第2章 アフガニスタンの社会・経済と開発の状況 -...

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査 63 2アフガニスタンの社会・経済と開発の状況 2.1 社会・経済状況 2.1.1 民族、言語、宗教 2006年のアフガニスタンの人口は、アフガニスタン政府とUNFPAによる推計では約22百万人であ るが、CIAの推計によれば約33百万人と大きな開きがあり、正確なデータはない。アフガニスタ ンには以下4民族及び分派が緊張関係を持って混在しており(次頁の図参照)、民族的対立が絶え ず、紛争の火種となってきた。 パシュトゥン人 アフガニスタン最大の勢力を誇る民族で、国内人口の 4 割を占め る。南部をベースとしてタリバーン政権の基盤をなしていた。パシュトゥー語を母国語 とし、スンナ派がほとんどである。 タジク人 アフガニスタン第 2 の勢力で、人口の約 27%を占める。主として、北東部、 ヘラートを中心とする西部、及びカブール州およびその北部(パルワン州など)に居住 し、スンナ派に属してダリー語(ペルシャ語と非常に近い)を母国語とする。 ハザラ人 シーア派で、 23 百万人いるとされる。モンゴル系の民族で、ペルシャ語 の方言の一種であるハザラギ語を母国語とする。バーミヤンを中心とする中部山岳地域 を出身地とするが、多くはカブールやマザリシャリフ等の都市部に移住し、貧民層を形 成している。社会でもっとも差別を受けている民族で、特にタリバーン政権下では数千 人のレベルで虐殺された。 ウズベク人 スンナ派に属し、ハザラ人とほぼ同数。北部に住み、トルコ語を話す。16 世紀からこの地域に住んでいたが、帝政ロシア・革命後のソ連邦から難民として移住し た子孫も多い。 その他、トルクメン人、ヌリスタニ人、バローチ人、チェハールアイマク人などの少数民族が 居住する。人口の99%はイスラム教徒(スンナ派84%、シーア派15%)である。カブールの省庁 などではパシュトゥン人もダリー語を理解するものがはとんどであるが、またパシュトゥン人の 多い南部では、ダリー語を理解できないパシュトゥン人も多い。 このほか、クチと呼ばれる遊牧民族が23百万人おり、家畜をつれて全国各地を牧草を求めて移 動している。遊牧民クチと現地住民との間で牧草地使用権を求める争いもあり、200612月には ホースト州でその対立が暴力的なものと化し、また2008年春には、ワルダク、バーミヤンにおい て、牧草地をめぐってクチとハザラ人との間で対立が激化し、一触即発の状態となった。 アフガニスタンにおける民族対立はまた、アフガニスタンの国内政治の中で煽られ、さらに国際 的な政治対立に利用されてきた。1930年のナーディル・シャー王政以降、教育や言語面を含む社 会・経済活動において、多数派であるパシュトゥン人が優遇されてきた。その他の少数民族は、

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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第2章 アフガニスタンの社会・経済と開発の状況

2.1 社会・経済状況

2.1.1 民族、言語、宗教

2006年のアフガニスタンの人口は、アフガニスタン政府とUNFPAによる推計では約22百万人であ

るが、CIAの推計によれば約33百万人と大きな開きがあり、正確なデータはない。アフガニスタ

ンには以下4民族及び分派が緊張関係を持って混在しており(次頁の図参照)、民族的対立が絶え

ず、紛争の火種となってきた。

• パシュトゥン人 アフガニスタン 大の勢力を誇る民族で、国内人口の 4 割を占め

る。南部をベースとしてタリバーン政権の基盤をなしていた。パシュトゥー語を母国語

とし、スンナ派がほとんどである。

• タジク人 アフガニスタン第 2 の勢力で、人口の約 27%を占める。主として、北東部、

ヘラートを中心とする西部、及びカブール州およびその北部(パルワン州など)に居住

し、スンナ派に属してダリー語(ペルシャ語と非常に近い)を母国語とする。

• ハザラ人 シーア派で、2~3 百万人いるとされる。モンゴル系の民族で、ペルシャ語

の方言の一種であるハザラギ語を母国語とする。バーミヤンを中心とする中部山岳地域

を出身地とするが、多くはカブールやマザリシャリフ等の都市部に移住し、貧民層を形

成している。社会でもっとも差別を受けている民族で、特にタリバーン政権下では数千

人のレベルで虐殺された。

• ウズベク人 スンナ派に属し、ハザラ人とほぼ同数。北部に住み、トルコ語を話す。16

世紀からこの地域に住んでいたが、帝政ロシア・革命後のソ連邦から難民として移住し

た子孫も多い。

その他、トルクメン人、ヌリスタニ人、バローチ人、チェハールアイマク人などの少数民族が

居住する。人口の99%はイスラム教徒(スンナ派84%、シーア派15%)である。カブールの省庁

などではパシュトゥン人もダリー語を理解するものがはとんどであるが、またパシュトゥン人の

多い南部では、ダリー語を理解できないパシュトゥン人も多い。

このほか、クチと呼ばれる遊牧民族が2~3百万人おり、家畜をつれて全国各地を牧草を求めて移

動している。遊牧民クチと現地住民との間で牧草地使用権を求める争いもあり、2006年12月には

ホースト州でその対立が暴力的なものと化し、また2008年春には、ワルダク、バーミヤンにおい

て、牧草地をめぐってクチとハザラ人との間で対立が激化し、一触即発の状態となった。

アフガニスタンにおける民族対立はまた、アフガニスタンの国内政治の中で煽られ、さらに国際

的な政治対立に利用されてきた。1930年のナーディル・シャー王政以降、教育や言語面を含む社

会・経済活動において、多数派であるパシュトゥン人が優遇されてきた。その他の少数民族は、

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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歴史的背景や宗教・言語により、社会的に異なった位置を占めている。タジク人は概ね教育水準

が高く、法文書や政府公式文書は通常ダリー語が使用されていることから、タジク人が司法や官

僚として就業する率が高く、タジク人の社会的地位は相対的に高い。一方、ハザラ人は一般に社

会の底辺に位置づけられており、教育水準も低く、工場や作業現場において肉体労働に従事する

ものが多い。ウズベク人は、1991年のソ連解体によるウズベキスタンの完全独立により、民族的

自覚を強め、アフガニスタン国内における政治的発言力を強化する方向に向かっている135。また、

ソ連軍の撤退後には、パキスタンがアフガニスタンへの影響力を拡大するためにパシュトゥン人

を支援していた一方で、パキスタンやサウジアラビアの影響力の拡大化を懸念するイランは、シ

ーア派であるハザラ人を支援した。また、タリバーンは1997年にマザリシャリフで大勢のタリバ

ーン兵が殺害された報復措置として、1998年にハザラ人を大量虐殺した。アフガニスタンの国家

の再建・開発を考える上では、このような民族間の対立をどのように融和させて安定的な社会を

作るか、ということを常に念頭において考えなければならない。

図 2-1 アフガニスタンの主要民族の分布図

出所: アフガニスタン統計局

135清水学(2007)アフガニスタンにおける国民統合の課題 鈴木均編 アフガニスタン国家再建への展望 明石

書房

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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2.1.2 政治の概況

(1) 大統領選挙

2004年10月9日に実施された大統領選挙では米国の支援を受けたカルザイ氏が他の候補を大きく

引き離して、当選した。

表 2-1 2004年大統領選挙結果

出所:アフガニスタン独立選挙管理委員会

地域別では、カルザイ氏がアフガニスタン東部・南部のパシュトゥン地域と都市部を押さえ、55.4%

の得票率。次点は、16.3%のYunus Qanuniで、故郷のパンジシール州のタジク票を押さえるも、他

の州のタジク票の獲得には至らなかった。Junbesh-i Melli の党首Abudul Rashid Dostumは10%、

Hezbi-Wahdat(Mardom)の党首Haji Mohammad Mohaqiqは11.7%と、それぞれ、大部分のウズベ

ク票、ハザラ票を獲得した。その他の14人の候補者は、7.4%を得票したのみであった。

この得票結果には、民族的な分極化が顕著に見られ、アフガニスタンにとって不可避的な伝統的

結集力と共に、依然、有権者に対する軍閥の強大な影響力を示すものであった。特に、Dostumと

Mohaqiq達に代表されるように、名目は無所属(independent)として立候補しながら、実質は軍閥

として選挙区に君臨する候補者に対して、武装組織との関係を禁ずる選挙法136が効力を発揮でき

なかったことは、今後の課題である。

アフガニスタン国憲法第61条では、大統領の任期は大統領選から5年目の「シャウザ月初日」に終

わり、大統領選は任期終了の30~60日前に行われると定められている。これによるとカルザイ大

統領の任期は2009年5月21日に終了し、大統領選は3月下旬から4月下旬の間に行われなければなら

ないことになるが、治安悪化による有権者登録の困難などを理由に、8月に実施する予定である。

米国務省は4月30日、アフガニスタンの 高裁判所がカルザイ大統領の任期を8月に実施する大統

領選まで延長すると認めたことを歓迎する声明を発表した。国務省のデュグッド副報道官代行は

記者会見で「(政治の)空白期間がなくなることはアフガニスタンの安定に寄与する」と強調し

た。同時に「すべてのアフガン国民に対して、 高裁の判断を支持することを要請する」と訴え

た。

大統領選挙までの手続きは以下の通りである。まず、有権者登録が、2008年10月から2009年2月ま

でに4段階に分けて実施された。治安の悪い南部地域が一番後回しにされ、国軍・ISAFの協力のも

と、警察が責任を持つことになっている。次いで、候補者の決定、選挙運動、投票という流れに

なる。予想される候補者は現職のカルザイ大統領のほか、2004年の大統領選挙の際に次点となっ

た、カヌーニー氏(下院議長)のほか、アブドゥラ氏(前外相)、ガーニ氏(元蔵相)などが有

136 Electoral Law, Chapter V, “Candidate Eligibility” Article 16, proclaimed on May 27, 2004

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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力視されている。ブッシュ政権に担ぎ出されたカルザイ氏に対する評価は、汚職の蔓延と治安の

悪化をが一向に改善されない中、アフガニスタン国内外で必ずしも高くない。

下図のように、アフガニスタン国内には様々な政治勢力が対立を繰り広げており、どの候補者が

新大統領となっても、極めて困難な政局運営が予想される。

現政権

旧軍閥

北部同盟

イスラム協会

ラバニ派 T

武装勢力

タリバン P

オマル師

カ ル ザ イ

大統領 P

ヒ ズ ビ ー ・ イ ス ラ ミ

へクマティアール P

ハカニ・ネット

ワーク P

アルカイダ及

び外国人戦

闘員

パキスタン軍部・ISI

戦闘

過去に対戦

武装化した部族 P

対話呼びかけ

支援

外国軍

支援 (?)

各グループ

が互いに連

イスラム統一

党 H

ハリリ第二副

大統領

ドストム

U

イ ス ラ

ム 国 民

運動党

議会の有力勢力

カヌーニ下院議長

T

アタ・モハメ

ド・ヌーリ T

バ ル フ 州 知

イ ス マ イ

ル ・ ハ ー

ン 水 ・ 電 力

ラバニ政権時代、へ

クマティアールは離

反、タリバン政権時

代は協調。

親カルザイ州知事ら

(主に P)

第一副大

統領 アフ

マド・ジア・

マスード T

対立

戦闘

図 2-2 アフガニスタン主要ステークホルダーの相関図

出所:JICA作成資料

(2) 治安状況

国内の治安は改善の兆しが見えず、特に2008年は深刻な治安状況が続き、2008年8月には治安事件

の件数が983件と、タリバーン政権崩壊後の 高を記録、前年同期比の44%増となった137。件数の

増加のみでなく、反政府側の手法が変化し、攻撃の仕方がより精巧になり、またこれまで安全と

されていた地域においても被害が見られる。特に一般市民の増加が顕著で、2006年の 初の8ヶ月

に治安事件で死亡した文民の数は推定650人前後であり138、前年同時期の3倍から4倍にもなった。

文民犠牲者の数はさらに、2007年の同時期では1,040人、2008年の同時期では1,445人と増え続けて

いる139。この文民犠牲者の数字には、反政府勢力の攻撃による犠牲と、国軍や外国軍の空爆など

による犠牲の両方が含まれている。

137 以下の治安に関するデータ・分析、引用はUnited Nations General Assembly(UNGA) “The situation in Afghanistan and its implications for international peace and security: Report of the Secretary-General” A/63/372-S/2008/617, pp.5 138 犠牲者総計約2,000人のおよそ三分の一。United Nations General Assembly:Report of the Secretary-General 2006年 139 UNGA 2008年12月

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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2.1.3 経済の概況

2.1.3.1 マクロ経済の概況

アフガニスタンは世界の中でも も貧困な国の一つであり、2003年における一人あたりGDPは180

~190 米ドルにすぎない。統計によって数字にばらつきがあるものの、国民の60%~80%は貧困

下に置かれており、識字率は成人人口の30%程度しかない。

通貨の改革が2003年初頭に行われて以来、健全な財政政策と慎重な債務管理政策によって、アフ

ガニスタンのインフレ率は比較的低く抑えられている(ただし、2007年から2008年にかけては、

石油の価格上昇および世界的な物価上昇により一時的に物価が上昇した)。厳しい環境にも関わ

らず、企業活動は着実に回復しており、世界銀行の”The Investment Climate in Afghanistan”(2005

年12月)によれば、2000年から5年間で企業における雇用数は67%増加しており、製造業の平均稼

働率は約60%にまで回復している、とのことである。海外からの投資はいまだ非常に限られてい

るが、国内の企業による投資活動は総じて活発化している。

このように、工業・建設分野、そしてそれに関連する商業・サービス業に牽引される形で、アフ

ガニスタン経済は全体として成長の軌道に乗っていると言える。農業・畜産業を中心とする第一

次産業は、生産高はほぼ横ばいであるものの、GDPに占める割合は2002/03年の50%から2005/06

の31%に減少し、第二次産業は同時期に20%から27%へ、第三次産業は30%から42%へと、シェ

アを拡大してきている。アフガニスタンの名目GDP及びインフレ率の推移、並びに産業別GDPの

推移を以下に示す。

9,596

7,723

2,463

6,4895,9474,592

4,083

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

2001/02 2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 2006/07 2007/08

13.0

5.0

5.1

12.313.2

24.1

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 2006/07 2007/08

図 2-3 アフガニスタン国名目GDP

(百万米ドル、2006/2007年は推計値) 図 2-4 アフガニスタン国インフレ率

(消費者物価指数年平均、%) 出所: IMF Country Report 2006年3月、2008年6月 出所: IMF Country Report 2006年3月、2008年2月

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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表 2-2 アフガニスタン産業別GDP

(百万アフガニ、2002/03年価格)

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 2006/07

第1次産業 第2次産業 第3次産業

図 2-5 アフガニスタン産業別GDP

(百万Afs、2002/03年価格)

2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 2006/07

第1次産業 89,834 105,000 87,027 104,084 91,451穀物 73,751 85,442 67,752 85,892 72,750その他の作物 4,652 7,981 7,582 6,346 6,618畜産 11,431 11,577 11,693 11,846 12,083

第2次産業 36,179 40,495 53,617 66,448 80,604鉱業 261 250 315 580 639工業 27,151 29,148 35,531 41,211 47,969建設 8,700 10,941 17,506 24,460 31,798電力 67 156 265 196 199

第3次産業 54,278 61,749 83,096 103,239 122,326商業 18,167 17,160 22,320 20,233 23,079交通・通信 17,343 24,463 36,695 36,843 46,637公共サービス 8,500 9,704 12,033 18,179 22,045その他のサービス 10,267 10,422 12,048 27,984 30,565

出所: IMF Country Report 2008年2月 出所: IMF Country Report 2008年2月

2.1.3.2 貧困問題の概況

(1) 貧困の様相

世界銀行の報告によれば、アフガニスタンのGDPは73億米ドル(2005年時点)から84億米ドル(2006

年)へと経済成長を裏づけている。しかしアフガニスタン独立人権委員会(AIHRC)140のインタ

ビュー調査によれば、回答者の38%が一定の収入がある一方、60%が一日50Afs(=1米ドル)以下

の収入で生活し貧困層に属することが報告されている。また、UNDPの報告では、アフガニスタ

ンの人間開発指数(Human Development Index)は、2004年の0.346から2007年には0.345へと僅かに

減少し、178ヶ国中174位という 下位レベルに位置している。つまり、国家レベルの経済は成長

をしているものの、国民の生活向上を伴ったものではないことを示している。実際に、国民は、

アフガニスタンの直面する重要課題の第2位に失業率の改善を含めた経済問題、第3位に物価の高

騰を挙げている141。

アフガニスタンでは食糧不足が深刻であり、アフガニスタン国民の660万人が、1日に必要なカロ

リーを摂取できず、国民の30%が 低限必要な食事量を取ることができない状態である。フード

セキュリティモニタリング調査(FSMS142)では、農業従事者の多いアフガニスタンでは、人々の

食料消費量は季節の変化によって影響を受け、農産物の収穫後の夏には食料を十分に消費できる

ものの、冬(特に3月)は食糧不足となる傾向がある(ANDS)、と報告している。また、安全な

水へのアクセスは、食糧と並んで緊急を要する問題であり、AIHRCの調べでは、回答者の52%が

安全な水へのアクセスができないと答えている。また水の質について問題がある(48%)、水の

入手が困難(24%)、水へのアクセスが困難(23%)との問題が挙げられ、特に水へのアクセスに

ついては、回答者の37%が15分以上、35%が1時間以上歩かなければ水を入手できないと回答して

いる。

140 AIHRCの調査対象:32州より11,000人のアフガニスタン国民(貧困層、農村地域を含む)に調査 141 アジアファンデーションの調査による。34州より2007年は6,263人、2008年には6,593人に調査 142 Food Security Monitoring Survey(FSMS)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

69

アフガニスタンの識字率は、男性が43%、女性が14%と非常に低い。2002年から2007年までの5

年間に小学校に通う女子児童の数が35%増加したにも関わらず、国家全体では約半数(53%)の

児童が小学校に就学しているに過ぎない。これには、伝統的な考え方によって女児を学校に通わ

すことは不相応なことだとする文化的背景がある。また男児においては、労働力や稼ぎ手として

欠かせない存在である。AIHRCの報告では、回答者の37%が、家族の中の少なくとも一人の子供

には労働をさせており、さらにその内の31%が、子供が唯一の稼ぎ手であると回答している。

アフガニスタンでは、2001年以降、医療サービスの普及が進められ、各種指標が改善しているも

のの、妊産婦死亡率1,800(対出生10万人)、5歳未満の死亡率191(対出生1,000人)、40%の子供

が低体重、54%が低身長等、世界的にみても劣悪な環境にある。さらに地域格差は深刻であり、

たとえば妊産婦死亡率は、農村地域など遠隔地になると6.5%へと大きくなる。

また、アフガニスタンでは女性に対する不平等が横行し、貧困の原因となっている。早婚や文化

的な価値観で、教育を受けられない女性が多いため、収入に繋がる能力や技術を身につけられな

い状態となっている。また、教育に加えて、医療機関、法的機関のサービスもなかなか受けらず、

農村地域のような医療機関までのアクセスが悪い地域になれば、生死に関わる病気に罹るまで医

療を受けられない女性も多い。さらに、女性に対する暴力や、女性が意思決定の場に参加できな

いことも報告されている。

治安問題は、アフガニスタンにおける 優先課題であり、貧困問題をより深刻に、かつ長引かせ

る原因も治安の悪化にあるといえる。公共機関やマーケットへのアクセスの改善も、治安の確保

が前提にある。2006年から2007年を通じて、アフガニスタン治安部隊、国際治安部隊にとどまら

ず、国民が直接に攻撃を受け、国民が生命の危機を常に感じる状況である。アフガニスタンの中

でも特に南西部では、治安の改善が優先課題であり、他地域よりも開発が遅れている状況にある。

また、安全、安定した市民生活が国家行政によって守られていない状況も深刻である。アフガニ

スタンのガバナンスは、法律や規則のフレームワークが未整備であり、かつ行政側の責任能力が

不十分である。さらに、サブナショナルレベルの行政機関になれば、財源もなく適切なサービス

を市民に提供できていない状況である。一方、警察や司法において汚職が広がっている。その透

明性においてアフガニスタンは159ヶ国中117位に位置づけられている(2007 UNDP HDR)。

アフガニスタンにおける農業従事者の数は、労働人口の三分の二に上る。しかし潅漑設備が長期

にわたる紛争により被害を受けた結果、洪水や旱魃の影響を簡単に受け、農民は財産や生命を簡

単に失う環境下にある。また、農業技術の遅れで農産物の生産性は低く、かつ保存技術がないた

め、厳しい冬季には多くの農民が栄養失調となる。またこの時期に生命の危機に関わる病気に罹

る人々も多い。当然ながら、農村地域におけるインフラ建設や企業の誘致もいまだ手つかずの状

態で、中小規模の事業を起こす環境はまだ整っていない。さらに、アフガニスタンの農産物の61%

がケシの実である(2006年)。これは、世界のケシの実供給の90%以上を占めている。南部を中

心とした地域では、貧困農民の大多数がケシ栽培を重要な現金収入源としていることから、治安

の回復とともに代替収入源の創出が喫緊の課題となっている。

一方、都市部に目をむけると、教育・医療サービスへのアクセス、衛生設備や社会インフラへの

アクセスへの難点など、農村地域と共通の問題を抱える一方、住居となる土地を入手することの

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

70

困難が特徴となっている。政府は定住者を対象に、住宅建設を通じてこうした問題の解決に当た

ってはいるものの、土地がない貧困層は取り残されている状態である。また、貧困層の多くがイ

ンフォーマルな仕事に従事しており、そうした仕事では彼らの生活を守る保障もなく仕事自体も

継続性がない。都市における貧困層は借金を重ね、将来への蓄えをするゆとりもなく、脆弱な財

政状態のままにある。それゆえに、貧困からなかなか抜け出すことはできず、彼らが病気や何か

の災害に会う際は、なんらかの社会的なネットワークに頼らざるを得ない状態である。

(2) 貧困の要因

APPPA143は、2都市6農村(ウルズガン州、ナンガハル州、バダフシャン州、ヘラート州より)の

出身者2,626人(男性1,158人、女性1,468人)を対象として、参加型手法による調査を行なった。

そこで採用されたDMIP144分析における「貧困の原因」と「貧困状況が継続する原因」を基に、ア

フガニスタンの貧困構造が如何なるものかを捉えることができる。

囲み記事 2-1 参加型調査(APPPA)から捉えられたアフガニスタンの貧困の要因

アフガニスタンの貧困層を取り巻く環境

(a) 脆弱なガバナンスと行政サービス

アフガニスタンは、ロシアの支配、市民戦争、タリバーン政権の樹立、アメリカによる爆撃などが続き、国内が

安定する間はない。それゆえに行政システムは脆弱で、市民に行き届く行政サービスはほとんど行なわれない状

況である。また、州、郡、ローカルレベルになるほど行政システムは脆弱である。伝統的な協議会であるShuraがこれらに代わって統治している場合があるが、貧困層は孤立しがちであり、サービスが受けられない場合が多い。

貧困層が生計向上等、貧困からの脱却を図る上で行政サービス、ガバナンスの向上が不可欠となっている。

(b) 汚職の存在

未だに、基本的な行政サービスを受けるためにも役人に賄賂を渡さなくてはいけないという状況である。特に貧

困層は、持っている財産に限りがあるため、このような賄賂社会では、基本的な行政サービスや生計向上の機会

を得られない。

(c) 冬季への不適応

冬の終わりから春先の間の種付けの休耕期には食料が底をつく。国民の多くが農業に従事しているため、この時

期多くの国民が貧困状況に陥る。また厳しい冬ゆえに、農業以外の経済活動もほとんど行なわれなくなり収入も

減る。よって、この時期、栄養失調となり生命の危機に関わる病気に罹りやすくなる。しかし、この脆弱性を軽

減させるような行政サービスや施策は十分ではない145。

(d) 自然災害(洪水、地震、旱魃)

潅漑・治水施設が整っていないアフガニスタンでは、旱魃や洪水といった自然災害の影響を簡単に受ける。自然

災害により、農作物が多大な損害を受けるだけでなく、財産を失い、家族を亡くす農民も多い。一旦被災すると、

以前の状態に立て直すことは難しくなる。

(e) 雇用問題

脆弱な経済状態の中で失業率は高く、失業者は生活に十分な収入を得られず貧困となっていく。新たな職を探す

にも、労働市場が機能不能に陥っているため、仕事を探すことは非常に難しい状態である。

(f) 冠婚葬祭費/医療費

143 Afghanistan Pilot Participatory Poverty Assessment:ADB、UNDP、USAID、Oxfam GBが資金を拠出し、ACBAR(Agency Coordinating Body for Afghan Relief)が実施し、2008年3月に報告書がとりまとめられた。 144 DMIP分析はAPPPAの調査の中で採用された手法で、Driver of Poverty, Maintainers of Poverty, Interrupters of Povertyについて体系立てて調査するものである。 145 Winterization ProgrammeはUNHCR, WFP等の機関で毎年行われ、難民帰還省もかかわっている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

71

アフガニスタンでは結婚式や葬式の際に支払うコストが高く、その回数が多いほど貧困層の資産状況に与えられ

る影響が大きく、長期にわたって借金をすることがある。また医療費も高額で、貧困層の負担となっている。

(g) 紛争

紛争は、殺戮、インフラの破壊、資産の強奪、行政システムやサービスの機能不全等、社会の均衡を崩すだけで

なく、国民の間に他人に対する疑念や不信を強めさせ不安定な社会状態を作り出している。その結果貧困層が貧

困から抜け出せる機会は少なくなる。

(h) 法律の未整備

紛争が起きた時にそれを裁く法律や規則が未整備である。無法状態のため、建物を壊されたり、資産を奪われた

り、移住を強いられたりする事件が続き、不安定な社会状況を作り出している。また、貧困対策によって法律が

未整備のまま貧困層に権利を与えようとするため、権力の乱用が起き、社会的混乱が生じている。

(i) 民族・政治・宗教・部族・ジェンダーの違いによる差別

民族・政治・宗教・部族の違いを背景とした紛争によって、差別や偏見がアフガニスタン内で広がっている状況

である。こうした状況が不均衡な社会を作り出し、それぞれの個人の能力向上の妨げとなり、貧困からの脱却を

難しくしている。また、ジェンダーによる差別は、女性が収入を得られる能力や機会の妨げとなり、貧困状態を

持続させる原因のひとつである。

以上のように、幾重にも重なった要因により、アフガニスタンの貧困者の多くは貧困の状態から

抜け出せないでいる。さらに、こうした問題への対策を考える上では、以下のように、貧困の地

域差とアフガニスタン民間の信頼構築の難しさを念頭におくことが重要である。

(a) 貧困問題の地域差

2008年にアジアファンデーションが行ったアフガニスタン国民に対して行った調査によれば、ア

フガニスタンが国家レベルで直面する問題として、第1位が紛争やテロによる危険、2位が失業問

題、3位が物価の高騰、4位が未成熟な経済、5位が汚職、6位がタリバーンの存在、7位が教育や識

字率であるとされた。一方において、自分達の居住地域において直面している問題としては、第1

位に電気が使えない、2位失業、3位水へのアクセス、4位道路、5位医療サービス、6位紛争や暴力

による危険、7位教育、識字率、が挙げられた。居住地域で直面する問題になると、国家レベルで

は第1位に上げられた紛争や暴力による危険が低位に変わっており、それよりも行政サービスや市

場が機能していないがために起こる問題(電気、失業、水など)が深刻さを帯びていることが分

かる。

国家レベルと居住地域で直面している問題に違いが生じるように、貧困問題は、各地域によって

も事情が異なる。特に「タリバーン政権下よりも現在の方が豊かになったと感じるか」という質

問に対する答えに地域差があることは、アフガニスタンの治安や貧困問題を考えるうえで、示唆

に富んでいる。北東部、北西部、西部、カブール周辺地域、中央部ハザラ地域では、タリバーン

政権下より現在の方が豊かさを感じられるようになったと答えている。一方、東部、南東部、南

西部では、前より貧しくなったと感じられると答えている。この理由は後者の地域には、パシュ

トゥン人が多く暮らし、現在の経済状況に他の民族よりも不満を持っているからだと報告されて

いる。

さらに、開発の進捗具合に対する認識も地域によって異なる。「2年前に比べて改善されたもの」

について、第1位は学校へのアクセス(44%)、第2位は家族の健康状態(29%)、第3位は家庭の

所得の状態(24%)、第4位は住居(18%)、以下、市場での入手可能な商品(13%)、食品の質

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

72

(13%)、電気の供給(13%)雇用(7%)が挙げられているが、第1位となった「学校へのアク

セス」の改善については、都市在住者(49%)、農村在住者(43%)共に支持されている。「家

族の健康状態」については東部、南東部、北東部、中央部ハザラ地域において向上の傾向が見ら

れる。一方、南西部、カブール周辺地域ではこの2年間で家族の健康状態は悪化したと報告されて

いる。「家庭の所得状態」については、東部、中央部ハザラ地域で向上した傾向がある(ドナー

による農業支援プロジェクトが集中していることが理由と考えられる)が、人口の集中の著しい

カブール周辺地域や、ドナーによるプロジェクトの比較的少ない北西部、西部では悪化傾向だと

報告された。また「電気供給」については、やはりドナーによる発電・送配電網整備にかかる投

資の成果を反映して、カブール周辺地域、北西部、西部で改善が報告されている一方、北東部、

東部、南西部では、状況が改善されていないとの報告が大部分を占めている。

表 2-3 開発の進捗具合に対する認識の地域差

項目 改善あり 改善なし/後退 学校へのアクセス 東部、北東部、西部、南西部 情報なし 家族の健康状態 東部、南東部、北東部、中央部ハザラ地域 南西部、カブール周辺地域 家族の財政状態 東部、中央部ハザラ地域 カブール周辺地域、北西部、西部 電気供給 中央部カブール周辺地域、北西部、西部 北東部、東部、南西部 雇用 情報なし 南西部、北西部、カブール周辺地域、西部、北東部

出所: 2008 アジアファンデーションを参考に調査団作成

図 2-6 地域区分 (紫:中央カブール、赤:南東部、ベージュ:東部、緑:北東部、黄緑:北西部、ピ

ンク:西部、水色:南西部、黄色:中央ハザラ地域)

出所: 2008 アジアファンデーション

以上の報告から、地域によって開発の進捗状態が異なるだけでなく、南西部は他地域よりも治安

が悪いため、開発から取り残されている状態であることが窺える。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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(b) 国民間の信頼構築の難しさ

アフガニスタンは多民族国家であり、一つの村やコミュニティの中においても複数の民族が住ん

でいる場合が多い。特段に問題なく暮らしている場合も多いが、お互いに信用していないケース

も少なくない。「人を信じられるかどうか、他人に対して注意が必要かどうか」という質問に対

して34%のみの回答者が「人を信用できる」と回答し、60%以上の回答者が「注意を要する」と

答えている。一般に農村部の方が、都市部よりも人が信用できると答えている。他人に対する信

頼度が高いのは、北東部、北西部、中央部ハザラ地域であり、南西部(73%)、西部(65%)、

東部(64%)、カブール周辺地域(69%)では、他人には注意が必要だと回答した者が三分の二

以上となっている。

こうしたアフガニスタン国民内に存在する他人への不信感は絶え間ない紛争の歴史とその背景に

ある部族間抗争にあると考えられる。アフガニスタンは、多民族国家である前に、マジョリティ

であるパシュトゥン人を構成する数十もの部族の間で部族間抗争が繰り返されてきた。対ソ連戦

争直前までは人口の9割が農業に従事し、各民族や部族は都市部以外では自律した社会を形成して

いたといわれる。しかし、1973年に王政がなくなるとパシュトゥン人以外の民族も台頭して政党

を結成し、結果として、アフガニスタンは部族抗争と民族間の覇権争いの両方を抱えることとな

った。こうした利権争い、穏健派、急進派の方針の違いなど、さまざまな原因が対立の背景にあ

り146、国民の間で信頼構築が容易になされない状況を作り出している。

アフガニスタンの貧困構造の複雑さや、地域による開発の不均等さは、こうした部族や民族の違

いに起因する部分も大きいと考えられる。よって、今後開発援助が特定の部族、民族、宗派に流

れることになれば、地域格差の傾向は継続し一層深刻な問題になると考えられる。また、アフガ

ニスタンが国家として貧困対策を行なうためには、国民同士の信頼構築を常に念頭に入れて事業

を行っていく必要がある。

2.1.3.3 政府財政の推移

アフガニスタン政府の歳入は着実な伸びを見せている。2006/07年から2007/08年にかけて歳入が

288億Afsから357億Afsに増加し、さらに翌年の2008/09年には予算ベースで444億Afsが想定されて

いる。2003/04年から2007/08年の国家歳入の推移を以下に示す。

表 2-4 国家歳入の推移(10億Afs)

35.728.8

20.7

12.810.2

15.112.09.47.2

5.4

0.05.0

10.015.020.025.030.035.040.0

2003/04 2004/05 2005/06 2006/07 2007/08

国家歳入

うち、関税

出所: IMF Recent Eoconomic Developmnetのデータを加工、2007/08は推計値

146 2003月刊みんぱく編集部編

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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2003/04年予算では、関税が国家歳入の53%を占めていたが、所得税や売上税等の徴税制度が整備

され、徴税能力が徐々にではあるが強化されつつあることから、関税以外の歳入も増加しており、

関税の国家歳入に占める割合は2007/08年には42%になっている。国内の税金については、2005年

に採択された所得税法(Income Tax Law)に基づき、財務省国税局(Revenue Department)、財務

省のLarge Taxpayers Office、財務省の各州におけるMoustufiat(地方財務局:財務省の州における

出先機関)が集めているが、これに加えて、各省の省令や大統領令により、様々な政府機関が税

金ないしは料金を徴収している。財務省国税局は、カブール州の個人所得税や、ホテル・レスト

ランや航空会社等からのBRT(売上税)を直接徴収しており、Moustufiatは個人所得税(カブール

州を除く)、法人税、店舗・サービス業からのFixed Taxes(外形標準税)、ビジネスライセンス

を有する企業からのBRT、家賃税、不動産移転税などを徴収している。Large Taxpayers Officeに加

えて、2007年9月にはMedium Taxpayers Officeが設立され、中規模の企業やホテルなどに対する徴

税を強化する方向にある。

2004年以降、アフガニスタンの予算報告は、「コア予算」(Core Budget)と呼ばれる政府の国庫

を経由する予算と、「外部予算」(External Budget)と呼ばれる政府の国家を経由せずにドナーに

より直接支出される予算の両者を含むこととされていたが、財務省が管理できない外部予算を国

家予算と呼ぶのは抵抗があるとの大統領府からのコメントにより、2009/10年度の予算より、外部

予算は予算書の附属資料の扱いとなった。コア予算は、公務員の給与やリカレントコストを支出

する「経常予算」とインフラ投資などを支出する「開発予算」に分けられ、一方の外部予算はす

べて「開発予算」となっている。コア予算の収入源は、国家歳入とドナーによる援助から構成さ

れている。2009/10年度予算の収入源と支出の構成を以下に示す。なお、2009/10年予算については、

歳入が2,515百万米ドル、歳出が2,943百万米ドルとなっており、全体で428百万米ドルの赤字とな

っている(プロジェクトの予算削減、ドナーの追加支援、予算の執行の滞り等により、 終的に

はバランスする予定)。

収入 支出

国家歳入

973百万US

ドル

39%

ドナー援助

1,542百万

USドル 61%

経常予算1,807百万USドル

61%

開発予算1,136百万USドル

39%

図 2-7 アフガニスタンの政府財政(2009/10年コア予算)

出所: アフガニスタン財務省予算書

上図からわかるように、コア予算の6割が、ドナーによるアフガニスタン復興信託基金

(Afghanistan Reconstruction Trust Fund:ARTF)を通じた贈与によって賄われてきたが、アフガニ

スタン政府が自立的に運営されるようになるためには、コア予算の援助依存度を次第に減らして

いくことが必須である。 初の段階として、まず政府職員の給与や事務経費といった経常予算(支

出)を国家歳入で賄うことが求められているが、経常支出の歳入に占める割合(「財政の持続性

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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指標」)は、歳入の増加とコア経常支出の抑制により、2002/03年の38%に比べ、2005/06年は64%、

2006/07年は67%と増加し、アフガニスタンの歳入は、コア予算のうちの政府職員の給与をまかな

うところまで来ている。しかしながら、自立的な財政運営を達成するためには、経常予算のみな

らず開発予算(特にインフラの維持管理費等)も自ら賄うことが求められていることから、徴税

能力の強化を初めとする歳入増加の努力が必要であり、アフガニスタン政府の低いガバナンスの

レベルを鑑みるに、いまだ遠い道のりと言わざるを得ない。国家歳入の経常予算に占める割合の

推移を以下に示す。

0

10

20

30

40

50

60

0%10%20%30%40%50%60%70%80%

国家歳入(10億ドル) 10.2 12.8 20.7 28.8 35.7

経常予算(10億ドル) 22.1 26.7 32.2 43.4 53.3

国家歳入/経常予算 46% 48% 64% 66% 67%

2003/04 2004/05 2005/06 2006/07 2007/08

図 2-8 国家歳入の経常予算に占める割合

出所: IMF Recent Eoconomic Developmnetのデータを加工、2007/08は推計値

財務省の資料によれば、外部予算の総額は2009/10年は33億米ドルとなっており、その6割は米国

によるアフガン国防省への軍事支援である。その他の外部予算には農業・潅漑・畜産省(Ministry

of Agriculture, Irrigation and Livestock:MAIL)、独立選挙委員会、教育省、公衆衛生省、公共事業

省、水・エネルギー省等の案件が大きな割合を占めている。

2.1.3.4 主要国・機関の支援状況

(1) プレッジ・コミット金額と資金ギャップ

これまでのアフガニスタンに対する支援状況は表 2-5の通りである。なお、2009年3月31日にハー

グで実施された会合はプレッジ会合ではなかったため、下記の金額には含まれていない147。プレ

ッジ額と確定(コミット)額が異なるのは、国内治安その他の理由で、ドナーがプレッジした金

額が具体的なプロジェクトとして実現しないケースが多いからである。また、後述のようにプロ

ジェクトとして実現しても、工事進捗の遅延などにより、実際に契約額がディスバースされる割

合(ディスバース率)はさらに低いことが問題となっている。各会合における総プレッジ額が毎

回膨れ上がっている(例えばパリ会合における総プレッジ額は東京会合の約5倍、ロンドン会合の

約2倍にものぼる)ように見えるのは、前回プレッジ分の未執行額を含むからである。

147 なお、この表はアフガニスタン政府(財務省)内で管理している数字であり、ドナー側が発表している数字と

異なる場合がある。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

76

表 2-5 アフガニスタン支援国会合におけるプレッジ額、コミット(確定)額(百万米ドル)

会合 東京2002 ベルリン2004 ロンドン2006 ローマ2008 パリ2008 合計 プレッジ 4,500 8,200 10,500 360 20,840 44,400 コミット 5,133 5,565 8,726 43 14,268 33,735

出所:アフガニスタン財務省

他方、ANDSの実行に必要な資金は減っているわけではないので、未実行率の高さはそのまま資

金ギャップとなる。特に、インフラ・天然資源分野における、資金ギャップが大きい。次いで、

治安改革、教育、農業・農村開発などとなっている。資金ギャップが大きい(すなわち、復興開

発ニーズが特に大きい)分野は治安の情勢に直接影響を受けやすい分野となっている。

表 2-6 ANDS実施のための必要資金と資金ギャップ(百万米ドル)

ANDS必要額 ドナー支援額 国内収入 資金ギャップ 治安 14,179 5,800 2,785 -5,514 インフラ・天然資源 17,186 1,929 295 -14,962 農業・農村開発 4,487 2,985 115 -1,387 教育 4,873 1,048 1,349 -2,476 ガバナンス・統治 2,985 965 1,277 -743 保健・栄養 2,478 2,541 160 223 経済運営 1,186 866 101 -219 社会救済・人道支援 1,815 1,196 451 -168 その他 915 3,486 331 2,912 合計 50,104 20,895 6,865 -22,344

出所:アフガニスタン財務省

(2) 各国別内訳

日本のコミット額は全体で6位(ディスバース額は3位)、二国間ドナーでは米、英に次ぎ、3位で

ある(なお、日本のプレッジ表明額総額は20億米ドルではあるが、アフガニスタン財務省が集計

している下表においては2008年パリ会合の各ドナー別プレッジ額を含んでいないため、実際の数

字を下回っている148。表中の日本やイギリスのプレッジ額がコミット額を下回るのは、コミット

額においてはパリ会合プレッジ分を含め実態を反映しているからである)。

ドナーの中で、注目されるのはOECD/DAC加盟国以外の動向である。アフガニスタンの周辺国

では、インド(9位)、イラン(13位)は国連機関(UNDP等)を上回り、パキスタン(20位)、

サウジアラビア(21位)、中国(22位)はフランス(29位)、イスラム開銀(31位)を上回る。

148 パリ会合の各国別プレッジ額については入手中

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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表 2-7 対アフガニスタン ドナー別 コミット、プレッジ、ディスバース総額(百万米ドル)

ドナー プレッジ コミット Disb. ドナー プレッジ コミット Disb. 1 アメリカ 26,261 21,314 18,314 24 スイス 124 110 1002 イギリス 2,678 2,833 1,573 25 カーン財団 119 119 1193 WB 2,370 2,282 1,147 26 フィンランド 114 114 814 ADB 1,938 1,169 342 27 トルコ 90 198 765 EC 1,766 1,518 1,334 28 フランス 79 109 1246 日本 1,350 1,450 1,386 29 UAE 73 6 07 カナダ 1,079 861 861 30 IsDB 70 52 28 ドイツ 1,043 1,689 767 31 韓国 56 51 519 インド 750 955 390 32 クウェート 45 40 2710 ノルウェー 578 609 349 33 ベルギー 40 48 4811 オランダ 530 530 403 34 カタール 20 21 012 イタリア 403 373 424 35 アイルランド 18 9 813 イラン 360 310 302 36 NZ 15 1 114 デンマーク 333 253 214 37 IslmConf 15 0 015 スウエーデン 269 315 265 38 GlobFund 11 11 716 ECHO 268 209 207 39 ギリシア 9 0 017 オーストラリア 262 378 150 40 オーストリア 7 1 018 スペイン 253 62 25 41 ルクセンブルグ 7 2 119 国連系 252 210 178 42 オマーン 6 0 020 パキスタン 250 261 9 43 ポーランド 5 4 121 サウジ 220 106 76 44 ポルトガル 1 2 122 中国 160 102 62 45 その他 97 72 7123 ロシア 147 139 139 Total 44,554 38,914 29,655

注:上記数字は2008年パリ会合におけるプレッジ額を含まない

出所:アフガニスタン財務省

プレッジ、コミットの金額に対して、ディスバース率が低いドナーが目立つ中、比較的高いディ

スバース率を保っているドナーはEC、日本、イタリア、イラン等である。ドナーによってディス

バース率が異なるのは、援助形態(天候や治安に左右されやすいインフラ事業が多いか少ないか)

や実施地域の治安状況が異なるからだと考えられる。

(3) 2009年3月ハーグ会議

3月31日、オランダ・ハーグで開催された標記会議の 後に、共同議長(アフガニスタン及びオラ

ンダ外相ならびにカイ・アイダ国連事務総長特別代表)が発出した声明の要旨は下記のとおりで

ある。

I. 総論 (a) 参加者は、長期的・相互的パートナーシップへのコミットメントを確認し、民主的・平和的で反

映するアフガニスタン実現に向けた決意を確認。 (b) 支援の効率化と調整、アフガニスタン国民・政府の意思に基づく支援を重視。調整におけるUNAMA

の中心的な役割を強調。 (c) アフガニスタン国民が治安・経済発展を自ら担う基盤を作るため、4 つの優先分野(ガバナンス、

経済成長、治安及び地域協力)を追求する。 (d) 軍民双方の支援を重視し、民生部門の能力強化への支援を拡充。米国の新戦略を歓迎。テロとの

闘いに断固として取り組むことの重要性を強調。 (e) 国際テロから離れ、憲法を尊重し、武器を放棄するアフガニスタン戦闘員を市民生活に統合する

ためのアフガニスタン政府の努力を歓迎。 (f) アフガニスタン政府は、NATO/ISAF の貢献国に感謝し、ドナーの支援を賞賛。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

78

II. 各論 1. ガバナンス改善

(a) 安全・透明・公正かつ信頼できる選挙を支援。 (b) 国・県・地域の統治機構を強化。透明性向上、汚職との闘いを支援。司法と法の支配を強化。

2. 経済成長と発展の加速 (a) アフガニスタン国家開発戦略(ANDS)に沿って支援の優先順位を明確化。 (b) アフガニスタンの農業戦略を支援。潅漑、交通、エネルギー施設を改善。

3. 治安の強化(テロとの闘いを補完) (a) アフガニスタン治安部隊の規模と能力を早急に拡大。 (b) 麻薬対策をより広い支援戦略に統合。 (c) アフガニスタン治安部隊、ISAF、地域諸国間の協力を密にし、国境警備を強化。

4. 地域協力の拡大(下記の点につき重要性を確認) (a) アル・カーイダ等の聖域の排除、包括的な治安戦略策定、国境の治安改善、インフラ整備、貿易、

民生部門の能力強化に関し、地域協力を強化。 (b) 4 月 17 日に東京で開催されるパキスタン支援国会合/フレンズ会合を支持。各種会合にみられる。

アフガニスタン及び地域的文脈への関心の高まりを歓迎。

この議長声明が示すとおり、「ガバナンス」「経済成長」「治安」「地域協力」を柱とし、NATO・

ISAFと協調して協力を強化すべきとしている。特に、パキスタンや周辺国(インド、イラン、中

央アジア)を含めた広域的アプローチの重要性が確認されたことは注目に値する。今後、4月17

日に東京で開催されたパキスタン支援国会合では、約30の参加国・機関から今後2年にわたり、総

額50億米ドルのプレッジが表明された。内訳は日米が10億米ドル、EUが6億米ドル等となってい

る。

2.1.4 国家開発戦略(ANDS)の策定と実施にかかるモニタリング・フレームワーク

2.1.4.1 国家開発戦略の策定プロセス

2006年1月に開催されたアフガニスタンに関するロンドン国際会合にて、アフガニスタン・コンパ

クト(アフガニスタン国政府と国際社会との間で、5年間に達成すべき目標等を纏めた協約文書)

及び、これに基づいた、貧困削減戦略ペーパー(Poverty Reduction Strategy Paper:PRSP)に相当

するアフガニスタン国家開発戦略(ANDS)暫定版が発表された。ANDS 終版は、2008年6月に

パリにおいて開催された復興支援会合で発表され、これに対し、国際社会から総額約200 億米ド

ルの支援が表明された。

ANDSは、「安全保障」、「ガバナンス)、法治主義および人権尊重」及び「経済及び社会の発

展」の3つを到達目標として掲げている。「安全保障」では、アフガニスタン全土にわたる安定と

すべての国民の安全の確保、「ガバナンス、法治主義および人権尊重」では、民主主義の実践と

制度、人権、法秩序、公共サービスと政府機関のアカウンタビリティ(透明性)の強化を図ると

されている。「経済及び社会の発展」では、民間部門主導の市場主義経済によって貧困の削減と

持続的な発展を図ることとし、人間開発指標の改善とミレニアム開発目標(Millennium Development

Goals:MDGs)達成への前進をうたっている。「経済及び社会の発展」の下には、インフラ・天

然資源(エネルギー、運輸、水資源管理、情報・通信技術、都市開発、鉱業)、教育・文化・メ

ディア・若者、保健医療・栄養、農業・農村開発、社会保障・難民・IDP、経済ガバナンス・民間

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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セクター開発の小項目が設けられている。さらに、分野横断的課題として、麻薬対策、地域協力、

ジェンダー、汚職対策、環境及びキャパシティ・ビルディングの6項目が挙げられている。

ANDSの策定に際しては、国家レベルと地方レベルの協議プロセスを経ることが求められていた。

国家レベルでは、アフガニスタン政府及びドナーコミュニティの代表により、アフガニスタン・

コンパクトの達成およびANDSの実施に関するモニタリングを行う共同援助調整モニタリング・

ボード(Joint Coordination and MonitoringBoard :JCMB)が設立されており、そのうちアフガニス

タン政府側(大臣クラス)はANDS監理委員会(Oversight Committee)としてANDSの実施の責任

をもつこととなっていた。ANDS監理委員会の下に、実際のANDSのとりまとめ作業を行うための

ANDS事務局がおかれていた149。ANDSは、上述のように8つのセクター戦略と6つの分野横断的課

題から構成されており、それぞれが省庁横断的なイシューを抱えていることから、それぞれの調

整機能を果たすために、財務省及び各省の代表から構成される8つのConsultative Groups(CG)と、

6つの分野横断的課題グループ(Cross Cutting Consultative Groups)が構成され、JCMB及びANDS 監

理委員会に対して報告を行った。さらにCGの下には合計22の技術作業グループ(Technical Working

Groups)が構成され、各省の戦略とセクター戦略の調整などを行いつつ、データの収集・分析、

政策・戦略の立案、予算と整合したプログラムの作成を含むANDSの執筆作業を行い、CGに対し

て成果を提出した。これらの諸委員会にはそれぞれ、各省、市民社会、国連機関、ドナーなどか

らの代表が参加していた。

一方の地方レベルでは、農村復興開発省(Ministry of Rural Rehabilitation and Development:MRRD)

の国家プログラムのひとつである「国家地域ベース開発プログラム」(National Area-Based

Development Program:NABDP)の支援のもと、2007年の6月から9月にかけて、ANDSの策定プロ

セスに従って、全34州において州開発計画(Provincial Development Plan:PDP)が作られており、

その内容をANDSにフィードバックさせる仕組みが作られた。さらに、「2.3.2 コミュニティ開発」

に示すように、ANDSの協議以前に、NABDPにより250の郡開発計画(District Development Plan:

DDP)、「国家連帯プログラム」(National Solidarity Program:NSP)により17,500のコミュニテ

ィ開発計画(Community Development Plan:CDP)が作成されており、ボトムアップ型の計画策定

手法がある程度確立されていた。これらの地方レベルの計画は、以下のプロセスを経て、ANDS

に反映されることとなった。

(1) 各省がそれぞれの戦略案を全34州の州開発委員会(Provincial Devleopment Council:PDC)

事務局に提出する。

(2) PDCは、ステークホルダー150を召集して、各省の戦略案について議論する。

(3) PDCは、財務省から提示された予算枠を参照して、PDPを精緻化し、各省にフィードバック

する。

(4) 各省は州によって優先順位のつけられたプロジェクト(PDP)をセクター戦略に反映させ

る。

149 ANDS事務局は、ANDS作成修了後に解散された。 150 市民社会、NGO、青年組合、民間セクター代表、州行政、シュラや長老といった伝統的社会のリーダー、国会

議員、ドナー、PRT、出稼ぎ労働者等(ANDS進捗報告書2006/2007による)。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

80

ANDSの策定プロセスを以下に示す。

図 2-9 ANDS策定プロセス

出所: ANDS進捗報告書2006/2007, 2007年12月

2.1.4.2 国家開発戦略の策定における問題

上記のANDSの策定プロセスは必ずしもスムーズに進んだわけではなく、様々な制約要因の存在

により、当初想定された姿と実際の姿には、少なからずの乖離がみられることとなった。

(1) ANDSの短い策定スケジュール

ANDS策定のための作業が開始したのは2007年3月であり、当初は完成の目標を2008年10月と、1

年半の作成期間が想定されていた。しかしながら、2009年3月段階でPRSP採択から1年間経過して

いることによってHIPC(重債務国)のCompletion Pointに達して債務帳消しとなることを目標に、

世界銀行及びIMFの提案に従って、アフガニスタン財務省は2008年3月にANDSが完成するように、

スケジュールを半年以上前倒しにしてしまった。これにより、十分な時間をかけてANDSを協議

することが困難になり、特に地方レベルにおいて、PDPからANDSへの橋渡しにかけられた期間は

4ヶ月に過ぎなかった。従って、PDPの策定をANDS策定プロセスに統合させる、という当初の目

的を果たすためのメカニズムが適切に作られずに、ANDS事務局によれば、多くのPDPは予算の裏

づけのない「ウィッシュリスト」にすぎず、ANDS事務局が適切と感じられたプロジェクトのみ

がセクター戦略に反映された、とのことである151。これにより、各州においては、自分たちが議

151 Sayed Mohammed Shah (2009) ANDS Formulation Process: Influencing Factors and Challenges, AREU

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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論して積み上げたプロジェクト・リストが、ANDSやセクター戦略に反映されていないことから、

今後、ANDSの実施の段階において様々な混乱や軋轢が生じてくる可能性がある。

(2) アフガニスタン・コンパクトの指標とANDS

アフガニスタン・コンパクト(AC)には、72の開発目標値(ベンチマーク)が記されているが、

ACは復興支援国との合意事項という位置づけから、ANDSのセクター戦略にこれらの目標値が反

映されることが求められていた。しかしながら、これらのベンチマークの中には、非現実的な数

値目標が含まれている。例えば、職業訓練の目標値として、「2010年までに15万人の男女が、ト

レーニングを受けて市場価値のある技術を身につける」とあるが、「2.3.4 職業・技術教育」に記

載しているように、国家技能開発プログラム(National Skill Development Program:NSDP)では、

それを達成するために必要なリソースや能力が不足しており、2010年までに多くて65,000人のト

レーニングしかできず、目標年次を後ろ倒しにせざるを得なかった。また、給水分野においても、

MDGsに沿った形で、「2010年までにカブールの全世帯の50%、その他の地方都市の全世帯の30%

が管網による給水システムにアクセスできる」という、非現実的な目標が設定されていたことか

ら、ANDSも同様に非現実的な目標を設定せざるを得なかった。さらに、ACの指標自体が、情報

不足によりベースラインデータに基づいたものとなっておらず、今後ANDSの実施による貧困削

減のインパクトを計測することが極めて困難な状況にある。なお、ANDSの実施・モニタリング

のとりまとめを行う財務省、経済省の合同事務局(後述)によれば、2008年6月のパリにおける復

興支援会合においてANDSが支援国に受け入れられたことをもって、アフガニスタン・コンパク

トの合意内容、ベンチマークはANDSに統合されたとみなされ、今後はANDSのモニタリングを適

正に行ってJCMBに報告していけばよいと理解されているとのことである。

(3) オーナーシップとドナーの存在

ANDSは、アフガニスタンにおいて(十分とは言えないものの)国民を広く巻き込んで策定され

た初めての国家開発戦略であるものの、アフガニスタン政府には十分な能力のある職員の数が限

られており、従ってANDSの執筆にあたっては、ドナーの技術支援によって派遣されている外国

人コンサルタントに大きく依存せざるをえない、という現状があった。さらに、人材のみならず

開発予算の大部分をドナーに依存している現実においては、ドナーが重要視している案件を、

ANDSにおいても優先順位を高くせざるを得ない、ということは避けられない。また、アフガニ

スタン政府職員の中で英語ができるものが限られていることも、アフガニスタン人主導でANDS

が作れない大きな原因の一つでもあった。こうしたことから、ドナーから派遣されている外国人

コンサルタントが、セクター戦略の執筆グループのメンバーとして当該ドナーの意向・目的意識

をANDSの内容に反映させる、ということが日常的に行われており、アフガニスタン側のオーナ

ーシップは本来の意味では限られていたと言えよう。

2.1.4.3 国家開発戦略のモニタリング・フレームワーク

ANDSには、JCMBがANDSのモニタリングの責任を負い、そのためにJCMBの事務局の能力強化が

行われるべき、と記載されている。これに対し、JCMBへのANDSの進捗状況の報告義務は継続す

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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るものの、アフガニスタン政府は新しいモニタリング・フレームワークの導入を検討している。

その概要は以下のとおりである。

図 2-10 ANDSのモニタリング構造

(1) モニタリングに欠かせない指標・データは、各プロジェクト・プログラムに設置されるモ

ニタリング・セルが責任をもって収集する。

(2) 当該プロジェクト・プログラムを実施している省の政策・計画局がモニタリング・セルよ

り提出された指標をとりまとめる。

(3) ANDSの内容に沿って17のInter-Ministerial Committeeが構成されるが、各省の副大臣や局長

クラス、また技術スタッフで構成されるTechnical Committeeにおいて、セクターレベルに

おけるANDSの実施状況の確認やモニタリング指標を含めた進捗状況報告書を半年に1回

作成し、大臣クラスのHigh-level Committeeに提出される。なお、このInter-Ministerial

Committeeについては、新たに組織される場合もあるが、ANDS作成時に作られていたセク

ター戦略を議論する場であったStanding Committeeがそのまま当該業務を引き継いでいる

場合もある。

(4) 財務省・経済省共同事務局(MoF MoEC Joint Secretariat)が、財務省のセクター・コーディ

ネータ7名と、経済省のモニタリング・オフィサー6名により構成され、各Inter-Ministerial

Committeeより6ヶ月ごとに、モニタリング指標を含むANDSの進捗状況報告書を受け取っ

て進捗を管理するとともに、年に一度、総合的な進捗状況報告書を作成する。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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(5) 12の大臣から構成される政府調整委員会152(Government Coordination Committee:GCC)は、

財務省・経済省共同事務局から進捗状況報告書を受け取り、大統領・内閣に対して報告を

行うとともに、JCMBに対しても報告を行う。

上記案の実現に向けて、2009年3月現在では、Inter-Ministerial CommitteeのTORを作りつつ、15の

Inter-Ministerial Committeeが構成されたところである。ANDSのモニタリングは、上記に示したよ

うにプロジェクト/プログラムがベースとなって行われることから、今後、それぞれのプロジェク

トやプログラムにおいてログ・フレームが準備されなければならず、さらに、各省で導入の準備

が進みつつある「プログラム予算」とも連携していかなければならない。また、ベースライン調

査も行われていないことから、アフガニスタン政府は現在、世銀に対して、Management Information

System(MIS)の導入について協力を依頼しているところである。

囲み記事 2-2 プログラム予算とは153

それぞれの省の開発戦略には基本的に、省の所掌業務の大きな柱としての「プログラム(program)」

及びそれを叙述的に説明する「目標(objective)」が掲げられている。例えば、「畜産(プログラム):

家畜の生産高と生産性の向上を支援する(目標)」、「伝染病(プログラム):伝染病を抑制するシ

ステムを構築する(目標)」、「電力供給(プログラム):国内の電力供給を向上させる(目標)」

「水道と衛生(プログラム):水道を普及し衛生条件を改善する(目標)」が、それぞれMAIL、公衆

衛生省、エネルギー・水省、MRRDの戦略として掲げられているプログラムのうちの一つ、およびそ

の目標である。これらの目標には達成すべき成果(Outcome)、例えば、畜産物生産量の増加率、伝染

病の罹患率、電気普及率、水道普及率が設定される。

各プログラムをいくつかの同質の構成要素に分割したものが、「サブ・プログラム(sub-program)」

である。例えば、「畜産」プログラムは、「牛乳生産向上」「品種向上」「マーケティング」等々の

サブ・プログラムによって構成される。これらのサブ・プログラムのそれぞれに、達成すべきアウト

プット(Output)が示されることとなる。

各サブ・プログラムは、さらに具体的な「活動(Activity)」によって細分化される。例えば、「牛乳

生産向上」サブ・プログラムは、「酪農場へのマイクロ・クレジットの実施」「牛乳の衛生管理向上」

「餌の選定・調達の支援」といった具体的な活動によって構成される。

各活動について、投資額や維持・管理費が計算されることとなる。活動予算を総合してサブ・プログ

ラムの予算、サブ・プログラムの予算を総合してプログラムの予算を得ることができ、省の開発戦略

全体の実施に必要とされる予算が計算される。これらのプログラム、サブ・プログラム、活動の間で、

プライオリティをつけてスケジュールを決定し、年次に配分したものが各年次の予算となるのである。

このように、ANDSのモニタリングを行うための課題は山積しており、体制が整うまでには長い

年月がかかることが予想されている154。

また、ANDSでは援助の効率性と援助協調を向上させることの重要性を謳っており、上記モニタ

リング・フレームワークにおいても、援助の効率性と援助協調を継続的にモニタリングしていく

こととなっている。

152 ANDS策定時のOversight Committeeと同じ。 153 USAIDのCapacity Development Programによるワークショップ資料”Program Budgeting Workshop, The Year 2007”を参考。 154 2009年3月に、財務省・経済省共同事務局に対してANDSの進捗状況に関する 初の報告書が各省から提出され

たが、当然ながら、開発指標をモニターした内容となっていることは期待されておらず、単に、各省に対してこ

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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囲み記事 2-3 「援助効果のためのパリ宣言」モニタリング結果

2005年2/28~3/2において採択された「援助効果のためのパリ宣言」(Paris Declaration on Aid Effectiveness)のモニタリング結果(2008年)155によれば、アフガニスタンの援助効果については、ド

