bank of japan fukuoka branchbank of japan fukuoka branch 金融経済トピックス...

18
Bank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040 年度までの中長期シミュレーション ~ 2015 年 3 月 23 日 日本銀行福岡支店 当資料は当店ホームページに掲載しています http://www3.boj.or.jp/fukuoka/ <内容に関するお問い合わせ先> 日本銀行福岡支店営業課 Tel:092-725-5513

Upload: others

Post on 25-Mar-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

Bank of Japan Fukuoka Branch

金融経済トピックス

九州・沖縄における潜在成長率の試算

~ 2040 年度までの中長期シミュレーション ~

2015 年 3 月 23 日

日本銀行福岡支店

当資料は当店ホームページに掲載しています http://www3.boj.or.jp/fukuoka/

<内容に関するお問い合わせ先> 日本銀行福岡支店営業課 Tel:092-725-5513

Page 2: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

1

1.潜在成長率の試算について

潜在成長率とは、「その時々における経済構造のもとで資本や労働が 大限に利

用された場合に達成できると考えられる経済活動水準(人間で言えば基礎体力に相

当する概念)の変化率」と位置づけられる。

日本経済の潜在成長率の推移をみると、80 年代までは+4%前後であったものの、

90 年代以降、趨勢的に鈍化し、 近では0%近傍まで低下している(図表1)。その主

な要因は、①少子高齢化などに伴う就業者数の減少、②設備投資抑制による資本スト

ックの伸び悩み、③生産性上昇率の緩やかな鈍化と考えられる。これらの構成要素に

ついては、九州・沖縄(以下、当地)においても全国と同様の状況となっている可能性

が高いことが、各統計から確認でき、当地の潜在成長率がマイナス転化している可能

性も考えられる(図表2、3)。この点、当地経済が中長期に持続的成長をしていくため

には、潜在成長率(≒供給力)の構成要素である、「労働力」、「資本」、「生産性」をい

かにして引き上げていくかが重要となる。

―― 実際の経済成長率は、この潜在成長率をベースに、景気変動等に伴う労働

投入量や稼働資本量の変化により変動する。このため、不況期は実際の成長

率が潜在成長率を下回ることになる一方、好況期は一時的に潜在成長率を上

回ることもある。

そこで、本稿では、「生産関数アプローチ」を用いて、当地の潜在的な実質域内総

生産(Gross Regional Product、以下、GRP)1の推計を行った上で、①シニア層や女性

の労働参加率の上昇や②資本ストックの蓄積など、一定の仮定を置いて、将来の潜在

成長率についての試算を行った2。

試算の前提となるモデルには、以下のコブ・ダグラス型の生産関数を用いた(詳細

は【BOX】参照)。

lnY lnT 1 a lnK a lnL

(Y:実質 GRP、T:全要素生産性、K:資本投入量、L:労働投入量、a:労働分配率)

全要素生産性(TFP)と労働分配率(a)の2つについては、以下の仮定を置いた。

①全要素生産性の前年比は、2010 年度以降、+0.45%で不変(図表4)。

②労働分配率は、2010 年度以降、0.7 で不変。

1 以下、本稿に出てくる「GRP」は、特に断りのない限り、すべて、物価変動の影響等を調整した

「実質 GRP」である。 2 本稿では、先々の試算に必要な指標を求めるために、1997 年度から 2009 年度までのデータを

用いている。このため、本試算においては、当地の経済構造が、将来的に 2000 年代前後の経済

構造のまま不変であるという強い仮定に立っており、試算結果については、幅をもってみる必要が

ある。

Page 3: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

2

本稿で想定したシナリオは以下の5つである。

①労働参加率の上昇、資本ストックの増加を見込まないシナリオ(ベースシナリオ)

②労働参加率が上昇する場合のシナリオ

③資本ストックが増加する場合のシナリオ

④労働参加率が上昇し、資本ストックも増加する場合のシナリオ

⑤潜在成長率「+2%」3を持続的に達成するためのシナリオ

2.試算結果

(1)ベースシナリオ(労働参加率の上昇、資本ストックの増加を見込まないシナリオ)

