災害事例 リスクアセスメント ·...
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建設労務安全 25・830
災害事例とリスクアセスメント
建設機械・クレーン等災害(その2)
労働安全コンサルタント
浮田 義明建設業労働災害防止協会は、第7次建設業労働災害防止5ヵ年計画の初年
度に当たる今年度に「平成25年度建設業労働災害防止対策実施事項」を公表
しました。
実施事項には、車両系建設機械、基礎工事用建設機械、不整地運搬車、ジ
ャッキ式つり上げ機械、高所作業車、クレーン、コンクリートポンプ車につ
いての災害防止対策が詳細に示されています。
それぞれの建設機械等に関連する共通の対策を列挙してみると、①作業計
画の作成、②有資格者の配置、③作業指揮者、誘導者、監視人、合図者の配
置、④立ち入り禁止措置、⑤作業開始前の点検――などが挙げられます。
上記の各対策を現場の諸条件に応じて、確実に実施することが建設機械・
クレーン等災害を防止することにつながります。
今号では、高所作業車、バックホー、コンクリートポンプ車に関連する災
害事例を取り上げてみましたので、建設機械周辺にどんなリスクが潜んでい
たのか考えてみましょう。
本コーナーでは、不幸にして最悪の事態となってしまった事例を取り上げ、同様の作業を行った場合に、①まだほかにも考えられる危険性(ハザード)があるか、②どのような危害を受ける可能性があるか――などについて検討してみる。
Ⅰ.同種災害の防止策、Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント(例)に分けて、多様なリスクアセスメントの情報が収集できるように構成した。災害発生の防止を目的に実施しているリスクアセスメントの見直し、改善、あるいは安全衛生教育の資料として役立てていただきたい。� (編集部)
第17回
31 建設労務安全 25・8
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:内装工
年齢:16歳
経験年数:0年
請負次数:2次
防火区画の間仕切ボード工事を行うため、高所作業車
を使用していたところ、作業車に乗ったまま移動させ
た際、床段差(280mm)で作業車が転倒し、作業車
の手すりと壁の間に体が挟まれた。
① 移動中にバランスを崩してプラットフォームから墜落する
② 作業中に躯体とプラットフォームの間に挟まれる
③ 作業中に身を乗り出して墜落する
④ 作業中に工具を落下させる
機械・クレーン事例 ① 高所作業車に乗ったまま移動し、段差に気づかずに転倒
建設労務安全 25・832
機械・クレーン
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:土工
年齢:45歳
経験年数:10年
請負次数:1次
基礎の掘削作業中、床付け位置出しを行っていた作業
員が、バックホーの旋回半径内に誤って立ち入り、旋
回してきたバックホーのバケットが激突した。
① バックホーがバランスを崩して転落する
② バックホーが旋回中、車体に作業員が挟まれる
③ バックホーが後退中、作業員が履帯に巻き込まれる
事例 ② 掘削作業中のバックホーのバケットが作業員に激突
33 建設労務安全 25・8
機械・クレーン
被災者の状況 災害発生状況
同種の作業で予測されるその他の危険性
職種:土工
年齢:57歳
経験年数:20年
請負次数:2次
コンクリート打設作業完了後、ポンプ車のホッパースク
リーンを上げたままホッパー内部の清掃作業を行ってい
たところ、作業服の袖がホッパー内のプロペラに絡まり
巻き込まれた。
① 車体から足を踏み外し、転落する
② ホッパースクリーンが倒れ、挟まれる
③ 洗浄水が目に入る
事例 ③ ポンプ車のホッパーを洗浄中、回転していたプロペラに巻き込まれる
建設労務安全 25・834
■ 機械・クレーン等災害防止の要点
車両系建設機械に関連する災害を防止するためには、現場の状況に合った「作業計
画書」の作成が重要となります。車両系建設機械の作業計画に関連する労働安全衛生
法の規定については前号で触れましたが、規定に基づく計画書の書式を工夫し、確実
に関係労働者に周知することが災害防止の第一歩となります。