ナー全体として、説明責任については高い評価、アフガン政府の政策との整合性やドナー間協調につ

いては中庸との評価が出ている一方で、多くの支援がアフガン政府のコア予算に組み込まれずに実施

されているという理由で、アフガン政府のオーナーシップの確保、実施・モニタリング能力の強化の

側面では低い評価が出ている。日本に対する評価としては、アフガン政府主導の技術支援、アフガン

政府予算を通じた支援、アフガン政府との合同ミッションの実施等について、EUや欧州諸国などと比

較して低い評価となっている。今後、アフガン政府が主導権を発揮できるように、政府予算や政府に

よる手続きを通じた事業のさらなる実施が求められてくることが予想される。

2.1.5 国内避難民(IDP)

2.1.5.1 IDPの現状

UNHCRと難民帰還省が共同で議長を務めるアフガニスタンIDPタスクフォースの報告書による

と、2009年2月末時点で、アフガニスタンには、27万人のIDPが存在する156。IDPの大半は、アフ

ガニスタン各地に点在する避難民キャンプで生活している。これらのIDPを以下の5つのケースに

分類することができる。(i)もとの地域に戻れずに長期化したケース、(ii) 近の紛争や小規模の民

族間対立によるケース、(iii)隣国からの帰還民や強制送還者がセカンダリー・ディスプレースメン

トとなるケース、(iv)自然災害・食糧危機によるケース、(v)都市部でIDPとなるケースである157。

現在アフガニスタンにおいて、これらのケースが様々な地域で、様々なサイクルにより起きてい

ることから、IDP問題は非常に複雑化しており、早期に解決することが困難な状況にある。特に2008

年、アフガニスタン各地の治安が著しく悪化した上、上述したケースが重なり、もとの地域へ帰

還する避難民の数が大幅に減少した158。今後、IDPに対して人道的支援を続けていく一方で、中長

期的な視点からの支援策を探ることが鍵となるといえる。

(1) もとの地域に戻れずに長期化したケース

タリバーン政権が崩壊した 2001 年前後からIDPとなった人々で、現在、約 16.6 万人がこのケ

ースに当てはまる。例えば、タリバーン期、政策的にパシュトゥン人の北部への移住が進め

られたが、タリバーン政権後、それらの人々が北部で軍閥や地域の有力者から被害を受け南

部に戻りIDP化したケースである。また北部、西部、南部における干ばつの被害を受けた遊牧

民(クチ)が遊牧民としての生活を維持できずにIDPとなったケースである。特に南部カンダ

ハル州のIDPの 60%は、クチから成る。これら長期化したケースに共通するのは、政府や難民

帰還省に帰還を促すイニシアティブがあっても、避難民自身が帰還に消極的なため、帰還の

実現が困難である点である 159。特に家畜を失ったクチが再び遊牧生活に戻ることは、中長期

うした業務が今後必要となることについてプレッシャーを与えるため提出を求めた、と財務省・経済省共同事務

局は説明している。 155 2008 Survey on Monitoring the Paris Declaration - Country Chapters 156 Afghanistan IDP Task Force, Situation Update as of End of February 2009. 157 UNHCR (2008), National Profile of Internal Displaced Persons (IDPs) in Afghanistan. 158 IDMC (2008), Afghanistan: Increasing hardship and limited support for growing displaced population, pp.10. 159 UNHCR Kabul Branch Office, 聞き取り調査、2009年3月30日。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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的な支援なくしては難しい(以下の囲み記事を参照)。

囲み記事 2-4 クチ支援プロジェクトの可能性

Asia International Consultants(2006)は、IDPとなったクチに対する支援プロジェクトの可能性に

ついて報告書をまとめている。長期にわたりIDPとなっているクチが、かつての遊牧生活に完全に

戻ることは難しい。家畜を提供し、遊牧生活へ戻ることを支援すると同時に、職業訓練を実施す

るなど、クチの生計手段のオプションを増やしていくことも重要である。またプロジェクト形成

の際に、他民族・部族との対立を避けるために、コミュニティ全体をターゲットとしたプロジェ

クトを行い、その中にクチの生活向上に関するコンポーネントを組み込むような案が妥当である。

出所: Asia Internatinal Consultants160

(2) 紛争や小規模の民族間対立によるケース

主に、2007 年以降、南部カンダハル州、ヘルマンド州、ウルズガン州において、ISAFやアフ

ガニスタン国軍(Afghanistan National Army:ANA)と反政府分子との戦闘から逃れるために、

IDPとなったケースである。2009 年 2 月末時点のUNHCRの情報によると、南部には 11.6 万人

のIDPがいると推計されている 161。しかし、治安が悪化する地域でのIDPに関する情報収集は

困難で、正確な数字は把握できていない。UNHCRは、南部における情報収集の手段として、

今後、MACCA(Mine Action Coordination Center of Afghanistan)や現地NGOとのネットワーク

強化を行うとしている 162。

また、小規模の民族間対立によりIDPとなるケースもある。クチ(大半がパシュトゥン人)と

ハザラによる中央高地における対立がこのケースである。2008 年 6 月の対立時に 7,000 家族

がIDPとなったが、現在はすでに帰還したと報告されている 163。

(3) 隣国からの帰還民や強制送還者がセカンダリー・ディスプレースメントとなるケース

パキスタンからの帰還民やイランからの強制送還者が地方に戻れぬままIDPとなるケースで

ある。アフガニスタン東部にいる 1.3 万世帯のIDPのうち、5,200 世帯がこのケースに含まれ

る。これらの世帯は、経済的機会の欠如、コミュニティ内の対立、治安悪化などの理由によ

り故郷に戻ることができず、現在ナンガハル州、ラグマン州、クナール州で事実上IDPとして

の生活を送っている 164。このような問題に対処するため、大統領は、2005 年 12 月に、アフ

ガニスタンの未墾の土地を、土地なし帰還民に供与する法令 104 を発動した 165。これにより、

帰還民が土地所有を申請することができるようになり、2006 年には、ナンガハル州、バグラ

ン州、ガズニ州、ロガール州、ヘラート州の 5 つのプロジェクトサイトにて 5,000 世帯の土

地が確保される運びとなった。さらに 2007 年には、8 つの新しいサイトがカブール州、パル

ワン州、カピサ州、パクティア州、ファラー州、タハール州、バルフ州で確保された。2008

年 6 月時点において、これらのサイトで、一時的な土地所有権を得た 32,586 世帯のうち、4,018

世帯が既に入居している。しかし大半のケースにおいては、まだ土地配分のための画定作業

160 Asia International Consultants (2006), Durable Solution for Kuchi IDP’s in the South of Afghanistan 161 UNHCR Kabul Branch Office, 聞き取り調査、2009年3月30日。 162 同上. 163 UNHCR (2008), National Profile of Internal Displaced Persons (IDPs) in Afghanistan, pp.9. 164 同上. 165 IOM Afghanistan,メールによる情報収集、2009年3月15日。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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が行われている段階である。

(4) 自然災害・食糧危機によるケース

2007 年から 2008 年にかけて厳しい冬が続いた後、干ばつに見舞われたことにより、北部や

西部において食糧危機が起こり、多くの IDP ケースが報告された。2008 年 12 月時点でも西

部において干ばつが続いているうえ、 近の治安悪化を受けて、IDP がさらに増加する可能

性がある。

(5) 都市部で IDP となるケース

都市部には多くのIDPが生活していると考えられるが、その大半は都市部の生活に混ざってい

るため、彼らを特定することは非常に難しい。今までに、避難を余議なくされた人々や、様々

な理由から地方に戻ることができない帰還民が、都市部の不法居住区に住みつくケースが報

告されている。特に、カブール、カンダハル、ヘラート、ホーストなどの都市部にIDPが流入

している。

2.1.5.2 政府の方針

アフガニスタン政府は、ANDSの7つ目の重要課題項目である「社会的保護」枠内で、難民及びIDP

の自発的帰還支援を掲げている166。2006年1月のロンドン会合にて締結された「アフガニスタン・

コンパクト」では、難民、帰還民、IDPに関するベンチマークとして、(i)帰還民の再統合支援、(ii)

パキスタン、イランとの地域間協力の枠組み合意、(iii)政府とアフガニスタン独立人権委員会

(AIHRC)による人権侵害モニタリングと人権保護促進、が掲げられた。また2013年を目標年と

するANDSの難民・帰還民・IDPセクター戦略においては、これらのベンチマークに加え、帰還・

再統合の支援・管理に関する政府の能力強化といった目標が明確化された。特に、難民帰還省が

人口移動に関する政策立案を行い、他関係省(MRRD、教育省、公衆衛生省、都市開発省)並び

にドナーとの調整強化を行うことが謳われている。しかし、ANDSにおいて、目標年2013年まで

に追加で250万人のアフガン難民を帰還させると明記される一方、現時点でアフガニスタンのイン

フラ・社会サービスは明らかに不十分であり、国としてこれだけの難民を吸収できるキャパシテ

ィがあるとはとても言えない状況である。また国のインフラ・社会サービスも十分ではない。

2.1.5.3 今後の課題

上記のとおり、パキスタン、イラン、アフガニスタンにおける人口移動の問題は非常に複雑であ

るため、短期間で解決することは難しい。危機的な状況にあるIDPやEVPへの人道的支援と人権保

護に関する支援を引き続き進める一方で、同時に、中長期的、広域的な視点を持って、これらの

問題に取り組んでいく必要がある。特に、今後、複雑化する人口移動問題解決への糸口として、

国境を越えた「人間の安全保障」を視野に入れた地域間協力の枠組みが、パキスタン、イラン、

アフガニスタンの間で理解・合意され、実施に移されることが重要である。具体的には、以下の

ような支援の可能性があると考えられる。

166 ANDS Executive Summary (2008), pp.15.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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(1) 長期的かつ現実的な、難民・IDP の再統合・定住への支援

難民、IDPの緩やかな帰還を促す支援、及び、帰還が困難な場合には、受け入れ国、受け入れ

コミュニティにおいて、難民の定住が可能となるような間接的かつ長期的支援を行うことが

重要である。例えば、囲み記事1-6にあるように、難民を受け入れているコミュニティが受益

者となるような開発プログラムが考えられる。これに加えて、難民の若年化が進む中で、囲

み記事1-5にあるように、学校教育の認可制度を促進、発展させ、教育の観点からスムーズに

帰還を促進できるような仕組みを構築する支援も重要といえる。同時に、アフガニスタンに

おいても、若年化した帰還民を受け入れる体制を整えるべく、職業訓練施設を含む教育分野

での投資が引き続き重要となる。

(2) 帰還民のスムーズな受け入れに焦点をあてたコミュニティ開発プロジェクトの実施

IDP が帰還に消極的なのは、治安、経済的機会の欠如、コミュニティへの不信感によるもの

が大きい。これらの不安を払拭し、帰還民がスムーズにコミュニティに受けいられるような、

帰還民側と受け入れ側の両者の融合に焦点をあてた中長期的なコミュニティ開発プロジェク

トを行うことも必要となる。また長期にわたり IDP となっているクチの支援プロジェクトな

どもあわせて考える必要がある。

(3) 難民受入国への働きかけと支援

多くのアフガン人がパキスタンやイランのインフォーマル・セクターで働いている現状や、

在外アフガン人の海外送金がアフガニスタンの人々の暮らしにおいて重要な役割を果たして

いる点を認識した支援が望ましい。あくまでも一時的な措置となるが、パキスタンやイラン

から強制的に帰還させられることによって難民がアフガニスタン国内の不安定要素とならな

いように、これらの周辺国の難民対策の負担を軽減するような支援や、二国間・地域間合意

への働きかけが必要と考えられる。

2.1.6 ジェンダー

2.1.6.1 アフガニスタンの女性をとりまく現状

アフガニスタンでは23年間に及ぶ内戦と、その後一連の「ジェンダー・アパルトヘイト」と国際

社会から非難される政策を推し進めたタリバーン政権下において、女性は政治的、社会的、経済

的に極めて困窮した状況に置かれてきた。2001年12月のボン合意以降、女性の健康や教育、生活

改善に関するさまざまな支援や取り組みが図られてきた。しかし、アフガニスタン女性を取り巻

く現状は依然として厳しい。平均寿命、教育・生活水準などを組み合わせたアフガニスタンのジ

ェンダー開発指数167は、世界でも 低ランクに位置づけられている。

167 人間開発と同じく基本的能力の達成度を測定するものだが、その際女性と男性の間で見られる達成度の不平等

に注目したもの。平均余命、初等・中等・高等教育の総就学率、勤労所得等の格差等から男女格差を算出してい

る。

Page 26: 第2章 アフガニスタンの社会・経済と開発の状況 - JICAアフガニスタンを中心とする地域協力概況調査 63 第2章 アフガニスタンの社会・経済と開発の状況

アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

88

(1) 女性と教育

2005年のUNICEFの報告 によると、アフガニスタンの15歳以上の成人男性の識字率は32%、成人

女性の識字率は18%となっている168。さらに農村部での女性の識字率は8%にとどまっている。援

助機関やNGOにより識字教育はさかんに行われているが、特に地方に行けばいくほど、女性識字

教員の数や質の確保は困難となっている。復興支援直後から開始された、教育省やUNICEFのBack

to School Campaignをはじめとする各支援国の取り組みにより、2003年の7歳から12歳の男児の初等

教育就学率は1990年時の35%から67%に増加したとされ、女児についても1990年時の19%から

2003年には41%の就学率が達成されている169。ただし、これらの統計は、一旦就学したものの、

途中退学までは考慮されていないため、就学の継続性を示すものではない。また、地方部と都市

部の格差は大きく、教育省は2007年、小学一年生(グレード1)から6年生(グレード6)までの女

子児童の初等教育就学率を36%と発表したものの、これはカブール市での女子児童比率が45%と

高いためであり、バダフシャン州、ヘルマンド州、ウルズガン州では女子児童の就学率はそれぞ

れ20%以下、バドギス州やザブール州では1%に満たない数字が示されている170。

アフガニスタンにおける男性と女性の社会的な関係は「パルダ」(Purdah)と呼ばれる男女隔離

の考え方に大きく影響を受けている。「パルダ」とはもともとは「カーテン」、または転じて現

地では「礼節」とも解釈される言葉である。これは、女性と男性は家族関係にある以外は目を合

わせることも避けなくてはならず、女性は原則として父親や夫、兄弟以外の男性とのいかなる接

触も禁じられる。この国では女児は10歳を過ぎると社会でも年頃の女性とみなされるようになり、

外に出て男性の目に触れることを避けるために、家族により外出を制限させられることも多い。

このため、特に地方部においては小学3年生(グレード3)を過ぎて実際に就学が継続している率

は、就学率が示す数値よりも低くなることが推測されている171。

女性が教育の機会に十分アクセスできない要因として、貧困、文化伝統、女児のニーズを満たす

学校施設(男女別の教育施設を含む)が十分に整備されていないこと、学校までの距離が家から

遠く交通手段もない中、女児を家から出したがらない親が多いこと等が理由として挙げられる。

特に地方部においては、家庭内の男児に教育を受けさせることを優先することに加え、学校とい

う場、また学校までの通学が女児にとって「安全」であるかどうかに対する疑念の声はまだ非常

に高い。2002年以降、タリバーンや原理主義グループ、その他現政府への反対勢力により、地方

部の女子校が焼き討ちにあっているケースも多く報告され、その数は2005年の7月から2007年の2

月までに192校にも上っており、女子高の数は減少傾向にあるとの分析も一部出されている172。特

に男女隔離が社会規範のひとつとなっているアフガニスタンでは、女性には女性の教師が必要で

168 UNICEF (2005), Best estimate of social Indicators for children in Afghanistan 1990-2005 169 World Bank (2005), “Afghanistan National Reconstruction and Poverty Reduction: The role of Women in Afghanistan’s Future” 170 Ministry of Education (2007), Report of Planning Department 171 2007年の教育省の発表によれば、グレード6以上の学年(中学・高校レベル)における女子児童の就学率は24.1%に留まっている。Ministry of Women’s Affairs (2007) “Gender Equity Cross Cutting Strategy 2008-2013” 172 Ministry of Women’s Affairs (2007), Ministry Strategy Paper

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

89

あることから、女性教員が絶対的に不足していることも女児の教育を阻む大きな阻害要因の一つ

となっている173。

アフガニスタン中央統計局の発表によると、国内における大学レベルの高等教育への就学人数、

及び教育機関の数は確実に増えてはいるものの、2006年時点において大学における女子学生の割

合は全体の22%を占める程度であり、地方部においてはまだ4%以下となっている。職業訓練学校

における女性の生徒の割合は16%である。高等教育における女性教員の数も全体の15%を占める

にすぎず、パクティア州、タハール州、ホースト州では女性教員は一人も存在していない174。

(2) 女性と健康

UNDPの人間開発報告書(2004)によると、アフガニスタン人の平均余命は男性が45歳、女性44

歳であり、女性の方が男性より短命である数少ない国のひとつである。近隣国の女性の平均寿命

(バングラデシュ64歳、パキスタン66歳、スリランカ77歳)などと比較しても著しく低い。一人

の女性が一生の間に産む子どもの数の推計をあらわす合計特殊出生率は6.6人となっているが、こ

れは、他の低開発諸国の平均5.2人と比べても3割増しの数値である175。2005年のUNFPAの報告書

によると毎年1万6千人、約30分に一人の女性が妊娠・出産にかかる原因から死亡しており、妊産

婦死亡率は10万出生対1,600176となっている。これは先進国の60倍、日本の妊産婦死亡率(10万人

に対して10人)と比較すると約390倍であり、世界で2番目に高い数値となっている(詳細は、「2.2.3

母子保健」を参照)。

結核にかかる割合も女性の方が高く、特に25歳から34歳の年齢の女性は男性の3倍の罹患率が報告

されている177。慢性的な栄養不良、また行動範囲の限定により女性たちは土壁の塀に囲まれた家

の中ですごすことが多く、感染する可能性が高いこと、ブルカの使いまわしにより、口元の部分

から唾液感染の可能性があること、などがその理由として考えられている。また、アフガニスタ

ン女性の89%が貧血症であるという数値も出されている178。また、強制結婚や幼児婚(早婚)、

家庭内暴力、レイプなどジェンダーに基づく「暴力」(violence)も多く報告されているが、こう

した暴力も女性の健康と社会参画に大きな影響を及ぼしている。

(3) 女性の労働・経済活動への参加

アフガニスタンでは人口の80%近くが農村部に居住しており、農村部の女性は、種まき、小麦の

貯蔵から粉挽き、果樹栽培、食品加工(ドライフードやジャムづくり)、乳製品製造、家畜の世

話といった多岐にわたる煩雑な農業活動に従事している179。UNIFEM(2005)の調査は、女性が

173 女性教員が占める割合は全体の28%。カブールの初等教育においては64%を女性教員が占めるものの、クナー

ル、パクティカ、ホースト、ウルズガン州では5%以下. UNICEF (2005) Best Estimate of Social Indicators for children in Afghanistan 1999-2005 174 CSO (2006) Statistical year book 175 UN (2005) World Population Prospects: Department of Economic and social Affairs of UN secretariat 176 UNICEFの報告によれば、2007年で1,800/10万出生となっている。 177 Afhmadzai, H (2006) TB Controlin the Face of Conflict (Afhmadzai, H) 178 UNICEF (2003) Annual Report 179 南部の保守的なパシュトン地域では、女性が「外」で、種まきや、雑草とり、収穫などの農作業をしている姿

をみかけることはほとんどないが、「内」、つまり、家庭内(親族と一緒に住む壁に囲まれたコンパウンド内)

で、種の管理や収穫後の作物の手入れ、食品加工といった作業には従事している。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

90

農業労働人口に占める割合が少なくとも30%を超えると予測している180。また、アフガニスタン

は世界でも有数の織物産地であるが、農村女性はその労働の重要な担い手であり、事実上アフガ

ニスタン経済に多大な貢献を行っている。しかしながら、こうした女性たちの労働の多くは、安

く買い叩かれその労働に見合う対価を女性たちが手にすることができないでいる。全国リスク・

脆弱性アセスメント(National Risk and Vulnerability Assessment:NRVA)2003の分析によると、農

業分野における同一労働において、女性が手にするのは男性の賃金の50%程度であり、さらに、

手工芸品製作の代価も男性が受け取る賃金の41%程度しか支払われていない181、とのことである。

さらに、カーペットづくりの女性の間ではその過酷な労働負荷による身体的な痛みを軽減するた

め、また長時間労働を可能にさせるためにアヘンを吸飲する女性が多く存在することも、人権委

員会は警告している。

一般に、都市部、農村部とも貧困家庭は、日雇い、季節労働に頼った生活を行っている。男性は

日雇い労働で一日に2~3米ドルの報酬を得て生計を立てているが、毎日仕事があるというケース

はほとんどなく、平均して週に2日程度の労働がほとんどであり、多数が夏の間だけの季節労働者

である。家庭内に稼ぎ手の男性がいない場合、女性が何かしらの経済活動を行って家計を維持し

ていくことなる。しかし、パルダ規範や教育や訓練の欠如から女性たちの家計維持の手段は限ら

れており、さらに女性たちの経済活動への参加の機会の有無は、土地や家畜、なんらかの財産・

技術、社会的なネットワークなど、生産手段へのアクセスの有無と大きくかかわってくる。運よ

くなんらかの技術や資源を持ちあわせ、絨毯おりや裁縫などの家庭内での生産労働に従事するこ

とができたとしても、彼女たちの労働は非常に低い賃金で買い叩かれる。土地も資源ももたない

女性たち182は、掃除婦や料理人、あるいは工場での日雇い労働者として、外に雇用を求めること

となるが、彼女たちは常として低賃金で搾取されるのみならず、女性のこうした労働は社会にお

いて賎職であり、非常に不名誉な労働とみなされる場合が多いことから、女性たちは常に肩身せ

まく、周囲の言動におびえる生活を送ることになる。特に地方部においては移動や教育の制限等、

社会的な制約を受ける女性が男性と同様に社会に出て就業することは難しく、戦争で配偶者を失

った女性や男性からの支援を受けられない貧困女性の窮状は著しい。また、幼い子どもを抱えた

若い女性が家庭の外に働きに行くための時間を捻出することは難しく、家庭内に男性の稼ぎ手の

いないこうした女性の貧困は重度である場合が多い。一方で、ある程度年齢を経た女性は自由も

きき、社会的に外出も一定程度許容されていることから、年配の女性は若い女性に比べて圧倒的

に経済機会を得やすく、家庭の外で働く機会を得やすい。そのため、年配女性の貧困は若年の女

性の貧困に比べるとまだましな場合が多いとされている183。

アフガニスタン政府は2008年に国内の人口の約42%の人口(約1,200万人)が一日一米ドルの半分

以下の消費購買量で生活をしていると発表したが、女性課題省は女性と子どもがその多数を占め

180 UNIFEM (2005) Report on Gender Themes 181 アフガニスタン政府 (2003) National Risk and Vulnerability Assessment Policy Brief 182 イスラム法は、父親の土地は息子がその三分の二を、娘が三分の一を引き継ぐ権利があるしているが、社会的

には男性が正当な土地の所有者とみなされ、女性が実質的に土地を所有するケースは非常に少ない。夫と死別し

た女性は、その土地はすべてが子どもたちに相続されることとなり、妻にはその権利は残らない。夫が小さい子

どもたちを残して死亡した場合は、土地は夫の両親やその家族に土地を奪われるケースも多いと報告されている。

(Chronically Poor Women in Afghanistan 2008 JICA GTZ Groupe URD) 183 JICA, GTZ, Groupe URD (2008) Chronically Poor Women in Afghanistan

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

91

ると推測している。多くのNGOや援助団体が女性に対する職業訓練や収入向上支援活動を実施し

ているものの、そのほとんどが、単一的かつ短期ベースの事業であること、さらに事前に十分な

ジェンダー分析を含めた社会・経済調査を踏まえてデザインされたものが非常に少ないことなど

から、女性の持続的な生計向上にはつながっていない。

(4) 女性を取り巻く法整備

2004年に制定されたアフガニスタンの新憲法では、「男女は法の下で平等の権利、義務を有する」

と明文化され、新憲法下の22条では男女平等の表現が盛り込まれると同時に、国会における女性

議員の席を一定の数確保することとなった。さらに、43条、44条では、女性に対しても男性と同

等に大学教育レベルまでの教育に参加する権利が保障された。さらに、54条では、政府はイスラ

ムの教えに合致しない悪しき慣習や伝統を廃絶すべきであるというように、政府の責任を明確に

している。

また、本憲法に「新憲法では、国家は国連憲章や、その他アフガニスタンが署名した条約及び世

界人権宣言を遵守しなくてはならない」という一文が盛り込まれたことはアフガン女性にとって

重要な意味をもつ。アフガニスタンは女性に対する差別撤廃条約に2003年3月に批准しているが、

これは、今後、本条約に基づいて、男女平等と女性の権利の擁護が行われるよう、国内法の整備

をしていかなくてはならないことを意味している。しかし、法制度上の差別は是正されても、慣

習法上の差別が継続する場合が多いのも事実であり、イスラム慣習に基づくとされる慣習法や法

文化されていない社会規範の支配が強い地方部において、新憲法や法律がどのくらい機能してい

けるのかが危ぶまれている。アフガニスタンの憲法では女性の結婚年齢を16歳と定めているが地

域の慣習法では若年齢での結婚を女性に強いており、9歳の女の子が50歳の男と結婚させられると

いったような幼児婚の事例が後をたたない。実に、アフガニスタン女性の60%が、16歳以前に結

婚を強いられているとの報告もある184。また、部族間、家族間で派生した紛争を解決する手段の

一つとしてバードと呼ばれる「交換結婚」が行なわれ、両家の家族から少女を相手方の兄弟、あ

るいは父親と結婚させるというような慣習もまだ残っている。貧困、家族の名誉、伝統によって

この国の少女と女性たちは社会で取引される「商品」となる。

一方で、こうした状況から逃げ出し、抵抗するなど、「伝統」、「宗教」の名の下で形成された

ジェンダー規範にそむく行為を行った女性は「罪人」とみなされることが多い。こうした、女性

をめぐる「犯罪」はほとんどが地域の慣習法をもって裁かれることとなり、成文化された法律に

基づいて裁かれるケースはめったにない。家の「恥」として、家族によって殺害されるという「名

誉殺人」も表には出てこないが、特に農村部においては数多いと言われている。夫、父親、兄弟、

地方の軍閥、そして彼らと並行して存在する「社会の法」である慣習、警察や司法を含む国家の

さまざまな制度・慣行は、女性に対する暴力を容認すると同時に、アフガニスタン女性の社会参

加・経済参加を阻む大きな要因となっている。

2005年以降、UNIFEMや一部NGOなどが 高裁判所内部で、法曹関係者を対象とした研修が開催

されるなどの活動が始まっているが、その努力はまだ緒についたばかりであり、法曹界を含め社

184 Medica Mondeale (2004) Child Marriage in Afghanistan

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

92

会全般的に女性の人権にかかる問題意識は低く、また女性自身も自らの権利について知り、声を

上げることが未だ困難な状況にある(2007年時点で女性の判事、弁護士、検察はそれぞれ4.7%、

6.1%、6.4%185)。

(5) 女性の政治参加

アフガニスタンの新憲法下では、国会における女性代議員の席を一定の数確保することとなって

いる。新憲法下83条では、各州より少なくとも2名の女性議員が選出されるよう選挙法上の措置が

講じられなければならないとされ、また下院においては、全体の三分の一を占める大統領指名議

席の50%を女性に割り当てられることが定められた。結果として、現在のアフガン国会において

女性は25%の議席を占め、これは世界でも上位から20番目にランクづけられるものである186。こ

のように女性議員の数は世界と比べても高い数値となっているものの、こうした女性の政治参加

が、女性たちの生活改善につながっていないのが実態である。イスラム慣習に基づくとされる慣

習法や法文化されていない社会規範の支配が強い地方部において、女性議員たちに対する保守派

層の圧力は厳しく、思うような発言や活動ができないままとなっている。また、女性たち自身も

これまでの経験がないことから、自分たちの活動に対する十分な知識や意識が欠如している議員

も多い。こうした中、UNDPやUNIFEM等の国連組織が中心となって、研修などを通じて女性国会

議員を対象に能力向上に向けた支援を開始しているが、その取り組みはまだ緒についたばかりで

ある。

人事院の調べによると、2007年時において、政府の中で女性職員の数は22%を占めている。独立

行政改革委員会(Independent Administrative Reform and Civil Service Commission)下に2005年より

実施された機構改革の結果、2005年時には31%であった女性職員の割合が9%減り、女性職員の数

は減少した。同様に、契約社員の数も、2005年の10%より、2006年には7.5%に減少している。各

省の中で、30%以上の女性職員を抱えている省庁は女性課題省と労働社会福祉・殉教者・障害者

省(Ministry of Labor, Social Affairs, Martyrs and Disabilities:MoLSAMD)のみとなっている(女性

課題省63%、MoLSAMD 56%)。その他、省庁や行政機関の半数において女性職員の割合は10%

以下となっている187。行政改革の一環として、能力のある職員を公募し、高めの給与を支払うと

いうことになっていたが、結果的には、これまで正規の教育や訓練を受けてこられなかったため

「能力が低い」とみなされた女性が切り捨てられた形となっている。突如職を失ったこうした女

性たちに対する再雇用に向けた研修や人材育成に向けた取り組みは、まだなされていない。

2.1.6.2 政府の方針

(1) アフガニスタン政府のコミットメントと進捗

アフガニスタン政府は、これまで女性たちが歴史的に市民としての人権を奪われ、社会的にも経

済的にも男性と比べて不遇の状態におかれてきたことを認識し、復興開発においてジェンダー平

等と女性のエンパワメントを推進していくことを重要な横断的課題として位置づけている。2001

185 Supreme Court, Afghanistan 2007年 186 UNDP (2007) 人間開発報告書 187 Central Statistics Office (2007), Afghanistan Statistical Year book 2007, Kabul

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

93

年12月の「ボン合意」によりアフガニスタン暫定政権下、女性課題省が設立された。女性課題省

はアフガニスタンにおいて女性の地位を向上していくための政策調整官庁として、女性の保健や

教育、経済活動への参加、法的保護などを優先課題として、ジェンダー主流化・積極的差別是正

措置(Affirmative Action)に向けたアドボカシー、政策立案や調整、事業実施のためのモニタリ

ングを実施していく役割を担っている。2004年には男女平等の権利を盛り込んだ憲法が制定され、

2005年のアフガニスタンMDGsでは9つの開発目標の一つとして「ジェンダー平等と女性のエンパ

ワメント」が謳われ、(i)2020年までに教育、経済分野における男女格差を撤廃すること、(ii)あら

ゆる行政府への女性の参画を30%確保すること、(iii)2015年までに司法分野における男女格差と差

別を50%、さらに2020年までには100%撤廃することを目標として掲げている。

ANDSでは、アフガニスタン女性たちの開発への参画が国家復興の過程において重要な資源とエ

ネルギーとなることを謳い、女性の健康促進、教育格差の是正、経済開発、貧困削減、社会参加

の促進など、女性の地位と生活の向上に向けて重要な課題分野において、取り組むべき13のベン

チマークが設定されている。加えて、(i)女性に対する差別の撤廃、(ii)女性の人材開発及びリーダ

ーシップの発揮の促進(女性公務員の育成)、(iii)生活のあらゆる側面における十分かつ平等な女

性の参加保障を促進していく取り組みを進めるために、各省に対するジェンダー主流化メカニズ

ムの整備と活動促進に向けた具体的な行動指針書となる「アフガニスタン国家女性行動計画書」

(National Action Plan for the Women of Afghanistan:NAPWA)が策定された。今後は、各省レベル

におけるジェンダー主流化に向けたメカニズムを強化し、これらベンチマークの達成に向けた活

動を推進していくとともに、2013年までのANDS/CGセクター戦略計画の実施にあたって、ジェン

ダー主流化活動を強化していくこととなっている。

囲み記事 2-5 アフガニスタン国家女性行動計画書

ジェンダー主流化に向けた政府の10年行動計画書。女性のエンパワメントとジェンダー平等の達成を上

位目標として、各省においてとるべき戦略や行動指針を示している。UNIFEMの支援を受けて女性課題

省がドラフトし、2008年5月に正式に内閣にて承認された。今後、女性課題省が中心となって、各省と連

携し、(i) 治安、(ii)法的保護と人権、(iii)リーダーシップ・政治参加、(iv)健康、(v)経済・労働・貧困、(vi)教育の6つの分野を柱とし、各省の人材育成、ジェンダー統計整備支援、パイロットプロジェクトの実施、

政策や戦略、プログラムへのジェンダー主流化、法整備などを支援していくこととなっている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

94

囲み記事 2-6 ANDSにおける 13のジェンダー関連ベンチマーク

女性の地位と生活の改善にとって特に重要であるベンチマーク。女性課題省は下記13のベンチマークの

達成を省の短期戦略目標とも位置づけている。

(i) アフガニスタン国家女性行動計画の完全な実施。

(ii) 女性の行政参加の確保と能力強化。

(iii) 女性用、若年者用の刑務所を別に設置すること。

(iv) 女児の純就学率の 60%、男児の就学率の 70%の達成。

(v) 女性教員を 50%増加する。

(vi) 2010 年度までに、15 万人の男性と女性に対して職業訓練を実施すること。少なくても内 40%は女

性に対しての訓練とする。

(vii) 妊産婦死亡率を 15%減少する。

(viii) 男性、女性両方の宗教リーダーやイスラム学者は国家開発や政策に倫理と秩序をもって参加する。

(ix) 女性のイスラム関連活動への参加を確保する。

(x) メディアは男性、女性とも自由かつ平等なアクセスを保障される独立機関として保護される。

(xi) 女性や子ども、障害者に対して、スポーツ振興を特に強化する。

(xii) 2010 年度までに、貧困の状況にある女性世帯主家庭の数を 20%削減する。

(xiii) 貧困女性世帯主家庭の雇用を 20%増加する。

(2) 女性課題省

2002年に女性課題省がアフガニスタンの女性の地位向上に向けた政策調整官庁として設立された

が、その前身はタリバーン以前に職業訓練などを実施していた女性連盟188であり、女性課題省は

その建物とスタッフをそのまま引き継ぐ形ではじまった。そのため、設立当初はNGOのように裁

縫や刺繍、美容などの職業訓練が実施され、女性課題省がNGOと競合するというような状況がし

ばらく続いたが、2003年以降の第二代目大臣の頃から、さまざまな困難に直面しているアフガニ

スタン女性の社会的・経済的向上に向けた政策提言・立案を行う政策・調整官庁としての役割を

果たしていくよう大きく方向転換するとともに、JICAやUNIFEM、UNDP、GTZなどからの支援を

受け、省としての機能強化が図られてきた。2006年には、独立行政改革委員会(Independent

Administrative Reform and Civil Service Commission)下に実施中の機構改革を経て、職員の配置も

ほぼ進み(2008年12月時点における省の職員は総勢635名:中央職員233名、州女性局402名)女性

課題省としての活動戦略が策定されるとともに、アフガニスタンにおけるジェンダー平等と女性

のエンパワメントの達成に向けて、国家開発計画へのジェンダー主流化に向けた調整や提言活動

が推進されてきているところである。今後はANDSに基づき、女性の生活と地位向上に関連する

ベンチマークの達成に向けたモニタリング・アドボカシー活動を強化していくとともに、「アフ

ガニスタン国家女性行動計画」の実施促進に向けて各省レベルにおけるジェンダー主流化に向け

た研修・調整・提言・連携活動を行っていくこととなっている。

188 王室の親族などの女性が、私財で、女性に対する識字や教育、裁縫や美容師の職業訓練などを実施していた私

的組織。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

95

2.1.6.3 ドナーの支援の概況

(1) ジェンダー主流化メカニズムの構築・強化支援

アフガニスタンにおけるこれまでのジェンダー平等と女性のエンパワメントに向けたドナーの取

り組みは女性課題省行政官の能力の向上や情報整備、政策提言に向けた技術支援が中心となって

いる。これまで女性課題省内には、JICA、UNIFEM、GTZ、UNDP、USAID(アジアファンデーシ

ョン)から専門家が派遣され、省の機構改革、各局の行政官の人材育成を通じて、各課題にかか

る取り組みを促す努力が日々進められてきた。2006年度頃からは、他省庁に対するジェンダー主

流化に向けた支援も開始されてきているが、「国家女性行動計画書」が策定された2009年度以降

はその活動が本格的に展開される見込みとなっている。現在までに、UNDP、GTZ等が複数の省庁

を対象とする支援プログラムを策定しており、GTZが商業省、MoLSAMD、MRRDを、またUNDP

が、MAIL、経済省、宗教省、司法省、統計局、カブール大学の支援を行うことを発表している。

しかしながら、まだ両者とも本格的な支援プログラムの実施までには至っておらず、ようやくジ

ェンダー・ユニットや関連部局の設置が文書で合意された段階であり、その人材の配置や育成な

どの実質的な支援はこれからの作業となっている。唯一、財務省については、UNDP、GTZの両者

共同にて2007年より本格的な支援が進められており、ジェンダー・ユニットが設置されて人材も

配置され、ジェンダー予算に関するいくつかの活動が積み重ねられてきている。また、FAOとWHO

がそれぞれMAILの家政局と公衆衛生省の女性のリプロダクティブ・ヘルス局の下に設置されたジ

ェンダー・ユニットの人材育成を一部支援してきている。2009年度よりはUNIFEMも交通省、司

法省、統計局、人事院、オリンピック委員会において、NAPWAの実施に向けたパイロット事業(ジ

ェンダー統計・情報整備・政策策定・女性支援事業実施)を開始すると発表している。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

96

表 2-8 ジェンダー主流化メカニズム整備に向けたドナー支援の概略(2009年度情報)

援助機

関名 支援プログラム・ プロジェクト

支援の内容 主要CP

GTZ ジェンダー主流化支援

プロジェクト(ジェンダ

ー・ユニット設置・人材

育成支援)

1) 女性課題省内のジェンダーナショナルマシーナリー課支援 2) 各省へのジェンダー・ユニットの設置、人材育成支援。 3) 女性課題省の広報・アドボカシー部局のジェンダー研修課

に対するトレーニングマニュアル・カリキュラムの作成支

援 4) 女性課題省内における情報センター整備支援(予定) 5) NGO 委託を通じたバダフシャン州における女性支援事業

実施を計画中 6) 女性に対する暴力撲滅キャンペーンの支援 7) JICA と連携して 貧困女性の削減にかかるアドボカシー・

キャンペーン活動予定

女 性 課 題

省、財務省、

商 業 省 、

MoLSAMD、

MRRD

USAID/ア ジ ア

フ ァ ン

デ ー シ

ョン

女性課題省能力強化支

援プロジェクト

1) リーダーシップ、マネジメント、計画立案研修 2) 女性課題省の広報戦略開発支援(広報・アドボカシー局支

援) 3) 州女性局支援/インフラ整備支援 4) USAID 支援により建設された女性センター運営支援 5) その他女性課題省内のインフラ整備支援(ITシステムの

アップグレード(サーバールームの設置・各部局へのイン

ターネットケーブルの設置・セキュリティ支援 6) 女性課題省のセキュリティ対策支援(警備への研修、ファ

ーストエイド・キットの供与、消火器の設置、セキュリテ

ィライトの設置など) 7) 女性課題省予算策定支援(予定)

女性課題省

(広報・アド

ボカシー局)

UNDP ジェンダー平等支援プ

ロジェクト 1) 右記対象省の職員に対するリーダーシップ、マネジメント、

モニタリング・評価のメカニズム分析・ガイドラインの作

成・研修 2) 計画立案と予算策定にかかる女性課題省組織分析及び研修

の実施 3) 各省の予算策定プロセスにおけるジェンダー分析およびガ

イドラインの作成・研修 4) カブール大学における Gender Studies Institute 設置支援(建

物建設開始・カリキュラム作成等) 5) 宗教省、司法省を通じた、コミュニティの宗教指導者、ム

ッラーに対して女性の人権にかかる研修実施支援(バルフ

州とヘラート州にて実施) 6) 女性課題省大臣室支援(通訳・オフィス設備支援)

女性課題省、

MAIL、経済

省、財務省、

宗教省、司法

省、カブール

大学、統計局

UNFPA 女性のリプロダクティ

ブ・ヘルス/ライツ促進支

1) 女性課題省保健局能力向上支援 2) 州女性局を通じて地域の宗教指導者やリーダーに対する女

性の健康・人権にかかる研修・アドボカシー活動実施(バ

ダフシャン他 4 つの州女性局を通じた支援予定) 3) 女性に対する暴力撲滅と女性のリプロダクティブ・ヘルス/

ライツの促進にむけた男性の役割にかかるナショナルキャ

ンペーンを実施予定 4) 暴力被害女性のためのカウンセリングセンター建設につい

て計画中。 5) その他、内務・警察省に対する DV 被害女性への対応にか

かる研修、女性受刑者への衛生・健康サービスキットの配

布支援等

女性課題省

保健局・公衆

衛生省

UNFEM 女性課題省能力向上支

援プロジェクト*2009年度よりNAPWAの実施

に向けたパイロットプ

ロジェクト実施予定

これまで特にNAPWA策定とジェンダー統計ハンドブックの作

成に向けた支援を中心に行ってきた。今後の予定として、 1) ANDS におけるジェンダー主流化支援(13 のジェンダーベ

ンチマークの実施・モニタリング支援及び NAPWA 実施に

向けた技術支援・モニタリング) 2) ジェンダー統計ハンドブックの 終化

女性課題省

計画局、総

務・財務局 *交通省・司

法省・統計

局・人事員・

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

97

3) 女性課題省総務・財務部局にかかる組織分析 4) 女性課題省総務・財政部・計画局における技術支援 5) ジェンダーデーターベース設置支援 6) 交通省、司法省、統計局、人事院、オリンピック委員会に

おいて、NAPWA の実施に向けたパイロット事業を実施予

定(主にジェンダー統計・情報整備・政策策定・女性支援

事業実施) 7) 地方州における NAPWA 事業の実施(パルワン、パンジシ

ール、カピサ、ガズニ) 8) 女性行政官の抱える課題や問題に関する調査研究実施(人

事院支援) 9) 行政内における女性の意思決定過程への参加にかかる調査

実施中(統計局支援) 10)ジェンダー予算研修

オリンピッ

ク委員会

UNFEM 女性の政治・経済開発支

援 1) パルワン、パンジシール、ヘラート、ガズニにおいて、村

レベルの家計調査実施中 2) 上記 4 州の州女性局能力向上支援

パルワン・パ

ン ジ シ ー

ル・ヘラー

ト・ガズニ州

女性局支援 UNFEM ジェンダー正義プロジ

ェクト 1) 女性に対する暴力撲滅法成立に向けた技術支援 2) 女性に対する暴力にかかるデータ収集 3) ジャララバード、パルワンにおける暴力被害女性支援セン

ター設立・運営支援 4) 法曹界・議員のジェンダー研修

女 性 課 題

省・パルワ

ン・ジャララ

バード 高裁判所

イ タ リ

ア コ ー

ポ レ ー

ション

女性のビジネス開発支

援(新規予定) 1) 女性を対象に携帯電話の修理にかかる技術訓練実施 2)女性に対する宝石カット・デザイン研修 3)イタリアにおける展示会・貿易促進会実施 4)バグラン女性センター建設・活動支援(食品加工、ビデオ・

カメラ撮影研修、識字・家畜飼育プログラム実施等) 5)女性課題省内及びカブールの女性公園に食堂設置支援(女性

のケータリング会社設立支援) 6)女性課題省経済開発局支援(通訳の供与) 7) 女性のビジネス開発サービス支援に向けた政策策定・アドボ

カシーに向けて女性課題省を支援予定

女性課題省

WHO ジェンダー・ユニット支

援 研修カリキュラムの作成・人材育成支援 公衆衛生省

FAO 家政局下のジェンダ

ー・フォーカス・グルー

プ支援

研修・人材育成 MAIL

(2) サービス提供型支援

また、国連や援助機関、国際NGOが、アフガンNGOへの委託を通じて、それぞれのセクターごと

に女子校の建設や女性の識字教育支援、職業訓練や収入向上、マイクロ・クレジット支援、女性

センターやシェルター建設等、コミュニティに対して直接実施するサービス提供型の支援も実施

されている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

98

表 2-9 女性に対するサービス提供型支援を行っているドナー支援の概略

主要ドナー 支援分野 支援の内容 USAID 保健・教育・

地域開発 ・クリニック建設・整備支援、地方女性医療従事者支援 ・女子校建設・修復支援、識字教育支援 ・バダフシャン・ナンガハル・ヘルマンドで農村生計向上プロジェクト実施(女性

に対する職業訓練含む) ・UN-HABITATへの委託を通じて2009-2013で地方20州にて32万の人口をターゲッ

トに、識字と職業訓練、ビジネス開発支援、マイクロ・ファイナンス支援などを包

括的に組み込んだ総合的なコミュニティ開発支援を実施していこうとしており、そ

の60%を女性を対象とした支援事業を実施予定。 ・アフガン女性ビジネス連盟支援を通じた女性の企業家支援 ・その他現地NGO等への委託を通じた女性に対する職業訓練・収入向上支援の実

施 ・全国に17の女性センター建設

WHO 保健 ・医師・助産師・看護師等へのジェンダー研修・地方女性医療従事者支援、教材作

成支援、地方における衛生教育支援 インド(SEWA) 経済開発 ・カブールにある女性公園で、洋裁・造園、花弁栽培、などについて女性に職業訓

練を実施(2006年度より開始) UNESCO 地域開発 ・教育省をCPとし、今後5年間(2008-2013)で地方それぞれ20州、18州にて20万―30

万の人口をターゲットに、識字と職業訓練、ビジネス開発支援、マイクロ・ファイ

ナンス支援などを包括的に組み込んだ総合的なコミュニティ開発支援を実施して

いこうとしており、それぞれ60%を女性を対象とした支援事業としている WFP/UNICEF 教育 ・女性に対する識字・教材開発支援等・学校建設・修復支援 FAO 農業 ・4つのプロジェクトで女性に対する衛生教育、識字、女性農村組合の組織化支援、

収入向上支援事業実施 EU 人権・教育 ・暴力被害女性のためのシェルター建設

・女性のスポーツ振興に向けた支援

(3) JICAによる支援

これまでJICAはジェンダー主流化政策・制度整備に向けて、女性課題省の組織能力・政策立案能

力強化を重点においた支援を2003年度より実施してきた。2003年から継続して派遣中のアドバイ

ザー型の専門家派遣により女性課題省の機構改革が支援され、組織図・予算の策定、各部局のTOR

作成に向けた支援および人材育成が実施されてきた。2005年よりは技術協力プロジェクト「女性

の経済的エンパワメント支援プロジェクト」が実施され、女性の経済的エンパワメントを推進す

るための女性課題省の組織的役割強化および政策提言能力向上に向けた活動が行われてきてい

る。同プロジェクトにおいては、実際にバーミヤン、マザリシャリフ及びカンダハル州のプロジ

ェクトサイトにおいて女性の経済的エンパワメントに向けた23の小規模パイロット事業が実施さ

れた。これにより、4,300人の女性に対して直接裨益がもたらされたと同時に、女性課題省内に女

性の経済的エンパワメント推進のための一定の知見と情報が集積・分析されてきた。さらに、そ

れらの情報を活用していくための女性課題省内の役割が明確にされ、将来にむけた活動実施のた

めの基礎的なメカニズムが整備されてきている。

同時期の2006年度よりは、政策アドバイザー型個別専門家が派遣され、ANDS策定のプロセスに

おけるジェンダー主流化に向けた技術支援及び女性課題省の能力向上支援(人材育成、政策策定、

アドボカシー、各省庁との連携強化)が進められてきた。特にANDS/CG7(Social Protection)下

に設置された“社会的弱者女性”(Vulnerable women)の経済的エンパワメントに向けたベンチマー

ク「2010年までに貧困女性世帯主世帯の20%の削減とその雇用の20%増加の達成」に向けた女性

課題省の情報収集・政策提言及び他省庁との連携・調整活動が支援されてきた。女性課題省経済

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

99

開発局を中心に貧困女性削減作業部会(Working Team on CPW)が設置され、本作業部会は、ANDS

に関する知識を深めるための定期的な会合を開催し、関連省庁やドナーとも会合を重ね、徐々に

情報収集・分析・発信能力、計画策定能力、調整能力などを高めてきている。JICAはこうした日々

の支援を実施すると同時に、近隣のパキスタンやイランへのスタディー・ツアー、貧困女性の実

態調査の実施、国家プログラムであるNSDPやNSPとの連携促進を支援してきた。

2.1.6.4 今後の課題

この7年間において、アフガニスタンではジェンダー平等と女性のエンパワメントを推進するため

の一定の政策が整うと同時に、各省へのジェンダー関連部局の設置や、各特別課題(ジェンダー

統計・暴力防止)にかかる省庁間作業部会の設置など、そのメカニズムづくりについては一定の

進展がみられる。しかしながら、基礎的な行政能力の不足に加えて、行政官のジェンダー課題へ

の理解の不足、また縦割り行政の中で横断的課題を推進する困難などもあり、こうしたメカニズ

ムが実質的に十分機能せず、その裨益が実際の貧困女性たちに十分届いていないのが現状となっ

ている。特に、地方行政の能力強化が後回しとなっていることから、地方における貧困女性の支

援が遅れがちになっていることも課題のひとつとなっている。

(1) 女性課題省の行政能力

ANDSで掲げられた目標の実現に向けたジェンダー主流化の取り組みを促進していく調整官庁が

女性課題省であり、女性課題省の情報発信や事業調整・モニタリング・他省との連携・助言活動

に向けた行政能力の向上は重要である。これまで、政策官庁としての女性課題省の位置づけや役

割についてはアフガニスタン国内、省内において一定の理解がようやく進み、活動促進のための

政策・メカニズムの整備に向けた努力が行われてきたが、実際にこうした政策・メカニズムを活

用し、動かしていくための長期的な活動計画の策定や課題ごとのジェンダー分析能力、事業実施

に向けた具体的な提言・モニタリング能力はまだ十分ではない。中長期・包括的な視点に基づい

て、女性の貧困削減を主眼においた包括的な取り組みを推し進めていくための行政能力の向上に

向けた支援が必要とされている。

(2) 綿密なジェンダー・社会/経済分析調査の必要性

男女隔離政策と保守派原理主義が根強いこの国で、アフガニスタンの女性の窮状を目の前にしつ

つ、どのように効果的に女性のエンパワメントにつながる支援を行っていけるかは人間の安全保

障という視点に基づく復興開発支援の要のひとつとなる。一方で、「女性の地位向上」や「ジェ

ンダー平等」が外国人の押しつけ、非イスラムとして受け止められて無用な反発を招かないよう、

細心の配慮をしつつ慎重に支援事業をすすめる必要がある。地域の女性のエンパワメントを確実

かつ持続的なものにするためには、その周囲の男性や社会に注視して理解を求めていく働きかけ

を行い、少しずつ女性たちの活動の幅と枠を広げていくアプローチが重要であると思われる。

さらに、現在のアフガニスタン政府や支援関係者の間でさえ、アフガニスタンの貧困女性の現状

やその経験が十分に理解されているとは言いがたい。たとえば、アフガニスタン政府は、女性の

貧困削減に向けて「女性世帯主家庭」を特に対象としたベンチマークを打ち出しているが、アフ

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

100

ガニスタンにおいて「女性世帯主」とは誰なのか、彼女たちの貧困の経験はどのようなものなの

かといった理解は十分になされていない。また現在のアフガニスタンにおいて、どのくらいの女

性が絶対的貧困状態にあるのかという定量的なデータを示す本格的な調査もまだ実施されていな

い。

さらに、一言でアフガニスタン女性といっても、民族・部族、階級、職業によって実に多様であ

り、女性たちは多元的な法体系とジェンダー規範の構造下に生きている。こうした中での事業に

はとりわけきめ細かなジェンダー分析が重要となる。たとえば、人口の8割が農村人口であるアフ

ガニスタンでは、農業・牧畜業・畜産加工業が主要産業であり、農業・牧畜業の生産性の向上が

国家開発を考える上で不可欠であるが、女性もこうした産業の重要な担い手として大きな役割を

担っている。こうしたセクターにおける女性支援は貧困女性の生活と地位の向上において大きな

インパクトをもたらすと考えられるが、そのためにはそれぞれの地域において詳細なジェンダー

分析を含めた社会・経済調査を踏まえてプロジェクトがデザイン・実施されることが不可欠とな

る。農業の生産性を高めるためのプロジェクトや農業普及プロジェクトも、女性の役割を調査し、

それを念頭においた上で、どんな農業技術や知識を誰に、どのような手法で伝えていくか、とい

ったことを考えながら進めていく必要がある。

また、女性の経済活動参加に向けた取り組みは、女性自身と家族の福祉向上と貧困削減につなが

り、さらに女性の活動に関する社会全体の意識や価値観を高め、女性の地位向上にもつながるも

のであるが、パルダ規範(男女隔離政策)などジェンダー規範が根深いアフガンの農村社会では、

女性の経済活動への参加が、家庭内や地域で批判の対象となり、女性にとって痛みを負うことに

つながる場合もあることを考慮し、注意深くプロセスを踏む必要がある。アフガン人にとって、

いくつかの職種は強く偏見をもたれており、掃除や洗濯といった分野にかかる職業は貧困中の貧

困女性のみが行う賤職であるという社会認識があることにも留意する必要がある。また、リプロ

ダクティブ期における若い女性たちにとっては単に参加に要する時間さえも捻出することは困難

である。女性たちが自ら経済活動に参加する時間を捻出するために、その娘が家事を手伝うため

に学校をやめさせられるということも引きおこされやすい。女性の職業訓練や経済参加に向けた

事業立案の際は、こうした事項を詳細に家庭内・地域レベルにおいて綿密に分析していく必要が

ある。

(3) 女性の職業訓練の多様化の必要性

現在、アフガニスタンでは、女性の経済的エンパワメントに向けたさまざまな支援事業が展開さ

れているが、援助機関やNGO、国家プログラムによる事業の多くが、カーペット・キリム、刺繍

や裁縫などの訓練を行うことで女性の生計向上をめざしている。インフラの未整備や社会的制約

によって移動が制限されている女性が多く、家庭内で作業できる分野、特に伝統工芸品や食品加

工の生産をつうじての現金収入向上を図ることが女性の社会経済的地位の向上に結びつきやすい

という意味で、その方向は間違っていない。しかし、裁縫でも、もともと国内市場が非常に小さ

く、中国やパキスタン等からの安い服の大量流入があり価格を押し下げていること、国民の購買

力が低いこと、多くの女性が裁縫の技術をもっており大抵の服は自分で作れること、などの理由

から市場はすでに飽和状態であり、女性たちの実際の現金収入の向上にはほとんど結びついてい

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

101

ないのが現状である。新しいデザイン、パターンづくりや 終仕上げ処理の向上など付加価値を

つけ、新たな市場を作れるような裁縫コースでなければ、女性の時間と労力を使うばかりで直接

的な現金収入の効果は上がらない。これまでNSPなどで実施されて女性支援事業においても、そ

のほとんどが、裁縫・刺繍・養蜂・養鶏などであるが、持続的に女性の収入向上に結びついてい

るものは非常に少なく、関係者たちも行き詰まりを感じているのが現状である

こうした中、ガズニで行政支援を行っているNGOが、州開発支援の一部として、地域で女性たち

に肥料づくりにかかる訓練を実施し、彼女たちを市の行政局とつなげる支援を行ったところ、女

性たちは毎月60米ドルもの収入を得ることができるようになったという事例が紹介されている。

さらに、同州にて、インフラ開発支援を実施しているNGOが女性たちに道路整備事業で必要な金

網づくりを指導したところ、女性たちは一枚8米ドルの収入となる金網を平均で2枚作成し、地域

のインフラ事業に貢献するとともに、自らの収入も向上させているという事例も報告され、注目

されている。こうした事業は現地の社会的文化的状況を配慮しつつ、家庭内、あるいは村の女性

専用スペースを使って実施されているものであるが、固定観点にとらわれることなく、適正な訓

練とアフガン女性が働きやすい専用のスペースやアメニティを配置することによって、アフガニ

スタン女性の経済活動にもさまざま可能性があることを示唆している。実際に、MoLSAMDを主

管官庁とするNSDPでは、職業訓練用の教材をそろえた70分野のうち、22分野は女性にも参加でき

る内容であることが報告されている。女性の貧困削減に貢献した成功事業の特定化と情報共有に

向けた行政能力支援を行いつつ、女性を社会的弱者として単に保護する対象としてみなすのでは

なく、女性の労働力を開発の過程に欠かせない重要な力として見直し、女性労働者が働きやすい

ように配慮した設備や備品を整え、今後地方で展開される空港整備や地方での公共インフラ事業

などへの女性の参加も促進していくなど、女性の職業訓練や収入向上の多様化を視野においた支

援も重要であると思われる。

2.1.7 ケシ栽培

2.1.7.1 ケシ栽培の現状

ケシ栽培とは、麻薬の原料となるケシ本種(アヘンケシ:opium poppy)を栽培するものであり、

ケシの実の未熟果を傷つけて出る乳液を固めることによりアヘンが作られる。これを精製して医

療用の鎮痛静剤としても使われるモルヒネが得られ、さらにモルヒネを化学処理してヘロインが

作られる。アフガニスタンは世界 大のケシ栽培地域となっており、欧州諸国で流通するヘロイ

ンの材料の80%以上がアフガニスタン原産であるといわれ、2006年から2007年の違法アヘンの

93%がアフガニスタン産である189。しかしUNODCの2008年麻薬調査報告書によると、アフガニス

タンのケシ栽培は減少傾向にある。2007年には193,000ヘクタールあったケシ栽培面積は2008年に

は157,000ヘクタールと19%の減少を記録し、ケシ栽培が根絶された州の数は2007年から2008年に

かけて13州から18州へと増加した。これはアフガニスタン全34州のうち、約半分以上の州がすで

189 United Nations Office on Drugs and Crime(UNODC)/Government of Afghanistan

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

102

にケシ栽培を行っていないということになる。特に2007年には全国で2位のケシ栽培地帯

(18,739Ha)であったナンガハル州は2008年には根絶を達成した190。

図 2-11 アフガニスタン国におけるアヘン栽培の現況(2008)

出所: Opium Cultivation map 2008 Afghanistan

UNODCの2008年麻薬調査報告書によれば、アフガニスタンのケシの生産は、2007年から2008年に

かけて8,200トンから7,700トンと6%の減少、ケシ栽培による農家の総収入は2007年には10億米ド

ルだったが、2008年は7億米ドルに減少した、とのことである。同報告書は、2007年から2008年に

おけるケシ栽培の減少の要因を2点挙げている。一つは栽培州でのガバナンスの影響であり、各地

域(バダフシャン、バルフ、ナンガハル等)でのケシ栽培撲滅キャンペーンや、農村開発の促進、

農民同士の圧力、州知事、地域指導者、そしてシュラによってケシ栽培がイスラムの教義に反す

る行為であることを農民に周知徹底させたことなどによる。二つ目の要因は、旱魃による悪天候

の影響で、天水栽培が中心の北部では特に天候によるダメージが大きく食糧危機を招いたため、

とされている。作物の価格が上がる一方で、ケシの市場価格が下落したため、農民が穀物(小麦)

栽培へシフトした。従って、ケシ栽培の減少は環境的、経済的要因によるものであるといえる。

逆に言えば、環境的、経済的条件がもとに戻れば、再びケシ栽培が増加することも考えられると

いうことになる。

このようにケシ栽培は減少傾向にあるといわれているが、2009年2月の米国務省の国際麻薬規制戦

略報告書によるとアフガニスタンは引き続き世界 大のケシ栽培国であるとされている191。南部

のケシ栽培面積の全国に対する割合をみると、2007年から2008年にかけて、69%から84%と増加

している。なかでもヘルマンド州では、2008年には約10万ヘクタールのケシ栽培が行われ、アフ

ガニスタン全土のケシ栽培面積の三分の二を占めている。アフガニスタンのケシ栽培の約98%は

190 しかしながら、2009年3月にはナンガルハル州周辺でケシの実が押収された、という報道もあり、2009年に栽

培が再開した可能性もある。 191 AFP時事 2009年2月28日(http://www.jiji.com/jc/a?g=afp_int&rel=j7&k=20090228021357a)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

103

西南の7州(ヘルマンド、カンダハル、ウルズガン、ファラー、ニムローズ、並びに、ダイクンデ

ィとザブールでは少量)であり、パキスタン、イランとの国境近くに集中している。この地域は

タリバーン支配地区であり、ケシ栽培地域は反政府組織の資金調達のための麻薬取引と密接に関

連していることを示している192。

出所: Afghanistan Opium Survey 2008 by UN Office on Drugs and Crime

表 2-11 アフガニスタンの主なケシ栽培州での栽培面積の推移(2003年~2008年)(ha)

出所: Afghanistan Opium Survey 2008 by UN Office on Drugs and Crime

2.1.7.2 ケシ栽培の社会的、経済的背景

(1) ケシ栽培の推移

1994年から2008年のケシ栽培面積の全体の傾向をみると、依然として根絶には程遠いことが示さ

れている。下記の表に示すとおり、2001年はタリバーンの圧力によってケシ栽培はイスラム教に

反することにより全面禁止されたことにより、急激に減少した。ところがタリバーン政権崩壊後、

強制的な全面禁止の圧力から開放された農民は再びケシ栽培に従事するようになった。しかし

2002年の再上昇の原因は、タリバーンからの開放だけでなく、現金収入の急激な減少により農民

の生活が苦境に陥ったこと、また、ケシ栽培全面禁止によってケシの庭先価格が上昇したことに

より、多くの農民がケシ栽培に逆戻りしたことによる193。その後もアフガニスタン新政権によっ

てケシ栽培は違法になったにもかかわらず、さらに上昇している。現在ケシ栽培がおこなわれて

いるのは相対的に経済状況が悪い北部ではなく南部である。現在南部地区にて依然としてケシ栽

培が行われている背景には、反政府勢力の圧力が強いことがあり、彼らが戦闘の武器購入や食費

192 UNODC (2008), “Afghanistan Opium Poppy Survey, 2008,” Kabul 193 AREU (2008), “Counter-Narcotics in Afghanistan: The Failure of Success?”

