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1 中国の低迷 Rev.0 2013 年 4 月 6 日 Rev.16 2017 年 6 月 16 日 習近平氏を頂点とする新体制は、年7.5%程度の経済成長で、持続的発展を目指して いますが、中国の内外の多くの人たちが指摘しているように、その実現には多くの関門が 待ち構えているようです。 a)国際競争力 都市化が進み、都市人口が過半数を超えるに従い、安い豊富な労働力供給が終わりを迎 え、賃金の急速な上昇が生じ、低付加価値製品の輸出競争力に陰りが出てきています。ま た、一人っ子政策の影響で、中国の生産年齢人口のピークが視野に入ってきていますので、 豊かになる前に高齢化社会の到達を迎えることに成りそうです。これを乗り越え、高い経 済成長を維持するには、高付加価値製品への転換を図るとともに、効率的経済システムへ の転換が必要となります。高付加価値製品の転換に関しては、高速鉄道やジェット戦闘機、旅 客機の製造に着手していますが、高い目標に技術蓄積が追いつかず、かなり苦戦している 。中国の知識人が最も心配している経済効率の向上も、独占で高い利益を享受 している政府系企業が、既得権の喪失を恐れ抵抗しているため、容易には進められないよ うです。 b)環境問題 空気及び水の汚染は深刻度を増していますので、今までのような環境を犠牲にした割安 な生産能力増大は出来なくなってきています。環境対策で GDP の増大は見込めますが、製 品単価を押し上げ輸出競争力にマイナス圧力がかかります。また、水資源の不足も深刻化 していますので、これも大きな経済成長阻害要因となって来ると予想されます。 (c)貿易収支 大幅な黒字を示している中国の貿易収支ですが、今後、順調に高い経済成長が続けば、 様々な悪化要因が出てきます。賃金が上昇し、低付加価値製品の輸出競争力が落ちてくる とともに、国民生活レベルが急激にアップすることから、エネルギー(石油、天然ガス、 石炭)と食料品の輸入量が急増します。尚、中国にもシェールガスは豊富にあるようです ので、この開発がうまく進めば、エネルギー輸入量の増加が抑制される可能性はあります が、そうでなければ、13億の人口を擁する中国の輸入量急増は国際価格の高騰をもたら し、輸入金額の増加を加速させることになると考えられます。更に環境や医療等の先端技 術製品や高級消費財の輸入量も急増することになりますので、高付加価値製品への転換が 遅れるようでしたら、貿易収支の黒字維持も次第に困難になって来ると考えられます。

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中国の低迷 Rev.0 2013 年 4月 6 日 Rev.16 2017 年 6 月 16 日