【事例①】高所作業車を堅固で平坦な場所以外で走行させる場合は、
1.誘導者を配置し、その者に高所作業車を誘導させること。
2.一定の合図を定め、前号の誘導者に当該合図を行わせること。
が必要となります。建設現場では、段差や傾斜部、開口部等に常に近接して作業す
ることが多いため、図のような段差がある場所では誘導者の配置を作業計画に明記
することが肝要です。また、高所作業車はちょっとした段差でもプラットフォーム
の振れが大きくなるため、慎重な走行が求められます。
【事例②】バックホーとの接触を防ぐためには、事前にオペレーターが作業半径内に作
業員や支障物の有無の確認を行わなければなりませんが、バックホーの稼働中は死
角も多いため機械周辺に対するオペレーターの注意力には限界があります。
バックホーと近接した作業が避けられない場合は、絶対に作業半径内に作業員を
立ち入らせない対策をとる必要があります。すなわち、立入禁止措置を行ったうえ
で監視人(見張り員)を配置するなど作業の監視に万全を期すことが大切です。
【事例③】コンクリートポンプ車に関連する労働災害としては、輸送管の破裂、ブーム
の折損、輸送管配置・撤去作業等に起因するものが発生していますが、ホッパーに
関連する災害も繰り返し起きています。
その事例の中で多いのは、ホッパースクリーンの上に立って足を内部に落とし込
んでしまう災害と今回の事例と同様に、ホッパー攪拌機を作動させながらの洗浄作
業中に巻き込まれる災害です。コンクリートポンプ車にホッパースクリーンを上げ
ると同時に、撹拌装置が停止する安全装置が装備されていればよいのですが、まず、
攪拌装置を確実に停止させてから清掃作業を行うという基本動作を守らせることが
必要です。
■ リスクアセスメントの実施例
今回の災害事例で紹介した現場には、その他の災害をもたらす可能性のある危険源は数
多く潜んでいます。考えられる主な危険性がもたらす災害の発生の可能性、災害の重篤度
の見積りを例示してみましたので、参考にしてください。
Ⅰ.同種災害の防止策
Ⅱ.その他の危険性に基づくリスクアセスメント
*可能性、重篤度の点数は、リスクアセスメントを担当する人によって異なりますので、あくまでも参考見積りです。
35 建設労務安全 25・8
危険性又は有害性 可能性 重篤度 評価 優先度 リスクの低減措置
事例① 高所作業車に乗ったまま移動し、段差に気づかずに転倒
移動中にバランスを崩してプラットフォームから墜落する
4 10 14 ⑤高所作業車を移動させる際は、誘導者を配置し、安全帯を使用する。
作業中に躯体とプラットフォームの間に挟まれる 4 6 10 ④
事前に操作方法を確認してから作業を開始し、レバー操作はゆっくり行う。
作業中に身を乗り出して墜落する 4 10 14 ⑤
作業場所の近くまでこまめに高所作業車を配置し、安全帯を使用して作業を行う。
作業中に工具を落下させる 4 3 7 ② 工具類は、落下防止用の紐を取り付けて使用する。
事例② 掘削作業中のバックホーのバケットが作業員に激突
バックホーがバランスを崩して転落する 2 10 12 ④ 地山の状態を確認し、重機の安
定性を確保しながら作業する。
バックホーが旋回中、車体に作業員が挟まれる 8 10 18 ⑤
重機の作業半径内への立ち入り禁止措置を行い、誘導者を配置する。
バックホーが後退中、作業員が履帯に巻き込まれる 8 10 18 ⑤
誘導者を配置し、オペレーターは誘導者の合図に従って後退する。
事例③ ポンプ車のホッパーを洗浄中、回転していたプロペラに巻き込まれる
車体から足を踏み外し、転落する 8 3 11 ④ 整備、清掃作業は踏み台を使用
して行う。
ホッパースクリーンが倒れ、挟まれる 4 3 7 ②
スクリーンを開けて作業を行う場合は、機械を停止し、スクリーンを固定する。
洗浄水が目に入る 8 3 11 ④ 保護メガネを着用して作業を行う。
*可能性の判断基準の例災害発生の可能性の度合 評価基準
可能性が極めて高い 8
可能性が高い 4
可能性がある 2
ほとんどない 1
*重篤度の判断基準の例災害の重篤度 評価基準
死亡 10
重症(休業 1 ヵ月以上) 6
休業災害(4日以上) 3
軽傷(休業3〜0日) 1
*優先度の決定の例判定基準
見積り 18 〜 14 13 〜 10 9 〜 8 7 〜 5 4 〜 2
優先度 ⑤ ④ ③ ② ①