表 2-10 アフガニスタン地域別ケシ栽培(2007~2008年)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

104

などの資金が必要になったことにより、麻薬取引人による麻薬の出荷のために安全なルートを提

供する代わりに、ケシ栽培による収入の一部が反政府勢力に提供される仕組みになっている194。

図 2-12 アフガニスタンにおけるケシ栽培の推移(ha)1994~2008年

出所: Afghanistan Opium Survey 2008 by UN Office on Drugs and Crime

(2) ケシ栽培の経済的利益

アフガニスタンの農業経済において、ケシ栽培はアフガニスタンの経済の三分の一をも占め、こ

の違法経済によって農村部門の約 5,400 万人日/年の雇用が賄われていると言われている 195。2008

年CIA The World Fact Book /Afghanistan によると、ケシ栽培とアヘン貿易は違法であるにもかかわ

らず、ケシ栽培の拡大とアヘン貿易の増加によってアフガニスタン国内に約 30 億米ドルの収入増

がもたらされた。UNODCの 2008 年麻薬調査報告書では、アフガン国民の約 10%がケシ栽培に携

わっているという結果が出ている。ケシ栽培は少ない水で単位面積あたり小麦の 7~10 倍の収入

を得られる利点があるといわれ 196、さらに、密売人によるクレジットも利用でき、市場にアクセ

スしやすいことから、アフガン農民にとって魅力的なビジネスである。しかし、現在のケシ栽培

が南部に偏っていることから、根本的な原因は貧困だけではなく、反政府組織との関わり、地理

的環境(周辺諸国とのアクセス)、取締り側の汚職、セキュリティや法と秩序の欠如などが考え

られる。

194 南部出身の閣僚の中にもケシ栽培・麻薬取引に従事している人がいる、と報道では言われている。 195 アフガニスタン政府 (2008) COUNTER NORCOTICS SRATEGY ANDS 196早稲田大学SADEPチームの2006年の開発政策・事業支援調査「平和構築とJBIC:平和構築の概念整理とアフガ

ニスタン事例研究」から、武者小路・遠藤編著(2004)、pp214-215

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

105

囲み記事 2-7 ケシ栽培の禁止が農民に与える影響197

バルフ州においては、GPI(後述)のもとケシ栽培を撲滅した場合に 低でも2.5百万米ドルがインセ

ンティブとして供与される約束がなされており、それを達成するためにケシ栽培の強制的取締りが行

われた。すなわち、ケシ栽培に代わる収入創出手段が農民に与えられたわけでなく、地域のガバナン

ス(麻薬密売人の取り締まり、警察のモラル、ケシ栽培に対する意識等)が改善したわけでもないこ

とから、ケシ栽培地域の減少は一時的なものであった。水が比較的豊かで広い土地をもっている農民

は通常、ケシ栽培のための土地なし農民を雇用していることから、こうした土地なし農民は生活の手

段を奪われることとなった。また、ケシ栽培への依存度が上流域の農民よりも高い、下流域の農民に

ついても、リスクを軽減する重要な手段であったケシ栽培ができなくなることにより、また、農業外

の雇用機会も限られていることから、マザリシャリフといった都市や、イランやパキスタンに出稼ぎ

に出ることを余儀なくされることとなっている。

さらに、注意すべき点は、ケシ栽培の取り締まりの強化された地域から、取締りの弱い地域に農民が

移動することである。2001年にタリバーン政権下でケシ栽培の取締りが強化されたときや、また、現

政権下で取締りが強化された2005年にも、ナンガハル州からバルフ州に多くの農民が移動して、地主

と分収契約を結んでケシ栽培を行っている(2005年には5千人が移動してきた、という報告がある)。

バルフ州に隣接するクンドゥズ州では、ケシ栽培はほとんど行われていない。これは、河川の上流域

にあり潅漑施設も比較的整っていることから、二毛作(米や綿花)が可能であり、食糧の確保が比較

的容易であることによる。また、土地なし農民の割合も比較的少ない。すなわち、ケシ栽培に頼らな

くても基本的に生活が成り立つ、という違いがある。

ナンガハル州におけるケシ栽培の取締り強化においても、水が比較的豊かにあり、ジャララバードの

近くに位置する農家の場合は、政府やドナーによる生活手段の多様化のプロジェクトの恩恵を受けて

野菜生産や乳製品の生産を増加したり、必要に応じて都市に出かけたりすることができることから、

ケシ栽培の禁止を概ね歓迎している。一方、同じナンガハル州でも、都市から遠隔地にあり、水への

アクセスが悪くケシ栽培への依存が高かった地域においては、上記バルフ州の状況と同様に、ケシに

代替する収入創出手段がないことから、現地の状況が好転するまでの間、パキスタンに出稼ぎに出ざ

るを得なくなっている。

条件の悪い地域に住む農民の場合、ケシ栽培の代替として小麦を植える場合が多いと報告されている。

これは、野菜などを作っても、市場へのアクセスが悪いことから換金できる前に痛んでしまう可能性

が高いためである。特に、野菜のような傷みやすいものを速やかに運ばなければならない時に、地方

の役人や警察が足元をみて賄賂を要求してくる、という問題もある。

ケシ栽培の取り締まりによって生活手段を奪われた農民は、ケシ栽培の禁止に対して強い不満をもっ

ており、それが反政府勢力の台頭を促し、治安が悪化する結果ともなっている。

このように、ケシ栽培の撲滅は、代替作物、水へのアクセス、市場への距離、地域の治安維持といっ

た要素と密接に関係しており、ケシ栽培を強制的に禁止しても、これらの課題を解決しなければ、ケ

シ栽培が復活する、都市に人口が流入する、周辺諸国への不法移民が増加する、地域の治安が悪化す

る、といった問題が起きることとなる。すなわち、農民の生活手段の再構築を必ず同時に達成してい

かなければ、ケシ栽培の恒久的な撲滅は不可能であり、総合的な観点から取り組むべき問題であるこ

とを、よく認識する必要がある。

(3) 取締り側の汚職

汚職の一例として、警察官幹部は違法取引の遂行を守る(見逃す)代わりに、麻薬取引人から多

額の賄賂を受けとっており、それは 6 ヶ月間で 25,000 米ドルから 100,000 米ドルにも及ぶと言わ

197 Adam Pain (2008), “Let Them Eat Promises”: Closing the Opiun Poppy Fields in Balkh and its Consequences, AREU、 Adam Pain (2007), ”The Spread of Pium Poppy Cultivation in Balkh” AREU、David Mansfield and Adam Pain (2007), Evidence from the Field: Understanding Changing Levels of Opium Poppy Cultivation in Afghanistan, AREU、David Mansfield (2006), Opium Poppy Cultivation in Nangarhar and Ghor, AREU.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

106

れている 198。2008 年Corruption Perceptions Index(CPI)のランキングによると、アフガニスタン

の汚職に関するガバナンス・インディケーターは180国のうち下位176位にランクされている 199。

(4) 国内の麻薬使用

薬物の需要は国内外両方にあり、国外の需要が高いことは言うまでもないが、国内でも薬物乱用

が氾濫している。アフガニスタンにおいて収穫されたアヘンの 5~10%がアフガニスタン国内にお

ける少なくとも 20 万人麻薬常用者に消費されていると報告されている 200。その影響は女性、若

者、失業者、傷痍退役軍人、前戦の戦闘員に及んでいる。特に女性の場合、女性自身が中毒でな

くても家族の一員が中毒になることによって、家族の健康面や財政的・社会的な問題を女性が抱

えなければならず、麻薬中毒による間接的な影響を受けてしまうと言われている 201。

2.1.7.3 政府の方針

アフガニスタンは麻薬密売人によるマネー・ロンダリングの規制を促進する国連協定である、国

連腐敗防止条約(UNCAC)に批准している。これにより、麻薬撲滅に資する金融部門、資産獲得

と登記、所得税など法制度の改革がいっそう強化され、マネー・ロンダリングの縮小によって政

府の麻薬対策に寄与している。麻薬対策(CN)は、麻薬の使用・密売・生産を縮小・廃止させる

ための政策やプロジェクトを含んでいる。アフガニスタンにおけるCNの目標は、薬物の不法取引

の規制に伴うケシやケシに代わる非合法作物(大麻等)の栽培の縮小に始まり、 終的には完全

に根絶することにある。 終的な政治目標は、アフガニスタンの人々の生活を向上させるための、

麻薬経済から市場主義経済への転換である202。

CNはADNSにおける横断的イシューの一つとして、国家開発戦略上重要な位置を占めており、そ

の実施体制としては、MCNがアフガニスタンの憲法・薬物法と薬物政策(Afghan Drug Law and Drug

Control)、国家薬物規制戦略(National Drug Control Strategy)などを統合して調整し、政策決定

を行い、麻薬対策活動と成果のモニタリングおよび評価を主導している。CNの具体的な戦略を記

したものが「国家薬物対策戦略」であり、その概要を以下に示す。

囲み記事 2-8 国家薬物対策戦略(National Drug Control Strategy 2006年1月)

(1) 薬物需要の削減(Demand reduction)

薬物所持や消費は不法であるという国民の認識を高めるためのキャンペーンと、薬物中毒の治療とリハビリ

の施行。国際的な麻薬密売の監視や統制を請け負っている国際機関のサポートとデータ共有(麻薬取引を縮

小させ、供給を抑制することで需要を削減)。

(2) 代替生計手段の創出(Alternative livelihood)

DfID、WB、ADB、ECなどの国際機関が中心となり、社会開発の全領域を網羅するための代替生計対策を促

進。

198 Cyrus Hodes and Mark Sedra (2007), “The Opium Trade,” Adelphi papers, 47, no. 6 (2007) 199 Transparency International, Corruption Perceptions Index 2008年(http://www.transparency.org/policy_research/surveys_indices/cpi/2008) 200 FOREIGN &FCO Commonwealth Office, Counter-Narcotics (http://www.fco.gov.uk/en/fco-in-action/uk-in-afghanistan/Counter-Narcotics/) 201 アフガニスタン政府 (2008) ANDS 202 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

107

(3) 麻薬の根絶(Eradication)

MCNは画像衛星により作成した地図をもとに、根絶と検証をすべき対象を絞る。この活動には危険が伴うた

め、内務省、国防省、ISAFの支援のもとに実施する。対象となるのは大規模なケシの栽培者、他の作物に比

較的転換しやすい地域、麻薬取引人、汚職官僚など。麻薬取引人や汚職官僚は所得税法違反(income tax provision)など税法ほかによっても裁かれる。

(4) 啓蒙(Public awareness)

MCNの責任のもと、麻薬は個人だけでなく社会を脅かす違法行為であるという認識を広め、麻薬の問題は犯

罪に関与し刑罰に値するということと政府のゼロ・トレランス政策を伝えることによって、CNに関する知識

と情報の周知・促進を計る。

(5) 法執行(Law enforcement)

内務省は薬物の違法取引がアフガニスタンでのテロリスト、腐敗、他の重大な犯罪活動の基となるため、法

と秩序にとって も深刻な脅威であるとみなしている。アフガニスタン麻薬対策警察(Counter Narcotics Police of Afghanistan:CNPA)や特別取締部門(specialist interdiction unit)で構成されたアフガニスタン特別

対麻薬部隊(Afghan Special Narcotics Force:ASNF)が設立され、麻薬犯罪に対処する体制が確立した。国内

のすべての州において警察と州知事および警察署長の指揮・指導力が行き渡る統合的アプローチが必要とさ

れる。

反麻薬法(CN Law)の施行はケシ栽培縮小や麻薬違法取引だけにとどまらず、かつて生産された化学薬品の

規制も行っている。アフガニスタンはウィーン条約1988(1992年署名)に従った適切な対応を採用。協定は

麻薬を医学や科学的な目的にのみに使われること明確にし、違法薬物の生産、輸出入、売買を定義する規制

システムを設立し、アフガニスタンの内外または国境付近でこれらの規制を効果的に実施する。

法制度の強化において優先すべき事項は、違法な生産において使用したりや転換できる前駆体科学物質

(precursor)の出入りの規制である。戦略としては、CN国境検査所を改善するための関税法を改正し、アフ

ガニスタン政府に関税国際協定(Custom International Agreement)への加入を促進することなどである。また、

これらの制御的機能を担う薬物規制委員会(Drug Regulation Committee)を設立した。

(6) 刑事裁判(Criminal justice)

麻薬犯罪者の逮捕および起訴を効果的かつ公平に遂行するために、より多くの裁判官、検察官、捜査官が必

要となる。そして、法廷での問題処理能力をどのように改善するか考慮しなければならない。

MCNによって中央麻薬法廷(Central Narcotics Tribunal)の開設をカブール以外の州にも拡張する計画が立案

された。刑事裁判特別捜査官(Criminal Justice Task Force)を擁する法廷、CNPAから120チームのアフガニス

タン警察調査官、アフガン検察官、および上訴法廷裁判官が必須となる。

(7) 国際的・広域的協力(International and regional cooperation)

麻薬は国内だけでなく地域や国際問題であり、生産地だけでなく輸送国や麻薬消費国など他の国々に影響を

及ぼす。関連国で影響を受ける住民や密売問題を克服するためには、国際的な情報収集、情報共有、調整お

よび協力のシステムが必要となる。MCNは、外務省からの支援でもっとも影響力のある隣国、イランとパキ

スタンの国境管理のため、地域協力への具体案を提示している。今後は、パキスタン、トルコ、トルクメニ

スタン、タジキスタン、ウズベキスタン、およびイランとの協力による麻薬取締に向けて、以下の事項を実

施していく必要がある。

• 広域の麻薬政策の協力に従事する MCN、内務省および国防省の能力の向上

• 国際的・地域協力のための既存のフォーラムの強化

• 条約締結国と定例会議を運営することによる国際協力メカニズムの評価とその強化

(8) 制度構築(Institution building)

MCNは麻薬対策に関して、MAIL、MRRD、司法省、国防省、教育省、外務省、財務省、地方自治省を統括

する。一方、内務省はAfghan Eradication Force(AEF)、ASNF、CNPA、Central Eradication Planning Cell(CPEC)など、麻薬政策に取組む組織等の管理と法規制の強化を行う。

2.1.7.4 ドナーの支援の概況

麻薬対策の法と秩序の分野に直接関わっている国はアメリカとイギリスの機関、そしてECである

(日本は直接的には下記CNTFに出資しているのみ)。世界銀行、ADB、ECは主に、ケシ栽培地

域における農業開発、生活支援、能力開発などを通じてケシ栽培撲滅に関わっている。なお、麻

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

108

薬(ケシ)対策については、英国が中心となりMCNをカウンターパートに実施されてきたが、そ

の成果に不満な米国政府は内務省経由でのケシ対策を実施し、その間の調整がなされないことが

問題となっている。

麻薬撲滅信託基金(Counter Narcotics Trust Fund:CNTF)203

CNTFは2005年10月に公式に確立された。CNTFの目的は、アフガン政府のNDCSの施行に必要な

資金を調達することである。CNTFの一部であるGood Performers Initiative(GPI)204は、ケシ撲滅

に向けた持続的な進展を遂げた州、または開発プロジェクトの経済援助の効果によってケシ栽培

ゼロを存続させた州を対象にインセンティブを与える支援である。2006年には6州がケシ栽培ゼロ

の州として100万米ドル支払われ、8州が、ケシ栽培が1,000ヘクタール未満であることによって50

万米ドル支払われた。また、2007、2008年に、ケシ栽培ゼロの州が7州から合計13州になったこと

をうけて、そのうちの7州が、その改善に対して50万米ドルの報奨を受け取った。2008年6月、GPI

調査委員会はGPIの基金を用いた34州のプロジェクトを承認した(合計約15百万米ドル)。

以下の表は各ドナーのCNRFに対する拠出金の状況である。約1億米ドルが17のドナーによってコ

ミットされ、そのうち76百万米ドルがCNTFへ、24百万米ドルがGPIへ割り当てられた。しかし、

実際に拠出された金額は62百万米ドルである。

出所: UNDP Afghanistan Counter Narcotics Trust Found (CNTF) ホームページより

以下に、麻薬・ケシ栽培撲滅にかかるドナーの支援の概要を示す。

203 United Nations Development programme, Afghanistan, Counter Narcotics Trust Fund (CNTF) (http://www.undp.org.af/whoweare/undpinafghanistan/Projects/sbgs/prj_cntf.htm) 204 同上

表 2-12 2006年~2007年におけるCNTF出資ドナー国(米ドル)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

109

表 2-13 麻薬・ケシ栽培撲滅にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 米国国務省麻薬

法執行事務局205 ケシ栽培の根

絶と代替生計

手段の創出

・ アフガン政府内務省における「ケシ撲滅部隊」(Poppy Eradication Force :PEF) を支援し、南部を中心とする、ケシ栽培根絶の取り組みが不十分、または州統

治が不可能な地域を対象に法の支配を広げ、ケシ収穫を縮小し、翌年の植え付

けを抑制する。 ・ GPIのスキームにより、インフラストラクチャーの構築、地元市民の雇用、並び

に州内でのケシ栽培の減少・排除に対して指導力を発揮している州知事を支援

する。 情報提供 ・ 米国大使館カブール麻薬課セクション、INLアフガニスタン・パキスタン事務所

及びを通して、NDCSによるアフガン国民に対する麻薬撲滅のための情報提供を

支援する。 薬物需要の削

減 ・ 薬物治療センターへの支援として、5つの地域(ワルダク、タハール、ホースト、

バーミヤン、ダイクンディ)の治療プログラム、移動式薬物治療クリニック等

への支援を行う。 ・ 女性を対象とした治療(国内の麻薬中毒者の15%が女性)のために、カブール及

びバルフにおいて女性専用の治療施設を開設 裁判と法の支

配 ・ 司法セクター支援プログラム(Justice Sector Support Program:JSSP)により、ア

フガニスタンの刑事にかかる諸機関および法律専門家の能力を開発、強化。 ・ 刑務所の施設・運営の強化。

抑止活動 ・ CNPAの捜査能力や法執行能力(麻薬の押収、密売人逮捕および裁判)を強化し、

自立的な法執行機関を設立する。 イギリス206 全般 ・ MCNの能力開発 裁判と法の支

配 ・ 反麻薬対策のための刑事裁判タスクフォース(Criminal Justice Task Force:CJTF)

設立の支援(CJTFは薬物違反者の起訴を目的として、アフガニスタンの調査官、

検察官および裁判官で構成されている) 抑止活動 ・ 麻薬密輸業者の摘発、麻薬取引ネットワーク破壊のための、CNPAの能力強化。

ケシ栽培の根

絶と代替生計

手段の創出

・ 代替的な生計手段創出に3年以上で130百万ポンドを供出。 ・ NSPを通じたコミュニティ活動支援。 ・ National Rural Access Programmeへの拠出を通じた、道路、学校、診療所、水道

施設等への投資、雇用の創出 薬物需要の削

減 ・ 麻薬需要を縮小させるための、地域密着型の治療・リハビリ施設(カブール、

パクティア、カンダハル、ヘラート、バダフシャン、ヘルマンド)の資金提供

(2004年に170万ポンド) EC 全般 ・ 警察の給与や内務省の改革への投資 ケシ栽培の根

絶と代替生計

手段の創出

・ アフガニスタン東部のナンガハル州、ラグマン州、クナール州においてProject for Alternative Livelihoods(PAL、20百万ユーロ)を展開し、地方の行政能力の向上

とケシ栽培の代替作物の普及を実施。 抑止活動 ・ イランとアフガニスタンの国境管理・協力の強化のための資金拠出(3百万ユー

ロ) USAID ケシ栽培の根

絶と代替生計

手段の創出

・ Alternative Livelihood Program(ALP)をケシ栽培が拡大している地域、またはケ

シ栽培からの撤退にコミットした地域での経済成長促進プロジェクト活動とし

て、ケシ栽培に代わる合法作物(代替作物)の普及を推進している。農業開発

プロジェクトの活動は34州に及ぶ。特に、果物、野菜、ナッツ類のような比較

的高い現金収入の得られる作物の生産に必要な材料、技術および専門知識の提

供を行う。また、種子、肥料、および機材購入の資金調達を目的としてマイク

ロ・クレジットへの支援も行っている。

205 U.S. Department of State, INL Mission in Afghanistan (http://www.state.gov/p/inl/narc/c27187.htm) 2009年3月20日 206 FOREIGN &FCO Commonwealth Office, Counter-Narcotics (http://www.fco.gov.uk/en/fco-in-action/uk-in-afghanistan/Counter-Narcotics/) 2009年3月20日

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

110

2.1.7.5 今後の課題

Good Performers Initiativeは2007年以来、北部においては高い成功率を挙げているが、反政府組織、

麻薬取引人や麻薬貿易の影響力が強い南部は依然改善されていない。南部において、いかに援助

機関が代替作物の普及を試みても、反政府勢力の圧力がある限りケシ栽培根絶は難しい。南部に

おいては、GPIの適用のみならず、セキュリティを 重要視し、農民と反政府勢力とのつながりを

断絶したうえで、代替作物、農業プロジェクトなどの援助を行うことが必要である。そして、南

部だけではなく北部などのケシ栽培が撲滅した州でも再びケシ栽培に着手することがないよう、

治安の維持改善と代替生計手段のなど周辺問題を改善するとともに、引き続きモニタリングし息

の長い援助を行うことが重要である。

先にタリバーンの圧力(または方針)によりケシ栽培が一時的に減少したことを述べたが、ケシ

栽培以外の生計手段が少ないこともこの問題を複雑なものとしている大きな理由である。合法的

な農業を発展させるためには、政治的な安定や栽培技術に関する支援にとどまらず、潅漑水路や

農産物の運搬のための道路、流通のための市場などの経済インフラを整備することも重要である。

また、国民全体の麻薬問題に対する認識も重要で、麻薬の身体的・精神的な害を訴える啓蒙広報

活動の必要性は無論のこと、長期的には識字率を向上させるなど、初等・中等の教育全般の整備

も犯罪行為に対する意識向上のためにも不可欠である。また麻薬中毒の予防と治療などの保健医

療設備の整備など、基礎医療の提供システム向上はリスクの軽減、病気による出費の軽減につな

がるので、ケシ栽培撲滅にとっても重要な課題である。

ある州で成功した例が他の州にも適応できるわけではないことが、今回の南北のケシ状況格差を

見ても明白である。それぞれの州や地域の特徴(地理的条件、政治支配体制、経済状況、インフ

ラ整備、治安、文化、慣習など)を把握し、各州固有の実情に即したアプローチが必要である。

麻薬政策全般において、セキュリティ、経済成長、ガバナンスの各観点から、相互の干渉を分析

しつつ、包括的にアプローチすることが重要である。効果的そして効率的な実施のためにも、ド

ナー間の連携および相互の影響分析とその評価も非常に重要である。短期的には政治的安定と生

計維持のための合法的農業手段の育成が急がれようが、他の色々な要因に対しても積極的な支援

が望まれる。

2.1.8 治安とガバナンス

2.1.8.1 治安状況と一般市民の犠牲

(1) 治安状況

2001年のタリバーン政権崩壊以降、アフガニスタンの治安は一時安定していたが、2006年以降か

ら再び悪化傾向にある。2008年は、タリバーン政権崩壊後、 も治安が悪化した年となり、前年

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

111

度と比較しても、反政府活動やテロ攻撃を含む事件数が、31%増加した207。2008年の後半6か月間

の事件数も、月平均で857件となり、同年前半の625件を大幅に上回る結果となった。

2008年後半における事件数増加の背景には、暖冬の影響により、冬季には減少するはずの反政府

活動が減少しなかったことに加え、今まで安全とされてきた地域において反政府活動が増加して

いることも考えられる 208。また 近の傾向として、タリバーンをはじめとする反政府分子

(Anti-Government Elements:AGE)による攻撃の方法が巧妙となってきていることが挙げられる。

反政府分子による攻撃の方法としては、暗殺、脅迫、誘拐、遠隔操作による攻撃、即席爆破装置

(Improvised Explosive Device:IED)の使用、自爆テロなどがあり、ターゲットは、政府関係者や

宗教学者、援助関係者、道路建設のプロジェクトサイトなど、広範に及ぶ。また市民や警察官を

狙った無差別な攻撃も続いている209。攻撃は政府の本拠地であるカブール市内にまでに及んでお

り、2009年2月には複数の政府関係省庁がテロの標的となっている。さらに今まで治安が比較的安

定していた北西部のバギス州やファリアブ州においても反政府活動が活発化しており、これらの

活動による治安の悪化は、復興・開発援助や人道的支援の取り組みにも大きな影響を及ぼしてい

る。2009年以降においても、国内の治安が回復する兆しは見えておらず、逆に選挙実施や外国部

隊の増員が予定される中、治安が一層悪化するとの見方が強い。

地方においてタリバーンをはじめとするAGEの支配が強まる一方、政府がアクセスできる地域に

深刻な影響が出ている。2008年12月において政府がアクセス可能な郡は、全国約400郡210のうち231

郡とされており、10の郡では、政府の管轄が全く及んでおらず、また165の郡においても、アクセ

スが非常に困難な状態となっている211。

(2) 一般市民の犠牲

UNAMAによると、2008年の一般市民の犠牲者は、2,118名で、前年度に比べて40%増となった212。

犠牲の多くは、治安が悪化している南部、南東部、東部に集中している。これら犠牲者のうち、

55%はテロ攻撃などの反政府活動によるものであるが、39%は、米国をはじめとする外国部隊主

導の軍事作戦の巻き添えとなった一般市民である(残り6%は不明)。このような軍事作戦による

一般市民の犠牲は、国際社会による厳しい批判を受ける一方で、アフガニスタン市民の反米感情

を醸成し、タリバーンの支持基盤を強める原因ともなっている。また巻き添えとなった一般市民

の犠牲のうち、68%が空爆によるものであるが、特に2008年8月のヘラート州シンダンド郡での米

軍主導による空爆で60名の子どもを含む合計90名の犠牲者が出たことは213、国内外の世論を大き

207 UN General Assembly Security Council (2009), The Situation in Afghanistan and its implication for international peace and security: report of the Secretary-General (A/63/751-S/2009/135), pp 5.

209 US Department of Defense (2009), Progress toward Security and Stability in Afghanistan: Report to Congress in accordance with the 2008 National Defense Authorization Act (Section 1230, Public Law 110-181), pp. 7. 210 国内の郡の数を約400としているのは、郡の間での併合や分割が続いており、現在においても総数が変動的で

わかっていないためである。 211 UN General Assembly Security Council (2009), The Situation in Afghanistan and its implication for international peace and security: report of the Secretary-General (A/63/751-S/2009/135), pp. 5. 212 同上., pp. 12-13. 213 BBC, Strike 'killed 60 young Afghans', 2008年8月http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/7582170.stm,

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

112

く刺激する結果となった。その後、2009年2月に、アフガニスタン国防省Abdul Rahim Wardak大臣

と当時のISAF司令官David McKienan氏214の両者は、軍事作戦において、一般市民の犠牲を減少さ

せるべく、アフガニスタン国軍(ANA)がより大きな役割を果たしていくことで合意した215。し

かし、2009年5月、ファラー州における米軍主導の対タリバーンへの空爆が、再び女性と子供を含

む多くの一般市民の巻き添えを生んだように、両者の合意が成果を挙げているとは言えない状況

にある。武装勢力と一般市民の区別が非常に難しい状況の中、実際に一般市民の犠牲者減少につ

なげることは決して容易ではない。

一方、反政府分子が一般市民を狙う攻撃も依然として続いている。特に南部において、学校や児

童、教育関係者が狙われるケースが、2006年以降増加している(詳細は「2.2.4 教育」を参照)。

その他、地雷の犠牲となる一般市民も多く報告されており、2001年以降、5,000人以上の人々が負

傷するか命を落としている216。現在でも地雷が除去されていない州は2州を除く、アフガニスタン

全州に及んでいる217。

2.1.8.2 アフガニスタン政府の取り組み

治安の向上は、アフガニスタン政府にとって 重要課題のうちの1つである。治安の向上は2003

年を基準年とするアフガニスタン版MDGsにおいても、9番目に掲げられており、以下のとおり、

目標達成のための主要ターゲット6項目が示されている。

(i) 2010 年までに ANA を改革し、専門集団化する。

(ii) 2010 年までに警察(Afghanistan National Police:ANP) を改革し、再編および専門集団

化する。

(iii) 2010 年までに武器の誤用と違法所持されている武器の比率を低減させる。

(iv) 2013 年までにすべての対人地雷の処理を行い、2015 年までにその他の爆発物の処理を

行う。

(v) 2007 年までにすべての備蓄された対人地雷の処理を行い、2020 年までに他の全ての廃

棄すべき又は不必要な爆発物の処理を行う。

(vi) 2015 年までに全 GDP(合法+違法)に占めるアヘンの占める割合を 5%未満に、2020 年

までに 1%未満にする。

214 David D. McKiernan氏は治安の安定が順調に進捗していないことの責任をとり、5月11日付で更迭された。後任

にStanley McChrystal元米統合特殊作戦軍司令官が起用されることとなっている。BBC, US sacks top Afghanistan general, 2009 May 11, retrieved from http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/8044735.stm, on 2009, May 12. 215 UN General Assembly Security Council (2009), The Situation in Afghanistan and its implication for international peace and security: report of the Secretary-General (A/63/751-S/2009/135), pp 7. 216 ANDS Chapter 5 Security, pp.55-56. 217 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

113

またANDSにおいても、治安の向上は、8つの重要課題項目のうちの第1項目に挙げられており、

目標年までのターゲットが以下のように設定されている218。

(i) ANAの能力強化。また 2013 年までに軍の規模を 8 万人へ増強する 219。

(ii) ANP の能力強化。また 2013 年までに 8.2 万人の警察官を配備する。

(iii) 2011 年 3 月までに、すべての非合法武装組織を解体する(Disarmament of Illegal Armed

Groups:DIAG)。

(iv) アフガニスタン版MDGs220に沿って、2010 年までに、地雷や不発弾がある地域が 70%減

少される。また 2012 年までに、特定されている地雷、不発弾、爆発性戦争残存物(Explosive

Remnants of War:ERW)の 90%の除去が完了する。

(v) 2013 年までにケシ栽培が行われている地域が 2007 年度レベルの半分となる。

ANDSにおいて特に強調されているのは、ANAやANPといったアフガニスタン治安部隊(Afghan

National Security Forces:ANSF)の能力強化である。また能力強化が実施される上で、治安セクタ

ーのオーナーシップを、外国部隊からANSFへとシフトさせるための取り組みが謳われている。し

かしながら、ANSFの能力は、依然として非常に限られており、現政権の国内支配を維持するため

には、今後も外国部隊による治安維持が必須となっている。

2.1.8.3 治安対策における外国部隊の任務の現状

(1) ISAFとOEF

2001年9月の米国同時多発テロ発生後、米国は国際テロ組織アル・カーイダを庇護するタリバーン

政権に対して、不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom:OEF)を開始し、北部同盟と手を組

みながら同政権を崩壊させるに至った。一方これとは別に、2001年12月のボン合意に基づき、首

都カブールの治安を維持する目的でISAFが国連安保理決議1386号を受けて派遣された221。その後

2003年8月以降、ISAFの指揮権がドイツ・オランダからNATO軍へ委譲され、2004年以降からNATO

主導となったISAFは、カブール以外の地域へも治安維持活動を展開した222。2004年6月には、北

部・西部地域へ、2006年7月には南部地域、同年10月には東部地域へと、ISAFの活動は、アフガニ

スタン全土に及んだ223。この間も、米国主導のOEFは東部及び南東部で継続されていたが、2006

年までに、OEFのすべての活動地域の権限が米国からNATO主導のISAFに委任されることとなっ

た。また2008年9月以降、OEFとISAFの活動を一体化させる目的で、OEFの指揮系統も、ISAFへと

218 UNDP Afghanistan, MDGs Enhance Security (Goal 9), retrieved from http://www.undp.org.af/MDGs/goal9.htm, on May 3, 2009 219 その後2008年9月に、JCMBの承認を受けて、ANAは、2011年までに13.4万人体制へ増強されることが決まった。

UN General Assembly Security Council (2009). 220 2003年を基準年とする。 221 また2002年3月には政治ミッションのみを担う国連アフガニスタン支援団(UN Assistance Mission in Afghanistan: UNAMA)が発足した。UK House of Commons, Defense Committee, UK Operations in Afghanistan (2007) Thirteenth Report of Session 2006-07 Report,together with formal minutes ,oral and written evidence,pp 7. 222 同上, pp. 8. 223 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

114

移譲され、米国人の司令官McKiernan氏を頂点としたNATO軍主導のISAFが、アフガニスタン全土

においての軍事活動の責任と指揮を担うこととなった。しかし、治安が一向に安定しない中、2009

年5月をもってISAF司令官McKiernan氏が更迭され、後任にStanley McChrystal元米統合特殊作戦軍

司令官が起用されることとなった224。

ISAFの中央司令部は首都カブールにあり、その他、東西南北には、4つの地域司令部が設置されて

いる。2009年4月時点で、ISAFは、5.8万人、42ヶ国から構成されている(表 2-14)225。このうち、

26ヶ国がNATO加盟国である。一方、OEFは、1.9万人の多国籍軍により構成され、うち1.8万人が

米軍兵士となっている226。また1章において述べたとおり、米国オバマ政権は、2009年夏までに計

2.1万人の米軍・NATO軍の増兵を行うことを発表している。しかしながら、すでにこれだけの兵

力を投入していても、治安維持が困難な中、さらなる増派が戦況を転換できるかどうかについて

は、悲観的な意見もある。

表 2-14 ISAFへの貢献国と人数

ISAFへの貢献国 人数 人数 人数 人数アルバニア 140 フィンランド 110 リトアニア 200 スペイン 780

オーストラリア 1,090 フランス 2,780 ルクセンブルク 9 スウェーデン 290オーストリア 2 グルジア 1 オランダ 1,770 マセドニア 170

アゼルバイジャン 90 ドイツ 3,465 ニュージーランド 150 トルコ 660ベルギー 450 ギリシャ 140 ノルウェー 490 ウクライナ 10

ボスニア・ヘルツェゴビナ 2 ハンガリー 370 ポーランド 1,590 アラブ首長国連邦 25ブルガリア 820 アイスランド 8 ポルトガル 30 英国 8,300

カナダ 2,830 アイルランド 7 ルーマニア 860 米国 26,215クロアチア 280 イタリア 2,350 シンガポール 20

チェコ 580 ヨルダン 7 スロバキア 230デンマーク 700 ラトビア 160 スロベニア 70 合計 58,391エストニア 140

出所:ISAF Facts and Figures: 2009, April 3.

(2) PRT

ISAFの司令下には、軍民混成からなる地方復興支援チーム(PRT)227が設置されており、現在14

の主導国のもと、26のPRTが進行している(表 2-15 参照)228。PRTの目的は、地方の治安安定化

と復興支援に力を入れることで、タリバーンをはじめとする反政府分子の支持基盤を弱め、政府

の支配地域を拡大することにある229。この目的のもと、主に学校やモスクの建設、道路の修復や

建設、井戸水の確保といった即効事業(Quick Impact Project:QIP)や、ANSFの能力強化といっ

た治安セクター支援が行われている。ただし、各PRTの支援内容は地域や主導国により、それぞ

れ異なる。例えば、米国が主導するナンガハル州のPRTでは、Agri-Business Development Team

(ADT)の設置を通じた大規模な農業支援事業が行われている。また文民80名、軍人40名から構

224 BBC, US sacks top Afghanistan general, 2009 May 11, retrieved from http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/8044735.stm, on 2009, May 12. 225 ISAF (2009): Facts and Figures,pp. 2. 226 US Department of Defense (2009), Progress toward Security and Stability in Afghanistan, pp. 8. 227 当初PRTは、米国の発案で導入された。 228 Katzman, Kenneth (2009), Afghanistan: Post-Taliban Governance, Security, and U.S. Policy (Congressional Research Service). Pp. 37. 229 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

115

成され、 も「文民的なPRT」といわれる英国主導のヘルマンド州PRTでは、州政府と反政府勢力

との和解や麻薬対策が支援されている230。

NGOなどの援助関係者間での、PRTの受け止め方は様々である。軍のエスコートにより復興支援

や人道支援の業務が進めやすくなる反面、援助活動が、軍事活動との関わりをもって見られ、中

立の立場を保つことが困難といった声も聞かれる231。

このような状況の中、現在ISAFは、PRTの指揮を軍民から民間組織、並びに、アフガニスタンの

リーダーシップへ早期に移譲する方向を検討している。これが実現すれば、将来のPRTに関する

業務調整は、IDLG(Independent Directorate for local Governance)232の主導で行われることとなる

(IDLGについては、「2.1.8.5 地方における治安維持とガバナンス」を参照)233。米国主導のパン

ジシール州PRTでは、すでに2006年から軍から民へPRT主導権が移行されている234。しかし、治

安が不安定な中、このようなPRT主導権移行の取り組みは、表面的な要素が強いといえる。

表 2-15 PRTの活動地域と主導国

地域司令部 - 北 主導国 地域司令部 - 西 主導国クンドゥス ドイツ ヘラート イタリアバルフ スウェーデン ファラ 米国バダフシャン ドイツ バドギス スペインバグラン ハンガリー ゴール リトアニアファリアブ ノルウェー

地域司令部 - 東 主導国地域司令部 - 南 主導国 バーミヤン ニュージーランドカンダハル カナダ パルワン 米国ヘルマンド 英国 ヌリスタン 米国ウルズガン オランダ パンジシール 米国ザブール 米国 パクティカ(ガルデズ) 米国

ガズニ 米国ホースト 米国パクティカ(シャラン) 米国ナンガルハル 米国クナール 米国ラグマン 米国ワルダク トルコロガール チェコ

出所:NATO ISAF website:http://152.152.94.201/isaf/topics/recon_dev/prts.html

一方、日本政府は、2009年から、リトアニア主導のゴール州チャグチャランにおけるPRTに日本

人の文民要員を2~3名派遣することを決定している235。これは、開発援助活動強化に取り組むリ

トアニアの要請に応えるもので、政府は、今後も、その他のPRT主導国から同様のニーズがあれ

230 UK in Afghanistan Foreign & Commonwealth Office, Overview of Reconstruction Team, retrieved from http://ukinafghanistan.fco.gov.uk/en/working-with-afghanistan/prt-helmand/overview-prt-helmand, on 2009, May 19. 231 同上, 37. 232 IDLGは、地方における政府の支持基盤を強化する目的で2007年にカルザイ大統領により設置されている。 233 UN General Assembly Security Council (2008), The situation in Afghanistan and its implications for international peace and security (A/63/372-S/2008/617), pp. 7. 234 Katzman, pp. 38. 235 外務省プレスリリース:「アフガニスタンPRT文民支援チーム」の派遣について、2009年1月9日、

http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/press/release/21/1/1186108_1090.html、2009年5月3日閲覧。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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ば、日本人文民要員の派遣を検討するとしている。なお、日本は、既に2007年から、リトアニア

主導を含む8つのPRTと連携し、NGOや現地行政機関への無償資金協力を計41件実施している236。

2.1.8.4 治安セクター改革の進捗

アフガニスタンにおける治安セクター改革は、ANSFである(i)ANA及び(ii)ANPの改革、並びに、

(iii)武装解除、動員解除、除隊兵士の社会復帰(Disarmament, Demobilization, Reintegration:DDR)

と非合法武装集団の解体(DIAG)、(iv)司法改革、(v)麻薬対策の5分野を中心に進められてきた。

当初これら5分野の改革を支援する上での主導国は、それぞれ順に(i)米国、(ii)ドイツ、(iii)日本と

UNAMA、(iv)イタリア、(v)イギリスとなっていたが、現在では、改革の遅れや任務終了を受けて、

政府や主導国間の調整においても変化が出てきている237。以下において、主要治安セクターの現

状や課題をまとめる。

(1) ANSF

アフガニスタンにおいて、外国部隊と共に治安維持にあたるのは、ANAとANPを含むANSFであ

る。現在米軍は、ANSF強化を目的に、民間人を含む約7,000人から構成されるCombined Security

Transition Command – Afghanistan(CSTC-A)を設置し、アフガニスタン治安部隊の包括的な能力

強化に取り組んでいる238。これは、今後、米軍をはじめとする外国部隊が治安のリーダーシップ

をANSFに移譲し、アフガニスタンでの軍事活動を縮小していくために必要な取り組みであるとい

える。2007年から毎年2.6万人の新規の人材がCSTC-Aを通じてトレーニングされており、2009年

には、2.8万人のトレーニングが予定されている239。また、ISAFも、Operational Mentor and Liaison

Teams(OMLTs)を通じて、ANSFの能力強化を支援している。OMLTsは、NATO同盟国からの20

~40名の軍人により構成されており、現在52チームが、ANAの能力強化を行っている。

(2) ANA

ANAはアフガニスタン国防省の管轄下にあり、現在5つの師団から構成されている。中央師団が

2004年5月にカブールに設置され、その後ISAFの地方司令部に追随して、マザリシャリフ、ヘラー

ト、カンダハル、ガルデズに地方司令軍が設置された240。現在、すでに約7.9万人の兵士が外国部

隊によりトレーニングされ、PRTと連携して全国に配備されている。これは、2004年時点で8,500

人にすぎなかったANA兵員数と比べ、大幅な増強である。アフガニスタン国務省や外国部隊も

ANA強化や専門集団化に関して、一定の評価を示しており、2008年8月からは、カブール市内の治

安維持責任が、外国部隊からANSFに移譲されている241。また、カブール州の治安維持責任につい

ても2009年内に外国部隊からANAへ移譲される予定である242。一方で、現在の体制では、依然と

236 同上. 237 日本主導のDDRは2006年6月に終了している。 238 UN General Assembly Security Council (2009), The Situation in Afghanistan and its implication for international peace and security: report of the Secretary-General (A/63/751-S/2009/135), pp. 6. 239 NATO (2009), Afghanistan Report 240 同上. 早稲田大学SADEPチーム、『開発政策・事業支援調査:平和構築とJBIC:平和構築の概念整理とアフガ

ニスタン事例研究」』、2006年、92項。 241 Katzman, pp. 38. 242 Katzman, pp. 38 & US Department of Defense, 45.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

117

して国内全土の治安維持に十分とはいえず、すでに2011年までに、13.4万人へ増兵されることが、

2008年9月のJCMB243の承認を受けて決まっている。今後このようなANAの増強が予定される中、

外国部隊は、それに伴ってトレーニングチームの増強を行っていく必要がある。

(3) ANP

ANPは内務省の管轄下にあり、現在約7.9万人から構成される244。当初ANP改革は、ドイツ主導で

進められていたが、汚職、人材不足、外国部隊の調整の欠如などの理由から、改革に大幅な遅れ

が生じていた。このような遅れを受けて、近年では米国が、ANA改革同様にANP改革を主導して

いる。米軍は、計7,000人から成るCSTC-Aのうち、2,500人をANPに充て、主に資機材補充や、今

まで十分な支援が行われてこなかった国境警察(Afghanistan Boarder Police:ABP)の能力強化を

行っている245。またCSTC-Aのもと、2007年から開始されたFocused District Development プロジェ

クトにおいては、郡レベルの警察官の能力強化が行われている。同プロジェクトは、郡レベルの

警察官をカブールに集めて集中研修を実施し、その後、郡に再配備するもので、2009年2月までに

52郡の警察官の研修が終了している。また米軍は、CSTC-Aとは別に、米軍主導のPRTにおいてANP

強化のための民間のトレーナーを600人派遣している246。さらに、2009年4月にJCMBが、8月の選

挙前までに1.5万人の警察官増強を承認したことを受けて、米国は、この増強にかかる資金及び人

的支援の大半を負担するとしている247。EUも、ANPの能力強化のために、190名のEuropean Union

policing mission(EUPOL)をISAFの活動地域に派遣している248。

しかしANP改革には依然として課題も多い。ANPを管轄する内務省では汚職が横行しており、ま

た警察官自らが不当な金銭の要求や非合法武装集団との関わりを通じて犯罪に加担するケースも

多い。また給与がANAよりも低い上、テロ攻撃や反政府活動の犠牲になる警察官の数が、ANAの

3倍を上回っており、決して魅力的な職業といえないのが現状である249。特に国内の治安が悪化す

る中で、十分なトレーニングを受けることなく配備される警察官が多く、警察官の質やモラルの

低さが深刻な問題となっている。また現在約7.9万人の警察官が、アフガニスタン法秩序信託基金

(Law and Order Trust Fund for Afghanistan:LOTFA)から給与を受けているが、実際に任務にあた

っているのは、このうちの5.7万人とも3.5万人とも推定されていることから250、LOTFAが電子給

与システムや警察官の登録制度の改善を進めているところである。

なお、日本政府はニムローズ州(アフガニスタン・パキスタン・イラン国境)における国境警察

施設建設、タハール州(アフガニスタン・タジキスタン国境)における国境管理施設建設の支援

243 JCMBは、アフガニスタン・コンパクト及びANDSの進捗状況をモニターする機関で、アフガニスタン政府と

UNAMAが共同議長を務めている。 244 女性警察を育成する取り組みが早くからなされてきたものの、依然として女性警官は、全体の1%未満に満た

ない。 245 US Department of Defense, pp. 45. 246 Katzman, pp. 41. 247 Human Security Report Project: Afghanistan Conflict Monitor, Afghanistan to boost police by 15,000, retrieved from http://www.afghanconflictmonitor.org/afghan_national_police/, on May 4, 2009. 248 International Crisis Group (2009), Policing in Afghanistan: Still Searching for a Strategy, pp. 10. 249 同上 pp. 2-3. 250 同上 pp. 2-3.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

118

を行っている。また、2009年3月に、全警察官の半年分の給与に相当する141億円をLOFTAに対し

て拠出している。

(4) DDR とDIAG

2003年から日本とUMAMAの主導で進められたのが、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰

(DDR)である(囲み記事 2-9参照)。2006年6月に任務が完了されるまで、旧国軍6.3万人の武

装解除が行われ、約5万の武器と10万の重火器が回収された251。またJICAは、2008年までに除隊兵

士を対象に職業訓練プロジェクトを実施した。しかし、DDRの対象とならなかった非合法武装集

団が全国1,800グループ、12.5万人いたことから、引き続き日本を主導国として、非合法武装集団

の解体(DIAG)が行われることとなった。2005年当初は、2007年までにDIAG業務完了を予定し

ていたが、実施は困難を極めており、現在においても完了していない。その背景には、DIAGを実

施する際に、非合法グループや武装集団の定義があいまいなため、どのグループを解体するか、

もしくはどのグループを非合法とするべきかといった範囲選定が困難となっていることが挙げら

れる252。また、これら非合法武装集団にとって、武器を拠出するインセンティブに欠けることも、

実施が進まない要因の一つといえる。なお、2009年2月までに回収された武器は、6.3万、また一

部もしくは完全に解体された非合法武装集団は502グループである。

囲み記事 2-9 DDRとDIAGの概要と日本の役割253

2002 年1 月の東京アフガニスタン復興支援会合の後、G8 諸国はアフガニスタンの治安部門改革(新

国軍創設、警察再建、麻薬対策、司法改革、DDR)の責任分担を協議し、日本とUNAMAがDDRを主

導する合意を形成し、同年12 月の大統領令により、その法的根拠が確立した。

2003 年2 月のアフガニスタン「平和の定着」東京会合では、DDR の実施期間と、現地政府側にDDR の実施体制として「アフガニスタン新生計画(Afghanistan’s New Beginnings Programme:ANBP)」を

設立することが確認された。ANBP の枠組みの中で国防省がDDR を統括することから、北部同盟の

パンジシール派(タジク人)が要職を占めていた国防省を改革し、その派閥的・民族的構成を一新し

て信頼醸成を促進することを、日本をはじめとする国際社会は強く要請した。

2003 年9 月、国防省改革とDDR に関する大統領令が布告されると、10 月から2004年3 月末までパ

イロット・フェーズが実施され、6,271 名が武装解除・動員解除に応じた。2004 年3 月の第2 回アフ

ガニスタン復興ベルリン会合では、東京会合の公約が見直され、DDR の達成目標は「全国レベル・

全軍閥に対する100 パーセントの重火器引き離しと中央政府による集中管理」と「全国レベル・全軍

閥に対する40 パーセントの武装解除、動員解除」に修正された。

その後は4 つの段階に分かれる。第1 フェーズ(2004 年5 月~7 月)で8,551 名、第2 フェーズ(大

統領選挙と議会選挙の分割により、2004 年7 月~10 月に実施)で6,837 名が対象となった。2003 年10 月に公布された政治政党法では、軍事組織を付随した政治組織は選挙に参加できる政党として認

可されない。幾つかの有力な軍閥が権力闘争で勢力を弱めたことも相まって、この頃DDR は急速に

進展する。結果、大統領選挙までに約21,700 名が武装・動員解除され、194 の部隊のうち70 部隊が

解体され、重火器集積計画(Heavy Weapon Cantonment:HWC)では使用可能な戦車・大砲の三分の

251 外務省、「日本のアフガニスタンへの支援」(2008)、http://www.qa.emb-japan.go.jp/image/afghan.PDF、2009年5月4日閲覧。

252早稲田大学SADEPチーム, 97項。 253早稲田大学SADEPチーム、『開発政策・事業支援調査:平和構築とJBIC:平和構築の概念整理とアフガニスタ

ン事例研究」』より引用。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

119

二が新国軍の監視下に置かれた。

2004 年9 月のDDR 加速化のための大統領令を受け、第3 フェーズ(2004 年10 月~2005 年3 月)

で22,330 名、第4 フェーズ(2005 年3 月~6 月)で18,737 名が対象となり、2005 年7 月に武装解

除完了式典が行われるまでに、計62,000 余名がDDR に応じた。これは、カルザイ大統領が、ファイ

ヒム副大統領を大統領選におけるランニングメイトから排除したこと、そして、イスマイル・カーン

のヘラート知事更迭劇に呼応し、他の軍閥や司令官たちが追い詰められていったことによる。結果と

して、軍閥が「政党」になるために非武装化に応じたことは、2005 年9 月の議会選挙を実施する上

で追い風となった。なお社会復帰事業は2006 年6 月に終了する予定である。

日本はDDR 主導国として、在アフガニスタン日本大使館にDDR 班を設置し、国防省との政策調整、

UNAMA との連携による国際監視団創設、ANBP への大規模な財政支援(総額10,600 万米ドル。全

体の約65 パーセントに相当)を行った。また、社会再統合についても、外務省が草の根・人間の安

全保障無償資金協力で職業訓練センターを建設し、JICA が除隊兵士職業訓練の指導員養成を行った。

2005 年6 月頃からDIAGの準備が進められた。国家開発計画によると、DIAG は「全県レベルで、全

ての非合法武装グループを2007 年までに解体すること」を5 ヵ年戦略計画としている。DIAG の法

的根拠は「火器・弾薬・爆発物に係る法律」(Law on Fire Weapons, Ammunitions and Explosive Materials)で、第1 フェーズ(選挙候補者対象。終了)、第2 フェーズ(説得を通じた武器回収。2006 年6 月~9 月予定だが、資金調達の状況により調整)、第3 フェーズ(アフガニスタン政府による時として

強制力を伴った武器回収)の3 つの段階がある。

2.1.8.5 地方における治安維持とガバナンス

地方における治安維持やガバナンスを強化する取り組みは、従来、内務省が管轄していたが、内

務省の汚職により、今までこれらの取り組みがほとんど行われてこなかった。そこで、2007年8

月に、カルザイ大統領により設置されたのが、IDLG(Independent Directorate for Local Governance)

である。IDLGの目的は、汚職を排除し、地方における治安維持やガバナンスを強化することで、

政府への信頼を回復し、政府の支持基盤を拡大するというものである254。特に、IDLGによるSocial

Outreach Program(SOP)は、政府と外国部隊が進める武装勢力対策(Counter insurgency)の一環

として考案されている255。このプログラムにおいては、特に治安が悪化している地域を対象に、

地域住民をエンパワーし256、Social Outreach Council(SOC)の設置・組織化を通じて、地域住民

らを、治安維持やガバナンス、地域開発に参加・動員させることが狙いである257。すでに現在、

ワルダク州の7郡においてSOCが設置されている258。なお、郡レベルのSOCが州レベルのIDLGに

報告し、州レベルのIDLGが中央カブールのIDLGに報告するという手順で現在計画が進んでいる259。なお、SOPは、武装勢力対策の一環ではあるものの、当初は地域パトロールや自衛といった

目的のもと提案されており、住民の武装化を想定していなかった260。

現在検討されているSOPの新たな取り組みとして、パキスタンやイランと国境を接する地域での

治安対策が挙げられる。これらの国境沿いの地域住民の参加・動員を通じて、地域レベルで治安

254 AREU (2009), The A to Z Guide to Afghanistan Assistance, pp. 36. 255 CMI (2009) CMI Report: Conciliatory Approaches to the Insurgency in Afghanistan: An Overview, pp. 6. 256 同上 257 同上, pp. 19. 258 ワルダク州は、全8郡からなる。 259 同上 260 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

120

対策と治安維持を行っていくことが狙いである261。特に、タリバーンをはじめとする武装勢力の

パキスタンやイランからのアフガニスタン侵入を地域住民の動員により阻止することが目的とさ

れる。一方、地域住民を武装化させるSOPの取り組みとしては、現在すでに実施されているPublic

Protection Force が挙げられる262。これは、激化する反政府分子の攻撃に対して、ANAやANPの能

力強化が追いつかない状況の中、米国の支援を受けて 近始まったものである。この取り組みは、

地元部族から選出した男性を武装させ、民兵として地元に配備し、治安維持に当たらせるもので

ある。民兵候補は、犯罪歴がなく、信頼の置ける25~45歳の男性を対象に、各地域の部族リーダ

ーにより選出される。選出者は、3週間の集中研修を受けた後に地元に戻り、民兵として治安維持

の任務につく。すでにワルダク州でのパイロット事業が、2009年3月より開始されており、242名

の武装民兵が同州Jalrez郡に配置されている。しかし、このような取り組みは、上述したDIAGと

相反するものであり、民族間での紛争を引き起こす可能性や反政府に転じる武装民兵の危険性も

包含している。すでに始まっているパイロット事業においても、タリバーンからの脅迫や圧力を

受ける中、民兵が任務につかないといった問題が生じている263。なお、同プログラムは、今後ワ

ルダク州での経過を見つつ、その後ガズニ州、ロガール州、カピサ州において展開される予定で

ある264。

2.1.8.6 治安とガバナンスにおける今後の課題

これまでアフガニスタンの治安、ガバナンスを改善すべく、外国部隊を主導に様々な取り組みが

なされてきた。しかし現在においても治安回復の兆しは見えておらず、依然として課題は山積し

ている。外国部隊による軍事活動においては、一般市民の巻き添えによる犠牲が、一部タリバー

ン勢力の支持基盤強化につながっている現状を十分に考慮した上で、市民の信頼を回復するため

の新たな取り組みが必要であるといえる。また今後、選挙を前に、さらなる治安の悪化が懸念さ

れる中、いかに短期間で質とモラルを備えたアフガニスタン治安部隊を育成し、配備していくか

が、当面の外国部隊及びアフガニスタン政府の課題となる。選挙前にANPの増強も予定されてい

るが、そのためには外国部隊の研修チーム増強は必須である。

2.2 人間開発の現状と課題

2.2.1 保健

2.2.1.1 保健セクターの概況

(1) 基礎的保健サービスパッケージ(BPHS)

公衆衛生省は、2002年にドナーの支援を受けて、保健指標の推定調査や国家医療資源調査等の基

礎調査を実施し、保健分野の現状の把握を行った。それらの調査結果に基づき、限られた資源や

261 IDLG (2008), Afghanistan Border Community Mobilization Project Concept Note. 262 Katzman, pp. 30. なお、部族ごとの治安維持組織は ‘Arbakai'と呼ばれている。 263 New York Times, In Recruiting an Afghan Militia, U.S. Faces a Test http://www.nytimes.com/2009/04/15/world/asia/15afghan.html, 2009年5月1. 264 Katzman, pp.30.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

121

人材を有効に活用し、保健医療サービスの質の向上とアクセスを拡大することを目的として、「基

礎的保健サービスパッケージ(Basic Package for Health Services:BPHS)」が策定された。BPHS

は、現在同国で 大かつ 優先の保健医療計画であり、2005年の改訂版が現時点における 新の

ものである。それまで大小の規模が混在し、診療内容が一様でなかった数々の診療施設を、担当

人口規模に従って、ヘルスポスト(Health Post)、基本ヘルスセンター(Basic Health Center:BHC)、

広域ヘルスセンター(Comprehensive Health Center:CHC)、郡病院(District Hospital)の4つのレ

ベルにわけ、それぞれのレベルで提供する基礎的なサービスの種類やそのために必要となる人材

及び医療器材を定めている265。州ごとにLead NGOと呼ばれる保健医療専門のNGOが指名され、州

保健局と協力しながら、州内数十箇所に及ぶBHC、CHCの管理運営を任されている。BPHSの資金

源の大半はEU、世界銀行、USAIDなどの国際機関ないし二国間ドナーである。

表 2-16 BPHSの規定する保健医療施設

施設 担当人口規模 スタッフ ヘルスポスト 1,000-1,500 男女の地域保健員1名ずつ 基本保健センター 15,000-30,000 地域保健監督者1、予防接種担当者2、男性看護師1、(女性)助産

師1 包括的保健センタ

ー 30,000-60,000 地域保健監督者1、予防接種担当者2、男性看護師1、女性看護師1、

助産師2、男性医師1、女性医師1、検査技師1、薬剤師1 郡病院266 100,000-300,000 地域保健監督者1、予防接種担当者2、男性看護師5、女性看護師5、

助産師4、男性総合医2、女性総合医2、外科医1、麻酔医1、小児科

医1、歯科医1、薬剤師1、検査技師2、放射線技師1、歯科技工士1出所:A Basic Package of Health Services for Afghanistan, 2005/1384

BPHSの提供するサービスには以下の7要素が含まれ、診療施設のレベルに応じて提供されるサー

ビス内容が規定されている。

表 2-17 BPHSの構成要素

項 目 内 容 (a) 妊産婦と新生児の健康 産前ケア、分娩時ケア、産後ケア、家族計画、新生児のケア (b) 小児保健と予防接種 拡大予防接種計画(EPI)267の提供、小児疾患の統合的マネジメント(IMCI)268

(c) 栄養対策 低栄養の予防、栄養状態の評価、低栄養の治療 (d) 感染性疾患の治療と対策 結核対策、マラリア対策、HIV対策 (e) 精神衛生 精神衛生の教育と啓蒙、患者発見、精神疾患の診断と治療 (f) 身体障害 身体障害の啓蒙、予防、教育、身体機能の評価、専門施設への紹介 (g) 必須薬剤の安定的供給 必須薬剤一覧の作成

出所:A Basic Package of Health Services for Afghanistan 2005/1384

各ドナーによるBPHSの担当区域を以下に示す。

265 A Basic Package of Health Services for Afghanistan, 2005/1384 266 BPHSを提供するスタッフ数であり、病院の全職員数ではないことに注意。 267 WHOが推進する小児予防接種プログラム。BCG、ジフテリア・破傷風・百日咳三種混合(DTP)、経口ポリオ、

麻疹の各ワクチンを含む。EPI-plusとしてB型肝炎を追加することもある。 268 WHOとUNICEFが推進する、5歳未満の小児によくみられる症状への対応アルゴリズム。医療従事者、保健行

政官、家族や地域保健サービス提供者を対象に書かれており、医師のいない一次診療施設でも患児の評価と病状

への対応が可能となっている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

122

図 2-13 ドナーによるBPHSの担当区域

注:赤:世銀、青:EC、緑:USAID 出所:公衆衛生省

囲み記事 2-10 BPHSにおける3大ドナー269

BPHSは、以下の「3大ドナー」が多額の資金を提供することにより実施されている。

USAID:NGOとの契約は、公衆衛生省内のGrant and Contract Management Unit(GCMU)を通して行わ

れる。基本は30か月契約であるが、業績が良ければ契約延長が可能である。13州をカバーする。月例報

告と現地査察により評価される。

世界銀行:NGOとの契約はGCMUを通して行われる。一部の州では、NGOの代わりのサービス提供者

として公衆衛生省自体に資金を提供しており、この方式はMoPH-Strengthening Management(MoPH-SM)

