人生100 年時代のサイエンス€¦ · 求 め ら れ ま す 。 科 学 者 と し て...

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20 21 姿 18 広 告 企画・制作=日本経済新聞社 イベント・企画ユニット 姿 10 20 社会課題捉えた 研究開発を推進 奈良先端大東京フォーラム 2019 関西経済連合会、関西文化学術研究都市推進機構、奈良先端科学技術大学院大学支援財団 協力: 人生 100 年時代のサイエンス ~社会課題を解決する先端テクノロジー~ 奈良先端科学技術大学院大学と日本経済新聞社は「奈良先 端大東京フォーラム 2019 人生 100 年時代のサイエンス ~社会課題を解決する先端テクノロジー~」(協力:関西経 済連合会、関西文化学術研究都市推進機構、奈良先端科学 技術大学院大学支援財団)を開催した。超長寿社会における 科学技術のあり方や人間の心の持ち方などについて、識者・ 研究者がそれぞれの立場から論じ合った。 SDGs 時代における先端テクノロジーと社会実装の可能性 パネルディスカッション 国立研究開発法人 科学技術振興機構 理事長 濵口 道成松原氏 吉田氏 畑中氏 藤沢氏 姿 日本の科学技術イノベーションの現状とJSTの取り組み 基調講演 姿 姿 心を鍛えて 豊かに生きる 興福寺 寺務老院 多川 俊映心をみつめる ~より豊かに生きるために~ 特別講演 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学

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Page 1: 人生100 年時代のサイエンス€¦ · 求 め ら れ ま す 。 科 学 者 と し て 宗 教 性 ・ 哲 学 性 を 身 に 付 け て 、 自 己 チ ェ ッ ク し

