは、事前資格審査と入札(提案の評価)の2段階により構成される。

レビューや評価の基準は、事業によって異なる場合があるが、全てのやり取り

について公平性と透明性を確保する必要がある。必要に応じて、国際的な調達

ルールやガイドライン(WTO政府調達協定、世界銀行調達ガイドラインなど)を

参照することも求められる。

この段階においては、事業の目的や特性を考慮し、適切なレビューと評価の基

準を定める必要がある。そして、検討及び評価は、客観的な根拠に基づいて実

施する必要があり、その際には過去のパフォーマンスや以前の発注者の評価な

どを含め、応募者の実績を入念に考慮することが重要である。応募者の真の実

績を評価する上で、第三者あるいは公的認可機関による証明や認証等を活用す

ることも有効である。ただし、過度に厳格な要件を設定すると、市場への新規

参入を阻む要因となり、最終的に健全な競争を損なう可能性がある。そのため、

必要とされる要件と競争とのバランスを取ることが非常に重要である。

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事前資格審査の終了後、当該審査を通過した入札者から提案の提出を受け、そ

の提案の評価を行う。定量、定性の両面を勘案した総合的な評価を行うことが

必要となる。特に、技術面に関する評価では、第1章に示したインフラの質を確

保する適切な評価基準が盛り込まれることが望ましい。また、恣意的な判断や

主観的な評価がなされないよう、客観性および透明性を確保する必要がある。

その結果として、最も高い評価を得た者が優先交渉権者として選定され、その

結果が公表される。

【評価項目の例: 水処理施設】

定性的評価(50点)

1. 施設の耐久性 2. スケジュール 3. 季節変動への定性及び定量的な対応能力 4. 問題対応の柔軟性 5. 将来の拡張可能性 6. 地方政府に定義されたガイドラインに沿った安定した設備能力 7. 財務リスクを回避する原則 8. 建設期間及び運営期間における運営者の財務保証 (財源、保証範囲及び保

証期間) 9. 環境リスクに対する対策 (資金源、保証など) 10. 財務計画 11. 現地調達、雇用及び技術移転を通じた地域コミュニティ及び国家経済への

貢献 12. 公務員への贈賄行為に対抗する独立性

ライフサイクルコスト 評価(リスク調整後の現在価値) (50点)

- LCC (設計、建設、運営、改修コストを含む) - 経営者のリスクに応じた調整

[事前資格審査基準の例]