【前提】

先行きのベースシナリオとして、国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日

本の地域別将来推計人口」に沿って生産年齢人口が減少する社会の下で、労働参

加率と資本ストックについては不変であると仮定する。

―― 当地の生産年齢人口をみると、2005 年をピークに減少していく見通しとなっ

ている(図表5)。この間、失業率やシニア層・女性の労働参加率などが将来に

亘って変わらない(統計上の制約から 2010 年以降不変)、設備投資が抑制さ

れた状態のもとで、新設投資額と除却額が相殺する形で資本ストックも増加し

ない(統計上の制約から 2009 年度以降不変)、と仮定する。

【試算結果】

上記の仮定の下では、当地の潜在 GRP は、2010 年度から 2015 年度にかけて、マ

イナス成長に転じていることになる。生産年齢人口の減少に伴う労働力人口の減少を、

生産性の向上が補う形で、ごく小幅のマイナス成長が 2030 年度まで続き、その後マイ

ナス幅を拡大する試算結果となった(図表6)。追加的な労働力の押し上げがなく、か

つ、設備投資が抑制された状態が続けば、生産年齢人口の減少を主因に、当地の経

済は長期的なマイナス成長が続くことになる。

(2)労働参加率が上昇する場合のシナリオ

【前提】

女性の労働参加率について、25~44歳の女性労働参加率が2030年に2010年(以

下、 近)の 45~49 歳の水準まで上昇。また、シニア層についても、55~59 歳の労働

参加率が 近の 50~54 歳まで、60~64 歳の労働参加率が 近の 55~59 歳まで、65

3 政府は、「日本再興戦略」(2013 年 6 月 14 日)において、「~、今後 10 年間の平均で名目 GDP

成長率3%程度、実質 GDP 成長率2%程度の成長を実現することを目指す。~」としている。本稿

では、同目標を当地経済で達成するためのシナリオについても試算を行った。もっとも、本稿で扱

うのは、当地の潜在成長率であり、実際の成長率とは多少異なる点に注意が必要。

Page 4: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

3

~69 歳の労働参加率が 近の 60~64 歳の水準まで段階的に上昇すると仮定する

(図表7)。

── この間、資本ストックは 2009 年度以降不変と仮定する。

【試算結果】

上記の仮定の下では、労働参加率の上昇により、潜在 GRP は相応に押し上げられ、

2030 年度まではプラス成長を維持したあと、団塊ジュニア世代のリタイアなどに伴い、

マイナス成長に転化する(図表8)。労働参加率の上昇は一定の期間押上げ寄与する

ものの、生産年齢人口が趨勢的に減少する中にあっては、シニア層や女性の労働参

加率上昇の効果は一時的なものに止まる。

── なお、シニア層と女性の労働参加率上昇による潜在 GRP の成長率(年率)押

し上げ寄与を比較すると、シニア層による押し上げ効果の方が大きいが、これ

は、高齢化を背景に、全人口に占めるシニア層の割合が高まっていくことによ

るものである(図表9)。

近年では、経済が緩やかに回復する一方で、労働力人口の減少のもとで人手不

足が多様な業種で顕在化している。その中で、シニア層や女性、あるいは外国人の

労働力活用に向けた意識が高まり、行政・企業レベルで様々な取り組みが進展して

いる。実際に、労働参加率上昇に向けた当地の取り組みについては、すでに福岡市

を中心に、アクティブシニアの創業・就業支援や、女性の創業支援に向けた事業を織

り込んだ予算案が出されるなど、行政の取り組みも活発化しており、今後、労働参加

率の上昇は成長率上昇に際して重要な鍵となる。

(3)資本ストックが増加する場合のシナリオ

【前提】

資本ストックは、当地で、自動車関連等の大型設備投資案件が相次いでみられた

2000 年代の強め(年率+1.75%)の伸び率で、増加すると仮定する(図表 10)4。

── この間、労働参加率は 2010 年以降不変とする。

【試算結果】

上記の仮定の下では、資本ストックの増加については、強めの伸び率が維持されれ

ば、2040 年度までプラス成長が続くという試算結果となった(図表 11)。

この点、経済産業省の「生産性向上設備投資促進税制」や、当地における取り組み

として、「グリーンアジア国際戦略総合特区」下での設備投資への補助金拡充による

4 同仮定は強めのものとなっているが、本稿では、資本ストックの伸び率が弱いシナリオについても

試算した。この場合、2030年代後半から、潜在成長率がマイナス転化する。なお、同試算において

は、計測期間の中で、 も資本ストックの伸びが弱かった 2003 年度の前年比(+0.87%)を用い

た。

Page 5: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

4

設備投資の下支えがみられるほか、企業サイドでも、ごく 近では緩和的な金融環境

や企業収益の改善に伴って、投資スタンスは前向きになっている。この間、為替円安

方向の動きや稼働率上昇などを背景とした、国内設備投資案件も聞かれており、設備

投資額が増加する中での資本ストックの伸びは、もう一つの重要なポイントとなる。

(4)労働参加率が上昇し、資本ストックも増加する場合のシナリオ

【前提】

労働参加率の上昇は(2)の前提に、資本ストックの増加は(3)の前提に従うとする。

