biomechanics of the injury of a throwing shoulder

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Page 1: Biomechanics of the Injury of a Throwing Shoulder

肩関節20巻 第2号441-444,1996.

投球障害肩の関節内病変と病態について

昭和大学整形外科学教室

渡 辺 幹 彦 ・広 瀬 秀 史

小 川 剛 司 ・白 土 貴 史

山 本 譲 ・片桐 仁

武 重 直 敏 ・片桐 知 雄

藤 巻 悦 夫

Biomechanics of the Injury of a Throwing Shoulder.

by

WATANABE Mikihiko, HIROSE Hidefumi, OGAWA Takeshi, SHIRATO Takashi,

YAMAMOTO Yuzuru, KATAGIRI Jin, TAKESHIGE Naotoshi, KATAGIRI Tomoo and

FUJIMAKI Etsuo.

Deparment of Orthopaedic Surgery, Showa University

(Summary)

Shoulder pain is one of the most common complaints among baseball picthers. MRI and arthroscopy give

a lot of useful information about the capsule. This study attempts to clear the pathomechanics of a throwing

shoulder by comparing the symptoms and the findings of MRA and arthroscopy.

(Materials and Methods) 10 amateur baseball players were studied. One player had anterior shoulder pain,

and six players had posterior shoulder pain. Almost all of them had pain in the acceleration phase before a

ball-release. Bennett lesion existed in three cases.

(Results)

Superior labrum tears were found in nine. Partial tears of the rotator cuff were found in seven. There were

two cases of insufficient AIGHL with a Bennett lesion.

(Conclusion) It is said that posterior musculatures are stretched in the decceleration and the follow through

phases. In this study, the decceleration force of the shoulder exists in the acceleration phase, a motion which

induces shoulder stress.

Key words:投 球 障害 肩(injury of throwing shoulder)

一441一

Page 2: Biomechanics of the Injury of a Throwing Shoulder

The Shoulder Joint, Vol.20, No.2, 441-444, 1996.

目 的

投球障害肩はスポーツ障害肩 の中で も治療 に難 渋す

る。近年MRIや 関節鏡の発達によ り,関 節唇損傷や腱

板不全断裂がかな りの例に認められることがわかって き

た。しか し,病 態につ いては未だ不明な点 も多い。本研

究は投球障害肩の臨床症状 と関節内病変の結果から投球

障害肩の病態を推測することであ る。

対 象 と方法

対象は平成3年 か ら平成6年 までの3年 間に投球障害

を主訴 に当科を受診 した野球選手56例 の内,観 血的治

療を受けた10例 である。平均年齢は26.1歳(19歳 か

ら34歳),野 球歴は平均11.8年(3年 か ら22年),平

均罹病期間は2.7年(3ヵ 月か ら14年)で あった。1

例が前方部痛,6例 が後方部痛,3例 が外側部痛を訴 え

た。投球 フェー ズで は加速期か らフォロースルー にか

けての痛みを8例 が訴 え,コ ヅキ ング期で痛みが 出る

と訴 えた ものが3例 で あった。肩 甲上腕関節での ブロ

ックテス トが施行 した8例 中7例 で陽性であった(表 一

1)。単純X線 写真及びCTに て3名 にBennett病 変が確

表1症 例

TypeI4/10例

Type【15/10例

図1BLC(bicepstendonlabrumcomplex)の 損 傷

認 され た 。 関 節 内 の 病 変 は以 下 の3項 目 を中 心 に評 価

した(1)。BLC(bicepstendonlabrumcomplex)

(2)腱 板(3)IGHLC/MGHL(inferiorgleno-humer-

alligamentlabrumcomplex/middlegleno-humerallig-

ament)

