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BOP ビジネス 潜在ニーズ調査報告書 ケニアのエネルギー分野 2010 3 日本貿易振興機構(ジェトロ) 委託先:株式会社クロスインデックス

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  • BOP ビジネス 潜在ニーズ調査報告書

    ケニアのエネルギー分野

    2010 年 3 月

    日本貿易振興機構(ジェトロ)

    委託先:株式会社クロスインデックス

  • i

    ジェトロは本調査の実施にあたり、目的、調査項目、調査実施方法などからなる仕様書を作成

    し、一般競争入札に付して、その落札者である株式会社クロスインデックスに調査業務を委託し

    た。本報告書は、委託先である株式会社クロスインデックスがジェトロと打合せを重ねつつ、現地

    調査、国内インタビュー調査、文献調査などを通じて、ケニアのエネルギー分野における潜在ニ

    ーズに関する分析、ならびに低所得階層をターゲットとする新たなビジネスに関する提案を取りま

    とめたものである。

    ジェトロは、本書の記載内容に関して生じた直接、間接的若しくは懲罰的損害及び利益の喪失

    については、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知らされ

    ている場合であっても同様とします。

    Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved.

  • ii

    は じ め に

    本書は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)が株式会社クロスインデックスに委託して

    実施した「アフリカ市場新規開発有望ビジネス調査(ケニアのエネルギー分野)」の報告書である。

    本調査の特色は消費者の大多数を占める低所得階層向けのビジネスに焦点を絞った点にあり、

    「BOP ビジネス」が本報告書のテーマである。

    本報告書における BOP(Base of the Economic Pyramid)層とは、年間所得が購買力平価

    (PPP)ベースで 3,000 ドル以下の開発途上国の低所得階層を意味する。BOP ビジネスとはこの

    BOP 層を対象に、製品・サービスを彼らが購入可能な価格帯、販売形態で提供するビジネスで

    あり、収益を求める持続可能な純然たる企業活動であるが、同時に貧困問題などの社会課題の

    解決にも資する点が注目されている。BOP 層の人口規模を約 40 億人とする推計もあり、開発途

    上国の経済成長と世界的な貧困削減努力があいまって、将来的には BOP 層の多くが中間所得

    層に組み込まれていくことが期待される。この観点から BOP 層はネクスト・ボリュームゾーンとし

    ても捉えられる。BOP ビジネスは、既に多くの欧米グローバル企業が参入しているフロンティア

    だが、一般的に日本企業は取り組みが遅れているといわれており、今後の参入の活発化が期待

    される。

    本調査では、ケニアにおける BOP 層の生活実態を把握し、エネルギー分野を中心として潜在

    的ニーズを導き出し、そのニーズに合致した有望な製品・サービスの要件ならびに販売促進に

    有効なビジネスモデルなどの情報を取りまとめている。特に最終的な商品提案に関して、オフグ

    リッド(ナショナルグリッドを利用しない環境)における発電、調理の熱源、BOP 層のビジネス展

    開を促す商品という観点でまとめており、弊社の提案する商品は、商品としての魅力に留まらず、

    BOP 層を取り込んだビジネスモデルとして取り纏めている。

    ビジネス機会を明らかにする前提として、市場特性や生活実態といった要素も盛り込んだ本報

    告書が、日本企業の方々がケニアをはじめとするアフリカ諸国とのビジネスの拡大や BOP ビジ

    ネス戦略を検討される上で参考となれば幸甚である。

    株式会社 クロスインデックス

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  • iii

    目次

    第 1 章 一般的潜在ニーズ ...................................................................... 1

    1. エネルギー分野一般潜在ニーズ ...................................................... 1 2. ケニアの国情 .................................................................................. 6

    (1) ケニアの政治 ............................................................................ 6 (2) ケニアの産業 ............................................................................ 7 (3) 地理・気候特性 ......................................................................... 8

    3. 当該分野における開発ニーズ .......................................................... 8 (1) ケニアのエネルギー政策 ........................................................... 8 (2) ケニアのエネルギー供給実態 .................................................... 9

    4. エネルギー市場における開発ニーズに対応する商品・製品サービス . 19 (1) SUNLITE 社のソーラーパネル .................................................. 19 (2) Sollatek 社のソーラー発電キット ............................................... 20 (3) Seefar INT. (K) LTD 社のソーラーランタン ............................. 21 (4) Interchange Kenya Ltd 社のソーラーパネル付きトーチ ........... 21 (5) Interchange Kenya Ltd 社のワインドアップラジオ複合機 ......... 22 (6) DAVIS & SHIRTLIFF LTD 社 ................................................... 22 (7) Craftskills East Africa Ltd 社 ................................................. 24

    5. エネルギー分野の BOP ビジネス先行事例 ...................................... 25 (1) Energy Kiosk .......................................................................... 25 (2) スラム地区における貧困層向け賃貸オーナー ............................ 26 (3) 中国製の室内照明品など .......................................................... 27 (4) Kick Start 社のマネーメーカー・ポンプ ...................................... 27 (5) M-PESA(エムペサ) .................................................................. 28

    第 2 章 現地調査に基づくニーズ把握 ...................................................... 31 1. 調査概要 ......................................................................................... 31

    (1) 訪問インタビュー調査 ................................................................ 31 (2) アンケート調査 .......................................................................... 32

    2. 貧困層生活実態とエネルギー分野に関連する問題点 ....................... 33 (1) 貧困層生活実態 ........................................................................ 33 (2) 調理の熱源 ............................................................................... 40 (3) 照明のエネルギー源 ................................................................. 40 (4) 水 ............................................................................................. 41

    3. 現地入手可能な商品の問題点 ......................................................... 47 (1) 室内照明のエネルギー源 .......................................................... 47 (2) 調理のための熱エネルギー ....................................................... 52 (3) 価格、アクセス可能性 ................................................................ 54

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  • iv

    (4) 製造上、販売上、流通上の問題点 ............................................. 56 第 3 章 当該分野・当該国における潜在商品ニーズの析出 ....................... 59

    1. 具体的商品とその潜在的ニーズ ...................................................... 59 第 4 章 製品開発要件/商品仕様提案 ...................................................... 67

    1. 潜在ニーズを満たす具体的商品提案 ............................................... 67 (1) ソーラーパネル .......................................................................... 67 (2) ソーラークッカー ........................................................................ 70 (3) ふ卵器 ...................................................................................... 72 (4) 自転車式発電機 ........................................................................ 76

    2. 検討の結果選外となった商品アイデア .............................................. 79

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  • 1

    第1章 一般的潜在ニーズ

    1. エネルギー分野一般潜在ニーズ

    1 日 5 ドル未満(購買力平価換算、以下同様)の所得で暮らす人々は、全世界人口の約 65%

    に相当する 40 億人にのぼり、BOP(The Bottom/Base of the Economic Pyramid)層と呼ばれている。さらにその内 28 億人は、1 日 2 ドル以下で基本的ニーズをかろうじて満たせるだけの生活をしており、さらに世界の人口の 6 人に 1 人にあたる 11 億人は、基本的ニーズさえ満たすことの出来ない、1 日 1 ドル以下の生活を強いられている。1

    BOP の低所得者層は、調理や暖房用のエネルギーとして、ケロシン(質の悪い灯油)、薪、炭、動物の糞等を使っており、こうした生物由来の燃料に依存していることが、健康、経済、環境に

    与える影響は深刻である。 子供たちは薪集めの役目を負わされ、やむを得ず学校を休んで、教育がもたらしうるさまざま

    な機会を喪失することになる。近隣の森林を伐採しつくすと、薪集めのためにさらに遠くまで出か

    けなければならず、悪影響はさらに拡大する。家庭内でケロシンや薪を使うことは、健康上も甚

    大な被害をもたらしている。毎年 100 万人以上が、火をたく時の煙に含まれる細かい微粒子を吸い込むことによって、気管や肺の重大な感染で死亡しており、特に 1 才から 5 才までの子供の死因の 1 位は、屋内調理の煙を吸ったことによって引き起こされる呼吸器疾患である。せめて炭を利用すれば、健康被害は若干軽減されるが、炭を作るために多量の木を伐採することが必要と

    なり環境破壊が避けられない。これら生物由来の燃料エネルギーを、よりクリーンで安価なエネ

    ルギーで代替する手段を提供することによって、現在進行している深刻な環境破壊を抑えるとと

    もに BOP 層の生活向上に大きく寄与することが可能となる。 電気は全人口の限られた一部にしか届いていない。基本的な照明のためには、ロウソクや灯

    油・石油ランプが一番の選択肢である。ラジオやテレビなどの小型家電製品用には、電池や小

    型のバッテリー等を使わざるを得ない。夜間照明は、BOP 層にとって、単に暗くないという以上の意味を持っている。夜間に家庭内で手仕事ができるようになれば、経済的にもプラスになり、