習近平氏を頂点とする新体制は、年7.5%程度の経済成長で、持続的発展を目指して

いますが、中国の内外の多くの人たちが指摘しているように、その実現には多くの関門が

待ち構えているようです。

(a)国際競争力

都市化が進み、都市人口が過半数を超えるに従い、安い豊富な労働力供給が終わりを迎

え、賃金の急速な上昇が生じ、低付加価値製品の輸出競争力に陰りが出てきています。ま

た、一人っ子政策の影響で、中国の生産年齢人口のピークが視野に入ってきていますので、

豊かになる前に高齢化社会の到達を迎えることに成りそうです。これを乗り越え、高い経

済成長を維持するには、高付加価値製品への転換を図るとともに、効率的経済システムへ

の転換が必要となります。高付加価値製品の転換に関しては、高速鉄道やジェット戦闘機、旅

客機の製造に着手していますが、高い目標に技術蓄積が追いつかず、かなり苦戦している

様です 。中国の知識人が最も心配している経済効率の向上も、独占で高い利益を享受

している政府系企業が、既得権の喪失を恐れ抵抗しているため、容易には進められないよ

うです。

(b)環境問題

空気及び水の汚染は深刻度を増していますので、今までのような環境を犠牲にした割安

な生産能力増大は出来なくなってきています。環境対策で GDP の増大は見込めますが、製

品単価を押し上げ輸出競争力にマイナス圧力がかかります。また、水資源の不足も深刻化

していますので、これも大きな経済成長阻害要因となって来ると予想されます。

(c)貿易収支

大幅な黒字を示している中国の貿易収支ですが、今後、順調に高い経済成長が続けば、

様々な悪化要因が出てきます。賃金が上昇し、低付加価値製品の輸出競争力が落ちてくる

とともに、国民生活レベルが急激にアップすることから、エネルギー(石油、天然ガス、

石炭)と食料品の輸入量が急増します。尚、中国にもシェールガスは豊富にあるようです

ので、この開発がうまく進めば、エネルギー輸入量の増加が抑制される可能性はあります

が、そうでなければ、13億の人口を擁する中国の輸入量急増は国際価格の高騰をもたら

し、輸入金額の増加を加速させることになると考えられます。更に環境や医療等の先端技

術製品や高級消費財の輸入量も急増することになりますので、高付加価値製品への転換が

遅れるようでしたら、貿易収支の黒字維持も次第に困難になって来ると考えられます。

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(d)経済格差

共産主義の中国が、世界で最も経済格差が大きい国に分類されると言う矛盾は、共産党

が権力を維持する上で放置できない問題のようです。官僚の腐敗と併せ、この早急な改

善を図る必要性が高いものの、既得権を握っている人たちの抵抗が強く、思うような進

展が見られていないようです。この状態が放置される様でしたら、社会的混乱が拡大

し、経済成長の大きな阻害要因となると考えられています。

(e)言論の自由

共産党独裁を維持するために、政治的な言論統制を実施していますが、年々生活レベ

ルが上がり、意識が向上している中で、これがいつまで続けられるか疑問がもたれています。

情報化技術の浸透が進む中、この統制に必要な費用が、既に中国の軍事費よりも多くな

っ て いますので、経済的な面からもこのような無理がいつまでも続けられないと考えら

れます。これが出来なくなったとき、言論の自由に慣れてこなかった中国の人々、特に少

数派の人達がどのような行動に出るか良く分からないところが有り、大混乱が生じる可能

性も否定できないようです。

これらの関門の克服が容易でないことから、世界の経済人の半数近くが「中国は5年以内

に大きな問題に直面する」とみているようです。この場合、中国の経済成長はかなり鈍化

し、資産バブルも崩壊することになると考えられます。しかし、それでも現在の GDP の1. 5

倍、日本の2倍程度になっていると考えられます。この際、今より中国は発言力を増し、 資

源をめぐる極東の緊張は更に高まると考えられます。

中国にとって最善のシナリオは、7%程度の経済成長を継続し、10年後に GDP を倍増 さ

せ、米国と肩を並べる超大国になることと考えられます。現在の世界経済低迷を脱する 切

り札として、中国の高度経済成長が望まれていますが、‘中国が高度経済成長を続けるの が

世界にとって最善のシナリオとなるか’かなり判断が難しくなります。エネルギーと食 糧

の輸入超大国中国の出現で、世界のエネルギーの効率向上や食糧増産が追い付かなくな り、

エネルギー価格や食料品価格が高騰し、今より暮らしにくい世界になるかもしれませ ん。

従来の国際(資本主義)ルールに従わない中国の発言力が著しく増し、さらなる成長 を目

指すため、資源をめぐる対立が激化し、世界が資源獲得の争いの場となり、局地戦の リス

クも高まるかもしれません。尚、希望的観測かもしれませんが、このような緊張状態 から、

‘緊密に結ばれた世界経済システムの中の一員である’と各国が自覚し、新たな持続 可能な

世界秩序の構築に向けた調整が始まることも考えられます。

中国にとって最悪のシナリオは、社会的混乱から中国が分裂し経済停滞に陥ることと思

われます。この場合には共産党政権の終焉も考えられ、その余波が世界中に伝搬すること

に成ります。尚、日本にとって、中国の最善のシナリオと最悪のシナリオのどちらが良い

かは、判断が難しいところかもしれません。また、日本は、様々な可能性を秘める中国に

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対し,現実を直視し、柔軟な戦略を構築してゆくことに成ると思われます。

追記[2013 年 11 月 28 日]

中国共産党第 18 期第三回全体会議(三中全会)では、持続的安定成長(GDP比約7%/

年の増加)に移行するため、市場の役割重視、消費主体の経済成長へのシフトに加え、世界最

悪レベルの環境劣化、蔓延する汚職、社会的不安定を招きかねない格差の拡大、影のバンク

と地方政府の累積債務等、共産党への信任を問われかねない問題を解決すべく、そのロード

マップを描きだしています。‘1978 年の 11 期三中全会に匹敵する重要会議、改革の深化の重

点化’との中国の自画自賛に対し、‘中国指導部は、現状の問題点を体系的に把握 し、適切に

対応しようとしている’と評価する声が上がる一方、‘前の胡錦濤政権と同じく、 既得権者の

壁を破れず掛け声倒れに終わるのでは’と懐疑的に見る向きも少なくないようです。

効率の悪い経済システム、都市と農村部の格差拡大や、環境劣化、腐敗の蔓延等 10 年前の中

国の問題の多くが、解決されないばかりかむしろ悪化している状況に鑑みると、これらの

問題解決の道は平坦でなく、その達成度合いが、中国の持続可能な安定的成長移行の分か

れ目となると考えられます。

具体策として考えられている、農民工の待遇大幅改善を図る戸籍制度の改善、地方政府

の累積債務増大を抑制する税法や金融システムの改善等には、既得権者の激しい抵抗が

予想され、中国指導部の本気度が試される様です。特に汚職に関しては、‘法律でなく人に

依存し、世話になった人に対するお礼の習慣が有る中国風土’に根差し、末端まで染みわ

たっていますので、追放が非常に難しいとみられています。とはいえ、香港政庁は、子ど

もの教育から初めて20年かけて汚職追放に成功していますので、中国指導部が本気で

取り組めば不可能ではないようです。このため、汚職追放活動の進展状況が、中国指導部

の本気度を図るバロメーターになるとの見方も有る様です。

中国の将来を決めるのは、中国の指導部の改革に対する本気度と見られているようで

すが、同じことは、経済低迷に悩むEUの南欧諸国もアベノミックスに湧く日本にも当て

はまるようです。更に民主主義国では、指導部の熱意に応える国民の成熟度も重要なファ

クタ-になって来ると考えられます。この観点で、‘今、何が日本に求められているか’、

私達 一人一人が、‘自ら考え、判断してゆく’事で、成熟度を高めて行く事が非常に重要

と思われます。

追記(2014年7月13日)

