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14 3 Chapter 使Development of Stampable Thermoplastic CFRP and its Application Stack Frame 写真:桜井 健雄 3 Chapter

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14

3Chapter

新材料CFRPを

実用に

するために

軽量化と強度の両立にCFRPは有力な材料である︒

しかし製造に時間がかかり︑

コストの高さから実用化は進んでいなかった︒

しかしトヨタ

レクサスLFAという

高級スポーツカーで熱硬化性CFRPを使用した︒

次のステップに選んだのは熱可塑性で

より早く作れるCFRPだった︒

炭素繊維の並べ方と長さをどう選んだら︑

強度と作りやすさを向上させられるか︒

メーカーを超えた開発が始まっていた︒

Developm

ent of Stampable T

hermoplastic C

FRP and

its Application Stack Fram

e

熱可塑性CFRPスタンパブル材料および

その適用部品スタックフレームの開発

写真:桜井 健雄

3Chapter

トヨタ自動車(株)/東レ(株)

今回製品化された MIRAI のスタックフレーム

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15 AUTO TECHNOLOGY 2018

LFAの熱硬化性CFRPから

次の段階へ

 

軽量化技術において、早くから炭素繊維(カーボン

ファイバ)の活用は、強度の確保と併せて注目されてき

た。だが、製造時間の長さや原価の高さなどによって、

自動車ではごく一部の車種への適用しか進んでいなかっ

た。今回の開発は、熱可塑性CFRP材料とその材料を

プレス成形により製品化する技術であり、世界に先駆け

実現した。原価の課題は残るものの、製造時間の短縮な

どにより、広範囲な活用への道を拓く開発といえる。

 

開発された製品は、燃料電池を搭載するためのスタッ

クフレームで、量産市販で世界初となった燃料電池車M

IRAIに採用されている。

 

開発の経緯を、トヨタ自動車

先進技術開発カンパニー

先行生産技術部

開発技術室主査の片平奈津彦は、次の

ように語る。

「限定生産した2人乗りスポーツカーのLFAで、カー

ボンボディを開発したのが母体となっています。LFA

の前には、水素タンクの開発・製造もありました。そう

したカーボン部品の生産技術に取り組むなかで、今回の

燃料電池スタックフレームの開発に着手することになり

ました」

 

また、先進技術開発カンパニー

ボデー先行開発部

1ボデー開発室のグループ長である池田光希は、

「熱硬化性のCFRPについてはLFAで既に実績を得

ていたので、我々は次の段階として熱可塑性のCFRP

にこだわり、活用できる先を探していました。当初は、

車体全体に採用することも考え、実際にアンダーボディ

一体の成形もしてみましたが、なかなかその先の実用化

へ進められないでいるとき、ある役員から『いきなりボ

ディ全体を変えるのはコスト、技術面で難しいから、ま

ずは部品から始めてみてはどうか』と助言を戴き、今回

の開発につながりました」と振り返る。

 

片平は、樹脂の種類では熱硬化性や熱可塑性、また成

形方法では繊維を積層して焼き固める方法や、プレス成

形する方法などがあると説明したうえで、強度や生産性

などの面で、今回の部品には熱可塑性樹脂のプレス成形

が向いていると説明する。

プレス成形に向け

ランダムに繊維を分散させる

 

その際、プレス成形上、材料に要求されるのが型に沿っ

て形づくりやすい流動性であり、そのために、カーボン

ファイバの不連続繊維を樹脂にランダムに分散させる材

料手法が用いられた。

 

東レ

オートモーティブセンターの主幹である木本幸

胤は、この使い方について、

新材料CFRPを実用にするために―トヨタ自動車(株)/東レ(株)―

 自動車の燃費向上は、不可欠の性能要件であり、原動機の効率化はもちろんのこと、車両の軽量化も重要な役目を果たしている。従来からの鋼板を使い切る技術開発と、材料置換とがしのぎを削る中、この開発は、カーボンファイバを熱可塑性樹脂とともにプレス成形で実用化することを世界で初めて実現し、カーボンファイバの用途を広げることに貢献した。そのために、カーボンファイバの繊維を短く切り、そこへポリアミド樹脂を溶かし込み、板状にして型に合わせこむプレス加工を行う。流動しにくいカーボンファイバを型に合わせこむ工夫や、製品が樹脂の固化収縮のため大きく反るなど課題を克服しながら、製品化に成功した。さらに、車両への搭載に際しては、鉄のフレームを車体取り付け部に使用したが、カーボンと鉄によるガルバニック腐食の防止にも幾つかの工夫が盛り込まれている。トヨタが世界初の量産を果たした燃料電池車MIRAIの燃料電池スタックのフレームとして完成させた。