    昼間働かざるをえない子供たちが夜間に家で勉強することも可能になる。電池は独立した電気

    を供給するツールとして大変便利だが、価格の高さと数日しかもたないという決定的な弱点があ

    る。充電コストがゼロもしくは極めて安く、繰り返し何度も使えるような充電器には極めて大きな

    ニーズがある。 アフリカの特に地方部に住む人々にとって、安心できるきれいな水の確保は、極めて重要な問

    題である。途上国の女性や子供が水の入った重い容器を頭の上に乗せて運んでいる姿は一般

    に知られているが、こうした労働は、首や背骨に多くの障害をもたらしている。また、アフリカの貧

    困層の 80%を占める小規模農民が抱えている最大の問題は灌漑である。通常であれば、年に1~2 回の雨が降る時期にしか作物を作ることが出来ないが、灌漑さえあれば、1 年中作物を育てることができ、市場で作物を売って現金収入を得ることが可能となる。

    このように基本的商品とサービスへのアクセスが難しい BOP 層に対して、革新的な商品・サービスを提供することは、これらの層の生活水準向上に貢献するとともに、企業にとっても大きな

    ビジネス機会に繋がると考えられる。実に、その 40 億人の BOP 層の市場規模は約 5 兆ドル、その内エネルギー市場は 4,330 億ドルと推定されている。アフリカの BOP 市場は若干小さく4,290 億ドル規模であるが、購買力は地域全体の 71%とアフリカ地域の支配的消費市場となっている。人口の 90%以上が BOP 層であり、アフリカでのビジネスは、すなわち BOP 層に対するビジネスであると言える。ケニアの 2008 年の GDP は 303 億 US ドル、国民一人当たり所得 838 US ドル、人口 3,750 万人の市場規模であるが、ケニア政府は 2030 年までの達成目標としてGDP 後の急速な市場拡大が見込まれる。

    1 The Next 4 Billion: Market Size and Business Strategy at the Base of the Pyramid

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  • 2

    図表 1 ケニアの GDP の推移2

    図表 2 ケニアの一人当りの国民所得の推移

    図表 3 ケニア総人口の推移

    2 World Bank Data

    http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/DATASTATISTICS/0,,contentMDK:20398986~menuPK:64133163~pagePK:641

    33150~piPK:64133175~theSitePK:239419,00.html

     

    0

    500

    1,000

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    2025

    2030

    US億$

    年平均成長率(08/98)9.4%→(30/08)7.8%

    0500

    1,0001,5002,0002,5003,000

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    2030

    US$年平均成長率(08/98)5.8%→(30/08)6.4%

     

    01,0002,0003,0004,0005,0006,000

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    1995

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    2005

    2030

    万人年平均成長率(08/98)2.6%→(30/08)2.0%

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  • 3

    2010 年のケニアの BOP 層人口は、全体の 84%、所得は 67%を占めるものと推定され、他のアフリカ諸国内に比べてやや平均所得水準が高い状況にある。今後はケニア全体で、年平均

    約 7%の成長を見込んでおり、2030 年時点には、現在の BOP 層のほとんどが、現在の BOP 基準である年間所得 3,000 ドル(2002 年時点の国際ドル購買力平価ベース)を超えることとなり、極めてダイナミックな構造変化が起こることが推定され、購買力旺盛なビジネスターゲットとなる

    可能性がある。

    図表 4 2010 年ケニア BOP 層の人口(推計)

    図表 5 2010 年ケニア BOP 層の支出(推計)

    総計 割合(百万人)

    BOP区分TOP+MOP 6.0 15.6%BOP3000 5.5 14.3%BOP2500 5.7 14.9%BOP2000 11.9 30.8%BOP1500 3.4 8.8%BOP1000 3.0 7.8%BOP500 3.0 7.8%

    総計 38.5 100.0%BOP計 32.5 84.4%

    人口

    全国に占める割合

    (%)

    総計 割合(百万ド

    ル)

    BOP区分TOP+MOP 29,750 33.3%BOP3000 16,093 18.0%BOP2500 13,720 15.4%BOP2000 21,698 24.3%BOP1500 4,469 5.0%BOP1000 2,357 2.6%BOP500 1,193 1.3%

    総計 89,280 100.0%BOP計 59,530 66.7%

    年間支出

    全国に占める割合

    (%)

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  • 4

    図表 6 2030 年ケニア BOP 層の人口(推計)

    図表 7 2030 年ケニア BOP 層の支出(推計)

    総計 割合(百万人)

    BOP区分TOP+MOP 23.0 38.3%BOP8000 15.0 25.0%BOP7000 10.0 16.7%BOP6000 5.0 8.3%BOP5000 3.0 5.0%BOP4000 2.0 3.3%BOP3000 2.0 3.3%

    総計 60.0 100.0%BOP計 2.0 3.3%

    人口

    全国に占める割合

    (%)

    総計 割合(百万ド

    ル)

    BOP区分TOP+MOP 234,700 50.4%BOP8000 112,500 24.1%BOP7000 65,000 13.9%BOP6000 27,500 5.9%BOP5000 13,500 2.9%BOP4000 7,000 1.5%BOP3000 5,800 1.2%

    総計 466,000 100.0%BOP計 5,800 1.2%

    年間支出

    全国に占める割合

    (%)

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  • 5

    図表 8 2002 年ケニア BOP 層の人口(推計)

    図表 9 2002 年ケニア BOP 層の支出(推計)

    ・ BOP の定義は、年間所得が 3,000 ドル以下(2002 年時点の国際ドル、購買力平価(PPP:

    purchasing power parity)で調整)の人々である。

    ・ TOP および MOP は、3,000 ドル以上の中高所得層である。

    ・ 2002 年のケニア BOP 市場推定は、隣国ウガンダの BOP 階層別人口構成データ(THE

    NEXT 4BILLION)を元に、両国の GDP 比および購買力平価比を勘案して作成している。

    ・ なお、インフレおよび経済成長により現行の BOP 層は上方の水準域に移行する結果、2030

    年においては BOP3000~8000 における状況を記載する。

    総計 割合(百万ド

    ル)

    BOP区分TOP+MOP 14,379 25.5%BOP3000 7,315 13.0%BOP2500 6,518 11.6%BOP2000 4,892 8.7%BOP1500 18,532 32.9%BOP1000 3,142 5.6%BOP500 1,591 2.8%

    総計 56,370 100.0%BOP計 41,990 74.5%

    年間支出

    全国に占める割合

    (%)

    総計 割合(百万人)

    BOP区分TOP+MOP 2.9 8.8%BOP3000 2.5 7.6%BOP2500 2.7 8.3%BOP2000 2.7 8.1%BOP1500 14.1 42.9%BOP1000 4.0 12.2%BOP500 4.0 12.2%

    総計 32.9 100.0%BOP計 30.0 91.2%

    人口

    全国に占める割合

    (%)

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  • 6

    2. ケニアの国情

    ケニア共和国(Republic of Kenya)は 2008 年現在の人口が 3,853 万人、2030 年までに

    6,000 万人に増加することが予測されている。国土の面積は 58.3 万平方キロメートルであり、これは日本の 1.5 倍に相当する。公用語はスワヒリ語及び英語であり、都市部居住者の多数及び農村部の若者は両言語を併用している。都市部及び農村部では高年齢層は通常はスワヒリ語

    によるコミュニケーションのみである。通貨はケニアシリング(KSh)であり、1KSh あたり 1.17 円(2010 年 2 月 22 日時点)である。また、国民の約 50%近くが 15 歳未満という非常に若い国でもある。

    図表 10 2010 年ケニアの人口ピラミッド(推計)3

    (1) ケニアの政治 政体は共和制であり、議会は一院制(222 議席、任期 5 年)である。昨今の政治的な大きな動

    きとして、2007 年末の大統領選挙が挙げられる。 当時の現職大統領であるムワイ・キバキ大統領(国家統一党(PNU))と、その反対勢力であ

    るオレンジ民主運動(ODM)のオディンガ党首との事実上の一騎打ちとなったこの選挙は、事前の世論調査ではオディンガ党首候補の優勢が伝えられていた。

    当初の予想通り、12 月 27 日の総選挙当日から 2 日後の 29 日時点では、オディンガ党首がキバキ大統領に約 30 万票の差をつけてリードしていたが、翌 12 月 30 日に急展開がおき、キバキ大統領が 23 万票差をつけての逆転再当選が発表された。

    これに対して、ODM が集計時の不正を主張し、ナイロビ市内のスラム、西部のニャンザ州、リフトバレー州、東部のコースト州などオディンガ党首の支持地盤において同時に暴動が発生し、

    激化した。この暴動は死者約 1,200 人、避難民約 50 万人の被害を出す結果となった。 このような動きをうけ、大統領就任は叶わなかったオディンガ党首は、2008 年 4 月にアフリカ

    著名人パネル代表団の仲介を受けて、首相の座に就任することとなり、大連立政権が発足する

    ことになった。しかしながら、2 年間以上経った今でも政治的な溝は未だにケニア国民の記憶に新しいところである。また、これにより ODM 支持者の一部はナイロビを追われ、ナイロビから地