改革に向けた指導部の本気度を示すバロメーターと見られている‘腐敗撲滅運動、政治色

が気になるところですが、従来神聖化されていた最高指導部経験者にまで捜査が及び、摘発

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件数も1年前より40%増えていますので、かなり力が入っているようです。摘発を恐れた

官僚が大型プロジェクトに及び腰になるという副作用も出ていると報道されています。

中国では、賃金の急上昇と環境対策の強化の影響で輸出企業の競争力が低下し、海外から

の投資も停滞する中で、輸出及びGDPの伸び率に減少傾向が続いています。2014年に

入り、腐敗撲滅運動も含めた一連の改革の影響で,経済減速傾向がより鮮明になっているよ

うです。特に、投資目的の住宅取得の抑制策とシャドーバンキング規制強化の影響を受けた

住宅販売が大きく落ち込み、住宅価格の下落から、住宅バブル崩壊の兆しが出てきています。

中国のGDPの五分の一を占める住宅関連産業の大幅な落ち込みは、中国経済に大きな影響

を与ますので、中国政府は小出しの景気刺激策で、当面を凌ごうとしていますが、苦戦は避

けられないようです。これがうまくいかない場合には、ハードランデイングを避けるため、

中国政府の大規模な景気刺激策が実施されると考えられます。この場合、ハードランデイン

グは避けられますが、中国政府の債務比率は欧米並みに上昇しますので、構造改革が十分に

進まなければ、今後厳しさを増す高齢化社会の圧力と併せて、中国の長期的な成長率低下要

因になると考えられます。

なお、10年前に指摘した中国の問題点と中国経済成長の減速予想については、‘分から

ないこと(未来)-中国の高度経済成長のインパクト’をご参照ください。

追記(2014年12月10日)

最高指導部経験者、周永康元政治局員の党籍はく奪は、政治色が気になりますが、腐敗撲

滅運動に対する中国政府の本気度を示しているようです。しかし一方では、関係者が300

人以上、不正蓄財が145億ドル以上に上ると報道されており、このことから、‘法の支配

が確立していない中国の汚職の問題の根の深さ、防止の難しさ’が感じられ、諸々の深刻な

課題を抱えながら、構造変換を図る中国の前途の厳しさが窺われます。実際に中国政府の小

出しの景気刺激策にもかかわらず、住宅販売価格の低下や自動車販売台数の伸び率の低下が

続いており、中国経済の減速が、世界経済のリスク要因として注目され出しています。

追記(2015 年 4 月 2 日) 中国の全国人民代表大会は、持続可能な発展を遂げるニューノーマル(新常態)とし

て、2015 年の経済成長を 7%程度に引き下げることを決議しました。中国の急成長がも

たらしてきた人件費の高騰や厳しさを増す環境問題、世界的な資源高騰等の負のフィード

アックから、減速は自然なことと思われます。問題は、下記のような状況から、様々な難

問に直面する中国にとって、この引き下げた数値の達成も、容易ではないと思われる点に

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あるようです。中国経済成長の鈍化傾向がさらに続くようでしたら、世界的な過剰投資の