軽量化技術カーボンファイバの実用を拓く

今回製品化された MIRAI のスタックフレーム

図 1 比較的短い炭素繊維をランダムに並べ、あらゆる方向からの力にも強度を持たせた   CFRP 開発素材

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3Chapter

「たとえば航空機では、連続した長い繊維で強化したC

FRPを使います。このタイプのCFRPは繊維方向に

は高い機械特性を持ちますが、別の方向の力には弱さが

あります。その特性を考慮した使い方をしています。こ

れに対し、自動車の部品はあらゆる方向からの荷重の入

力に備えることが要求されました。このためのCFRP

は、どの方向からの力に対しても同じ強度や弾性率を発

現する必要があります。これには比較的短い繊維をラン

ダムに並べたCFRP材料が適しています(図1)。

 

また、型に沿わせてプレス成形する際にも、繊維が連

続していると型の形状通りに沿っていかない場合があり

ますから、連続繊維に比べて短い繊維があらゆる方向に

向いているこのCFRP材料がよいのです。

 

一方、課題としては、繊維を切って使うため、その繊

維長さを最適化するなど材料に求められる特性を発現す

る工夫が必要になります」と、カーボンファイバ利用の

特徴と利点を説明する。

 

熱可塑性CFRPの採用にあたっては、片平が次のよ

うに補足する。

自動車はおおよそ1分で1台生産されます。従って、そ

れを構成する部品も、原則1分で1台分作れれば無駄の

ない工程とすることができます。この目標に向け、どの

ように材料を選ぶかを考えたとき、時間的な面で熱可塑

性に、形づくりの面で繊維はランダム分散を選びました。

そうしてできたベース材料を用い部品成形を行い、不足

林 浩一郎 Koichiro HAYASHI

トヨタ自動車株式会社先進技術開発カンパニー有機材料技術部 有機材料室 主幹

「私の所属する有機材料室はオレフィンバンパ素材で ’93 年に本技術開発賞を受賞しました。今回が約四半世紀ぶり2回目の受賞となります。本賞を材料開発でもらえることは大変珍しく、永年有機材料にたずさわってきた技術者冥利に尽きます。この開発では、初材料で経験が少なく、量産が始まってから、原因不明で製造ラインが止まるかもしれないという状況にまでなりました。これで失敗したらおしまいという最後の一枚の成形でなんとか結果が出て危機をまぬがれましたが、そういう苦しい思いをしながらの受賞でしたので、なおさらよい思い出になりましたし、本当に多くの関係者に支えられた開発だったと再実感する良い機会になりました」

池田 光希 Koki IKEDA

トヨタ自動車株式会社先進技術開発カンパニーボデー先行開発部第1ボデー開発室 グループ長

「この熱可塑性 CFRP スタックフレームは世界初の技術にもかかわらず、昨年は燃料電池車 MIRAI そのものが世界初であったため、その陰に隠れて社内でも目立って取り上げられませんでした。それだけに、この自動車技術会の技術開発賞という名誉な賞を受賞することができ、開発者としてこれほど嬉しいことはありません。この技術が社外の多くの方々に認めていただけたという実感が得られただけでなく、これからも新しい技術開発に挑戦し続けようという意欲につながりました、本当に感謝しかありません」

外薗 清志 Kiyoshi HOKAZONO

トヨタ自動車株式会社CV Company CVボデー設計部第2ボデー設計室 主任

「熱可塑性 CFRPという世界初の開発に加わり、量産化まで果たせた上に、このような賞まで頂くことになり、たいへん有難く、嬉しく思います。開発は挑戦的に細 と々始まり、当初はモノになると思えませんでしたが、チームメンバーや関係者の頑張りで車両搭載の採用が決まったときの感動は今でも忘れません。みんなに感謝しています」