    3 U.S. Census Bureau, International Data Base http://www.nationmaster.com/country/ke-kenya/Age-_distribution

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    方への幹線道路沿いに集落を形成するに至った。4 現地調査中においても、ナイロビから地方農村部へ移動するため、幹線道路沿いを車で移動

    している時に、暴動によってナイロビを追われた ODM 支持者の集落のいくつかを実際に見る機会があったが、いずれもトタン屋根のバラックのような居住スペースがいくつも立ち並ぶ光景であ

    り、ケニアにおける BOP 層の一部となっている。

    図表 11 幹線道路沿いの ODM 難民居住地例

    (2) ケニアの産業

    ケニアにおける 2008 年の名目 GDP は現地通貨で、2 兆 997 億 9,800 万 KSh である。US

    ドルベースでは、303 億 5,474 万 US ドル、一人当たりの名目 GDP は 838US ドルである。5 ケニアの主要産業は農業であり、その規模は GDP の約 25%を占め、労働人口の 3 分の 2

    以上を雇用、輸出収入の約 70%を生み出している。特に、お茶と切り花は観光に次ぐ外貨獲得産業であり、お茶産業は 300 万人以上を雇用、切り花産業は 150 万人強を直接および間接的に雇用している。切り花では、特にバラが輸出全体の 74%を占める。

    このような花や茶摘など一時的に発生する際の安く且つ短期的な労働力として、BOP 層が従事している。また植物のため、収穫の時期が決まっているため、夜間でも収穫が可能なようにポ

    ータブルの照明器具などが利用できれば、作業効率は飛躍的に向上すると考えられる。6

    図表 12 GDP に占める産業割合7

    4 外務省 Web サイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/KENYA/data.html 5 ケニア国家統計局 6 ケニア駐日大使館 Web http://www.kenyarep-jp.com/ 7 ケニア駐日大使館情報より弊社が作成

    農業25%

    観光12%

    輸送・通信11%

    製造業10%

    建設業4%

    金融3%

    その他24%

    卸・小売11%

    産業分野 名目GDP(US$) 割合

    農業 75億868万 25%

    観光 36億256万 12%

    輸送・通信 33億390万 11%

    卸・小売 33億390万 11%

    製造業 30億354万 10%

    建設業 12億141万 4%

    金融 9億106万 3%

    その他 72億851万 24%

    合計 303億5,474万 100%

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  • 8

    (3) 地理・気候特性

    ケニアはアフリカ大陸の東部、北緯 5 度~南緯 5 度、東経 24~31 度の間に位置し、赤道でほ

    ぼ二分されており、北東はソマリア、北にエチオピア、北西にスーダン、西にウガンダ、南にタン

    ザニアと国境を接している。 また、赤道直下に位置しており、インド洋やビクトリア湖沿岸は年間平均気温が 26℃の熱帯

    性気候である。しかし国土の大部分は、標高 1,100m~1,800m の高原となっているため、年間平均気温が 19℃の乾燥した高原サバンナ地帯となっている。ケニアの農村部では一家に複数のにわとりを飼っているが、夜の冷え込みの影響で、鶏が産んだ卵が孵化しないケースもあり、

    BOP 層にとってはわずかな見込み収入がなくなってしまうケースもある。 また、夜間における温水シャワーなどのニーズも昼夜の寒暖の差が激しいことから農村部に

    おいてもニーズがあるものと考えられる。 3. 当該分野における開発ニーズ

    ケニアにおける一般潜在ニーズを把握するために、ケニアにおけるエネルギー市場の全体を

    把握しておく必要がある。 現在進行しているエネルギー政策及びエネルギー開発に関連する政策として、「Energy Act」

    と「Kenya Vision 2030」の 2 つが挙げられる。

    (1) ケニアのエネルギー政策 1) Energy Act 2006 年に施行された総合的なエネルギー政策法である。短期・長期のエネルギー開発に係

    る国家政策を定めており、適切な質で費用効率がよく、十分な量のエネルギー供給を担保する

    ことを目的とする一方、環境保全を確実に行っていくこともその目的としている。

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  • 9

    2) Kenya Vision 2030 2006 年 10 月に発表された Kenya Vision 2030 は国内開発の転換に焦点を当てている。こ

    の政策は 2007 年に終了する「富と雇用創出のための経済回復戦略(ERSWEC:Economic Recovery Strategy for Wealth and Employment Creation)」を引き継ぐ長期国家戦略であり、その目的は「国際的競争力のある繁栄した豊かな国家」となることを目指している。ケニア政府

    は民間部門、市民社会、開発パートナー、その他の関係者と協力し、2008 年から 2030 年までの期間を対象とする新たな開発の青写真として同ビジョンを策定した。

    2030 年までの達成目標として大きな柱が以下の 3 点が挙げられる。

    1. 国民一人あたり所得を 5 倍増の 3,000 ドルにする 2. 年間経済成長率 10%を達成する 3. 国を効率的な近代民主主義国家に変える

    つまりこのビジョンは経済開発プログラムを通してすべてのケニア人に富をもたらすことを目標

    としている。 上記の 1~3 の大きな柱の中でも、年 10%近くの GDP 成長率の達成は最も重要な達成すべ

    き目標と考えられている。プロジェクトは将来の地方の発展を目指し全国的な影響力をもつ独自

    の大規模プロジェクトである。5 ヵ年の中期計画の継続実施と述べたが、この Kenya Vision 2030 の政策や行動プランは世界情勢、各地域の状況などに対応し、5 年毎に体系的に見直され、改定されるもので、最初の 5 ヵ年計画は 2008 年から 2012 年までにわたって実施されている。

    この大規模な国家変革期間においては、今までのビジネスから今までと違ったビジネスへ、調

    和の取れていない意思決定から中央統制のとれた意思決定へ、対応の遅い法制化からすばや

    く積極的な法制化へ、質が低く分散化した資金提供から高品質の保証された投資へ、未熟練か

    ら優秀な人材供給への、基本的な変革が必要とされると考えられている。8

    (2) ケニアのエネルギー供給実態 ケニアにおけるエネルギー供給に関連する主要機関を以下にまとめる。 1) ケニア電力公社(KenGen:Kenya Electricity Generating Company Limited) ケニアの消費電力の約 80%を発電する発電会社であり、水力、地熱、風力による発電事業を

    実施している。現在はバイオマス発電にも取り組んでいる。近年は水資源の不足から、地熱発電

    にシフトする方向にある。 設立の経緯としては、1998 年 1 月に交付された電気事業法(Electricity Power Act)によって、

    エネルギー省(MOE:Ministry of Energy)の機能が、政策部門と規制部門に分割されたことを機に、電力事業者も再編成されたことに発する。それまでは、電力供給を独占していた 5 つの機関(ケニア電灯・電力会社(KPLC)、ケニア電力会社(KPC)、タナ川開発会社(TRDC)、タナ川・アチ川開発庁(TARDA)、ケリオ渓谷開発公社(KVDA))が、ケニア電灯・電力会社(KPLC:Kenya Power and Lighting Co . ) と ケ ニ ア 発 電 会 社 ( KenGen : Kenya Electricity Generating Co.)の 2 社に統廃合された。9

    8 ケニア駐日大使館 Web http://www.kenyarep-jp.com/business/economy_j.html#02 9 外務省 Web http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/kenya/yu_1.html

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  • 10

    2) 民間電力会社(IPPs:Independent Power Producers) 民間の発電事業に関連するグローバル企業である Aggreko 社、Ibera Africa 社、Westmount

    社、Mumias Sugar 社等の発電関連のグローバル企業が、ケニアにおいてディーゼルをはじめ、石炭やエタノールなどを原料とした発電事業を行っている。

    現在では上述の通り、KenGen の電気供給量が圧倒的であるが、10 年前は IPPs のような民

    間事業者の力が多分に発揮されたこともあった。具体的には、1988 年度の発電設備が 75 万1,100kW が 1998 年度の 85 万 5,600kW へと約 10 万 kW が増設された際、増加分の 8 万7,500kW は IPPs の設備であり、KenGen はわずかに 3 万 kW 分の増設に過ぎなかったという経緯もある。10

    現在はケニア国内で発電事業を行っており、それをグリッドに販売している。KenGenからケニア電灯・電力公社が購入するよりも IPPs から購入する方が安い、ということだと思われる。

    3) ケニア電灯・電力公社(KPLC:Kenya Power & Lighting Company Limited) ケニアの送電事業の独占企業である。電力供給という公共性の高い事業であるが、民間資本

    が 6 割入っているため、個人は送電網(グリッド)から自宅に電力を引き込むために約35,000KSh(約 40,950 円)を支払わなければならず、一部の富裕層を除き、一般市民が電力を利用する際の大きな障壁となっている。約 35,000KSh の内訳は、接続料 32,480KSh と電力メーター代 2,500KSh である。

    本調査における BOP 層へのインタビューでは、ある村の隣人同士が 6 名が共同で電線に接続し、それを各世帯に振り分けるという方式で電気を利用している実態があった。電気代も各世