と呼ばれる。業績のよいNGOには、次回の契約更新のときにボーナスが提供される。NGOとの契約に

よる7州と、MoPH-SMによる3州を担当する。Johns Hopkins大学とインド健康管理研究所による第三者

評価を採用している。

EC:ECとNGO間の直接契約に代わり、GCMUを通した契約が検討されている。ベンチマーク達成に基

づいて契約金が支払われる。24か月の契約は、業績がよければ延長可能。10州を担当する。半年ごとの

報告書提出と、外部評価を組み合わせている。

(2) 必須病院サービスパッケージ(EPHS)

2005年に発表された必須病院サービスパッケージ(Essential Package of Hospital Services:EPHS)

は、病院部門を郡病院(district hospital)、州病院(provincial hospital)、広域病院(regional hospital)

に分類し、スタッフ配置、必要機材・薬剤、診療内容の一覧を作成することにより、病院で提供

されるサービスの標準化を目指している。

269 AREU Briefing Paper: Afghanistan's Health System Since 2001; Condition Improved, Prognosis Cautiously Optimistic

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

123

表 2-18 EPHSの規定する保健医療施設

施設 担当人口規模 病床数 診療部門 郡病院 100,000-300,000

または1-4郡 30-75 外科、内科、小児科、産婦人科、精神科(外来)、歯科、栄養科、リ

ハビリ科、検査科、放射線科、輸血科、薬剤科 州病院 1州 100-200 郡病院の部門に加えて、感染症科 広域病院 数州 200-400 州病院の部門に加えて、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、整形外

科、形成外科、循環器科、呼吸器科、内分泌科、皮膚科、法医学科 出所:The Essential Package of Hospital Services for Afghanistan

BPHSとEPHSの連携の概念図を以下に示す。

図 2-14 BPHSと病院部門(EPHS)との連携の概念図

出所:A Basic Package of Health Services for Afghanistan, 2005/1384

(3) BPHS実施に関しての評価

タリバーン政権崩壊前の保健医療の担い手は多くの場合NGOであり、内戦終結後に保健医療サー

ビスの維持・復活が喫緊の課題となったとき、世界銀行に代表される支援団体・支援国が提案し

たのは、こうしたNGOに基礎的サービスを外部委託して全国的な保健医療の体制を構築する道で

あった。世界銀行、USAID、EUにADBを加えた4ドナーは、公衆衛生省を介して各州を担当する

NGOと計1.4億米ドルの契約を結んでおり、2006年時点で27の国際・国内NGOが契約下にある。う

ち10はアフガニスタン国内のNGOであり、総額の38%を受注している。こうした「contract out」

と称される保健医療サービス提供の外部委託は、政府の統治能力が弱い国(いわゆる脆弱国家)

ほど採用される傾向にあり、これまでカンボジア、パキスタン、スーダン南部、コンゴ民主共和

国といった国・地域で実施あるいは検討されてきた。この中でもアフガニスタンにおけるBPHS

のcontract outは 大規模のものである。アフガニスタンの例は、contract out方式が保健医療サービ

スを短期間に全国展開するには有効であることを示したが、ことに支援国側やアフガニスタンの

地方保健行政担当者には、この方式の長期的な持続可能性に疑問を呈する意見がある270。

270 BMJ (2006), pp. 332:718-21

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

124

USAIDが資金を提供する13州においては、BPHS運営コストの平均は人口一人あたり年間3.78米ド

ルであるが、遠隔地の存在、治安状況、文化的背景といった各州特有の変数があるため、各州の

BPHSにかかるコスト見積もりはこの平均値に人口を掛ければよいといった単純なモデルでは不

十分なことが指摘されている271。

BPHSに基づき各州で展開されている保健医療サービスの質は、Johns Hopkins大学とインド健康管

理研究所の技術支援を受けて開発されたBalanced Scorecardという手法によって評価されている。

これは、保健医療サービスを(i) 患者とコミュニティの視点、(ii) スタッフの視点、(iii) サービス

提供能力、(iv) 提供されたサービス、(v) 財務システム、及び(vi) 理念の追求の6つの領域に分け、

全体で29の指標をもって、2004年との比較から設定されたベンチマークの達成度を測るものであ

り、2004年以来、毎年全国600余のBPHS提供施設を対象に調査が行われている272。これにより、

年ごとの比較を行うことでBPHS普及の進捗度をみることができ、残された課題が明らかになると

ともに、各州の実績を数値化し、ベンチマークの達成度を緑、黄、赤で色分けして一覧にするこ

とで、担当NGO間の競争意識を質の向上につなげたいという公衆衛生省の期待がみてとれる。一

方、この手法の限界として、BPHSが提供されていない(すなわち、評価されるべき診療施設がな

い)地域の状況は反映されないこと、いくつかの州ではサンプル数が少ないこと、治安・交通手

段・住民の識字率といった担当NGOの責任外の要因でも数値が変わりうることが指摘されている273。

271 Bulletin of the World Health Organization 2008, pp. 86:920-28 272 Bulletin of the World Health Organization 2007, pp. 85:146-51 273 Afghanistan Health Sector Balanced Scorecard: National and Provincial Results 2006

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

125

表 2-19 Balanced Scorecardの一例274:バダフシャン州

出所:Afghanistan Health Sector Balanced Scorecard 2008

(4) 保健医療ニーズの全国実態調査

2006年に公衆衛生省がJohns Hopkins大学とインド健康管理研究所の技術支援を受けて実施した

Afghanistan Health Survey 2006が、全国レベルの調査としては 新のデータである。公衆衛生省は

地方部への保健医療サービス普及を当面の政策としているため、6大都市(カブール、ヘラート、

カンダハル、マザリシャリフ、ジャララバード、クンドゥズ)は除外されており、全国34州のう

ち治安の問題が比較的少ない29州を調査対象としている。BPHS施行後に得られた 初のデータで

あり、妊産婦の健康、小児の健康、住民の受診行動に特に焦点が当てられている。

274 各指標について、2004年時点の上位州20%の数値を上位ベンチマーク、下位州20%の数値を下位ベンチマーク

と設定し、評価対象州の数値が上位ベンチマークに到達した場合に緑、下位ベンチマークを下回った場合に赤、

中間を黄で色分けしている

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

126

図 2-15 アフガニスタンの人口ピラミッド

出所:Afghanistan Health Survey 2006

上図は全国56,594名を対象としたサンプルの分布を示したものであり全数調査ではないため、パ

ーセンテージ表示となっている。出生率と死亡率の高い途上国に特有の富士山型パターンを示し

ている。なお、5歳未満の見かけ上の人口減は、家族計画普及の成果というよりも、生年月日を記

録する習慣のない同国では年齢の誤認が頻繁であることが主な理由と考えられている275。

同実態調査によれば、 も近い診療施設へ2時間圏内に居住する世帯が6割以上という結果になっ

ている。また、公衆衛生省のデータによれば、2000年には1割程度の人口しか保健施設へのアクセ

スがなかったのに対し、2006年においてBPHS提供施設が存在する郡の人口を合計するとアフガニ

スタン全人口の85%に及ぶとのことである。これらをもって、公衆衛生省はBPHSの普及が成果を

挙げているとしている276。

表 2-20 最も近い保健医療施設への到達時間(n=7,959)

到達時間 戸数(%) 1時間未満 35.5 1時間以上2時間未満 25.6 2時間以上3時間未満 18.1 3時間以上4時間未満 7.5 4時間以上6時間未満 7.2 6時間以上 6.1

出所:Afghanistan Health Survey 2006

小児保健の指標については、次表のように推定されている。

275 アフガニスタン政府 (2006) Afghanistan Health Survey 276 AREU (2006) Briefing Paper: Afghanistan's health system since 2001: condition improved, prognosis cautiously optimistic

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

127

表 2-21 乳児および5歳未満死亡率の推定値

指標 時期 出生1,000あたりの推定値 95%信頼区間 乳児死亡率 2004年11月 129 103-155 5歳未満死亡率 2004年11月 191 149-233

出所:Afghanistan Health Survey 2006

ただし、前掲の人口ピラミッドで小児人口に男女差があることから、女児数と死亡数が過小評価

されている可能性があり、補正によって乳児死亡率140、5歳未満死亡率209程度まで上昇すること

も想定されている。いずれにせよ、2003年のState of the World’s Childrenの報告による乳児死亡率

165、5歳未満死亡率257からは減少しているのではないかと考えられている。小児保健を含む母子

医療については、「2.2.3 母子保健」にて詳述する。

表 2-22 家族計画と周産期保健の指標の推移

調査年 地方部の出産年齢女性にお

ける避妊法277利用率(%) 地方部の妊婦における

産前検診278受診率(%)地方部の妊婦における熟練分

娩介助者279の利用率(%) 2003 MICS280 5.1 4.6 6.0 2005 NRVA281 10.4 12.6 8.4 2006 AHS 15.5 32.3 18.9

出所:Afghanistan Health Survey 2006

上表における各年の調査の集計法には若干の違いはあるものの、家族計画と周産期保健について

は2003年と2006年の間で急速に普及していることを示唆している。小児保健の指標とあわせて、

BPHS実施後に 初に得られたアウトカム指標としては、順調に改善し始めていると言えそうであ

る。しかし国際的に比較しても数値自体はまだ低く、さらなる改善が望まれる。また、サンプル

抽出や集計については、同一手法を採用して観察を継続することが望ましい。

表 2-23 家族計画と周産期保健の指標に関する国際比較

アフガニスタン パキスタン インド イラン 日本

避妊法利用率(%) 15.5 (2006)

28 (2001)

56 (2006)

74 (2000)

52 (2004)

産前検診受診率(%) 32.3 (2006)

14 (1990)

51 (2005)

94 (2005)

-

熟練分娩介助者の利用率(%) 18.9 (2006)

54 (2006)

47 (2006)

97 (2005)

100 (2004)

出所:WHO Statistical Information System

2.2.1.2 政府の方針

2005年にアフガニスタン政府は、2020年までの達成目標を掲げた同国のMDGsを策定した。9つの

ゴールのうち3つは保健分野に直接関わる内容となっている。

277 卵管結紮法、子宮内装置、経口ピル、ホルモン製剤注射、コンドームを含む 278 医師、助産師、看護師、地域保健員によるサービス提供を指し、伝統的産婆(traditional birth attendants)は含

まない 279 医師、助産師、看護師による分娩介助を指す 280 Multiple Indicator Cluster Surveys 281 National Risk and Vulnerability Assessment

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

128

表 2-24 保健分野に関するアフガニスタンMDGs

ゴール 目標 小児死亡率の減少 2003年の5歳未満死亡率を2015年までに半減させ、さらに2020年までに1/3に減少させる

妊産婦の健康の向上 2002年の妊産婦死亡率を2015年までに半減させ、さらに2020年までに1/4に減少させる

2020年までにHIV/AIDSの感染拡大を食い止め、反転させる HIV/AIDS、マラリア、

他の疾患との闘い 2020年までにマラリアと他の主要疾患の発生率上昇を食い止め、反転させる 出所:Afghanistan Human Development Report 2007

2006年にロンドンでのアフガニスタン支援国会合で締結された「アフガニスタン・コンパクト」

では、保健分野について以下の3つのベンチマークが設けられている282。

• 2010 年末までに BPHS が人口の 90%をカバーするまでに拡大される。

• 妊産婦死亡率が 15%減少する。

• 予防可能な疾患に対する 5 歳未満児の全ワクチン接種が達成され、5 歳未満死亡率が 20%

減少する。

2008年に発表されたANDSでは、「健康と栄養」は8本の柱の第5に位置づけられており、2013年

までの5年間で達成すべき目標が次のように設定されている。

表 2-25 ANDSにおける保健セクターの2013年までの到達目標

期待される成果 指標 基礎値 目標 設置された公立・私立病院の数 評価中 2013年までに質の高い保健サービス

を制御する枠組みが機能する サービス提供の体系的構造が機能してい

る州の数 評価中 2013年までに質の高い保健サービス

の体系的構造が機能する 質の高い保健医療の実践に関する進捗度

の指標 評価中 2013年までに質の向上した保健医療

サービスが全国で利用可能になる

保健医療サービス

の質の向上

Balanced Scorecardの総合値 未設定 未設定 一次診療施設から徒歩2時間以内に居住す

る人口の割合 66%(2006) 90%(2010)

定められた診療サービスの標準パッケー

ジが整備された保健センター・郡病院・州

病院・広域病院の数

評価中 2013年までにBPHSとEPHSを統合し

た包括的リファラルシステムが機能

する 発見され治療された結核症例の割合 68%(2006) 基礎値から12%上昇

保健医療サービス

へのアクセスの向

発見され予防的治療が行われたマラリア

症例の割合 未評価 基礎値から60%の減少

麻疹・DPT・肝炎・ポリオの予防接種を受

けた1歳未満の小児の割合 77%(2006) 全国で 90% 以上の接種率を維持

(2013) 麻疹の予防接種を受けた1歳未満の小児の

割合 35%(2000) 2010年までに90%以上

妊産婦死亡率 1,600/出生 10万対(2000)

2013年までに50%減少

5歳未満死亡率 257/出生1,000対(2000)

2013年までに50%減少

効果的な周産期お

よび小児保健シス

テム

乳児死亡率 165/出生1,000対(2000)

2013年までに30%減少

出所:Afghanistan National Development Strategy 1387-1391 (2008 - 2013)

282 The Afghanistan Compact

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

129

2.2.1.3 ドナーの支援の概況

(1) JICA

2002年から2004年までのカブール市緊急復興支援調査(教育、保健・医療、放送)は、「プライ

マリーヘルスケアのコンセプトを基本とし、予防と治療のバランスが取れた保健医療サービスの

提供によって、世界でも 低水準のアフガニスタンの乳幼児死亡率や疾病のレベルを改善するこ

と」を掲げ、2002年8月に相手国政府・国連諸機関に提言した短期復興計画の中で、以下の重点分

野を示している283。

• 保健省の組織能力強化

• 予防可能な伝染病の削減

• 母子保健クリニック改善のための統一プログラム

• リプロダクティブ・ヘルスの改善

• 障害と心理的トラウマ(PTSD)のケア

• 設備の運営維持のためのセントラルサービスシステムの復旧・設置

• 安全な水と衛生の確保

緊急復興事業として、内戦中に破壊された国立結核研究所の修復が行われ、国家結核プログラム

事務所、結核を含む感染症の研修センター、近隣住民のための診療所、結核薬倉庫が整備された。

また、2002年に行われた保健医療分野基礎調査の結果をもとに、女性の健康の向上、小児の予防

可能な病気への対策、結核を中心とした感染症対策、保健サービスの提供に関する実施能力強化

の4つがJICAによるアフガニスタン支援の重点分野とされた。中でも「結核対策」「リプロダクテ

ィブ・ヘルス」「人材育成」に的を絞り、現在までに技術協力プロジェクト4つと個別案件1つが

実施されている。

表 2-26 JICA技術協力プロジェクト・個別案件の概要

プロジェクト/個別案件 実施期間 プロジェクト目標 結核対策プロジェクト 2004年9月~

2009年9月 全国においてDOTS284を用いた質の高い結核治療サービス

を利用可能にすること リプロダクティブヘルスプ

ロジェクト 2004年9月~

2009年9月 BPHS、EPHSに基づいた母親と新生児への保健行政官及び

サービス提供者の能力を向上させる カンダハルIHS助産師育成

計画プロジェクト 2005年4月~

2007年7月 IHS285カンダハル校にて助産師養成コースが標準カリキ

ュラムにしたがって継続的に行われる 医学教育プロジェクト 2005年7月~

2008年6月 カブール医科大学において総合臨床医養成型の医学教育

システムが実施される 保健協力計画(個別専門家

派遣) 2005年12月~

2009年3月 公衆衛生省の計画策定や人材育成などの支援を行うとと

もに、わが国の同分野に対する支援の実施促進を行う

283 JICA, カブール市緊急復興支援調査(教育、保健・医療、放送分野) 終報告書 284 直接監視下短期化学療法(directly observed therapy, short course)。結核の診断・治療・患者追跡・効果判定の

すべてを含む、WHOが推進する包括的結核対策戦略 285 保健科学院(Institute of Health Sciences)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

130

2007年の保健医療セクタープログラム評価では、BPHSを中心とする保健施策へのプログラム支援

を実施することを今後の目標とし、その内容としてJICAは、(i) 政策への支援の強化、(ii) 結核対

策の全国展開への貢献、(iii) リプロダクティブヘルスサービスの強化、(iv) カブール都市部にお

ける地域保健支援の実施、(v) 公衆衛生省の人材育成・組織強化への支援の5つのコンポーネント

に取り組むことが提言された286。

2008年に行われた保健医療分野プロジェクト形成調査では、相手国関係機関や現地派遣中のJICA

専門家との意見交換を通して、これら5つのコンポーネントがプログラムとして次のように整理さ

れた287。

プログラム名:保健システム強化プログラム

プログラム目標:アフガニスタン保健行政機関が保健政策を自立的に立案、実施管理できる

ようになり、民間セクターも含めた保健システムが強化される。

そのうえで、上記コンポーネント4への対応として、以下の新規プロジェクト案が提案されている。

プロジェクト名:都市型保健システム強化プロジェクト

プロジェクト目標:カブール州保健局の能力向上を通じて、カブール都市部の住民に保健医

療サービスが効果的かつ効率的に提供される。

(2) 他ドナー

他ドナーの主要なプログラム / プロジェクトは以下のとおりである。USAIDは、3大ドナーの一

つとして、BPHS / EPHSを支援しているが、特に母親と子どもの健康向上に重点をおいている。

表 2-27 保健分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容(感染症及び母子保健を主とする支援をのぞく) USAID288、

289 BPHS / EPHS ・ BPHSおよびEPHSの実施を通した、母親と子どもの健康向上(REACH)(2003年4月~2006年12月)

・ 家族計画とリプロダクティブ・ヘルスに関する、BHPSおよびEPHS担当NGOに対

する支援(2006年4月~2008年4月) ・ 情報システム構築(HMIS)およびBPHS実施状況モニターに関する、中央・州レ

ベルの保健行政に対する技術支援(Tech-Serve)(2006年7月~2010年6月) ・ BPHSおよびEPHSの実施支援(ACCESS)(2006年7月~2010年9月)

・ ACCESS Health Service Support Project(HSSP)(2006年~2010年):特に女性と

子どもの健康改善を目的として、NGOを対象に、米国が支援する13州の約400のクリニックや郡病院においてBPHSサービス・デリバリーに関する技術協力と企

画・運営支援を行っている。 Afghanistan Public Health Institute(APHI)と共同で、Evidence-based Quality

Assurance スタンダードを開発し、郡ヘルスセンター、広域ヘルスセンター、

基本ヘルスセンターで応用することで、BPHSの質で不十分な部分や向上すべ

き部分をアセスメントできる体制を整えた。 Evidence-based Quality Assuranceスタンダードにおいて、医療従事者のトレー

ニングが必要と認識された場合、彼らに対して、感染症予防、家族計画、人

286 JICA (2007) 保健医療セクタープログラム評価報告書 287 JICA (2008) 保健医療分野プロジェクト形成調査報告書 288 http://afghanistan.usaid.gov/en/Program.28b.aspx 2009年3月20日 289 USAID Office of Social Sector Development (2008), Health Portfolio

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

131

事のマネジメントなどの分野において、in-serviceトレーニングを実施してい

る。 地方から11~12学年修了者をリクルートし、Institute of Health Services(HIS)において医療従事者の育成のためのトレーニングを行っている。

身体・精神障害 ・ 身体・精神障害対策の行動計画策定に対する支援(2003年4月~2008年1月) 社会保護 ・ 孤児、障害を有する小児、小児労働者、元少年兵に対する保護と心理的サポート

(2003年4月~2008年6月) 啓発 ・ テレビ・ラジオ放送を通した市民への健康啓発活動と、民間部門の保健事業への

参入奨励(COMPRI-A)(2006年2月~2010年3月) ポリオ ・ UNICEFと連携したポリオ予防接種推進 世界銀行290 BPHS ・ 地方部貧困者のための保健活動強化(SHARP)(BPHS・EPHS支援を含む)(2009

年3月~2013年9月) ・ 保健セクター緊急復興開発(BPHS支援を含む)(2003年6月~2009年6月) ・ 保健 追加支援(BPHS支援を含む)(2006年2月~) ・ 保健セクター緊急復興開発 第2追加支援(BPHS支援を含む)(2008年5月~)

トリインフル

エンザ ・ トリインフルエンザ対策(2007年1月~2010年3月)

HIV / AIDS ・ HIV/AIDS予防プロジェクト(2007年7月~2010年12月) EC291 292 BPHS / EPHS ・ 担当10州におけるBPHSおよびEPHSの提供と公衆衛生省の能力開発のために、

2008年に6000万ユーロ、2009年に4848万ユーロを提供 UNFPA293 女性の健康 ・ 女性の健康改善 WHO294 全般 ・ 2005~2009年の優先課題として、(i)保健分野における政策とマネジメント、(ii)保

健システム構築、(iii)女性と小児の健康、(iv)健康教育、疾病予防、啓発活動、(v)精神保健、(vi)感染症対策、(vii)緊急事態に対応する態勢の構築に対する支援が政

府と合意されている(詳細不明)

2.2.1.4 今後の課題

BPHS体制の導入により人口の6割が2時間以内に医療施設にアクセスできることとなったことか

ら、BPHSは危機的状況にあったアフガニスタンの保健医療サービスを短期間で全国展開させるに

は有効であったといえる。今後は、BPHSのカバー率を継続して上げることが求められているが、

山岳地域など道路によるアクセスが極めて困難な地域が存在すること、また、女性医療従事者の

絶対数が少ないことから女性にとっての医療へのアクセスは見かけの数字よりもずっと少ないこ

とが、課題として挙げられる。

加えて、コントラクト・アウト方式というNGOによる保健サービス提供のかたちをとったために、

地方の行政官の能力強化がなされてきておらず、持続可能性が低いといった問題が指摘されてい

る。またBPHS下では、コントラクト・アウトされたNGOが、直接、中央の公衆衛生省にそれぞれ

の活動・進捗報告を行っているが、これでは、地方保健局がバイパスされるだけでなく、地方保

健局が自らNGOのサービス提供の質を確認・評価する体制ができていないという問題が挙げられ

ている。現在のBPHS体制を、今後、持続可能なものに変えていくためには、地方保健局の能力強

化支援が欠かせないと考えられる。

BPHS、EPHS枠内で行う包括的なリフェラルシステムは、ANDSの目標にも含まれているが、現在

のところは、あまり機能しているとはいえない。リフェラルシステムの不備は、特に都市部にお

290 http://www.worldbank.org.af 291 Commission Decision on the Annual Action Programme 2008 292 Commission Decision of 23 February 2009 (2009/158/EC) 293 UNFPAウェブサイト。http://www.unfpa.org/emergencies/afghanistan/ 294 Country Cooperation Strategy for WHO and Afghanistan 2006-2009 (EM/ARD/021/E/R)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

132

いて深刻であり、NGOのコントラクト・アウト方式をとらないカブール市のような都市部の保健

サービスにおいては、下位医療施設(1次、2次公的保健施設)の質の悪さにより、利用者が下位

医療施設を受診することなく、直接、上位医療施設(3次病院)に集中する傾向がある。そこで、

リフェラルシステム強化に先立って、アフガニスタンの医療分野における限られた設備・機材予

算、維持管理予算、技術などを考慮して、1次から3次医療施設がそれぞれ果たすべき役割を明確

化するべきである。その上で、下位医療施設の質やサービスの向上に取り組みつつ、リフェラル

を経た利用者の診察料よりも高く設定するなどの診察料設定に向けた支援、各医療施設レベルで

の機材購入計画、医薬品の購入計画及び在庫管理における運営管理のための能力向上のための支

援などが必要であろう。

2.2.2 感染症対策

国連によるMDGsは、目標6に「HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病との闘い」を設定し、ターゲ

ットとして、HIV/AIDS、マラリア、他の主要疾患(結核を含む)の拡大を2015年までに食い止め、

以後反転させることを挙げている。Afghanistan MDGsは、目標達成までの期間を2020年に延長し

て、当該疾患への対策にあたることとしている295。

2.2.2.1 感染症対策の現状

(1) 結核

アフガニスタンはWHOが結核のhigh-burden countriesとする22ヶ国に含まれる。WHOにより推定さ

れた結核発生率の近隣国および日本との比較と、結核対策に関する指標の推移を次の2表に示す。

表 2-28 WHOによる推定発生率の比較(2007年)

アフガニスタン パキスタン インド イラン 日本 推定発生率(人口100,000対) 168 181 168 22 21

出所:Global Tuberculosis Control: WHO Report 2009

表 2-29 結核対策指標の推移

指標 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007報告率296(新規+再発、人口100,000対) 34 47 62 60 76 87 98 106 報告率297(新規塗抹陽性例、人口100,000対) 14 22 29 28 34 40 48 49 患者発見率298(新規塗抹陽性例、%) 18 29 39 37 45 52 63 64

治療成功率299(新規塗抹陽性例、%) 85 84 87 86 89 90 84 - 出所:Global Tuberculosis Control: WHO Report 2009

MDGsにおいて新規発生率の対応指標として用いられている報告率は上昇を続けているが、これ

は診断技術の向上と検査施設へのアクセス向上があいまって、未発見であった症例が発見される

295 UNDP (2007) Afghanistan Human Development Report 2007 296 {肺結核(喀痰検査陽性・陰性とも含む)及び肺外結核の報告数}×100,000÷人口 297 肺結核(喀痰検査陽性のみ)報告数×100,000÷人口 298 新規に喀痰検査陽性で結核と診断された数÷新規に喀痰検査陽性で発病すると推定される数 299 所定の治療を完了した者の数÷新規喀痰検査陽性で登録された者の数

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

133

ようになったためと考えられ、現時点ではむしろ結核対策の進歩を反映したものと判断するのが

妥当であろう。高い患者発見率と治療成功率を維持していけば、長期的には減少に転じることが

期待される。診断の指標である患者発見率は着実な上昇を続けており、広範囲において質の高い

診断サービスが提供可能になったと考えられる。治療の指標である治療成功率は、85%前後の高

い数字を維持している。なお、WHOは患者発見率として70%、治療成功率として85%の到達目標

を掲げている。

包括的結核対策であるDOTS戦略(診断、治療、患者追跡、効果判定、薬剤供給を含む)は、全国

991か所の保健医療施設で提供されている。うち545施設で塗抹顕微鏡検査が可能で、これらの全

施設で国家中央検査室の指導下に外部精度管理が実施され、そのうち71%の施設が「adequate

performance」と判定されている。一方で、大多数の結核診療施設は業務委託を受けたNGOにより

運営されており、スタッフの維持をはじめとする現在の診療体制が長期的に維持可能かどうかは

懸念されるところである300。

結核対策の中心となるべき国家結核対策プログラム(National Tuberculosis Program:NTP)の運営

費は、2009年には年間約1000万米ドルであるが、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund)

をはじめとする外部資金への依存度は9割以上を占めており、予算規模は外部資金を確保できるか

どうかに大きく左右される。薬剤確保、人材確保、診療施設の運営指導、検査機器補充を含めた

DOTS強化が、NTPの主要な活動である。2009年はGlobal Fundの支援により、こうした活動の財務

基盤が確保されている。技術面では、DOTS戦略を着実に普及させるとともに、多剤耐性結核菌や

HIV重複感染例の対策、接触者追跡法を確立することが、今後の課題とされている301。

(2) マラリア

MDGsは、マラリア発生率と死亡率、またマラリア危険地域において有効な予防と治療を受けら

れる人口の割合を、目標達成の指標としている。2006年の全国マラリア発生報告数は、271,601件

である。人口1000対の発生率は、全年齢で22、5歳未満で26、また人口1000対の死亡率は、全年齢

で0.005、5歳未満で0.012と推定されている。発生率に比べて死亡率が低いのは、重症化する傾向

がある熱帯熱マラリアの割合が1割未満と低いことも一因と思われる。

WHOにより推定された発生率と死亡率の国際比較を表に示す。サハラ以南のアフリカ諸国(ニジ

ェールはマラリアが世界で も流行している国のひとつである)ほど発生率と死亡率は高くない

ものの、隣国との比較では格段に高い発生率が推定されている。

表 2-30 マラリアの推定発生率と死亡率の比較

アフガニスタン パキスタン インド イラン ニジェール 発生率(人口1,000対) 22 9.3 9.2 0.3 419 死亡率(人口1,000対) 0.005 0.008 0.013 0.00006 2.3

出所:World Malaria Report

300 USAID Afghanistan Tuberculosis Profile 301 WHO (2009) Global Tuberculosis Control: WHO Report 2009

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

134

ドナーの支援としては、2005年からGlobal Fundの資金で流行地への殺虫剤処理済蚊帳の配布が始

まっているが、実施状況は流行地の10%未満といまだ限定的である。

マラリア対策はBPHSの一部に組み込まれており、Balanced Scorecard 2008によれば、包括的保健

センターと郡病院に付属する検査室のうち9割弱でマラリア検査が実施可能で、6~7割の施設でマ

ラリア診療ガイドラインが整備されている。

(3) HIV/AIDS

2005年における15歳以上のHIV感染率は0.1%未満とされ、一般に感染率は低く、HIV/AIDS対策の

ニーズは小さいと考えられている302。しかし、貧困、失業、文盲、女性の低い社会的地位、売春、

麻薬の流通、HIV/AIDSに関する知識不足といった様々な条件から、ひとたび流行が起これば感染

拡大の余地はあり、とりわけ静脈内注射薬常用者の間での感染が懸念されている303。

(4) その他の感染症

2000年以来、WHOはアフガニスタンについて計8回の感染症流行警報を発している。

表 2-31感染症流行警報(2000年以降)

時期 疾患または症状 備考 2000年6月 急性出血性発熱性疾患 有症者27名、死者16名。クリミア・コンゴ出血熱の疑い 2000年8月 コレラ 有症者1,604名、死者19名 2001年7月 コレラ 有症者4,499名、死者114名 2002年5月 皮膚リーシュマニア症 推定患者数200,000名 2002年6月 急性水様性下痢症 有症者6,691名、死者少なくとも3名。コレラ菌検出 2003年1月 百日咳 有症者115名、死者17名 2003年6月 ジフテリア 難民キャンプで発生。有症者50名、死者3名 2005年5月 コレラ カブール市内で発生。有症者3,245名、うち777名が重症脱水のため入院

出所:WHOウェブサイト。http://www.who.int/csr/don/archive/country/afg/en/

このうち百日咳とジフテリアはワクチンで予防可能な疾患であり、拡大阻止のため国連児童基金

(UNICEF)などにより現地住民に対する緊急予防接種が行われた。

ワクチンで予防可能な疾患の発生状況は、以下の通りである。

表 2-32 疾患発生報告数(件、1980年~2007年)

疾患 1980 1990 2000 2003 2004 2005 2006 2007 ジフテリア 1,939 368 84 79 26 179 53 104 麻疹 32,455 1,609 6,532 798 466 1,296 1,990 1,141 百日咳 15,748 411 896 - 558 2,173 2,515 5,904 ポリオ 880 48 120 8 4 9 31 17 風疹 - - - - - - 196 152 新生児破傷風 16 3 139 121 81 39 33 40

出所:WHOウェブサイト。http://www.who.int/immunization/en/

302 WHOウェブサイト。http://www.who.int/countries/afg/en/ 303 UNDP (2007) Afghanistan Human Development Report 2007

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

135

表 2-33 対象人口のワクチン接種率(%、1980年~2007年)

ワクチン 1980 1990 2000 2003 2004 2005 2006 2007 BCG 33 30 38 56 78 73 90 77 DTP初回 - - 41 65 80 88 90 93 DTP第3回 4 25 31 54 66 76 77 83 B型肝炎第3回 - - - - - - - 83 麻疹 11 20 35 50 61 64 68 70 麻疹第2回 - - - - 2 13 26 16 ポリオ第3回 3 25 32 54 66 76 77 83 破傷風第2回 1 2 20 40 33 51 54 60

出所:WHOウェブサイト。http://www.who.int/immunization/en/

現在のワクチン接種計画には、BCG、ジフテリア・破傷風・百日咳三種混合(DTP)、B型肝炎、

麻疹、経口ポリオ、破傷風トキソイドが含まれており、2009年からb型インフルエンザ菌304(Hib)

ワクチンも導入予定である。各ワクチンの接種率は年々向上しているものの、2回目の麻疹ワクチ

ンは生後18か月と比較的遅い時期に設定されているためか、いまだ2割前後と低い接種率にとどま

っている。

DTPワクチンや麻疹ワクチンの普及にもかかわらず、百日咳と麻疹の流行が続いており、一層の

ワクチン普及の努力が望まれる。ただし、百日咳も麻疹もアフガニスタンで病原体検査はほぼ不

可能であるため、ほとんどの症例は症状による診断と思われ、報告された発生数は実際の発生数

を正確に反映していない可能性はある。

カブール市内の三次医療施設であるIndira Gandhi小児病院の救急外来における、2002年から2003

年にかけての1年間の診療記録の集計を以下に示す。

表 2-34 小児の死因(生後1か月~12歳)(n=1,620)

疾患 死亡数 % 致死率(%) 敗血症 407 25 45 急性呼吸器感染 356 22 16 下痢 292 18 22 心不全・感染性心内膜炎 243 15 14 中枢神経系感染 240 15 40 悪性腫瘍 33 2 60 腎不全 32 2 30 糖尿病性ケトアシドーシス 10 <1 44 肝不全 7 <1 50

出所:Journal of Epidemiology and Community Health

304 小児の肺炎、中耳炎、髄膜炎をきたす細菌。重篤化し、救命できても後遺症を残すことが多い。名称が紛らわ

しいがインフルエンザウイルスではない。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

136

表 2-35 新生児の死因(生後1か月未満)(n=1,026)

疾患 死亡数 % 敗血症 328 32 呼吸不全 267 26 分娩時窒息 205 20 先天的欠損 63 6 髄膜炎 61 6 低体温 42 4 低血糖 40 4 血液学的異常 20 2

出所:Journal of Epidemiology and Community Health

これら死因のうち多くが感染症によるものであるが、ほとんどはワクチンで予防できない病原体

に起因するため、臨床医学の視点から個別の症例ごとの対応が必要となる。食料、住居、清潔な

水、保健医療施設へのアクセスといった基本的な生活ニーズの充足は、疾患発生率や死亡率を下

げるのに有効であろうが、こうしたアプローチは結果が出るまでに時間がかかる。高次医療施設

に焦点を絞って技術や人材を投入し、現地に根ざした人材育成を行うことも、助かるはずの患者

を救うための検討に値するアプローチと考えられる305。

2.2.2.2 ドナーの支援の概況

USAID、世界銀行及びGlobal Fundによる感染症対策への支援については、「2.2.1 保健」「2.2.1.3

ドナーの支援の概況」に記載しているとおりである。なお、結核・マラリア・HIV/AIDSの三疾患

対策と予防接種はBPHSの構成要素であるため、BPHSを支援するドナーは直接または間接的に感

染症対策にも貢献していることになる。

305 Journal of Epidemiology and Community Health (2006), pp.60:20-23

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

137

表 2-36 感染症対策にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 WHO マラリア ・ Roll Back Malariaイニシアティブに沿った、ハイリスク群の同定、マラリア薬の供

給、技術能力・管理能力の開発 結核 ・ DOTSの推進、政策立案、指針の普及、個人や組織の能力開発、資源の有効活用 予防接種 ・ 全国で90%、郡レベルで 低80%の接種率達成、2010年までに麻疹死亡率の90%削

減、2007年末までに周産期・新生児破傷風の消滅、2006年にB型肝炎ワクチンの

導入、ポリオ撲滅キャンペーンの継続 予防 ・ 早期警告サーベイランス確立による流行性疾患対策、検査室と実地疫学調査の訓

練 HIV/AIDS ・ 抗レトロウイルス治療薬の供給体制とサーベイランス強化をはじめとする、

HIV/AIDSと性感染症予防の戦略策定 UNICEF 予防接種 ・ ポリオ、麻疹、破傷風の予防接種推進 ヨード ・ ヨード添加食塩の流通に向けての法的整備、官民協力によるヨード添加食塩工場

設立への支援306 小児保健 ・ 学童の寄生虫駆除の全国展開と、学校へのファーストエイド・キットの配布 HIV / AIDS ・ 若年者とハイリスク・グループの行動変容を目的とした、HIV/AIDS対策のコミュ

ニケーション・パッケージの開発支援 HIV / AIDS ・ 州レベルのHIVプログラム強化(ドイツ技術協力公社(GTZ)及び公衆衛生省を

実施機関) マラリア ・ アフガニスタンにおけるRoll Back Malaria戦略強化 結核 ・ 結核制圧へのアフガニスタンの対応能力強化

世界エイズ・

結核・マラリ

ア 対 策 基 金

(Global Fund)307 感染症 ・ アフガニスタンにおけるAIDS・結核・マラリア対応能力の確立

2.2.2.3 今後の課題

結核・マラリア・HIV/AIDSの三疾患対策と予防接種はBPHSの構成要素であり、3大ドナーの支援

によって、アクセスの改善とともに診断や治療が格段に改善しつつあり、完全ではないものの基

本的な診断・治療体制は整いつつある、と考えてよいと思われる。しかしながら、ほとんどの診

療施設は業務委託を受けたNGOにより運営されていることから、スタッフの維持をはじめとする

現在の診療体制を維持するための財源の確保が求められている。また、急速に拡大する可能性の

ある感染症に対して、迅速かつ的確に対応するための検査体制およびサーベイランスの強化、ま

た、重症患者の集中治療及び感染拡大防止の観点から、感染症のレファレンス病院の整備が必要

であると考えられる。

(a) 検査室の整備と検査技師の能力強化

感染症が発見されたときに、まず病原体を確定できなければ正しい対策を講じることができず、

対策が遅れることにより、感染症の被害が急速かつ広範囲に拡大してしまう惧れがある。結核菌

とマラリアの顕微鏡検査は9割、HIV検査は7割の検査室で可能であることが確認されているもの

の、コレラや赤痢といった公衆衛生上重要な感染症の確定診断をする手段はきわめて限られてい

る。また、小児の死因で「敗血症」「呼吸器感染」「感染性心内膜炎」「中枢神経系感染」が起

きているものの、その原因となる病原体名を明らかにすることができず、治療はもとより、感染

症が拡大するリスクを防げない状態にある。これに対処するため、電気と水の安定供給が得られ

ればという条件付きであるが、主要病院や研究所において検査室の整備と検査技師の訓練を行う

306 アフガニスタンのような内陸国では一般に海産物を食さないためヨウ素を摂取する機会が限られ、甲状腺機能

低下症の原因となることから、保健政策としてヨードを添加した食塩を流通させることが推奨されている 307 http://www.theglobalfund.org/en/

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

138

ことは重要である。なお、検査室機能については、施設のレベルに応じて設定する必要がある

(b) 感染症サーベイランス

感染症発生の動向を検知し、迅速に対応できるためには、情報収集のしくみ(サーベイランス)

が必要である。USAIDの支援のもとで導入された保健管理情報システム(HMIS)は、公衆衛生省

と各州においてデータベースとして活用されているが、感染症に関して必要な情報が不足してお

り、対応が後手に回ってしまう可能性が高いことから、感染症発生の動向を検知し、迅速に対応

できるためには、情報収集のしくみ(サーベイランス)が必要である。公衆衛生省内では保健サ

ービス局感染症対策部が担当部署になると思われるが、現状の確認と、情報収集すべき疾患の選

定、書式の作成、報告系統の明確化といった作業が想定される。

(c) レファレンス病院の機能強化

現在カブール市内に公立の感染症病院が1か所あるが、ニーズに応えられていないとの情報がある。

十分な情報がないため実態調査から始めなければならないが、重症患者の集中治療、また感染拡

大防止の観点から、感染症のレファレンス病院が機能していることが望ましい。

2.2.3 母子保健

2.2.3.1 母子保健の現状

20年以上の長期に渡る戦争の影響により、アフガニスタンの保健医療システムは深刻な打撃をう

け、結果、同国の母子保健の状況は世界で類を見ないほど劣悪な状況にある。母子保健の改善は

MDGsにも掲げられており、タリバーン政権崩壊後は多くのドナーが同国の公衆衛生省を支援し、

改善に向けた取り組みが行われているものの、現状は非常に厳しい。

(1) 母体の健康

MDGsの一つでもある妊産婦死亡率の改善において、アフガニスタンは過酷な状況におかれてい

る。開発途上国の妊産婦死亡率の平均である450/10万出生に対して、アフガニスタンは1,800/10万

出生308と、世界でも1位2位を争う 悪の状況にある。図 2-16に示すとおり、アフガニスタンの妊

産婦死亡率は周辺国の間でも群を抜いて高く、同じく紛争を経験した国と比較しても非常に厳し

い状況にある(図 2-17)。アフガニスタン国内での地域格差も顕著で、カブール州の妊産婦死亡

率が700/10万出生に対して、北東に位置するバダフシャン州では2300/10万出生と報告されている309。これに対し、ANDSでは、妊産婦死亡率を2002年時点から2013年までに21%減少させること

を掲げており、またアフガニスタン版MDGsでは、妊産婦死亡率を2015年までに800/10万出生、2020

年までに400/10万出生まで減少させることを目標としているが、依然として状況は芳しくない。

一人の女性が一生の間に産む子どもの数の推計をあらわす合計特殊出生率は2006年において

308 UNICEF (2007) Progress for Children: A Report Card on Maternal Mortality 309 UNICEF Best Estimates Provincial Fact Sheet http://www.unicef.org/infobycountry/afghanistan_resources.html

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

139

7.2310と高く、それに基づいて計算すると、8人に1人の女性が妊娠・出産において命を落とすとい

う由々しき事態である。

450

170 150140140 13045 24

320

1800

0

500

1000

1500

2000

アフ

ガニ

スタ

イン

パキ

スタ

タジ

キス

タン

キリ

ギス

タン

イラ

カザ

フス

タン

トル

クメ

ニス

タン

中国

ウズ

ベキ

スタ

人/10万

出生

1400

1100

540 450 380

58

1800

1300

830

2100

0

500

1000

1500

2000

2500

シエ

ラレ

オネ

アフ

ガニ

スタ

アン

ゴラ

ルワ

ンダ

ギニ

アビ

サウ

ネパ

ール

コロ

ンビ

スー

ダン

ボス

ニア

スリ

ラン

人/10

万出

図 2-16 アフガニスタン周辺国における妊産婦死亡率 図 2-17 紛争国における妊産婦死亡率

出所: UNICEF Progress for Children: A Report Card on Maternal Mortality (2007)

一般に高い妊産婦死亡率の要因として、早婚や多産、産前検診の未受診や医療従事者立会いなし

での出産による妊産婦の不調や合併症の発見・対応の遅れ、また、医療施設や医療従事者の不足、

緊急時の搬送手段などの社会基盤の不備等があげられる。

アフガニスタンでは、女性の7人に1人が15歳未満で結婚し、2人に1人が18歳未満で結婚している311。また、上述のとおり、合計特殊出生率は7.2と非常に高い。早婚、若年妊娠、多産は、母体に

大きな負担がかかるため、妊産婦死亡率と大きく関係している。早婚や多産は慣習によるところ

も大きいが、貧困や女性の社会的地位の低さがその背景にある。こうした背景を十分に考慮した

うえで、家族計画や避妊に関する情報へのアクセスの向上を行っていく必要がある。

妊産婦死亡や関連の被害を回避するには、妊娠中から継続したケアを受け、リスクの高い妊娠や

合併症の可能性を察知し適切なサービスを受けることが重要となる。しかしながら、2003年の

UNICEFによる調査において、妊娠中に検診を一度でも受けたことがあると答えたのは、全体の

16%で、そのうち都市部が38%、地方では8%のみであった312。

さらに母体死亡の多くは分娩の前後に起こっており、主な原因は、出血、分娩停止、妊娠中特有

の高血圧、敗血症である 313。2002年に実施されたUNICEFと疾病管理予防センター(Center for

Disease Control and Prevention:CDC)の調査によると、アフガニスタンにおける妊産婦死亡の78%

は予防によって回避可能であるとされており314、すなわち、出産時の異常を察知し適切な判断・

対処ができる熟練したスタッフの立会いによる出産、および緊急産科医療へのアクセスが、妊産

婦死亡を防ぐうえで極めて重要となる。しかし、2005年の調査によると、アフガニスタンの女性

の9割近くは自宅で出産しているのが現状で、図 2-18のとおり、医師、看護士、助産師といった

310 UNICEF Website 311 Vision 2020 - UNDP Afghanistan Millennium Development Goals Report 2005 312 UNICEF Website: Multiple Indicator Cluster Surveys Round 3 313 Vision 2020 - UNDP Afghanistan Millennium Development Goals Report 2005 314 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

140

訓練されたスタッフのもとでの出産は15%、伝統的な産婆(Traditional Birth Attendant:TBA)の

もとでの出産は10%、残りの75%は出産時の合併症に対処する技能を持たない家族のもとで出産し

ている315。この背景には、以下のようなアフガニスタン特有の要因がある。

図 2-18 出産時の介助者

出所: Vision 2020

(a) 限られた保健医療サービス

2002年に実施された全国保健医療資源調査によると、長期に及んだ内戦の結果、約35%の医療施

設が破壊された。さらに、交通インフラが破壊されたことにより、医療施設へのアクセスが困難

となった。また、長年の戦乱の影響で医師や看護師など多くの医療従事者が国外に流出してしま

ったことに加えて、新しい人材を養成するための教育システムも不在であったことは想像に難く

ない。さらに、医療従事者が医療以外の分野で働くようになってしまったことも人材不足の一因

として挙げられる。

人口10万人に対する医師の数は、開発途上国の平均で110人/人口10万人であるのに対して、2002

年の時点でアフガニスタンでは全国平均で医師10人/人口10万人と、深刻な医療従事者不足に見舞

われており316、特に地方部の住民は保健医療サービスを享受することが大変困難な状況にあった。

さらに、妊娠中もしくは出産時の出血による死亡は、母体死亡の も大きな原因であるが、輸血

用の血液を貯蔵しているのは、176の医療施設のうち23ヶ所(13%)のみであった317。

(b) 女性への教育の制限

タリバーン政権中は女子の教育と就職が禁止されていたため、女性の医師が養成されなかった。

その結果、医療従事者の男女比率の不均衡が存在している。2002年の調査によると、妊産婦への

ケアに必要 低限の設備・機材があり、女性のスタッフが勤務している施設は全体の30%のみで

あることが明らかになった318。

315 同上 316 Afghanistan National Health Resources Assessment, 2002 317 UNDP (2005) Afghanistan Millennium Development Goals 318 Afghanistan National Health Resources Assessment, 2002

伝統的

な産婆,

10%

熟練し

たスタッ

フ, 15%

家族な

ど, 75%

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

141

また、女性への教育の機会が限られていることにより、本来なら学校教育のなかで得ることので

きる基本的な保健に関する情報も得ることができない。また、多くの女性は読み書きができず、

情報へのアクセスが限られてしまっている。

(c) 女性の社会的・文化的な地位

社会的・文化的な慣習において、アフガニスタンの女性が夫や親戚以外の男性と接触することは

タブーに近く、それは保健医療サービスへのアクセスにおいて大きな障害となっている319。女性

の行動は極めて制限されており、女性が男性の同伴なくして家を離れて医療施設に行くことがで

きない。また、医療サービスを受けることも男性の判断によることが多い。さらに、アフガニス

タンでは、女性が男性の医療従事者から診療・治療を受けることは社会的に許容されていない320。

したがって、上述のように女性の医療従事者が大幅に不足していることは、アフガニスタンの女

性の保健医療サービスへのアクセスが著しく制限されていることを示しており、これは母子保健

にとって致命的な影響を及ぼすことになるのである。

(2) 子どもの健康

アフガニスタンでは、1979年のソビエト侵攻以前から高い乳幼児死亡率が問題となっていた。1960

年の5歳未満の乳幼児死亡率は1,000人中360人で、これは開発途上国の平均を60%上回っていた321。

タリバーン政権崩壊後、各国ドナーからの潤沢な支援を得て、保健指標は多く改善したといえる

が、図 2-19、図 2-20のとおり、インド、イラン、パキスタンといった周辺国と比較すると、現在

でも大幅な遅れをとっていることがわかる。

0

100

200

300

400

1960年 1970年 1980年 1990年 2000年 2007年

人/10

00人

アフガニスタン パキスタン

インド イラン

0

100

200

300

1960年 1970年 1980年 1990年 2000年 2007年

人/1

000人

アフガニスタン パキスタン

インド イラン

図 2-19 5歳未満の乳幼児死亡率の推移 図 2-20 1歳未満乳児死亡率の推移

出所: UNICEF Website

2002年時点、1歳未満の乳児死亡率は165人/1000人で世界 下位、5歳未満の乳幼児死亡率は257人

/1000人でシエラレオネに次いで低かった322。2006年では、1歳未満、5歳未満乳幼児死亡率が、共

に129人、191人に改善したものの、2割近くの子どもが5歳の誕生日を迎えることができないとい

う危機的状況は変わっていない。なかでも、生後4週間以内に死亡する早期新生児死亡が高く、5 319 UNDP (2005) Afghanistan Millennium Development Goals 320 同上 321 同上 322 UNICEF Website

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

142

歳未満の死亡件数の三分の一(38%)を占めている323。母親が出産後に亡くなった場合、新生児

が1歳の誕生日を迎える確率は四分の一であり324、早期新生児死亡率の改善には、母子両者へのケ

アの改善が必須である。

また、高い乳幼児死亡率は、アフガニスタンの低い平均寿命に大きく影響している。図 2-21に示

すとおり、出生時における平均余命は男女ともに43歳で、周辺国と比較しても20年近い差が存在

している。

7167 66 65 64 63

43

0

20

40

60

80

イラ

ウズ

ベキ

スタ

タジ

キス

タン

パキ

スタ

イン

トル

クメ

ニス

タン

アフ

ガニ

スタ

図 2-21 出生時における平均余命(2006年)

出所: UNICEF Website

5歳未満の子どもの死亡原因の多くは、予防接種で防ぐことのできる病気や、下痢、急性呼吸器感

染である325。栄養状態の改善、保健医療サービスの改善、安全な水や衛生施設へのアクセスの向

上によって、多くの死を回避することが可能である。また、母親の衛生や子どもの保健に関わる

知識が向上することが必須であり、女子への基礎教育および母親への保健教育はここでも非常に

重要である。栄養改善や適切なサービスを受けるための経済的余裕という点から、収入の向上も

必要となる。

これまでに、一次医療施設のサービスの拡大や、マラリア対策、予防接種の普及、栄養改善とい

った子どもの保健プログラムが全国で実施されている。なかでも、UNICEFやWHOの大規模なワ

クチン提供キャンペーンにより、予防接種をうける子どもの割合は大幅に増加した(図 2-22)。

一方で、3歳未満の子どもの40%が標準体重に達しておらず、5歳未満の子どもの57%が低身長

(Stunted)と報告されており326、慢性的な栄養不足が問題視されている。また、安全な水へのア

クセス不足、不適切な衛生環境が、高い乳幼児死亡率にもつながっていると考えられている。乳

幼児死亡率の改善には、保健医療サービスの改善に加えて、保健や衛生に係わる啓発活動も重要

となり、地域格差を考慮したうえで、包括的なアプローチが必要であるといえる。

323 Vision 2020-UNDP Afghanistan Millennium Development Goals Report 2005年 324 Country Cooperation Strategy for WHO and Afghanistan, pp 22 325 Vision2020-UNDP Afghanistan Millennium Development Goals Report 2005年 326 UNDP Afghanistan Human Development Report 2007 pp23

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

143

0%

20%

40%

60%

80%

100%

ツベルクリン反応 三種混合(1回目) 三種混合(3回目) 麻疹 ポリオ

1980年 1990年 2000年 2005年

図 2-22 予防接種を受けた子どもの割合の推移

出所: UNICEF/WHO Immunization Summary: The 2007 Edition

(5歳未満の子どもの母親が対象)31%

71%

87%

61%

12%

50%

59%

31%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

排泄のあと水と石鹸等で必ず手を洗う

子どもの排泄物を捨てる決まった場所がある

衛生設備(トイレなど)へのアクセス

安全な飲用水へのアクセス

都市 地方

図 2-23 都市と地方における衛生アクセスの有無および意識の違い

出所: Vision 2020 – Afghanistan Millennium Development Goals Report 2005

(3) 政府による取り組み

アフガニスタンの公衆衛生省は、2004年に女性の保健を担当する「リプロダクティブ・ヘルス部」、

乳幼児・小児・青少年の保健を担当する「プライマリーヘルス部」を設け、母子保健の対策を強

化している。また、ANDSにおける栄養と保健に関わるセクター戦略のなかで、母子保健は優先

課題としてあげられており、2002年から目標年の2013年までの間に、妊産婦死亡率を21%減少さ

せ、また乳幼児死亡率と5歳未満死亡率をそれぞれ35%、30%減少させるとしている。

BPHSにおいて、「妊産婦・新生児の健康」と「子どもの健康と予防接種」が優先課題として位置

づけられている。「妊産婦・新生児の健康」においては、妊産婦検診ケア、出産ケア、出産後ケ

ア、家族計画、新生児ケアの充実、「子どもの健康と予防接種」においては、予防接種普及プロ

グラム(Expanded Program on Immunization:EPI)と、総合的な子どもの疾病対策(Integrated

management of Childhood Illness:IMCI)に焦点が当てられている。「妊産婦・新生児の健康」と

「子どもの健康と予防接種」に関わる各医療施設でのサービスについては表 2-37に示すとおりで

ある。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

144

表 2-37 ヘルスセンターの種類および母子保健に関して提供されるサービス

施設のレベル 対象人口規模 提供するサービス

ヘルスポスト 1,000-1,500人 <妊産婦・新生児の健康> 妊婦検診の提供、出産介助施設の紹介(紹介が困難な場合通常出産の介助)、新生児の異常の発見・応急処置、微量栄養素の補給、家族計画および完全母乳哺育のカウンセリング、コンドームや経口避妊薬の提供

<子どもの健康と予防接種> 予防接種のプログラムのアウトリーチおよび支援、肺炎・下痢・発熱、マラリア・はしか等のケースへの対処、経口補水療法(ORT)の提供、疾病の早期発見および適切な施設の紹介

基本ヘルスセンター(BHC)

15,000-30,000人

<妊産婦・新生児の健康> 妊婦検診の提供、通常出産の介助、出産時の異常の発見および適切なサービスの紹介、出産後の貧血および感染の発見、新生児の異常の発見・応急処置、完全母乳哺育の奨励、微量栄養素の補給、家族計画のカウンセリング、性感染症の検査および治療、避妊薬・避妊具の提供

<子どもの健康と予防接種> 予防接種プログラムの実施、肺炎・下痢・発熱、マラリア・麻疹等のケースへの対処、疾病の早期発見および適切な施設の紹介

広域ヘルスセンター(CHC)

30,000-60,000人

<妊産婦・新生児の健康> 妊婦検診、子癇の治療、不完全な流産および中絶の対処、通常出産の介助、基礎的緊急産科ケアの提供、出産後の貧血および感染の発見、早期新生児の感染や敗血症への対処、完全母乳哺育の奨励、微量栄養素の補給、家族計画のカウンセリング、性感染症の検査および治療、避妊薬・避妊具の提供

<子どもの健康と予防接種> 予防接種プログラムの実施、肺炎・下痢・発熱、マラリア・麻疹等のケースへの対処、疾病の早期発見および適切な施設の紹介

郡ヘルスセンター

100,000-300,000人

<妊産婦・新生児の健康> 妊婦検診、子癇の治療、不完全な流産および中絶の対処、通常出産の介助、基礎的緊急産科ケアの提供、出産後の貧血および感染の発見、早期新生児の感染や敗血症への対処、保育器の提供、完全母乳哺育の奨励、微量栄養素の補給、家族計画のカウンセリング、性感染症の検査および治療、避妊薬・避妊具の提供、不妊手術

<子どもの健康と予防接種> 予防接種プログラムの実施、肺炎・下痢・発熱、マラリア・麻疹等のケースへの対処、疾病の早期発見および適切な施設の紹介

出所::A Basic Package of Health Services for Afghanistan, 2005/1384

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

145

「2.2.1.1 保健セクターの概況」に記したように、BPHSの導入により、国民の医療アクセスは格

段に向上した。また、856の医療施設が稼動している中、そのうち309箇所で基礎的な緊急産科ケ

ア、82箇所で高度な緊急産科ケアを提供していることが確認されている327。さらに、図 2-24のと

おり、女性の医療従事者が少なくとも一人は在勤しているヘルスセンターも、2004年から2007年

にかけて大幅に増えており、BPHSの導入がアクセスの向上において一定の成果をあげていると評

価できる。

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2004年 2005年 2006年 2007年

基本ヘルスセンター 広域ヘルスセンター 郡ヘルスセンター

図 2-24 女性医療従事者が在勤しているヘルスセンターの推移

出所: ANDS Health & Nutrition Sector Strategy 2007/8-2012/13

2.2.3.2 ドナーの支援の概況

上述のとおり、母子保健の状況の改善は公衆衛生省における 優先事項であり、様々なドナーが

母子保健分野において多岐にわたる支援を行っている。

(1) JICA

(a) リプロダクティブヘルスプロジェクト(2004 年~2009 年)

本プロジェクトは、公衆衛生省リプロダクティブ・ヘルス部をカウンターパート機関として、リ

プロダクティブ・ヘルス/安全な母性に関わる保健医療サービスの提供者の能力の向上を目的と

して実施されている。2009年度からは、フェーズIIが開始される。

• 公衆衛生省・州政府におけるリプロダクティブ・ヘルス行政官の適正技術・知識の向上:

行政官に対する管理者研修の実施や、保健医療従事者研修の立案・実施・監理、リプロ

ダクティブ・ヘルスに関する国の政策立案、人材育成計画立案等に関する支援を行って

いる。

• 保健医療従事者に対する研修メカニズムの確立:カブール市内の 大の産婦人科病院で

あるマラライ産科病院に研修部を設立し、研修や管理の実施、研修の標準マニュアルの

作成、リプロダクティブ・ヘルスに関する研修調整委員会の設立などを行っている。ま

た、ダシュテバルチ郡病院にも研修部を 2008 年に設置した。

• カブール州内のリプロダクティブヘルスサービスのシステムの強化:他のドナーによる

支援が農村部に集中している一方、人口の集中しているカブール市における基礎的な保

327 Health Sector Strategy for Afghanistan

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

146

健サービスの提供への支援が手薄になっていることから 328、カブール州保健局のマネジ

メント能力強化に係わる活動をプロジェクトの途中から開始した。研修・情報管理・リ

フェラルの一連の流れの強化や、病院間のネットワーク強化を行っている。

(b) 医学教育プロジェクト(2005 年~2008 年)

本プロジェクトは、カブール医科大学(KMU)で総合臨床医(General Practitioner:GP)を養成す

るための医学教育システムが実施されることを目的としているが、GPは広域ヘルスセンターにお

いて、プライマリーヘルスケアを提供する医師であり、GP養成システムの強化は、女性と子ども

の保健医療サービスの拡大および質の改善に貢献していると考えられる。

(2) 他ドナー

他ドナーの主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-38 母子保健分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 USAID329 BPHS / EPHS ・ BPHSおよびEPHSの実施を通した、母親と子どもの健康向上(REACH)(2003年4

月~2006年12月) ・ ACCESS Health Service Support Project(HSSP)(2006年~2010年)の一環として、

地方やサービス提供が不十分な地域において、特に女性のBPHS提供者数と質を向

上するための取り組みを行っている。2008年までに、UNFPA, UNICEF、WHOと協

力しながら、総計2500人の助産師、及び地域助産師を育成した330。 リプロダクテ

ィブ・ヘルス ・ 家族計画とリプロダクティブ・ヘルスに関する、BHPSおよびEPHS担当NGOに対す

る支援(2006年4月~2008年4月) ・ HSSPにおいて、家族計画のカウンセリング実施や、ミソプロストール提供により、

出産事故を減少するための取り組みを行っている。 妊産婦死亡調

査 ・ 2009年にJohn Hopkins大学及び、 Indian Institute of Health Management Research

(IIHMR)と共同で行う妊産婦死亡率調査(Maternal Mortality Survey)の実施資金

3.2百万米ドルを支援する予定である。これにより、ベースラインである2002年から

の妊産婦死亡率の改善データが得られる見込みである。 世界銀行 BPHS ・ Strengthening Health Activities for Rural Poor(SHARP)(2009年~2013年)において、