片平 奈津彦 Natsuhiko KATAHIRA

トヨタ自動車株式会社先進技術開発カンパニー先行生産技術部 開発技術室 主査

「CFRP は、軽量化の切り札として世の中でもてはやされていますが、原価の厳しさがあり、LFA などの開発はしていても、細 と々、ということになりがちで、まだまだ、本流の技術とは認知されていません。今回の受賞で、周りの生産技術関係者を含め、次の CFRP 部品開発へのモチベーションにつながり、大変嬉しく思っています」

木本 幸胤 Yukitane KIMOTO

東レ株式会社オートモーティブセンター 主幹

「長年 CFRP の用途開発の仕事をしていて、自動車に使われるのが目標でしたので、MIRAI へ採用されてほっとしていました。今回、この賞の申請に東レからも一名枠をとの声をかけて戴き、しかも受賞もかなって大変名誉なことと感じ入りました。自動車技術会の会誌に掲載される影響は大きく、しばらく疎遠だった大学時代の友人に『載っていたね』と声を掛けられ、多くの人たちに見てもらい、気付いてもらえ、有難いことだと思いました。それから、出張、残業、休出の無理を支えてくれた家内が一番この受賞を喜んでくれました」

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する点に対しては設計の形状検討で補ったり、吸水性に

ついては材料の開発で対応したりする、材料特性に合わ

せた成形方法を工夫するという判断でした」

材料の流動性と強度の両立は

試行錯誤の連続

 

もちろん、言うは易し、行うは難しである。池田は、

「材料を厚めに作っておいて、型に合わせて成形するの

で、材料には流動性が必要で、繊維は短い方がいい。た

だし設計の立場からすれば、高強度、高剛性を実現しな

ければならず、その両立が難しかったです。繊維の長さ

や、繊維の含有率など、かなりの試行錯誤を行いました。

すでに存在する材料を使うわけではなかったので、必要

な物性と流動性を兼ね備えた材料開発を、有機材料技術

部の林と東レの木本さんが頑張ってくれました」と、労

をねぎらう。

 

当事者となった木本は、

「基本となる材料技術は東レにありましたが、それが自

動車部品にどう役に立つのかが材料メーカーでは測りか

ねました。トヨタは部品の具体的な開発目標を持ってい

ましたので、それを実現するための材料開発目標が明ら

かになれば、材料メーカーはひたすら頑張るものです。

 

とは言いつつも、本当に使える材料になっているのか、

その実証に時間を要しました。自動車部品としての評価

方法や評価基準は、材料メーカーには見当がつかず、自

動車メーカーにしか分かりません。したがって、材料開

発の最盛期には、週の半分以上はトヨタへ出張していま

した。相手先も、設計、材料、生産技術と複数でしたから、

午前と午後、夕方に打ち合わせをするといった日々が続

きました。もちろん、そのための東レの社内打合せの多

くは休日にしていましたが」と笑って当時を振り返る。

 

材料開発のなかでも繊維の最適化の作業は、愚直な要

因考察、地道な試験の繰り返しであったと林は振り返る。

「東レから、これでいいのではないかと送られてくるテ

ストピースは、理想的に温めた状態で型にプレス成形す

る際には流動性が得られるのですが、実際に型に入れて

試験をすると、型にはめる段階で材料が冷えてしまうこ

ともあり、流動性が十分得られないといったことになっ

て、最適な材料範囲と成形条件を見出すのに苦労しまし

た」

強度と剛性を両立させた

段ボール構造

 

材料づくりの工程は、長い炭素繊維を切り、短い繊維

のシート状のものを作る。これに熱可塑性樹脂のポリア

ミドを溶かして浸みこませて板状の材料にする。こうし

て作った材料は熱可塑性なので、温めると柔らかくなり、

型で形づくることができる。

 

ここで、どういった種類のポリアミドを選ぶかも開発

を左右した。

「熱可塑性樹脂は種類が多いので、温度、湿度、薬液へ

の耐久性などの評価項目に従って選択しました。薬液と

は、融雪剤やカーシャンプーなどです。一般的に、ポリ

アミド6やポリアミド66という材料が自動車の機能部

品ではよく使われていますが、今回は、使用する環境条

件において、水や薬液への耐久性が必要で、かつ強度低

下が少ないものとして、ちょっとマニアックなポリアミ

ド610を選びました」と、林は説明する。

 