    帯全体で平均に割って全員同額を負担している。 また、ナイロビの Kibera スラムにおいては、住宅は基本的に賃貸であるが、大家が送電網に

    接続して、それを居住者に、独自の利用料金体系で売電しているという一例もあった。 ケニアにおいてはこのように KenGen および IPPs が発電し、KPLC が全国へ配電しているの

    が基本的な構造である。 問題となっているのは、配電が一事業者によって独占されているため、その利用料金がボトル

    ネックとなり、ニーズがあるにも関わらず、特に地方においての電化率が 10%程度に留まっている点である。そこで KPLC は現在金融機関と連携し、住民への小口融資を実行し電化率の向上に努めている。その具体的な融資プログラムの一例が以下である。11

    ① Umeme Pamoja KPLCの規則では、送電網の末端の変圧器から600m以内の住民の接続料は約35,000KSh

    と定められている。 600m を超える距離に居住する住民には、KPLC が現場検証を行い、各世帯の接続料金を査

    定するが 700m で 100,000KSh、1km 離れている場合で 100 万 KSh が掛かる。 KPLC は 600m を超える地域の住民には、接住民の手への送電を実現するため、そのコスト

    を個人でなく、グループで分担する方式により、配電線への接続を促進する。この方式が

    「Umeme Pamoja」と呼ばれる融資プログラムである。内容はKPLCと銀行が共同で実施する資金プログラムである。この方式により、KPLC は契約世帯数を 2008 年に 120 万世帯にまで増加させることに成功した。

    10 外務省 Web http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/kenya/yu_1.html 11 JICA アフリカ地域「未電化村における再生可能エネルギー活用促進プログラム(ビジネス及び資金メカニズム)準備調査」

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  • 11

    ② Stima Loan Stima はスワヒリ語で”電気”の意味である。KPLC は商業銀行(Equity Bank、Standard

    Chartered Bank、K-Rep Bank)と連携し、「Stima Loan」を提供して、個人世帯向けに配電線への接続の便宜を図り電化率の向上に取り組んでいる。

    KPLC と銀行は Stima Loan があることを住民に知らせ配電線に接続するよう説得する。また適正な金利負担や返済期間を決めるための情報収集のためのマーケティング調査も行う。

    住民が各地の KPLC のローカル事務所を訪問し、配電線への接続や配電線の延長についての相談を行う。逆に、ビジネスや農業のワークショップを利用し、KPLC から住民へ積極的に情報提供を行うこともある。

    ローンを利用した場合の実際の電線利用への流れとしては、銀行は配電線に接続したい顧客

    に一定の条件を提示し、両者が折り合い契約に至れば、接続費用に相当する金額を KPLC に振り込む。

    銀行の融資によって接続を望む顧客には銀行口座を開設し一定の金額を一定の期間預けさ

    せるといった条件や、場合によっては家、土地等の担保を提供する条件が課せられる。これらを

    満たして契約が成立すれば KPLC への支払いが実行され、30 日以内に接続される。 このローンには法令は介在しないが、KPLC と銀行間でリスクや業務責任を均等に負う。パー

    トナーシップの協定書が取り交わされる。 このように電力供給側は、グリッドのカバー範囲を拡大するだけではなく、少しでも一般消費者

    が電気を利用できるようにするための支援制度を展開している。しかしながら、BOP 層は定職につかず安定した収入を得ていない世帯が多いため、ローン制度も BOP 層には浸透していない。このことからオフグリッドで且つ発電コストが低価格な電気エネルギーが BOP 層向けに提供される必要があると考えられる。

    図表 13 Stima Loan の仕組み

    KLPC

    ・送電線敷設・電力供給・Stima Loan の認知拡大・普及のためのマーケティング 調査実施

    商業銀行

    ・Stima Loan の提供・電気接続料金代理振込み

    BOP層(電力接続希望者)

    ・グリッドへの接続による 電力利用

    ①グリッドへの接続申込

    ⑤グリッド接続料金の支払い

    ②Stima Loanの紹介

    ③Stima Loanの申込口座開設担保提供

    ④Stima Loanの受付

    ⑥グリッドへの接続手配・電力供給

    連携

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  • 12

    4) ケニアのエネルギー動向12 ケニアの電力供給は需要を大幅に下回り、不足している。このため、全国高圧電線網に供給

    するための発電設備に民間部門の投資が必要となる。現在ピーク時の電力需要は推定

    1,180MW であるが、今後 10 年間は毎年 7%の伸び率で 2018 年には 2,263MW に達すると予測されている。

    この急激な需要の伸びをもたらす要因として、一般家庭への電力供給の加速化政策と、好調

    な経済成長が挙げられる。一般家庭への年間接続件数は過去 3 年間に急増し続け、2005/06会計年度(以下、年度)に 6 万 7,105 件だったのが 2006/07 年度に 12 万 2,080 件、2007/08年度には 14 万 807 件に達している。政府の政策は、向こう 5 年間に少なくとも新規に 100 万世帯に接続することを目指している。この電力の将来需要を満たすためには、発電設備容量を現

    在の 1,180MW から 2013 年までに 1,860MW、2018 年までに 2,600MW に増やさなければならない。この供給予測は、ピーク時における想定需要に予備率 15%をプラスした値で計算されている。

    予測されるこのような需要の伸びには、必要な発電容量の増加分とそれに関連する供給・送

    電インフラを整備するために、相応の資本支出が求められる。必要な資本の提供に際しては、民

    間部門が独自または官民パートナーシップを通じて重要な役割を演じることが予想される。すな

    わち、予測される電力需要の伸びは、エネルギー部門に投資する絶好のチャンスを示している

    のである。民間部門の投資の緊急性の高い分野や具体的なプロジェクトを次にいくつか紹介す

    る。 ① 変圧器の製造 向こう 5 年間に 100 万世帯に電力供給するという政府の目標を達成するためには、合計 6 万

    台の変圧器が必要となる。これに加えて、年間 2,000 台の変圧器が修理を要すると推定されている。

    このことから、変圧器の製造と修理に対する絶好の投資機会が生まれる。さらにまた、スイッ

    チング装置、絶縁体、電力量計などの関連設備の製造に関しても高い可能性が存在する。実際、

    変圧器の製造を計画する工場は、東アフリカ共同体(EAC:East African Community)と東南部アフリカ市場共同体(COMESA:Common Market for Eastern and Southern Africa)の両市場の恩恵も受けることになる。

    ② 石炭火力発電所 ケニア政府は、モンバサにおける 300MW の発電容量を予定している石炭火力発電所の設置

    に関するフィージビリティ調査を開始した。ほかにも石炭火力発電所の適地 3 カ所を特定している。発電所は年間 90 万~110 万トンの石炭を必要とし、その全てをモンバサ港で陸揚げして、発電所まで輸送する必要がある。現在のところ、モンバサ港には石炭の荷下ろしが可能なバース

    は 2 カ所しかないが、どちらのバースにも必要とされる大量の石炭を捌く能力はない。 調査はこのような条件を考慮し、十分なスペースが利用できることと、船から発電所までの揚

    運炭作業が最小限で済むことから、モンバサ港湾内のムドゥガニ(ドンゴ・クンドゥ)を最も実行可

    能な用地として推薦されている。将来は整備される揚運炭設備や送電系統への接続を活かして、

    近くに同様の発電所を建設することもできる。 したがって、揚運炭設備に対して、投資機会が存在する。この設備は、ケニアや地域のセメン

    ト工場など他の石炭利用者にも役立てることができる。

    12 在日ケニア大使館「ケニアの主要な投資機会の要約」 http://www.kenyarep-jp.com/download/Investment_J.pdf

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  • 13

    ③ 石炭探査と採炭 ケニア政府は現在ムウィンギ県ムイ炭田で石炭探査を行っている。ムイ炭田は約 400km2 で、

    ナイロビの北東 180km に位置する。これまで深さ 75~324m の坑井を 33 カ所掘削し、そのうち20 カ所で炭層に行き当たった。石炭試料分析の結果、石炭は亜瀝青から、瀝青質で、平均発熱量は 18MJ/kg であることがわかった。

    石炭探査は評価できる段階に達している。今年は 3 カ所の坑井でそれぞれ 13m、5.37m、4.20m の厚さのある新しい炭層を掘削した。これまでに掘削した 17 井の炭層の厚さは 0.3~12.6m だった。これらの炭層は地下 20~320m の深さで発見されている。約 20km2 の区域が石炭地帯として線引きされている。

    石炭鉱床の量と質を測定するために、政府は面積 40km2 のユーニェ地区カテイコの試掘井20 カ所の掘削に対して競争入札を行った。落札者は 20 井の掘削に加えて、石炭鉱床の営利性を見積もることになっている。石炭鉱床の商業性が確定されれば、公開競争入札を通じて民間

    開発業者に採掘権が付与される。 石炭探査を加速化するために、政府はムイ炭田にさらに 3 カ所の石炭探査区域も設けた。 この区域は有望投資家にリース契約を結び探査と採炭を行うことになる。 次なる開発対象の炭田は、ケニア海岸州のクワレ県からキリフィ県にまたがるタル炭田である。