評 価 方法 は 関 節 鏡 所 見 を 中心 にMR関 節 造 影(以 下

MRA)な ど の 画像 診 断 も参 考 に した 。BLCの 関 節鏡 所

見 はSnyderのSLAPlesionのtype分 類 に準 じた6}。腱

板 の関 節 面 不全 断 裂 は米 田の 分類 に準 じた71。

結 果

上 方 関 節 唇損 傷 は10例 申9例 に認 め られ た(図 一1)。

Snyder分 類 のtypeIが4例,typeIIが5例 で あ っ

た。 棘上 筋 腱 の 関節 面 不 全 断裂 が7例 に認 め られ,内1

例 は 棘下 筋 腱 の関 節 面 不全 断 裂 も合 併 して いた(図 一2)。

anteriorinferiorgleno-humeralligament(へIGHL)の

弛 緩,機 能 不 全 が2例 に認 め られ,内1例 はMGHLの

断 裂 も認 め ら れ た(図 一3)。上 方 関 節 唇 損 傷 に腱 板 不 全

断裂 が7例 に 合併 して い た。Bennettlesionの3例 中2

棘上 筋腱7/10例

棘下筋腱1/10例

図2腱 板 不全 断裂

AIGHL2/10例

MGHLl/10例

図31GHLC/MGHLの 損傷

一442一

Page 3: Biomechanics of the Injury of a Throwing Shoulder

肩関節20巻 第2号441-444,1996.