 人工知能(AI)、IoT(モ

ノのインターネット)、デー

タサイエンスなど、IT(情報

技術)の革新により超スマー

ト社会の実現が期待されてい

ます。生命科学や物質科学の

分野でも、IT・先進技術の

革新が研究の方法論を大きく

変えつつあります。

 こうした変化を踏まえ、本

学は情報、バイオ、物質とい

う従来の3研究科を先端科学

技術研究科に統合しました。

個別分野にとどまらない幅広

い視野を持ち、融合領域に果

敢に挑戦していく研究者らの

育成に力を入れています。

 この20年間で科学技術は急

速に進化し、社会のあり方や

人類の生活に大きな変化をも

たらしました。その一方で、

世界では知と富の偏在による

格差が拡大。地球環境も限界

に近付きつつあります。今こ

そ科学が人類の幸福に貢献す

る道を再考し、未来へ

の責務を果たすべきと

きです。

 1999年の「ブダ

ペスト宣言」が、21世

紀における科学の責務

として掲げた「社会に

おける科学と社会のた

めの科学」という理念

や、2015年に国連

で採択された「持続可能な開

発目標(SDGs)」は、科学

者にとって重要な指針です。

科学者は自らの研究の先に

人々の生活があり、そのため

に貢献することを意識して仕

事に取り組まなければいけま

せん。

 キーワードは「課題解決」で

あり、「SDGs達成のための

科学技術イノベーション(S

TI

for

SDGs)」の推

進が重要です。そこで

科学技術振興機構(J

ST)は様々な事業を

展開しています。

 例えばセンター・オ

ブ・イノベーション(C

OI)は、挑戦的な研

究開発を支援するプロ

グラムです。社会のあ

るべき姿から取り組む

べき課題を設定し、大学や企

業の関係者が一体となって研

究開発を推進します。現在、

全国で18拠点を展開。実用的

な応用研究に定評があるドイ

ツのフラウンホーファー研究

機構のように、革新的なイノ

ベーションを生み出すプラッ

トフォームとして手応えを感

じています。

広 告 企画・制作=日本経済新聞社イベント・企画ユニット

 藤沢 現在どんな研究に取

り組んでいますか。

 松原 事前にエンジニアが

教えなくても、経験から行動

を学習するAIロボットを研

究開発しています。布を裏返

すスキルの習得や、小型船舶

の自動運転などが可能になっ

てきました。

 畑中 コンピューター内で

化学現象を予測するシステム

を構築しています。これによ

り新たな素材や化学材料の効

率的な開発をサポートできま

す。工業的なニーズと自身の

興味の2本柱で、社会の役に

立ちそうなものを研究開発の

対象に選んでいます。

 吉田 プラスチックによる

環境汚染が顕在化する中、ポ

リエチレンテレフタレート

(PET)を食べて増殖する微

生物を研究しています。将来

的にはペットボトルなどを分

解し、有用な化合物を生み出

す微生物をつくりたいと考え

ています。

 藤沢 社会実装に向けて企

業との連携などに課題はあり

ますか。

 松原 近年は企業との共同

研究が進み、自分たちだけで

は難しい実験も数多くできま

した。しかし、海外に比べる

と大学と企業の一体感は物足

りません。もっと深く、長期

的に大きな課題に取り組める

仕組みが必要です。

 吉田 複数の企業と、利害

に関係なく同じ方向を向いて

研究できる環境が求められま

す。 畑中 企業との研究に参加

した学生が成果を上げても、

研究者としての評価につなが

りにくいのが課題です。研究

者としてのオリジナリティー

をアピールしにくいためで

す。 濵口 最近は起業する研究

者も増えてきました。そうや

って資金を集めて、成果を追

求するのも一つの道です。

 多川 科学者は社会の一員

であるという意識を強く持

ち、研究の内容を社会に示し

ていくことが大切です。そう

しないと社会との乖離(かい

り)が広がりかねません。

 藤沢 加速度的に進化する

科学技術と人間の共存は、こ

れまで以上に大きな課題で

す。共存のあり方や、科学者・

研究機関が留意すべきことは

何でしょうか。

 松原 AIロボット分野で

は、セキュリティーや安全性

をどう担保するかが焦点で

す。安全に配慮するあまり対

策過剰となり、性能や効率が

犠牲になることも少なくあり

ません。これは技術的な課題

であると同時に、技術をどう

利用するかという人の心の問

題でもあります。

 畑中 リベラルアーツや宗

教的な学びの重要性に気付い

たとき、専門家に学べる環境

がほしいです。

視野を広げるた

め、自分と異な

る分野の人たち

との交流も深め

たいと思います。いつまでも

学ぶ姿勢が大切です。

 吉田 日常は慌ただしく過

ぎていき、つらいことも少な

くありませんが、すべて自身

の血肉になるとポジティブに

捉えています。研究者として

心を鍛え、社会との関わりの

中で研究者としてのあり方を

模索したいと思います。

 多川 科学は社会の発展に

寄与する一方で、人間の欲望

を満たすために利用される側

面もあります。そのため先端

科学の研究者には、特に高い

倫理性が求められます。科学

者として宗教性・哲学性を身

に付けて、自己チェックしな

がら研究を進めてください。

 濵口 大学は企業のように

短期的な成果を追求する場で

はなく、10〜20年単位の研究

開発を担っています。その役

割を社会に理解してもらうこ

とが大切です。研究の透明性

や説明責任は大学が担うべき

ものなので、

研究者は自ら

の興味をとこ

とん追求して

ください。

 藤沢 時代

とともに科学

者のあり方は変わっていきま

す。その意味でも社会に対す

る継続的な情報発信の重要性

を感じました。大学と企業が

互いに理解を深める仕組みも

必要かもしれません。

社会課題捉えた研究開発を推進

奈良先端大東京フォーラム2019

関西経済連合会、関西文化学術研究都市推進機構、奈良先端科学技術大学院大学支援財団協力:

人生100年時代のサイエンス~社会課題を解決する先端テクノロジー~

未来を導く科学の責務を果たす

未来を導く科学の責務を果たす

未来を導く科学の責務を果たす

 奈良先端科学技術大学院大学と日本経済新聞社は「奈良先端大東京フォーラム2019 人生100年時代のサイエンス ~社会課題を解決する先端テクノロジー~」(協力:関西経済連合会、関西文化学術研究都市推進機構、奈良先端科学技術大学院大学支援財団)を開催した。超長寿社会における科学技術のあり方や人間の心の持ち方などについて、識者・研究者がそれぞれの立場から論じ合った。

SDGs時代における先端テクノロジーと社会実装の可能性●パネルディスカッション 奈良先端科学技術大学院大学長

横矢

直和

●主催者挨拶

国立研究開発法人 科学技術振興機構 理事長 濵口 道成氏

国立研究開発法人

科学技術振興機構

理事長

〈パネリスト〉

〈ファシリテーター〉

濵口

道成氏

松原氏

吉田氏

畑中氏

藤沢氏

興福寺

寺務老院

多川

俊映氏

奈良先端科学技術大学院大学

研究推進機構

特任准教授

松原

崇充 

奈良先端科学技術大学院大学

研究推進機構

特任准教授

吉田

昭介 

奈良先端科学技術大学院大学

研究推進機構

特任准教授

畑中

美穂 

シンクタンク・ソフィアバンク

代表

藤沢

久美氏

利害超えた研究環境が必要

吉田氏

いつまでも学ぶ姿勢忘れず

畑中氏

継続的な情報発信が重要に

藤沢氏

自身の興味とことん追求を

濵口氏

先端研究に不可欠な倫理性

多川氏

技術利用する人の心も大切

松原氏

日本の科学技術イノベーションの現状とJSTの取り組み●基調講演

 心豊かに生きるために必要

なことが3つあります。

 1つ目は、物事を善悪や愛

憎など対立構造で考えないこ

とです。「人間と自然」といっ

た捉え方からは「自然

を保護する」など、人

間を上に見る発想が生

まれ、自然の中で生か

されている人間という

本当の姿を見失いかね

ません。

 生と死も分けて考え

ることはできません。

現代の日本は人生100年時

代などと言い、死を忌むべき

ものとして遠ざけようとして

いるように見えます。しかし、

生死(しょうじ)は不可分で

す。自らの死を正面から見つ

めてこそ、生が輝いてくるの

です。

 2つ目は、自他を比較しな

いことです。他者の成功や失

敗に一喜一憂するのは嫉妬の

姿。自分の方が上だと思えば

満足し、下なら恨みを抱くよ

うな生き方は改めなければい

けません。

 3つ目は、自分にとって都

合の悪いことも受け止めるこ

とです。あらゆる物事は変化

のさなかにあり、今日は不都

合でも、明日には変わ

る可能性があります。

都合の悪いものを拒絶

するのは、世界の半分

を捨てることに等し

い。それでは自分の住

む世界は狭くなり、い

つまでも心は豊かにな

りません。

 「心豊かに」と言えばマイル

ドに聞こえますが、これら3

点を実践するには相当な努力

と覚悟が要ります。現代は「心

の時代」というより「心を鍛え

る時代」です。厳しいせめぎ

合いを経て、初めて心の豊か

さが得られるのです。

心を鍛えて豊かに生きる

興福寺 寺務老院 多川 俊映氏

心をみつめる ~より豊かに生きるために~●特別講演

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学