    地質学的にこの炭田はカルー系に属し、南アフリカの石炭生産システムに似ている。カルー系は

    高品質の石炭を生むことで知られている。タル炭田の探査はムイ炭田プロジェクトの終了後まも

    なく始まる予定になっている。 ④ 再生可能エネルギー 工業用及び家庭用の太陽・風力エネルギーの利用の増加は、環境に優しい技術の使用を促

    進し、環境への負荷が少なく、干ばつにより枯渇しているケニアの水の保全と集水域の保護に

    役立つことになる。加えて、二酸化炭素の排出が多く、また枯渇のリスクのある石油エネルギー

    源への依存を減らすことにも繋がっていく。 再生可能エネルギーの促進制度としては主に以下の 3 点が挙げられる。 ・ ソーラーエネルギー関連機器に対する輸入関税及び付加価値税の免除及び再生可能エ

    ネルギー関連機器に対する輸入関税の免除 ・ 再生可能エネルギーの系統連結による固定価格買取制度の設定 ・ 地方電化庁による再生可能エネルギーシステムの導入 再生可能エネルギーの普及・促進を進める計画に地方電化計画が挙げられる。ケニアではエ

    ネルギー省が地方電化を所管してきたが、2007 年に地方電化庁が設立され、2009 年から本格的な事業を開始した。

    地方電化については以下の計画がある。 ・ 地方電化プログラム (Rural Electrification Program) ・ 地方電化庁戦略計画 (Rural Electrification Authority Strategic Plan 2008-2012) ・ 地方電化マスタープラン (REM:Rural Electrification Master Plan) 地方電化プログラムは 1973 年に制定された計画であり、その内容は地方における電化事業

    は経済性が低く商業ベースでは進展しないことから、地方電化に対しては政府が補助をすること

    である。その後、地方電化事業の推進を強化するため、Energy Act No.12 が 2006 年に制定され、この法令の下、地方電化庁が設立された。地方電化庁はその任務の実現のため、地方電化

    庁戦略計画を策定した。 地方電化庁戦略計画では、配電線による電化地域の人口カバー率を 2012 年までに 100%に

    引き上げること、地方電化率(配電線が村の中心を通過すること)を現状の 10%程度から 2030

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  • 14

    年までに 100%に引き上げること、また、トレーディングセンター、学校、保健施設、公共給水施設、行政機関等の公共施設については 2012 年までに 100%電化する目標を有している。

    2007 年から作成が続けられていた地方電化マスタープランの最終案が 2009 年 5 月に提出された。このマスタープランは 2018 年までを対象としているが、当面前半の 2013 年までの事業(アクションプラン)を具体的に示している。それによれば、2013 年までに地方電化率を 22%(オフグリッドを含む)に引き上げることとしている。

    ケニアは基幹配電線網が以前よりも整備されてきているため、配電線網の延伸によって未電

    化世帯の電化を進めていくことが可能となっている。しかし、実際には電源開発の遅れによる電

    力供給量の不足や引き込み料金負担等の問題から、配電線が架設された地区においても電気

    の引き込みを行わない家庭が多い。このため、太陽光発電や小水力発電によるオフグリッド電

    化の必要性は依然として高い。 他にケニアにおいて特筆すべきは、国際連合工業開発機関(UNIDO:United Nations

    Industrial Development Organization)によって行われている「Community Power Center(Energy Kiosk)プログラム」である。これは、未電化コミュニティにおいて太陽光、小水力、バイオマス、風力等の再生可能エネルギーを利用したオフグリッド発電施設を設置し、それによるエ

    ネルギー供給の可能性を実証するとともに地場産業育成や住民への充電サービス提供による

    生活水準向上を目指したプロジェクトである。すでに多くのエリアで実証事業を開始している。 本調査においても都市部スラム、地方農村部コミュニティなど広域にわたり現地調査を実施し

    たが、いずれの地域にも Enegy Kiosk が存在しており、中を見学させてもらうと、日本では自動車のバッテリーとして利用されている蓄電池が複数ならび、そこで消費者が自らのバッテリー及

    び携帯電話の充電を行っている。一回の携帯電話の充電コストは約 10KSh 程度である。 再生可能エネルギーは現在地熱発電が最も大きな規模で取り組まれている。その開発状況

    は以下である。 【地熱発電開発】 ケニアの地熱資源はケニアのリフトバレーに集中し、潜在的発電容量は 4,000MW と推定され

    ている。既に 130MW が開発されており、さらに 2008 年 11 月までに 35MW が発電開始を予定されており、発電容量は合計 165MW に増える。

    現在、オルカリア IV 地熱地帯では、70MW の発電所の開発を目指して現在試掘が進んでいる。1 坑井当たり熱出力平均 5MW の坑井がすでに 5 カ所掘削され、最後となる 6 番目の坑井の試掘が進行中である。12 の蒸気生産井の掘削も直ちに開始され、2009 年 3 月までに完了することになっており、計画されている 70MW の発電所に必要な生産井の数はこれで 18 となる。並行するイニシアティブとして、2009 年 12 月には蒸気の電力転換に対する入札公募の準備が始まる。計画中の 70MW のオルカリア IV 発電所が完成した後も継続的な掘削活動が行われ、さらに合計 490MW の地熱発電所を開発するために十分な蒸気を提供していくことになっている。次の表はそれらの発電所と目標完成年を示したものである。

    なお、本調査における現地調査では KenGen から特別に許可をもらい、Hell’s Gate 国立公園

    内にあるオルカリア II を視察させてもらった。オルカリア II は 2003 年から稼動しており、その建設には日本の三菱重工業が携わっている。山の中腹に張り巡らされたパイプにより蒸気を運び、

    その力でタービンを回転させ発電する仕組みである。 なお、リフトバレー州のオルカリア地熱地帯は日本でいわば温泉地帯であり、資金がないため、

    新たな地熱発電所の建設は滞っているが、潜在性は十分あると KenGen の現場担当者は話していた。

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  • 15

    図表 14 地熱発電所オルカリア II 外観

    図表 15 地熱発電所オルカリア II 圧力調整弁

    図表 16 地熱発電所オルカリア II 蒸気を運ぶパイプライン

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    図表 17 地熱発電所の開発プロジェクトと完成予定年

    ケニア政府の所有する特別目的会社である地熱開発会社(GDC: Geothermal Development Company)は 2008/09 年度までに登記を終え、地熱資源評価活動を開始している。この活動

    は、発電所の開発と電力生産にも関与している KenGen が行っているものを引き継ぐ形となる。GDC は蒸気の電力転換に対する入札を提示することになっており、民間部門の企業はKenGen と並び、このような蒸気の電力転換プロジェクトに応札することが期待されている。

    本入札において、最低価格を付けた入札者は 20 年契約を受注し、その間 GDC は蒸気を継続的に供給することを保証する。なお、予想される投資家リスクを最小化するために、官民パー

    トナーシップも奨励されている。このように、発電に関しては KenGen 以外にも参入が可能な枠組みに移行していることから、発電分野における民間ビジネスの可能性は拡大すると考えられて

    いる。 【水力発電】 開発が積極的である地熱発電に比べて、水力発電は昨今の干ばつの影響で、急速に開発が

    停滞している。かつては小水力発電は、農村部においてオフグリッドの電力供給源であったが、

    流水量の減少に伴い、発電方法を見直す動きが出てきている。 その一方で、大規模な水力発電の取り組みとして行われているものをみてみると、いくつかの

    潜在的水力発電所を特定している。これらの発電所は過去において経済的とはみなされていな

    かったが、最近の石油価格の上昇によって今では投資の魅力が生じている。未開発の水力発電

    用地のうち最良の場所としては次のものがあるが、現在は水資源が豊富だった頃とは大きく状

    況は異なってきている。 ・ タナ川のムトンガ。期待容量 60MW、年間平均発電量 336GWh。推定建設費 2 億 7,000

    万 US ドル ・ ムトンガ・サイトの下流にあるローワー・グランドフォール。容量 140MW、年間平均発電量

    715GWh 【太陽光発電(PV:Photovoltaic)】 日差しの強い地域では特に期待される電力供給源が太陽光発電である。特にケニアは、赤道

    をまたがった位置であり、太陽光発電の平均年間設置量は 1 日に 1 平方メートル当たり 4~6kWh で増加してきている。ケニアでは時間をかけて、活力ある太陽エネルギー市場が発達し、国の送電系統から遠く離れた家や、施設向けの電力、家庭用および商業用の温水ヒーターを供

    給してきた。 太陽光発電パネルに対する年間市場需要は 500 キロワットピーク(kWp)であることがわかり、

    この数字は年に 15%増加すると予測している調査結果もある。 また、僻地の学校および保健医療施設に基本電力を供給するために、政府が 2005 年に開始

    したプログラムにより、太陽光発電パネルの年間需要は、100kWp 増えている。プログラムの対

    No プロジェクト名 最大発電容量 年1 ロンゴノットI 70MW 20122 メネンガイI 70MW 20133 メネンガイII 70MW 20144 ロンゴノットII 70MW 20155 ススワ 70MW 20166 ノース・リフトI 70MW 20187 ノース・リフトII 70MW 2019