弊害が表面化するリスクが高まりそうです。 (1)投機目的の住宅の膨大な空き室と売れ残りを抱え、建設中断案件が多数に及び、住

宅販売数と単価が減少している中で、不動産関連投資は依然 10%以上で伸びています。

安価な居住用住宅の需要が高いのを頼りにいくら購入条件を緩和しても、ねじれた需要供

給関係を修復し住宅バブル解消するには、まだまだ時間がかかると見られています。 (注記)経済成長鈍化に対し、住宅バブル崩壊の影響が注目を浴びていますが、自動車

の販売台数の伸びの低下も今後経済成長を低下させる要因になる可能性が有ると

思われます。実際、世界最大の自動車販売市場となっている中国の販売台数の伸

びが、GDP の伸び率を下回り始めています。1 億 5 千万台以上の自動車をすで

に保有し、豊かな大都市の伸び率はすでにゼロ近くとなっていることから新規保

有の一巡効果で今後伸びがさらに低下すると思われます。国としてはアメリカの

GDP に近づいているとはいえ、一人当たりの GDP がアメリカの 5 分の一の中

国で、自動車を保有できる人口が、アメリカを超えているとは思えませんので、

アメリカの販売台数(約 1700 万台)を大きく超える現在の販売台数(約 2300万台)が、経済成長鈍化傾向の中で今後も続くか疑問と思われます。

(2)政府と民間を合わせた債務比率(対 GDP)が、リーマンショック後急速に増大

し、すでに 282%と先進国(米国、ドイツ、イギリス)並みになっていると報道されてい

ます。不動産バブル処理や石炭、セメント産業の過剰設備処理が有り、政府債務比率は更

に高まると予想されています。

(注記)負債比率の増大が経済成長率を大きく上回っているということは、経済成長促

進の観点で投資効率が悪いことを示していると考えられそうです。経済成長率を

保つために、今までのような不適切な投資(一説には不適切な投資は800兆円

を超えているとも言われています)が続くようですと、極端に負債比率が高い日

本並み(約400%)に近づくことになりそうです。 (3)産業部門の利益の伸び率が、GDP の伸び率を下回る 6%程度に下がってきていま

す。外資系企業が 10%以上の高い伸び率を示す一方、政府系企業の伸びは 2%程度に下が

ってきています。

(注記)構造改革の遅れと自前技術開発力の不足から、懸念されていた政府系企業の競

争力低下が顕在化してきたのかもしれません。 (4)経済格差から生じる不満の解消にも役立っていると思われる腐敗撲滅運動、強力に

推進されているようですが、違反者の摘発には政治色が感じられること、又、腐敗の風土

の根本的対策となる文化、制度的な改革が良く見えないことから、今後の進展に懸念が抱

かれています。 (注記)長い歴史を有する中国の文化風土に根ざしているといわれている贈賄、違反者

の摘発では‘モグラらたたきにしかならない’との見方もあるようです。

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追記(2015年7月9日) *(2015年7月19日) **(2015年8月4日) ***(2015年8月6日) 中国政府の様々な景気対策にもかかわらず中国経済の成長鈍化傾向が続き、政府、民間

を合わせた負債も積み上がっているようです。過剰設備を抱える石炭、セメント、鉄鋼産

業や、バブル崩壊に見舞われている住宅産業に加え、自動車産業の減速がより鮮明化し、

それらを反映した企業の利益も鈍化傾向が続いています。

このような状況で、低金利策で余った資金が中国株式市場になだれ込み、市場メカニズ

ムを無視する株価高騰を1年以上続け、明らかなバブル現象を示していました。当然の帰

結として平均株価指数は6月中旬のピークで‘(株価/利益)比’が100を超す異常値

を示した後、3割を超す暴落となり、更に低下すると見られています。株式市場の暴落

で、商品市場や消費活動にマイナスの影響が出ることが懸念されます。それに加え、中国

では、株価上昇の熱狂に囚われ、金融市場に無知な数千万の人々(多くが生活の苦しい年

金生活者予備軍)が、遅れて借金して参加し、大きな痛手を被り、社会問題化しかねない

状況にあります。問題を大きくするのを避けるため、政府は金融界に株価維持を指示しま

したが、市場メカニズムを抑えることは出来ず、株式取引停止の企業が半数に達する等中

国株式市場に大きな混乱を引き起こしているようです。 今回の株価急落に伴う騒動で、中国株式市場の未熟さが露呈され、また高齢化社会を迎

えつつある中国の年金制度の不備が露呈されたようです。 株式市場の崩壊で、悲嘆にくれている多くの年配者の姿が報道されるのを見るにつけ、

‘バブル崩壊の悲劇を防ぐことは出来なかったのか’と思わずにはおられません。これに

関し、’分からないこと(リスク)-バブル崩壊に学ぶ‘をご参照いただければ幸いです。 * 中国の2015年第2四半期のGDPは、市場予測値(6.8%)を上回る7.0%