ところで、今回のCFRPは、強度は高いが剛性に弱

い側面がある。そこで、3枚のCFRPパネル部品を使っ

た段ボールに似た構造を採用し、剛性を確保した。池田は、

「段ボールは、上下に天板があり、その間に連続した骨

格となる仕切りがあるため、強度・剛性確保に理想的な

構造です。したがってCFRPでも同様に波型の仕切り

を持つ三層構造としました。当初は、板の上に骨格構造

を持たせるやり方も検討しましたが、さらに強い骨格部

を連続的に配置できる段ボールタイプの構造を採用しま

した」と説明する(図2、3)。

 

そして成形の際には、予備加熱を行う。

「熱可塑性樹脂では普通にやっていることですが、予備

加熱をしています。通常は、長い炉に部品を入れて加熱

しますが、それでは時間が掛かってしまい、かといって

一気に加熱すると材料が劣化する恐れがあります。その

ため、独自の手法を開発しました。家庭の電子レンジで

使うような技術で、短時間に加熱しても劣化しにくい方

法です」

新材料CFRPを実用にするために―トヨタ自動車(株)/東レ(株)―

Α

Α

Front

Upper

CFRPSec. A-A

図 2 スタックフレーム外観

図 3 スタックフレームの三層段ボール構造

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3Chapter

初めの製品は

大きく反ってしまった

 

こうして材料から製造の段取りまで進んだが、いざ製

品が出来上がろうとしたとき、製品が大きく反る問題が

起こった。片平は、

「開発当初は大きく反り返っており、これを目にした全

員が、あまりのことに唖然としたものです。反ってしまっ

たものを平らに戻すのは大変です。ことに、CFRPは

硬くて戻せません。

 

いままで、トヨタの樹脂成形は、型に出来上がり時の

形状変化の見込みを織り込むことをあまりせず、成形技

術で対処していました。しかし、今回はとてもそれでは

間に合いません。ちょうど、見込みをよく経験している

板金プレス成形の経験者が開発陣に居ましたので、樹脂

成形でも初めて大きな見込みにチャレンジしました。と

ころが、通常の板金の変形を大きく超えた反り具合であ

るため、簡単ではありません。設計担当の外薗のところ

で、理屈から考えた変形しにくい構造を予め設計に織り

込み、それでも変形してしまう分を型の見込みで対処す

ることにしました。それでもなお残るわずかな変形部分

は、組み立てで対処しました」と、話す。

 

CV

Company

CVボデー設計部

第2ボデー設

計室主任の外薗清志は、

「設計での対応は、たとえば反りを発生させていた端末

部の壁形状を廃止して解放形状にしたり、形状をなだら

かにしたりするなどによって反りにくい構造にしまし

た」と、説明する。

 

そうした改善の手掛かりは、東レの分析から得られた

と、池田は言う。

「型の中で温かい状態では問題ないのですが、型から出

して冷えたところで反りが発生していました。特に波形

の部品で顕著に現われました。樹脂が冷える時に繊維の

長さ方向は、繊維が補強部材となって縮まないのですが、

板厚側は繊維が機能せず縮んでしまうのです。その結果、

形状のコーナー部で反りが発生するというメカニズムで

す。そこを解明してもらったおかげで、解決策を見出す

ことができました」

CFRPと鉄の

使い分け

 

熱可塑性CFRPのFCスタックフレームを車両に搭

載する部分には、一部鉄製のフレームを使っている(図

4、5)。池田がその点を、次のように説明する。

「CFRPは、強いけれども割れやすい面があります。

衝突など想定外の外部入力に対して、FCスタックを地

面に落とすリスクを低減するため、CFRPの周囲を鉄

の枠で囲む構造を採用しました。

 

また、CFRPでフレームすべてを作ると、車体が衝

突で変形した際に取り付け部が割れてしまう懸念があり

ます。そこで、変形の可能性のある部分は鉄を使い、衝

撃に耐える部分にはCFRPを使うという、特性に応じ

た使い分けをしました。

 