支援が遅れている地域を重点的に、女性と子供の健康改善にフォーカスしたBPHSサービス・デリバリーを行う。

UNFPA331 リプロダクテ

ィブ・ヘルス ・ カブール州内の3つの産婦人科病院の改修、リプロダクティブ・ヘルスに関わるキ

ットや医薬品の提供、サービスが行き届いていない地域を対象にしたリプロダクテ

ィブヘルスサービスの提供、マスメディアを活用した行動変容促進プログラム ・ 家族計画プログラムの作成・立案、及び、実施NGOの監督に関する公衆衛生省の能

力向上支援を行っている332。また家族計画センターの設置を通じて、サービス提供

者のトレーニングを支援している。 WHO333 リプロダクテ

ィブ・ヘルス ・ 安全な出産および家族計画の実践に関わるガイドラインや研修教材を開発し、

UNFPAをはじめとする関係諸機関に配布したほか、開発された教材に基づき、養成

されたトレーナーが医療従事者に研修を実施した。 ・ マラライ産婦人科病院に新生児ケアユニットを設立し、カブールにおける妊産婦お

よび新生児へのサービス提供の向上・強化を支援した。また、医師と助産師に対し

328 JICA リプロダクティブヘルスプロジェクト 中間評価調査 329 http://afghanistan.usaid.gov/en/Program.28b.aspx 330 アフガニスタン政府、(http://www.reliefweb.int/rw/rwb.nsf/db900sid/ASAZ-7QAEGS?OpenDocument)、2009年4月10日閲覧。 331 UNFPA Afghanistan Website 332 UNFPA Afghanistan Webpage: http://afghanistan.unfpa.org/projects.html#Rights, 2009年4月10日閲覧。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

147

て、基礎的および緊急時の産科ケア、新生児蘇生法についての研修を実施した。 ・ 分娩経過表(Partograph)の使用、及び、妊産婦の貧血を検出するためのヘモグロビ

ン指標の使用に関する研究について、アフガニスタン公衆衛生院(Afghan Public Health Institute)及び、公衆衛生省リプロダクティブ部を支援している。

学校保健 ・ 教育省、公衆衛生省、UNESCO、UNICEFと共に、Health School Initiativesと呼ばれ

る学校保健カリキュラムの開発を行っている334。 UNICEF 医療従事者育

成 ・ 他機関と共に、地域助産師プログラムや医療従事者育成プログラム

(In-service/Pre-Service Health Worker Training)を支援している335。 栄養 ・ 5州を対象に50の病院に、栄養治療ユニット(Therapeutic Feeding Unit:TFU)を設

置したほか、地域リーダーを対象に、急性栄養失調の子どもの処置とリファラルに

関するトレーニングを行った。

2.2.3.3 今後の課題

3 大ドナーによる BPHS 支援は母子保健の改善を優先的に進めており、女性の医療アクセスはタ

リバーン政権時代に比べて格段に向上している。今後も女性医療従事者の数・質の充実、ヘルス

センターや病院でのサービスの向上、公衆衛生省の監督能力の向上を進めていくべきである。ま

た、アフガニスタンの社会的背景に起因して、農村部における女性医療従事者の絶対数が未だ圧

倒的に少ないこと、また各家庭レベルにおいて女性の健康に関する知識が不足していることが挙

げられ、以下のような方法によってこれらに対処する必要がある。

(a) 女性医療従事者の確保・定着に関するモニタリングとフォローアップ

ドナーが地域助産師育成プログラムを積極的に支援したことにより、アフガニスタンにおける助

産師の数は、2001 年の約 400 人から、2008 年の 2,500 人に増加した。しかし助産師が育成されて

も、育成が必ずしも就職に繋がっていないケースが報告されている。また、就職した助産師の定

着率も定かでないことから、こうしたプログラムが本来目指していた成果、インパクトが実際に

どの程度発現しているかを把握し、必要に応じて補完的な対策を講じていくべきである。

(b) 教育からの母子保健指数改善

長期的に母子保健の状況を改善していくためには、まず女子の基礎教育や母親のヘルスリテラシ

ーが向上する必要がある。識字教育に保健や家族計画の知識を組み込むなど、教育を通した母子

保健指数改善への取り組みを考えるべきである。

(c) 男性の意識改革

高い妊産婦死亡率の要因として、早婚や多産、産前検診の未受診や医療従事者立会いなしでの出

産による妊産婦の不調や合併症の発見・対応の遅れなどがある。また女性には、家族計画や避妊

に関する情報へのアクセスも限られている。こうした状況の改善を女性だけで行うことは困難で

あり、男性の意識改革も極めて重要であることから、女性課題省と連携しつつ男性への働きかけ

333 WHO Country Office in Afghanistan Webpage http://www.emro.who.int/afghanistan/programmes_rh.htm 2009年4月10

日閲覧 334 WHO 聞き取り調査 2009年4月7日。 335 UNICEF聞き取り調査、2009年4月8日。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

148

を意識したヘルスリテラシーの向上プログラムなどを計画、実施していくことが必要であろう 336。

2.2.4 教育

2.2.4.1 教育の現状

(1) 背景

アフガニスタンにおける近代教育の始まりは 19 世紀後半にさかのぼり、1935 年には無償義務教

育が宣言された。その後、1964 年のザヒル・シャー国王により進められた憲法改正において正式

に無償義務教育が確立された。しかしながら、ソビエト侵攻に始まった長期に渡る紛争とその後

のタリバーン政権による近代教育の弾圧により、20 年間で国の約 80%に及ぶ教育施設が破壊され

た 337。タリバーン政権下では女子や女性の教育も禁じられ、アフガニスタンの教育制度は深刻な

打撃を受けた。一方で、同政権下、近代教育に代わり推し進められたのが、男子のみを生徒とす

る宗教学校(マドラサ)であった。この間、多くの教員が国外へ逃れ、教えるのを辞めるか、難

民キャンプで教師となった。

このような背景から、タリバーン政権が崩壊した 2001 年、アフガニスタンの教育制度は危機的状

況にあった。国内では深刻な教員不足に見舞われると同時に、多くの子どもたちが学校に通って

いなかった(2000 年のユネスコ資料によると、初等教育就学率は男子 39%、女子 3%ということ

である)。特に子ども兵士や、学校に通ったことのないまま学齢期を過ぎた女子、孤児、未亡人

の子どもたちなどの脆弱なグループが多くいた。1990 年からタリバーン政権崩壊までの間、少な

くとも約 800 万人から 900 万人の子どもたちが教育を受ける機会を持たなかったと推定されてい

る 338。

(2) 教育制度

アフガニスタンの教育制度は図 2-25のとおりである。義務教育(無償)は初等教育(6年間)と

前期中等教育(3年間)を合わせた9年間である。また初等教育と中等教育を合わせた12年間の教

育を一般教育(General Education)と呼んでいる。教育分野を管轄する省は、教育省、高等教育省、

MoLSAMDに分かれるが、教育省の管轄としては、一般教育のほかに、イスラム教育、教員養成、

及びコミュニティに根ざした教育(Community-based Education)が含まれ、また技術職業訓練研修

(Technical Vocational Education and Training:TVET)をMoLSAMDと共管している。保育園や幼

稚園(カブール中心に限られている)は、MoLSAMDの管轄に入る339。高等教育省は、カブール

大学を含む19の高等教育機関を管轄している。なお、教員養成校に関しては、高等教育省と教育

省の間で、業務が分割されている。

336 女性課題省の州女性局が農村部に入るときは、ほぼ必ず村の有力者や男性シュラに対して説明し、理解を求め

ることが必要となるため、こうした機会を逆に利用することが可能である。 337 UNESCO (2008), A compilation of background information about educational legislation, governance, management and financing structures and processes: South and West Asia 338 同上 339 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

149

2007年時点、一般教育に通う生徒は、教育省が管轄する学校へ通う生徒のうちの95%を占めてい

る340。残りの5%は、コミュニティに根ざした学校(Community-based School:CBS)、宗教学校

(マドラサ341)、教員養成校、技術職業訓練校に通っており、生徒数の内訳はそれぞれ順に2.66%、

1.54%、0.17%、0.24%となっている342。また2007年時点の一般教育の生徒数は、568万人であり、

そのうち初等教育が82%、前期中等が13%、後期中等が5%を占めている343。

図 2-25 アフガニスタンの教育制度

出所: JICA アフガニスタン国教師強化プロジェクト(フェーズII)実施協議報告書(2007年10月)と教育省資

料をもとに作成

(1) これまでの取り組み

(a) 初等・中等教育

2001年のタリバーン政権崩壊後、アフガニスタン政府は、国際社会からの援助を受け、教育制度

の立て直しに着手した。2002年3月にアフガニスタン暫定政府がドナーの支援を受けて実施した

“Back to School”キャンペーンが功を奏し、同年で約300万人の児童と7万人の教師が学校へ復帰す

る運びとなった。その後の継続した支援により、2008年までに同国の一般教育344における就学者

数は640万人を超えるまでとなった345。2002年時にはほとんどいなかった女子生徒も、現在では一

340 JICA (2008) アフガニスタン個別専門家業務完了報告書、2008年 20項。データは、教育省EMIS(Education Management Information System)の2007年時のもので、現在は変化している可能性が高い。またこのデータには、8州600校近くのデータが入っていない。 341 伝統的なイスラム教による教育制度で、公教育の一環としてのマドラサでは、政府が設定したカリキュラムに

沿って授業が進められることが条件となっている。アフガニスタン政府が認定、管轄するマドラサは336校あり、

マドラサに通う学生は9.1万人いるとされている。 342 同上 343 同上 344 初等教育と中等教育を合わせた12 年間の教育 345 Susan Wardak (2008), Girl’s Education in Afghanistan at a Glance

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

150

般教育就学者数の約35%を占めている346。しかしながら、依然として学齢期の子どもの半数が学

校に通っていない。また国内における非識字者も、1,100万人と推定されている347。同国の識字率

(全体で29%、うち男性43%、女性14%)は、図 2-26に示すとおり、アフガニスタン周辺諸国と

比較しても著しく低く、開発途上国の中でも、ニジェール、ブルキナファソ、マリに次いで も

低い数値となっている。

0

20

40

60

80

100

120

識字率

男性識字率

女性識字率

図 2-26 アフガニスタンと周辺国の識字率

出所: UNDP Global Human Development Report 2004, CSO Statistical Year Book 2003

児童数の増加に伴い、教員不足が大きな課題となったことから、2002 年以降、教員の数と質を改

善するための取り組みとして、教員養成及び現職教員研修が、様々なドナーの支援を得て進めら

れた。これにより、合計 38 校の教員養成校(Teacher Training College:TTC)が、アフガニスタン

全州において設置され、2008 年にはTTCのための新カリキュラムが開発された 348。また 2001 年

のタリバーン政権下において 1.1 万人だった一般教育における教員数 349は、政府主導の積極的な

キャンペーンにより、2008 年には 15 万人へと増加した 350。しかし、このうち正式な教員となる

ための 低資格である第 14 学年(高校卒業+2 年間の教員トレーニング)の修了者は、22%に限

られているのが現状である。また教員の多くが都市部に集中しているため、都市部、地方間の格

差が問題となっている。女性の教員は、全体の 28%に過ぎず、ジェンダー間の格差は、地方にお

いて特に顕著である 351。さらに教員の中には非識字者もいると報告されており、その数は、一般

教育を含む全体の教職員 16 万人中、申告をした者だけでも千人を超えている 352。

学校建設もドナーの支援により進められ、過去 6 年間で大きな改善が見られる。2002 年から 2008

年までで、少なくとも 3,500 校の学校が新規に建設もしくは修復され 353、今後も 1,000 校が建設

346 NESP (2006) pp. 11. 347 同上 348 Kirk, Jackie (2008), Teacher Management Issues in Fragile States: Illustrative examples from Afghanistan and Southern Sudan, pp. 7. 349 1.1万人の大半が初等教育の教員である。同上 350 15万人の大半が初等教育の教員である。同上 351 同上 pp. 3. 352 16万人には、一般教育における教員に加え、教育分野に従事する一般職員も含まれる。JICA (2008) アフガニ

スタン個別専門家業務完了報告書 23項。 353 Irin, Afghanistan: Attacks deprives 300,000 students of education: 2008, September 22, retrieved from http://www.irinnews.org/Report.aspx?ReportId=80506 2009年4月20日.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

151

される予定である 354。一方で、現在 9,000 校以上ある学校のうち、建物がない学校が、全体の 60%

に及んでいる 355。特に、地方の学校の大半(75%)が建物を持たないため、授業がテントや青空

教育というかたちで行われているのが現状である 356。

加えて、 近の治安の悪化が、児童の教育へのアクセスに深刻な影響を与えている。特にヘルマ

ンド州、カンダハル州、ザブール州、ウルズガン州といった南部の州では、女子、男子児童とも

に非常に低い就学率が続いているが、これは、2006 年以降、女子教育に反対するタリバーンによ

る学校の焼き打ちや、児童、教師を標的としたテロ行為が増加傾向にあるためである。すでに 2006

年 3 月から 2008 年 2 月までの 2 年間に、2,450 校に及ぶ学校が襲撃に遭い、235 人の児童、学生、

教職員が殺害されている 357。さらに 2008 年では、約 700 の学校が焼き打ちにあって閉鎖されて

いる 358。学校襲撃・閉鎖の理由で、現在教育を受けることができない状況に置かれている児童は

30 万人を超える。

このように、タリバーン政権崩壊以降教育分野での大幅な改善が見られるものの、課題は依然と

して山積している。中でも、治安、文化社会的、物理的理由による、特に女子教育のアクセスの

低さ、並びに、教育そのものの質の低さ(教師、カリキュラム、教材等)が深刻な問題となって

いる。

(b) 識字教育

アフガニスタンの非識字者数は、1,100万人と推定される。特に地方における非識字率が顕著で、

2003年時のユニセフの調査によると、全34州のうち、15歳以上の非識字率が80%以上の州が11州、

70~80%の州が14州あった359。このような状況の中、教育省識字局は多くのドナーの支援を受け

て識字率向上のための取り組みを行ってきたが、効果発現には時間がかかるのが現状である。政

府側の課題としては、様々なドナーが別々のプログラムを展開する中、うまく調整を取りながら

包括的な取り組みへとまとめることである。一方で、地方においては、識字の重要性がそれほど

認識されていないという課題がある。女性が識字教育を受ける上で、治安面、アクセス面に大き

な問題もある。また読み書きを学んでもその後に使う機会がないという、アフガニスタンの社会

の構造的な問題、ないしはフォローアップの問題もある360。教育省の識字局はこれらの課題を克

服すべく、2013年までの活動を明確化した国家識字活動計画(Afghanistan National Literacy Action

Plan)を作成している。

(c) 高等教育

ANDSによれば、現在アフガニスタンの大学には国民の0.2%にすぎない約52,200人の学生が19の

高等教育機関に在学しており、大学は10年以内に10万人の学生を受け入れられるようになる必要

354 Susan Wardak (2008) MOE, Girl’s education in Afghanistan at a glance pp.12. 355 JICA (2008) アフガニスタン個別専門家業務完了報告書 23項。 356 同上 357 Irin, Afghanistan: Attacks deprives 300,000 students of education: 2008, September 22, retrieved from http://www.irinnews.org/Report.aspx?ReportId=80506 2000年4月20日 358 World Bank Kabul Office, 聞き取り調査、2009年3月30日。 359 UNICEF (2003) Multiple Cluster Survey 360 UNESCO Kabul Office、聞き取り調査、2009年4月2日

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

152

があると予測がされている。現在は約2,700名の教員が教鞭をとっているが、半数は四年生大学を

卒業したに過ぎず、博士号をもっているのは7%に過ぎない361。利用しているカリキュラム、シラ

バス、教科書などのほとんどが時代遅れのものとなっており、一方通行の単調な講義が行われて

いる。学校の設備(校舎、器具、電気、水道など)も不十分である。また、2005年時点て、クン

ドゥズ教育大学が学生数164名、タハール大学が世界銀行のStrengthening Higher Education Program

(SHEP)により、(i)ブロックグラントの供与(設備・機材投資、TA、奨学金など、31百万米ド

ル)や、(ii)他大学とのパートナーシップを通じた、カリキュラム開発や研究室の開発、客員教授

の派遣、教員のトレーニング(7.5百万米ドル)等が行われ、また、USAIDのHigher Education Program

(HEP)により教育学部の強化が行われているが、今後の学生増加のニーズに対応するには、質・

量とも十分とは言えない。

(d) 現職教員研修(In-service Training)

タリバーン政権崩壊後、深刻な教員不足に見舞われる中、アフガニスタン政府は、教員資格がな

くとも修了課程が第9~12学年の者に対して、今までの経験をもとに、ひとまず教職についてもら

う緊急処置をとった。その一方で、中期的に、現職教員研修を新規職員に優先して実施していく

方針をとった。現在、同方針に基づき、全34州で、郡教員研修チーム(District Teacher Training Team:

DT3)を活用した2つの現職教員研修モジュール(In-service Education Training:INSET 1 & 2)が、

USAIDや世界銀行により支援されている。DT3は、チームリーダー1人と、教師トレーナー4人に

より構成され、地域のニーズに対応しながら、研修及び、教員のネットワークづくりに貢献する

ことが求められている。研修モジュールINSET 1は、もともと教育省教師教育局(Teacher Education

Department)に設置されたTeacher Education Program(TEP)を通じて実施されていたが、ドナー

間の援助協調や財政面の問題により、同研修が一時中断されるなど、実施に大幅な遅れが出てい

た。このため、大臣主導で調整がなされ、2007年にDT3のコンセプトがとり入れられた。DT3は、

4年間かけて、INSET 1 & 2に加え、資格が十分でない女性教員を対象とした短期的に成果を挙げ

る教育(Accelerated Learning:AL)を現地の学校やクラスター・スクールで実施していくもので

ある。

加えて、CBS、AL、マドラサのように、政府管轄下に様々な学校が存在する中、政府は今後、そ

れぞれの学校にあった教員研修プログラムを開発、認証していく必要がある。現在では、NGOが

これら一般教育以外の学校の教員研修の大半を管理・実施している。

(e) 新規教員養成(Pre-service Training)

新規教員養成に関しては、上述のようにTTCが全国に設置され、TTCの新カリキュラムが開発さ

れるなどの改善が見られている。しかし課題も多く残っている。新カリキュラムには、詰め込み

形式の講義が多く、大半の学生が、卒業直後に初等教育担当の教師となる実状を踏まえていない

との批判もある362。また大学に進学できなかった学生が、代わりにTTCに入学するケースも多く

あり、TTCの卒業生が、必ずしも教員になるわけではない点も懸念される。さらに、現在、TTC

の学生の20%がカブール市に集中しており、この率は女子学生の場合で40%であることから、都

361 World Bank (2005) Project Information Document Strengthening Higher Education Program 362 Kirk, Jackie (2008), Teacher Management Issues in Fragile States: Illustrative examples from Afghanistan and Southern Sudan, pp.7.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

153

市部・地方間の教員数の格差が今後すぐに解決されるとは言い難い。地方において教員を増やす

ために、地方TTCの充実や地方学生のリクルートを積極的に行うなど、何らかの取り組みがなさ

れる必要がある。

囲み記事 2-11 教員給与の問題

現在、アフガニスタンでは、教員を含む公務員の給与がアフガニスタン復興信託基金(ARTF)から拠出

されている。教員の平均月給は74米ドルである。教員の給与は、経験や教育のレベルで決められており、

例えば新人教師の月収は32米ドル、修士号取得者や40年の経験を持つ者は88米ドルである。またこの中に

は、食糧支援や 近の給与の上昇分が含まれている。しかし、教員の給与が他の職業と比べて魅力的とは

決していえない上に、 近の物価上昇を受けて生活が困難になりつつある。特に、州教育局の管理能力の

問題により、地方においては、教員の給与の支払いが遅れたり、その透明性が確認できないなどの問題が

生じている。このような状況に対処するため、世界銀行のEQUIPプロジェクト(後述)には、教員の給与

の支払いを円滑に進めるための州教育局レベルのアドバイザリー兼モニタリング支援が組み込まれるこ

ととなった。また政府は、2008年6月に、教員の給与を大幅に上げることを発表したが、これが実行に移

されるかどうかは、今後の様々な要因に左右される。

一方、今までCBSで教えていた教員は、政府の給与体系の中に組み込まれておらず、地域からの不定期な

献金やNGOの支援等により活動していた。今後これらの教員が政府職員としてのの給与体系の中に組み込

まれることにより、彼らの収入が安定するだけでなく、コミュニティ・レベルの教育の質の向上にも繋が

る。現在、USAIDが支援し、NGOにより実施されている16州におけるPACE-A(Partnership for Advancing Community Education in Afghanistan)プロジェクトで教える教員の35%が、一時的ではあるが、すでに教育

省の給与体系に組み込まれている。このような例も含めて、今後、教員の数や質が長期的に確保されてい

くためには、給与といったインセンティブを十分考慮していく必要がある。

出所:Kirk, Jackie (2008), Teacher Management Issues in Fragile States: Illustrative examples from Afghanistan and Southern Sudan

(2) ジェンダー間格差

ここ数年で女子の一般教育における就学率に大幅な改善が見られたものの、男子就学率と比較し

て、女子の就学率は依然として圧倒的に少ない。図 2-27に見るとおり、特に、小学校4年生以降、

女子の占める比率が男子生徒の三分の一ほどになるのがわかる。また表 2-39の通り、男女間の格

差は、都市部よりも地方において顕著である。これらの統計から、特に地方における女子教育と、

そのための女性教員養成が今後も引き続き重要であるのがわかる。また中等教育になると極端に

女性の進学率が減ることから、重点分野を中等教育以降へ広げる必要もある。さらに女子が学校

に通えない理由を、地理的、社会的、経済的、治安といった観点から認識し、実状にあった支援

を行っていくことが必要である。教育省では、2007年に、ユニセフと共に、ドナーやカウンター

パートをメンバーに含むAfghanistan Girl’s Education Initiative(AGEI)を立ち上げ363、女子教育の

状況改善に努めているが、メンバーの様々な意向が交錯する中での取り組みには課題も多い364。

363 AGEIのメンバーには、女性課題省、CIDA-Canada, Sida-Swedish, UNESCO, USAID, JICA, UNIFEM, WFP, OXFAM, PACE(Care, IRC, CRS, AKF), 世界銀行、AWEC, Swedish Committee for Afghanistan, Human Right Commission, HRRAC, DANIDA,及びUNICEFが含まれる。 364 Susan Wardak (2008) MOE, Girl’s education in Afghanistan at a glance, pp. 12.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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100,000

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300,000

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1,000,000

女子

男子

図 2-27 一般教育における就学者数(男女別)

出所: 教育省EMIS(2007年)

表 2-39 ジェンダー格差率(Gender Disparity Ratio:GDR)

レベル 総GDR 地方のGDR 都市部のGDR 初等教育 56.1 47.4 75.2 前期中等教育 33.3 11.9 53.6 後期中等教育 28 6.8 41.8 総合平均 52.5 43.5 69.3

出所: 教育省(2005年)

教員のジェンダー格差も顕著となっている。アフガニスタンにおける女性教員の割合が全体の

28%であることは既に述べたが、この率も各州で大きな差がある。例えば、カブール市における

女性教員の割合は全体の69%であるのに対して、パクティア、パクティカ、ホースト、ゴール、

ザブールの各州では、5%未満となっており365、女性教員の不足が深刻である。この統計の背景に

は、地方において一定レベルの教育を受けた女性が少なく、女性教員をリクルートすることが非

常に困難な現状が反映されている。また都市部の女性が地方で教職に就く可能性もほとんどない366。そのため、もともとリソースの少ない地方において女子教員を確保せざるを得ないのは大き

な課題である。

2.2.4.2 政府の方針

ANDSにおいて、教育は8つの全重要課題項目の一つとして取り上げられており、中でも基礎教育

の提供と非識字率の減少が、 優先課題として明記されている。また、アフガニスタン版MDGs

においても、初等教育の完全普及が掲げられている。

2006年のロンドン会合で策定した「アフガニスタン・コンパクト」においては、以下の通り、2010

年までの目標が明確化されており、当該目標はANDSでのそのまま採用されている。

• 2010 年までに初等教育の純就学率が少なくとも女子で 60%、男子で 75%となる。

• 中等教育の新カリキュラムがすべての学校で使用される。

365 Kirk, Jackie (2008), Teacher Management Issues in Fragile States: Illustrative examples from Afghanistan and Southern Sudan, pp. 16. 366 UNESCO, 聞き取り調査 2009年4月2日

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

155

• 女性教員が 50%増加する。

• 70%の教員が教員資格試験に合格する。

• 生徒の学習状況を把握するための学力テストが実施される。

加えてANDSに先立ち、アフガニスタン・コンパクトに沿って教育省が策定した、国家教育戦略

計画(National Education Strategic Plan for Afghanistan:NESP)においては、2010年までの優先プロ

グラムとして以下の8つが挙げられている。

(i) 一般教育(1~12 年生の教育)

(ii) 教師育成と職務環境

(iii) 教育施設の建設

(iv) カリキュラム開発と学習教材

(v) イスラム教育

(vi) 技術職業教育訓練

(vii) 識字とノンフォーマル教育

(viii) マネジメントと能力強化

しかし、現状を考慮すると、アフガニスタン・コンパクトの目標年である2010年までに、これら

の目標を達成することは不可能に近い。MDGに関しても、現在のアフガニスタンの人的・財政的

能力が極めて低い状態であるにも関わらず、初等教育の完全普及に20年以内の達成を宣言してお

り、非常に野心的な目標設定となっている。

2.2.4.3 ドナーの支援の概況

様々なドナーが教育分野への支援を進めており、学校建設などのインフラ事業のほかに、特に現

職教員研修・教員養成、識字教育への支援が活発である。また高等教育支援もいくつかのドナー

により進められている。以下は主要なドナーの支援状況である。

(1) JICA

(a) 教師強化プロジェクト(フェーズ II)(STEP2)(2007 年~2010 年)

教師強化プロジェクトは、教育の質の向上に貢献することを目的に、フェーズIにおいて初等教育

第1~3学年の主要6科目の教師用指導書を開発、普及したのに引き続き、フェーズIIでは、初等教

育第4~6学年主要7科目の教師用指導書の開発と普及を行っている。現在、開発された指導書を教

科書配布と共にエンドユーザーに普及させるための調整がなされている。例えば、USAIDが11州

で行うBESST(後述のUSAIDの支援状況を参照)を通じた現職教員研修(INSET2)に指導書紹介

のワークショップを組み込むことが既に決まっている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

156

(b) 教師教育における特別支援教育強化プロジェクト(2008 年~2010 年)

特別支援教育の授業が全TTC(教員養成校)で行われることを目的に、特別支援教育のためのテ

キスト開発が行われている。

(c) 識字教育強化プロジェクト(LEAF)(2006 年~2008 年)

カブール市、カブール州、バーミヤン州、バルフ州において識字教育の質とサービスが向上され

ることを目的に、教育省識字局のキャパシティ・ビルディング(識字教育の計画とデータ管理、

教材管理、スーパーバイザーの能力向上)及びNGO再委託による識字教室の拡大が行われた。教

育省の要請を受けて、現在LEAF2の事前調査が予定されている。

(2) 他ドナー

他ドナーの主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-40 教育分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 世界銀行 一般教育にか

かる学校建設、

教材支援、教員

養成、政策支援

Education Quality Improvement Program(EQUIP)(EQUIP I:2004年8月~、EQUIP II:2008年5月~) ・ 一般教育の質の向上を目的として、(i)質の向上とインフラ開発に対する学校交付

金、(ii)人的資源開発を通じた学校支援、(iii)政策形成とモニタリング・評価が行わ

れた。(ii)の中では、現職教員研修、INSET1が実施され、世銀はUNICEFと共に、教

員研修の中心的な役割を果たしたが、地方において、治安や活動資金の透明性など

に問題が生じ、研修が一時中断されたため、プログラム目標である13.5万人を対象

とした教員研修が期間内に達成されなかった。 ・ EQUIP Iの継続プロジェクトとして開始したEQUIPIIでは、23州においてINSET II

及び、INSET 1の実施が支援されている367。同プロジェクトは、地方のコミュニテ

ィ参加を促進するかたちで、School shuraを組織し、彼らのニーズに基づいて直接

グラントを提供することを特徴としており、(i) School shuraを通じた学校の建築、

修復支援、及び学校教材の支援、(ii)教員及び校長研修、(iii)プロジェクト・マネジ

メントとモニタリング、評価が行われている。(ii)においては、USAID が支援する

BESSTと協力して郡教員研修チーム(DT3)による現職教員研修(INSET 1 & 2)が実施される。また同コンポーネントには、合計5,000人の女子学生を対象とした

TTCへの奨学金制度が含まれる368。校長研修は、校長のリーダーシップ及びマネジ

メント能力向上を目的としている。 高等教育 Strengthening Higher Education Program(SHEP)369

・ SHEPは、アフガニスタンの高等教育の開発を目的としている。カブール・ポリテ

クニック大学、カブール大学、バルフ大学、ヘラート大学、カンダハル大学、ナン

ガハル大学を対象に、大学のパートナーシップ構築やニーズに基づいた資金提供を

行うことで、大学の運営面での支援がなされている。 USAID 初等教育 Building Education Support Systems for Teachers(BESST)(2006年–2011年)370

・ 本プロジェクトは、教育省や他のパートナーと共に、教育の質を改善することを目

的にしており、(i) 初等教育の質の向上と、(ii) 教育省への支援と教員研修の強化の、

2つのコンポーネントから成る。2つ目のコンポーネントには、DT3による教員研修

が組み込まれている。これまでにUSAIDが支援する11州において、5万人の教員が

INSET-1の研修を受けており、現在は、同じ州でINSET-2が実施されている。また

同プロジェクトでは、EMIS(Education Management Information System)の整備がな

367 残りの11州においては、USAIDが支援するBESSTを通して行われている。 368 初年度は、800人の奨学生を予定している。World Bank (2009), Afghanistan Reconstruction Trust Fund (ARTF) Second Education Quality Improvement Program (EQUIP II): Proposal for the Management Committee pp. 11. 369 World Bank Afghanistan (2009), Country Update

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

157

されていたが、現在は、世銀に引き継がれている371 高等教育 Higher Education Project in Afghanistan(HEP)(2006年–2011年)372

・ 高等教育の質の向上を目的とする。特に、中等教育の教師を養成するカブール大学

やカブール教育大学を含む16の教育学部を支援の対象としている。具体的には、教

育学、英語、専門科目、職業教育などのトレーニングを通じて、教授や講師の教授

法を改善することが目的とされる。 CBS Partnership for Advancing Community Education in Afghanistan(PACE-A)(2006年~2011

年)373 ・ PACE-Aは、NGOを実施機関として、特に学校へのアクセスが限られる地域におい

て、CBSを拡大・支援することを目的としている。具体的には、(i) CBS設置による

初等教育へのアクセス拡大、CBSの質の向上、及び(ii) CBSが長期的に維持・支援

されるための現地コミュニティ組織の能力強化、並びに教育省とCBSの関係・協力

強化を支援している。 識字教育、基礎

的算数能力 Learning for Community Empowerment Programme Phase II(LCEP 2)(2007年~2012年)

・ LCEPは、教育省National Literacy Center(NLC)のキャパシティ・ビルディングを

通じて、若者や成人を対象としたコミュニティ・エンパワメントと教育プログラム

を組み合わせて支援する取り組みである。プログラムには、識字教育に加え、基礎

的計算能力(numeracy education)、スキル・トレーニング、マイクロ・クレジット

のセルフ・ヘルプ・グループの組織化が組み込まれている。全20州を対象としてい

るが、うち10州はNSP(UN-HABITATが実施)の一環として実施されている。 UNICEF 教員養成 ・ 2005年~2006年に、世銀と共に女子教員8,000人を対象としたINSET 1を支援したほ

か、INSET1の教材作成、印刷などの支援も行った374。 ・ Quality Education with focus on Girls:TTCにおける教員養成、現職教員研修、学校教

材支援、インフラ・教室の建設、トイレの設置支援、初等教育のカリキュラム開発

などを行っている。特に女子のニーズに沿った教育の質改善への取り組みがなされ

ている。 CBS ・ 2006年から現在まで、約3,400のCBS(第1~3学年)を設置した。 女子識字教育 ・ 教育省を通じて、女性のための識字センター(Literacy Center for Women)設置を支

援している。特に、UNICEFが別に支援する女子教育とのリンクを意識して、12~24歳の学校に通っていない女子を対象に9か月間の識字教育を実施している。

緊急支援・学校

建設 ・ 緊急支援:学校襲撃などに対処する緊急時の支援を行っている。Save the Children

と共同で緊急教育クラスターを組織しており、緊急時の教材、テントなどの調達を

行っている。 ・ 教室設置:日本の支援を受け、2009年~2010年にカブール市48校において1,000の

教室を設置する。 UNESCO 識字教育 Enhancement of Literacy in Afghanistan(ELA)(2008年~2013年)

・ 教育省NLCのキャパシティ・ビルディングを通じて、18州、30万人を対象に識字教

育を実施している。 DANIDA

財政支援 ・ 2003年から引き続きコア予算への財政支援を行っている。また2006年からUSAIDと共同で、教科書の印刷や配送の財政支援を行っているが、教科書編集の遅れ、配

送時の不透明性、教科書一時保管場所の欠如といった教育省中央・州レベルでの

様々な問題により、児童への教科書配布が予定通り進んでいない375。 GTZ

カリキュラム

整備、学校建設 Basic Education Program for Afghanistan Phase II(BEPA II)(2007年~2010年) ・ フェーズ1に引き続き、GTZ、DED(ドイツ開発サービス)、KfW(ドイツ復興金

融公庫)による共同プログラム。GTZが中央で教師教育に関する技術支援やTTCのカリキュラム改革を行い、KfWが地方におけるTTC、寮、実習校の建設支援を担い、

DEDが地方のTTCに対して専門家を派遣している376。GTZによるTTCのカリキュラ

370 USAID Afghanistan, BESST, retrieved from http://afghanistan.usaid.gov/en/Activity.44.aspx, 371 JICA expert, Inset関連情報、その他、2007年9月23日。 372 USAID Afghanistan, HEP, retrieved from http://afghanistan.usaid.gov/en/Activity.48.aspx, 373 USAID Afghanistan, PACE-A, retrieved from http://afghanistan.usaid.gov/en/Activity.47.aspx. 374 JICA (2007) 教師教育強化プロジェクト(フェーズII)実施協議報告書、pp. 18. 375 JICA expert,、教育セクター関連情報、2008年4月 376 JICA (2008)アフガニスタン個別専門家業務完了報告書 14項

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

158

ム改革には、平和教育が含まれる。 イラン

教員養成 ・ 2007年、イラン政府は教育省計画局におけるEMISの支援、教師養成学校(Teacher Training Institute)の建設、TTCの講師育成などを行った377。

インド378

カリキュラム

整備、教員養成 以下のアフガニスタンの教師教育に協力することで合意。 ・ 2年間の新規教師教育用の指導教材の執筆 ・ 新カリキュラムの実施の際のTTC講師研修 ・ プリスクールと特殊教育に関する教師教育プログラムのカリキュラムと指導教材

開発 ・ インドでの教育関連プログラム研修 ・ 全国的な遠隔教師教育システムの構築 ・ 教師教育局での質の評価・モニタリングシステムの構築 ・ 教員の能力評価、認証評価システムの強化

2.2.4.4 今後の課題

これまで述べたように、教育分野での多くの改善や取り組みがなされているものの、アフガニス

タンの教育はどのサブセクターにおいても依然として極めて低いレベルにあり、政府の財政的・

人的能力も遥かにニーズに及ばないことから、当面はドナーの支援に依存せざるをえない状況に

あると言えよう。留意すべき今後の課題として、以下のものが挙げられる。

(a) 初等・中等教育支援

学校教育については、(i)カリキュラム、教科書、指導要領等をまずそろえ、(ii)これらを使う立場

の教師の質を向上させて、初めて(iii)学校の現場での教育の質の向上が達成されるが、現在は、初

等教育において、(i)が大きく改善され、(ii)が行われているところであり、引き続き教師のトレー

ニングを継続していく必要がある。一方、中等教育および高等教育についての改善の取り組みが

遅れており、今後(i)及び(ii)の支援を展開していく必要がある。

(b) 識字の重要性の認識不足

地方においては、収入の向上や生活の安定に直接結びつかないことから、識字の重要性がそれほ

ど認識されていないという課題がある。一方で、基本的計算能力や識字能力がないことによって、

職業訓練がそもそも開始できない、という問題もある。識字教育と職業訓練は補完関係にあるこ

とから、両者を組み合わせたプロジェクトを実施する(教材も工夫する)ことは重要である。

(c) 高等教育支援

高等教育の改善に必要性については、識字教育や初等・中等教育に比べて、より長期的に取り組

むべき課題であるものの、アフガニスタンの政府や民間セクターの人材の需給ギャップを解消す

ることなしに、国家の自立的な経済運営は不可能であると言っても過言ではない。高等教育の質・

量のニーズに応えていくために、教員の能力強化、カリキュラム・教材の充実を今後も進めてい

くとともに、女性のリーダーを育成するための奨学制度の充実や寮の整備といった支援も考えて

いくべきであろう。

377 JICA expert TED 関連情報、2007年12月 378 同上.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

159

2.3 経済開発の現状と課題

2.3.1 農業

2.3.1.1 農業セクターの構造379

アフガニスタンの人口の85%は農村部に居住しており、農業はGDPの約半分(2002/03は49%、

2004/05は36%と、年によってばらつきがある)、労働力の三分の二を占めている。農村経済は長

期にわたる紛争によって疲弊しており、農業技術、道路・潅漑などのインフラ、教育といった基

礎的な条件が整っていないことから、ほとんどの農民は限られた土地における小麦栽培及び数頭

の家畜の飼養による自給自足を強いられている。農村部における家族構成は平均約11名であり、

農業のみでは生活を支えることができずに、家族のうち数名は都市部ないしは周辺国に出稼ぎに

出ている。

農地はおしなべて小さく、合計128万世帯の農家の農地面積は平均で5ヘクタールとなっている。

土地なし農民は全世帯の23%を占めている(Vulnerability Analysis Unit、MRRD、2004年8月)。乾

燥地域であることから潅漑がきわめて重要であり、6.5百万ヘクタールの全耕地のうち、一部なり

とも潅漑されている土地は、約3百万ヘクタール(43%)となっている。

2.3.1.2 食糧生産

食糧確保のために極めて重要であることから、ほとんどの農家が穀物を生産しており、全耕作地

の三分の二を占め、うち小麦の栽培面積が8割を占めている。穀物の栽培面積のうち、4割が天水

地、6割が潅漑地となっている。小麦の自給については地域間でばらつきがあるが、2007年におけ

るアフガニスタン全体での小麦の自給率は約90%と言われている。

小麦の生産は、2003/04の旱魃時には一時落ち込んだものの、2001年から2007年にかけて約2倍に

増加している。単位面積あたり収量が2001/02の1.0 t/haから1.82 t/haへと増加するとともに、同時

期に、穀物の栽培面積が2.1百万ヘクタールから3.0百万ヘクタールへと増加したためである。なお、

小麦の天水地での平均収量は1.0 t/haで潅漑地では2.8 t/haとなっており、周辺国とほぼ同じ水準と

なっている(世界銀行2004年)。

一方、北部を中心として米作も行われており、生産量は2006/07年に360トン程度と小麦の十分の

一程度となっている。平均収量は1t/ha程度と言われているが380、生産や流通の実態についての情

報・報告はほとんどない。アガ・ハーン財団による、米の単位収量を増加させるプロジェクトの

情報を以下に記載する。

379 本項の記述は、”Afghanistan - Economic Incentives and Development Initiatives to Reduce Opium Production”

(Christopher Ward, David Mansfield, Peter Oldham and William Byrd (2007), pp. 20)による。 380 JICAによる「ナンガハル稲作農業改善プロジェクト」で3t/haの収穫を挙げたところ、大きな話題になった。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

160

囲み記事 2-12 アガ・ハーン財団による集約的稲作システム

アフガニスタンでは、1980年代以降、砂糖ダイコンや綿花栽培から稲作に転換する農家が増加し、ク

ンドゥズ川流域で稲作栽培が多く行われるようになった。しかしながら、上流域での稲作が下流域に

おける農業用水の不足を招くとして、流域の農民の間に紛争が起こる場合があることから、稲作の単

位収量を向上させるためプロジェクトが2007年よりバグラン州において開始された。農民の中から希

望者を募ってモデル圃場を設定し、これまでの稲作と比較しながら栽培を行ったところ、単位面積あ

たり収量が4~7t/haから9~14t/haに向上した。ただし問題として、土地の準備や栽培により多くの労働

が必要であること、また、有機肥料が不足している、ということが挙げられている。

出所: http://sri-india.110mb.com/documents/3rd_symposium_ppts/Afghanistan.pdf

主要な穀類及びジャガイモの生産量の推移を以下に示す。

表 2-41 主要な穀類及びジャガイモ生産量の推移(千トン)

2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 2006/07

小麦 2686 3480 4266 n.a. 3363米 388 260 325 n.a. 361大麦 345 240 337 n.a. 364メイズ 298 210 315 n.a. 359ジャガイモ 230 350 300 n.a. 300

出所: IMF Country Report 2008年2月0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

2001/2 2002/3 2003/4 2004/5 2005/6 2006/7

穀物生産量 うち、小麦生産量

図 2-28 穀物及び小麦の生産量の推移(千トン)

出所: IMF Country Report 2006年3月

穀物生産量の増加については、種・肥料の調達、潅漑の補修に対するドナー・NGOの集中的な支

援がその背景にある。小麦生産地の半分以上において、生産性の高い種が導入されており、潅漑

地における肥料の平均投入量は180kg/haに及ぶ、と報告されている。

また、麦わらやフスマは家畜の飼料としても重要であることから、食糧確保の観点、そして飼料

確保の観点から、穀物生産はアフガニスタンの農家にとって極めて重要である。小麦の生産性を

向上させることより、農家の食糧を確保するとともに残りの土地を換金作物の生産にあてること

ができるようになり、ひいてはケシ栽培からの脱却を図れるようになることが期待されている。

2.3.1.3 果実・ナッツの生産及び流通

アフガニスタンにおいて、果樹を含む園芸作物は、現金作物として農家の所得向上につながるう

え、輸出品目として国家経済にとっても重要である。また、単位面積あたりの収入が比較的高い

ことから、ケシ栽培の代替作物としても注目されている。アフガニスタンの自然条件は、乾燥し

た水はけの良い大地と、気温の日較差が大きいことから、果樹栽培に適している。一方で、夏季

は雨が降らないため、果樹栽培には潅漑用水を必要とする。かつてはオーガニックな果樹生産が

ほとんどであったが、 近は化学肥料を用いた果樹生産がほとんどであると報告されている。

下表のとおり、果樹全体の栽培面積は約12万ha、生産量は約76万トンと推定される。全果樹園の

90%以上が、ブドウ、桑の実、アーモンド、ピスタチオ、アンズ、リンゴの6種の果樹で占められ

ており、作物多様性は比較的低いと言える。園芸分野で果菜に分類されるメロン、スイカの栽培

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

161

も盛んで、特にメロンは良質のものが生産される。標高が高いため周辺国より気温が低く、近隣

国へ落葉果樹の果実を輸出し、熱帯果樹類を輸入している。

表 2-42 アフガニスタンにおける果樹栽培381(2002/2003)

果樹種類 栽培面積(ha) 単位面積当たり収量(t/ha) 推定生産量(t) ブドウ 60,618 8.5 515,253 リンゴ 6,117 10.0 61,170 アンズ 6,739 8.9 59,977 ザクロ 2,435 9.5 23,133 アーモンド 11,485 1.4 16,079 クルミ 2,522 3.5 8,827 スモモ 944 7.0 6,608 モモ 891 7.0 6,237 カンキツ類 214 8.0 1,712 桑の実 16,550 2.5 41,375 ピスタチオ 9,158 0.9 8,242 オリーブ 623 10.4 6,479 その他 1,651 --- --- 計(概算) 120,000 ha 760,000 t

出所: 「アフガニスタンにおける果実の生産と利用」小崎格著

2003年にFAOが行った調査によると、調査対象となったブドウを除く果樹のうち58%が、10年生

以下の若木であった382。過去25年間で果樹の栽培面積も増加傾向にあり、長年にわたる戦乱にも

かかわらず、果実生産の需要が伸びていたと推測できる。

囲み記事 2-13 ザクロの市場可能性

ザクロはカピサ州、バルフ州及びカンダハル州で多く作られており、品質によって0.25~0.55 米ドル/kgの小売価格で販売されていることから、1,800 米ドル/Jerib383の収益を上げることができる。世界的に

ザクロの需要が急増しており、例えばアメリカではザクロジュースは0.50 米ドル/kgの価格で売れてい

る。苗木を供給し、水管理及び品種に応じた接ぎ木・剪定を行うことにより、果実の品質を上げ、パ

ッケージを改善していけば、将来的に輸出は可能であるものの、品質を安定させるためには、果実が

割れること、果実の中に虫が入り込む問題を解決する必要がある。

出所: Life of Project Workplan, USAID ASAP

(1) ブドウ

ブドウは、アフガニスタン全土で古くから栽培されてきた果樹である。年間約52万トンが生産さ

れており384、果樹の全生産量76万トンの68%を占めている。栽培面積でも半分を占め、下図のと

おり増加傾向にある。

381 桑およびピスタチオは散在果樹の推定値。ピスタチオは森林にある野生樹を除く。 382 FAO Afghanistan Survey of the Horticulture Sector 383 5 jerib = 1 ヘクタール 384 UNDP/Altai Consulting (2004) Market sector assessment in horticulture, (Phase 1)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

162

0

20,000

40,000

60,000

80,000

1978 1996 2003

He

cta

res

図 2-29 ブドウの栽培面積の推移

出所: UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in horticulture, (Phase 1) June 2004

ブドウの種類は種無し品種だけで40種以上と豊富で、高品質である。 も代表的な品種は、キシ

ュミシュという淡黄緑色のやや小粒の種無し品種で、その他にフサイネ、タイフィなどの大粒高

品質品種などがある。アフガニスタンでは、近代的な栽培方法はほとんど採用されておらず、Jui

とよばれる土塀の中で、株仕立ての短幹、短梢の整枝・剪定方法がとられており、土地生産性は

近代的な栽培方法である棚作りの約半分である385。ブドウの栽培においては灌水が不可欠である

が、非効率な伝統的な方法386で行われてきた上に、戦乱により潅漑施設の多くが打撃を受けた。

また、受粉、摘果などの結実管理はほとんどされていないか、不十分である。夏季に乾燥するた

め、果樹の病害は少なく、病害防除の対策はほとんど取られていなかったが、新品種の導入など

に伴って近年各地で害虫被害が確認されており、今後全土に被害が拡大する恐れがある。

現在のところ、多くは、商品としての栽培ではなく家庭で消費されている。国内に適切な貯蔵施

設がないこともあり、出荷時期が集中し市場は飽和状態になる。そのため、当然ながら低価格と

なり、農家にとって利益が少ない。ブドウ栽培は、質量ともに天候に左右されやすく、苗木を植

えてから収穫までに時間がかかることから、農民による投資意欲は低い。

商品として流通にのるものについては、主に、農村から近郊都市市場への出荷が も多いと推測

される。一般に、農家は収穫前に値段の交渉を行い、収穫・箱詰め作業の段階からは荷造り/荷送

り業者が行うことが多い(作業については、季節的な労働者が利用されている)。農家が自ら出

荷を行わない理由には、一般の農家には適切な梱包材料・輸送手段がないこと、さらに都市の市

場とのコネクションがないことにより、収穫後生果を1週間以内に市場に届けるためには他にオプ

ションがないことが挙げられる。結果として、農家の交渉力は限られており、非常に不利な状況

にある。農家が卸売業者に直接交渉するケースもあるが、個人ベースで行われるため、交渉力に

欠ける。また、農家は市場の情報が入手しづらい状況にある。農協はあっても形骸化している一

方で、集団化による農家相互の協力体制が文化的に発達してこなかったことが、現在の農民の交

渉力不足の原因となっている。

385 単位面積あたりの収量は、アフガニスタンの果樹園で8.5t/haに対して、アメリカにおいては16.6t/haであった。 (ASAP Life of Project Workplan) 386 畦間潅水または水盤潅水と言われる方法が用いられている。畦間潅水は作物の植わったうねの間に水を通して

満たす方法で、水盤潅水は水田のように畦で囲んだ場所に湛水する方法である。この方法は、蒸散、地中への

流亡が大きいため、水効率が低く、地中の養分が流亡してしまう問題、また極端な過湿と乾燥を繰り返して水

ストレスによる裂果の症状を起こす場合がある(「アフガニスタンにおける果実の生産と利用」)。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

163

収穫後の市場までの輸送は、仲買業者によるトラック輸送が一般的である。輸送時の包装、梱包

の基準はなく、麻製の袋に入れるか、木枠に詰めるのが一般的な生果の梱包方法である。コンテ

ナの深さや容量が適切でないことも多く、劣悪な道路状況による輸送時のダメージが大きい。輸

送時のダメージを減らして商品価値を減らさないようすることの重要性を認識して、梱包の方法、

貯蔵方法の改善を行う必要がある。特に夏季の高湿期には、生果を収穫してから市場までの時間

と取り扱い方法が、損傷物の割合に大きく影響する。ブドウの適切な保存温度は摂氏1度であるが、

国内で冷蔵設備のあるトラックは50台以下と非常に限られている387。適切な梱包がなされていな

いために、ブドウをはじめとする傷みやすい園芸作物の20~40%は、 終目的地に到達した時点

でその商品価値はないに等しいとの報告388もあり、ポスト・ハーベストのありかたが作物市場の

発達を妨げている大きな要因となっている。

国境近くに住む農家は近隣国に出荷できるという利点があるが、交通手段に乏しく、集団出荷体

制も存在しないため、地理的利点を十分に活用できているとは言い難い。国外への空輸は、現在

のカブールその他の空港での貨物取扱におけるコスト面、衛生面、運営面で問題が多いことから、

トラック輸送が一般的である。パキスタン、イランなどの近隣諸国から、商人がトラックで買い

に来る場合や、仲買人が農家もしくは卸売業者から直接買い集め、輸送する場合がある。

市場との距離、市場の大きさ、消費者の嗜好の観点から、アフガニスタンにとって も有望な市

場はインドとなっている。例えばブドウをカンダハルからパキスタン経由でデリーに運んだ場合、

インドにおけるブドウの生産地から運ぶ場合よりも距離が近い。しかしながら、パキスタンを経

由するときに高い関税がかけられるうえに、パキスタンの通過の際には同国のトラックへの積み

替えが求められることから商品へのダメージが大きく、輸出が伸び悩んでいる。インドへの輸出

に加え、年間2万トンから3.5万トンのブドウが、主にパキスタン、サウジアラビア、アラブ首長

国連邦に輸出されている。

農場, 360

パッケージ費,

50

輸送費, 10

卸売業者の

利益, 26

小売業者の

利益, 50

0

100

200

300

400

500

600

売値 485

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

19951996

19971998

19992000

20012002

輸出

量(

トン

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

輸出

額(

000U

S$)

輸出量(トン)

輸出額(000US$)

図 2-30 ブドウの売値の内訳(トンあたり米ドル) 図 2-31 ブドウの輸出量と輸出額の推移 出所: UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in horticulture, (Phase 1) June 2004

出所: Central Statistics Office, 2003

387 AISA Market Prospects 388 UNDP/Altai Consulting (2004) Market sector assessment in horticulture (Phase 2-3)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

164

(2) ドライフルーツ

1970年代にはアフガニスタンはドライフルーツ世界流通量の10%を占めていたが、長年にわたる

戦乱や旱魃の影響で、現在では2%に落ち込んでいる389。とはいえ、現在もレーズンをはじめとす

るドライフルーツは、同国の重要な輸出品目である。2002年において、ドライフルーツ・ナッツ

の輸出額は約5.8千万米ドルとなっており、国の全輸出総額である1億米ドルの半分以上を占めた。

レーズン

76%

その他

4%

アーモンド

10%

アプリコッ

4%

ピスタチオ

3%クルミ3%

図 2-32 ドライフルーツ・ナッツの輸出量の割合(2002年)

出所: Central Statistics Office

ドライフルーツでは、レーズンの生産が主であるが、アプリコット、イチジク、桑の実などの果

実の生産に適した、乾燥した気候条件が整っている。戦乱前は、30以上のレーズン加工工場が存

在していたが、現在稼動している加工工場は三分の一以下で、設備も老朽化している390。加工方

法はこの25年間で変わっておらず、現在の国際競争下における市場の拡大は困難な状況にある。

囲み記事 2-14 乾燥アプリコットの市場可能性

アプリコットは中央アジアが原産であり、アフガニスタンではグリシュク州、ヘルマンド州、バーミ

ヤン州を中心に2万トン程度は作られているといわれている。アフガニスタンの生アプリコットを輸送

することはコールドチェーンの不備により困難であるものの、硫黄燻蒸、乾燥、選別、洗浄させれば、

国際的競争に耐えうる品質の乾燥アプリコットを作ることは十分可能である。パキスタン、インドの

みならず、ヨーロッパへの輸出も可能であり、トルコ産と同様の2,000 米ドル/トンの商品価値はある

と見られている。このためには、サンプルをインドやドバイに輸出したり、国際的に嗜好される品種

を特定したり、苗木生産を拡大し、乾燥アプリコットの情報をファームストアのネットワークなどを

通じて農民に伝えたり、仲買人組合の活動を活発化させてマーケティング機能を強化したりしていく

必要がある。

出所: Life of Project Workplan, USAID ASAP

ナッツ類としては、アーモンド、ピスタチオ、クルミ、パインナッツ(松の実)などがあり、品

質も良い。これらのナッツ類は種類によって、収穫後の処理や、適切な保存温度を変える必要が

ある。例えば、パインナッツやピーナッツは、香り、品質を保持するため、炒る必要がある。ピ

スタチオは、皮の除去のあと、洗浄し、乾燥させて保存する。しかしながら、国内でのナッツの

加工施設・能力が不十分であることから、市場では通常殻つきのまま生果で出回っており、付加

価値がほとんどつかない状態で国外へと輸出されるケースが多い。

389 UNDP/Altai Consulting (2004) Market sector assessment in horticulture, (Phase 1) 390 AREU (2004) Understanding the raisin market in Afghanistan: A case study of the raisin market

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

165

アフガニスタンのレーズンは、陰干し乾燥させたグリーンレーズン(Kishmish)と呼ばれるもの

と、天日乾燥させたレッドレーズン(Aftabi)との2種類に大きく分類される。グリーンレーズン

は、Kishmish khanaと呼ばれる、土レンガでできた建物でブドウを乾燥させる。Kishmish khanaは、

格子戸により風通しの良い構造になっており、通常ブドウ園の中にある。通常、陰干し乾燥には1

ヶ月を要するが、乾燥させる前に炭酸カリウムに浸すことで、乾燥時間を大幅に短縮できる。陰

干し乾燥させたレーズンは高品質で、天日乾燥させたものより2~3倍の値がつく。長年にわたる

戦争で、Kishmish khanaの多くは破壊されてしまい、現在のグリーンレーズンの生産量は限られて

いる。天日乾燥については、直接地面や屋根の上で乾燥させる方法が一般的であり、その結果、

ごみや砂などの不純物が混じっていて不衛生で質が低い。JICAの女性の経済的エンパワーメント

プロジェクトなどにおいて、乾燥技術を向上させ衛生面に配慮することで、市場価値の高いレー

ズンを生産することが可能であることが実証されているが、あわせて、アフガニスタンのレッド

レーズンについてまわる「低品質な副産物」としてのイメージを払拭する必要性がある。

収穫されたレーズンについては一般的に、個々の農家によって50-100kgのバッグに詰められ、近

郊の市場で販売される。仲買人が農場まで出向いて集荷し、卸売市場へ輸送する場合もある。輸

出用のレーズンは卸売市場において、形、大きさ、色、質で選別される。グリーンレーズンは、

それ以上の処理はなされないが、レッドレーズンは、輸出のためには水での洗浄処理が必要とさ

れる。アフガニスタン国内では設備が限られているうえ、電気・水などの面から費用が高くつく

ため、一般に輸出後に国外の工場で洗浄処理される。

アフガニスタン産のグリーンレーズンの品種は近隣諸国で高く評価されていることから、主にイ

ンドとパキスタンへと輸出されており、今後生産地での生産方法の標準化が達成され、選別・加

工処理技術が向上されれば、EU諸国への輸出拡大の可能性もある。一方で質の低いレッドレーズ

ンは、インド、ロシアへと輸出される。2002年においては、3万4千トンのレーズン(22,448,000 米

ドル)が輸出され、その年の総輸出額の22.4%を占めた391。主に、ジャララバードからパキスタ

ンへ、パキスタンを介してインドへ、またマザリシャリフからモスクワへと輸出されている。パ

キスタンへの輸出は、輸送時に2~3週間もの間、摂氏40度の列車の荷台に置き去りにされること

も少なくなく、幾度にわたる荷積み・荷おろし作業により、産品の損傷率も高くなる。インドに

おけるレーズンの需要は極めて高く、インドとは特別措置の輸入関税協定が結ばれていることか

ら、アフガニスタンのレーズンに関しては、他国産の105%に対して52%の輸入関税が適用される。

モスクワへの列車での輸送は15~20日間を要するが、作物へのダメージは比較的少ないとされる。

(3) アーモンド

アフガニスタンにおけるアーモンドの栽培面積は11,000ヘクタールで、年間約1万6千トンが生産

されており、特にアフガニスタン北部での栽培が盛んである。中でも、バルフ州では年間を通し

て5,500トンが生産され、種類も豊富である。通常アーモンドの木は成熟するまで7年間を要し、

その後30年以上にわたって実を実らせる。北部では、7月から10月が収穫時期となる。アーモンド

に関しても、伝統的な栽培方法が一般的で、より効率的な生産方法が知られていないことから、

収穫量は少ない。

391 Central Statistics Office (2003)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

166

アフガニスタン国内においては、アーモンドを加工することによって付加価値をつけるシステム

がほとんど存在しない。国内市場では一般に、殻つき、もしくは殻を除去した状態(Kernel)の

どちらかで売られている。農家は生産、収穫にたずさわるのみで、分類・選別、殻の除去は仲買

業者によって行われるのが一般的である。通常、市場で売られている殻つきのアーモンドを仲買

業者が購入し、殻を取り除く作業は、仲買人がインフォーマルな形で委託した労働者によって行

われている392。

品質管理には課題が多く、仲買人のインタビューによれば、30%は汚かったり乾燥の度合いが悪

かったりして受け入れ不可能なもので、質の高いものは全体の50~60%にすぎない、とのことで

ある。包装も、35~105kgの大きな袋に輸送用に詰めるという簡易な方法であり、外国で高い価格

で販売するためには、自動のパッケージング機械などが必要である。さらに、ロースト、スライ

ス、塩での味付けなどの加工方法を導入することで、付加価値を得ることが可能と考えられる。

ナクルキャンディーとよばれる砂糖づけのアーモンドが国内販売向けに生産されているが、それ

以外の加工品の生産は非常に限られており、アーモンドオイルなどの付加価値の高い加工品の生

産も検討の余地がある。

主要なアーモンドの市場は、カブール、マザリシャリフ、クンドゥズで、カブールはパキスタン、

インドへの輸出拠点でもある。国内市場では、輸入品との競合が存在し、殻つきのもの、ロース

トしたもの、砕いたもの、など様々な種類のアーモンドが売られている。アフガニスタンで生産

されるアーモンドの80%は、パキスタン、インド、ドバイへと輸出されている。インドへの輸出

は主にパキスタンを経由するため、仲買人の数、荷積み、荷おろしの回数が必然的に増える。イ

ンドは、アーモンドの世界流通の35%を輸入しており、そのほとんどがアメリカ産であるが、ア

フガニスタン産のアーモンドは、高品質であると評価されており、アメリカからの輸入品より高

いが、それでも売れている。加工方法の改善、インドへの輸送ルートの拡大は、今後のマーケッ

トの拡大に貢献すると考えられる。

2.3.1.4 野菜の生産及び流通

アフガニスタンの気候と土壌は様々な野菜生産に適しており、全国の耕作地の6.7%である525千

ヘクタールにおいて野菜が栽培されている393。アフガニスタンの東部とパキスタンとの間で、野

菜の季節的な輸出入が若干行われているものの、アフガニスタン産の野菜のほとんどは国内にて

消費されている。

アフガニスタンにおける野菜生産については、地域間の高度や気候の差によって出荷時期をずら

せるなど所得創出の機会がある一方で、病虫害対策が不十分であること、希少な水を無駄に使っ

ていること、施肥が効果的でなく生産性が低いこと、といった改善すべき問題も多くある。生産

者にとって短期的に収入を向上させられる方法として、「トンネル」と呼ばれているビニルハウ

ス栽培がある。これは温水を要しない単純なものであり、点滴潅漑を導入することにより、より

高い効果が得られるものである。露地栽培とビニルハウス栽培の生産性の比較を以下に示す。

392女性が自宅で行う場合が一般的で、殻を燃料として与える条件で、労働コストを下げている。 393 USAID (2007) Life of Project Workplan, ASAP