と、前期と同じ伸びを示したと報道されています。しかし、一部の人から「産業活動

数値と比較すると高すぎるので、数値自体の有効性に疑問」との声も出ているようで

す。また、「1年前と比較し、企業と家計の負債総額の GDP 比は、12%増大し、

約210%に達した」との報道もあり、現在の刺激策の持続性に懸念もあるようで

す。

* * 株価は、現在の企業利益をもとに、近い将来の利益を想定し、近い将来の株価当

たりの利益率と金利のバランスする点に落ち着くと考えられそうです。中国の株価の

異常高値は、構造改革の進展に対する期待と刺激策としての金利低下に対する期待

が、市場メカニズムを知らない多数の新規参加で過剰に膨れ上がった結果と思われま

す。 相次いで出される刺激策にもかかわらず、10年前から予測((‘分からないと

(未来)-中國の高度経済成長のインパクト’をご参照ください)されていた減速傾

向が続く中国経済から判断し、過度の期待は禁物ですので、中国政府の株価買い支え

が終われば、やがて妥当な値に落ち着くと思われます。 なお、政府、民間を合計した債務の上昇を抑制できず、300%に迫っている中国

で、先行投資という刺激策をいつまでも続けることは出来ないと思われます。刺激策

を止めたときの経済減速に備えたリスク管理も必要も思われます。なお、リスク管理

の重要性については、’分からないこと(未来)-リーマンショック(サブプライム

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ローン問題とリスク管理)‘をご参照頂ければ幸いです。

*** 新製品が出るとその普及までに急速に需要が増大し、その後、急落するのは良く

みられる傾向です。中国の場合、1990年代の開放政策後、購買力が増し、一斉に様々

な製品が普及しだしやことから、急激な需要増大を生み、それが非常に高い経済成長率を

達成する強力な推進力となっていたと思われます。そう考えますと、その高い経済成長率

に幻惑され、過剰な先行投資を行っていたとしたら、その一巡効果が見え始めた2010

年代から、石炭産業、鉄鋼産業、セメント産業、住宅産業、更には自動車産業まで、一斉

に過剰設備や過剰在庫問題に悩むようになるのは避けられない流れであったのかもしれま

せん。ゆっくりとした経済成長を遂げた国々では、製品の需要変化が一斉に生じることは

無かったと考えられますので、中国の場合、山の高さに対応した厳しさになるのかもしれ

ません。特に、設備を廃棄するのとは異なり、急激な業務転換に順応できない多数の人々

のことを考えれば、その影響(中国企業の収益悪化と政府が刺激策を止めたときの更なる

成長鈍化)は相当長引く可能性が有るようです。リスク管理として、この点も考慮が必要

と思われます。 追記(2015年8月26日) *2015年9月8日 6月12日に始まった中国株の暴落、政府の介入で7月末には、何とか踏みとどまった

かに見えていました。しかし7月の輸出低迷やPMIの悪化、自動車販売台数の大幅減少

など経済指標の悪化を受けて、8月中旬に中国政府が元の切り下げを唐突に行ったことか

ら、株価暴落が再開し、それが世界中に波及し、世界同時株安となっています。株安が中

国内にとどまらず世界中に波及したのは、経済指標の悪化ばかりでなく、株価対応のまず

さや、客船の転覆,天津の爆発事故対応のまずさが、中国の経済減速のハードランデイン

グの懸念を増し、これが米国の金利引き上げに先行して、世界の低金利政策による株高と

いう歪の是正を生じさせたとの見方もあるようです。この見方が正しいとすれば世界同時

株安の是正には、刺激策で無理に一時的成長を促すのは逆効果で、長期的視点に立った実

経済を強化する地道な対策が必要と成りそうです。 *トルコのアンカラで開かれたG20財務省、中央銀行総裁会議で、中国政府は、過剰設

備や過剰債務、中国株式市場のバブル崩壊等容易でない現状を認め、混乱を終息させるた

めに全力を尽くすと表明しました。しかし、持続的成長を図る上で必要な構造改革を進

め、過剰設備や過剰債務の解消を図るには5年以上かかる見通しのようです。 追記(2015年10月23日) 中国の第三四半期のGDP成長率は。6.9%と発表されましたが、その詳細が不明な

ため、その信ぴょう性に疑いがもたれ様々な憶測が飛び交っています。しかし、長く続い

た工業生産主体の高度成長(GDP成長率10%以上)から、持続可能な消費主体の適正

成長(GDP成長率7%)への移行には、多大な困難(元高と成長率を上回る賃金アップ

による国際競争力低下、過剰設備の廃棄と多数の人々の配置転換等)が伴い、政府の刺激

策なしでは、適正成長率7%の維持は困難となっているのは確かなようです。 この観点で、最近の政府支出が昨年度比25%以上に増大しているのが着目されます。

当初計画は年間13%増(プライマリーバランスでGDP比―1%)でしたので、政府収

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支が予算より大幅に増大していることになります。プライマリーバランスを均衡させた状