【試算結果】

労働参加率の上昇、および資本ストックの強めの伸び率の双方が実現すると仮定し

た場合を試算すると、2030 年度までは年率+0.6%前後の成長を続けるが、その後、

成長率が鈍化し、2040 年度には+0.2%まで低下する(図表 12)。

3.潜在成長率「+2%」を持続的に達成するためのシナリオ

【前提】

本章では、労働参加率は2.(2)の前提通り上昇するという仮定の下で、成長率「+

2%」を当地においても達成するために、必要な資本ストック増加率を計算する。

【試算結果】

この逆算の結果、資本ストックは年率+7%で増加していく必要(新設投資額は+

10%前後での増加が必要)があるとの試算結果となった(図表 13)。また、全要素生産

性(TFP)の前年比が計測期間の既往ピーク+1.02%(1998 年度)で続くと強めの仮定

を置いた場合(上記試算では+0.45%)には、資本ストックが年率+5%で増加してい

く必要(新設投資額は+7%前後での増加が必要)があるとの試算結果となった。

今後、政府が目標とする成長率「+2%」を持続的に達成していくためには、先述の

ような現状の取り組みに加えて、出生率の上昇幅をさらに高めて、将来の労働力人口

を底上げしていくことや、外国人労働力を含め、当地における労働力人口を増加させ

ることが必要である。もっとも、試算結果からは、当地の経済成長の実現のためには、

労働力以上に資本ストックの増加や生産性の上昇が必要との示唆が得られており、外

国資本の誘致を含め、製造業企業における一段の投資促進に加え、資本装備率が

低いとみられる非製造業企業の設備投資を積極化させていくこと、その中で、さらなる

規制緩和や民間のイノベーションなどを促して生産性を高めていくことが求められる。

現状の様々な制約を乗り越えて、これらの取り組みを行うことにより、当地経済が持

続的な成長を遂げることを期待したい。

以 上

Page 6: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

5

(図表1)潜在成長率の推移(全国、前年比、寄与度、%)

(図表2)労働力人口の推移(1990 年=100)

(注)2014 年度上半期は、2014/2Q の値。日本銀行作成。

(資料)内閣府「国民経済計算」、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、総務省「労働力調査」、

厚生労働省「毎月勤労統計」「職業安定業務統計」、経済産業省「鉱工業指数統計」等

(資料)総務省「国勢調査」

98

100

102

104

106

108

1990 1995 2000 2005 2010

九州・沖縄 全国

(年)

▲2

▲1

0

1

2

3

4

5

6

80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14

TFP

資本ストック

就業者数

労働時間

潜在成長率

(年度半期)

Page 7: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

6

(図表3)資本ストック(前年比、%)

(図表4)全要素生産性(TFP)の推移(前年比、%)

(注)九州・沖縄の線形回帰トレンドは 1998 年度から 2009 年度までの計測期間で算出。

(資料)内閣府「国民経済計算」、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、総務省「労働力調査」、

厚生労働省「毎月勤労統計」「職業安定業務統計」、経済産業省「鉱工業指数統計」等

(資料)内閣府「県民経済計算」

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

九州・沖縄

全国

(年度)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

全国

九州・沖縄

九州・沖縄(線形回帰トレンド)

(年度)

0.45

Page 8: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

7

(図表5)生産年齢人口の推移(九州・沖縄、百万人)

(図表6)潜在 GRP の推移【ベースシナリオ】

(九州・沖縄、兆円)

(注)データ間の計数は、各期間における増減率(年率、%)を示している。

また、ここでの生産年齢人口は、15 歳以上の人口を示す。

(資料)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」

(注)データ間の計数は、各期間における成長率(年率、%)を示している(以下、同じ)。

(資料)内閣府「県民経済計算」、総務省「国勢調査」、厚生労働省「毎月勤労統計」、

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」、

日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」等

▲0.10.9

0.5 0.2 ▲0.1 ▲0.3 ▲0.4 ▲0.6▲0.7

▲0.9

0

2

4

6

8

10

12

14

1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

男女計 男性 女性

(年)