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

167

表 2-43 露地栽培とビニルハウス栽培における土地生産性と収入の差

露地栽培 ビニルハウス栽培(点滴潅漑) 生産性(kg/ha) 収入(Afs/ha) 生産性(kg/ha) 収入(Afs/ha)

トマト 29,250 387,500 69,300 1,881,000 キュウリ 30,375 375,000 34,650 1,254,000

出所: Life of Project Workplan, USAID ASAP

囲み記事 2-15 USAID RAMPのビニルハウス栽培プロジェクト

USAIDのRAMPは2004年~2006年に、ICARDAをコントラクターとして、ビニルハウス栽培の振興を目

的としたプロジェクト “Introducing Protected Agriculture for Cash Crop Production in Marginal and Water Deficit Areas of Afghanistan”を実施した。カブールにProtected Agriculture Centerを設立して、ビニルハウ

スによる価値の高い作物栽培のデモンストレーションを行うとともに、普及員や農民、NGOスタッフ

(合計364名)を対象としたトレーニング(土地造成、レイアウト、水管理、施肥、栽培技術)を行う

一方で、パイロット事業として35のビニルハウスをクンドゥズ、ガズニ、パルワン、ナンガハル、カ

ブール及びヘルマンドの各州に建設した。ビニルハウス栽培は露地栽培に比べて、必要な水は十分の

一で土地生産性は5倍であり、労働生産性は7割多いことが確認された。さらに、病虫害にかかりにく

いこと、作物の品質があがること、1~2 jerib(0.2~0.4ヘクタール)の土地で栽培可能であることから

(1 jerib内に6つのビニルハウスが建設可能)土地なし農民でも適用可能なことといったアドバンテー

ジが挙げられている。しかしながら、建設コストが高くて通常の農民には購入できない394ことに加え、

高度に集約的な栽培方法であることから、肥料やハイブリッドの種がタイムリーに手にはいらないこ

と、農民に集中的投資を行うための資金ソースがないことが問題とされている。

出所: Final Project Report, ICARDA, 1/1/2004 – 31/3/2006

あわせて、品種に応じた潅漑、施肥、病虫害対策の方法を適用することにより、生産性を大幅に

向上させることが可能であり、デモンストレーション用の圃場を運営することによって、農民の

目に見えるかたちで普及を進めることは可能である。アフガニスタンにおける野菜の平均的な生

産性及びデモ圃場における生産性のデータを以下に示す。

表 2-44 平均的な生産性とデモ圃場における生産性の差

平均的生産性(t/ha) デモ圃場の生産性(t/ha) 差 ジャガイモ 12 18 50% 玉ねぎ 22 35 59% トマト 21 30 43% ニンジン 12.5 30 140% オクラ 7.5 17.5 133% ナス 24 34 42%

出所: Life of Project Workplan, USAID ASAP

野菜の収穫・輸送方法はごく初歩的であり、通常木枠の箱につめられて卸売市場へ、また小売店

へと輸送されるが、コールドチェーンのない摂氏40度の環境におかれることから、急速に質が低

下し、48時間以内に腐り始めると言われている。

野菜の加工施設としては、USAIDの支援によりパルワンに近代的乾燥野菜の工場が建設され、ヨ

ーロッパへの輸出を開始している、という報告がある。また、ヘラートには民間企業がトマトの

加工工場への投資を開始しており、周辺の農業協同組合との契約栽培を計画している。

394 報告書には明示されていないが、FAOからの聞き取りによると3,000 米ドルとのことである。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

168

野菜を含む農業生産における制約要因として、肥料、農機具、種といったインプットがタイムリ

ーに手に入りにくい、ということが挙げられている。USAIDはRAMPの中で、Village-based Seed

Enterprise (VBSE)Development in Afghanistanというプロジェクトを実施しており(ICARDAが実

施機関)、ガズニ、ヘルマンド、クンドゥズ、ナンガハル及びパルワンの各州に合計21のVBSE

の設立を支援した。それぞれのVBSEは10~15の進歩的な農家を集めた企業体であり、小麦、米、

ヤエナリ、ジャガイモ、トマト、玉ねぎの種を、年間平均226トン生産する能力をもつこととなっ

た。また、また、RAMPの別のプロジェクトとしてClean Seed production , multiplication and marketing

for increased potato production in Afghanistanが、やはりICARDAとInternational Potato Centerによって

実施されており、上記と同じ5州において、72のデモ圃場が設立され、種イモの生産者グループが

病害対策のされた種イモ(通常より40%の収穫増)を毎年3,000トン作る能力が得られた。これら

に加えて、USAIDのAccelerated Sustainable Agriculture Program(ASAP)では、肥料、農薬、農機具

といったインプットを提供する300のFarm Storeをネットワーク化し、インプットの調達・輸送を

組織的に行って、どこの郡でも必要なものが手に入るようなシステムを構築する予定である。

(1) メロン

アフガニスタンの北部のクンドゥズ州及びバルフ州では、メロンの生産が盛んであり、特にバル

フでは全世帯の3割程度がメロン生産に携わっている、と報告されている。アフガニスタン北部の

メロンの種類は38あると言われている395。代表的な種類は、alapookaq、chedreee、lobeiee、amiri、

agnaba、subz sarmath及びarkaniであり、賞味期限は通常4~5日であるものの、arkaniは外皮が高い

ことから7ヶ月までもつと言われている。バルフ州では、881の村で、7,000ヘクタールの土地で年

間90,000トンのメロンが生産されている(1ヘクタールあたり平均15トンの生産量)。しかしなが

ら、メロンは近年ミバエの被害を受けており、それによってメロンの50%近くが被害を受けると

ともに、バルフ州のメロンの評判を著しく傷つける結果となっている。FAOによると、ヘラート

からタハールまでの10州にわたってミバエの被害が出ているとのことである。USAIDのASAPにお

いて農薬の散布が推奨されているが、価格が高いこともあってあまり普及していない。

マザリシャリフのMerayin市場には、バルフ州全体から農家及び仲買業者によってメロンが運ばれ

てきており、100名以上の仲買人や小売業者が集まってきており、400以上の果実店が市場の内外

に開かれて売買が行われている。ここからトラックで別の場所に搬送されたり、地元の店に卸さ

れたりしている。市場では、季節的に雇われた労働者がメロンの選別(種類別、品質別)を行っ

ているが、作業は粗く、文字どおりメロンをトラックに「投げいれて」いる。メロンが出荷され

る際にはいかなるパッケージもなく、トラックに平積みされている。

バルフ州の仲買業者によれば、州のメロンの約20%(長持ちするarkani種)はパキスタン、インド、

ドバイに輸出されており、中でもインドへの輸出量が も多い、とのことである。ほとんどのメ

ロンは生のまま売買・消費されているが、農村地域では限られた数の世帯において、傷んだメロ

ンを乾燥させており、通常自家消費されているが、一部小売店においても売られている。メロン

395 Aghanaid, Hand in Hand, Kaweyan (2007) Subsector Analysis and Business Plan Development / North and North East

Regions, BDS。一方、USAID/ASAPによれば、アフガニスタンのメロンは87種類あるとのことである。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

169

は通常、30~60 afsで売買されているが、ミバエのダメージを受けているメロンの価格は10 afsに

まで下がってしまう。

2.3.1.5 畜産物の生産及び流通

アフガニスタンにおける畜産業は、穀作が共存する混合農業の形態をとり、ほとんどの農家が何

らかの家畜を飼養している。家畜の飼養方法は、遊牧民による放牧と定住農家による飼養とに分

けられる。アフガニスタンには、全労働人口の2割にあたる150万人の遊牧民(クチ)が、家畜の

放牧により生計を立て暮らしている。一方で、定住農家にとっても家畜の飼養は現実的かつ持続

可能な収入源である。家畜は、役畜として農作業や物資の運搬にも利用され、その排泄物は肥料

や燃料となるなど有益な存在である396。さらにミルク、卵、羊毛などの畜産品は、農家にとって

貴重な現金収入源となる。特に多くの貧困層にとって家畜は、農作物の収穫変動に対する一種の

リスクヘッジ(ないしは貯金)としての機能を持つものでもある。

農家にとって牛は非常に重要な家畜であり、主な用途は耕作とミルクの生産である。自家消費と

して、牛を屠畜することは結婚式や宗教的な儀式以外ではほとんどない。一般に農家は、商品用

として処理された牛肉を、村の中心地などの食肉販売店で購入している。牛の糞は、肥料や調理

用の燃料として活用される。村共有の群れでは、雌牛と雄牛は共に群れを成し、放牧地での自然

交配が一般的である。本来、品種のよい雄牛と繁殖させるのが理想的であるが、多くの農家は個々

の農場で飼養しているため、繁殖期の雄牛と交配させる機会が乏しい。中には料金を課して雄牛

を貸し出している農家もあるが、あまり一般的ではない。人工授精は政府所有の農場のみで行わ

れていた。現在はカブール、カンダハル、ナンガハル州でも導入されているが、いまだ一般的で

はないことから、この分野における支援の効果が高いことが予想される。

ヤギや羊などの小型家畜は、乾燥した環境にも適応力が高く、出産率も高いうえ、食用肉、ミル

ク、繊維、皮などが現金収入にもつながる。また、小型家畜は、現金が緊急に必要なときに売却

される、「貯金」としての役割も果たしている。ヤギのミルクは家庭で消費されるが、通常は乳

製品に加工される。また毛も家庭で使用されるほか、販売される。カシミヤヤギは西部、北部地

域で多く飼養されており、年間、1,000トンのカシミアが輸出されている。羊は年に1度か2度刈ら

れ、年間1頭につき0.5~2.0kgの羊毛が採取できる。ガズニ州やバルフ州で多く飼養されているカ

ラクル羊は、羊毛の質が高い上に、生後まもなくの子羊は特にカラクール・ラムと呼ばれ、非常

に高級な毛皮として輸出されている。

アフガニスタンにおいては国際的な水準の屠畜場はなく、規模的に大きなものは、国防省がカブ

ールに所有している、1日あたり牛20~30頭を処理する屠畜場が唯一のものとなっている397。現在

の一般的な屠畜方法は、牛のような大型家畜は家畜市場の近くのオープンスペースで屠畜を行い、

枝肉をトラックに載せて食肉小売店まで運んでき、羊・ヤギといった小型家畜は通常小売店のそ

ばで屠畜される。家畜主が自ら家畜市場に家畜を運んでくる場合と、仲買人が農家から家畜を買

って家畜市場に運んできて小売店に売る場合の2つの方法がある。

396 ASAP Life of Project workplan。 397 Livestock Value Chain Analysis, February 2007, ADB/ Landell Mills。なお、USAIDによるALP-EとUNDPが、屠畜

業者組合とジャララバード市と協同で屠畜場を建設する動きがある。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

170

主に、家畜に餌を与える、水をやる、乳搾りは女性の仕事とされ、放牧中の家畜の番は子どもの

仕事とされる。家畜の売買や飼料の購入に関する決定権は男性にあるが、ミルクや毛の販売に関

しては、女性に決定権がある場合も少なくない。しかし、地域によってばらつきが見られる398。

畜産業は、輸出産業としても非常に重要で、絨毯などの毛織り製品、畜産加工、そして皮革製品

などの軽工業部門への原材料供給も担っており、製造業に対して果たす役割は大きい。1999年以

降の干魃の影響により家畜の屠畜(草がないため、餓死する前に屠畜したもの)と死亡が増加し、

家畜をすべて失った農家の数も相当数に上った。2003年における家畜頭数と一農家あたりの平均

家畜数を以下に示す。

表 2-45 アフガニスタンにおける、家畜の数と一農家あたりの平均家畜数(2003年)

家畜 家畜の数(千) 一農家あたりの平均家畜数 ヤギ 7,280 3.91 羊 8,772 4.28 牛 3,715 1.60 馬 142 0.05 ロバ 1,587 0.64 ラクダ 1,75 0.10 ニワトリ 12,155 5.87 カモ 422 - シチメンチョウ 599 -

出所: FAO Afghanistan National Livestock Census 2003

家畜の斃死率、罹患率は、アフガニスタンにおける家畜飼養の大きな課題である。良質の牧草地

が不足しており、特に冬場の家畜飼育は困難なものとなる。一般に、家畜の生産性は全般的に低

い。下図のとおり、家畜の栄養状態や獣医サービスへのアクセスを改善するための方策が必要と

される。

健康管理11.5%

クレジット8.8%

畜産の知識4.5%

水の確保4.1%

市場へのアクセス

1.1%

飼料の向上70.0%

図 2-33 牛の飼養において、家畜主にとって優先順位の高い課題399

出所: FAO Afghanistan National Livestock Census 2003

家畜の健康向上を促進するために、2004年から2006年にかけて、USAIDはRebuilding Agricultural

Markets Program(RAMP)において、Dutch Committee for Afghanistan(DCA)を通じて、獣医

398 FAO Afghanistan National Livestock Census (2003) 399 7州の家畜主1900人を対象にした調査に基づく。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

171

(Veterinary Field Units:VFU)の全国ネットワークの構築を行っており400、本プログラムはASAP

に引き継がれることとなった。本プログラムの特徴は以下のとおりである。

• アフガニスタン全国34州のうち、31州の284郡において、415のVFU(616名の職員)が設立

された。このうち、ASAPでは北・中部地域を中心とした230のVFUへの支援を継続し、新

たに107のVFUの設立を支援する。

• 郡レベルの高卒者で家畜飼養の経験のあるものに6ヶ月のトレーニングを提供して獣医師

補としてコミュニティに対して獣医サービスを提供できるようにする。

• VFU(及び獣医師補)に対して基本的な治療具、バイク、太陽電池つきの冷蔵庫などを提

供し、またスタートアップのためのワクチンや薬剤を提供する。彼らは、これらの初期投

資の支援を受けることにより、効果的な家畜治療を有料でコミュニティに対して提供でき

るようになる。

• カブール及び地域センターにワクチンのコールドチェーンを設立し、DCAがこれを運営す

ることにより、各VFUに対する薬剤の供給を滞りなく行うことを可能とする。本コールド

チェーンの資産については、将来的にDCAとアフガン獣医師協会(Afghan Veterinary

Association:AVA)が設立する民間企業VetServe社が引き継ぐことになる。

(1) 乳製品

2003年のFAOの調査によると、アフガニスタンにおける2歳以上の雌牛の数は210万頭で、うち授

乳可能な雌牛は全体の60%の130万頭であった。1996年のFAOの調査において、一頭あたりの年間

授乳量が1,000~1,500kgとの結果から、年間約130万トンの牛乳が生産されていると推計されてい

る。牛乳の生産は、特に地方経済にとって非常に重要である。1986年の一人当たりの牛乳の年間

消費量は60kgであった。他の開発途上国と比べてその量は多いが、家畜数の減少に伴い、減少傾

向にある。現在の消費量のデータは存在しないが、36kgに減少していると推測されている401。

牛乳、乳製品の生産および販売は、特にカブールとアフガニスタン北部で盛んである。凝乳とバ

ター牛乳を始めとする乳製品は、人々の食生活にとって重要で、通常家庭で加工される。牛乳の

用途の調査において、対象者の37%は家庭消費、60%が販売すると回答した。中でも、バルフ州に

おいては、90%以上の回答者が牛乳を販売していると答えた402。一方、アフガニスタン東部、南

部においては、牛乳や乳製品は、主に自家消費を目的として生産されており、牛乳、ヨーグルト、

バターミルクの販売は文化的に推奨されていない(すなわち、困っている人には無償で提供すべ

き、という意識がある)。乳製品の生産や販売は、通常女性の仕事と位置づけられている。

搾乳された生乳は、主に自家消費されるか、発酵させてヨーグルトとして保存される。保存され

たヨーグルトは、そのまま消費されることは多くない。通常、ギーと呼ばれるバターと液体状の

脱脂乳とに分別される。ギーは、数ヶ月間保存が可能である。脱脂乳は、漉して水分を取り除い

400 Afghan Veterinary Association (AVA)及びPartners in Revitalization and Building (PRB) が、DCAのサブコントラク

ターとして全国をカバーした。 401 ASAP Life of Project Workplan 402 FAO Afghanistan National Livestock Census (2003)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

172

たあと、白い残留物を小さな袋に入れて日干し乾燥させて「クルト」とよばれるクッキー状のも

のに加工される。また、生乳を少し発酵させたものに、酵素を加えて静置することで水分状のホ

エーと凝乳にわけられ、凝乳を熟成させたものがチーズ、ホエーを乾燥させたものはやはり「ク

ルト」となる。ギー、クルト、チーズは販売目的で生産されることが多いが、村内での売買が一

般的である。一方、牛乳の過剰分は、未処理の状態で、地方市場や小売店で売られる。牛乳の集

荷体制が整備されておらず、地方での牛乳の保存は大きな課題である。例えばバーミヤン州では

電気が普及しておらず、保冷タンクや加工設備への投資等が望まれる。

アフガニスタン国内には4つの加工工場があって牛乳の低温殺菌、乳製品加工が行われているが403、その供給量が限られており、都市の店頭で売られているロングライフミルクやヨーロッパタ

イプのチーズなどの乳製品は、ほとんど輸入品である。近年の人口増加により、乳製品の需要も

増加すると予測される。飼料の向上や家畜の健康や栄養のケア向上、品種改良は牛乳の生産の増

加につながることがら、今後重要視すべき分野である。

(2) 養鶏業

2003年のFAOの調査によると、アフガニスタンにおける鶏の数は約12百万羽であった。このうち

30%が雄鶏、70%が雌鶏と推定され、1羽の雌鶏が年間60個の卵を産むことから、年間に生産され

ている鶏卵数は5.1億個と推計される一方、鶏1羽あたりの重量が1.5kgであることから、年間18千

トンの鶏肉が生産されていると推計される。

アフガニスタンにおける養鶏は粗放的であり、自己消費を主とし、余剰分を地元の市場で販売す

るのが、一般的なスタイルとなっている。1件あたりの飼養数はおおむね10羽以下で、食べ物の残

り物などを与えられて、一羽あたり年間60個程度産卵する。土着の品種であることから、病気に

比較的強いものの、ワクチンなどを特別に与えられていないため、死亡率は例年50%に達してい

る(RAMP404)。1,500羽程度の半集約的な養鶏場が、カブール、ヘラート、バルフなど主要な6

州にはそれぞれ10~15件程度あり、合計で135,000羽程度の採卵鶏が商業的に飼育されていると推

計されているが405、優良品種による大規模な養鶏場は現在のところ存在しない。RAMPの資料に

よると、アフガニスタン国内には250の小規模な孵卵場(200~400個の孵卵能力)があると推定さ

れている。鶏卵はディーゼルによって温められており、コスト高となるため冬は操業されていな

い。20,000~27,000個のレベルの孵卵場も2~3社存在しており、うち1つは稼動していることが確

認された。

カブール、ジャララバード、カンダハル、マザリシャリフには、FAOによって支援された小規模

な飼料工場がある。これらは、6~8トン/日の生産量で、人力によって攪拌されている。加えて、

数百という製粉所がアフガニスタン全域にわたってあることから、配合飼料そのものを作ること

は可能と考えられる。しかしながら、どのような作物を混ぜれば栄養価の高い飼料となるか、と

いった蓄積がないことから、養鶏の生産性は低い。

403 Sector analysis, AISA/Altai consulting 404 Chemonics International Inc. (2004) RAMP Afghanistan Poultry Sub-sector Assessment, Findings and Recommendations 405 例えば、カブールの養鶏業者組合は、合計21,000羽の採卵鶏を所有している。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

173

アフガニスタンでは、2003年には2億個の鶏卵が輸入されており、小売総額13百万米ドルに上って

いる。輸入業者は主としてカブール、カンダハル、ジャララバード、ヘラート及びマザリシャリ

フに位置しており、パキスタンあるいはイランから鶏卵を輸入している。輸入業者は、親戚など

を通じてパキスタンやイランの業者と長期的な取引関係を有し、一方でアフガニスタン国内にお

ける小売業者とも緊密な関係を保っていることから、比較的成熟した流通システムが形成されて

いると言える。一方において、国内産の卵は小売店で売られている一方で、農村部では女性が近

所で販売したり、子供がマーケットに運んで売ったりしている。RAMPの調査によれば、小売店

で売られている卵の12%は国内産、88%が輸入品とのことである。

アフガニスタンでは、生きた鶏を売買する習慣がある。近年はパキスタンなどから安価な冷凍の

鶏肉が輸入されるようになったが、冷蔵庫がなくても困らない、イスラムのハラルの方法で屠畜

されたかどうかわからない、という理由で、一般的に生きた鶏のほうが好まれる傾向にあり、冷

凍の鶏肉は貧しいものが食べるもの、という意識がある。イラン及びパキスタンから鶏が生きた

まま大量に輸入されてくるが406、基本的に国内産の鶏のほうが高い価格で取引される。小売業者

は、輸入業者から鶏を購入するが、国内産の場合は、自ら農家を回って鶏を集める場合と、町に

鶏を売りに来た農家から買う場合の両者がある。

アフガニスタンの養鶏における問題は、(i)生産者に専門的・技術的な知識が欠けること、(ii)病気

に対するワクチンが手に入りにくいこと、及び(iii)飼料や獣医サービスを受けるシステムが不十分

であること、が挙げられることから、商業的生産を行うためにはこれらについてそれぞれ対策が

講じられる必要がある。

(3) 皮革(原皮)

牛皮や羊皮は、食肉産業の価値の高い副産物であり、輸出品目としても古くから重要とされてき

た。羊の皮の生産は主に、中央アジア、アフガニスタン、ナミビア、モンゴル、中国などで行わ

れている。1979年のソビエト侵攻の前まで、アフガニスタンは年間300万枚の羊の皮を輸出してい

たが、戦争及び旱魃の影響により、一時は20万枚に落ちこんだ。2005年の時点では、54万枚を輸

出しており、前年と比べて42%増加した。良質の皮革は、一枚につき45 米ドルで売買される。近

年家畜の数が増加していることから、年々輸出量は増える見込みである。

カラクル羊の飼養はアフガニスタンの北部で盛んで、その数は5万頭と推定される。カラクル羊は、

羊毛、ミルク、肉、毛皮、など様々な用途で飼養されているが、特に毛皮と羊毛は、輸出品目と

して重要である。毛皮の生産は、その年の飼料(特に牧草)の量、つまり降水量と関係しており、

一般に降水量が少なく飼料が不足する年は、家畜主は多くの羊の毛皮を剥ぐ。毛皮はあくまで副

産物と認識されていることから、羊の皮膚のケアに対しての積極的な投資はされておらず、予防

接種を始めとする獣医サービスの普及が必要とされる。また、旱魃に対する耐性を強化するため

にも、家畜の健康管理の改善が求められる。

406 2004年の3月~4月に、鳥インフルエンザの影響により、生きた鶏及び卵の輸入が5週間にわたり全面的に停止

された。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

174

羊毛と同じく、集荷体制が確立していないことは、毛皮のサプライチェーンの課題の一つである。

また、原皮の保存・管理のシステムが未発達で、都市への輸送手段も限られている。屠畜場で毛

皮の集荷を行うなど、食肉産業とのリンクを確立することが必要とされる。通常、村の肉屋は、

仲買業者に生の皮を売る。業者は、それらを都市の収集場所へと運ぶ。収集場所に集められた皮

を、選別し、保存のために塩を摺りこんだあと、輸送用に積み重ねる。収集場所は、通常屋根つ

き建物ではあるが、外気にさらされた状態で、温度調節が不可能で極めて不衛生な環境である。

特に夏の高温時には、皮へのダメージは大きく質が落ちる。マザリシャリフにおいて、未処理の

羊皮は25~30 米ドルである。国内で付加価値を得るための設備が整っておらず、加工のためにパ

キスタンへと輸出される。

(4) カシミア

カシミアはヤギやラクダのうぶ毛を梳きとったものであり、セーター、コート、マフラーなどの

高級品に用いられる。カシミヤヤギ1頭あたりの採取量は年間150グラム~200グラム程度で、カシ

ミヤセーターを作成するのに通常4頭分のうぶ毛が必要になる。カシミアの主要な生産国は、下図

に示されるように中国、モンゴル、アフガニスタン、イランなどであり、世界のカシミア生産量

のうち85%は中国において加工されている。

中国,73%

モンゴル,15%

アフガニスタン,

7%

イランその他,

5%

図 2-34 カシミアの生産国407

出所: Altai Consulting, USAID ASAP

アフガニスタンのカシミアの80%は、ヘラート州、バドギス州、ゴール州、ファラー州産であり、

その他、ヘルマンド州、ファリアブ州、ジョウズジャン州においても生産されている。年間のカ

シミア生産量は1,150トンであり、国内に加工工場が存在しないことから、原毛のままほとんどが

ヘラート市を経由して、ベルギー(70%)、イラン(30%)、中国(20%)に輸出されている。

また、アフガニスタン産のカシミアの質は、国際的には 低水準に位置している408。2005年のア

フガニスタンのカシミア原毛の価格が23 米ドル/kgであったことから、約23百万米ドルの外貨収

入をもたらしたことになる409。一般に、短く、太く、暗い色のアフガニスタン産のカシミア毛は、

407 モンゴルから中国に不法に輸出されているカシミア原毛が多くあることから、必ずしも正確な生産量である

とはいえない。 408 中国産の細くて白いカシミアが高い価格で購入されており(90 米ドル/kg)、アフガニスタンやイラン産の太

くて暗い色のカシミアの価格は低くなっている(50 米ドル/kg)。なお、これらの価格は、洗われて選別された

価格である。 409 USAID (2007) Life of Project Workplan, ASAP

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

175

国際的には品質が低いものとされているが、それでも世界的なカシミア需要の増加により、他の

畜産物に比べて高い価値を有している。

アフガニスタンの乾燥した気候はカシミア生産に適しているが、ヤギの飼養が小規模かつ全国に

散らばっていて集荷がコスト高になることから、カシミアは輸出地であるヘラート周辺でのみ集

められる結果となっている。2003年のFAOのLivestock Surveyによると、当時730万頭のヤギがアフ

ガニスタンにおいて飼養されているとされており、遊牧民であるクチが統計に含まれていないこ

とを勘案すると、2007年時点において、おおよそ900万頭のヤギが国内で使用されていると推計さ

れている410。

中国やモンゴルといったカシミアの主要生産国においては、毛梳きがカシミアの収穫方法として

一般的であるが、アフガニスタンでは通常、鋏を用いてヤギの毛をすべて刈り取ってしまってい

ることから、うぶ毛以外の毛や不純物が多く混じることとなり、輸送費が嵩む一方で洗毛・選毛

がコスト高となることから、原料の買い取り価格が下落してしまう結果となっている。また、一

般の農民や放牧民に、カシミアの価値が知られていないことから、高品質のカシミアを得るよう

な交配も行われておらず、カシミアの質がもっとも高くなる晩春から初夏にかけての毛梳きも行

われていない。こうしたことから、アガ・ハーン財団は2007年に、バダフシャン州において250

名の放牧民に対して、カシミアの収穫方法に関するトレーニングを行っており、また、USAIDの

ASAPにおいても、普及の専門家を使って、VFUや農民に対して啓蒙活動(毛梳きの方法、交配、

選別、ヤギの健康増進等)を進めて毛梳きの道具を配布したり、仲買人が良質のカシミアを高い

価格で買うシステムを構築したりすることを計画している。

収穫された原毛は、手などで選別された上で、ほとんどがそのまま輸出されている。アフガニス

タン国の輸出業者は20社程度あるといわれており(Altai Consulting)それぞれ100~400名の労働者

を季節的(春~夏)に雇用して、カシミアの収集と選別を行っている。USAID ASAPの報告によ

ると、Aghan Maccaoという洗毛・選毛を行う工場が2007年3月にヘラートに建設され、中国人のエ

ンジニアと機械を導入して、カシミア及びヤギ皮を洗浄して中国に輸出している、とのことであ

る411。

2.3.1.6 政府の方針

アフガニスタン・コンパクトおよびANDSにおいては、農業・農村開発については以下のベンチ

マークを達成することが求められている。

• 合法的な農業及び農業を基盤とした地場産業が振興するための環境が整い、農業生産高

及び生産性が向上するための、インセンティブと制度的フレームワークが整備される。

• 農業分野における公共投資を 30%増加させるとともに、多年生園芸、獣医サービス、食

糧確保を推進するために、農業振興機関とファイナンスのメカニズムの整備、農民組合

の支援、農作物のブランド化、価格・気象情報/統計のタイムリーな伝達、戦略的な技術

支援を行い、潅漑や水管理システムへのアクセスを向上させる。

410 Altai Consulting, USAID ASAPによる。 411 処理量を1日あたり5トンと言っているが、実際のところは定かでない。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

176

さらに、ADNSの農業・農村開発セクター戦略の中で、重点分野が以下のものであるとされてい

る。

• 自給自足農業から集約的農業、多角的な農業へ移行させることにより、食糧の確保を可

能とする。そのための、社会・技術・金融サービスを提供する。

• 家畜の品種と獣医サービスを改善し、畜産加工のための組織化を促進して、畜産生産と

生産性を向上させる。

• 農民の組織化を推進し、生産から流通までの垂直的統合を進める。

• 酪農、養鶏、ウール/カシミア、果実等の農業・畜産業の商業化を進める。

2.3.1.7 ドナーの支援の概況

USAID、世界銀行、ADBを中心とした多くのドナーが、国際NGOやコンサルタントを利用しつつ、

農業分野において様々な支援を行っているが、単に営農や農業技術の普及にとどまらず、コミュ

ニティ開発や商品化・市場化を目的としたものも多く見られる。農業分野での主たるプロジェク

トのリスト、及び、特徴的なプロジェクトの概要を以下に示す。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

177

表 2-46 農業分野における主要なプロジェクトの一覧

出所: Preparing the Commercial Agriculture Development Project, ADB, 2007年11月

(1) JICA・日本政府

(a) ナンガハル稲作農業改善プロジェクト(RIP)

ナンガハル州を拠点とした、稲作技術の実証を中心としたリサーチから始まって普及に至るプロ

ジェクト。デモ圃場(一般の農民に対して資材等を提供して管理してもらい、収穫は農民のもの

になる)において、高収量の品種、除草、施肥/追肥、条植、水管理などについて、実証しつつ、

生産性の高い米生産のモデルを周辺の農民に示していく。

(b) 国立農業試験場再建計画(NARP)

国立農業試験場において、研究・技術開発及び普及事業支援に係る施設、機材、情報管理システ

ムを復旧させ、栽培、品種改良、園芸、土壌、植物防疫、生計改善等の各分野で技術開発・実証

のための各種試験を通じて研究員の技術を向上させ、また、農業普及員に対して栽培技術の改善

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

178

方法の指導を行っている。22種類の果樹、30種類の野菜に関する普及員のためのトレーニング教

材も完成し、農民に対するデモンストレーションを行っている。

(c) Regional Initiative for Sustainable Economy(RISE)

日本政府がFAOに委託して実施したRISE(2006年~2007年、FAO実施分3.1百万米ドル、日本の平

和構築無償)では、バルフ州4郡、ナンガハル州4郡、カンダハル州2郡の合計10郡の84村、2,000

世帯を対象に、0.4~1.0ヘクタールの土地をもつ貧困農民を対象として、基本パーケージ(小麦種

子、肥料、穀物貯蔵庫、野菜種子、手工具)及び、選択パッケージ(果樹木実苗木生産、ぶどう

木の苗圃生産、野菜の温室栽培、養魚池、家畜配布)を提供した。道具はすべて現地調達412とす

ることにより、現地の産業の活性化にもつながっている。

(d) Rural Business Support Project(ADB/JFPR)

日本政府がADBに拠出した貧困削減資金(Japan Fund for Poverty Reduction:JFPR)を利用して、

バルフ、バーミヤン、ナンガハル、カンダハルを対象に、国家計画、州の計画、郡の計画を参照

した上で、農産品を中心とした地場産業のサプライチェーンにおいて欠けている部分を特定し、

そこを埋めるような支援を行っている。

(2) 他ドナー

他ドナーの主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-47 農業・農産加工分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 USAID 農業生産・加

工・流通、獣

医サービス

Accelerated Sustainable Agriculture Program(ASAP) ・ 北部を中心とした19州のすべての郡について主要な産物や諸生産条件についてプロ

ファイルをまとめ、農業生産、加工、流通を支援するプログラム。 ・ 質の高い家畜用薬剤をコールドチェーンを通じて供給するシステムを構築するとと

もに(当面は、Dutch Committee for Afghanistanがコールドチェーンを自ら所有・運営

する)、獣医の能力を向上させて、民間ベースによる獣医サービスを提供できるよう

にする。 ・ バルフ州マザリシャリフの郊外で、政府による土地のリースを受けて、40百万米ドル

をUSAIDが、80百万米ドルをOPEC(Overseas Private Enterprise Corporation)が出資し、

100ヘクタールの総合的な食品加工工場(10,000ヘクタールの農場をもつ)を建設する

ことを検討している。400人規模の職が確保される。現在、水や電気の確保を含めて、

土地の選定が行われている。輸出を目的としており、マザリシャリフからウズベキス

タンへの鉄道のルートを利用する計画である。工場は 終的には、アフガニスタンの

投資家に売却していくことになる。 農業生産・加

工・流通、養

Alternative Livelihood Program – Eastern Region(ALP-E) ・ 緊急的・短期的支援として、零細農家を対象に、2006年に90,000人に小麦と大麦の種

を供与し、2007年には野菜の種と肥料を45,000人に供与した。2006年には全額、2007年には50%の補助とし、2008年はさらに補助率を減少させていく。また、より長期的

な支援として、零細な農家3,000件を対象に、苗木、農具、肥料及びトレーニングを提

供し、また商業ベースの農家に対して80%の苗木費用とトレーニングをプロジェクト

が負担することにより、古い果樹園が500ヘクタールあったものを、リハビリ・新規

をあわせて7,000ヘクタールに拡大されることを目指している。 ・ 実施体制として、114のSelf-Help Group(20人~70人)を形成して、生産や収穫の技術

の向上のためのトレーニングを行っている。

412 ビニルハウスは、USAID支援のICARDAによるものは3,000米ドルするが、現地製は400米ドルでできる。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

179

・ 養鶏のコンポーネントについては、対象4州にまたがって、200世帯の男性及び200世帯の女性に、養鶏用の簡易な施設の建設、餌、ヒヨコ、ワクチン等の購入費の3/4を支援し、世帯あたり1,000~3,000羽の養鶏ができるようにした。ターゲットとしては、

年間2百万羽のブロイラーの製造である。 ・ ジェンダーのコンポーネントでは、チーズ工場、野菜の苗木のビニルハウス栽培、果

樹・ナッツの苗木栽培、養魚場、手工芸、パッキング材料の工場が、それぞれ女性の

SHGによって運営されている。また、4,000人の女性に、ビジネスのスキルのトレーニ

ングを行い、メンターシッププログラムを行っている(実際にビジネスに結びつくケ

ースは1~2割程度)。 EU 果樹・ナッツ

の技術 Perennial Horticulture Development Project(PHDP) ・ MAILをカウンターパートとして、カブール、ヘラート、バルフ、クンドゥズ、ナン

ガハル及びカンダハルにおいて、園芸に関するトレーニングセンターを設立し、そこ

において様々な樹種のデモンストレーションやトレーニングを行うもの。 ・ 多くの樹種(国内産、外国産)を集めて分類してカタログを作り、テストを通じて適

切な環境に関するデータを集めて、苗木生産業者・農民・普及員への情報提供(栽培

方法、接木の方法など)、(病気対策をした)芽の提供を行っている。 UNDP

農業生産・流

通 NABDP Economic Regeneration Unit ・ 25州について産業のポテンシャル及び制約要因についての調査を行い、2007年にはバ

ルフ(カーペット、アーモンド、メロン)、バーミヤン(ジャガイモ、観光)及びヘ

ラート(シルク、カシミヤ、サフロン)についてValue Chain Analysisを行った。これ

らについては、さらにフィージビリティを考慮したビジネスプランを作っており、こ

れをもとにプロポーザルの提出をNGOや民間企業に依頼することとなっている。 世界銀行 果樹生産 Horticulture and Livestock Project(HLP)

・ バルフ州、パルワン州、カビサ州を含む北部地域において果樹園をもつ農民に対して、

アーモンド、アプリコット、グレープ、ザクロの苗木を提供し、トレーニングを行う

とともに果樹園の復興を支援し、ナッツ・果実類の流通業者の組織化支援を行ってい

る。また、酪農、養鶏、カシミアの生産・流通の促進も行っている。 ADB

設備投資、マ

ーケティン

グ、行政能力

強化

Agriculture Market Infrastructure Project ・ 農業分野の施設投資と標準化・認証システムの設立を支援するものであり、カブール

及び地方部にある屠畜場の整備、園芸作物の小規模集散・加工施設(冷蔵施設を含む)

の整備、品質標準化のためのラボの整備のための投資を行うとともに、WTO加盟に

むけた衛生、標準化に関するMAILの能力強化を行う WFP 苗木生産 Green Afghanistan Initiative(GAIN)

・ バルフ州Dihdadi郡、Baokh郡、Nahri Shahi郡及びKhurm郡の800人の女性(脆弱、かつ、

600~1000m2の土地をもつもの)にそれぞれ2,000の果樹・ナッツの苗を供与して、1年後に市場に苗木を出荷して生活向上を図るもの(NGO組織であるBRACが実施)。

潅漑用水のある土地は限られた地域にあることから、苗木生産が集中するため、地元

の市場に出荷できない一方で、生産者である女性が、他の地域に運ぶための輸送手

段・ネットワークをもたないことが、 大の問題となっている。 FAO 酪農 Development of Integrated Dairy Schemes in Afghanistan

・ 2005年から3年間の期間により、ワルダク、バルフ、クンドゥズ、カブール、ロガー

ルの5州において、7つの協同組合の合計13,000人の裨益者を対象にシタ、牛乳生産を

総合的に支援するプロジェクトであり、人工授精による品種改良、餌の生産・調達、

飼養管理、獣医サービス、衛生管理、集乳、販売のそれぞれの改善への支援を行って

いる。カブール、マザリシャリフ及びクンドゥズに牛乳の加工工場(5,000リットル/日)をDairy Union(法的な組織)が建設・経営するのを支援した。

FAO/DFID 農業・果樹生

産 Development of Sustainable Agriculture Livelihoods in Eastern Hazarajat(DSALEH) ・ 2002年6月から2008年9月までの期間で、DFIDが6百万米ドルの資金提供をしFAOが実

施している、農民の食糧確保・生活向上を主眼としたプロジェクトであり、現在プロ

ジェクト終了にむけてマーケティングにも力を入れ始めている。Panjab、Waras、Yakawlang及びShibarの4郡を対象に、CDCに相当する68のFarm-Based Organizations(FBO)を形成して、コミュニティ行動計画を作成させて、小規模な農業開発プロジ

ェクトを運営させている。16の果樹のデモ苗畑、28のモデル果樹園(ファーマーズ・

スクールを実施)、新規果樹園への50%の補助金の供与、小規模植林(ポプラ)、野

菜栽培、種イモ栽培振興、養蜂、養鶏、小規模潅漑、識字教育などが実施された。 GTZ 農業生産・加

工、地方行政 Project for Alternative Livelihoods in Eastern Afghanistan(PAL) ・ ナンガハル、ラグマン、クナールの東部3州の3郡で郡庁舎を整備しつつコミュニティ

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

180

開発を実施するものであり、2007年に開始されたPAL IIはOutreachを目的として、残

りの17郡の庁舎整備を行いつつ、プランニング能力を向上させ、ドナーに開発計画を

売り込む体制ができることとなる。一方、別個のコンポーネントとして主要な産品へ

の支援が行われており、これまで30の農産物・農産加工品について、技術を確立させ

た普及教材を作成し、すべてのCDCに配布した。普及教材をプロジェクトが用意し、

トレーニング費用及び苗木の価格の80%をプロジェクトが負担することにより、民間

企業にデモ用の農場を運営させて、農民や普及員へのトレーニングを実施している。

2.3.1.8 今後の課題

アフガニスタンの農業セクターでは、厳しい条件下にありながらも様々なポテンシャルのある農

作物をターゲットとして、ドナーにより数多くのプロジェクトが実施されている。しかしながら、

種子・肥料・農機具といったインプットや、果樹の苗木や果樹園のリハビリといった、緊急的な

対策や、市場性のある農産品・畜産品の開発支援といった、野心的で起業家精神を必要とするも

のが多く、実際に農家を訪れると、農業技術の普及体制や農産品の流通体制が不十分であること

から、技術が根づかずに農作物が枯れてしまったり、市場に出荷できずに換金性作物の生産を断

念したりする、といったことが少なからず起きている。また、例えば果樹の苗生産にドナーの支

援が集中することにより、過剰生産によって値崩れがおきたり、また苗の買い手がみつからなか

ったりといった、弊害も出てきている。特に、苗生産やビニルハウス栽培のような、投資を回収

しなければ継続できない事業であるにも関わらず、市場にどのように結びつけるか、また、市場

における需要と供給がどのようになっているか明確に把握せずに、ひらすら生産拡大を推進して

いるプロジェクトも少なくない413。農業生産を向上させ、それを所得向上に結びつけるためには、

現在の農業技術を底上げするための普及体制の整備や、協同組合などの設立による生産・流通ネ

ットワークの整備が重要であるが、短期的な成果の得られないこうした地道な努力が必ずしも行

われておらず、特に、農民に直接働きかける役割を担うべき普及員の能力向上や普及教材の配布

などは非常に手薄であり、農民に知識を伝えていくメカニズムが構築されていない。生産・流通

の規模の経済を達成するためのネットワーク組織の形成も、アフガニスタンの農民の共同体意識

が希薄であることを考慮すれば、仲買人を組織化・強化するといった働きかけが必要であるが、

いまだ不十分である。

一方において、ドナーのほとんどのプロジェクトの裨益者は、一定規模の生産手段(土地、果樹

園など)をもつ農民に限られており、もっとも脆弱な立場にある土地なし農民には支援が届いて

いない場合が多い。土地なし農民への支援は、必ずしも農業にとどまらず、職業訓練と結びつけ

た新たな雇用創出努力が必要であると考えられる。

以上のように、複合的な問題を解決しなければ、農村部の所得創出、そし貧困削減にはつながら

ないことから、今後は、潅漑施設を含むインフラの改修、農業技術の普及、農産品の高付加価値

化、流通組織の形成といった、生産から流通までの見据えた長期的かつ総合的なアプローチで農

業振興プログラムを実施していくことが必要である。また、IDPが農村部におけるコミュニティと

調和していない問題が起きている地域では、コミュニティとしての問題解決能力の強化も視野に

入れたコミュニティ開発のアプローチを採用するべきであると考えられる(「2.3.2 コミュニティ

開発」を参照)。

413 JICA「農業経済活性化プロジェクト形成調査」(2007)の調査結果による。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

181

2.3.2 コミュニティ開発

長い戦乱によりコミュニティが疲弊・分断されたことが、アフガニスタンの国家形成、そして治

安の回復の妨げとなっていたが、2003年からコミュニティを主体とした農村開発プログラムが開

始され、大きな進歩が見られている。NSPをはじめとするプログラムを通して、これまでに全国

の村落のうち合計3万以上ものコミュニティ開発委員会(Community Development Council:CDC)

が設立され、農村インフラを中心とした開発プロジェクトが実施されてきた。また、郡レベルで

は、郡開発委員会(District Development Assembly:DDA)も設立されている。これらの組織の設

立にあたって、コミュニティ・レベルの参加と、NGOといった地域横断的組織とのパートナーシ

ップを育成する、ボトムアップのアプローチが取られてきた。CDCやDDAといった組織は、コミ

ュニティの声を開発計画に反映させる仕組みであることから、プロジェクト実施の際の開発プラ

ットホームとして、農村経済の発展に貢献する可能性を大いに秘めている。

2.3.2.1 国家連帯プログラム(NSP)の進捗と課題

(1) NSPのサイクル

NSPの実施においては現在、27のNGOと国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)が、開発支援パ

ートナー(Facilitating Partner:FP)として、個々のコミュニティでの事業実施促進を行っている。

FPは、NSPの方針やプロジェクト実施の手順の周知、公正公明な選挙の実施促進、コミュニティ

開発計画やプロポーザル策定の支援、サブプロジェクト実施の支援、CDCメンバーに対するマネ

ジメントトレーニング、モニタリング、評価の実施、といった役割を担っている。

各コミュニティでのプロジェクトのサイクルとして、以下の5つの段階があり、通常、2年間で全

ての段階を終了することとなっている。

(1) コミュニティのグループ化:各州内の郡を担当する FP を割り当て、その助言と指導

のもとで、村をグループ化する。

(2) CDCのメンバーの選出: 各コミュニティに住民の自治組織となるCDCを設立するた

め、秘密投票による選挙 414によってメンバーを選出する。

(3) コミュニティ開発計画の策定:新しく設立された CDC は、FP の指導・支援の下、

コミュニティ自らの開発ニーズに基づいて、優先開発サブプロジェクトの選択を行

い、コミュニティ開発計画を策定し、サブプロジェクトプロポーザルを NSP に提出

する。

(4) サブプロジェクトの実施: FP の監理の下、CDC は与えられた交付金(ブロック・

グラント)でサブプロジェクトを実施し、コミュニティに対してその進捗状況や資

金の利用状況を報告する。

(5) サブプロジェクトの評価・報告:サブプロジェクト終了後、FP は評価を行い、教訓

を取りまとめる。

414 立候補ではなく、自らふさわしいと思う人物の名前を書いて投票する。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

182

(2) NSPの進捗

NSPの2008年4月現在までの進捗は以下のとおり。

• 2008年3月の時点で、全34州、398郡中346郡の32,455の村落において、合計で20,502のCDC

が民主的な選挙によって設立された。そのうち、20,182がコミュニティ開発計画を策定し

た。

• 2008年4月上旬の時点で、支給された交付金の額は、469,741,681 米ドルである。そのうち

443,617,884米ドルは17,037のプロジェクトとして、支給された。

• 2008年4月の時点で、34,043のコミュニティ・プロジェクトを支援した。主なプロジェクト

のセクターは、以下のとおりである。

その他8%

教育12%

電化16%

灌漑施設17%

道路22%

給水設備25%

図 2-35 NSPによって実施されたプロジェクトの数の割合(2008年4月まで)

出所: MRRD Strategy and Programme Summary

上記のとおり、NSPでは、水道、道路、潅漑施設、電気、学校、医療施設などの経済・社会イン

フラ建設が主として採用されているが、数にして30%、金額にして10%程度は、Human Capital

Developmentと呼ばれる識字教育や収入創出活動に用いられている。女性を対象とした活動に交付

金の10%が用いられることがMRRDのガイドラインにより決められているが、実際に女性に直接

裨益するプロジェクトは遥かに限られている。

(3) CDCの役割

NSPを通じて形成されたCDCは、コミュニティにおいて以下のような役割を担いつつある。

• 以前から各コミュニティでは、伝統的なシュラによって、重要課題が討議され決定されて

いたが、現在は、組織化されたCDCがシュラに取って代わり、コミュニティの意思決定機

関として機能しつつある。地元の有力者がそのままCDCのメンバーになっているケースが

実際には多いが、選挙というプロセスを経たことにより、公的な代表として住民からプレ

ッシャーを受ける立場になり、コミュニティから信頼される関係作りも進んでいる。

• 設立されたCDCには、男性のみ、女性のみ、男女混成と3つのタイプがあり、コミュニティ

の意志決定における女性の参入の機会を創出したという点でも非常に重要な成果といえる

(ただし、後述するように、女性の参加が実際は形だけの場合も多々存在する)。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

183

• NSP以外のコミュニティ開発プロジェクトでは、CDC主導による開発プロセス(意思決定、

基金のマネジメント等)を活用したり、CDCをエントリーポイントとしてプロジェクトが

実施されたりしていることから、CDCがNSPの枠組みを超え、各コミュニティを代表する

組織として認知されつつあると言える。

2.3.2.2 コミュニティ開発プログラム

NSPによって設立されたCDCを通じた、コミュニティ開発プログラムが多数実施されている。コ

ミュニティ開発に関連した主要なプログラムの概要を以下に示す。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

184

表 2-48 主なコミュニティ開発プログラムの概要

プログラム基礎情報 プログラムの目的 プログラムの重点分野、アプローチ 主な成果 課題・教訓

国家地域ベース開発プロ

グラム National Area-Based Development Programme Phase II:NABDP) 期間:2006年~2008年 ドナー:UNDP 対象地域:全国

州および郡レベルのガバナ

ンス強化、地域経済再生の

ための計画策定とその実施

の促進、コミュニティから

の要請に基づいた農村にお

ける生産基盤プロジェクト

の構築を通して、ボトム・

アップアプローチによる貧

困削減、農村復興開発を推

進する。

• コミュニティ・エンパワメント:郡レベルに

おいて、CDC の代表による郡開発委員会

(DDA)を形成して能力開発を行い、CDCや郡レベルのニーズを計画策定に反映でき

るよう支援する。 • 経済活性化:各地域の社会・経済に関するア

セスメントを行い、開発にかかる機会や制約

を把握して、地域農村経済活性化戦略を策定

する。 • 組織開発:MRRD の本省及び州の職員、州開

発委員会(Provincial Development Committee:PDC)の能力強化を行う。

• 公共投資実施支援:コミュニティによる開発

計画及び地域農村経済活性化戦略をもとに、

総合的な農村開発計画を策定し、財源を確保

するための支援を行う。

• これまで計 297 の DDA が設立され、これらの郡

において PDC が策定された。また、34 州全てに

おいて、州開発計画が、郡開発計画を踏まえたう

えで策定された。(2007 年 12 月) • 地域農村経済活性化戦略策定のための、包括的な

コミュニティ・レベルの分析が実施され、また、

経済的利点やバリューチェーンが検証、認識され

た。 • 農村部での経済発展、雇用機会を促進することを

狙いとした、アフガニスタン農村企業開発プログ

ラム(AREDP)の設立において、資金面、技術

面での支援を提供した。 • MRRD のスタッフに対して、プロジェクト計画

立案、組織開発、トレーナー養成のトレーニング

を実施した。 • 計 312 のプロジェクトが既に完了しており、305のプロジェクトが現在進行中である。

• 現地コミュニティ機関との協

力、現地契約、労働集約的工事

などによりできるだけ地域の

主体性とコミュニティ参加を

推進することにより、開発と治

安回復を結びつけた取り組み

を促進することが重要である。 • DDA の法的なステータスの確

保が必要とされる。 • MRRD の組織能力の低さは、プ

ログラム実施に総合的に影響

を与えるため、優先課題とし取

り組む必要がある。

Literacy and Community Empowerment Programme (LCEP) 期間:2004年~2006年 (現在フェーズ2検討中)

ドナー:USAID 対称地域:パルワン、バ

ーミヤン、ヘラート、カ

ンダハル、ファラーの5州

地方住民、特に女性や若者

を中心とした人々の能力強

化 を支援することにより、

コミュニティ開発の参加を

促進し、また、コミュニテ

ィ参加型ガバナンスを促進

するため、女性や若者の声

が反映される民主的なコミ

ュニティの代表組織の強化

をはかる。

• コミュニティー・ガバナンス:CDC の統治能

力強化のため、CDC メンバーに集中的なトレ

ーニングを行い、若者グループや自助グルー

プの設立を支援する。 • 基本的計算能力、識字教育:住民の基本的計

算能力と読み書きのスキル向上のため、カス

ケード方式(伝達講習方式)で識字教育のト

レーナーを育成し、識字教育のカリキュラム

と教材の開発、また、各コミュニティにおい

てコミュニティ学習センターを設立する。 • 経済エンパワメント:貯蓄投資自助グルー

プ、コミュニティ銀行の設立を支援し、ビジ

ネス開発サービスとして、零細企業者の能力

強化、ネットワーク構築を支援する。

• 380 の CDC が設立され、CDC によって 371 の若

者グループが形成された。 • 851 の貯蓄投資自助グループ(427 の女性グルー

プ、424 の男性グループ)が形成され、75,500 米

ドルが 19 ヶ月の間で貯蓄された。 • 16 名(女性 10 名)のリードトレーナー、74(女

性 37 名)の郡レベルのトレーナー、371 名(女

性 178 名)の村落レベルの講師が養成された。 • 9,275 名が村落レベルの講師より数学・識字教育

をうけ、そのうち 95%が 3 年生レベルを習得し

た。

• 形成されたグループの能力開

発が不十分な状態でプログラ

ムが終了してしまうなど、プロ

グラムの実施期間が非常に限

られていた。 • 能力強化トレーニングや、プロ

グラムで提示した教材や貸付

の規則などにおいて、住民にと

って複雑すぎるものが多かっ

た。 • 基本的な読み書きや計算スキ

ルの向上は、貯蓄や投資といっ

た活動を推進するうえで重要

な要素であるとわかった。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

185

カンダハル帰還民社会復

帰・コミュニティ開発支

援計画 (JICA Support Programme for Reintegration and Community Development Project:JSPR) 期間:2005年1月~2009年3月 ドナー:JICA 対象地域:カンダハル州

政府機関、CDC、パートナ

ーNGOの協働により、持続

可能な参加型のコミュニテ

ィ開発活動の運営に関わる

開発従事者の能力開発を通

して、帰還民や貧困地域住

民の、社会復帰ならびにコ

ミュニティ開発を支援す

る。

• コミュニティ開発従事者の能力開発:参加型

コミュニティ開発実施に必要な知識や考え

方を普及するため、開発従事者に研修を提供

する。 • コミュニティ開発の実施:開発従事者が、研

修での成果を活かし実際にコミュニティ開

発プロジェクトを実施するのを支援する。 • 関係者間の調整の促進:コミュニティ開発に

関する利害関係者の間での調整や効果的な

連携をはかる。 • CDC 強化システムの開発:プロジェクトの経

験に基づいて、地元資源の有効活用による

CDC の強化システムのモデルを開発し、関係

者と共有する。

• MRRD の職員、CDC メンバー、ローカルスタッ

フ、JSPR スタッフ、NGO スタッフなど、延べ

289 名が研修プログラムに参加した。 • 9 村でインフラタイプのサブプロジェクトが実

施され、90 名の住民に対するスキル・トレーニ

ングによる訓練を受けた。 • 定例会等を通じて日常的に関係者との調整、意見

交換を行っており、そのプロセスにはスタッフの

参加を促進している。 • モデルの開発にむけて、関係者間で目的やプロセ

スについて共有するなど、基盤づくりが始まって

いる。

• 複数の部族が村にいる場合

に、土地や水の問題で意見が統

一しないことがあり、また、便

益の配分に困難が伴うことが

ある。 • 治安上リモートコントロール

の下で人材育成、能力開発を実

施することは非常に難しく、特

にノンインフラタイプのプロ

ジェクト実施には困難が伴う。

FP スタッフ及びプロジェクト

が雇用しているナショナルス

タッフの能力強化をプロジェ

クトの進行と同時に進めるこ

とにより、現場レベルにおいて

も成果を挙げつつある。

地方開発支援プロジェク

ト (Inter-communal Rural Development Project : IRDP) 期間:2005年12月~2009年12月 ドナー:JICA 対象地域:バルフ州2郡、

バーミヤン州3郡、カンダ

ハル州2郡

国家連帯プログラム(NSP)により形成されたCDCを複

数束ねた、住民主導型クラ

スターCDC 地域開発モデ

ルを構築することによっ

て、持続的かつ広域的な開

発効果を生みだし、地域住

民の生計向上や貧困削減を

促進し、ひいてはローカル

ガバナンス強化に貢献す

る。

• クラスターCDC の形成:サブプロジェクトの

計画立案・実施を通し、コミュニティ開発事

業実施のためのクラスターCDC を形成する。

• 能力強化:サブプロジェクトの計画立案・実

施を通して、クラスターCDC の参加型事業計

画立案および実施を支援する。 • モニタリング評価:クラスターCDC の有効性

を検証し、教訓をとりまとめる。

• 対象地域 3 州 7 郡において、19 のクラスターCDCが設立され、29 の社会経済インフラ・社会サー

ビス改善のためのサブプロジェクトが計画され、

実施されている。 • MRRD と対象 3 州の農村復興開発局(RRD)の

職員を対象に、プロジェクト計画立案、品質管理、

スケジュール管理等の研修を実施し、能力開発を

はかっている。 • 「クラスターに基づく開発モデルに関するワー

クショップ」を実施し、モデルの骨子案が紹介さ

れた。

• MRRD および RRD の能力強化

がいまだ不十分である。 • サブプロジェクト実施によっ

て地域の一体化を促進し、対象

地域の治安の改善につながる

というインパクトがあった一

方で、治安状況はプロジェクト

の実施に影響を与えており、プ

ロジェクトの自立発展性にお

いて重要な問題である。 • 支援の対象を、CDC レベルか、

CDC クラスターレベルかにす

るかについては、支援の内容に

より、例えば家畜の配布は CDCレベルが適切である。

• 家畜をリボルビング化して裨

益者を増やすことについては、

CDC の能力開発を短期間で達

成できないという理由で、考慮

されていない。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

186

2.3.2.3 今後の課題

CDCを通じた農村コミュニティ開発を基礎としてNSPが実施されてきたが、NSPを実施したFPや、

同プログラムを支援しているドナーによれば、以下のような課題が指摘されている。

(a) 治安

治安回復の見通しがない地域での円滑な復興支援活動は難しい。特に南部の4つの州において、FP

がコミュニティで活動することは非常に困難な状態となっており、またサブプロジェクトの実施

に際する治安の影響は非常に大きい。治安の悪い地域では、必然的にNSPの導入、すなわちCDC

の形成が遅れる傾向にある。

(b) CDCへの住民の参加度合い

CDCへの住民の参加の度合いは、各コミュニティで大きな差がある。また、コミュニティによっ

ては実際には秘密選挙でない方法で選挙が行われている例も報告されている415。CDCのメンバー

がNSPを自らの利益のために利用する場合や、例えば電化や道路建設が一部の住民にのみ裨益す

るように設計される場合などがあり、民主的でない方法でCDCが運営されているケースも少なく

ない。

(c) 資金の使い方の透明性

一部の住民にのみ裨益するプロジェクトがいつの間にか採択されている場合や、土木工事などを

引き受けた組織がCDCの中心メンバーの関係者であったり、資金の使途が不透明であったりする

こともある。しかしながら一方において、読み書きのできるものが村内にわずかしかいない場合

は、工事や機材の調達を請け負ったものが資金を持ち逃げしないためには特定の信頼のおける人

物に依頼せざるを得ないという場合もあり、民主主義やガバナンスの未成熟な農村地域において

は、透明性を確保するのは必ずしも容易でないという事情も指摘されている416。

(d) 女性の参加

混成CDCの組織化が事実上困難な地域も多く、コミュニティによって男女混成CDCの有無や数に

差が多く見られる。さらに、女性CDCとは形ばかりで、規定を満たすために設立されているが、

交付金の用途に関して発言力がない、CDCの活動自体を知らされていないなど、本来の役割を全

く果たしていないようなケースも多く存在している。

(e) 持続性および長期的構造

現段階では、長期的な持続性には不安が残る。CDCが他のコミュニティ開発プロジェクトのエン

トリーポイントとなり、CDCの存在が認知され定着しているようにも受け取れる一方で、CDCは

あくまでNSPのサブプロジェクトを実施するための組織であり、NSP終了後に資金援助なしに

CDCがローカルガバナンスの役割を果たし続ける可能性は低いとの見方もある。NSPは、CDCの

地方行政組織としての法制化にむけ、2006年11月に“CDC By law”を草案し承認を得たが、CDCに

415 AREU Investigating the Sustainability of Community Development Councils in Afghanistan 416 Integrity Watch Aghan (2007), Assessing the National Solidarity Program: The Role of Accountability in Reconstruction

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

187

対する支援はMRRDの範囲内にとどまっており、国家政策および他省庁の政策への統合には至っ

ていない。MRRDは、Social Organizerを各郡に配置して、FP撤退後にもCDCへの支援を継続しよ

うとしているが、彼らの実質的な役割は、FPと同様にドナーのプロジェクトとCDCとの調整役に

留まっており、活動はドナーの予算頼りというのが実情である。

上記のように、CDCの形成や運営には様々な困難が生じているが、今後の帰還民・1DPの社会統

合、地域経済活性化、農村復興、ローカルレベルでの組織の連携強化を達成するためには、CDC

の活動を支援、促進、継続することは欠かせないと考えられる。CDCの形成自体については著し

い進捗が見られたことから、今後はCDCを通じた開発活動が社会的弱者のの生活の向上につなが

るように、透明性を保ちつつ事業が適切に運営されるためのガバナンスを確保することが重要で

ある。そのための人材の育成及び啓蒙活動を事業に組み込んだ、きめの細かい支援をしていくこ

とが必要と考えられる。

2.3.3 雇用の創出・職業訓練

2.3.3.1 雇用の現状

(1) 教育と雇用に関する全体状況

20年以上にわたる紛争のため、アフガニスタンの教育・職業訓練システムは壊滅的な打撃を受け

た。成人識字率(15~49歳)は男性43%、女性14%と世界的に見ても非常に低く(図 2-26参照)