態での中国の成長率は、適正成長率7%の半分以下と推定できそうです。現在の状況から

更なる刺激策が必要と成るのは避けられず、プライマリーバランスはさらに悪化すると考

えられます。この状況打開に手間取り、刺激策があまり長引くようですと、中国政府の債

務も先進国並みに近づき、先進国並みの低成長率と刺激策依存体質になる恐れもないとは

言えないようです。 追記(2015年10月31日)、*(2015年11月8日)、**(2015年12

月24日) 新常態(ニューノーマル)への移行に奮闘している中国は、中央委員会第5回会議で、

第13次五か年計画(2016-2020)を承認し、その概要を発表しました。 第13次五か年計画(2016-2020)では、2020年までにGDPを2010

年の2倍とすることを目標とし、中国の抱える様々な課題を克服しながら、実現可能な中

高速の経済成長を図るとしています。具体的には、輸出と投資が成長を駆動する持続不能

な旧い経済成長モデル(見えるものを対象)から、消費が経済成長を駆動する新経済成長

モデル(見えないものを対象)への変換を図るとし、経済成長率を従来の7%よりやや低め

の6.5%を目指すとしています。 この変換で、エネルギーを多量に消費し、環境汚染物質を排出する、石炭、電力、輸送

関連の産業は、経済発展の推進役としての役割が減少し、代わって e コマース、健康、医

療,環境保護、新エネルギー、エンターテインメント産業が、経済成長の主役として躍り

出て来ると予想しています。この結果、消費がGDPに占める割合は、現在の51%か

ら、2020年には55%以上になると見られています。このことは旧来の産業の伸び率

が、平均成長率よりもはるかに低くなることを意味し、これらの関連指標から中国の経済

成長を類推するのは適切でないことを示しているようです。しかし、このことは、一方で

は、中国の過剰設備の廃棄と過剰在庫の処理が容易でないことを示しているばかりでな

く、関連する資源の過剰供給状態も長期化しうることを示し、資源供給国に長期の甚大な

影響(産油国の財政ひっ迫等)を与えると考えられそうです。 中国の2015年第三四半期のGDPは,刺激策の効果で、6.9%の成長率を維持出

来たと報道されていますが、地域別の経済成長率を見てみますと、現在中国が抱えている

課題の大きさが窺われるようです。今までの経済成長の花形、重厚長大産業を多く抱える

東北3省の経済成長率が平均より低かったのは、致し方ないと思われますが、高い経済成

長率を示しているのが、開発が遅れ低賃金の強みをまだ残している中央や西部の諸省であ

ることが気になります。開発の進んだ沿岸部の諸省、特にサービス産業転換の最先端を走

ると思われる上海や北京が、環境対策としての工場移転の影響が出たにしても、相次ぐ刺

激策の援護下で成長率を下げ続け、平均以下の成長率となっているのは、様々な課題の克

服が必要な新常態への移行が容易でないことを示していると考えられます。「構造改革で

制度を変え、消費を促すだけでは高い経済成長率を達成することは出来ない。自発的イン

ノベーションを伴った高度産業への転換が必須となるが、これには時間がかかる」との内

部指摘もあるようですので、このような状況では、更なる刺激策が当面避けられないよう

です。

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更に「一人っ子政策の廃止」が宣言された背景にある少子高齢化の影響が気になりま

す。2014年から生産年齢人口(15才から64才、現在10億人)が減少に転じ、老

人人口(60歳以上)は今後年間1000万人ずつ増加し、2030年には3億5千万人を

超えると見込まれ、無視できない状況となって来ています。中間所得国に2012年に仲

間入りしたばかりの中国が、急速に高齢化社会を迎えようとしており、そのような前例は

世界になく、今後経済成長に与える影響度合いが着目されます。 暗い面が目に付きがちな新5か年計画ですが、新産業への転換、eコマースでのアリバ

バの躍進などが有り、インノベーションを誘発し続けられれば、世界のリーダとなる新産

業の育成の道のりはそう遠くないのかもしれません。特に、緑の開発として、資源の保

護、環境保全、高効率エネルギーシステムの構築、ゼロエミッションプロジェクトの推進

等で世界の環境安全に新たな役割を果たすと宣言しているのが着目されます。すでに再生

可能エネルギーの投資額で世界一になっている中国が、政府のしっかりした方針の基、豊

富な資金力で世界中の頭脳を結集できれば、この分野で世界のリーダとなり、救世主にな

ることも可能なのかもしれません。 *中国の金融副大臣が、「従来の政府規律(財政赤字幅上限GDP比3%、債務上限GD

P比60%)を2016年から緩める検討を始めている」と述べたと伝えられています。

「従来の延長線上の金融政策では、新常態(ニューノーマル)移行時の困難を克服しつ

つ、6.5%以上の経済成長を維持するのが困難と考え、もっと大胆な金融政策を実施で

きるようするのが目的」と報道されています。今後、中国政府の財政赤字の膨らみ具合

が、中国の新経済モデル移行の困難度と進捗度の指標となるのかもしれません。

**‘一連の刺激策にもかかわらず経済減速傾向が止まらない苦境の打開策として、中国

政府は供給サイドに着目した構造改革(産業の重点育成等)に着手する一方で、減税や政

府支出の増大で L 字回復を図ると計画’と報道されています。2015年の政府財政赤字

が GDP 比2%を超えていることから、2016年以降、中国政府の規律(GDP 比3%の

財政赤字、債務上限 GDP 比60%)を超えるのは避けられないようです。この緊急措置

がどのくらい続くのかは、過剰設備や過剰在庫の処理と構造改革がどの程度円滑に進むか

にかかっていると考えられます。この期間が長引くようですと、折からの米国の金利引き

上げの影響と重なり,元の下落、中国からの資金の流出、中国株価の下落などから世界経

済に少なからぬショックを与えることが懸念され出すようです。 追記(2016年1月12日) 中国政府のテコ入れでやや落ち着きを取り戻してきた感のあった中国株式市場ですが、