規模や技術の面で類似の事業を実施した経験 過去の実績を証明する記録、第三者による証明や認証 環境保護や安全面についての良好な実績または証明書

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● 契約の締結

入札において落札者(優先交渉権者)を決定した後、速やかに契約締結の手続

きを開始する必要がある。契約交渉においては、入札の公平性及び公正性を担

保する観点から、やむを得ない事情がない限り、落札者との間で実施機関が当

初提案した入札条件や仕様を大幅に変更することは認められない。そのような

前提条件を考慮したうえで、(a)落札者に提案の詳細を確認し、(b)質問、説明、

要望、提案などについて聞き取りを行い、そして、(c)その協議結果を契約に適

切に反映することが重要である。一度締結した契約を変更することは、高額な

変更発注(VO)が発生する可能性があるために容易ではない。したがって、契約

及び規定の詳細・条項については、この段階で十分に精査する必要があり、双

方が内容を正確に理解し、合意した上で契約を締結することが重要である。特

にPPP方式を採用する場合には、金融機関との調整が求められるため、必要な手

続きを完了するための十分な時間を設けることが重要である。

【第 3-4 ステージ:建設、運営及び維持管理】

● 事業モニタリング

インフラ事業は、民間事業者を選定し、契約を締結することだけで終わるわ

けではない。従来型調達方式であってもPPP方式であっても、実施機関はインフ

ラとサービスの質を確保するため、建設及び運営の段階において事業の実施状

況をモニタリングする責任を負う。そのために、実施機関は、民間事業者から

定期的な実績報告書の提出を受け、事業の状況についてしっかりと説明を受け、

把握する必要がある。問題が発生した場合には、実施機関は状況の改善に向け、

民間事業者に適宜、指示や助言を与えなくてはならない。

● PPPにおける実施機関の役割

PPP事業においては、実施機関とPPP事業会社の間で役割やリスクが分担され

る。一般的には、実施機関は、用地の取得、政府関係者間の調整、許認可の発

行、その他民間では果たせない役割を果たす責任を負う。実施機関が民間事業

者のパフォーマンスのモニタリングを行うと同時に、責任をもって、これらの

役割を果たしていくことが必要不可欠である。

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【第5ステージ:事業終了】

● 事業の継承

事業の運営が民間事業者に委託されている場合、事業施設の所有権は、当該

事業者から実施機関へと移管される。その際に、事業施設の状態について適切

な検収を行うことが重要である。なお、当該事業施設を解体・撤去する場合も

ある。実施機関が運営を再度民間事業者に委託することを決めた場合には、十

分な時間的余裕を持って次の事業者の選定を行う必要がある。その選定プロセ

スにおいては、透明性を確保し、複数の候補者間で競争が行われるように取り

組む必要がある。

● 事後評価

事業の終了時に当たっては、ライフサイクルコストやその他環境への影響な

どの定量的な実績だけでなく、当初計画や要件に対する達成状況や乖離状況な

どの定性的な実績も含めた事後評価を実施することが重要である。この事後評

価は、事前に定めた主要業績評価指標(Key Performance Indicators (KPIs))に

基づいて行う必要がある。担当の実施機関は、将来の事業のために教訓を導き

出すために責任をもって事後評価を行う。

第3章: 政府機関に期待される取組

3.1 ガバナンスと事業実施体制

インフラ事業の効果は、政府及び事業実施機関が効果的なガバナンスを実施

した場合のみに発揮される。公共機関によるガバナンスは、事業の範囲、スケ

ジュール、サービスの水準、資金調達、財務の持続可能性など、事業の様々な

面に影響を与える。公共機関は、経済開発戦略及び適切に規定された法的な枠

組みに沿って、インフラ事業の特定、準備、調達、維持管理等において効果的

なガバナンスを実施していくことが求められる。

インフラ事業の特定と準備の段階において、適切なインフラ開発計画の策定、

当該計画における個々の事業の位置づけの明確化、資金調達の決定を含めた利

害関係者間の調整のためには、中心的な組織の存在と役割が必要不可欠である。

また、PPPを採用する場合には、事業方式の選定、資金調達、契約管理等の法務

に関して十分な専門知識と能力を有する省庁横断的な事業運営組織を設けるこ

とが望ましい。

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インフラ事業の調達段階においては、最良の民間事業者やコンソーシアムを

選定するための健全な競争が不可欠である。そのためには、透明、公平、かつ予

測可能な事業環境と、必要に応じて外国直接投資(FDI)に対する開放的な姿勢が

求められる。

インフラ事業の実施(建設、運営・維持管理)の段階においては、実施機関

が、十分な人的資源、スキル、および資金を確保することが重要である。マネ

ジメントチームには、技術的な能力に加え、調達手続き、資金調達、評価、法

務、契約管理等の専門知識やスキルが求められる。特に、PPP事業を実施する場

合、運営方法、資金調達、契約管理に関する豊富な専門知識と経験が不可欠と

なる。

3.2 民間資金の活用に向けた準備と国際開発金融機関(MDB)の参加

一般的に、PPP事業に民間投資家を呼び込むためには、政府の支援、規制の枠

組みの確立、制度の整備、インセンティブ付与など、PPPの実現可能とする環境

を整備することが非常に重要である。PPP事業においては、投資家や金融機関が、

実施機関の信用リスク、政治的リスク、需要リスク等の様々なリスクを引き受

け、管理していくことが期待されている。また、海外の事業者が参画する際に

は、為替リスクやインフレリスクも無視することは出来ない。事業の初期段階

でこういったリスクを包括的に理解することが重要である。リスクを理解した

上で、事業のバンカビリティを高めるために、当事者間で適切なリスク分担を

行い、これらのリスクを回避及び低減することが必要であり、これがVFMの実現

にも寄与することとなる。リスク分担のあり方は、各エコノミーの政治的・経

済的状況に左右されるが、他のエコノミーで実施されているPPP事業のリスクの

低減策や分担方法について調査することも有益である。

国際開発金融機関(MDB)や国内開発金融機関は、融資、投資、保証、協調融資、

その他の資金供給手段を通じて、積極的にインフラ開発に参加する可能性がある。

3.3 PPP事業に民間事業者を呼び込むための追加的検討

民間事業者は、事業の収益性や付随するリスクについて、慎重な検討を実施

した上で、事業への参画や資金提供を行う。投資判断を行う際には下記の指標

を参考にすることが多い。

財務的内部収益率(FIRR:Financial Internal Rate of Returns)

自己資本内部収益率(EIRR:Equity Internal Rate of Return)

正味現在価値(NPV:Net Present Value)

回収期間(PP:Payback Period)

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判断基準や境界値は、それぞれの事業で異なるため、概算値のようなものは

存在しない。FIRRは、加重平均資本コスト(WACC)4に適切な利益とリスクプレミ

アムを加えて設定される。EIRRは、各企業の投資ハードルレートに基づいて定

められる。また、リスク調整済割引率を用いて計算されるNPVは、その他の投資

の選択肢より大きくなることが重要であり、PPは一般的に10年から20年程度の

施設の耐久年数や寿命を考慮して設定される。

民間事業者は、参加する事業のリスクが大きくなると、利益率の引き上げや

PPの短縮(若しくはその両方)を求める。このため、政府機関は収益予測に基

づき、官民のリスク分担を慎重に検討する必要がある。特に、政治的及び経済

的リスクが比較的高いエコノミーでは、収入の確実性を担保するとともに、保

証などの政府支援を提供することが求められる。

同様に、様々な不確実性を抱えるエコノミーにおいて、初めてのPPP事業に参

画する場合には、民間事業者は、既にPPPの実績が存在する後続案件よりも、高

い収益性を求めることとなる。「リスクはそれを最も適切に管理できるものが

負担する」ということが、リスク分担の黄金律である。

3.4 人材育成

事業方式に関わらず、政府、事業の実施機関、地域コミュニティにおける人

材育成は、インフラの質を確保するために必要不可欠である。各エコノミーに

おいては、人材の能力強化について継続的に計画を策定し、実施していくこと

が必要である。また、当該エコノミーが国内に十分な実施能力を持っていない

場合には、能力開発、技術開発や移転等に関し、他のエコノミーとの協力を検

討することも重要である。

4 加重平均資本コスト (WACC)とは、調達した資金を区分毎に加重平均して算出する、企業の資本コス

トを計る指標である。