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    象となる約 3,000 の施設のうち、過去 4 年間で 133 カ所に太陽光発電システム(合計容量399kWp)が設置されている。また 46 施設に対しては太陽光発電システムの設置予算が割り当てられている(合計容量は推定 80kWp)。

    さらに、より広範囲における東アフリカ共同体および COMESA の加盟国を加えると、もっと広い市場が存在する。太陽光発電システムの初期市場需要は 1 メガワットピーク(MWp)と推定され、投資家にとって太陽光発電パネルの製造に投資する絶好の機会を提供している。また、充

    電コントローラやインバータ、太陽電池などの構成品や付属品の製造に関しても一定の機会が

    存在すると考えられる。 ケニア北部などの乾燥地は、1 年を通じて強力な日照があるため、配電線への売電用太陽エ

    ネルギーに対する投資の可能性は高い。北東州のほぼ全域にこの可能性があると言うことがで

    きる。 ケニアの地方の世帯数は 2007~08 年度で 606 万世帯である。地方電化マスタープランによ

    ると、この内、電化世帯は 36 万世帯(全地方の世帯数の約 5.9%)であり、この地方電化世帯のうち約 20 万世帯(全地方の世帯数の約 3.3%)が PV による電化と推定している。この推定によれば地方電化世帯の 56%が PV による電化であることになる。

    政府の公共施設電化や NGO による推定とは別に、ケニアの有力な PV 関連機器の商社である Davis & Shirtliff 社によると、2008 年の PV 全販売業者によるケニア全体での販売量は1.2MW であったとのことである。

    【風力発電】 風力資源の予備評価によると、ケニアの一定地域(マルサビト、ンゴング、海岸地域など)にお

    ける風型は毎秒 8~14 メートルの風速を出すため、商業発電としての可能性が十分あることが分かっている。

    この予備評価を用いて、国内全域の風況マップが作成され、風力発電投資の決定を容易にす

    るために、政府は国内の可能性の高い地域で風データの記録を行っている。もっとも、風況マッ

    プで特定した具体的用地の実行可能性を決定するためには、詳細なフィージビリティ調査を行う

    ことになる。このため、ケニア政府は民間部門に風力発電への投資を誘致したいと考えている。 ケニア北部をはじめとする乾燥地帯では、風速が高いところが各所にある。具体的に風力発

    電用地として特定されている地域は、マルサビト、ライサミス、サンブルである。これらの地域は、

    送電系統への販売用に 150MW 以上の風力を生産する可能性をもっている。 現在ケニアでは KenGen の Ngong Hills の 200KW と 150KW 各 1 台の風力発電所と KPLC

    のマルサベットの 200KW1 台の風力発電所が運転されている。Davis & Shirtliff 社では井戸のポンプ用や通信中継局用に 400W~5kW の風力発電機を 2008 年に 25 台販売している。Ngong Hills でベルギー政府からの借款で 5.1MW(850kW×6 台)の風力発電所を建設中であった。また同様の借款で 10MW 規模の発電所の建設が予定されている。他に IPPs によるタルカナ、マルサベットでの 100MW、キナンオプでの 50MW と Ngong Hills での 100MW の風力発電の計画がある。

    特にトゥルカナ湖風力発電(Lake Turkana Wind Power)は Green Energy Projects という2012 年までに 2,000MW の電力供給設備を導入するというプロジェクトの中でも重要な位置を占めるタスクフォースである。

    この風力発電施設は 353 の風車により平均 300MW を発電する(最大容量は 850MW)施設である。現在着工中で初期稼動予定は 2011 年である。

    なお、Green Energy Projects での別の取組み事例として、ケニア政府が各世帯へドイツのOsram 社の省エネルギーバルブ 100 万個を普通のバルブと交換することを条件に一般家庭に無料配布を行っている。オディンガ首相はこの活動により「49MW の電力を削減することができる」と発言している。

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  • 18

    【バイオマスエネルギー】 バイオエネルギーは、薪炭材、木炭、エタノール、バイオディーゼル、バイオガスといった固体、

    液体、気体のさまざまなバイオマス源から得るエネルギーである。世界の化石燃料資源の減少

    と価格上昇により、目下バイオエネルギーは注目の的となっている。気候変動を緩和する可能

    性も、バイオエネルギーの魅力を高めている。乾燥地および半乾燥地に育つジャトロファという

    植物は、全国で利用できる最良のバイオディーゼル源とみなされている。特にケニアにおいては

    バイオエタノールは現在製造されていないが、ジャトロファの栽培は盛んである。カジアド県でジ

    ャトロファが 1,000 ヘクタールの広範囲において栽培され、将来は 26,000 ヘクタールに拡大される予定であるという。

    2006 年の 1 日当たり消費量はガソリンが 140 万リットル、自動車用ディーゼル油が 330 万リ

    ットルで、年間平均成長率は 2.8%だった。予測によると、ケニアは 2030 年までに 1 日当たりガソリン 270 万リットル、ディーゼル油 650 万リットルが必要になる。ケニアの現在の消費レベルでいくと、国内のエタノールを 10%ブレンドしたガソリン(E10)用に年間 7,700 万リットルのエタノールを必要としている。2030 年までには、これを 1 億 4,800 万リットルに増やす必要がある。国内で使用している B2 は、現在の消費レベルで約 2,800 万リットルのバイオディーゼルを必要としており、2030 年までには 5,000 万リットルに増やさなければならない。

    ガラナをはじめ、東部州、北東州、リフトバレー州、ニャンザ州などのさまざまな地域で、ジャト

    ロファやサトウモロコシを生産してバイオ燃料に加工する機会が存在している。加えて、バイオテ

    クノロジーの研究活動および能力強化や、関連するバイオ燃料の潜在的工業生産に関して、コ

    ンサルタント業の機会も存在している。 他には牛糞を利用したバイオガス装置が 1980 年代に、1,000 世帯に導入されたことがあった

    が、現在はその 3~5 割は故障しているという。その原因は保守技術不足と指摘されている。 このようにバイオエネルギーの種類は豊富であり、今後も特に農村部におけるエネルギー源

    として着目されるが、現在のケニアにおいてバイオマスエネルギーは薪と木炭が 9 割以上である。利用方法は調理時の熱源として利用されている。薪や木炭は購入する消費者も存在しているが、

    農村部居住者は特に自宅周辺に自生している木から枝を切り取って利用する。この薪収集によ

    る環境破壊が近年の懸念点となっており、早急な解決が求められる。 また、他方では調理は室内で行う家庭においては、木材を熱するときに発生する煙が部屋に

    充満し、居住者の呼吸器官に悪影響を与えることが指摘される。一般的に IAP(Indoor Air Pollution)と呼ばれ、居住者の中でも特に乳幼児への影響が深刻であり、IAP のため死亡率が高いとも言われている。そのため、調理用熱源および調理器具の安全化は喫緊の課題である。

    ⑤ 原子力発電所 ケニアの場合、低コストで手頃な電力の開発に利用できる天然資源は現在のところきわめて

    限られている。この事情を考慮し、政府は電力コストを手頃なものにするために、非常に高コスト

    の石油依存の発電所を避けて発電源を多様化することに決定した。 こうした事情から、原子力発電は手頃な電力を供給することが可能な潜在的電源とみなされ、

    経済成長に弾みをつけ、ケニアのビジョン 2030 開発課題とも一致すると考えられている。手始めに、向こう 7 年間で 300~1,000MW の原子力発電所を開発する機会を民間部門に提供することが提案されている。必要な経験と資源を有する民間投資家に 30 年電力購入協定(PPA: Power Purchase Agreement)に基づく BOOT(Build Own Operate Transfer、建設・所有・保守管理・所有権移転)モデルを提供し、発電所の建設と運営を任せることになる。

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  • 19

    ⑥ 石油及び石炭の潜在力の掘り起こし 国内北東部には、炭化水素と石油の探鉱に関する莫大な投資機会が存在する。これらの機

    会は、有望な投資の可能性を提供することも検討されている。 隣国であるウガンダが先進的に取り組んでいるが、ケニアにも石油・石炭開発の潜在性があ

    ると言われている。具体的な石油埋蔵量は把握されていないが、ケニア北部及び沿岸部におい

    て中国がその掘り起こしに取り組んでいる。 中国国有石油会社である中国海洋石油総公司(CNOOC:China National Offshore Oil

    Corporation)は 2006 年にケニア政府ならびにケニア国営企業である National Oil Corporation of Kenya(NOCK)とケニアにおける陸上 6 探鉱区(Block1、9、10A、L-2、L-3、L-4)において技術評価契約を締結した。2007 年 CNOOC は 6 鉱区のうち、L-2、L-9 を除く 4 鉱区をケニア政府に返還している。(下図参照)13