推計

1.40

0.75▲ 0.07 ▲ 0.18 ▲ 0.17

▲ 0.18▲ 0.27

▲ 0.39

▲ 0.60

▲ 0.40

▲ 0.20

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

1.40

1.60

30

35

40

45

50

55

60

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

実質GRP

ベースシナリオ

(年度)

Page 9: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

8

(図表7)労働参加率上昇の仮定(九州・沖縄、%)

【男女計】

【男性】

【女性】

0

20

40

60

80

100

15~

19歳

20~

24歳

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

55~

59歳

60~

64歳

65~

69歳

70~

74歳

75~

79歳

80~

84歳

85歳

以上

2010年

2030年

(注)労働参加(力)率は、(各世代の労働力人口)/(各世代の人口)で算出している。

(資料)総務省「国勢調査」

0

20

40

60

80

100

15~

19歳

20~

24歳

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

55~

59歳

60~

64歳

65~

69歳

70~

74歳

75~

79歳

80~

84歳

85歳

以上

2010年

2030年

0

20

40

60

80

100

15~

19歳

20~

24歳

25~

29歳

30~

34歳

35~

39歳

40~

44歳

45~

49歳

50~

54歳

55~

59歳

60~

64歳

65~

69歳

70~

74歳

75~

79歳

80~

84歳

85歳

以上

2010年

2030年

Page 10: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

9

(図表8)潜在 GRP の推移【労働参加率上昇シナリオ】

(九州・沖縄、兆円)

(図表9)労働参加率上昇による押し上げ効果

(九州・沖縄、前年比、寄与度、%)

(注)押し上げ効果は、労働参加率上昇シナリオとベースシナリオの、各期間における成長率(年率)

の差分を計算し、その差分への寄与を分解したもの。

(資料)内閣府「県民経済計算」、総務省「国勢調査」、厚生労働省「毎月勤労統計」、

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」、

日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」等

0.0

0.1

0.2

0.3

2015 2020 2025 2030 2035 2040

女性

シニア層

シニア層+女性

(年度)

1.40

0.750.21 0.07 0.03 0.06 ▲ 0.20

▲ 0.32

▲ 0.60

▲ 0.40

▲ 0.20

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

1.40

1.60

30

35

40

45

50

55

60

65

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

実質GRP

シニア層と女性の労働参加率上昇

ベースシナリオ

(年度)

Page 11: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

10

(図表 10)将来の資本ストックの仮定(九州・沖縄、兆円)

(図表 11)潜在 GRP の推移【資本ストック増加シナリオ】

(九州・沖縄、兆円)

(資料)内閣府「県民経済計算」

0

50

100

150

200

250

00 05 10 15 20 25 30 35 40

資本ストックの伸び率が強いシナリオ(年率+1.75%)

資本ストックの伸び率が弱いシナリオ(年率+0.87%)

資本ストックが2009年度以降増加しないシナリオ

(年度)

(資料)内閣府「県民経済計算」、総務省「国勢調査」、厚生労働省「毎月勤労統計」、

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」、

日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」等

1.40

0.86

0.460.35

0.360.35

0.26 0.14

0.800.20

0.09 0.10 0.08 ▲ 0.00 ▲ 0.12

▲ 0.20

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

1.40

1.60

30

35

40

45

50

55

60

65

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

実質GRP

資本ストックの伸び率が強いシナリオ(年率+1.75%)

資本ストックの伸び率が弱いシナリオ(年率+0.87%)

ベースシナリオ

(年度)

Page 12: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

11

(図表 12)潜在 GRP の推移【労働参加率上昇+資本ストック増加シナリオ】

(九州・沖縄、兆円)

(図表 13)潜在 GRP 成長率「+2%」達成のために必要な資本ストック

(九州・沖縄、年率、%)