実は、それに気づくまではすべてCFRPで作ってお

り、軽くはなりますが、衝突試験をするたびにスタック

フレームが落ち、何度も失敗を繰り返してしまいました。

その度重なる失敗から今の部品構造が生み出されました。

この構造を採用するにあたっては、鉄とカーボンが接触

し、ガルバニック腐食が起きる可能性もあるので、鉄フ

レームにカチオン電着塗装を施すことで対応しました」

 

錆については、外薗が、

「さらに塗装が付きにくい鉄板のエッジ部は、接着剤や

樹脂製のカバーで覆うことで錆の発生を抑えています。

ガルバニック腐食は、CFRPと鉄の電位差によって、

早期に始まってしまいます。テストピースやベンチ試験

でCFRPと鉄のエッジとの距離や接着剤の厚みを決め

ていきましたが、実車での走行試験で塩水がかかるよう

図 5 開発当初の反った部品

Steel Parts

CFRP

図 4 スタックフレームの部品構成図

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19 AUTO TECHNOLOGY 2018

なコースを走ると、予測より早く錆が出るため、樹脂製

のエッジカバーを追加して錆の発生を抑えています」と

作業の様子を語る。

 

片平は、より詳しく解説する。

「水がかかわらなければ錆びない

のですが……。水に触れると電位差

から電池のようになって鉄が錆び

てしまうのです。事前に予測できる

ところはもちろん対策しています

が、例えば実際の走行で泥水をはね

るような状況がありますと、スタッ

クフレームの下にアンダーカバー

があるため、隙間に泥が溜まり、被

水で錆びてしまうことがあります。

 

この問題は、生産の準備に入り始

めてから判明し、生産現場の手順を

変更しなければならなかったので、

現場の作業をする人たちに理解し

てもらう必要がありました。通常、

評価を済ませてから生産の準備に

入るのですが、今回は超短期の開発

で、評価が並行することになり、試

験状況写真などを基に丁寧に説明

することで、現場に納得してもらい

ました」

 

外薗も、

「実は既にすべて鉄製のスタック

フレーム開発が先に始まってい

て、あとからCFRP製スタックフ

レームへの挑戦が始まったため、開

発日程の余裕も予算もなく、また実

車試験の評価も、鉄製フレームが優

先される開発であったことから、評

価日程が生産工程を決める段取り

の日程にずれこんでしまったので

す」と、厳しい開発工程の様子をに

じませた。

 

片平は、

「超短期間に、しかもお金をかけずにやるというところ

が苦労した点です」と、この開発をしみじみと振り返った。

CFRPの量産化で

分かってきたこと

 

こうして熱可塑性CFRPの実用化を果たし、その先

へ向けてはどのような期待があるのか。

 

池田は、

「骨格部品に、熱可塑性CFRPを使えることが確認で

きました。また、水がかかるなど使用条件の厳しい床下

で耐えられる実績ができたので、次はアンダーボディに

挑戦できるのではないかという目標が生まれました。し

かし原価との両立がまだ課題として残っています。当面

は、部品単位でCFRPの採用範囲を広げてゆければい

いのではないかと考えています。それと併行して、原価

の兼ね合いも検証していきます」と、手応えを語る。

 

片平は、

「今回の経験を踏まえ、成形工法の難しさも見えてきま

した。例えば、いかに小さな設備で、早いサイクルで作

れるかということになってきますが、熱可塑性樹脂は粘

度が高いため、高いプレス圧力が必要になり、設備が大

きくなりがちです。今回の製造では、樹脂温度が下がる

前にできるだけ早くプレスするなどの工夫を入れました

が、同時に、部品形状や材料の歩留まりなどにしわ寄せ

がいっているところがあります。具体的な課題が分かっ

たところで、どう解決し、改善するかがこれからの開発

ポイントです」

 

CFRPの量産化が想像以上に進んでいることを、こ

の開発から知ることができる。ただし同時に、原価との

折り合いをどうつけるかは、なお追い求めていく必要が

ありそうだ。鉄を使い切る軽量化への取り組みも含め、

新素材との軽量化、量産化の競争が、さらに軽い自動車

の実現へ切磋琢磨されていくことになる。

新材料CFRPを実用にするために―トヨタ自動車(株)/東レ(株)―