タリバーン政権下での女子教育・家庭外労働の禁止や、その後も続く治安上の問題などにより、

女性の教育水準・識字率や家庭外での労働の経験は極端に低いのが現状である。

タリバーン政権崩壊後の復興開発において、国民に対する基礎教育の重要性が国家的に認識され、

公的教育の振興をはじめ、NGOなどによるノンフォーマル教育も各地で実施されている。このた

め、中長期的には若い世代の識字率・計算能力などは漸進的には向上すると考えられるが、今日、

国家社会経済の復興・発展のために切に必要とされている現在の労働人口という意味では、「読

み書き計算」という基本的なスキルを持たない層が圧倒的に多い。

アフガニスタン全体での労働人口や失業率に関しては、信頼に足るデータが存在しないが、Masum

(2008)417の推計によれば、2008年における労働人口は758万人で、毎年26万5,000人程度増加し

ている。これは自然増ばかりではなく、帰還難民や除隊兵士など、アフガニスタン特有の状況下

で新たに労働人口として加わる成人も含む数字である。一方の失業率については、ANDSは2008

年時点で40%前後という高い数値を挙げているが、これは、33%(2003年)418に上ると報告され

ている不完全雇用を含んだ数字であると考えられる。

上記の失業率は国民全体での推計であるが、紛争やタリバーンによる極端な宗教的支配などの非

正常な事態を経験したアフガニスタンでは、障害者、教育や社会的訓練を全く受けていない女性、

親を失った子ども、家族を失った老人など、多くの社会的弱者が存在する。彼らの失業率(及び

417 Muhammad Masum (2008), Promoting Employment in Afghanistan: Key Issues 418 International Rescue Committee (2003), Afghanistan; Labor Market Information Survey, cited in Masum, pp. 5.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

188

貧困状況)は、国家平均よりもさらに厳しいものであると考えられる。一例として、国内に80万

人と言われる障害者の失業率は90%に上っている419。

本報告書「2.3.1農業」に述べたように、全国の世帯数の四分の三が農業を収入源としており、農

業・畜産業の国家経済に与える影響が大きい一方で、工業・建設分野、そしてそれに関連する商

業・サービス業が近年急速に成長している。特に外国企業を含む民間企業による建設業や輸送業、

電信電話業などの業種が高い伸び率を示しているが、既に2004-2005年を境に労働集約的な雇用の

ピークが過ぎたことから、緊急的な復興期から開発期へと移行するに伴って、求められる労働が

「量」から「質」へと移りつつあることを物語っている。特に”ブーム”とも表現される建設業に

ついては、この傾向が顕著である(図 2-36)。

050

100150200250300350

2003 2004 2005 2006 2007 2008

(億アフガニ

)

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

雇用人数

(人)

建設業による付加価値額

全雇用数 建設業雇用数

図 2-36 AISA420登録企業による雇用人数と、建設業による付加価値額

出所: Masum(2008)より作成

復興活動(ODA、NGO)及び民間ビジネスの活動の活発化に伴う多様な労働力のニーズに対して、

アフガニスタン人で技能を持つ人材があまりにも不足しているため、技能職は外国人がその多く

の部分を担っているという現状がある。これは、政府予算・援助資金の効率的活用という面から

も問題が多く、また将来的な国の発展という観点からも、こうした専門的な職種におけるアフガ

ニスタン人の技能レベルを引き上げることが急務である。一方において、雇用という側面で見る

と、アフガニスタン経済の80~90%は、労働集約的な零細・中小事業体(農業を含む)から構成

されるインフォーマル・セクターであると推計されているが421、彼らが生産性を向上させ、脆弱

な体質から脱却するためには、初歩的な識字・計算能力、基礎技術をまず身につけることが必要

である。すなわち、高度な知識・技術を要する専門職というレベルから、初歩的な識字・基礎技

術を要する労働集約的な職種のレベルまで、アフガニスタン経済には「職業訓練」が必要とされ

ているのである。

(2) 難民、除隊兵士

紛争を逃れて近隣諸国や国内各地に避難していた難民が元の居住地に戻るインセンティブとして

は、居住地で職を持てることが大前提であるが、上記のような経済の低迷・混乱、貧困の蔓延な

419 ANDS, pp.33 420 AISA=Afghanistan Investment Support Agency. 421 World Bank, pp.4.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

189

どに加え、雇用・自営業を問わず、仕事を始めるために必要な教育や職業訓練の機会の少なさが、

多くの難民の自発的帰還を妨げる要因になっていると考えられる。さらに、帰還難民の内には障

害者、老人や親のない子ども、女性など、社会的弱者も相当数含まれている。国外から2002~2005

年の間に帰還した難民400万人のうち、少なくとも28万人がこうした社会的弱者であったという報

告もある422。帰還民、その中でも社会的弱者は特に、安定した職に就く機会が少ない人々である

だけに、彼らに対する社会的サポートの重要性は社会の安定と貧困削減対策の要としてANDSで

も謳われており、その一環としてこうした人々を対象とする職業訓練の充実が望まれるところで

ある。

なお、世帯による収入源の数を見ると(図 2-37、図 2-38)、複数の収入源を持つ世帯の割合が、

全国調査では45%だったのに対し、帰還難民では25%に過ぎなかった423。ここからも、難民はよ

り経済的に比較的不安定な状況に置かれていることがわかる。

55%

45%

収入源1 収入源複数

75%

25%

収入源1 収入源複数

図 2-37 世帯ごとの収入源数(全国) 図 2-38 世帯ごとの収入減数(帰還民)

出所: Masum(2008)より調査団作成

また、アフガニスタン全土で数十万人とも言われた武装勢力のうち、日本政府が主導した武装解

除、動員解除、社会復帰(DDR)プロセスは約10万人を対象とした。このうち、社会復帰のため

の職業訓練が必要な者が約4万人存在するとされていたが424、アフガニスタン新生計画により訓練

を実施する予定であったのは約半数に過ぎなかった425。

2.3.3.2 職業訓練(公的・民間)の現状

職業訓練の分野では、公的にはMoLSAMD、MAIL、女性課題省、電気通信省、教育省、MRRDが

それぞれ職業訓練活動を実施してきたが、中心となっているのはMoLSAMDと教育省である。な

お、MoLSAMDによれば、技術訓練を行う組織は全国で合計537あり、MoLSAMD及び教育省傘下

の機関のみで、年間15,000人の卒業生が出ている、とのことである。これまで主として行われて

きた職業訓練の実施体制とその特徴は以下のとおりである。

422 Altai Consulting (2006), Integration of Returnees in the Afghan Labor Market 423 Masum, Altai Consulting 424 JICA (2003)、アフガニスタンDDR職業訓練分野プロジェクト形成調査報告書 425 同上.実際の訓練数は不明。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

190

(a) MoLSAMD426

MoLSAMDは、紛争後は20の職業訓練センター(VTC)427を運営管理し、NSDP(後述)のスキー

ムによりその他全国各地での登録済みのローカルNGOなどによる職業訓練を支援している。短期

の基礎的技術訓練が主で、研修生数は直営VTCで年間約5,000人、ローカルNGOを通じたコースで

年間約12,000人となっている。

(b) 教育省428

教育省はよりフォーマルな技術訓練を実施している。全国42(うち17はカブール)の訓練施設を

擁するが、ほとんどは単科で、技術関係が16施設、農業関係が13施設と数が多く、他は石油・ガ

ス関連技術、事務管理、工業関連、芸術関連である。入学時の資格は、訓練の内容によるが、

低限9~10学年修了が課されるため、教育をほとんど受けていない人口の多い現在のアフガニスタ

ンではいわばエリートのための技術訓練校である。年間15,000人ほどがこれらの施設で訓練を受

けている。しかし、施設の多くが荒廃し、教師の多くはタリバーン時代以前に資格をとったもの

がほとんどで質は低く、機材や電気なども不足している。現在のカリキュラムは時代の要請に合

致できていないため、改善が必要とされている。

(c) NGOs・私企業による職業訓練429

アフガニスタンでは政府の行政サービス能力の低さを国際・ローカルの多くのNGOがサービス・

プロバイダーとして補完しており、職業訓練分野でも同様の状況にある。数百を数えるNGOが基

礎教育・職業訓練プログラムを実施しているが、その実態・正確な数などは把握されていない。

なお、近年は、民間セクターでも、職業訓練プログラムを提供する会社が現れてきているが430、

大都市におけるコンピューターと語学(英語)に偏っており、各プログラムの質も様々である。

(d) 「徒弟制度」431

上記に加え、数は把握できないものの、いわゆる昔ながらの「徒弟制度」(親方の工房に弟子入

りする、といった形での訓練)がアフガニスタンに多く存在している。そのほとんどがインフォ

ーマルな小規模事業所によるものであり、その実態はほとんど知られていない。当然ながら公的

なクオリティ・コントロールはなく、また児童労働の温床となっているという指摘もされている432。

「2.3.3.1 雇用の現状」に示したように、アフガニスタンでは国家の建て直しと貧困削減のために

各セクターでの職業の創出及びにその職業を遂行できるだけの技術を持った人材の養成が焦眉の

課題であり、政府としても国民教育と並び、国民の技術力養成や職業訓練の重要性を認識してい

426 MoLSAMD (2007), World Bank, 同上. 427 この内9センターは日本の援助によって建設されたもの。詳細後述。 428 MoLSAMD (2007), World Bank 429 MoLSAMD(2007), World Bank. 430 World Bank, op. cit. p3ではこうした私的職業訓練機関を600と見積もっている。 431 World Bank, 同上., pp.2-3;MoLSAMD(2007), pp.6 432 World Bank, 同上., pp.3

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

191

るが、公的資金や行政のキャパシティ不足などのため、ごく小規模かつ非効率的な実施にとどま

ってきた433。現在のアフガニスタンにおける職業訓練の問題は、以下のようにまとめられる。

• 行政による職業訓練は、供給主導型で市場ニーズを迅速に取り入れるシステムがほとん

ど機能しておらず、さらには中央集権的な縦割り行政の中で、断片的かつ継続性・創造

性に欠けていた 434。

• NGOによる職業訓練については、プログラムがシステマティックでない、カリキュラム

が練り上げられていない、市場ニーズに対応しきれていない、継続的でない、規模が小

さすぎるなどの弱点をもっており、NGOの職業訓練を受けても必ずしも市場で「技術を

持っている」と評価されず、職を得ることに結びつかないという問題が指摘されている435(ただし、MoLSAMDや教育省による現行の訓練よりは市場ニーズにより近いという

指摘もある 436)。なお、多くのNGOが力を入れている女性の職業訓練(基礎教育を含む)

について、アド・ホックとなる傾向が強いという指摘もあるが、女性が家から出ること

すら容易でない社会文化的制約を勘案すれば、これでも進歩であるといえよう。

• 民間セクターにおけるトレーニングプログラムは、都市圏に住み、既にある程度の教育

があり、経済的にも余裕のある層しか、現実的にはアクセスできないという問題がある。

つまり、現行の民間セクターによる職業訓練プログラムは、国民全体の技能の底上げ、

また貧困削減という意味では直接的な効果が低い。

• いずれのセクターにおいても、需要主導型の職業訓練を実施するために不可欠な、市場

ニーズの把握という点で問題がある。統計的なデータはほとんど存在せず、また各アク

ターが充分なニーズ調査をせずに(またはキャパシティ・資金などの不足のためにできず

に)、供給主導型の職業訓練活動を行ってしまっているのが実態といえる 437。

2.3.3.3 政府の方針

ANDSでは、職業訓練分野について以下の活動を優先分野として位置づけている。

(1) 技術教育・職業訓練の質の向上

• 既存の徒弟制度を資格化し拡大して、訓練を受けて一定の基礎能力を得たものに対して

資格を付与する。

• 技術教育・職業訓練のキャパシティと質を向上させる。

• 職業訓練のシステムを改善して、市場で求められている技術トレーニングを提供できる

ようにし、マイクロ・クレジットに結びつけ、ビジネス開発サービス(Business Development

Services:BDS)を増加させる。

• 独立した国家職業教育トレーニング機関を設立し、職業訓練プログラム全体を運営・管

433 World Bank 434 MoLSAMD(2007), World Bank 435 MoLSAMD, 同上.; World Bank, 同上. 436 World Bank, 同上., pp.3. 437 World Bank, 同上.

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

192

理できるようにする。職業訓練は個別の訓練機関に委託する。

• 社会的に弱い立場にある女性や若者をターゲットとして、トレーニングを選定し、雇用

機会を提供する。

(2) 技術教育へのアクセスの向上

• 技術教育の学校、トレーニングセンターのネットワークを構築する。

• 34 州全体に、職業紹介所を配置する。

• NSDP により、15 万人の国民に対して、様々なトレーニング機関のサービスを競争入札

により実施する。

MoLSAMDを主管官庁とする国家的プログラムとして策定され2004年に開始されたのが、国家技

能開発プログラム(NSDP)である。これまでの公的職業訓練が、市場ニーズに合致した、効率的

で費用対効果のよいものになっていなかった、という認識に立ち、NSDPではMoLSAMDを中心と

して、以下の戦略を打ち出している。

(a) 基礎レベルは MoLSAMD 担当、中級レベルは教育省、高等技術レベルは高等教育省が、

それぞれ所管の技術訓練コース・施設を活用して職業訓練をすると共に、NGO や民間セ

クターにも競争入札で職業訓練を委託する。

(b) NSDP の元に国家職業訓練に関する 5 年計画を策定する。

(c) 法的・制度的整備を経て、公的・私的(NGO/プライベート・セクター)職業訓練機関・

コースの標準化、クオリティ・コントロール、許認可などを司る National Vocational

Education and Training Authority(NVETA)を設立する(なお、本構想は、世銀支援による

Afghanistan National Qualification Authority(ANQA)として、目下準備作業が行われている)。

(d) NSDP による労働市場調査を実施し、職業訓練を市場ニーズに合致した内容とする。

(e) 2010 年までに失業者/不完全雇用者 15 万人が職業訓練を受け、そのうち 35%は女性、5~

10%は障害者とする 438。

(f) 上述の諸活動を通じて、農業、諸産業、サービス、商業、建設の各セクターに技術力のあ

る人材を提供できるようにする。

NSDPによれば、2009年4月時点での進捗状況及び課題は以下のとおりである。

• 2009 年 4 月までで 25,000 人の訓練が終了しており、今後 1 年以内に 65,000 人の訓練が

終了する予定である。

• 15 万人の目標を達成するために、NSDPの目標年次を 2013 年に変更した。NSDPは現在 6

つのRegional Officeをもち、100 名の職員の体制が整えられたことから、キャパシティ的

には目標を達成することが可能。ただし、今後必要となる予算については、必ずしも確

438 この数値目標はANDS(p124)にも明記されている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

193

保されていない 439。

• NSDP は、コースの標準化(Standardization)、許認可(Accreditation)、資格化(Certification)、

トレーナーズトレーニング(TOT)の 4 本を柱としているが、TOT をシステマティック

に行う機関がなく教師が著しく不足していることから、外国人のトレーナーに過度に依

存しており、将来的な持続性が危ぶまれている。

• これまで 146の職業技術分野を特定し、うち 70分野において教材をそろえた。そのうち、

22 分野は女性にも参加できる内容である。

• 卒業生に対しては、技術に加えて、Essential Tool Kit、就職情報(Labor Market Officerを

配置)、BDS(Business Development Services)440を提供している。

• 普通教育の卒業生が就職に必要なスキルをもっていないことが問題であり、その数が毎

年 6~8 万人労働市場に送り出される。彼らに職業訓練を行わせるようなシステマティッ

クな対策が必要である。

2.3.3.4 ドナーの支援の概況

(1) JICA・日本政府441

「除隊兵士の社会復帰のための基礎訓練プロジェクト」/「基礎職業訓練プロジェクト」:第1ス

テージでは、2004年8月442と2005年7月の2回、溶接、板金、機械加工の三分野における職業訓練の

指導員訓練をカブールで実施。訓練生は全国から集められ、参加者は計68名であった(同指導員

の一部は第2ステージの講師にもなっている)。また、2004年から2006年5月までに除隊兵士を対

象とした7職種(木工、レンガ工、自動車運転、コンピューター、溶接、裁縫、電気配線)の職業

訓練コースを実施、554名が訓練を修了し、その87%が職を得た。また、日本大使館の草の根無償

資金協力により、カブール、マザリシャリフ、バーミヤン、クンドゥズ、ジョウズジャン、へラ

ート、ジャララバード、ガルデズ、カンダハルに職業訓練センター(VTC)を建設した。

第2ステージとしては、2006年5月から2009年4月を実施期間とし、実施機関はMoLSAMD内のプロ

ジェクト中央事務局(PCIU)とした。訓練対象を社会的弱者(帰還民、IDP、除隊兵士を含む若

年失業者など)に拡大443し、第1ステージで建設されたVTCを活用したMoLSAMD直営型の訓練実

施を支援することで、MoLSAMDの職業訓練運営管理能力の強化を図るとともに、基礎職業訓練

を実施した。具体的には、カブール、バーミヤン、マザリシャリフの3VTCでMolSAMD直営の5-6

ヶ月の職業訓練(溶接・板金、電気配線、コンピューター、裁縫、配管)、他のVTC444ではMoLSAMD

がNSDPの基金を利用してNGOに委託した職業訓練実施のモニタリング活動である。裁縫は、女

439 調査実施時点で、UNAMAが中心となって、職業訓練分野のドナー協調を行う動きがある。 440 GTZがMoLSAMDのセンター職員やトレーニングを受託するNGOや民間企業に対して、BDSのトレーニングを

行っている。 441 JICA(2007), MoLSAMD(2007). 442 9月の大統領選挙に伴う混乱のため一旦中断し、2005年3月に再開。 443 2006年6月のDDRプロセス終了により、除隊兵士のみを対象にしたプロジェクトから、より広く社会的弱者を

対象とする「復興」プロジェクトに移行。 444 ただし、カンダハルでは治安上の問題のため訓練は実施されなかった。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

194

性受講生のニーズに配慮したものである(2007年度における受講生の男女比は男:女=63:37)。

受講生については、UNHCR、ESC(ILOの項参照)、MoLSAMD地方支局などから紹介を受けた

候補者の中から選定した。修了生は、2008年4月までで、2,362名である。一部の職種では就職支

援活動が実施され、2008年4月末までの訓練修了生の就職率は73%となっている。2008年4月以降

は、MoLSAMDが主体となり、日本の無償資金協力の見返り資金(百万米ドル)を利用して本活

動を継続する予定である。

(2) 他ドナー

他ドナーの主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-49 職業訓練分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 世界銀行 職業訓練の認

可組織の設立、

職業訓練コー

スの改善、行政

能力強化

Afghanistan Skills Development Project(2008年3月~2013年2月)。 ・ NSDP を中心とする MoLSAMD と、教育省の技術・職業訓練局(Department of

Technical and Vocational Education Training:DTVET)を主なカウンターパートとし

て、全国の職業訓練行政・実施体制を強化するもの(20 百万米ドル)で、USAIDとノルウェー政府も資金協力している。主なコンポーネントは以下のとおり。

職業訓練の国家制度整備。独立した法的機関として各種職業訓練コースの適格

性・質・レベルなどを認定・認可するANQAの設立に向けた準備・法的整備な

ど。 教育省のDTVETが中心となった、(i)DTVET内部および管轄する訓練コース・

訓練施設の質的・物理的改善、人員のキャパシティ・ビルディング、システム

の効率性改善、及び(ii)新設職業訓練機関であるNational Institute of Management and Administrationの設立。(i)(ii)ともに、優先訓練セクターは経営管理、会計、

ICT、基本的工業技術、農業である。 農村部中心の職業訓練並びに市場との連携強化。 (i)若者、慢性的貧困層の女

性、土地無し農民、農業労働者などを対象とする、現地市場ニーズに基づいた

市場性のある農業関連の職業訓練の実施、(ii)職業訓練指導者の育成とカリキュ

ラム・教材の整備、(iii)行政担当者の市場ニーズや労働市場に関する調査能力

の育成、など。(i)(ii)に関しては、NSDP/MoLSAMD直営ではなく、能力のある

外部組織を選定し、これに委託して実施することとなっている445。 この他、(a)~(c)が円滑に実施されるようにするためのモニタリングや評価活

動、インパクトの調査などの活動。 ILO446 職業斡旋 Employment Service Center(ESC)

・ ESCはMoLSAMD傘下のプログラムであるが、ILOの支援(実施はドイツのNGOで

あるAGEF)によって2004年に設立された。いわゆる職業斡旋所であり、職業訓練

を希望する者に対して関連した情報提供を行っている。2008年現在、ESCはカブー

ル、へラート、ジャララバード、クンドゥズ、マザリシャリフ、ジョウズジャン、

ガルデズ、ガズニ、プリクムリ、カンダハルに開設されている(MoLSAMDとして

は援助資金が得られれば、ESCを全国34州全てに設置したいとしている) ・ 雇用主の希望と就職希望者の能力とのギャップが大きく、2005年には5,000以上の雇

用の募集に対し、就職者が決まったものは15~20%に過ぎなかったと報告されてい

るが、労働市場の未成熟なアフガニスタンにおいては、必ずしも悪いパフォーマン

スであるとは言えない。なお、雇用の募集の多くが教育を受けた労働者を想定して

いることから、「広く一般国民に」資するものとはなっていないのが現状である。

教育・技能をあまり必要としないタイプの雇用の募集については、そうした雇用主

(事業所)は、ESCのようなシステムをあまり信用していないという観察もされて

いる447)。

445 本コンポーネントについては、USAIDが自らのAlternative Livelihood Programなどで実施していくこととなり、

世銀のプロジェクトからは削除された。 446 MoLSAMD (2008), Strategic Plan 2008-2013 pp.3; Altai Consulting, pp. 61

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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IOM448 難民帰還促進 ・ IDPのための帰還促進プログラムの一環として、避難先から定住地に帰った人々に

対し、識字プログラムと職業訓練を実施 ・ また、ヨーロッパ諸国に避難していた難民の帰還促進プログラム(Assistance for

Voluntary Return Program:AVRA)のパッケージとして、(i)3ヶ月の職業訓練、(ii)職に就くための紹介状、(iii)小規模事業を始めるための初期費用(現物支給が原則)

のいずれかを選択できる(対象者からは、職業訓練よりも(iii)の事業のスタートア

ップ支援が好まれる傾向がある、とのことである)。同様の小規模事業開始のため

の初期費用提供と職業訓練パッケージが、除隊兵士に対しても実施されている。た

だし、これらのプログラムはいずれも小規模であり、受益者数は数百人から 大で

1,000人単位である。 UNDP449 除隊兵士社会

復帰 ・ 「 除 隊 兵 士 社 会 復 帰 支 援 プ ロ グ ラ ム ( Reintegration Support Program for

Ex-Combatants:RSPE)」の一環として、2007年から2008年にかけて、日本の援助

で設立された9ヶ所のVTCの補修改善事業を実施。治安上の問題がある地域でセン

ターの周囲に壁を造成、貯水タンクの設置や作業場の建て増しといった補修・改善

作業が行われ、VTCが訓練センターとしてより効果を発揮できるようになった。 UNHCR450 難民帰還促進 ・ 帰還難民を対象にしたサポートプログラムの一部として、キャッシュ・フォー・ワ

ークなどの賃労働や収入向上活動と共に、職業訓練を行っている。実施はパートナ

ーNGOが行う形が主で、内容的には牧畜業、カーペット織り、工芸品作り、大工仕

事、商業作物の栽培などがテーマとなっている。UNHCRの活動では、雇用の機会

の少ない農村部での実施に重点が置かれている。 USAID 民間職業訓練

機関設立 ・ 2007年9月から2010年2月までの予定で、Afghanistan Technical and Vocational Institute

(ATVI)451という新設(2007年設立)の民間職業訓練施設に300万米ドルを助成。

ATVIは建設、園芸、情報通信技術(ICT)、自動車整備の分野で、現在外国人技能

者にほぼ独占されている技能職をアフガニスタン人が担えるよう、高度な技術訓練

と英語教育を実施する。教育上の入学条件は高卒または職業訓練校卒以上。現在は

カブールのみでの活動だが、USAIDの資金の一部でカブール以外の州にもサテライ

ト施設を建設する予定

2.3.3.5 今後の課題

職業訓練は、ドナーからの資金支援を受けて、NSDPのフレームワークにおいて民間やNGOをト

レーナーとして利用しつつ活動が進められており、軌道に乗っていると言える。しかしながら、

職業訓練の需要と供給のギャップは未だ大きく、NSDPの仕組みも自立発展性を確保されるところ

までは来ていない。特に、NSDPでの取り組みが遅れている分野に以下のものがある。

(a) 職業訓練トレーナーの養成

NSDPにおいては、各職業訓練の実施ユニットであるVTCやNGO・民間企業が需要を把握した上

でサービスを提供することが義務づけられており、修了者の一定数は職に就いていることから、

現在の職業訓練の実施の仕組みそのものは正しいものと考えられる。しかしながら、国家の復興

期を脱して労働者が社会の多様なニーズに対応していくためには、職業訓練プログラムの質・量

の充実が求められる。必要となる技術の内容、レベルについては、ANQAの設立を通じて今後整

理され、教材もこれまでの蓄積を通じて整備されていくと考えられるものの、教師・トレーナー

の数が圧倒的に不足しており、現在も外国人トレーナーに相当程度頼っている。ドナーの個々の

プロジェクトにおいては、外国人トレーナーによる実践を通じてTOTが図られているが、国家レ

447 Altai Consulting, 同上. 448 Altai Consulting. 449 JICA(2007), UNDP Afghanistan (2007), Annual Project Report: Vocational Training Centre Upgrading Project, UNDP Afghanistan (2008), Vocational Training Centre Upgrading Project: Quarterly Project Report 450 Altai Consulting. 451 http://www.atvi.edu.af/ 2009年3月20日

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

196

ベルの取り組みになっておらず、トレーナーに関する需要と供給のギャップが非常に大きい。一

般学校教育においては、教師養成学校があるものの、技術教育・職業教育については同様のもの

が存在しないため、トレーナーをシステマティックに養成する機関(ANDSで位置づけられてい

る「国家職業教育トレーニング機関」)を設立・運営していく必要があると考えられる。

(b) 新しい分野における女性の職業訓練

現在、アフガニスタンでは、女性の経済的エンパワメントに向けたさまざまな支援事業が展開さ

れているが、援助機関やNGO、国家プログラムによる事業の多くが、カーペット・キリム、裁縫・

刺繍・養蜂・養鶏などであるが、持続的に女性の収入向上に結びついているものは非常に少なく、

関係者たちも行き詰まりを感じているのが現状である。例えば、裁縫でも、もともと国内市場が

非常に小さく、中国やパキスタン等からの安い服の大量流入があり価格を押し下げていること、

国民の購買力が低いこと、多くの女性が裁縫の技術をもっており大抵の服は自分で作れること、

などの理由から市場はすでに飽和状態であり、女性たちの実際の現金収入の向上にはほとんど結

びついていない。新しいデザイン、パターンづくりや 終仕上げ処理の向上など付加価値をつけ、

新たな市場を作れるような裁縫コースでなければ、女性の時間と労力を使うばかりで直接的な現

金収入の効果は上がらない。NSDPでは、職業訓練用の教材をそろえた70分野のうち、22分野は女

性にも参加できる内容であることが報告されている。女性を社会的弱者として単に保護する対象

としてみなすのではなく、女性の労働力を開発の過程に欠かせない重要な力として見直し、新し

い分野の職業への女性の参加も促進していくなど、女性の職業訓練や収入向上の多様化を視野に

おいた支援も重要である。

2.3.4 民間セクター、地場産業

2.3.4.1 民間セクターの現状

アフガニスタンにおける民間セクターは、ADBの推計452によれば国内総生産の89%、総消費の92%

を占めているものの、長い紛争の歴史及び極度に悪い治安状況のため、民間投資はほとんど行わ

れず、国内資本形成の6%しか占めていない。中長期の投資を行いにくい環境に加えて、銀行は数

少ない大規模企業や国際的企業・組織にのみ融資を行っており、輸出入手続きも問題が多く取引

費用が高いことから、企業はフォーマル化するインセンティブに欠けており、民間セクターのほ

とんどはインフォーマル・セクターとなっている。民間企業活動に関する統計はアフガニスタン

には存在しないが、2006/2007年度に法人税を支払った企業(輸出入や政府調達に参加できるビジ

ネスライセンスを所有する企業)がカブール州全域で400社程度しかなかったことから453、フォー

マルな企業活動が著しく限られていることが推測できる454。

452 ADB (2005) Technical Assistance Report, Preparing the Financial Market and Private Sector Development Program. 453 JICA (2007) アフガニスタン国国家開発戦略支援プロジェクト形成調査 454 小売業といった小規模ビジネスは、所得税法77条4項にある「現在の在庫の6%」をFixed Taxとして毎年支払っ

ているが、その数に関する統計はない。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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国営企業セクターには、USAID SOE Economic Restructuring and Corporatization Programの対象とし

て、6つの銀行、1つの保険会社、及び71の農業・工業・商業(非金融)分野の企業が78社あって455、

民間企業の市場への参入を阻んでいることから、アフガニスタン政府はUSAIDの支援のもと、国

営企業の独占を廃止して、民間企業とのパートナーを組む、ないしは清算する、といったプログ

ラムを開始している。

アフガニスタンで民間企業振興を担当し、ビジネスライセンスを発行しているのは商業省および

投資促進庁(Afghan Investment Support Agency:AISA)である。商業省は、フォーマルな経済活

動の促進、国内外の投資促進、競争力を強化し新規分野への参入する企業への支援、を目指して

いる456。

アフガニスタンの民間セクターの制約要因の中で大きなものには、治安の悪化、不安定な電力、

輸出入の手続きの問題が挙げられるが、これらを解決する手段として工業団地が世界銀行、USAID

といったドナーの支援の対象となっている457。USAIDの支援のもと、AISAはバルフ州マザリシャ

リフ郊外のGrimarの25,000m2の土地に9メガワットの自家発電設備、水道施設、汚水処理施設、道

路等のインフラを含む工業団地を建設しているところである。40社分の区画があり、すべて入居

企業は決定されている。入居する企業の80%はマザリシャリフ市内から移転してくるものである。

入居する企業は、食品加工(ソフトドリンク、ビスケット、ドライフルーツ、野菜の缶詰、乳製

品)、建設機材、カーペット紡績等であり、イランとのJVの1社の除き、すべての企業はアフガニ

スタン人100%出資の会社である。

また、ナンガハル州のHesaryshahiにおいて世銀の支援(25百万米ドル)により工業団地(200ヘク

タール)が建設されており、土地の分譲を開始されている。既に350社(99%はアフガニスタン100%

の企業、1%はJVか外国企業)が入居に対する関心を表明している。食品加工が も多く、トマト

ペースト、フルーツ加工(ジュース等)、小麦製粉、サラダ油、綿糸・綿織物、プラスティック

製品、乳製品、大理石、宝石加工、カーペットのカット&洗浄、砂糖工場などがある。現在6MW

の水力電力があるが、これを10百万米ドルの資金により2倍にして(短期的に)電力供給を賄う予

定であり、長期的には、海外からの送電網につなげていくことを考えている。

AISAによれば、産業振興に対するボトルネックとして、(i) 政府がビジネスを理解しておらず、

関税・貿易・租税の問題や、汚職の問題がビジネスの成長を制約している、(ii) アフガニスタン

の企業家が西欧的なマネジメントのメンタリティ・能力をもっておらず、銀行の融資も受けられ

ない(土地が所有権・登記書の問題で、担保に使えない問題もある)、(iii) 機械を操作する技術

者が不足している(トレーニングする機関がない)、という問題がある、とのことである458。

455 USAIDのSOE Economic Restructuring and Corporatization Programの対象となっている71の国営企業のほかにも、

アリアナ航空といった国営企業があり、また、省や地方自治体が所有する企業も他に多くあるとのことである

(ADB)。 456 http://www.commerce.gov.af/Psdd.gov.af/privatesectordevstrategy.asp 2009年3月10日 457 ADBのAsian Development Outlook 2008によれば、ADBもアフガニスタンの工業団地に対する追加の投資を行う

ことを検討している。 458 JICA 農業経済活性化プロジェクト形成調査によるインタビュー結果(2008年2月)による。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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上述のように、アフガニスタンの民間セクターの活動に関する統計及び情報は極めて限られてい

るが、雇用創出効果の高い地場産業として、カーペットと手工芸品の生産及び流通の状況につい

て以下に記す。

2.3.4.2 カーペットの生産及び流通

アフガニスタンにおいて、カーペットはその多様な文化を反映した伝統的な産物として受け継が

れ、古くから重要な輸出品目であった。アフガニスタンで生産される手織カーペットには、キリ

ムの名で親しまれている綴織や、毛足があり起毛した状態の織り方であるパイル織、羊毛の天然

色を生かして文様を配置し、繊維をそのまま圧縮させたフェルトなどがある。カーペットの生産

は、特にアフガニスタン北部で盛んであり、国内のカーペットの約70%が生産されている。年間

で200万枚のカーペットが輸出されており、輸出総額は140百万米ドル程度と推計されている。現

在、アフガニスタンで生産されるカーペットのほとんどは、パキスタンに不法輸出されて 終的

な仕上げ(洗浄及び刈り込み)がなされ、パキスタン産として輸出されている。アフガニスタン

国産としてのブランドを確立し、国内でより多くの付加価値を得るためには、多くの課題があげ

られる。カーペットの生産には幾つもの工程があり、100万人以上の人々がなんらかの形でカーペ

ット産業に関わっていると推測されている。そのため、アフガニスタン国内でのカーペット産業

の活性化は、国民の所得の向上、雇用の拡大につながると期待される。

カーペット生産のための国内産の羊毛は質量ともに不足している。下図のとおり、現在国内で製

産されるカーペットのうち、アフガニスタン産の羊毛が使われている割合は三分の一程度にとど

まっている。主に中東から輸入しているが、ベルギー産の羊毛は質が高いとされている。

サウジアラビア37%

パキスタン9%

イラク8%

イラン8%

ベルギー5%

ニュージーランド1%

アフガニスタン32%

図 2-39 アフガニスタン産カーペットの羊毛の輸入先

出所: MRRD/NABDP Central Highlands (Bamyan) Sub Sector Analysis

アフガニスタン産の羊毛はいくつか種類があるが、ガズニ産のカラクル羊の毛が も品質が高い

とされている。戦乱や旱魃の影響で、現時点における羊毛の国内生産量が低いことから、国内で

の羊毛生産量を増やすことは大きな課題である。獣医サービスへのアクセス、飼料の改善などの

対策が望まれる。

毛を刈る作業は、通常家畜主が行う。専用のナイフを使用するが、均等に刈るのが難しく時間が

かかる作業である。作業中に羊の皮膚を傷つけてしまうことも多く、傷口からの感染病も懸念さ

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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れるため、よりよい鋏の導入といった技術の向上が課題とされる。また、予防接種を含めた適切

な獣医サービスは、良質の毛の生産につながる。刈られた毛は、仲買業者によって卸売市場へと

運送されるか、家畜主自身が直接卸売市場へ出向いて売る。羊毛を生産する家畜主は散らばって

おり、集荷体制が確立されていないことから、ある程度の量の羊毛を集荷するのは、コストが高

くなってしまっている。村内で、刈られた毛を収蔵するスペースも限られており、都市へと輸送

する手段もほとんどない。家畜主は、特に処理を施していない状態で売り渡すが、羊毛の選別、

分類作業を、家畜主で行うことにより、より高値で売ることが可能となる。

羊から刈り取った原毛は水で洗われ、梳かされた毛を紡ぐ作業が必要となる。アフガニスタン国

内では、手で紡ぐのが一般的で、通常は自宅で行われ、主に女性の仕事とされる。手で紡がれた

毛糸は、羊毛の繊維の長さが生かされており、機械で紡いだものよりも丈夫で光沢のあるものに

仕上がる。また、染料の吸収率が高く、彩度に多様性を産み出し、織るうえで、適切な密度、強

度を生み出す。

羊毛の仲介人は、市場で購入した羊毛を、人々(主に女性)に分配して、羊毛を洗う、梳かす、

紡ぐ作業を委託し、回収する。地方の村から羊毛の買い付けに市場へ来て、自分の村の女性に分

配して紡がせ、それらを仲買業者へと売る場合もある。女性個人が、洗いの終わった羊毛を直接

業者から買い(輸入品ないしは国内産)、毛を梳かし、紡ぐ作業を行う場合もある。紡いだ糸1kg

につき、0.50~0.85 米ドルが支払われる。通常、女性は家事などの合間に作業を行うため、一日

に1~2時間をさいて、一ヶ月で約3~4kgを紡ぐ。アフガニスタン産の羊毛は、一般に国内で紡が

れる。しかし、輸入されている紡ぎ糸の多くは、羊毛の生産地は異なるものの、モンゴル、中国、

インド、パキスタン、イランなどにおいて機械で紡がれたものである。

染料には、天然染料か合成染料の二種類がある。天然染料は、主に野菜から作られており、羊毛

の吸着性によって繊維の内部にまで染料が吸収されるために比較的褪色し難いうえに、落ち着い

た色合いに染め上がる。一方で、合成染料は、天然染料とは異なり栽培や加工の手間が省け、低

廉で使いやすい。また、天然染料からは得られない鮮やかな色を出すことができる。アフガニス

タン国内では、紡いだ糸を染める作業は、織り手の家族などによって手作業で行われる。しかし、

国内において、染料および染色を行う設備が不足しており、紡いだ糸をいったんパキスタンに輸

送して、染色する場合も多い。一方で、機械で紡がれ工場で染色された糸を輸入する場合もある。

工場で大量生産された糸は、手作業で生産されるものよりも品質は低いが、種類の多様化にもつ

ながるため、手作業での伝統も保ちつつ、工房や工場での機械生産を導入することも、産業の活

性化につながると考えられる。

カーペット生産の工程の中で、アフガニスタン国内で重点的に行われているのは、織る作業であ

る。通常、カーペット業者が個々の織り手と契約し作業を委託する。織り手のほとんどは女性で、

社会文化的に、アフガニスタンの多くの地域では、女性が工場など外に出て働くことが許されて

いない、もしくは推奨されていないことから、アフガニスタンで織られる95%のカーペットは、

家内作業として在宅で織られている。織る技術は一般的に、家族の中で年配の女性が若い世代に

教えていくという形で伝えられる。パキスタンの難民キャンプで収入を得る手段としてカーペッ

ト織りに携わっていた人々の多くが、2001年以降アフガニスタンへと徐々に戻ってきており、国

内の織り手の数は増えている。国内で羊毛を購入する場所は非常に限られており、織り手個人で

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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ペシャワールまで買い付けにいくことは不可能なため、カーペット業者と契約している。通常、

織るペースは、1m2につき1ヶ月で、一枚のカーペットは6~9ヶ月かけて織られる。通常カーペッ

ト業者が個々の織り手に作業を委託する。 も一般的な委託の形態は、カーペット業者が、織る

のに必要な投入の全て(織機、パターン、糸)を織り手に支給し、織り賃を支払う。カーペット

業者から支給される投入の内容によって、1m2あたり30~80 米ドルが織り手に対して支払われ

る。織り手が、個人所有の織機を使い、また自らパターン(柄)を用意して糸を購入し、 終的

に織りあがったものを業者に売る場合もあり、その場合は織り手の取り分が多くなる。

地域によってカーペットの色やデザインは異なるが、パターンもパキスタンなどから輸入された

ものが多い。アフガニスタンの手織りカーペットとしての付加価値を高めていくためには、特有

のデザインの普及を推奨していく必要がある。一方で、国際市場の消費者のスタイル、色、デザ

インの好みを知る必要があるが、現在のところ、織り手がそういった情報を得るルートは皆無に

近い。

カーペットの 終工程では洗浄作業があり、その後、強い太陽と乾燥した空気の下で自然乾燥さ

せ、乾燥させたカーペットの表面をティーグという刃物で刈り込む。アフガニスタン国内でこれ

らの作業を行える施設は非常に限られている。また、洗浄用の薬品について安価で良質のものを

入手することが困難なこと、水・電力が不足していること、冬の気温が低すぎて工場立地に適切

な地域が限られている(冬はジャララバード州など、東部地域のみ可能)など、課題が多い。そ

のため、アフガニスタンで織られたカーペットの60~80%は、洗浄・刈り込みのためペシャワー

ルへ送られ、パキスタン産として売られ、アフガニスタン産としての銘柄を失う。現在、アフガ

ニスタン国内では、バルフ州で小規模の工場がいくつか稼動しているのみで、今後本格的な投資

が行なわれるためには、ある程度の広さの土地、水・電力の確保、排水・汚水処理の整備など、

諸条件を一つ一つ満たしていく必要がある459。また、洗浄に必要とされる化学薬品を安定的に輸

入する必要もある。刈り込み、洗浄過程での熟練者が不足しているが、パキスタンで働いている

アフガニスタン人の職人が戻ってくることも考えられる。

カーペットを売買する業者は、カーペット産業が集中している北部、西部、そしてカブールに集

中しており、ほとんどが男性である。バルフ州マザリシャリフは、カーペットの売買の中心拠点

となっており、国内で生産されるカーペットの60~80%はマザリシャリフ経由で、パキスタンへ

とトラックで輸送される。マザリシャリフからは貨物飛行機はなく、カブールからの空輸は高く

つくため基本的に敬遠されている。パキスタンで 終仕上げを終えたカーペットは、アメリカや

ドイツを始めとするEU諸国へとパキスタン産として輸出される。このように、(i)洗浄・刈り込み

の必要性、(ii) 終市場への販路の確保、及び(iii)輸送費の優位性から、アフガニスタンのカーペ

ット市場は、パキスタン業者によって独占されている。パキスタン経由以外での取引のリンケー

ジの確立は、アフガニスタンにおける今後のカーペット産業の発展にとって極めて重要であると

考えられる。

459 USAIDのASMEDプログラムのグラント及びARFCの融資を利用して、糸の染色およびカーペットの洗浄・刈り

込みができる工場が、ジャララバードのShiekh Mistri(250ha)というカーペット専用の工場団地に設立される

動きがある。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

201

2.3.4.3 手工芸品の生産及び流通

アフガニスタンにおける手工芸品としては、既に述べたカーペットのほかに、北部地域、特にク

ンドゥズ州における、伝統的な服に刺繍を施したものや、ブラックと呼ばれるバーミヤンの皮製

品などが多く売られており、その他、財布や手袋といった小物がある。地方部では一般に縫製技

術が不十分であることから、刺繍された布やなめし皮が一旦カブールに輸送され、カブール市内

で縫製されて販売されるのが、一般的である。

流通ルートとしては、手工芸品の売買の仲介を行う仲買人はほとんどおらず、都市の販売店が地

方まで買い付けに行くか、地方の生産者が都市まで自らもってくるのが、一般的となっている。

刺繍の材料については、パキスタンなどからの輸入品を使うのがほとんどである。輸出のルート

をもっている販売店はごく限られており、ほとんどは、アフガニスタン人や国内の外国人を主た

る顧客としている。これらの手工芸品の販売上の限界は、国内の消費者にとっては高価な商品で

ある一方、国際市場での品質・価格競争力は低い、というものである。

アフガニスタンにおける手工芸が発展する上での鍵は、海外の市場への直接のルートをもつこと

により、外国人の嗜好を把握し、需要をかきたてる魅力ある商品の開発をすることである。実際

にこれを実現しつつあるカブールの企業について、以下の囲み記事に記す。

囲み記事 2-16 カブールにおける手工芸品輸出企業Zardozi社

Zardoziは、2005年にNGOダカールから独立して事業を実施した会社である。刺繍を扱う理由は、刺繍

は女性のみが行う作業であること、そして、刺繍で得られた収入は、その収入を得た女性が使途を決

めることができることによる。

女性、特に土地なし難民などの貧困層を主に支援している。Woman Agentをコミュニティの中から選

び、トレーニングを施して、縫い子に対する作業の指導・品質管理を行わせている。女性たちへの刺

繍研修は約4~6ヶ月であり、研修開始後後約10-15%の女性が1~2ヶ月の間に技術を習得し、時間が進

むにつれて習得者数が増えていく。技術を習得するまでの間は、補助が与えられ、習得後はZardoziの正式な縫い子として仕事を請け負うことになる。

刺繍作業は各家庭内で女性たちによって行われる。縫製以降の作業については、家での作業は埃など

で商品を汚してしまうことになるため、センターにおいて、刺繍終了後の布の洗浄、染め、カラーテ

スト、加工などの 終工程が行われる。センターには男性・女性スタッフがおり、女性は自宅から通

勤をしている。現在センターはペシャワールにあるが、今後ジャララバード、バーミヤンにも建設し

たいと考えている。

原材料はパキスタンから輸入しているが、治安の関係上、定期的な原材料調達が難しい事態も発生す

る。よって、アフガン原材料の調達も検討中であるが、アフガニスタン国内に良質な材料を供給でき

る業者を見つけることが困難である。

成功の鍵は消費者が望むデザインを商品に反映することである。カブールでのショップでの販売が売

上の中心で、売上高は年間約300千米ドル。米国、英国、日本、オランダに輸出もしている。現在1,000名の縫い子がいるが、 近、海外からの引き合いが急増していることから、3,000名に増加させたいと

思っている。しかしながら、縫い子の数を増やすためのファンドがないことから少しずつしか生産を

増やすことができず、せっかくの輸出機会・雇用機会が失われている。この部分についてドナーの支

援が得られると助かると考えている。

2.3.4.4 政府の方針

アフガニスタン・コンパクトでは、民間セクター振興に関して以下の目標が設定されている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

202

• 投資に関する法規制や手続きが 2006 年末までに簡素化・整合された上で 2008 年春まで

に実施される。

• 新しい企業法が 2006 年末までに整備され、2010 年春までに政府は国営企業を民営化・

独立採算化する。

• 通過交通に関する国境管理の合意や条約を締結することにより、アフガニスタンを通過

する輸送の時間を削減する。

• 二国間電力取引により、国内の電力供給を安定化させる。

• 周辺国と合意して、周辺国の熟練労働者にアフガニスタン国内での労働に許可を与える

とともに、アフガン人が周辺国に出稼ぎに行って本国送金できるようにする。

• 貿易と金融システムを自由化し、決まった規則が適用され、予測可能となり、差別が生

じないようにする。

• 民間セクターと協力して、情報・通信といった技術が導入されるようにする。

以上の目標を踏まえ、ANDSでは、民間セクター振興戦略として、以下の事項を実施するとして

いる。

• マクロ経済の安定化と、金融・取引の制度整備

• 民間投資促進のための環境整備、貿易の促進と通関行政の合理化

• 商法、訴訟手続き、行政手続きの改善

• 国営企業の民営化、独立採算化

• 職業訓練などを通じた、民間セクターのフォーマル化の促進

• 民間セクターの金融アクセスの向上

• 企業への技術支援による輸出促進

• 投資機会に関する情報提供

• 民間企業による天然資源開発に関する法的手続きの整備

• 道路・橋梁といったインフラへの投資に対する Public – Private Partnership の推進

• 民間による保健・教育等サービスへの参入の促進

2.3.4.5 今後の課題

アフガニスタンの民間セクターのほとんどはインフォーマル・セクターに属している。通常、企

業は、輸出が可能となる、融資が受けられる、政府の調達に参加できるといった利点を見込んで

フォーマル化するものであるが、現在のアフガニスタンの治安状況や、政府の汚職体質、金融セ

クターの未発達の状況下では、企業がフォーマル化するインセンティブはほとんどない。特に、

道路輸送において数多くのチェックポイントにおいて金銭が求められたり、輸出入の手続きが不

明瞭で手続きに長時間かかったりすることにより、ビジネスの予測が困難になることは、投資意

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

203

欲をそぎ、民間セクターの振興にとって大きな制約要因となる。また、ドナー、国際NGOや政府

(ドナーによって給与補填がなされている)が優秀なアフガン人に対して高い給与を出している

ことにより、本来民間セクターで活躍するべき人材がこれらの機関に流れてしまうことも、民間

セクターの成長を抑制していると考えられる。この点については、時間が経って人材の需給状態

が変化して、能力の高い人材の給与が民間セクターでも払いうるレベルにまで下がってくるのを

待つしかないと考えられる。

民間セクターを発展させるためには、民間セクターの発展を阻害しないための環境整備が必要で

ある。道路、電力、水道といった基礎インフラの整備や、世銀やUSAIDが行っているような工業

団地の造成に加えて、周辺国との貿易を促進するための貿易・関税協定の締結、物流を阻害しな

いための施設整備(国境の税関施設、保税倉庫等)や行政機能の改善(警察や税関職員の能力向

上、汚職対策)が必要である。

2.3.5 水資源

2.3.5.1 水資源の概況

アフガニスタンは山岳地帯にあることから、地域によって降雨量が大きく異なる。大雑把に言っ

て、南部および南東部は乾燥地域で、残りは半乾燥地域となっている。標高5,000mを超えるヒン

ドゥー・クシ山脈及びパミール高原は、やや湿潤で年間を通じて雪に覆われている。表 2-50は気

象観測所のある18州における12年間の年平均降雨量及び気温を示したものであるが、国土の約半

分は年間100mm~300mmの降雨があり、残りの半分(標高2,000m以上)には年間300mm~800mm

の降水があるが、そのうち半分以上は、冬の雪である。

表 2-50 主要都市の標高及び降水量・気温

地名 標高(m) 降水量 (mm/年) 気温(℃) Shiberghan 360 214 -2 - +38 Mazar-i-Sharif 378 190 -2 - +39 Kunduz 433 349 -2 - +39 Baghlan 510 271 -2 - +37 Jalalabad 580 171 +3 - +41 Farah 660 77 0 - +42 Lashkargah 780 89 0 - +42 Maimana 815 372 -2 - +35 Herat 964 241 -3 - +36 Quandahar 1,010 158 0 - +40 Khost 1,146 448 -1 - +35 Faizabad 1,200 521 -5 - +35 Qadis 1,280 323 -3 - +30 Jabul-Saraj 1,630 499 0 - +31 Kabul 1,791 303 -7 - +32 Karizimir 1,905 433 -7 - +31 Ghalmin 2,070 222 -8 - +29 Ghazni 1,283 292 -11 - +31 Lal-Sarjangal 2,800 282 -21 - +25

出所: Water Resources Management in Afghanistan, The Issues and Options

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

204

以上のように、アフガニスタンにおける降水量は著しく限られているが、一人当たりの表流水の

量は2,480 m3/年であり、これはイランの表流水(1,430 m3/人/年)よりも多くなっている460。アフ

ガニスタンにおける降雨量の80%は標高2,000 m以上の山岳地域に雪として降り、その量は1,500億

m3に及ぶ。残りの20%(300億m3)を占める標高2,000 m以下での降雨及び山岳地域の雪解け水の

うち、47%にあたる840億m3は国の外に流れていく。

旧潅漑・水資源・エネルギー省は、総合的な河川流域管理を目的として、アムダリヤ川流域、北

部流域、ハリルド・ムルガブ流域、ヘルマンド川流域及びカブール川流域の5つに分割している。

河川流域の面積及び流量の割合を以下に示す。

表 2-51 河川流域の面積及び流量の割合

流域名 流域面積の割合 流量の割合 河川名 アムダリヤ 14% 57% Amu Darya, Panj, Wakhan, Kunduz, Kokcha カブール 11% 26% Kabul, Konar, Panjshir, Ghorband, Alinigar, Logar ヘルマンド 41% 11% Helmand, Afghandab, Tarnak, Ghazni, Farah, Khash ハリルド・ムルガブ 12% 4% Hari Rod, Murghab, Koshk 北部 11% 2% Balkh, Sar-i-Pul, Khulm 非流域 10% 合計 100% 100%

出所: Favre and Kama, Watershed Atlas of Afghanistan

アムダリヤ川(2,400km、「ダリヤ」はダリー語で川を意味する)は北部の平野部を流れ、パミー

ル・ノット河を源とする支流が注ぐ、船が航行できる河である。かつてはアラル海に流れ込んで

いたが、ソビエト政権下における過剰な潅漑のために、 近では下流へ行くと乾燥してしまって

いることがある。

カブール川(700km)は、インダス川の主要な支流であるが、首都を横切り、東の国境を越えて

パキスタンに流れていく。国境のアフガニスタン側でのダム建設を前に、パキスタンにカブール

川の水量の一定割合を保証する河川条約が、現在起案されている。首都カブールの住人は地下水

とカブール川に水を依存している。

ヘルマンド川(1,150km)はヒンドゥークシュ山脈の河川が流れ込む河であり、南へ、そして南東

方向イランに流れていく。全国の流域面積の41%を占め、広範囲にわたり農業に使われている。

イランとアフガニスタンの両国とも潅漑のためにこの川を非常に必要としていることから、現在

水を分け合うための条約を見直している461。

アフガニスタン北西部には、ハリルド川があり、密集した耕作で歴史的に有名である、肥沃なヘ

ラート谷を潅漑している。

全流域面積の14%を占めるアムダリヤ川流域は、アフガニスタン全流量の57%を占めており、カ

ブール川流域もアムダリヤ川流域の半分程度であるが、比較的流量は多い。一方で、41%の流域

面積をもつヘルマンド川流域は、全流量の11%しか占めておらず、北部流域、ハリルド・ムルガ

460. Watershed Atlas of Afghanistan- First Edition- Working Document for Planners, Ministry of Irrigation, Water Resources and Environment (MIWRE), Kabul, pp.183 461 ヘルマンド川のイランとの係争については歴史的な経緯については「1.1.1.2 国境線の問題」を参照。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

205

ブ流域も同様に著しく流量が少ない。つまり、国土面積の30%程度を占める東側の2つの流域に、

国土全体の80%程度の流量が集中していることになる。しなしながら、流量の多いアムダリヤ川

流域は急峻なヒンドゥークシュ山脈に位置しており、潅漑農業の適地は少ない。表 2-51に示すよ

うに、河川流量や地形の問題により、潅漑地は国土全体の2%のみであり、7%で天水農業が行わ

れており、45%が放牧地となっている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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図 2-40 アフガニスタンの流域

出所: FAO

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

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表 2-52 河川流域の人口及び土地区分

流域名 年間流量 (百万 m3)

人口 (人)

人口密度

(人/ km2)潅漑面積

(km2) 天水農業面積

(km2) 放牧地面積

(km2) アムダリヤ 48,120 2,968,122 33 3,540 13,156 56,643 カブール 21,650 1,722,275 22 1,725 9,371 52,481 ヘルマンド 9,300 5,881,571 22 4,758 2,344 113,258 ハリルド・ムルガブ 3,060 7,184,974 93 3,060 1,554 37,152 北部 1,880 2,783,033 39 2,378 18,747 32,148 非流域 - 151,629 2 138 0 131 合計 84,010 20,691,604 211 15,599 45,172 291,813 全国土に対する割合 2.4% 7.0% 45.2%

出所: FAO

近年の推計によれば、アフガニスタンには年間750億m3の利用可能な水資源があり、うち、570億

m3は表流水、180億m3は地下水となっている462。潅漑水として利用されているのは年間200億m3

であり、これは利用している水資源の99%を占めている。

表 2-53 水資源の年間利用可能量及び利用量

水資源 利用可能量 現行の利用量 利用している割合 表流水 570億m3 170億m3 30% 地下水 180億m3 30億m3 17% 合計 750億m3 200億m3 27%

出所: Water Resources Management in Afghanistan, The Issues and Options

上記のように、アフガニスタンにはいまだ利用されていない水資源が多くあるものの、持続的に

利用できる水資源が実際にはどの程度であるのかは、知られていない。国内の河川の流水量のデ

ータが不備であることから、それぞれの河川で潅漑に利用できる水量に関するデータもない。

2.3.5.2 潅漑の現状

アフガニスタンの潅漑システムは、河川、湧水、カレーズ(重力を利用した伝統的な地下水潅漑

システム)及び井戸の4種類あるが、河川による潅漑が全体の潅漑面積(約3百万ヘクタール)の

86%を占めている。それぞれの潅漑システムの数と潅漑面積は以下に示すとおり。

表 2-54 アフガニスタンの潅漑システムの数と潅漑面積463 河川 湧水 カレーズ 井戸 合計 潅漑システムの数 7,822 5,558 6,741 8,595 28,716 潅漑面積(ha) 2,348,000 187,000 168,000 12,000 2,715,000 潅漑面積の割合 86% 7% 6% <1% 100%

出所: Favre and Kama, Watershed Atlas of Afghanistan

国内の潅漑水のうち14%程度は、カレーズ、湧水及び浅井戸といった、地下水を利用したシステ

ムとなっているが、カレーズの60~70%は使えなくなっており、浅井戸の85%は枯れてしまった、

462 Asad Sarwar Qureshi, (2002) Water Resources Management in Afghanistan, The Issues and Options, International water Management Institute Workking Paper pp.49,。ただし、An Overview of Groundwater Resources and Challenges, FAOによ

れば、地下水の利用可能量は106億m3となっている。 463 これらは15年前の推計値であり、現在のデータは存在しない。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

208

という報告がある464。その理由として、近年の降水不足による地下水の涵養の不足があり、加え

てカレーズや浅井戸の近くに深井戸が掘削されたこともある。都市地域における浅井戸も地下水

面の低下に伴って、使えなくなるものが増加している。

潅漑面積のうち約90%は、農村コミュニティによって開発、管理されてきた伝統的な潅漑システ

ムであり、全国でこうしたシステムは29,000あると言われている465。次頁の図に示すように、潅

漑システムは国土の中央部と北部の山岳地帯に多く見られ、クンドゥズ州とバルフ州では、それ

ぞれ合計20万ヘクタール以上の潅漑地がある。一つの潅漑システムは、100ヘクタール程度から

10,000ヘクタール程度の地域をカバーしており、平均面積は260ヘクタールとなっている466。これ

らのシステムの全般的管理は、wakil(ヘラート州)、mirab bashi(クンドゥズ州、バルフ州)と

呼ばれる、土地持ちで潅漑システムの管理の経験があるコミュニティ・リーダーが行っている。

その下で、一次水路や二次水路については、mirab(ヘラート州)、chak bashi(クンドゥズ州、バ

ルフ州)と呼ばれる、潅漑施設の維持管理のノウハウをもち、地域でも信頼されている小作農家

が、適宜水管理委員会の支援を受けつつ、管理を行っている。これらの潅漑システムは自立的に

行われており、政府の関与は、緊急的なリハビリ、紛争解決、水利権の登録(ヘラートのみ)に

限られている(囲み記事参照)。

囲み記事 2-17 アフガニスタンのコミュニティによる潅漑の管理システムの特徴

• 地域によって若干の違いがあるものの、水管理責任者の役割は主水路の維持・管理であり、農地へ

の水の配分については、シュラの長やコミュニティ・リーダーが主としてその役割を担っている。

• 潅漑施設の維持管理に対するコミュニティの団結力、運営能力は一般に十分に高く、必要な毎年の

水路の再掘削のための自律的な労働・資金の提供が行われている。

• イスラム法では水の売買は禁じられているが、権利を有するものの使っていない水の売買などが実

際には行われているところもあり、盗水なども発生している(盗水が発見された場合は厳しく罰せ

られる)。

• 水の権利にかかる紛争は、コミュニティ内で解決されるのが常である。郡政府などに仲介を依頼す

ると役人が買収される怖れがあるため、信用していない。

• 水管理責任者は、水利用者から報酬を受け取っているため、コミュニティに対するAccountabilityが高く、パフォーマンスが悪い場合は他のものに取り替えられる。

• 水管理責任者への報酬の支払は、現金の場合と現物(小麦)の場合とがある。報酬金額は、収穫に

関わらず固定している場合と、収穫に応じて適宜変わる場合とがある。

出所: The Performance of Community Water Management System, Jonethan L. Lee, AREU, 2007年5月より抜粋

464 Water Resources Management in Afghanistan, The Issues and Options. 465 Bob Rout (2008), How the Water Flows: A Typology of Irrigation Systems in Afghanistan, AREU。Favre and Kama (2004) Watershed Atlas of Afghanistan, Ministry of Irrigation, Water Resources and Environment 466 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

209

図 2-41 アフガニスタンの潅漑地

出所: http://www.aims.org.af/ssroots.aspx?seckeyt=295

図 2-42 アフガニスタンの州別潅漑面積

出所: Anderson, “Rehabilitation of Informal Irrigation Systems in Afghanistan”

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

210

潅漑面積の残りの10%は、外国のドナーの支援によって過去50年間に渡って作られた近代的なシ

ステムである。例えば、ジャララバード近郊にあるNangahar Valley Development Authority(NVDA)