    図表 18 ケニアにおける CNOOC の探鉱区

    4. エネルギー市場における開発ニーズに対応する商品・製品サービス

    ケニア最大の都市であるナイロビ市内においては 24 時間オープンしている総合量販店がチェ

    ーン展開されている。その中で家電製品コーナーに再生可能エネルギーの中でも特に民生品ソ

    ーラーパネル等が販売されている。

    (1) SUNLITE 社のソーラーパネル 発電ワット数の記載はないが、6 ㎡程度の室内の明かりを提供できると箱に記載されている。

    価格は3,600KSh(約4,212円)である。特徴としては携帯電話への接続キットが付いている点である。これにより室内照明用のみならず、携帯電話も Energy Kiosk に行って充電する必要がなくなる。しかし、Energy Kiosk において携帯電話の充電は 1 回あたり 10KSh であるため、仮に携

    13 石油・天然ガスレビュー2006.5 Vol40

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    帯電話の充電用としてのみ用いた場合は、減価償却するためには 360 回携帯電話を充電しなければならない。

    これにより、パワーグリッドにアクセスできない世帯に家庭内エネルギーとしての電力を供給

    することができる。

    図表 19 SUNLITE 社のソーラーパネル

    なお、SUNLITE 社はインドのムンバイに本社、英国に支社をもつソーラーパネルによる電力

    で点灯する室内ランタンや上記のようなソーラーパネルキットを製造販売している企業である。な

    お製造拠点はインドである。14

    (2) Sollatek 社のソーラー発電キット ソーラーパネルと家庭用蓄電池、配線をニーズに合わせて購入することができるソーラー発電

    キットを販売している。特にソーラーパネルは用途によりサイズが豊富に用意されており、店頭で

    は発電容量が 6W~45W で、発売価格は 2,250~25,500KSh(約 2,632 円~29,835 円)である。

    また、蓄電池は自動車のバッテリー大のもの 1 種類であり、価格は 13,825KSh(16,175 円)である。

    これにより、パワーグリッドにアクセスできない世帯に家庭内エネルギーとしての電力を供給

    することができる。

    図表 20 Sollatek 社のソーラー発電キット

    14 SUNLITE 社 Web http://www.sunlite-solar.com/mob.htm

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    なお、Sollateck 社は英国において 1983 年に設立された電力機器関係のメーカーとして設立

    され、現在 14 カ国に事務所をもち、190 カ国に製品を販売しているグローバル企業である。上記製品は中国製であるが、製造拠点として、エジプト、台湾などがある。

    特にソーラー発電関連の製品及びシステムに注力しており、世界銀行の支援を受け、世界中

    で導入されている。15

    (3) Seefar INT. (K) LTD 社のソーラーランタン いわゆる室内照明用の民生製品である。ランタン上部に 10 センチ四方大のソーラーパネルが

    付いており、電源がなくとも明かりがつく。大小と 2 つのサイズがあり、価格は大が 1,800KSh(約2,106 円)、小が 1,500KSh(約 1,755 円)である。バルブは LED で、これ一つで室内の照明として十分な明かりが得られるかと言われると疑問である。

    中国製は低価格が最大の魅力であるが、現地インタビューにおいてはこのような商品は実際

    に BOP 層の評価が高いとのことである。 これにより、パワーグリッドにアクセスできない世帯に家庭内エネルギーとしての照明用電力

    を供給することができる。

    図表 21 Seefar INT LTD 社のソーラーランタン

    (4) Interchange Kenya Ltd 社のソーラーパネル付きトーチ

    いわゆる懐中電灯であるが、その胴体部分にソーラーパネルが取り付けられている。バルブ

    は LED ライトであり明るさも十分に得られる。価格は 700KSh(約 819 円)と低価格である。 これにより、パワーグリッドにアクセスできない世帯に、電力による照明を提供することができ

    る。

    15 Sollateck 社 Web http://www.sollatek.com/company-profile.asp

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    図表 22 Interchange Kenya Ltd 社のソーラーパネル付きトーチ

    (5) Interchange Kenya Ltd 社のワインドアップラジオ複合機

    本体に取り付けられている取っ手を手動で回転させることで、電力を発生させることができるラ

    ジオ、室内照明の複合機である。本体上部には長方形の小型ソーラーパネルも補助的な電源と

    して設置されている。照明も本体側面に左右異なるタイプの LED ライトがついており、用途は豊富である。

    価格は 2,500KSh(約 2,925 円)である。 これにより、パワーグリッドにアクセスできない世帯に電力による照明およびラジオを提供する

    ことができる。 なお、当該企業はケニアの企業であるが、製品は中国製である。

    図表 23 Interchange Kenya Ltd 社のワイドアップラジオ複合機

    (6) DAVIS & SHIRTLIFF LTD 社

    ケニアにおける 6 支店をはじめ、ウガンダ、タンザニア、ザンビア、ルワンダにも支社をもち、揚

    水システム、ソーラーや風力発電システムなど、再生可能エネルギー関連の設備を個人向けに

    販売しているエネルギー関連製品の商社である。拠点はケニアのナイロビである。 当企業は特に BOP 層向けの商品展開を行っているわけではなく、どちらかというと富裕層を

    対象にしているが、一部商品には農村部コミュニティを対象としている商品もある。 1) ソーラー発電システム ソーラーパネルとバッテリー、レギュレータ、スイッチ配線、省エネルギーバルブのセットを販売

    している。バルブは LED ではない。最低価格のセットは 60,000KSh(約 70,200 円)であり、各家庭への設置コストは別である。製品は個別に購入することもでき、また顧客の希望に応じて、室

    内照明、テレビ、ラジオ用に必要な電力を供給することができるセットをカスタマイズして販売して

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    いる。 これにより、パワーグリッドにアクセスできない地域に家庭内エネルギーとして使用できる電力

    インフラを構築することができる。

    図表 24 ソーラー発電システムセット例

    2) 揚水ポンプ

    井戸の揚水動力を安定的に確保するためにソーラー発電と風力など複合的に組み合わせを

    勧めている。 また地方農村部コミュニティ向けに人力の揚水ポンプも発売しており、最長 45m の深さまで揚

    水することができる。 価格は 59,200KSh(約 69,264 円)である。2010 年現在でも農村部においては掘削ニーズは

    あるとのことである。

    図表 25 人力ポンプ

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    (7) Craftskills East Africa Ltd 社

    グリッドの電線が通っていない地域において、電力需要を満たすために、有効な電力として風

    力発電がある。ソーラーパネルと異なり、風は昼夜関わらず発電が可能というメリットがあり、高

    地で風が強いケニア農村部では効率が良い。 そのような商品を取扱っているケニアの企業が Craftskills East Africa Ltd 社である。16 下記は 700W の発電容量を有する風力発電タービンと 1,000W のインバータの設置例であり、

    その利用方法は井戸から自宅に揚水するポンプを稼動させている。このポンプは 1 時間あたり3,000 リットルを揚水することができ、電気も通っておらず、且つパイプを繋げば井戸から遠く離れた家にも水を供給することができる最適の方法といえる。

    これは実際の導入例であるが、取扱い商品は、発電容量に応じて、多岐にわたっている。なお

    価格は非公開である。

    図表 26 風力発電エネルギーによる揚水システム

    図表 27 厳重に警備される蓄電室

    16 Craftskills East Africa Ltd 社 Web http://www.craftskills.biz/

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    図表 28 バッテリーが 2 つ並ぶ蓄電室

    特に当該企業は風が止まることのない海岸沿いに風力発電のタービンが設置され、そこから

    地方に配電される構図を考えている。この中にさらにソーラーパネルによる発電設備も追加し、

    複合的に再生可能エネルギーが効率よく稼動し合うことで、地方の電力を賄っていくことができ

    ると考えている。

    図表 29 海岸の風力発電と山岳部への配電イメージ

    5. エネルギー分野の BOP ビジネス先行事例

    (1) Energy Kiosk

    Energy Kiosk は UNIDO によって行われている Community Power Center プログラムにより

    ケニア全土にてサービスを行っている。これは、未電化コミュニティにおいて太陽光、小水力、バ

    イオマス、風力等の再生可能エネルギーを利用したオフグリッド発電施設を設置し、それによる

    エネルギー供給の可能性を実証するとともに地場産業育成や住民への充電サービス提供によ

    る生活水準向上を目指したプロジェクトである。すでに多くのサイトで実証事業を開始している。 特に携帯電話の普及が進んでいるケニアには主な用途としては、携帯電話の充電(1 回 10 シ

    リング程度)である。 他にも家庭用蓄電池をテレビやラジオ視聴に利用している人への充電などを実施していること

    もある。 実際の Energy Kiosk も蓄電池を複数並べて電気を貯めている形式となっている。オフグリッド

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    でも電気製品ユーザが多いケニアにおいては非常に成功した BOP ビジネスの一例ということができる。17