全要素生産性

前年比

2016~

2020 年度

2021~

2030 年度

2031~

2040 年度

2016~

2040 年度

0.45

前年比

資本ストック 6.5 6.5 7.6 7.0

新設投資額 17.4 6.6 8.7 9.5

1.02

資本ストック 4.5 4.6 5.7 5.0

新設投資額 11.4 4.6 6.9 6.9

(資料)内閣府「県民経済計算」、総務省「国勢調査」、厚生労働省「毎月勤労統計」、

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」、

日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」等

(注)新設投資額については、資本ストックの増加のために必要とされる前年比を示しているが、

本試算を行う際に必要となる除却率については、2005 年度から 2009 年度の平均値を用いた。

(資料)内閣府「県民経済計算」等

1.40

0.860.74

0.590.56

0.590.33 0.21

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

1.40

1.60

30

35

40

45

50

55

60

65

70

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

実質GRP

シニア層と女性の労働参加率上昇+資本ストック増加(年率+1.75%)

ベースシナリオ

(年度)

Page 13: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

12

【BOX】潜在 GRP の試算モデルについて

○本稿で用いた「生産関数アプローチ」による、九州・沖縄の潜在域内総生産(Gross

Regional Product、以下、GRP)の試算方法について、その概要を説明する。

○生産関数アプローチとは、GRP が、

①現存する資本ストックのうち実際に利用されている資本投入量

②「人数」×「時間」でみた労働投入量

③それらが GRP を生み出す際の生産効率を意味する全要素生産性(Total Factor

Productivity:TFP)

の3つの変数からなるマクロ生産関数で決まると考え、それらが満たすべき相互関

係から、潜在 GRP や潜在成長率を求める方法である。

本稿では、以下のコブ・ダグラス型と呼ばれる生産関数を用いた5。

lnY lnT 1 a lnK a lnL

(Y:実質 GRP、T:全要素生産性、K:資本投入量、L:労働投入量、a:労働分配率)

すなわち、GRP(Y)は、労働分配率(a)を与えられれば、全要素生産性(T)、資

本投入量(K)、労働投入量(L)の3つによって決まると考える。そうすれば、潜在

GRP(Y*)は、資本と労働がそれぞれ 大限に投入されたときに達成される GRP 水

準と考えることができ、

lnY∗ lnT 1 a lnK∗ a lnL∗

(Y*:潜在 GRP、K*:潜在資本投入量、L*:潜在労働投入量)