例 に上方関節唇損傷 とALGHL機 能不全が合併 していた

俵 一2>。

考 察

Andrewsら は野球選手 らの関節鏡視で高率に上方 関

節唇損傷を認めた としてい るが1),我 々の結果で も10

例中9例 に上方関節唇損傷が認め られた。Bennett病 変

は野球選手に特徴的な病変 として報告 され ているが2},

必ず しも痛み を伴 うもので はな く,無 症候性 の ものが

かな り存在する$}。また病変は基本的には関節外に存 在

するが関節内でのブロ ックテス トが陽性の場合があ り,

関節内病変 と合併 を疑わせ る。今回のBennett病 変3

例中2例 に上方関節損傷 とALGHLの 機能不全が合併 し

ていた ことは病変の主体がBennett病 変だけでなく関節

内にも存在することを示唆した。Bemett病 変とAIGHL

の機能不全の合併例は ともに後方の投球時痛 と投球障害

を主訴に して,関 節内での ブロックテ ス トが陽性で あ

った。この ことは病態を考 える上で興味深 い。従来の考

えで は前方へのス トレスは必ず後方へのス トレスが生 じ

る以前 に存在し,前 方,後 方が投球相の同じ時期 に障害

を受 けることはない。Bennett病 変 とAIGHLの 機能不

全 の合併例の場合,従 来の考 えではAIGHLの 障害はコ

ックア ップ期 において,Bennett病 変はフォロースルー

期にかけて障害が起 こる と考え られる鯛 。 しか し,実

際は加速期か らフォロースルー期 にかけての痛み と投球

障害であ り,痛 みを起こす投球相 と一致 しない。 ここで

投 球相 と障害の関係 を投球障害(全 力投球がで きな い

こと〉と投球時痛を別々にして考 える と,コ ックア ヅプ

期(肩 関節最大外転外旋位 まで)中 に障害が発生するの

であれば選手は障害の起 こる肢位 に持 って行かなけれ ば

投 球時痛を起 こさずに投球が可能 ななずで ある(投 球

障害(十),投 球時痛(一 〉)。また フォロースルー期 に

表2関 節内病変

障害が起こるのであればボールが離れた後で障害が起こ

るのであるか ら投球時痛はあって も投球障害は起 こさな

いはず である(投 球障害(一),投 球時痛(+)〉.そ し

てブロックテス トに代表 されるように病変部位の除痛 を

しては じめて全力投球が可能な場合(投 球 障害(+〉,

投球 時痛(+)〉 は コックアップ期 とフオロースルー期

の間つ まり加速期に障害を起こ している と考 えられ る

(表一3)。Bennett病 変 とAIGHLの 機能不全の合併例 は

プロヅクテス トが陽性であった ことか ら加速期に障害が

起 きている ことにな り,実 際選手 が痛み を訴 える投球

相と一致する。また上方関節唇損傷 もAndrew$ら によ

れば減速期か らフォロースルー期に障害は起 きるとされ

る1}がわれわれの例ではブロックテス ト陽性例は加速期

から痛みを訴 えてお り一致す る。

投球動作 において各 関節 は加速,減 速 を繰 り返 しボ

ールを加速 させてい く。肩関節は運動連鎖上,「投球相

の加速期に滅速 をはじめる8}」が全ての例で同じように

滅速するのではな く,投 球 障害肩群で は肩 関節 は速 く

減速をは じめ,上 肢 の動 きでポー ルは加速 させ る例が

多い9}。投球動作上,上 肢の動 きの支点 として働いてい

る肩 関節は体幹の回旋によってそれ自体動いている。肩

関節に働 くス トレスは上肢を加速させるために生 じる力

動作解析 単純X線写真及び関節鏡所見

図4加 速 期 に 肩 関 節 に働 くス ト レス の 方 向 は関 節 窩 後下 方

か ら前 上 方 に 向 か う方 向 で あ る。

BLC:bicepstendon/labrumcomplex

LHB:longheadofbicepsbrachii

SSP:suprasupinatustend◎n

IGHLC:inferiorgleno-humeralligamentlabrumcomplex

表3投 球障害,投 球時痛と投球相の関係について

一443一

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TheSh◎ulderJoint,V◎1.20,No.2,441444,1996.

だけでな く体幹の回旋 によって受ける減速の力を合わせ

た ものであ る(図 一4)。つ ま り加速期に肩関節にかかる

ス トレスの大きさは体幹の回旋 にも大 きく影響される。

これが投球障害肩の場合,実 際にボールを投 げない と

なかなか痛みを誘発で きない理 由の1つ と考 えられる。

関節鏡視所見で高率(10例 中9例)に 上方関節唇損傷

がみ とめられた ことはBLC周 囲の関節安定化機構の破

綻が投球障害肩の病態に深 く関与 していると予想 される

が,臨 床症状 からは投 げないと不安定性 は出現 しない

(動的不安定性〉。特 に後方部痛を訴 えた6例 中5例 に上

方関節唇損傷が認め られ,そ のほ とんどが関節 内プロ

ヅクテス トが陽性に示 したことはBennett病 変を認める

例はもちろん認めない例で もス トレスが関節窩後下方か

ら前上方 に向かっていると考えられた(図 一4)。これは

単純X線 所見や関節鏡所見 とも一致す る。この方向は

外傷性肩関節前方不安定症を起こす方向とは異なる。 こ

れが投球障害肩の場合理学所見上,不 安定性 を検 出に

くい原因であ り,治 療 にあたってはこう した動 的不安

定性を考慮する必要があると考 えられた。

ま と め

(1)10名 の投球障害肩の関節内病変の検討 を行い上方

関節唇損傷が9名,腱 板の不全断裂が7名 に認 められ

た。

(2)Bennettlesion3例 申,2例 に上方関節唇損傷 と

AIGHL機 能不全が合併 していた。

③ 投球障害肩の場合,肩 関節へのス トレスは加速期の

ある時期に動的不安定性による前方への圧迫九 後方

へ牽引力 として働いている可能性があると考 えられた。

参 考 文 献

(1) Andrews JR et al : Glenoid labrum tears related

to the long head of the biceps. Am J Sports Med

13:337-341,1985.

(2) Bennett GE : Shoulder and elbow lesions of the

professional baseball pitcher. JAMA117:510-

514,1941.

(3)広 岡淳 他:プ ロ野 球 選 手 の肩 関 節 障 寄 検診 の結 果

につ いて一:整 形 外 科 ス ポー ツ6:191-194,1987.

(4) Jobe FW : An EMG analysis of the shoulder in

throwing and pitching. Am J Sports Med 11:3-

5,1983.

(5) Papas AM:Rehabilitation of pitching shoulder.

Am J Sports Med 13:223-235,1985.

(6) Snyder SJ : SLAPlesion of the shoulder.

Arthroscopy 6:274-279,1990.

⑦ 林 田賢治他:腱 板関節面不全断裂 に対す る手 術療

法:鏡 視下デブ リー ドマンと腱板修復術 の比較:肩 関

節17:317-319,1993.

(8)渡 辺幹彦,他:コ ンピュータ動作解析(APAS)を

用いた野球の投球動作解析:整 形外科バイオメカニク

ス,13:13-16,1991

(9)渡 辺幹彦,他:コ ンピュータ動作解析(APAS)を

用 いた投球障害肩の投球動作解析:日 本臨床バイオメ

カニクス,14:5-8,1992

一444一