    23 ページの風力発電 Energy Kiosk の例のように、電線が通っていない地域では再生可能エネルギーにより電気を充電している Energy Kiosk も存在しており、先進的な取り組みであることがわかる。

    図表 30 Energy Kiosk の店舗(外観と内部)

    図表 31 風力で充電した電気を売電する Energy Kiosk18

    (2) スラム地区における貧困層向け賃貸オーナー

    本調査において数件実際の都市周辺のスラム地区を訪問したところ、貧困層の住宅としては、

    土壁にトタンの屋根を置いただけのものが多く見られ、それらは家屋のオーナーとの賃貸契約に

    より利用されていることを確認した。そこにおける興味深い点としては、賃貸物件に電気が引か

    れている場合のオーナーの電気料金徴収方法である。 ナイロビの Kibera スラムにおいて実施したインタビューにおいて取得した情報であるが、家賃

    が月額 300KSh(約 351 円)であるのに対して、電気代は固定で月額 900KSh(約 1,053 円)掛かるとのことである。このようにオーナーは家賃の 3 倍もの固定電気料金を徴収している。また、本居住者の場合は、部屋にソーラーパネルを取り付ける援助を受けることができる契機があった

    が、電気代収入がなくなることを懸念した大家に阻止されたことがあった。このように、BOP 層であるがゆえに、富裕層よりも高いコストを強いられるという BOP ペナルティの典型的な事例である。

    17UNIDO web http://www.riaed.net/IMG/pdf/KENYA_UNIDO_launches_hybrid_energy_kiosk_in_Kiang_ombe.pdf 18 CRAFTSKILLS 社 Web http://www.craftskills.biz/

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  • 27

    (3) 中国製の室内照明品など

    中国製の BOP 層向けのソーラーパネルのついたラジオや照明、セキュリティアラームの複合

    機がある。室内照明やソーラーパネル付きのラジオなどである。商品の品質は決して優れたもの

    ではないが、BOP のニーズをうまく把握し、販売状況は順調である。 また、エネルギー源をソーラーや手動発電によることで、オフグリッドによる電力供給を可能と

    している点は BOP ビジネスにおいて非常に重要であると考えられる。ただしコスト感としては、700~2,500KSh(約 819 円~2,925 円)程度であり、それでも月末にまとまった収入が入ったときでなければ購入は難しい価格帯である。

    (4) Kick Start 社のマネーメーカー・ポンプ19

    最初に発売されたスーパー・マネーメーカー・ポンプは、人力足踏みポンプで、水を深さ 7 メー

    トルから汲み上げて、水源から 14 メートルの高さまで揚水し、必要な場所に届ける。ポンプを動かすのに、燃料や電気は一切必要ない。ポンプは、8 時間で 2 エーカーの土地を灌漑できる。1台あたりの小売価格は約 95US ドルである。収穫された果物や野菜を売って初年度に平均1,000US ドルもの利益を得ることが可能となる。

    さらに BOP 層向けの廉価型として、約 1 エーカーの土地を灌漑可能で、1 台あたりの小売価格が約 35US ドルのポンプもある。

    図表 32 スーパー・マネーメーカー・ポンプ

    図表出典:Kick Start 社 Web http://www.kickstart.org/products/

    図表 33 マネーメーカー・ヒップ・ポンプ

    図表出典:Kick Start 社 Web http://www.kickstart.org/products/

    19 Kick Start 社 Web http://www.kickstart.org/products/

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    (5) M-PESA(エムペサ)

    スラム地区から農村部まで広がる小型携帯端末向けのサービス店舗及びモバイルペイメント

    サービスの名称である。PESA はスワヒリ語で“お金”の意味である。 主要な用途としては貧困層の送金、端末の充電、移動体通信端末の SIM の交換などである。

    その中でも特に送金ニーズが高く、銀行口座を持たない貧困層が安い送金手数料にて小額の

    送金利用をするニーズに合致したサービスである。料金は 1 回 60KSh(約 70.2 円)からであり、送金額によって変動する。その仕組みはシンプルであり、SMS(ショート・メッセージ・サービス)を利用する。電話番号を宛先アドレスとして、限られた容量のテキストメッセージを送受信するサー

    ビスである。

    図表 34 貧困層居住地区の M-PESA 店舗例

    M-PESA を実務的な運営をしているのはケニアにおける携帯電話事業者である Safari com

    社であり、実際のビジネスモデルの構築は英国の通信会社である Vodafone 社である。2005 年にケニアにおいて実証実験を行い、2007 年 3 月からサービスを開始している。その後、2 年余りで 680 万人もの会員を獲得することに成功している。20

    M-PESA の利用者はまず、Safari com 社の営業所や代理店で送金したい金額と手数料を支払う。そして Safari com 社の携帯電話の画面から M-PESA のメニューを選び、送金相手の電話番号を宛先にして送金の額を入力し、ショートメッセージを送信する。

    メッセージを受け取った送金相手は、最寄の Safari com 社の営業所や代理店でその画面を提示すれば、現金を受け取れる仕組みである。受け取る側が Safaricom ユーザである必要はない。

    そしてこのようなSMS決済サービスを提供するのは、銀行などの金融機関などではなく、携帯電話事業者である。類似ビジネスとして、フィリピンにおいてはグローブ・テレコム社が 2004 年10 月から「G-CASH(ジーキャッシュ)」を開始している。アフガニスタンやマレーシアにおいてもSMS 決済サービスが開始されている。

    20日経ビジネス http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20091009/206743/

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    図表 35 M-PESA の送金システム図21

    図表出典:日経ビジネス http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20091009/206743/

    開発途上国の貧困層の多くは収入が少なく、金融機関に口座を開設することができないケー

    スが多い。口座を持てたとしても、銀行まで行くのに何時間も掛かることは珍しくない。都市で働

    く人が、農村にいる家族に送金する場合は、郵送するか、または直接渡すしかなかった。 このサービスが開発されたきっかけは、Safaricom と提携する英国の大手通信企業

    Vodafone 社の存在に拠るところが大きい。もともと Vodafone 社が社内において立ち上げたアフリカ調査チームが、英国政府支援のもとで、進められ外部専門家、国際機関、非政府組織

    (NGO)との緊密な情報交換を通して進められた点が特徴である。 ま た 、 英 国 の 政 府 機 関 で あ る 国 際 開 発 省 ( DFID : UK Department for International

    Development)は、M-PESA の開発に協力してきた。DFID は 2000 年以降、途上国に金融インフラを整備するための基金(Financial Deepening Challenge Fund)を設立しており、M-PESAの開発にあたって基金の一部を拠出している。このほかにもパートナーシップは多岐に渡ってい

    る。現地の市場調査には、民間のコンサルティングファームやシンクタンクのほか、国連基金、非

    営利組織(NPO)が協力してきた。また、南アフリカの金融機関からも情報を得ている。 このような流れでビジネスモデルの枠組みを構築した Vodafone 社であるが、実際のオペレー

    ションの要となっているのが、Safaricom 社である。Vodafone 社は同社が出資する Safari comに、現地でのオペレーションを委託。利用者の口座の作成や管理、SMS サービスのオペレーションは、Safari com が担っている。この提携は、現地の人々の携帯電話の使い方や M-PESA に対するニーズを吸い上げる上でも大いに役立っているようだ。例えば、人々が要件を伝える際に、

    携帯電話で通話せずにコールの回数で意図を伝え合うという使い方をされているという実態があ

    る。また、M-PESA の口座をもつビジネスマンが、現金を持ってバスを利用するのを避けるために、乗車前に口座に入金し、現地で現金を引き出すといった使い方をしているという実態が伝え

    られている。 その他には、個人商店がSafari com社に登録し、取次窓口としてサービスを提供できるような

    仕組みを取り入れている。現金の預け入れや引き出しは、Safari com 社のエージェントの携帯電話ショップが行っているが、取次店が増えることは M-PESA の利便性を高めるのに役立っている。

    そもそも、Vodafone 社がアフリカでのビジネスチャンスとして注目したのは、家族間の送金市

    場であった。アフリカには、職を求めて家族と離れて生活し、稼いだ金を国内または国外の家族

    のもとに送金する人々が多くいる。英国国内にも、アフリカに送金する労働者が多く存在する。 21日経ビジネス http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20091009/206743/

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    ケニアも一例であるが、途上国の多くの地域では、金融機関の店舗網が整備されていないた

    め、店舗網をもつ金融機関であっても、全国をカバーすることができていない。さらに労働のため

    国外に出稼ぎにでる人も多い。 これらの人々は、本国の家族に定期的に仕送りをするため、個人間の送金は極めて重要なライ

    フラインである現状がある。しかし、これまでは途上国の多くの人々が、個人の預金口座を保有

    していないため、送金方法が電信振り替えや直接帰国時に手渡しという方法が取られていた。 Vodafone は、金融インフラの乏しい地域において、より短時間かつ少ない手数料で、確実に送金することができるよう、M-PESA の開発に着手した。同時に、M-PESA は、中長期的に新興国マーケットを開拓するための戦略の 1 つとして位置づけられていると考え