と定義できる。

なお、各指標のうち、全要素生産性(T)については、これを直接表す現実のデー

タを見つけることは困難であるため、実際の GRP(Y)、資本投入量(K)、労働投入

量(L)の3つを用いて逆算する。

○まず、労働分配率(a)について、決定する。

本稿では、労働分配率は、労働分配率=県民雇用者報酬/県民所得で決まると

し、計測期間である 1997 年度から 2009 年度の間の平均値 0.7 を、当地の労働分

配率とした6(図表 14)。

5 コブ・ダグラス型の生産関数を用いる際には、主に、①規模に関して収穫一定、②資本と労働の

代替弾力性が1、としている点に注意が必要。 6 本稿では、各データについて、共通して統計が利用可能な期間である、1997 年度(年)から 2009

年度(年)のデータのみを用いて、各指標を決定した。なお、使用したデータには、ベースが年度

のものと暦年のものがあるが、本試算では、暦年ベースのものを年度ベースとして代用した。

Page 14: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

13

○次に、実際の①資本投入量(K)と②労働投入量(L)を計算する。

①実際の資本投入量は、以下のものとして計算する(図表 15)。

資本投入量=製造業の資本ストック×製造業の設備稼働率

+非製造業の資本ストック×非製造業の設備稼働率

②実際の労働投入量は、以下のものとして計算する(図表 16)。

労働投入量=就業者数×総労働時間

○これらと、実際の GRP から、全要素生産性(T)を逆算する。

もっとも、これらの計算で得られる全要素生産性は不規則変動や統計誤差などを

含んでいるため、HP フィルターでノイズを除去する(図表 17)。

この結果得られる、当地の全要素生産性の前年比は、1998 年度をピークに 2009

年度まで緩やかに低下している(再掲図表4)。この間、全国についても全要素生産

性の前年比をみてみると、全国も 2000 年代入り後は、2002 年度をピークに 2014 年

度まで緩やかな低下傾向を辿っており、当地においても 近まで同様に低下して

いたと考えられる。本稿では、計測期間(1998 年度から 2009 年度まで)のトレンドを

もとに、2014 年度の前年比+0.45%を、試算期間中(2010 年度以降)一定であると

した7。

○続いて、①潜在資本投入量(K*)と②潜在労働投入量(L*)を計算する。

①潜在資本投入量は、以下のものとして計算。

潜在資本投入量=製造業の資本ストック×製造業の潜在設備稼働率

+非製造業の資本ストック×非製造業の潜在設備稼働率

②潜在労働投入量は、以下のものとして計算。

潜在労働投入量=各世代の人口×各世代の労働参加率

×(1-構造的失業率8)× 大労働時間9

○以上から得られた、全要素生産性(T)、潜在資本投入量(K*)、潜在労働投入量

(L*)、労働分配率(a)を用いて、潜在 GRP(Y*)を計算する。

7 同仮定は、 近の行政や企業の生産性向上に向けた取り組みが奏功し、一定程度は先々も生

産性向上が継続するとの見方に立ったものであり、不確実性が大きい点には留意が必要。 8 構造的失業率については、完全失業率のうち、計測期間(1997 年度から 2009 年度まで)の中で、

低の水準であった、1997 年度の値を採用した。 9 大労働時間に関しては、所定内労働時間と所定外労働時間のそれぞれについて計算し足し

合わせた。このうち、所定内労働時間については、労働基準法の改正やパートタイム労働者比率

の増加に伴い、段階的な引き下げがみられている。そのため、本稿では制度変更を勘案した線形

屈折トレンドを表し、2006 年度の値を採用した。

Page 15: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

14

(参考)今回の試算に用いたデータの出所

項目 出所

実質 GRP 県民経済計算(内閣府)

資本ストック10 県民経済計算(内閣府)

設備稼働率 生産・営業用設備判断D.I.(日本銀行福岡支店)

就業者数 県民経済計算(内閣府)

労働時間 毎月勤労統計(厚生労働省)

県民所得 県民経済計算(内閣府)

県民雇用者報酬 県民経済計算(内閣府)

世代別人口推移(~2010 年) 国勢調査(総務省)

世代別人口推移

(2015 年~2040 年)

日本の地域別将来推計人口

(国立社会保障・人口問題研究所)

労働力人口 国勢調査(総務省)

完全失業率 労働力調査(総務省)

(図表 14)労働分配率(九州・沖縄、%)

10 本試算において用いた資本ストックは粗資本ストックであるため、純資本ストックとは異なり、機械

設備の摩耗などの実質的な目減りは考慮に入れていない点には注意が必要。なお、本試算にお

いては、社会資本ストックは考慮に入れていない。

(資料)内閣府「県民経済計算」

65

66

67

68

69

70

71

72

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年度)

労働分配率平均値

Page 16: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

15

(図表 15)設備稼働率(九州・沖縄、%、計測期間最大値=100)

【製造業】

【非製造業】

(資料)日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」

(資料)日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」

40

60

80

100

120

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09(年度)

潜在設備稼働率

実際の設備稼働率

40

60

80

100

120

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09(年度)

潜在設備稼働率

実際の設備稼働率

Page 17: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

16

(図表 16)労働時間(九州・沖縄、時間)

【所定内労働時間】

【所定外労働時間】

(資料)厚生労働省「毎月勤労統計」、内閣府「県民経済計算」

(資料)厚生労働省「毎月勤労統計」、内閣府「県民経済計算」

140

144

148

152

156

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年)

最大労働時間

実際の労働時間

8

9

10

11

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年)

実際の労働時間

最大労働時間

Page 18: Bank of Japan Fukuoka BranchBank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州・沖縄における潜在成長率の試算 ~ 2040年度までの中長期シミュレーション

17

(図表 17)全要素生産性(九州・沖縄、2000 年度=100)

(再掲図表4)全要素生産性(TFP)の推移(前年比、%)

(資料)内閣府「県民経済計算」、厚生労働省「毎月勤労統計」、

日本銀行福岡支店「九州・沖縄『企業短期経済観測調査』」

(注)九州・沖縄の線形回帰トレンドは 1998 年度から 2009 年度までの計測期間で算出。

(資料)内閣府「国民経済計算」、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、総務省「労働力調査」、

厚生労働省「毎月勤労統計」「職業安定業務統計」、経済産業省「鉱工業指数統計」等

94

96

98

100

102

104

106

108

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

ノイズ除去前

ノイズ除去後

(年度)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

全国

九州・沖縄

九州・沖縄(線形回帰トレンド)

(年度)

0.45