は、旧ソビエト連邦の支援によって作られた集団農場のシステムであり、現在はMAILによって管

理されている。70kmの主水路をもち、4つの地域で合計25,000ヘクタールに渡って、一般の農家及

び国営農場に潅漑用水を供給しているが、全般にわたって改修、改善が必要な状況にある467。

上記の潅漑システムの現在の状況についてのデータは存在しないが、長年にわたる戦争によって

破壊され、コミュニティが疲弊することにより、FAOの推計によれば、潅漑システム・面積の半

分程度は、改修を必要とする状況にあるとのことである468。

2.3.5.3 給水の現状

アフガニスタンの給水に関しては、地下水を主体として1970年~1980年代より都市部はパイプに

よる給水、地方部集落はハンドポンプによる給水事業が行われ、アフガニスタンに住む人々にと

って重要な水源となっている。しかしながら、長引く内戦やタリバーン政権時代における破壊行

為により、給水事情は悪化の一途をたどり、1998年のUNICEFの調査によると、アフガニスタンで

安全な水にアクセスできている人口割合は、都市部で43%、地方部で18%、全国で23%と推定さ

れている469。地方部では、運のよいケースでは湧水やカレーズといった地下水を利用できる場合

があるが、そうでない場合は、潅漑用水を飲用に利用せざるを得ず、健康に対して極めて大きな

影響を及ぼしている。

カブール市においては、都市開発省の傘下にあるAfghanistan Urban Water Supply and Sewerage

Corporation(AUWSSC)による市人口の約20%に対する個別および公共水栓による給水及び、旧

ソ連によって建設された集合住宅(現在は都市開発省に帰属)への給水が行われており、その他

は、市内に点在するハンドポンプ付き浅井戸施設や湧水、カブール川の溜まり水等を利用して飲

料水を確保している状況である。カブール市の水は、ロガール、カブール高地及びパグマンから

汲み上げる地下水を利用して、2005年時点で、500kmの管網により33,000の個別給水及び600の公

共水栓により、約50万人の人に給水が行われていた。年間15百万m3の配水が行われていたが、4.3

百万m3分の収入しか得られていなかった。一人あたりの消費量は25リットル/日であり、料金は5

Afs/ m3となっていた。加えて、都市開発省の集合住宅に住んでいる15万人は、3.8百万m3の配水を

受け、一人あたりの消費量は70リットル/日であった470。当時の状況は、以下のとおりである。

表 2-55 カブール市の給水状況(2005年末現在)

人口 人口の比率 消費量(m3/日) 一人当たり消費量(リットル/日)

CAWSS各戸給水 500,000 17% 42,000 25 都市開発省集合住宅 150,000 5% 10,500 70 その他 2,350,000 78% 35,500 15 合計/平均 3,000,000 100% 88,000 30

出所: 世界銀行”Urban Water Sector Project” 2006年4月

467 ADB (2008), Preparing the Water Resources Development Project 468 Water Resources Management in Afghanistan, The Issues and Options 469 ANDS pp.83 470 水道料金は家賃に含まれている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

211

AUWSSCによれば、現在のカブール市では、年123百万m3の水需要に対して供給量は44百万m3で

あるとのことである。これに加えて、KfWの支援により、今後新規に21本の井戸を掘削すること

により、約50百万m3を新たに確保することができ、2013年には870kmの管網によってカブール市

の人口の55%が個別給水を受けることができるようになるが、地下水の揚水可能量に限界がある

ことから、残りの45%は将来的にも給水を受けることができない。しかしながら、水循環を考慮

した適切な揚水量についての調査がこれまで行われておらず、ここ10年での乱掘とも言える無秩

序な井戸掘削のため、沖積帯水層は完全に過剰揚水の状況にあり、地下水位が年々急速に下がり

つつある。20年前のカブール市内の平均地下水位は10m程度であったが、現在は30~40m掘らな

ければいけなくなってきている。従って、2013年の段階において60%が個別給水を受けるとして

も、過剰揚水によって地下水位が下がりつづけ、持続可能とはいえない状況に陥る可能性が高い。

なお、現在JICAの支援により深層地下水の調査が行われ、深度600m級の調査井戸が掘削されてい

るが、涵養されない化石水であって持続的に用いることはできないことが判明している471。

地方都市の給水状況は都市によって大きく異なる。給水状況の もよいヘラートでは、KfWの支

援により2008年には既に95%の給水率を達成している。その他の主要都市については、以下に示

すように、2005年末時点の給水率は8%~60%の開きがある。

表 2-56 アフガニスタン主要都市の給水状況472(2005年末現在)

都市名 人口(2005年) 既存の管延長(km) 日給水時間(時間) 日配水量(m3) 給水率(%) Mazar-i-Sharif 837,763 98 12 8,078 25 Kunduz 122,058 23 12 864 18 Taluqan 180,288 0 8 576 8 Sheberghan 141,298 16 9 713 13 Jalalabad 250,326 83 10 3,960 40 Ghazni 63,727 24 10 360 14 Gardez 66,577 19 10 648 25 Chaharikar 103,480 58 8 2,448 60 Mihtarlam 31,049 9 6 432 35 Kandahar 546,615 115 8 6,394 30 Qalat 17,713 8 11 297 43 合計/平均 2,360,895 454 104 24,770 28

出所: 世界銀行”Urban Water Sector Project”2006年4月、Beller Consult, 2006年2月

かつて、都市給水は都市開発省の傘下にあるCentral Authority for Water Supply and Sewerage

(CAWSS)が運営していたが、AUWSSCが2006年に大統領令により設立され、CAWSSの業務を

引き継いだ。AUWSSCは世界銀行からの支援を受けて、以下に示すように、2010年までに無収水

率を52%までに下げ、ほぼ補助金の不要なレベルにまで経営指標を改善する計画を立てていた。

471 カブール市給水開発計画調査団(三祐コンサルタント)へのヒアリングによる。 472 2005年~2005年に世界銀行により実施されたEmergency Infrastructure Reconstruction Projectの結果による。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

212

表 2-57 AUWSSCの経営指標の予測値(2005年~2010年)

年 2005 2006 2007 2008 2009 2010 無収水率 73% 68% 64% 60% 56% 52% 維持管理費のうち補助金の比率 45% 60% 75% 90% 料金(平均)Afs/ m3 5.0 5.0 7.0 8.5 10.0 11.0 維持管理費(百万Afs) 75 174 215 244 277 310 料金収入(百万Afs) 25 57 100 149 207 280

出所: 世界銀行”Urban Water Sector Project”2006年4月、Beller Consult, 2006年2月

2006年にAUWSSCの理事会が構成されたものの、その後のAUWSSCの公社化・自立化は遅れてお

り、2009年3月現在、運営チームがまだ選ばれていない状況にある。AUWSSCの公社化が世界銀行

からの支援の条件になっていたことから、2005年まで得られていたARTFの補助金(世界銀行)も

2006年からは打ち切られ、現在は給水時間を短縮することにより運営費を削っている状況にある。

上記のように、AUWSSCの経営改善は進んでいない一方で、KfWやGTZの支援(後述)により、

水道施設の改善は進んでいる。なお、各都市の水道事業運営は将来的には民間企業などに委託さ

れ、AUWSSCは持ち株会社へと移行することが予定されている。

2.3.5.4 政府の方針

ANDSでは、今後総合的な水資源管理システムを策定・実施していくことが今後の課題であると

し、以下の三分野を優先課題として取り上げている。

(1) 組織能力の強化:水資源管理及びインフラ開発にかかる組織的・人的能力の強化

(2) 国家水資源開発計画:

• 流域管理計画の策定、政府及び水利用者による水資源管理の強化

• 国際河川に関する周辺諸国との協議の準備

• 調査、分析能力の強化

• 水セクターへの民間セクターの投資の促進

• 洪水対策、貯水、潅漑、地下水涵養、土壌保全に関するインフラの計画と実施

(3) 潅漑改修計画:現行の潅漑インフラ改修プロジェクトの継続

潅漑については、水・エネルギー省の管轄からMAILへの管轄へと移行することとなっているもの

の、所管官庁を定める”Water Law”が議会において審議中であり、採択されていないことから、

(MAIL所管にあるNangahar Valley Development Authorityを除いて)いまだに水・エネルギー省の

管轄下にある。“Water Law”の議会での承認以降、MAILと水・エネルギー省の間で本格的な調整

が始まることとなっている。

一方、給水に関しては、カブール、地方都市及び農村部において、既存の水供給システムの改善

と新規のシステムの建設を行うこと、また、農村の人々の飲料水及び衛生施設へのアクセスを向

上させることが、ANDSに謳われている。農村部においては、MRRDのプログラムであるNSPの実

施において、住民からの要望により多くのコミュニティにおいて井戸建設が行われている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

213

地方給水に関しては、MRRDによりRural Water & Sanitation Program(Ru-WatSan)が策定され、10

万ヶ所に給水施設を整備するとともに、施設の維持管理能力を強化することにより、15百万人の

農村地域住民が一人当たり25リットル/日の水を利用できるようになることを目標としている。総

額65百万米ドルの目標額に対してUSAID、SDC、UNDP、DFID、UNICEF、ARTFにより16.5百万

米ドルが確保されている473。2007/2008年までに1万あまりの井戸の建設を通じて百万人が裨益し

ているとともに、59の給水システムを建設して2百万人が給水を受けている。また、2,600の貯水

槽の建設を通じて2.6百万の人が裨益している。加えて、学校や家に2.4万のトイレが建設されて17

万人に利用されている。

2.3.5.5 ドナーの支援の概況

(1) 潅漑分野

これまで治安上の制約から、ほとんどのJICAの活動が都市部を中心として行われてきたことから、

潅漑分野におけるJICAの技術協力はこれまで行われていない。一方、日本政府はADBに対して

Japan Fund for Poverty ReductionやJapan Special Fundを適用して、間接的に潅漑分野への支援を行っ

ている。これらを含む、他ドナーの主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-58 潅漑分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 世界銀行 潅 漑 施 設 改

修、組織強化 Emergency Irrigation and Rehabilitation Program(EIRP) ・ EIRPは世界銀行により 2004 年 4 月から 2011 年 3 月の期間 474で実施されているプ

ログラムで、主としてカブール、クンドゥズ、マザリシャリフ、ヘラート、カン

ダハルの潅漑システムの改修(750 の中・小規模潅漑スキーム及び 10 の大規模潅

漑スキーム 475の改修)、水理気象ネットワークの改修、潅漑システムのフィージ

ビリティ調査及び組織強化であり(合計 126 百万米ドル)、FAOと水・エネルギ

ー省が実施した。一定能力のある潅漑管理組織のある潅漑システムを対象として

おり、Maribといった潅漑システムの管理責任者に対する潅漑管理技術のトレーニ

ングも行っている。 潅 漑 施 設 改

修、技術支援 Emergency Infrastructure Rehabilitation and Reconstruction Project(EIRRP) ・ EIRRP は 2003 年~2013 年の期間で合計 150 百万米ドルのプロジェクトであるが、

うち潅漑セクターは潅漑施設改修、水・エネルギー省への技術支援を目的とした

15 百万米ドルの規模で、2008 年に終了している。対象地域は、フルム、バルフ、

アブサイド、シリン・タガブであるが、バルフ川及びジョウズジャンの潅漑シス

テムが中心となっている。

ADB/JFPR

潅 漑 施 設 改

修、組織強化 Balkh Basin Integrated Water Resources Management Project(BBIWRMP) ・ 2004 年~2008 年の期間で実施されている 10 百万米ドルの資金により、Snowy

Mountain Engineering Corporation を通じて行われたプロジェクト。対象は、バルフ

川のサブ流域で、潅漑インフラの改修、組織能力強化が行われている。 ADB/ Japan Special Fund

F/S Water Resources Development Project ・ プロジェクト形成のための技術支援(TA)であり、(i) アムダリヤ川の土壌流出・

洪水対策、(ii) Nangahar Valley Development Authority(NVDA)の管理する潅漑シ

ステムの改修・改善及び NVDA の組織改革、(iii) 北部地域の水管理、潅漑施設改

修、農業開発を含む、水資源管理に関する ADB の長期的な支援計画を策定するこ

473 MRRDホームページによる。 474 当初は3年間の予定であったが、技術支援を実施する予定であったFAOの人的制約、MEWの実施能力不足、FAOとMEWの調整不足により、2005年春までプロジェクト開始が遅れ、実施期間が延長された。 475 本プロジェクトにおいて、大規模潅漑スキームは、30万米ドル以上の改修費用のかかる750ヘクタール以上の

潅漑地と定義された。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

214

とを目的としている。 ADB/CIDA/Abu Dhabi Fund

潅 漑 施 設 改

修、水管理、農

業支援、能力開

Western Basin Project(WBP) ・ 2007 年~2014 年の予定で実施されている 90 百万米ドルのプロジェクトであり、

ハリロド・ムルガブ流域における 52,000 ヘクタールの潅漑地を対象としている。

プロジェクト予算の約 50%は施設改修に充てられ、残りは総合的水管理システム、

農業支援、プロジェクト・マネジメント及び能力開発に充てられている。 流 域 管 理 計

画、能力強化 Kunduz River Basin Project(KRBP) ・ アムダリヤ流域における Kunduz 及び Khanabad のサブ流域の潅漑システムを改修

するプロジェクト(12.5 百万ユーロ)であり、2007 年~2011 年の期間で実施され

ている。流域管理計画と流域管理組織の設立、10~15 の小・中規模のインフラ改

修、潅漑システムの効率的な水利用の促進、水・エネルギー省の事務所及び水管

理委員会等の流域管理組織の能力強化を実施している。

EC

潅 漑 施 設 改

修、能力強化 Amu Darya River Basin Management Programme(ADRBM) ・ 2007 年から 5 年間の予定で、アムダリヤ川流域の Kokcha 及び Panj 流域を対象と

し、14 の潅漑システムの改修及び組織能力強化が行われている(3.83 百万ユーロ)。

(2) 給水分野

わが国の給水分野の支援については、緊急復興時に24台の給水タンク車を無償供与したほか、カ

ブール市の深層地下水の利用可能性についての調査(カブール市給水開発計画調査)が行われて

いるのみである。他ドナーの主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-59 給水分野にかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 世界銀行 都市給水

(財政支援) ・ 2005 年 2 月よりARTF(合計 41 百万米ドル)を通じて、カブール市の水道・衛生

施設の改善、CAWSSへの財政・技術支援、CAWSSの運営する全国 11 の地方都市476の給水・衛生施設の改善及び維持管理・事業能力改善、CAWSSの運営していな

い 11 の地方都市 477の水道改善のフィージビリティ調査を行った。 都市給水

(施設、運営改

善)

・ また、個別の融資プログラムである Urban Water Sector Project(40 百万米ドル)

を通じて CAWSS の公社化(AUWSSC)のための資金・技術協力、カブール市の

水道施設の改修を行っているが、CAWSS の公社化については中断している。 村落給水

(財政支援) ・ ARTF(合計 7.65 百万米ドル)により、村落部 1,165 ヶ所に給水施設の建設及び

17 ヶ所に貯水施設を建設するとともに、地方・中央政府、NGO、コミュニティに

よる給水施設の管理能力の強化を行った。 KfW 都市給水F/S ・ カブール市給水拡張計画のフィージビリティ調査を 2003 年に実施。 地方都市給水

(施設改善) ・ 世銀プロジェクトに対してカブール、クンドゥズ、ヘラートの水道施設改修・拡

張への協調融資をしている。 GTZ

地方都市給水

(運営改善) ・ CAWSS 並びにクンドゥズ及びヘラートの Strategic Business Units に対する能力強

化を行っており、今後タロカン、ファイザバドなどの水道施設運営能力の強化を

行うことを予定している。 USAID 地方都市給水

(施設・運営改

善)

・ ガズニ、ガルデズ、ジャララバード、マザリシャリフの Strategic Business Units に対する水道施設拡張の投資及び技術支援を行っている。

地方給水 ・ 2009 年 9 月より 50 百万米ドルの資金により、Provincial Reconstruction Teams(PRT)を通じて、農村部の需要に基づいた給水・衛生施設の建設を全国的に展開する予

定。

476 マザリシャリフ、カンダハル、カラート(ザーボル州)、ガズニ、メフテルラム(ラグマン州)、ジャララバ

ード(ナンガルハル州)、ガルデズ(パクティア州)、チャリカル(パルワン州)、シベルガン、クンドゥズ、

タロカン 477 Aibak (サマンガン州)、Asadabad(クナール州)、バーミヤン、Bazarak(パンジシール州)、Faisabad(バダク

シャン州)、Mahmud-e-Raqui(カピサ州)、Maimana(ファリアブ州)、Parun(ナンガルハル州)、Puli Khumri(バグラン州)、Saripul, Zaranj(ニムローズ州)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

215

2.3.5.6 今後の課題

これまで述べたように、潅漑分野においては、世界銀行とADBが中心になって、北部地域を中心

に小規模潅漑の改修を継続的に行っている。潅漑に関する全国的なデータがないため、改善可能

な潅漑施設の数や規模についての情報がなく、ドナーによる支援が一巡した後、どの程度の潅漑

施設が改善されずに残り、それらの施設の改修にかかるフィージビリティや資金ニーズについて

は不明である。明確であることは、潅漑管理組織の能力、水に関する紛争の有無、環境、水利権、

費用対効果、潅漑地域の大きさなどのクライテリアに基づき、条件がよく成果の出やすい地域か

ら優先的に改修が行われていることであり、結果として、組織能力や物理的条件の劣った地域は

現在も手つかずで残されているということである。組織能力の劣った地域については、インフラ

整備というよりは、コミュニティ開発の視点で、村落レベルの人材育成や組織力の強化を行いつ

つ、潅漑施設および周辺の施設を整備していくような、きめの細かい支援が必要となってくるで

あろう。

給水分野においては、カブール市については地下水が不十分であることは明らかであることから、

新首都圏構想の中で表流水を利用していくしか方策がない。主要な都市の水道システムの整備に

ついては、ドナーの支援を受けてAUWSSCの経営改善と同時平行で進んでいるが、より小規模な

地方都市の水道システムの整備はいまだ調査中の段階であり、今後投資のニーズが明らかにされ

ていく。村落給水については、政府の目標値にははるかに満たず、保健衛生の観点からも、給水

への継続的投資が不可欠である。

2.3.6 道路・運輸

2.3.6.1 道路セクターの現状

アフガニスタンの道路については、2005年にADBの技術協力により道路整備マスタープランにお

いて道路延長が確認され、また、”Interim Road and Highway Standards” (公共事業省2005年3月)

において下表の4種類に分類されている。広域道路、国道、州道を公共事業省、地方道をMRRD、

都市内道路を地方自治体が管理している。

表 2-60 道路種別と道路延長

種別 延長 特徴

広域道路(Regional Highways) 3,242 km アフガニスタン周辺国(イラン、パキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン)との貿易や経済を担う。

国道(National Highways) 4,884 km 州都とRegional Highwaysを結んで貿易と経済を推進し、平和、治安、安定、経済成長、国家統一に貢献する。

州道(Provincial Roads) 9,656 km 州都と地域の重要地点あるいは重要地点間の行政、公益、経済交流を活性化する。

地方道(Rural Roads) 17,000 km * 地域の生産拠点とマーケットや中心地を結ぶ。

合計 34,782 km (都市内道路-約2,000 kmは含まず)

出所: アフガニスタン国道路維持管理システムの構築及び人材育成プロジェクト事前評価調査報告書 *推計値

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

216

主要幹線道路は、(i)ヘラート、カンダハル、マザリシャリフ、シベルガン、マイマナ、ヘラート

をつなぐ大環状道路(リングロード)、(ii)カブール、ヘラートを東西に結んでリングロードを2

つに割る峡谷沿いの道路、および(iii)リングロードからパキスタン、イラン、ウズベキスタンとを

連絡する国境道路の3つから構成される。主要な幹線道路を次頁に示す。

1980年以降、大環状道路を含む道路の70%は、紛争の影響と維持管理不足により疲弊したと言わ

れている。公共事業省によれば、表 2-60で示した道路のうち舗装されているのは現在でも10%以

下であり、40%の道路が冬には通行不能になる、ということである。また、ADBによるMaster plan

for Road Improvement Projectによれば、国道と州道の90%以上にわたって、舗装の傷み、橋や側溝

の崩落、土砂による埋没、雨期の冠水といった問題が生じている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

217

図 2-43 アフガニスタンの主要道路

出所: Road Network Development Project 1, ADB 2007年9月

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

218

公共事業省は、ドナーの支援を受け、2008年までに3,868kmの広域道路のうち1,883kmの改修・建

設を終えた(総費用8.74億米ドル)。これに加えて935kmについては現在改修・建設中であり(4.15

億米ドル)、445kmを残すのみとなっている(2.65億米ドル)。2010年までの間に、広域道路の全

線が完全に舗装される予定であり478、大環状道路については、ADBのRoad Network Development

Project 1(2007年9月承認、176百万米ドル)によって支援される北西部のBala MurghabとLemanの

間の143kmの改修をもって、全線の舗装が完成する。国道については、総延長の61%にあたる

2,855kmについての改修が残っており、必要な資金は16.7億米ドルと見積もられている。公共事業

省によれば、広域道路・国道の改善及び維持管理に、2007年から2015年の間に少なくとも合計24

億米ドル必要であるとのことである。加えて、州道、地方道を改善するために資金が必要である。

終了済みないしは進行中の道路セクターにおけるプロジェクトを以下に示す(ただし、地方道を

除く)。

表 2-61 アフガニスタンの道路セクターにおけるプロジェクト・リスト

出所: Preparing the Road Rehabilitation and Capacity Building Cluster, ADB 2008年6月

ADBによって作成されたMaster Plan for Road Improvement Projectによれば、今後広域道路及び国道

については、以下の道路の改修・建設がプライオリティとして挙げられている。

478 ADB (2007) Proposed Asian Development Fund Grant Islamic Republic of Afghanistan: Road Network Development Project 1

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

219

表 2-62 アフガニスタンにおいて優先的に整備すべき道路

出所: Road Network Development Project 1, ADB 2007年9月

ADBによれば、年間の道路維持費用が、広域道路だけで2007年の6百万米ドルから2012年の25百万

米ドルに増加すると予測されている。さらに、国道を加えると2016年までに全舗装道路の総延長

が8,000kmを超えることとなり、これを維持するのに年間50百万米ドルが必要となる。全道路

34,000kmの維持費用は年間130百万米ドルになる。2006年のロンドン会議では、アフガニスタンは

2007年末までに道路の維持管理財源を整えることに合意しているが、2005年時点での道路利用料

金収入は3百万米ドルであり、その時点での広域道路の維持費用の半分でしかない。公共事業省で

は、職員の給与を除いた事業予算は、年間4百万~8百万米ドルしかないことから、ADBは1,100km

の道路を維持管理するために20百万米ドルを拠出し、USAIDは33百万米ドルを拠出している。EU

も、カブールとジャララバードをつなぐ道路の維持費用を拠出している。

道路建設・維持管理に関する人材については、紛争時代の人材流出の影響が大きく、公共事業省

には900名の技術系・事務系の職員がいるが、彼らのほとんどは道路建設及び維持管理についての

技術や実務経験をもっていない。幹部の大部分はロシア系大学(ポリテクニック)で学び、ロシ

アへ留学した技術者であることから、社会主義体制での古い道路整備や維持管理の知識しかもた

ない479。ADBのRoad Network Development Project 1は、公共事業省の業務実施能力について、以下

の問題があることを指摘している。

• 道路建設の規格・標準の欠如

• 道路維持管理のニーズや費用の把握、建設計画の立案、モニタリング計画の立案、報告

書の作成のための一連のシステムの欠如 479 JICA (2007)アフガニスタン国道路維持管理システムの構築及び人材育成プロジェクト事前評価調査報告書

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

220

• 業務を行うための交通手段、機材、ツールの欠如

• 調達、施工管理、測定、支払を行うための全般的な契約管理システムの欠如

2.3.6.2 運輸分野の現状

(1) 道路輸送

アフガニスタンの国内、国際輸送の95%近くは道路輸送となっている。2005年時点で、207,000台

の民間車両、55,000台のタクシー、42,000台のバス、110,900台のトラック、400,000台のバイクが

登録されている480。2005年から2007年の3年間で、車両が年22%、トラックが年15%、バイクが年

18%のスピードで増加しているが、バスは年2%の増加率であった481。ほとんどの車両は、ヨーロ

ッパ及び日本からの輸入車である。

運輸・航空省(Ministry of Transport and Civil Aviation:MOTCA)には165のバス会社が登録されて

おり(カブールに101社、その他の州に64社)、14,000台のバスが広域道路・国道による都市間交

通に使われている。その他のバスは8~12シートの個人経営の小型バスで、都市内ないしは農村地

域と都市を結んで運行されている。国境を越えて運行しているバスは、ジャララバードとペシャ

ワールの間だけである。トラック輸送はほとんどが個人経営であり、輸送料金は舗装道路がkmあ

たり0.16米ドル、非舗装道路がkmあたり0.21~0.35米ドルとなっている。MOTCAは輸送料金に対

して5%のコミッションとっており、外国からのトランジット輸送も同率の料金が課されているの

みで、その他の料金は課されていない482。

(2) 航空

航空サービスについては、アリアナ航空、UNHAS、並びにKam AirやPACTEC483といった民間の

航空会社が、カブールとその他の主要都市484の間を運航している。また、国際線も多く運航され

ており485、2005年のカブール国際空港の取り扱い旅客数は、国内・国際あわせて50万人であった486。

これらの空港はいずれもInternational Civil Aviation Organization(ICAO)の安全基準を満たしてい

ない。空港の運営や管制についてはMOTCAが管理しているが、同省傘下の空港当局が集めた収入

および支出は国庫が管理している。政府の会計システムは現金主義であって減価償却制度がなく、

480 Road Network Development Project 1, ADB 481 同上. 482 同上. 483 PACTECは、"Partners in Technology International"という、1994年7月に米国カリフォルニア州に登録された、非

営利組織である。 484 ヘラート、ジャララバード、クンドゥズ、マザリシャリフの主要都市及び、Bamyan, Bost, Chaghcharan, Darwaz, Faizabad, Farah, Khost, Khwahan, Kron Monjan, Maymana, Qal’eh-ye-Now, Sheberghan, Sheghnan, Taloqan, Tereen Kowt, and Zaranjの16都市 485 2009年4月現在、フランクフルト、モスクワ、デリー、クウェート、アブダビ、ドバイ、シャルジャ(UAE)、

アルマティ、アンカラ、イスタンブール、アムリッツァル(インド)、ドゥシャンベ、イスラマバード、ペシャ

ワール、ジェッダ、リヤド、テヘラン、マシャド(イラン)、ウルムチ(中国)へのフライトがある。 486 Road Network Development Project 1, ADB

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

221

また、空港からMOTCAに上げられる会計情報も不備であることから、空港の収入・支出や収益性

を事実上知ることができない状況にある487。

(3) 鉄道

鉄道は、ウズベキスタン国境のHairatan及びトルクメニスタン国境のTorghundiにおいて、アフガニ

スタン側数kmのところに、荷捌所がある。商業省が本荷捌所を運営しており、荷物や石油の積み

替えや貯蔵の設備を有している。ウズベキスタンからHairatanまでは毎日30両(トラック157台相

当)の列車が4~5回行き来している。トルクメニスタンからTorghundiでは、毎日20~25両の列車

が2回行き来している488。一方、ヘラートからイランのSanganへの130kmの鉄道が既に完成済みで

ある489。また、中国はロガール州のAynakの銅鉱山の開発権を得ており、開発費の35億米ドルに

は、400メガワットの石炭発電所のほか、中国西方からタジキスタン、カブールを通ってパキスタ

ンに抜ける鉄道の費用も含まれている490。なお、アフガニスタン政府の要請に基づき、ADBは、

1.2百万米ドルの資金によりHairatan~ヘラート間、また、Shirkhan Bandar ~マザリシャリフ~ヘ

ラートの2ルートの鉄道建設にかかるプレフィージビリティ調査を実施することとなった。

図 2-44 鉄道路線計画

注:実際に建設されているのは、Heart~Sanganのみ 出所: アフガニスタン政府公共事業省

487 ADB (2005), Technical Assistance to the Islamic Republic of Afghanistan for Capacity Strengthening of the Civil Aviation Sector 488 Road Network Development Project 1, ADB 489 約75百万米ドルの建設費の60%をイランが負担した。運行の状況については不明である。 490 タジキスタンのSirkhan Bandar、アフガニスタンのHairatan経由でカブールに入り、パキスタンのTorkhamに抜け

るルートであると考えられるが、Sirkhan Bandarと中国西方間のルートの詳細は不明である(タジキスタンとパキ

スタンの間にあるバダクシャン州のWakhan回廊を通るのもオプションの一つ)。

Hairatan

Sangan

Torghundi Torkham

Herat

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

222

(4) 貿易促進・税関

アフガニスタンには、下図に示すように8つの国境ポイントがある。国境を越えるトラックの数は

一日あたり平均で、Torkham 1,100台、Spin Boldak 350台(パキスタン国境)、Islam Qala 420台(イ

ラン国境)、Torghundi 100台、Aquina 100台(トルクメニスタン国境)、Hairatan 250台の往復(ウ

ズベキスタン国境)となっている491。

表 2-63 アフガニスタンの国境ポイント

国境ポイント 州 相対する国 特記事項 Zaranj / Milak ニムルーズ イラン 日本が国境警察施設建設を支援。 Islam Qala ヘラート イラン ASYCUDA492 Transit Systemの導入が2006年に予定さ

れていた。UNOPSとアフガン関税局により、施設の

改修が行われた493。ヘラートから国境までの道路が改

修され、便利になった。 Torghundi ヘラート トルクメニスタン 現状不明 Aqina/ Andkhoy ファリアブ トルクメニスタン EUが税関の能力強化を行った。 Hairatan / Mazar-i-Sharif

バルフ ウズベキスタン 橋でアムダリヤ川を渡る。EUが税関の能力強化を行

った。 Torkham ナンガハル パキスタン EUの支援により、税関の施設、機材(ラボ、X線装置

等)が整備された494。 Spin Boldak / Chaman

カンダハル パキスタン 現状不明

Shair Khan Bandar

クンドゥズ タジキスタン フェリー(週日のみ)でアムダリヤ川を渡る。

Iskakshim バダフシャン タジキスタン 月~木曜に国境が開いており、橋でアムダリヤ川を渡

る。 Ai Khanum タハール タジキスタン 日本が国境管理施設建設を支援 Eshkashem, Sheghnan

バダフシャン タジキスタン EU、DFIDの資金により、UNDPが国境管理施設のイ

ンフラ建設及び国境警察、税関職員等の能力強化を行

った495。 出所: 調査団作成

491 Road Network Development Project 1, ADB。 492 UNCTADによって開発された電算化された税関システム 493 http://www.asycuda.org/wnfiles/AFG%20-Eslam%20Qal'eh%20Customs%20Office%20_Oct%202005_.pdf 494 http://quqnoos.com/index.php?option=com_content&task=view&id=212&Itemid=73 2009年4月10日 495 http://www.undp.tj/index.php?option=com_content&task=view&id=316 2009年4月10日

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

223

図 2-45 アフガニスタンの国境ポイント

出所: ”Constraints facing Afghanistan’s Transit Trade: Specific Focus on Pakistan – Afghanistan Transit Treaty” 世界銀行2004年11月

アフガニスタンの輸送にかかる政府規制は、1967年以前のものがそのまま適用されており、国際

水準とはほど遠いものとなっている。通関業者の登録制度もなく、商品はインフォーマルな手続

きに基づいて国境を越えるのが日常化しており、国境貿易はいわば無法地帯化している。法律に

基づいた輸出入であっても、国際的に認知されたフォーマットが適用されておらず、さらに州に

よって通関に必要となる書類手続きが異なることから、輸送業者にとっての時間・費用のリスク

が極めて大きい。通関に必要とされる書類は20以上にわたり、50もの手続きを経ることが求めら

れている。関係する政府機関も多岐にわたる上に、手続きに重複がある。例えば、カラチ→Torkham

→ジャララバードに至るまでに、輸送業者は2~3日かかっており、書類作成に要求される経費は1

コンテナあたり165米ドルとなっている。また、アフガニスタンのトラックはパキスタンに入国す

ることが許されないため、荷物の積み替えも必要となる496。また、納められた関税の相当額が、

中央政府の財務省に送金されずに、税関のある州の収入となってしまっている。ほとんどの税関

の建物は傷みが激しく、混雑を極めており、電気の供給がなく、情報通信の手段もないところが

多い。保税倉庫の整備の遅れも、スムーズな税関手続きの妨げとなっている。すべての税関手続

きは手作業であり、カブールの税関本局や飛行場、州や国境の税関との間の通信インフラがほと

んど存在していない497。

496 Road Network Development Project 1, ADB. 497 世界銀行 (2003) Technical Annex, Emergency Customs Modernization and Trade Facilitation

Sheghnan

Eshkashem

Ai Khanum

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

224

また、アフガニスタン国内に標準化規格がなく、物資の輸入に際しての品質検査ができないこと

から、危険な物資や、健康に被害を及ぼしかねない低品質な物資の輸入を妨げることができない

でいる。また、アフガニスタンは国際的な貿易のロジスティックスシステムから疎外されており、

国際輸送会社は、外国からのコンテナをアフガニスタン国内に輸送することを禁じている。また、

輸送の保険を引き受ける会社がないことから、輸送にかかるリスクはすべて荷主の負担となる498。

これらの不利な条件に加えて、劣悪な道路事情、治安の悪化による効率性の低下(ルートの自由

度の制限、迂回による時間コスト、コンボイを組む必要など)、州政府による無数のチェックポ

イントの存在により、アフガニスタンの輸送システムは大きなハンディキャップを背負っている。

しかしながら、財務省のRegional Economic Cooperation Advisorによれば、2008年3月~12月の8月で

400百万米ドルの国際通過輸送が記録されており(税関の記録による)、劣悪な状況にも関わらず、

国境間輸送のニーズ、ポテンシャルが高いことを表している。

これまで述べたように、2010年までの間に、広域道路の全線が完全に舗装される予定であるが、

国道については、総延長の61%にあたる2,855kmについての改修が残っており、必要な資金は16.7

億米ドルと見積もられている。州道、地方道の改善には今後も時間を要するであろうが、さらに

大きな問題は、年間の道路維持費用が、広域道路だけで2007年の6百万米ドルから2012年の25百万

米ドルに増加すると予測されていることである。2006年のロンドン会議でアフガニスタンは道路

の維持管理財源を整えることに合意しているが、2005年時点での道路利用料金収入は3百万米ドル

であり、建設された道路の維持管理費用を賄うための税金・収入の確保を含む、道路の維持管理

体制の整備が今後の大きな課題と言えよう。

2.3.6.3 政府の方針

ANDSでは、大環状道路と国境につながる広域道路の完成、国道・州道・都市内道路の改善、地

方道の改善による地方部の貧困状況の改善と市場アクセスの向上を優先課題として挙げている。

加えて、以下の課題に取り組むことが重要とされている。

• 輸送サービス、税関、ロジスティックスの改善に投資する。

• 新カブール空港を建設するとともに、国内の空港及び空港当局が ICAO 及び IATA の基

準を満たして航空業界の競争力を高める。

• 広域の運輸サービスに資する投資を行う。特に、ロガール州のアイナク銅山開発に関す

る鉄道建設、トランジット合意に基づくエネルギー輸送を促進する。

• カブールから東の Islam Qata、西のカンダハルとヘラートへの合計 1,824km の鉄道敷設の

ためのフィージビリティ調査を行う。

• 市レベルの道路当局への権限委譲を進め、広域道路、国道と都市道路の建設を調整して

行う。都市における交通管理を改善して、都市道路ネットワークの維持、道路の質の向

上、運輸施設整備を進める。

• 農村総合開発の観点から、地方道路への投資を進めて農村部から国道へのアクセスを向

498 同上

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

225

上させる。

2.3.6.4 ドナーの支援の概況

(1) JICA・日本政府

日本政府はアフガニスタンの道路・運輸セクターに対し、無償資金協力により、リングロードや

他の主要道路を含む延長650km(マザリシャリフ市内、カンダハル周辺)の道路建設を実施し、

公共バス115台の供与、カブール国際空港ターミナル建設などを行っている。また、道路の維持管

理業務に資するため、無償資金協力において公共事業省のカブール建設機械センターの施設の改

修・再建及び修理機材の供与を行う(カブール道路技術センター整備計画)一方で、道路維持管

理業務のための公共事業省職員の能力開発をおこなっている(道路維持システム構築及び人材育

成プロジェクト)。また、JICAの「地方開発支援プロジェクト」においても、村落道路の建設を

行っている。貿易促進分野については、タハール州における税関建物の整備を支援した。

(2) 他ドナー

表 2-61に示した道路整備にかかるプロジェクトに加え、道路・運輸セクターにおいて他ドナーの

実施している主要なプログラム/プロジェクトの概要は以下のとおりである。

表 2-64 道路・運輸セクターにかかるドナーの支援の概要

主要ドナー 支援分野 支援の内容 世界銀行 村落道路 ”National Emergency Rural Access Project"(総額 112 百万米ドル)

・ 2,000km の村落道路の改修(2008 年~)。 空港 Emergency Transport Rehabilitation Loan

・ 本融資の一部(19.3 百万米ドル)を使って、カブール国際空港の設備全般、通信や航

空管制機器を国際標準にするための支援を実施。 貿易促進 Emergency Customs Modernization and Trade Facilitation Project”(31 百万米ドル)

・ 2004 年 2 月より、税関の施設・機材の整備、税関手続きの電算化・効率化、関税法・

諸手続きの改正、税関職員のトレーニングを実施。 ADB 航空 Capacity Strengthening of the Civil Aviation Sector

・ 独立した空港当局の設立にむけての法的フレームワークの準備、航空法・規制の改善、

各種オペレーションマニュアルの作成、空港の会計管理システムの構築、空港・交通

省の人材育成プログラムの構築等を内容とした技術支援。 貿易促進 ”Cross-Boarder Trade and Transport Facilitation” (550,000 米ドル), “Building the Capacity of

the Ministry of Commerce for Trade and Transit Facilitation”(400,000 米ドル)及び”Capacity Building for Customs and Trade Facilitation”(1.35 million 米ドル) ・ それぞれ、貿易促進業務や税関の能力強化を目的とする技術協力。

USAID 税関 ・ 税関の職員(320 名)を対象として、関税法や関税手続きについてのトレーニングを

行っており、また、税関の実務(密輸・汚職・不正書類の摘発等)を通じた業務改善

を実施。 カナダ 国境管理 ・ アフガニスタンとパキスタンの間の国境管理に関し、国境の政府職員のトレーニン

グ、主要なインフラ及び設備の整備に対して、2011 年までに 32 百万米ドルの支援を

行うこととしている。加えて、税関、出入国管理、麻薬対策といった国境の問題を解

決するための両国間の対話を促進しており、それによって例えば国境が毎週 7 日間開

かれることとなって、関税収入が増加するとともに、両国間の信頼感の向上に貢献し

ている、と報告されている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

226

囲み記事 2-18 ドバイ・プロセス

2007年11月より、カナダはアフガニスタン、パキスタン両国政府関係者間の対話理解を促進するため

のワークショップを、ドバイにて開催してきた(関係者はア・パ国外務省およびG8外務省)。これら

のワークショップを通じて、優先5項目(関税、麻薬対策、人口移動、法執行、社会経済開発により政

府と人々の関係強化)が決定され、2009年3月27日~29日にドバイにて開催されたワークショップにお

いて、これらを実施するため具体的な行動計画とスケジュールが設置され、ワーキング・グループが

設立されることとなった。このドバイ・プロセスの具体的な成果の一つとして、アフガニスタン、パキ

スタン両国政府が、週7日間正規の国境管理地点を開くことを盛り込んだMoUを締結し、今後、移住と

法律施行に関する専門家の両国訪問に関して合意したことが挙げられる。

2.3.6.5 今後の課題

これまで述べたように、2010年までに広域道路の全線が完全に舗装される予定であるが、国道に

ついては、総延長の61%にあたる2,855kmについての改修が残っており、必要な資金は16.7億米ド

ルと見積もられている。州道、地方道の改善には今後も時間と資金を要するであろうが、さらに

大きな問題は、年間の道路維持費用が、広域道路だけで2007年の6百万米ドルから2012年の25百万

米ドルに増加すると予測されていることである。2006年のロンドン会議でアフガニスタンは道路

の維持管理財源を整えることに合意しているが、2005年時点での道路利用料金収入は3百万米ドル

であり、建設された道路の維持管理費用を賄うための税金・収入の確保を含む、道路の維持管理

体制の整備が今後の大きな課題と言えよう。

パキスタンとって中央アジアは、エネルギーの供給基地であり、またパキスタン製品の市場でも

ある。アフガニスタンの治安がよくないにも関わらず、実際にアフガニスタンを通過する商品は

確実に増加の一途を辿っている。通過交易の拡大は周辺国の経済の拡大に直結し、アフガニスタ

ンにも道路利用料金収入、また関税収入をもたらすことから、税関の施設・システムの整備を含

んだ貿易促進を推進することによる経済的インパクトは非常に大きいと考えられ、この分野への

設備投資、輸出入条約の締結促進、標準化規格を含むシステムの整備、及び人材育成が望まれる。

2.3.7 鉱業・エネルギー

2.3.7.1 電力セクターの現状499

電力は財・サービスの生産に不可欠の要素であり、安定した電力供給は投資促進、経済成長、貧

困削減に欠かせない基本的な公共サービスである。しかしながら、アフガニスタンの公共電力普

及率は 20%(都市部 40%、農村部 10%)に過ぎず、電力供給は需要を大幅に下回り、停電が頻発

し電力供給の信頼性は非常に低い。首都カブールでは冬期に一日おきに数時間の供給しかなされ

ていない。

アフガニスタンで発電事業を行っているのは水・エネルギー省傘下にあるアフガニスタン電力庁

(Da Afghanistan Breshna Moassessa:DABM)であり、一方カブールで配電・収入業務を行ってい

る組織は、カブール電力局(Kabul Electricity Department:KED)である。DABM の資料によると

499 本項の記述は、「アフガニスタン国電力セクター政策アドバイザー専門家派遣第4次現地業務報告書 国際協

力機構/コーエイ総合研究所 平成21年3月」に基づく。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

227

電力の需要、顧客数は堅調に伸びている。家庭需要家数は全国レベルで 1384 年(2005/06)に 369,000、

1385 年(2006/07)に 392,000、1386 年(2007/08)に 477,000 と過去 3 年間で 30%増加している。

首都カブールの家庭需要家数も同期間、137,000、155,000、197,000 と 44%の増加となっている。

需要の増加に対し、アフガン電力セクターは国際社会の支援の下、安定電力の確保を目指して努

力をしてきた結果、この 5 年間で大きな改善を見られている。供給能力は 2002 年に比べ 2007 年

は 2 倍となっている。しかしながら、これは輸入電力(26%)と民間による小規模発電施設(20%)

の急増に帰する部分が大きく、水力発電能力は 2007 年に内戦前の水準に到達したが、火力発電は

燃料高騰の影響もあり到達していない。カブールでは 200~300 の民間小規模事業者が 20-40 kVA

のディーゼルをベースに 200~400 世帯に供給している。公共電力料金は 1.5~6 Afs/kWh となって

いる一方、民間電力料金は 40 Afs/kWh と非常に高く、国際競争にさらされる製造業が利用できる

水準ではない。アフガニスタンにおける電源構成の推移を以下に示す。

表 2-65 アフガニスタン電源構成の推移(MW)

年 水力 火力 輸入 その他 (ディーゼル、 小規模水力等) 合計

1978 (1357) 259 137 0 0 396

2002 (1381) 141 16 87 0 244

2007 (1386) 262 90 167 133 652

(割合) (40%) (14%) (26%) (20%) (100%)

出所: ANDS (Energy Sector)

DABMは、19の発電所を運営している。19の発電所の総設備容量は344 MWに達し、電源構成は水

力17発電所(設備容量255 MW)、火力2発電所(89 MW)と、水主火従になっている。2008年2

月現在、稼働しているのは15の発電所で出力213 MWに過ぎず(設備能力の62%)、これらが13都

市に電力を供給している。首都カブールには4つの発電所(3つの水力発電所と1つの火力発電所)

が供給しており、国家全体の実稼働出力213 MWのうちカブール首都圏向けは173 MWで全体の

81%となっている。19の発電所の容量とその電力供給先を以下に示す。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

228

表 2-66 アフガニスタンの発電所の容量と電力供給先

発電所名 タイプ 支援国名 建設年 設備容量(KW) 稼動容量(KW) 供給先 Naghlu ソ連 1967 4 x 25,000 3 x 25,000 Kabul Surobi 水力 ドイツ 1957 2 x 11,000 2 x 10,000 Kabul

Mahipar 水力 ドイツ 1967 3 x 22,000 2 x 16,000 Kabul GT (1+2) 火力 ドイツ 1978 2 x 21,800 Kabul GT (3+4) 火力 ドイツ 1985 21,800 + 23,800 21,800 + 23,800 Kabul Darunta 水力 ソ連 1964 3 x 3,850 3 x 2,500 Jalalabad Kajakai 水力 USA 1975 2 x 16,500 2 x 12,000 Kandahar Filkoh 水力 ドイツ 1950 2 x 320 Kandahar

Babawali 水力 ドイツ 1963 1 x 250 Kandahar Grishk 水力 USA 1961 2 x 1,200 1 x 500 Grishk

Puli-Khumri 水力 ソ連 1962 3 x 3,000 2 x 2,500 Puli-Khumri Chaki-Wardak 水力 ドイツ 1940 3 x 1,100 1 x 600 Chaki-Wardak

Jabul-Seraj 水力 USA、英国 1920 2 x 500 and

2 x 770 0 + 200 and

0 + 300 Jabul-Seraj

Parwan 水力 中国 1973 3 x 800 2 x 800 Parwan Asadabad 水力 ドイツ 1983 2 x 350 1 x 250 Asadabad Ghorband 水力 インド 1975 3 x 100 1 x 100 Ghorband Faizabad 水力 インド 1984 3 x 85 1 x 85 Faizabad Baharak 水力 インド 1986 2 x 100 1 x 100 Baharak

Chalwarcha 水力 インド 1950 1 x 85 Herat Total 343,820 212,835

出所: ICE Secretariat: Outline for DABM Operation and Maintenance Technical Assistance and Training (Revion 1A), March 3, 2008、アフガニスタン国電力セクター政策アドバイザー専門家派遣第 4 次現地業務報告書、コーエイ総研

需要と供給のギャップを埋めるため、アフガニスタンは、イラン並びに、ウズベキスタン、トル

クメニスタン、タジキスタンの中央アジア 3 ヶ国から、安価で安定した電力を輸入している(

新のICE会議資料によると、ウズベキスタンからの電力輸入価格は 4 セント/kWh、トルクメンと

タジキスタンからは 2.5~4 セント/kWhの価格での購入契約がなされる見通しである)。北東部電

力システム(North East Power System:NEPS(後述))における当面の 優先課題は 2008 年末ま

でにウズベキスタンから 150 MWの電力を首都カブールに供給し冬期の厳しい電力事情を改善す

ることであるが、そのためにはウズベキスタンのスルカン変電所からカブール近郊のチムタラ変

電所まで全長 490 kmの基幹送電線(220 kV二回線)が必要である 500。アフガニスタン国内の 220

kV主要送電線は 2008 年 10 月までに完成し、変電所、給電司令センター、無効電力対策など関連

付帯事業も同年末までにほぼ完成したため、残された課題はウズベキスタン内の送電線建設遅延

とウズベキスタンとの買電価格交渉である 501。ウズベキスタン国内の 220 kV送電が完成するまで

は既設の 110 kV送電線を使って 70 MWの送電が行われる。2005/2006 年の電力の輸入先別の輸入

量を以下に示す。

500 首都圏への安定供給のためには送電ルート沿いの地方都市にも供給しなければならないのでカブール向け150 MWプラスその他都市向け70 MW、合計220 MWの電力をウズベクから輸入する計画となっている。 501 新のICE会議資料によると、前者については2008年11月着工、2009年4月完成、買電価格は4~5セント/kWhでまとまる見通しがついた、とのことである。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

229

表 2-67 アフガニスタンの電力の輸入先別輸入量(2005/2006年)

輸入先 電力量 割合 金額 タジキスタン(→クンドゥズ) 39.22 GWh 9.1% 0.78 百万米ドル

ウズベキスタン(→フルム) 149.71 GWh 34.8% 2.99 百万米ドル

トルクメニスタン(→ヘラート) 95.63 GWh 22.2% 1.91 百万米ドル

トルクメニスタン(→Andkhoy-Jawzjan-Sheberghan) 69.72 GWh 16.2% 1.39 百万米ドル

イラン(→ヘラート) 57.85 GWh 13.4% 1.11 百万米ドル

イラン(→Zaranj) 17.99 GWh 4.2% 0.40 百万米ドル

合計 430.12 GWh 100.0% 8.59 百万米ドル

出所: Development of Electricity Trade in Central Asia – South Asia Region, Vladislav Vucetic & Venkararaman Krishnaswamy, World Bank

NEPSはカブール地区、ゴーリ地区、バルフ地区の 13 州をカバーし受益人口が全国の約 60%に達

するアフガニスタン国 大の広域電力システムである。合計 94 のプロジェクトがリストアップさ

れ、ドナーによるコミット及びプロジェクトの実施状況が細かくモニタリングされている 502。

NEPSの計画及び進捗状況の概要を以下に示す。

502 NEPSのプロジェクトの詳細については、「アフガニスタン国電力セクター政策アドバイザー専門家派遣第4次現地業務報告書。国際協力機構/コーエイ総合研究所」を参照のこと。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

230

図 2-46 NEPSの計画と進捗状況

出所:国際協力機構/コーエイ総合研究所(2008) Afghan Energy Information Center / アフガニスタン国電力セクター政策アドバイザー専門家派遣第4次現地業務報告書

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

231

内戦終了直後、首都圏向けの主要発電所である三つの水力(ナグル、スロビ、マヒパール)とノ

ース・ウェスト火力発電所とそこから首都圏へ給電する 110 kV送電線が再建された。発電所の改

修については、世銀が国内 大出力(100 MW)を有するナグルを、KfWがスロビとマヒパールを、

USAIDがノース・ウェスト火力を分担した。送電線については、ナグル水力からカブール・イー

スト変電所までの送電線を世銀が、スルビとマヒパールからブレシュナ・コット変電所までの送

電線をKfWが支援した。KfWはまた、カブール市内配電設備のうち全壊した重点地区の改修も手

がけた。これらの改修事業は 2005 年から 2007 年にかけて実施された。一方、220 kV基幹送電線

の資金源はアフガニスタン政府、ADB、インドの三者である。ウズベキスタン国内のスルカン-

ハイラタン間(47km)はアフガン政府が建設資金の一部を負担、ADBはハイラタン-プレクムリ

間(241km)を、インド政府はプレクムリ-チムタラ間(202km)の建設資金を負担した。基幹送

電線ルート上に建設される変電施設は 図 2-46に示しているように、白抜きの○で示されているク

ルム変電所を除いて、ADB、世銀(ARTFを含む)、KfW、インド、イスラム銀行が分担して支援

している。

カブール北東部タラキールでは、冬期のバックアップ用発電所の建設が USAID の資金提供により

予定されており、100 MW カブール火力発電所と称されている。チムタラ変電所から送出される

110 kV 送電線、ノース・ウェスト変電所、およびノース変電所の増強工事は世銀が資金提供して

いる。配電施設は 3 つのプロジェクト(MEW 300/2、3、4)が建設中である。MEW 300/2 は世銀

が、MEW 300/2 は ARTF が、MEW 300/3 はアフガニスタン政府が拠出している。

なお、支援するドナーが未定であるフルム変電所及び配電施設については、日本大使館に無償資

金の要請がなされているようであり、変電所の容量は 16 MVA、費用は変電所 7 百万米ドル、配

電施設 9 百万米ドルと見積もられている。関連施設の未完成リスクがないこと、世帯当たりの建

設費は他の都市に比べ低く、費用効果は高いことが見込まれる。フルム変電所・配電施設は首都

圏への電力安定供給に不可欠な NEPS の安全確保、沿線地域振興、将来の地方電化推進上の重要

拠点となるなど、わが国支援の意義と裨益効果は大きいと考えられる。

以上が、施設面に関する現況と支援の状況であるが、電力供給組織の組織・運営面における改革

も同時に行われている。アフガニスタン政府は、DABM の公社化の準備を進めており、2008 年 3

月には電力公社である DABS(Afghan Electricity Corporation)が設立された。DABS は発電所や送

配電設備を所有しているが、電力公社の水平分離(地域分割)と民間参入が促進され、 終的に

は分割されて民営化されるという方針がとられている。具体的には以下のステップで改革が実施

されている(現在、ステップ(1)が実施され、ステップ(2)の準備がなされている)。

(1) 管理と運営を分離し、運営部門は公社化する。

(2) 独立規制機関の設置、機能の垂直分割、民活促進を規定した新電力法を制定する。

(3) 独立規制機関を設立する。

(4) 民活/IPP 促進法を制定し民間参入を奨励する。

(5) 電力公社の機能分割、地域分割を実施する。

(6) 分割された公社を民営化する。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

232

なお、電力サービス業務は、将来的には 9 つの地域ユニット(前述のKEDもその一つ)の下に設

立される 30 のBreshna(地域電力供給組織)が担うこととなるが、カブール首都圏はUSAID、KfW、

世銀の支援でその組織強化がなされる予定である 503。地方のBreshana は 2~3 のパイロット地区

から組織を整備し順次他に展開していく方針であるが、それぞれの電力供給組織をドナーが支援

していくことが望まれている。

上記に加えて、「1.3.3 インフラ・ネットワーク」に述べているように、パキスタンによるキルギ

ス及びタジキスタンへの送電プロジェクト“CASA 1000”と連動して、アフガニスタンの電力輸入

のための送電線を増強させるプロジェクトが動いている。CASA 1000 は、キルギス及びタジキス

タンからパキスタンへの 750km の送電線を敷設するものであるが、パキスタン向けの 1,000MW

にアフガニスタン向けの 300MW を加えて、合計 1,300MW の送電線を敷設することが予定されて

いる。

2.3.7.2 鉱物資源

(1) 天然ガス504

ソビエト時代の 1970 年代における試算およびその他の資料から推測すると、アフガニスタンには

今日 640 億トンの天然ガスが埋蔵しているとされており、そのうち 500~540 億トンは技術的に採

掘可能と言われている。さらにそのうち、230 億トンは現在採掘中のガス田から採掘することが

可能、とのことである。1970 年代末にピークに達した日生産量 1 千万トンの 70~90%は、ウズベ

キスタンを経由してソビエト連邦に輸出されていたが、その後、ソ連軍のアフガン撤退とその後

の内戦により、31 のガス井での生産が中止され、また旧ソビエトへの輸出も停止されたこと、ま

た生産および輸送インフラの遅れにより、現在も供給先はマザリシャリフの肥料工場および 44 メ

ガワットの発電所にのみに限定され、日生産量は 60 万トン程度となっている。1992 年には当時

のナジブラ政権がロシアとの輸出交渉を開始したものの、中央アジア諸国がガスのトランジット

価格を引き上げたことにより、輸出価格が折り合わなくなり交渉が頓挫した。また、1990 年代前

半には、ハンガリー、チェコ、及びいくつかの西欧諸国との交渉も行われたが、輸出はいまだに

実現していない。Hill Internationalのコンサルタントにより、新しいガス田の開発によって日生産

量を 2 百万トン程度 505に拡大することが可能であり、マザリシャリフの発電所その他の施設にガ

スを供給するためのパイプラインを緊急改修することが提案されている。ただし、ガス国営公社

(Aghan Gas)は、12,000 人の世帯および 700 の企業にメータなしでガスを供給しており、料金が

低すぎる上に顧客に 15 百万米ドルの料金滞納があるなど、公社の改革を含む制度設計も同時に行

う必要があることも、ANDSエネルギーセクター戦略で指摘されている。

503国際協力機構/コーエイ総合研究所 504 Hill International (2005), Evaluation of Investment Options for the Development of Oil and gas Infrastructure in Afghanistan, Final Report 505 ANDSエネルギーセクター戦略では5百万トン/日

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

233

(2) 石炭506

石炭については、ヘラート州(Sabjak 郡)、サマンガン州(Darrh-I-Suf 郡)、バグラン州(Aspushta)、

バーミヤン州を中心に 70 百万トン以上の埋蔵量があると言われており、Darra-I-Farkar 川から

Kotal-I-Sabasak へと幅 50km、東西 700km に伸びる地域が 大の埋蔵量があると言われている。こ

れに対し、2005 年時点で合計年間 11~14 万トン(バグラン州の炭鉱で年間 3 万トン、ヘラート

州の炭鉱で年間 1 万トン、その他国内の 10 ヶ所程度の炭鉱で合計年間 8~11 万トン)の採掘が行

われている。2002 年における石炭の販売高の合計は 10 百万米ドル程度とされている。現在の炭

鉱を改修し、手掘りで行われている採掘に若干の機材を導入することにより、年間 14 万トンの採

掘量を 80 万トン程度に容易に引き上げることができる、とされている。なお、石炭の埋蔵量、埋

蔵地についての調査は数十年前に行われたものが残っているのみであることから、今後の開発の

ためには、新たな調査を行うことにより埋蔵量をより正確に知ることが重要である。

(3) 石油507

2008 年に実施した米国の調査によれば、アフガニスタン北部には 15 億 9600 万バーレルの石油が

あるとされている 508。生産量については、日生産 1 万バーレルの採掘を行う計画が立てられてい

たが、1979 年のソ連侵攻以降、計画は頓挫した。現在、サリ・プル州におけるAngot油田におい

て年間 300~400 バーレルの規模で採掘が行われているが、精製技術が低く、国内にてのみ消費さ

れている。

(4) 銅

カブールの東 30km にある Aynak 銅山では、28 平方キロの範囲に 11.3 百万トンの銅鉱があるとさ

れており(さらに開発を進めた場合には 20 百万トンあるとも言われている)、2008 年 5 月には中

国の会社が 35億米ドルの価格で開発権を落札している(落札価格には 400メガワットの発電所と、

中国西部からタジキスタン、アフガニスタンを経由してパキスタンに抜ける鉄道の費用も含まれ

ている)。

(5) 貴石類

アフガニスタンにはいまだ開発されていない貴石が豊富に埋蔵している。世界銀行の報告によれ

ば、毎年3~20百万米ドルの産出量があり、160百万米ドルから400百万米ドルの埋蔵量があるとも

報告されている509。アフガニスタンで算出されている貴石類を以下に示す。

506世界銀行 (2004), Mining as a Source of Growth 507 Hill International (2005) 508 Norling, Nicklas. “The Emerging China-Afghanistan Relationship”. Central Asia Caucasus Institute. May 14, 2008. www.cacianalyst.org/?q=node/4858。 509 Altai Consulting / Gary Bowersox (2002)

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

234

表 2-68 アフガニスタンで産出されている貴石類

宝石 産出地 産出高 エメラルド パンジシール 2~10百万米ドル/年 ルビー カブール州Jegdalek、Sorobi郡 0.1~2百万米ドル/年 ラピスラズリ バダフシャン州 0.5~2百万米ドル/年 アクアマリン クナール州 不明 トルマリン、クンツァイト ヌリスタン州 0.15~5百万米ドル/年

出所: Altai Consulting, USAID/DAI 2007年

2.3.7.3 政府の方針

アフガニスタン・コンパクトでは、2010年までに、主要都市部の65%の家庭および商業電力使用

者の90%に、また、地方部においては25%の家庭に電力を普及させること、また、2010年までに、

広域配電網の利用者から 低75%のコストを回収する( 貧困層を除く)ことが目標とされてい

る。

これを受け、ANDSでは、エネルギーセクターの優先事項は、(i)インフラの効率的運営、(ii)市場

経済に基づいたセクター運営、(iii)農村部の電化と再生可能エネルギーの普及、(iv)電力供給の増

加となっており、そのために以下の政策・プロジェクトを実行することとなっている。

• 主要電力インフラの整備

• セクターガバナンスの再構築

• 法整備と規制枠組の確立

• 国有財産の民営化

• 民間セクター投資環境整備

• 公共電力配電網の拡充

• 地方電化の促進

• 電力供給に関する地域協力の促進

• 貧困削減への配慮

• 環境保全への配慮

ANDSの電力セクター戦略によれば、短・中期的の電気供給については、DABMの公社化を通じ

た経営改善、そして既存の送配電システムの修復・拡張及び電力輸入によって対応し、長期的に

は水力発電の建設が想定されている。

鉱業セクターに関しては、民間セクターの開発への参加促進、関連法・規制の整備が必要とされ

ている。

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アフガニスタンを中心とする地域協力概況調査

235

2.3.7.4 今後の課題

電力セクターについては、施設改修・拡張と経営の問題があるが、特に経営面では都市給水と同

様に、公社化(将来的には民営化)による電力供給の自立化が進められていることから、今後施

設への投資が継続して行われることによって、大・中都市における電力事情は改善されていくと

考えられる。一方、小規模の都市での電力供給組織の強化が今後の課題となっており、設備投資

と人材育成のニーズが高い。なお、発電については、水力発電施設の改修は継続して行うべきで

あるものの、短・中期的には国内での火力発電を増加させるよりも輸入電力のほうが割安であり、

現在も、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イランからの電力輸入が、全消費

量の26%と占めている。これら周辺国との売電契約を促進するとともに、送電設備を整備してい

く必要がある。