金融システム安定化を目指して導入したサーキトブレーカーが、運航開始直後から2度作

動し、金融市場の動揺を拡大させてしまいました。この結果、サーキットブレーカーの運

用停止となり、昨年8月の突然の元切り下げに続いた不手際は、新常態に向け構造転換を

進める中国政府の対応能力に疑問を投げかけ、大幅な世界同時株安が進行しています。 ただ、冷静に状況を見ますと、減速傾向を強める中国経済は、昨年夏に予測された範囲

と見られますので、昨年8月以降の中国株価回復は、政府のテコ入れに対し楽観的過ぎた

産物で、その揺り戻しがかかっているだけなのかもしれません。新常態移行を円滑化させ

るための短期的刺激策に過度に反応するのでなく、実体経済の長期的傾向をより重視した

冷静な対応が必要と思われます。

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追記(2016年3月14日) 3月5日から開かれていた中国の第12期全国人民代表大会で、2020年までの第1

3次5か年計画が提出されました。ニューノーマル移行過程で抱えた困難な課題を良く認

識している中国政府は、「今後5年間の GDP 成長率を、従来の約7%から6.5%以上

に引き下げ、国防費や安全保障費の伸びの抑制を図る一方、国のプライマリーバランスの

赤字幅を従来の GDP 比2.3%から3%に緩和し、遅れていた構造改革を強力に推進す

る」としています。 構造改革の一環として、過剰設備の解消を進めると、政府系企業で5,6百万人の配置

転換が必要と成り、石炭産業と鉄鋼産業だけで180万人の配置換えと230億ドル以上

の費用が必要なようです。

工業生産の減速傾向が続く中で構造改革を推進するとなると、更なる工業生産の伸び鈍

化を招く恐れが有りますし、配置転換もより難しくすると見られています。6.5%以上

の経済成長率に固執していれば、構造改革の推進が遅れ、急速に増加している政府と民間

の負債合計(既に GDP 比250%に達している)が、さらに急増するのではとの懸念も

出てきているようです。 追記(2016年4月20日) 中国の2016年第一四半期のGDP成長率は、住宅市場等に回復傾向がみられたこと

から、前期より0.1%低い6.7%に留まり、当面のハードランデイングの懸念が後退

し、世界の株式市場は落ち着きを取り戻しています。 しかし、第一四半期に中国の投資額が急増しているのが気になります。中国政府が最も

良く認識しているようですが、‘今中国は持続的中速成長を維持できるか否の重大な分岐

点ににある’のは確かです。‘構造改革推進の投資がどれだけ行われ、それが将来の経済

成長に寄与するものなのか’注意深く見守って行く必要が有りそうです。構造改革推進が

遅れ、将来に向けた投資が有効に回らないようですと、中国の経済成長率低下傾向が長期

化し、世界がリセッション入りする可能性が高まってくると考えられます。 追記(2016年7月18日) 中国の2016年第2四半期のGDP成長率は、前期と同じ6.7%に何とか留まった

と報道されています。しかし、消費主体の経済成長に移行中にもかかわらず、下記の現象

が見られることから、更なる減速が懸念されます。 (1)再び投資主体の成長、それも民間投資が減少する中で政府投資が急増するという歪ん

だ形の成長に依存し始めている。 (2)中国政府は「過剰設備解消などの構造改革を進める中で、経済成長に見合った賃金

上昇は困難になる」との見解を示しており、今後消費拡大の勢いが削がれる懸念が出て来

ている。

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追記(2016 年 10 月 14 日) 銀行の貸出制限の緩和、住宅購入条件の緩和、小型自動車取得減税などで消費を喚起し

た結果、経済成長の鈍化傾向と生産者物価の低下傾向に歯止めがかかった中国経済の当面

の見通しは明るさを増しています。しかし、中国政府は、企業の負債急増と主要都市の住

宅価格の急騰は看過できるレベルでないとして、その抑制策に乗り出しています。また、

小型自動車取得減税も年末には終了します。世界全体が低成長に沈む中、過剰生産設備の

解消など構造改革がこれから本格化する中国経済には、更なる減速圧力がかかってくるの

は避けられず、これをどのように乗り切り、安定成長軌道に乗せるか着目されています。 追記(2016 年 11 月 5 日) 十月下旬に開かれた六中全会で、習主席を核心とし権力を集中させる路線が打ち出され

ました。これに対し、様々な批判があるようですが、中国の置かれた状況を考えると、や

むを得ない対応と思えてきます。

GDP では米国に迫りつつある中国ですが、個人のレベルでは、中所得国に仲間入りし

たばかりで、中諸国の罠にはまらず成長を続けるためには、様々な障害を乗り越えなけれ

ばならないのは周知の事実のようです。これまで、日本や韓国の先例に学び、より良い手

法で障害を乗り越えるえるという歴史上有利な立場を利用できていたと思われます。しか

し、投資依存の高経済成長に頼り過ぎた歪が蓄積し、中所得国でありながら、過剰設備と

民間の過剰債務という問題を抱え、この解消が急がれています。これに加え一人っ子政策

の影響で世界最速で進む高齢化社会と、世界的に気候変動対策が進むことで、化石燃料使

用量を減らさなければならないという厳しい未来という中所得国には先例のない課題が待

ち構えています。対応遅れがそれだけ困難度が増す難題を抱えた中国には、権力集中で解

決の速度を上げるしか手段がないのかもしれません。とは言え、権力集中の成果は、権力

者の現状認識と其れを踏まえた対応能力で決まるのは間違いないようですので、13 億の

巨大人口を抱えた現代中国で、権力の集中がどのように機能するか着目してゆく必要があ

りそうです。 追記(2016 年 12 月 22 日) *(2016 年 12 月 24 日) 懸念されていた住宅市場のバブルでしたが、政府の抑制策が効果を表しています。又、

販売台数の 70%を占める小型車の取得税減税(50%)が切れることで起こる自動車販

売の急減も、2017 年にまで25%減税が延長されることで避けられる見通しとなってい

ます。しかし、一方では、トランプ氏が 11 月 8 日の大統領選に勝利したことで、ドル高

による資本の流失や貿易戦争の懸念等、新たなリスクが加わっていますので、2017 年も

中国にとって試練の年になるのは避けられないようです。 *「積み上がる負債(GDP 比270%)がもたらす将来のリスクを避けるとともに、ヨーロ

ッパや米国で台頭するポピュリズムがもたらす政治経済の混乱リスクに備えるために、中

国は従来の経済成長率 6.5%以上に拘らない」との情報が政権内部から発信されていま

す。現実を直視した柔軟な態度と考えられます。

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追記(2017 年 3 月 6 日) 第 12 回全国人民代表大会で、2017 年の経済成長目標を、前年の‘6.5%~7%’から

‘6.5%’程度に下げると表明されました。 高齢化社会の到来を控え、構造改革の推進で、中所得国からの離陸を急いでいる中国で

すが、今までの投資主体の高度経済成長が生み出した歪(環境劣化や民間及び地方政府の

累積負債、其れがもたらした鉄や石炭の過剰設備、地方の過剰住宅在庫、経済格差等)が

放置できないレベルに達しています。その解消を図る構造改革の推進ですが、国民と社会

システムの成熟を待つ必要が有り、急激な推進が非常な痛みを伴い容易に進められないの

が中国の現実のようです。この現実を直視し、3 年連続の経済成長率目標低下となったも

のと考えられます。更に、トランプ大統領が唱える保護主義政策や軍拡競争が実現した場

合の混乱を想定し、中国は安定な持続的成長を重視する方向に方針転換したようです。こ

れらの課題が解消されるまで、中国の経済成長率の目標引下げは、今後も続くと思われま

す。 なお、どこまで現実を直視しているか疑問を感じさせるトランプ政権指導層と対照的

に、中国指導層は、中国が置かれた厳し現実を直視し、その現実を国民に訴え、未来を見

据えた対策を推進すべく権力の集中を推し進めているように見えます。名目と実際がどこ

まで一致するのか、又、どこまで効果を出せるか、今後の動向を見守る必要が有るにして

も、方向性としては大きく間違っていないと思われます。 追記(2017 年 6 月 16 日) 2017 年第一四半期の中国経済成長率は、引き続き好調な国内消費の伸びと、世界経済

の回復傾向を受けた輸出の順調な伸びに支えられ、住宅バブル抑制による投資減少や、小

型車減税の縮小に伴なうマイナスの影響をカバーして、6.9%と 2 期連続の上昇となる好

調な出だしとなりました。これを受け、元安傾向と資本の海外流出に歯止めがかかってい

ます。 とは言え、今後の見通しは必ずしも良いとは言えないようです。住宅バブル抑制策の効

果で、GDP 比 20%程度を占める住宅関連産業の投資が減少し過ぎれば、鉄やセメントの

需要が落ち、過剰設備対応の緊急度が増すことが懸念されます。自動車販売が 5 月には前

年比マイナスに落ち込むまでになっているのも気掛かりです。元安傾向に歯止めがかか

り、元高に転じたことや、米国トランプ大統領の貿易交渉の影響で輸出が振るわなくなる

ことも予想されます。経済成長の主役となった消費の伸びが長期低下傾向にあることに加

え、これらの影響をうまく乗り切るのが容易でないことから、2017年度後半以降の成

長率は少しずつ低下する可能性が高いと見られています。 なお、リーマンショック以降、中国企業の債務は急速に増え続け、GDP 比163%

と、主要国の中で最も高いくなっています。その大部分が過剰設備を抱えた採算性の悪い

政府関連企業の負債と言われています。政府債務、家計債務とも先進国に比較し十分低い

ことから、当面、問題になることは無いと見られています。しかし、中国の長期的安定成

長には、この解消を図り、企業を活性化することが必須と言われています。それが出来な

いようですと、大型旅客機(C919)や最新型原子炉(AP1000)、AI 産業等の高付加価

値産業の速やかな拡大は容易でないと思われます。